慧音の日記と「ありがとう」
梅雨の蒸し暑さがまだ少し残る初夏の昼下がりの中を、心地よい涼しい風が流れる。
玄関口に立つ慧音の髪がさらさらと風に揺れる。
日差しを浴びて光る慧音の髪がまぶしくて、妹紅は少し目を細めた。
「それじゃ、行ってくる。留守番を任せてしまってすまないな」
たいした面倒でもないのに本当に申し訳なさそうに言う慧音の顔が少しおかしくて妹紅は笑って言った。
「良いって良いって。それより待ってる間暇だから、この家にある本を借りて読んでていいかな」
「あ、ああ。構わない。書斎に本棚があるから好きな本を読んでいるといい」
普段あまり本を読まない妹紅が借りたいといったことが嬉しかったのか、慧音はどこか機嫌よさそうに言った。
この日妹紅は朝早くから釣をしてみた。
一人ではとても食べきれないほど釣れてしまったので、慧音宅にお裾分け兼昼食のたかりに来た。
塩焼きにした鮎はとても美味しかったが2人で食べても食べきれず、残った鮎は夕食にまた食べることにして、妹紅と慧音は居間でのんびりと談笑していた。
しばらくすると、里の長の使いが緊急の会議のために慧音を呼びに来た。
慧音は申し訳なさそうにしつつも出かけていった。
妹紅は慧音を見送ると、早速居間を抜けて書斎に入った。
書斎は相変わらず慧音らしく整然としていた。
奥の角に机が置かれていて、それ以外の四方の壁に沿って本棚が置かれ、自然部屋は本棚によって囲まれる形になっている。
そのせいで実際の部屋の大きさよりも狭く感じるが、もともとモノが少ない上に全てがきちんとしまわれているので息苦しさはない。
本や資料も一度読んだらすぐに棚に戻しているのか、机の上には筆記用具と何かの書類が数枚置いてあるだけだった。
掃除もしっかりしているようで塵一つ落ちていない。
妹紅は自分の家の散らかりようと比較してみてため息が出た。
妹紅はとりあえず本棚の中身を覗いてみた。
机のすぐ横にあった本棚に並ぶ背表紙を上の方から一つ一つ見ていく。
題名から判断する限りでは小難しそうな歴史書ばかりが並んでいる。
そのうちの一冊、上から二段目の右の方にあった黄土色の書物を手にとってみた。
「げっ…」
思わず変な声が出る。
どうやら外の世界の書物らしいが内容がまったくわからない。
著者名を見る限りでは書いた人物は異国人らしい。
翻訳はされているようだが、歴史用語らしきカタカナ語がたくさん出てくる。
時間をかけて知らない単語を類推していけばなんとなくならわからなくもないのだろうが、残念なことに外の世界の歴史学に興味をもてない妹紅としては暗号解読のようなことをしてまで読みたいとは思わなかった。
「慧音はこういう本がわかるのか。まあ、文体もお堅いし慧音好みではありそうだけどさ」
妹紅はその本を下の場所に戻すと、再び本棚の物色に入る。
「ん?なんだろ、これ」
面白くなさそうな本をスルーしながら少しずつ視線を下の段に向けて下げていった。
その視線が下から3段目に達すると、そこから下に並んでいるのが全て同じような書物であることに気づいた。
適当に一番下の段の一冊を選んで、手に取って表紙を眺めてみる。
きちんと製本されているわけではなく、紙の束に2ヶ所穴をあけて紐を通してまとめたもので、妹紅には何かの業務日誌か、もしくは極意書の類に見えた。
表紙には番号が書いてあるだけで特に題名はない。
「この数字、慧音の字か?」
漢数字だけで誰の字か当てるのは難しいが、太めの筆を使ったであろう力強くて達筆な字は慧音のもののような気がする。
だとしたら慧音の日記か何かだろうか。
それなら見るわけにはいかないな、そう思いつつもとりあえず確かめるためにぱらぱらとページをめくってみる。
里の作物の出来具合や人間を襲う妖怪だとかについて書かれている。
内容もそうだし、文字も完璧に慧音の字だと判断できる。
どうやら慧音の日記で間違いなさそうだった。
それがわかるとすぐに妹紅は本棚に戻そうと思った。
「あ…」
本を閉じようとした手が止まる。
慧音の日常を記した記述の中に、1つ気になる単語を見つけてしまった。
「『藤原妹紅』…。私についてのことも書いてあるのか。でもいちいちフルネームで書くなんて、親しくなる前の話なのかな?」
悪いとは思ったが、少し気になったので自分について書かれた部分だけ見てみることにした。
本棚を背もたれ代わりに体を預けて、直に床に座る。
床が思いのほかひんやりと冷たくて、なんとなく他人の日記を覗くことを責められているようで、胸がちくりと痛んだ。
『以前からたまに里の人々の噂話に出てきた「竹林に住む炎を操る少女」らしき人物と、竹林の巡回中に対面できた。白い髪に赤い目、この世のものとは思えない不思議な雰囲気を纏っていたが、間違いなく妖怪ではなく人間のようだった。ぶっきらぼうな印象を受けたが、悪い人間ではなさそうだった。名は藤原妹紅というらしい』
「…初めて会った時の話か…」
妹紅は、自分の長い人生の中では比較的最近のことであるその出来事について、記憶を掘り起こすために目を閉じた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
竹林の中には竹の声が満ちている。
葉と葉が擦れる音、竹が揺れて軋む音、風の通り抜ける音。
そういった竹の音は、まだ暑さの残る夏の終わりの蒸し暑く停滞した空気を涼しげな空気の流れに変えてくれる。
妹紅は夕涼みのつもりで、特にあてもなく竹林を散歩していた。
最近はあまりにも暇を持て余すので、歩く時には意味もなく歩数を数えるのが癖になっている。
家を出て500歩を数えたあたりで後ろから話し掛けられた。
振り返って最初に目に入ったのは、少女の頭に乗った奇妙な形の帽子だった。
形而上的な何かを主張しているようにも見えるし、具体的な何かをモチーフにしているようにも見える。
どちらにしてもかぶるのに適した形状とは思えないし、その少女に似合ってもいない。
こんな帽子が似合う者などそういないだろうが。
「突然すまない。竹林に炎を操る少女がいると聞いたのだが、ひょっとして貴方のことだろうか?」
帽子のインパクトほどではないが、少女自体もそれなりに印象に残る格好をしていた。
完全に白髪の妹紅にとって少女の綺麗な銀髪は少し羨ましかった。
しかしその帽子のあまりに強い存在感と、少女らしからぬ口調のせいで、どうしても喋っているのは帽子であるような錯覚を覚えてしまう。
喋る帽子とそれに支配された少女…。
そんなどうでもいいことを考えているうちに少女がなにを言っていたのか忘れてしまった。
「なんだって?」
「竹林に炎を操る少女がいると聞いたのだが、ひょっとして貴方のことだろうか」
妹紅が聞き返すと、帽子の少女は嫌な顔もせず律儀に一字一句違わず先ほどの言葉を繰り返した。
妹紅は警戒を表に出さないようにしながら、少女を真剣に観察してみた。
輝夜からの刺客はしばらく来ていないから、そろそろかとも思ったが、少女からはそんな雰囲気はないし、もし戦ったとしても苦戦するほどの相手には見えなかった。
「ああ、それは多分私のことで多分間違いないよ」
「そうか…。申し遅れた。私は上白沢慧音。人間の里で守護者の真似事をしている」
妹紅の言葉を聞くと少女は神妙な顔で名乗り、
「先日は里のものが世話になった。本人に代わってお礼を言わせて頂く」
謝罪しているのかと思うくらい深く頭を下げた。
妹紅は狼狽するでも面食らうでもなく、ただ深くお辞儀をしても落ちずに慧音の頭に鎮座し続けている帽子に対しどうでもいい感動を覚えていた。
「世話…?私なんかしたっけ?」
妹紅の言葉に顔を上げた慧音は、覚えていなかったことに残念そうな顔もせずにはきはきと喋った。
「一月ほど前、竹林の中で妖怪に襲われていた里の人間を助けていただいた。本当は助けられた本人が直接礼を言いに来たがっていたのだが、礼を言うために竹林に入ってまた妖怪に襲われたら本末転倒なので私が代わりに来ることにさせてもらった」
「一月前…?……あー。あれのことか。でも別に私は助けようと思って助けたわけじゃない。礼を言われる筋合いはないよ」
実際、妹紅は人間を助けるつもりなどなかった。
妹紅の家を荒らしていた妖怪を追っていたら偶然人を襲っているところだっただけで、人間が助かったのは結果論に過ぎない。
妖怪が人間を襲うのは食べるため、生きるためであって、それを第三者の自分が止める義理も権利もない。
「たとえ助ける気がなかったのだとしても、結果的に彼は助かった。私と彼にとってはどちらでも同じ事だ。私達には貴女に礼を言う義務がある」
妹紅は面倒に思いつつ、なんとなく黙って慧音を眺めてみた。
そのまっすぐな目を見る限りでは何を言っても無駄そうだった。
「…まあ、その義務のあるなしも、私にとってはそれこそどちらでも同じ事だよ。礼を言いたいなら勝手に言えばいい。聞いてるフリくらいはするよ」
