私に両親はいません。
守矢の宗家に産まれた私ですが、物心つくまえに両親を事故で亡くし、神事の手伝いもしていた分家筋へと引き取られました。
4歳になった私が義父に連れられ守矢神社に訪れたとき、酷く懐かしい感覚に襲われたことを今でも覚えています。
赤ん坊の頃、母の腕に抱かれて境内を見回った記憶。
思わず泣き出しそうになりましたが、幼い私は歯を食いしばり、それを耐えました。
参拝者も減っているとはいえ、立派な境内には、樹齢を重ねた大木や、天に聳える御柱が。
義父から離れてちょこまかと歩いていると、しばらくそこらへんで遊んでいなさいと、義父は私を境内に置いて行ってしまいました。
ええ、私がただの風祝の子なら。
信仰を忘れた現代人なら。
話はこれで終わりだったんです。
ふとベンチのほうへと目を向けると、一人の女性が寂しげに日本酒を煽っていました。
義父はその女性に目を向けることもなく、ずかずかと本殿のほうへと消えていく。
一度だけ、義父を見て大きなため息を吐き、また日本酒を傾ける女性。
興味が沸いた私は、危なっかしい足取りで駆けていき……。今では転びませんが、子供の頃はよく擦り傷を作って泣いていました。
きっとその女性も、私の足取りが気になったのか、少し腰を浮かせていつでも駆け寄れる準備をしていましたね。
「こんにちは!」
私が女性へと話しかけると、女性は目を見開いて、飲みかけの日本酒を一息に飲み干しました。
そのあまりに豪胆な飲みっぷりに驚いて一歩引くと、女性――八坂さまは、まるで物語に出てくる妖精のようなことを言ったんです。
「私の姿が、見えるのかい?」
その言葉に思わず吹き出すと、確か、少し顔をしかめたような。
慌てて取り繕って、見えます見えますと頷いて見せると、八坂さまはほんわかと暖かい笑顔を見せて、それと同時に、小さな雫を零したんです。
「私も、もう忘れ去られていくだけだと思ったんだけどねぇ……」
「泣いてるの? 何が悲しいの?」
指を咥えて、そういうと――今思えば、なんだかやっちゃった感が否めないんですけど。
そんな私を、八坂さまは抱きしめてくれました。
「さわれる、触れられる……」
当時の私は、そう言って泣く八坂さまがわかりませんでした。
ただ裾をギュっと掴み、しばらく胸に顔を埋めていました。
風祝の力が弱まり、信仰も消えていく。
この悲しみの意味が、私にはわからなかったんです。
◇◆◇
ミィンミィンと、蝉たちがまくし立てる朝。
私は今日も、日課である掃き掃除を鼻歌を歌いながらこなしていく。
鬱陶しかった梅雨もようやく過ぎて、いまの悩みと言えば、照りつけるこの殺人的な日射。
諏訪子さまから借り受けた帽子を被って日射を防ぎながら、竹箒で落ち葉を吹き飛ばしていく。
風を起こして葉を飛ばしてもいいのだけど、そういう手抜きをすればするほどに、信仰というのは失われていくもの。
でも、神様本人が箒を動かしているのも滑稽な話だと思うのだ。
さっきまで繰り広げられていた光景を思い出して、思い出し笑いがこみ上げてしまった。
神様自身が境内の掃き掃除をしているだなんて、いままで聞いたこともありません。
いつも早苗にばかり任せっきりなのも、だなんて八坂さまは言いましたが、好きでやっていることですから。
これぐらい、何が苦になるもんですか。
先ほどの会話を思い返しながら、せっせせっせと箒を動かして行く。
掃いているうちに、がなり立てているはずの蝉が、儚くもその命を散らせていました。
地面にお腹を向けて寝転がっている蝉を、箒で掃き飛ばして行く。
少しだけ可哀想かとも思いましたが、そこに気を払っていれば、この広い境内の掃除はいつまで経っても終わりません。
儚いと言えば、思い出す言葉がありました。
信仰は儚き人間のために。
時代錯誤の言葉だと、先日天狗たちとの宴会で八坂さまがぼやいていたのとふと思い出しました。
私に比べれば、まるで永遠に思える年月を生きる天狗たちは、その言葉に一様に頷いていました。
その中でも泣き上戸の天狗は、八坂さまの肩を抱いて涙を流し。
「辛かったなぁ。人間たちはいつか、何をも恐れることが無くなるだろうよ。それこそ自らの破滅すら」
諏訪子さまも上機嫌に飲んでいらしたけれど、その言葉に一瞬だけ、表情が暗くなりました。
いまだに私は、八坂さまと諏訪子さまとの間にあったことは知らされてはいません。
ただ、ずっと昔から連れ添っている親友だということだけしか、二人のことは知らないんです。
それでも、諏訪子さまには八坂さまの、八坂さまには諏訪子さまの気持ちが、痛いほどにわかるのだろうとわけもなく感じました。
神をも駆逐する現代人。
鬼は、人間に愛想を尽かしてどこかへ消えた。
