開始。
「困ったわ……」
紅魔館当主、レミリアは迷っていた。同じところを右往左往。具体的に言えば、三歩進み、踵を返す。そしてまた三歩進む。それの繰り返しであった。
やがてベッドに座り込み、傍らに置いてある小箱を見つめる。見てしまうことによって、一斉に悩みの種が襲ってきた。
レミリアは、何度目になるかわからない大きなため息をついた。
「どうしよう……」
【無形の誕生日プレゼント】
小箱を自分の顔の前に持ってゆき、さらにもう一度大きくため息をつく。
「はあ……」
この小箱、先日従者とともに、町に買いに行ったものである。
私はもう大人だ。だから自分ひとりで行きたかった。そう考え、「一人で行く」と言ってみた。
結果、咲夜に泣かれた。足に纏わり付かれて子供のように駄々をこねだした。ついでに、私の足にへばり付いて頬擦りを始めた。膝で蹴っておいたが。
最終的には、『連れて行かないなら舌を噛んで死にます』と言い出す始末だ。咲夜の血が飲みたくなったが、優しい私はぐっと我慢して、咲夜を連れて行くことにした。
そういえば、その日は暑かったような気がする。ついてくる咲夜の息が荒くて、五月蝿かったのだが、我慢してあげたのを覚えているから。
いや、寒かったかもしれない。咲夜が何度か後ろから抱き付いてきたのを覚えているから。咲夜は寒かったかもしれない。でも私は暑かったので振り払った。咲夜が残念そうにしていた。
咲夜と買い物に行って悩んでいると、咲夜がいつの間にか変なものを買っていた。この前買っていた写真機というものに似ているが、ちょっと違うらしい。どうやら写真を大量に撮れるだそうだ。あまりにも撮れる枚数が多いので、人はそれを動画と呼ぶこともあるらしい。
というより、給料をあげていないはずなのになぜ……?
ともかく、それを買ってからというものの、咲夜は夢見心地であった。呼んでも答えないことが多いし、作業能率が落ちている。
だから、「まともに私の話し相手になれないなら解雇する」と怒ると、やはり泣かれた。泣きながら、後ろから抱きつかれた。でも私は優しいから、咲夜が私から離れたと同時に許してあげた。
最近の咲夜は任務に対しても不真面目でいけない。だって、洗濯したばかりの私のパンツを、白昼堂々盗まれたし。聞くところによると、被るだけで幸せな気分になれるヘルメットの事で頭がいっぱいで、うっかりしていたらしい。ちなみにそのヘルメット、防御力は儚いんだって。ヘルメットの意味がないと思う。
盗んだ者は盗んだ者で、私のパンツなんて何に使うのだろう。あのパンツ、気に入ってたのに……。
レミリアは、従者が守りきれなかった自らのパンツを恋しく思い、本題はそこではなかったことに気付く。
レミリアはもう一度、小箱を見つめた。この箱の中身は、髪留めである。それを今日、フランドールにプレゼントしようと思ったのだが――。
「難しいわ……」
フランドールとかなりの間、距離を置いていた。そのため、コミュニケーションの仕方がわからない。誰かに相談すればいい。するとしたら咲夜だ。だがそんな事はしない。こんなことを従者に相談するなど、レミリアのプライドが許さないからだ。
そしてもうひとつ、最近の従者はどこか狂っているからである。
よって、自分で何とかしなければならない。とりあえずレミリアは、声に出して演技をしてみることにした。頭の中でイメージを作るだけでは、実践で失敗することもあるからだ。
「べ、別にあんたのために買ってきたんじゃないんだからね、たまたま余ってただけなんだからッ……!
