~神武暦2728年 首都京都~
あれからどんな生活を送っていたかといえば、八雲紫の懸念なんぞまったくもって無駄に終わるほど、緩やかなものであった。危なかった事といえば、スキマを潜った後スクランブル交差点に行き成り投げ出され、轢かれかけた事ぐらいだろう。それ以外はまったくもって平穏無事。あれから、外の世界で五年も経過している。新幻想郷で最後に体験した現代世界(グレゴリオ暦2008年 神武暦2668年)を模した物語の記憶を引き継いでの出所(言い方が悪いが)であった為、ある程度は外の知識をもって生活する事が叶った。勿論、五十五年ほど時代遅れの感覚ではあったが。
今といえば、自分とパチュリーは同じアパートの同じ部屋をシェア……なんてすることもなく、京都の郊外に放置された日本家屋を勝手に拝借して住まいにしている。家賃タダ。魔法で認識阻害をかけている為闖入者も皆無。庭付き一戸建ての生活は中々に快適であった。
自分達がまだ旧幻想郷に居た頃から、新幻想郷で生活していた間、五十五年。外では、大変な変革があったようだ。懸念されていた燃料危機、食糧危機、少子高齢化と社会不安による暴動、紛争。近隣諸国との小競り合い、新燃料メタンハイドレートの争奪戦……と、幻想郷にいたらまったく解らないような争いが、繰り広げられていたらしい。
日本といえばそんな暗黒時代を乗り切り、とうとう究極的な科学世紀に突入していた。戦争と新型インフルエンザの猛威のお陰で世界人口は激減し、日本もまた被害を被ったが、いざ団結の時となると、余計に強い人々だったらしい。食糧危機を合成食品という形で解決。自然エネルギーの最大効率化。政府改革は功を奏し……と、まるで、神様が手を加えたような、そんな奇跡が世界に満ちていた。月面エレベーターなんて冗談のようなものもあるらしい。
まあ勿論、そんな過去はこの霧雨魔理沙とパチュリー・ノーレッジには、大して関係のない事で、現時間に生活する上である程度必要な知識でしかない。もしくは、今二人の目の前で胡散臭い話を繰り広げているマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子が出生するまでの経緯でしかない。相変わらずの少子のお陰で、大学生というのは偉く重宝されているらしい。馬鹿みたいに数があった大学も減り、生徒数も数少なく、学生一人一人の水準が非常に高い。日々勉学に勤しむ仲間達を尻目に、コイツ等ときたら結界暴きなんぞを趣味にしている。
「そうそう、蓮子。見つかったんだって?」
「そうなのよ。とうとう見つけたわ。向こう側へいける場所を」
「……怪しいもんだぜ、なぁ、パチェ」
「そうね。考えるに、旧幻想郷は既に原生林と成り果てている。私達が調査した結果では、そうであるにも関わらず発見不能。数十年前に消失した諏訪湖は、元に戻ったんですって? そうなると目印もなくなる。空からでも見つけられていないわ」
「まあまあ。以前、デンデラノで私達が見た世界は、幻想郷というよりもむしろ、貴女達がいうように、彼岸に近い場所であったわ。では貴女達の言う博麗神社を探そうという話になったの。延喜式にも乗ってないし、相当小さい神社みたいだから、かなり手間取ったけど。結果は駄目だった。メリーもなんの反応もしめさない、ただの穴があいた場所だったわ」
二人に出会ったのは、大学の図書館であった。国立図書館並に品揃えが良いと聞き及んで、本好きの二人はすぐさま飛びついた。幸い一般公開されていたため、魔理沙が闖入する必要も無かったのはパチュリーもホッとしたところである。なにせ、この世界は幻想郷と違って、警察さんがいるのだ。魔法でなんとかなるといえば言えなくもないが、生活し難くなるのはカンベン願いたい。魔理沙としてはそんなもんどうでもいいのだが、パチュリーは変に規律を守りたがるのであった。
借りてくぜ、なんて事はせず、非常に快適な空間での読書は二人を図書館に入り浸らせる結果となる。埃っぽくなくて落ち着いた雰囲気は現代の至宝だとまでパチュリーは絶賛した。柳田國男、折口信夫、小泉八雲、宮沢賢治、水木しげる、等々、幻想郷ではお目にかかれなかった刺激的な書物が沢山あり、本来の目的を忘れるほど没頭する辺りが本読みの悪い癖である。
そんな二人に声をかけた人物が、マエリベリー・ハーンであった。この現代っぽくない空気を醸し出す不釣合いなコンビ。堆く詰まれた胡散臭い書物群。彼女のアンテナがびんびんきたとか、こないとか。
「そうか。紫は、完全に現世との接点を絶ちやがったのかもしれないな」
「噂によれば、博麗神社は幻想郷と外界を繋いでいた場所って話ね」
「そうだ。霊夢は、迷い込んだ外の人間を神社から返していたしな。しかし思うに、幻想郷っていうのはもっと曖昧な場所だったぜ」
「私の記憶によれば『どこから迷い込む』なんて決まりはなかった。外の世界でも空間が歪になった場所からポンと、迷い込んだ感じになるはず。何せ、携帯電話なんてもった若者が、長野や遠野の山奥にまで入らないでしょう?」
「確かに。遠野から彼岸ってのも、幻想郷にいた私達からすれば、物理的な距離がありすぎる。幻想郷に居た頃は、人里から箒で五分だ」
「ふふん。メリー、何か意見は」
「私は……蓮子に言われた通り、やっぱり結界というよりも、存在そのものがずれ捲くっているはずなの。貴女達はもう幻想郷は存在しないという。けれど、私はそこへ夢を通じて赴いているわ。私の潜る境界というのは……時間そのものを、飛んでいる」
「夢……か」
「夢……ね」
彼女達との出会いにより、二人の目的は格段に近づいた。未だ眠り続ける博麗霊夢と東風谷早苗を見つけ出す事。数度に渡って長野や遠野、八ヶ岳や富士など、噂される場所を探索したが、成果は得られていない。物理的に接触できるところにあるものだとばかり思っていただけに、流石の二人も狼狽していたのだ。もしかしたら、八雲紫は別の場所に二人を隠したのではないか。それが一番可能性として高かった。そうなると手も足も出せない、となっていたのだが、これは在る意味天啓であった。
「それで、お前が見つけたっていう場所は、どこにあるんだ」
「だから、夢の中よ」
三人は、デンパなことを言う宇佐見蓮子を可哀想な目で見つめる。さっそく、この人物との出会いが正しかったのかどうか危ぶまれた。
「蓮子……」
「ちょ、可哀想な人をみる目でみないで。私は正気よ。貴女達のいう八雲紫とメリーの類似性を考えてみて。そして現代でも神隠しという事象がどうあるのか。照らし合わせれば、自ずと答えは見える。魔理沙さんが八雲紫は物理的な接点を絶ったと断言するならば尚更だわ。だ、大体ね、魔女が二人いるのに、なんで私がそんなへんてこちゃんみたいに見られなきゃならないのよ!! 魔女よ!!??」
「ああ、悪かった、だから落ち着け、他のお客さんがみてるぜ」
「ふむ……なるほどね」
パチュリーは顎に手をあてて、思考をめぐらせている。魔理沙といえばそんな彼女をみて、また小難しい事考えて、どうせ何も浮かばないくせに、と突っ込みをいれる。真剣そうにして真剣じゃないのが、幻想郷人の悪い癖だ。だが。
「木を隠すなら森の中。夢を隠すなら夢の中。メリーが見る幻想郷の夢は……そうそう、自己を自己と認識できない輩が良く見るものよ。楽園幻想。自分がここに居て良いのかどうか、自分に自信がない人間が、ね。ここで言う夢というのは、脳が見せている睡眠中のものではなく、遠くを見るココロ。まあ、社会不適合者」
「ひどい」
「とはいうけど、蓮子の話では……一度、夢に取り込まれそうになったそうね」
「ぐっ……確かに、そう、ね。現実と幻想の境界が曖昧になった事はあるわ」
「八雲紫が獲物のしていたのは? 魔理沙」
「ココロココにあらず。自分が自分であると信じていない人間。つまり、想像力が自己に留まって思考停止に陥った、愚かモンだ」
「見えたかしら、答え」
「八雲紫は……博麗霊夢と東風谷早苗を、夢の中に隠している。夢現結界の狭間だわ。つまり、メリーさんが見ていたものは、そう、間違いなく、博麗霊夢の中で繰り広げられる、物語」
「やっと魔法使いの出番か。うずうずしてきたぜ」
魔理沙は、拳を握り締める。とうとう、出会えるのだ。あの憎たらしい顔に。自分に全てを預けやがった、大馬鹿女郎に。懐かしくてたまらない、唯一の友人。いいや、最初の友人に。
・
・
・
・
・
何もかも変わってしまった。懐かしむべき郷はなく。郷愁は虚しく消えて行く。ダムに沈んだ故郷を思う人間、他国になってしまって、帰ることが出来なくなった人間は、こんな気持ちであったのかもしれない。夜の空を駆ける幻想。美しく舞い散る桜の花びら。空に穿たれた、丸い月。終わりがこないと思っていた、楽園幻想。
そんな場所にいた人間は、しかし、もう今は現代人だった。博麗霊夢は、どうして、自分に託したのだろう。それだけが、霧雨魔理沙の悩みであった。アイツの笑顔は、変に無邪気でむかついた。アイツの怒りは、変に真剣でむかついた。アイツの泣き顔……なんてもんは、そう、最後しか見たことは無いが……あんまりにも、悲しいものであった。ただ、最後は笑ったはずだ。何もかも諦めて。道具になると知っていて、尚。反骨の自分には、理解し得ない感情を、彼女は持っていた。
楽園の巫女。永遠の処女。久遠を夢見た幻想人達の理想を叶えた、究極一の、からの箱。
「パチュリーさんは?」
「準備に取り掛かるってさ」
「なんだか、未だに信じられないのよ。幻想郷の存在も、貴女達も、メリーも。こんな科学世紀にあって、貴女達はみな前時代的。まるで時間を止められたみたいに。そういえば、パチュリーさんと貴女は、魔女といっても少し違うのよね」
「ああ。あれは種族魔女だ。私は人間。未だに不死になれない、半端モンだ。お陰で良い女になったぜ」
「ああ、否定しない。本当に美人だもの」
「はは、そうだろ」
「その口の悪さだけはいただけないけれどね」
「私がこの口調じゃなくなったら、私じゃないぜ」
宇佐見蓮子という大学生と、夜道を歩く。パチュリーとメリーは準備の為に魔理沙の自宅へ行き、此方の二人といえば、蓮子の申し出で街に繰り出していた。魔理沙としては……少しでも気を紛らわせたかった。これから赴く場所がどんな場所なのか。想像出来るが故に、恐ろしくある。一体霊夢が、本当はどうなっていしまっているのか、この眼で見なければならないと思うと、末恐ろしいのだ。
変な奴。でも、常に事件の中心にして。自分は奴の尻を追いかけるような真似ばかりしていた。幽香の言葉が思い出される。自分は脇役。博麗霊夢が動かねば、なんの変哲もないただの魔法使い見習い。半端モノも半端モノ。そんな自分が、息巻いて、出張って、我こそが主役だと宣言して。そうして、こうなった。
後悔はない。ただ、先が見えないのだ。
「色々、あって出てきたのよね、こちらに」
「話しただろう。まあ、理解できないだろうけど」
「終わりの見えた幻想郷を、完全なものにする為の、東方計画。幻想を詰め込んだ、二人の巫女。科学も及ばないわ」
「概念でしかない。我々が考えているだけの、物質でもなんでもないものを、あつかった結界なのさ。八雲紫って奴は、凄まじい。そして、やっぱり正しいんだと思う。でも、気に入らない。霊夢は……」
「こんな事いうのも変かもしれないけれど」
「なんだ?」
「好きなんでしょう。霊夢って人。良い人?」
「ばっ、ばっか言え。あんな奴、ホント、気持ち悪いだけだぜ。ただ、アイツの在り方が気に入らないから、頬の一つでもひっ叩こうと」
「パチュリーさんが可哀想ねぇ」
「……あいつは……どんな気持ちなんだろうな。自分で作った世界を私に否定されて。私に引きずり出されて。なあ、やっぱり、恨んでると思うか?」
「恨むでしょうね」
「恨むようなぁ。でも、アイツだって私のこと、ムリヤリ引きこんだんだ。おあいこだと思うんだがな」
「でも、私が観る限りでは。彼女、結構幸せそうよ」
「……そう、見えるか」
「ええ。へ、変な話だけれど。やっぱり彼女は、貴女が好きなんだと思うわ。貴女に憧憬を抱いている。色々、向こうでやりあったんでしょう。自分に無い物を持っている人っていうのは、憧れたり、するわ」
「お前もか?」
「……メリーは。特別なのよ。あんな風に自分を分析したつもりでいても、やっぱり違う所を観ているの。私じゃない。彼女は、幻想を観ている。自分がここにあるべきじゃないって、そう思っている節がある。そういう貴女こそ、こちら側よりむしろ、アチラ側を見ているんじゃないかしら。目的が目的だからかもしれないけれど」
そう言われて、反論に言いよどむ。蓮子は魔理沙をじっと見つめたまま答えを待っていたが、その内視線を離して空へと向ける。
「十八時五十六分。もう準備は済んでいるのかしら。というか私に相談なしってなによ」
「……私は……」
「うん?」
「いや……」
何を、見ていたんだろう。外に出てきた理由は? 言わずもがな、それは八雲紫の方針が気に入らなかったからだ。霊夢の中にいるなんて気持ち悪かったからだ。では、どうしてそう思った? その反骨はどこからきた? 霧雨魔理沙こそが正義であると信じ続けていたからこそだ。それは間違いが無い。ただ、そこには、起点となる部分がある筈だった。どのような経緯を経て、このような絶対自己至上主義者と成り果てたのだろうか。蓮子に問い掛けられて、初めて考えさせられる。
パチュリーは、自分をどのように見ているのだろうか。彼女はどのような思惑で、自分に付き従っていただろうか。もう五年になる。五年だ。幻想郷で一番動きが激しかった時期で換算すれば、相当な密度である筈なのに。ここの五年と来たら、まるで湯水の如し。そんなくだらない時間を、こんな勝手な人間と過ごす意味はどこにある?
