Coolier - 新生・東方創想話

本の向こう

2008/08/23 18:21:53
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少女はたった一人、大きな三日月の下を進んでいた

辺りには雑木が生い茂って明かりひとつ無く、「夜道の一人歩きは危険」を地で行く格好となっていた

それでも少女は迷わずに淡々と進む

目的は明確だから









ずいぶんと歩いた

途中で何匹もの妖怪を葬って尚、歩いてきたが、疲れは不思議と無い

少女は目的地へと辿り着けたことにひとまず安堵したが、その暗い表情は全く変わらない

もともとそんな性格なのだろう

だがそれ以上に、この闇夜に紅くそびえる洋館の異様な雰囲気が、か細い少女を飲み込もうとしているからかもしれない






少女がなかなか踏み出せずに洋館を睨んでいると、目の端に何やら人影があるのに気がついた

いや、正しくは気づかされたのだろう

さっきまでの静寂は、いつの間にか現れた者によって掻き消えた


「こんな時間にお客様とは珍しいわね」


腕を組み、門柱の上にスラリと立っている影は、どうやら美しい女らしい


「何か用かしら?」
「・・・ええ、用があるから来たの。この立派なお屋敷に入れてくれないかしら」


当然すんなり通してくれるはずは無いと思ったが、なるべく面倒は避けたかった

目の前の門番・・・いや、見た目はメイドそのものだが、ともかくこの女は一筋縄では行かないと少女は思った


「用件も聞かずに入れるわけがないでしょう。・・・と、心当たりはあるけどね」


軽い身のこなしで柱から降りてきた女は口元でニヤリと笑ったが、目は鋭いナイフのように真っ直ぐ少女に狙いを定めている

少女も目つきが若干鋭くなったが、相変わらずのポーカーフェイスで睨み返している

ふと、女が口を開く


「近ごろ噂になってるわ。高名な図書館を次々襲ってる魔女って・・・貴女でしょう」


女の口元から笑みが消えた


「・・・ええ、そうよ。もう一度言うわ、このお屋敷に入れて頂戴」


少女の周囲は、恐ろしいほどの魔力が満ちていた

女の肌がピリピリと痛む

認めたくはないが、自分は目の前のか細い少女に対し、心の奥底でほんの僅かながら恐れを抱いている

この少女は恐らく自分と同等・・・いや、それ以上の力を持っているのを女は感じ取っていた

この異常なまでの魔力だけなら、自らの主でさえ凌ぐのでは・・・

そんな、普段ならば絶対に及びも付かないことを考えてしまっていた

女はふ、と息を吐く


「お嬢様はお休み中よ」
「それは残念ね」


少女が言い終わると同時に脇に抱えていた本を広げ、右手を女に向ける

右手を向けられる寸前に、女の両手から数十本のナイフが放たれた

ナイフは真っ直ぐに少女へと向かうが、一瞬にして赤白いフラッシュとともに地に落とされる

眉一つ動かさない少女の周囲には、無数の炎弾が展開されていた

改めて女に右手が向けられ、少女が何か呟いた瞬間、炎弾が一斉に女に襲い掛かった





















「騒がしいわね・・・まったく」


爆発音と振動によって目が覚める

紅魔館の主、レミリアが幼い子供のように目をこすりながら外を見ると、どうやら咲夜が戦っているようだ

相手は派手な魔法を使っているらしく、闇夜が時折明るく照らされる


「侵入者か・・・。ま、珍しくはないか」


こんな夜中に来るのは珍しかったが、まあ初めてというわけでもない

いつもどおり問題なく、咲夜が排除するだろう

くるりと向き直り、さあもう一眠り・・・と思ったレミリアの足がピタリと止まる


「・・・負けそうじゃない」


召抱えて間もないが、従者の魔力を察知することなどレミリアには造作もなかった

その従者の力が、随分とぼやけていたのだ

そして、もう一方の力の大きさにレミリアは感付いた

これは・・・なかなかに面白い

顔を上げたその表情は、なんとも表現し難い笑みを浮かべていた

不甲斐ないメイドを助けるという自分の甘い行為への不信と、自らが力を認めた従者を凌ぐ侵入者への、期待の成した表情なのだろう

寝巻きを着替え、軽く寝癖を直したレミリアは、窓から飛び出した
























門の周辺には大小のクレーターがあちこちにでき、無数のナイフが散らばっている

草木は焼け、砂埃が上がり、これだけの惨状がこの細身の女と小柄な少女の戦いの痕だとは、普通は想像すらできないだろう

お互いに相当なダメージがあるようだが、どうやら門番の女はそろそろ限界のようだった

頭から足から血が滴っている

侵入者の少女も得意のポーカーフェイスは崩れかけ、かなり息が荒くなってはいるものの、外傷はほとんど無いように見える


