Coolier - 新生・東方創想話

妖夢の憂鬱

2008/07/07 00:12:30
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     ※幽々子の憂鬱とリンクしております。
      よければ併せてご覧下さい。




『 妖夢の憂鬱 』




私の朝は早い。

身支度に朝の稽古、食事の仕度などやらなければならない事が沢山あるためどうしても日の出と共に起きる必要があるのだ。

ここ、冥界は涼しい気候であるため早朝では息が白くなる事も稀でもない。

眠い体を引きずりながら顔を洗いに行く。

顔を切るような冷たい水で洗えばサッパリと目も覚める。

早々と胴着に着替えて庭で稽古を始める。

先ずは素振り千本から。

お師匠様が隠居されてから毎日稽古を欠かした事は無い。

辛い稽古を一人でこなすと心が挫けそうになる。

しかし、それに負けない事こそ稽古の目的の一つでもあるのだ。

一通り稽古が終わって汗をサッと流したら次は朝食の用意だ。

主人のためを考えて栄養のある献立を考えなくてはならない。

有り合わせのもので作るものをパッと考えて実行に移す。

仕込みは大体昨晩のうちに済ましてしまうので大した手間は無い。

出来上がる目処が立ったところで一度幽々子様を起こしにいく。

あの方は亡霊の癖に、いや亡霊だからなのか朝が弱い。

何度か呼ばないと起きて来ないのだ。


「幽々子様、もうすぐ食事の用意が出来ます。そろそろ起きてください。」


「今行くわ~」


…どうやら起きてはいるようだ。

でも気は抜けない、此処からが遅いのだから。

もちろん話しかけるのは、襖の向こうからだ。

勝手に入るなんて無礼なことはしない。

台所に戻って食事の完成を急ぐ。

ようやく、食事が完成したところで、配膳する前に念のためもう一度幽々子様に声をかけに行く。


「幽々子様、後は食事を配膳するだけですので、ご用意をお急ぎください。」


「今行くわ~」


と返事が来たのですぐ来るものと思い食卓への配膳を済ます。

そして、少し待つが幽々子様が来る気配がぜんぜん無い。

私の中で嫌な予感が頭をよぎる。

私は意を決して幽々子様の部屋に乗り込む。

先に断っておくが之は主に何か起こったのかもしれないという緊急事態であるから仕方なく、なのだ。

部屋に入って目に入るのは幸せそうに布団に包まる主人の姿だった。

ああ…あんなあられもない姿をしてしまって、いろいろはだけているじゃないか。

とてもじゃないが人様の目にはふれられない。

こんなにも美しいのだからもう少し周りの目も気にして欲しいものだ。

いろいろ目に入り自分でもわけもわからず腹を立ててしまい声を荒げる。



「幽々子様っ、幽々子様っ!起きて下さい!!」


「…あらっ?妖夢。おはよう~」


まるで今起きたかのように惚けた声を出す主。

でもちゃんと朝の挨拶をしなくては…


「はい、おはようございます…じゃありません!もう何度も朝食の用意が出来ましたって言いに来たのにすぐ行くわ~って言って
 結局来ないじゃないですか!!ご飯が冷めてしまいますよ!?」


「…そうだったかしら?でも、もう大丈夫よ。色々バッチリだから。」


「…はあ、そういうことでしたら身支度を整えてからお越し下さい。」


…何が色々バッチリなのだろう?