自分の中に、自分の知らない何かを、見出しているのでは。それは、おごりだろうか。自信過剰だろうか。
パチュリーは、霧雨魔理沙が本当に望んでいるものを、知っているのでは。先の見えない未来を実とし。新しいビジョンを。
「……魔理沙さん、あれ、なにかしら……?」
「あ、なんだ?」
「ほら、そこの家の影に……あ、あ、え?」
「――なるほどね。障壁か。越えずばわからんと、そういうことかね」
宵闇に。ぐずぐずと、なにかが湧き上がる。周りの家々が突如消灯し、街灯が割れる。心配すべきは、霊夢のことだけではない。これだけ近づいてしまったのだ。八雲紫が最後の抵抗を見せても、おかしくはない。愛すべき巫女に、憎き相手を近づかせない為に。
「やあお嬢様方。夜道はあぶないぞ」
「……なに、え、妖怪……?」
「蓮子。走れ。家まで走れ」
「で、でも……貴女は」
「大丈夫だ。私は魔法使いだからな」
渦巻く風。一瞬の閃光とともに、彼女は黒白に変身する。魔法少女というには、少し年も厳しいが。けれどやはり、魔理沙は魔理沙であった。みなの愛する。皆が忌み嫌う。永遠の乙女だ。
「走れ!!! 蓮子!!!」
発言と同時にスペルカードをぶっ放す。スターダストレヴァリエは夜道に爆ぜ、魔理沙はそれを眼くらましに、空へと舞い上がった。
「おうおうおうおうおうおう!!! 久しぶりだな、八雲藍!!!」
「一応、紫様の演出どおりに登場したんだ。好きだろう」
「ああ、大好きだぜ。この科学世紀に、現代の空での弾幕戦たぁ小粋じゃないか!!」
「気に入ってもらえて何よりだ。死ねとは言わない。引き下がれ。さもなくば」
「解った。今日は狐鍋だ」
「黒白の漢方鍋だ」
人工の世界に弾幕が舞う。それを見上げた宇佐見蓮子は、心を震わせながら、恐怖心も微塵も無く。ただただ幻想に眼を奪われた。彼女達が歩んだ道。忘れ去られた人々の黄昏。虐げられた魍魎の宴。闇夜に咲く弾幕の花は、『世界』を支配した。
「私は至る!! 霊夢の元に!! 絶対だ、藍!!」
「さて、その意思は果して、自分のものか? どうしてそう望むのか。考えた事があるか? お前はお前という自信が、本当はないのだろう。散々紫様に吼えておいて、その困った顔はなんとも滑稽だ!!」
「やかましい、デバガメ狐!!」
木霊する声。八雲藍は、久しく忘れていた少女の雄たけびに、歓喜した。
・
・
・
・
・
「貴女を消極的に眠らせる方法は、と」
「あ、あるの?」
「魔女だもの。水の魔法の応用でいいかしら。量を間違えると死ぬけど」
「こわいわよっ」
「大丈夫よ。私、こうみえても百六十年くらい魔女だから」
「な、長生きなのね」
「さて、幾つか質問に答えてもらうわ」
「ええ」
自宅の寝室に敷かれた布団の上に、メリーが横たわる。向こう側に至るにはまず寝かせなければいけない。寝かせるといってもただ寝かせるだけでは意味が無い。彼女の夢に志向性を与え、幻想郷に至る道を開き、自分達が乗り込まねばならないのだ。並大抵ではないが、無理ではない。八雲紫ならば簡単になしてしまうであろう夢枕的飛躍は、実際のところ冗談みたいな話なのだ。こういうところで、自分のあの大妖怪の差を思い知らされる。
「貴女は境界を飛び越えられる」
「はい」
「貴女は幻想に興味がある」
「はい」
「むしろ幻想に住みたい」
「いいえ」
「自分はどちらかといえば向こうの存在に近い」
「わかりません」
「自分に自信がない」
「……はい」
「宇佐見蓮子が好きだ」
「ぶ」
「答えて」
「……と、友達として」
「はいかいいえで」
「はい」
「……微妙ねぇ」
「なにが?」
「貴女の精神の弱さだと、帰ってこれないわ。幻想は強力よ」
「うぐっ」
「難しいわねぇ……」
「……」
ここにきて、立ち止まるしかないのだろうか。一体どれほどまでに難しい確率で、こんな類稀なる人間に出会ったのか、その奇跡だけで運を全て使い果たしているようであった。
強烈な因果律で引き寄せられたような自分達。現代社会では超能力も一部は容認されているようだが、これほどまでに自分達にうってつけな人間に出会えることは、本当に稀有だろう。いざ、本番となった頃にこれでは、意味が無いのだが。無理に施術する事も出来よう。出来ようが、それでは今まで協力してくれた恩に報えない。その昔ならば若気の至りでコロッと人をぶっ殺したかもしれないが、こうまで落ち着いてしまうと罪悪感もある。
そもそもが、自分達のエゴ。これにムリヤリつき合わせるような真似を、してよいものなのだろうか。巡り合わせというではないか。さて、では魔理沙ならばどうだろうか。あれは自分勝手だが、人間にそのような行ないは出来まい。
「構わないわ。貴女達は、向こうへいかなきゃならないのよね」
「そうね。でも、無理は駄目だわ」
「無理じゃないかもしれないわ。境界を飛び越えるのは、なれているみたいだし」
「私と魔理沙という異物が加わるわ。そこに安全性はない。するなら完璧。戻ってこれなくなったら、ご両親も蓮子も悲しむわ」
「けれど、少なくとも魔理沙さんは、その霊夢って人に出会って、何かしなきゃならないのでしょう」
「……どうなのかしらね。私も、良く解らないわ。幾ら魔理沙が傍若無人でも……まさか霊夢を起したりはしないだろうし。区切をつけたいだけなのかもしれないわ。挨拶も無しに取り込まれ、挨拶も無しに出て行ってしまったから」
「魔理沙さんは、霊夢って人が好きなのね。でなきゃ、ここまでしようとしたり、しないでしょう」
「どういうことかしら」
「だって、魔理沙さんにとっての楽園っていうのは、霊夢さんが居たからこそだったんじゃないの? 魔理沙さんは直接口にしたりはしないけれど、霊夢が霊夢がって、良く言っていたじゃない」
「……まさか、あの子」
自分は……どう、すればいいだろうか。メリーの言葉は、核心を得ているように思える。霧雨魔理沙にとって、幻想郷というのは、まさに博麗霊夢の事だったとしたら。そうなれば、つまり霧雨魔理沙は、まだ夢の中に居る事になる。あれは、やはり現実なんて眼中にない。外に出てきたのだって、自由を得たいからじゃない。幻想郷に戻りたいから、博麗霊夢を取り戻したいから……だと、だとすれば。
あいつの言葉なんていうのは、全部嘘なのだ。自分を認識する事が自分であるなんて。大法螺もいいところ。魔理沙は、自分の在り所を、博麗霊夢に求めている。
「……彼女達、遅いわね」
これは裏切りなのだろうか。彼女は、今度こそ自分に期待したのでは、なかったのか? 『現実を見据えたからこそ、自分を外に連れ出した』のでは、ないのか。
「あんの……あんの……あんの――大馬鹿女郎……!! げっほ……」
「ど、どうしたの突然大きな声だして」
「あったま来たわ!! メリー。ちょっと死ぬかもしれないけれど寝てくれる?」
「え、ええ!?」
ぐいぐいと布団に押し倒す。馬乗りになって呪文を唱えようとしたところに、宇佐見蓮子は飛び込んできた。
「――パチュリーさん!! って、なにやってるの!? 寝るってそういうこと!? め、メリーの馬鹿!!」
「ち、違うわよ!! パチュリーさん、降りて、降りて」
「とと、取り乱したわ。それで、蓮子、どうしたの」
「え、あ、ああ。その、魔理沙さんが、尻尾のバケモノみたいなのに、襲われて――」
「――なるほど。障壁か」
さて、幾つめの障壁だっただろうか。霧雨魔理沙。スカーレット姉妹。東風谷早苗。博麗霊夢。八雲紫。そして今回。何かを成そうとして、現れる世界の壁。越えなければ至れない、向こう側。笑えて来るではないか。まるで全てが必然だ。まるで自分達がコマだ。いい加減にして頂きたいものである。現実にやってきて尚夢を見せられるなど、やめてもらいたい。コレも何もかも、あれのお陰だ。霧雨魔理沙。あいつがいつまでもいつまでも、幻想に拘るから、終わってしまった夢に拘るから、残滓を引き摺る、異能をひきつける。
だったらもう断ち切ってやらねば。お前という奴が、一体何を外に連れ出したのか。知らしめてやらねばならない。
こんなにも頭に来ているのに。ほら、どうだ。この笑顔。もう未来が、手にとるように判る。ああそうだ。そうであった。ここで暫く現を抜かしていて、すっかり忘れていた。自分はそう、悪い悪い、魔女なのだ。
「八雲藍。これがいるなら、別にメリーを解さずとも良いわ。ぶん殴って、境界を開かせるまで。むしろ、相手だってそれを承知かもね。八雲紫がどんな思惑でいるかしらないけれど」
「う、うん?」
「わからなくていいわ。ともかく、これで貴女達を危険に晒す必要がなくなる。そもそもね、これは全て私と魔理沙のエゴだから」
さあ行かねば。可愛いあいつを助けてやらねば。現実の見えていない小娘に、現実の素晴らしさと尊さを、叩き込んでやる。
これはエゴ。魔女の夢の終焉を。境界の見た理想を。この眼で見届けねばならない。
そして、示してやらねば。本当に霧雨魔理沙が望んだものを。
・
・
・
・
・
「現実に居すぎて、腕が鈍ったのではないか、霧雨魔理沙。なんだそのへにょ弾は。幻想郷でのお前はもっと切れがあっただろう。それとも何かかい。博麗霊夢がいなきゃ、力が出ないのか。幻想郷でなきゃ弾幕ごっこも出来ないのか」
「や、やかましいっ!!」
全力で放っているはずの弾が、藍の横を素通りして行く。全身全霊を込めての一撃も、まるですらすらとかわされる。境界を抜けたり潜ったり、明らかに、彼女が八雲紫の式神としてこの場に立っている事は間違いない。彼女は、そう。八雲紫の式の下で動いている。春雪異変の時のような、独断専行ではないのだ。魔理沙とて弁えていたが、まさかこれほどに力の差が現れるとは。
新幻想郷では八雲紫も打ち破れた。だが、それは博麗霊夢の敷いた設定の上での話。あの神様みたいなバケモノに、人間が勝とうというのが、そもそもの理不尽。
「さあこい。私を超えねば霊夢には至れない。お前がお前の先に行く事もできない。見果てぬ現の先にある幻想は、さぞかし甘美だろうぞ。物語にたゆたう博麗霊夢は、お前の記憶と違わぬ美しさでそこにあるぞ。ほらほら、鬼さんこちらだ」
「ぐっ……ぬぅぅぅッ」
箒の上に立ち上がり、構える。使い魔を放って相手の背に配置。藍は笑ったまま空を泳いでいる。調子をくれやがって。
「背中にひきつけておいてそのまま上空にあがり、なんだ、ドラゴンメテオでもする気かい。そんな事をしたら、人家が吹っ飛ぶぞ。マスタースパークもやめた方が良い。あまり目立つと、自衛軍を呼ばれるぞ。情勢が落ち着いているからといって、皆馬鹿ではない。なんだ、それとも戦闘機とやりあいたいのか。ここは現実だ。幻想じゃあない。お前はそんな不自由な世界に身を置いているんだ。気がつけ」
眼下に広がる無数の光。幻想郷では心配しようのなかった、人間の命がそこにある。悔しさのあまり拳を握り締める。最大の魔法が使えないのでは、この境界の魔の式には太刀打ち出来ないではないか。
「ええい猪口才な……しからば!!」
なんぞと口を叩いて箒に跨ると、読んで字の如しと猪突猛進する。八卦炉をブースト代わりに置き、リフレクターの出力をあげたまま藍目指して捻りを入れる。当たるか当たらないかは問題ではない。近づけるか近づけないかだ。
「どおぉぉぉりゃああぁぁッ!!!」
「本当のイノシシ魔法使いだ」
不意に開く、目の前の境界。気がついた頃には、先ほど居た地点から更に離れていた。
「むっかぁぁっ!! 頭にくるぜ、ちったぁマシな弾幕戦しやがれっ」
「突っ込むのが弾幕なら、別にそうしてもいいが」
とのたまうと、藍は一端前傾姿勢をとり、大きく尻尾を振ると、まるで先ほどの自分のように、今度はたて回転で突っ込んでくる。余計な助言である。何度となく紫戦で見たものを再現させてどうするというのだ。
「あぶっ、お、あ、ひっ、こら、あぶねっ」
「避けていてもー、勝てんぞー」
「だからって当たれるか!!」
スキマを利用している為、全く行動でのディレイがない。右に抜けたかと思えば左から現れ、上に抜けたかと思えば下から現れる。ならば致し方ない。出てくる場所も定まらないならば、では全体に攻撃するまで。
「恋符!! ノンディレクショナルレーザーッ」
「出力を抑えないと……」
「ぐっ……」
地上が近すぎる。四方八方を魔法でぶち抜くのだから、これが下に届けば大惨事だ。とはいえ、今は凌ぐ術がこれしかない。なので、出力を抑えて小分けにして放つ。これではまるで切り分けたケーキではないかと、頭を悩ませる。
「いいかげんに……」
「いいかげんにしなさいっ!!」
「あだっ」
もうカンベンならぬと、ブースターにしていた八卦炉を手にとったところで、パチュリーの蹴りが魔理沙の頭を捕らえた。此方は思い切りノックバックで仰け反っているというのに、パチュリーは華麗に空中で制止する。八雲藍といえば、それを予測していたようにして飛びのき、二十メートルほど距離を保った地点で制止した。
「あーあ。力馬鹿に技術というものを叩き込んでいたのに。余計な頭脳が現れた」
「ふン。狐が。何もかも知っていてそう言う素振りなのね。いらつくわ」
「パチュリーお前な……あたた……メリー達はどうした」
「夢見に入り込むより、コイツを叩いて境界を潜った方が安全だって結論に達したのよ」
「なるほど、お前頭いいな……」
「ほら、霧雨魔理沙。愛しい友人が現れたぞ。お前が乗り換えた相手だ。少しは元気になるだろう。博麗霊夢ほどじゃないかもしれないが。精一杯頑張ってみたらどうだ。霊夢と一緒に居るときのお前は輝いていたぞ。だのに、パチュリー・ノーレッジの前ではさほどでもないのか? ねえ浮気もの」
「お、お前……!!」
「まぁりさぁ……一々怒らないの。だからパワー馬鹿なのよ。本当に強い奴には、力だけじゃ勝てないわ。大体ね、本領も封じられたままで戦えるわけないでしょう」
「け、けどじゃあどうすりゃいいんだ。このままじゃマスパも打てないぜ」
「打てるような環境を作ればいいでしょう」
「しまった、見抜かれたか」
藍はケタケタと笑う。大変いけ好かなく、魔理沙としては今にでもぶちのめしてやりたいのだが、パチュリーの本心は違うらしい。藍を見据えたまま、奴の腹を探るようにしている。
「……ねえ、八雲藍さん。何故今になって現れたの。このタイミングは出来すぎよね」
「ほうほう。流石は百六十年の魔女。よくわかってらっしゃる。問われたのならば答えねば。師曰く、絶望は絶好の機会に与えるべし」
「ああ、私達が至りそうになったら、抑止力として登場しろと命を受けていたのね」
「お前達が何処にいるかなんてまる解りだからな。紫様は、お前達を……おっと、喋りすぎだ」
「ならば問うわ。紫さんが、なんだって?」
「問われたならば答えねばならぬ。紫様はお前達を消したいんだ。夢からも。現からも」
「ふん。常々狐ね。彼女は助けてもらいたいのよ。不安から、解き放ってもらいたいのよ。でなきゃあね、破られる為にあるような障壁が、わざわざ私達の前に、現れたりはしないっ」
「頭の良い奴は付き合いにくい」
紫色が天を指差す。彼女を中心とした場所が薄い幕に覆われて行く。これが水の精霊である所までは理解したが、それに何の意味があるのか、魔理沙は理解不能だ。勉強はしているつもりだが、どうにもこうにも時間がコイツには及んでいない。
「防護幕よ。下には認識阻害をかけてきた。初歩の初歩すら忘れたの、魔理沙」
「さ、流石にこれは恥かしいぜ。むきになってた」
「……防護幕なんて敷くのは良いが、果して私に攻撃があたるのかな? さて。私に攻撃を当てたとして、そしてどうする。私が素直に博麗霊夢の元へ誘うとでも思うか? さらにさらに言えば。お前達は博麗霊夢にあってどうするつもりだ? お前達はもう幻想を捨てた身。では希望はこの世界にある筈であろう。そう、希望だ。お前達はこの世界に希望を追い求めなければいけない。なのにお前達ときたら、いつまでも夢を追いかけている。その先には何がある? 終わった世界に希望はないぞ?」
「む、ぐっ……」
「魔理沙。耳を貸しちゃ駄目よ。藍さんは貴女の弱点を解ってる」
「じゃ、弱点って……」
「サァサァ攻めてこい。今宵はまだまだ時間がある。たっぷり遊んでやらんこともない」
「魔理沙」
「なんだ」
「さがってなさい。私が道を開く」
そういって、パチュリーは藍の正面に立ちふさがる。その背中が、妙に大きく見えたのは何かの錯覚だろうか。今となっては自分よりも小さい彼女。だというのに、魔理沙の目には酷く頼もしく見えた。
「霊夢霊夢って、随分と魔理沙を揺さぶるわね」
「むむ……」
「何を問いたいかなんて、魔理沙は兎も角私には見え見えよ。狐が浅知恵使うんじゃないわ」
「ほう。愚弄する気か。愚弄されたならば、戦わねばならないわーね」
「あら、案外簡単に乗るのね、狐さん」
パチュリーの周りに湧出する魔術要素。この幻想を失って久しい土地でなお振るえるその力。どんどんと、自分がちっぽけに見えてしまう。火が舞い、水が飛び、土が荒れ狂う。木の葉が散ったかとおもえば、月明りが夜空を照らし、隠れていた日の光も眼を醒ます。彼女の瞳は輝いていた。
埃っぽい図書館で、一人本を読む少女がいた。びっくりするほど大きな本棚に囲まれて。確かに本は自分も好きだった。でも、こんな場所で閉じ篭っているラクトガールになんて憧れなかった。最初の印象は引きこもり。次の印象は知識馬鹿。最後の印象は、憎悪であった。
夢も希望もありゃしない。そこに世界は開けない。始まりと終わりが、あの図書館には同居していた。最初から始っていて、最初から終わっている。たびたび訪れるあの場所は、閉鎖的で、薄気味悪くて、一緒にお茶なんて飲んでやる気にもなれなかった。
夢も希望も、ありゃしない。絶対の保守的継続しかないあの場所は、霧雨魔理沙の望む場所ではなかったから。空を自由に飛んで。暴れたいだけ暴れて。奪うだけ奪って。そうして自分を示す事が、アノ場所での霧雨魔理沙だった。
「は、はは。なんだか知らないが、やけに強い」
「はは。だって今日は絶好調。こんなにも月が綺麗だもの」
夢も希望も。はて。自分と言う奴は、パチュリー・ノーレッジに対して、そんな問いをしただろうか。彼女の何か一つでも、汲み取ってやった事はあっただろうか。首を傾げ、ぐるりと回し。いいや、ないと頷く。
解るはずなんてないのだ。聞きもしなかったのだから。彼女の語る理想なんてものを、耳にした覚えが無い。だが、そう。彼女は最後に、態度で示した。己が何をしたいのか。己が創りたいものは、なんなのかと。ボコボコにされて。此方の夢も希望も全部打ち砕かれた。自分こそが正義で。自分の思う事こそが最善で。そう頑なに考えていたし、磐石であると信じていた基盤。
それは結局……自分なんかではなかったのだ。だから負けた。あたりまえだ。もっとも望むべき事柄を追い求める少女に、この世はどのような理とて、勝てるはずがない。夢見る乙女は、最強無敵だ。半端な霧雨魔理沙が、太刀打ちできる相手じゃあない。
「それに、意外とね」
「な――なんだ」
「護るモノがあるって、燃えるのよ――火水木金土符」
「ああこりゃ、参った」
「示さなきゃいけない道があるのよ!! 希望があるのよ!! 開きなさい、博麗霊夢への境界を!!」
賢者の『意思』強固なる思い。零を百にする第一種永久機関。そうだ。ならば敵うはずがない。
パチュリー・ノーレッジは、自分の知らない未来を知るものだから。
「完敗だぜ。お前にゃ」
「当っ然!! ……げっほげほげほげほげほげほっ」
「ぱ、パチェー!」
「ああもう、なんだかなぁ、お前等は……かなわないなぁー……」
眩いばかりの笑顔が、魔理沙に向けられる。彼女は、こんなにも美しい笑顔を持っているなどと、魔理沙ははじめて知った。
~最終幻想~
案の定、だ。霧雨魔理沙が外に出れば、かならず博麗霊夢と東風谷早苗を探し出そうとする。霧雨魔理沙を新幻想郷に渋々ながらも受け入れたのは、そこに理由がある。でもなかったら、あんな反発と反抗の象徴のような奴を、選りすぐる訳もない。細心の注意を払って扱っていたつもりだ。阿求、永琳他にも言い聞かせていたし、守らせていたつもりだ。今回の失敗は、原因でいえば阿求だが、パチュリーの心変わりと、そして博麗霊夢の自我に問題があった。
パチュリーが幾度か、霧雨魔理沙を外に出そうと画策した事がある。具体的にいえば、アレの行動を外に向ける等の、幻想郷外の物語を展開させようとした。ただそれではまったくもって意味がなかったし、紫自身が抑止力として動けは他愛ないものであった。そもそも、霧雨魔理沙は外に興味などない。そんな人間の思考を外に向けるだけで設定が崩壊したりは、しないのだ。
だが、だ。興味を幻想郷に向ける、というのは、自分でも考えなかったものだ。何せ、大概の物語が、幻想郷に居る事が前提である。幻想郷にいて幻想郷に興味を持つ話なんていうのは、起源を根掘り葉掘り探るようなものと、深い歴史を持った人物達の物語を創り上げる場合だろう。もちろん、幻想郷での行動であるから『幻想郷に帰りたい』なんて妄想は、抱くはずが無い。
『舞台が外』『妖怪』『パチュリー』『霊夢』『異界』こんな組み合わせが、新しい可能性を創り上げてしまった。阿求を責めたところで意味はないだろう。彼女とて、楽園に暮らす住人たちを一番に考え、そして新しい話を展開しようと躍起だったのだ。自分もそれを容認した時点で、必然だったのかもしれない。霊夢が友人である魔理沙を、大切に思っていると、知っていながらの容認である。
(……案の定、案の定、ね。幻想が外に漏れれば、幻想に近しい者が寄る。これから幻想になるものも、ただ朽ちるだけだというのに)
霧雨魔理沙、パチュリー・ノーレッジという、現代の異物。霧雨魔理沙の幻想に対する執着心と、境界を探る者達の思惑。どれだけ八雲紫が否定しようとも、結局は避けようの無い『霧雨魔理沙の物語』全てを必然とする凶悪なまでの強制力……。
そして自分はそれを拒む為に、抑止力を用意する。彼女の周辺は、博麗霊夢の中身と対して変わらない。”リアルファンタズム”という、偶然と必然の矛盾邂逅。幻想を求める力が、ここまで強いとは……常識と非常識を別つ己とて、想像だにしなかった。
(よぉ、やくもの。長いこと、外にいるなぁ)
「……」
頭にくる声が聞こえる。どこからよってきたのか。自分が、こんな曖昧な場所にいるからだろうか。酷く耳障りな、神々の声。
(失敗したんだってねぇ。みんながいうから、その悔しそうな面を拝みに来たよ)
(よもや、なんのしゃざいもないとはいわぬよなぁ)
(くかかかか、あれだけの大言を吐いたのだ。謝ってもらわねばな)
(ははははは。妖怪である事を是としていれば良いモノを、とんだ恥さらしだなぁ)
(神様になったのではなかったのかな、蛭子)
(洩矢がいて尚駄目だったのだ、あまりせめるな。ははは)
「五月蝿い」
(高天原も、根乃堅州も、黄泉も、神々が坐す土地はみな理想的であったのに。無茶な概念を敷くからそうなる。潔癖すぎるのもいただけんなぁ。なぁ、蛭子。何故そこまで許容できんのだ? そんなにも、無形である事が悲しいか? 完全に拘りたいか? 妖怪では満足出来ないか?)