「そうか。ありがとう」
慧音は気を悪くした様子もなくこちらの目をまっすぐ見て言った。
その目が余計に妹紅の気を滅入らせる気がして、妹紅はため息をついた。
「重ねてすまないが、名前を教えてもらえないだろうか」
妹紅は相手にわからないようにもう一度ため息をついた。
「藤原妹紅」
「そうか。先ほども名乗ったが私は上白沢慧音。今後もよろしく頼む」
慧音はそう言って深く一礼すると去っていった。
なにをよろしくするのか良くわからなかったが、それを訊くのも考えるのも面倒だったので妹紅も帰ることにした。
そして一歩目を踏み出そうとして何歩目まで数えていたのか忘れてしまったのに気づいた。
もう一度ため息をついて、一歩目から数え始めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
目を開けると苦笑がこぼれた。
「私って最初は慧音に対してすごく失礼な対応してたなぁ」
実際出会った時の妹紅にとって、慧音は「歩数を数えるよりはいくらかマシな暇つぶしの材料」程度の存在でしかなかった。
「あの時はこんなに親しくなるなんて思いもしなかったな。それどころかまた会うことがあるとすら考えなかった」
なんとなく面白くなってしまい、妹紅は他人の日記であることも忘れて日記のページをめくった。
自分についての記述を見つけては、読みながら頭の中にその時の情景を浮かべる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「くたばれ輝夜ぁぁー!」
「朽ちなさい!妹紅!」
誰も足を踏み入れない竹林の最奥に罵倒のための怒声と、勝負のためのものではない殺しのための本気の弾幕が飛び交う。
慈悲も手加減もない弾幕は、その対象と近くの地形をえぐっていく。
憎悪をもって放たれた弾幕は相手の皮膚を焼き、肉をこそぎ、骨を砕いていく。
そして巻き込まれた竹の林は溶け、土は消し飛び、生命の痕跡は根絶やしにされる。
手加減する必要はない。
相手はたとえ殺してもすぐに生き返り明日には歩き回る。
誰にはばかる必要もない。
異常なまでに生長のはやいこの竹林もまた、すぐに芽吹き元通りになる。
流れ弾が、月明かりの下にようやく開いた竹の花を、1つ消し飛ばした。
ズタぼろになって地に伏した相手を睨みながら、妹紅は乱れた呼吸を整えた。
血のにおいがひどい。
自分の流した血と返り血のせいで髪が額に張り付く。
自分の血だけならともかく、相手の血も混ざっているのだと思うと腹のそこからわいてくる不快感が拭えない。
憎んでいる相手を倒したのに達成感も歓喜も沸かず、眉間のしわばかりが増える。
目の前に転がっている死体はじきに復活するか、永遠亭の者が片付けていく。
「家に帰る前に近くの沢で血を流そう。」
妹紅はボロボロの体をふらつく足で運んでいった。
夜の川には宇宙が映っていた。
小さな沢の上にはたくさんの星と月が映り、漆黒よりも深い黒がたたずむ。
洗い落とされた赤い血は宇宙を流れ、溶けて、消えていく。
ふと、眼下を流れるひどく細長い宇宙に映った自分の顔が、妹紅の目にとまった。
満月にあと数歩満たない月を背中に背負った自分は、生気がないどころか虚無以外の概念を見出すことができないような顔をしていた。
胸の中に溜まりつづける泥のように不快な感情を払拭するために、妹紅はもう一度顔を洗ってから家路を歩き出した。
家に着くと、先日の帽子少女が玄関前に腕を組んで佇んでいた。
妹紅は更なる面倒事の予感に、隠しもせずにため息をついた。
「ちょっとした用事があって探していた。…すまないが先程の殺し合い、少し離れた場所から拝見させてもらった」
妹紅は苦虫を噛み潰しすぎて口も開けたくない気分だったので黙って上白沢慧音を睨んだ。
「殺し合っていた相手に聞いた。貴方達はあんなことを定期的に何度も行ってきたのか?」
妹紅は自分の目つきが険しくなるのを感じながらも口を開いた。
「そうだよ。何十年、いや、何百年前から始めたのか、何回殺され何回殺したのか、そんなの思い出せないくらい昔から、ね。でもそれがなにか?あんたには関係ない」
「関係なくない! あんなことを続けていたら心も体も磨り減る一方だぞ!」
慧音は妹紅の口ぶりに憤慨した様子で怒鳴った。
「体はいくら磨り減ろうがすぐに元通りに治る。アイツに話を聞いたなら知ってるだろ?心の方だって何もしないでいるよりはずっとマシだよ。痛みも感じずに脳から少しずつ溶けていくくらいなら、仇敵と殺し合いながら磨り減っていく方がまだ生きてる気がする」
「……今の貴女の顔を見る限りでは、生きているのを実感できているようにはとても見えない…」
妹紅の言葉を聞いた慧音は少しの間言いづらそうに逡巡してから口を開いた。
妹紅はこめかみのあたりがひきつるのがわかった。
先程川に映った自分の顔が脳裏をよぎる。
悲しみとも絶望とも違う、空虚をたたえた顔だった。
自分が人間ではないことを知ってしまった人形のような。
二度と飛べなくなった翼を毛づくろいする燕のような。
「そんなのどうだってあんたには関係ないだろ! 私は私のしたいようにしてるだけだ! あんたにどうこう言われる筋合いはない!」
妹紅は叫びながら玄関口に立つ慧音をどかして、逃げるように自宅に入った。
その日はそのまま布団も敷かずに眠った。
それから数日後の夜、久々に輝夜からの刺客が来た。
紅白のやる気のなさそうな巫女とひたすら胡散臭い妖怪の奇妙な2人組みで、肝試しがどうのとか言いながら襲ってきた。
ただでさえ一対一で戦っても苦戦しそうな相手なのに、交互に一人ずつとは言え2対1では流石の妹紅も敵わず、決着が着いた時妹紅は地に伏せていた。
地を舐めさせられる屈辱に震えながら体が回復するのを待つ。
地面に頬をつけた妹紅の顔の横を、小さな蛙がぴょんぴょんと跳んでいく。
喉の奥から乾いた笑いがこみ上げてきて、ひどく無力な気分になった。
涙こそ出なかったが。
しばらくして、よろよろとだがなんとか立ち上がる。
髪に結んでいたリボンは全て吹き飛び、服はあちこち破けていた。
ため息をつく。
悪態でもつけば悔しさと無力感が紛れるかとも思ったが、眉間のしわが増えるだけだった。
腹のそこからこみ上げてくる虚無感から逃れるような思いで顔を上げると、今最も顔を合わせたくない者が視界に入る。
竹林を越えて白んできた空を背景に、上白沢慧音がふらふらと飛んできた。
「無事…・・・ではないか…・・・。すまない。奴らをあなたに会わせないように撃退しようと思ったのだが、逆にやられてしまってこのざまだ。すまない・・・・・・」
肩で息をしながら謝る慧音の姿は散々だった。
綺麗だった銀髪は乱れ、ロングスカートの裾はボロボロになり、いつも頭の上に載せていた帽子はなくなっていた。
「別に無事も何もないよ。どうせ無事じゃなくたってちょっと時間が経てば生き返る。たとえどんなひどい殺され方をしても、どれだけ悔しさに打ちひしがれることになろうと、どうせ死なないんだ。無事だろうと無事じゃなかろうと同じ事さ。あんたが気にしなきゃいけないようなことじゃない」
妹紅は破れて中途半端にぶら下がっている袖を肩からちぎって、ため息をつきながら捨てた。
「同じなはずがない! 今のあなたの顔を見ればわかる! それに…人間を守るのが私の務めだ!」
妹紅の言葉が余程聞き捨てならなかったのか、慧音は火傷と傷でボロボロの腕を振り上げて怒鳴った。
妹紅は心底げんなりしながら言う。
「私は蓬莱人だ。あんたも知ってるだろ? 何回殺されたって生き返る化け物だ。あんたが守る義務はないし、その必要もないよ」
「死ななかろうが生き返ろうが人間は人間だ! 私にはあなたを守る義務と、その意志がある!たとえあなたに必要ないといわれようと、どんなに邪険にされようと、絶対に守る!私の力はそのためにあるんだ!」
それは本来なら口答えしてはいけない言葉だったのかもしれない。
1000年以上も前から化け物扱いされてきた彼女にとって、その言葉はもっとも望んでいた言葉だったはずだった。
・・・・・・妹紅は唇をかみ締めた。
頭に浮かんだのは名前も覚えていない一人の青年。
帰る場所も目指すべきものも失ってさまよっていた妹紅を、理由も聞かずに暖かく迎えてくれた人だった。
彼が自分を化け物と呼んだ時、優しかったはずのその双眸がたたえていたのは恐怖と嫌悪だった。
「うる、さい・・・」
彼のまなざしを思い出した時には、言葉は勝手に滑り出していた。
「何度言わせるんだよ!! 私がどんなに殺されようとあんたには関係ないだろ! 大して強くもないくせに、偉そうに守るなんて言うな!」
「・・・・・・」
考えるより先に出てきてしまった言葉だったが、今の妹紅に相手を気遣う気などさらさら起きなかった。
「帰れよ!帰れ!」
右手に燈した焔の玉を、押し黙ってしまった慧音の足元に投げつける。
