―――必要のないものは除去、あるいは自然淘汰される。偶数のみの世界に奇数は生まれてはならない。
もし生まれたら?
―――ない。ありえない。
―――けれど限りなく奇数に近い偶数は生まれる。ただし、境界は越えられない。
もし越えようとしたら?
―――存在が消える。これはすべての概念にも在る真理。
―――水から水素が失われれば水ではなくなる。火から熱がなくなれば火ではなくなる。
―――この幻想郷でいえば博麗の巫女。彼女の在り方が揺らぐことは結界の揺らぎに直結する。
在り方とは何です?
―――心の拠り所。存在そのもの。
本当に中立なら危機が訪れるほどに歪むことはならないはず。
―――理由はひとつ。博麗の心を歪ませる何かがいるということ。
「わかるわね、藍」
マヨヒガでは紫と藍が言葉を交わしていた。
なぜこの騒動が起きたのか、藍が紫に尋ねたからだ。
「つまり魔理沙が霊夢の心を歪ませている、と? 私にはそんな簡単に結界が揺らぐとは思えません」
「そうは言うけどね、藍。現に中立のはずの霊夢が人間である魔理沙に忠告をした、これは立派な予兆じゃないかしら」
「ですが紫さま。それでは魔理沙を消してしまっては霊夢の心に悪い影響を与えてしまい、ますます結界に支障をきたすのでは?」
仮に霊夢の心境に変化が起きているなら霊夢にとって、魔理沙は大きな存在であることになる。ならば魔理沙がいなくなれば霊夢の心はさらに歪む可能性がある。
すると紫は小さく笑った。
「あなたは私が誰なのか忘れたの? 生まれた心の隙間に私が入り込む。そうすれば霊夢は魔理沙のことなんかすぐに忘れてしまうわ」
「すべては計算の上、ですか」
「そうよ。だって考えればわかることじゃない、“たかが一人の人間の在り方”で右往左往していたら今頃幻想郷はとっくに崩壊しているわ。霊夢は別だけどね」
「では幻想郷のために動き出している連中は」
「幽々子は長い付き合いだからさすがに気づいているでしょう。あとの連中は嘘だと気づいていない、まあ半分は本当なのだけれど」
紫は何も間違ったことは言っていない。
魔理沙が霊夢に影響を及ぼし、結界に変化が生じる。その変化によって何かが起きるまえに魔理沙を消去する。
それでこの異変は解決する。誰も分からないまま、何も変わらないまま幻想郷は平和へと戻る。
八雲紫に大きな益をもたらす以外は。
「ところで紫さま。魔理沙が邪魔なら隙間を使ってさくっと終わらせたほうが早くありません?」
「確かにそうね。でも直接干渉した私の慰めを霊夢は聞き入れるかしら?」
八雲紫も妖怪の一人、しかし博麗と同じ中立の立場の存在に近い。彼女もまた幻想郷を守る立場の存在である。
博麗が表なら八雲は裏。もちろん目的も行動も異なるが、在り方そのものは類似している。ゆえに表を支えるために魔理沙に干渉することはありえないことではない。
だが紫の思い通りに事を運ぶべきなら他の連中に手を回したほうがよく、それに楽ができる。
また、この件はあくまでも“魔理沙が原因”である。人間と妖怪のパワーバランスを崩す要因として妖怪、ひいては博麗が干渉するべきという理由が立つ。
しかし幻想郷の危機であるならば動くべきは博麗。これがあるべき結果であるならばどれほど妖怪が動こうが、霊夢が決着をつけることになる。
紫の狙いはそれらしいことを言って妖怪たちを動かして、逃げ場を失った魔理沙が霊夢を頼り、逆に霊夢に消されること。
その途中で妖怪に倒されるならそれもまた良し。
なぜ八雲紫が他の妖怪たちに働きかける必要があったのか。それはつまり事情を理解していない妖怪たちのところへ魔理沙が逃げ込まないように逃げ道を防ぐため。
万が一、いや、確実に霊夢が殴りこんでいった場合の被害、そして妖怪たちからの信用が失われると良くないからだ。
魔理沙には人脈が多い。何の理由もなく粛清した場合、魔理沙に好意的な人妖は良い顔をしないだろう。
ならば初めから彼女らに魔理沙が悪であると伝えておけばいい。そうすれば誰も霊夢を責めることも疑問に思う者もいなくなる。
場合によっては紫の手によって修正を加えれば良い。幻想郷に関わるような大事でなければいくらでも手は加えられる。
「ま、最近は娯楽も足りていないからレミリアや幽々子たちはしばらく遊ぶつもりでいるでしょう。時が来るまでは魔理沙の命はお預けね」
「幻想郷の危機なのにですか?」
「それが“因果律”というものよ。どんなに急いていても、どんなに焦っていても必ずそれは余裕や甘さを生ませる。よく覚えておきなさい」
「肝に銘じます」
因果律。すべての事象には原因が存在しているからこそ生起し、原因がなくては何も生起しないということ。結果の前に原因は現れないこと。
魔理沙が生きていることには意味がある。魔理沙が逃げ延びるにはどこかに原因が存在する。
例えばレミリア。咲夜、フランドール、パチュリーなどの強者がいながら魔理沙は生きていた。時を操り、あらゆるものを破壊し、七曜に属する元素を操る力が、なぜか一撃必殺に結びつかなかった。
例えば幽々子。妖夢ほどの剣豪を以ってしても魔理沙を捉えられず、さらにはアリスの乱入を許してしまった。
考えれば、原因はすべて彼女たちにあるではないか。
レミリアであれば運命を操り、幽々子ならばわざと手を抜いただけでなく従者に追撃を止めさせた。
幻想郷という娯楽の少ない世界であればこそ。原因は事象から人へ、人から世界へ巡る。結果、世界が人の行動を決定するといっても過言ではない。
ゆえに影響も世界から人へと下る。それが自然な流れであることを知っている紫は、世界から魔理沙へと毒を流す。
「さて、藍。あなたはいつもどおり結界の点検に向かうのよ。そう、いつも通りにね」
「わかりました。……ああ、そういえば紫様。橙を見かけませんでしたか? 朝から見当たらないのですが」
「さあ? 妖怪友達といっしょに遊びに出かけたんじゃないかしら」
くすっと妖美な笑みを浮かべて紫は家へと踵を返す。
彼女の作り上げたシナリオは、今ゆっくりと王手に向かっていく。
◆ 魔理沙の長い一日 魔法の森のアリス邸 10:00 ◆
窮地を救われた魔理沙はアリスとともに魔法の森まで逃げてきた。
道中を襲われることはなかったが、しかし警戒しながら二人はアリス邸まで逃げることができた。
「助かったぜアリス」
「どういたしまして。それにしてもひどい怪我ね、どんなことをすればそんなに傷だらけになれるのかしら」
「これぐらい普通だって。それより喉が渇いたんだよ、紅茶をくれ、紅茶」
「薬を塗るのが先。傷口から雑菌が入ったら困るでしょ」
アリスは救急箱をもってくると塗り薬を指につけ、魔理沙の治療を始める。
治療されている魔理沙はときどきくすぐったいのか身をよじる。
「そういやさ、アリスはおかしくなっていないんだな」
「はあ? 何よそれ」
「実はだな……」
魔理沙は体験した出来事を自分の主観を交えながらアリスに説明した。
霊夢が異変を感じ取ったこと。その異変で多くの人妖たちがルールを無視して本気で攻撃してきていること。
そして異変は何者かと接触したことで起きたと考えられるが、幽々子たちが誰にも会っていないという矛盾点。
話を聞き終えたアリスはふむ、と腕を組んだ。
「つまり異変を起こしてまわっているやつがいるはずなんだけど、どういう方法なのか分からないのね」
「そうなんだよ。紅霧とかさ、他には長い冬とか永遠の夜とか。そういった目で分かる現象じゃないんだ」
「もしかしたら異変じゃないのかもしれないわね。ただそうなると霊夢の言ったことが嘘になるけど」
「なんだか堂々巡りだな。あ、紅茶くれ、お菓子もな」
「まったくもう、そういうことだけちゃんと覚えているんだから」
困り顔でアリスは台所へと向かう。
そして彼女が見えなくなると魔理沙はぐっと両手と両足を伸ばし、体の緊張をほぐした。
確かにアリスの言うとおり、これは堂々巡りだ。
霊夢が異変を感じ取ったのならば原因が存在するはずなのだが、それらしき人物は見当たらない。
ところが変化は起きている。紅魔館に、白玉楼に、永遠亭に。人が多く住んでいるところはほぼ確実に。
幸いにもアリスみたいにまだ異変に巻き込まれていない妖怪もいる。魔理沙は肩から力を抜いて椅子にもたれかかる。
「……んん?」
しかし気になる。殺す気で弾幕を展開しておきながら、“どうして誰も深く追撃してこなかったのか”。
諦めたのか、それとも今も魔理沙の行方を追っているのか。それならば先程襲ってきた幽々子たちがアリスの家に来る可能性は高い。
もし、彼女たちが追うことを諦めていないとしたら。
「ッ、アリス――――――」
台所にいる彼女を呼ぼうとして、ふと視界に窓が飛び込んできた。
そこに――――――カメラを構えて魔理沙に手を振っている天狗がいた。
「―――――あ?」
なんで彼女がここにいるのか分からなかったが、とにかく窓を開けて天狗と相対する。
「……何やってんだ?」
「どうも、確かな真実をお伝えする射命丸文です!! さっそくですが何かネタになるようなことをしてください。例えばアリスさんを押し倒すとか」
「そんなことしたら私の身が危ないっての。ああ、そうだ、この異変について何か知っていることはないか?」
情報に目ざとい天狗ならば何か知っているかもしれない。
目に見えにくいとはいえ大規模な異変だ、もしかしたら魔理沙以外にも被害は出ているかもしれないし、犯人に繋がるヒントもあるはず。
一方の文は「異変ですか?」と聞き返してから首を傾げた。
「異変なんて起きていませんよ。むしろ騒動といったほうが正しいでしょう」
「は? どういうことだ?」
「気にしないでください。それよりいいんですか?」
「いいって、何が?」
ますます訳がわからんと渋い顔をする魔理沙の額を、文が人差し指で突いて。
「魔理沙さん、このままだと殺されますよ」
鳥肌が立ってしまうほどの冷笑。
突然近づいてきた美しい顔に、突然の宣告に、魔理沙は二重の意味で動揺してしまった。
「いえ、実はね? 私見てしまったんですよ。さきほどアリスさんが紅茶とケーキに毒が盛られたところを」
嘘だ、アリスがそんなことをするはずがない。
頭が否定していても心のどこかで疑っている自分がいることに彼女は見てみぬ振りをすることができない。
「……ははっ。嘘が下手だな、アリスが毒を盛るはずがないじゃないか」
「いいんですよ? 私としてはどちらでも。霧雨魔理沙、隣人に毒殺されるという記事が書けるので」
信じるべきはどちらなのか。それは言うまでもなくアリスに決まっている。
だが、もし、万が一でもアリスが毒を盛っているとしたら? もしもアリスも異変の影響を受けているのなら即座に攻撃してくるはず。
否、その可能性すらも否。この異変そのものの原因が不明である以上、結果も不明であると考えるのが当然。
しかし窮地を助けてもらった魔理沙にとってはいきなり出てきた文のほうがかなり信用ならない。
ならばどうやって試すか。どうやって信憑性を求めるか。
魔理沙が取れる道はふたつ。このままアリスの家に残るか、それとも文とともにこの場から離れるか。
「証拠はあるのか? 証拠がなければ信じられないぜ」
「ではなぜアリスさんはタイミングよく竹林に現れたんでしょうね」
逆に、アリスへの信用を打ち消すかのような質問をされた。
文の言葉に似合わぬ笑みに魔理沙は知らないうちに息を呑んだ。
「竹林が人間の里に近いからじゃないのか? 偶然通りかかったとか」
「おかしいですね。生活用品などを買いに出たのならそれなりの物を持っているはずなのですが、彼女の家に紅茶や菓子の類は足りているようですね。では、なぜ彼女は外にいたのでしょう」
「だからそれは……」
台所からアリスが魔理沙を呼ぶ声がする。間もなく彼女は台所から出てくるだろう。
時間がない。外に出るのならアリスに見つかる前ではないと引き止められる。引き止められたら最後だ、自分で要求したものに口をつけずに去れば不審に思われる。
不審は調和を乱す。ゆえに逃げようとすれば追われ、もしくは信用を失くす。そして逃げた先に異変でおかしくなった妖怪がいないとも限らない。
一体誰を信じ、誰を味方と判断するべきか。
「………………」
逆にどちらも信じられない、もしくはどちらも信じられるという可能性はないだろうか。
条件は二つ。アリスが毒を盛ったかの正否と文の情報の正否。どちらかが正しければどちらかは間違っている。
だが、魔理沙はある疑問に至った。そもそも射命丸文は“薬学”に精通していただろうか?
