*わーにんぐ*
① グロいかも。ほのぼの、ギャグ一直線が好きな人注意
② 二次設定、俺設定(一部。スペカルールとか)を含みます
③ あと、なんかバトルとかあるよ
④ 展開早すぎorz
⑤ チルノ好き、大ちゃん好きの人注意
⑨ チルノかわいいよチノレノ
⑨ チルノは頭が悪いんじゃなくて勉強が嫌いなだけだよ!
⑨ なのでちょっと賢い気がしますが仕様です
⑩ てゐもっとかわいいよてゐ・・・出番ないけど
⑪ ⑤まで了承できた人は進んでね!
博麗神社。
人間、妖怪を問わず付き合う変わり者『博麗霊夢』が住まう、ある意味幻想郷の中心地である。
その博麗神社に珍客――もともと宴会以外ではあまり人は来ないが――が、静かに寝息を立てていた。
「すう・・・すう・・・」
「まったく、よく眠るわねえ・・・」
その珍客に膝を貸している少女が霊夢である。
巫女ではあるのだが少々変わった服装をしており、腋を露出させている。
とても巫女服には見えないが、伝統衣装か何かなのであろう。
その袴を堪能し、あどけない寝顔を晒す珍客。
闇を操る人食い妖怪、ルーミアである。
本来、ルーミアはその自由気ままな性格故、一カ所にとどまるということをしない。
よく見れば、服の隙間からは包帯が見え隠れしており、怪我の治療をしてもらっていたのかもしれない。
「・・・こうもかわいいと悪戯したくなるわね」
そう言う霊夢の腕にも包帯が巻かれてある。
霊夢はのんびりとした性格であるものの、妖怪退治、弾幕ごっこの腕前は高い。
日常生活で包帯が必要なほどの怪我を負うほど間抜けではないし、妖怪退治においても滅多に被弾しない。
その所為か包帯が微妙に歪んでいるが、本人に気にする様子は全くない。
ルーミアの髪を撫でながら優しく微笑んでいる霊夢を見れば、それほど深刻な怪我というわけでもなさそうではあ
るが。
むに、とルーミアの頬を霊夢がつまむ。
その顔が少し鬱陶しいと言いたげに歪むが、目覚める様子もなくすやすやと眠り続ける。
実に微笑ましい光景だが、いつの間にか霊夢はやる気の無さそうな表情を見せていた。
一つ嘆息し、
「そろそろ紫を呼ぶか・・・」
ため息が呼んだのか、突如少し強い風が吹く。
ルーミアの髪に結ばれたリボンが小さく揺れた。
「はーくちょお~、こおりのーうえですべぇって~、しりもちーすぴん♪」
紅魔館目前に広がる湖の上。
一人の氷精がご機嫌な様子で歌を口ずさみ、くるくると踊っていた。
お世辞にも上手いとは言い難いが、その楽しげな様子は見ていて不快なものではない。
しかし歌詞によれば、くるくると回っているのは白鳥ではないのだろうか。
「歌って踊れてしかも強い! やっぱりアタイったらさいきょーね!」
空中でふんぞりかえるという器用なことをしながら、まる(ry チルノは大きく叫んだ。
多少迷惑な行為だが、そもそも妖精という種族そのものが基本的に能天気で、死んでも復活したりするなどの特性
のため自分勝手な者が多く、気にする者はいない。
しかし今日は言動こそ変わらないものの、いつもにまして元気である。
と言うのも、今日は三日ぶりに友達と遊べるので舞い上がっているのである。
普段から舞い上がっては巫女やら魔法使いやらメイドやらにぼこぼこにされているのだが、彼女はあまり学習しな
い。
「今度こそ勝ーつ! 打倒、紅白巫女ー!」
彼女はあまり学習しない。
「うーん、思ったよりも早く着いちゃったな・・・」
待ち合わせ場所――そもそも見渡す限り何もない湖の上でどうやって場所を決めているのであろうか?――にチル
ノが着いたときには、まだ友達である大妖精の姿はなかった。
一人で遊ぶのも慣れてはいるものの、やはり人数は多いに越したことはない。
最近は大妖精だけでなく、ルーミアや橙、紅魔館の門番にリグルにミスチーと様々な妖怪達とも遊んでいる。
冬になればレティだっている。
チルノ一人の時よりも楽しかったことは言うまでもない。
「さあーって、蛙、蛙ー♪」
だからチルノはその場を離れず、暇つぶしを始めたのだ。
普段なら真っ先にフライングして大妖精を困らせているのだが、今日のチルノは機嫌がよかった。
「(まあ、たまには待ってあげようかな)」
誰かと遊ぶのは本当に久々だった。
しばらくして、凍った蛙が十を超えようとした頃。
視界の端に見慣れた黒い影を見つけ、チルノは手に溜めていた冷気を霧散させた。
思わぬ遭遇であったが、一人よりも二人、二人よりも三人である。
チルノはゆっくりと近づいてくるその見慣れた影の主、ルーミアを呼ぼうと大きく手を振り上げ――何もせず、そ
の手をゆっくりと下ろした。
その顔に浮かぶのは、困惑。
「(何、アレ!)」
あのような闇を纏う妖怪なんてルーミア以外に聞いたことはない。
しかし、アレはあまりにも――大きい。
ソレはチルノの十メートル程の距離で止まり、ゆっくりと晴れていく。
見慣れた漆黒のドレスに、見慣れた短い金髪。
「・・・るー、みあ・・・だよね?」
そうチルノが訪ねる。
ルーミアで間違いない、と思う反面でなぜか違和感が拭えない。
いや、違和感の正体は分かっている。
「くすくす・・・ええ、そうよ。あなたのよく知ってるルーミアよ?」
氷精であるはずのチルノの背筋に悪寒が走る。
この、圧倒的な力の差。
霊夢や魔理沙に初めて喧嘩を売ったときでさえ感じなかった、絶望的な感覚。
ルーミアはどこかとらえにくい性格ではあったものの、これほどの力を隠していたとは思えない。
そしてもう一つ、いつもの赤いリボンが――自分では触れることすらできないと言っていた、リボンがない――!
