Coolier - 新生・東方創想話

或いはそれは二人の願い

2008/07/09 19:56:17
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「ねえ雛ー」
「……なににとり」

 今わたしとちょっと前にいろいろあって仲良くなった雛は妖怪の山の比較的麓の方にあるちょっとした丘の上に来ている。
 ここからだとなにも遮るものがない夜空をだいたい150度くらい見ることができる。今現在その夜空には無数の星が遊んでいる。前に山の上の巫女と話したという天狗の新聞記者が言ってたぷらねたりうむとやらもこんな感じなのだろうか。

「今日は世間では七夕って言って笹に短冊付けて願いごとするらしいんだ」

 雛はずっと樹海にしかいなかったから樹海の外の世界についてはあまり知らない。だから私は雛と話すときは決まって樹海の外の話をする。

「……それくらい知ってるわ」
「ええっ!?」
「何で驚くのよ!」
「だ、だって私の雛は七夕を知らないはずなのに……!」
「知ってるわよ! それより何で名前の前に所有格がついてるの!?」
「ユーアーマイン」
「いつから私はにとりのものになったの!?」
「忘れたとは言わせないよ、あの夜の約束を」
「何の話!?」
「…………え? ……雛、まさか──」
「な、なに?」
「記憶喪失に……」
「なってないわよ! いきなり悲しげな表情するから真面目な話かと思ったじゃない!」
「雛と話していると飽きないなぁ」
「一方的に私がからかわれてるだけだけなんだけど!」

 おおっと、七夕からずいぶん話がズレたなぁ。戻さないと。

「でさ、今日は七夕なわけなんだけどさ」
「生憎笹も短冊も無いわよ」
「そこでこれさ! 永遠亭っていうところの近くを通った時に黒髪の兎が私に百円で売ってくれた笹と短冊のセット!」

 私はリュックサックから笹と短冊を取り出した。そんなの入るのかって言うツッコミはなしだよ。

「百円……お金はよくわからないけど高いのかしら?」
「う~ん……私もお金は拾ったのしか持ってなかったからよくわからないなぁ……でも、高級和紙とと高級笹なんだって。だから高いんじゃない?」

 まぁもしボッタクリだったとしても私はお金とかは使わないからいいけど。

「高級笹……? 笹にも高級とかあったのね」
「きっとお百姓さんがきゅうりを育てるみたいに大事に育ててくれたんだと思うなぁ……」
「キュウリ……まぁいいわ。それでその短冊に願い事でも書けばいいんでしょ?」
「さすが雛! 話が早いね! あ……でも……」
「? どうかしたの?」
「雛、文字書けないんだっけ……」
「にとり、あなたさっきから私のことおちょくってるでしょ!」
「え? まさか書けるの……!?」
「当たり前でしょ!? 私をなんだと思ってるのよ!」
「もちろん、私の友達だと思ってるよ。……少し頭は弱いかもしれないけど……」
「どこがよ!」

 もちろん分かってて言ってるけどね。
 私は笹を地面に置くと短冊を二枚取り出した。片方は自分で持ち、片方は雛に渡した。雛はムスッとしながらも受け取ってくれた。

「さ~て、何書こうかな~」
「『純粋だった頃のにとりが戻ってきてくれますように』っと」
「雛……。私、雛は友達だと思ってたのに……」
「そこまで!?」
「私も書いてやるぅ! 『雛の半径二メートル以内で最終戦争が勃発しますように!!』」
「どんな状況よそれ!」
「雛、河童はね、未知なるものに夢を持つ生き物なんだ」
「何の話よ!」

 まぁ流石にさっきのは書くわけにいかないから別のにするけどね。……う~ん、何にしようかな~。

「そうだな~…………あ!」

 ここはオーソドックスにいってみよう!

