※ 分かりやすくするため、このSSでは幻想郷の貨幣価値が我々と同等です。
例えば串焼き一つ百五十円です。割安でしょ? 買ってください。
真っ暗な獣道のずうっと奥に、ぼうっと赤い光が見える。
蟲を統べる妖怪、リグルはその柔らかな光を目指して飛び向かっていた。
「見えてきた見えてきた。みすちー元気かなあ」
先に見えるのは提灯の明かりであり、屋台が開いている証でもある。
みすちーとは、その店主ミスティアの愛称のことである。
二人はよく、みすちーみすちーリグルリグルと言い合うほどの仲であった。
「みすちー、来たよ、元気してる?」
屋台に辿り着き、あいさつしながらのれんをくぐる。
どうしたことか返事が無い。屋台は開いているはずだ。
開いている、はずなのに名物の八目鰻は一つも網に乗っていない。
静けさに気づき、顔をゆっくりと左右に振って見渡してみると、自分の他は誰もいないのが分かる。
真ん中の席に座る。椅子がいつもよりひんやりとしていた。
「閉まってるのかなあ……おーい、みすちー?」
もう一度声をかけるが、重い空気に吸い込まれるだけだった。
静か過ぎる。いつもと様子が違う。
そういえば、ミスティアはとある亡霊に付け狙われているという噂を聞いたことがある。
ひょっとすると彼女はここにいないのかも、しれない。
暗いカウンターの奥で何かが、もぞもぞと動くのが見えた。
何者かが、代わりにいるらしい。
心臓が警鐘を鳴らし始めた。ここにいてはならない。
細かく震える足で地を踏み、椅子から立ち上がろうとする。
赤い眼光がリグルを射抜いた。
「ひえぇ、出た、妖怪ぃい!」
逃げようとするも思うように足が動かない。
体勢が狂い、椅子から転げ落ちてしまった。
提灯の赤々とした光に浮かぶ顔がリグルを見下ろした。
「ぐす……誰が妖怪よってあらあら」
カウンターごしに、目を赤く腫らしたミスティアが顔を覗かせていた。
妖怪を妖怪と言って何が悪い。おっと自分も妖怪だった。
「突然お客が来なくなった?」
リグルは落ち着いた後、ミスティアから話を聞かされることになった。
客足がぱたりと途絶え、悩んでいるうちに涙が溢れていたそうだ。
網には串焼き一つだけ。仕入れすらままならなかったらしい。
ついこの間まで、たくさんの妖怪の、時に人間をも交えた語り場だったはずだ。
しかし今宵の客は常連客兼友人のリグルただ一人、いや一妖怪か? ともかく、それっきりだった。
ずっと誰も来ない状態が続き、夜雀の代わりに閑古鳥が鳴いていた。
「でも、あなたが来てくれてよかった……で、どちら様だっけ」
「あのねぇ……鳥頭だからって友人の名前を忘れない。リグルだよ、リグルナイトバグ!」
「ああ、リグルね、リグル。あれ、だけど友達だったっけ?」
「もういーよそういうことにしといて」
二人はよく、みすちーみすちーリグルリグルと言い合うほどの仲であったことにしておいた。
串焼きを一つだけ頬張ると、溜息とともにミスティアがつぶやいた。
「それにしても、一体何があったんだろう……」
本来彼女は能天気であるはずなのだが、突然の経営不振には憂鬱になるらしい。
リグルはしばらく、常連客兼友人(仮)のために考えた。
そうしたところ、思い当たる節が、あった。
「ん、そういえば、近くにでっかい海鮮レストランができてた」
その店が建ったのもここ最近のことで、客で賑わっている。
その上、ここからほんのちょっとの距離のところにあるのだ。
客足が途絶えたことに関係あるに違いない。
「そこ、おいしかった?」
「うん、スイカゼリーがとっても……。いやそうじゃなくって、放っといていいの?」
「そっか、放っとくわけにはいかないね」
「そうそう。それにこの屋台とあそこ、結構近いとこにあるからさ」
「よし、おいしくて近いなら早速食べに行こう」
「おーいみすちー、意味分かってる?」
「分かってるって。さ、道案内道案なーい、よろしくー♪」
ミスティアはどうも、晩飯に誘っているものと勘違いしているらしい。早速店じまいの準備をし始めた。
リグルは乾いた溜息を一つ、暖簾を下ろす店主の背中に話しかけた。
「あのねえ。ご飯をただ、食べに行こうってことじゃないんだよ?」
「へ? どういうこと?」
この店主は、商売するには人が良すぎるか、頭が回らなさ過ぎるのだろう。
いわゆる「やり方」だの「手口」だのには疎いに違いない。
リグルは、はっきりと説明してやることにした。
「お客が流れてるんだよ。ほら、ライバル店っていうの、分かる?」
「それってもしかして、うちのお客さんが。え、まさか、浮気……?」
「ま、まあ、悪く言うと浮気だね。何とかしなきゃいけないんじゃないの?」
