Coolier - 新生・東方創想話

しっとだうん

2008/08/22 02:09:00
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地霊殿キャラの話です。
最低限体験版をプレイしてから読む事をお勧めしますが、ネタバレとか知ったこっちゃ無いという方はそのままどうぞ。




地下と地上を結ぶ道。
深い深い、暗い穴。
いるのは僅かばかりの妖精と、ほんの少しの怨霊と。
たったひとりの妖怪だけである。

嫉妬の心を操る橋姫。
或いは、縦穴の番人。
水橋パルスィは、そういう生き物であった。
それを気に病んだ事はない。
それを気に病むような心は、持ち合わせていない。
ただ。
――妬ましい。
そう思うだけだ。

硬い岩肌に腰掛け、思う。
何も考えない妖精が妬ましい。
恨みをもって現世に留まる怨霊が妬ましい。
好き勝手生きている妖怪達が妬ましい。
強い力を持ちながら享楽に生きる鬼が妬ましい。
明るい空の下で生きる妖怪達が妬ましい。
無力を知りながらも平穏に生きる人間達が妬ましい。
嗚呼、妬ましい。

ため息を一つ。
誰だって自由に生きているのだ。
それなりの役目を果たしながら、それなりに自由に。
そうやって生きられる全ての者が、妬ましい。
私はこんなにも不自由だというのに。
こんなにも不自由にしか生きられないというのに。

この穴は、地上と地下を渡す橋。
私は、橋を見守る妖怪。
嗚呼、それは確かに正しい在り方なのだろうけれど。
誰も通らぬ橋など、如何ほどの意味があるというのか。
価値無き橋を守る妖怪など、如何ほどの存在意義があるというのか。
妬ましい。
私を置いていってしまう者達が、妬ましい。


「ああ、やっぱり此処にいたんだね」
私しかいない縦穴で、声がする。
振り向かなくてもわかる。
だって、こんな所に来る物好きは一人だけだから。
「相変わらず楽しそうね、ヤマメ」
黒谷ヤマメ。
病を操る土蜘蛛。
それなのに色々な妖怪に好かれる、私とはまるで違う生き物。
嗚呼、妬ましい。

「今日は何の用かしら?」
「んー、暇だったから」
暇だから。
暇だからでこんな辺鄙な場所まで来るというのか。
「そう。わざわざこんな所に来るなんて、よっぽど暇だったのね」
妬ましい。
そんな風に自由に動き回れる彼女が妬ましい。
「こんな所、というかパルスィに会いに来たんだけどね」
「それはそれは。誰にも好かれるあなたが私なんかの所にねぇ」
言葉に刺が混ざるけれど、取り除く気もない。
彼女が其処にいる事、それ自体が嫌味に思えて仕方ない。
それでも彼女は、曖昧な笑みを崩す事はなく。
「誰からも好かれるなんて、そんなわけないよ」
等とのたまうのだ。
嗚呼、妬ましい。
笑ってそんな言葉を吐ける彼女が妬ましい。

「それは、何一つ持たない私への嫌味かしらね?」
私には何一つ在りはしない。
彼女の言葉は、持つ者の傲りだ。
流石に癇に障ったのか、彼女の表情が変わる。
怒ったような悲しんでいるような、そんな顔。
「パルスィ、ちょっと其処に座って!」
そう叫ぶパルスィに返す言葉は、一つしかなかった。
「座ってるわよ」
「……そうだね」
そもそも私は最初から座っていて、浮いているのは彼女の方だ。
「あなたも座ったら?」
「そうする……」
出鼻を挫かれた彼女が、ふらふらと私の横に飛んでくる。
そのまま丁度良さそうな場所に腰掛けると、改めて私を見て口を開いた。

「パルスィは、本当に何も持ってないと思ってる?」
「無いわよ、何も」
私に一体何があるというのだろう。
友人もいない。
自由もない。
付け加えれば、可愛げも無い。
ああでも、嫉妬心はあるかしらね。

「そんなわけないよ。パルスィだって色々持ってる」
例えば、と言ってから、腰掛けた岩を叩く。
「此処は、パルスィの場所だよ」
それに、と告げてから、私を見る。
「パルスィ自身がいるでしょ」
あと、と少し言い淀んでから、改めて私を見て。
「私が友達じゃ、不満かな?」