俯いたまま顔を上げずに飛び去っていった慧音の悲しそうな表情は、妹紅に見えることはなかった。
それからさらに数日後の夕方、妹紅が自宅の囲炉裏で夕食のために魚を焼いていると慧音が訪れた。
もう少しでいい具合に焼けてきそうなところで玄関の引き戸が開いて、妹紅はため息をついた。
「あんたって家主に断りもなく人の家の扉を勝手に開ける奴だったんだね」
魚の具合を見ながら、玄関口に立つ慧音を見もせずに妹紅が皮肉を言うと、慧音は苦笑した。
「居留守を使って10分間もノックを続けさせた者の言うセリフじゃないな。それに窓から魚を焼く煙が出ていたら家主が在宅なことはわかりきっているのだから不法侵入にもならないだろう。ひょっとしたら火事の煙かもしれないしな」
そのセリフにはまったく反応せずに妹紅は魚の焼き具合を見つづける。
「・・・あんたも懲りないな。完璧に居留守を使われてるのがわかっててまでいちいち訪ねてきて何の用?」
「様子を見に来たんだ。もう大丈夫なようだな。よかった」
全く翳りの感じられない慧音のセリフに腹のそこからため息を吐く。
もはや皮肉を言う気にもなれなかった。
「・・・・・・なんであんたはそんなに私、いや、人間に構うんだよ」
人間なんて矛盾だらけの不完全な生き物だ。
そんなもの助けたって何の価値もない。
「人間が好きだから、だろうな」
「それはなんの答えにもなってないよ。じゃあどうして人間が好きなんだ?」
「うーん。そうだな・・・・・・ひょっとしたら先程の人間が好きだからというのは間違いかもしれない」
そこで初めて妹紅は慧音を見た。
玄関口に立つ慧音の髪は、竹林の間から漏れてくる夕暮れの光のせいでオレンジ色に光っていた。
「多分・・・全て私の自己満足なんだろうな。一昔前ならともかく、今の幻想卿において人間が必ずしも私の助けを必要としているわけではないし、私にできることだって・・・たかが知れている。それは自分でもわかっているつもりだ。それでも、私は人間の守護者でありつづけるよ。自己満足でしかないとしても、1つでも多く彼らの笑顔を守れるなら、私は偽善者になれる」
「・・・・・・」
「でもきっとそれもすべて私自身のためなんだと思う。私は自分で自分の存在意義を証明できるほど立派な人物じゃない。だから私は人を助けるんだ。誰かに助けた礼を言われた時、誰かの顔に笑顔を取り戻す手助けができた時、誰かに必要とされた時、私は自分の生きる意味を、存在価値を感じることができるから」
「・・・・・・・・・そうか・・・」
口調とは裏腹に迷いなく語る慧音の決然とした表情がまぶしくて、妹紅は視線を元に戻した。
戻した視線の先には焼きすぎて焦げた魚があった。
串に刺さってこちらを見る黒焦げの魚の顔を黙ってみていたら、数日前の川に映った自分の顔を思い出した。
その日の夜。
慧音が帰って一人で夕食を食べた後、すぐに寝てしまおうと思ったのに、なんとなくもやもやした気分が晴れずにいつまでも寝付けずに散歩に出た。
竹林の狭い空を見上げながら真夜中の涼しい風に当たっても、頭の中を巡るのは夕暮れ時の慧音の言葉。
「存在意義・・・か」
その言葉に真っ先に頭に浮かぶのは輝夜との殺し合い。
輝夜と弾幕を撃ち合っているときはいつも生きていることを強く感じられる。
敬愛していた父を辱めた輝夜に復讐することこそが、自分の存在意義だと思っていたこともあった。
それなのに今では何度輝夜を殺しても、どうしようもないほどの虚無感ばかりが胸に溜まっていく。
何のために生きているのか。
何のために不死の体になったのか。
自分の頭の中にいくらでも湧いて出てくるその疑問。
最近はそれに気づいてないふりをすることばかり考えている。
考え事をしていると、近くから少女の悲鳴が聞こえてくる。
竹林に深く入り込みすぎてしまって妖怪にでも襲われているのだろう。
自分には関係ないし助ける義理もない。
反射的にそう考えて踵を返そうとしたその時、先程の声が泣き声をあげるのが聞こえた。
「お母さん!! お母さぁぁん!!」
その声が妹紅の気を変えさせたわけではなかった。
その言葉が刺激したのは妹紅の心ではなく記憶。
妹紅の頭の中に再生された映像、その中で泣き叫ぶ少女。
まだ髪が黒かった頃の妹紅。
不死の身になったことを気味悪がった父親に勘当を言い渡された時の絶望。
優しかった母も父の決定には逆らえず、朝焼けの空の下、別れの場で2人抱き合って流した涙。
帰るべき場所を失った痛みが心の中によみがえる。
「ちぃっ!」
舌打ちをしながら悲鳴の聞こえた方向へと高速低空で飛ぶ。
着いた先には肩口に大きな傷を負いながらも娘をかばって膝で何とか立っている母親と、それに対峙する巨大な狼の妖怪がいた。
「あなたは・・・・・・」
駆けつけた妹紅に驚いた顔で呟いた母親を無視して、妹紅は妖怪に焔球を投げつける。
避けようとしたようだが動き出しが遅すぎて直撃した。
山犬の妖怪のくせにやたらと動きが鈍い。
よく見たらその妖怪もひどい有様だった。
ガリガリに痩せて、肋骨や足の骨の様子が丸わかりで、そのくせ目だけはぎらぎらしている。
その様子にまたも川に映った自分の顔が脳裏をちらつく。
――こいつも私と同じで、欲しいものがなんだったのかすら、もうわからなくなってるのかな
「っ!! お母さん!!」
背後からの少女の悲鳴に、場違いな思考から我に帰る。
少女のいる方を振り返って見ると、母親が意識を失い倒れていた。
助けてくれそうな者が現れたことで安心して緊張の糸が緩んだのだろう。
しかしこれ以上時間がかかると命に関わる。
「ごめんな」
小さくそう呟いて、せめて痛みを感じずにすむように妖怪を最大火力で焼き尽くした。
不死鳥の炎に舐められ骨も残らず燃え尽きた妖怪のいた辺りを、鎮魂のつもりで一瞥してから、急いで少女の方に向き直った。
少女は未だに泣きながら倒れた母親にすがっている。
母親はまだ生きているようだが失血がひどい。
少女は顔を上げると妹紅の服の裾を掴んだ。
「お願い! お母さんを、お母さんを助けて!!」
――やれやれ、私はいったい何をしてるんだか・・・・・・
そんな心の表層が発する冷めた声とは裏腹に、心の奥では自分のすべきこと、したいことはわかっていた。
妹紅は少女の手を優しく握って、少女の目をまっすぐ見た。
「大丈夫だ。お母さんは絶対助けてやる。ちょっと手当てをして休めばすぐ元気になるはずだ。だから泣くな。お前が泣いてるとお母さんが心配してしっかり休めないんだ。わかるな?」
少女は必死で涙をこらえながらうなずいた。
「よし。いい子だ」
妹紅は少女の頭をなでてやりながら、ぐったりしている母親の体を右肩に担いだ。
「これからお母さんをお医者さんのところに連れて行く。すごいお医者さんだから絶対にお母さんは元気になるよ。だけどちょっと急ぐからしっかりつかまってな。ぎゅっと目を瞑ってればすぐだから」
そう言って空いている方の手で少女を抱えあげると、妹紅は全力で永遠亭を目指した。
永遠亭に向かう間、少女はずっと妹紅の服の袖を強く握り締めていた。
服を通して感じる小さな手の温もりを感じながら、妹紅はなんとなく慧音の言っていたことを思い出した。
流石に明らかなけが人を背負ってすごい勢いで飛び込めば、永遠亭にも攻撃してくるような者はいなかった。
鈴仙とてゐがてきぱきと永琳の部屋まで通してくれる。
永琳の部屋には輝夜もいたが、流石に邪魔する気はないのか、黙ってまわりのやりとりを眺めていた。
段々息の浅くなってきた母親の様子を見せると、永琳は少し口の端に笑みを浮かべた。
「なるほどね。久々に大仕事になりそうだわ」
その自信にあふれた笑顔を見て、妹紅はなんとなく母親はきっと助かると思った。
「うどんげ、手術の準備をして頂戴」
「はい、師匠」
きびきびと母親をストレッチャーで別室に運んでいく鈴仙を見送ってから、妹紅の後ろに隠れるようにして黙って見ていた少女が、永琳に向けて口を開いた。
「ねえ、お母さんは治るの?」
「ええ。絶対に治るわ。だから貴方は安心して待ってなさい」
「う、うん・・・・・・」
永琳のやわらかい微笑みに幾分増しになったものの、それでも少女は不安なようだった。
「てゐ、この子の面倒を見てあげて。姫様もお願いします」
「わかったわ」
それまで黙って座っていた輝夜は立ち上がると、屈んで少女と目線の高さをあわせて話し掛けた。
「さ、お母さんが元気になるまでちょっと時間がかかるから、それまで向こうでお姉さん達と遊んでましょ?」
そう言って少女の手を取る。
その様子を黙ってみていた妹紅が永琳に話し掛ける。
「それじゃ、もう心配ないね。後のことは任せたよ」
「そうね。お疲れ様だったわ」
その会話が聞こえていたらしく、少女が妹紅の服の裾を引っ張って、泣きそうな顔で妹紅を見上げた。
「・・・お姉ちゃん、帰っちゃうの・・・・・・?」
「うん。お母さんはお医者さんが見てくれるし、もう大丈夫でしょ?」
