『参ったわね。これじゃあ解除も出来ないわよ。なにせ呪文の詠唱も出来ないんだから』
ここは悪魔の住む館、紅魔館の中にある薄暗い大図書館。
その主であるパチュリーは機嫌悪そうに、筆談のために用意した画用紙を掲げている。
ちなみに字は紫だ。
『だ、だから悪かったってば』
同じように画用紙を掲げているレミリア。無論こちらの字は真っ赤である。
『あの……?結局今私達の身に何が起こっているんですか?』
そこに小悪魔が2人の言い争い(?)に割って入ってきた。
どうやら小悪魔は事態を掴めてはいないようである。
そんな自分の従者に溜息を吐くとパチュリーは面倒くさそうに説明を始める。
『事の起こりは、とある薬が食事に混入されてしまったことなの』
『その効果というのが問題で』
『私達はこのままでは一生、口にする言葉が全て本音と逆の言葉になるのよ』
……奇妙な沈黙が訪れた。
『何故、またそのようなしょうも無い薬を……よほどの暇人なのですか?』
咲夜は謎のボディランゲージで尋ねる。
最早ボディランゲージの域を超えている気もするが、何故かこれで伝わっているので皆、「アリだな」と気にしていない。
『それはわからないけれど、これを紅魔館に持ち込んだ犯人はわかっているわ』
それだけ書くと、パチュリーは半眼でじろりとレミリアを睨みつける。
『それで……どういうわけでこんなややこしいものを使おうとしたのかしら?』
遡る事昨日の夜、レミリアは自室でとある人物への悩みに思いをはせていた。
彼女の悩みは大抵、というか九割九分九厘が妹のフランドール関係の悩みなのだが、今回は珍しく別の人間がその対象だった。
かなり稀有な例である。
「……はぁ」
彼女の目下の悩み事とは黒白魔法使いこと霧雨魔理沙に関することである。まあ結局のところはそれもフランドール、そしてほんのおまけにパチュリーに関わっているのだが。
「うううううう~~~~ふ~ら~ん~私の可愛いふ~ら~ん~~~れみふらこそがじゃすてぃす~~」
なにやら禁断の暗黒舞踊っぽい動きで妹を想う歌を歌うレミリア。
何かを決定的に間違っている。
駄目だ。こいつはレミリアじゃない。
「はっ!?今気づいた。リバもアリだ!!」
……じゃあ何だろうと聞かれても困るが。
「だというのに!!」
しかし突如、アホな踊りを踊っていたレミリアの身体から魔力が溢れ出す。
瘴気と見紛う魔力が世界を紅く染める。
スカーレットデヴィルに相応しい世界へと塗り替えるように。
恐らくこの少女の前では、神さえも絶対者を相手にしたかのごとく膝を折るであろう――悪魔の館の頂点がそこにはいた。
「あの白黒が来てからというもののフランとめっちゃついでにパチュ……はどうでもいいんだけど!!この私から奪い去りやがった!!FUCK!!!盗むのは本だけにしとけやぁ!!盗みはイケナイと思いますjk!!」
そして凄く駄目なことを言い出した。
「何故なの!?奴は魔法使いを名乗る資格は無い!フラグ王を名乗るべきだ!何故それが分からない!?あいつ、いずれ魔理沙氏ね弾幕で刺されるべきだ!」
Nice boat『学園の日々』
「――みたいな感じのスペカで!!」
なんだろう、こいつ。
「そこでフラン奪還のために、永遠亭から強奪してきたこの薬の出番!」
盗みはイケナイと思いますjk。
「最後までGet Ba○kersかDrジャッ○ルに頼もうか迷ったけど、あの鼠を始末しフランを奪還するなら私の手直々にやっておきたいしね」
大分思考が最低人間、もとい吸血鬼になってきている。これがかりすまぶれいくというものか………れみ☆りあ☆う~を使わざるを得ない。
「確実に嫌われる薬と言っていたけれど、どんな効果なのかしら?まああの黒白からフランを奪還できるなら何でもいいけど」
これ系の台詞が完璧に失敗フラグということには気がついていないようだ。
