Coolier - 新生・東方創想話

たまにはゆっくりすべきである。

2008/08/24 17:48:18
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.

※とにかくゆっくりです、ゆっくり見ていってね。


「どうしたものか……」

香霖堂の店主、森近霖之助は困っていた。

「ここまで収入が無いとなると、少々考えないといけないな……」

家計簿が赤にも黒にもならない日常をすごす日々、
平凡で何も無いその日常に、人も妖も偶には反逆を起こしたくなるものだ。

「霊夢と魔理沙がツケを払ってくれれば……」

偶には茶屋で美味しい菓子でも頬張りたい、
偶には良い釣竿でも買って太公望気分を楽しみたい、
そんなちょっとした娯楽も楽しめぬ状況。

「ふーむ、何か売る為の商品でも並べてみようかな……」

顎に手を当て、少し考え込む霖之助、
しかし本来は売るための商品を並べるのが店である。

「……お?」

ふとその時、自らの臀部の下に違和感を感じる。

「あー、破けちゃってるじゃないか」

椅子の敷物にしていた座布団にぱっくりと開いている大きな穴。

「えーと、裁縫道具はと……」

戸棚から裁縫道具の入った箱を取り出し、ちくちくと慣れた手つきで縫ってゆく、
数分もすれば本当に破れていたのかと思うぐらい完璧に直った座布団の姿。

「座布団か、ふむ」

ふと思い立ち、倉庫から取り出してきたのは大量の布と綿、
それらを椅子の横に無造作に重ねると、またちくちくと針を動かし始める。

「ここをこうして、ここをこう……」

布と布を縫い合わせ、中に綿を詰め込んで四方全てを縫いとめる、
出来上がったのは丁度両太ももの上に収まるぐらいの球形のクッション。

「ふむ、ふふん」

出来上がったそれを潰したり、引っ張ったりと弄ぶ、
霖之助にとってそれはどことなく感触がいいようだ。

「んん、待てよ……?」

やがて霖之助にちょっとした悪戯心が浮かび上がる、
布の山から黒、赤、白の布を引っ張り出すと、それを鋏で切り始める。

「ちょうど布地が肌色だしな」

巫女服を作りなれている僕ならクッションぐらい自在に作れる、
そう思っていた時期が彼にもありました。

「駄目だ……人の顔は難しい」

霖之助に浮かんだ悪戯心、それは霊夢の顔をモチーフにしたクッションを作ることだった、
だがしかし出来上がったのは微妙としかいえない顔をした物。

「…………」

その顔の頬を摘まんで引っ張ったり、脳天をぽすんと凹ませたり、
出来は良いとは言えないものの、これはこれでいい物だった。

「まあいいか、これも非売品だ」

逆に本人に似てないのがいいのだろう、そう思い霖之助はクッションを
膝上に抱きかかえる、また今日も店内に非売品が一つ増えたようだ。



翌日も霖之助は作り上げたクッションを拳で整形していた、
今度は捻ったり、ひょうたん型にしてみたり、ふとそんな時店の戸が開いた。

「こんにちは、いい商品は入荷してるかしら?」
「おや、これは珍しい、君が玄関から入ってくるなんてね」
「偶にはいいものよ」
「いつも玄関から来てくれると助かるんだけどね」

八雲紫、普段は隙間からお邪魔する彼女が玄関から普通に入ってきたことは
ある意味奇跡にも近い、きっと明日は雨が降るだろう。

「あら? それ……」
「おや、何か気になる商品でも?」
「…………」

何やら紫の視線が霖之助の下腹部に注がれる、
そして霖之助の下腹部には例のクッションが一つ。

「それ、霊夢?」
「の筈なんだけど、似なくてね」
「……売ってくれないかしら?」
「残念だけどこれは売り物じゃないんだ、僕もこの感触がお気に入りでね」
「どうしても?」
「どうしてもと言われるとね……そうだね、この位の価格ならいいかな」

そう言って霖之助は紫の前で指を一本立てる。

「千――」
「一万円ね、買ったわ」
「円……毎度あり」

次の瞬間、クッションは腕の中から引き抜かれ、紫と共に隙間に消えていった、
ひらひらと舞い落ちてくる一万円札、紫の顔が描かれている幻想銀行券だ。

「……まぁいいか」

溜め息を付きながら霖之助はもう一つクッションを取り出した、
頭の三角帽子にやや長めの金髪、霧雨魔理沙モデルのクッションだ。

「これも似ないな」

やがて新たな布と糸を取り出し、またもクッションを作り始める、
こういう類の趣味は一度はまってしまうと抜けられないのが特徴である。

「(何がいけないのかな)」

黙々と、黙々と、霖之助はただ黙って縫い続ける、
翌日は雨で誰も来なかった、やはりあの隙間のせいだろう、
翌々日も雨で誰も来なかった、やはりあの隙間のせいだ、
そしてその次の日、霖之助は頭を抱えることになる。

