青々と生い茂る草木、大きな花の周りを狂うように飛び交う蝶。風通しと日当たりの悪い魔法の森。
嫌気が差すほど茸があちらこちらから顔を出し、その量といったらもぐら叩きならぬ茸叩きが出来そうなほどだ。
巨木の養分を吸い取る茸もあれば、地面で踏みつけられるのを待つ茸、挙句の果てには茸に寄生する茸さえある。
これらの知識は全て、厄介な魔法使いに吹き込まれたものだ。
私が茸を使わないことを知っておきながら、長々と自分の知識を披露していた。その事を思い出すだけで虫の居所が悪くなる。
「いっ――」
優雅に布の上を泳ぐ針が肌色の肉壁に衝突する。咄嗟に針を引っ込めるも、肌は小さな赤点を残す。
その挙句、引っ込めた拍子に針が布を振り切ってしまった。
波型を作っていた布は瞬時に平地に戻ってしまい、同じ作業を繰り返す破目になってしまった。
この程度のことで自分に乱れが出るとは、あいつの影響力も大した物だと悪い意味で感心してしまう。
溜息を吐くための通気孔を確保するのに、小さな歯軋りはその醜いソロライブを終えた。
滲み出た血が白い布に着く。苛立ちを溜息で抑えつける。やり直しだ。
血が付いたのは気にもならないような一点。だが、それが気に食わない。
あいつを想像したときの失敗を、形として残したくはなかった。
布専用のゴミ捨てダンボール目掛け、白い布をくしゃくしゃに丸めて投げ入れる――入らない。
苛立ちを溜息で押さえる。仕方なく立ち上がり、汚い雑巾を摘み上げるようにしてダンボールへとシュート。
糸くずや布の切れ端ばかりが溢れかえる中、白い布が居心地の悪さを感じているように見えた。
同じ大きさに白い布を切り、針を握る。先程のようにスイスイと針が泳ぐ。
形はバタフライだろうか、水面を浮いたり沈んだりとものすごい速さで泳いでゆく。しかし、針の動きはすぐさま止まった。
水面に浮かぶ赤い跡。ぞっとして左の親指を見る。力を入れると、赤い液体は風船のように丸く膨らんでいった。
絆創膏を貼るのを忘れていた。思わず、布を針ごと床に叩きつける。
投げ方が悪かったのか、ふくらはぎに痒みを帯びた痛みが走った。針が掠めたのだろう、五里霧中するストレスが体中を駆け巡る。
どうも、あいつのことを思い出すと作業がはかどらない。はかどらないばかりか、養老の滝の如くあいつに対する嫌悪の情が沸いてくる。
それとも、これは最近梅雨が続いていることと因果関係があるのだろうか。じめじめとした日は誰だって心地良く思わないに違いない。
そう、あいつに対する嫌悪だの憤りだの、よほどのことでなければチルノの弾幕のように受け流すことが出来たではないか。
そうだ、これはきっと梅雨、湿気が高い所為だ。梅雨ももう終る、それまでの辛抱だ。
自己暗示を続けていると、自然と心が晴れてきた。作業を再開しようと、先程落とした針を探す。
布を拾い上げ、糸の先をたどる――針がない。
叩きつけた時か、今拾い上げた時かは分からないが、この状況が私の創作意欲を喪失させる原因であることは間違いなかった。
背もたれに寄りかかり、宙を見上げる。
暫らく休憩を入れよう。少し休めば、この不愉快さもどうにかなる。
紅茶を飲みながら静かに読書。そういった日も、案外いいかもしれない。早速、人形たちに指示を出す。
テーブルの上に横たわる上海人形と蓬莱人形はカタカタと揺れ、四肢と顔をだらりと垂れて宙に持ち上げられる。
指を鳴らすのと同時に、二体は弾かれたように顔と四肢が動き、キッチンへと駆け込んでいった。
パチュリーに借りたまま読んでいなかった本を棚から取り出す。一指し指二本分はありそうな分厚い本。
表紙には下から見上げたような異様な光景。パチュリーは外の本だと言っていたから、これは外の世界の建物なのだろう。
三色に彩られた一本足の三目、紅魔館に劣らない高さを誇る、所々の窓から光を零す建物。
どういった内容なのかは分からないが、どうも危ない感じの漂う文章が綴られた帯が付いている。
生き残るために嘘と裏切りを重ねる人間たちの危険な物語――肌が粟立った。
キッチンからは火を付ける音が聞こえ、がさがさと何かを漁る音が聞こえる。蓬莱人形が食器を取りに室内へと戻ってきた。
ソファに腰掛け、量のある本の表紙を捲る。いまいち分かりにくい一言と、長ったらしい人物名が記されている。
更にページを捲ると、二段に構成された小さな文字がびっしりと並んでいた。目を擦って宙を仰ぐ。
どうやら、水を吸い込んだだけのスポンジではないようだ。沸騰の汽笛を境に、もう一度本に目を落とす。
百ページほど読んだころ、がたんという物音で本の呪縛から開放された。どうやら、上海人形が力を失って落下したようだ。
しおりを挟み、ソファの上に置く。蓬莱人形は首を垂れ、壁に寄りかかっていた。二体を持ち上げ、テーブルの上に置く。
隣に置いてある紅茶はすっかり冷め切っていた。仕方なく飲み干し、再びソファに腰を降ろす。首を回し、両手を頭の上まで伸ばす。
背中を反らし、つま先まで伸ばしきる。再び目を走らせようか迷った挙句、分厚い本を本棚に戻すことにした。
新聞以外の活字にはあまり目を通さないが、すっかりと夢中になって読み進めてしまった。
打算的で、頭が切れて、冷酷で、臆病な主人公。決して愉快な話ではないようだが、外の世界の無常さを痛感するにはまたとないものだろう。
外を見るも、朝なのか夜なのか分からないここでは時間を知る手段にはなり難い。
時間は殆ど体感、誰かと何かを予定しているわけでもなければ、そのこらいは大雑把に切り捨てる。
――大体四時といったところだろう、人形作りを再開しなければならない。テーブルの上に放置していた白い布を取り、鋏を入れる。
途中、違和感のある手応えを感じ、鋏を動かす手を止めた。白い布を翻すと、布に寄り添っていた端の切れた一枚の紙がはらりと落ちた。
七夕の日にお祭りがあると、手書きの荒々しい力が篭った文字で記された紙。
人里に住む人々はどういう訳か祭り好きで、何かしら行事があるたびに祭りを開く。その度に、私は人形劇を披露しに人里へと赴く。
今回は竹取物語。竹取の翁、五人の貴族、月人、そして、かぐや姫。それなりの量の人形を作る必要がある。
今日は五日、七夕は――明後日。針を見つけるために床を這い、目を皿にして顎を床に擦る。
祭りは明後日、殆ど人形が出来上がっていないというのに、何をのんびりと本など読んでいるのだ。
先程だって、四人目の貴族を作り上げていた途中ではないか。月人もそれなりの数あるというのに、どうしたことか。
急に焦りが出てきて、再び作業を再開させる。
途端に、ドアの開く音。瞬間、背筋が凍った。刹那、忌々しい声が響いた。
「アリスー? 居ないのかー?」
出来るならこの状況から抜け出したいと、心の底から強く願った。だが、あいつはもう玄関を我が物顔で踏みつけ、既にこの部屋のドア近くまで足を踏み入れているに違いない。
