※暗いです。あと、ちょっと残酷に感じるかもです。見た方を不快にさせるかもしれません……。すみません。
人生とはなにか?
何の為に生きる?
生きとし生ける者の不朽の命題である。
禁薬を服用するまでの私なら、迷わず答えたであろう。
「人生は暇つぶし。死ぬまでの暇つぶし。
だから……楽しくなくては意味が無い。」
正答などないのだ。それもまた、一つの回答であり、解答であり……。
ならば、純然たる気まぐれで不老不死を得た、私の今の生は何の為に?
み゛-ん゛み゛ん゛み゛ん゛み゛ん゛みんみんみん……
み゛-ん゛み゛ん゛み゛ん゛み゛ん゛みんみんみん……
五月蝿い。
蝉の鳴き声は、夏の暑さをより、過ごし難くしていると思う。
顔の横を静かに流れ落ちる汗を、手の甲で拭う。
あと半刻もすれば陽も完全に落ち、もぅ少しは涼しくなるだろうか。
今の空は焼けて、禍々しく紅い。
あぁ、陽が長いなぁ。
私は、庭に背を向け、部屋を出た。
永遠亭の廊下は薄暗く、夏でも少しひんやりとしている。
少し汗ばんだ体には心地がよかった。
急に明所から暗所に出たせいか、立ち眩みがした。
感じる酩酊感に、壁に手をついて凭れかかり、回復を待つ。
歩ける程度に回復した頭を、壁に当てる。
額に感じるつめたさ。
当たっていた壁が少し温くなって、私は再び歩き出した。
さぁ、楽しい事を始めよう。
「ん゛ーっ!んん゛ーっっ!!!」
部屋の中に居た妹紅は、私の姿を認め、声にならない声で抗議を開始した。
手足は拘束され動かせず、部屋に結界を張られ、弾幕も張れない。
うつぶせに固定させられ、自由にならない体を必死に動かし、首をひねって私を見る。
瞳は憤りに満ち、私を射殺さんばかりにねめつけている。
私は意識して口角を引き上げ、彼女に笑顔を向けた。
あぁ、たのしいなぁ。
喜怒哀楽を素直に表現する彼女を、私はきれいだと思っていた。
私は必要な器具を載せた金属製のトレーから大きめの鋏を手に取り、しゃくしゃくと音を立てながら彼女の着ているシャツを、ただのボロキレに変えた。
彼女は眼をみはる。さぞかし驚いているのだろう。
私はボロキレを邪魔にならぬ様に押しやり、その下のサラシをも切り裂いた。
白い背が露わになる。
肌、綺麗だなぁ。
ふと、肩甲骨のラインを手でなぞる。滑らかで、シミ一つ無くて、綺麗。
一撫でで満足し、薄いゴムの手袋をはめる。
この白い背中に、紅い鳳凰を描く。
さて、うまく出来るだろうか。
トレーの上からメスを取る。
はじめは、浅くラインを刻む。
下書きはいらない。月の使者隠れ住んでいる間の手遊びにしていたから、絵を描くのは苦手ではないのだ。
メスをゆっくり刺す。ピクッと妹紅の体が動いた。
深さが均等になる様に気を付けてゆっくりと動かす。
じんわりとにじみ出る血液を、布で押さえる様にしてふき取りながら、ラインを描いていく。
ふぅ。
じわりと滲み続ける血液を持っていた白布に浸み込ませながら、一息付く。
妹紅はもう、声を上げようとも暴れようともしなくなった様だった。
眉根を寄せ、目を閉じ、痛みに耐えている。
良い傾向だ。私もその方が遣り易い。
私はメスを持ち替え、同じラインを、今度は内側の皮膚を剥がし易い様に切っていく。
慎重に、焦らず、それでいてスピーディに。
この、集中している空気は心地よい。
白い肌に、鮮やかな紅が映える。
私は口の端だけで笑い、白布に鮮紅を移した。
ピンセットで皮膚の端を挟み、つつ……と引っ張る。所々メスでサポートしながら、翼のパーツパーツを剥いでいく。
体から離れた皮膚は縮み、元の面積よりも大分小さく見えた。
背中に着いていた時にはあんなに綺麗に見えたのに、剥がすと、何かもよく分からないゴミになる。
全体のバランスを見ながら作業を進める。
皮膚の剥がされた肌は血が滲んで紅く、拭き取ると綺麗なピンク色になって、またじわじわと紅が滲んでいく。
しろいはだ。
ぴんくいろのはだ。
あかいはだ。
きれい。
私は口の端を緩めながら作業を続けた。
完成した鳳凰を数秒眺めた後、用意していた軟膏を幹部にたっぷりと塗っていきながら、ぐったりしている妹紅に声をかけた。
