闇に包まれた幻想郷の空を、寒気の妖怪が舞う。
その手をひとつ振れば、針のごとき鋭さをともなう風が吹き荒れ、
その身をくるりと翻せば、激しい吹雪が辺りを押し流し猛り狂う。
ぶ厚い雲の隙間から、月が微細な光をおとすなか、
その僅かな明かりをうけて、黒い空を斑に染める、みぞれ、粉雪、牡丹雪。
稜線も定かならぬ闇空でありながら、地を覆い空に猛る雪のみが、
この暗黒の世界のさなかにあって、その純白の輝きを際立たせていた。
生きとし生けるものの気配が絶えたその世界を、寒気の妖怪は駆け巡る。
その表情は喜びに溢れ、その心は躍動に満ち。
まるで眼下の世界すべて、己の手の内にあるかのごとく。
妖怪はなおも優雅に激しく舞い踊り、
それに呼応し、風雪もまた一層にその勢いを増していった。
冬の只中の幻想郷。
目覚めの季節は、未だその気配を片鱗も見せずにいた。
――――――
睦月 祝過
――――――
「起きてるか? 紅白」
声とともに、がらりと障子が開いた。
外の冷気が室内へ流れ込んでくるのを剥き出しの肩から敏感に感じ取った霊夢は、「むー」と
獣のような呻き声をあげ、腰まで入れていたコタツの中へ、より深く体を沈めこんだ。
「カタツムリみたいなやつだな。ほら、しゃきっとする。約束していた点検の日だぞ」
そんな霊夢の様子を見て、道服を纏ったいつもの格好の客人は呆れ顔を浮かべて言った。
「松が取れたばかりだっていうのに、なんで出かけなきゃならないのよ……」
首元までコタツに浸かった霊夢が、消え入りそうな声でそうこぼす。
茶色柄のコタツ布団の裾から、頭だけをにょきっと生やしたその図は、客人の言うとおり、
カタツムリか、はたまたはモグラあたりを連想させる有様だった。
「松が取れたから働くんじゃないか。それに私だってこんな寒いなか動きたくなんかない」
「あんたはその暖かそうな尻尾があるんだからいいじゃない」
ジトっとした視線を向けながら、そう口をとがらせる霊夢。
それを受けて、客人――八雲藍はやれやれ、といった表情を浮かべた。
「私のまわりってのはなんだってこんなのばかりなのかね。ご主人様といいお前さんといい、
そういえば橙も我が家のコタツから離れようとしない」
「猫の方が賢いって証拠ね。主人だけでなく自分の式神にも知恵で負けるだなんて、あんたも
焼きが回ったかしら。二人に倣って冬眠でもしなさいよ、獣なんだし」
「……生憎、狐も猫も冬眠とは無縁なのでね。それだけ元気よく舌が回るなら、もうそろそろ
動きはじめても大丈夫そうじゃないか」
額に小さく青筋を浮かせた藍が、霊夢の肩をむんずと掴んで引っ張り出そうとしはじめる。
「あ、ちょっとなにすんのよ!」
「はいはい起きる起きる、出かける前からこれ以上私の手を煩わせるんじゃないっ」
「わかったー、わかったから今日はいやー。せめて明日にー」
「そう言って年ごと持ち越したのはどこの誰だ。第一、こいつは本来お前の仕事なんだぞ」
「やぁーめぇーてぇー」
冬の盛りを迎えた幻想郷を、朝の光が照らし出していた。
前夜の猛吹雪から一転して快晴となった空の麓から、怠けぎみの太陽がようやく顔を出し、
深い雪に覆われた山々や里へ鮮烈な陽光を投げかけた。その光を真っ白い雪の表面が反射し、
きらきらと美しい輝きを見せていたが、それはどこか無機質で、しかも冷酷だった。
地も水も、木々も生き物も妖怪も、あらゆるものが眠りにつく季節――冬。
人々もまた例外にあらず、里に住む者もそうでない者も堅く扉を閉ざし、いつか訪れる筈の
目覚めの季節をじっと待ち続けていた。
「なあ霊夢」
「……なによ」
「飛び難いんだが」
「頑張りなさいよ」
「鬱陶しいんだが」
「我慢しなさいよ」
「はあ……」
雲ひとつない青空を、黄金色の豊かな毛並みをたたえた九尾の式神が飛んでいた。
ややぎこちなく飛ぶ彼女の背後では、紅白の衣装を身に纏った霊夢が、全身で彼女の九尾を
抱え込んでいた。一尾たりとも己の体から離すまいと、両手両足で器用に尻尾を固定させる。
時折、力んだ拍子に霊夢の手が尻尾を強く掴み、そのたびに藍の体にびくりと震えが走った。
「ほら、着いたよ。結界に綻びができているのが、この辺り。まあ穴が開くに至るまでには、
もうしばらくかかるけど、早く処置するに越したことは――こら、いい加減に離せってば」
地に降り立った藍が、強く尻尾を揺すって霊夢を振り落とす。一心不乱に尻尾を抱えていた
霊夢もさすがに耐え切れず、その背からずるりと落ちて、雪の上にぺたりと尻餅をついた。
「あーん! お尻寒いー!」
「もう観念して、しゃきっとしなさいって。ここの他にもう一箇所あるんだから。この程度の
修復ならすぐに終わるだろうに」
「うう……そのうち主人もろとも退治してやる……」
そうぶつくさ言いながら、霊夢は玉串を構えて立ち上がった。
へっくし、とくしゃみをひとつ。半眼に目を細めて周囲を見渡しはじめる。
作業自体はさすがに手馴れているのか、問題のある部分は即座に把握できたようだった。
目を瞑り深呼吸を一回。
しゃん、と玉串を一振りし、高らかに祝詞を唱えはじめる。
――夢幻数多像也て御霊宿りし其の想い我博麗禊ぎ畏み奉らむ――
しゃん
しゃん
その声はわずかに気だるげで、玉串を振るう手つきもいまひとつ力が篭もっていなかった。
それでも祝詞の一節、玉串の一振りとともに、霊夢の体からじわりじわりと霊気が滲み出で、
幻想郷を覆う大結界へと溶け込んでいくようだった。
藍は霊夢の邪魔にならないよう離れて立ち、数個の狐火をともして霊夢の周囲に侍らせた。
暖を取るには心もとないにしても、多少の防寒には役立つだろうとの気持ちだった。
二人が立つ丘は一面雪に包まれ、鳥一羽、獣一匹動く気配は見当たらなかった。
幻想郷の冬が最も厳しくなるこの時期、熊やリスはおろか、狐や猪など冬眠をしない動物も
巣穴に閉じ篭もり、寒気の過ぎるのをじっと待ち続けているようだった。
藍も、普段なら今のような時期は余計な外出などはせず、冬の間眠り続ける主と、コタツで
丸くなる自分の式神の世話をしながら、自宅でゆっくりと過ごすのが常だった。
しかし、二週間ほど前の年越しを控えた折、結界の定期点検を行った際に、霊夢が管理する
博麗大結界に若干の綻びを発見した。通常、藍が管理すべき結界は博麗大結界とは別であり、
その綻び自体も急を要するものではなかったが、知り合いである手前、一応知らせるだけでも
報せておこうと霊夢のもとを訪れた。
――その筈が、気がついたらコタツから出ようとしない霊夢を叱咤し、挙句、作業の手伝い
まで申し出るという有様だった。藍としても何故そんな約束をしてしまったのかと頭を抱える
思いだったが、そもそも怠惰な者を見ると手を貸さずにはおれぬという彼女自身の性格に起因
しているとは、遂に考えが及ぶことはなかった。
藍は修復を続ける霊夢の背中を眺めながら、ほうと吐息をついた。
自身と比べると幾分小柄な霊夢だが、その体から沸き立つ霊気は雄大で、底しれない深みを
感じさせられた。博麗の巫女としての能力ゆえか、あるいは霊夢自身の才覚によるものか――
藍はその後姿に、ほんの一瞬、今も昏々と眠り続けているだろう、己の主を幻視した。
作業は順調そうに見えた。
祝詞を唱える声は数分でやみ、霊夢は最後に、しゃんっと一際大きく玉串を振った。
「はい、終わり」
「ん、ご苦労様……って、おいこら」
「んー? なあにー」
玉串を降ろすやいなや、駆け足で背後にまわって尻尾に体をうずめる霊夢を、藍は肩越しに
呆れた表情で見やった。ふさふさと暖かい尻尾に包まり、ほんわかとした表情を浮かべる霊夢。
藍は大きくため息をつくと、ぼやくような口調で言った。
「まさか、次の修復場所まで、またこのまま連れていけと?」
「よろしく」
「はあ……」
ふわりと飛び立った藍は、霊夢がずり落ちないように僅かに尻を持ち上げながら、ゆっくり
次の目的地へと向かった。途中、すぅ、すぅと霊夢の寝息が聞こえはじめると、彼女の口元に
かすかな苦笑が浮かぶ。
彼女からすれば、身から出た錆とはいえ、自分の役目とは外れた仕事に付き合わされるわ、
自慢の尻尾を寝巻き代わりに使われるわと散々な成り行きだったが、その一方で、このような
霊夢の身勝手な振る舞いに、さしたる怒りも苛立ちも覚えずにいた。
遍く幻想郷に生きる者がその身を休ませ眠りにつく、いま、この時期。
人間からすれば外出を強要させられること自体、酷極まりなく、また自然の理からも外れる
所業なのだろう思わずにいられなかった。
地表は白銀に染まり。
木々は雪に塗れ凍りつき。
生きとし生ける者の気配の絶えた、冬の只中の幻想郷。
いつか必ず訪れるとはいえ、藍の目にも、目覚めのときは遥か遠くに思われた。
「はい、こっちも終わり」
「ご苦労さん。すぐに神社へ帰る?」
「んー、とりあえずお願いー」
もぞもぞと尻尾に潜りこもうとする霊夢を、藍はもはや咎めようともしなかった。
二箇所の結界の修復を無事におえ、霊夢と藍は帰途につく。移動に時間を費やされたため、
太陽は既に中天へ高く昇っていた。
「お腹がすいたわ……」
「そうだね、もうお昼だし」
「朝御飯食べてない」
「それはご愁傷様」
「お米も炊いてないし」
「この時期は火を炊くだけで一苦労だね」
「狐、作って」
「何をおっしゃる、目出度い紅白」
「修復してあげたじゃない」
