この街のとあるデパートの寂れた屋上遊園地には、魔女がいる
いつも大きな帽子を被り、いつも同じ服を着て、
いつも可愛い日傘を差しながら、いつも、そこで私を待っている
いや、別に私を待っているわけではないのだろう
ただ、私がそこに行くと、魔女がいるだけで
「あら、またきたの? 坊や」 「ええ、また来たよ。魔女」
いつも通りのやりとり
私たちは仲間でも友達でも敵でもなく、
「私は魔女なんかじゃないわよ」 「こっちだって坊やなんかじゃないよ」
ただ、「魔女」と「坊や」の二人だった
魔女は色々なことを知っていた
すごく昔のこと、少し前のこと、明日のこと
この星のこと、この町のこと、別の世界のこと
そして、この私のことも
魔女は何でも教えてくれた
歴史について、今について、未来について
月について、他の国について、空想上の物語について
自分のこと以外は、全て
魔女の話は面白かった
私は、初めて魔女に会った日からほぼ毎日魔女に会いに行っていたが、
一度として同じ話はなく、一度として退屈したことはなかった
魔女は聞き上手でもあった
その日学校であったこと、この前読んだ本のこと、ついさっき考えたこと
私が自慢してるときも、愚痴を言っているときも、ただ喋っているときも、
魔女は相槌を入れながら、私が気持ちよく喋れるようにしてくれた
魔女と別れるのは、何故か四時と決まっていた
私はもう少し話をしていたい気分でも、魔女はそれを止めて
「もうこんな時間。坊やはおうちに帰りなさい」
そう言って日傘をたたみ、じっと私の目を見つめてくるのだった
私は魔女に嫌われたくなかったので、いつも言われるがまま帰るようにしていた
「じゃ、またね。魔女」 「えぇ、またね。坊や」
どうせ明日も会うのだろうが、「また明日。」とは言わなかった。
もしも嘘になったら、嫌だからだと思う
魔女は一体何者なんだろう、と考えたことがないといえば嘘になる。
何処から来て、何をしていて、何故あの場所にいて、何時から生きていて
何より、どうして私の相手をしてくれるのか
疑問に思わなかった日はない
だけど、もしそれを聞いてしまい、魔女の怒りに触れることになれば…
と、考えると怖くて聞けなかった
魔女が怒るのが怖いのではなく、魔女に嫌われるのが怖いのだ
だから、私があの魔女について知っているのはいつか教えてくれた名前だけだった
「こう、書くのよ。私の名前」 「………なんて読むかわかんない」
魔女は読み方までは教えてくれなかったが
その日、家に帰って辞書を開いてみたが、読み方がわからなかったので結局調べられなかった
魔女と会ってから一ヶ月ほどたった頃だったろう、私はとうとう魔女の正体を聞く決心をした
その日は学校が創立記念日だかなにかで、私は朝から魔女のいる屋上遊園地へと向かった
おそらく、魔女はまだ来ていないだろう
あとから魔女が来て驚くのだ、「あら坊や、もう来てたの?」 と。
あの魔女を少し驚かすことができる そう考えると、少し楽しいじゃないか
案の定、彼女はまだ来ていなかった
私はいつもは魔女が座っているところに腰かけて待つことにした
魔女は何時来るだろうか?