妖怪たちも、次第にその居場所を消し去られていく。
いつしか、竹箒を掃く手は止まっていました。
◇◆◇
それからというもの、私は頻繁に守矢神社へと通うようになりました。
私の姿を見つけるたび、八坂さまの表情はパっと明るくなり、私が小さな出来事を話すたびに嬉しそうに笑ってくれました。
「八坂さまの話も聞きたい!」
そういうと、八坂さまもたくさんのお話をしてくれました。
ヤマタノオロチを退治した英雄、スサノオノミコトの話。
嘘つきで皮を剥がれた、因幡の白兎のお話。
天の岩戸を開けるために、あれやこれやと策を弄したというお話。
私は目を輝かせて、その話一つ一つを聞いていました。
「それじゃあ、諏訪のお話をしてあげようかねぇ」
「聞きたい聞きたい!」
「早苗!」
突然の呼びかけに驚いて振り向くと、義父はまるで物の怪を見るかのような顔をして立っていました。
「帰るぞ、早苗」
叔父には、八坂さまの姿は見えていません。
何もいない宙空に向かって話かけている変な子供。
そう取られても仕方はありません。
帰り道、沈黙が恐くって私は義父に話を振りました。
八坂さまから聞いたお話の数々。
半ば必死になって、私は次々と聞いた話を義父へと語りました。
義父はその間ずっと、黙って私の話を聞いていました。
そして。
「私以外に、その話をするんじゃない」
当時の私は、その言葉が非常にショックでした。
そのまま顔を伏せて、顔を真っ赤にして涙を必死で堪えた、そんなことだけ覚えています。
でも、十年も経ってからようやく気づくことができたんです。
義父は、私のことを本当に愛していたんだってこと。
◇◆◇
幻想郷にきてから、もう数ヶ月で一年が経ちます。
向こうに置いてきた友達も、好きだったテレビ番組も、帰り道に食べたアイスクリームの味も。
記憶の中でぼやけはじめていて。
後悔しているかって言えば、そんなことはないんです。
自分の意思でこの幻想郷に来ると決めたのだし、戸惑うことだってあるけれど、それが選んだ道ならば。
ミィンミィンと蝉が鳴く。
木陰に涼しい風が吹く。
神社で売られていた、蛙と蛇の髪飾り。
義父の提案で売り出した髪飾り。
若い子には受けないよと笑った。
だというのに、幻想郷に着てからは常にこの髪飾りをつけていた。
「あー、早苗サボってるー」
木の後ろから、ひょいっと諏訪子さまが顔を出し、まるで悪戯をした子を咎めるように唇を尖らせた。
「そんなサボってるだなんて、休憩してるんですよ」
「せっかく帽子貸してあげてるのにー」
ケタケタと笑って、隣に座る諏訪子さま。
足をぶらぶらさせながら、頬をほころばせている。
山吹色の髪が木陰に吹く涼しげな風に揺れている。
「早苗は、幻想郷に来てシアワセ?」
「ええ」
「そ、わかりきってたことだね」
幸せでなかったらなんだろうか、夜毎に帰りたいと泣き言を言うほど私は弱くはないし。
自分で決めたことなのだから、逃げ出すつもりも毛頭ない。
楽しめないのなら楽しめばいい。
「私は、早苗と出会えて幸せかな」
「え?」
諏訪子さまの突然の告白に戸惑うと、諏訪子さまは微笑んで言葉を続けます。
「ずーっと、神奈子しか話し相手がいなかったからさ。ううん、別に神奈子を咎めてるわけじゃないよ」
そういって、また足をブラブラさせる諏訪子さま。
「私も、諏訪子さまのことが大好きですよ。八坂さまと同じぐらいに」
「そ、なら神奈子のことも名前で呼んであげなよ。親しみを持って、さ」
ピョンッと蛙みたいに飛び上がると、諏訪子さまは神社の中へと消えていってしまいました。
◇◆◇
一度だけ、八坂さまにこっぴどく叱られたことがありました。
小学生二年生の秋、運動が苦手だった私はどうしても、学校行事のマラソン大会に出たくなかった。
そのために、大風を起こしました。
当時の私の力なんていうのはちっぽけで、それでも、学校行事を中止にするぐらいは簡単にできて。
テントが飛ばされる危険性があるということで、マラソン大会は急遽中止。
マラソン大会をぶち壊しにした私は、放課後、守矢神社へと駆け込みました。
私にはこれだけの力があるんだって、八坂さまに自慢したくって。
でも、待っていたのは大目玉。
少し考えれば、子供にだってわかります。
その行動がいかに利己的だっていうことぐらい。
それでも私は、なぜ叱られるのかがわからなくって大泣きしました。
優しかった八坂さまがなぜ怒るのか、褒められると思っていたのにどうして。
たまたま参拝に来ていたお爺さんは、独り泣いているのを見て不思議そうにしていましたが、私は袖で涙を拭って、雑木林へと逃げ込みました。
三十分も泣いた頃でしょうか、日も短くなってくる季節です。
闇雲に入った雑木林の中で、いったいどこが出口かがわからなくなってしまいました。