案の定、部屋のドアは勢いよく開けられ、部屋の振動の顕著さを現すようにして、蓬莱人形が棚から崩れ落ちた。
私はあいつの顔を見ることもなく、黙々と作業を続けるフリをした。変に関わってしまうのは愚行というものだ。
一度でも話そうなら、多弁なあいつはここへ居座り、話し込むことだろう。気付かぬフリをして、布に糸を通す。
だが、腕が震える。恐怖ではない。何かもっと、別の感情。ただの嫌悪とは違う何か。
その居心地の悪さに、腕が震えているのかもしれない。
「友達のいないアリスの所に、魔理沙さんが来てやったんだからお茶くらい出したらどうだ?」
あいつ――魔理沙。今現在、私が抱えている最も大きな腫瘍。今日もまた、近くを通りかかったと称して乗り込んできたのだろう。
ちらりと目を向けると、肩に箒を掛け、柄の先端には紺色の風呂敷が括り付けられているのが目に入る。
どうせまた、森で取った茸でも抱えてきたのだろう。妖気の篭った胞子に耐性があるとはいえ、やはり綺麗でないものはあまり喜ばしくない。
風呂敷の隙間からは微々たる胞子が撒かれ、宙を漂う。魔理沙に言われたとおり、人形たちに指示を与えて紅茶を用意させる。
その間も、私は黙ったまま作業を続ける。震える指使いで、何とか四人目の貴族の服が完成した。そしてもう一人の貴族の服を作り始める。
「相変わらず綺麗に動くんだな、あの人形たち」
感心しているのか、それとも話題をちらつかせているのか。魔理沙は箒の柄を下にして壁に立て掛け、わざわざ真正面の椅子に腰掛けた。
否が応でも、魔理沙の顔が目に映る。気付かれないように若干体を傾け、魔理沙を視界から消す。
嘲笑うかのような鼻笑いと大きな欠伸を残し、魔理沙は椅子から立ち上がった。
何か珍しい物でも見つけたかのように、吸い込まれるようにして本棚へと歩いていった。
何を探そうが盗ろうが、文句は言わない。だから早く帰ってくれ、一刻も早く人形を完成させなければならないのだから。
キッチンから響き渡る汽笛。早く飲んでもらい、さっさと帰ってもらおう。だが、魔理沙はあっ、と驚いたような声を上げ、こちらへと歩み寄ってきた。
「アリス、ちょっとこの本を貸してくれないか?」
「……どうぞ」
素っ気無い返事で返す。さぁ、紅茶を飲み終わったら帰ってくれ。あんたは何のお構いもないだろうが、あんたは自分の存在が私のモチベーションを下げることに気が付いていない。
それも、魔理沙が手に持っているのは先程私が読んでいた本。これからの展開が気になり始める中盤だったというのに――いや、この際何でもいい。
本棚ごと持っていってもいいから、この場で本棚を荒らしてもいいから、今すぐ帰ってくれ。
そんな想いが伝わったのか、魔理沙は差し出された紅茶にすぐ口を付けた。
だが、それと同時に魔理沙は本を開いた。
「……ねぇ、魔理沙」
「何だぜ?」
「集中出来ないから……早く帰ってくれる?」
「別に後でだっていいだろ」
自分勝手な発言をする魔理沙に嫌気が差し、頬を引きつらせて微笑む。そして、咄嗟に口が開いた。
「そういう訳にもいかないの。七夕の人形劇に使う――」
体中から吹き出る冷や汗。何を言っているのだ私は。これではまるで『人形劇を開くから見に来てねー』と言っているようなものだ。
必死に弁解しようと舌を出すが、それも既に遅かった。魔理沙は顔を輝かせて声をあげた。
「本当か? それなら邪魔するわけには行かないな。じゃあな、楽しみにしているぜ!」
紅茶を飲み終えぬまま、魔理沙は箒を担いで外へ出て行った。借りる予定だった本をそのままに。
痛恨の失態だった。早く帰ってほしいという願望のあまり、焦りが口に油を差した。こんなことになるなら、もう少し我慢していればよかった。
だが、それも結果論。今となってはどうすることも出来ない。再び、家全体を揺るがすような乱暴な音。
茸の胞子がゆらゆらと放浪し、そのまま地に伏せる。魔理沙が引っ張り出したと思える本が無造作にばら撒かれている。
憤慨、憂慮、嫌悪――いずれも、あいつに対するどす黒い感情。自分でも、好ましくないことは分かっている。
自己中心、傲慢、盗癖――それらを思い出す度にあいつを、魔理沙を白眼視し続けるのだろう。
魔理沙ももう少し大人しくしていれば――いや、止めよう。あいつを友達になんて、考えたくもない。末期の癌になるに違いない。
今はきっちりと、明後日に向けての人形作りに精を出さねばならない。青い布と白い布を重ね、再び針を泳がせる。
黙々と、淡々と、ただただ針を泳がせ続けた。
Ж
髪が乱れていることは鏡を見ずとも察することが出来る。妙な違和感が頭を撫でる。
雨は降っていないが、この鬱蒼とした森では空模様を確認することが難しい。
状態を起こしたまま背中を伸ばし、首と肩を回す。両腕と両足を千切れてしまうほど力強く伸ばし、軽く柔軟体操を始める。
ベッドを降り、もう一度体を伸ばして欠伸をする。顔を洗い、とりあえず適当に髪を解く。ひどい寝癖だった。
昨夜、あいつに重要な私の情報を漏らしてしまったことによる、焦りからきたものだろうか。
寝巻きを着替え、クローゼットにある普段着を選ぶ。最も着慣れた、愛着のある洋服。たとえこの服が破けようと、何度でも繕って着続ける。
万が一体が大きくなっても、同じデザインで新しく作り直す。それほど愛着のある洋服。気のせいか、この服を着ているときが最も私に活力と活気を与え、作業を迅速なものとする。
朝食は必要ないだろう。適当に、魔法で補っておけばよい。食事を必要としないのは実に便利なことだ。時間短縮にもなるし、何より手間が掛からない。
勿論、食の美を忘れたわけではない。特に、今日は明日に向けての人形作りをする必要がある。
結局、あの日は大してモチベーションも上がらず、燃料不足ですぐに寝入ってしまった。昨日、あいつには人形作りをすると言ってしまったから、今日ここへ訪れる可能性はまずないだろう。
その分、昨日の借りを返さなくてはならない。早速、裁縫道具を用意して針に糸を通す、気分よく、すんなりと門を通る。
残っているのは月人四人とかぐや姫。何事もなければ、今日中に事は済む。針を布に飛び込ませ、泳がせる。昨日よりも速く、綺麗に、針は白い奇跡を残し、軽快に泳ぎ続けていた。
月人を四人作り終え、紅茶を淹れる。昨日頂けなかった香りと味を楽しむことにしよう。紅茶を飲み終えたら作業再開、そうしよう。
かぐや姫を作り終えたら、ほんの続きを読むことにしよう。昨日は人形作りを投げ出した後、余暇を読書で潰していた。
結局二百ページ目まで読んで、一区切りをつけた。自分が生き残るために利用するはずの女性を愛してしまう主人公。
予定を変更し、何とか計画を進める――その後が気になって仕方がない。
そんな好奇心を抑え、今まで人形作りに直進していたのだから、報酬としてそのくらいの時間を確保しても、文句は言われないだろう。
紅茶を飲みながら、かぐや姫に必要な布を確認する。赤、黄、緑、白――白が足りない?