相変わらず幽々子様の言うことは難解だ。

それと気になっているのがこの間から枕元に置いてある黒い箱だ。

どうやら紫様から頂いた物らしいのだが、幽々子様が言うには安眠を守るための道具だとか。

あれを使い始めてから起きるのが遅くなった気がする。

悪い効能が無ければいいのだが…


居間へ戻ってご飯をよそる。

勿論幽々子様にはこの特注の巨大丼だ。

よくもまあ朝からこんなに食べられるものだと感心してしまう。

用意が終わったころにちょうどこの丼の主が来た。


「それでは、頂きましょう。」


「どうぞ、召し上がってください。」


勿論昔から幽々子様のお椀がこんなに大きかったわけではない。

昔は私と同じ大きさのお椀だったのだが、私が四口ほど食べたときにはもう御代わりを要求されるので
何度もご飯をよそる羽目になっていたのだ。

私自身ご飯を食べるのが遅いことは重々承知している。

でも何度もご飯を要求されるとその分更に食べるのが遅くなってしまうのだ。

それで仕方なくあの巨大丼に先にご飯を盛って御代わりの回数を減らしてもらっているのだ。

お師匠様も昔はあんな苦労をされていたのだろうか…

それにあれだけ食べておきながら食後に剣の稽古をしましょうと言うとまだデザートを食べていないとか言い出すのだ。

一体あの華奢な体の何処にあんなに食物が入るのであろうか。

まさに西行寺七不思議の一つだ。



「ご馳走様でした。」


「お粗末さまでした。」


結局私がご飯を食べ終わるまでに幽々子様は三回も御代わりをされた。

呆れを通り越して尊敬に値する。

食事を作るものとしては冥利に尽きるというものだ。

私が料理に精進しようと誓ったのは、昔幽々子様が少しご飯を口にしただけでお部屋を退出しようとされたことがあるからだ。

あの時ほど自分の腕の未熟さを痛感したことは無かった。


食後の休憩を挟んで私は庭の掃除をすることにした。

この広い庭を一人で管理するのはとても大変なことだが主より仰せつかった大事な役目の一つである。

全く手を抜くつもりなど無い。

頑張って掃除に勤しんでいると幽々子様がフラフラと庭に出てきた。

そこでふと目が合う。


「何処かへお出掛けでしょうか?」


とりあえず声をかけてみる。

用も無くフラフラしている事が多々あるので少し心配になったのだ。


「ん~…ちょっと下を散歩してくるわ。妖夢はついて来なくてもいいわ、掃除をお願いね。」


暗について来るなと言われてしまった。

しかし、主をお守りするのが私の役目。

下の世界は危険がいっぱいなのである。

ただでさえぽーっとしている幽々子様だ。

その尊い身分を利用しようとする悪の輩などごまんといるはずだ。

その場は行ってらっしゃいませと声を掛けて後ろからこっそりとお守りすることにする。

あの方は私など足元にも及ばないような強大な力を持っているけれど、どうもどこか抜けているようなのんびりした所がある。

大事なお体に何かあってからでは遅いのだ、私がしっかり力にならなければ!

そう意気込みをして、下界に下りてみるとそこは物凄い猛暑だった。

あまりの暑さに目がくらむ。

ここは冥界と違って暑いのだということを失念していた。

この暑さの中平然と飛ぶ幽々子様はやっぱりすごい方だと思った。

私もいつかあの方のように悟りの境地に至ることが出来るのだろうか…

幽々子様は優雅に空を飛んでいるが私は見つからないように地を駆けていた。

と、そこに幽々子様を見上げる一つの影が…確かルーミアと言ったか、人を襲う凶悪な妖怪と聞く。

おのれっ!悪鬼がやはり出おったな!わが主には指一つ出させん!!


獄炎剣 「業風閃影陣」


先手を取って悪を吹き飛ばす。

しかし、更に複数の気配が周りにあることに気づく。

そこには、夜雀と妖蟲が驚いた顔でこっちを見ている。

徒党を組んで幽々子様を襲う気だったか、しかしそうはさせん!!