「お前の仕事」
「寝顔を見られた」
「勝手に寝ただけ」
「いーいーかーらー! つーくーってー!」
「だあ! 痛い痛い! 尻尾に噛み付くな! 引っ張るなあ!」
雲ひとつない蒼空に、金色の尻尾をおさえて悶える式神の姿がぽつりと一点。
白一色蒼一色に染め抜かれた天地において、
その黄金は常以上に、己が持つ輝きを映えさせているかのようだった。
*
闇に包まれた幻想郷の空を、寒気の妖怪が舞う。
その手をひとつ振れば、針のごとき鋭さをともなう風が吹き荒れ、
その身をくるりと翻せば、激しい吹雪が辺りを押し流し猛り狂う。
心の躍動の赴くまま、空を駆け寒気を散らす冬の妖怪が、暫時、その表情を曇らせた。
その端正な顔が、その冷たい視線が、向かう先――
提灯を片手に深い雪を掻き分け進む、二人連れの人影が在った。
目を細めて彼らを見やる冬の妖怪。
その口元に冷酷な笑みがうっすらと浮かんだ。
両手を翻す。
突風が荒れ、暴雪が地を薙ぐ。
彼らの手から提灯が飛ばされる。
儚い明かりが雪に呑まれて闇へと還る。
妖怪の高らかな笑い声が、風に乗って辺りへとこだました。
二人の人影は怯えたように互いの身を抱え、もと来た道を駆け戻る。
妖怪は彼らの様子を満足そうに眺めた後、くるりと身を返した。
そして激しい寒気を散らしながら、冬の空をふたたび駆け巡りはじめた。
目覚めのときは未だ遠く、
幻想郷の冬は、尚もその盛りを衰えさせることなく続いていくかに見えた。
――――――
如月 遼遠
――――――
「ちょっと」
「……ん?」
「いつの間に入り込んでいるの」
「ついさっき正面から堂々と侵入したぜ」
薄暗く黴臭い空間の、天井高く書架が立ち並ぶ一角。
山積みの本に囲まれ一心不乱に読みふける健康そうな黒白服の少女の前に、艶やかな紫髪を
たたえた、不健康そうな少女が対峙した。
「門番は?」
「のした」
「メイドは」
「やり過ごした」
「じゃあ、私は?」
「無視する」
「そう――」
「まあ待て。こんな山積みの本の中でロイヤルフレアはご法度だぜ」
「なら月の魔法がお好み?」
「永遠亭の連中で十分だ」
「賢者の石なんかどうかしら」
「無駄遣いは良くないな」
「わがままね」
「そんなことないぜ」
霧の湖のほとりにそびえる、吸血鬼の根城――紅魔館。
その地下に広がる大図書館は今日も、湿気と埃を伴った生暖かい空気を漂わせていた。
「くちゅんっ」
紫髪をたたえた大図書館の主――パチュリー・ノーレッジが、身を屈めて小さくくしゃみを
した。
「なんだ風邪か? ほれほれ、私にかまわず寝るがいいぜ」
その正面に座り込む侵入者――霧雨魔理沙はそう言って、手元の本へ視線を落としたまま、
図書館の主に向かってひらひらと追い払うように片手を振る。
「……風邪なんか引かないわ。寒いだけよ」
肩を抱いてぶるっと体を震わすパチュリー。
「寒いって、ここはいつも通りじゃないか」
訝しげな表情を浮かべて顔を上げる魔理沙。堅牢な館の壁と重厚な土の壁の双方に隔たれた
大図書館は、外の鮮烈な寒気にも関わらず、普段と変わらない温度と湿度を保っているように
魔理沙には感じられた。
「私は気温の変化に敏感なの。年中外を飛びまわってる貴方とは違うわ」
「ひ弱なだけだぜ」
年中この図書館に篭もりっぱなしのパチュリーである。魔理沙からすれば気付かないほどの
微細な温度の変化にも、彼女にとってははっきりとした違いに感じるのだろう。
魔理沙は手元の本をぱたりと閉じて、からかうような声で言った。
「これから私と外に出て散歩でもするか? 凍えるほど気持ちがいいぜ」
「お断りよ。貴方が凍死するだけなら見ものだけれど」
「あら、パチュリー様もたまにはお出かけになられた方が良いと思いますわ」
突如、割り込む別の声。
お? と魔理沙が首を伸ばし辺りを見回す。
しかしパチュリーは動じず、肩を抱いた手を離し、澄まし顔で応えた。
「日焼けは嫌だし雪焼けも嫌。寒いのはもっと嫌ね」
「ふふ、実はもう、外は桜が満開かもしれませんよ」
「花粉が辛そうね、ますます出たくなくなるわ。――で、何か用? 咲夜」
書架の裏からす、と影が歩み出た。
館内の薄暗い照明を照らされて、その美しい銀髪がさらりと淡くきらめく。
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。
「お茶をお持ちしましたわ、パチュリー様。ついでに困った侵入者の分もね」
「よう咲夜、お邪魔してるぜ」
「こんにちは魔理沙。いつも言ってるけど、門は吹き飛ばすのではなく開けて入ってきなさい」
門番が泣く泣く修理をしていたわ――と、どこか楽しげな口調で咎める咲夜。
二人のやり取りを見て、パチュリーが僅かに眉を顰めた。
「……私にはしないくせに、なんで咲夜には挨拶するのかしら」
「お茶を貰えるからさ」
ぐ、とパチュリーの眉間に皺が寄る。
「この――く、くちゅんっ」
またくしゃみがひとつ。床まで届きそうな長い紫髪がふわりと揺れた。
「パチュリー様、温かいお茶を用意してありますわ。さ、テーブルの方へ」
「ぐすっ……わかったわ」
僅かに悔しそうな表情を浮かべつつ、ずず、と鼻をすすりながら咲夜に従ってテーブルへと
足を向けるパチュリー。その去り際、
「せめて、きちんと片付けていきなさい」
と一言釘をさす。
「ああ、小悪魔が通りかかったら伝えておくぜ」
と、魔理沙は返し、またも手元の本に視線を落とした。
その脇にすっと紅茶を置いて、咲夜もパチュリーの後を追う。
「今日はジンジャーティーにしてみました。体が暖まりますでしょう?」
「そうね……ありがとう」
テーブルに腰掛け、一口紅茶を啜る。
淡い生姜の香りが喉元に満ち、パチュリーは気持ち良さそうにふう、と吐息をついた。
「久しぶりですね、魔理沙が来るのも」
「……そうね。鬱陶しいったらないわ」
「この一月あまり客人がありませんでしたから、お嬢様も些か退屈しておられるようです」
「レミィも付き合う友達は選ばないと駄目ね」
「あとでお嬢様のところにも顔を出せと魔理沙に伝えておいていただけませんか?」
「あれは客ではなく侵入者。賊よ。全力で追い返しなさい」
「しかと門番に伝えておきますわ」
「……」
パチュリーがぐっと紅茶を飲み干す。ほう――とまたひとつ、吐息が漏れる。
「しばらく静かで心地よかったのに、また騒がしくなりそうね」
「賑やかなのはいいことですわ」
「知ってるかしら咲夜? 私は静寂を好む性質なの」
「魔理沙も本を読んでいる間は大人しいですわね」
「……何故そこで魔理沙の名前が出るのかしら」
「お茶のおかわりはいかがですか?」
「……いただくわ」
カップを置くと同時に、淹れたてのジンジャーティーがなみなみと注がれていた。
「騒がしいといっても、別に魔理沙のことじゃないわ。精霊がざわめきだしているのよ」
「精霊――ですか。妖精ではなく?」
「あれはいつだって元気じゃない。精霊というのは、自然の運行の担い手なの。彼らが活発に
動くときほど、自然が動く。季節が移ろうのよ」
「では、もうじき冬も?」
「どうかしら。寝返りを打ったようなものかもしれないし、すぐ静まってしまうかもしれない」
「早く春になって欲しいですわ。お嬢様も暇を持て余しておられるし、門番も寒そうですし」
「春は嫌ね、花粉が散るわ」
「だからといって、先年のように大図書館を入口ごと隔離したりするのはお止めくださいね。
お茶やお食事をお持ちするだけでも一苦労ですわ」
「検討だけはしておいてあげる」
「魔理沙も入ってこれなくなりますし」
「……咲夜、さっきから貴方は――」
そのとき、図書館の奥から「ぎにゃああああ!」とドラ猫の悲鳴のような声が響き渡った。
同時に、どさどさどさと鈍い音がこだまする。
突然のことにカップを持つパチュリーの手はびくりと震え、紅茶の表面が大きく波立った。
「な、なに!?」
「どうやら成功したようですわ」
「え、成功したって、なにが――」
「先ほど、別れ際に魔理沙の頭上の棚にちょっと細工を」
「さ、細工?」
「本の角って、ぶつけると痛いですわね」
「ちょっと咲夜、いったい何を」
「パチュリー様がからかわれておいででしたので、少々懲らしめてあげようと」
「か、からかわれていたって、ちょっと貴方」
「では、館の仕事がありますので、私はこれで」
「あ、ちょ、ちょっと! 咲夜!」
慌てるパチュリーの呼び止めも聞かず、咲夜の姿が一瞬で掻き消える。
事態を把握できずに呆然と佇むパチュリーの耳に、先ほど悲鳴の上がった方角から、猛烈な
勢いで走り寄ってくる足音が聞こえてきた。
静謐に支配され続けた図書館内に、暫しの動の空気が満ちる。
――その日、地下の大図書館で起きた騒ぎは瞬く間に紅魔館全体を巻き込むに至り、長らく
雪に閉ざされ続けた幻想郷の片隅を、時ならぬ喧騒に包み込んだ。
果たしていかなる偶然によるものか――その騒動が起きた日より、幻想郷のいたるところで
微細な変化が訪れはじめた。
その日、巣に篭もり続けた獣がおもむろに顔を上げ、巣穴の出口へとその足を向けた。
その日、とある人家の扉が僅かに開き、家の童がおっかなびっくり顔を出した。
鼓動を再開した巨獣が、徐々に全身に血液を送り込むように。
幻想郷は少しずつ、死から生へと――眠りから目覚めへと、移ろいをはじめたのだ。