彼女はアリスが毒を盛ったというが文はどうやってそれを毒と知ることができたのか。
「なあ、アリスは毒を混ぜたんだよな」
「そうですよ? さっきからそう言って……」
「じゃあお前はそれがどんな毒なのか知っているのか?」
「――――――――」
「当然どんな毒なのかわかっているからお前は毒と言ったんだ。根拠もなく毒と断言するとしたらそいつは嘘吐きだ」
窓の外から眺めていて、普通それが毒であると判断できるだろうか。
魔理沙を騙して毒を食わせるつもりなら目立たぬようにするはず。まず薬の知識もない者が一目で毒と判断できるはずがない。
怪しい色をしているから毒、と決めつけることも結局は根拠がない。ならば薬学に精通していない文に毒と判断することはできない。
もちろん彼女がそれなりの知識を持っているのなら初めにそれがどんな毒か言うはずなのだ。
「……ふぅ」
やがて文は苦笑しながらやれやれと首を振った。
「面白くないですねー。最悪、大喧嘩でもしていただければネタになると思ったんですが」
「今思ったがお前さんはいつもどおりだな」
「私はいつでも公明正大な射命丸ですから♪」
「さっきは騙して記事にしようとしていたくせによく言うぜ」
アリスの無実が証明されたところでタイミングよく本人がやってきた。
彼女は魔理沙と文を交互に見てから頭のうえにクエスチョンマークを浮かべる。
「あら、どうしてブンヤが来ているのかしら。もしかして魔理沙が呼んだの?」
「頼まれたって呼ばないぜ」
「呼ばれなくても来ますけどね。ああ、そういえば魔理沙さん。さっきの異変の話ですが」
唐突に文は会話を遡った。
今さら何なんだと魔理沙は顔をしかめたが文は特に気にした様子もなくニコニコしながら言葉を続けた。
「妖怪の山と守矢神社、それから人里は影響を受けていませんよ。隠れる場合にはちょうどいいかもしれません」
「隠れる? 何のためにだ?」
「ではお節介をひとつ。まだフランドールさんは諦めていませんよ」
一時間ほど前のフランの顔が魔理沙の脳裏に蘇る。
忘れようとしても忘れられない。誕生日プレゼントを買ってもらえた子どものような、しかし狂気に満ちた彼女の恍惚とした表情が。
忘れかけた怖気が再び体を襲う。
「わかります? さきほどはパチュリーさんの発生させた雲より外へ逃げたから助かっただけでフランドールさんは今もあなたを探しています。ほら、例えばあの黒雲とか」
文が遠くの空を指差す。魔理沙はおそるおそる窓から顔を出してそちらを見やった。
―――――――ひどい雲だった。
朝の日光をまるで通さない、とても厚い雲が魔法の森へと迫りつつあった。おそらく数十分もすればアリス邸も暗闇に閉ざされることだろう。
黒雲の方角からは強大な力の意思が感じられた。おそらく文の言うとおりならば雲の下にはフランがいるのだろう。
「人外に好かれるというのも大変ですねえ」
「まったくだ、遊び相手も楽じゃない。………おいちょっと待て、まさか最初から見てたっていうのか?」
「ばっちりと」
それなら助けてくれればいいのにと魔理沙は思ったが、天狗が他種族を助けてくれることがかなりの奇跡である。
警告に来てくれただけでも僥倖。そう考えると魔理沙は文の情報をもとに次の行動へと思考を切り替える。
逃げることは問題ではない。ただこの異変が終わらぬかぎり魔理沙はフランから逃げ続けなければならない。
いずれ黒雲が幻想郷を覆いつくす。そうなればフランは行動の制限が減り、自由に動き回ることができる。
問題はパチュリーの魔力が幻想郷全体に行き渡るかどうかだが、彼女になら不可能ではないかもしれない。
(待てよ? そもそもフランが外で活動できるほど雲を広げたら霊夢が動き出すんじゃないか?)
幻想郷を覆うほどの黒雲だ、十分異変に値する事象なのは間違いない。
そうなると最初に動くのが霊夢だ。異変解決の専門である彼女が動かないはずはない、時間が経つのを待てば彼女がフランを止めるだろう。
ただ、霊夢がフランを止める前に魔理沙が逃げ切る必要がある。
(けれど―――――本当にそれでいいのか私?)
歪みを止めること。自分が生んだ脅威に対して立ち向かう責任が魔理沙にはある。
フランの狂気が自分の生んだ歪みならば、本当に立ち向かうべきは魔理沙のはず。それが逃げてばかりでいいのだろうか。
静かに深呼吸をすると魔理沙は改めて文へと向き直る。
「……なあ、文」
「名前で呼んでいただけるとは珍しいですね。して、何ですか?」
「追ってきているのはフランだけか?」
「魔理沙!!?」
驚くアリス。だが魔理沙は彼女を手だけで制し、文の返答を待った。
「そうですよ。当主のレミリアさんと咲夜さんは現在行方知れず、美鈴さんとパチュリーさんは紅魔館に戻っています。
霊脈の集まる場所としても優れた紅魔館ですから、精霊魔術を扱うパチュリーさんは紅魔館にいる必要があるみたいですね」
「雲を効率よく広げるためか、なるほど。それだけ聞ければ十分だ。ありがとな、この一件が片付いたら秘蔵の酒をやるよ」
「それは楽しみです。ちなみに負けた場合はどうします?」
負けた場合。言わずとも魔理沙が帰ってこられなかった場合のとき。
魔理沙は箒を肩に乗せながらニシシと笑ってみせた。
「悪いな、魔理沙さんは負けたときの算段をしたことがないんだぜ」
そう言うと彼女は外へ出て、箒に跨ると鳥が羽ばたくみたいに空へ向かって飛翔した。
迷いも躊躇いもなく。ただまっすぐに迫り来る黒雲に向かって。
◆ 魔法の森上空 10:20 ◆
「よお、フラン」
黒雲を背景に飛んでいたフランが魔理沙の存在に気づく。
「あーっ! 魔理沙だあ!! やっと見つけたよっ」
空中で停止、くるりと回って天真爛漫な笑顔。そこだけ見れば外見相応の子どもに見えたが、彼女の持つ独特の威圧感は隠しきれていなかった。
溢れる紅い魔力をそのままに、フランは高い位置から魔理沙を見下ろしていた。
「パチュリーも厄介なことをしてくれたな。お前を外に出させるなんて」
「朝なのに夜って不思議な気分。ずっと地下にいたせいで時間の感覚なんか感じたことがなかったから」
「開けるな危険の箱入りお嬢様だからな」
「魔理沙が開けたんでしょ?」
「開けるなと言われれば開けたくなるのが人間の性だぜ」
魔理沙には勝算があった。
吸血鬼が朝に弱いこと、フランが一人ということ。すべてを計算にいれても勝機であることには間違いなかった。
さきほどは四人に襲われたが、そのほとんどが紅魔館から離れられる存在ではなかった。
門番、虚弱な魔女、吸血鬼の従者。そのなかで出てこられたのがフランなのだが、彼女は弱点多き吸血鬼。
館内ならば守られていたかもしれないが外へ出てしまえばいくらでも対処のしようがある。
「ね、魔理沙。わざわざ自分から戻ってきてくれたんだから当然私の玩具になってくれるよね?」
「悪いが私は咲夜と同じ無給じゃ働かないぜ」
「大丈夫、お姉さまがなんとかしてくれるからっ!!!」
フランの羽が輝き、そこから一斉に七色の流星が魔理沙へと駆けた。
辺り一帯を埋め尽くす美しい弾幕。それはあたかも黒雲の空を流れる星のような。
魔理沙はフランの相手には慣れていた。だからこそ避け方も心得ており、たとえ相手が本気で撃っていたとしても避けられる自信があった。
「スターボウブレイクか。だがな、星の光は太陽によって消されるんだぜ?」
「魔理沙が使うのだって星弾じゃない」
「そうだな。けどさ、星はいつだって太陽の眩しさに恋焦がれているから綺麗なんだ」
取り出したるは八卦炉、そして恋符。
「マスタァァァスパァァァァック!!!!」
極光の魔砲はフランへと向かって迸り、だが射線は彼女の上だった。
攻撃が外れた。これを好機とまだマスタースパークを放射している魔理沙へとフランが急接近する。
「あははっ!! 残念だったね!!」
「うりゃああああああああッッッッ!!!!」
魔理沙はまだスペルが止まらない。それどころか軌道を変えようとしている風にも見えた。
だが質量が大きいものほど動くのも遅い。当たる前に魔理沙を捕まえる、フランは胸をときめかせながら迫る。
そしてもうすぐフランの手が魔理沙に届こうとしたとき、突然光が空から降ってきて魔理沙を照らした。
「―――――――――ッッッ!!!」
驚いたフランは急停止、慌てて魔理沙との距離を取った。
なぜ、空はどす黒い雲に覆われて光すら遮断されているはずなのに。
その答えはすぐにわかった。
「……まさか、さっきのスペルは私じゃなくて空を狙ったの?」
「大当たりぃ。正攻法じゃ勝てそうにないんでな、悪いが吸血鬼の弱点を使わせてもらうぜ」
フランは光をまともに見ることができないため、空を見上げたりはしなかったが魔理沙からは雲の切れ目が見えていた。マスタースパークで作った対吸血鬼用の光の壁、といったところだろうか。
そもそもパチュリーの方法は危うかったのだ。雲で日光を遮ったとはいえ、スペルで雲を打ち破れば切れ目ができる。
そして魔法は距離があればあるほどラグが生じる。紅魔館にいるパチュリーの魔力が雲を修復するには時間がかかる。
ところが魔理沙の心に余裕などなかった。
(今日すでに奥義とスペルを三つ、使っちまった。手持ちにあるのはミルキーウェイとドラゴンメテオ。たったこれだけでフランを抑えるしかない)
マスタースパークはついさっき撃ったばかり。もっとも突撃力のあるレヴァリエとブレイジングはない。
非力で脆弱な人間の魔理沙がスペルもなしにフランと対等に戦うことはできない。だからこそ彼女は太陽の光による攻撃を選んだ。
「卑怯者」
罵りの言葉。それは裏切られたことに対する怒りだった。
「魔理沙は、魔理沙だけはそんなことしないって思ってた」
「命の危機なんだ、誰だって形振り構っていられなくなるさ」
「嘘。本当は私を太陽の下に晒す気なんてない。魔理沙は優しいから角度だって初めから狙ってたんでしょ?」
図星を当てられ、わずかに狼狽する魔理沙。
そんなわずかな変化さえフランは見逃さなかった。
「やっぱり。そう、そうだよね。魔理沙がそんなことするはずないもん。魔理沙はいつだって私に優しかったんだから」