ああ、もう駄目だ
そしてやっぱり駄目だった。
『……その後、レミィの多大な手違いでこの日の食事に薬が混入した、というわけね』
『あ、あれは妖精メイドのミスよ!』
『……調味料といっしょに粉末状の薬剤を置いとくのがあなたのミスじゃなくてなんなのよ!』
『カリスマとは意外性!!』
『ああああああああああああああアアアああああああアアアああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!腐りきっているとは言え、あなたと縁を持ったのが私の魔女生最大の失態よ!!!!』
『失敬な!!』
無言でぎゃあぎゃあと騒ぐ、という矛盾したことをしている二人を見て、咲夜と小悪魔は顔を見合わせ、そっと溜息を吐いた。
暫らく大騒ぎし、ようやく落ち着いたパチュリーは大至急今後の方針を練る事にした。
なぜなら――
『……拙いわね。いくらか試してみたけど、本当に全ての言葉が本心と真逆に置き換えられてる。つまり……私達はある意味では嘘がつけなくなったと言えるわね』
まあ本当に一切合財の言葉が本心とは真逆になっているのだ。それは逆の意味で読んでいけばその人物の本心が丸分かり、ということでもある。
『これは一刻も早くどうにかしたほうがいいわね。これじゃあ普段の生活にも支障をきたすわ。咲夜、紅魔館でまともなのはどのくらい残ってる?』
『軒並み全滅です。ただ、門番は先日魔理沙に突破されたお仕置きで、食事抜きだったので大丈夫だった様です』
『またなの?まあ、今は好都合ね。取り敢えず火急の仕事として、この薬の解毒剤を作れそうな相手をつれて来させなさい。そうね……魔理沙、アリス、永琳あたり……』
「おーーい!誰かいないのかーー」
『『『『きたーーーーー!!!』』』』
普段は騒々しくてはた迷惑だが、今回に限ってはグッドタイミングな来訪者である。
各々が文字や謎の動きで喜びをあらわにする。
「おいおい。どうしたんだよ、パチュリー?つーか皆、画用紙なんか持って絵でも描いてたのか?」
話しかけられたパチュリーは慌てて画用紙を取り出そうとして――画用紙がいつの間にかなくなっていることに気がついた。
(こ、小悪魔ぁぁぁぁぁ!!!)
画用紙は小悪魔の手の内だった。
何かを期待するかのようにこちらをニヤニヤと見つめている。
ヤバイ。このままでは自分の本音が駄々漏れだ。
(それが狙いかあぁぁぁぁぁ!!!!)
そんなパチュリーの様子を怪訝に思い尋ねてきた魔理沙。
パチュリーは咄嗟に言葉で応えてしまった。
「あなたには関係ないでしょ。何しに来たの?」
「パチュリーに会いに来た……「え?」なんてな」
「微塵も嬉しくないわね」
「そりゃ残念。少しは期待してくれたら嬉しかったんだけどな」
「しないわよ、そんなもの。それに貴方のこんな冗談なんていちいち気にするわけ無いでしょ」
2人のやり取りは文章にするならこんなものだが、パチュリーの内心など、その表情からして魔理沙以外にはバレバレである。
つまるところ、彼女の場合、薬があろうが無かろうが魔理沙に関してはまるで意味が無かった。
『つまりは滅茶苦茶嬉しくて期待もしたし、結構傷ついたってことで』「やだらっぱぁ~~!?」
悶絶する小悪魔。その鳩尾には分厚いグリモワールがめり込んでいた。というか突き刺さっていた。
「お、おいパチュリー!?」
「魔理沙、気にして」
「うん!そりゃするさ!ってなにしてんだよ、パチュリー!?」
『うぐぐ……それにしても本音の逆を口にしていると言うのに普段の会話とあまり変わらない』「あじゃぱ~~~!?」
今度は丁度、頭骨の関節に叩き込まれる。
『おおおおお!?』
悶絶し転げまわりながらも器用に画用紙に書き込む小悪魔。
そこまで痛がっているというのに、尚彼女は引かない、媚びない、省みない!