長く雪に閉ざされ、活動の絶えさせたその世界に、時が流れはじめる。
*
闇に包まれた幻想郷の空を、寒気の妖怪が舞う。
その手をひとつ振れば、針のごとき鋭さをともなう風が吹き荒れ、
その身をくるりと翻せば、激しい吹雪が辺りを押し流し猛り狂う。
今もなお、衰えを感じさせぬ勢いで冬の嵐を巻き起こしながら、
寒気の妖怪は、その表情を翳らせていた。
彼女の眼下に広がる雪原――幾晩前まで綻び一つない真っ平だった雪原に、いつの間にか、
人や獣が通ったらしき、無数の足跡や幾筋もの雪道が刻まれていた。
雪に怯え、寒さに震え続けた者たちが、冬に立ち向かおうとしはじめたのだ。
妖怪は忌々しげに腕を一薙ぎする。彼らの足跡が掻き消える。
身を翻す。彼らの雪道が崩れて埋まる。
生物の痕跡を見つけるたび、妖怪は風雪を撒き散らし、それを消し去りにかかる。
しかし次の晩になれば、
足跡はさらに増えていよう。雪道がさらに地を抉っていよう。
そのことを、妖怪は誰よりもよく知っていた。
それでもなお抗うように、妖怪は冬を猛らせる。
今はまだ見えぬ目覚めの時を、その嵐で遠ざけるかのごとく――。
――――――
山河 明星
――――――
「お二方とも、起きておられますか? 朝餉の支度ができましたよ」
からり、と障子を開く。
薄暗い部屋が朝の陽光に照らし出され、部屋に敷かれた布団の、二つの大きな盛り上がりが
同時にもぞもぞと蠢いた。「うーん」だの「むー」だのといった言葉にならない呻き声が布団の
中から聞こえてくる。
この数ヶ月ほどの間にすっかり見慣れてしまった光景である。それをやや呆れ顔で眺めつつ、
東風谷早苗は炊事頭巾を解いて、再度呼びかけた。以前ならお目覚めのお声をかけるだけでも
緊張していたものが、我ながら随分変わるものだと考え、その口元にかすかな苦笑が浮かぶ。
「ご洗顔を済まされたら、居間までいらしてくださいね」
そう声をかけて、早苗は障子を開け放したまま台所へと足を向けた。背後から「はーい」と
いった感じの曖昧な返事が届き、彼女はまたも苦笑を浮かべる。
縁側を通り台所へ向かう。
歩きながら外を見上げる。
守矢神社の母屋の裏に広がる庭は今朝もすっかり雪に包まれており、そのさらに向こうでは
御柱を何本もそびえ立たせた湖が陽光を反射させ、その水面をきらきらと輝かせていた。
冬を迎えて以来、毎夜のように荒れ狂う吹雪は、今朝も守矢神社の参道や社殿、母屋などを
真っ白に染めあげている。しかし早苗の目には、ここ最近になって日を追うごとに積雪の量が
減ってきているように感じられた。
冬が徐々に勢いを衰えさせているのだろう――と思う。
しかし、吹き付ける風に暖かさは無い。春の兆候は、まだ見えない。
三人分の膳を用意して早苗は待つ。
すっと襖が開き、彼女が仕える二名の神が、のっそりと居間に入ってくる気配を感じた。
早苗が頭を下げる。「おはようございます」と口にすると、くぐもった声で「おはよう早苗」
と別々に挨拶が返った。二名が膳の前に腰を下ろし、頭を上げた早苗が彼女らを視界に捉える。
――丸い。
まるで達磨だった。半纏、腰巻、首布、手袋など、ありとあらゆる防寒具を身に包む神二名。
片方は胡坐、片方は正座でそれぞれ膳の前に座っているが、その着膨れした姿はどうにも丸い。
押せばころころと転がりそうなほどだ。早苗は一瞬そうしたい衝動に駆られ、渾身で耐えた。
「早苗~、火鉢を炊きましょうよ」
早苗から向かって右側、真っ赤な半纏に包まった神――八坂神奈子が鼻声でそう言った。
「ははん、神奈子ってば情けない。私はちっとも寒くなんか――へっぷち!」
その隣、早苗から見て左側に座している、紫色の丸――洩矢諏訪子がそういって強がる。
「なによ、諏訪子だって寒いくせに。早苗の前でくしゃみなんかしちゃって、情けな~」
「違うの! 鼻にごみがはいっただけだも――へっぷち!」
首だけで互いを向いてぎゃいぎゃいと言い争いをしはじめる二名の神を早苗は交互に眺める。
やがて気付かれぬよう小さくため息をつくと、椀をおいて火鉢を用意しようと立ち上がった。
「お二方とも、本当に寒さが苦手なんですね」
炊事の際に余った炭を火鉢にくべながら、早苗が話しかける。
味噌汁の椀を持った諏訪子が、熱そうにふうふうと汁を冷ましながら答えた。
「うーん、まあ私は蛙だし」
「私は蛇だからねえ」
諏訪子の返事に神奈子が続く。どちらも冬眠動物である。
そういえば元の世界に居たころも、冬は呼びかけても反応が鈍いことが多かったなあ――と、
早苗はかつての記憶を反芻させる。もっとも、当時の彼女は今のように、こうして共に食卓を
囲むことなど想像さえしなかったが。
「でももう、外の世界ではとっくに遷座祭が終わっている時期ですよ。ずっと篭りっぱなしと
いうのも、さすがにもうそろそろ……」
早苗が遠慮がちに言う。遷座祭とは、いわゆる春節と秋節の移り変わりを示す儀式である。
外の世界ならば、もう春が始まっている――早苗はそう二名に述べたのだ。
幻想郷にも暦は生きている。
一月以上前の新年を迎えた折は、神奈子は凍える体に鞭打って、里の各地の分社に参拝者が
訪れるたびに神徳を顕していた。しかし、松が取れて以降は母屋からもほとんど出なくなり、
諏訪子と二人で一日中、火鉢を囲んでお茶やお酒を飲むという日々が続いていた。
「でもねえ……あっちに比べて、こっちはやたらと寒いし……」
ねえ、と隣に視線を向ける神奈子。それを受けて諏訪子がうんうんと合いの手を入れた。
「寒さの度合いが違うよね。あっちではこう、縛れるなや~って感じだったのが、こっちだと
茨で総身締め付けられる~、みたいな」
あははは、と揃って笑う神二名。
日ごろ、どちらが火鉢を優先的に抱えるなどという、子供も呆れるような理由で喧嘩ばかり
しているような間柄なのに、こういう時ばかり、やたらと調子が良い。
幻想郷に移り住んで数か月余りのうちに知った、早苗が仕える相手の新たな一面である。
「でも、里の人たちはとうに働き出していますよ。市場も開きましたし、猟師の方々も狩りを
始めています。里の分社もすっかり綺麗にしてもらいましたし、お供え物だって――」
今三名が食している味噌汁の具は、里の猟師が初狩りでしとめた猪の肉である。
そう早苗が告げると、二名の神は揃って気まずそうに手元の椀を見た。それでも食べる手を
緩めないあたり、さすがは神といったところである。
早苗はこの件についてはそれ以上は触れず、話題を移すことにした。元より咎めるわけでも
嫌味を言うつもりもない。巷の現状を報告し、注意を喚起することが目的だったのだ。
――まさか、嫌味だなんてそんな不遜なことを。
ふと頭によぎった内容に引っかかりを覚え、早苗は改めてそれを否定する。
先ほど起こしに伺ったときといい膳の前で顔を合わせたときといい、どうも最近仕えるべき
相手に対し、無意識のうちに気安く接してしまう傾向があると早苗は感じている。
よろしくないなあ、と思う。しかし何故か、改めようという気にはどうしてもなれずにいた。
先日、年明け以来久しぶりに里へと降りたときのことを早苗は話して聞かせる。二名の神も
それを聞いて愉快そうに笑う。
妖怪の山の頂にて行われる、人と神との和やかな歓談。
人や妖怪が忌み畏れたその地において、それは既に、お馴染みの光景となっていた。
――
陽が高く昇り、気温も僅かに上昇した。
朝餉の片付けを済ませた早苗が母屋を出て参道へ立つ。夜間に吹き荒れた大雪のおかげで、
今日も守矢神社の敷地内は一面見渡す限り、膝の高さまで雪が積もっていた。
それでも、つい一月くらい前まで腿のあたりまで積もっていた頃に比べると、やはり随分と
勢いが衰えてきているように早苗は思う。
このまま無事に春を迎えれればいいなあ――と誰へともなくそう願った。
「さて、今日もやりますか!」
腰に挿した祓串を引き抜く。参拝客が来るとも思えないが、常に神社を掃い清めておくのは
従者である早苗の大切な役目の一つだ。
祓串を両手に持ち、正面に向けた。心を鎮め、精神を研ぎ澄まさせる。
全身にうっすらと気が漲りはじめる。それを手の先へと集中させる。
祓串にぼんやりと光が宿る。
一閃――
真横に薙ぐ。祓串に纏った光が粒子を散らす。
その勢いを保ったまま祓串を真上に向ける。
早苗の能力――風を起こす奇跡の力が串の先から迸る。
「開海・海が割れる日!」
祓串を振り下ろすと同時に、早苗の全身から突風が起こった。
周囲の空気が祓串の先へ――早苗の正面へ向けて猛烈に吹き抜ける。たちまち雪が抉られ、
埋もれていた石畳が剥き出しになる。突風は鳥居を越え、その先の石段にまで到達した。
すると早苗が再度、祓串を真横に一閃させた。
風が圧力を増した。まるで傷口を押し広げるかのように、抉られた雪道がじわじわと両側の
雪を削っていく。突風は二列に連なるようにその幅を広げていき、代わって早苗の正面方向の
風は徐々にその勢いを減じていった。
早苗が祓串を下ろした。正面へ、参道の中央に向かって歩みはじめる。突風は止むことなく
荒れ狂ったままだが、風の谷間となった部分を進んでいるため、その足取りに危なげはない。
参道の中央に立つ。押し広げられた雪道は、既に彼女の身長以上の幅に出来あがっていた。
早苗が祓串を中天に向けて掲げる。
突風がぴたりと止んだ。
「はあっ!」
ごう――!
