『サクラドロップス』
琥珀色の鏡に、花びらが触れた。
私が縁側でべっこうアメを楽しんでいた時のことだ。決して満開とは
いえない桜からこぼれた花びらは二つ、アメにくっついた。わりばしを
真ん中に置いて対照になった花びらは、なんだかまぬけな人の顔のようになった。
情緒かな、と私は桜を見上げる。
私と桜を結ぶ宙には、スキマが見えた。
紫様が来られたようだ。しかし、いつもと違ってスマートではない。
スキマも見せずに私の背後からこんにちわ、あらやだそれでも剣士?と
ささやかな私のプライドを足で踏みにじるのが紫様のスタイルではないか。
しかし今はスキマからおっかなびっくり、よじよじと小さな足を――
小さな足?
「んしょ、んしょ」妙にくすぐったいかけ声で、すとんとスキマから落ちてきた紫様は
なにやら小さかった。私が密かに羨む豊満かつくびれた肢体はどこへやら、
すっとんとんな貧しい体にはあのスイカも桃も実っておらず、端正に整えられ、
妖艶な表情を絶やさない顔は全体的に丸く、彫りも浅くなっていた。背は
私が見下ろせるほどに低く、いつも持っている傘はお子様サイズだ。てっぺんにある
デフォルメしたカエルは何だろうか、好きなのだろうか。
そして何よりもこの辺りに漂う幼き匂い。
少女だった。
「よーむおねぇちゃん、こんにちわ!」
うわぁうさんくせぇ。
紫様の紫様ならぬソプラノを聞いて、私は思わず身構える。
うわぁうさんくせぇ。
「こんにちわぁ!」
聞こえなかったのか、と紫様は丸っこい頬を更に膨らませる。
うさんくさいリスになった。
「こんに、ち、わ?紫様、どうしたんですか、その姿」
どーもしなーい、と紫様はふくれっ面のまま返事をする。
かわ……いやうさんくさい。
「おねぇちゃん、何食べてるの?」
と紫様は大きな瞳を輝かせながら聞いてくる。どうも私の持っているものに
興味が湧いたようだ。
「べっこうアメですよ。作りましょうか?」
「ほしい!」
丸い顔いっぱいに喜びを浮かべて、勢いよく紫様が頷く。平べったい
胸の前に組んだ両手が何ともうさんくさかわいい。
あ、もう私ダメだ。
しばらくして出来上がったべっこうアメを、半霊に突き刺しつつ紫様の
もとへと運ぶ。紫様は居間にいて、幽々子様の背中に飛びついてじゃれていた。
幽々子様は何で不思議に思わないんだろうか、という疑問が私の頭を掠めたが、
そんなことは最早どうでもいい。ずっと見ていたい気もするが、私にはやらなければ
ならないことがある。
「紫様ー!出来ましたよー!」
「わーい!」
殊更大きな声を上げて注意をひいてみれば、紫様はとてとてと見事に私に飛びついた。
あぁ、至福。
「わぁー!いっぱいあるー!」
そう、べっこうアメとは所詮砂糖の塊。砂糖の塊であるが故の深みであることは
ここに述べるまでもないが、目の前のお子様にわかって貰えるとはハナから考えていない。
少女にはこだわりなぞ存在しない、無邪気たるべきなのだ。
そんな少女により自分の愛を捧げ、そして愛を勝ち取るにはどうすればよいか。
ヒントは既に桜にあったのだ。つまり味覚異以上の視覚効果。私という愛の料理人は
こんなこともあろうかと、砂糖1kgで動物園がオンパレードするほどの細工技術を
身につけていたのだ。震える半霊が3Dムービーをアクセンツ。
「好きなのを選んでくださいね」
紫様にとっておきの笑顔を振りまきながら、少女の背後にいる幽々子様に
「ゆかりんさしおいて勝手に先に選びやがったらガチンコいくぞこらぁ」な視線を
向けることを忘れない。幽々子様ちょっと涙目。
うーん、と紫様は迷っている。しまった、個性が個性を覆い隠してしまったのか?
いいやそのはずがない、製作時間のその9割を、紫様の魅力、紫様への愛そのものを
注ぎ込んだ紫様象「ゆかりん☆キャンディ」をえらばないはずがない!
