※ご注意!
このSS内には若干の「東方緋想天」のネタバレを含みます。
「はぁああぁぁぁぁ~~~~~」
「ふえぇぇぇ!!!!」
ここしばらく姿を見ていないという正当な理由をもって、あこがれの先輩の家に遊びに来た椛は、文のあまりの姿に、思わず変な声を出して驚いてしまった。
「だっっりぃいいぃぃ」
布団の上でゴロゴロとしながらため息をつく、そのあまりにもやる気のない姿は、永遠亭のお姫様や三途の川の船頭にタメを張るくらいであった。
「どっ、どうしたんですか! 文さん!」
「んあー、椛か、はよー、あれ? ちわーか? こばーだったりするか?」
ま、どーでもいいけどねーっと、ものすごくやる気がない。
「まだお昼です! いえ、もうお昼ですよ! 文さん!!」
あのやる気のかたまりのような射命丸文のこんな姿なんて、椛には信じられないし、見たくなんてなかった。
「早起きは三文の得!
今この瞬間、どこかで起こっているかもしれない出来事をスクープするには、一秒でも早く行動しないとダメだったんじゃないんですかっ!!!」
「あー、そんなことを言っていた時期もありましたねえ、ありました、なつかしいねえ」
奮起を促そうとする椛の言葉に対しても、かつての若かりし頃の写真を見て懐かしがるような、昔は良かったねえと言いださないばかりの老いを感じさせる…否、文から感じるのはダメ臭だった。
「文さぁん、ホントにどうしちゃったんですかぁ」
椛はもう泣きそうな状態だった。
「だってさあ、私が頑張って頑張って、新聞書いてもさ、反応あんまりないんだもん」
ボソッと、そっぽを向きながらそう言った。
「えっ、でも、こないだの記事、”気質と気性と気候と気分”はみなさんに好評だったじゃないですか!」
そう、つい数ヶ月前になるだろうか、博麗神社が倒壊するという異変に際して、他の天狗達がその異変を扱う中、
文の”文々。新聞”だけは、各人の持つ気質を切り口にしており、その記事は際だって異質だった。
そして、なかなか面白い出来だったため、かなり好評だった。どれだけ好評だったかと言えば、文の長い記者人生で初となる、重刷を記録したのだ。
いつも、余るくらい刷っては、押しつけるように配っていたというのに、欲しがられた、求められたのだ!
「これからも頑張って、スクープを探して、記事を書くぞって、言ってたじゃないですか!!」
あの時の文はすごく輝いていた。椛の知る限り、文が最高に嬉しそうにして、夢と希望に瞳を輝かせていた時だった。
「はぁぁぁ~~」
椛の言葉に、ため息をもって応じる。
「絶頂っていうのは、後はもう下るしかないのよ」
吐き出された言葉は、すっごく後ろ向きだった。
「なんていうの、前のは良かったのにとかさ、今度のはダメだなとか、こないだのは奇跡だったんだなとかさ、やっぱつまんないのが
”文々。新聞”だぜとか」
言っている内に思い出したのか、どんどんと鬱になっていく。
「なんだったのって、思っちゃうのよ」
これまでの文の新聞は、読者の反応をあまり気にしないで、自分の興味のあるものを主眼に書かれてきた。
良く言えば、好きなものを好きなように書いてきた。悪く言えば、読者の気持ちなんて半ば無視していたとも言える。
仕事というよりは趣味、だからこそまっすぐに、見返りなど求めずに、時間と労力とやる気をつぎ込めた。好きなことをやっている、好きなようにしている、だから幸せだと、はっきりと思えていた。
「だって、嬉しかったんだ」
だからこそ、認められた気がした。自分の努力が報われたと思った。
みんなの賞賛の声はやる気になった。こんなにたくさんの人が読んでくれている、応援してくれていると思ったら、素直に嬉しかった。今までの独りよがりなものとは、段違いの喜びと興奮をもたらしてくれた。
それこそ、そのために書いていたんだと思ってしまうくらいに。
こういう記事だと喜んでくれるんじゃないのか?
こういう記事の方が面白いと感じてくれるんじゃないのか?
こういう記事にした方がみんな評価してくれるんじゃないのか?
悪い考え方ではない。悪いはずがないはずだ。だって、受け手がいての送り手のはずだ。読者のことを考えて記事を書くのは悪くない、当たり前のこと、義務なはずだ。
「こんなにみんなのことを考えて書いてるのに、なんで評価してくれないんだって、そう思っちゃうのよ」
そう考えるのはダメなことなのか? ダメな気がする、そんな気はする。でも、どうしても考えてしまう、思ってしまう。
だって、自分の為に書いたんじゃない、みんなの為に書いたんだ。だから、みんなが評価するのは当然だ、義務じゃないのか!