早苗を中心に旋風が巻き起こる。
雪道の両側に押し固められるように盛り上がった雪が即座に崩れ吹き飛ばされる。
旋風は一気に参道全体へと拡大し、舞い上がった雪が瞬時、視界を真っ白に染め上げた。
数秒の後、旋風は止む。
吹き飛ばされた雪が、湖や斜面に向かって降り注いでいく。
神社の敷地内には、既に雪はほとんど残っていなかった。
「ふう……」
一息ついて辺りを見回す。
ほんの数分前まで一面雪に覆われていたとは想像できないほど、さっぱりとした神社を眺め、
早苗は額にうっすらと浮き出た汗を拭って満足そうに頷いた。
先祖代々受け継いだ風の秘法を雪掻きに利用する――こんな罰当たり染みた行為も、今では
すっかりと板についてしまった。ここでは毎晩のように大量の雪が降り積もり、早苗一人では
とても自力で処理できる量ではないため、やむをえないことではあるのだが。
守矢神社とともに幻想郷に移り住んでから、そろそろ半年が経とうとしていた。
――八坂の神の名のもとに幻想郷を牛耳ろうと意気込み、霊夢や魔理沙たちと合いまみえ、
妖怪と和解し、山での布教を認められ――。
一癖も二癖もあり過ぎる幻想郷の人間や妖怪たちに揉まれながら懸命に生活しているうちに、
いつしか自分も、この世界のペースにすっかり染まってしまったのだろう――と早苗は思う。
文明の利器が皆無のこの地においては、人ならば人なりに、妖怪ならば妖怪なりに、己の力を
最大限に活かしながら日々の生活を送っている。
早苗の持つ、神秘と伝統に彩られた奇跡の力も、この世界では当たり前のものなのである。
だから当たり前のように使う。最近になってようやく、それに気付くことができてきていた。
雪を払い飛ばした神社を、太陽が燦々と照らし出していた。
未だに夜になれば毎日のように吹雪が吹き荒れるが、ひとたび日が昇れば、それまでが嘘の
ように晴れ間が広がる。幻想郷の不思議な気候のひとつである。
「八坂様ー! 洩矢様ー! お外がいい天気ですよー!」
無駄かもしれないと思いつつ、早苗は母屋で転がっているだろう二名の神に呼びかけてみた。
しばらく後、うぇ~、という爬虫類のような呻き声とともに、ガタガタと障子が開く。
――丸い。
部屋から出てきた神奈子と諏訪子を眺めながら、早苗はまたもそんな感想を抱いた。
丸い体の上に乗った首を回し、何か言い合いながら早苗の元へ向かう様子を見せる二名の神。
早苗は一瞬、両者が足を使わずころころと転がりながら近寄ってくる様を幻視し、その不遜な
想像を必死の思いで打ち消した。
数度頭を振って、再度神を見遣る。ふわふわと飛んできていた。風船を想像した。
「うう、さむさむ――おお、綺麗になってるじゃない。さすがは早苗ね」
風船が口をきいた。
「へっぷち! そりゃあ私の子孫だもん……って、あれ早苗、なんで自分の頭を叩いてるの?」
言えるわけがなかった。
「いえ、なんでもないです。お気遣いなく」
神奈子がぼうっとした視線を早苗へ向ける。そして、にんまりを笑みを浮かべて言った。
「ははあ、さては諏訪子の格好が面白いものだから、笑うのを我慢しているんでしょう」
貴方もです、八坂様。
――などとは口に出せない早苗である。
ただ、あさっての方向を向きながら、もごもごと口を動かして誤魔化すしかなかった。
「ほら諏訪子、早苗が困ってるじゃない。もうちょっと神様らしい格好したら?」
揃って着地した神奈子が諏訪子の頬を突付きながらそうからかう。
頭を振って逃れようとする諏訪子だが、あしらい慣れている神奈子の指はなかなか離れない。
「こら神奈子! 離しなさいってば――う、へ、へっぷち!」
大きなくしゃみと同時に、諏訪子の体がバランスを崩して、ずるっと滑った。つい先刻まで
雪に埋もれていた地面には、まだ凍結した部分が多く残っていたのだ。
「わわわっ」
慌てて傍らの神奈子の服の裾を掴む諏訪子。しかし勢いは止まらず、遂には神奈子も姿勢を
崩され、二名揃ってごろんと転ぶ。
「うわっ、ちょっと諏訪子!」
「わー!」
着膨れした丸い体が災いし、二名ともそのまま参道をごろごろと転がりはじめた。
慌てて助けるために駆け出そうとする早苗。
だが足を一歩踏み出したところで、その指先がぷるぷると震えた。
ここに至り、早苗の忍耐の緒が遂に限界を迎えてしまったのだ。
「ぷっ……くく……あはははははは!」
笑い始めたら、もう止まらなかった。
二名を前に腹を抱えて爆笑する早苗を、神奈子も諏訪子も面食らった顔つきで眺めていた。
しかし、じきに二名も転んだままの姿勢で目を合わせ、早苗に続いて大きな声で笑い始めた。
晩冬の守矢神社に、暫し、三者三様の笑い声が満ちた。
――
「あれだけ大笑いする早苗を見たのはいつ以来だろうねえ」
熱いお茶の入った湯飲みを暖かそうに抱えながら、神奈子が言った。
「うっ……申し訳ございません」
湯のみを持ちながら、顔を真っ赤に染め、肩をすくめて縮こまる早苗。
「神様に向かってあんなに笑うだなんて、早苗もだんだん麓の巫女に似てきたかしら」
ふう、ふう、とお茶を冷ましながら、諏訪子もからかい混じりの声をかける。
早苗がますます肩をすくめて、あはは、と誤魔化すように笑った。
三名は母屋の縁側に揃って腰掛け、早苗が淹れたばかりの熱いお茶を啜っていた。
昼時を前に、日差しはますます勢いを強めていた。流れる空気はやはり冷たく、風に未だに
暖かみを感じさせないが、その光景は確かに、眠りから目覚めへと――新たなる季節の到来を
予感させるものだった。
日が沈めば、おそらく今夜も雪が吹き荒れる。
けれど、積もる雪はきっと今朝より少ないに違いない。
「麓の巫女か。あの娘らの顔もここしばらく見ていないわね。元気でやっているかしら」
「博麗神社ならこの間ちょっと顔を出しましたよ」
先日、里の買い物ついでに博麗神社へ寄ったときことを話す。
霊夢はあいかわらず「世は全てこともなし」といった具合でだらだらとした様子だったが、
早苗の訪れを知ると熱いお茶を用意して迎え入れた。近頃はどう過ごしているのかと問うと、
日差しが暖かい日は、こうして縁側でのんびりと過ごすこともあるけれど、それ以外はずっと
コタツに浸かりっぱなしであると、些かも悪びれずにそう答えてのけた。
守矢神社以上に積もった雪を、何処かで見かけた九尾の妖獣がせっせと雪掻きしている様を
眺めながら、どこも一緒なんだなあ、と感慨深く納得したものだ。
そのうち妖獣の怒号が響き渡り、早苗は神社を後にした。どうやら彼女の来訪は、サボりの
良い口実にされたようだった。
「どこも一緒らしいよ、神奈子」
「つまり私たちは、麓の巫女と一緒だと?」
「……違いましたっけ」
守矢神社が初の大雪に見舞われた日、頼みの神が二名とも寒がって手伝おうとしないなか、
早苗は一人、汗だくになりながらせっせと雪掻きをしたものである。
しかし早苗自身はもともと人間並みの体力しか持ち合わせていない。少女一人の腕で広大な
守矢神社の敷地の雪を全て掻くなど無理な話だった。限界を迎えてへばってしまった早苗を、
心配そうに見にきた神奈子と諏訪子が、異口同音に「風で吹き飛ばしちゃえばいいじゃない」
と提案したことで、早苗はようやく重労働から開放されたのである。
「楽ができるのも、そもそも私たちの力のおかげじゃない、ねえ」
「ねー、恩知らずだよねー、早苗ってば」
「……まあ、確かにそうなんですけど」
もともと、早苗の奇跡の力は、神奈子や諏訪子の力でもある。彼女が風の奇跡を用いて雪を
飛ばすということは、間接的に二名が力を貸していることだと言えなくもないのだ。
「でも風で雪だけを飛ばすって難しいんですよ。最初は何度も屋根を剥がしそうになったり、
飛ばし損ねて中途半端に雪が残って、かえって処理が面倒くさくなったり……」
力の加減一つとってもなかなかうまくできず、当初は自分の未熟ぶりに相当落ち込みもした。
さもありなん、外の世界の頃はごく稀に、特別な儀式などでしか風の術は使わなかったのだ。
今のように、ちょっとした雑用や雪掻き程度に用いるなど、もっての外だった。慣れないのも
当然といえた。
しかし、めげながらも日々続けていくうちに、徐々に効率のいい作業ができるようになり、
また風を操る精度も格段に上がった。毎日の試行錯誤がそのまま術の訓練に繋がり、結果的に
彼女の実力を飛躍的に伸ばしたのだった。
「そういうこと。私たちはね、日々の務めを通して早苗を鍛えてあげたのよ。むしろ感謝して
貰わなきゃねえ」
「今なら霊夢たちともいい勝負が出来るじゃないの? 今度挑戦してみたら?」
「そうですねえ……」
正直なところ、そういう気持ちもなくはない。実力云々はともかく、また彼女らに弾幕戦を