…………駄目ね」
まず最初のひとつは、失敗に終わった。これではフランドールには通用しないだろう、そう考えてのことだった。
第一、意地を張ってどんな意味があると言うのだ。ない、それが結論だ。
「小汚い妹よ、妾からのありがたいプレゼントじゃ、受け取るが良い、ほほほほほ」
言いながら、プレゼントの小箱をフランドールの頭に投げる。フランドールの頭にぶつかる小箱。ぶつかった衝撃で開く箱、飛び散る中身。痛みと悲しみに号泣するフランドール。
演技をした瞬間、これだけの映像がレミリアの頭の中に流れた。
喜ばせてあげたいのにそれ以外で泣かせてどうする。こんなことやられたら、私だったら殴る。
「こんなこと出来ないわよっ!」
八つ当たりをしたくなり、枕を放り投げる。壁にぶつかり、枕は水滴のように壁を伝い、床に力なく横たわった。
「フランちゃーん、お姉ちゃんからのプレゼントでちゅよー! はい、どうじょー!」
わざとらしく、赤子をあやす様に演技をしてみた。
しかしフランドールとレミリアの年齢差は五歳。こんなことをやってみたとする。間違いなくひかれるか、殴られる。
そしてもうひとつ、やると引き換えに何か大切な物を失いそうな気がして、レミリアは軽く震えた。
すなわち結論は、
「やってられるかああああああああ!」
である。
頭を抱えて、部屋中をゴムボールのように跳ね回り、転がりまわる。運悪く――いや、運良く後頭部をぶつけ、本棚を破壊する。運がいいというのは、ぶつけた衝撃でいいアイディアを思いついたからだ。
悶絶の表情を一変させ、レミリアは起き上がった。
次の方法へ。
「フラーンちゃあああん、プレゼントでっすよおおおお! れみりあううううう!」
舌を巻きながら歌う。それと同時にくるくる回り、本人は踊っているつもりになる。
「どうぞおおおおお! って、わあああ!」
先ほど投げた枕を踏んでしまい、後頭部から床にたたきつけられる。鈍い音が部屋の天井にエコーする。下にも響いたかもしれない。
「あうう……」
痛くない場合、重症である。だが痛い。とても痛い。幸い中の不幸だ。
何とか起き上がると、ふらふらして、レミリアはベッドに倒れた。風圧で浮き上がった白いシーツが、レミリアを優しく包む。
「……シーツ?」
がばっと起き上がる。栄枯盛衰を絵で見たらこんな感じであろう、と思えるほどの復活振りであった。
「付け髭を用意して、メリークリスマース!」
服は血で染めるとしても、髭がない。そこでこのシーツの出番である。だが長すぎた。天井まで飛び上がらなければ布は浮かない。
こんな髭が長い奴がいるか、いやいない。そもそも髭に見えない。致命的であった。
そもそもこの部屋には小道具が足りない。ここにあるものは、ゴミ箱、本、椅子、ティーカップ、リコーダー、ベッド、壊れた本棚、さっき投げた枕、など全然使えそうにないものばかりだ。
いっそこのままこのプレゼントをゴミ箱に放り投げてしまおうか。それなら悩まずにすむ。
もちろん、冗談である。心配になってきたときは、論外なことを考えるものだ。
「ゴミ箱……?」
レミリアは、ゴミ箱に視線を向けた。このゴミ箱にはちょっとした思い出があった。
まずひとつ、それは籠のゴミ箱であり、面白がって、昔はかぶって遊んでいた。その度に怒られたものだ。
そしてもうひとつ、最近になるのだが、妙な思い出があった。ゴミ箱の中身が無くなっていたのだ。従者が片付けてくれたと考えるのが普通である。しかし、片付けなければならないほどの量は入っていなかった。
入っていたのは……幼いころの写真だったはず。レミリアは、昔の写真が恥ずかしくなって捨てたのだ。
「ゴミ箱……あ、そうだ!」
レミリアはゴミ箱の中身をその辺に散らかし、被ってみた。思ったより外はよく見える。レミリアは部屋にあったリコーダーを取り出し、吹く。
そういえばこのリコーダー、何回か無くなったんだよね……。何でだろ?