紅魔館にいる誰もが危ういと感じて閉じ込めた。それを魔理沙がこじ開け、普通であることの楽しさを彼女に伝えた。
誰かと食事や他愛のない話をする。そんな誰もがしている当たり前のことを彼女としてきた。
何も知らない第三者がいたならばこう答えただろう。魔理沙は良い行いをした、と。
それは本当に正しいことだったのか。
「人間じゃ私には勝てない、魔理沙なら分かっているよね。私にはたくさんのコインがある、魔理沙が負けるまでずっとコンティニューし続けるから」
今のフランを見れば答えは明確であろう。魔理沙の行いは彼女の欲を膨らませ、外への憧れを強くし、彼女の暴走に拍車をかけた。
災いは転がり始めならばまだ戻れる、だが速度が増してしまえば止められなくなる。
紅魔館の者たちも魔理沙の行いを止めればよかったのだ。しかし普通の生活を取り戻しつつあるフランを見て希望を持ったのだろう。
もしかしたら、いつか、そのうち。フランは姉のレミリアと変わらぬ生活ができるようになるかもしれない。
閉じ込めた側が願うことではないかもしれない。けれどもその願いは災いが転がるのを見過ごす行為であった。
もっと早くにフランが地下から出ることを止めていれば。欲が出る前に押さえつけていれば何事もなく平穏でいられた。
その平穏を魔理沙が壊した。フランは魔理沙の来訪を喜び、魔理沙が来ない日が続いては癇癪を起こす。
そして気づく。ずっと魔理沙が側にいればいいのだと。
「魔理沙。私の魔理沙。離さない、もう決して離さない。ずっと私の側にいて」
「フラン……悪いがそいつはできない相談だ。私には私の家があるし、行きたい場所も自分で決める。フランのことは好きだがずっとはいられない」
そして答えを告げる。たとえそれが相手を傷つける言葉だとしても。
魔理沙の答えは本心からのものだ。フランには当たり前のことを感じて欲しいと思っているし、自分もその手伝いができたらと彼女は思っている。
けれど命が懸かっているとはいえフランに日光を当てることなどしたくない。それもまた本心だった。
時間が止まったかと思えるほどの長い沈黙が二人の間に流れる。
「―――――――だ」
カタカタと震えるフラン。それはただの錯覚で、震えているのは空気と魔理沙の体。
寒いのは耐え切れないほどの強烈な怖気のせい。
「お姉様もそうだ。好きだけど一緒にはいられないって、そう言って私を地下に閉じ込めた。魔理沙も、私が手に負えないから地下に閉じ込めるつもりなんだ」
「フラン―――――」
「嫌よ、もう地下でじっとしているなんて耐え切れない。魔理沙、私のっ、魔理沙――――――ッッ!!!!」
「っっ……!!!」
レーヴァテインを収めてフランは両手に魔力塊を作り、縦横無尽に解き放つ。
次々と放たれる禁弾「カタディオプトリック」。左右、あるいは正面から前という前の視界を塞ぎ、隠れた弾が襲い掛かる。
(これは弾幕ごっこじゃない。弾幕ごっこじゃない以上、フランを一回や二回撃墜したぐらいじゃ終わらない。気絶させるくらいの衝撃を与えないと)
吸血鬼は人間よりも頑丈な生物だ。生命力のすさまじさも加えて、ただ撃墜した程度では怪我にもならない。やるなら徹底的に破壊するしかない。
魔理沙は当初、雲をスペルで細かく破壊することでフランの行動を制限しようと考えていた。
だが甘い。雲の進行を遅らせたのではいずれフランは魔理沙にたどり着く。この鬼ごっこを終わらせるには鬼そのものを行動不能にするしかない。
それが最大の問題。攻撃をかわすことよりも大きな、妖怪という強大な存在への挑戦。
「にゃろう……っ(いつだ、いつを狙う?)」
避ける場所を探し、弾が服を掠めながらも魔理沙は起死回生の瞬間を待っていた。
フランを倒すための手順、手数も少ない。ただの通常弾を撃ち込んだだけでは行動不能にさせることは難しい。
ならば決め手はスペルカードあるのみ。非力な人間の魔理沙が吸血鬼であるフランを打倒しうるにはそれしかない。
スペルカードは二つを一度に宣言することはできない。よって火力を集中させる方法はなく、スペル単体の火力に頼ることになる。
例として挙げるなら魔理沙のマスタースパーク、フランのレーヴァテインなどである。
まだまだ余力もスペルも残っているフランとは違って魔理沙は残り二つしかない―――――――――だが。
「ッ!!!! ミルキーウェイッッ!!!」
眼前に迫った禁弾に魔理沙は危機を感じ、即座にスペル発動。スペルによる結界によって守られ事なきを得る。
とっさに放ったスペルなど取るに足らない。フランは軌道を読みきり、簡単に回避してしまう。
「くっそ、らしくないミスしちまった!!」
これで手元にはドラゴンメテオしか残っていない。布石として使うはずのミルキーウェイを防御に使ってしまった。
だからどうしたというのか。
今さら嘆いても仕方ない。危機から逃げ延びたのだ、むしろこのチャンスを生かすことを考えなければ。
「こうなったら一か八か、こいつを撃つ!!!」
やるしかない。魔理沙はフランが攻撃を再展開するよりも早く雲へ向かって飛び上がった。
「うふふ。さあ魔理沙、私に見せて。人間の身でどこまで私と闘えるのか」
フランが振りかぶった腕は細く美しい悪魔の爪。一度食い込めば獲物が死するまで離れない。
彼女はスペルを唱えない。正確には唱えないのではなくて、“我慢できなくなった”のだ。
早く魔理沙を捕まえたい。早く魔理沙を自分の部屋に連れて帰って遊びたいという子ども心から生まれた独占欲が早急な帰結を求めた。
一方の魔理沙は雲ギリギリの高さまであがると上昇を止め、はるか下にいるフランを見据える。
フランは攻撃を止め、魔理沙を見上げていた。
「避けるつもりか? それとも……」
攻撃的な彼女がおとなしく見ているだけとは思えない。相手の攻撃を待って避けるような消極的な行動はフランの好むところではないはず。
「―――――来た」
下からぐんぐんとフランの影が迫ってくる。あと少しすれば彼女は魔理沙へと到達するだろう。
待っているわけにもいかない。八卦炉を下へと構える。
まだ、撃たない。
「良い子だ、フラン。そのまま、そのまま来い………!!!」
避けられれば一巻の終わり。ギリギリまでひきつけて攻撃を当てなければ魔理沙は負ける。負けは許されない。
フランの姿が大きくなる。輪郭がやっと見えたと思ったときには彼女の顔がわずかに見えていた。
早い。思っていたよりも予想していたよりも。
気がつけば彼女の全体がはっきりと見えるくらいまで距離が縮まってきていた。
(これ以上はまずい。でも)
まだ撃つには早い。どうぜ撃つのなら自分に危機が及ぶかどうかの距離で撃ったほうがいい。
リスクと見返りは比例する。勝負とは賭けの繰り返しであり、なかでも一発勝負は安全な道を選んでいる場合ではない。
保身に走れば相手にチャンスが巡る。逃げることは相手への攻撃を許すことになる。
ならば攻められる前に攻める。攻撃は最大の防御だ。
「……っ、今だっ!!! 星符!! ドラゴンッッメテオォォォォォッッ!!!!!!!」
あと一秒もあればフランの手が届くかもしれない距離で、魔理沙の手の中で極大の閃光が爆ぜた。
虹色の輝きが地上へと向かって墜ちる。それはあたかも芸術的な激しさと圧倒的な破壊力をもった隕石のような。
一瞬にしてフランは光の渦に飲み込まれ影も形も見当たらなくなった。直撃、いかに吸血鬼であろうと軽傷ではいられない。
「やったか……!?」
スペルを放射しながら魔理沙は呟いた。
そのとき―――――光のなかから焦げた腕が伸びてきた。
「うわぁっっ!!!」
腕の主、フランが今も放たれている光の渦から這い出してくる。そして魔理沙の左肩を掴み―――――ぐしゃっと握りつぶした。
たった一握りで肉も骨も破壊された魔理沙は集中力を乱されてしまい、スペルが止まってしまった。同時に箒も地上へと落ちていく。
紅い鮮血が曇天の空を舞い散りながら地上へと落ちて、周囲には肉の焦げた匂いが漂う。
「は……ぁ、ッ!!」
フランは、ひどい有様だった。
服はほとんど原型を止めておらず、体中は炭化しており、顔もどこが鼻でどこか目なのかわからないくらい焦げていた。
それでも数秒ののちには彼女の顔の半分が再生、元の肌色を取り戻すとニヤリと笑みを浮かべた。
「捕まえた」
興奮しているらしいフランの腕に力が入る。掴まれている魔理沙は尋常じゃない握力に呻き、あまりの激痛に顔をゆがめた。
「ガ……ッ!!!」
「痛い? ごめん、ごめんね魔理沙。でも魔理沙がいけないんだよ、魔理沙が暴れるから私はおしおきしているんだよ?」
片手で魔理沙を持ち上げる怪力。そしてすべてを破壊するほどの閃光のなかに飛び込んでも生きていられる理不尽な生命力。
ダメだ。勝てない。
そう思うと魔理沙の体から力が抜けていき、視界がゆっくりと暗くなっていく。
出血がひどい。今にも千切れそうな左腕と激痛に少女の体は耐え切れなくなってきていた。
「ああ、魔理沙の匂いだぁ……、とっても美味しそうな血の匂い。頭がクラクラしそうなくらい魅力的、屋敷まで我慢できそうにないかも」
親に甘える子どものように魔理沙に抱きつくフラン。
そもそも吸血鬼にただの人間が勝てるわけがない。弾幕でやっと対等だったのに、どうやって物理手段に抗えというのか。
体の作りが違う。魔力の貯蔵量が違う。存在としての格が違いすぎる。
血の足りない頭がヤケクソなことばかり考える。もうどうにでもなれとさえ魔理沙は思った。
「ううん、でも我慢する。魔理沙がやっと手に入ったんだもの、すぐに壊したりしないわ」
生きてさえいれば何とかなる。紅魔館に軟禁されたとしてもすぐに殺されるわけではないだろう、人間を止めなければ希望はある。
それならば数日くらいフランと遊ぶこともなんてことはない。あとは意識を手放せば楽になれる。
肩が痛い。抱き締められている腰が軋む。こんな痛みに苛まれるくらいならいっそ眠りに尽きたい。
「魔理沙がやっと私の物になってくれる、この日を何度も夢に見た。嬉しい、今私はすごく嬉しくて泣いてしまいそう」
――――――勝手に泣けばいい。私は眠いんだ。
ついに首にも力が入らなくなった魔理沙の頭が垂れる。
(………?)