「……作りすぎた」

気づけば霊夢クッションの数、およそ二十、
数えれば魔理沙クッションの数、およそ二十、
香霖堂のカウンターの横側に積みあがるクッションの山。

「しかも似てないと来たものだ」

せめて本物そっくりのクッションが生まれれば救い様がある、
だが、それはものの見事に微妙な出来のクッションばかり、
これほどに同じ顔ばかり作り出せるのは何らかの外的作用でも加わったのだろうか。

「奇特な妖怪が買っていってくれるだろう」

そこは一応販売業を営んでいる男、カウンターに霊夢・魔理沙クッション、
お一つ千円と張り出し、椅子に腰掛けてまた布と糸を手に取る。

「……これだけじゃインパクトが足りないか」

だがふと思い立って手を止めると、張り出した紙の前に立ち、なにやら考える。

「(クッションだから……このもふもふ感をあなたも是非! かな……)」

頭を捻り商品のキャッチコピーを考える、そのまま思案すること十分、
彼の頭の中には『寝てもよし、投げてもよし、でも切っちゃ駄目』
『この二人に恨みのある妖怪の方は是非!』『食べられません』
などが思い浮かぶ、だがしかしどれもしっくりこない。

「(……ここはシンプルに……これだな)」

そして付け足されたキャッチコピーは、
『ゆっくりしていってね!!!』となった。

「(よし、次こそは本物そっくりに作るぞ)」

そして彼はまたクッションを作り始めた、こうなると末期である。

「お邪魔する」
「……おや、いらっしゃい」

しかしいざ取り掛かろうとした時、店には三日ぶりの客が訪れた、
彼女の背でふさふさしている九つの尻尾はまさしくあの紫の式である。

「ここにあれがあると……おお」

藍はすぐさまカウンターまで駆け寄ったかと思うと、
積み上げられた霊夢クッションを手にとってもふもふし始めた。

「紫様が持っておられたのはこれだな」
「君も気に入ったのかい?」
「ああ、紫様に一度触らせてもらったのだが、この顔とこの感触が……!」

満面の笑みを浮かべて霊夢クッションをもふもふする彼女、
しかし自分の尻尾のほうがよほどもふもふふできるのではないか? と霖之助は疑問に思う。

「それで、買うのかい? 一つ千円だが」
「なら橙の分と合わせて霊夢と魔理沙を二つずつ頂く」
「毎度あり」

差し出された四千円を受け取ると、彼女は急いで店から飛び出した、
よほど早く家に持ち帰ってもふもふしたかったのかと思うと、
その光景を考えるだけで霖之助の顔に笑みが浮かぶ。

「さて、今度こそそっくりな物を……」
「すみません、失礼します」
「……いらっしゃい」

今日は客の入りがいいようだ、と霖之助が玄関に顔を向ければ、
入ってきたのは白玉楼の庭師だった。

「ここにあれがあると聞きまして……わぁ」
「ああ、これかい?」

彼女もまたクッションの山を見て声をあげる。

「えーと、えーと……こ、このゆっくり魔理沙ください!」
「ゆっくり魔理沙、ね……一つ千円だよ」
「はい! これでお願いします!」
「毎度あり」

彼女もまた、クッションを手に入れると一目散に帰宅の路に付く。

「どうもうまく宣伝してくれてるみたいだね」

紫という妖怪の性質を考えれば宣伝してくれはずが無いのだが、
結果として本日だけで五個の売り上げである。

「さてと、今度こそ……」

この日はそれ以降客が来ることは無く、クッションの作成に集中することが出来た、
クッションを作り始めて早四日、一個作り終えるまでに最初は二時間以上費やした、
しかし二日目の昼には一時間、そしてその日の夜には三十分を切っていた、
そして四日目の夜、霖之助は異変に気づく。

「(一つ作り上げても……十分しか過ぎていない)」

巫女服などを一から作り上げる手先の器用さも相まって、
霖之助の裁縫術はもはや達人の領域にまで達していた、
息抜きをしようとお茶をいれ、飲み終えた頃には新しいクッションが腕の中にある、
悩みがあるとすれば一向に本人に似ないことだけだ。