少し考える。
この穴――橋は、まぁ確かに私の場所と言えなくもない。
酷く殺風景ではあるけれど。
私自身は、まぁそれはそうだろう。
私は今此処にいる。
そしてヤマメを見る。
友達、であるならば不満はない。
不満はないがそれ以前に。
「……友達だったの?私達」
「え、私はそのつもりだったんだけど」

なんというか。
そんな事をさらっと言えてしまう彼女が、とても妬ましい。
「友達……ねぇ」
私はそういう者を持った事がない。
だから、友達がどういうものかわからないのだけれど。
「そ、友達」
そう言うなら、そうなのかもしれない。

でも。
「あなたはそれで良いのかしら?私なんかと仲良くしてて」
彼女は、誰にだって好かれる。
何も私と仲良くする必要は無いだろうに。

「幸せはね、熱病みたいなものなんだよ」
「え?」
そう言葉にする彼女の顔は、何時も通りの曖昧な笑み。
「みんな熱に浮かされてハイになってるだけなんだよ」
だからね、と一言口にしてから、彼女は立ち上がる。
「パルスィみたいに口酸っぱい方が丁度良いんだよ、多分」

嗚呼、本当に妬ましい。
どうして私をそんな風に思えるのか。
そんなだから、みんなに好かれるんだ。
口には出さないけれど、そう思う。

とりあえず。
「立ってないで、座ったらどう?」
「そうだね」

「でもね、ヤマメ」
「うん?」
それでも、私は思う。
「此処には何もないし、誰も通りはしない」
意味のない橋の橋姫なんて。
「そんな場所を守る妖怪なんて、何の意味もないわ」

「多分ね」
私に答えず、彼女は言葉にする。
「そのうち、此処も開かれる時が来ると思う」
とても暗い、ずっと上の方。
閉ざされた天蓋を見て、彼女は続ける。
「今はまだ静かだけど、ずっとそのままなんて事は無いよ」
そうして。
「だからさ、そうなったらパルスィの出番。でしょ?」
私に笑いかけるのだ。

「妬ましいわねぇ、本当に」
プラス思考にも程があるでしょうに。
此処が閉ざされて、もう随分経っている。
今更開かれる事なんて、まず無いだろう。
それでも良いかななんて思えるのは多分。
「……ああなるほど、病気だわこれ」
「うぇ?」

熱に浮かされている。
土蜘蛛の運んできた病に冒されている。
嫉妬も落ちて無くなってしまうくらい、酷い病気。

友達、ねぇ。
熱はあるかだの気分が悪いかだの心配しているヤマメを見ながら。
たまにはこういうのも悪くない、と。
少しだけ思った。
「……本当に開くなんてねぇ」
「言った私もびっくりだよ」
「……。まぁ、良いんだけど」
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」
「はいはい。面倒だから私の所まで通さないでよ」
「えー、久しぶりの客なのに」


こんばんわ、或いはこんにちわ。nineです。
ヤマメのキャラが今一掴めません。楽しい妖怪に書けているでしょうかね
nine
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コメント



0.610簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
いつかパルスィが笑えるようになればなあとか思っている自分も熱病ですかね。何もないって思っている人(妖)ほど幸せになってほしいですよ。

しかしあの弾幕を避けられる人が妬ましい。2ボスのレベルじゃないでしょ彼女は。
3.80からなくらな削除
おお、短いながらも完成度の高い作品ですねぇ
ヤマメは地底で人気がある妖怪らしいですからね、こんな感じなのでしょう。

パルスィに対して、結界組で挑む人が妬ましい。スキマワープは反則でしょう。
6.80名前が無い程度の能力削除
雰囲気出てていい作品ではないでしょうか?
萃香装備に対して、舌切雀スペルが妬ましい。大玉打ち返しきついよ……(製品版はしらんけど
16.80名前が無い程度の能力削除
よかったですー。
nineさんの作品すきだなぁ。これからもがんばってください。

>>そう叫ぶパルスィに返す言葉は、一つしかなかった。
もしかして、パルスィ→ヤマメ・・・でしょうか?