一週間ほど前、確かにきっちりと、人形の服作りのために布を購入したはずだ。――そうだ、あの忌々しい魔理沙の所為で布を二つも駄目にしてしまったのだ。
捨ててあるのを使えば良いのだが……プライドが許さない。本を読む前に布を調達せねばならない。
鏡を見ると、雑さの目立つ髪が反乱を起こし、いたるところで毛を逆立たせている。何とか鎮圧させ、服装の乱れを確認する。
鏡に映る自分の目が、中身のないガラス玉になっているような気がした。
外へ出ると、いつものように苛立ちを覚えるほどの胞子が散りばめられていた。鬱陶しい湿気と昼夜を消す陰影な森。
いっそのこと、家の上に位置する枝だけでも排除してしまいたいのだが、そんなことをしたらあいつが飛んでくるに違いない。
あいつと同じ森に住んでいる……そう思うだけで、悪寒に襲われる。そもそも、ここへ乗り込んできたのはあいつの方だ。
何年か前、突然自宅に乗り込んできたときは本当に驚いた。自分の名と家の場所の名乗り、嵐のように去っていった。
始めこそがさつな人だとは思っていたが、今となって、それは見違えるほど黒くよどんだ物となっていた。
魔法の森は私の物でもなく、あいつを追い出す理由もいささか不十分だが、どうにかして自分を正当化し、あいつをこの森から追い出したい。
最悪、私が引っ越してもいいのだが、場所も空き家もない。どこか、空き家はないのだろうか。
思い出のある家を去るのは悲しいが、私の妨げを除去できるのなら、それも惜しまない。
ただ、よく考えてみれば、ここにも大した思い出はない。一番思い出に残るものといえば、人形劇を見る子どもたちの笑顔――そのくらいだ。
来客もない、用事もない、友人も――いや、止めよう。くだらない。
だからこそ、人気のない魔法の森に、無意識ながらに住まいを築いたのかもしれない。
まずはこの鬱蒼とした森を抜けるため、木々の間をすり抜け、地面に対して平行に動く。
垂直に動いて森を出たならば、刺々しい葉と鮫肌の枝、気持ちの悪い紫色の尺取虫の餌食になるだけ。
口元を覆いながら、人里の方角へ舵を取った。
お祭りの前日だけあって、普段以上の活気が里全体を包んでいる。屋台を開いているところがいくつもあり、そのうちの一つに焼八目鰻屋があった。
破けて年期の入った弓張り提灯を何故か吊るし、煙を吸い込んだのれんは黒味を帯びている。
反射的に視線が集められ、傍に寄る。屋台越しにこちらに背を向け、背後でごそごそと何かを漁っている女性が目に入った。
長めの耳、奇妙な帽子、大きな翼。桃色の髪と小豆色の洋服が、女性らしさを際立たせる。だが、誰がどう見ても彼女は妖怪に他ならない。
しかし、その隣で準備しているたこ焼き屋の人も、はしゃぎまわって大人に怒られる子どもたちも、私自身も狼狽や恐怖などは一切ない。
私は毎回のようにお祭りへと参加するが、このような妖怪を見たことがない。ただ、危険な妖怪ではなさそうだ。
屋台の見学もそこそこに、今ここへ来た目的を果たさなければならない。沢山の家屋と屋台で区切られた十字路を曲がる。
いつもの店へと向かう途中、誰かが背後から私の名前を呼んだ。
「アリス姉ちゃん!」
私の胸のおへそ辺りの身長の男の子と、男の子の手を繋いでいる小さな女の子。二人揃って光沢が眩しい黒髪とくりくりとした黒い瞳。
白い歯を見せる男の子と、もじもじしながらその背後に隠れる女の子。外見からして、二人とも七歳くらいだろう。
毎回、飽きもせずに人形劇を見に来る子どもたち。儲けが殆んど無い、しがない人形劇の小さな常連さん。
前回の人形劇『因幡の白兎』で、二人は名前を教えてくれた。
「えっと……健一と夏美、だっけ?」
「うん! 明日、人形劇やるんだろ?」
「勿論。お客さんを沢山呼んでくれると嬉しいかな」
さりげなく、物欲をほのめかせる。健一は大きく頷いて、まかせろと言わんばかりに胸を叩いた。
妹の夏美も、俯きながらコクコクと頷く。私は用があるから、宣伝よろしく、と言うと、健一は夏美を連れてどこかへ向かった。
私は人形劇を行うこと自体に利益を求めていない。気前の良い親子が時折お金を渡してくれるだけだ。
見に来るのは八割が子ども、利益もへったくれもない。とは言うものの、日々の生活はこの安い儲けだけで事足りるのだから、これ以上は何も望むまい。
『霧雨店』。人里にたたずむ、大手道具屋。古参な雰囲気漂う、一際目を引くほどの大きさ。
日用品はほぼ全てが揃っていて、文具、衣服、家具など、雑貨店を超越した品揃えである。
品質、価格と共に定評があり、周囲の道具屋は商売にならない。一歩足を踏み入れると、懐古の匂いが鼻を突く。
店内にはちらほらと人が見えるが、見知った顔はない。当然といえば当然だ。奥へと進み、カウンターへ顔を出す。
強面主人の驚いた顔が、急に和やかな笑顔へと移り変わった。
「どうしたんだアリスさん、こんな店に何か用か?」
はっはっは、と豪快に笑い、謙遜しながらもカウンターに来た客の相手はきっちりとこなす。
器が大きく、温厚な主人の娘が魔理沙だというのだから、驚きを隠せない。非行を繰り返す魔理沙とはえらい違い。
一体、どこであいつが捻くれてしまったのかは知らないが、霧雨店の信用は確かだ。商売を営んでいる以上、お客の信用は絶対だ。
勿論、それを逆手にとって弄んでやろうなどとは甚だ思ってもいないが。
会計を済ませた客が立ち去ると、私はカウンター越しに立ち、小さく頭を下げる。
「何か用なのか?」
「ええ、ちょっとした計算ミスで布が足りなくなっちゃって……」
計算ミス――嘘。私の集中力と忍耐力のなさの産物。それがあいつの所為だなんて、口が裂けても言えない。
「はっはっは、アリスさんにもそういうことはあるんだな。で、色は?」
「白。それ以外は大丈夫」
「白か、どれどれ――あぁ……悪いな、品切れみたいだ」
切り立った崖のような表情で主人は低く、渋い声で唸る。店内が振動するような威圧感だった。
白がないと、かぐや姫が完成しない。他の布や没になったもので代用するという手もあるが……プライドが許さない。
「そうですか……今、他の店も開いているかしら?」
「里で布を扱うのはここくらいだからなぁ……難しいだろう」
崩された砂山のような表情で主人は腕を組み、天井を見上げる。肩を落とし主人に背を向けると、何かを思い出したかのように、あっと声をあげた。
振り返ると、主人が自信ありげに微笑み、口を開いた。
「ここから魔法の森へ出向くと『香霖堂』って店があるはずだ。弟子の店なんだが、行ってみる価値はあると思うぞ」
香霖堂、聞いたことも見たこともある。人里に来る際、ちらりと横目を掠る古臭い家。
霧雨店のような威厳や存在感はなく、静寂と陰影を纏う場所。近寄りがたく、訪れる理由もなかったので気に留めることもなく、今の今まで存在を忘れていた。