「あらチルノ、どうしたの?」
そう問われて、チルノは自分の顔が強張っていることに気づく。
慌てて力を抜こうとするのだが、上手くいかずに余計に歪んでしまう。
そんなチルノを見てルーミアは再び妖しく嗤った。
「ふふ、怯えちゃって・・・可愛い顔が台無しよ? 今日は確か、大妖精と一緒に遊ぶんでしょう? だったら笑顔で
いなさい」
「え、う、うん」
大妖精と遊ぶ約束をした、と確かにルーミアには話した覚えが有る。
やはり、この妖怪はルーミアなのだろう。
しかし、『大妖精』。
「なんで、いつもみたいに大ちゃん、って呼ばないのさ」
「なんだっていいでしょう? それよりも、私も混ぜてもらえないかしら」
「ふぇ?」
つい素っ頓狂な声をあげたものの、言いたいことは分かっている。
――一緒に遊ぼ?――
正直、今のルーミアには付き合いたくないが・・・チルノは馬鹿だの⑨だのと言われてはいるが、直感的なことには
優れている。
断ったら何をされるか分からない、と本能的に理解していた。
それでも――
だが、チルノが何か言おうと口を開きかけたとき、タイミング悪く待ち人がやってきた。
「チルノちゃ~~~ん!! ごめん、遅れた~!」
「大ちゃん!?」
「はぁ、はぁ、って、あれ? ルーミアちゃんも、いたの?」
空中で膝に手をつき、肩で息をしながら大妖精が尋ねる。
・・・妖精というのは器用な者が多いのであろうか。
「こんにちは、大妖精さん。一緒に遊びましょう?」
「え? うん、いいよ。三人で遊ぼう?」
大妖精もルーミアに不思議そうな表情を見せるが、特に疑う、ということはしなかったらしい。
あっさりと承諾し、チルノに同意を求めてくる。
「まあ、大ちゃんがいいなら・・・」
「じゃ、決まりだね! 今日は何して遊ぶの?」
大妖精は少し人や妖怪を疑う癖をつけるべきなのかもしれない。
普段陽気なチルノでさえガチガチに警戒しているというのに、普通にルーミアに話しかけている。
まあ、そこが大妖精のいいところなのかもしれない。
現に、その様子に多少安心したかチルノも肩の力が抜けている。
「じゃあ、私からいいかしら?」
そうルーミアが切り出す。
「あれ、どこか行きたいところがあったの?」
「まあ、そんなところよ」
チルノは先ほど力が抜けたはずの肩が、また緊張し始めていることを感じていた。
嫌な予感しかしない。
――大ちゃんを待っていたアタイに近づいてきたのは、それが目的?――
「人里に行ってみない?」
「人里ぉ!?」
「ちょ、ちょっとルーミアちゃん。ルーミアちゃんって確か、人里にあんまり近づいちゃ駄目なんじゃ・・・」
そう、ルーミアやミスティアといった人食い妖怪は、人里から離れた人間以外を襲ってはならない。
人里にもあまり近づかないように、と咎められているはずである。
これを破れば、すぐに霊夢や慧音が動き出すだろう。
「ふふ、大丈夫よ。今の私なら半人半獣なんて敵じゃないわ。紅白相手にだって互角に戦える。貴女達二人が協力
してくれるなら、なんの問題も無い」
言葉が出ない。
何かに協力させられるかもとは思っていたが、人里に『襲撃』しようなどと言い出すとは想像がつかなかった。
しかも霊夢をも倒すというのだ。
弾幕ごっこにおいて霊夢の右に出る者はいない。
確かに霊夢に勝てる、という言葉には甘美な響きが秘められていた。
だがそれは今、問題ではない。
「・・・嫌だよ」
「うん、私も」
チルノのつぶやきに大妖精が賛同する。
後押しを得たとばかりに、チルノは言葉を続けた。
「そんなことしたら、もうみんなと遊べなくなっちゃうじゃん。アタイはやめとくよ」
「そうだよ。ルーミアちゃんも、みんなと遊びたいよね? だから、やめよ?」
「ふーん・・・そっかー、残念。二人なら来てくれると思ったのだけれど」
「行くわけないじゃん!」
「じゃあ」
ルーミアが突如右手を高く掲げる。
殺される。
チルノは自分の本能に従い、叫んだ。
「だ、大ちゃん、逃げて!」
「え?」
「死ね」
直後、ルーミアが見えなくなるほどの弾幕が放たれた。
いくら妖精が生き返るといえど、痛みは有るし死に対する恐怖も有る。
当たればただでは済まない。
「うわわわわわ!」
「っくぅ!」
「二人は結構気に入ってのになあ・・・ホント、残念」
いつものカラフルな色は見えず、視界が深い闇の色で埋まる。
相当な密度で、打たれる前にかなりの距離をとったはずだが、それでも隙間が見あたらない。
「うりゃあ!」
仕方なく、なるべく弾幕の薄いところに氷の塊を打ち込み、素早く潜り込む。
ちらりと見れば、大妖精も大弾を放ったところであった。
その瞬間、ぞくり、と背筋に悪寒が再び走る。
目の前には二つの紅い瞳。
「(っやっばい!)」
反射的に高密度の氷壁を形成、それを盾に一気に上昇。
ガッ、と堅い音とともに目の前数センチに漆黒の槍が現れる。
咄嗟に作ったとはいえ、チルノが相当力を込めたはずの氷は一撃で砕かれてしまった。
距離を離そうと粒弾で牽制するが、大量の弾幕に阻まれ届かない。
軽く舌打ちし、攻撃を諦め高速で後退しながら必死に避ける。
「っ痛! ・・・って、あれ?」
さすがに避けきれず左腕に軽く被弾してしまうが、弾幕が消えない。
通常、弾幕ごっこにおいて少しでも出血するレベルの被弾があれば、その時点で勝敗は決定。
それほど深くはない傷だがが、チルノの腕からは一筋の血が流れている。
これは、つまり――
「っ大ちゃん!」
チルノは大切な友人の姿を探す。
今まで大妖精の被弾音(ピチューン)が聞こえてこなかった為、大妖精は無事だと思い込んでいた。
大妖精はスペカを持っておらず、緊急回避の手段が無い。
よく考えれば、この弾幕の中で無傷でいられるわけがなかった。
いつの間にか薄くなっていた己の周囲の弾幕をくぐり抜け、氷精は遠くに群がる弾に突っ込んだ。
「はぁっ・・・はァッ・・・!」
「ふふふ、よく粘るわねぇ」
大妖精は必死に顔を上げ、ルーミアを見つめる。
服は至る所が破け、血が滲み出ている。
致命傷は受けてないが、それはルーミアが手加減していたためであろう。
体力はもう限界だった。
「さあ、もうそろそろ終わりにしましょう?」
「!!!」
ルーミアの体が闇に包まれ、蝙蝠型の弾が次々と飛び出してくる。
「っぅあああ!!」
大妖精は気力を振り絞り大弾を放ち、その後ろについて飛ぶ。
だが、突如として大弾が真っ二つに割れた。
あまりの出来事に、大妖精の目が見開かれる。
急激に失速し落ちていく弾の影から、黒い影が一つ。
その影はにやりと嗤うと、右手の闇色をした巨大な剣を高く振り上げ――
「こぉのやろおおおぉぉぉぉ!!!」
「なっ!?」
「チルノちゃん!?」
振り下ろされる直前、氷精の裂帛。
ルーミアの弾幕の間を縫って、チルノが体当たりをぶちかました。
ルーミアは剣でのとどめを目論んでいたため、弾の密度が薄かったのだ。
そして、チルノの右手には一枚のスペルカード。
「『凍符! マイナス――』」
「この、氷精如きがぁぁ!!」
スペルカードを唱えきる前に、ルーミアが先ほど下ろし損ねた剣を振るった。
慌てて距離をとるものの、『マイナスK』が切り裂かれてしまう。
「ちくしょう!」
「・・・不意打ちとは、やってくれるわねえ、氷精?」
「お前に言われたくないやい! スペカルール無視しやがって!」
今、精神面で負けるわけにはいけない。
無理矢理己を奮い立たせ、チルノは叫ぶ。
しかし、その健気な氷精に妖怪は嗤いかける。
「あら、そんなものを守っていたら貴女達を殺せないじゃない?」
息を呑む。
分かってはいたのだが、面と向かって言われると思わず怯みそうになってしまう。
負けてたまるか、ともう一度啖呵を切ろうと口を開くが、大妖精に止められてしまった。
「大ちゃん・・・?」
「ルーミアちゃん・・・もう止めよ?」
大妖精が優しく声をかける。
ここまでされておいて、説得しようというのだ。
応じるような相手とも思えないが、チルノは大妖精の意志を尊重した。
大妖精はもう高度を保つことでさえつらいのであろう、時折ふらついている。
そのような体だというのに、ゆっくりとルーミアに近づいていく大妖精を止めることなどできはしない。
「何を言い出すかと思えば・・・」
「ルーミアちゃんはたぶん、少し暴れたくなっちゃってるだけなんだよ。なんで、急に強くなっちゃったかは分か
らないけど・・・でも、このままだと、後で絶対後悔しちゃうよ?」
ルーミアは少し俯き、黙って大妖精の言葉に耳を貸している。
以外ではあるものの、話を聞く気になっているらしかった。
先ほどまでの凶悪な弾幕も消え去り、安心感からチルノは深いため息をついた。
「いつもみたいに、冗談なのかー、って笑って? それで、さっきまでのは無しで・・・それで、またみんなで遊ぼう
よ。橙ちゃんも、ミスチーちゃんも、リグルちゃんも、門番さんもみんな呼んで・・・追いかけっことか、かくれんぼ
とかして遊ぼ?」
少しずつ、少しずつ大妖精は進んでいく。
ルーミアは俯いたまま動かない。
既に二人の距離は、手を伸ばせば届くほどに近づいていた。
「ルーミアちゃん・・・」
大妖精はゆっくりとその両手を挙げ、ルーミアを抱きしめた。
いつものおっとりとした雰囲気は、そこにはない。
その表情は、まるで頼りがいのある姉のようであり、我が子見守る母のようでもあり――
その表情のまま、大妖精の首だけが湖に落ちていった。
数刻遅れて、ルーミアの掴んでいる大妖精だった物から血が噴き出す。
「(・・・・・・・・・え?)」
チルノの思考が止まる。
今、目の前で何が起こったのか理解できない。
ルーミアがおかしくなって、必死に逃げて。
大ちゃんがルーミアに話しかけて、抱きしめて、それで。
「(切られた? 誰に?)」
そんなことがあるものか。
だって、ルーミアは真剣に聞いてて、大ちゃんはあんなにも優しく声を掛けてて、あんなにも優しい顔で――
「まったく、何がしたかったのかしら? 今更話を聞くとでも思っていたのかしらねえ」
・・・何?
