ピチューン!
「い゛たぁぁぁああ!」
「はい、おしまい。敢闘賞くらいあげても良いわよ?」
「ムキー!馬鹿にして!」
地面に無様に叩きつけられたのは、氷精チルノ。
叩きつけたのは、名高い隙間妖怪、八雲紫。
「あんた手加減までして私を笑いものにするの!?」
「あら、私は力加減を合わせてあげただけだけど?」
「それが手加減じゃないのさ!」
「ふふふ、そうなのかもね。
でも私を本気にさせたかったら私を黙らせるくらいの事してみなさいな」
「・・・」
「じゃあね氷精さん、なかなか涼しめたわ」
言い終わると同時に隙間へと消えた。
「私はチルノよ!名前くらい覚えておきなさい!」
もう誰も居ない空に向かって叫んだ。
「ううう・・・ちっくしょう!」
ぽろぽろと頬を涙が伝う。
涙で霞んだ視界に色鮮やかな花が飛び込んだ。
初夏、種から芽を出し、やがて咲かせた一つの花。
その眩しさがまるで自分を笑っているかのように見えた。
チルノは右手に魔力を込めると、花に向かって撃ち放った。
ヒュン!
風のように魔力が通り抜ける。
そこには氷漬けになった花が揺らぐこともなく出来上がった。
「何時かこの花のようにアイツくらい軽く氷漬けに出来るようになってやる!」
鼻息荒く凍りついた一輪の花を蹴り上げた。
キィィン!
軽い音と共に砕け散り、花を内包した氷雨が辺りに舞い散った。
紫はその様子を隙間からそっと見ていた。
「まだまだね・・・」
紫は知っている。
チルノが砕いてしまった、たった一輪のその命の重さを。
チルノは知らない。
命というものの重さを。生きるという誇りを。
それを背負うということを。
全ての者は奪ってしまった命の業を背負わなければならない。
故に紫は知っている。
そこに在る存在の意味を。
故にチルノは知らない。
そこに在った存在の意味を。
「ちょっと紫ー、久しぶりに来たと思ったらもう上の空?」
「ああ、ごめんなさい」
「妖夢ー、用意はまだかしら?」
「はい!ただいま!」
ぱたぱたと足早に徳利とお銚子を乗せたお盆を持ってきた。
「乾杯しましょうか」
「何にかしら?」
「名も無き花に」
「あら?ふふふ、今日の紫は詩人ね」
「良いじゃないの。時間はたっぷりあるんだし」
私も幽々子も抱えた業は一朝一夕には清算できそうにないものね。
「乾杯!」
冥界の片隅にひっそりと一輪の花が咲いた。
それは業を果たし、冥界に生なくして美しく咲き誇った。
書かれた部分はメインから終盤までだったので、紫がチルノと弾幕ごっこを開始するに至るまでの
経緯や理由(なぜチルノに気付かせようと思ったのか)があればもっと良くなっていたかと。
少し短すぎる気もしたけどこの長さでこれだけ書かれているのは見事かと。
面白かった。