他に当てもないので、香霖堂へ向かうと告げて再び背中を向けると、主人に呼び止められた。
笑いながら軽く謝り、床の方から大きな木片を取り出す。
「今年もこれを使うのか?」
「主人が宜しければいつもの場所で、いつもの物を使わせてもらいます」
「そうか、わざわざすまんな。明日の人形劇、見に行ってやるからよ」
「大人なんですから、お金は貰いますよ」
冗談交じりにそう言うと主人は豪快に、豪胆な腕を組んで笑いあげた。店内に笑い声が響き渡り、耳をつんざく。
周りの客も、何かあったのではないかと言いたげにこちらをちらちらと見る。今度こそ霧雨店を出ると、ふと企みを思いついた。
明日の人形劇、魔理沙とその父親が来る。ということは、必然的に顔を合わせる必要がある。
そうしたら、魔理沙の非行を告げ、その場で叱ってもらうのも面白いかもしれない。あの魔理沙も、豪気な父親の前ではあいつも亀のように甲羅に篭り、嵐が過ぎるのを待つしかないだろう。
そう考え出したら、あいつと顔を合わせるのも我慢できそうな気がしてきた。空は青い、天気の心配はなさそうだ。
胸が躍るとまではいかないが、あいつの怯える表情というものを見てみたいという願望はある。
とりあえず今はそれに必要な人形劇を成功させるため、人形劇を成功させるのに必要なかぐや姫を作るため、香霖堂へと赴く必要がありそうだ。
人里から自宅へと向かう途中にある香霖堂。否が応でも目に付くため、そこにたどり着くこと自体は容易だった。
しかし、いざ玄関の前に立ってみると、地面に瞬間接着剤で固定されてしまったかのように足が動かなかった。
瞬時に、脳が回転する。主人の弟子なら、少なからずあいつとも関わりがあるはず。ということは、あいつがここにいるかもしれない。
いや、考えすぎだ。ここの店主が、主人の弟子がどのような人物かは知らないが、主人の言うことだ、信じよう。
滑りの悪い玄関を開けると、中は無人だった。店内には沈黙が詰め込んであって、物音一つしない。
今日は閉店なのだろうか、生き物の気配もしない。顔を覗かせ、店内を見回す。様々な品物が置いてあるが、どれも値札がなく、並んでいる場所も規則性が見られない。
少し奥には見たこともない謎の品々がずらりと陳列されている。
白い車輪の付いた赤い本体から伸びる蛇腹の先に金槌の形状をした物が括り付けられた物、立方体で黒い一面が中途半端な鏡となっている物。
用途不明の品々もそこそこに、人間は誰もいない。肩を落として悩む。悔しいが、捨てた布を使うしかないだろう。
人形作りに間に合わないという、最悪の事態を免れればよい。溜息を吐き、何気なく店内を見渡す。
「おや、お客さんかな?」
突如背後から声を掛けられ、打ち上げられた魚のように跳ね上がる心臓。今日は背後から声を掛けられる回数が飛躍的に多い。
距離を置いて後ろを振り返ると、一人の男性が怪訝な表情でこちらを睨んでいた。
銀色の髪、眼鏡、霧雨店の服を思わせる服――この人がここの主人だろうか。想像していた人物とは裏腹な、繊細そうで物静かな雰囲気を漂わせる人物。
彼はこちらを無視するようにして、奥のカウンターへと体を置く。鼓動の早まる胸を落ち着かせ、店主の元へ寄る。
黒い筒を乗せた金属質の三脚、一から九までのボタンが配置されている丸みを帯びた奇妙な箱。
ここは商店というよりも、店主の趣味が大半を占めている物置のようだった。カウンター越しに話しかけようとすると、急に体に不快感を覚えた。
数多の水分が立ち篭る、例えようがないほどの湿気。唾を飲み込み、それを悟られないように話す。
「白い布が欲しいんだけど、あるかしら?」
「布か……こんなものでいいのかな?」
「ありがとう。それで、御代は?」
店主は面倒臭そうに顔をしかめ、傍に置いてあった手乗りサイズの本を手に取った。
「御代は要らないよ。どうせ捨てる予定だったんだから」
「え、けど……」
彼はそれっきり口を開くこともなく、本に目を走らせ、黙り込んでしまった。居心地の悪さを感じ、そそくさと店を出る。
随分と変った主人。商売人とは思えぬ大雑把さ。ありふれた商人なら一銭もまけず、尚且つ不良品まで売りつけ、ひどい者は爪に火をともしているかもしれない。
人気のない所に店を開く、不思議な人。また今度、暇なときにでも訪れててみようか。
名前でも聞いておけば良かったかもしれない。香霖堂を尻目に、胞子が戯れる木々の間をすり抜けていった。
Ж
今日も朝から薄暗い。理由はわざわざ考えるまでもない。それとは逆に、私の心は明るかった。
これから人形劇を開きに人里へ向かう。恐らく、その時が今までで最高峰の至福だろう。
今日は運悪くあいつが覗きに来るのだが、それも主人を矛にすればどうってことはない。
完璧とまではいかないが、なかなかに計算された作戦。安堵の溜息を漏らし、起き上がり、顔を洗い、着替え、朝食を済ませる。
総勢十八と上海蓬莱人形を抱え、表へ出る。お祭りが始まるのは夕方から。
そんな時間に人形劇を行うというのも可笑しな話だが、周りと時間を合わせるためには仕方がない。
そもそも、もうこんな事には慣れてしまったし、なんら抵抗もない。相変わらず爽快さが無縁な森を抜け、人里へと向かった。
ちらりと見えた香霖堂がいつもと違う雰囲気を発しているように感じられた。
人里に足を降ろすと、一瞬にして周囲の視線が私へと向けられた。言わずもがな、私の宙を浮く人形たちを凝視しているのだ。
意思のない人形がふわふわと宙を漂うのだから、人間としては不思議で恐ろしいことなのだろう。
興味本位で寄り添う子どもたちや、敵対心を持った目を浴びせる大人や、いつものように挨拶を交わしてくれる人など反応は様々だが、全てにおいて私は笑顔を振舞った。
いつもの場所には既に、主人と舞台が居座っていた。毎回、主人にはお世話になっている。腰を降ろし、人形を置く。
いつも以上の多さに、主人は唸り声を上げて感心しているようだった。
「いつもありがとうございます」
「いやいや、古道具屋の常連さんだからな、このくらいは安いもんだ」
主人は竹取物語と書かれた木製看板を立て、舞台を完成させる。
がんばれよ、との一声を胸に、用意された椅子に腰を掛け、暫らく天を仰いだ。
主人は祭りだからといって何かを安売りするわけでもなく、閉店して祭りを楽しむといった自由な人。
そういうところは香霖堂の主人に受け継がれたのかもしれない。普段は仲の良い人たちを酒でも煽っているのだが、定期的にここへ来て人形劇を見に来る。
ほろ酔い気分の時には賽銭を投げ入れてくれるが、今日は別にお願いをしよう。魔理沙が来たら説教を垂れてもらう。
それだけで良い。
日が差す七夕。天候も良く、何事も上手くいきそうだ。
夕方までの時間をどうやって潰そうか考えていると、物陰から黒い髪が零れているのを見つけた。
物陰から飛び出してくる健一。おずおずと、相変わらず俯いたままゆっくりと姿を現す夏美。