「あんなに不用心に近づいてきて・・・かえって殺しにくかったじゃない、裏があるのかと思って」
――コイツは、大ちゃんの気持ちを何だと?――
――コイツは、大ちゃんの命を何だと?――
「じゃあね」
そう言ってルーミアは、まだ血の吹き出るその物体を投げ捨てた。
ソレを掴んでいた逆の手に、さきほど紅い紋様が施された大剣。
それと同時にチルノの遙か下で、湖に大きめの石を落としたような音が聞こえた。
――チルノは知っている。 自分たち妖精が復活する際、死ぬ直前の記憶が無くなっている過去を――
――チルノは分かっている。大妖精はもう、このルーミアのことを思い出せないという未来を――
――チルノは気づかされた。大妖精の命を、生きた証を、ルーミアが踏みにじったという現実を――
――チルノは理解する。 目の前の化け物に敵討ちができるのは、自分だけだという感情を――
チルノの中で、何かが弾けた。
「ルゥゥゥゥゥゥミィアァァァァァァァァァァ!!!!!」
友達思いの蒼い軌跡が、まっすぐにその敵へと伸びる。
何も考えていない、ただ敵を討ち滅ぼさんとする若き氷精。
その双眸に宿る強い憎しみを感じ取り、ルーミアは不敵に微笑んだ。
「いいわねえ、その眼」
ルーミアは具現化していた大剣を闇へと還し、両手を左右に挙げた。
チルノが目の前にたどり着き、冷気を纏わせた拳を振るう。
だが、ルーミアはそれを最小限の動きでかわす。
ゆらゆらと、それはまるで一つの舞のようであった。
「くそっ! このぉぉ!」
「どうしたの、これで終わり?」
「うあああぁぁぁぁ!!!」
「隙だらけ」
「ガはッ!?」
挑発され拳を大きく振り上げるが、その隙に腹を蹴られ距離を離される。
今のルーミアが全力で蹴り飛ばせば、確実にチルノの体が千切れ飛んだはず。
――手加減されている――
「ふふふ、こんなのはどう? 『ディマーケイション』!」
スペルカードは啓示されていないが、発動はしたらしい。
今までよりも一段と密度の濃い弾幕が形成され、じりじりと近づいてくる。
・・・実はルーミアは内心、今のチルノの動きのキレに驚いていた。
そして興味が湧いていた。
だから手を抜いて挑発して、この氷精をいたぶる。
「もっと私を楽しませてみなさい、氷精!」
それらの行動は、確実にチルノに冷静さを取り戻させていた。
自分が殺されてしまえば元も子もない、と気付く時間を与えていた。
それでも氷精の憎悪は消えてはいない。
確実に、かつ自分が死なないように、相手を殺す為だけに策を練る。
「(コロす!!!)」
強く念じ、計三つの氷塊を作り出す。
初めての激情に心を預けた氷精は、信じられないほどの集中力を発揮していた。
それらの氷塊は、今までのものと比べものにならないほどの純度で、すさまじい強度があった。
その内の巨大な一つが、チルノの前方へと浮かび盾となる。
二つはチルノの両手に。
向こう側が綺麗に見えるほど透き通った、己の身長以上の大剣を模(カタド)った。
そして、眼前に広がる弾の壁を見て、一言叫んだ。
「『アイシクルフォール』!!!」
チルノもスペルカード無しで発動。
ルールに則って抑えられたそれではなく、全力の弾幕。
それらをすべて一点に集中させ、ルーミアの弾幕に穴を開ける。
多少相殺しきれず弾が残ってしまうが、気にせずその小さな隙間に体をねじ込む。
チルノの氷壁が、ガリガリと音を立てて削られていく。
が、そんなことに構っている暇はない。
盾が保たなくなる前に加速し、チルノは一気に弾幕を切り抜けた。
その先にいたルーミアに向け、盾を思いっきり蹴り飛ばす。
まさか中央突破されるとは思わなかったのか、ルーミアは驚愕の表情のまま固まっていた。
しかし激突する寸前、ルーミアは再び大剣を形成。
ギリギリのところで剣を滑り込ませ、弾き飛ばした。
「今度のは、切れないだろ」
「ふん・・・」
さすがに余裕が無くなってきたか、ルーミアは新しく大剣を生成。
お互い二つの剣を携え対峙。
復習に燃える碧眼と、深い闇に濁る灼眼が交差する。
先に仕掛けたのは氷精。
螺旋を描きながら突進、さらに己の周囲に氷の弾を次々と生み出し打ち続ける。
対しルーミアは、剣の腹で弾をいなしながら冷静にチルノの軌道を読む。
だが、互いの攻撃圏内に入ろうかというときになり、チルノは軌道を強制。
右手の大剣を高く振り上げつつ、ルーミアに肉薄する。
「だああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「ちっ!」
そのまま頭をかち割ろうと全力で剣を振り下ろす。
思惑の外れたルーミアは、下からという不利な形でそれを受け止める。
二つの巨大な質量が真っ向からぶつかり、二人の間に火花が煌めく。
チルノがルーミアの剣ごと叩き切ろうと右手に力を込めるが、力では負けているらしくそれ以上下がらない。
だがルーミアもそこまで余裕は無いのか、人を小馬鹿にしたような表情が消えている。
チルノが続けざまにもう一方の剣を横なぎに振るう。
「ぜぇい!!」
今度は軽く受け止められてしまう。
さすがにチルノの姿勢が悪く、力が入らなかったのだ。
だが、チルノは弾かれた勢いのまま大剣を上段に構え直し、右手の大剣にあわせて振り下ろす。
ここで初めて、ルーミアの表情にうっすらと焦りが浮かぶ。
慌てたようにもう一方の剣を持ち上げ、自らの頭上で交差させる。
先ほどよりも一層大きい火花が散り、二人が相手を潰そうとギリギリと押し合う。
いくら体勢が有利とはいえ、チルノが純粋な腕力で劣っていることに変わりはなく、いつまでこの拮抗が保つか分
からない。
腕に力を込めたままルーミアの背後に氷弾を形成、不意打ちを試みる。
勝利を半ば確信し笑いそうになったが、それよりも先にルーミアがニヤリと嗤った。
何故?――
それの意味するものを知ったとき、相手も同時に気付いたらしい。
二人同時に急前進、お互いが自分の張った弾幕の隙間をすり抜ける。
チルノは素早く振り返り、相殺しきれなかったルーミアの弾を氷剣で弾く。
再び接近しようと体勢を整えた瞬間、今まで守勢だったルーミアが突っ込んできた。
相手側には氷弾が届かなかったらしい。
突撃に耐えるために構えるが、ルーミアは方向を変え、チルノの周囲を高速で回転し始める。
黒い影の通った軌道には、大量の大弾。
「(囲まれる!?)」
脱出しようと何度か試みるが、その度にルーミアに回り込まれ剣を一閃される。
日が遮られ徐々に暗くなる視界。
気がつけば、チルノは完全に逃げ場を失っていた。
「潰れろ」
その呟きに応えるかの如く、弾壁が迫ってくる。
隙間は見あたらない、弾を打ち消す時間もない。
「(だったら!)」
チルノの四肢から大量の冷気が溢れ出す。
それはチルノを庇うかのように、優しくチルノを包んでいく。
そして、
「『パーフェクトフリーズ』!!!」
その冷気が、突如として牙を剥いた。
黒色の弾幕が急速に冷やされ、青白く変色していく。
チルノが両の手の氷剣を袈裟に振るうと、凍てついた弾はいとも簡単に砕け散った。
再び弾が動き出す前にその包囲網を脱出する。
だが、抜け出した直後にルーミアの一撃。
ルーミアとて馬鹿ではない。
先ほどの経験から、チルノがこの程度の弾幕では死なない事をとうに学習していた。
残像が見えるほどの勢いで、闇色の剣を振り下ろす。
チルノはそれに合わせ、両手の氷剣を全力で振り上げる。
