なんと言えばいいのか、それは目に見えない違和感があった。
「よう、霊夢、遊びに来たぜ」
言葉にするのはひどく難しい。なんとなく、そうなんとなく感じるものだった。
「しっかし、今日も暑いな、死にそうなくらい暑いぜ」
目に見えない違和感は確かにあった。
だが、そんなものよりもずっと大きな、目に見える違和感があった。
「黒っ! 今日は真っ黒じゃないのよ!!」
なんのことはない。いつものエプロンドレスは魔法薬をぶっかけてしまって汚してしまっただけのことみたいだった。
「白黒魔法使いが、ただの黒魔法使いね。なんというか、ブラック魔理沙?」
「なんで疑問形なんだよ」
「ブラック魔理沙って、なんか偽物みたいね」
「そうそう、明らかに黒いのに、みんな何故か気がつかないんだよな」
目に見えない違和感を感じたはずだったのだが、目に見える違和感に引っ張られただけだったのだろうか、明らかに魔理沙は魔理沙だった。
「まあ、そんだけ黒かったら、暑いでしょうね」
「黒い黒いって、しつこいぜ」
ネタを引っ張られすぎたのが気に入らない様で、魔理沙が不満そうな顔をする。
「まあまあ、それで、今日は何の用?」
「暇だったからな」
普通はもうちょっと言いようがあるのだが、魔理沙なのだからしょうがないというものだろう。
「別に暇をつぶすようなものなんてないわよ」
「ああ、それはわかってるぜ。あれだ、自分よりも暇そうな奴を見に来たんだ」
「それはまた、暇なことね」
「ああ、暇なんだぜ」
端から聞くとまったく意味のないやりとりだが、これがいつものやりとりといえばいつものやりとりであり、二人ともそれなりに気に入っているからいつもやっている。
「暇なのはいいことよ、お茶はおいしいし、のんびりできるし、お茶はおいしいし」
やることはそれだけしかないのか、それとも大事なことだからなのか、二回言った。
「まあ、暇なのは悪くない。ただ、退屈なのは困るぜ」
「そう?」
「ああ、退屈は退屈だぜ、退屈で退屈で、死にそうだぜ」
いろんな理由で、死にそうになっているようだ。
「大丈夫よ、暑さはともかく、退屈で死んだ奴はいないわ」
「じゃあ、その最初の人間になるくらい、退屈で死にそうだぜ」
「だったら、私はその最初の人間を見る最初の人間になれるわね」
「ひどいぜー、霊夢ー」
こんな会話をしている二人だが、今日が特別暇で特別退屈だったわけではない。
大体はこんな会話をしながら退屈を紛らわし、暇をつぶしているのが日常だった。
「それで、今日はどんな話題で暇つぶしするのかしら?」
前振りは終わったとばかりに、霊夢がそう切り込んだ。
「うん、今日は面白くて、下らない話題はどうだ?」
面白いのに下らないとはこれいかに。
「どんな話題?」
魔理沙の口上に、霊夢が食いつく。
「たとえば話だぜ」
「たとえ話?」
あえてひっかけるような言い方をする魔理沙に、霊夢がきちんとひっかかってあげる。
「たとえばの話。もしも~とか、たとえば~っていう話だ」
「ふむ、なるほどね。確かに面白くて、下らない話ね」
たとえば~などというif話というのは、内容に責任を持つ必要がない分、盛り上がれて面白いものだ。また所詮は仮定の話である以上現実的ではなく、盛り上がれば盛り上がった分、下らないものだ。
「それで、お題は?」
「百…いや、五百年後の幻想郷はどうなっているか?っていうのはどうだ」
「ふーん、想像がつきそうで、どうなるかは予想もつかない、なかなか面白いお題ね」
「ああ、百年なら霊夢は生きてそうだが、五百年だったらさすがに生きていないだろうしな」
ひっひっひと魔女っぽく魔理沙が笑うが、そこにはいやらしさよりおかしさが多かった。
「あら、私限定? 魔理沙だって無理でしょう」
「いやー、私はわかんないぜ」
半分冗談でそして、半分本気で魔理沙が答えた。
「ん、なるほどね」