「さて、どうしたものか」

五日目の昼、積み上げられたクッションの数はゆうに百を超えていた。

「材料が切れてくれて助かったのかもしれないな」

在庫の布と綿はその殆どを使い果たし、
当然その全てが目の前のクッションへと姿を変えた。

「まぁ、放っておけば売れるだろう」

そしてゆっくり霊夢、ゆっくり魔理沙始めました、
との張り紙を店の戸にも貼り付ける、この店主、売る気満々である。

「あった! ここにあったよルナサ姉さん!」
「うふふ、もふもふねー」
「こらこら二人とも、買う前から商品に手をつけないの」
「……毎度あり」

五日目はプリズムリバー三姉妹がそれぞれ霊夢と魔理沙を一つずつ買っていった。

「邪魔するわ、死にたくなければゆっくり魔理沙を出しなさい」
「物騒だね、出さなくても山積みにしてあるよ」

六日目は風見幽香がゆっくり魔理沙を五個も買っていった。

「あのー、ゆっくりを買いに来たんですけどー」
「ああ、いらっしゃい」

七日目は中国人のような女性が両方とも買っていった、
その日の夕方にはいつの間にか机の上に二千円が置かれていた
おそらく時空間操作能力者が来てこっそり商品を買っていったのだろう。

「店主はおるかぁ!!」
「ここに」
「頭が高ぁい!!」
「時代小説でも読んだのかい?」
「ええ、最近はまってるのよ」

八日目には紅魔館の主が一人でやってきた。

「霊夢と魔理沙を一つずつ、あとラッピングもしなさい」
「君の分は?」
「……い、いいのよ!」

恐らく二つとも自分のだな、と分かりつつも丁寧にクッションを包む、
商品を受け取った時の彼女の顔が心底嬉しそうだ。

「やれやれ……」

そして客が去り、一人になった彼がすることといえば、出来上がったクッションをばらして
また縫いあげる、それの繰り返しであった、だがこの時、彼はある事実に気づいた。

「(クッションが増えている?)」

順調に売れているはずなのに、以前より高くなっているクッションの山、
いやいや気のせいかと思いながらもクッションを一つ手に取り、
ばらして、縫う、もはやクッションを作ることは癖にすらなっていた。

「よっと」

また一つクッションをばらし、縫い上げる、
腕の中に出来上がるゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。

「……ん?」

だがここでついに彼は違和感に気づいた、縫い上げたゆっくり魔理沙を山に放り、
ゆっくり霊夢を手に取り元の布と糸にばらす、そしてまた一からクッションを作り上げると、
腕の中にあるのはゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。

「…………」

今度はゆっくり霊夢を山に放り投げ、ゆっくり魔理沙をばらして縫い上げる、
腕の中にあるのはやはりゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。

「(増えてる!?)」

八日目の夜、森近霖之助の裁縫術はついに神の領域へと達する。

「……僕は君達を作るために生まれてきたとでもいいたいのかい?」

腕の中に抱えるゆっくりコンビに問いかける彼の目は、
どこと無く悟っているようにも見えた。


 ―――――


「弟子にしてください」

それはゆっくりクッションを作り始めてから十日が過ぎた頃の事だった、
霖之助の目の前で土下座して弟子入りを請う少女、名はアリス・マーガトロイド。

「えーと……君に教えられそうな事は何も無いんだが……」
「いいえ! この見事な裁縫! 一からニを作り出す創生力!
 人形遣いとしてあなた以上の師匠は考えられないわ!」
「いや、そうは言われてもね……」
「弟子にしてくれなければあなたを殺して私も死ぬ!」
「(……これが噂のヤンデレという物なのか?)」

明らかにその目は常軌を逸しており、
目標の為に突き進むその姿はおのずと恐怖すら感じさせる。

「(魔理沙も研究中はこんな感じなのか? まさかな……)」
「さあ、返答を……」
「あ、ああ、わかった、弟子に取ろう、その代わり……」
「あなたが何を要求するかはわかってるわ! では早速!」
「いや、服は脱がないでくれ」

つまり何も分かってません。

「そうね、脱がす楽しみが無いものね」
「脱がす気も無いから」
「ちゃ、着衣のまま……?」
「着衣でもしないって」
「人形プレイ……マニアックなのね」
「本気で怒るよ?」
「え、SMプレイ?」
「…………」