餓王剣 「餓鬼十王の報い」


…ふうっこれで悪は滅びたか。

しかし、肝心の幽々子様を見失ってしまった。

おそらくこの方向からして博麗神社に向かったのであろう。

こっそりを神社の裏から回ってみるとやはりここにいた。

縁側に座ってぽけ~っと口をあけている。

霊夢はお茶でも淹れているのだろうか、見当たらない。

一体あんな顔で何をお考えなのだろう、私如きにはきっと理解も及ばないことを考えているのだろうな。

汗がつつっと頬をたれ首を伝って服の中に入っていきとても不快に感じる。

虫の鳴き声が煩い。

周りを飛ぶ虫をしっしっと追い払っていると霊夢がお茶を持ってやってきた。

なにやら世間話でもしているようだ。

楽しそうに話をする二人を見て途端に自分はこんな所で何をやっているのだろうと疑問に思ってしまう。

今まで主のためとやってきたことが本当に正しかったのか、自分の自己満足じゃないのかと、この暑さの中湯でった頭で考えて
いると悪いことばかり頭に浮かんでしまう。

幽々子様と楽しそうに話をしている少女霊夢。

とても強くていろんな妖怪に好かれている。

嫉妬と憧れの混じった複雑な感情で頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。

…帰ろう…と思ったときふと周りの空気が変わったことに気付く。

思わず自分の刀に手を当て辺りを見回してみる。

すると上空に黒い点が一つ。

よく目を凝らしてみてみると黒白であるとわかる。

幻想郷で黒白といえば一人しかいない。

霧雨魔理沙…乱暴で加減も融通も利かない人間だ。

放っておけば必ず幽々子様に害をなすであろう要注意の人物である。

ぐんぐんスピードを上げてこっちの方に突っ込んでくる。

幽々子様は気付いていないのか、懐から扇なんて出して優雅に仰いでいる。

まったく、やはり我が主には危機管理能力が多少欠如していると言わざるを得ない。

しかし、此処で出ようとして一瞬躊躇してしまう。

影からこっそりと守ろうとして着いてきたものの主の命を破ってここにいるのだ。

私に出る資格などあるのだろうか…

私が出なくともきっと霊夢が何とかしてくれるんじゃないのか…

悩んでいると後ろからポンっと方を叩かれる。

そこにいたのは幽々子様の親友である紫様だった。

一体いつの間に来たのだろうか?


「あのままだとあの子は確実に怪我をするわ。それを黙って見ているつもり?」


「…そんなこと言われずともっ…!」


私は幽々子様を護る盾なんだっ!!

見るともう魔理沙は目の前まで迫っていた。

くそっ間に合うだろうか!?いや、間に合わせるっ!!



人鬼  「未来永劫斬!」



寸前のところでどうにか間に合わせることが出来た。

気のせいだろうか?

ギリギリで間に合わないと思ったのだが…紫様のお力添え…か?


「っとと!あっぶない危ない。不意打ちとはやってくれるぜ、妖夢!」


そう言いながら空中で姿勢を制御してそのまま地面に着地する魔理沙。

あの一撃で怯まないとは、やはりこいつも只者ではないな。


「ご無事でしょうか、幽々子様?」


「ええ、お陰様で。ご苦労様、妖夢。」


私は恐縮です、と言いながら恭しく刀を納める。


「ただ、私は貴女に掃除を命じていなかったかしら?」


うっ…そうだった。私は命を破ってここにいるのだった。

どうしよう…いや、此処は下手な嘘を吐くより素直に謝ろう。

少しは罰が軽くなるかもしれない…


「も、申し訳ございません。幽々子様が心配で付いてきてしまいました…」


幽々子様は怒っている様な呆れているような顔をしている。


「何だよ、突然横から飛び出てきたと思ったら、幽々子のこと見張ってたのかよ!?しかも助けたつもりで叱られてやんの!」


こっちを指差しケタケタと笑い転げる魔理沙。

くそっあんたさえ来なければこんな事にはならなかったのに…!


「魔理沙、私を狙って突っ込んできた罪はとても重いわ。紫、やっておしまいっ!」


幽々子様がそういうと黒白の腋のスキマからにょきっと二本の手が生える。

そしてそのまま、魔理沙をくすぐり始める。

…驚いた。

幽々子様は紫様が来ていることをご存知だったのか。


「紫!?アンタどっから湧いてきたのよ?」


やはり霊夢も驚いている。


「うをっ!?紫か!ちょ、ちょっと待った、ぎゃははははっ、まっ待てってぎゃははははひ~ぐるし~。ぎゃひはははは。
 ごっごめっぎゃははははははははは、ゆるひひひひひひぃ」


やはりこの人達は底が知れない…

魔理沙に仕返しをして満足をしたのかこっちを向いて何かを話そうとする。

やはり、私も罰を受けるのだろうか…


「貴女は命を破った罰として今日は特別美味しいご飯を作りなさい。それで許してあげるわ。」


ぱちんと扇を閉じて優しく語りかける。

予想外の言葉で一瞬キョトンとしてしまったが


「はいっ!!」

と小気味よく返事をする。

半ば悲鳴のような笑い声をバックにいい気味だと私は思うのだった。
どうも飛蝗です。

同じ話を違う視点で。
いかがだったでしょうか。
飛蝗
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コメント



0.1080簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
同じ点数をあげたいところだったけど……どこか物足りない?
まあそれが妖夢クオリティ、ってことでw
8.100名前が無い程度の能力削除
前の作品でゆゆ様が虫の声を心地よいって言ってて、妖夢が煩いって言ってるのがいい対比だと思いました。
10.80名前が無い程度の能力削除
思考のすれ違いとか空回りがいい感じ。猪突猛進!!
13.100名前が無い程度の能力削除
もう一つと合わせて読んで初めて意味がある仕上がりなんでしょうか。
それ単体でも完成してる「幽々子の憂鬱」との対比が良い感じだと思います。
点数は二作品を読んだ上で
15.80名前が無い程度の能力削除
3妖怪かわいそすwww
19.90名前が無い程度の能力削除
辻斬りようむ
25.90名前が無い程度の能力削除
両方読みましたが、上手く短く纏まっていて素晴らしいの一言です