レミリアの案は、これだ。リコーダーを吹きながら地下室まで行き、フランドールにプレゼントを渡す。これなら、プレゼントを私にきたのが自分だってことがわかるだろう。背格好で、だが。
この格好は、前に紅魔館前を歩いていた人物のをインスパイアさせていただいた。
少々恥だが、インパクトを残すには十分と思える。
だが、長所がたくさんあると、短所が見えにくくなる。
フランドールの地下室にはおそらく大勢が集まっているだろう。大衆の前にこんな姿で現れることができようか。
フランドール一人に見られるならまだいい、だがメイドは何人いる? 数え切れるわけがない。その中のかなりの人数があそこに集まっているとしたら? 大恥だ。
恥ならば、いい。だが大恥はだめだ。
これも、却下となった。
「いっそ、こっそり地下室の前に置く」
これならどうだろう、レミリアは想像してみた。
プレゼントを見つけるフランドール。両手を挙げて喜ぶ。開ける。髪につける。喜ぶ。その日の晩、私のことを思い出す。プレゼントをくれなかった、と思う。泣く。いじける。ここまでは間違いない。悪い定石だ。というより定理だ。
「……あの子、絶対気付かない」
気付かれなければ意味がない。別に感謝されたいと言うのではない。しかし、レミリアがあげた、という事実がなければ、フランドールは怒って泣くに違いない。それでは意味がないのだ、まったくと言っていいほど。
「ああ、難しい……」
レミリアはベッドに倒れこむ。
そういえば自分の誕生日のときはどうだっただろう。レミリアは考え込んだ。
確か、自分のときは……皆がいっせいにクラッカーを鳴らし、「お誕生日おめでとうございます!」と声をかけてくれた。嬉しかった。いや、今でも嬉しいだろう。
その後、プレゼントをくれたはずだ。
最後には『レミリア・スカーレット』という血の文字で書かれたチョコレート板が、そして、上から見ると赤い丸を作っていた苺が美しく飾られていた。二つの赤が、少し赤いケーキを美しく飾っていたはずだ。
嬉しかった。欲しかったプレゼントを貰って嬉しかった。ケーキは美味しかった。そしてなにより、誕生日を覚えてもらえていたことが嬉しかった。
そういえば、咲夜の誕生日のときもそうであった。誕生日は適当に上げたのだが、その時に私は『欲しい物をもらえなかったとき悲しくないの?』と聞いたのだ。でも咲夜は、『悲しくありません』と答えた。『覚えていただいて、こうして祝ってもらえることが、私の最も欲する物です』と言われたのだ。
正直、感動したのを覚えている。
私だって、五百年も生きている。だから色々な人の誕生日に直面した事が何度もあった。皆、『おめでとう』の一言を掛けてあげるだけで、太陽のような笑顔を浮かべていた。それが何故なのか、当時の私にはわかっていたけど、やっぱりわかっていなかった。
そして、それは今わかった。
「そうよ……そうなのよ……! 下手に飾る必要なんてないじゃない。ありのままで十分よ!」
レミリアはベッドから立ち上がり、「決めた」と一言呟き、プレゼントをがっしりと掴んだ。
下手に飾る必要はない。飾る必要はないのだ。
誕生日を覚えている。それがその日の主役に贈られる、最高のプレゼント。
レミリアは、希望に満ちた笑顔を浮かべた。その表情は、悪魔とは思えないほど美しく、純粋に輝いていた。
「待ってなさい、フラン! 今お姉ちゃんが最高のプレゼントをあげるからね!」
フランドールがそれに気付くことは、しばらくないかもしれない。しかし、レミリアは信じていた。
いつかきっと、フランドールも気付いてくれるだろうと。
地下に着いたら、おめでとうの声と一緒にこれをあげよう。形を持たない最高のプレゼントと、お金さえあれば手に入る、形を持つプレゼント、どちらで喜んでもらえるかはわからない。