霖之助はアリスの相手をするのを諦めたのか、
クッションを一つ手にとって膝の上に抱え込んだ、
もはや店内の大部分はクッションに征服されているにもかかわらず、
それでも彼はクッションを縫う事を止める事は出来なかった。

「はっ! 師匠の神技! しかとこの目で!」
「やれやれ……」

アリスは霖之助の間近に座り込み、その手先を凝視する、
しかし、クッションを作り始めて一ヶ月、すでに霖之助の裁縫技術は――。

「……っ!?」

アリスをも置き去りにした。

「(気の……せいよね? 一瞬消えて……クッションが二つに……)」
「か、観音様が……!」
「ひゃっ!?」
「……いらっしゃい」

気付けば、人里の守護者がいつの間にか店内に。

「一万円は差し上げまする……是非ゆっくりクッションをお分けしていただきたい……!」
「あの、わざわざ土下座していただかなくても普通に売りますから」
「ん、すまない、何故かこうしないといけない気がしてな」

そして何事も無かったかのように慧音はゆっくりを十個受け取り、
スタスタと帰っていく、その間およそ一分。

「こんにちは、清く正しい射命丸です」
「……いらっしゃい」

その入れ替わりで入ってきたのが、清くも正しくも無い鴉天狗でした。

「ここに面白いクッションがあると聞いて取材に……」

直後、文は言葉を失った、前を見ても左右を見てもゆっくりクッション、
面積ではなく体積にて店内を制圧するそれは、まさしく圧巻の光景。

「……きめぇ」
「商品に対してきもいはないだろう」
「すみません、つい……」
「私もきもいと思うけど」
「君には僕の弟子になったという自覚は無いのかい?」

辛辣な言葉に霖之助は少し気を落とす。

「えーと……千円でしたっけ?」
「買うのかい? きもいのに」
「買います、きもいけど」

クッションの虜になった客がまた一人、
しかしその後は誰も買いに来る事は無く、
生産と需要を比べればその偏りは一目瞭然であった。

「まあ、売る事を目的に作ったわけではないからね」
「にしては張り紙までしてあるけど」
「……一応、新商品だからね」

言い訳のような独り言に、的確に入れられるアリスのツッコミ。

「やっぱり売りつくすには捻りを咥えなきゃ駄目なんじゃない?」
「捻り?」
「ほら、こんな顔にしてみたり」

アリスが弄ったゆっくりクッションの顔は、嫌な微笑みを浮かべていた。

「うわ、きもい」
「他にもこんなのとか」
「うわぁ……」
「こんなのもあるけど」
「……なんかむかつくね」

おびえた表情のやら、ふんぞり返っているのやら、
アリスは多彩な種類のゆっくりクッションを作り出す。

「ならばこういうのはどうかな?」
「ここをこうしたほうがいいんじゃない?」

そのまま二人の新商品開発は深夜にまで及んだ、
翌日にとんでもない事になるとも知らず……。


 ―――――


『がやがや……』
「――ん?」

なにやら外が騒々しい、霖之助は昨夜の色々な開発の疲れが抜けきらず、
どうせなら昼過ぎまで眠っていたかったが、そうもいかないようだ。

「んふぁ……どうしたの、霖之助さん……?」
「ああ、ちょっと外に誰かいるみたいだ」

霖之助の胸をまくらにして眠っていたアリスも目を覚まし、
何事かと霖之助の顔を覗き込む、もちろん全裸で。

「どうせ霊夢と魔理沙あたりだろう」
「もう、二人きりの時に他の女の名前を出さないで」
「はは、すまないね」

つまり、昨晩はお楽しみでしたね、という事である。

「どうせなら今日は臨時休業でもいいんだけどね……」
「そうね、もう少しだけ二人きりでも……」

愚痴をこぼしながらも二人は着替えを済ませ、店の戸をがらりと開けた。

「ここっ、ここにゆっくりが!」
「ちょっと、私が先に並んでたのよ!?」
「ええい、人里のものは我等天狗に道を譲れ!」
「あっ! 店が開――」

そして全力で閉めた。

「……な、何だ!? 何が起こっているんだ!?」
「落ち着いて! こういう時はまずストリキニーネの元素記号を唱えるのよ!」

二人が慌ててる最中にも、店主が起きている事を察した群集が
店の戸をどんどんと叩いて開店を促し続ける。

「私が戸を開けるから、霖之助さんはいつもの位置に!」
「わかった!」

ゆっくりクッションを作り続けて十一日目、
ついにそれはブームの時を迎えた。

「白狼天狗隊! クッションを確保しろ!!」
「人海戦術とは、汚い、さすが天狗汚い」
「あ、あれ!? フランドール様! どこですか!? あれほど手を離さないようにと――」
「ついに念願のゆっくりフランドールを手に入れたぞ!」
「助けて美鈴ーーー!!」
「幽々子様! それは食べられません!」
「店内は一列に! 店内は一列にお並びくださーい!」
「ここで私が空気を呼んで十九個目のクッションをゲット!」
「えーりんえーりん助けてえーりん!!」
「姫はどうでもいいからクッションを確保しなさい!」
「はい師匠!!」