泣いて泣いて涙も枯れたと思ったのに、心細さと不安からまた涙が溢れ出しました。
「帰りたいよぉ……」
しゃがみ込んで泣いていると、いつのまにか目の前には女の子が……。今思えば、諏訪子さまでしたが、が立っていました。
「どうしたの? こんなところで。蛇に食べられても知らないよ?」
「道が、道がわからないの」
「ふぅん、じゃあお姉ちゃんがおぶっていってあげるよ」
そういうと、諏訪子さまは私の頭に被っていた帽子を被せて、私をひょいと担ぎあげました。
「カエルが鳴くからかーえろ~♪」
「カエルが鳴くからかーえろ~♪」
諏訪子さまの歌う声にあわせて、私も一緒になって歌いました。
そして、背負われているうち、泣き疲れからかいつのまにか眠りに落ち、気がつけば、私は家の前で一人立っていました。
この不思議なことを、マラソン大会のことは隠して話すと、義母は、「守矢の神様」が助けてくれたんだと言いました。
義父は、ずっと黙りこくったままでした。
次の日、私はまた守矢神社に着ていました。
八坂さまは相変わらず、寂しげにベンチに腰掛けていましたが、私の姿を見ると複雑そうな表情をしました。
「今日はこないと思ってた」
そういって、またお酒を煽る八坂さま。
私は叱られたことよりも、出会った不思議な女の子について切々と語りました。
はじめは驚いた顔をしていましたが、すぐに頬を緩め。
「私の古い友人さ、早苗のことでも気に入ったのかもね」と。
この頃は知識もありませんでしたが、人間ではないことぐらいはなんとなく察することができました。
◇◆◇
「こんにちは、早苗さん」
「え、ああえっと、こんにちは椛さん」
諏訪子さまが去ってから、一人ベンチでぼんやりしていると。
白狼天狗の犬走椛さんに話しかけられました。
当初は、妖怪の山へ参拝者が登ることを天狗さんたちは懸念していて、ちょっとした騒動にもなりました。
でも結局のところ、ここまで参拝にくる人なんて居ません。
たまにくるお客さんも、大体が山の妖怪さん。
それでも信仰は溜まるので、人間と差別するような真似はしません。
重そうな盾をおろして、隣に腰掛ける椛さん。
山に来る人間を監視し、必要があれば追い払うという仕事をしているそうなのですが、あまり仕事はないようです。
数日に一度、こうして神社にやってきてはお賽銭を入れていってくれます。
「ねえ、早苗さん」
「はい?」
「人間の里に、あいすくりーむ屋さんができたんだって。八雲紫プロデュース」
懐かしい響きだった。
幻想郷に来る前は、こういった暑い日にはコンビニに寄って、モナカやアイスキャンディなんかをくわえて自転車をこいでいた。
坂をブレーキもかけずに一気に駆け下りて、全身に風を感じて。
「聞いてる?」
「え、あ、はい……すみません。アイスクリームの話ですよね?」
「うん、この後一緒に行こうよ。私も人間の格好していくからさ」
帽子を被る真似をしてニッコリと笑う椛さん。
雪に溶け込んでしまいそうな白い髪が、ふわり風に揺れた。
「それじゃあ、先に掃除を済ませてしまいますので」
「私も手伝おうか?」
「いえ……。すぐに終わりますから」
傍らの大木へと立てかけていた竹箒を持ち直して。
◇◆◇
中学生になった私は、日課に朝の掃除を取り入れました。
部活に所属すると、放課後に神社へと顔を出すことができません。
八坂さまは私を気遣って、無理をしなくてもいいんだと言っていました。
でも、私が来なくなったらきっと、いいえ絶対に、八坂さまは寂しがるだろうという確信がありました。
毎朝5時半に目を覚まし、約1時間ほどの逢瀬。
この強引さは、まるで押しかけ妻のようだったかもしれません。
八坂さまには何でも相談をしました。
学校のこと、友達のこと、部活のこと、そして義理の両親のこと。
義母は相変わらず、勉強勉強と口うるさく言っていましたが、義父とはあまり会話する機会がありませんでした。
私のほうから避けているというわけでもなく、義父も、必要があれば話を振ってきます。
しかし、どこか他人を相手しているようで、なんだか居心地が悪かったことを覚えています。
元々義父は無口な人で、義母にこのことを相談したときは笑い飛ばされました。
ですが、私には義父の戸惑いというものに気づいていました。
ある日のことです、いつものように目を覚まし、ジャージに着替えて家を出ようとしたときでした。
家を出る前に麦茶を一杯飲みたいと思い立ち、リビングに入ると義父が難しそうな表情をして座っていました。
叱られると思い一瞬身を竦めましたが、義父は私を咎めるようなことはまったくせずに、小袋を渡してまた、寝所へと消えていきました。
一体なんだろう?