「その名前で、呼ばないで頂戴」
(真名であろうに。血族であろうに。かたちなき神。島になり人になり妖になり、そうやって生き長らえてきただろう。今更否定してどうする)
「…………」
それは、なににでもなりえる形。それは、神に捨てられた無形の子。境界を曖昧にし、区別を取り払い、存在を希薄にする、忌子。八雲紫は一人、石棺の前で涙を流す。神々が口々に自分の悪口を言う。今更の言葉。だが、今だからこそあまりにも心を汚す言葉。神の言葉は言霊だ。その言葉には、言い知れぬ力がある。悩み、悶え、苦しむ八雲紫の精神を、まるでノミで削るかのように、抉る。
自分は完璧を望み、そしてそれは成った。数千年に及ぶ理想を叶えた。その歓喜たるやいなや、忌子たる八雲紫を有頂天へと引き上げる。非想非非想天の八雲が触れ回ったのだ。嬉しかった。とにかく。どうにもならないほどに。神の屑とまで言われた自分が、自分のクニを創り上げたのだ。親達も、もう既に顔も見せなくなってしまったこの世になって、やっと。
自分は穢の神。ひた隠された、人間の観たくない部分。自分は妖怪の神。忘れさられた、人間に不必要になった恐怖。
そんな自分だからこそ。無くなってしまう者、嫌われてしまうものが、愛しかった。ケのクニの神であると自負し、虐げられた者達を許容するように、務めてきた。幻想を招き入れ、残酷に残酷を重ねるような郷を作ってきた。けれど、これではやはり完璧ではなかったのだ。招き入れれば招き入れるほどに、幻想郷は膨れ上がって行く。幽霊は膨張して行く。侵略もしてみた。外界に棲家を求めた事もあった。だが、やはり巧くはいかなかったのだ。
どうあっても、創るしかない。幻想郷を拡大するでなく、常世に地を求めるでもなく。自分の手に入れた者達を使って、自分の足らないものを補って。本当の神になり、神の永遠の地を創ろうと。
――死んで欲しいの。幻想郷のために。全てが幸せになる為に。博麗。
今でも思い出せる、あの、困った顔。数代も前から、ずっとそのように言い聞かせてきた。転生を繰り返す博麗に対して、全てをつぎ込み、全てを受け入れるだけの力を、蓄えさせた。結果に出来たものは、全てを達観し、中立から物事を観る、まるで無限の箱のような娘であった。
その子が愛しくて愛しくて。自分の願望を叶えてくれる、唯一の希望だと、信じていた。信じていたからこそ――
「やっとみつけたぜ」
「大変だったわ」
「……藍は負けたのね……強い、人たちね……」
「なにやってんだ、こんなところで。カビが生えるぞ」
薄暗い岩倉。今でも隣では物語が進んでいる。そんな舞台の影の影に、八雲紫は居た。涙に濡れ、乱れた髪がなんとも物悲しい。魔理沙達が近寄ると、彼女はすぐさま、石棺に縋りついた。
「……わたさない……わたさないわ……お願いよ……この子は……この子だけは……とってゆかないで……私の希望なの、夢なの、全てなの……この子を失ってしまったら……この子の中にいる子達は、どうすればいいの。この子を愛する私はどうすればいいの。お願い……魔理沙、この子だけは、後生だから……」
あまりにも惨めで。魔理沙もパチュリーも、言葉を失う他なかった。どれだけ深い愛を注ぎ込んだのか。どれほどまでに愛すれば、ここまで出来るのか。理解し得ない。まだ、彼女の考えに至るには、二人とも、人生が短すぎる。
「石棺をあけろ」
「だ、だめ……だめよ……霊夢には……触れないであげて……もってゆかないで……」
「……顔を見せてくれ。お前は、私の友人を奪ったんだ。それぐらい、してくれたっていいだろう」
「霊夢も、早苗も、もって行かないでくれるのね……? 起こさないで、いてくれるのね?」
「……」
「魔理沙、そちらを持って。これ凄く重いから」
「魔法であければいい」
「刺激、与えられないわ」
「……ふん。眼なんか醒まさせちまえばいいんだ」
「……魔理沙。この中には、皆がいるのよ」
「……」
二人で石棺の蓋をずらす。ごりごりと音をたてて開いた中には、別れたあの日と、何一つ変わりない霊夢と早苗が、手を合わせるようにして眠っていた。周りには華が敷き詰められ、剣と、鏡と、玉が収められている。安らかに。息もせず。鼓動も止まっているのに。彼女達は、美しい少女のままである。
「れい、む」
「……」
「可愛いでしょう……綺麗でしょう……何もかもを受け入れた。幻想を幻想で留めてくれる、二つの宝石」
「――れいむ……さなえ……おまえら……ちく、しょう……」
「魔理沙……」
「これが……楽園か……? 誰の楽園だ……コイツ等は……こんな幸せそうな顔して……嘘ばっかり……」
うそじゃないわよ。
「……霊夢……?」
懐かしい声が、耳の奥に響くようにして聞こえてくる。もうあれから五年。焦がれに焦がれた、愛すべき友人の声だ。
「れいむ……れいむ……!!」
嘘なんかじゃないわ。私の中で、みんなが生きているの。貴女だって、知ってるじゃない。能天気で、馬鹿で、何にも考えてないようで。私は、そんなあいつらが、愛しいわ。そんな奴等を護れて、私は幸せよ。
「でも……でも、お前は……霊夢……お前、が、」
あまり、紫を責めないであげて。こいつはこいつで、精一杯なの。自分が、虐げられて、踊らされて、そうしてそれを否定して、頑張ったのよ。自分みたいな奴を創りたくなくて。どんな奴でも受け入れようって。だから、破壊者には容赦しなかった。それって、矛盾よね。でも、精一杯だったのよ。何もかもを受け入れるといいながら、全てを許容できなくて。その葛藤に苦しんで苦しんで。あとは、選りすぐるしかなかった。終わらない世界を創るしかなかった。これ以上は救えないと、区切をつけて。
「それで!! お前は幸せなのかよ!! なんの為に、私にああやって告白した!! 助けてもらいたかったからじゃ、ないのかよっ!」
最初は、そうだったのかもしれない。でも、今でいいのよ。これが最善。肉体が縛られようとも、魂は楽なものよ。今だって、私の意識体は博麗神社で、お茶を飲んでる。
「そんな言い訳!! 早苗にだって聞いた!! 早苗にだって言ってやった!!」
私は、自分の判断よ。早苗じゃあないの、私は。
「で、でも……」
……。魔理沙。ごめんね。最後まで、あんなで。巻き込む必要もなかったのに。私は私を是とするわ。私が私を認識する限り、ここは私の世界よ。この証明は、アンタには不可能。もう取り戻せないものに夢を馳せても、しょうがないわ。
「霊夢……霊夢ぅ……ああ、ああぁっ!! ばっっきゃろうぉ……」
外の世界は、楽しい? そこには、アンタがある? アンタは、そこで生きている? アンタの居るべき場所は、何処?
「わた、わたしは……おまえが……お前がいたから……お前がいて、わたしがいたから……わたしは主役なんかじゃあない……お前がいるからこそ、私が存在できたんだ……なのに、それじゃあ……ああ、くそ……くそぉ……」
「魔理沙」
パチュリーが、顔をくしゃくしゃにした魔理沙を抱く。もう支離滅裂で、何もかもがぐちゃぐちゃになってしまった魔理沙は、何かにしがみ付かずにはいられなかった。信念が、拠り所が、跡形も無く崩れ去った。『己に』否定された。誰よりも弱い。誰よりも希薄。故、誰よりも己を信じ、誰よりも、自分を高めてくれる彼女を信じた。
お前はお前だと。己は己だと。皆を説得してきた自分が、一番希薄であったのだ。自信がなくて。努力する事で穴埋めをして。幻想(博麗)に囚われつづけた、古風な魔法使い。
結局自分は、博麗霊夢を精神の支えとして生きることしか出来ない、脇役だったのだ。こんな愚か者を、救う術が一体どこにあるというのか。魔理沙自身には、何一つ思い浮かばない。ぐるぐると思考は巡るばかりで、何処にもいきつかない。よるべき島が無い。
「もし、他に方法があったとしたら」
だが。自分ではない。霧雨魔理沙に憧れつづけた、もっともっと愚かしいそいつには、見えていた。霧雨魔理沙が本当に望むモノがなんなのか。希望がどんな形をしているのか。『パチュリー』を連れ出した、魔理沙本人すらしらない、本能的な理由。
「……パチュリー・ノーレッジ……何を、いっているの」
「私が千年の魔女となって、神にも近づけるならば」
「……パチェ……?」
「何時の日か、全員迎えにきてあげるわ。八雲紫が成しえなかった、本当の、全てを受け入れられる幻想を。私は創ってみせる。妥協なんかしない。誰も泣かない、忘れられた、これから忘れられていく何もかもを許容する楽園を」
……。十全の楽園。完全の園。深遠のそのまた向こう側。難しいわね。
「大丈夫よ。貴女の大切で可愛い魔法使いは、私の手にあるのだもの。貴女を強くしていたその子はここにあるのだもの」
猛る。
「創って見せるわ。ねえ魔理沙。貴女はそれを望んで私を外に連れ出したんでしょう。だったら創りましょう。そうしてね、みんなを呼ぶの。紫さんだってぐぅの音もでないような場所に、みんなを。紅魔館の皆も。永遠亭の皆も。守矢のひとたちも。そうね、彼岸にも冥界にもひっつけてやりましょう」
猛る。
「何時の日か、私達が暮らした幻想郷のように……貴女が本当に幸せだったと言えるあの日を取り戻すの」
猛る。
「ねえ……ねぇ、魔理沙!! 此方を観て頂戴!! 私を見て頂戴!! 現実を、貴女の本当の現実を実現しうるこの私を!! わたしは、私はやってみせるわ!! 七曜ですもの、出来ないはずなんてない!! その時には、絶対貴女に、誉めてもらうんだから!! 絶対認めてもらうんだから!! 私が示すわ!! 私が貴女を救ってあげるわ!!」
……抱いてきた、その思いの丈を。霧雨魔理沙が望む、依存という名の自己の答えを。
「魔理沙!! 眼を醒まして頂戴!! 現実は『私』!! 夢は『霊夢』!! そして貴女は、私を選んだ!!」
……そこは、幸せなのよね? みんな、みんな。貴女も、魔理沙も、紫も、私も、早苗も。
「あったりまえよ、わたしを誰だと思っているの! 私は天地開闢の力を秘めし魔女、パチュリー・ノーレッジ様だっていうのよ!!」
「パチェ……おまえ……」
わかった。魔理沙をヨロシクね。弱い子だから。可愛い、私の友人だから。
「霊夢……」
……。アンタの幻想で居続けられなくて、ごめんね。迎えにきてくれる日、楽しみにしているわ。
――博麗霊夢は、儚き妖怪達のために。
――東風谷早苗は、儚き人間達のために。
……。私は私達は、貴女達が迎えるにくるその日まで、愛しい彼等彼女等を、抱擁しつづけるから。
声が、残響を残して消え失せる。
魔理沙はパチュリーにしがみ付いたまま。八雲紫は、呆然と二人をみつめていた。
自分は、なんて弱いのだと、魔理沙は思い。
自分は、なんて愚かなのだと、パチュリーは思い。
自分は、なんて恵まれているのかと、紫は泣いた。
こんなにもこんなにも強い意思を秘めた娘がいる。こんなにもこんなにも強く幻想を思う娘がいる。小さい小さい可能性だけれども。決して訪れない未来かもしれないけれど、その夢物語にも似たパチュリーの本気は、誰もが賛同し得る本当の楽園の姿であった。
「なんて……なんて愚か……私は……なんて……すばらしいものを幻想郷に迎えたのに……きがつきもせず……まるで人形みたいに……扱うなんて……道具のように……扱うなんて……貴女が、貴女が世界を創っていたなら、私が我慢していれば……霊夢だって……早苗だって……これから幻想になり行く者達だって……」
「泣き言なんて聞きたくないわ。貴女にはするべきことがある。この二人を護って行く義務がある。使い潰したりなんかしたら、承知しないわ。魔理沙が泣いたら、貴女なんて、ぼっこんぼっこんの、けっちょんけっちょんにしてやるんだから」
強い意思があれば。強い自己を持てば。そんな曖昧な幻想すらも、己の場所になりうるのだと。幻想だけを見つづけた霧雨魔理沙の終焉。現実の幻想のそのまた先にある、本当の自分を、彼女は見つめてくれていた。それにきがつきもしなかった魔理沙の終幕だ。
「紫」
「……ええ」
「悪かったな。お前は、やっぱり正しいよ」
境界が開く。現世へと帰依する。これが正しい道なのだと。
「そして、パチュリーは、もっと正しかった」
誰がなんと言おうと、少なくともこの二人は、絶対に己を否定したりしない。
「さよならは、前いったもんな。もう言わないぜ、霊夢、早苗。必ず、迎えにくるから、元気にしてろよ」
閉じる。
その先には、希望を見出すべき外の世界がある。
(愚かよのぉ愚かよのぉ)
(魔女に頼らずば何もできんとは)
(人間に頼らずばなにもできんとは)
「……何もせずして、人間に忘れられたお前達に、言われたくなんか無い。保身だけを欲して滅び行くお前達に、言われたくなんか無い。私は間違っていた。私は私が大切だったわ。けど、私が集めた可能性が、また新しい道を作ったならば、これから作りつづけるなら、私は、その礎になれた事になる。これは、自己肯定だけれど。単なる独り善がりのエゴだけれど。けれど、無駄なんて言わせない」
(神にはなれなかったのぉ)
(それでお前は満足なのか。イサナミの子)
(それでお前は満足なのか。イザナギの子)
(それでお前は満足なのか。淡路の子)
「満足よ。私は戦ったわ。私は足掻いたわ。その結果に導き出されたものが、新しい創世であったならば。彼女達が創る世界が、私をも許容する、おぞましい楽園ならば。私は――私を、肯定出来る。まあ、貴方達だって、期待しているといいわ。何せ、彼女達の世界は、きっと貴方達すら許容するもの」
(……)
(……)
(……)
「待ちましょう。愚痴なら、聞くわ。また、長い長い時間になってしまうけれど。もう長いこと待ったでしょう? なら追加で千年くらい、大した事ありませんわ。ねぇ、神様達」
(そこは、我々も幸せに暮らせるだろうか)
(そこは、人の笑い声があるだろうか)
(そこは、人の温かさがあるだろうか)
(そこは、ばけものでも、受け入れてくれるだろうか)
「……本当の幻想郷は、全てを受け入れるはず。それは――――それは、幸せなことですわ」
現実に幻想を見出す難しさ。終わる者達を引き寄せる、終わる者達を受け入れる強さ。リアルファンタズムという矛盾の中に潜む、本当の楽園。霧雨魔理沙は、パチュリー・ノーレッジは。その強力無比な存在力で、脇役を脱して行く。これから先、外の世界でどれだけの絶望を味わうだろうか。どれだけの希望を見出せるであろうか。
(……私に出来る事は、私がしなければ。そうよね、霊夢、早苗)
無謀。無理。無茶。不可能といわれようとも、そこにあるべき自分の姿を見出す強さを、きっと彼女達は、見せてくれるはずだ。
・
・
・
・
・
その日といえば、四人はいつも通り、近くの喫茶店で時間を潰していた。是非とも向こう側を観たかったのに何故連れて行かなかったと、蓮子はあの日以来ずっと二人を攻め立てている。じゃあメリーを使いましょうというパチュリーの意見に対して、魔理沙は流石に突っ込みを入れざるを得なかった。今更あんな場所に、何の未練もない。そも、四人で行って何をする気なのだ。また物語が混乱して一大事になったら、せっかく冷めた紫の熱が今度こそ猛威を振るうに違いない。と、魔理沙は思っている。
「ああそうだ、とったぜ、戸籍」
「ぶふ……ど、どうやってよ。まさか政府の管理コンピューターに侵入してスーパーハカーみたいな真似したんじゃないわよね」
「パチェと一緒にな、ちょいちょいと弄ったらまたこれが簡単だったんだ。コンピューターってのは使い魔みたいなもんだろ?」
「楽勝すぎて鼻から讃岐ウドンを踊り食いした挙句新通天閣で一人よさこい祭したほうが難しいって解ったわ」
「私達はムカンケイです。け、警察さんに追われるような真似はやめてね……メリー、アンタも何かいいなさいよ」
「楽しそうじゃない。ふふ、二人はあれかしら、ダーティーなペアっぽいなにか」
他愛有るか無いかはともかくとして、そんな話題を繰り広げる。戸籍を不正取得し上に学歴詐称したのは他でもない。二人が通う大学に通うためだ。というか大学のデータもとっくに弄ってある。別に勉強ならば外でも出来るし、図書館だって幾らでも出入り出来るのだから不自由はないのだが、これもパチュリーの意向であった。流石に魔理沙とパチュリーでは歳の差があるように思える。思えるが、同じ年齢として不正操作したので今更だ。
そんなことまでして何故大学に入りたいか。パチュリーの理由は簡単で、秘封倶楽部に正式入部したいからだそうだ。そもそも非公式じゃないのかという魔理沙の提言は、はっきり無視された。
「はあ。魔女っていうのは常識が通じないのかしら」
「魔女って時点で常識もなにもないと思うぜ」
「魔理沙は大学でもう少し常識を学ぶといいわ。裏側の悪行はともかく、一般社会の人として」
「お前にいわれたかないね、引きこもり萌やし」
「ひどい。きいてメリー、魔理沙が虐めるわ」
「おおよしよし。魔理沙さんはひどいでちゅねー。ああ、なんか、うん。これいいわ」
「メリー。まずいぜ」
「メリー。まずいわ」
そんな日々が、新しく始る。想像もつかなかった大学生生活。魔法使いと魔女のコンビが、現実世界に生きる現実。