『い、いわゆるツンデ』「ぎゃぴり~~ん!!!!!?????」
『どうやら意味を成さない言葉には反応しないようね』
パチュリーは表情1つ変えずに画用紙を拾い上げた。というか今更だがさっきから皆、文章書くのが早すぎだと思う。
『さて、と気を取り直して――魔理沙、一つ頼みごとがあるのだけれど』
「お、おう。報酬は珍しい魔道書で手を打とう」
自分の使い魔を表情1つ崩さずに殲滅したパチュリーに、魔理沙は若干ビビり気味だったが、パチュリーはそんな彼女に構わずさっさと話を切り出した。
『……それじゃあ「あっ、魔理沙だ!!」妹様?』
――出そうとしたのだが、それを遮り響いてきた声。
その声の持ち主は1人しかいない。
部屋の空気が引き攣った。
そういえば――フランドールは現在、紅魔館が陥っている騒ぎを知っていただろうか?
『あ、妹様に確認を取るのを忘れてました』
瀟洒なメイドは若干不愉快になりそうな動きでそんなことをのたまった。
『をいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?』
『完璧で瀟洒返上せいやぁ!!』
そんな周囲の騒ぎも知らぬままに、フランドールはいつものような笑顔で魔理沙に飛びつこうとする。
「フ、フランお嬢様!!」
その事に気づいた咲夜が、慌ててフランドールを静止しようとしたが、時既に遅かった。
「魔理沙、一体何しに来たの?こっちは下らない遊びに付き合うつもりは無いんだからさっさと帰っ……て?」
自分の口から飛び出した言葉に、フランドールは満面の笑顔のままに硬直した。
いや、彼女を止めたのはそれ以上に――魔理沙の瞳から零れ落ちた雫。
フランドールのみならずその場にいた者たち全てが硬直した。
その涙を流させているのが自分の言葉だと分かり、フランドールは必死で取り繕おうとするが、喉に何かが絡みついたかのように言葉が出てこない。
「えっと……わ、悪い。ひょっとして今までも私、邪魔だったか?」
「すっごくね。正直早く消えて欲しかったんだけどね」
努めて明るく、しかし力なく呟いた魔理沙に、フランドールは必死で否定しようとした。
しかし彼女の口から飛び出る言葉は、その意に反し全てが肯定の言葉として飛び出してしまう。
もうフランドールの表情は今にも泣き出しそうだ。
「……今までごめんな。もうこないから」
その表情を怒っていると勘違いしたのだろう。
魔理沙はフランドールのほうを見ないようにして踵を返した。
「ふぅん?清々するね。壊されたくなかったらもう二度と友達面して来ないでよ!!」
遂には泣き出しながら零したその言葉には答えず、魔理沙は黙って立ち去った。
大図書館を痛々しい沈黙が包み込む。
『……どうするの、レミィ?これは流石にフォローできないわよ』
いつの間に書いたのか、パチュリーはいつもの無表情で、画用紙を掲げていた。
但し、額に青筋のようなものを浮かべているのは、レミリアの気のせいだろうか。
『だ、だってこんな状況になるなんて!』
『十分予想できたことでしょう?もっとも主演男優と主演女優は逆転していたでしょうけど』
『で、でもあの程度の悪口くらいで、いつも言われ慣れてた魔理沙が泣くと思ってなかったし……』
その文を読んだ瞬間、停止していたフランドールの脳がゆっくりと動き出し、程なくしてその意味を全身に浸透させた。
そして湧き上がる怒りがその痩躯を動かしだす。
「………今のって……」
普段の感情過多な――それこそ躁病の気があるとさえ思えるほどに――声は成りを潜め、今有るのは只事実を問い質すかのような徹底的に無機質な声。
『ええ。概ね、というかほぼ全ての原因はレミィよ』
流石と言うべきか、そんなフランドールを相手にしてもやはりパチュリーは表情1つ変えなかった。