垂れて、視界に移ったのは八角形の鉄の塊、八卦炉。まだ右手は八卦炉を掴んだままだらりと下がっている。
落としたら大変だ。これは大切な人からもらった大切な品なのだから。
『―――力で何かを変える者は生まれた歪みに対して向かっていく責任がある』
大切の人の声が頭の中で再生される。
……そうだ、私には、責任があるんだよな。
そして返答した。歪みが襲ってきたとしても何度も跳ね返してみせると。
『―――その為に君が犠牲になるとしても?』
また、彼の声が聞こえる。
「……こ、う………りん」
違うと言おうとして彼の名前が自然と口からこぼれた。
犠牲にはならない。“まだ”なっていない。
フランが何かを言っている。でも魔理沙には何も聞こえない。ただ思考と視界を独り占めにしているのは大切な人がくれたもの。
右手に握られている八卦炉を見て、魔理沙は自虐気味に笑った。
――――――なんだ、まだ力が入るじゃないか。
右手が動く。そして魔理沙はフランの腹部に八卦炉を押しつける。
「なあに、魔理沙。これを私にくれるの?」
「ああ、欲しけりゃくれてやるぜ。私のありったけの魔力――――――すべてだ!!!!」
「え―――――――――」
答えは待たない。魔理沙の言葉が終わるのと同時に八卦炉から再び極光が放たれる。
砕け散るフランの五体。バラバラになりながら光の渦へと溶けていき、塵となって地上へと墜ちていく。
閃光が消える。そして魔理沙も。
「……は。もう、限界、だ―――――――」
魔力も体力も使い果たした彼女を支える箒はとっくにない。
成す術もないまま魔理沙は地上へと墜ちていった。
◆ ??? ◆
夢。きっとこれは夢だ。
だってあまりにも露骨すぎるじゃないか、目の前にいるのが幼い頃の私だなんて。
それに小さい私を上から見ているあの人は。
『魔理沙。私たちはもう魔法使いじゃないんだ』
……親父。そんなことない、私を見ろよ。普通だけど立派に魔法使いをやっているぜ。
良い奴も悪い奴も含めて友達はたくさんいる。私は家を出たことをすこしも後悔していない。
『勉強をしなさい、そして家業を継ぐんだ。それがお前のためでもある』
していたさ。あんたが見ていなかっただけで私は勉強していたよ。
でもさすがに悪いことしたと思ってる。反抗とか、たぶん魔法使いになれないと決めてつけている親への苛立ちもあったさ。
けれど今なら違うって言える。
私は、どうしても我慢してしまう性質なんだ。
『――――――いらっしゃい、魔理沙』
それでも、いいよって言ってくれた奴がいるから今の私がいるんだ。そしてそいつと約束したんだ。
救ってみせるって。私のように我慢して言いたいことが言えない、そんなヤツを一人も作らないようにしてみせるって。
妖怪も人間も関係なく心のなかで助けを求めているやつの支えになりたい。だから強くなって、そいつらの悩みを私の力で解決してやるんだ。
あいつが、昔の私に言ってくれたように今度は私がいいよって言ってやる側になりたい。
そのために私はまだ死ねない。死ぬわけにはいかないんだ。
どんなに辛くて苦しくて立っていられないような道だとしても、這いつくばってでも進むって決めた。
否定されても、意味がないって笑われたって構わない。それが私の決めた生き方だから。
「………ん」
魔理沙が目を覚ます。そして最初に目にしたのは木の天井だった。
いつの間に屋内に移動したのだろう。そう思い、彼女が体を起こそうとすると突然左腕に痛みがはしった。
「いっ……!!」
全身が痺れるような痛みを堪えながら、彼女が痛みの原因を確かめようと左へ顔を向けるとそこには包帯が巻かれている自分の腕があった。
「そうか、私はフランに肩を掴まれて………」
「目が覚めた?」
声をかけられてそちらへ顔を向けると青っぽい巫女装束を着た少女、東風谷早苗が立っていた。
なぜ彼女が、と思って魔理沙が首を傾げていると先に早苗が口を開いた。
「意外と元気そうね。運ばれてきたときはすごい出血だったから、一時はどうなることかと思ったけど案外丈夫なのね」
「早苗、だよな。ということはここって」
「そ、守矢神社よ」
◆ 守矢神社 14:56 ◆
ちょっと待ってて。そう言い残すと早苗はどこかへと去っていき、それからしばらくしてから二人連れて戻ってきた。
「魔理沙!!」
「アリス? それにブンヤじゃないか」
「お元気そうで何よりです。ここまで運んできた甲斐がありましたよ」
「運んできた? お前が、私をか?」
まさか、と疑う魔理沙にすかさずアリスが説明を付け加えた。
「あなたが出て行ったあとにそいつと避難しようとしていたんだけど、途中で心配になって引き返したの。そうしたら魔理沙が空から落ちてくるじゃない。間に合わないかと思ったんだけど、すかさずそいつが受け止めたのよ」
「そっか。サンキュウな、なんか助けられたみたいで」
「いえいえ、あなたに死んでもらっては約束の酒が頂けませんからね」
「私の家を物色して勝手に持っていけばいいじゃないか」
「他人の遺品を漁るような真似はしません。あくまで本人から受け取らなければ意味がないので」
とはいえ助けられたのは事実。これは秘蔵の酒だけでは礼には足らないなと思いながら魔理沙は心の中でもう一度、文に感謝した。
天狗はよほどのことがあっても同類以外の生物を助けることはない。それでも文は助けてくれた、これには感謝せざるを得ない。
それから腕は治るだろうかと考えて、ふと魔理沙はあることを思い出した。
「フランは? フランはどうなった?」
「無事よ。別の部屋に寝かせてある。あなたの墜落するはずだった場所で気絶してたからついでにね。ああ、箒も回収してあるわよ」
「そうか」
アリスの言葉を聞いて魔理沙はほっとする。
塵となって墜ちたはずだがさすがは吸血鬼、日光以外で粉微塵になったとしても再生するとは。改めて魔理沙は吸血鬼という存在の強大さを思い知らされ、そしてフランの無事に安堵した。
だが勝利の代わりに払ったものは大きい。手持ちのスペルカード全部と左腕。これではまともに動けそうにない。
また文の情報どおり守矢神社は安全のようだ。事実、早苗はいつもどおりで襲ってくる気配はない。
ここなら安心して休むことができる。そう、魔理沙が体から力を抜いたときだった。
くきゅう、と。腹の虫が鳴いた。
とても可愛らしい音に魔理沙は頬を赤らめて俯き、聞いてしまった三人はくすくすと笑った。
「食欲があるなら大丈夫そうね。何か作るわ」
「手伝うわ」
「私も手伝いましょう」
気を遣ったのか、三人は揃って部屋から出て行く。とりあえず魔理沙は彼女たちの後姿を憎たらしく見送ってからゆっくりと布団に倒れた。
とにかく眠い。食事ができたら呼びに来るだろう。そう思った魔理沙はゆっくりと瞼を閉じる。
疲れていたせいだろう、彼女は間もなく眠りへとおちていった。
◆ 守矢神社 15:35 ◆
右腕しか使えない魔理沙はアリスにお椀を持ってもらいながら食事をした。
左腕が使えなくては不便だろうというアリスの気遣いなのだが、調子に乗った魔理沙が箸のほうも頼もうとしたところ、かなり強く頬をひねられた。
そんな微笑ましい光景を文がからかい、ムキになったアリスを見て早苗が笑う。
ゆったりとした時間。数時間前の弾幕ごっこが嘘のような平和なひとときが過ぎていく。
そして食事が終わると話は本題へ。話は守矢神社の二柱、八坂神奈子と洩矢諏訪子も加えて行われた。
―――霊夢と異変。
―――殺気だっている人妖たち。
今までの出来事を話し終えると魔理沙は茶で喉を潤した。
「……どう思う?」
「そう言われてもねえ」
困った風にこめかみを掻いたのは諏訪子。
「この辺りじゃそんな現象は起きていない、とか言ったら怒るぜ?」
「あーうー。ちがうちがう、そうじゃなくて。私はこの異変そのものに矛盾を感じているのよね」
「というと?」
「明らかに“指向性を持っている”というところ。前の異変はどんなものだったかは知らないけど、今回は妖怪たちが凶暴化していると考えていいね?」
「まあ、そうだな」
妖怪といっても咲夜のような人間も混じっていたわけだが。だから魔理沙はあえて人妖とひとまとめにしていた。
そんなことも気にせずに諏訪子は話を続ける。
「でもさ、それじゃ説明がつかない。妖怪たちが暴れるならそれこそ無差別のはず、なのに魔理沙を襲った妖夢と幽々子、そして月の兎は互いを攻撃しようとはせず、狙いは完全に魔理沙だけだった。
さらに言うならこの異変が外から来た妖怪のものであれば魔理沙を意図的に狙わせる事はできない。なぜなら外の妖怪が魔理沙を知っているとは思えないから。
そして最後に“弾幕ルールを無視するほどの凶暴性”を持ちながら今だに魔理沙以外に被害者がいないこと。そうだったね、天狗」
「はい、おっしゃるとおりです」
諏訪子の言いたいことを要約するならば、妖怪たちの攻撃がある一点に向いている、明確な指向性を持っているということ。
これを聞いた誰もが異変の矛先にたどり着き、そして彼女の顔を見た。
「わ、私か?」
「なるほど。だとすると霊夢の言っていたことはあながち間違いじゃないわ。誰かと関わりさえしなければ被害には合わない。魔理沙の行く先々だけで、それも魔理沙だけに限定されて異変が起きている。そういうことかい、諏訪子?」
「そういうこと。ここまで馬鹿丁寧に魔理沙だけが狙われるなんてありえない。結果には当然原因が存在するからね」
となると、魔理沙には相当人数に殺されるほど恨まれているということになる。
各人が魔理沙の行いについて振り返る。
しばし沈黙。
「……そういえばパチュリーから本を強奪していたかしらね。あと私からも」
「何度かカメラを壊されましたねえ」
「あっ、思い出した! 魔理沙、前に人里で貸したお金返しなさい!」
「私も御柱に傷をつけられたことがあったなあ」
散々である。
ついには諏訪子が哀れみながら優しく魔理沙の肩を叩く。
「……魔理沙」
「とっ、とにかく! この状況を乗り切らないことには返せるものも返せないぜ」
無理矢理話を元に戻した魔理沙だったが、実際には彼女の言うとおりでこの異変かも騒動かも分からない騒ぎを収めなければいけない。
なによりフラン、パチュリーが分かりやすい例だろう。魔理沙を探すために黒雲を幻想郷中に広げようとした。大袈裟なことを言えば、魔理沙ひとりのために起きなくてもいい異変が起きることになる。
退屈な毎日ならそれでも構わないが、魔理沙にとっては堪らない。早苗たちとて毎回魔理沙を匿っていては、いつ被害を受けるかも分からない。
「それもそうか。しょうがない、今回は協力してあげるわよ」
「おお、さすがはアリスだぜ。話がよくわかっているじゃないか」
「死んで枕元に立たれても迷惑だからね。とりあえずアンタは休んでおきなさい、怪我人なんだから」
その場にいる全員が頷く。
ひどいぜ、と言いながら魔理沙は元いた部屋へと戻っていった。
時刻はじきに夕七つ。次に彼女が目覚めたときは夜になっているであろう。
もし生まれたら?
―――ない。ありえない。
―――けれど限りなく奇数に近い偶数は生まれる。ただし、境界は越えられない。
もし越えようとしたら?
―――存在が消える。これはすべての概念にも在る真理。
―――水から水素が失われれば水ではなくなる。火から熱がなくなれば火ではなくなる。
―――この幻想郷でいえば博麗の巫女。彼女の在り方が揺らぐことは結界の揺らぎに直結する。
在り方とは何です?