ピンク色の浴衣と、紺色の帯が目に飛び込んできた。健一はいつものように黒いシャツと群青色の短パンを身に着けているが、夏美の服はいつもと違う、綺麗な浴衣を着ていた。
こちらへ寄ってきて、さっそく舞台裏にある人形を見つける。
プレゼントの包みを開けたような驚きと喜びの表情を見せ、人形に指紋を付け始める。
夏美も、わぁと頬を緩めたが、急に不安げな表情を見せて私の表情を伺った。
にっこりと微笑むと、健一と同じようにして人形を手にする。
「二人とも、ちゃんとお客さん呼んでくれた?」
「うん。アリス姉ちゃんが貧乏だって言ったら、みんな行くって」
適当に苦笑いを作る私を他所に、二人は人形たちに釘付けだった。
前回は名を教えてもらっただけで済んでしまったため、このように自分の手に持つのは初めてのはずだ。
自分で称するのもどうかと思うが、かなり精巧な作りになっているはずだ。
縫い目も細かく、配色も多く、売り物に出来そうなほどの質だと思っている。
実際、人形劇終了後は各人形を安価で売っている。いっそのこと、人形売りを本職にしてしまおうか。
いや、利益を求めた商売など面白いはずがない。
人形たちを並べ、それらしい形を作る健一。月人とかぐや姫たちを向かい合わせ、満足げに息を吐く。
夏美は帝の家来たちを積み重ねて遊んでいる。
「何人くらい集まった?」
「えっと……俺は二十人くらいに声掛けたよ」
「そんなに? 健一は友達多いんだ?」
「分かんない。へへ、アリス姉ちゃんは友達いないだろ?」
ずしりと圧し掛かる一言。
葬式の雰囲気ほど重く、引きこもりの心のように暗く、あいつに嫌悪を抱く私のように刺々しい固形物が背負いかかる。
悪戯っぽい笑みを見せる健一が憎く、恨めしく――羨ましい。もう一度苦笑を作り、歯を食い縛る。
その所為で、苦笑は醜い笑顔と変形してしまったことだろう。
友達――考えたこともない。そもそも、友達とは何だ? 知人とは何が違う?
ただ話すだけが、好きな時に合えるのが、自分に都合のいい人が、困ったときに自分を助けてくれるのが友達か――ブレインを自称する私の辞書に、そのような単語並びに定義は存在しない。
気が付けばいつも一人だった。ただ、それが日常と化してしまっただけ。慣れとは恐ろしいものか、良いものか分からない。
こちらを怪しげな表情で目を寄せる健一に気が付き、愛想よく笑顔を繕う。
それが逆に不気味だったのか、健一は一歩後退し、夏美の手を取った。帰るつもりなのか、私を警戒してのことかは分からない。
しかし、後者だけは嫌だった。いや、信じたくなかった。認めたくなかった。
「……ちょっと考え事していたの、ごめんね。いつも通りの時間から始まるから、楽しみにしててね」
「う、うん……それじゃ、後でまた来るよ」
こちらに目を向けたまま背中を見せない健一。
夏美は不思議そうに疑問符の残る健一の足取りを見ているが、本人は夏美を背後に隠すようにしたまま、ゆっくりと物影に隠れていってしまった。
口元から漏れる大きな溜息、こちらを指差して子どもに説明する親、漂い始める香ばしい匂い。
それら全てが、空虚なものと感じられるほど、私の脳内はあらゆるものを失念していた。
日が暮れ、辺りに暗闇が彷徨い始めた頃、屋台上空を張り巡る長いロープにぶら下がる吊提灯がぽつぽつと辺りを照らし始める。
浴衣を着る女性が多く、特徴的な模様を細工してあるものも多い。
お囃子が騒々しくも華やかに、賑わう里中に拍車を掛ける。
やたらと人目を引く男女、ベンチに腰掛けて笑い話を繰り広げる男たち、お面を被って親に手を引かれる女の子。
年間のお祭りでも、一、二を争う賑やかさは健在だった。
群がる群衆から、拍手が送られる。
綿飴を食べながらにこにこ笑う男の子、酔っ払いながら大声で絶賛する中年、直向に人形を凝視し続ける女性。
彼ら彼女らの影から、賽銭が飛んでくる。
的を絞れず、暗がりに転がる賽銭は人形できっちりと回収し、手元に飛んでくる賽銭はありがたく頂く。
五回目の公演が終了したところだ。健一の収集は予想以上で、この時点で普段の最終決算時とほぼ同じ金額をマークしていた。
公演は後七回ほどは残っている。
一つ気がかりなのは、魔理沙が姿を現さないこと。結構楽しみにしていたかのような表情を見せたくせに、実際はこれだ。
……まぁ、あんな奴は来ないほうが清々とするのだが。
そして、それを見越していたかのように、主人は既に音信不通となっていた。
主人はかなりのハイペースで酒を煽ったらしく、二回目の公演の時には既に顔が林檎のようになり、それ以降顔を出さなくなった。
魔理沙が来ないなら、特に用もないので構わないが。
ぞろぞろと席を立つ客たち。酔って眠ってしまったおっさんを除いて、客席は空となる。
公演と公演の間には十分ほどの休憩を取る。
私が休憩を取る必要はないのだが、客を集めるために、こういった時間は必然的に生まれる。
賽銭を集計しなおし、儲けを見る。いつもより儲けが出ているというのに、あまり嬉しくはない。
理由は分からない――が、それは蟻の穴のように小さな隙間として、確かに胸のうちに存在している。
それが何なのか――それは分からない。
ふと、物陰から小さな人影が二つ。健一と夏美だった。
夏美の後頭部には巫女を模ったであろうお面を掛け、不安など何もないような笑みを見せて綿飴を舐めている。
一方、健一は水色の小さな厚紙を持ち、私に差し出した。直径五ミリほどの小さな穴にはタコ糸が掛かっている。
すぐに短冊だと理解できた。七夕なのだから、何かしら願いを込めて短冊を吊るすのも悪くはないだろう。
悪戯な笑みを浮かべ、健一は鉛筆を渡してくれた。
「健一はもうお願いしたの?」
「うん。夏美と一緒にお願いした」
「なんて書いたの?」
「えっとね、妖怪が里を襲いませんようにって書いた。夏美は教えてくれないんだ」
健一と私が夏美を見ると、夏美はえへへと笑ってぴょんと跳ねた後、結局教えてくれなかった。
いつもの可憐な様子とは打って変わって無邪気な様子を見せる辺りからして、このお祭りを満喫しているのだろう。
何を書こうか悩む。特に欲しいものはない――それなら、いらない物を消せばいい。
『霧雨魔理沙が消え去りますように』
……いや、これではさすがに魔理沙が不憫だ。『消え去る』ではなく『私に関与しない』と書いておこう。
丸みを帯びた鉛筆の先が、霧の字をぐちゃぐちゃに込み入らせ、自分でも何を書いたのか分かりにくくなっている。
『霧雨魔理沙が私に関与しなくなりますように』
表に書ききれず、裏にまで突入してしまった。書き終えると同時に、手元を覗き込む健一。反射的に、両手で短冊を覆う。
「なんて書いたの?」
「内緒。あんまり良いお願いじゃないわよ」
「友達が欲しいって書いたのか?」
友達が欲しい――突然、体中が火照った。これは羞恥心の現れか?