不思議に思いましたが、袋を開けることはなんだか憚られて、麦茶を一杯飲んで私は家を出ました。
いつも通りに掃除を済ませ、八坂さまの座っているベンチへと私も腰掛けます。
やはり他愛のないことを八坂さまへと聞いてもらい、そのうちにふと小袋の存在を思い出します。
袋を開けると、日本酒の小瓶と、お塩の入った小瓶が入っていました。
「へぇ、信心深いねえ」
八坂さまは嬉しそうに言うと、お酒を飲みたそうな顔をして舌なめずりをしていました。
「朝からお酒なんて、飲んだくれの呑兵衛になっちゃいますよ」
そう言うと八坂さまはちょっぴり悲しそうな顔をして。
「早苗のケチ、あんたの先祖の顔が見てみたいよ」
そういってごちるのでした。
先祖といえば、歴代の風祝はいったいどのように、八坂さまと付き合っていたのでしょう。
興味の沸いた私は、八坂さまにそう質問をしました。
「んー……そうさね。むかーしむかし、まだ人間が信心深かった頃は、お祭りも盛んだったし風祝とも一緒にお酒を飲むこともあったよ。
でもここ二百年ぐらいで急に風祝の力も弱まって、私の力も弱まってねぇ……。
ははっ、近い将来には、私も誰からも忘れ去られて消えてしまうのかねぇ……」
「そんなことはないです!」
思わず叫ぶと、びっくりした八坂さまはベンチからずり落ちそうになりました。
興奮した私はそのまま言葉を続けます。
「八坂さまは忘れ去られたりなんて、絶対に忘れたりなんてしませんから!」
堰を切ったようにあふれ出した涙を抑えきれず、私は八坂さまにすがり付いてしばらく泣き続けました。
「絶対に、忘れたりなんてしませんから」
◇◆◇
「うわぁ、凄い混んでる」
アイスクリーム屋さんは、猛暑ということも手伝ってか行列が店の外にも続いていました。
椛さんは小言を呟きながら渋い顔をして、けれどもそれ以上は不満も言わずに行列へと並びます。
私も一緒に並びましたが、椛さんの姿が美味しい甘味処にはどんなに並んでも食べに行く女の子たちとダブって見えました。
妖怪といえども、やっぱりこういうところは女の子なんだと思わせられます。
並んでいる人たちも、やはり女性が圧倒的に多いです。
魔法の森在住の魔法使いの方々や、湖のほとりにある館の面々。
それに、相談事があれば気軽に聞きにこいと言ってくれた上白沢さんとそのお連れさんの姿が見えます。
みんな楽しげに、アイスクリームを話のタネにして盛り上がっているようでした。
「なぁ慧音、アイスクリームってのは牛乳を材料にしてるんだってさ。けーねのおっぱいも材料にしてもらったらどうだ?」
「ば、ばか! 公衆の面前でなんてことを言うんだ! それに私はまだ母乳は出ないぞ!」
ちょっと倫理的にマズい発言な気もしますが、そういったところにオープンなのも幻想郷のいいところなんだと……思います。
というか牛呼ばわりされたことは否定しなくていいんですか……?
そう心の中でツッコミを入れながら苦笑い。
「つぎー、れみりゃご一行さま。
あー咲夜、ちょっと空間を広げてくれない?
スペースがなくて困ってるのよ」
アイスクリーム屋さんから出てきたのは、なんと割烹着を着た霊夢さん。
前列で並んでいた魔理沙さんがそれを茶化していましたが、霊夢さんは頭をかきながら苦笑いをしているだけでした。
「紫が人手足りないって言うから駆り出されてるのよ。
神社も涼しいっちゃ涼しいんだけど、手伝えばただで食べれるっていうのなら、ねえ?」
「違いないな」
得心したように頷く魔理沙さんと、若干疲れた表情で笑う霊夢さん。
やっぱり、この二人っていいコンビだと思います。
「暑いー、アイス食べたいよー」
椛さんは早くも待ちくたびれたみたいで……ってまだ並んで十分も経ってませんよ。
もしかすると、暑さには弱いのかもしれません。
尻尾や耳が見えないよう……といっても妖怪も平気で来ているんだから変装の必要もないと思うんですが。
「うー、麦わら帽子をとかを被ってくればよかったよ、耳が隠れるからってこんなのにしたけど」
ギュッと帽子を引き下げる椛さん。
「別に変装する必要なんてないのでは? 妖怪もアイスクリーム食べにきてますし」
「んー……。白狼天狗が山を出ると怒られるから」
「あっ……」
天狗の社会はほとんど鎖国状態。
他種族との関係をほとんど断ち切って、妖怪の山に独自の文化を築いている変り種。
けれど、守矢神社での宴会の印象が強くって、そんな基本的なことすら失念していた。
その思考がいかに幻想郷染みたものかということに気づき、少しだけ薄ら寒くなった。
「はーい、十六夜咲夜さんが室内広げてくれました、前から二十名さまご案内ー。
でも畳の上で適当にだべってね。チャブ台もないし」
これ以上ないぐらいにやる気のない霊夢さんの案内で、私と椛さんを含めた二十人が畳に……。
外と中で明らかに広さは違うのですが、アイスクリームを口いっぱいにほお張っているお嬢様の横で、メイドさんは涼しい顔で立っていました。
まるで、この程度当然でしょうと言わんばかりに。
幻想郷では風を起こす程度の能力は珍しくもなんともないのです。
室内が外に比べてひんやりとしているのも、氷精を手懐けたおかげ……幻想郷にくるまで考えたこともありませんでした。
暑ければクーラーをつければいいし、飲み物は冷蔵庫で冷えている、それが当たり前だと思っていましたから。
私は捩れているんです。
常識を持ちながら、非常識の力を持っていた。
でも、幻想郷に来て気づきました。
非常識の力は幻想郷の常識に飲み込まれて、それまでに持っていた常識は幻想郷の非常識として扱われることに。
結局、場所が変わっても、完全に馴染むことなんて……。
「早苗さん? アイス選べだってさ」
「え、ああはい……すみません」
「私はいいんだけど、そこの巫女がイライラしてるかも?」
「バニラでいいでしょもう」
だめだなぁもう、今日はなんだか頭がぼーっとしてて……。
椛さんの言葉で現実に引き戻されると、霊夢さんが本当に、この世の終わりみたいなめんどくさいオーラを発していた。
どれほどまで常世に絶望したらこんなオーラが出せるのか本当に不思議に思える。
「えー……っとその、じゃあ抹茶アイスでお願いします」
「あ、私と同じ味だー」
「そ、そうなんですか? じゃ、じゃあやっぱりバニラで」
「はいはい、抹茶にバニラね……っと、魔理沙たちにも聞いてこないとあーめんどくさい」
頭をかきながら去っていく霊夢さん。
まさにやるきれいむって奴ですね。
あ、ここ笑うところですよ?