挑みたいという思いは、あの日の一件以来ずっと付き纏っていた。
思えばあの日、霊夢たちが山に攻め込んできて、初めて弾幕を交し合ったときから、何かが
変わったように早苗は思う。慣れない幻想郷の地で、うまく風を操れなかったせいもあるが、
あのとき、自分以外の人間に初めて完膚なきまでに叩きのめされて、何処か吹っ切れたような
――己の中の驕りや執着、そういったようなものが払い落とされたような感じがあった。
早苗自身だけでなく彼女の取り巻く環境も変わった。山の妖怪たちとの交流が始まったのも
あの一件がきっかけだったし、霊夢たちを通して紅魔館や永遠亭といった幻想郷の実力者とも
知己を得るようになった。里への布教も積極的に行えるようになった。
今になって考えてみると、霊夢たちと戦ったことで、自分ははじめて、幻想郷の一員として
迎え入れられたのではないか――そんな考えさえも浮かんできていた。
「……どうしたの早苗? 考え込んじゃって」
「わ……いえ、なんでもないです。失礼しました」
物思いからふっと我に返ると、目の前に可愛らしい二対の目玉がじっと早苗を見つめていた。
睨めっこのようにぐっと顔を近づけていた諏訪子は、そのまま、にっと笑って言った。
「早苗、そろそろお昼にしない? お腹すいちゃった」
「あ、はい。じゃあ支度しますね」
少し慌てたように早苗が立ち上がる。
残ったお茶を飲み干した神奈子が、からかい混じりの言葉を投げかけた。
「食い意地張った神様ね、いえ、お子様かしら?」
「なんだってえ!? ――へっぷち!」
「ぷっ……あはは」
「あー早苗、また笑った!」
そしてこの日もまた、ほんの少し、早苗は変わる。
奉るべき神であり、仕えるべき主である者たちと、友人のように家族のように暮らしながら
――春とともに流れゆく雪や氷のように、早苗は幻想の住人として溶け込んでいくのだった。
翌日、守矢神社に一通の書状が届いた。
内容は博麗神社で年明け以来、初の宴会を開催するとの由。
差出人は鬼――伊吹萃香だった。
*
「冬なんてぇ……ぶっ飛ばせーっ!」
「出来上がってるわ……」
「出来上がってるな……」
「出来上がってますね……」
博麗神社の賽銭箱の上に立った小鬼は、巨大な盃を片手に掲げて、高らかに音頭を始めた。
参道に座り込んだその他の参加者は、その様子を眺めながら冷静とも引いているともつかない
微妙な反応を示した。
彼女らの後ろでは、夜雀やら騒霊三姉妹やらが音頭に合わせて素っ頓狂な音を放っていた。
「大体あんたら、寒さに負けて引き篭もり過ぎなんだー!」
「寒いんだもの、仕方ないじゃない」
「外に出でもやること無いですしねえ」
「暖かくったって滅多に外には出ないわよ?」
「姫様は少しはお出かけしましょうよ……」
野次とも合いの手ともつかない呟きが、そこかしこから漏れる。
ファンファーレのような混沌とした音が神社を包む。
「宴会が無いと、私が退屈じゃないかーっ!」
「「「「「「知るか」」」」」」
参加者全員から同時に突っ込みが入った。
絶妙なタイミングで演奏が止まった。
「雪も氷も酒飲んで溶かせ! 寒気も勘気も酔って忘れろ! 春の到来を祈ってぇ……
かんぱあぁーいっ!!」
幻想郷の隅々まで響き渡りそうな大絶叫と共に、高々と盃が掲げられた。
楽団が楽器や歌声を滅茶苦茶に掻き鳴らす。
博麗神社の参道に揃った大勢の参加者も、彼女らに負けない勢いで一斉に盃を掲げた。
新年を迎えて初の博麗神社の大宴会は、こうして幕を開けた。
たちまちのうちに混沌のきわみに陥った博麗神社の参道を、東風谷早苗は主たる二名の神を
探して歩き回っていた。当初は側に侍っていたのだが、鬼の音頭によって一気にテンションが
上がった他の参加者にもみくちゃにされ、あれよあれよという間にはぐれてしまったのだ。
しかし探そうにも、参加者が多すぎて動くのすらままならない状態である。一体どれだけの
人間や妖怪に呼びかけたものか、決して狭いわけではない博麗神社の参道は、雑多な参加者で
地面も見えないほどにひしめきあっていた。
早苗の聞いた話によると、今回の宴会は伊吹萃香の主動で催されたらしい。寒い冬が続き、
宴会がまったく開かれず、自他共に認めるお祭り好きの萃香が遂に痺れを切らしたのである。
突如神社に乗り込んでくるや否や、暴れに暴れて、なかば強制的に宴会を企画された挙句、
幻想郷だけでなく冥界や彼岸に至るまで、ありとあらゆる場所に開催の書状をばら撒いたのだ。
先ほどまで共に支度を手伝っていた霊夢から、愚痴混じりに聞かされた話である。
それだけに今回は参加者が多かった。どの面子も一度くらいは顔を合わせたことがあるが、
これだけの人数がいっぺんに集結するのを見るのは、早苗には初めてだった。
人探しどころか自分が動くのすらも難儀という、そんな新年初の大宴会だった。
早苗は神奈子や諏訪子を探し出すことを諦めた。なんだかんだと要領の良い二名のことだ。
傍に居なくとも大丈夫だろう。寒い寒いと言って聞かず、いつもの達磨のような装いのままで
来てしまったのが些か心配ではあったが。
手近の空き場所へ腰を下ろす。周囲の雑多な喧騒が身を包んでいく。
手元の盃に満たされた酒を一息に飲み干す。喉の焼けるような感触が心地よく感じた。
空を見上げる。西の空にやや紅が残っている。しかし中空は既に宵闇に包まれていた。
僅かに欠けた月が神社を明るく照らしている。さすがに今夜は雪が降る気配はなかった。
「おー。お姉さん、いい飲みっぷりだね!」
ふと背後から声がした。
振り向くと、薄いピンク色の服に身を包んだ少女が、にこにこと早苗を眺めていた。
肩の辺りで切り揃えられた黒髪から白く長い耳がにょきっと伸びている。妖怪兎である。
たしか因幡……某だったか、と早苗は酒精に惑う頭から記憶を探った。
彼女の後ろでは、他にも幾匹もの妖怪兎と思しき集団が盃を抱えていた。どうやらたまたま
兎の集まりの近くに腰を下ろしていたようだった。
「一人でそんなところに居ないで、こっちへおいでよ。さあさあ」
人懐こい笑顔と口調で、手を引かれて輪の中へ加わる。
大きめの徳利が差し出され、盃に再び酒が満たされた。
「たしかお姉さんって、外の世界からきた本物の神様の従者さんなんだっけ? ここの神社の
インチキ巫女とは一味違うんだってねえ」
ひどい言われようである。だが、祭っている神様もよくわからないなどという体たらくでは
やむを得ないか、と早苗は思った。
「ええ、そうですよ。私がお仕えする神様はそれはそれは偉大な方なのです」
「おー、立派だねえ。私も昔は神様には随分お世話になったものだよ。ささ、もう一杯」
誘われるがままに盃を空ける。兎の酒は香りが濃い。早苗の頭にますます霞がかかる。
幻想郷に来てから多少強くなったが、やはりまだまだ酒は苦手なままだった。
しかしよく考えてみると、博麗神社で開催される宴会で、神奈子たちと別れ一人で飲むのは
初めてのことだった。
――和解したとはいえ、招かれる以上は客であり、ある意味敵地のようなもの。従者として
片時も離れずにいよう――。
などと当初は己に科しもしていた。無論今ではそんな思いはとうの昔に消え去っているが、
ただ神奈子の側に侍るという習慣だけは漠然と残ったままだった。
良い機会かもしれない、と早苗は思った。
たまには己の身一つで幻想郷の住人と向き合ってみるのも一興である。
早苗は盃の酒を再度飲み干し、目の前の妖怪兎へ、にこりと笑顔を向けた。
「まあ、貴女も神様と? 詳しいお話をお聞きしてもいいですか」
「うん、いいよ。夜は長いしね! ささ、もうひとつ」
愛嬌のある笑顔とともに、早苗の盃にまたも酒が注ぎこまれた。
――
一方。
周囲で狂騒の宴が繰り広げられるなか、伊吹萃香は所在無げに参加者の間をうろついていた。
先刻、己のあげた壮大な音頭とともに、賑やかに宴会が始まったのまでは良かったのだが、
それ以降丁度良い呑み相手が見つからず、腰を落ち着ける先を探してあちらこちらの参加者を
物色しているという状態だった。
そもそも萃香は、宴会の盛り上げ役としては重宝されるものの、酒を同席する相手としては
些か敬遠されがちだった。その底なしっぷりに加え、やや酒乱の気もあるため、並みの者では
太刀打ちできないのである。加えて萃香自身も、そこらの人間や妖怪相手では物足りないのだ。
「むー、誰かいないかなあ」
真っ赤な頬を僅かに膨らませて、萃香は参加者たちを見渡す。
魔理沙は既に鈴仙や妖夢などといった、そこそこ呑める者同士で固まってしまっているし、
冥界の姫は呑ませ過ぎると、酔って無意識の内に殺されそうになるから始末に終えない。紫は