「なあ、なんで大学なんだ。あの二人に、何かあるのか?」
夕暮れの川沿いを歩く。先にはあの二人が楽しそうに談笑していた。隣にいるパチュリーはそんな魔理沙の問いに対して、くすくすと笑い、やがて口を開く。
「境界を見る程度の能力。星を見て時間、月を見て場所が解る程度の能力。さて、何に通ずるかしら」
「……」
「紫さんね」
「……おいおいまさか」
「断言はしないわ。でもあの二人がもしそのような超常的な力を別った存在であるならば。八雲紫の同位体。もしくはそれに通ずる何かである可能性が高い。次の楽園を創るにも必要な力だわ。折角貴女が引き寄せた幻想」
「……」
「……冗談よ。私は貴女と二人で創って見せるわ。大体、彼女達を千年も生きさせるなんて無理がある、彼女達は異能であるが故に、今を見る必要がある。そういう意味では、まず魔理沙をなんとか魔女にしたてあげなきゃあね」
「それとあいつらと、何か関係するのか?」
「ないわ。ただね、折角人間の支配する世界で生きる決意をしたならば、地に足をつけなきゃ。それに、物事は楽しい方が、よいでしょ」
「お前って、意外と楽天家なんだ」
「発想は自由に。行動は幅広く。興味は深く。何もかもを知らねば何もかもを有する楽園なんて、つくれたもんじゃない」
「あいつらが、面白そうだってだけじゃないのか?」
「それもあるわ。だって、なんだか凄く、幻想郷の人みたいな空気なんですもの。それに、折角貴女が引き寄せた幻想」
「はは。同意だ」
二人で笑いあう時間。これから歩む土地と、歩む時代。生きる下地と続く歴史。その先にこそ、本当の己がある。
「ああ、明日から授業とか出なきゃならないんだなー。なあ、バレないか?」
「今更」
「確かに。どうせもう根回し済んでるんだろ。ジョーシキをうたがうぜー」
今時の服をきて、今時のカバンを振り回して帰り道を行き、今時に歌を口ずさむ。
「常識ってなんなのかしら。共通に認識しうる現実ってつまりなんなのかしら。貴女は貴女。私は私。私の認識する世界と常識が私の世界と常識。貴女も」
「もう繰り返した問答だ。ああそうだ、私は霧雨魔理沙だ。他の誰でもないね。お前によっかかりっぱなしの、怠惰な魔法使いだぜ」
「そうね。強く信じればこそ。私は貴女を強く信じるわ。あなたも私を強く信じてる」
「どうかな」
「なんだと」
「はは。ああ、保障するぜ。お前はお前だ」
それは意味のない答え。
「ええ。保障するわ。貴女は貴女。自分勝手な、愛すべき馬鹿者。私が本当に望むものを、とうとう与えてしまった人」
それもまた、意味のない答え。
「ひどい依存関係だ」
「いいじゃない。裏切ったら、祟るわよ?」
「こうみえても、一途なんだぜ」
「ねえねえーー!! このまま帰るのもあれだし、どこか飲みに行きましょうよーー!!」
「め、メリー。あんなシリアスそうな二人に何いって……」
「酔っ払って前後不覚になっても、私は私かしら?」
「そうだな。私が保障してやるぜ」
「なるほど。じゃ、行きましょうか」
「おう」
手を繋ぐ。強く握って、互いが互いであると信じる。ここが、生きるべき場所なのだと信じる。新しい楽園を創る礎なのだと信じる。その想いこそが、見果てぬ幻想すらも己としてしまうだけの力があると、信じる。
「パチェ」
「なぁにかしら」
――ありがとう。
――どういたしまして。
物語は、まだまだ始ったばかりだ。
あれからどんな生活を送っていたかといえば、八雲紫の懸念なんぞまったくもって無駄に終わるほど、緩やかなものであった。危なかった事といえば、スキマを潜った後スクランブル交差点に行き成り投げ出され、轢かれかけた事ぐらいだろう。それ以外はまったくもって平穏無事。あれから、外の世界で五年も経過している。新幻想郷で最後に体験した現代世界(グレゴリオ暦2008年 神武暦2668年)を模した物語の記憶を引き継いでの出所(言い方が悪いが)であった為、ある程度は外の知識をもって生活する事が叶った。勿論、五十五年ほど時代遅れの感覚ではあったが。
今といえば、自分とパチュリーは同じアパートの同じ部屋をシェア……なんてすることもなく、京都の郊外に放置された日本家屋を勝手に拝借して住まいにしている。家賃タダ。魔法で認識阻害をかけている為闖入者も皆無。庭付き一戸建ての生活は中々に快適であった。
自分達がまだ旧幻想郷に居た頃から、新幻想郷で生活していた間、五十五年。外では、大変な変革があったようだ。懸念されていた燃料危機、食糧危機、少子高齢化と社会不安による暴動、紛争。近隣諸国との小競り合い、新燃料メタンハイドレートの争奪戦……と、幻想郷にいたらまったく解らないような争いが、繰り広げられていたらしい。
日本といえばそんな暗黒時代を乗り切り、とうとう究極的な科学世紀に突入していた。戦争と新型インフルエンザの猛威のお陰で世界人口は激減し、日本もまた被害を被ったが、いざ団結の時となると、余計に強い人々だったらしい。食糧危機を合成食品という形で解決。自然エネルギーの最大効率化。政府改革は功を奏し……と、まるで、神様が手を加えたような、そんな奇跡が世界に満ちていた。月面エレベーターなんて冗談のようなものもあるらしい。
まあ勿論、そんな過去はこの霧雨魔理沙とパチュリー・ノーレッジには、大して関係のない事で、現時間に生活する上である程度必要な知識でしかない。もしくは、今二人の目の前で胡散臭い話を繰り広げているマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子が出生するまでの経緯でしかない。相変わらずの少子のお陰で、大学生というのは偉く重宝されているらしい。馬鹿みたいに数があった大学も減り、生徒数も数少なく、学生一人一人の水準が非常に高い。日々勉学に勤しむ仲間達を尻目に、コイツ等ときたら結界暴きなんぞを趣味にしている。
「そうそう、蓮子。見つかったんだって?」
「そうなのよ。とうとう見つけたわ。向こう側へいける場所を」
「……怪しいもんだぜ、なぁ、パチェ」
「そうね。考えるに、旧幻想郷は既に原生林と成り果てている。私達が調査した結果では、そうであるにも関わらず発見不能。数十年前に消失した諏訪湖は、元に戻ったんですって? そうなると目印もなくなる。空からでも見つけられていないわ」
「まあまあ。以前、デンデラノで私達が見た世界は、幻想郷というよりもむしろ、貴女達がいうように、彼岸に近い場所であったわ。では貴女達の言う博麗神社を探そうという話になったの。延喜式にも乗ってないし、相当小さい神社みたいだから、かなり手間取ったけど。結果は駄目だった。メリーもなんの反応もしめさない、ただの穴があいた場所だったわ」
二人に出会ったのは、大学の図書館であった。国立図書館並に品揃えが良いと聞き及んで、本好きの二人はすぐさま飛びついた。幸い一般公開されていたため、魔理沙が闖入する必要も無かったのはパチュリーもホッとしたところである。なにせ、この世界は幻想郷と違って、警察さんがいるのだ。魔法でなんとかなるといえば言えなくもないが、生活し難くなるのはカンベン願いたい。魔理沙としてはそんなもんどうでもいいのだが、パチュリーは変に規律を守りたがるのであった。
借りてくぜ、なんて事はせず、非常に快適な空間での読書は二人を図書館に入り浸らせる結果となる。埃っぽくなくて落ち着いた雰囲気は現代の至宝だとまでパチュリーは絶賛した。柳田國男、折口信夫、小泉八雲、宮沢賢治、水木しげる、等々、幻想郷ではお目にかかれなかった刺激的な書物が沢山あり、本来の目的を忘れるほど没頭する辺りが本読みの悪い癖である。
そんな二人に声をかけた人物が、マエリベリー・ハーンであった。この現代っぽくない空気を醸し出す不釣合いなコンビ。堆く詰まれた胡散臭い書物群。彼女のアンテナがびんびんきたとか、こないとか。
「そうか。紫は、完全に現世との接点を絶ちやがったのかもしれないな」
「噂によれば、博麗神社は幻想郷と外界を繋いでいた場所って話ね」
「そうだ。霊夢は、迷い込んだ外の人間を神社から返していたしな。しかし思うに、幻想郷っていうのはもっと曖昧な場所だったぜ」
「私の記憶によれば『どこから迷い込む』なんて決まりはなかった。外の世界でも空間が歪になった場所からポンと、迷い込んだ感じになるはず。何せ、携帯電話なんてもった若者が、長野や遠野の山奥にまで入らないでしょう?」
「確かに。遠野から彼岸ってのも、幻想郷にいた私達からすれば、物理的な距離がありすぎる。幻想郷に居た頃は、人里から箒で五分だ」
「ふふん。メリー、何か意見は」
「私は……蓮子に言われた通り、やっぱり結界というよりも、存在そのものがずれ捲くっているはずなの。貴女達はもう幻想郷は存在しないという。けれど、私はそこへ夢を通じて赴いているわ。私の潜る境界というのは……時間そのものを、飛んでいる」
「夢……か」
「夢……ね」
彼女達との出会いにより、二人の目的は格段に近づいた。未だ眠り続ける博麗霊夢と東風谷早苗を見つけ出す事。数度に渡って長野や遠野、八ヶ岳や富士など、噂される場所を探索したが、成果は得られていない。物理的に接触できるところにあるものだとばかり思っていただけに、流石の二人も狼狽していたのだ。もしかしたら、八雲紫は別の場所に二人を隠したのではないか。それが一番可能性として高かった。そうなると手も足も出せない、となっていたのだが、これは在る意味天啓であった。
「それで、お前が見つけたっていう場所は、どこにあるんだ」
「だから、夢の中よ」
三人は、デンパなことを言う宇佐見蓮子を可哀想な目で見つめる。さっそく、この人物との出会いが正しかったのかどうか危ぶまれた。
「蓮子……」
「ちょ、可哀想な人をみる目でみないで。私は正気よ。貴女達のいう八雲紫とメリーの類似性を考えてみて。そして現代でも神隠しという事象がどうあるのか。照らし合わせれば、自ずと答えは見える。魔理沙さんが八雲紫は物理的な接点を絶ったと断言するならば尚更だわ。だ、大体ね、魔女が二人いるのに、なんで私がそんなへんてこちゃんみたいに見られなきゃならないのよ!! 魔女よ!!??」
「ああ、悪かった、だから落ち着け、他のお客さんがみてるぜ」
「ふむ……なるほどね」
パチュリーは顎に手をあてて、思考をめぐらせている。魔理沙といえばそんな彼女をみて、また小難しい事考えて、どうせ何も浮かばないくせに、と突っ込みをいれる。真剣そうにして真剣じゃないのが、幻想郷人の悪い癖だ。だが。
「木を隠すなら森の中。夢を隠すなら夢の中。メリーが見る幻想郷の夢は……そうそう、自己を自己と認識できない輩が良く見るものよ。楽園幻想。自分がここに居て良いのかどうか、自分に自信がない人間が、ね。ここで言う夢というのは、脳が見せている睡眠中のものではなく、遠くを見るココロ。まあ、社会不適合者」
「ひどい」
「とはいうけど、蓮子の話では……一度、夢に取り込まれそうになったそうね」
「ぐっ……確かに、そう、ね。現実と幻想の境界が曖昧になった事はあるわ」
「八雲紫が獲物のしていたのは? 魔理沙」
「ココロココにあらず。自分が自分であると信じていない人間。つまり、想像力が自己に留まって思考停止に陥った、愚かモンだ」
「見えたかしら、答え」
「八雲紫は……博麗霊夢と東風谷早苗を、夢の中に隠している。夢現結界の狭間だわ。つまり、メリーさんが見ていたものは、そう、間違いなく、博麗霊夢の中で繰り広げられる、物語」
「やっと魔法使いの出番か。うずうずしてきたぜ」
魔理沙は、拳を握り締める。とうとう、出会えるのだ。あの憎たらしい顔に。自分に全てを預けやがった、大馬鹿女郎に。懐かしくてたまらない、唯一の友人。いいや、最初の友人に。
・
・
・
・
・
何もかも変わってしまった。懐かしむべき郷はなく。郷愁は虚しく消えて行く。ダムに沈んだ故郷を思う人間、他国になってしまって、帰ることが出来なくなった人間は、こんな気持ちであったのかもしれない。夜の空を駆ける幻想。美しく舞い散る桜の花びら。空に穿たれた、丸い月。終わりがこないと思っていた、楽園幻想。
そんな場所にいた人間は、しかし、もう今は現代人だった。博麗霊夢は、どうして、自分に託したのだろう。それだけが、霧雨魔理沙の悩みであった。アイツの笑顔は、変に無邪気でむかついた。アイツの怒りは、変に真剣でむかついた。アイツの泣き顔……なんてもんは、そう、最後しか見たことは無いが……あんまりにも、悲しいものであった。ただ、最後は笑ったはずだ。何もかも諦めて。道具になると知っていて、尚。反骨の自分には、理解し得ない感情を、彼女は持っていた。
楽園の巫女。永遠の処女。久遠を夢見た幻想人達の理想を叶えた、究極一の、からの箱。
「パチュリーさんは?」
「準備に取り掛かるってさ」
「なんだか、未だに信じられないのよ。幻想郷の存在も、貴女達も、メリーも。こんな科学世紀にあって、貴女達はみな前時代的。まるで時間を止められたみたいに。そういえば、パチュリーさんと貴女は、魔女といっても少し違うのよね」
「ああ。あれは種族魔女だ。私は人間。未だに不死になれない、半端モンだ。お陰で良い女になったぜ」
「ああ、否定しない。本当に美人だもの」
「はは、そうだろ」
「その口の悪さだけはいただけないけれどね」
「私がこの口調じゃなくなったら、私じゃないぜ」
宇佐見蓮子という大学生と、夜道を歩く。パチュリーとメリーは準備の為に魔理沙の自宅へ行き、此方の二人といえば、蓮子の申し出で街に繰り出していた。魔理沙としては……少しでも気を紛らわせたかった。これから赴く場所がどんな場所なのか。想像出来るが故に、恐ろしくある。一体霊夢が、本当はどうなっていしまっているのか、この眼で見なければならないと思うと、末恐ろしいのだ。
変な奴。でも、常に事件の中心にして。自分は奴の尻を追いかけるような真似ばかりしていた。幽香の言葉が思い出される。自分は脇役。博麗霊夢が動かねば、なんの変哲もないただの魔法使い見習い。半端モノも半端モノ。そんな自分が、息巻いて、出張って、我こそが主役だと宣言して。そうして、こうなった。
後悔はない。ただ、先が見えないのだ。
「色々、あって出てきたのよね、こちらに」
「話しただろう。まあ、理解できないだろうけど」
「終わりの見えた幻想郷を、完全なものにする為の、東方計画。幻想を詰め込んだ、二人の巫女。科学も及ばないわ」
「概念でしかない。我々が考えているだけの、物質でもなんでもないものを、あつかった結界なのさ。八雲紫って奴は、凄まじい。そして、やっぱり正しいんだと思う。でも、気に入らない。霊夢は……」
「こんな事いうのも変かもしれないけれど」
「なんだ?」
「好きなんでしょう。霊夢って人。良い人?」
「ばっ、ばっか言え。あんな奴、ホント、気持ち悪いだけだぜ。ただ、アイツの在り方が気に入らないから、頬の一つでもひっ叩こうと」
「パチュリーさんが可哀想ねぇ」
「……あいつは……どんな気持ちなんだろうな。自分で作った世界を私に否定されて。私に引きずり出されて。なあ、やっぱり、恨んでると思うか?」
「恨むでしょうね」
「恨むようなぁ。でも、アイツだって私のこと、ムリヤリ引きこんだんだ。おあいこだと思うんだがな」
「でも、私が観る限りでは。彼女、結構幸せそうよ」
「……そう、見えるか」
「ええ。へ、変な話だけれど。やっぱり彼女は、貴女が好きなんだと思うわ。貴女に憧憬を抱いている。色々、向こうでやりあったんでしょう。自分に無い物を持っている人っていうのは、憧れたり、するわ」
「お前もか?」
「……メリーは。特別なのよ。あんな風に自分を分析したつもりでいても、やっぱり違う所を観ているの。私じゃない。彼女は、幻想を観ている。自分がここにあるべきじゃないって、そう思っている節がある。そういう貴女こそ、こちら側よりむしろ、アチラ側を見ているんじゃないかしら。目的が目的だからかもしれないけれど」
そう言われて、反論に言いよどむ。蓮子は魔理沙をじっと見つめたまま答えを待っていたが、その内視線を離して空へと向ける。
「十八時五十六分。もう準備は済んでいるのかしら。というか私に相談なしってなによ」
「……私は……」
「うん?」
「いや……」
何を、見ていたんだろう。外に出てきた理由は? 言わずもがな、それは八雲紫の方針が気に入らなかったからだ。霊夢の中にいるなんて気持ち悪かったからだ。では、どうしてそう思った? その反骨はどこからきた? 霧雨魔理沙こそが正義であると信じ続けていたからこそだ。それは間違いが無い。ただ、そこには、起点となる部分がある筈だった。どのような経緯を経て、このような絶対自己至上主義者と成り果てたのだろうか。蓮子に問い掛けられて、初めて考えさせられる。
パチュリーは、自分をどのように見ているのだろうか。彼女はどのような思惑で、自分に付き従っていただろうか。もう五年になる。五年だ。幻想郷で一番動きが激しかった時期で換算すれば、相当な密度である筈なのに。ここの五年と来たら、まるで湯水の如し。そんなくだらない時間を、こんな勝手な人間と過ごす意味はどこにある?