ここまで言って、ようやくミスティアは振り向き、真剣なまなざしを向けた。
「リグル、道案内お願いできる?」
「お、文句でも言いに行くの?」
「いや、私のとこよりおいしいのかもしれないんでしょ?」
「ああ、まずは視察ってやつ?」
「いや、おいしいものは食べたいじゃない」
「……後でゆっくり説明してあげる」
鳥頭は記憶力のみならず、思考力も欠けてしまっているのだろうか。
百聞は一見にしかず。リグルは説明するより、まずその店に連れて行くことにした。
「じゃあ、ついて来てね」
「あれ……? そういえばリグルはその店に行ったことあるの?」
「うん、そうだけど?」
「浮気者ー」
「人聞きの悪い事言わない!」
リグルは会話を断つように振り向き、地面を蹴って飛び出した。
彼女が付いてきてるのか、確認のために振り返ると、頬を膨らませたミスティアが居た。
誤解を招きかねないからやめてくださいほんと。
ただミスティアも、状況を少しは飲み込めていることが分かった。
リグルは安心できるようなできないような、おかしな気持ちで噂の店に向かった。
「あ、串焼き一本の百五十円払ってね」
「そういうことは覚えてるのね」
「ほら、あれだよ」
リグルの指差す先に、まさしく百万鬼夜行と言えるほどの人妖が店へ並んでいた。
店は三階まであるらしく、その窓の上の方に看板がかかっているのが遠くからでもよく見える。
看板の上には、見たこともない魚の模型がはねる格好で乗っていた。
人里で見る建物は、木か藁でこさえたような背の低い古めかしいものである。
それと比べると、随分派手に構えていた。
「何てお店なの? 鳥目だから見えない」
「んとね、禅寺寿司って名前だよ」
「禅寺ってまさか、あの?」
「うん、慣れれば安定するけど、どうでもいい時に森羅結界が出てくる……」
「いや、空中で無駄に射撃するとグレイズしながら突っ込んでキャンセル四重結界の傘じゃない?」
「そっち!? いやまあ、そういう店なんだよ」
早い話が、八雲の者達が一枚噛んでいるのは違いないだろう。
一、二ボス達がどうこうできる話ではないかもしれないが、折角の機会である。
折角の機会、ではあるものの、問題はこの並び具合である。
「みすちー、これ、本当に待つ?」
「うん、もちろん」
「前は四半刻で済んだけどなあ、どうなることやら」
客さばきが良いためか、結局四半刻程度の時間でカウンター席に座ることができた。
目の前には楔弾状の板が連なって、決められたコースを周回するという斬新な仕掛けがある。
そのコースの上に様々な寿司が皿に乗ってやって来ては自由に取れるようになっている。
ミスティアは目を輝かせながら流れ行く寿司を眺めていた。
「すごい……見たこと無いネタばっかりだあ」
「外の世界の海から取ってきてるみたいだね。それにしてもどうやって回しているんだか」
「やっぱり禅寺か何かで……あれ、何か聞こえる」
耳を済ませると、回転台の中から甲高い声が聞こえた。
リグルはそこに耳を当ててもう一度聞いてみた。
「ひしょーびしゃもんてん! ひしょーびしゃもんてん! ひ、ひしょー、ひしょーびちゃもんてん……」
「……私は何も聞いてない。私は何も聞いていない。」
「リグル、赤出汁いる? お魚以外は注文するみたいだよ」
「ああ、それ欲しい。ええっと注文するには……」
カウンター上に、「御用の際はこのボタンを押してください」と書かれた紫がぐちゃぐちゃした色の物体がちょこん置かれている。
怪しすぎる上に厄い。自爆スイッチか何かにしか見えない。
押してくださいとか、覗いてはいけませんといった物の誘惑に負けると、ろくなことが無いのだ。
「みすちー、それ押して」
「……何か私に押し付けてるような。いいわ、こんなのどうってこと無いよ」
「ごめん、ほんとに嫌な予感がして」
「へっちゃらへっちゃら」と笑いながらミスティアがボタンに指をかけた。
その瞬間、スペルカード発動の音が鈍く鳴り響いた。
「……ィィイインセス、てぇんこおおおおおお!」
「ひゃああああ!」
突如、目の前に妖狐が歌舞伎役者の決めポーズで現れた。
「……はい、何かご注文でもお決まりですか?」
「どうしてこうスペルカードを無駄使いするんだこの店は……」
「あ、注文決まってます! えーっと……」
ミスティアがメニューを開いた瞬間、スペルカード発動音が聞こえた。
「プリィ……」
妖狐が消えた。
「あ、ちょっと注文言い終わってないのに!」
「他のお客が呼んでも反応してしまうのか……」
負けじとミスティアがボタンをもう一押しした。
「ィィンセス、てんこー……ああ、さっきはすまな……プリィィン……」
現れたと思いきやすぐに消えてしまった。