「タイムセールで鍛えた商品確保術、今こそ見せる時!」
「頑張れ早苗ーーー!」

慧音によって人里に、文によって妖怪の山にクッションが伝えられ、
そして今までの購入者達の口コミが起爆剤となったといえるだろう。

「クッションは売り切れました! 売り切れですー!!」

店内を覆い尽くしていたゆっくりクッションの群れも、
その全てが無くなるまで一刻とかからなかった。

「はぁ……こんなに客が来ることはもう無いだろうな」
「でも、きっと明日も来るわよ……?」
「……だろうね」

売り切れと同時に店を閉め、ぐったりと椅子に座り込む二人。

「作ろうにも元が無いし……」
「あ、それなら大丈夫よ」
「あるのかい?」
「ええ、特別のがね……」

アリスは人形を操り、隠してあったゆっくりクッションを取り出した。

「霖之助さんと私の分に取っておいたの」

ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙が一つずつ、
それを抱えると、アリスは霖之助の隣に移動した。

「特別?」
「うん、このリボンと帽子を引っ張るとね……」
「ゆっくりしていってね!!!」
「……ははは」
「どう? いい機能でしょ」
「うん、確かにこれはいい物だね」

ゆっくりクッションが言葉を発したのを見て、
二人は顔を見合わせてくすりと微笑む。

「次は僕と君のゆっくりクッションでも作ろうか?」
「……私、その二つのクッションが繋がってるのがいいな」
「え……うん、頑張ってみるよ」
「おらぁぁぁ!!」
『っ?!』

そして二人の間に甘い雰囲気が流れ始めた時、
突然店の戸が派手に吹き飛んだ。

「一つ! 他人の生首作り!!」
「ま、魔理沙っ!?」
「二つ! 不埒な商売三昧!!」
「霊夢まで!!」
『三つ! 肖像権の侵害をピチュってくれよう桃太郎!!』

ここで霖之助は自らが起こした致命的なミスに気付いた。

「しまった……許可取るの忘れてた……」
「と、取ってなかったの!?」
「霖之助さん、こういうのは一言ぐらい話をつけるのが筋じゃない?」
「アリス……お前も一役噛んでたんだな」

二人の額には明らかに青筋のようなものが浮かんでいる、
無理も無い、勝手にきもいクッションにされたのだから。

「さあ、覚悟はいい?」
「安心しろ、命だけは奪わないでおくぜ」
「(ど、どうするの霖之助さん!)」
「(こうなったらどうしようにも……いや、この手がある!)」

絶体絶命のピンチに、霖之助は起死回生の案を思いつく、
アリスが抱えていたクッションを机の上に置いたのだ。

「(このクッションの可愛さで彼女達を虜にすれば……!)」
「(成る程! 上手くいけば彼女達を懐柔できるわ!)」
「霖之助さん、それは何のつもり?」
「(よし、気を引けた! 今だ!!)」

霊夢と魔理沙がゆっくりクッションに注目した瞬間、
霖之助は勢いよくそれのリボンと帽子を引っ張った。

「ファー……ブルスコ……ファー」

それを一言で表すならば、きもい。

「えーと、アリス、これは一体?」
「故障した……みたい……」
『ゆっくり死ねぇぇぇ!!』
『モルスァーッ!!』



翌日、香霖堂の戸に臨時休業のお知らせと、
ゆっくりクッションの販売中止のお知らせが貼り出されたのは言うまでも無い。
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::::::::::::::::::| |´  ̄ ̄ ̄`゛''┘.,
::::::::::::::::::| |'   、 ,.     `' 、
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::::::::::::::::::| |レ'rr=r レ. |/(,. ト゛'、`'、
::::::::::::::::::| |゙i       -=;ァ' l ,.!  } <おお、きもいきもい
::::::::::::::::::| | ゙i   '‐=ー     'レ.,r'レ
::::::::::::::::::| |゙i          ,' '{,  }
::::::::::::::::::| |            ,r' 「レ`'
::::::::::::::::::| |゛ヽ、 _.,_____,,.. ,r' `i~レ 
::::::::::::::::::| |Y7´! ,.イ⌒ヽ
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:::::::::::::::::と_ ヽ.,ムゝ-=、_ンイ:::・:(<
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幻想と空想の混ぜ人
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コメント