自分の中に、自分の知らない何かを、見出しているのでは。それは、おごりだろうか。自信過剰だろうか。
パチュリーは、霧雨魔理沙が本当に望んでいるものを、知っているのでは。先の見えない未来を実とし。新しいビジョンを。
「……魔理沙さん、あれ、なにかしら……?」
「あ、なんだ?」
「ほら、そこの家の影に……あ、あ、え?」
「――なるほどね。障壁か。越えずばわからんと、そういうことかね」
宵闇に。ぐずぐずと、なにかが湧き上がる。周りの家々が突如消灯し、街灯が割れる。心配すべきは、霊夢のことだけではない。これだけ近づいてしまったのだ。八雲紫が最後の抵抗を見せても、おかしくはない。愛すべき巫女に、憎き相手を近づかせない為に。
「やあお嬢様方。夜道はあぶないぞ」
「……なに、え、妖怪……?」
「蓮子。走れ。家まで走れ」
「で、でも……貴女は」
「大丈夫だ。私は魔法使いだからな」
渦巻く風。一瞬の閃光とともに、彼女は黒白に変身する。魔法少女というには、少し年も厳しいが。けれどやはり、魔理沙は魔理沙であった。みなの愛する。皆が忌み嫌う。永遠の乙女だ。
「走れ!!! 蓮子!!!」
発言と同時にスペルカードをぶっ放す。スターダストレヴァリエは夜道に爆ぜ、魔理沙はそれを眼くらましに、空へと舞い上がった。
「おうおうおうおうおうおう!!! 久しぶりだな、八雲藍!!!」
「一応、紫様の演出どおりに登場したんだ。好きだろう」
「ああ、大好きだぜ。この科学世紀に、現代の空での弾幕戦たぁ小粋じゃないか!!」
「気に入ってもらえて何よりだ。死ねとは言わない。引き下がれ。さもなくば」
「解った。今日は狐鍋だ」
「黒白の漢方鍋だ」
人工の世界に弾幕が舞う。それを見上げた宇佐見蓮子は、心を震わせながら、恐怖心も微塵も無く。ただただ幻想に眼を奪われた。彼女達が歩んだ道。忘れ去られた人々の黄昏。虐げられた魍魎の宴。闇夜に咲く弾幕の花は、『世界』を支配した。
「私は至る!! 霊夢の元に!! 絶対だ、藍!!」
「さて、その意思は果して、自分のものか? どうしてそう望むのか。考えた事があるか? お前はお前という自信が、本当はないのだろう。散々紫様に吼えておいて、その困った顔はなんとも滑稽だ!!」
「やかましい、デバガメ狐!!」
木霊する声。八雲藍は、久しく忘れていた少女の雄たけびに、歓喜した。
・
・
・
・
・
「貴女を消極的に眠らせる方法は、と」
「あ、あるの?」
「魔女だもの。水の魔法の応用でいいかしら。量を間違えると死ぬけど」
「こわいわよっ」
「大丈夫よ。私、こうみえても百六十年くらい魔女だから」
「な、長生きなのね」
「さて、幾つか質問に答えてもらうわ」
「ええ」
自宅の寝室に敷かれた布団の上に、メリーが横たわる。向こう側に至るにはまず寝かせなければいけない。寝かせるといってもただ寝かせるだけでは意味が無い。彼女の夢に志向性を与え、幻想郷に至る道を開き、自分達が乗り込まねばならないのだ。並大抵ではないが、無理ではない。八雲紫ならば簡単になしてしまうであろう夢枕的飛躍は、実際のところ冗談みたいな話なのだ。こういうところで、自分のあの大妖怪の差を思い知らされる。
「貴女は境界を飛び越えられる」
「はい」
「貴女は幻想に興味がある」
「はい」
「むしろ幻想に住みたい」
「いいえ」
「自分はどちらかといえば向こうの存在に近い」
「わかりません」
「自分に自信がない」
「……はい」
「宇佐見蓮子が好きだ」
「ぶ」
「答えて」
「……と、友達として」
「はいかいいえで」
「はい」
「……微妙ねぇ」
「なにが?」
「貴女の精神の弱さだと、帰ってこれないわ。幻想は強力よ」
「うぐっ」
「難しいわねぇ……」
「……」
ここにきて、立ち止まるしかないのだろうか。一体どれほどまでに難しい確率で、こんな類稀なる人間に出会ったのか、その奇跡だけで運を全て使い果たしているようであった。
強烈な因果律で引き寄せられたような自分達。現代社会では超能力も一部は容認されているようだが、これほどまでに自分達にうってつけな人間に出会えることは、本当に稀有だろう。いざ、本番となった頃にこれでは、意味が無いのだが。無理に施術する事も出来よう。出来ようが、それでは今まで協力してくれた恩に報えない。その昔ならば若気の至りでコロッと人をぶっ殺したかもしれないが、こうまで落ち着いてしまうと罪悪感もある。
そもそもが、自分達のエゴ。これにムリヤリつき合わせるような真似を、してよいものなのだろうか。巡り合わせというではないか。さて、では魔理沙ならばどうだろうか。あれは自分勝手だが、人間にそのような行ないは出来まい。
「構わないわ。貴女達は、向こうへいかなきゃならないのよね」
「そうね。でも、無理は駄目だわ」
「無理じゃないかもしれないわ。境界を飛び越えるのは、なれているみたいだし」
「私と魔理沙という異物が加わるわ。そこに安全性はない。するなら完璧。戻ってこれなくなったら、ご両親も蓮子も悲しむわ」
「けれど、少なくとも魔理沙さんは、その霊夢って人に出会って、何かしなきゃならないのでしょう」
「……どうなのかしらね。私も、良く解らないわ。幾ら魔理沙が傍若無人でも……まさか霊夢を起したりはしないだろうし。区切をつけたいだけなのかもしれないわ。挨拶も無しに取り込まれ、挨拶も無しに出て行ってしまったから」
「魔理沙さんは、霊夢って人が好きなのね。でなきゃ、ここまでしようとしたり、しないでしょう」
「どういうことかしら」
「だって、魔理沙さんにとっての楽園っていうのは、霊夢さんが居たからこそだったんじゃないの? 魔理沙さんは直接口にしたりはしないけれど、霊夢が霊夢がって、良く言っていたじゃない」
「……まさか、あの子」
自分は……どう、すればいいだろうか。メリーの言葉は、核心を得ているように思える。霧雨魔理沙にとって、幻想郷というのは、まさに博麗霊夢の事だったとしたら。そうなれば、つまり霧雨魔理沙は、まだ夢の中に居る事になる。あれは、やはり現実なんて眼中にない。外に出てきたのだって、自由を得たいからじゃない。幻想郷に戻りたいから、博麗霊夢を取り戻したいから……だと、だとすれば。
あいつの言葉なんていうのは、全部嘘なのだ。自分を認識する事が自分であるなんて。大法螺もいいところ。魔理沙は、自分の在り所を、博麗霊夢に求めている。
「……彼女達、遅いわね」
これは裏切りなのだろうか。彼女は、今度こそ自分に期待したのでは、なかったのか? 『現実を見据えたからこそ、自分を外に連れ出した』のでは、ないのか。
「あんの……あんの……あんの――大馬鹿女郎……!! げっほ……」
「ど、どうしたの突然大きな声だして」
「あったま来たわ!! メリー。ちょっと死ぬかもしれないけれど寝てくれる?」
「え、ええ!?」
ぐいぐいと布団に押し倒す。馬乗りになって呪文を唱えようとしたところに、宇佐見蓮子は飛び込んできた。
「――パチュリーさん!! って、なにやってるの!? 寝るってそういうこと!? め、メリーの馬鹿!!」
「ち、違うわよ!! パチュリーさん、降りて、降りて」
「とと、取り乱したわ。それで、蓮子、どうしたの」
「え、あ、ああ。その、魔理沙さんが、尻尾のバケモノみたいなのに、襲われて――」
「――なるほど。障壁か」
さて、幾つめの障壁だっただろうか。霧雨魔理沙。スカーレット姉妹。東風谷早苗。博麗霊夢。八雲紫。そして今回。何かを成そうとして、現れる世界の壁。越えなければ至れない、向こう側。笑えて来るではないか。まるで全てが必然だ。まるで自分達がコマだ。いい加減にして頂きたいものである。現実にやってきて尚夢を見せられるなど、やめてもらいたい。コレも何もかも、あれのお陰だ。霧雨魔理沙。あいつがいつまでもいつまでも、幻想に拘るから、終わってしまった夢に拘るから、残滓を引き摺る、異能をひきつける。
だったらもう断ち切ってやらねば。お前という奴が、一体何を外に連れ出したのか。知らしめてやらねばならない。
こんなにも頭に来ているのに。ほら、どうだ。この笑顔。もう未来が、手にとるように判る。ああそうだ。そうであった。ここで暫く現を抜かしていて、すっかり忘れていた。自分はそう、悪い悪い、魔女なのだ。
「八雲藍。これがいるなら、別にメリーを解さずとも良いわ。ぶん殴って、境界を開かせるまで。むしろ、相手だってそれを承知かもね。八雲紫がどんな思惑でいるかしらないけれど」
「う、うん?」
「わからなくていいわ。ともかく、これで貴女達を危険に晒す必要がなくなる。そもそもね、これは全て私と魔理沙のエゴだから」
さあ行かねば。可愛いあいつを助けてやらねば。現実の見えていない小娘に、現実の素晴らしさと尊さを、叩き込んでやる。
これはエゴ。魔女の夢の終焉を。境界の見た理想を。この眼で見届けねばならない。
そして、示してやらねば。本当に霧雨魔理沙が望んだものを。
・
・
・
・
・
「現実に居すぎて、腕が鈍ったのではないか、霧雨魔理沙。なんだそのへにょ弾は。幻想郷でのお前はもっと切れがあっただろう。それとも何かかい。博麗霊夢がいなきゃ、力が出ないのか。幻想郷でなきゃ弾幕ごっこも出来ないのか」
「や、やかましいっ!!」
全力で放っているはずの弾が、藍の横を素通りして行く。全身全霊を込めての一撃も、まるですらすらとかわされる。境界を抜けたり潜ったり、明らかに、彼女が八雲紫の式神としてこの場に立っている事は間違いない。彼女は、そう。八雲紫の式の下で動いている。春雪異変の時のような、独断専行ではないのだ。魔理沙とて弁えていたが、まさかこれほどに力の差が現れるとは。
新幻想郷では八雲紫も打ち破れた。だが、それは博麗霊夢の敷いた設定の上での話。あの神様みたいなバケモノに、人間が勝とうというのが、そもそもの理不尽。
「さあこい。私を超えねば霊夢には至れない。お前がお前の先に行く事もできない。見果てぬ現の先にある幻想は、さぞかし甘美だろうぞ。物語にたゆたう博麗霊夢は、お前の記憶と違わぬ美しさでそこにあるぞ。ほらほら、鬼さんこちらだ」
「ぐっ……ぬぅぅぅッ」
箒の上に立ち上がり、構える。使い魔を放って相手の背に配置。藍は笑ったまま空を泳いでいる。調子をくれやがって。
「背中にひきつけておいてそのまま上空にあがり、なんだ、ドラゴンメテオでもする気かい。そんな事をしたら、人家が吹っ飛ぶぞ。マスタースパークもやめた方が良い。あまり目立つと、自衛軍を呼ばれるぞ。情勢が落ち着いているからといって、皆馬鹿ではない。なんだ、それとも戦闘機とやりあいたいのか。ここは現実だ。幻想じゃあない。お前はそんな不自由な世界に身を置いているんだ。気がつけ」
眼下に広がる無数の光。幻想郷では心配しようのなかった、人間の命がそこにある。悔しさのあまり拳を握り締める。最大の魔法が使えないのでは、この境界の魔の式には太刀打ち出来ないではないか。
「ええい猪口才な……しからば!!」
なんぞと口を叩いて箒に跨ると、読んで字の如しと猪突猛進する。八卦炉をブースト代わりに置き、リフレクターの出力をあげたまま藍目指して捻りを入れる。当たるか当たらないかは問題ではない。近づけるか近づけないかだ。
「どおぉぉぉりゃああぁぁッ!!!」
「本当のイノシシ魔法使いだ」
不意に開く、目の前の境界。気がついた頃には、先ほど居た地点から更に離れていた。
「むっかぁぁっ!! 頭にくるぜ、ちったぁマシな弾幕戦しやがれっ」
「突っ込むのが弾幕なら、別にそうしてもいいが」
とのたまうと、藍は一端前傾姿勢をとり、大きく尻尾を振ると、まるで先ほどの自分のように、今度はたて回転で突っ込んでくる。余計な助言である。何度となく紫戦で見たものを再現させてどうするというのだ。
「あぶっ、お、あ、ひっ、こら、あぶねっ」
「避けていてもー、勝てんぞー」
「だからって当たれるか!!」
スキマを利用している為、全く行動でのディレイがない。右に抜けたかと思えば左から現れ、上に抜けたかと思えば下から現れる。ならば致し方ない。出てくる場所も定まらないならば、では全体に攻撃するまで。
「恋符!! ノンディレクショナルレーザーッ」
「出力を抑えないと……」
「ぐっ……」
地上が近すぎる。四方八方を魔法でぶち抜くのだから、これが下に届けば大惨事だ。とはいえ、今は凌ぐ術がこれしかない。なので、出力を抑えて小分けにして放つ。これではまるで切り分けたケーキではないかと、頭を悩ませる。
「いいかげんに……」
「いいかげんにしなさいっ!!」
「あだっ」
もうカンベンならぬと、ブースターにしていた八卦炉を手にとったところで、パチュリーの蹴りが魔理沙の頭を捕らえた。此方は思い切りノックバックで仰け反っているというのに、パチュリーは華麗に空中で制止する。八雲藍といえば、それを予測していたようにして飛びのき、二十メートルほど距離を保った地点で制止した。
「あーあ。力馬鹿に技術というものを叩き込んでいたのに。余計な頭脳が現れた」
「ふン。狐が。何もかも知っていてそう言う素振りなのね。いらつくわ」
「パチュリーお前な……あたた……メリー達はどうした」
「夢見に入り込むより、コイツを叩いて境界を潜った方が安全だって結論に達したのよ」
「なるほど、お前頭いいな……」
「ほら、霧雨魔理沙。愛しい友人が現れたぞ。お前が乗り換えた相手だ。少しは元気になるだろう。博麗霊夢ほどじゃないかもしれないが。精一杯頑張ってみたらどうだ。霊夢と一緒に居るときのお前は輝いていたぞ。だのに、パチュリー・ノーレッジの前ではさほどでもないのか? ねえ浮気もの」
「お、お前……!!」
「まぁりさぁ……一々怒らないの。だからパワー馬鹿なのよ。本当に強い奴には、力だけじゃ勝てないわ。大体ね、本領も封じられたままで戦えるわけないでしょう」
「け、けどじゃあどうすりゃいいんだ。このままじゃマスパも打てないぜ」
「打てるような環境を作ればいいでしょう」
「しまった、見抜かれたか」
藍はケタケタと笑う。大変いけ好かなく、魔理沙としては今にでもぶちのめしてやりたいのだが、パチュリーの本心は違うらしい。藍を見据えたまま、奴の腹を探るようにしている。
「……ねえ、八雲藍さん。何故今になって現れたの。このタイミングは出来すぎよね」
「ほうほう。流石は百六十年の魔女。よくわかってらっしゃる。問われたのならば答えねば。師曰く、絶望は絶好の機会に与えるべし」
「ああ、私達が至りそうになったら、抑止力として登場しろと命を受けていたのね」
「お前達が何処にいるかなんてまる解りだからな。紫様は、お前達を……おっと、喋りすぎだ」
「ならば問うわ。紫さんが、なんだって?」
「問われたならば答えねばならぬ。紫様はお前達を消したいんだ。夢からも。現からも」
「ふん。常々狐ね。彼女は助けてもらいたいのよ。不安から、解き放ってもらいたいのよ。でなきゃあね、破られる為にあるような障壁が、わざわざ私達の前に、現れたりはしないっ」
「頭の良い奴は付き合いにくい」
紫色が天を指差す。彼女を中心とした場所が薄い幕に覆われて行く。これが水の精霊である所までは理解したが、それに何の意味があるのか、魔理沙は理解不能だ。勉強はしているつもりだが、どうにもこうにも時間がコイツには及んでいない。
「防護幕よ。下には認識阻害をかけてきた。初歩の初歩すら忘れたの、魔理沙」
「さ、流石にこれは恥かしいぜ。むきになってた」
「……防護幕なんて敷くのは良いが、果して私に攻撃があたるのかな? さて。私に攻撃を当てたとして、そしてどうする。私が素直に博麗霊夢の元へ誘うとでも思うか? さらにさらに言えば。お前達は博麗霊夢にあってどうするつもりだ? お前達はもう幻想を捨てた身。では希望はこの世界にある筈であろう。そう、希望だ。お前達はこの世界に希望を追い求めなければいけない。なのにお前達ときたら、いつまでも夢を追いかけている。その先には何がある? 終わった世界に希望はないぞ?」
「む、ぐっ……」
「魔理沙。耳を貸しちゃ駄目よ。藍さんは貴女の弱点を解ってる」
「じゃ、弱点って……」
「サァサァ攻めてこい。今宵はまだまだ時間がある。たっぷり遊んでやらんこともない」
「魔理沙」
「なんだ」
「さがってなさい。私が道を開く」
そういって、パチュリーは藍の正面に立ちふさがる。その背中が、妙に大きく見えたのは何かの錯覚だろうか。今となっては自分よりも小さい彼女。だというのに、魔理沙の目には酷く頼もしく見えた。
「霊夢霊夢って、随分と魔理沙を揺さぶるわね」
「むむ……」
「何を問いたいかなんて、魔理沙は兎も角私には見え見えよ。狐が浅知恵使うんじゃないわ」
「ほう。愚弄する気か。愚弄されたならば、戦わねばならないわーね」
「あら、案外簡単に乗るのね、狐さん」
パチュリーの周りに湧出する魔術要素。この幻想を失って久しい土地でなお振るえるその力。どんどんと、自分がちっぽけに見えてしまう。火が舞い、水が飛び、土が荒れ狂う。木の葉が散ったかとおもえば、月明りが夜空を照らし、隠れていた日の光も眼を醒ます。彼女の瞳は輝いていた。
埃っぽい図書館で、一人本を読む少女がいた。びっくりするほど大きな本棚に囲まれて。確かに本は自分も好きだった。でも、こんな場所で閉じ篭っているラクトガールになんて憧れなかった。最初の印象は引きこもり。次の印象は知識馬鹿。最後の印象は、憎悪であった。
夢も希望もありゃしない。そこに世界は開けない。始まりと終わりが、あの図書館には同居していた。最初から始っていて、最初から終わっている。たびたび訪れるあの場所は、閉鎖的で、薄気味悪くて、一緒にお茶なんて飲んでやる気にもなれなかった。
夢も希望も、ありゃしない。絶対の保守的継続しかないあの場所は、霧雨魔理沙の望む場所ではなかったから。空を自由に飛んで。暴れたいだけ暴れて。奪うだけ奪って。そうして自分を示す事が、アノ場所での霧雨魔理沙だった。
「は、はは。なんだか知らないが、やけに強い」
「はは。だって今日は絶好調。こんなにも月が綺麗だもの」
夢も希望も。はて。自分と言う奴は、パチュリー・ノーレッジに対して、そんな問いをしただろうか。彼女の何か一つでも、汲み取ってやった事はあっただろうか。首を傾げ、ぐるりと回し。いいや、ないと頷く。
解るはずなんてないのだ。聞きもしなかったのだから。彼女の語る理想なんてものを、耳にした覚えが無い。だが、そう。彼女は最後に、態度で示した。己が何をしたいのか。己が創りたいものは、なんなのかと。ボコボコにされて。此方の夢も希望も全部打ち砕かれた。自分こそが正義で。自分の思う事こそが最善で。そう頑なに考えていたし、磐石であると信じていた基盤。
それは結局……自分なんかではなかったのだ。だから負けた。あたりまえだ。もっとも望むべき事柄を追い求める少女に、この世はどのような理とて、勝てるはずがない。夢見る乙女は、最強無敵だ。半端な霧雨魔理沙が、太刀打ちできる相手じゃあない。
「それに、意外とね」
「な――なんだ」
「護るモノがあるって、燃えるのよ――火水木金土符」
「ああこりゃ、参った」
「示さなきゃいけない道があるのよ!! 希望があるのよ!! 開きなさい、博麗霊夢への境界を!!」
賢者の『意思』強固なる思い。零を百にする第一種永久機関。そうだ。ならば敵うはずがない。
パチュリー・ノーレッジは、自分の知らない未来を知るものだから。
「完敗だぜ。お前にゃ」
「当っ然!! ……げっほげほげほげほげほげほっ」
「ぱ、パチェー!」
「ああもう、なんだかなぁ、お前等は……かなわないなぁー……」
眩いばかりの笑顔が、魔理沙に向けられる。彼女は、こんなにも美しい笑顔を持っているなどと、魔理沙ははじめて知った。
~最終幻想~
案の定、だ。霧雨魔理沙が外に出れば、かならず博麗霊夢と東風谷早苗を探し出そうとする。霧雨魔理沙を新幻想郷に渋々ながらも受け入れたのは、そこに理由がある。でもなかったら、あんな反発と反抗の象徴のような奴を、選りすぐる訳もない。細心の注意を払って扱っていたつもりだ。阿求、永琳他にも言い聞かせていたし、守らせていたつもりだ。今回の失敗は、原因でいえば阿求だが、パチュリーの心変わりと、そして博麗霊夢の自我に問題があった。
パチュリーが幾度か、霧雨魔理沙を外に出そうと画策した事がある。具体的にいえば、アレの行動を外に向ける等の、幻想郷外の物語を展開させようとした。ただそれではまったくもって意味がなかったし、紫自身が抑止力として動けは他愛ないものであった。そもそも、霧雨魔理沙は外に興味などない。そんな人間の思考を外に向けるだけで設定が崩壊したりは、しないのだ。
だが、だ。興味を幻想郷に向ける、というのは、自分でも考えなかったものだ。何せ、大概の物語が、幻想郷に居る事が前提である。幻想郷にいて幻想郷に興味を持つ話なんていうのは、起源を根掘り葉掘り探るようなものと、深い歴史を持った人物達の物語を創り上げる場合だろう。もちろん、幻想郷での行動であるから『幻想郷に帰りたい』なんて妄想は、抱くはずが無い。
『舞台が外』『妖怪』『パチュリー』『霊夢』『異界』こんな組み合わせが、新しい可能性を創り上げてしまった。阿求を責めたところで意味はないだろう。彼女とて、楽園に暮らす住人たちを一番に考え、そして新しい話を展開しようと躍起だったのだ。自分もそれを容認した時点で、必然だったのかもしれない。霊夢が友人である魔理沙を、大切に思っていると、知っていながらの容認である。
(……案の定、案の定、ね。幻想が外に漏れれば、幻想に近しい者が寄る。これから幻想になるものも、ただ朽ちるだけだというのに)
霧雨魔理沙、パチュリー・ノーレッジという、現代の異物。霧雨魔理沙の幻想に対する執着心と、境界を探る者達の思惑。どれだけ八雲紫が否定しようとも、結局は避けようの無い『霧雨魔理沙の物語』全てを必然とする凶悪なまでの強制力……。
そして自分はそれを拒む為に、抑止力を用意する。彼女の周辺は、博麗霊夢の中身と対して変わらない。”リアルファンタズム”という、偶然と必然の矛盾邂逅。幻想を求める力が、ここまで強いとは……常識と非常識を別つ己とて、想像だにしなかった。
(よぉ、やくもの。長いこと、外にいるなぁ)
「……」
頭にくる声が聞こえる。どこからよってきたのか。自分が、こんな曖昧な場所にいるからだろうか。酷く耳障りな、神々の声。
(失敗したんだってねぇ。みんながいうから、その悔しそうな面を拝みに来たよ)
(よもや、なんのしゃざいもないとはいわぬよなぁ)
(くかかかか、あれだけの大言を吐いたのだ。謝ってもらわねばな)
(ははははは。妖怪である事を是としていれば良いモノを、とんだ恥さらしだなぁ)
(神様になったのではなかったのかな、蛭子)
(洩矢がいて尚駄目だったのだ、あまりせめるな。ははは)
「五月蝿い」
(高天原も、根乃堅州も、黄泉も、神々が坐す土地はみな理想的であったのに。無茶な概念を敷くからそうなる。潔癖すぎるのもいただけんなぁ。なぁ、蛭子。何故そこまで許容できんのだ? そんなにも、無形である事が悲しいか? 完全に拘りたいか? 妖怪では満足出来ないか?)