どこの誰かは分からないが、相手側も注文を聞いてもらいたいようだ。
「しょうがないみすちー、ちょっと待ってから……って何やってんの!?」
ミスティアが頬を膨らませて怪しいボタンを連打していた。
断続的に発動音が鳴り始めた。もう誰にも止められない。
「プリィンセス……プリプリィンセ、プリプリプリインセプリププププププププ」
「ああ、歌舞伎役者が点滅してるぅ!」
「リグルリグル、これ面白いよ! DJ気分!」
「てんこー……ぜえ、ぜえ……そろそろいい加減プリププププ」
いくらなんでも可愛そうになってきたのでミスティアからボタンを取り上げた。
ボタンを持ったまま手を高くあげると、返してよーと手と足と羽をじたばたさせてきた。どこの園児だ。
支払いのために勘定に行くと、例の狐のお姉さんがいた。
二人を見るなりげんなりした表情を向けられてしまったが、今度は私達がげんなりする番になってしまった。
「……以上、八千円になります」
リグルとミスティアは顔を見合わせて、同時に首をかしげた。
困惑した表情で、まずはミスティアが口を開いた。
「二人前ですよね? ひょっとしてワープ料金?」
「その料金も取りたいけど残念ながら違うね。お客さん、人肉むしゃむしゃ食べてたでしょ」
「あー、どうりで物凄くおいしいのばかり来ると、あははは……」
リグルは河童巻きやコーン巻きだのばかり食べていたから気づいていなかった。
この店は人肉を割高で提供しているのだった。
どこから調達しているのか分からないが、こんな芸当ができるのも八雲の強みだろう。
「ねえリグル、割り勘にしない? ごめんけど私、百五十円しかもってなくて」
「それさっきの串代じゃない! それに割り勘できない! いいよ、お金無いんでしょ? 貸したげ……」
リグルはそういいながら自らの財布を確認すると、五千円しか入っていないことに気がついた。
この場合、どう考えてもミスティアのせいになりそうなものだが、リグルは自分が悪い事をしているように感じてしまった。
「あ、あは、あははは……」
「ん、どうした聞きそびれたか? お会計は八千円だ」
「ねえリグル、ひょっとして……」
もう一度財布を確認。小銭を数えみても足りっこない。
もうどうしたらいいのか分からない。正直に頭を下げるしか、もう道は無かった。
「あの、すみません、ごめんなさい! 払えない、です……」
「何だと? 散々てんこーさせた上に払えない? ちょっとそれは無いんじゃないのか?」
狐目がしっぽを逆立たせてじろりと睨んできた。
全身から汗が吹き出る。ミスティアを横目で確認すると、頭を下げながら羽がふるふると震えていた。
「名前と住んでるところ、そっちの鳥娘でいいや、教えてくれ。一週間後、徴収にあがるからな」
「リグルごめん! ほんっとーにごめん!」
店を出た後、ミスティアが目に涙を浮かばせて謝罪会見してきた。
いつから情緒不安定になったのだろうか。
「いいよみすちー。それより……はい、私の分の四千円。もう渡しとくよ」
「いーの! 今そんなにくれてもリグル、残り少ないんでしょう?」
「大丈夫、虫の知らせサービスで何とかするから。……はいどうぞ」
自分は二千弱ほどしか食べていないはずだが、御互い様である。
財布から漱石を四枚抜き出し、ミスティアに差し出す。
お札を手にした途端にミスティアの顔色が明るくなった。
「やったー! ありがとう!」
「ちょっと、分かってるよね? 会計分だよ? 取っとくんだよ?」
「も、もちろん」
何故どもるのだろうか、ミスティアの行く末が心配になってしまった。
心配になったといえば、もう一つ大きな不安要素が残っている。
「みすちーは大丈夫なの? すぐに四千円なんて稼げるの?」
「鳥頭だからって舐めたらいけないよ。なんでここにわざわざ来たのか覚えてる?」
「お、なんだちゃんと分かってたんだ」
「もちろん。禅寺寿司の良い所を盗んで、私の屋台にも取り入れることにしたわ」
一週間後の昼下がり、リグルはミスティアの、もしもの為にお金を用意していた。
自分にとっての大金を作るために忙しく、屋台に顔を見せることすらできなかった。
さんさんと照る太陽の下で、提灯明かりが何故だかついていた。
普段この時間は準備時間であるが、営業中ということだろうか。
「やっほーみすちー久しぶりー!」
地面に足をつけると、何かが聞こえてきた。
ミスティアが小声でつぶやいているようだ。
のれんをくぐる。
「ぷりんせすぷりんせすぷりんせすぷりんせす」
皿を両手に持って厄神のごとく延々とドリル回転するミスティアの姿があった。
「お邪魔しましたー」