寝てて不参加。式神の九尾は主が不在にも関わらず、おさんどんを引き受けていて忙そうだ。
よく見かける天狗も近頃は忙しいらしく姿は見えない。河童相手では役不足である。
閻魔や死神も参加しているが、元々が地獄の獄卒にあたる鬼からすれば、閻魔はいうならば
彼女らの上司にあたり、死神は部署違いの同僚のようなものである。こういった場の呑み相手
としては些かうまくない。
永遠亭の主従にいたっては、姫は極端な下戸でさっさと潰れてしまうので話にならないし、
従者はそれなりにいける口だが、どうも萃香とは相性が良くない上、油断すると酒に怪しげな
薬を混入される恐れもあるため、できれば避けたい相手である。
そして、一番の目当てである博麗霊夢。
彼女は宴会が始まるや否や、早々とレミリアにつかまってしまい、萃香には立ち入れる隙が
一切無かった。奪い取っても良いのだが、レミリアも長い間会えなかった反動があるせいか、
あからさまに「こっちくんな」オーラを漂わせており、他者はおろか咲夜すらも、おいそれと
近づくことができないという状態である。
無理矢理横取りしようとすれば確実に喧嘩になる。吸血鬼と鬼が本気で殴り合おうものなら
博麗神社など木っ端微塵に吹っ飛ばされるだろう。そうなれば怒り狂った霊夢に両者ともども
しばかれるだけだ。最後の選択にした方が良さそうである。
「つまんないなあ。夜雀でもからかってこようかな」
やぶ睨みの視線をつい、と楽団へ向ける。
敷地内から溢れるほど参加者がひしめきあっている宴会場だったが、萃香が進もうとすれば
勝手に道が開く。下手にぶつかったりして不機嫌そうな鬼に絡まれるのは御免なのだ。
会場の隅で、相変わらずよくわからない音楽を掻き鳴らしている楽団の方へと向かう萃香。
そのとき、端目に見知った者を捉えた。
特徴的な注連縄を背負った後姿。
先年の秋口に突如幻想郷に現れた新参の神、八坂神奈子である。
彼女とは既に何度か酒を交わしたことのある間柄だった。なかなかの酒豪で、萃香相手でも
一歩も引かない数少ない存在である。しかしそれは酒友達などという生易しいものではなく、
むしろ呑み敵とでもいうべき関係だった。
彼女は優雅に宙に浮き、僅かに欠けた中空の月を見上げながら、穏やかに盃を傾けていた。
普段なら、彼女の側には小煩い従者が常につきまとっているのだが、珍しく今は姿が見えず、
諏訪子とかいう奇天烈な帽子をかぶった仲間の神のほかに連れはいないようだった。
萃香はにんまり笑みを浮かべた。良い呑み相手に巡りあえたのだ。しばらく会わないうちに
何やら真ん丸くなっているが、そんなこと彼女には気にならなかった。
「やあ八坂の~! 気持ち良さそうに呑んでるじゃん!」
真下から、あえて挑発的な口調で呼びかけてみる。
神奈子はあからさまに眉をしかめ、宙に浮いたまま萃香を見下ろして答えた。
「無粋な小鬼ね。気持ちよく月見酒をしてるんだから邪魔しないで頂戴」
「宴会で一人酒してるほうがよっぽど無粋だよ! いいから降りてきな!」
腕を振り上げてそう急かす。やれやれという表情で神奈子が降りてくる。
「一人酒ってわけじゃないわよ。諏訪子が居るもの。まああの子はお酒飲めないけど」
そう言って顎で連れを指し示す神奈子。彼女と同じく着膨れ姿の諏訪子は、萃香の襲来にも
気にする素振りを見せず、宙に浮いたままのんびりと月に見入っていた。
神奈子が己の盃に酒を注ぎ足し、ほら、と萃香に差し出した。萃香も伊吹瓢箪の蓋を取り、
神奈子に渡す。そして互いの酒をぐっと飲み合った。
「こっちで私に絡んでくるなんて珍しいじゃない。いつもの巫女のところには行かないの?」
瓢箪から口を離した神奈子がからかうようによう尋ねる。
今度は萃香の表情が渋そうなそれに変わる。
「……先を越されちゃったんだよ」
「貴女もライバルが多いわね」
「うっさいな」
ぐいっと盃を突き返す萃香。神奈子がそれに酒を注ぎ足す。
「というわけで相手が居ないんだ。付き合ってよ」
「今夜は優雅に過ごそうと思っているのだけど」
「そんな丸っこい体して、雅もなにもあるもんか」
「神の冬装束よ。まあちょっと着足してるけどね」
「ふん、いつまでもそんな格好してるから冬が終わらないんだ」
悪態を吐きながらひたすら盃を飲み干す萃香。注がれる酒も、既に神奈子の自前のものから
伊吹瓢箪のものに変わっている。
仏頂面と苦笑いの表情を互いに付き合わせながら酒を酌み交わす鬼と神。
そんな二名の周りには少しずつ隙間が広がっていた。今や幻想郷に功悪両名を轟かせている
彼女らである。怯えた他の参加者が気付かれないよう距離を取っているのだ。
「……やい、あんたさっきから全然飲んでないじゃん」
十数杯目かの盃を飲み干した頃、萃香はじろりと神奈子を睨みつけた。
二名の周りは、既にクレーターのような空間がぽっかりと開いていた。
「今夜はそんなに呑むつもりないもの。気にしなくて良いわよ」
「達磨みたいな図体して中身まで禁欲かい? なんなら私が瓢箪を口に押し込んでやろうか」
「絡み酒とは品の無い小鬼ね。せっかくの月の宵を妄に曇らすつもり?」
「勧めた酒を断る奴が品を口にするとは片腹痛いね」
神奈子の手から伊吹瓢箪を引ったくり、ぐいっと呷る。
口の端から零れる酒雫を拭いながら、萃香は殊更に挑発的な視線を投げつけた。
「それとも何。また潰されるのが怖いのかい?」
ぴきり。神奈子の苦笑にひびが入る。
周囲の空気が凍りつく。
それは神奈子と萃香が初めて顔を会わせた初冬の折の話。
弾幕を交わすかわりに、あれよあれよと始まった呑み比べ。しかし神奈子は萃香に完膚なく
潰され、しかもそれを耳聡い天狗によって、たちまち幻想郷中に広められてしまったという、
神奈子にとって屈辱極まる苦い過去があった。
「あの後あんたも随分変な方に噂になっちゃったみたいだし、怖気づいても仕方ないかねえ?」
小馬鹿にするような口調で、ははんと萃香がせせら笑う。
明らかに表情が変わった神奈子を聴衆が息を飲んで見つめた。いつのまにか彼女らの周りは
二回りほど距離を置いて様子を見守る参加者の群れが取り巻いており、さらにそのすぐ傍では、
いつの間に寄ってきたのか、先ほどまで神社の外れで騒々しい音を掻き鳴らしていた楽団が、
緊張感を催させる音をじわりじわりと奏ではじめていた。
「この小鬼……」
呻くと同時に、神奈子が伊吹瓢箪をひったくるかのような勢いで奪い取った。
すかさず口につけてぐいっと呷る。ざわ……と聴衆からため息のような音が漏れる。
楽団の曲が盛り上がりを見せはじめた。
「おや、やる気になったのかい。今夜は優雅に過ごすんじゃなかったっけ?」
「……ふん」
すっかり目の据わった神奈子が、どこからともなく二つ目の巨大盃を取り出して言う。
「まあ、本命を横取りされた哀れな娘の挑戦くらい受けてあげないと、神の名が廃るしねえ」
横取りされた、の一言を特に強調して嘲る神奈子。
その言葉に、今度は萃香が、己の持つ盃にばきっとひびを入れた。
「よく言った……容赦しないよ、この年増」
「その言葉そっくり返してあげる。今度は負けないよ、この小鬼」
互いの盃になみなみと酒を注ぐ。
そして、いざ呑み合おうとするその時――。
「そのとーりです! 八坂様は決してお負けになったりしません!」
場違いのような素っ頓狂の声が、二名の耳に飛び込んできた。
驚いた神奈子が、その耳慣れた、しかし聞き慣れない声の主を探して辺りを見回す。
萃香も、いよいよ呑み合おうとするその時に水を差され、拍子抜けの表情を浮かべる。
ざわめく周囲のなか、二名をぐるりと取り巻く聴衆を掻き分けて一人の少女が進み出でた。
「さ、早苗?」
出てきた人物を見て、神奈子が目を丸くする。
宴会が始まって以降、いつのまにかはぐれていた、彼女の従者の東風谷早苗だった。
しかしどうにも様子がおかしい。顔はゆで蛸のように真っ赤で足元がふらつき気味である。
日頃の生真面目な風貌は見る影も無く、おまけに目の焦点すら合っていない。
そのあんまりな様子に唖然とした神奈子が、視点を彼女の手元に移す。
徳利と盃が抱えられていた。
早苗は酔っ払っていた。どうみても泥酔である。
そして神奈子たちからは見えないが、取り巻く観衆のはずれで、因幡てゐが「やりすぎた」
という表情で成り行きを見ていた。
「……八~坂~さまぁ~」
「な、なあに早苗」
早苗が呂律の回らない口調で呼びかける。
引き攣った笑いを浮かべて神奈子が応じる。
「ひっく!」とまるでお約束のようなしゃっくりを繰り返しながら、早苗はぐっと神奈子の
正面に顔を近づけ、底抜けの笑い顔を浮かべた。