「その名前で、呼ばないで頂戴」
(真名であろうに。血族であろうに。かたちなき神。島になり人になり妖になり、そうやって生き長らえてきただろう。今更否定してどうする)
「…………」
それは、なににでもなりえる形。それは、神に捨てられた無形の子。境界を曖昧にし、区別を取り払い、存在を希薄にする、忌子。八雲紫は一人、石棺の前で涙を流す。神々が口々に自分の悪口を言う。今更の言葉。だが、今だからこそあまりにも心を汚す言葉。神の言葉は言霊だ。その言葉には、言い知れぬ力がある。悩み、悶え、苦しむ八雲紫の精神を、まるでノミで削るかのように、抉る。
自分は完璧を望み、そしてそれは成った。数千年に及ぶ理想を叶えた。その歓喜たるやいなや、忌子たる八雲紫を有頂天へと引き上げる。非想非非想天の八雲が触れ回ったのだ。嬉しかった。とにかく。どうにもならないほどに。神の屑とまで言われた自分が、自分のクニを創り上げたのだ。親達も、もう既に顔も見せなくなってしまったこの世になって、やっと。
自分は穢の神。ひた隠された、人間の観たくない部分。自分は妖怪の神。忘れさられた、人間に不必要になった恐怖。
そんな自分だからこそ。無くなってしまう者、嫌われてしまうものが、愛しかった。ケのクニの神であると自負し、虐げられた者達を許容するように、務めてきた。幻想を招き入れ、残酷に残酷を重ねるような郷を作ってきた。けれど、これではやはり完璧ではなかったのだ。招き入れれば招き入れるほどに、幻想郷は膨れ上がって行く。幽霊は膨張して行く。侵略もしてみた。外界に棲家を求めた事もあった。だが、やはり巧くはいかなかったのだ。
どうあっても、創るしかない。幻想郷を拡大するでなく、常世に地を求めるでもなく。自分の手に入れた者達を使って、自分の足らないものを補って。本当の神になり、神の永遠の地を創ろうと。
――死んで欲しいの。幻想郷のために。全てが幸せになる為に。博麗。
今でも思い出せる、あの、困った顔。数代も前から、ずっとそのように言い聞かせてきた。転生を繰り返す博麗に対して、全てをつぎ込み、全てを受け入れるだけの力を、蓄えさせた。結果に出来たものは、全てを達観し、中立から物事を観る、まるで無限の箱のような娘であった。
その子が愛しくて愛しくて。自分の願望を叶えてくれる、唯一の希望だと、信じていた。信じていたからこそ――
「やっとみつけたぜ」
「大変だったわ」
「……藍は負けたのね……強い、人たちね……」
「なにやってんだ、こんなところで。カビが生えるぞ」
薄暗い岩倉。今でも隣では物語が進んでいる。そんな舞台の影の影に、八雲紫は居た。涙に濡れ、乱れた髪がなんとも物悲しい。魔理沙達が近寄ると、彼女はすぐさま、石棺に縋りついた。
「……わたさない……わたさないわ……お願いよ……この子は……この子だけは……とってゆかないで……私の希望なの、夢なの、全てなの……この子を失ってしまったら……この子の中にいる子達は、どうすればいいの。この子を愛する私はどうすればいいの。お願い……魔理沙、この子だけは、後生だから……」
あまりにも惨めで。魔理沙もパチュリーも、言葉を失う他なかった。どれだけ深い愛を注ぎ込んだのか。どれほどまでに愛すれば、ここまで出来るのか。理解し得ない。まだ、彼女の考えに至るには、二人とも、人生が短すぎる。
「石棺をあけろ」
「だ、だめ……だめよ……霊夢には……触れないであげて……もってゆかないで……」
「……顔を見せてくれ。お前は、私の友人を奪ったんだ。それぐらい、してくれたっていいだろう」
「霊夢も、早苗も、もって行かないでくれるのね……? 起こさないで、いてくれるのね?」
「……」
「魔理沙、そちらを持って。これ凄く重いから」
「魔法であければいい」
「刺激、与えられないわ」
「……ふん。眼なんか醒まさせちまえばいいんだ」
「……魔理沙。この中には、皆がいるのよ」
「……」
二人で石棺の蓋をずらす。ごりごりと音をたてて開いた中には、別れたあの日と、何一つ変わりない霊夢と早苗が、手を合わせるようにして眠っていた。周りには華が敷き詰められ、剣と、鏡と、玉が収められている。安らかに。息もせず。鼓動も止まっているのに。彼女達は、美しい少女のままである。
「れい、む」
「……」
「可愛いでしょう……綺麗でしょう……何もかもを受け入れた。幻想を幻想で留めてくれる、二つの宝石」
「――れいむ……さなえ……おまえら……ちく、しょう……」
「魔理沙……」
「これが……楽園か……? 誰の楽園だ……コイツ等は……こんな幸せそうな顔して……嘘ばっかり……」
うそじゃないわよ。
「……霊夢……?」
懐かしい声が、耳の奥に響くようにして聞こえてくる。もうあれから五年。焦がれに焦がれた、愛すべき友人の声だ。
「れいむ……れいむ……!!」
嘘なんかじゃないわ。私の中で、みんなが生きているの。貴女だって、知ってるじゃない。能天気で、馬鹿で、何にも考えてないようで。私は、そんなあいつらが、愛しいわ。そんな奴等を護れて、私は幸せよ。
「でも……でも、お前は……霊夢……お前、が、」
あまり、紫を責めないであげて。こいつはこいつで、精一杯なの。自分が、虐げられて、踊らされて、そうしてそれを否定して、頑張ったのよ。自分みたいな奴を創りたくなくて。どんな奴でも受け入れようって。だから、破壊者には容赦しなかった。それって、矛盾よね。でも、精一杯だったのよ。何もかもを受け入れるといいながら、全てを許容できなくて。その葛藤に苦しんで苦しんで。あとは、選りすぐるしかなかった。終わらない世界を創るしかなかった。これ以上は救えないと、区切をつけて。
「それで!! お前は幸せなのかよ!! なんの為に、私にああやって告白した!! 助けてもらいたかったからじゃ、ないのかよっ!」
最初は、そうだったのかもしれない。でも、今でいいのよ。これが最善。肉体が縛られようとも、魂は楽なものよ。今だって、私の意識体は博麗神社で、お茶を飲んでる。
「そんな言い訳!! 早苗にだって聞いた!! 早苗にだって言ってやった!!」
私は、自分の判断よ。早苗じゃあないの、私は。
「で、でも……」
……。魔理沙。ごめんね。最後まで、あんなで。巻き込む必要もなかったのに。私は私を是とするわ。私が私を認識する限り、ここは私の世界よ。この証明は、アンタには不可能。もう取り戻せないものに夢を馳せても、しょうがないわ。
「霊夢……霊夢ぅ……ああ、ああぁっ!! ばっっきゃろうぉ……」
外の世界は、楽しい? そこには、アンタがある? アンタは、そこで生きている? アンタの居るべき場所は、何処?
「わた、わたしは……おまえが……お前がいたから……お前がいて、わたしがいたから……わたしは主役なんかじゃあない……お前がいるからこそ、私が存在できたんだ……なのに、それじゃあ……ああ、くそ……くそぉ……」
「魔理沙」
パチュリーが、顔をくしゃくしゃにした魔理沙を抱く。もう支離滅裂で、何もかもがぐちゃぐちゃになってしまった魔理沙は、何かにしがみ付かずにはいられなかった。信念が、拠り所が、跡形も無く崩れ去った。『己に』否定された。誰よりも弱い。誰よりも希薄。故、誰よりも己を信じ、誰よりも、自分を高めてくれる彼女を信じた。
お前はお前だと。己は己だと。皆を説得してきた自分が、一番希薄であったのだ。自信がなくて。努力する事で穴埋めをして。幻想(博麗)に囚われつづけた、古風な魔法使い。
結局自分は、博麗霊夢を精神の支えとして生きることしか出来ない、脇役だったのだ。こんな愚か者を、救う術が一体どこにあるというのか。魔理沙自身には、何一つ思い浮かばない。ぐるぐると思考は巡るばかりで、何処にもいきつかない。よるべき島が無い。
「もし、他に方法があったとしたら」
だが。自分ではない。霧雨魔理沙に憧れつづけた、もっともっと愚かしいそいつには、見えていた。霧雨魔理沙が本当に望むモノがなんなのか。希望がどんな形をしているのか。『パチュリー』を連れ出した、魔理沙本人すらしらない、本能的な理由。
「……パチュリー・ノーレッジ……何を、いっているの」
「私が千年の魔女となって、神にも近づけるならば」
「……パチェ……?」
「何時の日か、全員迎えにきてあげるわ。八雲紫が成しえなかった、本当の、全てを受け入れられる幻想を。私は創ってみせる。妥協なんかしない。誰も泣かない、忘れられた、これから忘れられていく何もかもを許容する楽園を」
……。十全の楽園。完全の園。深遠のそのまた向こう側。難しいわね。
「大丈夫よ。貴女の大切で可愛い魔法使いは、私の手にあるのだもの。貴女を強くしていたその子はここにあるのだもの」
猛る。
「創って見せるわ。ねえ魔理沙。貴女はそれを望んで私を外に連れ出したんでしょう。だったら創りましょう。そうしてね、みんなを呼ぶの。紫さんだってぐぅの音もでないような場所に、みんなを。紅魔館の皆も。永遠亭の皆も。守矢のひとたちも。そうね、彼岸にも冥界にもひっつけてやりましょう」
猛る。
「何時の日か、私達が暮らした幻想郷のように……貴女が本当に幸せだったと言えるあの日を取り戻すの」
猛る。
「ねえ……ねぇ、魔理沙!! 此方を観て頂戴!! 私を見て頂戴!! 現実を、貴女の本当の現実を実現しうるこの私を!! わたしは、私はやってみせるわ!! 七曜ですもの、出来ないはずなんてない!! その時には、絶対貴女に、誉めてもらうんだから!! 絶対認めてもらうんだから!! 私が示すわ!! 私が貴女を救ってあげるわ!!」
……抱いてきた、その思いの丈を。霧雨魔理沙が望む、依存という名の自己の答えを。
「魔理沙!! 眼を醒まして頂戴!! 現実は『私』!! 夢は『霊夢』!! そして貴女は、私を選んだ!!」
……そこは、幸せなのよね? みんな、みんな。貴女も、魔理沙も、紫も、私も、早苗も。
「あったりまえよ、わたしを誰だと思っているの! 私は天地開闢の力を秘めし魔女、パチュリー・ノーレッジ様だっていうのよ!!」
「パチェ……おまえ……」
わかった。魔理沙をヨロシクね。弱い子だから。可愛い、私の友人だから。
「霊夢……」
……。アンタの幻想で居続けられなくて、ごめんね。迎えにきてくれる日、楽しみにしているわ。
――博麗霊夢は、儚き妖怪達のために。
――東風谷早苗は、儚き人間達のために。
……。私は私達は、貴女達が迎えるにくるその日まで、愛しい彼等彼女等を、抱擁しつづけるから。
声が、残響を残して消え失せる。
魔理沙はパチュリーにしがみ付いたまま。八雲紫は、呆然と二人をみつめていた。
自分は、なんて弱いのだと、魔理沙は思い。
自分は、なんて愚かなのだと、パチュリーは思い。
自分は、なんて恵まれているのかと、紫は泣いた。
こんなにもこんなにも強い意思を秘めた娘がいる。こんなにもこんなにも強く幻想を思う娘がいる。小さい小さい可能性だけれども。決して訪れない未来かもしれないけれど、その夢物語にも似たパチュリーの本気は、誰もが賛同し得る本当の楽園の姿であった。
「なんて……なんて愚か……私は……なんて……すばらしいものを幻想郷に迎えたのに……きがつきもせず……まるで人形みたいに……扱うなんて……道具のように……扱うなんて……貴女が、貴女が世界を創っていたなら、私が我慢していれば……霊夢だって……早苗だって……これから幻想になり行く者達だって……」
「泣き言なんて聞きたくないわ。貴女にはするべきことがある。この二人を護って行く義務がある。使い潰したりなんかしたら、承知しないわ。魔理沙が泣いたら、貴女なんて、ぼっこんぼっこんの、けっちょんけっちょんにしてやるんだから」
強い意思があれば。強い自己を持てば。そんな曖昧な幻想すらも、己の場所になりうるのだと。幻想だけを見つづけた霧雨魔理沙の終焉。現実の幻想のそのまた先にある、本当の自分を、彼女は見つめてくれていた。それにきがつきもしなかった魔理沙の終幕だ。
「紫」
「……ええ」
「悪かったな。お前は、やっぱり正しいよ」
境界が開く。現世へと帰依する。これが正しい道なのだと。
「そして、パチュリーは、もっと正しかった」
誰がなんと言おうと、少なくともこの二人は、絶対に己を否定したりしない。
「さよならは、前いったもんな。もう言わないぜ、霊夢、早苗。必ず、迎えにくるから、元気にしてろよ」
閉じる。
その先には、希望を見出すべき外の世界がある。
(愚かよのぉ愚かよのぉ)
(魔女に頼らずば何もできんとは)
(人間に頼らずばなにもできんとは)
「……何もせずして、人間に忘れられたお前達に、言われたくなんか無い。保身だけを欲して滅び行くお前達に、言われたくなんか無い。私は間違っていた。私は私が大切だったわ。けど、私が集めた可能性が、また新しい道を作ったならば、これから作りつづけるなら、私は、その礎になれた事になる。これは、自己肯定だけれど。単なる独り善がりのエゴだけれど。けれど、無駄なんて言わせない」
(神にはなれなかったのぉ)
(それでお前は満足なのか。イサナミの子)
(それでお前は満足なのか。イザナギの子)
(それでお前は満足なのか。淡路の子)
「満足よ。私は戦ったわ。私は足掻いたわ。その結果に導き出されたものが、新しい創世であったならば。彼女達が創る世界が、私をも許容する、おぞましい楽園ならば。私は――私を、肯定出来る。まあ、貴方達だって、期待しているといいわ。何せ、彼女達の世界は、きっと貴方達すら許容するもの」
(……)
(……)
(……)
「待ちましょう。愚痴なら、聞くわ。また、長い長い時間になってしまうけれど。もう長いこと待ったでしょう? なら追加で千年くらい、大した事ありませんわ。ねぇ、神様達」
(そこは、我々も幸せに暮らせるだろうか)
(そこは、人の笑い声があるだろうか)
(そこは、人の温かさがあるだろうか)
(そこは、ばけものでも、受け入れてくれるだろうか)
「……本当の幻想郷は、全てを受け入れるはず。それは――――それは、幸せなことですわ」
現実に幻想を見出す難しさ。終わる者達を引き寄せる、終わる者達を受け入れる強さ。リアルファンタズムという矛盾の中に潜む、本当の楽園。霧雨魔理沙は、パチュリー・ノーレッジは。その強力無比な存在力で、脇役を脱して行く。これから先、外の世界でどれだけの絶望を味わうだろうか。どれだけの希望を見出せるであろうか。
(……私に出来る事は、私がしなければ。そうよね、霊夢、早苗)
無謀。無理。無茶。不可能といわれようとも、そこにあるべき自分の姿を見出す強さを、きっと彼女達は、見せてくれるはずだ。
・
・
・
・
・
その日といえば、四人はいつも通り、近くの喫茶店で時間を潰していた。是非とも向こう側を観たかったのに何故連れて行かなかったと、蓮子はあの日以来ずっと二人を攻め立てている。じゃあメリーを使いましょうというパチュリーの意見に対して、魔理沙は流石に突っ込みを入れざるを得なかった。今更あんな場所に、何の未練もない。そも、四人で行って何をする気なのだ。また物語が混乱して一大事になったら、せっかく冷めた紫の熱が今度こそ猛威を振るうに違いない。と、魔理沙は思っている。
「ああそうだ、とったぜ、戸籍」
「ぶふ……ど、どうやってよ。まさか政府の管理コンピューターに侵入してスーパーハカーみたいな真似したんじゃないわよね」
「パチェと一緒にな、ちょいちょいと弄ったらまたこれが簡単だったんだ。コンピューターってのは使い魔みたいなもんだろ?」
「楽勝すぎて鼻から讃岐ウドンを踊り食いした挙句新通天閣で一人よさこい祭したほうが難しいって解ったわ」
「私達はムカンケイです。け、警察さんに追われるような真似はやめてね……メリー、アンタも何かいいなさいよ」
「楽しそうじゃない。ふふ、二人はあれかしら、ダーティーなペアっぽいなにか」
他愛有るか無いかはともかくとして、そんな話題を繰り広げる。戸籍を不正取得し上に学歴詐称したのは他でもない。二人が通う大学に通うためだ。というか大学のデータもとっくに弄ってある。別に勉強ならば外でも出来るし、図書館だって幾らでも出入り出来るのだから不自由はないのだが、これもパチュリーの意向であった。流石に魔理沙とパチュリーでは歳の差があるように思える。思えるが、同じ年齢として不正操作したので今更だ。
そんなことまでして何故大学に入りたいか。パチュリーの理由は簡単で、秘封倶楽部に正式入部したいからだそうだ。そもそも非公式じゃないのかという魔理沙の提言は、はっきり無視された。
「はあ。魔女っていうのは常識が通じないのかしら」
「魔女って時点で常識もなにもないと思うぜ」
「魔理沙は大学でもう少し常識を学ぶといいわ。裏側の悪行はともかく、一般社会の人として」
「お前にいわれたかないね、引きこもり萌やし」
「ひどい。きいてメリー、魔理沙が虐めるわ」
「おおよしよし。魔理沙さんはひどいでちゅねー。ああ、なんか、うん。これいいわ」
「メリー。まずいぜ」
「メリー。まずいわ」
そんな日々が、新しく始る。想像もつかなかった大学生生活。魔法使いと魔女のコンビが、現実世界に生きる現実。
「なあ、なんで大学なんだ。あの二人に、何かあるのか?」
夕暮れの川沿いを歩く。先にはあの二人が楽しそうに談笑していた。隣にいるパチュリーはそんな魔理沙の問いに対して、くすくすと笑い、やがて口を開く。
「境界を見る程度の能力。星を見て時間、月を見て場所が解る程度の能力。さて、何に通ずるかしら」
「……」
「紫さんね」
「……おいおいまさか」
「断言はしないわ。でもあの二人がもしそのような超常的な力を別った存在であるならば。八雲紫の同位体。もしくはそれに通ずる何かである可能性が高い。次の楽園を創るにも必要な力だわ。折角貴女が引き寄せた幻想」
「……」
「……冗談よ。私は貴女と二人で創って見せるわ。大体、彼女達を千年も生きさせるなんて無理がある、彼女達は異能であるが故に、今を見る必要がある。そういう意味では、まず魔理沙をなんとか魔女にしたてあげなきゃあね」
「それとあいつらと、何か関係するのか?」
「ないわ。ただね、折角人間の支配する世界で生きる決意をしたならば、地に足をつけなきゃ。それに、物事は楽しい方が、よいでしょ」
「お前って、意外と楽天家なんだ」
「発想は自由に。行動は幅広く。興味は深く。何もかもを知らねば何もかもを有する楽園なんて、つくれたもんじゃない」
「あいつらが、面白そうだってだけじゃないのか?」
「それもあるわ。だって、なんだか凄く、幻想郷の人みたいな空気なんですもの。それに、折角貴女が引き寄せた幻想」
「はは。同意だ」
二人で笑いあう時間。これから歩む土地と、歩む時代。生きる下地と続く歴史。その先にこそ、本当の己がある。
「ああ、明日から授業とか出なきゃならないんだなー。なあ、バレないか?」
「今更」
「確かに。どうせもう根回し済んでるんだろ。ジョーシキをうたがうぜー」
今時の服をきて、今時のカバンを振り回して帰り道を行き、今時に歌を口ずさむ。
「常識ってなんなのかしら。共通に認識しうる現実ってつまりなんなのかしら。貴女は貴女。私は私。私の認識する世界と常識が私の世界と常識。貴女も」
「もう繰り返した問答だ。ああそうだ、私は霧雨魔理沙だ。他の誰でもないね。お前によっかかりっぱなしの、怠惰な魔法使いだぜ」
「そうね。強く信じればこそ。私は貴女を強く信じるわ。あなたも私を強く信じてる」
「どうかな」
「なんだと」
「はは。ああ、保障するぜ。お前はお前だ」
それは意味のない答え。
「ええ。保障するわ。貴女は貴女。自分勝手な、愛すべき馬鹿者。私が本当に望むものを、とうとう与えてしまった人」
それもまた、意味のない答え。
「ひどい依存関係だ」
「いいじゃない。裏切ったら、祟るわよ?」
「こうみえても、一途なんだぜ」
「ねえねえーー!! このまま帰るのもあれだし、どこか飲みに行きましょうよーー!!」
「め、メリー。あんなシリアスそうな二人に何いって……」
「酔っ払って前後不覚になっても、私は私かしら?」
「そうだな。私が保障してやるぜ」
「なるほど。じゃ、行きましょうか」
「おう」
手を繋ぐ。強く握って、互いが互いであると信じる。ここが、生きるべき場所なのだと信じる。新しい楽園を創る礎なのだと信じる。その想いこそが、見果てぬ幻想すらも己としてしまうだけの力があると、信じる。
「パチェ」
「なぁにかしら」
――ありがとう。
――どういたしまして。
物語は、まだまだ始ったばかりだ。
脱帽の一言です。
完膚なきまでに打ちのめされました。
儚き~のくだりを見て二人の巫女にこういう解釈の仕方もできるのだなあと思いました
でも、後悔はしないで済んだぜっ 素晴らしい作品を有難うよ!