「妹紅、お疲れ様。これでおしまいよ。
背中だから見えないわよね、残念。貴女の背中に、鳳凰を放ったわ。
妹紅と云えば鳳凰よね。モチーフは、悩まずにすんだわ。
あぁ、何で?って顔してるわね。理由なんて無いわ。
試してみたかったの。傷を負わせて、癒えた後で殺してリザレクションしたらどうなるのか、ね。
1月、永遠亭で過ごしなさい。その後、傷が癒えてから貴女を殺してあげる。」
妹紅は目を閉じてぐったりしたまま何の反応も返さない。
致死量の失血ではないのだが、貧血だろうか。
永夜異変を起こしてから、永い月日が経った。
巫女や魔法使い、メイド達が死んだ。
半人半霊の剣士が、人としての生を終えた。
鈴仙……月の兎が死んだ。永琳は笑わなくなった。
てゐ……永遠亭のイナバをまとめていた古株の兎が死んだ。まとめ役のイナバが代替わりした。
里を守り、この蓬莱人形と親しくしていた半獣も死んだ。
妹紅が私と殺し合いに来る回数が減り、どこか腑抜けた様になった。
つまらない。
生きる事は楽しくなければならないのに、つまらない。
ならば、楽しくすれば良い。
妹紅は腑抜けていては美しくない。もっと鮮やかにしていて欲しい。
ならば、より深い憎悪を。
なんだっていい、現状の打破の為には変化を起こさなければ。
妹紅の苦痛に歪んだ顔を見るのが好きだ。
憤怒に支配され、我を忘れた顔を見るのが好きだ。
感情に任せて私を殺す、狂気に支配された顔を見るのも好きだ。
私を殺せた時の、どこか歪な笑顔も好きだ。
あぁ、たのしいなぁ。
笑う。嗤う。声に出さず、口の端を歪めて嗤う。
傷を綺麗に残すには、洗浄と保湿が大事なのだ。
この暑い時期には、痒くて痒くてたまらないだろう。
引っかいて絵を崩したりしない様に、しっかり見ていなくては。
1ヶ月後、どんな殺し方をしよう。
苦しくて、痛くて、屈辱的な方法が良い。
1ヶ月間、じっくりと考えよう。
傷、残るといいなぁ。
数時間の施術で喉が渇いた私は、水を飲む為に部屋を出た。
遠くで蝉の鳴き声が、幽かに聞こえた気がした。
人生とはなにか?
何の為に生きる?
生きとし生ける者の不朽の命題である。
禁薬を服用するまでの私なら、迷わず答えたであろう。
「人生は暇つぶし。死ぬまでの暇つぶし。
だから……楽しくなくては意味が無い。」
正答などないのだ。それもまた、一つの回答であり、解答であり……。
ならば、純然たる気まぐれで不老不死を得た、私の今の生は何の為に?
み゛-ん゛み゛ん゛み゛ん゛み゛ん゛みんみんみん……
み゛-ん゛み゛ん゛み゛ん゛み゛ん゛みんみんみん……
五月蝿い。
蝉の鳴き声は、夏の暑さをより、過ごし難くしていると思う。
顔の横を静かに流れ落ちる汗を、手の甲で拭う。
あと半刻もすれば陽も完全に落ち、もぅ少しは涼しくなるだろうか。
今の空は焼けて、禍々しく紅い。
あぁ、陽が長いなぁ。
私は、庭に背を向け、部屋を出た。
永遠亭の廊下は薄暗く、夏でも少しひんやりとしている。
少し汗ばんだ体には心地がよかった。
急に明所から暗所に出たせいか、立ち眩みがした。
感じる酩酊感に、壁に手をついて凭れかかり、回復を待つ。
歩ける程度に回復した頭を、壁に当てる。
額に感じるつめたさ。
当たっていた壁が少し温くなって、私は再び歩き出した。
さぁ、楽しい事を始めよう。
「ん゛ーっ!んん゛ーっっ!!!」
部屋の中に居た妹紅は、私の姿を認め、声にならない声で抗議を開始した。
手足は拘束され動かせず、部屋に結界を張られ、弾幕も張れない。
うつぶせに固定させられ、自由にならない体を必死に動かし、首をひねって私を見る。
瞳は憤りに満ち、私を射殺さんばかりにねめつけている。
私は意識して口角を引き上げ、彼女に笑顔を向けた。
あぁ、たのしいなぁ。
喜怒哀楽を素直に表現する彼女を、私はきれいだと思っていた。
私は必要な器具を載せた金属製のトレーから大きめの鋏を手に取り、しゃくしゃくと音を立てながら彼女の着ているシャツを、ただのボロキレに変えた。
彼女は眼をみはる。さぞかし驚いているのだろう。
私はボロキレを邪魔にならぬ様に押しやり、その下のサラシをも切り裂いた。
