Coolier - 新生・東方創想話

没ネタ

2008/07/28 02:06:48
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※一部微妙にグロテクスな内容があります。そういうのが苦手な方は避けてください。






















「ふぅ…」

 夕日が差し込む狭い部屋の真ん中で、気だるそうに射命丸文が煙管をくわえていた。
ちゃぶ台の上には開かれたままの、意外と可愛らしい字の書かれた手帳が開かれている。
「明日の記事に使えそうなネタが見つからないわねぇ…」
新聞記者にとってはネタは命の次に、あるいは命よりも大事なものである。
そのネタが使えないとあっては足を使って取材した意味がないというものだ。
「でも印刷所の予約は取ってあるし、今日中に書き上げないと…」
締め切りを守らない物書きは腹を切って死ぬべきであると天狗印刷所の中の天狗が言っているそうだ。
それをネタにしない辺り天狗の間では常識と化しているのであろう。

 煙管をふかしながらしばらく悩んでいた文だが、とあるページに辿り着き、そこで手を止めた。
「あー、これは使えるかもしれないなぁ、夏だし人間の読者には受けるかも」
そこには焼き鳥撲滅運動をかかげ、ヤツメウナギ屋台を出しているミスティア=ローレライを取材した際に取ったメモがあった。




 その取材のきっかけは全く別の取材で訪れていた紅魔館の主の一言だった。
『最近、夜雀の屋台のヤツメウナギだっけ? あれが急においしくなったのよね。何か変わったのかしら?』
その発言について文が問うた所、時々ミスティアの屋台のヤツメウナギ料理をメイドの十六夜咲夜に買ってきてもらっているが、
最近急に味が良くなった、とのことだった。
この話の裏を取るべく、様々な人妖に聞いて回ったところ、人間からは『味が濃くなったけどおいしいかと言われると微妙』
という回答が多く、妖怪は『味がよくなったのは確か』という意見が多かった。

 裏を取ったことで、取材の価値があると判断した文は、早速夜雀の屋台を訪れ、
まずは取材料代わりにとヤツメウナギの串焼きを食した。
そうしたところ、文には確かに味が良くなった、と実感した。
今までのヤツメウナギは味が荒く、常食するには少々辛いものがあったが、このヤツメウナギは違った。
味がまろやかになり、口どけも良くなっていた。そして何よりも味全体が調和の取れたものになっていたのだ。
これはいいネタになると確信した文は、早速店主に取材を試みた。
『最近貴方の屋台のヤツメウナギがおいしくなったと評判なんですが、何か新しいことをされてるんですか?』
それに対する店主の反応は最初は秘密は明かせないといった調子の拒否だったが、しばらく文が粘っていると、
『うーん、そこまで言われるとー。まぁ貴方には同じ鳥のよしみもあるし、特別に話してあげましょう』
と取材を承諾した。



『きっかけはね、ヤツメウナギを家で育てようって思ったことなのよ』
ヤツメウナギは収穫も安定しないし、また冬眠するので冬場は特に収穫量が減るものだ。
なので自分で育ててしまえばいつでもヤツメウナギを使うことができる、ということらしい。
『でもね、ヤツメウナギが一体何を食べるか分からなかったから、最初の方は良く死なせてしまったのよ。
屋台で余ったヤツメウナギの切り身は全然食べなくてすぐ死んでしまったし、ウナギやドジョウもだめだったの』
ウナギやドジョウはともかくヤツメウナギの切り身を入れるのはどうかと思うが、とにかく最初は失敗の連続だったという。
『それでね、市場で色んなものを買って試してみることにしたの。野菜とか果物とか色々入れたのよ。
勿論肉や魚もね』
仮にも魚であるヤツメウナギが野菜や果物や肉を食べるかははなはだ疑問ではあるが、とにかく試してみることにしたという。
『そうしたら、魚、特に新鮮な生きた魚は凄く反応がよくって、しばらくは生きた魚を水槽に入れてたんだけど、
ちょっとそれだと都合が悪くなっちゃって』
新鮮な魚はいつの世の中でも高いものである。
『それで、仕方なく肉をやってたんだけど、それだとどんどん痩せていって終いには死んでしまうのよね
しかも何故か肉は減ってないの。肉は食べれないのかな、ってその時は思ったのよね』
中々難しい食生活である。肉を食べないとは贅沢な。
やはり新聞記者というもの、メモ魔と言われる位メモをまめに取らないとやっていけないのだろう。
『それで、野菜ならどうかってことで野菜を入れてみてもこれはダメだったの。
汁気の多い野菜だと何日かは生きるんだけど、どんどん痩せて死んでいったわ。人参みたいな野菜だったら見向きもしなかった』
やはり野菜を食べるヤツメウナギというものは居ないらしい。
『で、今度は果物を入れてみると、野菜よりはマシだったけどこれも使えたものじゃなかったのよねー』
店主の試みは悉く失敗だったようである。



『ふーむ、色々試されたんですね』
感心したように文が言った。
『まぁ暇潰しを兼ねてたから、結構面白かったんだけどね』
追加の串焼きを焼きながら、店主はそう応えた。