私の正面のガラス戸を、いつも私があけるようにして、
そう、思っていた
空気が歪んだ
そんな気がした
そう、うしろから魔女が来て驚くのだ、「あら坊や、もう来てたの?」 と
忘れていたようだ、相手は「魔女」なのだ
所詮「坊や」の私が考えた通りに動くわけがない
後ろを振り向くと、魔女はニコリと笑って言った 「今日は早いのね」
私は、その時初めて魔女が本当に「魔女」であると実感した
いつも魔女が座っているのは屋上遊園地の淵の手すり近くにあるベンチ
空でも飛んでこない限り、後ろから人が来ようもない場所だから
同時に理解した。魔女が今まで話してくれたことは全部、
物語などではなく、魔女が実際に体験したことなのだ、と
今まで魔女は自分のことを殆ど話さなかった
なんてことはなく、
私が今まで勘違いをしていただけだったのだ、と
そして、私は始めて魔女にお願いをした
「私を、あなたの世界に連れて行って」
魔女はニコリとした笑顔のまま
「嫌よ、だってあなたは美味しくなさそうだもの」
………その日以来私は魔女に会いに行っていない
あの魔女が何者だったのか
何処から来て、何をしていて、何故あの場所にいて、何時から生きていて
そして、どうして私の相手をしてくれたのか
簡単な話だった ずっと魔女はその話をしていたじゃないか
魔女は魔女で、別の世界から来て、色んなことをしていて、なんとなくあの場所にいて、すごく昔から生きていて
そして、暇つぶしに私の相手をしてくれたのだ
魔女は最後にそこまでありがたくないプレゼントをくれた
「坊やがどうしても別の世界に行きたいなら、自分で入り口を探しなさい。
でも、普通に頑張っても無駄だから、入り口の探し方だけ教えてあげる。
坊やの『視覚』の境界を弄ったわ。これで坊やは『世界中に張り巡らされた境界の境目が見えてしまう』。
どれが入り口か、何処に入り口があるのか。その『目』で探しなさい。
またね、坊や。 」
………私は魔女にとっては最後まで坊やだったようだ
家に帰って辞書を開いてみると、「坊や」は、江戸時代には女の子にも普通に使われていたらしい
なるほど、あの魔女にとったら江戸時代なんてつい最近のことなのだろう
私には、あの魔女と話した一月さえ遠い昔のことであっても
私の名前は マエリベリー・ハーン
相方の 宇佐見蓮子 と二人で、
―――この冥い街でオカルトサークルをやっている―――
………あの魔女にまた会いたいか、と聞かれれば少し悩む。
でも、いつかまた会う日が来るのだろう
だって、あの嘘をつかない紫の魔女は
「 またね 」
って言ったから
いつも大きな帽子を被り、いつも同じ服を着て、
いつも可愛い日傘を差しながら、いつも、そこで私を待っている
いや、別に私を待っているわけではないのだろう
ただ、私がそこに行くと、魔女がいるだけで
「あら、またきたの? 坊や」 「ええ、また来たよ。魔女」
いつも通りのやりとり
私たちは仲間でも友達でも敵でもなく、
「私は魔女なんかじゃないわよ」 「こっちだって坊やなんかじゃないよ」
ただ、「魔女」と「坊や」の二人だった
魔女は色々なことを知っていた
すごく昔のこと、少し前のこと、明日のこと
この星のこと、この町のこと、別の世界のこと
そして、この私のことも
魔女は何でも教えてくれた
歴史について、今について、未来について
月について、他の国について、空想上の物語について
自分のこと以外は、全て
魔女の話は面白かった
私は、初めて魔女に会った日からほぼ毎日魔女に会いに行っていたが、
一度として同じ話はなく、一度として退屈したことはなかった
魔女は聞き上手でもあった
その日学校であったこと、この前読んだ本のこと、ついさっき考えたこと
私が自慢してるときも、愚痴を言っているときも、ただ喋っているときも、
魔女は相槌を入れながら、私が気持ちよく喋れるようにしてくれた
魔女と別れるのは、何故か四時と決まっていた
私はもう少し話をしていたい気分でも、魔女はそれを止めて
「もうこんな時間。坊やはおうちに帰りなさい」
そう言って日傘をたたみ、じっと私の目を見つめてくるのだった
私は魔女に嫌われたくなかったので、いつも言われるがまま帰るようにしていた
「じゃ、またね。魔女」 「えぇ、またね。坊や」
どうせ明日も会うのだろうが、「また明日。」とは言わなかった。
もしも嘘になったら、嫌だからだと思う
魔女は一体何者なんだろう、と考えたことがないといえば嘘になる。
何処から来て、何をしていて、何故あの場所にいて、何時から生きていて
何より、どうして私の相手をしてくれるのか
疑問に思わなかった日はない
だけど、もしそれを聞いてしまい、魔女の怒りに触れることになれば…
と、考えると怖くて聞けなかった
魔女が怒るのが怖いのではなく、魔女に嫌われるのが怖いのだ
だから、私があの魔女について知っているのはいつか教えてくれた名前だけだった
「こう、書くのよ。私の名前」 「………なんて読むかわかんない」
魔女は読み方までは教えてくれなかったが
その日、家に帰って辞書を開いてみたが、読み方がわからなかったので結局調べられなかった
魔女と会ってから一ヶ月ほどたった頃だったろう、私はとうとう魔女の正体を聞く決心をした
その日は学校が創立記念日だかなにかで、私は朝から魔女のいる屋上遊園地へと向かった
おそらく、魔女はまだ来ていないだろう
あとから魔女が来て驚くのだ、「あら坊や、もう来てたの?」 と。
あの魔女を少し驚かすことができる そう考えると、少し楽しいじゃないか
案の定、彼女はまだ来ていなかった
私はいつもは魔女が座っているところに腰かけて待つことにした
魔女は何時来るだろうか?