ただし冷や汗だらだらだったが。
「とぉぉぉってもステキなお姉さま?」
とても最愛の妹にとても美しい笑顔を向けられたレミリアだったが、今回ばかりは全然嬉しくなかった。
それでも無言の圧力がこの場からの逃亡を許さない。
「な、なにかしら、フラン?」
次の瞬間、フランドールは有史以来使用されてきたありとあらゆる美辞麗句を並べ立て始めた。
その自分の口から出た言葉がよほど不快だったのか、フランドールは眉を思い切りしかめながら、吐き捨てるかのように告げた。
「心から愛するお姉さま。私達姉妹の絆は永遠ですわ。それこそ世界が終わるまで。それではまたお会いしましょう」
フランドールの最後の言葉の意味を理解した咲夜達は、その表情を青くした。
普段のこどもっぽい口調ではなくお嬢様口調。それが彼女の怒りの度合いを謳っている。
そしてそれだけいうと彼女は身を翻し夜の闇へと飛び出していった。
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……門番もついでに吹っ飛ばして。
『妹様、お待ちください!!』
その光景を見た咲夜はみょんな動きと共にフランドールを追おうとしたが……
「むきゅ~」
『――ってお、お嬢様ぁぁぁ!!しっかりしてください!傷は浅いです!』
パチュリーはそんなレミリアを自業自得とはいえ流石に憐れに思ったが、それでもとりあえずこれだけはいっておかねばならない。
『私の決め台詞勝手に使わないでー』
……決め台詞だったんですか
ここは悪魔の住む館、紅魔館の中にある薄暗い大図書館。
その主であるパチュリーは機嫌悪そうに、筆談のために用意した画用紙を掲げている。
ちなみに字は紫だ。
『だ、だから悪かったってば』
同じように画用紙を掲げているレミリア。無論こちらの字は真っ赤である。
『あの……?結局今私達の身に何が起こっているんですか?』
そこに小悪魔が2人の言い争い(?)に割って入ってきた。
どうやら小悪魔は事態を掴めてはいないようである。
そんな自分の従者に溜息を吐くとパチュリーは面倒くさそうに説明を始める。
『事の起こりは、とある薬が食事に混入されてしまったことなの』
『その効果というのが問題で』
『私達はこのままでは一生、口にする言葉が全て本音と逆の言葉になるのよ』
……奇妙な沈黙が訪れた。
『何故、またそのようなしょうも無い薬を……よほどの暇人なのですか?』
咲夜は謎のボディランゲージで尋ねる。
最早ボディランゲージの域を超えている気もするが、何故かこれで伝わっているので皆、「アリだな」と気にしていない。
『それはわからないけれど、これを紅魔館に持ち込んだ犯人はわかっているわ』
それだけ書くと、パチュリーは半眼でじろりとレミリアを睨みつける。
『それで……どういうわけでこんなややこしいものを使おうとしたのかしら?』
遡る事昨日の夜、レミリアは自室でとある人物への悩みに思いをはせていた。
彼女の悩みは大抵、というか九割九分九厘が妹のフランドール関係の悩みなのだが、今回は珍しく別の人間がその対象だった。
かなり稀有な例である。
「……はぁ」
彼女の目下の悩み事とは黒白魔法使いこと霧雨魔理沙に関することである。まあ結局のところはそれもフランドール、そしてほんのおまけにパチュリーに関わっているのだが。
「うううううう~~~~ふ~ら~ん~私の可愛いふ~ら~ん~~~れみふらこそがじゃすてぃす~~」
なにやら禁断の暗黒舞踊っぽい動きで妹を想う歌を歌うレミリア。
何かを決定的に間違っている。
駄目だ。こいつはレミリアじゃない。
「はっ!?今気づいた。リバもアリだ!!」
……じゃあ何だろうと聞かれても困るが。
「だというのに!!」