白い背が露わになる。
肌、綺麗だなぁ。
ふと、肩甲骨のラインを手でなぞる。滑らかで、シミ一つ無くて、綺麗。
一撫でで満足し、薄いゴムの手袋をはめる。
この白い背中に、紅い鳳凰を描く。
さて、うまく出来るだろうか。
トレーの上からメスを取る。
はじめは、浅くラインを刻む。
下書きはいらない。月の使者隠れ住んでいる間の手遊びにしていたから、絵を描くのは苦手ではないのだ。
メスをゆっくり刺す。ピクッと妹紅の体が動いた。
深さが均等になる様に気を付けてゆっくりと動かす。
じんわりとにじみ出る血液を、布で押さえる様にしてふき取りながら、ラインを描いていく。
ふぅ。
じわりと滲み続ける血液を持っていた白布に浸み込ませながら、一息付く。
妹紅はもう、声を上げようとも暴れようともしなくなった様だった。
眉根を寄せ、目を閉じ、痛みに耐えている。
良い傾向だ。私もその方が遣り易い。
私はメスを持ち替え、同じラインを、今度は内側の皮膚を剥がし易い様に切っていく。
慎重に、焦らず、それでいてスピーディに。
この、集中している空気は心地よい。
白い肌に、鮮やかな紅が映える。
私は口の端だけで笑い、白布に鮮紅を移した。
ピンセットで皮膚の端を挟み、つつ……と引っ張る。所々メスでサポートしながら、翼のパーツパーツを剥いでいく。
体から離れた皮膚は縮み、元の面積よりも大分小さく見えた。
背中に着いていた時にはあんなに綺麗に見えたのに、剥がすと、何かもよく分からないゴミになる。
全体のバランスを見ながら作業を進める。
皮膚の剥がされた肌は血が滲んで紅く、拭き取ると綺麗なピンク色になって、またじわじわと紅が滲んでいく。
しろいはだ。
ぴんくいろのはだ。
あかいはだ。
きれい。
私は口の端を緩めながら作業を続けた。
完成した鳳凰を数秒眺めた後、用意していた軟膏を幹部にたっぷりと塗っていきながら、ぐったりしている妹紅に声をかけた。
「妹紅、お疲れ様。これでおしまいよ。
背中だから見えないわよね、残念。貴女の背中に、鳳凰を放ったわ。
妹紅と云えば鳳凰よね。モチーフは、悩まずにすんだわ。
あぁ、何で?って顔してるわね。理由なんて無いわ。
試してみたかったの。傷を負わせて、癒えた後で殺してリザレクションしたらどうなるのか、ね。
1月、永遠亭で過ごしなさい。その後、傷が癒えてから貴女を殺してあげる。」
妹紅は目を閉じてぐったりしたまま何の反応も返さない。
致死量の失血ではないのだが、貧血だろうか。
永夜異変を起こしてから、永い月日が経った。
巫女や魔法使い、メイド達が死んだ。
半人半霊の剣士が、人としての生を終えた。
鈴仙……月の兎が死んだ。永琳は笑わなくなった。
てゐ……永遠亭のイナバをまとめていた古株の兎が死んだ。まとめ役のイナバが代替わりした。
里を守り、この蓬莱人形と親しくしていた半獣も死んだ。
妹紅が私と殺し合いに来る回数が減り、どこか腑抜けた様になった。
つまらない。
生きる事は楽しくなければならないのに、つまらない。
ならば、楽しくすれば良い。
妹紅は腑抜けていては美しくない。もっと鮮やかにしていて欲しい。
ならば、より深い憎悪を。
なんだっていい、現状の打破の為には変化を起こさなければ。
妹紅の苦痛に歪んだ顔を見るのが好きだ。
憤怒に支配され、我を忘れた顔を見るのが好きだ。
感情に任せて私を殺す、狂気に支配された顔を見るのも好きだ。
私を殺せた時の、どこか歪な笑顔も好きだ。
あぁ、たのしいなぁ。
笑う。嗤う。声に出さず、口の端を歪めて嗤う。
傷を綺麗に残すには、洗浄と保湿が大事なのだ。
この暑い時期には、痒くて痒くてたまらないだろう。
引っかいて絵を崩したりしない様に、しっかり見ていなくては。
1ヶ月後、どんな殺し方をしよう。
苦しくて、痛くて、屈辱的な方法が良い。
1ヶ月間、じっくりと考えよう。
傷、残るといいなぁ。
数時間の施術で喉が渇いた私は、水を飲む為に部屋を出た。
遠くで蝉の鳴き声が、幽かに聞こえた気がした。
でもいつかきっと亡くなった人の代わりができるはず。
自分達が見ている「今」より「未来」の幻想郷では彼女たちが救われることを信じて。