それでも、レミリアはどちらでもよかった。
最愛の妹が喜べば、それでいいのだ。
「お誕生日の歌の練習くらいはしておこうかな」
レミリアの美しい声が部屋中で、意思を持ったように踊っていた。
●REC
「困ったわ……」
紅魔館当主、レミリアは迷っていた。同じところを右往左往。具体的に言えば、三歩進み、踵を返す。そしてまた三歩進む。それの繰り返しであった。
やがてベッドに座り込み、傍らに置いてある小箱を見つめる。見てしまうことによって、一斉に悩みの種が襲ってきた。
レミリアは、何度目になるかわからない大きなため息をついた。
「どうしよう……」
【無形の誕生日プレゼント】
小箱を自分の顔の前に持ってゆき、さらにもう一度大きくため息をつく。
「はあ……」
この小箱、先日従者とともに、町に買いに行ったものである。
私はもう大人だ。だから自分ひとりで行きたかった。そう考え、「一人で行く」と言ってみた。
結果、咲夜に泣かれた。足に纏わり付かれて子供のように駄々をこねだした。ついでに、私の足にへばり付いて頬擦りを始めた。膝で蹴っておいたが。
最終的には、『連れて行かないなら舌を噛んで死にます』と言い出す始末だ。咲夜の血が飲みたくなったが、優しい私はぐっと我慢して、咲夜を連れて行くことにした。
そういえば、その日は暑かったような気がする。ついてくる咲夜の息が荒くて、五月蝿かったのだが、我慢してあげたのを覚えているから。
いや、寒かったかもしれない。咲夜が何度か後ろから抱き付いてきたのを覚えているから。咲夜は寒かったかもしれない。でも私は暑かったので振り払った。咲夜が残念そうにしていた。
咲夜と買い物に行って悩んでいると、咲夜がいつの間にか変なものを買っていた。この前買っていた写真機というものに似ているが、ちょっと違うらしい。どうやら写真を大量に撮れるだそうだ。あまりにも撮れる枚数が多いので、人はそれを動画と呼ぶこともあるらしい。
というより、給料をあげていないはずなのになぜ……?
ともかく、それを買ってからというものの、咲夜は夢見心地であった。呼んでも答えないことが多いし、作業能率が落ちている。
だから、「まともに私の話し相手になれないなら解雇する」と怒ると、やはり泣かれた。泣きながら、後ろから抱きつかれた。でも私は優しいから、咲夜が私から離れたと同時に許してあげた。
最近の咲夜は任務に対しても不真面目でいけない。だって、洗濯したばかりの私のパンツを、白昼堂々盗まれたし。聞くところによると、被るだけで幸せな気分になれるヘルメットの事で頭がいっぱいで、うっかりしていたらしい。ちなみにそのヘルメット、防御力は儚いんだって。ヘルメットの意味がないと思う。
盗んだ者は盗んだ者で、私のパンツなんて何に使うのだろう。あのパンツ、気に入ってたのに……。
レミリアは、従者が守りきれなかった自らのパンツを恋しく思い、本題はそこではなかったことに気付く。
レミリアはもう一度、小箱を見つめた。この箱の中身は、髪留めである。それを今日、フランドールにプレゼントしようと思ったのだが――。
「難しいわ……」
フランドールとかなりの間、距離を置いていた。そのため、コミュニケーションの仕方がわからない。誰かに相談すればいい。するとしたら咲夜だ。だがそんな事はしない。こんなことを従者に相談するなど、レミリアのプライドが許さないからだ。
そしてもうひとつ、最近の従者はどこか狂っているからである。
よって、自分で何とかしなければならない。とりあえずレミリアは、声に出して演技をしてみることにした。頭の中でイメージを作るだけでは、実践で失敗することもあるからだ。
「べ、別にあんたのために買ってきたんじゃないんだからね、たまたま余ってただけなんだからッ……!