「う、うん・・・・・・」
少女は俯いて答えた。
「なに言ってるのよ? あなたもここで一緒に待つんでしょ」
唐突に輝夜が強い口調で口をはさんできた。
「だってけが人は届けたし、この子もここなら安全だし、私がいつまでもいる必要はないだろ」
輝夜はぐっと妹紅に顔を近づけると小声で囁いた。
「あなた何にもわかってないのね?この子はあなたがいないと不安なのよ。あなたにいて欲しいの。さっきから私やイナバ達のこともちょっと怖がっているみたいだし。なによりお母さんのことが不安で不安で仕方ないのよ。今この子にはあなたが必要なの。あなたを頼っているのよ。だからこの子に余計な不安を与えたくなかったら、いいから残って一緒にこの子の面倒見なさい」
「なっ・・・・・・」
輝夜の有無を言わさぬ喋り方に気圧されて何も言えないでいるうちに、輝夜は少女に向き直っていた。
「良かったわね。このお姉さんお母さんが元気になるまで一緒に待っててくれるみたいよ?」
「本当!?」
輝夜の言葉を聞いたとたんに少女の顔が少女の顔が明るくなったのを見て、妹紅は観念した。
「・・・・・・うん。やっぱりそうするよ」
嬉しそうにしている少女の横で、にやにやしながらこっちを見ている輝夜が少し癪な気もしたが、それは見なかったことにしておいた。
「さ、何して遊ぼうか?」
「うーん。・・・お絵かき!」
「いいわね、元気になったお母さんが見てびっくりするような素敵な絵を描きましょう。イナバ、絵を描くための道具持ってきて」
「はーい」
「お姉さんは絵描くのうまいわよ~?」
「何言ってんの。輝夜の書く絵はみんなへのへのもへじじゃん」
永琳は楽しそうに話しながら輝夜の自室に向かう4人を微笑ましげに見送ってから、自分も手術の準備を始めた。
「・・・寝ちゃったわね」
「ああ・・・」
少女は輝夜の膝枕で寝ている。
右手に妹紅の描いた絵を掴んで。
永遠亭の庭先で楽しそうに遊ぶ少女と母親とてゐ、ついでだから輝夜も端の方に描いてやった。
それを見た少女は目を丸くして喜んで、輝夜の隣に妹紅を描き足してくれた。
その絵を目を細めて眺めてから、妹紅は立ち上がった。
「それじゃ、私は行くよ」
「そうね。もう大丈夫でしょ」
「後のことは頼んだよ」
「ええ。いちいち私によろしく言わなくても永琳が上手くやるわ」
「そうだな。それじゃ、また・・・」
「そうね。また」
妹紅が部屋を去るのを見届けると、輝夜はほっと息を1つついてから口を開いた。
「イナバ、人間の里からあのワーハクタクを呼んで来なさい」
それから一週間後の昼下がり。
竹林の妹紅の自宅。
妹紅が遅めの昼食の片付けを行っていると、玄関がノックされた。
誰が来るのか大体予想はついたので、作業をしながら許可を出すと、玄関を開けたのはやはり上白沢慧音だった。
「なんの用?」
「あなたにお礼を言いたくてな。それと――」
「お姉ちゃん!!」
慧音の脇を抜けて妹紅の家に飛び込んできた予想外の客に、つこうとしたため息を飲み込んだらむせた。
「な、な・・・・・・」
「あのね、この間お姉ちゃんがとっても優しくしてくれたんだって話したら、お母さんと慧音様が、お世話になった人にはおれいを言わなきゃダメだって言ったの!だからおれいを言いに来たの!どうもありがとうお姉ちゃん!」
不意打ち気味に胸に飛び込んできた少女に驚いて何も言えずにいると、慧音がくすくすと笑いながら説明した。
「危ないから私だけで来ると言ったのだが、2人とも一緒に行くと言って聞かなくてな」
「2人・・・・・・?」
妹紅の疑問に答えるように慧音が道を譲ると、少女の母親が入ってきた。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
「・・・・・・。あー、もう動いて大丈夫なの?」
「ええ。先生がもう大丈夫だろうって。あなたが迅速に送り届けてくれたおかげだと仰ってました」
「そっか・・・・・・」
なんとなく気恥ずかしくて顔を下に向けると、満面の笑みの少女と目があった。
「よかったな」
「うん!」
頭をなでてやると子猫のように気持ちよさそうに笑った。
「だから今度お母さんも一緒にみんなでまた遊ぼうね!あの絵みたいに!ウサギのお姉さんと髪の黒いお姉さんも一緒に!」
「あー。そ、そうだな・・・・・・」
妹紅は軽く顔をそむけて苦笑いするしかなかった。
「あまり長居しても迷惑だろう。それに暗くなったら危ない。私たちはこのあたりでお暇しよう」
慧音が窓に差し込む日の長さの具合を見ながら言った。
「はーい。お姉ちゃん、またねー」
親子が先に家を出ると、慧音は改めて妹紅に向き直った。
「改めて言うが、本当にありがとう。あの2人の笑顔が今あるのはあなたのおかげだ」
「・・・・・・ちょっとした気まぐれで助けただけだよ」
「だが今回は助けるつもりで助けてくれたのだろう?」
「・・・・・・」
「ありがとう」
慧音のしてやったりな表情は少し癪な気もしたが、不快ではなかった。
「それでは私も行くよ。2人を待たせてしまっては悪いしな」
戸口から出て行こうとする慧音の背中。
かなり躊躇って、でも慧音が完全に外に出てしまう前に妹紅はなんとか口を開いた。
「上白沢慧音・・・・・・」
「うん?」
振り返った慧音は少し不思議そうな顔をしていた。
これを言うのならしっかり相手の目を見て言わなければいけない。
慧音の目を覗き込むと、軽い疑問の色と、やはりまっすぐな光がそこにあった。
その光がほんの少し妹紅の背中を押してくれた。
「あー、その・・・・・・・・・・・・ありがとう」
覚悟を決めたはずなのに、ここまで言ってしまうと妙に気恥ずかしくて、視線は虚空をさまよう。
なんとなく慧音の頭の上の帽子にでも話し掛けているような気分で続ける。
「あんたが言ってた存在意義の話・・・・・・私の存在意義はまだわからないけど、あんたの言ってたこと、なんとなくだけど少しはわかったような気がする・・・・・・。だから・・・・・・ありがとう」
言われた慧音は少し驚いたような顔をして、すぐに微笑んだ。
「別に礼には及ばないさ。人間の為に何かをするのが私の仕事だ。・・・・・・だけど、どういたしまして」
子供のように無邪気で、嬉しそうな笑顔だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
慧音は家路を急いでいた。
今年の収穫祭についての会議ですっかり遅くなってしまった。
家では妹紅が腹をすかして待っているだろう。
無論その程度で怒って帰ってしまうほど妹紅も子供ではないが、せっかく来てくれた大切な友人を待たせては申し訳ない。
――大切な友人・・・・・・か。いつからだろう。妹紅が自分を友人として認めてくれたのは・・・・・・
半月の照らす畦道を歩いていたら不意にそんなことを考えた。
最初の頃は敵意さえ見せていて、決して名前では呼んでくれなかった。
それがいつからか上白沢慧音と呼んでくれるようになり、そのうち慧音になった。
呼び方が氏名呼び捨てから慧音に変わった時、本人は「長くて呼びづらいから」と言っていた が、慧音は素直に嬉しかった。
きっと友人になったのはその頃のことだと思う。
人間を保護する立場の慧音にとって、彼らは厳密な意味では友人ではない。
慧音にとって人間達は子供のような存在に近い。
その慧音にとって、妹紅はひょっとしたら唯一の友人と呼べるかもしれない。
気を許せて、気兼ねなく頼みごとや相談のできる唯一の友人・・・・・・。
彼女は自分の存在意義を、不死の身になった本当の理由を見つけることが出来たのだろうか。
わからない。
いつか見つかるかどうかさえも。
だが時間はいくらでもある。
そして見つかるまでは探すこと自体が生きる目的になる。
慧音は、それが見つかるまで妹紅のことを見守っていたいと思う。
出来ることなら一緒に探して行きたい。
それはきっと妹紅が人間だからとか、自分の存在意義のためとかじゃなく、大切な友人だから。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
慧音の家。
大量の本に囲まれた書斎に静かな寝息が響く。
本棚に背中をもたれ、慧音の日記を開いたまま、妹紅は夢の世界にいた。
規則的な寝息が一度止まり、妹紅の口がゆっくり開く。
「けいね・・・・・・いつもありがとね・・・・・・」
それは気恥ずかしくて夢の中でしか言えない、心からの感謝の言葉。
梅雨の蒸し暑さがまだ少し残る初夏の昼下がりの中を、心地よい涼しい風が流れる。
玄関口に立つ慧音の髪がさらさらと風に揺れる。
日差しを浴びて光る慧音の髪がまぶしくて、妹紅は少し目を細めた。
「それじゃ、行ってくる。留守番を任せてしまってすまないな」
たいした面倒でもないのに本当に申し訳なさそうに言う慧音の顔が少しおかしくて妹紅は笑って言った。