「楽しみだなーあいすあいす。カキ氷とかとはやっぱり違うよね? なんだか楽しみー」
頬をほんのり染めて、生唾を飲み込む仕草をしてみせる椛さん。
店内はかなり混雑していて、中々順番はまわってこない。
先に店内へと入っていた女の子たちのテーブルへと、次々に色とりどりのアイスクリームが運ばれていく。
それを横目にいまかいまかを待ち続けるしかないのは一種の苦行だと思います。
「おまたせしましたー。あわっ!」
「おいィ? この服は職人のオーダーメイドなんだ、これはお詫びが必要かなぁ?」
「こらてゐ、みっともないこと言わないの、大丈夫? 怪我はない?」
「うぅ、はい大丈夫ですけど……。また失敗しちゃった……。」
たまに神社にもやって来る化け猫の橙ちゃんが、お盆をひっくり返して涙目になっていた。
立派なご主人様のように、早く自立した妖獣になりたいと常々語ってはいたけれど、この分ならそれも遠そうだ。
「す、すぐにかわりをお持ちしますのでっ!」
不満げに頬を膨らませる、てゐと呼ばれた少女のワンピースを、もう一人の妖怪兎―たしか鈴仙さんだったかな? が拭っている。
見た目で歳がわからないというのがこの幻想郷の恐いところで、明らかに年下だろうと思って話かけて痛い目にあってしまう。
先日の宴会でも、お酒を延々と飲み続ける小鬼さんの体調を心配したところ、鬼に酒の心配をするなんて変な奴だとからかわれる原因に。
1年近く住んでても、抜けない癖でたまに失敗してしまう。
「ちぇえええええん! お前はあれか! また転んだのか! ああもうこうなったら四輪車にでも乗せてウェイトレスするしかないのか!?」
「ら、藍さまお静かに……。その、たくさん人がいるので……その……。恥ずかしいです……」
「ああ泣くな、泣くなちぇん! 私が悪かった、な? な? アイス好きなだけ食べていいから、いやもうおなかいっぱい食べなさい」
親馬鹿だなぁ……。
彼女らを半ば呆れながらも見ていると、近くの畳に座っていた魔理沙さんが悪戯っぽい表情を見せていた。
彼女は私の目線に気づくと、ウインクをして橙ちゃんを呼びつけた。
「なぁ橙、さっきから言おうと思ってたんだが……。」
「え? え?」
「背中にビ○クリマンシールがついてるぞ、しかもスーパーゼ○スさま」
「え? うそ!?」
自分の背中を見ようとしてその場で周りだす橙ちゃん。
それを見た魔理沙さんは腹を抱えて大笑い。
ホントはついていないのに……でも焦ってくるくる回る橙ちゃんが可愛くっておかしくて、私もついつい笑ってしまった。
「ちょっと魔理沙、さすがにそういう嘘はいけないわ」
隣で黙って話を聞いていた、アリス・マーガトロイドさんが話しに割り込む。
よかった、これで橙ちゃんがくるくる回ることもなくなる。
「あれはスーパーゼ○スさまじゃなくて、ブラックゼ○スさまよ」
「シールついてないからっ!」
思わずツッコミを入れてしまい、はっとして口を塞ぐ。
魔法使い二人組からの視線が痛い。
服を脱ぎかけていた橙ちゃんは頬を膨らませて、けれど不満を飲み込んでウェイトレスの仕事へと戻っていった。
「ちぇ、アリスは乗ってくれたのに」
「ふふ、早苗さんはまだ幻想郷の浪漫を理解しきってはいないのよ」
変なノリで子供を苛めるような真似を浪漫というならば、それはそれでまったく理解はしたくはないのだけども・・・・・。
咎められているような気がして、ちょっとだけ居心地が悪く感じて俯いてしまう。
「まぁまぁ、あのへんの連中はいつも酔っ払ってるようなもんだから」
椛さんが慰めてくれましたが、距離を感じてます、少し寂しいです。
「はいはい、馬鹿なことしてないでさっさとアイスを食べて代金払うー。はいバニラに抹茶にチョコレート二つ」
霊夢さんが運んできたアイスクリームを、木のスプーンで口に運ぶ。
それはほんのり甘くて、冷たくって、なんだか懐かしい味がしました。
◇◆◇
高校生になっても私は、時間があれば守矢神社へと顔を出していました。
運動は相変わらずそれほど出来ませんでしたが、勉強に関してはかなりできたほうだったと自負しています。
友達も少なからずいましたし、男の子に告白される、なんていう甘酸っぱい出来事も経験しました。
残念ながら異性のことはあまり意識していなかったのでごめんなさいという返事を返しましたが、そうしておいて正解だったと信じています。