「待ってよ帰らないで! いらっしゃいリグル……ああ、目があ……」
「もう、何でそういうところばかり盗むかなあ」
リグルはカウンターにひじを付き、手で顔を覆った。溜息が止まらない。
よく見ると隅のほうに「ボタン」と書かれた画用紙があった。
「それにさあ、何この……ボタン? 押すとどうなるのよ」
「うんでぃね! って言う」
「ぽち」
「うんでぃね」
「……」
「……」
「あれからお客、何人くらい来た?」
「ゼロ人」
「だろうね……」
もう誰も彼女を責めることはできない。
よほど行き詰まりに詰まった経営になっているのだろう。
リグルはもはや同情の眼差しを向けていた。
「どうしてお客が来ないのかなあ……」
「どうしてそんなとこ盗むかなあ……」
「だってほんと、真似できないもん。あんなに大きい店じゃないもの」
「分かるよ。もっともだよ。だけど、ねえ」
「それに色々がんばったってお客が来ないし、元手が無いし……」
足音が聞こえた。
ミスティアも話を一旦止めて、顔を上げて遠くを見るようにする。
こつこつという音が近づき、音の主がのれんをくぐった。
「どうも禅寺寿司だ。ミスティアさんは居るか?」
「ああ、狐さん。御手数かけます」
禅寺寿司の狐の御姉さんが徴収に伺いに来たらしい。
ミスティアは、何かに気がついたように目を見開いた。
「あ、あの狐さんか! 永夜ん時、私がやられた後もしばらく空中でぐるぐる回り続けたあの!」
「今気づいたの!?」
「まあ主人の下で気を抜くわけには……いや、それよりお金はできたのか?」
「それが全然……半分の四千円なら」
「むむ、随分困窮しているようじゃないか」
一週間前の妖狐の眼差しとは違っていた。
問い詰めるというより、優しく語り掛けてきたのだ。
自分が残りを貸してあげることもできたが、まず様子を見ることにした。
「実はこのお金も友人からのもので、私のはもう、ほとんど……」
「何とそこまで。失礼だが、そうなるとこの店はあまり……」
「うん、全然駄目。あなたが久々のお客さんよー」
ミスティアが苦笑いしてくるりと一回転した。
対して妖狐はうつむきしばらく考えて、一言。
「宣伝はきちんとしているのか?」
「宣伝? 宣伝かー。チラシとか? だけどなあ」
こんどはミスティアがうつむき考えてしまった。
そういえば、ミスティアが店の宣伝をしているのを見たことが無かった。
歌に誘われるように、自然に彼女の下に集まっていたのだ。
「チラシ配りでも広告でも構わないが.……どうした、やりたくないのか?」
「なんだか宣伝って、売れてないですよーってアピールに見えてどうしても……」
ミスティアの言うことも一理ある。本当に人気があるなら、宣伝の必要は無い。
これまでそういったことをしてこなかったのは、彼女なりのプライドがあったのだろう。
「店主、串焼き一つ願おう」
「へ? あ、はい少々お待ちを」
唐突の注文にミスティアは戸惑ったものの、てきぱきと串を通して、網に載せる。
普段の様子からは想像できない職人芸に、妖狐も感嘆を漏らした。
皮はしっとり、身はふわふわになる、丁度その時らしいタイミングで皿に盛った。
「はいお待たせ、召し上がれー」
「ふむ……いただきます」
ほどよくたれがついた串焼きは日光を反射してきらめき、香ばしい湯気を昇らせていた。
「飯がほしくなるな」とつぶやいて、妖狐は串焼きを一口。
「ん、んむ、ほう……これはどうして」
感想を言い終わる前にもう一口。「なかなか」と言ってもう一口。
「旨い。そうか、お前はこれだけの物が作れるのか」
「いやあ、そんなに褒められると……」
二人はすっかり打ち解けているようだった。
それがこの店の魅力であると常連としてリグルは思った。
本来はお金の徴収というぴりぴりとした状況になるはずである。
しかしひとたび屋台に入れば、不思議と心が通いだすのだ。
「どうだ、うちの禅寺寿司で働いてみる気はないか?」
「え……ええ!?」
「ちょ、ちょっとお狐さん!?」
突然の依頼だった。昨日の敵は今日の友達そうさ永遠に理論を持ち出してきた。
だが常連客としてリグルはこの依頼に異を唱えたかった。
確かに屋台は経営破綻寸前、職の確保にはもってこいの条件だ。
しかしこの屋台はどうなってしまうのか。
「そんなこと言って屋台をどうする気ですか!?」
「このままつぶれるよりはましだろう。それにどうするか決めるのは、店主の判断ではないか?」
「私? 私は、どうしよっかなあ……」
首をかしげて目をぱちくり。いまいちミスティアは事の重大さが分かってないように見える。
そうだもっと悩むんだミスティア。悩んだ挙句、私には大切なお客がいるから、なんていって断るんだミスティア!