人間としてあるがままに寿命を全うする魔理沙というのは、かなり魔理沙らしい。
だが同じように、職業魔法使いから種族魔法使いになって、そういう人の道にあらがう魔理沙というのも、また魔理沙らしかった。
正反対の選択であるのに、どちらを選んでも”らしい”と感じさせるのが、魔理沙だった。
「なるほど、魔理沙はわかんないわね」
逆に、霊夢がそういう人の道にあらがう、天寿をごまかすというのはらしくない。
やろうと思えばどうとでもできるだろう霊夢だが、やろうと思うはずがないのが霊夢のはずだ。
それは”らしい”とか、”らしくない”とかいう以前の問題で、自他ともに認める霊夢像であり、そんなことをしたとしたなら、それは霊夢ではないだろう。
「なるほど、私は死んでるね、どっちにしろね」
死んでいるはずなのが霊夢であり、何かをして生き残ったとしても、それは霊夢ではないと自他共に考えるのであれば、霊夢は死んでいるのと同じことだった。
「…いや、霊夢もわかんないぜ。わかるはずないんだぜ」
帽子を目深に被りながら、魔理沙がそう訂正した。
「そう? なら、そうかもね」
魔理沙の訂正を、霊夢は特に否定することもなく受け入れた。
「で、五百年後の幻想郷なんだぜ」
湿っぽい空気をなかったことにしようと、魔理沙が話題を元にもどした。
「うーん、五百年後ねえ、知り合いに寿命の長い奴が多すぎるせいか、あんまり変わらない気もするわね」
霊夢の頭の中に浮かんだ知り合い達は、たかだか五百年ぽっちで変わるようなかわいげがあるようにはとても思えなかった。
「そうだよな、五百年なんて時間は、長いと感じる奴らには長すぎるし、短いと感じる奴らには短すぎるよな」
人間には長すぎて、変化云々以前に生きていられなく、妖怪には短すぎるというわけではないが、特に何かが変わるほどは長くないのが、五百年という時間ではないだろうか。
「それでも、気づかないくらいゆっくり、変わっていく、変わってしまう位は、長い時間だと思うんだ」
「そう言われると、そうかもね」
「昔からいる連中、千年を超える長い時を生きてきた連中にとっては、あまり変わらないかもしれない」
「うん」
霊夢は聞き役にまわるつもりか、相づちを打ちながらお茶を飲む。
「でも、若い奴ら、その長い寿命からすれば若い連中にとっては、変わるには十分な時間なんじゃないだろうか」
「紅魔館とか?」
霊夢の確認とも言える問いかけに、一瞬魔理沙が驚いたような顔をしてから頷く。
また違和感が首をもたげる。
八雲一家のマヨイガ、うさぎたちの永遠亭、神の住まう山、いずれも若いというには無理がある連中が多い。紅魔館が出てきたのは当たり前のただの消去法でしかない。
「そう、妖怪は千年を生きて、大妖怪となる。五百年後ってのは、そうなる確実な未来なんだ」
「なるほどね」
お茶を飲みながら、軽く相づちを打つ。
「なんか軽いな、霊夢」
霊夢の軽い相づちに不満そうに、魔理沙が話を止める。
「そう言われても、たとえば話でしょ、そんな重く話されてもね」
いつのまに用意したのか、せんべいをばりっとかじる。
「まあ、そうなんだけどさ」
まだ不満そうにしながらも、霊夢の言葉に納得する。
「なんか、後悔してるの?」
「え?」
「その五百年間のことでさ」
ずずーっと、お茶を飲む。
「…え? な、何言ってるんだぜ、霊夢、…突然さ、訳わかんないぜ」
わかりやすいくらいに動揺している魔理沙にあきれながら、霊夢はため息をついた。
「たとえば話よ」
「え、え?」
「たとえば、ここにいる真っ黒クロスケは、実は五百年後の幻想郷からやってきた魔理沙だとしたら」
「なんの…」
「このブラック魔理沙は、なんか五百年の研究の成果か何か知らないけど、時間移動が可能になったのでした」
反論するのも馬鹿らしくなったか、諦めたのか、魔理沙は黙って霊夢のたとえば話を聞く。