ねぇ、と紫様がおずおずと聞いてくる。
「みっつ、とっちゃだめ?」
妖夢、鼻血垂れてる!と幽々子様が何やら騒いでいるが何のことだ。
私は今紫様の思いやりというかささやかなわがままに私の気が触れて忙しいのだ。
黙っておいて貰えないだろうか。
「いくつでも持っていってもいいですよ」
何とかそれだけをカタコトと言葉にすると、紫様は嬉しそうに、すぐにみっつ手に取った。
いくつでもいいっていったのに!なんて控え目な!
私は感動の赤い花汁を垂らしながら、選び抜かれた名誉ある娘たちを見やる。
きつねさん。元気いっぱいなあの黒猫にあげるのだろうか。
ねこさん。気苦労の絶えない中間管理職をねぎらうのだろう。
そして、そして――。あぁ、私は夢でも見ているのだろうか。自分の似顔絵なんて
気恥かしいと思いながらも、ひょっとしたら選んでくれるんじゃないかなんて期待した――!
「ありがとー、おねぇちゃん!」
―――…………おうっ。
「妖夢、妖夢、しっかりしなさい!」
幽々子様が私を起こす。何をしているのだろうか……。アレ?
「紫様は?」
「紫ならもう帰ったわよ。『らんとちぇんにアメあげてくるー』って」
畜生、あのちっちゃな体がスキマによじ登るとこ見たかった!一気に目が覚める。
「あー……、そうですか」
夕方になって友達が帰っていった。そんな寂しさを覚える。
あー、妹が欲しいなー。
じじいどっかでハッスルしてねぇかなー。少女作れよ。絶対。
ん?そうなったら血縁どうなんの?おばだったか、いとこだったか。
いいや絶対妹だね。百歩譲って義妹だね。むしろ義妹いいね。
ハァ、と下らない考えを頭の隅にやる。
仕方ない、今日のところは『ゆかりん☆キャンディ』を心ゆくまで堪能して……
ア゛―――ッ!!!!!!てめえ幽々子、作っといたアメ全部食いやがったな!
『ゆかりん☆キャンディ』作るのにどんだけ「落ち着きなさい、きもようむ」
めがさめた。
『グラフィックノイズ』
私は絵を描いている。
真っ白なキャンバスに向けて色を塗る。
完成すると、キャンバスは真っ黒になる。
一つ色を塗って、二つ色を塗って、
気に入らなくなって三つ色を塗る。
重なった色が何であったかなど
わからなくなるほど、それは色を含んだ黒。
完成する。私はまた真っ白なキャンバスを
置いて、絵を描く。
私は絵を描いていると、眠くなる。
だから私が絵を描くと、最後には
完成することのない絵が残る。
薄い青色ばかりに塗り残しの白。
空のようなもの。
いつもの真っ黒に、ぽつんと欠けた丸い黄色。
月夜のようなもの。
私はクレヨンを手に取った。
いつも以上にブツ切れた、丸い柔らかい色が描かれる。
この服はお城で流行りのドレス。
この靴は夢の世界を歩くための靴。
この傘はこぼれたお星様を受けとめるための傘。
周りは一面、桜が花開く。
いつものように眠りこけたとき、
キャンバスはこげ茶色に塗り潰されていた。
色とりどりのアメ玉に包まれる、
私はそんな子供みたいな夢を楽しむ。
とりあえずひとつめのに対する点数だけどうぞ。
半霊にハシぶっ刺すなよみょんwww
一度読み返して自分以外がどこまで作品の意図を感じ取れるか考えたほうが良いです。
後半とあわせる理由は何だったのだろう?まあその辺が理解できず。
二つをあわせて一つの作品とするならしっかりした伏線を持ってくるなりしたほうがいいかな?
紫様象→?
キャンパス→キャンバス(canvas)?
前半はぶっ飛んだ妖夢が珍しかったです。
済みませんが後半は理解できませんでした。
もう一つ、中身と関わりないのですが、
こだわりがなければコメント返しはあとがきかコメントにお願いしたいです。
今回はまだそれほどでもないですが、物語の終わりが明確でなくてぼやけたとか
余韻ぶちこわしだなぁなどと貴方の過去作で何度か思ってしまいました。