「もちろん残りのお代は勘弁してやるぞ」
「やった、今日からお願いします!」
「即決!? みすちー本当にいいの?」
「料理する場所を選ばないのがプロってもんよ」
「よく言ってくれたミスティア。きっと紫様も喜ぶはずだ。さあ、ついてきてくれ」
「アイアイサー、それじゃリグル、後片付けお願い!」
「早い、早いって! もっと慎重になってよ!」
恐ろしい決断力、そして行動力。二人は今まさに飛び立とうとしていた。
私の呼びかけにミスティアは足を止めて、振り返った。
何かを思い出したように羽をびくつかせた。
「そっか、串焼き一本の百五十円貰ってなかった」
「おっとすまない。……ほい、これでよし」
「ありがとうございます! それじゃレッツゴー!」
「ああ、普通ならここで私の顔をまじまじと見つめて何かを断ち切るように振り向いて走って『ごめんなさい!』って言うシーンが!」
いつの間にか妖狐がミスティアの手を握って空に向かっていた。
やりきれない気持ちをこめてリグルは叫ぶことにした。
「この、浮気者ー!」
そして私と屋台だけが残された。妖狐の残した皿と串を片付けながらリグルはまた、溜息を一つついた。
屋台が消えて一週間経ったある朝のこと。
リグルは普段どおり朝日の差し込む窓辺でレースなカーテンを通る爽やかな風を受けながら、ウッドなチェアーに腰掛けて、ホットでカップなカフィーを片手に文々。新聞に目を通す。カフィーことコーヒーには角砂糖が十個ほど入っている。
「やっぱり大人なモーニングは落ち着くなあ」
なんとなしにつぶやいて、瀟洒にカフィーをすすった。with ストロー。
コーヒーを置き、サンドウィッチwith生クリームを食べながら新聞を開く。
「禅寺寿司、人気爆発 その秘訣に迫る」
教養のためと音読しながら読み進めて行く。
期間限定の夜雀料理が売れに売れているらしい。
あの後一度リグルも禅寺寿司に食べに行った時も大盛況で、半刻は待たねばならなかった。
しかしその時、ミスティアに会うことができなかったのだ。
「屋台で磨いたとされる八目鰻の串焼きが売れに売れて行列が途切れないほど……がんばってるなあ」
なんだかんだでリグルはミスティアがどうしているのか心配だった。
禅寺寿司は店と宿舎が一緒になっているらしく、ミスティアはあれ以来帰ってきていなかった。
しかし八雲という強力な妖怪達の下でもしっかり働けているのだ。たくましい奴だ。
安心してほっと一息ついて、読み進める。
「元屋台のミスティアさん曰く、『今回限りでこのサービスは終わりです。この機会を逃すと二度と八目鰻が食べられなくなるかも。
早く食べに来て』とのこと……」
後は店長のインタビューだのメニューだのが書かれてあった。
新聞も読み終わって朝の儀式は完了された。
パジャマから着替えようとクローゼットに向かう。そこで違和感に気づいた。
「期間限定?」
なるほど、確かにミスティアをずっと働かせるわけにはいかないのだろう。
そうなると、リグルにとっても好都合だった。
この期間が終わればミスティアが屋台に戻ってくる。
やはりあの店より、屋台の雰囲気が楽しみなのだ。
そのせいか、禅寺寿司の串焼きは、屋台で食べるより味が落ちているようにも感じたのだ。
「だけど、二度と……?」
知らず知らずのうちにもう一度新聞を握り締めていた。
問題は次の文だったのだ。
この機会を逃すと、二度と食べられなくなる。
期間が終わったら屋台を止めようというのだろうか。
いや、それは考えられない。あれでもミスティアは料理を生きがいとしているはずだ。
だからこそ経営破綻寸前だろうが休まず店を続けていたのだ。
冷たい風がリグルの頬を撫でた。虫の知らせ。
「極め付けに、早く食べに来て、か……」
一見すると単なる宣伝文句でしかない。
しかしリグルにはその文がどうしてか、「早く助けに来て」と見えるのだ。
一体ミスティアに何が起きているのだろうか。
彼女の顔写真が新聞の隅のほうに載っている。
その無表情な顔が、最後にミスティアが振り返ったあの顔よりやつれて見えた。
夜風に当たっていたリグルに、一匹の蚊が寄ってきた。
「リグル様、リグル様どうしましょう! キートが、キートが!」
「どうしたのよモスキー、まず始めから報告して頂戴」
勝手に心配して勝手に空回りという事態は避けねばならなかった。
リグルは蟲を操る妖怪である。真相を探るため、早速蚊を二匹、スパイとして送り込んだのだ。
モスキーとキートがその二匹の名前だった。虫の一匹一匹に名前をつけるのもリグルの趣味だとか。
「すみませんリグル様。しかし何分動揺してしまって、何から話せば……」
「えっとね、みすちーはどんな様子だった?」
尋ねた瞬間、モスキーの顔つきが変わった。
間違いない。何かがあったに違いない。
「それがですね……なぜか、なぜか籠の中に……」
「籠? 籠につかまっていたの?」
「そりゃもう鳥籠で。それで串焼きは例の狐さんが一生懸命焼いていました」
不可解。リグルの頭をその三文字が支配した。
おそらく串焼きの作り方は後から教えてもらったのだろう。
しかし何故ミスティアをつかまえておく必要があるのか。
どうせならミスティアに作らせたらよいのではないか。