―――心の拠り所。存在そのもの。
本当に中立なら危機が訪れるほどに歪むことはならないはず。
―――理由はひとつ。博麗の心を歪ませる何かがいるということ。
「わかるわね、藍」
マヨヒガでは紫と藍が言葉を交わしていた。
なぜこの騒動が起きたのか、藍が紫に尋ねたからだ。
「つまり魔理沙が霊夢の心を歪ませている、と? 私にはそんな簡単に結界が揺らぐとは思えません」
「そうは言うけどね、藍。現に中立のはずの霊夢が人間である魔理沙に忠告をした、これは立派な予兆じゃないかしら」
「ですが紫さま。それでは魔理沙を消してしまっては霊夢の心に悪い影響を与えてしまい、ますます結界に支障をきたすのでは?」
仮に霊夢の心境に変化が起きているなら霊夢にとって、魔理沙は大きな存在であることになる。ならば魔理沙がいなくなれば霊夢の心はさらに歪む可能性がある。
すると紫は小さく笑った。
「あなたは私が誰なのか忘れたの? 生まれた心の隙間に私が入り込む。そうすれば霊夢は魔理沙のことなんかすぐに忘れてしまうわ」
「すべては計算の上、ですか」
「そうよ。だって考えればわかることじゃない、“たかが一人の人間の在り方”で右往左往していたら今頃幻想郷はとっくに崩壊しているわ。霊夢は別だけどね」
「では幻想郷のために動き出している連中は」
「幽々子は長い付き合いだからさすがに気づいているでしょう。あとの連中は嘘だと気づいていない、まあ半分は本当なのだけれど」
紫は何も間違ったことは言っていない。
魔理沙が霊夢に影響を及ぼし、結界に変化が生じる。その変化によって何かが起きるまえに魔理沙を消去する。
それでこの異変は解決する。誰も分からないまま、何も変わらないまま幻想郷は平和へと戻る。
八雲紫に大きな益をもたらす以外は。
「ところで紫さま。魔理沙が邪魔なら隙間を使ってさくっと終わらせたほうが早くありません?」
「確かにそうね。でも直接干渉した私の慰めを霊夢は聞き入れるかしら?」
八雲紫も妖怪の一人、しかし博麗と同じ中立の立場の存在に近い。彼女もまた幻想郷を守る立場の存在である。
博麗が表なら八雲は裏。もちろん目的も行動も異なるが、在り方そのものは類似している。ゆえに表を支えるために魔理沙に干渉することはありえないことではない。
だが紫の思い通りに事を運ぶべきなら他の連中に手を回したほうがよく、それに楽ができる。
また、この件はあくまでも“魔理沙が原因”である。人間と妖怪のパワーバランスを崩す要因として妖怪、ひいては博麗が干渉するべきという理由が立つ。
しかし幻想郷の危機であるならば動くべきは博麗。これがあるべき結果であるならばどれほど妖怪が動こうが、霊夢が決着をつけることになる。
紫の狙いはそれらしいことを言って妖怪たちを動かして、逃げ場を失った魔理沙が霊夢を頼り、逆に霊夢に消されること。
その途中で妖怪に倒されるならそれもまた良し。
なぜ八雲紫が他の妖怪たちに働きかける必要があったのか。それはつまり事情を理解していない妖怪たちのところへ魔理沙が逃げ込まないように逃げ道を防ぐため。
万が一、いや、確実に霊夢が殴りこんでいった場合の被害、そして妖怪たちからの信用が失われると良くないからだ。
魔理沙には人脈が多い。何の理由もなく粛清した場合、魔理沙に好意的な人妖は良い顔をしないだろう。
ならば初めから彼女らに魔理沙が悪であると伝えておけばいい。そうすれば誰も霊夢を責めることも疑問に思う者もいなくなる。
場合によっては紫の手によって修正を加えれば良い。幻想郷に関わるような大事でなければいくらでも手は加えられる。
「ま、最近は娯楽も足りていないからレミリアや幽々子たちはしばらく遊ぶつもりでいるでしょう。時が来るまでは魔理沙の命はお預けね」
「幻想郷の危機なのにですか?」
「それが“因果律”というものよ。どんなに急いていても、どんなに焦っていても必ずそれは余裕や甘さを生ませる。よく覚えておきなさい」
「肝に銘じます」
因果律。すべての事象には原因が存在しているからこそ生起し、原因がなくては何も生起しないということ。結果の前に原因は現れないこと。
魔理沙が生きていることには意味がある。魔理沙が逃げ延びるにはどこかに原因が存在する。
例えばレミリア。咲夜、フランドール、パチュリーなどの強者がいながら魔理沙は生きていた。時を操り、あらゆるものを破壊し、七曜に属する元素を操る力が、なぜか一撃必殺に結びつかなかった。
例えば幽々子。妖夢ほどの剣豪を以ってしても魔理沙を捉えられず、さらにはアリスの乱入を許してしまった。
考えれば、原因はすべて彼女たちにあるではないか。
レミリアであれば運命を操り、幽々子ならばわざと手を抜いただけでなく従者に追撃を止めさせた。
幻想郷という娯楽の少ない世界であればこそ。原因は事象から人へ、人から世界へ巡る。結果、世界が人の行動を決定するといっても過言ではない。
ゆえに影響も世界から人へと下る。それが自然な流れであることを知っている紫は、世界から魔理沙へと毒を流す。
「さて、藍。あなたはいつもどおり結界の点検に向かうのよ。そう、いつも通りにね」
「わかりました。……ああ、そういえば紫様。橙を見かけませんでしたか? 朝から見当たらないのですが」
「さあ? 妖怪友達といっしょに遊びに出かけたんじゃないかしら」
くすっと妖美な笑みを浮かべて紫は家へと踵を返す。
彼女の作り上げたシナリオは、今ゆっくりと王手に向かっていく。
◆ 魔理沙の長い一日 魔法の森のアリス邸 10:00 ◆
窮地を救われた魔理沙はアリスとともに魔法の森まで逃げてきた。
道中を襲われることはなかったが、しかし警戒しながら二人はアリス邸まで逃げることができた。
「助かったぜアリス」
「どういたしまして。それにしてもひどい怪我ね、どんなことをすればそんなに傷だらけになれるのかしら」
「これぐらい普通だって。それより喉が渇いたんだよ、紅茶をくれ、紅茶」
「薬を塗るのが先。傷口から雑菌が入ったら困るでしょ」
アリスは救急箱をもってくると塗り薬を指につけ、魔理沙の治療を始める。
治療されている魔理沙はときどきくすぐったいのか身をよじる。
「そういやさ、アリスはおかしくなっていないんだな」
「はあ? 何よそれ」
「実はだな……」
魔理沙は体験した出来事を自分の主観を交えながらアリスに説明した。
霊夢が異変を感じ取ったこと。その異変で多くの人妖たちがルールを無視して本気で攻撃してきていること。
そして異変は何者かと接触したことで起きたと考えられるが、幽々子たちが誰にも会っていないという矛盾点。
話を聞き終えたアリスはふむ、と腕を組んだ。
「つまり異変を起こしてまわっているやつがいるはずなんだけど、どういう方法なのか分からないのね」
「そうなんだよ。紅霧とかさ、他には長い冬とか永遠の夜とか。そういった目で分かる現象じゃないんだ」
「もしかしたら異変じゃないのかもしれないわね。ただそうなると霊夢の言ったことが嘘になるけど」
「なんだか堂々巡りだな。あ、紅茶くれ、お菓子もな」
「まったくもう、そういうことだけちゃんと覚えているんだから」
困り顔でアリスは台所へと向かう。
そして彼女が見えなくなると魔理沙はぐっと両手と両足を伸ばし、体の緊張をほぐした。
確かにアリスの言うとおり、これは堂々巡りだ。
霊夢が異変を感じ取ったのならば原因が存在するはずなのだが、それらしき人物は見当たらない。
ところが変化は起きている。紅魔館に、白玉楼に、永遠亭に。人が多く住んでいるところはほぼ確実に。
幸いにもアリスみたいにまだ異変に巻き込まれていない妖怪もいる。魔理沙は肩から力を抜いて椅子にもたれかかる。
「……んん?」
しかし気になる。殺す気で弾幕を展開しておきながら、“どうして誰も深く追撃してこなかったのか”。
諦めたのか、それとも今も魔理沙の行方を追っているのか。それならば先程襲ってきた幽々子たちがアリスの家に来る可能性は高い。
もし、彼女たちが追うことを諦めていないとしたら。
「ッ、アリス――――――」
台所にいる彼女を呼ぼうとして、ふと視界に窓が飛び込んできた。
そこに――――――カメラを構えて魔理沙に手を振っている天狗がいた。
「―――――あ?」
なんで彼女がここにいるのか分からなかったが、とにかく窓を開けて天狗と相対する。
「……何やってんだ?」
「どうも、確かな真実をお伝えする射命丸文です!! さっそくですが何かネタになるようなことをしてください。例えばアリスさんを押し倒すとか」
「そんなことしたら私の身が危ないっての。ああ、そうだ、この異変について何か知っていることはないか?」
情報に目ざとい天狗ならば何か知っているかもしれない。
目に見えにくいとはいえ大規模な異変だ、もしかしたら魔理沙以外にも被害は出ているかもしれないし、犯人に繋がるヒントもあるはず。
一方の文は「異変ですか?」と聞き返してから首を傾げた。
「異変なんて起きていませんよ。むしろ騒動といったほうが正しいでしょう」
「は? どういうことだ?」
「気にしないでください。それよりいいんですか?」
「いいって、何が?」
ますます訳がわからんと渋い顔をする魔理沙の額を、文が人差し指で突いて。
「魔理沙さん、このままだと殺されますよ」
鳥肌が立ってしまうほどの冷笑。
突然近づいてきた美しい顔に、突然の宣告に、魔理沙は二重の意味で動揺してしまった。
「いえ、実はね? 私見てしまったんですよ。さきほどアリスさんが紅茶とケーキに毒が盛られたところを」
嘘だ、アリスがそんなことをするはずがない。
頭が否定していても心のどこかで疑っている自分がいることに彼女は見てみぬ振りをすることができない。
「……ははっ。嘘が下手だな、アリスが毒を盛るはずがないじゃないか」
「いいんですよ? 私としてはどちらでも。霧雨魔理沙、隣人に毒殺されるという記事が書けるので」
信じるべきはどちらなのか。それは言うまでもなくアリスに決まっている。
だが、もし、万が一でもアリスが毒を盛っているとしたら? もしもアリスも異変の影響を受けているのなら即座に攻撃してくるはず。
否、その可能性すらも否。この異変そのものの原因が不明である以上、結果も不明であると考えるのが当然。
しかし窮地を助けてもらった魔理沙にとってはいきなり出てきた文のほうがかなり信用ならない。
ならばどうやって試すか。どうやって信憑性を求めるか。
魔理沙が取れる道はふたつ。このままアリスの家に残るか、それとも文とともにこの場から離れるか。
「証拠はあるのか? 証拠がなければ信じられないぜ」
「ではなぜアリスさんはタイミングよく竹林に現れたんでしょうね」
逆に、アリスへの信用を打ち消すかのような質問をされた。
文の言葉に似合わぬ笑みに魔理沙は知らないうちに息を呑んだ。
「竹林が人間の里に近いからじゃないのか? 偶然通りかかったとか」
「おかしいですね。生活用品などを買いに出たのならそれなりの物を持っているはずなのですが、彼女の家に紅茶や菓子の類は足りているようですね。では、なぜ彼女は外にいたのでしょう」
「だからそれは……」
台所からアリスが魔理沙を呼ぶ声がする。間もなく彼女は台所から出てくるだろう。
時間がない。外に出るのならアリスに見つかる前ではないと引き止められる。引き止められたら最後だ、自分で要求したものに口をつけずに去れば不審に思われる。
不審は調和を乱す。ゆえに逃げようとすれば追われ、もしくは信用を失くす。そして逃げた先に異変でおかしくなった妖怪がいないとも限らない。
一体誰を信じ、誰を味方と判断するべきか。
「………………」
逆にどちらも信じられない、もしくはどちらも信じられるという可能性はないだろうか。
条件は二つ。アリスが毒を盛ったかの正否と文の情報の正否。どちらかが正しければどちらかは間違っている。
だが、魔理沙はある疑問に至った。そもそも射命丸文は“薬学”に精通していただろうか?