0.6700簡易評価
2.100桶屋削除
>「落ち着いて! こういう時はまずストリキニーネの元素記号を唱えるのよ!」
ここ以下の怒濤の台詞に吹いた。全然ゆっくりしてねーーー!

後半で
>絶対絶命のピンチに、霖之助は起死回生の案を思いつく、
とありましたが、「絶体絶命」の誤字と思います。
4.70RYO削除
最初はきもいだけだったのに、今ならクッション買う自信はある。
つ『千円札』
 
・・・・・・マジな話、誰か作らないかな(←錯乱中)
5.90名前が無い程度の能力削除
シュールすぎてゆっくりできねぇwwwwwww
6.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりに大笑いしましたw
7.100名前が無い程度の能力削除
俺も買うぞ!!
販売中止とかもったいねぇ……霊夢と魔理沙は空気読め!!
8.90名前が無い程度の能力削除
おちつかねーぞこりゃwww
ところでこーりん×アリスって組み合わせもなかなかないので珍しいいいもんみさせていただきました。
しかもアリスが積極的て。あらいやだ奥様。
9.90名前が無い程度の能力削除
止まらねぇw
なんだこのカオスw

というか最初は本当にうざったいだけだったゆっくりも、クッションで欲しいと思ってしまっている自分は既に手遅れ。
13.90名前が無い程度の能力削除
>昨晩はお楽しみでしたね
ゆっくりに見せかけたこーりん×アリスだったとは……

いつゆっくりなんてフランつくってたんだろ?w
15.80名前が無い程度の能力削除
C21H22N2O2
16.100万葉削除
素敵なカオスですね。

お願いです…ゆっくりさせてwww
17.100名前が無い程度の能力削除
盛大にふいた私の負け、か……
19.100てるる削除
過酸化水素はH2O2ですね。

レイマリがだめならパチュアリで作ればいいじゃない!!

ひたすらにカオスでしたww
さて、それでクッションはどこで買えるのかな?冬コミか?千円札握りしめて待ってますね~。
21.80からなくらな削除
なんぞやこれ(笑)
ひたすらに面白かったです。
次回作も期待
22.70名乗ることができない程度の能力削除
ゆっくりクッション製作祈願(ぇ
さりげなく霖×アリ自重www
23.無評価名前が無い程度の能力削除
相変わらずお前の作品はつまんねーな
25.100#15削除
こーりんすげえぇぇぇぇ!

っというか、元ネタ、アレですよね。なんとなく、そうじゃないかとは思ってましたがw

>「脱がす気も無いから」
>「もう、二人きりの時に他の女の名前を出さないで」
この間に、一体何があった!!!???
28.100名前が無い程度の能力削除
序盤は普通にゆっくりしてたはずなのに・・・
このみょんなテンションの高ぶりをどうしてくれる

とりあえず、ゆうかりんが買ったゆっくりのその後が知りたい俺マジS
いや・・・M
29.80名前が無い程度の能力削除
ゆっくりクッションは確かにほしいがとりあえず
>霖之助の胸をまくらにして眠っていたアリスも目を覚まし、何事かと霖之助の顔を覗き込む、もちろん全裸で。
OK、この前夜になにがあったか詳細を頼む!!
33.90煉獄削除
いや、もうね…ニヤニヤしながら読ませていただきました。
ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙を大量生産した結果バカ売れ…。
しかし、本人たちに許可を取っていなかったので中止…と。

私もそれらが売られてたら買うかもしれないなぁ・・・。
35.100名前が無い程度の能力削除
>「安心しろ、命だけは奪わないでおくぜ」
と、言っといて『ゆっくり死ねぇぇぇ!!』ってwwwwwwww