「なにか困ったことが起こったのか、後悔していることがあるのか、わざわざ時間を飛び越えてまで、この私に相談に来たのでした」
「そうなのか、相談に来たのか?」
話題になっているのは自分だというのに、魔理沙がそう聞いた。
「そうね、魔理沙もなんだかんだ言って、私と同じであまり友達とかいないやつだからね」
くっくっくと、楽しげに笑う。
「そんなこと…ないと思うぜ」
思い当たることがあるのかないのか、反論の言葉は尻すぼみだった。
「そのくせなんでも抱えて飛ぼうとするやつだし、悪いか悪くないかはともかく、ご苦労さんなことねって思うわ」
それも、勝手に持って行くものがほとんどだったりする。
「それで?」
「えっ?」
聞き手と語り手の攻守を入れ替えるように、霊夢が聞いた。
「アリスはどうしたの? パチュリーは?」
真剣な表情で、それでも視線は優しくて。
「……」
語る言葉を失った、いつもと違う内気な少女のような魔理沙にそっとうながす。
「たとえば話よ」
「…うん」
こくりと一つ頷いて、口を開く。
「パチュリーは大丈夫だって、きっとなんとかするって、私も手伝うって言ったんだけど、魔理沙は周りを押さえて欲しいって、そう言われて」
状況はわからない、場面もそれとなくしかわからない。
「それが最後だった、七日七晩降り続いた涙雨が、パチュリーが最後に残してくれたものだった」
苦しみと、悲しみと、後悔がにじんだ言葉が紡ぎ出される。
「アリスはここを出ようって、魔界にだったら道をつなげられるって、結界もじわじわと破壊されてて、ここはもうダメだって、そう言われて」
状況はそれとなくしかわからない、場面もおおまかにしかわからない。
「私は放っておけないって、このまま見捨てられないって、あいつだって本当はこんなことしたくないんだって、だって、泣いてたんだ、いやだって言ってた、助けてって泣いたんだ、魔理沙助けてって」
「うん」
「私がそう言ったから、アリスはわかったって、しょうがないから手伝うって、破壊に対抗するのは再生が一番だけど、創造でなんとかしてみようって」
状況はおおまかにつかめてきた、場面もだんだん見えてきた。
「嘘つきだ、ホントはわかってた、そんなもんじゃないってわかってたのに、死すら破壊した、再生の概念すら破壊した、完全に暴走したあの能力に、それで対抗できるはずないってわかってたのに」
説明する気はないだろう、ただその瞬間瞬間を思い出すように紡ぎ出される独白は、その悲痛さから様々な光景を映し出させた。
「創造で対抗するなんて嘘、何で気づかなかった! 嘘付け!! 気づいてたんだろう!! 気づかないふりなんてずるい真似するなよ!!!」
握りしめた拳から、血がにじみ出す。だが、それ以上にその独白からはダクダクと血が流れているようだった。
「破壊に対抗するには再生、だが、その再生の概念すら破壊するような破壊に対抗するには、そんなの、破壊しかないじゃないかよ」
状況はだんだんわかってきた、場面も手に取るように見えてきた。
「アリスの、人形すべての、そして自分自身すら使った自爆は、フランの右手を破壊しただけだった、爆発すら、破壊すら破壊したんだ」
フランドール=スカーレットの能力は確か、”ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”だったはずだ。それにしても、概念や破壊すら破壊というのはさすがに行き過ぎだろう。
「もう残っている有力な妖怪は少なくなったし、幻想郷もかなり壊れてきている、もう時間はあんまりないんだろうな」
その言葉には、後悔よりも決意のほうが強くしみこんでいた。
「だったら、このまま残ったら?」
「このまま、ここに?」
「そう、ここはなんだって受け入れる幻想郷。宇宙人、超能力者、異世界人、未来人、なんだってござれよ」