彼女はアリスが毒を盛ったというが文はどうやってそれを毒と知ることができたのか。
「なあ、アリスは毒を混ぜたんだよな」
「そうですよ? さっきからそう言って……」
「じゃあお前はそれがどんな毒なのか知っているのか?」
「――――――――」
「当然どんな毒なのかわかっているからお前は毒と言ったんだ。根拠もなく毒と断言するとしたらそいつは嘘吐きだ」
窓の外から眺めていて、普通それが毒であると判断できるだろうか。
魔理沙を騙して毒を食わせるつもりなら目立たぬようにするはず。まず薬の知識もない者が一目で毒と判断できるはずがない。
怪しい色をしているから毒、と決めつけることも結局は根拠がない。ならば薬学に精通していない文に毒と判断することはできない。
もちろん彼女がそれなりの知識を持っているのなら初めにそれがどんな毒か言うはずなのだ。
「……ふぅ」
やがて文は苦笑しながらやれやれと首を振った。
「面白くないですねー。最悪、大喧嘩でもしていただければネタになると思ったんですが」
「今思ったがお前さんはいつもどおりだな」
「私はいつでも公明正大な射命丸ですから♪」
「さっきは騙して記事にしようとしていたくせによく言うぜ」
アリスの無実が証明されたところでタイミングよく本人がやってきた。
彼女は魔理沙と文を交互に見てから頭のうえにクエスチョンマークを浮かべる。
「あら、どうしてブンヤが来ているのかしら。もしかして魔理沙が呼んだの?」
「頼まれたって呼ばないぜ」
「呼ばれなくても来ますけどね。ああ、そういえば魔理沙さん。さっきの異変の話ですが」
唐突に文は会話を遡った。
今さら何なんだと魔理沙は顔をしかめたが文は特に気にした様子もなくニコニコしながら言葉を続けた。
「妖怪の山と守矢神社、それから人里は影響を受けていませんよ。隠れる場合にはちょうどいいかもしれません」
「隠れる? 何のためにだ?」
「ではお節介をひとつ。まだフランドールさんは諦めていませんよ」
一時間ほど前のフランの顔が魔理沙の脳裏に蘇る。
忘れようとしても忘れられない。誕生日プレゼントを買ってもらえた子どものような、しかし狂気に満ちた彼女の恍惚とした表情が。
忘れかけた怖気が再び体を襲う。
「わかります? さきほどはパチュリーさんの発生させた雲より外へ逃げたから助かっただけでフランドールさんは今もあなたを探しています。ほら、例えばあの黒雲とか」
文が遠くの空を指差す。魔理沙はおそるおそる窓から顔を出してそちらを見やった。
―――――――ひどい雲だった。
朝の日光をまるで通さない、とても厚い雲が魔法の森へと迫りつつあった。おそらく数十分もすればアリス邸も暗闇に閉ざされることだろう。
黒雲の方角からは強大な力の意思が感じられた。おそらく文の言うとおりならば雲の下にはフランがいるのだろう。
「人外に好かれるというのも大変ですねえ」
「まったくだ、遊び相手も楽じゃない。………おいちょっと待て、まさか最初から見てたっていうのか?」
「ばっちりと」
それなら助けてくれればいいのにと魔理沙は思ったが、天狗が他種族を助けてくれることがかなりの奇跡である。
警告に来てくれただけでも僥倖。そう考えると魔理沙は文の情報をもとに次の行動へと思考を切り替える。
逃げることは問題ではない。ただこの異変が終わらぬかぎり魔理沙はフランから逃げ続けなければならない。
いずれ黒雲が幻想郷を覆いつくす。そうなればフランは行動の制限が減り、自由に動き回ることができる。
問題はパチュリーの魔力が幻想郷全体に行き渡るかどうかだが、彼女になら不可能ではないかもしれない。
(待てよ? そもそもフランが外で活動できるほど雲を広げたら霊夢が動き出すんじゃないか?)
幻想郷を覆うほどの黒雲だ、十分異変に値する事象なのは間違いない。
そうなると最初に動くのが霊夢だ。異変解決の専門である彼女が動かないはずはない、時間が経つのを待てば彼女がフランを止めるだろう。
ただ、霊夢がフランを止める前に魔理沙が逃げ切る必要がある。
(けれど―――――本当にそれでいいのか私?)
歪みを止めること。自分が生んだ脅威に対して立ち向かう責任が魔理沙にはある。
フランの狂気が自分の生んだ歪みならば、本当に立ち向かうべきは魔理沙のはず。それが逃げてばかりでいいのだろうか。
静かに深呼吸をすると魔理沙は改めて文へと向き直る。
「……なあ、文」
「名前で呼んでいただけるとは珍しいですね。して、何ですか?」
「追ってきているのはフランだけか?」
「魔理沙!!?」
驚くアリス。だが魔理沙は彼女を手だけで制し、文の返答を待った。
「そうですよ。当主のレミリアさんと咲夜さんは現在行方知れず、美鈴さんとパチュリーさんは紅魔館に戻っています。
霊脈の集まる場所としても優れた紅魔館ですから、精霊魔術を扱うパチュリーさんは紅魔館にいる必要があるみたいですね」
「雲を効率よく広げるためか、なるほど。それだけ聞ければ十分だ。ありがとな、この一件が片付いたら秘蔵の酒をやるよ」
「それは楽しみです。ちなみに負けた場合はどうします?」
負けた場合。言わずとも魔理沙が帰ってこられなかった場合のとき。
魔理沙は箒を肩に乗せながらニシシと笑ってみせた。
「悪いな、魔理沙さんは負けたときの算段をしたことがないんだぜ」
そう言うと彼女は外へ出て、箒に跨ると鳥が羽ばたくみたいに空へ向かって飛翔した。
迷いも躊躇いもなく。ただまっすぐに迫り来る黒雲に向かって。
◆ 魔法の森上空 10:20 ◆
「よお、フラン」
黒雲を背景に飛んでいたフランが魔理沙の存在に気づく。
「あーっ! 魔理沙だあ!! やっと見つけたよっ」
空中で停止、くるりと回って天真爛漫な笑顔。そこだけ見れば外見相応の子どもに見えたが、彼女の持つ独特の威圧感は隠しきれていなかった。
溢れる紅い魔力をそのままに、フランは高い位置から魔理沙を見下ろしていた。
「パチュリーも厄介なことをしてくれたな。お前を外に出させるなんて」
「朝なのに夜って不思議な気分。ずっと地下にいたせいで時間の感覚なんか感じたことがなかったから」
「開けるな危険の箱入りお嬢様だからな」
「魔理沙が開けたんでしょ?」
「開けるなと言われれば開けたくなるのが人間の性だぜ」
魔理沙には勝算があった。
吸血鬼が朝に弱いこと、フランが一人ということ。すべてを計算にいれても勝機であることには間違いなかった。
さきほどは四人に襲われたが、そのほとんどが紅魔館から離れられる存在ではなかった。
門番、虚弱な魔女、吸血鬼の従者。そのなかで出てこられたのがフランなのだが、彼女は弱点多き吸血鬼。
館内ならば守られていたかもしれないが外へ出てしまえばいくらでも対処のしようがある。
「ね、魔理沙。わざわざ自分から戻ってきてくれたんだから当然私の玩具になってくれるよね?」
「悪いが私は咲夜と同じ無給じゃ働かないぜ」
「大丈夫、お姉さまがなんとかしてくれるからっ!!!」
フランの羽が輝き、そこから一斉に七色の流星が魔理沙へと駆けた。
辺り一帯を埋め尽くす美しい弾幕。それはあたかも黒雲の空を流れる星のような。
魔理沙はフランの相手には慣れていた。だからこそ避け方も心得ており、たとえ相手が本気で撃っていたとしても避けられる自信があった。
「スターボウブレイクか。だがな、星の光は太陽によって消されるんだぜ?」
「魔理沙が使うのだって星弾じゃない」
「そうだな。けどさ、星はいつだって太陽の眩しさに恋焦がれているから綺麗なんだ」
取り出したるは八卦炉、そして恋符。
「マスタァァァスパァァァァック!!!!」
極光の魔砲はフランへと向かって迸り、だが射線は彼女の上だった。
攻撃が外れた。これを好機とまだマスタースパークを放射している魔理沙へとフランが急接近する。
「あははっ!! 残念だったね!!」
「うりゃああああああああッッッッ!!!!」
魔理沙はまだスペルが止まらない。それどころか軌道を変えようとしている風にも見えた。
だが質量が大きいものほど動くのも遅い。当たる前に魔理沙を捕まえる、フランは胸をときめかせながら迫る。
そしてもうすぐフランの手が魔理沙に届こうとしたとき、突然光が空から降ってきて魔理沙を照らした。
「―――――――――ッッッ!!!」
驚いたフランは急停止、慌てて魔理沙との距離を取った。
なぜ、空はどす黒い雲に覆われて光すら遮断されているはずなのに。
その答えはすぐにわかった。
「……まさか、さっきのスペルは私じゃなくて空を狙ったの?」
「大当たりぃ。正攻法じゃ勝てそうにないんでな、悪いが吸血鬼の弱点を使わせてもらうぜ」
フランは光をまともに見ることができないため、空を見上げたりはしなかったが魔理沙からは雲の切れ目が見えていた。マスタースパークで作った対吸血鬼用の光の壁、といったところだろうか。
そもそもパチュリーの方法は危うかったのだ。雲で日光を遮ったとはいえ、スペルで雲を打ち破れば切れ目ができる。
そして魔法は距離があればあるほどラグが生じる。紅魔館にいるパチュリーの魔力が雲を修復するには時間がかかる。
ところが魔理沙の心に余裕などなかった。
(今日すでに奥義とスペルを三つ、使っちまった。手持ちにあるのはミルキーウェイとドラゴンメテオ。たったこれだけでフランを抑えるしかない)
マスタースパークはついさっき撃ったばかり。もっとも突撃力のあるレヴァリエとブレイジングはない。
非力で脆弱な人間の魔理沙がスペルもなしにフランと対等に戦うことはできない。だからこそ彼女は太陽の光による攻撃を選んだ。
「卑怯者」
罵りの言葉。それは裏切られたことに対する怒りだった。
「魔理沙は、魔理沙だけはそんなことしないって思ってた」
「命の危機なんだ、誰だって形振り構っていられなくなるさ」
「嘘。本当は私を太陽の下に晒す気なんてない。魔理沙は優しいから角度だって初めから狙ってたんでしょ?」
図星を当てられ、わずかに狼狽する魔理沙。
そんなわずかな変化さえフランは見逃さなかった。
「やっぱり。そう、そうだよね。魔理沙がそんなことするはずないもん。魔理沙はいつだって私に優しかったんだから」
紅魔館にいる誰もが危ういと感じて閉じ込めた。それを魔理沙がこじ開け、普通であることの楽しさを彼女に伝えた。
誰かと食事や他愛のない話をする。そんな誰もがしている当たり前のことを彼女としてきた。
何も知らない第三者がいたならばこう答えただろう。魔理沙は良い行いをした、と。
それは本当に正しいことだったのか。
「人間じゃ私には勝てない、魔理沙なら分かっているよね。私にはたくさんのコインがある、魔理沙が負けるまでずっとコンティニューし続けるから」
今のフランを見れば答えは明確であろう。魔理沙の行いは彼女の欲を膨らませ、外への憧れを強くし、彼女の暴走に拍車をかけた。
災いは転がり始めならばまだ戻れる、だが速度が増してしまえば止められなくなる。
紅魔館の者たちも魔理沙の行いを止めればよかったのだ。しかし普通の生活を取り戻しつつあるフランを見て希望を持ったのだろう。
もしかしたら、いつか、そのうち。フランは姉のレミリアと変わらぬ生活ができるようになるかもしれない。
閉じ込めた側が願うことではないかもしれない。けれどもその願いは災いが転がるのを見過ごす行為であった。
もっと早くにフランが地下から出ることを止めていれば。欲が出る前に押さえつけていれば何事もなく平穏でいられた。
その平穏を魔理沙が壊した。フランは魔理沙の来訪を喜び、魔理沙が来ない日が続いては癇癪を起こす。
そして気づく。ずっと魔理沙が側にいればいいのだと。
「魔理沙。私の魔理沙。離さない、もう決して離さない。ずっと私の側にいて」
「フラン……悪いがそいつはできない相談だ。私には私の家があるし、行きたい場所も自分で決める。フランのことは好きだがずっとはいられない」
そして答えを告げる。たとえそれが相手を傷つける言葉だとしても。
魔理沙の答えは本心からのものだ。フランには当たり前のことを感じて欲しいと思っているし、自分もその手伝いができたらと彼女は思っている。
けれど命が懸かっているとはいえフランに日光を当てることなどしたくない。それもまた本心だった。