『という訳で、色々試してみたものの結局ダメでヤツメウナギを死なせてばっかりだったんだけど、
ある日ねぇ、たまたま生きた人間を捕獲できたから、その時は酔っ払ってたってのもあったんだけど、
それをそのまま水槽に入れたのよ。そうしたらね、こうヤツメウナギが群がってその人間にくっついて、
そして全部のヤツメウナギが離れたらね、後には木乃伊みたいになった人間の死体があったのよ』
妖怪は人間を食べるが、ヤツメウナギも人間を食べるらしい。こういう生き物は妖怪になりやすいのかもしれない。
『でね、人間を食べたヤツメウナギはね、丸々と太るの。そしてそのヤツメウナギを食べてみたらね、それがとってもおいしかったのよ』
味の秘訣は吸血らしい。ヤツメウナギは吸血鬼の親類なのだろうか。
『で、人間を食べさせたらいいってのは分かったんだけど、そうなると人間をどうやって確保するかってのが一番の問題だったのよね』
妖怪は人間を食べるとはいえ、毎日人間の血を吸う吸血鬼のような例外を除き数ある選択肢の一つに過ぎない。
なので幻想郷の人妖のバランスが保たれているのかもしれない。
『あんまり取りすぎると用心されるし、下手したら巫女とかに退治されるじゃない。それにそもそも人間を捕まえるのも難しいし』
博麗の巫女は何もしていないように見えて色々仕事をしている。調子に乗るとすぐに退治される。
『でも、私は自分の能力をフル活用して人間を安定的して、そして安全に捕獲する方法を思いついたの!』
興味深い内容である。比較的妖怪としては力が弱いと思われる夜雀がどうやって安全に捕獲するのだろう。
『まずは、あまり人間の通らなさそうな辺りに屋台を開くの、でも最近の人間は夜に寂しい道でも平気で歩くのも多いから、
大体お客としてこない時は無いの。』
妖怪と人間との距離が縮まっているのは実感できるが、やはり無用心である。
『で、そういうお客が来ると、まずお酒を飲ませて、その後思いっきり鳥目にするの。ヤツメウナギも効かない位にね。
で、出すお酒を強いものにするの。目が見えなくなってる人間だとそれに気付かずに酔っ払うのよね』
人間は我々天狗と比べると非常にお酒に弱い。なので容易に潰される。
『で、酔い潰したら縛って家まで運んで、お酒が抜けるのを待つの。
前にお酒抜くのを忘れたらヤツメウナギが死んでしまって大変だったのよね。
で、お酒が抜けたら、その人間を生きたままヤツメウナギの水槽に入れる。そうしたらおいしいヤツメウナギが一杯取れるのよ!』
目覚めたらヤツメウナギの餌とは中々恐ろしいものである。
『こうして私はおいしいヤツメウナギを皆に振舞えるようになったんです。あ、これは人間には内緒にしてよね。
用心されて獲れなくなったら困るし』




 文はそのページをしばらく見ていたが、しばらくしてゆっくりと文花帖を閉じた。
「やっぱりこのネタは載せない方がいいか。ミスティアさんの屋台が繁盛しなくなると焼き鳥撲滅運動に差し障るし」
そう言って文は煙管の煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「さて、他にいいネタは…」
どうもこんばんは。
今回は夏なので怪談みたいなものを書いてみました。
あややも新聞記者ならこういう出せないネタを一杯持ってそうですよね。
ちなみに古代ローマでは罰として生きた奴隷を餌にしてヤツメに食べさせたらしいです。

※「幻想郷の人間食っちゃいかんのでは?」
 明記されてるのは吸血鬼だけですね。
契約を結んでいるみたいなのでこれは確定事項でしょう。
ただ他の妖怪に関しては阿求が求聞史記で「減った」と言ってはいますが、
未だに妖怪の人間への害は無くなったとは言われてませんので、
私は食べることもあると判断しています。
そうでもないと慧音の守護者としての存在意義も薄れると思いますし、
第一人間と妖怪の健全な関係というものも築きがたいのではなかろうかと。

※「先が読める」
 すいませんこれは私の力が至らなかっただけのようです。
ヤツメに人を食わせてたという史実からオーソドックスなホラーにしたかったのですが、
どうやらベタすぎたようです。この点に関しては精進しますのでどうぞご容赦を。
恒河沙
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コメント



0.450簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
あわわわ…
じゃあ昨日屋台で食べたヤツメウナギは、あ何するきさmくぁwせdrftgyふじこlp;@:

(薄れゆく意識の中)…あれ?でも幻想郷の人間は獲って食ってはいかんのでは?……
7.40名前が無い程度の能力削除
人間捕獲方法とヤツメへの与え方はともかく、人間をヤツメの餌にするというのはすぐに分かっちゃいました
それにしても、繁盛したら捕獲現場を見られるんじゃないの?
それに、屋台に行って行方不明になる人間が増えたらばれるでしょ
8.50名前が無い程度の能力削除
注意書きと「ウナギがおいしくなった…」のくだりでオチがわかってしまいました。
実際思った通りだったので、その予想を裏切ってほしかったです。
こういったホラー作品はおもしろいと思うのですが、先の方々が述べておられるように疑問に思う部分もありました。
9.70無刃削除
えーと、確か人間を襲ってはいけないのは「人間の里」と「神社」だけだったはず。
そもそも神社に参拝客が来ないのも永遠亭に行くのに妹紅に護衛を頼まなければ
為らないのも全ては「外では妖怪に襲われても文句は言えない」からですし。

吸血鬼は八雲紫との盟約で「八雲が食料人間(罪袋?)を供給する代わり
幻想郷の人間を襲わない」と為っているからです。

ここら辺の「狩る者、狩られる者」関係の事情は東方求聞史記に載ってますよ。
12.40名前が無い程度の能力削除
すでに指摘されてますが、ルールはともかく、このやり方だと人間を攫ってるって数人攫った後でばれるって

だって全員、同じ店に行ったら行方不明だぜ?
14.70カブトムシ削除
いろいろ指摘されてるとおり確かにオーソドックス過ぎるけど、こういうのは自分は結構好きですね
17.50名前が無い程度の能力削除
あわわ、怖い話ですね
展開が読めてしまうというのはあったかも
18.60名前が無い程度の能力削除
後書き見るまでホラーとは気づかない