「『幻想郷が平和でありますように』っと」
「えらく普通ね……」
「普通だからいいんだよ。妙に凝った奴にするよりかはさ」
「ふぅん…………」

 私がそう返すと雛はさらさらっと短冊に何かを書いた。

「雛~、何書いたの~」
「…………『永遠に日常が続きますように』よ」
「普通だね」
「さっき普通が良いって言ったの自分じゃない」
「少しはひねったほうが良いよ」
「……どっちなのよ……」
「半分」
「……どっちつかずね……」
「中途半端が良いって誰かが言ってたよ」
「物事にもよるけど」

 誰だっけ? まぁいいや。とりあえず笹に吊るそう。

「それにしても天の川が綺麗ね」
「そうだね。雛も綺麗だね」
「そうね……って、な、なんてこと言ってるのよ! 極めて自然に!」
「美しいよ……」
「だ、だかだかだから……」

 うん。赤くなってあうあう言ってる雛も可愛いなぁ。

「うん。赤くなってあうあう言ってる雛も可愛いなぁ」
「はぅ!?」

 おおっと、思わず声が出ちゃった。雛、湯気が出そうなくらい顔を赤くしてるよ。

「うううう…………」
「大丈夫。雛の面倒は私が見るよ」
「な、なな何の話よ!」

 雛が顔を真っ赤にしながら反論してくる。

「婚後の話だよ」
「な、なんで今後の今が結婚の婚になってるのよ!」
「式は博麗神社と山の上の神社、どっちがいいかな」
「無視して話を進めないで!?」

 やっぱり雛と話してると飽きないなぁ……。
 …………さて、面白い雛もたくさん見れたことだし、そろそろ短冊を吊るそうっと。

「あ、そうだ。吊るす前に……」
「? 何やってるの?」
「あ、ちょっと待ってね」

 私は自分の短冊にやや細工をし、笹に吊るすことにした。
 細工を終えて私が短冊を笹に吊るすと、後に続いて雛が短冊を吊るした。笹にはそれしか装飾は無いけれど、まぁいまさら作るにも材料も時間も無いし別にいいだろう。
 笹を近くの岩に立てかけ、私はごろんとそこに寝転がった。ちょっとゴツゴツしてるけどこうしたほうが沢山の星が見れて綺麗だ。
 雛は座ったままでやや首を上に上げて星を見ている。

「ねぇ、雛も寝転がって見れば? こっちの方がいっぱい見れるよ?」
「いいわよ。服が汚れちゃうし」
「え? でも雛、いつでも寝転がれるように髪型整えてるじゃん」
「寝転がるのは関係ないわよ! ただの趣味」
「でも寝転がるときに便利だよね」
「……まぁそうだけれど」

 そう私に返すと雛も寝転がった。

「あ、結局寝転がるんだ」
「にとりがオススメしたからよ」
「素直じゃないなぁ。寝転がりたかったんでしょ?」
「……………………」

 あ、無視された。

「ひどいよ雛…………そんなに私のことが嫌いなの?」
「だからなんで話がそこに行くのよ!」
「いや、無視されたから……」
「…………私も寝転がりたかったわよ…………」
「え~? 何? 声が小さくて聞こえなかったなぁ」
「絶対聞こえてるでしょ絶対!」

 雛が顔を赤くして反論してきた。
 私は両手を頭の後ろに回してふぅ、と息をついた。

「ん~……やっぱり綺麗だなぁ~」
「そうよね。天の川なんて眩しすぎるわ」
「それは雛がずっと暗い森の中にいるからだと思うよ」
「失礼ね、たまには明るい場所で厄集めしてるわよ」
「たまには、ねぇ。どれくらい?」
「……月一くらい」
「少ないなぁ」
「……し、仕方ないじゃない。森にはあんまり日が当たる場所が無いんだから」
「じゃあ日が当たる場所に率先して出れば?」
「数が少ない上にあまり広く無いから厄集め中に飽きるのよ」
「森以外は?」
「人間に厄が戻っても良いなら」
「……ダメかぁ」
「まぁ大丈夫よ。私は人間と違って日にずっと当たってないから大変なことになるなんてことは無いから」
「それもそうだけどね……んっ!」

 風が強く吹いてきて帽子が飛びそうになったので、慌てて私は頭を押さえた。

「って、うわおー!」
「どうしたの、にとり?」

 すると、風で短冊の一枚が飛ばされてしまった。私は慌てて起き上がるとそれを追いかけ、丘の端っこ辺りで取ることが出来た。

「あぶなかったぁ」

 ほっと一息ついて私は取った短冊を見た。あ、雛のだったんだ。
 …………?