…………駄目ね」
まず最初のひとつは、失敗に終わった。これではフランドールには通用しないだろう、そう考えてのことだった。
第一、意地を張ってどんな意味があると言うのだ。ない、それが結論だ。
「小汚い妹よ、妾からのありがたいプレゼントじゃ、受け取るが良い、ほほほほほ」
言いながら、プレゼントの小箱をフランドールの頭に投げる。フランドールの頭にぶつかる小箱。ぶつかった衝撃で開く箱、飛び散る中身。痛みと悲しみに号泣するフランドール。
演技をした瞬間、これだけの映像がレミリアの頭の中に流れた。
喜ばせてあげたいのにそれ以外で泣かせてどうする。こんなことやられたら、私だったら殴る。
「こんなこと出来ないわよっ!」
八つ当たりをしたくなり、枕を放り投げる。壁にぶつかり、枕は水滴のように壁を伝い、床に力なく横たわった。
「フランちゃーん、お姉ちゃんからのプレゼントでちゅよー! はい、どうじょー!」
わざとらしく、赤子をあやす様に演技をしてみた。
しかしフランドールとレミリアの年齢差は五歳。こんなことをやってみたとする。間違いなくひかれるか、殴られる。
そしてもうひとつ、やると引き換えに何か大切な物を失いそうな気がして、レミリアは軽く震えた。
すなわち結論は、
「やってられるかああああああああ!」
である。
頭を抱えて、部屋中をゴムボールのように跳ね回り、転がりまわる。運悪く――いや、運良く後頭部をぶつけ、本棚を破壊する。運がいいというのは、ぶつけた衝撃でいいアイディアを思いついたからだ。
悶絶の表情を一変させ、レミリアは起き上がった。
次の方法へ。
「フラーンちゃあああん、プレゼントでっすよおおおお! れみりあううううう!」
舌を巻きながら歌う。それと同時にくるくる回り、本人は踊っているつもりになる。
「どうぞおおおおお! って、わあああ!」
先ほど投げた枕を踏んでしまい、後頭部から床にたたきつけられる。鈍い音が部屋の天井にエコーする。下にも響いたかもしれない。
「あうう……」
痛くない場合、重症である。だが痛い。とても痛い。幸い中の不幸だ。
何とか起き上がると、ふらふらして、レミリアはベッドに倒れた。風圧で浮き上がった白いシーツが、レミリアを優しく包む。
「……シーツ?」
がばっと起き上がる。栄枯盛衰を絵で見たらこんな感じであろう、と思えるほどの復活振りであった。
「付け髭を用意して、メリークリスマース!」
服は血で染めるとしても、髭がない。そこでこのシーツの出番である。だが長すぎた。天井まで飛び上がらなければ布は浮かない。
こんな髭が長い奴がいるか、いやいない。そもそも髭に見えない。致命的であった。
そもそもこの部屋には小道具が足りない。ここにあるものは、ゴミ箱、本、椅子、ティーカップ、リコーダー、ベッド、壊れた本棚、さっき投げた枕、など全然使えそうにないものばかりだ。
いっそこのままこのプレゼントをゴミ箱に放り投げてしまおうか。それなら悩まずにすむ。
もちろん、冗談である。心配になってきたときは、論外なことを考えるものだ。
「ゴミ箱……?」
レミリアは、ゴミ箱に視線を向けた。このゴミ箱にはちょっとした思い出があった。
まずひとつ、それは籠のゴミ箱であり、面白がって、昔はかぶって遊んでいた。その度に怒られたものだ。
そしてもうひとつ、最近になるのだが、妙な思い出があった。ゴミ箱の中身が無くなっていたのだ。従者が片付けてくれたと考えるのが普通である。しかし、片付けなければならないほどの量は入っていなかった。
入っていたのは……幼いころの写真だったはず。レミリアは、昔の写真が恥ずかしくなって捨てたのだ。
「ゴミ箱……あ、そうだ!」
レミリアはゴミ箱の中身をその辺に散らかし、被ってみた。思ったより外はよく見える。レミリアは部屋にあったリコーダーを取り出し、吹く。
そういえばこのリコーダー、何回か無くなったんだよね……。何でだろ?