「良いって良いって。それより待ってる間暇だから、この家にある本を借りて読んでていいかな」
「あ、ああ。構わない。書斎に本棚があるから好きな本を読んでいるといい」
普段あまり本を読まない妹紅が借りたいといったことが嬉しかったのか、慧音はどこか機嫌よさそうに言った。
この日妹紅は朝早くから釣をしてみた。
一人ではとても食べきれないほど釣れてしまったので、慧音宅にお裾分け兼昼食のたかりに来た。
塩焼きにした鮎はとても美味しかったが2人で食べても食べきれず、残った鮎は夕食にまた食べることにして、妹紅と慧音は居間でのんびりと談笑していた。
しばらくすると、里の長の使いが緊急の会議のために慧音を呼びに来た。
慧音は申し訳なさそうにしつつも出かけていった。
妹紅は慧音を見送ると、早速居間を抜けて書斎に入った。
書斎は相変わらず慧音らしく整然としていた。
奥の角に机が置かれていて、それ以外の四方の壁に沿って本棚が置かれ、自然部屋は本棚によって囲まれる形になっている。
そのせいで実際の部屋の大きさよりも狭く感じるが、もともとモノが少ない上に全てがきちんとしまわれているので息苦しさはない。
本や資料も一度読んだらすぐに棚に戻しているのか、机の上には筆記用具と何かの書類が数枚置いてあるだけだった。
掃除もしっかりしているようで塵一つ落ちていない。
妹紅は自分の家の散らかりようと比較してみてため息が出た。
妹紅はとりあえず本棚の中身を覗いてみた。
机のすぐ横にあった本棚に並ぶ背表紙を上の方から一つ一つ見ていく。
題名から判断する限りでは小難しそうな歴史書ばかりが並んでいる。
そのうちの一冊、上から二段目の右の方にあった黄土色の書物を手にとってみた。
「げっ…」
思わず変な声が出る。
どうやら外の世界の書物らしいが内容がまったくわからない。
著者名を見る限りでは書いた人物は異国人らしい。
翻訳はされているようだが、歴史用語らしきカタカナ語がたくさん出てくる。
時間をかけて知らない単語を類推していけばなんとなくならわからなくもないのだろうが、残念なことに外の世界の歴史学に興味をもてない妹紅としては暗号解読のようなことをしてまで読みたいとは思わなかった。
「慧音はこういう本がわかるのか。まあ、文体もお堅いし慧音好みではありそうだけどさ」
妹紅はその本を下の場所に戻すと、再び本棚の物色に入る。
「ん?なんだろ、これ」
面白くなさそうな本をスルーしながら少しずつ視線を下の段に向けて下げていった。
その視線が下から3段目に達すると、そこから下に並んでいるのが全て同じような書物であることに気づいた。
適当に一番下の段の一冊を選んで、手に取って表紙を眺めてみる。
きちんと製本されているわけではなく、紙の束に2ヶ所穴をあけて紐を通してまとめたもので、妹紅には何かの業務日誌か、もしくは極意書の類に見えた。
表紙には番号が書いてあるだけで特に題名はない。
「この数字、慧音の字か?」
漢数字だけで誰の字か当てるのは難しいが、太めの筆を使ったであろう力強くて達筆な字は慧音のもののような気がする。
だとしたら慧音の日記か何かだろうか。
それなら見るわけにはいかないな、そう思いつつもとりあえず確かめるためにぱらぱらとページをめくってみる。
里の作物の出来具合や人間を襲う妖怪だとかについて書かれている。
内容もそうだし、文字も完璧に慧音の字だと判断できる。
どうやら慧音の日記で間違いなさそうだった。
それがわかるとすぐに妹紅は本棚に戻そうと思った。
「あ…」
本を閉じようとした手が止まる。
慧音の日常を記した記述の中に、1つ気になる単語を見つけてしまった。
「『藤原妹紅』…。私についてのことも書いてあるのか。でもいちいちフルネームで書くなんて、親しくなる前の話なのかな?」
悪いとは思ったが、少し気になったので自分について書かれた部分だけ見てみることにした。
本棚を背もたれ代わりに体を預けて、直に床に座る。
床が思いのほかひんやりと冷たくて、なんとなく他人の日記を覗くことを責められているようで、胸がちくりと痛んだ。
『以前からたまに里の人々の噂話に出てきた「竹林に住む炎を操る少女」らしき人物と、竹林の巡回中に対面できた。白い髪に赤い目、この世のものとは思えない不思議な雰囲気を纏っていたが、間違いなく妖怪ではなく人間のようだった。ぶっきらぼうな印象を受けたが、悪い人間ではなさそうだった。名は藤原妹紅というらしい』
「…初めて会った時の話か…」
妹紅は、自分の長い人生の中では比較的最近のことであるその出来事について、記憶を掘り起こすために目を閉じた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
竹林の中には竹の声が満ちている。
葉と葉が擦れる音、竹が揺れて軋む音、風の通り抜ける音。
そういった竹の音は、まだ暑さの残る夏の終わりの蒸し暑く停滞した空気を涼しげな空気の流れに変えてくれる。
妹紅は夕涼みのつもりで、特にあてもなく竹林を散歩していた。
最近はあまりにも暇を持て余すので、歩く時には意味もなく歩数を数えるのが癖になっている。
家を出て500歩を数えたあたりで後ろから話し掛けられた。
振り返って最初に目に入ったのは、少女の頭に乗った奇妙な形の帽子だった。
形而上的な何かを主張しているようにも見えるし、具体的な何かをモチーフにしているようにも見える。
どちらにしてもかぶるのに適した形状とは思えないし、その少女に似合ってもいない。
こんな帽子が似合う者などそういないだろうが。
「突然すまない。竹林に炎を操る少女がいると聞いたのだが、ひょっとして貴方のことだろうか?」
帽子のインパクトほどではないが、少女自体もそれなりに印象に残る格好をしていた。
完全に白髪の妹紅にとって少女の綺麗な銀髪は少し羨ましかった。
しかしその帽子のあまりに強い存在感と、少女らしからぬ口調のせいで、どうしても喋っているのは帽子であるような錯覚を覚えてしまう。
喋る帽子とそれに支配された少女…。
そんなどうでもいいことを考えているうちに少女がなにを言っていたのか忘れてしまった。
「なんだって?」
「竹林に炎を操る少女がいると聞いたのだが、ひょっとして貴方のことだろうか」
妹紅が聞き返すと、帽子の少女は嫌な顔もせず律儀に一字一句違わず先ほどの言葉を繰り返した。
妹紅は警戒を表に出さないようにしながら、少女を真剣に観察してみた。
輝夜からの刺客はしばらく来ていないから、そろそろかとも思ったが、少女からはそんな雰囲気はないし、もし戦ったとしても苦戦するほどの相手には見えなかった。
「ああ、それは多分私のことで多分間違いないよ」
「そうか…。申し遅れた。私は上白沢慧音。人間の里で守護者の真似事をしている」
妹紅の言葉を聞くと少女は神妙な顔で名乗り、
「先日は里のものが世話になった。本人に代わってお礼を言わせて頂く」
謝罪しているのかと思うくらい深く頭を下げた。
妹紅は狼狽するでも面食らうでもなく、ただ深くお辞儀をしても落ちずに慧音の頭に鎮座し続けている帽子に対しどうでもいい感動を覚えていた。
「世話…?私なんかしたっけ?」
妹紅の言葉に顔を上げた慧音は、覚えていなかったことに残念そうな顔もせずにはきはきと喋った。
「一月ほど前、竹林の中で妖怪に襲われていた里の人間を助けていただいた。本当は助けられた本人が直接礼を言いに来たがっていたのだが、礼を言うために竹林に入ってまた妖怪に襲われたら本末転倒なので私が代わりに来ることにさせてもらった」
「一月前…?……あー。あれのことか。でも別に私は助けようと思って助けたわけじゃない。礼を言われる筋合いはないよ」
実際、妹紅は人間を助けるつもりなどなかった。
妹紅の家を荒らしていた妖怪を追っていたら偶然人を襲っているところだっただけで、人間が助かったのは結果論に過ぎない。
妖怪が人間を襲うのは食べるため、生きるためであって、それを第三者の自分が止める義理も権利もない。
「たとえ助ける気がなかったのだとしても、結果的に彼は助かった。私と彼にとってはどちらでも同じ事だ。私達には貴女に礼を言う義務がある」
妹紅は面倒に思いつつ、なんとなく黙って慧音を眺めてみた。
そのまっすぐな目を見る限りでは何を言っても無駄そうだった。
「…まあ、その義務のあるなしも、私にとってはそれこそどちらでも同じ事だよ。礼を言いたいなら勝手に言えばいい。聞いてるフリくらいはするよ」
「そうか。ありがとう」
慧音は気を悪くした様子もなくこちらの目をまっすぐ見て言った。
その目が余計に妹紅の気を滅入らせる気がして、妹紅はため息をついた。
「重ねてすまないが、名前を教えてもらえないだろうか」
妹紅は相手にわからないようにもう一度ため息をついた。
「藤原妹紅」
「そうか。先ほども名乗ったが私は上白沢慧音。今後もよろしく頼む」
慧音はそう言って深く一礼すると去っていった。