言葉の内容はお気楽だったが、視線にいたわるようなものが含まれていることに気づかない魔理沙ではなかった。
「後悔だってあるんでしょ、それをやり直すにも、ちょうどいいんじゃないの」
「ああ、それもいいな。うん、それもいいかもな」
霊夢の優しさを喜ぶように、魔理沙はにっこり笑って言った。
「でも、そんなものも、何もかもも、背負い込んだのは私なんだ。しんどかろーが、めんどかろーが、全部まとめて背負って飛ぶぜ」
「そう、まあ、がんばれ」
「ああ、またな」
乾杯をするように、二人は湯飲みをぶつけ合わせた。
「もう行くの?」
立ち上がった魔理沙に、霊夢が聞いた。
「ああ、十分暇もつぶれたしな」
「そう、お役に立ったのなら、素敵な賽銭箱は向こうにあるわよ」
「残念だぜ、この時代で使えるお金は持ってないんだ」
「ちぇっ」
別れの挨拶は互いに言わない。ただ笑顔で別れるだけだった。
「よう、霊夢、遊びに来たぜ」
言葉にするのはひどく難しい。なんとなく、そうなんとなく感じるものだった。
「しっかし、今日も暑いな、死にそうなくらい暑いぜ」
目に見えない違和感は確かにあった。
だが、そんなものよりもずっと大きな、目に見える違和感があった。
「黒っ! 今日は真っ黒じゃないのよ!!」
なんのことはない。いつものエプロンドレスは魔法薬をぶっかけてしまって汚してしまっただけのことみたいだった。
「白黒魔法使いが、ただの黒魔法使いね。なんというか、ブラック魔理沙?」
「なんで疑問形なんだよ」
「ブラック魔理沙って、なんか偽物みたいね」
「そうそう、明らかに黒いのに、みんな何故か気がつかないんだよな」
目に見えない違和感を感じたはずだったのだが、目に見える違和感に引っ張られただけだったのだろうか、明らかに魔理沙は魔理沙だった。
「まあ、そんだけ黒かったら、暑いでしょうね」
「黒い黒いって、しつこいぜ」
ネタを引っ張られすぎたのが気に入らない様で、魔理沙が不満そうな顔をする。
「まあまあ、それで、今日は何の用?」
「暇だったからな」
普通はもうちょっと言いようがあるのだが、魔理沙なのだからしょうがないというものだろう。
「別に暇をつぶすようなものなんてないわよ」
「ああ、それはわかってるぜ。あれだ、自分よりも暇そうな奴を見に来たんだ」
「それはまた、暇なことね」
「ああ、暇なんだぜ」
端から聞くとまったく意味のないやりとりだが、これがいつものやりとりといえばいつものやりとりであり、二人ともそれなりに気に入っているからいつもやっている。
「暇なのはいいことよ、お茶はおいしいし、のんびりできるし、お茶はおいしいし」
やることはそれだけしかないのか、それとも大事なことだからなのか、二回言った。
「まあ、暇なのは悪くない。ただ、退屈なのは困るぜ」
「そう?」
「ああ、退屈は退屈だぜ、退屈で退屈で、死にそうだぜ」
いろんな理由で、死にそうになっているようだ。
「大丈夫よ、暑さはともかく、退屈で死んだ奴はいないわ」
「じゃあ、その最初の人間になるくらい、退屈で死にそうだぜ」
「だったら、私はその最初の人間を見る最初の人間になれるわね」
「ひどいぜー、霊夢ー」
こんな会話をしている二人だが、今日が特別暇で特別退屈だったわけではない。
大体はこんな会話をしながら退屈を紛らわし、暇をつぶしているのが日常だった。
「それで、今日はどんな話題で暇つぶしするのかしら?」
前振りは終わったとばかりに、霊夢がそう切り込んだ。
「うん、今日は面白くて、下らない話題はどうだ?」
面白いのに下らないとはこれいかに。
「どんな話題?」
魔理沙の口上に、霊夢が食いつく。
「たとえば話だぜ」
「たとえ話?」
あえてひっかけるような言い方をする魔理沙に、霊夢がきちんとひっかかってあげる。
「たとえばの話。もしも~とか、たとえば~っていう話だ」
「ふむ、なるほどね。確かに面白くて、下らない話ね」