しかし突如、アホな踊りを踊っていたレミリアの身体から魔力が溢れ出す。
瘴気と見紛う魔力が世界を紅く染める。
スカーレットデヴィルに相応しい世界へと塗り替えるように。
恐らくこの少女の前では、神さえも絶対者を相手にしたかのごとく膝を折るであろう――悪魔の館の頂点がそこにはいた。
「あの白黒が来てからというもののフランとめっちゃついでにパチュ……はどうでもいいんだけど!!この私から奪い去りやがった!!FUCK!!!盗むのは本だけにしとけやぁ!!盗みはイケナイと思いますjk!!」
そして凄く駄目なことを言い出した。
「何故なの!?奴は魔法使いを名乗る資格は無い!フラグ王を名乗るべきだ!何故それが分からない!?あいつ、いずれ魔理沙氏ね弾幕で刺されるべきだ!」
Nice boat『学園の日々』
「――みたいな感じのスペカで!!」
なんだろう、こいつ。
「そこでフラン奪還のために、永遠亭から強奪してきたこの薬の出番!」
盗みはイケナイと思いますjk。
「最後までGet Ba○kersかDrジャッ○ルに頼もうか迷ったけど、あの鼠を始末しフランを奪還するなら私の手直々にやっておきたいしね」
大分思考が最低人間、もとい吸血鬼になってきている。これがかりすまぶれいくというものか………れみ☆りあ☆う~を使わざるを得ない。
「確実に嫌われる薬と言っていたけれど、どんな効果なのかしら?まああの黒白からフランを奪還できるなら何でもいいけど」
これ系の台詞が完璧に失敗フラグということには気がついていないようだ。
ああ、もう駄目だ
そしてやっぱり駄目だった。
『……その後、レミィの多大な手違いでこの日の食事に薬が混入した、というわけね』
『あ、あれは妖精メイドのミスよ!』
『……調味料といっしょに粉末状の薬剤を置いとくのがあなたのミスじゃなくてなんなのよ!』
『カリスマとは意外性!!』
『ああああああああああああああアアアああああああアアアああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!腐りきっているとは言え、あなたと縁を持ったのが私の魔女生最大の失態よ!!!!』
『失敬な!!』
無言でぎゃあぎゃあと騒ぐ、という矛盾したことをしている二人を見て、咲夜と小悪魔は顔を見合わせ、そっと溜息を吐いた。
暫らく大騒ぎし、ようやく落ち着いたパチュリーは大至急今後の方針を練る事にした。
なぜなら――
『……拙いわね。いくらか試してみたけど、本当に全ての言葉が本心と真逆に置き換えられてる。つまり……私達はある意味では嘘がつけなくなったと言えるわね』
まあ本当に一切合財の言葉が本心とは真逆になっているのだ。それは逆の意味で読んでいけばその人物の本心が丸分かり、ということでもある。
『これは一刻も早くどうにかしたほうがいいわね。これじゃあ普段の生活にも支障をきたすわ。咲夜、紅魔館でまともなのはどのくらい残ってる?』
『軒並み全滅です。ただ、門番は先日魔理沙に突破されたお仕置きで、食事抜きだったので大丈夫だった様です』
『またなの?まあ、今は好都合ね。取り敢えず火急の仕事として、この薬の解毒剤を作れそうな相手をつれて来させなさい。そうね……魔理沙、アリス、永琳あたり……』
「おーーい!誰かいないのかーー」
『『『『きたーーーーー!!!』』』』
普段は騒々しくてはた迷惑だが、今回に限ってはグッドタイミングな来訪者である。
各々が文字や謎の動きで喜びをあらわにする。
「おいおい。どうしたんだよ、パチュリー?つーか皆、画用紙なんか持って絵でも描いてたのか?」
話しかけられたパチュリーは慌てて画用紙を取り出そうとして――画用紙がいつの間にかなくなっていることに気がついた。
(こ、小悪魔ぁぁぁぁぁ!!!)