「どうぞあの小鬼をてってーてきに酔い潰してくらさいませ! 八坂さまにこの早苗がついて
おりましゅ!」
唐突に、まるで怒鳴るような口調で激励する早苗。
あまりの大声に神奈子が痛そうに耳を抑える。
「あ、ありがと早苗。がんばるから、ちょっと下がっていなさ――」
「やい、そこの人間! せっかくのサシの呑み合いに水を挿すな! 引っ込んでな!」
気分が乗ってきたところを邪魔された萃香が、怒り混じりの声を上げる。
すると早苗が、ぎんっ、と殺気の篭もった視線で睨み返した。
「お黙りなしゃい! そもそもあなたのような小娘が八坂さまにたてつこうなどということが
笑止千万! 身のほどをわきまえて敬ってへつらうべきなのです!」
ぽかーんとした表情を浮かべる萃香。その言い草や表情のあまりの迫力に、毒気を抜かれて
しまったようである。
そんな萃香へ早苗はもう一度、唸り声を上げそうな面持ちで威嚇をしつつ、徐々に神奈子へ
視線を戻しはじめた。
「ど、どうしたの早苗」
冷や汗すら浮かべて後ずさる神奈子を、早苗は酒精に染まり澱みきった目で睨みつける。
「……そもそもですねえ」
がし、と早苗が神奈子の服の裾を掴む。ひっ、と神奈子が柄に合わない悲鳴を上げる。
「八坂さまが、いつまでもこのように鏡餅のような可愛らしい格好をなさっておられるから、
小鬼ごときに舐められてしまうのですっ! 神ともあろうお方がこんなことでどうします!」
その発言とともに、早苗が掴んでいる服の裾を恐ろしい力で引っ張りあげた。突然のことに
神奈子の抵抗も間に合わず、彼女の体から半纏が一枚、ずるりと剥ぎ取られる。
「ひゃあ! さ、さ、早苗、良い子だから、落ち着こう? ね?」
あまりのことに腰が抜けたらしい神奈子が、早苗から離れんと手足をもがく。しかし早苗は
剥ぎ取った半纏をぽい、と放ると、逃げようとする神奈子へがばっと覆い被さった。
「さあ八坂さま! おとなひく神様らしい格好をなさってくださいませっ!」
「ひ、ひえぇーっ! た、助けて諏訪子ー! って、いない!?」
既に相方の神は行方を眩ませていた。
「あ、あの子いつのまに逃げ出して! ってちょちょちょっと早苗待って、落ち着いて!」
神奈子が相方へ悪態をついている間に、彼女は早苗によって次々に衣服を剥ぎ取られていく。
もがき合う二人の頭上に、首布やら手袋やらもんぺやらが舞い踊った。
周囲の観衆がたちまち黄色い歓声を上げはじめる。
萃香が目前の光景を、あわあわと怯えた表情で眺めている。
楽団が激しくテンポの良い、そして艶のある楽曲をがなりたてていく。
「さささ早苗もう勘弁してー! それ以上はあーっ!」
その気になれば早苗を弾き飛ばすことくらいは容易いはずなのだが、この尋常でない展開に
我を忘れたのか、ひたすら悶えて抵抗するのみの神奈子。彼女が冬の間着込んでいた防寒具は
たちまち全て剥ぎ取られてしまったが、それでも何故か、早苗の手は休まない。
しばらくすると二人の頭上に、それまでの物と異なる、鮮やかな意匠の赤い衣が舞った。
そして――
「嫌ああああぁーっ!」
神奈子の一際高い、泣き声混じりの叫び声が響き渡る。
彼女の頭上で、柔らかそうな最後の一枚がひらりひらりと宙を踊った。
傍らで、人事尽くしたように満足げな表情の早苗が、ばたりと倒れて居眠りを始めていた。
欠けた月が人妖の群れを輝かしく照らす。
そんななか、この晩の最大の歓声が空と山と神社とを埋め尽くした。
――風雨の神が冬の衣を解いた。
とある晩の幻想郷の片隅で起こったこの出来事は、当事者らの意思に拠ることなく、確かな
意義を伴う寓意となって幻想郷を駆け巡り、目覚めを控えた世界に新たな移り変わりを促した。
風はそれまで喪っていた暖かみを取り戻しはじめ、
凍てつく雪は恵みの雨へと様相を変え、
地や水、空や雲、それらのふところで眠り続けた者たちを優しく包み込みはじめた。
木々が凍った枝に生気をたぎらせ、若芽を求めて虫たちが土のなかから顔を出した。
寒さを耐え切った草木が蕾を実らせ、白く染め抜かれた大地に新たな彩りを巡らせはじめた。
冬が終わり、春が訪れる。
緩やかに、しかし誰と知られることもなく――。
――――――
黎明
――――――
闇に包まれた幻想郷の空を、寒気の妖怪は静かに佇んでいた。
その手を振れども、風は吹かず、
その身を翻すも、雪は舞わず、
柔らかな暖気が包む空の下で――
寒気の妖怪は眼下に広がる地を、穏やかに、ただ眺めていた。
長く地表を閉ざしつづけた雪ももはや薄れていた。いたるところで顔を見せはじめた大地の
表面を、幾房もの草花が次々と葉を伸ばそうとしていた。
凍りついていた木々の枝には、早くも一面に新緑が芽吹いていた。幹や枝先に生気を漲らせ、
これから新たに生まれ出でる命に様々な恵みをもたらそうとしていた。
動くものが久しく絶えていた空や大地にいくつもの動物が蠢いていた。若芽を食む小虫や、
それを餌に求める野鳥や小動物。微かに瞬く星の下、彼らは朗らかに生を謳歌していた。
巡る季節に、世界は急速に装いを変えはじめていた。
そんな様を、寒気の妖怪は、僅かに寂しげな表情で見つめていた。
彼女は冬の化身だった。
雪を降らし、木枯らしを吹かし、
己の能力とさだめに従い、その力の続く限り、冬の寒気を空や大地に散らし続けてきた。
しかし季節は巡り、
幾度かの月の移り変わりを経て今、彼女の能力は終わりを迎える。
彼女は何処かで長い眠りにつく。
またいくつかの巡りを経て、この地にこの空に還るその日まで。
眠りの中で、彼女は夢を見る。雪と氷が大地を包みこむ、儚く冷酷で美しい夢を。
寒気の妖怪はかすかに微笑を浮かべて、空と大地に別れを告げる。
そして闇に染まった幻想郷に溶け込むように、いずこかへと去っていった。
冬の残り香の一筋の寒気が、木々や草花や動物たちを優しく撫でていった。
東の空にひときわ明るい星が浮かんでいた。
山並みの彼方に広がる地平線から、赤茶けた光がうっすらと空に広がりをみせていった。
*
一筋の風が吹いた。東風谷早苗は気配を感じて、背後の母屋へ振り向いた。
赤い衣を纏った彼女の神、八坂神奈子が麓の里へ向かって軽やかに飛び立つところだった。
早苗は竹箒を掃く手を休め、浅くお辞儀をして見送った。
博麗神社の宴会から数日が過ぎていた。
幻想郷はすっかり春の雰囲気に満ち、神奈子や諏訪子も冬の装いを解いて新年以来の活発な
活動ぶりを見せていた。今では日中神社を留守にすることも多く、早苗は大きな期待とともに、
ほんの僅かの寂しさを同時に感じている。
しかし毎朝夕の起床や食事の用意など、二名の神を世話する役目は相変わらず続いていた。
ただ、あの宴会以来、神奈子の早苗に対する態度が妙によそよそしくなることが多く、早苗の
気を揉ませている。あの夜は呑みすぎたせいか途中から記憶がまるでなく、諏訪子に尋ねても
にやにやと誤魔化されるだけで埒があかなかった。
一度じっくりと問い詰めるべきかな、などとぼんやりと考える早苗だった。
春の訪れとともに、しばらく前まで毎夜のように吹き荒れていた吹雪も、いつしかぱたりと
止んだ。それまで幻想郷を隈なく覆っていた雪もたちまち消え失せ、山裾や里の方で梅の花が
早くも咲きはじめている。
日々の雪掻きの務めもなくなり、ここ数日、風の術を使う機会も絶えたままだった。
しかし守矢神社の周りに植えられている沢山の桜の木。順調にいけば、そう遠くないうちに
これらが満開になり、その花びらを掃くために、また術を用いることになるだろう。
ついこの間まで大量の雪を巻き込んで吹かせていた風は、見ていて心地がよかった。そして
また、近々見ることになるだろう大量の花びらを包んで吹かせる風も、さぞ綺麗に違いない。
早苗はその時が来るのがとても楽しみになった。
ふと冷たい風が頬を撫でた。
風は山肌を巡るように、頂から麓へと流れていくように思われた。
――明日あたり、博麗神社を尋ねてみようかな。
唐突にそう思った。
そして気分が乗ったら弾幕勝負でも挑んでみよう、とも思った。
*
「……あら」
紅茶を抱えて廊下を進む足がふと止まる。
目の前にそびえる大図書館の大扉。その前で、もはや珍しくもない館の異物が珍しい表情で
立ち止まっている様子が目に入った。
「おお咲夜。丁度良いところにきたな」
「今日は貴方の分の紅茶はないわよ魔理沙。どうしたの?」
「いや、この扉がさ……」
白い裾から伸びた白い手が、大扉の古めかしい取っ手を握ってがちゃがちゃと揺らした。
「……開かないんだ」
このとおり、と両手を広げて肩をすくめる魔理沙。
「貴方もやっと、扉は開けて入るものだってことを覚えたのね。いつも門だろうと何だろうと
構わず破ろうとするのに」