なにをよろしくするのか良くわからなかったが、それを訊くのも考えるのも面倒だったので妹紅も帰ることにした。
そして一歩目を踏み出そうとして何歩目まで数えていたのか忘れてしまったのに気づいた。
もう一度ため息をついて、一歩目から数え始めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
目を開けると苦笑がこぼれた。
「私って最初は慧音に対してすごく失礼な対応してたなぁ」
実際出会った時の妹紅にとって、慧音は「歩数を数えるよりはいくらかマシな暇つぶしの材料」程度の存在でしかなかった。
「あの時はこんなに親しくなるなんて思いもしなかったな。それどころかまた会うことがあるとすら考えなかった」
なんとなく面白くなってしまい、妹紅は他人の日記であることも忘れて日記のページをめくった。
自分についての記述を見つけては、読みながら頭の中にその時の情景を浮かべる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「くたばれ輝夜ぁぁー!」
「朽ちなさい!妹紅!」
誰も足を踏み入れない竹林の最奥に罵倒のための怒声と、勝負のためのものではない殺しのための本気の弾幕が飛び交う。
慈悲も手加減もない弾幕は、その対象と近くの地形をえぐっていく。
憎悪をもって放たれた弾幕は相手の皮膚を焼き、肉をこそぎ、骨を砕いていく。
そして巻き込まれた竹の林は溶け、土は消し飛び、生命の痕跡は根絶やしにされる。
手加減する必要はない。
相手はたとえ殺してもすぐに生き返り明日には歩き回る。
誰にはばかる必要もない。
異常なまでに生長のはやいこの竹林もまた、すぐに芽吹き元通りになる。
流れ弾が、月明かりの下にようやく開いた竹の花を、1つ消し飛ばした。
ズタぼろになって地に伏した相手を睨みながら、妹紅は乱れた呼吸を整えた。
血のにおいがひどい。
自分の流した血と返り血のせいで髪が額に張り付く。
自分の血だけならともかく、相手の血も混ざっているのだと思うと腹のそこからわいてくる不快感が拭えない。
憎んでいる相手を倒したのに達成感も歓喜も沸かず、眉間のしわばかりが増える。
目の前に転がっている死体はじきに復活するか、永遠亭の者が片付けていく。
「家に帰る前に近くの沢で血を流そう。」
妹紅はボロボロの体をふらつく足で運んでいった。
夜の川には宇宙が映っていた。
小さな沢の上にはたくさんの星と月が映り、漆黒よりも深い黒がたたずむ。
洗い落とされた赤い血は宇宙を流れ、溶けて、消えていく。
ふと、眼下を流れるひどく細長い宇宙に映った自分の顔が、妹紅の目にとまった。
満月にあと数歩満たない月を背中に背負った自分は、生気がないどころか虚無以外の概念を見出すことができないような顔をしていた。
胸の中に溜まりつづける泥のように不快な感情を払拭するために、妹紅はもう一度顔を洗ってから家路を歩き出した。
家に着くと、先日の帽子少女が玄関前に腕を組んで佇んでいた。
妹紅は更なる面倒事の予感に、隠しもせずにため息をついた。
「ちょっとした用事があって探していた。…すまないが先程の殺し合い、少し離れた場所から拝見させてもらった」
妹紅は苦虫を噛み潰しすぎて口も開けたくない気分だったので黙って上白沢慧音を睨んだ。
「殺し合っていた相手に聞いた。貴方達はあんなことを定期的に何度も行ってきたのか?」
妹紅は自分の目つきが険しくなるのを感じながらも口を開いた。
「そうだよ。何十年、いや、何百年前から始めたのか、何回殺され何回殺したのか、そんなの思い出せないくらい昔から、ね。でもそれがなにか?あんたには関係ない」
「関係なくない! あんなことを続けていたら心も体も磨り減る一方だぞ!」
慧音は妹紅の口ぶりに憤慨した様子で怒鳴った。
「体はいくら磨り減ろうがすぐに元通りに治る。アイツに話を聞いたなら知ってるだろ?心の方だって何もしないでいるよりはずっとマシだよ。痛みも感じずに脳から少しずつ溶けていくくらいなら、仇敵と殺し合いながら磨り減っていく方がまだ生きてる気がする」
「……今の貴女の顔を見る限りでは、生きているのを実感できているようにはとても見えない…」
妹紅の言葉を聞いた慧音は少しの間言いづらそうに逡巡してから口を開いた。
妹紅はこめかみのあたりがひきつるのがわかった。
先程川に映った自分の顔が脳裏をよぎる。
悲しみとも絶望とも違う、空虚をたたえた顔だった。
自分が人間ではないことを知ってしまった人形のような。
二度と飛べなくなった翼を毛づくろいする燕のような。
「そんなのどうだってあんたには関係ないだろ! 私は私のしたいようにしてるだけだ! あんたにどうこう言われる筋合いはない!」
妹紅は叫びながら玄関口に立つ慧音をどかして、逃げるように自宅に入った。
その日はそのまま布団も敷かずに眠った。
それから数日後の夜、久々に輝夜からの刺客が来た。
紅白のやる気のなさそうな巫女とひたすら胡散臭い妖怪の奇妙な2人組みで、肝試しがどうのとか言いながら襲ってきた。
ただでさえ一対一で戦っても苦戦しそうな相手なのに、交互に一人ずつとは言え2対1では流石の妹紅も敵わず、決着が着いた時妹紅は地に伏せていた。
地を舐めさせられる屈辱に震えながら体が回復するのを待つ。
地面に頬をつけた妹紅の顔の横を、小さな蛙がぴょんぴょんと跳んでいく。
喉の奥から乾いた笑いがこみ上げてきて、ひどく無力な気分になった。
涙こそ出なかったが。
しばらくして、よろよろとだがなんとか立ち上がる。
髪に結んでいたリボンは全て吹き飛び、服はあちこち破けていた。
ため息をつく。
悪態でもつけば悔しさと無力感が紛れるかとも思ったが、眉間のしわが増えるだけだった。
腹のそこからこみ上げてくる虚無感から逃れるような思いで顔を上げると、今最も顔を合わせたくない者が視界に入る。
竹林を越えて白んできた空を背景に、上白沢慧音がふらふらと飛んできた。
「無事…・・・ではないか…・・・。すまない。奴らをあなたに会わせないように撃退しようと思ったのだが、逆にやられてしまってこのざまだ。すまない・・・・・・」
肩で息をしながら謝る慧音の姿は散々だった。
綺麗だった銀髪は乱れ、ロングスカートの裾はボロボロになり、いつも頭の上に載せていた帽子はなくなっていた。
「別に無事も何もないよ。どうせ無事じゃなくたってちょっと時間が経てば生き返る。たとえどんなひどい殺され方をしても、どれだけ悔しさに打ちひしがれることになろうと、どうせ死なないんだ。無事だろうと無事じゃなかろうと同じ事さ。あんたが気にしなきゃいけないようなことじゃない」
妹紅は破れて中途半端にぶら下がっている袖を肩からちぎって、ため息をつきながら捨てた。
「同じなはずがない! 今のあなたの顔を見ればわかる! それに…人間を守るのが私の務めだ!」
妹紅の言葉が余程聞き捨てならなかったのか、慧音は火傷と傷でボロボロの腕を振り上げて怒鳴った。
妹紅は心底げんなりしながら言う。
「私は蓬莱人だ。あんたも知ってるだろ? 何回殺されたって生き返る化け物だ。あんたが守る義務はないし、その必要もないよ」
「死ななかろうが生き返ろうが人間は人間だ! 私にはあなたを守る義務と、その意志がある!たとえあなたに必要ないといわれようと、どんなに邪険にされようと、絶対に守る!私の力はそのためにあるんだ!」
それは本来なら口答えしてはいけない言葉だったのかもしれない。
1000年以上も前から化け物扱いされてきた彼女にとって、その言葉はもっとも望んでいた言葉だったはずだった。
・・・・・・妹紅は唇をかみ締めた。
頭に浮かんだのは名前も覚えていない一人の青年。
帰る場所も目指すべきものも失ってさまよっていた妹紅を、理由も聞かずに暖かく迎えてくれた人だった。
彼が自分を化け物と呼んだ時、優しかったはずのその双眸がたたえていたのは恐怖と嫌悪だった。
「うる、さい・・・」
彼のまなざしを思い出した時には、言葉は勝手に滑り出していた。
「何度言わせるんだよ!! 私がどんなに殺されようとあんたには関係ないだろ! 大して強くもないくせに、偉そうに守るなんて言うな!」
「・・・・・・」
考えるより先に出てきてしまった言葉だったが、今の妹紅に相手を気遣う気などさらさら起きなかった。
「帰れよ!帰れ!」
右手に燈した焔の玉を、押し黙ってしまった慧音の足元に投げつける。
俯いたまま顔を上げずに飛び去っていった慧音の悲しそうな表情は、妹紅に見えることはなかった。
それからさらに数日後の夕方、妹紅が自宅の囲炉裏で夕食のために魚を焼いていると慧音が訪れた。
もう少しでいい具合に焼けてきそうなところで玄関の引き戸が開いて、妹紅はため息をついた。
「あんたって家主に断りもなく人の家の扉を勝手に開ける奴だったんだね」
魚の具合を見ながら、玄関口に立つ慧音を見もせずに妹紅が皮肉を言うと、慧音は苦笑した。