たとえば~などというif話というのは、内容に責任を持つ必要がない分、盛り上がれて面白いものだ。また所詮は仮定の話である以上現実的ではなく、盛り上がれば盛り上がった分、下らないものだ。
「それで、お題は?」
「百…いや、五百年後の幻想郷はどうなっているか?っていうのはどうだ」
「ふーん、想像がつきそうで、どうなるかは予想もつかない、なかなか面白いお題ね」
「ああ、百年なら霊夢は生きてそうだが、五百年だったらさすがに生きていないだろうしな」
ひっひっひと魔女っぽく魔理沙が笑うが、そこにはいやらしさよりおかしさが多かった。
「あら、私限定? 魔理沙だって無理でしょう」
「いやー、私はわかんないぜ」
半分冗談でそして、半分本気で魔理沙が答えた。
「ん、なるほどね」
人間としてあるがままに寿命を全うする魔理沙というのは、かなり魔理沙らしい。
だが同じように、職業魔法使いから種族魔法使いになって、そういう人の道にあらがう魔理沙というのも、また魔理沙らしかった。
正反対の選択であるのに、どちらを選んでも”らしい”と感じさせるのが、魔理沙だった。
「なるほど、魔理沙はわかんないわね」
逆に、霊夢がそういう人の道にあらがう、天寿をごまかすというのはらしくない。
やろうと思えばどうとでもできるだろう霊夢だが、やろうと思うはずがないのが霊夢のはずだ。
それは”らしい”とか、”らしくない”とかいう以前の問題で、自他ともに認める霊夢像であり、そんなことをしたとしたなら、それは霊夢ではないだろう。
「なるほど、私は死んでるね、どっちにしろね」
死んでいるはずなのが霊夢であり、何かをして生き残ったとしても、それは霊夢ではないと自他共に考えるのであれば、霊夢は死んでいるのと同じことだった。
「…いや、霊夢もわかんないぜ。わかるはずないんだぜ」
帽子を目深に被りながら、魔理沙がそう訂正した。
「そう? なら、そうかもね」
魔理沙の訂正を、霊夢は特に否定することもなく受け入れた。
「で、五百年後の幻想郷なんだぜ」
湿っぽい空気をなかったことにしようと、魔理沙が話題を元にもどした。
「うーん、五百年後ねえ、知り合いに寿命の長い奴が多すぎるせいか、あんまり変わらない気もするわね」
霊夢の頭の中に浮かんだ知り合い達は、たかだか五百年ぽっちで変わるようなかわいげがあるようにはとても思えなかった。
「そうだよな、五百年なんて時間は、長いと感じる奴らには長すぎるし、短いと感じる奴らには短すぎるよな」
人間には長すぎて、変化云々以前に生きていられなく、妖怪には短すぎるというわけではないが、特に何かが変わるほどは長くないのが、五百年という時間ではないだろうか。
「それでも、気づかないくらいゆっくり、変わっていく、変わってしまう位は、長い時間だと思うんだ」
「そう言われると、そうかもね」
「昔からいる連中、千年を超える長い時を生きてきた連中にとっては、あまり変わらないかもしれない」
「うん」
霊夢は聞き役にまわるつもりか、相づちを打ちながらお茶を飲む。
「でも、若い奴ら、その長い寿命からすれば若い連中にとっては、変わるには十分な時間なんじゃないだろうか」
「紅魔館とか?」
霊夢の確認とも言える問いかけに、一瞬魔理沙が驚いたような顔をしてから頷く。
また違和感が首をもたげる。
八雲一家のマヨイガ、うさぎたちの永遠亭、神の住まう山、いずれも若いというには無理がある連中が多い。紅魔館が出てきたのは当たり前のただの消去法でしかない。
「そう、妖怪は千年を生きて、大妖怪となる。五百年後ってのは、そうなる確実な未来なんだ」
「なるほどね」
お茶を飲みながら、軽く相づちを打つ。
「なんか軽いな、霊夢」
霊夢の軽い相づちに不満そうに、魔理沙が話を止める。
「そう言われても、たとえば話でしょ、そんな重く話されてもね」
いつのまに用意したのか、せんべいをばりっとかじる。