さらにモスキーに尋ねていくと、新たな事実が浮き上がった。
「期間限定料理ってのは知ってますよね、その期限、明日ですよね」
「そうだっけ? ……ああ、よく見ると新聞にもそう書いてるね」
「私、聞いてしまったのです。終業の後、八雲の者たちが食卓を囲んだその時に」
息をのんで耳を傾ける。
「『明日は幽々子の誕生日ねー』という声がして」
「でかしたモスキー。それが分かったらみすちーも逃げようとするはずだ」
「明日の晩、誕生パーティが行われるそうです。おそらくそのときに……」
亡霊嬢にミスティアは狙われていた。その亡霊嬢の名こそ幽々子だった。
八雲の主、紫の友人だと耳にしたことがある。
おそらくミスティアは誕生日プレゼントにされてしまうのだろう。
そしてミスティアのあのインタビュー。あの思わせぶりな言葉からすると、その事に気づいてしまっているはずだ。
大方、逃げようとして失敗、籠の中の鳥になってしまったのだろう。
顔が青ざめていくのが分かる。何とか気を取り直してモスキーに続きを促すと、涙ぐんだ様子で話し始めた。
「それでずっと話を聞いてると、『らんしゃま、蚊がいる!』って聞こえたから、俺は逃げようと言ったんです。
そうしたらキートの奴、『嫌だ! 俺はあの姉さん狐の柔肌を堪能したい!』と抜かして、笑顔で……」
「冥福を祈りましょう。うん、今日はありがとう。お陰でよく分かったよ」
「今日はありがとう」と言った瞬間、モスキーはただの蚊となって闇夜に向かってさまよい始めた。
窓を閉めて深呼吸する。
「みすちーを助けなきゃ」
決意を新たに立ち上がる。
一刻も早く助け出したいところであるが、体勢も整えずに無闇に働くと台無しになるだろう。
明日の為に今できることを探そう。
リグルは協力者を求めて夜空に飛び立つことにした。
カチャリと乾いた音がした。
引き戸をゆっくりと開け、素早く潜入する。
「ご苦労、もういいよ」
先に忍ばせておいたクワガタムシを使って鍵を開けた。
静かな満月の夜だった。閉店後、静かになったところを見計らって忍び込んだ。
首から吊るされたカメラを握る。ぜいぜいと息が荒くなる。
「現場の写真を取ってきてください。そうしたら信じてあげます」
こうした一大事に天狗が食いつかないわけが無い。
そう思って射命丸文に協力を求めると、予備のカメラを手渡されて告げられた。
裏の取れない情報は載せられないときっぱりと言われたのだ。
結局は単身潜入である。自分一人の力を信じるしか、無い。
店内は明かりがついておらず、回転台も全く作動していない。不気味に静かだった。
一階はおそらく誰もいないのだろう。こんな暗闇で誕生パーティを行うのはルーミアと幽霊の類しかいないだろう。
しかし動きは極めて慎重に、音を立てずにそろりそろりと差し足抜き足、階段を見つける。
上階から光が差し込んでいる。誰かいるらしい。
念の為にそばの観葉植物に身を潜めて、耳と触角を立てた。
「ではこのケーキ、上に持っていきますね」
「気をつけるんだぞ妖夢。さあ橙、片付けたらパーティだぞ」
「分かりました、一気に済ませましょう!」
「こら、慌ててするもんじゃない、最後まで気を抜かない!」
平和である。平和な日常を自分の手によって壊すのだ。
心臓が高鳴り、心拍音でばれやしないかと思ってしまう。
しかしこれも仕方が無いこと。全てはみすちーを助けるためである。
かちゃかちゃと調理器具を洗う音がしばらくして、止まった。
代わりに足音がし始めた。
「よくやった橙、お片づけご苦労。さ、皆が待ってるぞ」
今がチャンスだ。両手両足を階段にかけ、そろそろと上り始める。
踊り場まで来たところで聞こえてしまった。
「藍様、トイレ行ってきます」
「そうか、早く帰って来るんだぞ」
足音が近づいてくる。嫌な予感がする。
そのまま四足で後ずさりするしかなかない。
階段を下りる純粋な眼差しと目が、合った。
「お、お兄ちゃん、誰……!?」
「私は雌だああああああ!」
しまった、反射的に叫んでしまった。
過去は取り戻せない。両者共に狼狽する。
空気を切り裂くように高い声が返ってきた。
「橙、どうした!? 誰かいるのか!?」
まずいことになった。
妖狐相手だとまず勝てない。
しかしここで逃げると、ミスティアを救うことはできない。
後にはもう引けない。それなら前に出るしかない。
「きゃ、お兄ちゃん何を!?」
咄嗟の判断で化け猫に飛び掛り、がっちりホールド、右手で銃をかたどってこめかみに当てる。
妖狐が駆け足で近づいてきた。
「お前はあの時の!? 橙に何をする!?」
「立ち止まれ! 要求をのめば解放する!」
「ふざけた真似を……。要求は何だ!」
実際、人質を取ろうが何をしようが、彼女との力の差を埋めることはできない。
しかし状況が状況だけに、できるだけ穏便に済まそうとするのが賢い者だ。
もし妖狐が要求をのまずに対峙するとリグルに勝ち目は無い。
そもそも橙を操られるだけで一貫の終わりだ。橙に打ち勝つ自信もリグルには無かった。
「要求は簡単なこと。私を見なかったことにして、ここを通す。それだけよ」
「不審者を主人へ通せというのか」