時間が止まったかと思えるほどの長い沈黙が二人の間に流れる。
「―――――――だ」
カタカタと震えるフラン。それはただの錯覚で、震えているのは空気と魔理沙の体。
寒いのは耐え切れないほどの強烈な怖気のせい。
「お姉様もそうだ。好きだけど一緒にはいられないって、そう言って私を地下に閉じ込めた。魔理沙も、私が手に負えないから地下に閉じ込めるつもりなんだ」
「フラン―――――」
「嫌よ、もう地下でじっとしているなんて耐え切れない。魔理沙、私のっ、魔理沙――――――ッッ!!!!」
「っっ……!!!」
レーヴァテインを収めてフランは両手に魔力塊を作り、縦横無尽に解き放つ。
次々と放たれる禁弾「カタディオプトリック」。左右、あるいは正面から前という前の視界を塞ぎ、隠れた弾が襲い掛かる。
(これは弾幕ごっこじゃない。弾幕ごっこじゃない以上、フランを一回や二回撃墜したぐらいじゃ終わらない。気絶させるくらいの衝撃を与えないと)
吸血鬼は人間よりも頑丈な生物だ。生命力のすさまじさも加えて、ただ撃墜した程度では怪我にもならない。やるなら徹底的に破壊するしかない。
魔理沙は当初、雲をスペルで細かく破壊することでフランの行動を制限しようと考えていた。
だが甘い。雲の進行を遅らせたのではいずれフランは魔理沙にたどり着く。この鬼ごっこを終わらせるには鬼そのものを行動不能にするしかない。
それが最大の問題。攻撃をかわすことよりも大きな、妖怪という強大な存在への挑戦。
「にゃろう……っ(いつだ、いつを狙う?)」
避ける場所を探し、弾が服を掠めながらも魔理沙は起死回生の瞬間を待っていた。
フランを倒すための手順、手数も少ない。ただの通常弾を撃ち込んだだけでは行動不能にさせることは難しい。
ならば決め手はスペルカードあるのみ。非力な人間の魔理沙が吸血鬼であるフランを打倒しうるにはそれしかない。
スペルカードは二つを一度に宣言することはできない。よって火力を集中させる方法はなく、スペル単体の火力に頼ることになる。
例として挙げるなら魔理沙のマスタースパーク、フランのレーヴァテインなどである。
まだまだ余力もスペルも残っているフランとは違って魔理沙は残り二つしかない―――――――――だが。
「ッ!!!! ミルキーウェイッッ!!!」
眼前に迫った禁弾に魔理沙は危機を感じ、即座にスペル発動。スペルによる結界によって守られ事なきを得る。
とっさに放ったスペルなど取るに足らない。フランは軌道を読みきり、簡単に回避してしまう。
「くっそ、らしくないミスしちまった!!」
これで手元にはドラゴンメテオしか残っていない。布石として使うはずのミルキーウェイを防御に使ってしまった。
だからどうしたというのか。
今さら嘆いても仕方ない。危機から逃げ延びたのだ、むしろこのチャンスを生かすことを考えなければ。
「こうなったら一か八か、こいつを撃つ!!!」
やるしかない。魔理沙はフランが攻撃を再展開するよりも早く雲へ向かって飛び上がった。
「うふふ。さあ魔理沙、私に見せて。人間の身でどこまで私と闘えるのか」
フランが振りかぶった腕は細く美しい悪魔の爪。一度食い込めば獲物が死するまで離れない。
彼女はスペルを唱えない。正確には唱えないのではなくて、“我慢できなくなった”のだ。
早く魔理沙を捕まえたい。早く魔理沙を自分の部屋に連れて帰って遊びたいという子ども心から生まれた独占欲が早急な帰結を求めた。
一方の魔理沙は雲ギリギリの高さまであがると上昇を止め、はるか下にいるフランを見据える。
フランは攻撃を止め、魔理沙を見上げていた。
「避けるつもりか? それとも……」
攻撃的な彼女がおとなしく見ているだけとは思えない。相手の攻撃を待って避けるような消極的な行動はフランの好むところではないはず。
「―――――来た」
下からぐんぐんとフランの影が迫ってくる。あと少しすれば彼女は魔理沙へと到達するだろう。
待っているわけにもいかない。八卦炉を下へと構える。
まだ、撃たない。
「良い子だ、フラン。そのまま、そのまま来い………!!!」
避けられれば一巻の終わり。ギリギリまでひきつけて攻撃を当てなければ魔理沙は負ける。負けは許されない。
フランの姿が大きくなる。輪郭がやっと見えたと思ったときには彼女の顔がわずかに見えていた。
早い。思っていたよりも予想していたよりも。
気がつけば彼女の全体がはっきりと見えるくらいまで距離が縮まってきていた。
(これ以上はまずい。でも)
まだ撃つには早い。どうぜ撃つのなら自分に危機が及ぶかどうかの距離で撃ったほうがいい。
リスクと見返りは比例する。勝負とは賭けの繰り返しであり、なかでも一発勝負は安全な道を選んでいる場合ではない。
保身に走れば相手にチャンスが巡る。逃げることは相手への攻撃を許すことになる。
ならば攻められる前に攻める。攻撃は最大の防御だ。
「……っ、今だっ!!! 星符!! ドラゴンッッメテオォォォォォッッ!!!!!!!」
あと一秒もあればフランの手が届くかもしれない距離で、魔理沙の手の中で極大の閃光が爆ぜた。
虹色の輝きが地上へと向かって墜ちる。それはあたかも芸術的な激しさと圧倒的な破壊力をもった隕石のような。
一瞬にしてフランは光の渦に飲み込まれ影も形も見当たらなくなった。直撃、いかに吸血鬼であろうと軽傷ではいられない。
「やったか……!?」
スペルを放射しながら魔理沙は呟いた。
そのとき―――――光のなかから焦げた腕が伸びてきた。
「うわぁっっ!!!」
腕の主、フランが今も放たれている光の渦から這い出してくる。そして魔理沙の左肩を掴み―――――ぐしゃっと握りつぶした。
たった一握りで肉も骨も破壊された魔理沙は集中力を乱されてしまい、スペルが止まってしまった。同時に箒も地上へと落ちていく。
紅い鮮血が曇天の空を舞い散りながら地上へと落ちて、周囲には肉の焦げた匂いが漂う。
「は……ぁ、ッ!!」
フランは、ひどい有様だった。
服はほとんど原型を止めておらず、体中は炭化しており、顔もどこが鼻でどこか目なのかわからないくらい焦げていた。
それでも数秒ののちには彼女の顔の半分が再生、元の肌色を取り戻すとニヤリと笑みを浮かべた。
「捕まえた」
興奮しているらしいフランの腕に力が入る。掴まれている魔理沙は尋常じゃない握力に呻き、あまりの激痛に顔をゆがめた。
「ガ……ッ!!!」
「痛い? ごめん、ごめんね魔理沙。でも魔理沙がいけないんだよ、魔理沙が暴れるから私はおしおきしているんだよ?」
片手で魔理沙を持ち上げる怪力。そしてすべてを破壊するほどの閃光のなかに飛び込んでも生きていられる理不尽な生命力。
ダメだ。勝てない。
そう思うと魔理沙の体から力が抜けていき、視界がゆっくりと暗くなっていく。
出血がひどい。今にも千切れそうな左腕と激痛に少女の体は耐え切れなくなってきていた。
「ああ、魔理沙の匂いだぁ……、とっても美味しそうな血の匂い。頭がクラクラしそうなくらい魅力的、屋敷まで我慢できそうにないかも」
親に甘える子どものように魔理沙に抱きつくフラン。
そもそも吸血鬼にただの人間が勝てるわけがない。弾幕でやっと対等だったのに、どうやって物理手段に抗えというのか。
体の作りが違う。魔力の貯蔵量が違う。存在としての格が違いすぎる。
血の足りない頭がヤケクソなことばかり考える。もうどうにでもなれとさえ魔理沙は思った。
「ううん、でも我慢する。魔理沙がやっと手に入ったんだもの、すぐに壊したりしないわ」
生きてさえいれば何とかなる。紅魔館に軟禁されたとしてもすぐに殺されるわけではないだろう、人間を止めなければ希望はある。
それならば数日くらいフランと遊ぶこともなんてことはない。あとは意識を手放せば楽になれる。
肩が痛い。抱き締められている腰が軋む。こんな痛みに苛まれるくらいならいっそ眠りに尽きたい。
「魔理沙がやっと私の物になってくれる、この日を何度も夢に見た。嬉しい、今私はすごく嬉しくて泣いてしまいそう」
――――――勝手に泣けばいい。私は眠いんだ。
ついに首にも力が入らなくなった魔理沙の頭が垂れる。
(………?)
垂れて、視界に移ったのは八角形の鉄の塊、八卦炉。まだ右手は八卦炉を掴んだままだらりと下がっている。
落としたら大変だ。これは大切な人からもらった大切な品なのだから。
『―――力で何かを変える者は生まれた歪みに対して向かっていく責任がある』
大切の人の声が頭の中で再生される。
……そうだ、私には、責任があるんだよな。
そして返答した。歪みが襲ってきたとしても何度も跳ね返してみせると。
『―――その為に君が犠牲になるとしても?』
また、彼の声が聞こえる。
「……こ、う………りん」
違うと言おうとして彼の名前が自然と口からこぼれた。
犠牲にはならない。“まだ”なっていない。
フランが何かを言っている。でも魔理沙には何も聞こえない。ただ思考と視界を独り占めにしているのは大切な人がくれたもの。
右手に握られている八卦炉を見て、魔理沙は自虐気味に笑った。
――――――なんだ、まだ力が入るじゃないか。
右手が動く。そして魔理沙はフランの腹部に八卦炉を押しつける。
「なあに、魔理沙。これを私にくれるの?」
「ああ、欲しけりゃくれてやるぜ。私のありったけの魔力――――――すべてだ!!!!」
「え―――――――――」
答えは待たない。魔理沙の言葉が終わるのと同時に八卦炉から再び極光が放たれる。
砕け散るフランの五体。バラバラになりながら光の渦へと溶けていき、塵となって地上へと墜ちていく。
閃光が消える。そして魔理沙も。
「……は。もう、限界、だ―――――――」
魔力も体力も使い果たした彼女を支える箒はとっくにない。
成す術もないまま魔理沙は地上へと墜ちていった。
◆ ??? ◆
夢。きっとこれは夢だ。
だってあまりにも露骨すぎるじゃないか、目の前にいるのが幼い頃の私だなんて。
それに小さい私を上から見ているあの人は。
『魔理沙。私たちはもう魔法使いじゃないんだ』
……親父。そんなことない、私を見ろよ。普通だけど立派に魔法使いをやっているぜ。
良い奴も悪い奴も含めて友達はたくさんいる。私は家を出たことをすこしも後悔していない。
『勉強をしなさい、そして家業を継ぐんだ。それがお前のためでもある』
していたさ。あんたが見ていなかっただけで私は勉強していたよ。
でもさすがに悪いことしたと思ってる。反抗とか、たぶん魔法使いになれないと決めてつけている親への苛立ちもあったさ。
けれど今なら違うって言える。
私は、どうしても我慢してしまう性質なんだ。
『――――――いらっしゃい、魔理沙』
それでも、いいよって言ってくれた奴がいるから今の私がいるんだ。そしてそいつと約束したんだ。
救ってみせるって。私のように我慢して言いたいことが言えない、そんなヤツを一人も作らないようにしてみせるって。
妖怪も人間も関係なく心のなかで助けを求めているやつの支えになりたい。だから強くなって、そいつらの悩みを私の力で解決してやるんだ。
あいつが、昔の私に言ってくれたように今度は私がいいよって言ってやる側になりたい。
そのために私はまだ死ねない。死ぬわけにはいかないんだ。
どんなに辛くて苦しくて立っていられないような道だとしても、這いつくばってでも進むって決めた。
否定されても、意味がないって笑われたって構わない。それが私の決めた生き方だから。
「………ん」
魔理沙が目を覚ます。そして最初に目にしたのは木の天井だった。
いつの間に屋内に移動したのだろう。そう思い、彼女が体を起こそうとすると突然左腕に痛みがはしった。
「いっ……!!」
全身が痺れるような痛みを堪えながら、彼女が痛みの原因を確かめようと左へ顔を向けるとそこには包帯が巻かれている自分の腕があった。
「そうか、私はフランに肩を掴まれて………」
「目が覚めた?」
声をかけられてそちらへ顔を向けると青っぽい巫女装束を着た少女、東風谷早苗が立っていた。
なぜ彼女が、と思って魔理沙が首を傾げていると先に早苗が口を開いた。