白い歯を見せつけ、無邪気に笑う健一が私の頬の赤さを指摘して余計に大きく笑う。
俺が吊るしてきてやろう、と言って短冊を奪い取ろうとする健一を振り払い、おでこを突く。
愉快そうに笑う夏美を見て、健一は苦笑いと共に頬を提灯に染めた。
二人は席に腰掛け、暇だから、と言ってもう一度人形劇を見るつもりらしかった。
次の休憩に、短冊を吊るしに行こう。いや、健一がいなくなってから吊るさないと、内容を読まれてしまう。
十分経った頃には次第に客も集まっていた。席の半分くらいが埋まり、公園開始。
上海人形に小さな鈴を鳴らせ、蓬莱人形が鼓を叩く。
糸でもなく手でもなく、人形たちが動く様を見て、客の感心するような唸り声が伝わる。
健一と夏美は私の顔を見たまま、元気よく微笑んでいた。
大きな竹が沢山の願いを胸に、広場の中央にそびえ立っていた。
目ばかりで五メートルほどはあるだろうか、どうやって付けたか分からない黄色の短冊が天辺に吊るしてある。
暗がりと笹の葉の関係で文字は見えないが他人のお願いなど見漁るものではないだろう。
そんな好奇心もほどほどに、適当な位置に短冊を吊るす。こんな悪意に満ちた願いを堂々と吊るす私も、随分と大胆なものだ。
小さく風が吹き、一枚の短冊がはらりと落ちる。砂を被った水色の短冊を拾い上げ、元の位置に吊るす。
『お金が沢山もらえますように』と書かれた文字が目に飛び込み、笑みが零れる。
ただ欲の強い人間か、そこはかとなく貧乏なのか、何か資金が必要になったのかは分からない。
ちらちらと他の短冊を見る。
美味しい物が食べられますように、彼女が出来ますように、両親が長生きできますように――現実的な願いや冗談交じりの願いも多い。
そんな中、紫色の短冊が目に飛び込んだ。
桃、黄、黄緑、水色で構成された短冊の中で、文字通り異色の雰囲気を発していた。
短冊に触れ、裏返す。
『友達とずっと仲良くいられますように』そう書かれていた。
きりきりと痛む胸、がりがりと蠢く脳、ぎしぎしと歪む歯。
一思いに、この短冊を粉になるまで引き裂いてしまえばあるいは、胸の納まりもよくなるかもしれない。
だが、このお願いをした人にとって現実的な願いであるだけに、それなりの想いが篭っているのだろう。
指に集まる力の所為で、短冊の隅っこが爪の跡を残していた。
今日の私はどこかおかしい。
『友達』という、どうってことのない言葉に、針で刺された体のように瞬間的に反応してしまう。
湧き上がる悲憤、羞恥、孤立感――どれもこれも、あいつのせいだ。
責任転換――前転に成功したからといって急に宙返りに挑戦するほどの愚行、愚劣である。
ただ、こうでもしないと、自分以外の誰かを責めないと――どうにかしてしまいそうだった。
帰ろうとして竹に背を向けると、どこからともなく私の名を呼ぶ声が響いた。
恥ずかしさよりも先に、脊髄を通らず体に指令が走った。危ない、と――何故?
辺りを見回すと、箒に乗った魔理沙が上空からゆっくりと降下してきた。
あ、あれって魔女か? いや、そんな風には見えないぞ。アリスさんと一緒に居るから大丈夫よ――そんな声が聞こえる。
何やら息を切らしながら、帽子を取って頭を下げる。状況が理解できない今、魔理沙に対するいつもの嫌悪感はなかった。
「ごめんアリス……すっかり忘れてて……本当にごめんな」
「……別にいいわよ、あんたのためにしているわけじゃないんだし」
「も、もう終っちまったのか?」
「後何回か公演する予定だけど。来るの?」
「当たり前だろ? そうか、間に合ってよかったぜ……」
不思議と体に流れる安堵。
先程の苛立ちも、まるで幻影だったかのようにさっぱりと消え、今はすっかりと冷静さを取り戻していた。
やはり、責任転換が利いたのだろうか?
いつもは私の神経を逆なでする魔理沙の笑顔が、私の悪意に満ちた感情を吹き飛ばしてくれたような錯覚に陥った。
短冊を手当たり次第覗いていく魔理沙は笑みを零したり唸ったりと忙しい。
「あんたはもう短冊吊るしたの?」
必要最低限以外の会話で私から話を持ちかけるのは久しぶり、いや、もしかすると初めてかもしれない。
健一と同じく白い歯をいっぱいに見せ、上空を指差した。魔理沙の呼吸はいつの間にか落ち着きを取り戻していた。
「天辺にあるやつだぜ。アリスはもう書いたのか?」
「え? あ、いえ……まだ書いていないけど」
中途半端な嘘。だが、書いた内容を偽るよりはずっと良いものだった。
『霧雨魔理沙が私に関与しなくなりますように』――今となっては身震いしたくなる内容だった。
魔理沙は後で取ってきてやると言って再び短冊を見漁り始めた。
一番外側から短冊を吟味し、それぞれに違った表情を見せる。
気がついた時にはもう既に遅かった。
魔理沙は確かに、私の短冊を手にしていた。
魔理沙の凍てつく笑顔、次第に萎んでゆく口元、死んだように垂れる左腕。
口を半開きにしたまま、こちらを振り向く魔理沙。
私の凍りつく想い、破れるほどに跳ね上がる心臓、ひたすら笑い続ける膝。
そんな私を他所に、魔理沙は苦笑いを浮かべてこちらへ戻ってきた。震える唇をやっとのことで押さえつける。
「はは……随分とすごいこと書かれたな。……嫌われてるのか?」
「――え、えぇ、嫌いよ」
予想外の言葉が聞こえる。考えるまでもなく、私の声だった。
「自己中心で、生意気で、傲慢で……いつも困っていたわよ。魔道書も勝手に持っていったまま返さないし、部屋に茸の胞子ばら撒くし……本当にうんざりしているの。本当は人形劇だって、知られたくもなかったわよ」
だらだらと口から溢れる罵声。今までの鬱憤が爆発したのだろうか。
私は一人空しく、鬱憤の決死の鎮火活動を行っていた。
しかし、火は治まるばかりか、火に油を注ぐ勢いで激しさを増すばかりだった。
「あんたの容姿も、明るい性格も、交友関係も――」
憎い。羨ましい。妬ましい。喉にサプレッサーが取り付き、声にはならなかった。
しかし、放たれた銃弾はきっちりと魔理沙を仕留めた。壊れて俯く腹話術人形のように口を開き、微動だにしない。
今の私は誰かに操られていた気がする。人形のように、姿なき何者かによって操られていた。
責任転換――いや、私の嫉妬、羨望、矛先……形なきものに、存在すらしない抽象的概念に、操られていたのだろう。
理想の自分が、現実の自分へと指令を下した。それでは、責任は理想の自分にあるのか――?