「まあ、そうなんだけどさ」
まだ不満そうにしながらも、霊夢の言葉に納得する。
「なんか、後悔してるの?」
「え?」
「その五百年間のことでさ」
ずずーっと、お茶を飲む。
「…え? な、何言ってるんだぜ、霊夢、…突然さ、訳わかんないぜ」
わかりやすいくらいに動揺している魔理沙にあきれながら、霊夢はため息をついた。
「たとえば話よ」
「え、え?」
「たとえば、ここにいる真っ黒クロスケは、実は五百年後の幻想郷からやってきた魔理沙だとしたら」
「なんの…」
「このブラック魔理沙は、なんか五百年の研究の成果か何か知らないけど、時間移動が可能になったのでした」
反論するのも馬鹿らしくなったか、諦めたのか、魔理沙は黙って霊夢のたとえば話を聞く。
「なにか困ったことが起こったのか、後悔していることがあるのか、わざわざ時間を飛び越えてまで、この私に相談に来たのでした」
「そうなのか、相談に来たのか?」
話題になっているのは自分だというのに、魔理沙がそう聞いた。
「そうね、魔理沙もなんだかんだ言って、私と同じであまり友達とかいないやつだからね」
くっくっくと、楽しげに笑う。
「そんなこと…ないと思うぜ」
思い当たることがあるのかないのか、反論の言葉は尻すぼみだった。
「そのくせなんでも抱えて飛ぼうとするやつだし、悪いか悪くないかはともかく、ご苦労さんなことねって思うわ」
それも、勝手に持って行くものがほとんどだったりする。
「それで?」
「えっ?」
聞き手と語り手の攻守を入れ替えるように、霊夢が聞いた。
「アリスはどうしたの? パチュリーは?」
真剣な表情で、それでも視線は優しくて。
「……」
語る言葉を失った、いつもと違う内気な少女のような魔理沙にそっとうながす。
「たとえば話よ」
「…うん」
こくりと一つ頷いて、口を開く。
「パチュリーは大丈夫だって、きっとなんとかするって、私も手伝うって言ったんだけど、魔理沙は周りを押さえて欲しいって、そう言われて」
状況はわからない、場面もそれとなくしかわからない。
「それが最後だった、七日七晩降り続いた涙雨が、パチュリーが最後に残してくれたものだった」
苦しみと、悲しみと、後悔がにじんだ言葉が紡ぎ出される。
「アリスはここを出ようって、魔界にだったら道をつなげられるって、結界もじわじわと破壊されてて、ここはもうダメだって、そう言われて」
状況はそれとなくしかわからない、場面もおおまかにしかわからない。
「私は放っておけないって、このまま見捨てられないって、あいつだって本当はこんなことしたくないんだって、だって、泣いてたんだ、いやだって言ってた、助けてって泣いたんだ、魔理沙助けてって」
「うん」
「私がそう言ったから、アリスはわかったって、しょうがないから手伝うって、破壊に対抗するのは再生が一番だけど、創造でなんとかしてみようって」
状況はおおまかにつかめてきた、場面もだんだん見えてきた。
「嘘つきだ、ホントはわかってた、そんなもんじゃないってわかってたのに、死すら破壊した、再生の概念すら破壊した、完全に暴走したあの能力に、それで対抗できるはずないってわかってたのに」
説明する気はないだろう、ただその瞬間瞬間を思い出すように紡ぎ出される独白は、その悲痛さから様々な光景を映し出させた。
「創造で対抗するなんて嘘、何で気づかなかった! 嘘付け!! 気づいてたんだろう!! 気づかないふりなんてずるい真似するなよ!!!」
握りしめた拳から、血がにじみ出す。だが、それ以上にその独白からはダクダクと血が流れているようだった。
「破壊に対抗するには再生、だが、その再生の概念すら破壊するような破壊に対抗するには、そんなの、破壊しかないじゃないかよ」
状況はだんだんわかってきた、場面も手に取るように見えてきた。