高校生になってから初めての夏休みでした。
いつもどおり、朝の掃除をしていると、八坂さまがなんだか渋い表情で歩いてきました。
「何かありましたか?」
私がそう聞くと、八坂さまは酷く悲しげな表情で言いました。
「早苗、もし、もしもの話だよ。この世界から離れて、まったく別の、知らない土地に行くことになったら……。早苗はどうする?」
「どうするって急に言われても……」
どうやら、冗談の類で言ってるわけではない。
八坂さまの表情はどこまでも本気でした。
「そうですね……。八坂さまとなら、どこかへ行ってもいいかもしれません」
その言葉に嘘はありません。
八坂さまを本当のお母さんのように思っていましたし、今でも一番、大事な人ですから。
「そう……。実はね早苗、私はもうすぐ、幻想郷という場所に旅立とうと思っているんだ」
「幻想……郷?」
聞いたこともない地名でした。
一体日本のどこにそんな場所があるのかと不思議な顔をしていると、八坂さまはまた寂しげに言いました。
「無理についてこなくてもいいんだよ。早苗には早苗の人生があるんだ。
幻想郷は忘れ去られた……。そう、私みたいなのが行く場所。
早苗の未来まで、私の一存で奪えやしないよ」
自嘲する八坂さまの瞳から、一筋の涙がツゥーと流れました。
数年前、私が流したように。
「きっと、忘れないでほしい。私がここにいたことを、風祝として寄り添ってくれたことを」
「何を言ってるんですか!」
数年前にしたやり取りのように私は大声を出して、八坂さまも同じように驚いて俯いた顔をあげました。
「そうやって、なんでもかんでも八坂さまが決めないでください。
私は、私は八坂さまがどこかへ行くっていうのならどこまでも着いていきます!
風祝として……。いいえ、東風谷早苗として、大好きな八坂さまと一緒に生きます!」
「でも早苗……。もう時間があまり……。」
「いつですか? いつその幻想郷へ旅立つんですか?」
半ば詰問するように八坂さまへと詰め寄ると、八坂さまは観念したように首を振りました。
「八月二十七日、御射山祭の日に合わせて向こうへと飛ぶよ。
でも、幻想郷へ入るってことはこの世界を捨てるってこと……二度とは、戻れない。
それどころか、この世界全部から忘れ去られてしまうかもしれない」
「あと、二週間と少し……ですか」
二度とは戻れないという言葉に、一瞬背筋が凍りました。
固まった表情を見て、八坂さまは達観したような笑顔を見せました。
「いいんだよ早苗、無理してついてこなくたって……」
あくまで私に、普通の人間として生きてほしい。
それが、八坂さまの願いだったんでしょう。
「無理なんて、してませんそれに……」
「それに?」
「八坂さまのこと、忘れたくないですから」
幻想になれば、人々の記憶から消えてしまう。
ならば、置いていかれれば、八坂さまとの思い出をすべて失うことになる。
嬉しいときも、悲しいときも、大きな失敗をしたときも、一緒に笑って悲しんで、時には叱ってくれた八坂さまを忘れるだなんて。
「八月二十七日の夜、十一時」
ポツリと、八坂さまが呟きました。
「一緒に来るなら、ここへおいで」
◇◆◇
「はふー、美味しかったねー」
満足そうな笑顔を浮かべて、口の周りを舐める椛さん。
みっともないってハンカチを渡してあげたけど、そんなに上品じゃないよって返されてしまった。
幻想郷の女性は、なんでこう豪胆な人たちが多いんでしょう。
霊夢さんや魔理沙さんを代表して、人を食った性格をしている人が多いこと。
射命丸さんにも盗撮されて、何度も痛い目に遭わされていますし……。
「はぁ……」
大きなため息を吐くと、椛さんが何かを思い出したようにポンっと手を叩いた。
「竹飾りとか、買っていかないの?」
「七夕、ですか」
「うん、そういうこと」
失念していましたが、今日は七夕です。
幸い、今日は天気も良好ですし、もしかすると願い事も叶うかもしれません。
相変わらず、人の照り焼きでも作る勢いで降り注ぐ日光。
でも、七夕に天気が良いのならそれも悪くはないと思えてきたから不思議だった。
「うぉーい、早苗ー!」
不意に呼ばれて振り向くと、笑顔でブンブン腕を振っている魔理沙さんと、呆れ顔で腕を組んでいるアリスさんがいました。
「今日霊夢んとこで宴会やるからお前もこーい!」