画用紙は小悪魔の手の内だった。
何かを期待するかのようにこちらをニヤニヤと見つめている。
ヤバイ。このままでは自分の本音が駄々漏れだ。
(それが狙いかあぁぁぁぁぁ!!!!)
そんなパチュリーの様子を怪訝に思い尋ねてきた魔理沙。
パチュリーは咄嗟に言葉で応えてしまった。
「あなたには関係ないでしょ。何しに来たの?」
「パチュリーに会いに来た……「え?」なんてな」
「微塵も嬉しくないわね」
「そりゃ残念。少しは期待してくれたら嬉しかったんだけどな」
「しないわよ、そんなもの。それに貴方のこんな冗談なんていちいち気にするわけ無いでしょ」
2人のやり取りは文章にするならこんなものだが、パチュリーの内心など、その表情からして魔理沙以外にはバレバレである。
つまるところ、彼女の場合、薬があろうが無かろうが魔理沙に関してはまるで意味が無かった。
『つまりは滅茶苦茶嬉しくて期待もしたし、結構傷ついたってことで』「やだらっぱぁ~~!?」
悶絶する小悪魔。その鳩尾には分厚いグリモワールがめり込んでいた。というか突き刺さっていた。
「お、おいパチュリー!?」
「魔理沙、気にして」
「うん!そりゃするさ!ってなにしてんだよ、パチュリー!?」
『うぐぐ……それにしても本音の逆を口にしていると言うのに普段の会話とあまり変わらない』「あじゃぱ~~~!?」
今度は丁度、頭骨の関節に叩き込まれる。
『おおおおお!?』
悶絶し転げまわりながらも器用に画用紙に書き込む小悪魔。
そこまで痛がっているというのに、尚彼女は引かない、媚びない、省みない!
『い、いわゆるツンデ』「ぎゃぴり~~ん!!!!!?????」
『どうやら意味を成さない言葉には反応しないようね』
パチュリーは表情1つ変えずに画用紙を拾い上げた。というか今更だがさっきから皆、文章書くのが早すぎだと思う。
『さて、と気を取り直して――魔理沙、一つ頼みごとがあるのだけれど』
「お、おう。報酬は珍しい魔道書で手を打とう」
自分の使い魔を表情1つ崩さずに殲滅したパチュリーに、魔理沙は若干ビビり気味だったが、パチュリーはそんな彼女に構わずさっさと話を切り出した。
『……それじゃあ「あっ、魔理沙だ!!」妹様?』
――出そうとしたのだが、それを遮り響いてきた声。
その声の持ち主は1人しかいない。
部屋の空気が引き攣った。
そういえば――フランドールは現在、紅魔館が陥っている騒ぎを知っていただろうか?