「居留守を使って10分間もノックを続けさせた者の言うセリフじゃないな。それに窓から魚を焼く煙が出ていたら家主が在宅なことはわかりきっているのだから不法侵入にもならないだろう。ひょっとしたら火事の煙かもしれないしな」
そのセリフにはまったく反応せずに妹紅は魚の焼き具合を見つづける。
「・・・あんたも懲りないな。完璧に居留守を使われてるのがわかっててまでいちいち訪ねてきて何の用?」
「様子を見に来たんだ。もう大丈夫なようだな。よかった」
全く翳りの感じられない慧音のセリフに腹のそこからため息を吐く。
もはや皮肉を言う気にもなれなかった。
「・・・・・・なんであんたはそんなに私、いや、人間に構うんだよ」
人間なんて矛盾だらけの不完全な生き物だ。
そんなもの助けたって何の価値もない。
「人間が好きだから、だろうな」
「それはなんの答えにもなってないよ。じゃあどうして人間が好きなんだ?」
「うーん。そうだな・・・・・・ひょっとしたら先程の人間が好きだからというのは間違いかもしれない」
そこで初めて妹紅は慧音を見た。
玄関口に立つ慧音の髪は、竹林の間から漏れてくる夕暮れの光のせいでオレンジ色に光っていた。
「多分・・・全て私の自己満足なんだろうな。一昔前ならともかく、今の幻想卿において人間が必ずしも私の助けを必要としているわけではないし、私にできることだって・・・たかが知れている。それは自分でもわかっているつもりだ。それでも、私は人間の守護者でありつづけるよ。自己満足でしかないとしても、1つでも多く彼らの笑顔を守れるなら、私は偽善者になれる」
「・・・・・・」
「でもきっとそれもすべて私自身のためなんだと思う。私は自分で自分の存在意義を証明できるほど立派な人物じゃない。だから私は人を助けるんだ。誰かに助けた礼を言われた時、誰かの顔に笑顔を取り戻す手助けができた時、誰かに必要とされた時、私は自分の生きる意味を、存在価値を感じることができるから」
「・・・・・・・・・そうか・・・」
口調とは裏腹に迷いなく語る慧音の決然とした表情がまぶしくて、妹紅は視線を元に戻した。
戻した視線の先には焼きすぎて焦げた魚があった。
串に刺さってこちらを見る黒焦げの魚の顔を黙ってみていたら、数日前の川に映った自分の顔を思い出した。
その日の夜。
慧音が帰って一人で夕食を食べた後、すぐに寝てしまおうと思ったのに、なんとなくもやもやした気分が晴れずにいつまでも寝付けずに散歩に出た。
竹林の狭い空を見上げながら真夜中の涼しい風に当たっても、頭の中を巡るのは夕暮れ時の慧音の言葉。
「存在意義・・・か」
その言葉に真っ先に頭に浮かぶのは輝夜との殺し合い。
輝夜と弾幕を撃ち合っているときはいつも生きていることを強く感じられる。
敬愛していた父を辱めた輝夜に復讐することこそが、自分の存在意義だと思っていたこともあった。
それなのに今では何度輝夜を殺しても、どうしようもないほどの虚無感ばかりが胸に溜まっていく。
何のために生きているのか。
何のために不死の体になったのか。
自分の頭の中にいくらでも湧いて出てくるその疑問。
最近はそれに気づいてないふりをすることばかり考えている。
考え事をしていると、近くから少女の悲鳴が聞こえてくる。
竹林に深く入り込みすぎてしまって妖怪にでも襲われているのだろう。
自分には関係ないし助ける義理もない。
反射的にそう考えて踵を返そうとしたその時、先程の声が泣き声をあげるのが聞こえた。
「お母さん!! お母さぁぁん!!」
その声が妹紅の気を変えさせたわけではなかった。
その言葉が刺激したのは妹紅の心ではなく記憶。
妹紅の頭の中に再生された映像、その中で泣き叫ぶ少女。
まだ髪が黒かった頃の妹紅。
不死の身になったことを気味悪がった父親に勘当を言い渡された時の絶望。
優しかった母も父の決定には逆らえず、朝焼けの空の下、別れの場で2人抱き合って流した涙。
帰るべき場所を失った痛みが心の中によみがえる。
「ちぃっ!」
舌打ちをしながら悲鳴の聞こえた方向へと高速低空で飛ぶ。
着いた先には肩口に大きな傷を負いながらも娘をかばって膝で何とか立っている母親と、それに対峙する巨大な狼の妖怪がいた。
「あなたは・・・・・・」
駆けつけた妹紅に驚いた顔で呟いた母親を無視して、妹紅は妖怪に焔球を投げつける。
避けようとしたようだが動き出しが遅すぎて直撃した。
山犬の妖怪のくせにやたらと動きが鈍い。
よく見たらその妖怪もひどい有様だった。
ガリガリに痩せて、肋骨や足の骨の様子が丸わかりで、そのくせ目だけはぎらぎらしている。
その様子にまたも川に映った自分の顔が脳裏をちらつく。
――こいつも私と同じで、欲しいものがなんだったのかすら、もうわからなくなってるのかな
「っ!! お母さん!!」
背後からの少女の悲鳴に、場違いな思考から我に帰る。
少女のいる方を振り返って見ると、母親が意識を失い倒れていた。
助けてくれそうな者が現れたことで安心して緊張の糸が緩んだのだろう。
しかしこれ以上時間がかかると命に関わる。
「ごめんな」
小さくそう呟いて、せめて痛みを感じずにすむように妖怪を最大火力で焼き尽くした。
不死鳥の炎に舐められ骨も残らず燃え尽きた妖怪のいた辺りを、鎮魂のつもりで一瞥してから、急いで少女の方に向き直った。
少女は未だに泣きながら倒れた母親にすがっている。
母親はまだ生きているようだが失血がひどい。
少女は顔を上げると妹紅の服の裾を掴んだ。
「お願い! お母さんを、お母さんを助けて!!」
――やれやれ、私はいったい何をしてるんだか・・・・・・
そんな心の表層が発する冷めた声とは裏腹に、心の奥では自分のすべきこと、したいことはわかっていた。
妹紅は少女の手を優しく握って、少女の目をまっすぐ見た。
「大丈夫だ。お母さんは絶対助けてやる。ちょっと手当てをして休めばすぐ元気になるはずだ。だから泣くな。お前が泣いてるとお母さんが心配してしっかり休めないんだ。わかるな?」
少女は必死で涙をこらえながらうなずいた。
「よし。いい子だ」
妹紅は少女の頭をなでてやりながら、ぐったりしている母親の体を右肩に担いだ。
「これからお母さんをお医者さんのところに連れて行く。すごいお医者さんだから絶対にお母さんは元気になるよ。だけどちょっと急ぐからしっかりつかまってな。ぎゅっと目を瞑ってればすぐだから」
そう言って空いている方の手で少女を抱えあげると、妹紅は全力で永遠亭を目指した。
永遠亭に向かう間、少女はずっと妹紅の服の袖を強く握り締めていた。
服を通して感じる小さな手の温もりを感じながら、妹紅はなんとなく慧音の言っていたことを思い出した。
流石に明らかなけが人を背負ってすごい勢いで飛び込めば、永遠亭にも攻撃してくるような者はいなかった。
鈴仙とてゐがてきぱきと永琳の部屋まで通してくれる。
永琳の部屋には輝夜もいたが、流石に邪魔する気はないのか、黙ってまわりのやりとりを眺めていた。
段々息の浅くなってきた母親の様子を見せると、永琳は少し口の端に笑みを浮かべた。
「なるほどね。久々に大仕事になりそうだわ」
その自信にあふれた笑顔を見て、妹紅はなんとなく母親はきっと助かると思った。
「うどんげ、手術の準備をして頂戴」
「はい、師匠」
きびきびと母親をストレッチャーで別室に運んでいく鈴仙を見送ってから、妹紅の後ろに隠れるようにして黙って見ていた少女が、永琳に向けて口を開いた。
「ねえ、お母さんは治るの?」
「ええ。絶対に治るわ。だから貴方は安心して待ってなさい」
「う、うん・・・・・・」
永琳のやわらかい微笑みに幾分増しになったものの、それでも少女は不安なようだった。
「てゐ、この子の面倒を見てあげて。姫様もお願いします」
「わかったわ」
それまで黙って座っていた輝夜は立ち上がると、屈んで少女と目線の高さをあわせて話し掛けた。
「さ、お母さんが元気になるまでちょっと時間がかかるから、それまで向こうでお姉さん達と遊んでましょ?」
そう言って少女の手を取る。
その様子を黙ってみていた妹紅が永琳に話し掛ける。
「それじゃ、もう心配ないね。後のことは任せたよ」
「そうね。お疲れ様だったわ」
その会話が聞こえていたらしく、少女が妹紅の服の裾を引っ張って、泣きそうな顔で妹紅を見上げた。
「・・・お姉ちゃん、帰っちゃうの・・・・・・?」
「うん。お母さんはお医者さんが見てくれるし、もう大丈夫でしょ?」
「う、うん・・・・・・」
少女は俯いて答えた。
「なに言ってるのよ? あなたもここで一緒に待つんでしょ」
唐突に輝夜が強い口調で口をはさんできた。
「だってけが人は届けたし、この子もここなら安全だし、私がいつまでもいる必要はないだろ」
輝夜はぐっと妹紅に顔を近づけると小声で囁いた。