「ツッコミ役は重要だって、さっきから魔理沙が五月蝿いのよー!」
やれやれ、とでも言いたげなポーズを取るアリスさんと、太陽みたいにニカっと笑っている魔理沙さんとの凸凹コンビ。
二人は金髪は陽を浴びて、眩く輝いていた。
「えっと……。うちの神様たちも、いいですかー!?」
「どーせ困るのは霊夢だからなー、どんどん連れてきて困らせようぜー!!」
「ねね、私も行っていいと思う?」
クイクイっと袖を引く椛さん、烏天狗以外の天狗さんたちは、あまり山の外にはでないのです。
博麗神社で行われている宴会に憧憬の念があったのでしょう、控えめながらも主張をする瞳が可愛くて仕方ありません。
「ま、とりあえずー、日が暮れたら博麗神社なー!」
もう一度大きく手を振って箒にまたがり、飛び去っていく二人。
手を振ってそれを見送ると、なんだか椛さんが物足りなそうな表情をしていました。
「どうかしました?」
「うん、ちょっと恥ずかしいんだけど」
そういって、おなかを押さえる椛さん。
「へへ、アイスクリーム食べたばっかりなのに、なんだかおなかが減っちゃった」
「そう、ですね。もうすぐお昼時ですし……。うどんでも食べていきましょっか」
「うんっ」
すっと、無意識に手を差し出していた。
手はギュっと握り返されて、そのまましばらく、お互い黙りこくったままで里を歩いた。
あの二人が、すごくすごーく、羨ましかったんだと思う。
◇◆◇
八月二十七日まではあと二週間、それでも私は、いつもと変わらない日常を過ごしていました。
くるメールには返事を返して、カラオケに行って、時折夜更かしをして友達と電話をして。
御射山祭が近づいてくると、流石にその準備が忙しくなって遊ぶ時間はなくなったけれど、もうそれで十分。
誰にも、これから私がいなくなるだなんて言っていない、素振りだって見せていない。
消えるときには、黙っていなくなろう、そう決めていたから。
両親の前でも、私は普段どおりに振舞いました。
義母の作る料理に美味しいねと舌鼓を打って、時間があれば料理を手伝って。
義父とは八月一日に行われた御船祭の片付けや、27日から行われる御射山祭の準備のせいで、会話らしい会話はできていませんでしたが。
私は卑怯者だったと思います。
注がれた愛情を無碍にして、幻想の中へと黙って消え去ろうとしていていたのですから。
八月二十七日の夜、私はちょっとだけ泣きました。
そして、二十七日、午前5時半、御射山祭の始まり。
その昔は大規模に行われていたというこのお祭りも、いまはカタチだけのものに成り下がっていました。
御狩と呼ばれる山での狩りも形骸化、祭事の数々もずっと小規模に短縮されていて、5日間に渡って行われてたというこのお祭りも2日間で終わります。
私は穂屋と呼ばれる、本来屋根と柱でのみの建物にススキを張った建物……。
昔はお殿様や家老と呼ばれる方々のためにたくさん用意されたと聞きましたが、これも、いまはたったの一軒しかありません。
風祝としての本格的なお仕事が今日。
この世界とのお別れも、今日。
この日集めたなけなしの信仰の力を使って、幻想郷へとこの神社ごと飛ばす。
それが八坂さまの計画。
何も考えずにこなしているうちに、とっぷりと日は暮れ、約束の時間は刻々と近づいてきました。
時計を気にする私に、どうかしたのかと義母は聞いてきましたが、私は澄ました顔でなんでもないと答えました。
義父は、どこかへでかけているのか、そのとき姿は見えませんでした。
そして、回った十時半。
「少し、でかけてきます」
義母の返事を待たずに家を飛び出し、暗い夜道を遅いながらもかけて行く。
既に必要なものは八坂さまへと預けておきました。
あとは、私がその場へ行くだけ。
蛙が、ゲコゲコと鳴いていたことをよく覚えています。
境内へと辿り着くと、八坂さまが一人、月明かりに照らされて立っていました。
「遅かったね、もう、十分もないよ」
不意に、周辺を大風が吹き荒れました。
しなる木々。
飛ばされていく、ビニール袋などのゴミたち。
不思議なことに、私たちの周りにはそよ風一つも吹いてはいませんでした。
「昔なら、こういう大風を起こせば高丸の怨霊だって騒いだものさ」
寂しげにそう語る八坂さま。
幻想郷に行けば、その昔のように、信仰を集めることはできるのでしょうか?
幻想郷に行けば、すべてが上手く行くのでしょうか?