霧雨魔理沙=本当は弾幕ルールに守られた弱い脇役である
という、陰で皆が薄々「…もしかしたら」と思っている部分をここまでグッと押し出して
尚且つ、ここまで清涼感溢れる霧雨魔理沙を見たのはこれが初めてです…
胸にスッと風が吹き抜けた心地
この素晴らしい読後感をくれた作者様に感謝。 シビれました!!
[(メタ)^n (nは2以上の任意の自然数)]なお話を読むのは酷く頭を使うので得意ではないですが、好きです。
これでハッピーエンドに出来るんだから凄いなぁ。
今回は藍様が一番好きです。
毎回面白いSSを有難う御座います。
長さを感じさせないところがまた心憎い。
こんな凡庸な感想しか書けませんが、
すばらしかったです。
ラストの石棺の辺りから涙腺が緩みっぱなしでした。
幻想郷というセカイを内包して、自由でありまた縛られた弱いニンゲンの魔理沙と愚かで素晴らしいマジョのパチュリーと。それに他の脇役たちもしっかりとしていて。よく描けるよなぁ、とただただ楽しんで読ませてもらいました。
真・博麗大結界の中の物語は私たちの作る物語で、あれですね、俄雨さんがパチュリーなんですね。わかります。
誤字と思われるのがいくつかありましたので、それぞれの作品にて。
八雲紫が獲物のしていたのは →獲物にしていたのは ?
発想といい、文章といい、展開といい、自分の筋を通す各キャラの味といい……相変わらずの素晴らしさ、本当に脱帽です。
全編に渡って読んでいるこっちが息切れしそうな始末。
稀に気になったのは会話ですかね。
なんせ登場人物が多いので人が多い場面だと会話だけでは話しているのが誰なのか思い浮かばなかったり。
話自体も一筋縄でいかない(だが、それがいい!)ので、内容をより難解にしてしまっている感がありました。
すいません、こんな頭の回らない時間に読んでいるからなのかもしれませんzzz
それにしても、作者でもあるあっきゅんはそーそーわが好きなんだな~。
そして、ゆかりんは虻さんばりに気苦労が絶えないw
少しばかり誤字が散見されるものの、それが如何程のものかとばかりにぐいぐい引っ張られていきました。
お話はここで終わり、しかし物語りは続いていく。こんな終わりにすんなりと納得できた大作は久方ぶりです。
うん。細かいことは抜きにして一言。
すっげぇおもしろかった!
発想と展開が凄すぎますね。
最初は、なんかよくあるキャラを現実に書き換えた学園ものかと思ってたら、大いに期待を裏切られました。
もちろん、いい意味で。
多少誤字や、会話文の読みにくさがあったりはしましたが、それを補って余りある内容の濃さでした。
てか、こんなにも長かったのにおもしろすぎて一息に読んでしまった・・・
とにかくもう、楽しかったです。他に何があっても中断ができないほどに。
ゆかりん18歳は無理があるww
そして個人的にパチェ&魔理沙の大学生活が気になって仕方がなかったり・・・
能力は神に等しくあれど、常にその精神に苦悩と愚かさと賢しさと悲しさと儚さと弱さと強さと純粋さがあって、そして霊夢を自分が壊れるほど愛しすぎている。
ゆかりんのヲタとしてはゆかりんが悲しく愚かな姿は見ていたくないのに、でもその姿が美しすぎてどうしても読んでしまう。
受け止めてくれる相手がいないと壊れてしまいそうなゆかりんだけど、やっぱり俄雨さんの霊夢はいつもそんなゆかりんを受け止めちゃうから憎らしくてでも素敵な楽園の巫女だ。
今回も霊夢が完全にゆかりんを切り捨ててくれたら「あゝいじめられて可愛そうなゆかりん、よしよし」と思えるのに、指先で2人が繋がっているように感じるから、俄雨さんのゆかれいむは心が痛くても目が離せない。
今回も圧巻でした。
ゆかりん・ゆゆ様・えーりん・かなこさま・ゆうかりんのあいどるゆにっとは怖いもの見たさがw
おぜうさま・いもうとさま・ちるの・るみゃーにえーりんは怖すぎて…
そして一度でいいから俄雨さんの甘々なゆかれいむも読んでみたい
この二人が大好きなので、この訳の分からん出し方が気にくわない
それにつけても俄さんは古事記の上つ巻きが好きでいらっしゃるw
この素晴らしい魔理沙とパチェの物語に於いて、途中でゆかりんの出生やら新幻想郷の本質やらは余分ではないかと思ったりもしましたが、最後の最後の最後でパチェがやってくれたのでそんなのは杞憂に終わりました。秘封の二人(大好物です)まで操りきって全てを纏め上げるのはもう凄いとしか。一つだけ、ゆかりんが常に胡散臭くて万能で十全で完璧で年増で足臭いわけじゃなく、霊夢に否定されて凹んだり神様達に悪口言われて凹んだりしてるのが残念でした。単に「ぼくのゆかりんはこんなんじゃないやい!」っていう子供っぽい感傷に過ぎませんけどね。
以下誤字らしきもの
>食糧危機を合成食品という形で精製。
合成食品の生成という形で解決?
発想がすごい、設定がすごい、構成がすごい、展開がすごい、演出がすごい、もう褒め言葉しかでない。
それと、これの続きでも続きじゃなくてもいいから現役女子高生アイドル八意永琳17歳の話を書いて下さい。
お見事でした。
この点数をつけるしかできない自分。
中編で紫が取り乱したのには「おや?」と思いましたが…こういう背景を持ってくるとは。
誤字が多く見られましたが、いつの間にか読み終わってました。これはいい大作。
とりあえず『最終幻想』をみて、「あ、○ァイナル○ァンタジーか!」とか、途轍もなくどうでもいいこと考えちゃいました。いやもうホント、これで勘弁してください。
ただ、ダイレクトな感想を書かせていただくと、このようなパラレル的な話は個人的にNGなので馴染めませんでした。
本物の東方キャラとは離れた俄雨さん独自のキャラクターだと思えばとてもしっくりくるのですが
やはり東方キャラは東方の世界とルールで生きている方が違和感なく納得できます。
という非常に偏った私情混じりまくりの観点からこの評価にさせていただきました。ごめんなさい。次回作も期待しています。
話の流れが二転三転するにも関わらずどんどん読ませるその筆力、脱帽です。
しかし前書きもなしにパチュマリ百合的要素を大前提にしての展開はどうでしょうか。
古事記まで引っ張って他のキャラの独自設定も作っての長編で、大風呂敷広げた割りに結局百合もの。
しかもその主要キャラ(魔理沙、パチュリー、紫)の全員が『東方』キャラではなく氏のキャラになっているように見受けられました。
暴言とは思いますが、これならば東方ではなく、一からオリジナルでやっても十分だったと思います。
技術的にも、世界観的にも。
あまり引き込まれるテーマでは無かったです。長さの分さらにハードルも上がってて。
(過去作が偉大すぎてどうにも色眼鏡かけて読んでしまったのもあるやも。。)
しかし文章の装飾(?)がほんと素敵。プリーストは確実に売れる
という感想でこの点を。次回作にも確実に期待してますっ!!
ただ、相当の年月が過ぎても忘れられないお話であることは間違いないかと。
アッという間に読み終えてしまいました。
素敵な物語をありがとうございました。
まず作者様自体に東方への愛を感じました。前編中編見ている途中、最後がどうなるか、どうなるか・・・と楽しさ半分怖さ半分で見ていましたが、最後の閉め方がとても素晴らしい。あの話の流れならば、BADENDのコースは考えられるだけでも大量に出てきます、だって魔理沙が主人公ですから^^; それでも魔理沙のキャラを最後まで壊さず持っていけたのは作者の発想力としか言いようがありません。きっと作者の東方への愛情がそれを可能にしたのだと信じたいw
作家として扱いにくいキャラ(しかも主人公)をどうしてここまで流れに沿わせることが出来るのかww そこが自身作家として羨ましい限りです。
俄雨氏の名前が上がっているのを見つけて、やはり期待通りでした!ありがとう
氏の作品は過去作から全部拝見させてもらってます。
今回もまたフルコース級の作品をありがとう。
メタにメタ入れメタ重ねて…まるで紫様に「夢と現の境界」弄くられたような心地です。
本当に心の底から、幻想郷を、東方を愛しておられるのですね。
しかし、まさか「蛭子神」を持って来るとは…この発想力は凄まじすぎます。
感服致しました。
前編を読み始めてから一刻ばかり、本当にあっと言う間でございましたよ。
素晴らしい一時を有り難うございました!
私の睡眠時間です。
いやもうすごい。本当に凄いです。
初め読んでいて「あ、コレは良よくある閉鎖系、大脱出作戦物か!(好物。しかも学園物w)」と喜々と読んでいましたが、
見事にやられました。大撃墜です。
でも魔理沙が永琳の薬で眠った後のメタメタメタァ~な展開の所はちょっと不安になりかけもしました。
「ああ~そっちへ行ってはだめぇ~。なんか残念なお話になりそうなかほりがぁ~」ってな感じに。
しかしそんな私の浅はかな心配を他所に、その後とても素晴らしいお話が組み上げられていて、もう歓喜する他ありませんでした。
本当に素晴らしいお話をありがとうございました。
まだまだ書きたい事は山ほどありますが、他の方々の迷惑になるので、名残惜しくもこの辺で。点数は文句無しの100!
しかし咲夜さんの出番がほとんどないはずなのに、強烈な印象が残る。
とゆうか間違い無くおいしいとこ取りっ……!
本来魔界人であるアリスと紫の怒りを買った天子辺りのフォローがあれば文句なしだった
ベストであった… 何言ってるか自分でも今一分かりませんが、そんな気がします
素晴らしかったです
でも、何人かの方も書いているように
これってもう東方じゃないですよねえ。パチェも魔理沙ももうパチェじゃなく魔理沙じゃない。
にわか雨さんのキャラですな。
とても良いオリジナル作品を読ませていただきました。次は東方物でよろしくおねがいします。
とにかくすごかった。
さて追試頑張ろうか
意図しているのかな? と、思いながら読んでいたのですが後書きを読む限り、どうやらそんな感じだったようですね。
ただ、ライトノベルを否定するつもりは全くありませんが、この作品の場合、キャラクターや設定、表現の味付けが悉くお約束を踏襲しすぎていて、ライトノベルとしてもありきたりな上、そのお話お話した作風の為、迫ってくるものが無く、この作品に重要と思われる臨場感が全く表現できていなかったように思います。
独特な世界観を持つ東方作品を逆手にとった切り口も狙いだったのでしょうけど、全体を通して見て、それが成功しているとは私には思えませんでした。
また、二つの世界を扱っているにもかかわらず両環境を利用したキャラクターの掘り下げを表現するでもなく、ただ表層や舞台だけを刺激的・感情的に演出してしまった様に感じられて、その点も個人的には非常に残念でした。
事件があり、それを解決をする。その未知の道順を追うだけでも話として十分楽しく意味のある物になるとは思うのですが、この作品の場合、定型的過ぎることもあり、ただ『壮大で感動的な話を書きたい』という目的の為に書かれた作品、という印象ばかりを受けてしまいました。(あとがきからパロディやメタフィクション要素があるとのことなので、ある意味狙い通りという事だったのかもしれませんが)
厳しい内容の感想を書いてしまいましたが、逆に言えばありきたりなライトノベル程のレベルの作品ということですので、作文としては十分凄いことだと思います。それだけに惜しく、この感想を書かせていただきました。
面白かったです。
素敵な時間をありがとう。
世界観に引き込まれたので
細かいことなんてわかりませんが
あともう少し短くまとめてほしい
キャラクターの性格やポジション、変わり過ぎでないですか。
それぞれの第一特徴は残っているけどもう全然別モノのキャラクターですよこれ。
とりあえず、魔理沙はここまでひどくないと思います。
キャラクターや世界観の受け取り方は人それぞれといえど、大幅な改編は原作無視ということになります。
あんまり傷つけない程度にお願いします。
かなり ぎりぎり だ!
ダイナミックな話の進行をグダグダにも置いてきぼりにもならず一気に読めました。
ただメタの要素が強い分、主役がぼやけてしまい、物語を振り返るうえで何を伝えたい物語だったのかが曖昧になってしまたような気がします。
展開が激しい分、一人ひとりの存在感が薄れてしまったのかも知れませんね。
もうちょっとなぜ新幻想郷が必要とされたのか、魔理沙からの質問だけでなく創設者の想いを描かれてれば、と思います。
後日談として、外に出た魔女と魔法使いの日常も気になるところですね。色々出てきちゃったみたいな。
長い帰りの電車を、楽しいひと時に変えてくれた作者さんに感謝、です。
現実で仮想である精神空間で、記憶を一時消し、なま物で本物の人妖をシナリオ通りに動かす。さらに何度でも最初から始められ、歳を取らない。
霊夢の中にみんなの肉体があるとは考えられない。もしみんなの精神だけが入っているのなら、どこかにある肉体は何十年も持たないし、肉体がどこかになければ外の世界にでれないだろう。
本当に全てを受け入れられる幻想というのにも好きになれませんでした。すみません。
『オレは東方幻想(ファンタジー)を読んでいたと思ったら、
その中には更に幻想世界(ファンタズム)が構築されていた』
何を言っているのかわからないと思うが、オレにも何が起こったのか
全くわからなかった……頭がおかしくなりそうだ。
メタ話とか、IFストーリーとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だ……
と、とりあえずこれだけは言わせてくれ……GJ、だ。
永遠のまどろみを想うと切なさで破裂しそうです。
紫の葛藤や蛭子という設定とかは良かったと思う
あと一応紫は一次設定だと少女なのにみんな酷いなw
次回の作品も期待して待ってます。
東方は一次って言っても設定が結構曖昧だから、俺は作者によって色んな主義主張信念を持ったキャラを楽しく見てる。
最後のパチュリーの宣言には鳥肌立ったよ。
おつかれ。
やはり違和感は拭えませんでした。
個人的に、一部のキャラ、あの世界を肯定できるとは思えないんですよね。
これだけのものを完成させたのには素直に称賛を送らせていただきます。
良い作品だと思います。
ただ、独自のキャラ設定は嫌いではないですが、魔理沙だけはあまりに自分勝手な性格が
強調されすぎて不快な気分になってしまいました。
という訳で、個人的にはこの点数です。
世界設定が明かされていくところなどハラハラしました
ただ主役の魔理沙の言動はかなり不愉快に感じました
それ以外はかなりのレベルなのにもったいない
管理者のメンツはかなり悲壮な思いでシナリオ書きに挑んでいるのかと思いましたが…
最後の阿求シナリオへの「メモ書き」にかなり救われましたwww
パッチェのキャラや性能がやりすぎ感がありましたが、魔理沙の「自己中心」をここまでいい取り方した作品を見れたのは初めてです
霊夢の永遠の楽園の巫女の解釈も新しい境地でしたし、これからも貴方の作品を楽しみにしてみます
あと個人的に大好きな紅魔組が毎度扱いがいいから貴方の作品は大好きなのさ・・・・っ!