どこぞのコミケブース並の大ブームの売れ行き
おもろかったわ~~。
37.100名前が無い程度の能力削除
…将軍先生!
39.70名前が無い程度の能力削除
霊夢と魔理沙はツケ払え!
というのを、無視されるにせよ最後のとこでつっこんで欲しかった
40.100名前が無い程度の能力削除
きめぇ
41.80名前が無い程度の能力削除
貴様!居酒屋スレを見ているな!
47.100名前が無い程度の能力削除
その手があったか!!
読めば誰かが書きそうと思いますが、こう最初に思いつくのは流石です。
50.100名前が無い程度の能力削除
       -==-、      |    \
           , ─ ´ ゝ、 .|     .|<ガチャッ
      , - '  ̄    u   `ヽ,     | 霖  堂  _人人人人人人人人人人人人人人_
     , '  u           i      | ̄ ̄ ̄ ̄||>    ゆっくりしていってね!!! <
    ,'             r  i    |::\   ...||. ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
   /      u   r i  /リレ´   ....| .::::::\_,. -‐ァ    __   _____   ______
   i        / ル|/_i-イ,      .| r-r'"´  (.__  ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
   i u     イノ i`,| i. ::ヽノ     |'二ハ二ヽ、へ,_7 'r ´ iゝ、イ人レ/_ルヽ、ン、
   ノ,    u     ヽi .i u::::i      ...|    ;  ', `ヽ/ ,'==(ヒ_]     ヒ_ン ).==', i
  ´ |,イ入     ./イ'、| ::::,' |     ...|ハ  ハ  !   i .i イ ""  ,___,   "" ヽイ i |
    レル Yリノヽイ  _ヽ| _:/ . |     .| V 、!__ハ  ,' レリイi   ヽ _ン    | .|、i .||
       / \`--- /ヽ.  |     ...|    ヒ_ン レ'i ノ. !Y!.          「 !ノ i |
   _ , --´\  \--- | ト-....|     ...| ,___,  "' i .レ'  L.',.           L」 ノ| .|
  γ    ヽ> \ \_ _/ / i `゙r、    ....| ヽ _ン   人!.  | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /
 /      i〉  \ y' /  |/  _.〉   ....|、____, ,.イ  ハ  レ ル` ー--─ ´ルレ レ´
 i  _,,...--...,,ヽ   / /  /|   Y..\ ....|
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  ハ!     ._ヽ!イ__イ____/___yゝ、ヽ,
   ',    r> '"´  `', ', ',  ヽ!
   i,   ,.イ       l  l l   i
   |ハ      .........:::::::::|  | |   イ
52.100名前が無い程度の能力削除
一万円は差し上げまする…ってHxHじゃねえかw
54.100名前が無い程度の能力削除
意外とアリスとこーりんって合うなw
霖×アリ ブームが起きればいいな!
55.100名前が無い程度の能力削除
なんか客の中にブロンティストがいたぞwwww
56.100名前が無い程度の能力削除
またゆっくりネタか・・・と思って読んでみたら
まさかアリ霖だったとは
完敗です
58.90名前が無い程度の能力削除
>>霖之助は昨夜の色々な開発の疲れが抜けきらず、
ちょっとまてこーりんwww昨夜の開発ってwwwwノーマルじゃないんかいwww

>>「ついに念願のゆっくりフランドールを手に入れたぞ!」
フランちゃん(本物)持ってかないでー!
60.100名前が無い程度の能力削除
負けたよ………完敗だ……。
61.80ななななし削除
こーりん=会長、天子=ブロン子さん、文=きめぇ丸ですね!
63.100名前が無い程度の能力削除
ゆっくり自重www
65.100名前が無い程度の能力削除
>何事かと霖之助の顔を覗き込む、もちろん全裸で。
ちょwwwwwwwwwww
66.60500削除
欲しいなあ、ゆっくりフランドールw
67.90名前が無い程度の能力削除
ゆっくりし過ぎた(昼過ぎまで寝てた)結果がこれだよ!w
とりあえずアリ霖が気に入ったので、プラス10点ね。
68.100名前が無い程度の能力削除
代わりに、ゆっくりする時間が増えた――
っていうか霖之助のゆっくりって見たこと無いな
作って!
71.80名前が無い程度の能力削除
ファービー懐かしい
72.100名前が無い程度の能力削除
かおすぽっど
74.100名前が無い程度の能力削除
>霖之助は昨夜の色々な開発の疲れが抜けきらず
ナニを開発してたんだよwwwwww
77.100名前が無い程度の能力削除
ゆっくりクッション買いに来た人々の狂乱ぶりが一番おもしろかったッス。
っつーかえーりんひどすぎw
78.100名前が無い程度の能力削除
クッションに対しては的確な突込みを入れつつやっぱり暴走しているアリスが可愛い。
82.90名前を表示しない程度の能力削除
なんでここまで大流行してんだww
というか霖之助とアリスの間に一体何がwwww