でも、座して死を待つのは、私たちには似合いません。
「さ、こっちに寄っといで……。私の手を離すんじゃないよ」
「はい、八坂さま」
ギュっと八坂さまの手を握り、目を瞑ります。
きっと目を開けたときには、そこは幻想郷でしょう。
「早苗!」
突然名前を呼ばれ、取り乱してその場にしりもちをついてしまいました。
目の前に立っていたのは義理の父。
肩で息をしながら、それでも真っ直ぐ、私を見つめていました。
私は、悪戯がバレた子供のように目を伏せて、それでも八坂さまの手をギュっと握っていました。
「早苗……。すまなかった」
「え?」
義父の言葉は、私にとって予想外の言葉でした。
てっきり、この時間に出歩いていることが咎められるとばかり思っていた私は、思わずわけがわからないと首をかしげました。
「建御名方命さまか……八坂刀売命さまか、もしかすると、ミシャグジさまなのか、私には到底わかりません。
ですが、ですがどうか、早苗のことを大事にしてやってください。……私の大事な娘です。
連れていくなとは言いません、早苗を受け入れてやることができなかったのは、私の責任ですから」
「おじさん……」
「見えてないよ。この人には、私の姿は見えてない」
八坂さまは、寂しげにそう呟きました。
義父が一体、どれだけ知っていたのかは今になってもわかりません。
ただ、義父の涙を見たのは、このときが初めてでした。
「時間だよ、早苗、お別れは言わなくていいのかい?」
「……」
「お父さんって、呼んでやりなよ」
義父の目からは、虚空と手を繋ぐ不思議な娘に見えていたと思います。
それでも、義父は遠いあの日のように目は逸らさず、じっと私を見つめていました。
「……行ってきます、おとうさん」
「ああ、気をつけてな」
父の柔らかい笑顔を見た次の瞬間には、もう、その姿は掻き消えていました。
驚いてあたりを見渡すと、そこはたしかに守矢神社ではありましたが、森の深さがまったく違います。
それに、葉はほんのりと紅く色づいていて、唸っていた蛙たちの声も耳鳴りとしてしか聞こえなくなりました。
境内に積もった落ち葉の量も、夏のそれとはまったく違い、どこか秋の色を感じさせるものでした。
「ついたよ、ここが幻想郷さ……。さっ、これから忙しくなるねぇ……。
とりあえずまぁ、今夜はもう休もうか」
伸びをして、社へと戻っていく八坂さま。
しばらくぼぅっと、父の立っていた場所を眺めていた私でしたが、それもすぐにやめて、八坂さまのあとを追いました。
◇◆◇
博麗神社に集まった人妖たち、ことあるごとに集まり酒を飲み交わしている彼女たちの中に、東風谷早苗の姿はあった。
時折戸惑う仕草は見せるが、積極的に周りの人妖へと話かけている。
霧雨魔理沙から勧められた酒を未成年であるという旨を語り、断ろうとする早苗。
しかし、幻想郷の常識にそのことはそぐわないんだと無理やり口に流し込まれ、顔を真っ赤にして目を回す。
それを見た八坂神奈子は、天狗との飲み比べの最中であったにも関わらずに真っ先に介抱へと向かった。
ばつが悪そうにしていた霧雨魔理沙も、すぐにその中へと加わって、幸せそうな顔で目を回した早苗にため息をついた。
洩矢諏訪子は、蛙たちの声に耳を澄ませながら一人酒を煽っていた。
成り行きとはいえ、常世を捨てて隠居する。
それ自体には何の未練はなかったけれど、早苗のことが心配であった。
今朝も、早苗はどこか浮かない表情をしていた。
ひょっとして、幻想郷にあの子を連れてきたのは失敗だったのではないだろうか?
けれど、そんな考えは杞憂だったと知ることになった。
「まったく、いい娘を持ったね神奈子は」
幻想郷に自分なりに立ち向かってぶつかって、壁を乗り越えようとしている、そんな健気な子じゃないか。
騒がしい宴会の喧騒に蛙たちの声はいつしか掻き消されてしまっていた。
いや、私自身が蛙たちの声に耳を向けなくなっただけか。
いつしか、私たちの声に、人間が耳を貸さなくなったようにね。
竹に吊るされた、短冊が風に揺れた。
『いつまでも、神奈子さまと一緒に居られますように』
それはともかく作者コメントがひでえw
早苗は友達いっぱいいるよ!!きっと!たぶん。いやおそらく……
地味にもこたんがひでぇ
ところで 平気で着ているんだから → 平気で来ているんだから ?
対比で幻想郷の日常を描いてるのも面白かったです
てか○ックリマンチョコ幻想入りしてるんですね。しかもス○ーパーゼウス様^^
神奈子、それって私に対する嫌み? by諏訪子
や、早苗さんにも親友だっていた・・と思うよ!?きっと!
おやっさんといい、カナコといい全体に寂しさが感じられる良いSSでした。
せめて幻想郷では幸せになってもらいたいものですw
もういっそ彼女の思い出も幻想になっていたという結末でもいいかもしれないですね。
ふっと、「あれ、ここにいつもだれかがいたような気がするんだけど…」的に。
でも義父さんだけは最後の別れを憶えていたらいい。少女が誰だかは忘れてしまっていても。
>天の岩戸を開けるために、あれやこれやと策を弄したというお話。
てゐとえーりんの昔話ですねw
まあ濁音の一つや二つ問題ないとおもうけどw
シリアス(?)とコメディがいい感じに混ざっててよかったです
義父さんいい味出してる。そして咲夜さんが瀟洒すぎる。
いいなあ。かなこ様もさびしかったんだろうね。
でも作者コメでいろいろとw
この椛かわいすぎるだろどう考えても
変態じゃないよ!仮に変態だとしても(ry
あとがき見るまでミシャクジだと思ってたw 俺って奴はw
神奈子さまと早苗(と諏訪子さま)の幻想郷入り話は、切なくてやりきれないですね。
旅立つ人も、残していく人も切ない。
守矢の三人はずっと幻想郷で幸せにしていてほしいなあ。
そして妹紅www
あっさりした感じでよかったです