「あなた何にもわかってないのね?この子はあなたがいないと不安なのよ。あなたにいて欲しいの。さっきから私やイナバ達のこともちょっと怖がっているみたいだし。なによりお母さんのことが不安で不安で仕方ないのよ。今この子にはあなたが必要なの。あなたを頼っているのよ。だからこの子に余計な不安を与えたくなかったら、いいから残って一緒にこの子の面倒見なさい」
「なっ・・・・・・」
輝夜の有無を言わさぬ喋り方に気圧されて何も言えないでいるうちに、輝夜は少女に向き直っていた。
「良かったわね。このお姉さんお母さんが元気になるまで一緒に待っててくれるみたいよ?」
「本当!?」
輝夜の言葉を聞いたとたんに少女の顔が少女の顔が明るくなったのを見て、妹紅は観念した。
「・・・・・・うん。やっぱりそうするよ」
嬉しそうにしている少女の横で、にやにやしながらこっちを見ている輝夜が少し癪な気もしたが、それは見なかったことにしておいた。
「さ、何して遊ぼうか?」
「うーん。・・・お絵かき!」
「いいわね、元気になったお母さんが見てびっくりするような素敵な絵を描きましょう。イナバ、絵を描くための道具持ってきて」
「はーい」
「お姉さんは絵描くのうまいわよ~?」
「何言ってんの。輝夜の書く絵はみんなへのへのもへじじゃん」
永琳は楽しそうに話しながら輝夜の自室に向かう4人を微笑ましげに見送ってから、自分も手術の準備を始めた。
「・・・寝ちゃったわね」
「ああ・・・」
少女は輝夜の膝枕で寝ている。
右手に妹紅の描いた絵を掴んで。
永遠亭の庭先で楽しそうに遊ぶ少女と母親とてゐ、ついでだから輝夜も端の方に描いてやった。
それを見た少女は目を丸くして喜んで、輝夜の隣に妹紅を描き足してくれた。
その絵を目を細めて眺めてから、妹紅は立ち上がった。
「それじゃ、私は行くよ」
「そうね。もう大丈夫でしょ」
「後のことは頼んだよ」
「ええ。いちいち私によろしく言わなくても永琳が上手くやるわ」
「そうだな。それじゃ、また・・・」
「そうね。また」
妹紅が部屋を去るのを見届けると、輝夜はほっと息を1つついてから口を開いた。
「イナバ、人間の里からあのワーハクタクを呼んで来なさい」
それから一週間後の昼下がり。
竹林の妹紅の自宅。
妹紅が遅めの昼食の片付けを行っていると、玄関がノックされた。
誰が来るのか大体予想はついたので、作業をしながら許可を出すと、玄関を開けたのはやはり上白沢慧音だった。
「なんの用?」
「あなたにお礼を言いたくてな。それと――」
「お姉ちゃん!!」
慧音の脇を抜けて妹紅の家に飛び込んできた予想外の客に、つこうとしたため息を飲み込んだらむせた。
「な、な・・・・・・」
「あのね、この間お姉ちゃんがとっても優しくしてくれたんだって話したら、お母さんと慧音様が、お世話になった人にはおれいを言わなきゃダメだって言ったの!だからおれいを言いに来たの!どうもありがとうお姉ちゃん!」
不意打ち気味に胸に飛び込んできた少女に驚いて何も言えずにいると、慧音がくすくすと笑いながら説明した。
「危ないから私だけで来ると言ったのだが、2人とも一緒に行くと言って聞かなくてな」
「2人・・・・・・?」
妹紅の疑問に答えるように慧音が道を譲ると、少女の母親が入ってきた。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
「・・・・・・。あー、もう動いて大丈夫なの?」
「ええ。先生がもう大丈夫だろうって。あなたが迅速に送り届けてくれたおかげだと仰ってました」
「そっか・・・・・・」
なんとなく気恥ずかしくて顔を下に向けると、満面の笑みの少女と目があった。
「よかったな」
「うん!」
頭をなでてやると子猫のように気持ちよさそうに笑った。
「だから今度お母さんも一緒にみんなでまた遊ぼうね!あの絵みたいに!ウサギのお姉さんと髪の黒いお姉さんも一緒に!」
「あー。そ、そうだな・・・・・・」
妹紅は軽く顔をそむけて苦笑いするしかなかった。
「あまり長居しても迷惑だろう。それに暗くなったら危ない。私たちはこのあたりでお暇しよう」
慧音が窓に差し込む日の長さの具合を見ながら言った。
「はーい。お姉ちゃん、またねー」
親子が先に家を出ると、慧音は改めて妹紅に向き直った。
「改めて言うが、本当にありがとう。あの2人の笑顔が今あるのはあなたのおかげだ」
「・・・・・・ちょっとした気まぐれで助けただけだよ」
「だが今回は助けるつもりで助けてくれたのだろう?」
「・・・・・・」
「ありがとう」
慧音のしてやったりな表情は少し癪な気もしたが、不快ではなかった。
「それでは私も行くよ。2人を待たせてしまっては悪いしな」
戸口から出て行こうとする慧音の背中。
かなり躊躇って、でも慧音が完全に外に出てしまう前に妹紅はなんとか口を開いた。
「上白沢慧音・・・・・・」
「うん?」
振り返った慧音は少し不思議そうな顔をしていた。
これを言うのならしっかり相手の目を見て言わなければいけない。
慧音の目を覗き込むと、軽い疑問の色と、やはりまっすぐな光がそこにあった。
その光がほんの少し妹紅の背中を押してくれた。
「あー、その・・・・・・・・・・・・ありがとう」
覚悟を決めたはずなのに、ここまで言ってしまうと妙に気恥ずかしくて、視線は虚空をさまよう。
なんとなく慧音の頭の上の帽子にでも話し掛けているような気分で続ける。
「あんたが言ってた存在意義の話・・・・・・私の存在意義はまだわからないけど、あんたの言ってたこと、なんとなくだけど少しはわかったような気がする・・・・・・。だから・・・・・・ありがとう」
言われた慧音は少し驚いたような顔をして、すぐに微笑んだ。
「別に礼には及ばないさ。人間の為に何かをするのが私の仕事だ。・・・・・・だけど、どういたしまして」
子供のように無邪気で、嬉しそうな笑顔だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
慧音は家路を急いでいた。
今年の収穫祭についての会議ですっかり遅くなってしまった。
家では妹紅が腹をすかして待っているだろう。
無論その程度で怒って帰ってしまうほど妹紅も子供ではないが、せっかく来てくれた大切な友人を待たせては申し訳ない。
――大切な友人・・・・・・か。いつからだろう。妹紅が自分を友人として認めてくれたのは・・・・・・
半月の照らす畦道を歩いていたら不意にそんなことを考えた。
最初の頃は敵意さえ見せていて、決して名前では呼んでくれなかった。
それがいつからか上白沢慧音と呼んでくれるようになり、そのうち慧音になった。
呼び方が氏名呼び捨てから慧音に変わった時、本人は「長くて呼びづらいから」と言っていた が、慧音は素直に嬉しかった。
きっと友人になったのはその頃のことだと思う。
人間を保護する立場の慧音にとって、彼らは厳密な意味では友人ではない。
慧音にとって人間達は子供のような存在に近い。
その慧音にとって、妹紅はひょっとしたら唯一の友人と呼べるかもしれない。
気を許せて、気兼ねなく頼みごとや相談のできる唯一の友人・・・・・・。
彼女は自分の存在意義を、不死の身になった本当の理由を見つけることが出来たのだろうか。
わからない。
いつか見つかるかどうかさえも。
だが時間はいくらでもある。
そして見つかるまでは探すこと自体が生きる目的になる。
慧音は、それが見つかるまで妹紅のことを見守っていたいと思う。
出来ることなら一緒に探して行きたい。
それはきっと妹紅が人間だからとか、自分の存在意義のためとかじゃなく、大切な友人だから。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
慧音の家。
大量の本に囲まれた書斎に静かな寝息が響く。
本棚に背中をもたれ、慧音の日記を開いたまま、妹紅は夢の世界にいた。
規則的な寝息が一度止まり、妹紅の口がゆっくり開く。
「けいね・・・・・・いつもありがとね・・・・・・」
それは気恥ずかしくて夢の中でしか言えない、心からの感謝の言葉。
幻想郷
一文字だけでもせっかくのふいんきが崩れてしまいますわなwww
ところであとがきの惨劇の後がこれまた知りたいのですが。
指摘くださった方ありがとうございます。
復習はちょっとひどかったですねw
皆様結構好評を下さったみたいで嬉しいです。
またお会いできるかどうかわからぬ身ですが、
その時はまた読んでもらえてコメントもいただけたら幸せです。
すごく丁寧な文章で、憧れました。
上白沢慧音→慧音の過程がわかりやすく、違和感なく、即納得できました。
そして最後……いい感じで終わっていて、くすっと来ました。
次回もお待ちしておりますね。
どうせなら輝夜との関係ももうちょっと掘り下げると面白かったかも。
自分の生きている理由…誰しも一度は考えることですけど
人生数十年、その短い間に見つけることができる人はどれくらいいることやら。