「はぁ・・・っ!・・・っ!」


女の膝がむき出しの地面に落ちる

もはや体はほとんど動かないが、視線の鋭さだけは一向に衰えず少女を捉えている


「私の勝ちね・・・。お邪魔するわ」


息を整えながら、少女は動けなくなった門番の横を通りすぎゆっくりと進んでいく

女が何か言っているようだったが、生憎聞いてやる余裕はない

こっちだってかなり消耗しているんだから



「大丈夫?咲夜」



門をくぐろうと踏み出そうとした瞬間、背筋に強烈な悪寒が走った

バッと振り返ると倒れた女の傍らに幼い、しかし禍々しい翼の生えた少女が立っていた


「お、お嬢様・・・!お休みのはずでは・・・」
「あれだけ派手にやってたらそりゃ起きるわよ。あーあ、ひどい格好」
「う・・・も、申し訳ございません・・・」


女のナイフのような目つきはすっかりと折れてしまっていた

・・・なるほど、あの子がこの女の主であり、この紅くそびえ立つ館の主ということか

肌で感じる、あの子は化け物に違いない


「貴女、ちょっと面白いじゃない」


館の主らしき少女がこっちを見ている

その目はとても嫌な笑いを含んでいた


「うちの咲夜をやるなんて、良くできました」


パチパチと小さな手を叩いている

その仕草だけを見ればとても可愛らしい少女なのだが、その殺気に満ちた目は妖怪のそれとは比べ物にならない、恐ろしいまでの紅色だった

まったく、世の中にはとんでもない種族がいるものだ

前に本で見た・・・恐らくは吸血鬼の一種だろう

息を切らしながらもそうやって冷静に頭の中で分析していた私を見て、その吸血鬼のお嬢様は怪訝な顔をした


「・・・貴女、私が怖くないの?」
「・・・?」


よくわからなかった

「こわい」と言えば、前に疲れた状態のことをある地方では「こわい」と言うのを本で知っていたが、今の私は正にそれだった

おお、こわいこわい

私がきょとんとしていると吸血鬼は鼻でフン、と笑って、手をヒラヒラさせた



「まぁ、どっちでもいいわ。ここの書庫に用があるんでしょ?ならどっちにしたって、まずは主である私の相手をしてくれないと」
「あぁ・・・そういうこと。・・・仕方ないわね」
「そう、そういうこと」


正直、勝算は殆どなかった

咲夜と呼ばれていた門番との戦いで体力は限界、目の前はクラクラして、今にも倒れそうだ

それを差し引いても、吸血鬼などという化け物に勝てるかどうかは怪しく思えたが

それでも、やるしかない

手に入れたいもののために


「ふふ、やる気みたいね。それじゃあパーティーを・・・始めましょうか!」































「むきゅ・・・」
「あ、やっと起きた」

目が覚めると、そこはよく掃除の行き届いた洋室だった

どういうわけか私はベッドの上にいて、さっきまで対峙していた吸血鬼に顔を覗き込まれている

近くで見ると、本当に可愛らしい顔をしていた・・・って何を考えてるんだ私

今はこの状況を確認するのが先だ


「えと・・・私、どうして・・・」
「どうしてって、あなたが急に倒れちゃうから休ませてあげたんじゃない。せっかく久しぶりに楽しめそうだったのに、拍子抜けよ」


ああ、私は結局、体力の限界を超えてしまったんだな

しかし・・・なぜ・・・


「・・・どうして助けたの?」


ただの侵入者、倒れたのならその辺に捨てておいて妖怪の餌にでもすればよかったものを

なぜ冷酷非道と聞く吸血鬼様が私を介抱しているのか

するとその吸血鬼様は眉を寄せながら、顔を近づけてきた


「だから、言ったでしょ?久しぶりに楽しめそうだって。だからあなたが私に少しでも近い状態でいてくれないと面白くならないじゃない」
「・・・つまり、治ったらさっきの続きってこと?」
「そ、私は心が広いから3日までなら待ってあげる」


ふふっと悪戯な笑みを浮かべる少女に、冷酷非道な吸血鬼というイメージは全くなかった

つられて私もクスクスと笑ってしまった

私が笑うなんて、何百年ぶりだろう



「・・・貴女、名前は?」
「他人に名前を尋ねる時は・・・」
「・・・再戦の時は楽しみにしてなさい。・・・レミリア・スカーレットよ」
「パチュリー・ノーレッジ。レミリア、助けてくれて・・・ありがとう」
「ふん、後悔するかもね。それにしてもパチュリーって・・・可笑しな名前」
「・・・・・人の名前を馬鹿にするなんて、器が小さいんじゃなくて?お嬢様」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・ぷっ!」
「ふふ・・・」
「アハハハ・・・・!オーケー。よろしくね、パチェ」
「ええ、よろしく・・・レミィ」