「裏に何か書いてある…………?」

 私は短冊を持った手に僅かに黒い跡が付いたのを見てそう思った。
 もし『にとりが致死量の厄に侵されて天寿を全うしますように』とかって書かれてたらショックだなぁ……。
 私は短冊を裏返してみた。

「……………………」

 ……………………雛って本当、

「素直じゃないなぁ…………」

 まぁそこが良いんだけどね。
 私は短冊を表に戻すと笹のところに戻ってそれを括りつけた。

「短冊飛んでいかなくて良かったわね」
「うん。…………あのさ、雛」
「何かしら?」
「普通に書いてくれても私は良かったのに」
「え…………?」

 雛はややわからないといった表情を見せた後、笹のほうを見て、顔を真っ赤にした。

「み、みみ見たのね!?」
「ん~? 何を~?」
「な、なんで見たのよー!」
「それは……ほら、あれだよ。河童は未知なる物に興味を持つって言う……」
「さっきのアレ!? 絶対関係ないでしょ!」
「関係ないかもしれないけど、もう見ちゃったよ?」
「うう……」

 まったく、本当に雛は素直じゃないなぁ
 そう思って私は雛の書いた短冊をめくり、裏を見た。

「ちょ、ちょっと! 一回見たんだからもういいでしょ!」
「『にとりとずっと一緒「わーわーっ! 何で音読するのよ!」
「ごめん、つい……」
「ついって何よついって!」
「河童には笹にくくりつけられた短冊の内容を音読したくなる習性があるんだ」
「えらくピンポイントな習性ね!」
「大丈夫。雛の書いたことは──きっと明日には天狗さんによって幻想郷中に広まるから」
「やめてー!?」

 『にとりとずっと一緒にいられますように』
 私はそう書かれた雛の短冊を見て思った。「やっぱり私たちは友達だなぁ」と。
 そして、「私も素直じゃないなぁ」とも。
 私はチラっと自分の短冊を見た。短冊は少しの風に揺れてヒラヒラしている。そしてヒラヒラとする度に少し裏が見え、私は少し気恥ずかしいと思った。

 『雛とずっと一緒にいられますように』

「……………………おんなじことを考えるなんてねぇ……………………」
「? 何か言ったかしら?」
「いやー? 別に? ただ雛が真っ赤な顔してるのが可愛いって言っただけだよ」
「はぅ!?」

 私はようやく落ち着いてきた雛をもう一度慌てさせ、夜空の天の川を見た。
 そして綺麗だなぁ、と思い目を閉じた。
 願わくばこの幸せな時が永遠に続きますように。
どうも、二回目なメガネとパーマです。
今回だけではないですが、私の文章にはどうやらキャラが独りだけの場面では無駄に地の分が多く、キャラが二人以上そろうと逆に台詞が以上に多くなる性質があるようです。
……まぁ今回はそこまで真面目な話じゃなかったので地の分が多くなるよりかはいいですが。
そうそう、私の中ではこのSSの二人の性格は逆です。要するに普通は雛がボケてにとりがつっこむということです。なのになぜかこんな風になりました。不思議です。
ちなみに話に出てきた百円はまだ「銭」の単位が使われてた頃の百円ですから多分一万円くらいだと思います。すごい詐欺ですね。
そんなこんなで二日遅れですが七夕SSをお送りします。
前回とは百八十度違う内容ですが、楽しんでいただけたらと思います。

そうそう、夏に合宿で諏訪に行ってきます。ケロちゃんとか早苗さんに会えるはずです。
……え? 勉強合宿だから宿舎から出れない? そんなバカな。
メガネとパーマ
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コメント



0.940簡易評価
12.80名前が無い程度の能力削除
にとりって雛の近くにいて大丈夫なん?たしか厄は雛の「周り」に集まるものだったような。
15.100名前が無い程度の能力削除
甘い、このにと雛は甘すぎる。だからもっとやれ。
16.80名前が無い程度の能力削除
にと雛の甘さの前には厄なんて無力です
19.80名前が無い程度の能力削除
雛とにとりはシリーズ化決定ですね!
今回は一人称の切り替えしがなくて流れがきれいですね、とてもいい雛ひとでした~。
22.90名前が無い程度の能力削除
甘味が・・・甘味が凄い!
もっと食べたいです。