だが、予想していた衝撃が氷剣に伝わってこない。
チルノはその勢いのまま、剣を振り抜いてしまった。
「え?」
あまりの出来事に思考が止まる。
――今、ルーミアの剣をすり抜けた?――
先ほどルーミアは、剣の形をしただけの、実体化していない闇を振り回しただけだった。
反撃を誘い、相手の意表を突く為の罠。
チルノはそれに見事にだまされ、わずかに隙をさらけ出してしまっていた。
だが、このわずかな時間は致命的だった。
「うあ!?」
まだパニックを起こしている氷精の氷剣を、正確に叩き飛ばす。
チルノはあっさりと、己の武器を手放してしまった。
「しまっ――」
やっとチルノの思考が覚醒するが、もう遅い。
チルノの目は、胸に迫り来る大剣をはっきりと捉えていた。
「(間に合えぇぇぇ!!!!)」
反射的に冷気を凝縮させる。
迫り来る死から逃れようと、己の能力をフルに活用する。
大剣と身体の合間に、盾を。
次の瞬間、ガツ、と硬い物同士がぶつかる音が響く。
かろうじて間に合った。
そう安堵しかけた時――
ルーミアは受け止められた大剣を全力で押しだし、発生した氷塊を直接チルノに叩き付ける。
ゴギリ、と嫌な音を残し、氷精は為す術もなく水面に落下していった。
ルーミアの手には、確実に肋骨を五、六本持っていった感触が残っている。
氷精は小さな水飛沫を上げ、沈んだまま浮かんでこない。
もうまともに動くことはできないであろうと考え、ルーミアは己の武器を闇へと還した。
そして、まだ波の残る湖に見当をつけ、大弾を五発ほど放つ。
「これでおしまい、と」
沈んだまま出てこなければ溺死するだろうし、浮かんできたなら水面から顔を出したところでトドメをさしてやれ
ばいい。
骨が折れていては、逃げようにも遠くには行けまい。
ルーミアはそう思い、高度を落としていく。
油断しきっていた。
だからこそ、真後ろから何かが水面下から飛び出してきたかのような音が聞こえたとき、反応が大きく遅れること
となる。
本日通算三度目となる突貫。
友の敵を、その首を討ち取らんと氷精が駆ける。
水面ギリギリを高速で飛行、水を切り裂き一直線に突き進む。
「(馬鹿な!? もう飛ぶことさえままならないはず!)」
ルーミアが振り向く。
見れば、迫り来る蒼い影には決定的に違和感があった。
その上半身が凍り付いていた。
否、自ら凍らせたのだ。
チルノは胸部を氷で包み込む事によって、冷却と固定を同時に行ない痛みを和らげることに成功していた。
しかし、内蔵のダメージまでは誤魔化せるわけがない。
現に、折れた肋骨が刺さったのかチルノは口から血を垂れ流している。
――チルノはもう、自分が助かるとは思っていない。
はっきり言ってしまえば、戦闘能力がルーミアより大きく劣っていることにも気付いている。
しかしそれと同時に、自身が決して弱くないことも理解していた。
全力――そう、後の事など考えずに全身全霊を込めればルーミアとて無事では済まない。
胸の氷を維持するために送る冷気を最小限に抑え、余る冷気を掌に集める。
だがまだ足りない。
氷精は己の命を燃やす。
「グ・・・ぎ、ぎ・・・!!」
身体が限界を超え、ギシギシと悲鳴を上げる。
止まるわけにはいかない。
氷精は力の限り吼える。
激痛に耐え、己を鼓舞する為に。
「あ"ア"ア"アアアア"アァぁ"ぁぁぁああ"あ"ぁ"ぁぁァァァァァ!!!!!!」
氷精がルーミアの目の前に到達する。
碧眼に宿るは復習の炎。
右手には万物を凍てつかせる絶対零度。
「くぅらぁえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
生物としての活動を確実に停止させる必殺の一撃。
その小さな手は吸い込まれるかのようにルーミアへと伸びてゆき――
そのまま、すり抜けた。
「(え?)」
鈍く光る剣が、チルノの胸を貫く。
「エ・・・あ・・・?」
突き刺した剣が無慈悲に捻られ、幼さ故の柔らかそうな肉が、成長仕切っていない骨が容赦なく抉られる。
「ぎャ!?」
神経を引き千切られた四肢が一度大きく仰け反り、強い意志を秘めていた眼球は裏返り白目を剥いた。
剣が引き抜かれる。
支えを失った氷精の身体は、小さな波だけを残して水中へと消えた。
――危なかった――
ルーミアは未だ収まらない己の心臓の鼓動を感じながら、冷や汗をかいていた。
確かにチルノは想像以上に手強かったが、自分には到底及ばないと思っていた。
だが、最期に見せた氷精の意地。
その軌跡、水面には氷が一直線に走り、水蒸気までもが凍てつき絶え間なく落下している。
咄嗟に闇と同化していなければ、湖の底に沈んでいたのはこちらであろう。
しかしそれは、雑魚相手に使うまでもないと思っていた奥の手。
力の消耗も激しく、頭の奥に靄がかかったような――
「くそ・・・! イライラする!」
こんな有様で霊夢に敵うはずがない。
人を喰らい、力を取り戻す必要が有る。
初めより幾分か小さな闇の塊が、フラフラと人里へと飛び立っていった。
水面に現れた赤いマーブル模様が、だんだんと薄まり――やがて、消えた。
『だーいちゃーーん、ルーミアーー!!』
『やっと来たのかー』
『もうチルノちゃん、遅いよー』
『あはは、ゴメンゴメン。リグルがしつこくってさあ』
『って、チルノちゃん何したの・・・』
『ちょっとからかっただけ。この男の娘ー!って』
『うわ・・・』
『どう見てもチルノが悪いのかー』
『ふふん! ”ちまた”ではそう言うのよ!!』
『そーなのかー』
『・・・ねえ、”ちまた”って何なの?』
『え"?』
『・・・知らないのかー』
『し、知ってるよ! あー、えーっと・・・そう! ちまきみたいな物よ!!』
『嘘つけ』
『え、ちょ、ルーミアちゃん!?』
『け、けど、橙が紫のやつに聞いたって言ってたから間違いないの!』
『でもチルノちゃん、他人が嫌がることしちゃ駄目だよ?』
『む・・・』
『後で謝るのかー』
『むう・・・分かったわよ』
『よし、それじゃ今日は何して遊ぶ?』
『何でもいいよ。 アタイはサイキョーだからね!!』
『そーなのかー?』
『なんで聞くのよ!! そこは普通に【そーなのかー】でいいの!!』
『そーなのかー?(笑)』
『ムキー!!!』
『もう、チルノちゃん落ち着いて・・・ルーミアちゃんもからかわないの』
『分かったのかー』
『くっそー、今日は絶対負けないからねー!!』
『面白そうなのかー』
『でも、何するのか決めてないよ?』
『何にするのかー?』
『そうねえ・・・じゃあ――』
『えぇ!?』
『・・・本気なのかー?』
『当たり前よ! 降りるなら今の内だよー?』
『今更降りるわけないのかー!』
『・・・私がいなきゃ何するか分からないし・・・』
『ならけってーーい!! レッツゴー!!』
『フ、フライングなのかー!!』
『はぁ・・・』
『アタイったらサイキョーね!!』
① グロいかも。ほのぼの、ギャグ一直線が好きな人注意
② 二次設定、俺設定(一部。スペカルールとか)を含みます
③ あと、なんかバトルとかあるよ
④ 展開早すぎorz
⑤ チルノ好き、大ちゃん好きの人注意
⑨ チルノかわいいよチノレノ
⑨ チルノは頭が悪いんじゃなくて勉強が嫌いなだけだよ!
⑨ なのでちょっと賢い気がしますが仕様です
⑩ てゐもっとかわいいよてゐ・・・出番ないけど
⑪ ⑤まで了承できた人は進んでね!