いや、それにしたがってしまった現実の自分にも咎はある。
魔理沙の手の平がグッと握られたのを確認し、私は声の行き場を失った。歯を食い縛り、俯く魔理沙。
なんと声を掛ければよいのか――今の私の脳内はありとあらゆる単語を忘却していた。
「――分かった。アリスがそう願うなら……私は構わない。今まで迷惑掛けて……ごめんな」
「――!」
違う……待って! そういった単語が頭に思いついた時にはもう遅かった。
箒にまたがり、獅子のように素早い動きで提灯の灯る屋台の上を通り過ぎ、遥か遠くまで上昇した後、暗闇から牛となって魔理沙は姿を眩ました。
結局、声にもならなかった空しい弁解。私は即座に自分の短冊を引き千切り、その場でびりびりに引き裂いた。
寄せられる白眼視、指差す子ども、笑いものにする酔っ払い。
そんなものは私の視線にも心にも、引っかかることはなかった。
魔理沙が、あいつが居なくて清々する――それなのに。
千里の堤も蟻の穴から――蟻の穴ほどの小さな隙間の周囲ががらがらと崩れ落ちる。
それこそ本当に、私の胸の内は空空漠漠となってしまった。
Ж
滴り落ちる雨水を確認し終えると同時に、車軸を押すような大雨が弾幕音のようになって降り注いだ。
ぼーっと窓を眺め、鬱蒼と茂る森を見渡す。木々で防がれているこの森に、ここまでの大雨が降るとは珍しい。
外では滝のような大雨が降っているのだろう。
それと平行して、私の胸にも雨のように冷たい何かが休みなく流れ続けていた。
怒りや妬みではない、それらは燃えるように熱いはずだ。
それでは、これは一体何だというのだ?
あれ以来、空虚と化してしまった胸に、溢れ続けても尚注がれる冷ややかな流動体。
空気を掴むが如く、実体のないもの追い求めるのも馬鹿馬鹿しくも思える。
疼いて止まないこの思いを、どうすれば解消できるのか。
もしかすると、魔理沙が来ない所為かもしれない。
魔理沙によってもたらされる憎悪や怨念によって、心の調和が保たれているというのか?
いや、そんなはずはない。それなら当の昔から、この悪寒に悩まされているはずだ。
だとすると――あいつに会えないことが根源なのだろうか。
結局、あの日は不測の出来事にモチベーションが上がらず、人形劇を終えて帰ってきた。
今思いなおしてみれば、人形も、舞台も、賽銭もそのままにして帰ってきてしまった。
主人に謝る気力も、賽銭を取りにいく欲心もない。今はただ、こうして無心のままで居たい。
叩きつけられる雨水、弾かれるように躍る巨大な葉、湿気特有の不快な匂い。
それら全ても、空虚な幻聴、幻視、幻嗅に過ぎないようにさえ思えてくる次第。ちっとも無心なんかじゃない。
読みかけの本も、淹れた紅茶も、幻影となって私の脳内から、記憶から消える。
いつの間にか本棚に積み重ねてある分厚い魔道書。
魔理沙が返してくれたものだが、いつ、どのようにして返されたのか、雀の涙ほどにも思い出せない。
本当にうんざりしている――あの言葉が魔理沙を仕留めたことは明らかだった。
それと同時に、その言葉は私の首に巻きついてしまった。自分の首を絞める結果にもなってしまったのだ。
何故、それが私の首を絞める結果になったのか。頭の中ではそう思いつつも、納得が出来ない。
納得していないのは理想の自分か、現実の自分か――答えは明白だった。
頬杖から、がくんと頭が落ちる。自分でも、首が刎ねられたかと思うほどにスッと、滑るようにして額をテーブルに打ち付けた。
目が覚めることもなく、迷いを断ち切ることもなく、空っぽな頭の中に衝撃が山彦のように反射する。
鈍痛、どうってことはない。だが、これ以上、冷笑を浮かべて手招きする憂鬱と馴れ合うのはごめんだ。
本当に無心の状態、睡眠を取るに限る。
魔理沙――本当に、始めからあいつが居なかったらどれほど気楽でいられただろうか。
あいつのおかげで、私は嫉妬、嫌悪、怨嗟、憤怒――様々ものを覚えた。
そして今――私は人のいる温かさを魔理沙に教わった。
――くだらない。
何が温かさだ、友人だ、親愛だ。結局、あいつは私を放置したまま姿を現さないではないか。
今、私にあるのは凍りつきそうな流動体と、孤独だけ。他には何にもない。
何も残っていない。
首を振り、ベッドに倒れこむ。スプリングが軋み、鼓膜を突く。不快音であるはずの音も、鼓膜に跳ね返される。
もう何も聞こえない。もう、この部屋には誰の声も響かない――
仰向けになり天井を睨む。
横目に見えた、窓から顔を出す細い箒の柄――黒い尖がり帽子。
瞬間、ドクンと胸が波打った。運動エネルギーは熱エネルギーへと転換され、冷え切った水溶液を沸かし始める。
体が跳ね、スプリングがもう一度軋む。だが、それは飛び上がる私を補助する役割を果たしてくれた。
寝室のドアを蹴り開け、玄関の前まで足を運ぶ。素足が冷たいタイルに触れ、手の平が冷えたドアノブを握る。
傘も差さずに、素足のまま外に飛び出て寝室の窓の方へと走る。
猫の額ほど狭い家なのに、すぐ傍の曲がり角が果てしなく遠くにあるように感じられた。
走る。角に手を着く。角に体を出す。反射的に仰け反る、雨宿りのつもりだったのだろうあいつは濡鼠となっていた。
大きく目を見開き、たじろぐ様が、痛々しいほどに感じられた。
「ご、ごめん……。あの、す、すぐ帰るから――ア、アリス?」
「……いい」
箒を掴み、大雨の中を突っ切ろうとする魔理沙の右腕を掴む。腕を掴む手が、痙攣を起こしていた。
「え? あ、えと……そ、その――」
「いいから――あがりなさい」
怯えた表情を見せながら、私に腕を引かれる魔理沙。足を付く度に、ぐちゃぐちゃと心地の悪い音が耳をつんざく。
ドロドロとした泥や落ち葉が足を汚す。が、そんなもの気にはならなかった。
冷え切った魔理沙の腕は力なく抗っているが、私はそんな要求を聞きたくはなかった。
玄関に上がり、魔理沙を待たせる。逃げられてしまうのでは、といった不安はなかった。
汚れた足で室内を歩くのは初めてだった。ましてや、泥まみれの足で。
タオルを手に取り、魔理沙に渡す。口元を震わせながら、帽子を取ってゆっくりと髪を拭く。
改めて体全体を見回すと、大して濡れていないようにも見えた。
顔ばかりに目が集中して、背中やスカートに目を配ることが出来なかった。
俯きながら、片手に帽子を掴んでおずおずと髪を拭く。
濡れて髪型が変った魔理沙はどこか弱々しく見えた。
態度の関係もあるだろうが、まるで、いつもの魔理沙ではないように感じられた。
髪を拭き終えた魔理沙は、動揺気味にタオルを差し出す。魔理沙の視線は私の足元に集中していた。
奪い取るようにして、タオルを足へ乱暴に擦り付ける。
何故、こんなにも苛々しているのか。何故、こんなにも焦っているのか。自分でも、察しが付かない。
くるぶしに付きまとう泥もそこそこに、足の裏だけを拭いて部屋へと案内する。
一歩ずつ、強制ギプスでも付けているかのようなぎこちない動きを見せる魔理沙。
椅子に座らせ、帽子を預かってフックに引っ掛ける。湿った帽子が、ぺちゃりとした音を室内へ残す。
人形に紅茶を用意させ、私も椅子に腰掛ける。
いつも噛み付く魔道書にも、魔理沙は目を付けず、両手を膝の上に置いたままテーブルに目を落とす。
――いつもは楽しそうに来るのに、どうして? どうして、そんなに怯えた表情を見せるの?