「アリスの、人形すべての、そして自分自身すら使った自爆は、フランの右手を破壊しただけだった、爆発すら、破壊すら破壊したんだ」
フランドール=スカーレットの能力は確か、”ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”だったはずだ。それにしても、概念や破壊すら破壊というのはさすがに行き過ぎだろう。
「もう残っている有力な妖怪は少なくなったし、幻想郷もかなり壊れてきている、もう時間はあんまりないんだろうな」
その言葉には、後悔よりも決意のほうが強くしみこんでいた。
「だったら、このまま残ったら?」
「このまま、ここに?」
「そう、ここはなんだって受け入れる幻想郷。宇宙人、超能力者、異世界人、未来人、なんだってござれよ」
言葉の内容はお気楽だったが、視線にいたわるようなものが含まれていることに気づかない魔理沙ではなかった。
「後悔だってあるんでしょ、それをやり直すにも、ちょうどいいんじゃないの」
「ああ、それもいいな。うん、それもいいかもな」
霊夢の優しさを喜ぶように、魔理沙はにっこり笑って言った。
「でも、そんなものも、何もかもも、背負い込んだのは私なんだ。しんどかろーが、めんどかろーが、全部まとめて背負って飛ぶぜ」
「そう、まあ、がんばれ」
「ああ、またな」
乾杯をするように、二人は湯飲みをぶつけ合わせた。
「もう行くの?」
立ち上がった魔理沙に、霊夢が聞いた。
「ああ、十分暇もつぶれたしな」
「そう、お役に立ったのなら、素敵な賽銭箱は向こうにあるわよ」
「残念だぜ、この時代で使えるお金は持ってないんだ」
「ちぇっ」
別れの挨拶は互いに言わない。ただ笑顔で別れるだけだった。
魔理沙はなにか大勝負をする覚悟で、その前にちょっとだけ霊夢に会いに来たのかな…とか。
ただ全身まっ黒になったのは500年分の垢が溜まったせいか…と一瞬思っちゃったのは謝るよ魔理沙。
この未来じゃれみりゃももういなくなってんだろな 切ねえ
フランドールの破壊の能力、それが五百年後には概念を破壊するレベルに達し、
魔理沙の魔法を使う能力も、最高位の魔法である時間遡行を行えるまでに成長したらしい
魔理沙は本当に帰れるんでしょうか・・・?
まぁ、能力が成長したならば話は別ですが。
でも、幻想郷の未来かぁ。自分は咲夜とか、霊夢が死んだ事ぐらいしかSSにしたことないや^^;
魔理沙はきっと500年後、光速を超えて飛べるようになったんですねぇ
そうだ!この魔理沙のことをタキオン魔理沙と呼ぶことにしよう!
それより五百年後の外の世界が気になる。なんか幻想郷を知りながらも不可侵でいそうだ。
元ネタあまり知らなくても、純粋に面白い内容ですね。
・・・・・フランは何とかなるかもしれんが、頼めるかぁ!!
ところで紫は?
現代魔理沙との絡みとかも見てみたかったかも
つっこみどころ満載のかなり実験的なSSでしたが、それなりに支持いただけたようでホッとしました。
こんな幻想郷はどう思いますか?という感じで、いろいろ夢想してみるのも面白いんじゃないかと思います。
>フランちゃん
なんかラスボス的扱いになっちゃいましたが、大好きですよー。自分の実力では会ったこと無いんですが(爆)
>DAZE!
いやー、これでも減らしたつもりだったんDAZE! まだ使いすぎてたようで、難しいんDAZE!w
>たとえば話
全部嘘んこでしたー、とかいう夢オチにも似たオチだったら、総叩きでしょうねw
あえて多く語らない事により読者に想像させる、それは結果的に読者を物語りに引きずり込む事に繋がりますからね。
次回作も期待しています。
上の方も言っていますが、こういう思わせぶりな話は掌編の醍醐味ですね。
魔理沙が最後まで未来から来たことを認めずに、お互いたとえば話という体裁を保ったまま別れてもよかったかな、とちょっとだけ思いました。
夢オチとかではなく、あくまでも曖昧なまま。