『あ、妹様に確認を取るのを忘れてました』
瀟洒なメイドは若干不愉快になりそうな動きでそんなことをのたまった。
『をいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?』
『完璧で瀟洒返上せいやぁ!!』
そんな周囲の騒ぎも知らぬままに、フランドールはいつものような笑顔で魔理沙に飛びつこうとする。
「フ、フランお嬢様!!」
その事に気づいた咲夜が、慌ててフランドールを静止しようとしたが、時既に遅かった。
「魔理沙、一体何しに来たの?こっちは下らない遊びに付き合うつもりは無いんだからさっさと帰っ……て?」
自分の口から飛び出した言葉に、フランドールは満面の笑顔のままに硬直した。
いや、彼女を止めたのはそれ以上に――魔理沙の瞳から零れ落ちた雫。
フランドールのみならずその場にいた者たち全てが硬直した。
その涙を流させているのが自分の言葉だと分かり、フランドールは必死で取り繕おうとするが、喉に何かが絡みついたかのように言葉が出てこない。
「えっと……わ、悪い。ひょっとして今までも私、邪魔だったか?」
「すっごくね。正直早く消えて欲しかったんだけどね」
努めて明るく、しかし力なく呟いた魔理沙に、フランドールは必死で否定しようとした。
しかし彼女の口から飛び出る言葉は、その意に反し全てが肯定の言葉として飛び出してしまう。
もうフランドールの表情は今にも泣き出しそうだ。
「……今までごめんな。もうこないから」
その表情を怒っていると勘違いしたのだろう。
魔理沙はフランドールのほうを見ないようにして踵を返した。
「ふぅん?清々するね。壊されたくなかったらもう二度と友達面して来ないでよ!!」
遂には泣き出しながら零したその言葉には答えず、魔理沙は黙って立ち去った。
大図書館を痛々しい沈黙が包み込む。
『……どうするの、レミィ?これは流石にフォローできないわよ』
いつの間に書いたのか、パチュリーはいつもの無表情で、画用紙を掲げていた。
但し、額に青筋のようなものを浮かべているのは、レミリアの気のせいだろうか。
『だ、だってこんな状況になるなんて!』
『十分予想できたことでしょう?もっとも主演男優と主演女優は逆転していたでしょうけど』
『で、でもあの程度の悪口くらいで、いつも言われ慣れてた魔理沙が泣くと思ってなかったし……』
その文を読んだ瞬間、停止していたフランドールの脳がゆっくりと動き出し、程なくしてその意味を全身に浸透させた。
そして湧き上がる怒りがその痩躯を動かしだす。
「………今のって……」
普段の感情過多な――それこそ躁病の気があるとさえ思えるほどに――声は成りを潜め、今有るのは只事実を問い質すかのような徹底的に無機質な声。
『ええ。概ね、というかほぼ全ての原因はレミィよ』
流石と言うべきか、そんなフランドールを相手にしてもやはりパチュリーは表情1つ変えなかった。
ただし冷や汗だらだらだったが。
「とぉぉぉってもステキなお姉さま?」
とても最愛の妹にとても美しい笑顔を向けられたレミリアだったが、今回ばかりは全然嬉しくなかった。
それでも無言の圧力がこの場からの逃亡を許さない。
「な、なにかしら、フラン?」
次の瞬間、フランドールは有史以来使用されてきたありとあらゆる美辞麗句を並べ立て始めた。
その自分の口から出た言葉がよほど不快だったのか、フランドールは眉を思い切りしかめながら、吐き捨てるかのように告げた。
「心から愛するお姉さま。私達姉妹の絆は永遠ですわ。それこそ世界が終わるまで。それではまたお会いしましょう」
フランドールの最後の言葉の意味を理解した咲夜達は、その表情を青くした。
普段のこどもっぽい口調ではなくお嬢様口調。それが彼女の怒りの度合いを謳っている。
そしてそれだけいうと彼女は身を翻し夜の闇へと飛び出していった。
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……門番もついでに吹っ飛ばして。
『妹様、お待ちください!!』
その光景を見た咲夜はみょんな動きと共にフランドールを追おうとしたが……
「むきゅ~」
『――ってお、お嬢様ぁぁぁ!!しっかりしてください!傷は浅いです!』
パチュリーはそんなレミリアを自業自得とはいえ流石に憐れに思ったが、それでもとりあえずこれだけはいっておかねばならない。
『私の決め台詞勝手に使わないでー』
……決め台詞だったんですか
とか思って読み始めたら良作過ぎて噴きました。本音と逆転というロジックの切れ味が凄すぎです。そしてその切れ味を活かしすぎです。フランちゃん(と魔理沙も)可哀想過ぎるのに笑わずにはいられないこの俯瞰視点。ヤバい。
続き。続き。
その場合、シリアスものになりそうですが・・・
本気の悪口には耐性のない魔理沙可愛いよ
たった一行のフランの台詞がここまで美しい(ほめてない)とは。
どんな動きしてるんだw
リバもあり そのとーり