博麗神社。
人間、妖怪を問わず付き合う変わり者『博麗霊夢』が住まう、ある意味幻想郷の中心地である。
その博麗神社に珍客――もともと宴会以外ではあまり人は来ないが――が、静かに寝息を立てていた。
「すう・・・すう・・・」
「まったく、よく眠るわねえ・・・」
その珍客に膝を貸している少女が霊夢である。
巫女ではあるのだが少々変わった服装をしており、腋を露出させている。
とても巫女服には見えないが、伝統衣装か何かなのであろう。
その袴を堪能し、あどけない寝顔を晒す珍客。
闇を操る人食い妖怪、ルーミアである。
本来、ルーミアはその自由気ままな性格故、一カ所にとどまるということをしない。
よく見れば、服の隙間からは包帯が見え隠れしており、怪我の治療をしてもらっていたのかもしれない。
「・・・こうもかわいいと悪戯したくなるわね」
そう言う霊夢の腕にも包帯が巻かれてある。
霊夢はのんびりとした性格であるものの、妖怪退治、弾幕ごっこの腕前は高い。
日常生活で包帯が必要なほどの怪我を負うほど間抜けではないし、妖怪退治においても滅多に被弾しない。
その所為か包帯が微妙に歪んでいるが、本人に気にする様子は全くない。
ルーミアの髪を撫でながら優しく微笑んでいる霊夢を見れば、それほど深刻な怪我というわけでもなさそうではあ
るが。
むに、とルーミアの頬を霊夢がつまむ。
その顔が少し鬱陶しいと言いたげに歪むが、目覚める様子もなくすやすやと眠り続ける。
実に微笑ましい光景だが、いつの間にか霊夢はやる気の無さそうな表情を見せていた。
一つ嘆息し、
「そろそろ紫を呼ぶか・・・」
ため息が呼んだのか、突如少し強い風が吹く。
ルーミアの髪に結ばれたリボンが小さく揺れた。
「はーくちょお~、こおりのーうえですべぇって~、しりもちーすぴん♪」
紅魔館目前に広がる湖の上。
一人の氷精がご機嫌な様子で歌を口ずさみ、くるくると踊っていた。
お世辞にも上手いとは言い難いが、その楽しげな様子は見ていて不快なものではない。
しかし歌詞によれば、くるくると回っているのは白鳥ではないのだろうか。
「歌って踊れてしかも強い! やっぱりアタイったらさいきょーね!」
空中でふんぞりかえるという器用なことをしながら、まる(ry チルノは大きく叫んだ。
多少迷惑な行為だが、そもそも妖精という種族そのものが基本的に能天気で、死んでも復活したりするなどの特性
のため自分勝手な者が多く、気にする者はいない。
しかし今日は言動こそ変わらないものの、いつもにまして元気である。
と言うのも、今日は三日ぶりに友達と遊べるので舞い上がっているのである。
普段から舞い上がっては巫女やら魔法使いやらメイドやらにぼこぼこにされているのだが、彼女はあまり学習しな
い。
「今度こそ勝ーつ! 打倒、紅白巫女ー!」
彼女はあまり学習しない。
「うーん、思ったよりも早く着いちゃったな・・・」
待ち合わせ場所――そもそも見渡す限り何もない湖の上でどうやって場所を決めているのであろうか?――にチル
ノが着いたときには、まだ友達である大妖精の姿はなかった。
一人で遊ぶのも慣れてはいるものの、やはり人数は多いに越したことはない。
最近は大妖精だけでなく、ルーミアや橙、紅魔館の門番にリグルにミスチーと様々な妖怪達とも遊んでいる。
冬になればレティだっている。
チルノ一人の時よりも楽しかったことは言うまでもない。
「さあーって、蛙、蛙ー♪」
だからチルノはその場を離れず、暇つぶしを始めたのだ。
普段なら真っ先にフライングして大妖精を困らせているのだが、今日のチルノは機嫌がよかった。
「(まあ、たまには待ってあげようかな)」
誰かと遊ぶのは本当に久々だった。
しばらくして、凍った蛙が十を超えようとした頃。
視界の端に見慣れた黒い影を見つけ、チルノは手に溜めていた冷気を霧散させた。
思わぬ遭遇であったが、一人よりも二人、二人よりも三人である。
チルノはゆっくりと近づいてくるその見慣れた影の主、ルーミアを呼ぼうと大きく手を振り上げ――何もせず、そ
の手をゆっくりと下ろした。
その顔に浮かぶのは、困惑。
「(何、アレ!)」
あのような闇を纏う妖怪なんてルーミア以外に聞いたことはない。
しかし、アレはあまりにも――大きい。
ソレはチルノの十メートル程の距離で止まり、ゆっくりと晴れていく。
見慣れた漆黒のドレスに、見慣れた短い金髪。
「・・・るー、みあ・・・だよね?」
そうチルノが訪ねる。
ルーミアで間違いない、と思う反面でなぜか違和感が拭えない。
いや、違和感の正体は分かっている。
「くすくす・・・ええ、そうよ。あなたのよく知ってるルーミアよ?」
氷精であるはずのチルノの背筋に悪寒が走る。
この、圧倒的な力の差。
霊夢や魔理沙に初めて喧嘩を売ったときでさえ感じなかった、絶望的な感覚。
ルーミアはどこかとらえにくい性格ではあったものの、これほどの力を隠していたとは思えない。
そしてもう一つ、いつもの赤いリボンが――自分では触れることすらできないと言っていた、リボンがない――!
「あらチルノ、どうしたの?」
そう問われて、チルノは自分の顔が強張っていることに気づく。
慌てて力を抜こうとするのだが、上手くいかずに余計に歪んでしまう。
そんなチルノを見てルーミアは再び妖しく嗤った。
「ふふ、怯えちゃって・・・可愛い顔が台無しよ? 今日は確か、大妖精と一緒に遊ぶんでしょう? だったら笑顔で
いなさい」
「え、う、うん」
大妖精と遊ぶ約束をした、と確かにルーミアには話した覚えが有る。
やはり、この妖怪はルーミアなのだろう。
しかし、『大妖精』。
「なんで、いつもみたいに大ちゃん、って呼ばないのさ」
「なんだっていいでしょう? それよりも、私も混ぜてもらえないかしら」
「ふぇ?」
つい素っ頓狂な声をあげたものの、言いたいことは分かっている。
――一緒に遊ぼ?――
正直、今のルーミアには付き合いたくないが・・・チルノは馬鹿だの⑨だのと言われてはいるが、直感的なことには
優れている。
断ったら何をされるか分からない、と本能的に理解していた。
それでも――
だが、チルノが何か言おうと口を開きかけたとき、タイミング悪く待ち人がやってきた。
「チルノちゃ~~~ん!! ごめん、遅れた~!」
「大ちゃん!?」
「はぁ、はぁ、って、あれ? ルーミアちゃんも、いたの?」
空中で膝に手をつき、肩で息をしながら大妖精が尋ねる。
・・・妖精というのは器用な者が多いのであろうか。
「こんにちは、大妖精さん。一緒に遊びましょう?」
「え? うん、いいよ。三人で遊ぼう?」
大妖精もルーミアに不思議そうな表情を見せるが、特に疑う、ということはしなかったらしい。
あっさりと承諾し、チルノに同意を求めてくる。
「まあ、大ちゃんがいいなら・・・」
「じゃ、決まりだね! 今日は何して遊ぶの?」
大妖精は少し人や妖怪を疑う癖をつけるべきなのかもしれない。
普段陽気なチルノでさえガチガチに警戒しているというのに、普通にルーミアに話しかけている。
まあ、そこが大妖精のいいところなのかもしれない。
現に、その様子に多少安心したかチルノも肩の力が抜けている。
「じゃあ、私からいいかしら?」
そうルーミアが切り出す。
「あれ、どこか行きたいところがあったの?」
「まあ、そんなところよ」
チルノは先ほど力が抜けたはずの肩が、また緊張し始めていることを感じていた。
嫌な予感しかしない。
――大ちゃんを待っていたアタイに近づいてきたのは、それが目的?――
「人里に行ってみない?」