「ふふ、あなたの主人にどうこうできる身では無くってよ」
「なるほど、お前、実は橙にどうこうできる身でもないだろう」
見透かしたような一言だった。
さもなくばどうするのか、それがなければ人質の意味がなくなってしまう。
だが、ひっぱたくなどという中途半端なものだと両者から総攻撃にあうだろう。
リグルとしても穏便に済ませたかった。しかし確実に人質にダメージを与えなくてはならない。
研ぎ澄まされた思考で行き着いた先に、リグルは答えを見つけた。
「要求をのまなければ、季節はずれのバタフライを子猫ちゃんの服の中に入れてやる」
「ら、藍様あ、怖い! 助けて!」
「要求をのまない」
蝶々を見せた途端に妖狐の顔つきが変わり、冷たく言い放った。
交渉決裂。そうなると自分はどうなってしまうのか、リグルは身を震わせた。
「どうした、入れられるものなら入れてみろ」
「やだ、藍様助けて! 服の中に虫なんてやだ!」
「大丈夫だ橙、すぐ助けてやるからな。さあ、早く入れてみろ! 入れるんだ! さあ早く!」
妖狐の顔つきは変わっていた。口元がにやけて目を妖しく光らせて。
想像だにしなかった事態にリグルは当惑した。
こいつの命が惜しければと言ったら「やった、早く殺してくれ!」と返したようなものだ。
交渉相手はすっかり息を荒げて手をわきわきと動かしていた。
藍様怖いよと人質が叫び続けているが、どちらかというと藍様が怖いのだろう。
戸惑っていると、「はやく。いいからはやく」と口パクされた。
「いーの?」と首をかしげながら返答すると、狂ったように首を縦に振り続けた。
「仕方無い、交渉は決裂……残念だ」
襟元を少しだけ伸ばして蝶々を入れようとする。
確認の為に交渉相手を見ると物凄い勢いで首を横にふって手でバッテンをつくっていた。
訳が分からない。そもそも一体なんの交渉か分からない。
変態狐が新たなサインを送ってきた。首元を指してバッテン。膝をさして丸。
試しに手をスカートのほうにもって行くと亜光速で首を縦に振ってきた。
頭痛がし始めたリグルはもう良心と共に蝶々を手放すことにした。
「いやあああ、藍しゃま、取って! 取ってえ!」
「しょうがないなあ橙は、どこに入ってるのか見せてくれないと分からぶべら!」
禁断の花園に潜り込んだ狐さんがダイレクトに膝蹴りをもらったご様子。
泣きながら「こんなの藍様じゃない」と踏みつけ続ける橙。なおも幸せそうな藍。
平和な日常を自分の手によって壊すまでもない瓦礫の山のような日常だった。
しかし取ってと言っておいてぼこぼこにする橙も橙で理不尽だ。
頭を抱えて藍に少しばかり同情しながらリグルは三階を目指すことにした。
ドアに耳を当てる。中では既にパーティが始まっているようだ。
聞こえるのは三人の声である。
八雲の当主の紫、恐怖の亡霊嬢の幽々子、そしてその従者だろうか。
タイミングを図るために集中して話を聞く。
「……カードが無かったからって起き上がりに電車を使わなくても良かったでしょう?」
「カードが無くなったのはあなたの雪のせいでしょう?」
「まあまあ御二人共落ち着いて、せっかくの誕生パーティなんですし」
様子がおかしい。おそらく中では紫と幽々子が口論をしているのだろう。
二人の口調は穏やかながらも棘が見え隠れしていた。
「そうね。私だって幽々子と仲直りしたい。今年はとっておきを用意したのよ」
「あら嬉しい、一体何かしら」
どうやらプレゼントを渡すようだ。
しかしここで慌ててはいけない。
息を潜めてもう一歩待つのだ。もう一歩待てば最高のタイミングで踏み込める。
「ありがとう紫。えっと、開けてもいいかしら。それにしても大きいわね」
「いいわよ。幽々子の驚く顔が目に見える」
紐を解く音が聞こえた瞬間、ドアを蹴り開けた。
「そこまでよ!」
視界を左右に振る。
愕然とした妖怪、動揺した少女、笑顔の亡霊が映る。
亡霊の目の前には、包装の解かれた箱を下敷きに、まさにその籠があった。
「リグル! 来てくれたの!?」
「やっぱり! みすちー、今助けるよ!」
「あなた……一体どういうつもり?」
「あらあら紫、ひょっとしてサプライズパーティ?」
強大な妖気を立ち上らせて一人の妖怪、おそらく紫が立ち上がった。
まともに相手にしてはいけない。力で勝つことはできない。
だからこそ、ペンは剣より強しの法則を使うのだ。
「こういうつもりよ!」
カメラを構えてミスティアをレンズで捕らえる。
シャッターに手をかけた瞬間だった。
「結界、光と闇の網目!」
眩い光線と影が部屋を駆け巡り、銀髪少女が軽い悲鳴をあげた。
光と影が網目上に交わり、目がくらむ。
影が網となってミスティアを包む。このままではうまく撮影できない。
「何の、灯符、ファイヤフライフェノメノン!」
網を破ることはできない。しかし網に捕らえられてこその虫である。
影の網に引っかかった無数の蛍達を一斉に発光させる。
「シャッターチャンス!」
チャンスを逃さず、シャッターを押す。
小気味の良い音が一室に響き渡った。
その時、裂けた空間からレンズを抑えようとする手が映ったのは気にしたくなかった。
その時、亡霊嬢がピースをして赤い魔方陣を出していたのは気にしたくなかった。