「意外と元気そうね。運ばれてきたときはすごい出血だったから、一時はどうなることかと思ったけど案外丈夫なのね」
「早苗、だよな。ということはここって」
「そ、守矢神社よ」
◆ 守矢神社 14:56 ◆
ちょっと待ってて。そう言い残すと早苗はどこかへと去っていき、それからしばらくしてから二人連れて戻ってきた。
「魔理沙!!」
「アリス? それにブンヤじゃないか」
「お元気そうで何よりです。ここまで運んできた甲斐がありましたよ」
「運んできた? お前が、私をか?」
まさか、と疑う魔理沙にすかさずアリスが説明を付け加えた。
「あなたが出て行ったあとにそいつと避難しようとしていたんだけど、途中で心配になって引き返したの。そうしたら魔理沙が空から落ちてくるじゃない。間に合わないかと思ったんだけど、すかさずそいつが受け止めたのよ」
「そっか。サンキュウな、なんか助けられたみたいで」
「いえいえ、あなたに死んでもらっては約束の酒が頂けませんからね」
「私の家を物色して勝手に持っていけばいいじゃないか」
「他人の遺品を漁るような真似はしません。あくまで本人から受け取らなければ意味がないので」
とはいえ助けられたのは事実。これは秘蔵の酒だけでは礼には足らないなと思いながら魔理沙は心の中でもう一度、文に感謝した。
天狗はよほどのことがあっても同類以外の生物を助けることはない。それでも文は助けてくれた、これには感謝せざるを得ない。
それから腕は治るだろうかと考えて、ふと魔理沙はあることを思い出した。
「フランは? フランはどうなった?」
「無事よ。別の部屋に寝かせてある。あなたの墜落するはずだった場所で気絶してたからついでにね。ああ、箒も回収してあるわよ」
「そうか」
アリスの言葉を聞いて魔理沙はほっとする。
塵となって墜ちたはずだがさすがは吸血鬼、日光以外で粉微塵になったとしても再生するとは。改めて魔理沙は吸血鬼という存在の強大さを思い知らされ、そしてフランの無事に安堵した。
だが勝利の代わりに払ったものは大きい。手持ちのスペルカード全部と左腕。これではまともに動けそうにない。
また文の情報どおり守矢神社は安全のようだ。事実、早苗はいつもどおりで襲ってくる気配はない。
ここなら安心して休むことができる。そう、魔理沙が体から力を抜いたときだった。
くきゅう、と。腹の虫が鳴いた。
とても可愛らしい音に魔理沙は頬を赤らめて俯き、聞いてしまった三人はくすくすと笑った。
「食欲があるなら大丈夫そうね。何か作るわ」
「手伝うわ」
「私も手伝いましょう」
気を遣ったのか、三人は揃って部屋から出て行く。とりあえず魔理沙は彼女たちの後姿を憎たらしく見送ってからゆっくりと布団に倒れた。
とにかく眠い。食事ができたら呼びに来るだろう。そう思った魔理沙はゆっくりと瞼を閉じる。
疲れていたせいだろう、彼女は間もなく眠りへとおちていった。
◆ 守矢神社 15:35 ◆
右腕しか使えない魔理沙はアリスにお椀を持ってもらいながら食事をした。
左腕が使えなくては不便だろうというアリスの気遣いなのだが、調子に乗った魔理沙が箸のほうも頼もうとしたところ、かなり強く頬をひねられた。
そんな微笑ましい光景を文がからかい、ムキになったアリスを見て早苗が笑う。
ゆったりとした時間。数時間前の弾幕ごっこが嘘のような平和なひとときが過ぎていく。
そして食事が終わると話は本題へ。話は守矢神社の二柱、八坂神奈子と洩矢諏訪子も加えて行われた。
―――霊夢と異変。
―――殺気だっている人妖たち。
今までの出来事を話し終えると魔理沙は茶で喉を潤した。
「……どう思う?」
「そう言われてもねえ」
困った風にこめかみを掻いたのは諏訪子。
「この辺りじゃそんな現象は起きていない、とか言ったら怒るぜ?」
「あーうー。ちがうちがう、そうじゃなくて。私はこの異変そのものに矛盾を感じているのよね」
「というと?」
「明らかに“指向性を持っている”というところ。前の異変はどんなものだったかは知らないけど、今回は妖怪たちが凶暴化していると考えていいね?」
「まあ、そうだな」
妖怪といっても咲夜のような人間も混じっていたわけだが。だから魔理沙はあえて人妖とひとまとめにしていた。
そんなことも気にせずに諏訪子は話を続ける。
「でもさ、それじゃ説明がつかない。妖怪たちが暴れるならそれこそ無差別のはず、なのに魔理沙を襲った妖夢と幽々子、そして月の兎は互いを攻撃しようとはせず、狙いは完全に魔理沙だけだった。
さらに言うならこの異変が外から来た妖怪のものであれば魔理沙を意図的に狙わせる事はできない。なぜなら外の妖怪が魔理沙を知っているとは思えないから。
そして最後に“弾幕ルールを無視するほどの凶暴性”を持ちながら今だに魔理沙以外に被害者がいないこと。そうだったね、天狗」
「はい、おっしゃるとおりです」
諏訪子の言いたいことを要約するならば、妖怪たちの攻撃がある一点に向いている、明確な指向性を持っているということ。
これを聞いた誰もが異変の矛先にたどり着き、そして彼女の顔を見た。
「わ、私か?」
「なるほど。だとすると霊夢の言っていたことはあながち間違いじゃないわ。誰かと関わりさえしなければ被害には合わない。魔理沙の行く先々だけで、それも魔理沙だけに限定されて異変が起きている。そういうことかい、諏訪子?」
「そういうこと。ここまで馬鹿丁寧に魔理沙だけが狙われるなんてありえない。結果には当然原因が存在するからね」
となると、魔理沙には相当人数に殺されるほど恨まれているということになる。
各人が魔理沙の行いについて振り返る。
しばし沈黙。
「……そういえばパチュリーから本を強奪していたかしらね。あと私からも」
「何度かカメラを壊されましたねえ」
「あっ、思い出した! 魔理沙、前に人里で貸したお金返しなさい!」
「私も御柱に傷をつけられたことがあったなあ」
散々である。
ついには諏訪子が哀れみながら優しく魔理沙の肩を叩く。
「……魔理沙」
「とっ、とにかく! この状況を乗り切らないことには返せるものも返せないぜ」
無理矢理話を元に戻した魔理沙だったが、実際には彼女の言うとおりでこの異変かも騒動かも分からない騒ぎを収めなければいけない。
なによりフラン、パチュリーが分かりやすい例だろう。魔理沙を探すために黒雲を幻想郷中に広げようとした。大袈裟なことを言えば、魔理沙ひとりのために起きなくてもいい異変が起きることになる。
退屈な毎日ならそれでも構わないが、魔理沙にとっては堪らない。早苗たちとて毎回魔理沙を匿っていては、いつ被害を受けるかも分からない。
「それもそうか。しょうがない、今回は協力してあげるわよ」
「おお、さすがはアリスだぜ。話がよくわかっているじゃないか」
「死んで枕元に立たれても迷惑だからね。とりあえずアンタは休んでおきなさい、怪我人なんだから」
その場にいる全員が頷く。
ひどいぜ、と言いながら魔理沙は元いた部屋へと戻っていった。
時刻はじきに夕七つ。次に彼女が目覚めたときは夜になっているであろう。
影響を受けてない地域について紫様から説明が欲しかったです。何の気なしにハブられてたので。
とにかく次回作期待してます。納得のいく結果ならバッドでもハッピーでも
決めてはスペルカード→「決め手」かと。
個人的にはありきたりなハッピーエンドでみんな幸せオチにはなって欲しくないですね…
多種族→他種族
> PM14:56
時刻をこういう書き方はしないのでは?
「p.m.2:56」か、単に「14:56」と表記すると思います。
フランに『外』を教えた魔理沙の行動は、必ずしも正しかったとはいえない
のではないか、という解釈が興味深かったです。
事態が単純化してきているのが気になりますが、後編を楽しみにしています。
評価はその時に。
霊夢「前言撤回。 妖怪は退治されるもの。 人間は退治するもの。
これは動かせない約束事ね。 これからも私は、妖怪を退治するわ。」
中立は霊夢の性質であり、博麗としての義務はやはり妖怪退治にあるのでは。
妖怪と人間が戦えるようにするために博霊が立ち上げたスペルカードルールが破られるのを、
何故霊夢が黙って見ているのか。霊夢空気じゃん。
前半が寄せられたコメントへの回答であるというのは容易にわかりました。
ただそれくらい欺瞞に感じました。言い訳がましい感じ。
紫をはじめとする討伐勢が必要以上に性格悪いし。
娯楽で人の命を弄ぶとか。
ここまで書いておいてなんですが、
かなりシリアスなテーマを選んで書かれているのだから、
初めからご自分の中で完成された世界観や因果関係があるはずです。
批判コメにいちいち反応せずに、文中でそれを表現すればいいと思います。
面白かったので、とりあえず点数を。
あんまりコメントを気にされないのが良いかと思います。
魔界に引っ越せ
魔法使いには堪らんとこだぞw
自身の世界観を文中に表現するには大変かもしれませんが がんばってください
読者の辛い・甘いコメントもいい肥やしとして日々、精進ですね
じっくり吟味していい作品にしてください。 けど早く続きが読みたいです~>ω<
過去の作品集に似た内容のものがあるだけに結末まで似ないことを願います。
妖怪の山は本来閉鎖的な社会を形成しており、外の妖怪(ここでは八雲紫)が何か言ってきたところで彼らはそれに盲目的に従うようなことはしない。たとえ幻想郷の危機と言われても八雲紫に従って行動はせず、自分たちで事実関係を確認してからになるでしょうから。そのための烏天狗・報道機関。
守矢神社については新参ということもありますし、人を守るべき神が人を助けないということをするはずが無いですね。特に魔理沙は守矢神社の信者の一人ですし、もしもそうしようとしても早苗が反対したことでしょう。何より、神奈子は魔理沙のことを気に入ってるようですし
上と同じような理由で人里にも影響は無い。魔法使いではあるがただの人間である魔理沙を助けない理由は慧音には無いですね。今回慧音は登場しませんでしたが、妖怪から人間を守ると公言している慧音ならきっと魔理沙の助けにもなってくれるでしょう。慧音に釣られて妹紅が魔理沙を助けるかは分かりかねます(公式設定では慧音と妹紅にはなんら関係が無い)が、永遠亭が紫側で行動している以上、その反発として魔理沙側に付く可能性はある。
唯一わからないのはアリスが何故八雲紫の手に落ちていないか、です。
アリスが魔界人だからという理由は適切ではないでしょうし、可能性としては八雲紫から協力するように言われたがアリスがそれに反発したという事ぐらいしか思いつきませんでした。
アリスも妖怪である以上、紫によってアレやコレや言われて魔理沙排除に協力するように要請すると思うのですが・・・上の理由はアリスには当てはまりませんし
と、まぁ勝手に考察などをしてしまいましたが中々面白かったです。
後編も期待しています。
個人的には大団円でみんな幸せエンドが良いな… 。
まあ、あくまで期待、あくまで個人的な希望なので、私も含めて、あまり周りの期待や批判、希望を背負う必要はないかと。
好きなように書かれて良いと思います。
ラストが自分の希望に添わなかったからといって、文句をいうのは言語道断。単なる八つ当たりなので。
アリスは元々紫が来なかったのか、来たけど無視してるのか、個人的には前者だと思うんですが。
さて魔理沙は生き残ることが出来るのでしょうか?採集話が楽しみです。
共通するものは幻想郷の「組織」の中で「直接」魔理沙と面識のあったもの、と言うことかも知れない。
そもそも妖怪の山は議会に参加していない。紫が満員一致とか言っていたし。
紅魔館、永遠亭は外の世界からやってきた→幻想郷の重要さをわかっているだろうし。
後、明確に戦い方やスペルカードがわかっているってのもありそうだ。
妖怪の山はにとりや文は勝負したけれど、もっと上位の大天狗とかは出なかったし。
アリスは幻想郷において上記ほどの影響力は無い。
故に知らされていない。
映姫や小町、幽香、小規模妖怪たち、慧音等は出るのだろうか?
地霊殿は関係ない。そもそも地下から出ないだろう、多分。
とにかく後編をお願いいたいます。