「人里ぉ!?」
「ちょ、ちょっとルーミアちゃん。ルーミアちゃんって確か、人里にあんまり近づいちゃ駄目なんじゃ・・・」
そう、ルーミアやミスティアといった人食い妖怪は、人里から離れた人間以外を襲ってはならない。
人里にもあまり近づかないように、と咎められているはずである。
これを破れば、すぐに霊夢や慧音が動き出すだろう。
「ふふ、大丈夫よ。今の私なら半人半獣なんて敵じゃないわ。紅白相手にだって互角に戦える。貴女達二人が協力
してくれるなら、なんの問題も無い」
言葉が出ない。
何かに協力させられるかもとは思っていたが、人里に『襲撃』しようなどと言い出すとは想像がつかなかった。
しかも霊夢をも倒すというのだ。
弾幕ごっこにおいて霊夢の右に出る者はいない。
確かに霊夢に勝てる、という言葉には甘美な響きが秘められていた。
だがそれは今、問題ではない。
「・・・嫌だよ」
「うん、私も」
チルノのつぶやきに大妖精が賛同する。
後押しを得たとばかりに、チルノは言葉を続けた。
「そんなことしたら、もうみんなと遊べなくなっちゃうじゃん。アタイはやめとくよ」
「そうだよ。ルーミアちゃんも、みんなと遊びたいよね? だから、やめよ?」
「ふーん・・・そっかー、残念。二人なら来てくれると思ったのだけれど」
「行くわけないじゃん!」
「じゃあ」
ルーミアが突如右手を高く掲げる。
殺される。
チルノは自分の本能に従い、叫んだ。
「だ、大ちゃん、逃げて!」
「え?」
「死ね」
直後、ルーミアが見えなくなるほどの弾幕が放たれた。
いくら妖精が生き返るといえど、痛みは有るし死に対する恐怖も有る。
当たればただでは済まない。
「うわわわわわ!」
「っくぅ!」
「二人は結構気に入ってのになあ・・・ホント、残念」
いつものカラフルな色は見えず、視界が深い闇の色で埋まる。
相当な密度で、打たれる前にかなりの距離をとったはずだが、それでも隙間が見あたらない。
「うりゃあ!」
仕方なく、なるべく弾幕の薄いところに氷の塊を打ち込み、素早く潜り込む。
ちらりと見れば、大妖精も大弾を放ったところであった。
その瞬間、ぞくり、と背筋に悪寒が再び走る。
目の前には二つの紅い瞳。
「(っやっばい!)」
反射的に高密度の氷壁を形成、それを盾に一気に上昇。
ガッ、と堅い音とともに目の前数センチに漆黒の槍が現れる。
咄嗟に作ったとはいえ、チルノが相当力を込めたはずの氷は一撃で砕かれてしまった。
距離を離そうと粒弾で牽制するが、大量の弾幕に阻まれ届かない。
軽く舌打ちし、攻撃を諦め高速で後退しながら必死に避ける。
「っ痛! ・・・って、あれ?」
さすがに避けきれず左腕に軽く被弾してしまうが、弾幕が消えない。
通常、弾幕ごっこにおいて少しでも出血するレベルの被弾があれば、その時点で勝敗は決定。
それほど深くはない傷だがが、チルノの腕からは一筋の血が流れている。
これは、つまり――
「っ大ちゃん!」
チルノは大切な友人の姿を探す。
今まで大妖精の被弾音(ピチューン)が聞こえてこなかった為、大妖精は無事だと思い込んでいた。
大妖精はスペカを持っておらず、緊急回避の手段が無い。
よく考えれば、この弾幕の中で無傷でいられるわけがなかった。
いつの間にか薄くなっていた己の周囲の弾幕をくぐり抜け、氷精は遠くに群がる弾に突っ込んだ。
「はぁっ・・・はァッ・・・!」
「ふふふ、よく粘るわねぇ」
大妖精は必死に顔を上げ、ルーミアを見つめる。
服は至る所が破け、血が滲み出ている。
致命傷は受けてないが、それはルーミアが手加減していたためであろう。
体力はもう限界だった。
「さあ、もうそろそろ終わりにしましょう?」
「!!!」
ルーミアの体が闇に包まれ、蝙蝠型の弾が次々と飛び出してくる。
「っぅあああ!!」
大妖精は気力を振り絞り大弾を放ち、その後ろについて飛ぶ。
だが、突如として大弾が真っ二つに割れた。
あまりの出来事に、大妖精の目が見開かれる。
急激に失速し落ちていく弾の影から、黒い影が一つ。
その影はにやりと嗤うと、右手の闇色をした巨大な剣を高く振り上げ――
「こぉのやろおおおぉぉぉぉ!!!」
「なっ!?」
「チルノちゃん!?」
振り下ろされる直前、氷精の裂帛。
ルーミアの弾幕の間を縫って、チルノが体当たりをぶちかました。
ルーミアは剣でのとどめを目論んでいたため、弾の密度が薄かったのだ。
そして、チルノの右手には一枚のスペルカード。
「『凍符! マイナス――』」
「この、氷精如きがぁぁ!!」
スペルカードを唱えきる前に、ルーミアが先ほど下ろし損ねた剣を振るった。
慌てて距離をとるものの、『マイナスK』が切り裂かれてしまう。
「ちくしょう!」
「・・・不意打ちとは、やってくれるわねえ、氷精?」
「お前に言われたくないやい! スペカルール無視しやがって!」
今、精神面で負けるわけにはいけない。
無理矢理己を奮い立たせ、チルノは叫ぶ。
しかし、その健気な氷精に妖怪は嗤いかける。
「あら、そんなものを守っていたら貴女達を殺せないじゃない?」
息を呑む。
分かってはいたのだが、面と向かって言われると思わず怯みそうになってしまう。
負けてたまるか、ともう一度啖呵を切ろうと口を開くが、大妖精に止められてしまった。
「大ちゃん・・・?」
「ルーミアちゃん・・・もう止めよ?」
大妖精が優しく声をかける。
ここまでされておいて、説得しようというのだ。
応じるような相手とも思えないが、チルノは大妖精の意志を尊重した。
大妖精はもう高度を保つことでさえつらいのであろう、時折ふらついている。
そのような体だというのに、ゆっくりとルーミアに近づいていく大妖精を止めることなどできはしない。
「何を言い出すかと思えば・・・」
「ルーミアちゃんはたぶん、少し暴れたくなっちゃってるだけなんだよ。なんで、急に強くなっちゃったかは分か
らないけど・・・でも、このままだと、後で絶対後悔しちゃうよ?」
ルーミアは少し俯き、黙って大妖精の言葉に耳を貸している。
以外ではあるものの、話を聞く気になっているらしかった。
先ほどまでの凶悪な弾幕も消え去り、安心感からチルノは深いため息をついた。
「いつもみたいに、冗談なのかー、って笑って? それで、さっきまでのは無しで・・・それで、またみんなで遊ぼう
よ。橙ちゃんも、ミスチーちゃんも、リグルちゃんも、門番さんもみんな呼んで・・・追いかけっことか、かくれんぼ
とかして遊ぼ?」
少しずつ、少しずつ大妖精は進んでいく。
ルーミアは俯いたまま動かない。
既に二人の距離は、手を伸ばせば届くほどに近づいていた。
「ルーミアちゃん・・・」
大妖精はゆっくりとその両手を挙げ、ルーミアを抱きしめた。
いつものおっとりとした雰囲気は、そこにはない。
その表情は、まるで頼りがいのある姉のようであり、我が子見守る母のようでもあり――
その表情のまま、大妖精の首だけが湖に落ちていった。
数刻遅れて、ルーミアの掴んでいる大妖精だった物から血が噴き出す。
「(・・・・・・・・・え?)」
チルノの思考が止まる。
今、目の前で何が起こったのか理解できない。
ルーミアがおかしくなって、必死に逃げて。
大ちゃんがルーミアに話しかけて、抱きしめて、それで。
「(切られた? 誰に?)」
そんなことがあるものか。
だって、ルーミアは真剣に聞いてて、大ちゃんはあんなにも優しく声を掛けてて、あんなにも優しい顔で――
「まったく、何がしたかったのかしら? 今更話を聞くとでも思っていたのかしらねえ」
・・・何?