あと俄雨さんの霊夢やゆかりんは本当に超越者の様なのに
どこか人間らしい弱さや可愛さがありますね
ラストも俄雨さんの東方に対する想いが伝わってくるようでした
途中から完全にぱちゅまりなお話だったので現実世界の事も実はぱっちぇさんのシナリオなのではとかドキドキしてたのは秘密w
パチュリーの日陰娘を飛び出して熱血展開というのには悶えました。
後編が少し冗長ぎみだったのはいただけませんでしたが、それでも最高でした。
三作すべてで涙腺が刺激される作品に出合ったのは久しぶりです。
その発想はなかった的な展開なのに,それをすんなり納得させる流れ。
各キャラが立つ描写に,濃すぎない程度にほどよい各キャラに対する独自の色。
最初は妙だなと思ってましたが,中編から先は一気でした。
後編の流れがとても良かったです。紫の葛藤とか正体とか。
次回作も首を長くしてお待ちしてます。
全体としては良い作品だと思いますが、所々しんどかったです。
特に、導入部の冗長な学園百合パートは何とかならなかったのでしょうか?
かなり退屈でした。
魔理沙に関しては極めて原作に近いキャラ付けがされていると思います。
とは言うものの、主人公である彼女にここまで感情移入し辛いのは、SSとして
致命的かと。
紫たちが訴える理に対して具体的な反論もできず、開き直って駄々をこねる
だけのウザいクソガキ(しかも一人では何もできない)が物語の牽引役という
のは、ちょっと・・・。
更に、霊夢やパチュリーといった力のある存在が私情で肩入れすることから、
魔理沙の我が侭が通ってしまうので、読んでいて非常にストレスが溜まりました。
作品そのものはとても興味深く、よく練り上げられているのですけど、その理由で
評価をマイナスせざるを得ません。
この後魔理沙達がどうやって本当の楽園を作っていくかが気になります。
どうしても過去作と比べてしまうのでこの点数に。
これほどの大作お疲れ様でした、次回作も楽しみにしています
ただそれを除けば非常に高いレベルの作品であると思いますし、
読み物として面白いものでありました。
あなたの過去作をすべて読み、前述のマイナス点を考えた上で、
この点数を作品への評価とさせていただきます。
後から考えると、あのはじめ方がよかった
最初は退屈であったし、他にもその様に思っている方もいるようですが、進んでいくにつれてこれが効いていた
あと、展開の持っていき方がすごくうまかった。とにかく引き込まれてしまって、気付いたらやめられなくなってしまった
中編で一応区切りがつきました。ぶっちゃけこれで終わりかと思ってしまいました。いや、もちろん後編があるから続くのは分かっていましたが、しかしここからさらにどうもって行くのかと思っていたら・・・
後編もよかった。なるほど、こういう終わり方もありか
さて、後は個人的な感想になるのですが、見たところ身勝手な魔理沙を嫌う人もいたようですが、自分はそんなことがありませんでした
むしろ紫の方が身勝手に思い、自分は嫌いでした
まあそれはおそらく、自分が紫の創った新しい幻想郷が好きではなかったからでしょう
個人的にはあの幻想郷よりも、不完全な古き幻想郷のほうが好きです
もし自分が新旧を選ぶ立場に立たされたら、新しいほうへは行かず残ることを選択したでしょう
だから魔理沙のほうに共感を覚えました。まあ、魔理沙が紫に反発した理由は結局自分のとは違うものでしたがね
という自分のエゴで、点数はこのように付けさせて頂きました
あと最後に一言。あとがき部分だとはいえ、紫女子大生はないだろ
余韻が台無しだ
この作品に出会えて良かった。
それに尽きます。
蛇足ですが。
一番印象に残ったのが、
今まで読んだどんな作品より、紫が魅力的に描かれていた点だったりします。
俄雨さん絶対紫様好きでしょ!
俄雨さんの既存の作品が好きなだけにちょっとこれはどうかと。
いつもどおりハイレベルだと感心した反面、今回は加工しすぎでないかと残念に思いました。
いかにかっこいい作品であろうと、ここでは別にオリジナルが読みたいわけでないので。
でもこの魔理沙はかわいいと思いますよ。
だけど熱が冷める前に言わせて欲しい、最高の物語だったよ
そしてあなたからのメッセージも受け取った
臆さずに自分の幻想を物語にしてみるよ
でもこの世界観をわざわざ東方キャラでする理由があるかないかで点数が分かれていると。
正直、ニーズはないと思う。キャラ崩壊してて別物だし。
でも十分楽しかった。三部読み終わった後、しばらく物語に飲まれていた。書き手の全力を感じた。
だから、この点数。次回作も楽しみにしてます。
あえて現実を紡ぐ事を選んだパチュリーと魔理沙に幸あれ。
それと俄さん。あんた本当にゆかれいむ好きだな
だけで乗り越えたことってありましたっけ?
行動力はあるんでしょうけど、実のところ口先だけ。
なのに「私の力でクリアしたんだぜ!」みたいに考えてるように見えます。
そして、そんな魔理沙に心底惚れてるパチュリー。
そういう2人が作るセカイって、すごく歪んでいる上に穴だらけなような気が
してなりません。
紫は何だか丸め込まれてるし。
読後感が悪いというか、幻想郷の未来は暗そうだなあと思わせる終わり方でした。
我の強いキャラを演出したかったのかもしれませんがそれが魅力を引き出す方向にいってません。
東方のキャラクターが好きで創想話を読みにきているので、扱いがひどいとやっぱり気落ちしてしまいます。
劇場型を目指されているのでしたら、動かす駒のひとつひとつを大事にするのも大切だと思います。どうかお願いします。
ぐだぐだ出し続けた感が否めない
肝心の中身の登場人物が全部ぱちもんだったという感じですが
話の筋は面白かったです
魔理沙の弱さ、身勝手さも実際その通りでしょう。普通の人間。弾幕ごっこというルールがなければ、他の妖怪たちに及びもしない力無い存在。実に原作そのままです。
ですが、これだけ壮大でシリアスなストーリーの主人公を務めるに当たっては、逆にそれをそのまま描くべきではなかったのでは?
少なくとも、彼女の強さを見せつけられるような場はこのSSにあったと思います。もう少し主人公としての魅力がほしかったです。ヒロイン役に終始おんぶにだっこの主人公なんてカッコいいはずがない。
文章力については流石の一言に尽きました。何だかんだ言って、自分は正直楽しませていただきましたので、感謝を込めてこの点数を送らせていただきます。
作品としてはすごく素晴らしいものだと思います。ただ、新しい幻想郷を作るのは良いのですが、あの世界でおこっていることは人格の改変に相違無いと感じました。そこが好きになれない理由ですかね…
私は作者さんで評価を変えるのは作品に対する侮辱であると考えるのでこの評価を。
我さんの新作楽しみに待ってます。
話の方も、いつもとは毛色を変えていて、好みが分かれるところだとは思いますが、僕は素直に楽しめました。
違和感を感じない。 なんでなんだろーなー。
自分本位で強気に見せかけていて実は弱気で。強い依存も解釈次第だけど、そう思わせるふしがある。
霊夢・早苗さんを外すと、どいつもこいつも自分勝手で、実にらしかった。
パチュリーは一途な乙女だなぁ。
そういう勘違い馬鹿は気にせずこれからも書き続けてくださいね
しかし、この話に出てくるキャラクター達もまた作者の見た幻想なのでしょう。
それをここまで表現できる力に感嘆しましたし、大いに楽しみ共感させてもらいました。
この点数をつけるにはそれだけで十分だと思います。
それはおいといて、東方の新しい一面を見せていただきました。
キャラクターが別モノというのはやはり感じますが、それ以上に世界観の構築が素晴らしかったです。
キャラ設定も展開もマスパが直撃したかのようにひっちゃかめっちゃか。それでも、最後まで一気に読んでしまいました。
オリ設定を相当量混ぜ込んでいるのに、しっかり作品として纏まっているのは純粋に俄雨氏の構成力の凄さでしょう。
本来なら100点を付けたいのですが、「※この物語にはかなりのオリジナル設定が含まれます」等の注意書きが無かったので、
10点減点しました。 他の方の感想を見ての通り、オリが苦手な方もいますし、いろいろな意味でこの作品は異色な物ですから、
話の最初に注意書きを設けた方が良かったのではないかと思います。
少ない一次情報を押し広げ、こんな風に動くかもしれない、という空想。
自分勝手な魔理沙は究極のエゴイスト、お籠もりなパチェはそれに僅かの羨望。そう考えればこんな立派な二次創作のできあがり。ですね。いや、よくわかりませんけど。
各人が抱く「理想のキャラ像」というものを持っている人が多いようで、割と受け入れられない人もいるとは思いますが、
私は半端なく面白かったです。
でも、やはり東方はあの世界(幻想郷)で皆が楽しく生きている方が良いと思います。
博麗神社に入り浸りみんなで宴会をしたり、霊夢と魔理沙がお茶を飲みながら何をするでもなく語り合ったり、紫が境界から出てきて人を驚かせたり・・・考え出せばきりがありません。
幻想郷での彼女達が大好きな自分からは、ここまで苦しんだり葛藤したりするのは少し辛かったです。なので、評価は90点としたいです。まあ、最後まで一気に読んでしまったわけですが。
我雨さんの作品を読むのはこれが初めてでした。
他にもあるみたいなので、読んでみますね。
最後に改めて。素晴らしい作品をありがとう。
増やして 賞賛されている感じがするほどでした
原作キャラの名前だけ使って全然関係ない話でしたので 途中で読むのをやめました
最後まで読むとまた違った感想がでたかもしれませんが・・・・
紫が蛭子とは・・・
俄雨さんは古い神々を心底愛しているなーと
紫を嘲笑っていたのに、その反論に沈黙して、パチェのつくる「本当の幻想郷」に惹かれる神様たち
煩わしくて、滑稽で、もの哀しい、忘れられた神々の悲哀が感じられました。
パチェと紫に幸あれ。
最後のメモとゆかりんに吹いたw
ああ、でも凹んでるゆかりんには泣けたなぁ。
うん、やっぱり自分はあなたの作品が大好きなんです。
そういった意味では面白かったです。趣深いといったほうが近いかも。
序盤……(1)の中盤辺りまでですか、がとにかくダルくてそこで引き返した人もいそうです。
パチュリーと魔理沙の視点がぱらぱらしてやや混乱しました。
通常の幻想郷と設定が違うから余計にですね。
個人的に疑問、というか霊夢の役割に比べて早苗の役割がよく理解出来ませんでした。
妖怪に依る霊夢と人に依る早苗、みたいな構造としてはなんとなく分かったんですが霊夢はともかく早苗にそこまで重要な役割がくること事態が違和感というか。
何世代にも渡って目的意識を持って転生を繰り返した霊夢とぽっと出の早苗が同格に置かれている、という設定の妙も感じます。
後半以降は怒涛のまとめに入ったような感じが拭えません。
魔理沙が世界を抜け出すところまででエピローグに入ったほうがスッキリしたような感じを受けます。
おまけで蓮子やメリーが出てますが、ゆかりんが幻想郷の力を結集して作り上げた世界を彼女らの存命中にパチェが超える、というヴィジョンがどうにも描けませんし。
いろいろ言いましたがいろいろ言いたくなるくらいには面白かった。
東方でやる話か?みたいな話が出てますが、これは東方の話だなぁとそういった面では素直に。
ただちょっとテーマが壮大すぎたかなって感じで。次のお話も期待してます。
箱庭偏愛者、物語至上主義者として、この上なく良い時間を過ごさせて頂きました。ありがとうございます。最高。
とても不快でした。しかし物語の構成や文章の上手さは流石俄雨さんと
言わざるを得ない素晴らしいものです。ただやはり一部のキャラ付けが
どうしても合わなかった・・・ということでこの点数。
良い作品をありがとうございました。
ここのSSって原作設定と原作世界を拝借したファンみんなが喜ぶようなものばっかですが、自分はその中でこういう作品があってもいいと思うし、俄雨さんの文章力でうまく出来てると思います。
ただちょっと「何で出てきたの?」なキャラが多かったかなぁ、秘封倶楽部の2人なんて最後大学に入ったらいたってだけでもいいような
あと誤字報告
デンデラノ→デンデラ野
注意書きを置けば、評価もまた違ったものになったと思います。
ゆかりんかわいいようふふ
言うことなしです
ゆかりんは愛深き人だなぁ
いや人じゃないか
理想郷と言えるかは疑問な世界だからこそ、魔理沙は新幻想郷を否定して出て行き、パチュリーと魔理沙がいつか創り上げるだろう幻想郷に期待が持てるって事なんでしょうね。
他の方も言われているとおり気になる点もありますが、強くも弱いゆかりん、その苦悩を理解して受け入れる霊夢など、想いや感情が豊かに描かれており素晴らしい作品です。
それでも俺が魔理沙の立場なら紫の新幻想郷を否定するんだろうなぁ。本人らが納得ずくとはいえ、人柱の先にある【楽園】にはやっぱりどこか引っかかってしまうから。
だからこそパチェと魔理沙の真幻想郷には期待がかかります。爽やかな読後感をありがとう。
巫女二人の眠るシーンがつらかった。仕方なかったとしても、魔理沙の言うように他に方法がなかったものかと…。
紫と幻想郷のことを思いながら苦渋の選択をした霊夢と早苗には胸が締め付けられる思いでした。
ただ全体としては他の人も仰ってるように少し長いです。ちょっとだれ気味だったかなぁと…。
あと魔理沙がかなり性格がウザイのもマイナスです。本当に早苗や紫に対して「そんなの知らん」とかで済ますのはただのガキです。
そんな奴が結局最後はハッピーエンドってのは、正直読者としては納得できない部分があるかと。俄雨さんの魔理沙を否定する気はありませんが、主人公にするならもっとまともな思考の持ち主であるか、もしくは魔理沙が成長するなどがいいかと思われます。
最後のパチュリーとの会話も無理やりパチュアリにて丸く収めよう感が否めません。
気になった部分はそこらへんでしょうか。
それでもこの長文をところどころキャラの心情を痛切に交えたりした文章力は素晴らしいものだと思います。
だからこそ最後まで読めました。そして氏の発想力に脱帽です。
ちょっと今回は辛めの点を入れさせていただきましたが、これからも俄雨さんの作品を読み続けたいです。
大作をありがとうございました。
余談ですが毎回あとがきに和みます。ゆかりんの扱いがツボったww
わかってるじゃない…!
ごちそうさまでした。
そしてアイデアも。
単に文章として、読み物としてなら間違いなく100点満点です。
ですがこれを「東方という作品のキャラクターを借りて作られた」作品として見ると、正直な話いい作品とは言え無い気がします。
魔理沙とその周辺だけに注がれ続ける愛、ピエロ以上の役割を持ち得ない紫。
話的にも設定的にも「ただのオマケ」扱いしかされておらず、正直どうして居るか意味が分からないアリス。
これが東方という作品の二次創作である以上、どんなキャラクターにも、ファンは居ます。
悪い作品だとはいいません。
むしろ優れた作品だからこそ、キャラクター一人一人を大切にしてほしいのです。
この作品は、紫に少しでも思い入れがある人なら、中盤の紫フルボッコで非常に不愉快になったと思うのです。
しかもそれは最後になっても、魔理沙の自分勝手が自分勝手のまま、紫は惨めな敗残者として終わってしまいました。
もう一度いいます。
この作品は非常に優れた作品です。
ですが、この作品に登場するキャラクターは別の東方という物語の登場人物であり、一人一人にファンが居るということを、忘れないで下さい。
読んでいるうちに高まってくるテンションがとても好きです。
これからもがんばってください。
一気読みしてしまいました。
紫の意地と高慢さ弱さが表現されていて引き込まれました。
特に自分が目指し作り上げてきた博麗に否定されるところなど怖気が立ちました。
ただ幻想郷の消滅やそれに伴う主要人物たちの心情等、過程の説明不足な所があり、少し消化不良の感じがしました。
メタメタな物語というのは手垢が付きすぎて調理が難しく、
新鮮さもなく、風呂敷の大きさにかかわらず小さく終わる
そんな今までの私の考えを見事にひっくり返されました
何重にも練られた構成、飽きさせない数々の表現、頑丈なキャラクター設定
すごい作品
個人的にメリーと蓮子がでてきて驚きと嬉しさが
魔理沙はどこまでも突き抜けていくなぁ
東方はSTGのテキストだけ見るなら揃いも揃ってDQNばかりですし。キャラ設定も異変絡み以外の描写はほぼ無いと言っても過言ではありません。
実際プレイヤーキャラである魔理沙も、毎回誉められるような行動はまるで無く、動機も利己的。関わりたくない人間筆頭ですよね。
彼女に限りませんが自由度が高いためか、二次設定なのにいつのまにか本来の設定のように扱われることが多い中
ぶれずに、これだけ俄雨さんの色を付けられるのは只すごいなと感心させられました。次回作も楽しみにさせて頂きます。
でもやっぱりアリスの存在感の希薄さに涙が……
紫が切なすぎる…
ここはこんなにもすごい話が、まだまだ埋もれているのか。
読んでて全然楽しくなかった
魔理沙が自己中すぎて
ここまで深く幻想郷を掘り下げた未来にもとても魅力を感じました。こんな作品を観せてくれたこと、大いに感謝します。
ありがとう!
あまりに感情移入できない箇所が多かったのは致命的でした。この構成だと仕方が無く、後編でしっかり補完していましたが。「その時その時の」個々人の心情への説得力を付けることへ更に配慮するとで緩和できるかなと。
また、第二幻想郷での幸福があまりにも描かれていなさ過ぎたのも難点と感じました。シナリオとして必要なのはわかりますが、物語全体の魅力が少ないです。今も十分、だけれど・・・、という程度のバランスをもう少し調整して描くと、更に話が栄えると思いました。
とか言いつつ100点ですがw これ以外は私には無理><
一行でいえば、
すっげぇ面白かった
二行でいえば
マリパチェ
ゆかれいむ
三行でいえば
笑い
興奮
涙
………やっぱ100行いりますね
馬鹿みたいに面白かった
ハマりすぎて冷静に客観的にみれそうにないです
お酒なんか飲んでないのに酔ってる気分
読み始めたのがいつもなら夢を見ている時間で
クライマックスで夜が明けたのも誰かの演出でしょうか?
この物語で一番好きなキャラクターは、紫です。霊夢です。ふたりあわせてゆかれいむです☆ケッカイ
魔理沙もよかったなぁパチュリーもよかった早苗もよかったなんだろうみんなよかった紫を苛めた神様ですら留学生のアリスですら
あとがきも素晴らしかったし
これ以外の幕の引き方があるだろうかと
途中、鳥肌でビリビリしながら読んだ箇所もありました
魔理沙とパチュリーが外に出てから蓮子とメリーの名前が出たときにはうおおと声が出ました
外に出た魔理沙とパチュリーが全力全開、ありとあらゆる科学的文明をぶっ壊して
パチュリーの七曜で世界の構築を始める
七曜とは神の成せる奇跡であり祟りであり、か細い科学的が霞む「魔法」が支配する世界に人は失った幻想を再び抱くようになる
みたいな感じになるのかなーと、外に出た二人がそれからどうするか全くわからなかったので想像してました
パチュリーが神になるなんて初めて見るパチュリーでしたが
人間にこだわりがちな魔理沙が魔女になる話を理由も含めてここまでスマートに書ききっているということに
言ってしまえばストーリーの発想や文章力も全てなんですが
感動しました
忘れないと思います。この話を
幻想郷の終焉を扱った物語の中でもダントツの説得力でした
奇抜で、気さくで、気が気でないものすごい幻想郷でした
読ませてくれて、本当にありがとうございました
目が肥えて他の作品で感動が薄れるのが怖い
「スーパーハカーって!スーパーハカーって!」
秘封時代まで伝わるようなネタなんでしょうか。
現実でも空想でも