間違った考え方だって思う、そんなことを考えて書かれた記事なんて読みたくもない。そう思っていたはずなのに、心の奥、内側にそんな気持ちがある。隠しようもなく、間違いなくあった。
「好きなことを好きなように書いていたはずなのに、いつから…は、わかってる。
あれから、なんか違う。好きなことを書いてない。好きなように書いてない。自分の書きたい記事じゃなくなってる」
他人の評価が気になる。それは間違ったことではない。送り手としては当然持った…否、持つべき気持ちであろう。評価を考えずにやる方が間違えているのだ。それは幼く、自分本位な、自分勝手な行為だ。
それでも、私は楽しかった。幼稚で自分勝手だったとしても、私自身はそれで楽しかったのだ。
「だったら、あの記事のことは忘れて、前みたいに好きなことを好きなように書いてくださいよ」
椛がそう言った。
なるほど、今までの話を聞けばそう思うかもしれない。
たったの一度受けただけの賞賛の声など忘れて、これまで通り、好きなものを好きなように書いた自分勝手で自分本位な、ただそれだけの記事を書けばいいじゃないか。
そういう流れだったな、わかる、わかるよ。
「それは、物書きじゃないから言える言葉だよ、椛」
これでも物書きの端くれだ。もうそっちには戻れない。
確かに、あの賞賛は嬉しかった。あの賛美は甘美だった。評価されるということは、本当に嬉しいことなのだ。
「あの甘美は忘れられない。求めずにはいられない」
麻薬のようだった。それこそ、それを求めて書いているのだと勘違いさせるほどに、目的を取り違えてしまうほどに。
「ああ、うん、そうだよね」
わざわざ心配して訪ねてきてくれた椛に、こんな風に当たってしまうなんて、我ながらどうかしている。
「ごめん、椛、ちょっと愚痴っちゃったね」
ニッコリとは笑えない。さすがにそれは無理だ。それでも、椛に心配はさせないくらいの笑顔にはしよう。こうして心配してくれたことは素直に嬉しい。うん、作らなくてもそれくらいの笑顔はあふれてくるはずだ。
「さすがの私も、ちょっとへこむことはあるさ。うん、愚痴を聞いてくれてありがとう、椛」
切り替えよう、これは転換期だ。
読者のことを考える。正直今までの私には欠けていたものだ。これを持ったことははっきり進歩だろう。
好きなことを好きなように書く。これは絶対だ。これは私らしさだ。これがないものをどんなに評価されようとも、それは絶対に嬉しくないだろう。そうに違いない。
「うん、大前提が抜けちゃったか、それはダメだった」
それでも、こないだの酷評が吹っ飛ぶわけではない。こうして立ち直ろうとしている今でも、あの時のことを思い出すと相当へこむ。
でも、酷評にへこむのは当然なんだ。それは悪いことではない、それは成長なんだ。むしろ喜べ! 難しいけど、喜べ、私!!
「正直、今すっごく黒くて重い雲にとらわれているかな…でも…」
「私の風は、こんな雲なんて吹き飛ばすから!」
いや、こういう文っていうのもアリなんですねぇ。(吃驚)
楽しかったですよ。
周囲の評価と、自身らしさのバランスは難しいですねえ。
これまでとは異色の作品ですが、私はこういうの好きですよ。
いつの間にか視点が変わっていることに、あとがきまで気づきませんでした
お見事!
そうだよね、大前提が抜けちゃだめなんだよね。
でも自分で立ち上がってこそ文か・・・どっちもよしw
伝えたいことが読者に伝わってくるのはすごくいいことだと思います。
ただ、いつのまにやら一人称 ってのはやはりマイナス点になるんでしょうかねぇ。
うおっ、眩し
>>9.
時期?なんの??
良くも悪くも…今回は悪い部分が多い気がしますが、感情移入しすぎましたね、反省したいと思います。
掲載してすぐに、匿名評価はかなり厳しかったので、あややややと思ったので、皆様の反応は大変嬉しかったです。
この文ちゃん同様、へこみそうだったのでw
>9さん
時期って、なにかありましたでしょうか?
たぶん>>9は東方の作品で起こったことを小説の内容に練り込むなら、その作品が出てからあまり時間が
経たない内にやってほしかったってことを言いたいんじゃないかな。ただの推測だけど