「あんなに不用心に近づいてきて・・・かえって殺しにくかったじゃない、裏があるのかと思って」
――コイツは、大ちゃんの気持ちを何だと?――
――コイツは、大ちゃんの命を何だと?――
「じゃあね」
そう言ってルーミアは、まだ血の吹き出るその物体を投げ捨てた。
ソレを掴んでいた逆の手に、さきほど紅い紋様が施された大剣。
それと同時にチルノの遙か下で、湖に大きめの石を落としたような音が聞こえた。
――チルノは知っている。 自分たち妖精が復活する際、死ぬ直前の記憶が無くなっている過去を――
――チルノは分かっている。大妖精はもう、このルーミアのことを思い出せないという未来を――
――チルノは気づかされた。大妖精の命を、生きた証を、ルーミアが踏みにじったという現実を――
――チルノは理解する。 目の前の化け物に敵討ちができるのは、自分だけだという感情を――
チルノの中で、何かが弾けた。
「ルゥゥゥゥゥゥミィアァァァァァァァァァァ!!!!!」
友達思いの蒼い軌跡が、まっすぐにその敵へと伸びる。
何も考えていない、ただ敵を討ち滅ぼさんとする若き氷精。
その双眸に宿る強い憎しみを感じ取り、ルーミアは不敵に微笑んだ。
「いいわねえ、その眼」
ルーミアは具現化していた大剣を闇へと還し、両手を左右に挙げた。
チルノが目の前にたどり着き、冷気を纏わせた拳を振るう。
だが、ルーミアはそれを最小限の動きでかわす。
ゆらゆらと、それはまるで一つの舞のようであった。
「くそっ! このぉぉ!」
「どうしたの、これで終わり?」
「うあああぁぁぁぁ!!!」
「隙だらけ」
「ガはッ!?」
挑発され拳を大きく振り上げるが、その隙に腹を蹴られ距離を離される。
今のルーミアが全力で蹴り飛ばせば、確実にチルノの体が千切れ飛んだはず。
――手加減されている――
「ふふふ、こんなのはどう? 『ディマーケイション』!」
スペルカードは啓示されていないが、発動はしたらしい。
今までよりも一段と密度の濃い弾幕が形成され、じりじりと近づいてくる。
・・・実はルーミアは内心、今のチルノの動きのキレに驚いていた。
そして興味が湧いていた。
だから手を抜いて挑発して、この氷精をいたぶる。
「もっと私を楽しませてみなさい、氷精!」
それらの行動は、確実にチルノに冷静さを取り戻させていた。
自分が殺されてしまえば元も子もない、と気付く時間を与えていた。
それでも氷精の憎悪は消えてはいない。
確実に、かつ自分が死なないように、相手を殺す為だけに策を練る。
「(コロす!!!)」
強く念じ、計三つの氷塊を作り出す。
初めての激情に心を預けた氷精は、信じられないほどの集中力を発揮していた。
それらの氷塊は、今までのものと比べものにならないほどの純度で、すさまじい強度があった。
その内の巨大な一つが、チルノの前方へと浮かび盾となる。
二つはチルノの両手に。
向こう側が綺麗に見えるほど透き通った、己の身長以上の大剣を模(カタド)った。
そして、眼前に広がる弾の壁を見て、一言叫んだ。
「『アイシクルフォール』!!!」
チルノもスペルカード無しで発動。
ルールに則って抑えられたそれではなく、全力の弾幕。
それらをすべて一点に集中させ、ルーミアの弾幕に穴を開ける。
多少相殺しきれず弾が残ってしまうが、気にせずその小さな隙間に体をねじ込む。
チルノの氷壁が、ガリガリと音を立てて削られていく。
が、そんなことに構っている暇はない。
盾が保たなくなる前に加速し、チルノは一気に弾幕を切り抜けた。
その先にいたルーミアに向け、盾を思いっきり蹴り飛ばす。
まさか中央突破されるとは思わなかったのか、ルーミアは驚愕の表情のまま固まっていた。
しかし激突する寸前、ルーミアは再び大剣を形成。
ギリギリのところで剣を滑り込ませ、弾き飛ばした。
「今度のは、切れないだろ」
「ふん・・・」
さすがに余裕が無くなってきたか、ルーミアは新しく大剣を生成。
お互い二つの剣を携え対峙。
復習に燃える碧眼と、深い闇に濁る灼眼が交差する。
先に仕掛けたのは氷精。
螺旋を描きながら突進、さらに己の周囲に氷の弾を次々と生み出し打ち続ける。
対しルーミアは、剣の腹で弾をいなしながら冷静にチルノの軌道を読む。
だが、互いの攻撃圏内に入ろうかというときになり、チルノは軌道を強制。
右手の大剣を高く振り上げつつ、ルーミアに肉薄する。
「だああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「ちっ!」
そのまま頭をかち割ろうと全力で剣を振り下ろす。
思惑の外れたルーミアは、下からという不利な形でそれを受け止める。
二つの巨大な質量が真っ向からぶつかり、二人の間に火花が煌めく。
チルノがルーミアの剣ごと叩き切ろうと右手に力を込めるが、力では負けているらしくそれ以上下がらない。
だがルーミアもそこまで余裕は無いのか、人を小馬鹿にしたような表情が消えている。
チルノが続けざまにもう一方の剣を横なぎに振るう。
「ぜぇい!!」
今度は軽く受け止められてしまう。
さすがにチルノの姿勢が悪く、力が入らなかったのだ。
だが、チルノは弾かれた勢いのまま大剣を上段に構え直し、右手の大剣にあわせて振り下ろす。
ここで初めて、ルーミアの表情にうっすらと焦りが浮かぶ。
慌てたようにもう一方の剣を持ち上げ、自らの頭上で交差させる。
先ほどよりも一層大きい火花が散り、二人が相手を潰そうとギリギリと押し合う。
いくら体勢が有利とはいえ、チルノが純粋な腕力で劣っていることに変わりはなく、いつまでこの拮抗が保つか分
からない。
腕に力を込めたままルーミアの背後に氷弾を形成、不意打ちを試みる。
勝利を半ば確信し笑いそうになったが、それよりも先にルーミアがニヤリと嗤った。
何故?――
それの意味するものを知ったとき、相手も同時に気付いたらしい。
二人同時に急前進、お互いが自分の張った弾幕の隙間をすり抜ける。
チルノは素早く振り返り、相殺しきれなかったルーミアの弾を氷剣で弾く。
再び接近しようと体勢を整えた瞬間、今まで守勢だったルーミアが突っ込んできた。
相手側には氷弾が届かなかったらしい。
突撃に耐えるために構えるが、ルーミアは方向を変え、チルノの周囲を高速で回転し始める。
黒い影の通った軌道には、大量の大弾。
「(囲まれる!?)」
脱出しようと何度か試みるが、その度にルーミアに回り込まれ剣を一閃される。
日が遮られ徐々に暗くなる視界。
気がつけば、チルノは完全に逃げ場を失っていた。
「潰れろ」
その呟きに応えるかの如く、弾壁が迫ってくる。
隙間は見あたらない、弾を打ち消す時間もない。
「(だったら!)」
チルノの四肢から大量の冷気が溢れ出す。
それはチルノを庇うかのように、優しくチルノを包んでいく。
そして、
「『パーフェクトフリーズ』!!!」
その冷気が、突如として牙を剥いた。
黒色の弾幕が急速に冷やされ、青白く変色していく。
チルノが両の手の氷剣を袈裟に振るうと、凍てついた弾はいとも簡単に砕け散った。
再び弾が動き出す前にその包囲網を脱出する。
だが、抜け出した直後にルーミアの一撃。
ルーミアとて馬鹿ではない。
先ほどの経験から、チルノがこの程度の弾幕では死なない事をとうに学習していた。
残像が見えるほどの勢いで、闇色の剣を振り下ろす。
チルノはそれに合わせ、両手の氷剣を全力で振り上げる。
だが、予想していた衝撃が氷剣に伝わってこない。
チルノはその勢いのまま、剣を振り抜いてしまった。
「え?」
あまりの出来事に思考が止まる。
――今、ルーミアの剣をすり抜けた?――
先ほどルーミアは、剣の形をしただけの、実体化していない闇を振り回しただけだった。
反撃を誘い、相手の意表を突く為の罠。
チルノはそれに見事にだまされ、わずかに隙をさらけ出してしまっていた。
だが、このわずかな時間は致命的だった。
「うあ!?」
まだパニックを起こしている氷精の氷剣を、正確に叩き飛ばす。
チルノはあっさりと、己の武器を手放してしまった。
「しまっ――」
やっとチルノの思考が覚醒するが、もう遅い。