「ど、どうしたんだよアリス?」
「――え?」
「い、いや、アリスが嫌ならいいんだ……無理しなくていい、帰るよ」
いつもは私の視線を無視して居座り続けるくせに、何で? 何で、そうやって私の気持ちを逆なでするの――!
帽子を取ろうと立ち上がり、背中を見せた瞬間、私の足は床を蹴り、魔理沙に飛び掛った。
足音に気が付いたのか、振り向く魔理沙。もつれ込むようにして、無理矢理魔理沙を押し倒した。
四つん這いの状態で、両腕はすぐに魔理沙の両手首を掴み、両足は器用に魔理沙の足に絡み付いていた。
本人とは思えないほど弱気な態度で、魔理沙はがくがくと口を震わせていた。
「どうして――」
「ア、アリス?」
「魔理沙……何で? 何で、あんたはそんなに……私を苛めるの――?」
口から零れた、意味不明の言葉。魔理沙は泣いていないのに、頬はどんどんと濡れていく。
私は泣いてなんかいないのに、生暖かい何かが頬を伝わる。
両腕を離すと、魔理沙は上体を起こしてするりと私の下を出た。
無意識のうちに、私の両手は顔を隠していた。
この出来事が、大雨の中で起こったことなら、どんなに救われるだろうか。
私はありとあらゆる存在を消して、ただ一人、しゃくりあげながら雨を降らせ続けた。
「……ごめんなさい、急に泣いたりなんかして」
「いや……迷惑なら帰るから、もう――」
「迷惑なんかじゃない!」
雨音を掻き消すような大声に、魔理沙も人形も、そして私も、絶句していた。
魔理沙に対する憎悪は、嫌悪は、全て自分へのものと化していた。
双方共に紅茶へは手を付けず、クッキーなど見る暇もなく、ただお互いに丸いテーブルで、隣り合うようにしたまま俯いていた。
嫌がる魔理沙を招き入れたのは私なのに、話がしたいから招き入れたのに――元も子もない。
焦りと苛立ちが先走る。私が脳内で推敲を行っている間に、魔理沙はさっと顔を上げた。
魔理沙が視界に移っていた私も、ゆっくりと顔を上げた。
「アリス……ごめんな」
「――何であんたが謝るのよ」
「……私、放っておけなかったんだよ……」
放っておけなかった――理解しがたい台詞を残し、魔理沙は口籠る。
返す言葉もなく、再び生まれる沈黙。だが、沈黙は増殖するよりも早く、魔理沙の声に殲滅された。
「私も昔一人だったから……寂しさが分かる」
「わ、私は寂しくなんか――」
「いつ行っても、アリスは歓迎してくれなくて……怖かったんだよ。そしたら、この間の七夕で――嫌いだって言われて、それで……もうこれっきりにしようって思ったんだ」
苦し紛れに言葉を発する私の存在を無視し、魔理沙は一人物静かに話を進める。
「けど……今のアリス見てたら……よく分かんなくなっちまって。……教えてくれよ、アリス」
目を潤わせたまま、魔理沙は口を萎めてそう言った。泣きたいのは私だった。
不器用で、強がりで、勝手で――そんな自分が、魔理沙を苦しませていた。
そう考えた途端、途方もない罪悪感に襲われた。
魔理沙はあんなにも、私と親しくなろうとしていたのに――友達になろうとしてくれたのに。
私はそれを裏切ってしまった、切り捨ててしまった。後悔の念がひたすら胸に積もる。
やすりで削られているように、がりがりと痛む胸の内。
もう、意地を張る必要もない。
私は一人だった。だからこそ、友達という言葉に過敏だった。
だからこそ、友達になろうとする魔理沙に、苛立っていた。
だが、今はもう違う。
「私はあんたと……魔理沙と――仲良くしたい」
ぽかんと口を開く魔理沙。予想外の答えを出してしまったのかもしれない。だが、それでも良かった。
今はただ、魔理沙と、時を一緒に過ごしたい。
間を置いて、魔理沙は頬を緩め、目を擦った。
「アリス……ありがとな」
「――しんみりとした話は止めましょ。冷めちゃったけど、この紅茶、美味しいわよ」
魔理沙に対する悪意に満ちた念は勿論、自分に働きかけていた悪意も『友達』によって綺麗に洗い流された。
紅茶を口に付け、ぬるいと言って悪戯に微笑む魔理沙。
いつもはぎこちなかった作り笑いはなく、今はただ、心の底から嬉しいと感じる笑顔を自然に出すことが出来た。
「それじゃあ、この本借りていくぜ!」
「あ! ま、待ちなさい魔理沙!」
雨上がり、返したはずの魔道書を持って、玄関まで走り去る魔理沙。
私が追いかける頃にはもう、帽子も、箒も、靴も――あいつも居なかった。
がさつで、不器用で、鈍感で、盗癖で……本当に厄介な奴。けど――
仲良くしてやっても……いいかな。
個人的にはもう少し魔里沙はアグレッシブでも良かったんじゃないかなぁと思ってみたり。
この作品の魔理沙って実は寂しがり? とか思ってしまったり。
ちょっと最初はどんよりと曇っていた感じでしたが後から晴れ間が見えた感じがして良かったです。
次がどんな作品か楽しみに待ってます。
単なる仲良しじゃなくて、こういう紆余曲折があって仲良くなれたというのは、すごく納得できます。
次回も期待。
うp主のダークな感じの作品は大変好きなので次回作も期待していますです
また文ちゃんの出演に期待しています
なんだ我らがジャスティスじゃないか
元祖ツンデレを素で行くアリスに良い意味で裏切られたぜ
このアリスと魔理沙の続編が読みたいです
とても面白かったです。
次回作も期待しています。
それと訂正
席の半分くらいが埋まり、公園開始。
席の半分くらいが埋まり、公演開始。
だとオモイマス