私の正面のガラス戸を、いつも私があけるようにして、
そう、思っていた
空気が歪んだ
そんな気がした
そう、うしろから魔女が来て驚くのだ、「あら坊や、もう来てたの?」 と
忘れていたようだ、相手は「魔女」なのだ
所詮「坊や」の私が考えた通りに動くわけがない
後ろを振り向くと、魔女はニコリと笑って言った 「今日は早いのね」
私は、その時初めて魔女が本当に「魔女」であると実感した
いつも魔女が座っているのは屋上遊園地の淵の手すり近くにあるベンチ
空でも飛んでこない限り、後ろから人が来ようもない場所だから
同時に理解した。魔女が今まで話してくれたことは全部、
物語などではなく、魔女が実際に体験したことなのだ、と
今まで魔女は自分のことを殆ど話さなかった
なんてことはなく、
私が今まで勘違いをしていただけだったのだ、と
そして、私は始めて魔女にお願いをした
「私を、あなたの世界に連れて行って」
魔女はニコリとした笑顔のまま
「嫌よ、だってあなたは美味しくなさそうだもの」
………その日以来私は魔女に会いに行っていない
あの魔女が何者だったのか
何処から来て、何をしていて、何故あの場所にいて、何時から生きていて
そして、どうして私の相手をしてくれたのか
簡単な話だった ずっと魔女はその話をしていたじゃないか
魔女は魔女で、別の世界から来て、色んなことをしていて、なんとなくあの場所にいて、すごく昔から生きていて
そして、暇つぶしに私の相手をしてくれたのだ
魔女は最後にそこまでありがたくないプレゼントをくれた
「坊やがどうしても別の世界に行きたいなら、自分で入り口を探しなさい。
でも、普通に頑張っても無駄だから、入り口の探し方だけ教えてあげる。
坊やの『視覚』の境界を弄ったわ。これで坊やは『世界中に張り巡らされた境界の境目が見えてしまう』。
どれが入り口か、何処に入り口があるのか。その『目』で探しなさい。
またね、坊や。 」
………私は魔女にとっては最後まで坊やだったようだ
家に帰って辞書を開いてみると、「坊や」は、江戸時代には女の子にも普通に使われていたらしい
なるほど、あの魔女にとったら江戸時代なんてつい最近のことなのだろう
私には、あの魔女と話した一月さえ遠い昔のことであっても
私の名前は マエリベリー・ハーン
相方の 宇佐見蓮子 と二人で、
―――この冥い街でオカルトサークルをやっている―――
………あの魔女にまた会いたいか、と聞かれれば少し悩む。
でも、いつかまた会う日が来るのだろう
だって、あの嘘をつかない紫の魔女は
「 またね 」
って言ったから
鈍いので、最後までわかりませんでした。
『私』の正体は、最後の最後までわかりませんでした。
次が気になって気になって、どんどん引き込まれていき、気づけば終わっているという……。
面白かったです、また読ませていただこうと思います。
宇佐見
強く願い続ければ,其の想いはきっと叶う事でしょうね。
次回も頑張って下さいね♪
坊やの正体までは分かりませんでした。
登場人物の選び方が凄いよかったです。
これをプロローグにして話を展開させても面白そうです