レミリアの案は、これだ。リコーダーを吹きながら地下室まで行き、フランドールにプレゼントを渡す。これなら、プレゼントを私にきたのが自分だってことがわかるだろう。背格好で、だが。
この格好は、前に紅魔館前を歩いていた人物のをインスパイアさせていただいた。
少々恥だが、インパクトを残すには十分と思える。
だが、長所がたくさんあると、短所が見えにくくなる。
フランドールの地下室にはおそらく大勢が集まっているだろう。大衆の前にこんな姿で現れることができようか。
フランドール一人に見られるならまだいい、だがメイドは何人いる? 数え切れるわけがない。その中のかなりの人数があそこに集まっているとしたら? 大恥だ。
恥ならば、いい。だが大恥はだめだ。
これも、却下となった。
「いっそ、こっそり地下室の前に置く」
これならどうだろう、レミリアは想像してみた。
プレゼントを見つけるフランドール。両手を挙げて喜ぶ。開ける。髪につける。喜ぶ。その日の晩、私のことを思い出す。プレゼントをくれなかった、と思う。泣く。いじける。ここまでは間違いない。悪い定石だ。というより定理だ。
「……あの子、絶対気付かない」
気付かれなければ意味がない。別に感謝されたいと言うのではない。しかし、レミリアがあげた、という事実がなければ、フランドールは怒って泣くに違いない。それでは意味がないのだ、まったくと言っていいほど。
「ああ、難しい……」
レミリアはベッドに倒れこむ。
そういえば自分の誕生日のときはどうだっただろう。レミリアは考え込んだ。
確か、自分のときは……皆がいっせいにクラッカーを鳴らし、「お誕生日おめでとうございます!」と声をかけてくれた。嬉しかった。いや、今でも嬉しいだろう。
その後、プレゼントをくれたはずだ。
最後には『レミリア・スカーレット』という血の文字で書かれたチョコレート板が、そして、上から見ると赤い丸を作っていた苺が美しく飾られていた。二つの赤が、少し赤いケーキを美しく飾っていたはずだ。
嬉しかった。欲しかったプレゼントを貰って嬉しかった。ケーキは美味しかった。そしてなにより、誕生日を覚えてもらえていたことが嬉しかった。
そういえば、咲夜の誕生日のときもそうであった。誕生日は適当に上げたのだが、その時に私は『欲しい物をもらえなかったとき悲しくないの?』と聞いたのだ。でも咲夜は、『悲しくありません』と答えた。『覚えていただいて、こうして祝ってもらえることが、私の最も欲する物です』と言われたのだ。
正直、感動したのを覚えている。
私だって、五百年も生きている。だから色々な人の誕生日に直面した事が何度もあった。皆、『おめでとう』の一言を掛けてあげるだけで、太陽のような笑顔を浮かべていた。それが何故なのか、当時の私にはわかっていたけど、やっぱりわかっていなかった。
そして、それは今わかった。
「そうよ……そうなのよ……! 下手に飾る必要なんてないじゃない。ありのままで十分よ!」
レミリアはベッドから立ち上がり、「決めた」と一言呟き、プレゼントをがっしりと掴んだ。
下手に飾る必要はない。飾る必要はないのだ。
誕生日を覚えている。それがその日の主役に贈られる、最高のプレゼント。
レミリアは、希望に満ちた笑顔を浮かべた。その表情は、悪魔とは思えないほど美しく、純粋に輝いていた。
「待ってなさい、フラン! 今お姉ちゃんが最高のプレゼントをあげるからね!」
フランドールがそれに気付くことは、しばらくないかもしれない。しかし、レミリアは信じていた。
いつかきっと、フランドールも気付いてくれるだろうと。
地下に着いたら、おめでとうの声と一緒にこれをあげよう。形を持たない最高のプレゼントと、お金さえあれば手に入る、形を持つプレゼント、どちらで喜んでもらえるかはわからない。
それでも、レミリアはどちらでもよかった。
最愛の妹が喜べば、それでいいのだ。
「お誕生日の歌の練習くらいはしておこうかな」
レミリアの美しい声が部屋中で、意思を持ったように踊っていた。
●REC
この後お姉ちゃんのプレゼントに喜ぶ妹様の姿が目に浮かぶよ
オチがお腹直撃wwwwwクソウwwwwwwwwww
なるほど、そういう意味の記号だったのか。
あと、わざわざスタイルシート使って行間空けてるなら、さらに改行をそこかしこに挟む必要は無かった気がします。
虚無僧も幻想入りしたのか……