とても不思議な感覚だった

長年生きてきたが、今まで一度も感じたことのない気持ち

本には書いてあっただろうか

・・・いや、書いてはいても、詳しくはこうして体験しなければわからなかっただろう

これがきっと・・・
































相変わらず、この世の全ての情報が集まっているかのような薄暗い光景の中に、ぽつんと二人

一方は何やら分厚い本を読み、一方はひじを付いてぼっとしている


「・・・私たちが出会って100余年、いろんなことがあったけど・・・。ここ数年は特に色んなことがあったわねぇ」
「どうしたの急に。随分と老け込んだんじゃない、レミィ」


聞いているのかいないのか、パチュリーは本を黙々と読みながら応える


「別に。ただ、あの時は私の圧勝だったなぁ~って。ねぇパチェ?」


レミリアは嫌味丸出しで、ニヤニヤとパチュリーを見つめている

老けたといわれたのがだいぶ悔しかったのだろう

気づいているのかいないのか、やっぱりパチュリーは黙々と本を読みふけっている

それをまだニヤニヤと見つめていたレミリアはふと「あっ」と小さく声をあげて、何かを思い出したようだった



「・・・そういえばあの時、貴女が探してた本は見つかったの?」



あの時とは、パチュリーがまだ色々と若かった頃の話だ

ニヤニヤの消えたレミリアの目と、本を読む手を止めたパチュリーの目が一瞬合う

が、すぐに目をそらし、また黙々と本を読み始めた



「・・・あら、誰が本を探してるなんて言ったかしら」

「・・・・・?」


パチュリーなぜか、僅かに笑みを浮かべている

よくわからないといった表情でレミリアが首をひねっていると突然、背後のドアが吹っ飛んだ


「よーパチュリー、お邪魔するぜ~」
「なんでいちいち壊す必要があるのよ・・・。いつもごめんねパチュリー、と・・・レミリアも」
「なんていうか、これは一種の儀式みたいなもんでだな」


埃の中から、お馴染みの白黒と虹色が現れた


「また・・・。本気で門番を変えてみようかしら」
「お嬢様、パチュリー様、紅茶が入りました・・・ってまた急に来てるのね。もちろん貴女達には用意してないわよ」


すっかり慣れたもので、レミリアもパチュリーも、たった今現れた咲夜でさえも、ドアのことは全く気にしてはいなかった

世界一憐れなドアである


「いいよ別に。アリスかパチュリーから貰・・・・」


魔理沙がそんないかにも魔理沙らしいことを言おうとした瞬間、今度は窓ガラスが吹っ飛び、無数の破片と共に派手な紅白が飛び込んできた


「魔理沙コラァ――――――――――――――っ!!私のお団子返せやぁ――――――――――――――――――っ!!!」
「ゲェー!霊夢!!」
「あっ!霊夢いらっしゃ~い!」


ついさっきまでは静かだった大図書館はたった二人の乱入者のせいで、静けさなど全くの無縁と言ってもいいような惨状となっていた

だが、これもここ数年ではごく当たり前のこと

しかしさすがに当事者の二人には大事のようで


「あのお団子はぁ・・・・今月最後のお賽銭で買ったぁ・・・・・!」
「いや、高そうな割にはパサパサして・・・じゃなくて!わ、悪かったって!!」


何やらオーラを放出している霊夢に対してわたわたと弁解する魔理沙

しかし霊夢の様子を判断するとすぐさま振り返り、引きつった笑顔を振りまいて「タスケテ」のサインを送った


「自業自得でしょ」
「魔理沙・・・少しは学習しなさいな」
「霊夢っ!ほら、私のクッキーあげるっ!」
パチュリーは黙々と本を読んでいる



「~~~なあパチュリー!頼む・・・!!」
「・・・仕方ないわね」
「!」
「本が全部返ってきたら考えてあげる」




瞬間、霊夢の両目が光った


「くそっ!ひ、ひとまず逃げるぜ!!」


箒にまたがり、全速力でドアがあった方へと逃げ・・・
「あ~っ魔理沙だ!遊ぼうよー!」
「ゲェー!フラン!!」
「死にさらせ魔理沙ぁ――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!」


アッー!

