「いや、それはもう試したんだがな」
「……あ、そう」
内心ため息をついて扉の前に立つ咲夜。
――今頃はまた門番がべそをかいているだろうな、などと考えつつ。
「ちょっと持っててくれる?」
「ん? あいよ」
紅茶の盆を魔理沙に預けて取っ手を握る。
指先から明らかな違和感が流れ込んできた。
「……パチュリー様ったら」
「ん? どうした咲夜」
「扉の中と外の空間を遮断してるみたい。やめてくださいねってお願いしておいたんだけど」
「なんでまたそんな面倒なことを」
「花粉よ。ここ最近急に暖かくなったものだから……って、こら! 何で勝手に飲んでるの!」
預けた紅茶をちゃっかり飲み干している魔理沙を、振り向いた咲夜が呆れたように咎める。
「まあまあ堅いこというな。というか、たかだか花粉のためにそこまでするのかあいつは」
「まったく……まあパチュリー様だから。気温や空気に敏感な方だし」
やれやれ、とため息をつきながら魔理沙の手から紅茶の盆をとりあげ、片手でパチンと指を
鳴らす。たちまちポットの中に淹れたての紅茶が満たされる。
「まあそういうわけだから、今日はさっさと帰りなさい」
そう言い捨てて、咲夜は再度扉の前へ立つ。時間と空間を操る能力を持つ咲夜なら、かなり
面倒ではあるが、扉越しに図書館内の空間へ接触することが可能である。
扉の向こうへ意識を集中しようとする。
しかしその背後――。
「せっかく手間をかけてここまできたのに、ただ帰るのも癪だな」
悪寒とともに、聞き捨てならない言葉が聴こえた。
「ちょっと、何をするつもり……」
ただならぬ気配に、咲夜が今一度魔理沙へ振り向く。
振り向いた顔がさっ、と蒼褪めた。
「……ッ! ま、魔理沙ッ!!」
「危ないぜ咲夜。紅茶セットを壊したくなかったら、そこをどきな」
両手を突き出した格好で構えた魔理沙が、にやりと笑って不敵な口調で言う。
その手の中には――大量の魔力がチャージ済みの、八卦炉。
「空間が遮断されてるなら、さすがに中の本まで影響はないだろ。本気で行くぜ――!!」
咲夜が慌てて扉の前から飛び退く。
同時に魔理沙の両手から閃光が迸った。
「――マスタースパーク!!」
春を迎えた紅魔館に、再び、動の空気が満ちた。
*
――ふと、目を開ける。
目の前に、絹糸のように柔らかな金髪をたたえた娘が、静かに横たわっていた。
少し眠ってしまったようだった。
音を立てないように深く深呼吸をして居住まいを正し、八雲藍は再び、目の前で眠り続ける
少女に目を向けた。
体感が、まもなく夕方に差し掛かる時刻であろうことを告げている。
小鳥の鳴き声がかすかに耳に届く。
襖を隔てた向こうでは、西日に照らされた障子戸が部屋に長い影を落としていることだろう。
――部屋の掃除は万全だろうか、食事の用意は整えておいただろうか。
藍は再度、声に出さず己の記憶を反芻し、問題が無いことを確認する。
昨晩、藍はひとつの気配を感じた。
毎年、この時期になると覚える兆候。
己の主の覚醒が近いという、式神の確かな予感である。
急ぎ隅々まで掃除を施し、屋敷や家具の手入れをし、物資などを取り揃える。この冬の間は
なぜか博麗神社の巫女につきっきりになっていたため、家の仕事は疎かになりがちだった。
思いのほか手間がかかり、昼夜を徹しての作業になった。やむを得ず橙に応援を頼んだが、
冬が明けるとともにコタツから飛び出してマヨイガへと帰ってしまった彼女の式神は、いくら
呼んでも応答はなかった。今ごろは猫たちを相手に心ゆくまでじゃれあっているのだろうと、
想像しては苦笑する藍。毎度のことながら困った子だ、とひとり呟いた。
首尾よく一通り片付けることができ、藍は主の傍らで目覚めを待つ。
暫しの休暇は終わり、また忙しい日々の幕が開けようとしていた。
――願わくは今年も主の心を煩わすことがないように。
己の手のみで事を済ますことができるように――。
忠実な九尾の式神は、心の中でそう誰へともなく祈っていた。
西日がまもなく地平線に落ちようとしている。
藍の目の前で眠る少女の顔に、赤みが差し込みはじめた。
閉じた瞼がかすかに動く。
閉じた口が僅かに開く。
藍の体内に何かが漲りはじめている。
式が、主の覚醒に反応しているのだろう。
彼女にとっての本当の一年が、今こそ始まろうとしている。
「……ううん」
薄く開いた口元から小さく声が漏れ出た。
うっすらと少女の目が開く。
「おはようございます――紫さま」
藍は己のとびきりの笑顔を浮かべ、目覚めた主に呼びかけた。
*
幻想郷の東の空に、ひときわ明るい星が浮かんでいた。
地平線の彼方から立ち昇る朝焼けとともに、
白い衣に身を包んだ春の妖精が、空と大地に桜色の光芒を散らしはじめていった。
...End
それでも幻想郷の冬は退屈しなくて良さそうで、いいなぁ。
…序盤の霊夢&藍のやりとりに悶えてしまった。うふふ。
まぁ、公式設定見る限りんなことなさそうですけどねw
おもしろかったですw
だろうな、お酒の強さは
早苗さんかわいいよ早苗さん
文句なしにこれを捧げさせていただきます。
あ、充分に面白かったっていう前提でね。
今回も本当に素晴らしかったです。次回作も楽しみにしています。
転がってくる~、風船~、の件でそんなに丸いんか・・・とニヤニヤしてしまった。
読む順変えるだけでも新鮮になりそうで面白かったです。
冬が恋しい。
世界観や、キャラ立ても、とても素敵でした
次の作品も楽しみにしています
心の底から良いお話をよませてもらえた、という気分です。ありがとうございました
いけませんね~
早苗さん、ごー!!
あえてひとつだけ上げるとするとレティの描写でしょうか。かわいすぎるよ。なんだこれ。
それと、誤字について少しばかりご報告をば。 ・思考錯誤 ・守備よく ・端目
二度読んで気が付いたのはこのくらいでした。(端目は少し自信ないですが。意味通じますしね)
これだけの長文ですから減点なんて野暮は言いません。楽しませてもらいました!
レティの描写が特にお気に入りです
レティはやっぱり宴会には呼ばれないんですね(´・ω・`)
面白かったです。
キャラの書き方もさることながら、情景の描写が素晴らしいです。
素晴らしい幻想郷をありがとうございます。
システム上100点となっておりますが点数は万点で。「満点」の変換間違いじゃないですよ。
お話は確かにまとまりなく感じてしまうかもしれないけど、ここまで綺麗に作ることが自分にはできないよ。
正味、本気で勝てない、と思ってしまった。
普段は100点入れないんですが、これ以外をいれるのは個人的になんか負けた気がするので100点で。
面白かったですよっ!
冬の幻想郷の全てに干渉しながらも、全てに存在を感じさせない……。
そんなレティの空気感が秀逸です。
苦労人の藍と早苗も素敵。
にしても、駄目人間な霊夢と身勝手すぎる魔理沙は、死ななければ
直らないのでしょうか。
なんということのない幻想郷の日々の営みがすごく素敵でした。
あとやっぱり早苗さんは風で境内の掃除とか除雪とかしてそうですよね、能力の方向的に^^;
誤字かどうかびみょんですが、その早苗さんが神さまのすってんころりんに笑うところ、
たぶん「尾」じゃなくて「緒」じゃないかと思います。何ぞ意図があっての「尾」でしたらこの辺見なかった事にw
音楽を聴いているようにゆったり流れていく上品な時間をありがとうございました。
いい幻想郷でした。
作中でちりばめられる様々な隠喩や寓意がとても味を出していたと思います
そして最後のシーンで、「黎明」というタイトルが含む本当の意味を知る
なんとも味わい深いお話を楽しめました
レティ主体の話かと思ったら・・・これはこれでイイ!!
キャラクターへの愛がにじみ出ていますね。次回作も期待です。
ふと、藍様の尻尾は夏には鬱陶しがられているんだろうなぁと思ったw
キャラクターも引き立っていて、良かったと思います。
文章とは文の有機的なつながりだと再認識させてもらっております。
何より、キャラクター同士のやり取りが素直に面白いです。
この描写で、一貫した筋書きのある物語も見てみたい……という欲が出ました
>いーいーかーらー! つーくーってー!
これは反則w(ツボ的な意味で
とにかく「キレイ」ですねぇ。
情景。キャラの生き生きとした様子。
文章の隅から隅まで整っているところとか……。
満点でないのは、更なる躍進を期待して、ですw
なんでしょうね。温かみがあってステキですね……。
面白かったです
神様は二名ではなく二柱と数えないとバチが当たる・・・かもしれませんよ?w
個人的には早苗が特によかったかな。
駄々っ子な霊夢も可愛かったです。