あととりあえず喋るゆっくりクッション1ダース買っていきますね。
83.90名前が無い程度の能力削除
ゆっくり読めましたw

>昨晩はお楽しみでしたね
昨夜にすると咲夜さんとまぎらわしいから昨晩にしたのか?w
86.100名前が無い程度の能力削除
なにナチュラルにくっついてんだコラァアアアアアア!!
88.100名前が無い程度の能力削除
いいじゃないかw
90.90名前が無い程度の能力削除
ファービー予想外すぎて反則www吹いたwww
91.100名前が無い程度の能力削除
こーりんが羨ましすぎるwww
92.無評価名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんは的のために買っていったとかじゃないよね?
97.80牧場主削除
フラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァlン!!!
98.無評価名前が無い程度の能力削除
流行りネタの二番煎じではなく、ご自身のネタで勝負して欲しいな……と思いました。
103.100名前が無い程度の能力削除
この発想は無かったわ。
とりあえず霖之助はアリスとくっついてお金も奪われないで済んで良かったなw
105.100名前が無い程度の能力削除
これは買わざるを得ないwww
あとアリス自重ww
111.100名前が無い程度の能力削除
なん…だと!お、俺の嫁が。
何て最悪なSSなんだ!!
おk、こーりんとうp主は俺を怒らせた。
113.無評価名前が無い程度の能力削除
アリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイス!!!
116.90名前が無い程度の能力削除
>ゆっくり霊夢を手に取り元の布と糸にばらす、そしてまた一からクッションを作り上げると、腕の中にあるのはゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。

バナッハ=タルスキーのパラドクスが幻想入りしてこーりんが実現させていたのか……
120.90名前が無い程度の能力削除
さくばんはゆっくりおたのしみでしたね
135.90名前が無い程度の能力削除
空気が変わってるアリスと霖之助がw
136.100名前が無い程度の能力削除
ファー……ブルスコ……ファー
フイタwww
140.10名前が無い程度の能力削除
うん、面白かった
面白かった……んだけど全裸で昨晩はお楽しみの段で-90点です……
141.100名前が無い程度の能力削除
アリ霖とは…いいものを見させてもらった。
よし、バットはどこかな
144.100名前が無い程度の能力削除
霖アリ!霖アリ!
157.100名前が無い程度の能力削除
よし、ちょっと、クッション買って来る
158.100名前が無い程度の能力削除
香霖堂何年分の収益になったんだろな。
159.無評価名前が無い程度の能力削除
おおきめぇきめぇ 
165.90名前が無い程度の能力削除
あの物体の生みの親は霖の字だったのか・・・。アリスがレズじゃなくてGOOD。
紅白と黒白は日頃の行いを考えると文句言える立場じゃないと思うのだが。
負けるな、霖の字。ぜひとも販売再開を。
169.100名前が無い程度の能力削除
誰かネテロ会長に突っ込めよw
170.80名前が無い程度の能力削除
といいつつ、文も白狼天狗隊から一個受け取るっていうかくれんでも分捕るんでしょ?
で、この霊夢と魔理沙はいつもちゃんと金払ってるん!?

>か、観音様が……!
こ、ここで、この前後にあれな感じの場面のあるここで、その言葉をだすとは!!

観音様はあそこの隠語でもあります
178.100名前が無い程度の能力削除
商品開発をしてると思ったらアリスを開発してたでござる。
179.100名前が無い程度の能力削除
言葉はいらない。
ただただパソコンの前で口を開けて爆笑した事実のみ……

霖×アリ 地味に良いね
182.100七人目の名無し削除
アリ霖良いね。実に良い。
199.100名前が無い程度の能力削除
>おそらく時空間操作能力者が来てこっそり商品を買っていったのだろう。
岡崎!?

>何事かと霖之助の顔を覗き込む、もちろん全裸で。
おまwww
207.100名前が無い程度の能力削除
よし!リンノスケコロス!
208.90名前が無い程度の能力削除
一個ずつ下さいなー
221.100静かに読みふける程度の能力削除
つ二千円札


色々ネタ突っ込んでいた上にアリスまで開発しただとぅ!?
許せるっ!!

唐突なファービーに吹いた俺のお茶返せwww