チルノの目は、胸に迫り来る大剣をはっきりと捉えていた。
「(間に合えぇぇぇ!!!!)」
反射的に冷気を凝縮させる。
迫り来る死から逃れようと、己の能力をフルに活用する。
大剣と身体の合間に、盾を。
次の瞬間、ガツ、と硬い物同士がぶつかる音が響く。
かろうじて間に合った。
そう安堵しかけた時――
ルーミアは受け止められた大剣を全力で押しだし、発生した氷塊を直接チルノに叩き付ける。
ゴギリ、と嫌な音を残し、氷精は為す術もなく水面に落下していった。
ルーミアの手には、確実に肋骨を五、六本持っていった感触が残っている。
氷精は小さな水飛沫を上げ、沈んだまま浮かんでこない。
もうまともに動くことはできないであろうと考え、ルーミアは己の武器を闇へと還した。
そして、まだ波の残る湖に見当をつけ、大弾を五発ほど放つ。
「これでおしまい、と」
沈んだまま出てこなければ溺死するだろうし、浮かんできたなら水面から顔を出したところでトドメをさしてやれ
ばいい。
骨が折れていては、逃げようにも遠くには行けまい。
ルーミアはそう思い、高度を落としていく。
油断しきっていた。
だからこそ、真後ろから何かが水面下から飛び出してきたかのような音が聞こえたとき、反応が大きく遅れること
となる。
本日通算三度目となる突貫。
友の敵を、その首を討ち取らんと氷精が駆ける。
水面ギリギリを高速で飛行、水を切り裂き一直線に突き進む。
「(馬鹿な!? もう飛ぶことさえままならないはず!)」
ルーミアが振り向く。
見れば、迫り来る蒼い影には決定的に違和感があった。
その上半身が凍り付いていた。
否、自ら凍らせたのだ。
チルノは胸部を氷で包み込む事によって、冷却と固定を同時に行ない痛みを和らげることに成功していた。
しかし、内蔵のダメージまでは誤魔化せるわけがない。
現に、折れた肋骨が刺さったのかチルノは口から血を垂れ流している。
――チルノはもう、自分が助かるとは思っていない。
はっきり言ってしまえば、戦闘能力がルーミアより大きく劣っていることにも気付いている。
しかしそれと同時に、自身が決して弱くないことも理解していた。
全力――そう、後の事など考えずに全身全霊を込めればルーミアとて無事では済まない。
胸の氷を維持するために送る冷気を最小限に抑え、余る冷気を掌に集める。
だがまだ足りない。
氷精は己の命を燃やす。
「グ・・・ぎ、ぎ・・・!!」
身体が限界を超え、ギシギシと悲鳴を上げる。
止まるわけにはいかない。
氷精は力の限り吼える。
激痛に耐え、己を鼓舞する為に。
「あ"ア"ア"アアアア"アァぁ"ぁぁぁああ"あ"ぁ"ぁぁァァァァァ!!!!!!」
氷精がルーミアの目の前に到達する。
碧眼に宿るは復習の炎。
右手には万物を凍てつかせる絶対零度。
「くぅらぁえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
生物としての活動を確実に停止させる必殺の一撃。
その小さな手は吸い込まれるかのようにルーミアへと伸びてゆき――
そのまま、すり抜けた。
「(え?)」
鈍く光る剣が、チルノの胸を貫く。
「エ・・・あ・・・?」
突き刺した剣が無慈悲に捻られ、幼さ故の柔らかそうな肉が、成長仕切っていない骨が容赦なく抉られる。
「ぎャ!?」
神経を引き千切られた四肢が一度大きく仰け反り、強い意志を秘めていた眼球は裏返り白目を剥いた。
剣が引き抜かれる。
支えを失った氷精の身体は、小さな波だけを残して水中へと消えた。
――危なかった――
ルーミアは未だ収まらない己の心臓の鼓動を感じながら、冷や汗をかいていた。
確かにチルノは想像以上に手強かったが、自分には到底及ばないと思っていた。
だが、最期に見せた氷精の意地。
その軌跡、水面には氷が一直線に走り、水蒸気までもが凍てつき絶え間なく落下している。
咄嗟に闇と同化していなければ、湖の底に沈んでいたのはこちらであろう。
しかしそれは、雑魚相手に使うまでもないと思っていた奥の手。
力の消耗も激しく、頭の奥に靄がかかったような――
「くそ・・・! イライラする!」
こんな有様で霊夢に敵うはずがない。
人を喰らい、力を取り戻す必要が有る。
初めより幾分か小さな闇の塊が、フラフラと人里へと飛び立っていった。
水面に現れた赤いマーブル模様が、だんだんと薄まり――やがて、消えた。
『だーいちゃーーん、ルーミアーー!!』
『やっと来たのかー』
『もうチルノちゃん、遅いよー』
『あはは、ゴメンゴメン。リグルがしつこくってさあ』
『って、チルノちゃん何したの・・・』
『ちょっとからかっただけ。この男の娘ー!って』
『うわ・・・』
『どう見てもチルノが悪いのかー』
『ふふん! ”ちまた”ではそう言うのよ!!』
『そーなのかー』
『・・・ねえ、”ちまた”って何なの?』
『え"?』
『・・・知らないのかー』
『し、知ってるよ! あー、えーっと・・・そう! ちまきみたいな物よ!!』
『嘘つけ』
『え、ちょ、ルーミアちゃん!?』
『け、けど、橙が紫のやつに聞いたって言ってたから間違いないの!』
『でもチルノちゃん、他人が嫌がることしちゃ駄目だよ?』
『む・・・』
『後で謝るのかー』
『むう・・・分かったわよ』
『よし、それじゃ今日は何して遊ぶ?』
『何でもいいよ。 アタイはサイキョーだからね!!』
『そーなのかー?』
『なんで聞くのよ!! そこは普通に【そーなのかー】でいいの!!』
『そーなのかー?(笑)』
『ムキー!!!』
『もう、チルノちゃん落ち着いて・・・ルーミアちゃんもからかわないの』
『分かったのかー』
『くっそー、今日は絶対負けないからねー!!』
『面白そうなのかー』
『でも、何するのか決めてないよ?』
『何にするのかー?』
『そうねえ・・・じゃあ――』
『えぇ!?』
『・・・本気なのかー?』
『当たり前よ! 降りるなら今の内だよー?』
『今更降りるわけないのかー!』
『・・・私がいなきゃ何するか分からないし・・・』
『ならけってーーい!! レッツゴー!!』
『フ、フライングなのかー!!』
『はぁ・・・』
『アタイったらサイキョーね!!』
これだから、EXルーミアの出てくる話はどれを持ってしても好きになれない
いやはや、分かりづらいお話ですんません。
作中では書いてないけど、色々と設定みたいなものがあって・・・
これは幻想郷の『或る日』なんですよ。
今までも何度も繰り返されているお話の一つなんです。
慧音とか霊夢とかが人知れず何かを解決してたり、誰も知らないとこで終わってたり。
それでこれは、そのお話の中でルミャとチルノと大ちゃんの三人は覚えていないお話なんです。
詳しく言えば霊夢がルミャを止めるのも初めてじゃなくて、自分一人のお札じゃ抑えられないなーって悟ったときのお話です。
なんで、この話だけをみれば時間軸は
中盤(チルノ待ち合わせ~撃沈)
↓
最初(霊夢がルーミアを人里行く前に止めてる。派手に戦闘したからばれた)
(最後の会話はこの時間軸以外で行なわれた会話)
ってな感じになってます。
当人達は覚えていないけど、確かにこんな事があったんだぞ、みたいなお話が書きたかったんですよ。
彼女達の意外な一面とか、お前ら気楽にしやがってみたいな。
オチを付けなかったのはわざとです。
日常の一部のお話に下手にオチっていうのもどうかなー、と思いまして。
↑の設定以外の色々な解釈があっても面白いなと思って、こういうぼかした終わらせ方にしました。
・・・・・・というかこういう事は後書きに書いとけ、俺orz
ここで説明するなよ……。
作品については、何がいいたいのか
その言い訳含めて、本来なら作品内に盛り込んでおくべき要素だと思うよ
それが出来なかったのは貴方の不注意
或いは、「盛り込んだつもり」だったのならそれらの要素を匂わせることが出来なかったのは、単なる貴方の力量不足
それらを真剣に受け止めて次回作に活かしていただきたい
ご精進を
今後に期待しておきます。
確かに一番盛り上がる部分だけど、盛り上げるための土台が圧倒的に不足していては……
描写や設定は面白かっただけに残念。