「このカメラを烏天狗に持っていけばどうなることか分かるよね?」
強みは握った。後はミスティアを解放するだけだ。
勝利を確信する。その一瞬の安堵を狙われたのか。
紫が不気味な笑みを浮かべたと同時に、リグルは宙に浮いた。
裂けた空間から腕が伸び、首根っこを捕らえていた。
「それなら、持っていけない体にさせてあげてもよくってよ」
完全な誤りだった。ペンがあればリグルは力の差など、どうとでもなると思っていたのだ。
しかし相手が悪かった。相手はペンを叩き折ることも、出版する前に作家を殺めることも容易いのだ。
まさに虫の息。血が頭に上らず、吐き気を催してきた。
「ああリグル! こうなったら閻魔様直伝の鎮魂歌を……」
既に亡き者にしないでほしいとリグルは思ったが、実際死んだようなもので反論が浮かばない。
亡き者になるとあの亡霊嬢のお世話になるのかもしれない。
ちらと彼女の方を見た。恐ろしいほどの笑顔で返された。
「あら紫、そんな妖怪如きにむきになって、らしくないわね」
黙って見ていた亡霊嬢の一言。それをきっかけにリグルは解放され、地面に叩きつけられた。
「だってだって、幽々子の誕生会でしょ? プレゼントもきっと奪おうとしてるのよこいつは?」
「うーん、だけど私、夜雀は小骨が多いから実はあんまり好きじゃ……」
「そんな直球に言わなくても!? 私は幽々子が気に入ってくれると思って一生懸命!」
「紫、もうちょっと落ち着いたらどうかしら。最近変よ?」
状況が飲み込めず、銀髪の従者に尋ねようとしたら睨みながら後ずさられた。警戒されっぱなしである。
仕方が無くちょっとした口論を続ける亡霊嬢に近寄ると、後手で鍵を渡された。
「みすちー、来たよ!」
「何だかよく分からないけどリグルありがとう!」
しばしの抱擁、しばしの歓喜。
しかし長居をすることも、できない。
「さあリグル、帰ろ、帰ろ!」
「待って、ここは追撃用の資料を取っておかないと……」
結果、もう少し長居をすることになったのであるが。
従者に顔を向けると、仕方無いといった表情で近寄ってきた。
溜息と共に愚痴が彼女の口からこぼれだした。
「幽々子様も紫様も、最近ずっとああなんですよ……」
「なるほどなるほど、いつから? きっかけは?」
天狗もかくやという勢いでインタビューを続けるリグル。
これにはミスティアも苦笑いをするしかなかった。
「宴会の時、紫様が幽霊でそうめん流しを始めたら、そうめんで幽霊流しをしなさいと幽々子様が言い出して……」
「駄目だ、賢者の思考は理解できない」
「本当は幽々子様も許しているはずです。ですが紫様をいじるのが楽しいらしく……」
ようやくリグルは気づいた。第一の被害者は紫であった。
いじられていることに彼女は気づかず、もがいているのだろう。
弄くりが終わったらしく、幽々子が振り向いた。
「妖夢、帰るわよ」
「え、幽々子様、もう!?」
「この調子でパーティを続けるわけにはいかないでしょう?」
「あ、待ってください、幽々子様ー!」
取り残されるは涙目ゆかりん。一番不憫なのは彼女だとリグルは確信した。
「えっと、まあ、がんばってください」
「うるさいあっちいけ」
一人にしてほしいのも当然だろう。ミスティアと顔を見合わせ、脱出することにした。
文々。新聞の見出しには「禅寺寿司、解体へ」と書かれてある。
ミスティアの扱いと偽装問題を受け、責任を感じたらしく紫は業界からの撤退を表明。
「幽々子が寿司を楽しんでくれなかった。これ以上続ける意義が見出せない」とコメントしたという。
ライバル店の撤退、そして新聞の思わぬ宣伝効果のせいか、ミスティアの屋台は活気を取り戻していた。
そこにはカウンター席に全体重をあずけて泣き出すものがいた。
「幽々子ー……。どうしたらあなたは振り向いてくれるのかしら……」
「ほらほらお客さん、嫌なことは飲んで忘れて、明日からまたがんばりましょうよ!」
敵も味方も何もなし。来るものは皆、平等にただのお客さんである。
かつての商売敵も、日常のしがらみから解放される場所になっているようだった。
今度は自分もお客になる番だ。
のれんをくぐり、店主に手を挙げて挨拶する。
「あ、リグル、いらっしゃーい!」
お客さんは皆平等。
ただその声は、ほんの少し不平等だった。
面白かったです。
>幽々子に寿司を楽しんでくれなかった。
幽々子「は」か、幽々子「が」ですかね?
「なるほど、お前、実は橙にどうこうできる身でもないだろう」
なんだこのノリwwwwwwwww
違ったらすみません。
らんさまへんたいだよらんさま。
ちぇんばいおれんすだよちぇん。
ゆかりんも泣いてるし最後きれいにまとめてるしグッジョブです。
うんでぃね!
もしや某CMのおじいさん?!www
よかったです。つ150円
俺も連打したいwwwwwwwwwww
リグルかっこいい。
八雲一家全員頑張れ。
ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷっ、プラズm(ry
何だかんだで皆ノリノリなのが最高に素敵です。とりあえずあちらでめそめそしてる紫色なお嬢さんに一杯差し上げて下さい。
おっと忘れちゃいけない つ150yen