静寂がすっかり似合わなくなった大図書館に、いつもこもる少女が一人


自分が最も安らげる場所


昔々に想像していたのとはちょっと違うけど


それでも少女は日々に満足しているようだ


大きな本に隠れる小さな顔は


誰にも気づかれないように、そっと微笑んで


誰にも聞こえないように、そっと呟く












「友達がいるって大変ね」
はじめまして

あ・・・ありのまま今起こったことを話すぜ!
ここの小説がどれも素敵すぎて読みふけっていたらいつの間にか俺が書いていた
なんたらかんたらチャチなもんじゃ(ry

SSなんて初めてで・・・ど、どうしたらいいのか・・・
指導して頂けたら俺、もう死んでもいい

いや、やっぱ生きて次に繋げたい
漢字太郎
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コメント



0.690簡易評価
2.60名前が無い程度の能力削除
咲夜さんがなぜか門番してて、なおかつパチェより先に紅魔館にいる。
しかも出会って百余年という設定にすごく疑問はあるけど(美鈴どこいった?とかも含めて)雰囲気は嫌いじゃないかな。
3.70からなくらな削除
もう少し膨らませれば、たいそうな物語になれそうな予感
ただ、咲夜は百年以上も前から、レミリアの従者だったのか・・・?
それについては、多少の違和感があります。
が、文章力は申し分ないと思います。
次回作も期待
6.80N氏削除
矛盾さえしていなければ・・・
7.50名前が無い程度の能力削除
咲夜が100余年の間、あの姿のまま生き続けているのかどうかは、私も気になりました。
また、パチュリーが高名な図書館を襲い続けていた理由は、友達を作るためですか?
(ちょっと繋がらないように感じますが)
文章はとても読み易く、初めて書いたSSとは思えない出来です。
ただ、戦闘シーンの描写からあからさまに逃げているのは、いただけません。
苦手なことにも挑戦してみれば、得られるものがある筈です。
がんばってください。
10.70名前が無い程度の能力削除
色々描写が足りない所はあるけど生きて次に繋げよう

よかったよ
11.無評価名前が無い程度の能力削除
良かったよ
次の作品も期待しています
14.50名前が無い程度の能力削除
時系列めっちゃくちゃ。
なんでパチェよりさきに咲夜が居る?
咲夜さんそうなると100年以上生きているって事になりますよね。
矛盾が非常に残念。残念すぎる。
というわけでこの点数。
15.50名前が無い程度の能力削除
>私が笑うなんて、何百年ぶりだろう
パチュリーさんは確か百歳くらいだからこの表現はちょっとおかしい。
もう少し東方の設定を理解してからまたSSを書けばそれなりに評価されると思いますよ。
16.80名前が無い程度の能力削除
紅魔館は基本的に体育会系なのですなあ。
喧嘩の跡に川原で寝そべってアハハ、とかそんな感じの。てか東方は原作からしてそんな感じのばっかですが。
多分この作品の咲夜さんも一回お嬢様と手合わせしてるんだろうな。

いや、面白かったです。
18.70名前が無い程度の能力削除
感想代わりの豆知識
「こわい」には「かたい」という意味もあるぜ!
21.無評価漢字太郎削除
うおお、こんなに温かなご指導が・・・!

そうか、咲夜さんは人間だけど時をいじったりなんかして
お嬢様とは結構なお付き合いだと思ってたのは俺の幻想でしたか・・・
パチェもまだそんな化け物じみた年じゃないんですね

自分の無知さを思い知って死にたく・・・・・
いや、とりあえず次の作品を書くまでは生きてみようかと思います
ご指導ありがとうございました!
22.80名前が無い程度の能力削除
気合いで体の時も止めたと解釈している。ついでに胸も。
咲夜さんは永遠の少女です
23.30名前が無い程度の能力削除
やはり咲夜が100年前からいるのは違和感があるし、紅魔館に来たのは人間である咲夜が最後って気がする。
25.70名前が無い程度の能力削除
時止め描写とか無いし、この咲夜別人なんだろうな。とか深読みしてみたけど違うのか。
パッチェさんは 自分が最も安らげる場所 を探していたのかな?
全体的な雰囲気や流れは好き。次回作に期待してますね。
29.無評価名前が無い程度の能力削除
まあ、咲夜が居るのがおかしいというより、美鈴じゃないのが悲しい。
と思いました。
34.80名前が無い程度の能力削除
好ろしい
37.90スゥ削除
2作目からよんじゃったw
中国の出番が。。。
38.30名前が無い程度の能力削除
時間をいじるというか、自分の時間止めちゃったら動けなくなりますがな
レミリアもそれだと眷属に誘ったりもしないでしょうし。

創作だから自由だけど、咲夜が先にいる違和感は拭いがたいと思う