辺り一面を覆う黒、数えることができない小さな光。
夕方までの天気が嘘のように、空には月と星が輝いている。
星達は互いに共鳴するかのように夜空には相応しくない白鳥や鷲がちらほら姿を現す。
幻想郷はもう夏だ。
暑くて寝返りを打ってしまうこの時期にとって夕立というのは、ある意味良いものなのかもしれない。
風呂上りの火照った体を冷やすのにちょうど良く、夜風と虫の鳴き声が妙に合う。
人里の一角、漬物を漬けるにはちょうど良い程度の大きさの意思に腰かけ夜を楽しんでいた。
静寂という名詞の相応しい夏の夜に、バチバチと、どこか水を差すような音をただぼーっと眺める。
その視線の先には、長身で細身の弁当箱のような変わった帽子を被った女性と里の子供達が花火をしていた。
実に風流だ、と改めて夏を感じた。
私は花火が嫌いだ。暗闇に咲く一輪の花。見る者を魅了するその花はまるで幻想。
そのくせすぐに力を失い、辺りは暗闇を取り戻す。まるで・・・・。
遠巻きに見ていた私に弁当箱帽子の女性が手招きをする。
もう少しこの夜風を楽しみたかったが、腰を上げると子供達の輪に混ざる。
近くで花火をしていた子がこちらに気づくと、子供らしい自然な笑みと共に手持ち花火を1本差し出した。
受け取ることを拒むことができず、私もぎこちない笑顔でそれを受け取る。
中指と親指でパチンと指を弾き、指先から漏れる火を器用に花火に点火する。
全くもってこういう時に便利だから嫌になる。
オレンジの火はすぐに青、赤、緑と色を変えた。
その色鮮やかさはあの七色の魔法使いを思い出させる。
初めて会った肝試しの時も様々な人形とカラフルな弾幕が印象深かった。
私に攻撃こそ仕掛けてきたが、里で人形劇をしていることをきっかけに酒を交わすようになった。
いろんな話も聞いた。自分が魔法使いになったことや、自立人形を作ること。
そんな彼女が羨ましかった。
私はといえば、ただアイツを殺すことしか考えていない。
殺すことができないと分かっていても私は行くしかなかった。
彼女が自立人形を作り上げたかどうかは分からない。
でも、彼女が最期にくれた人形を一生大事にするだろう。
私の持っていた花火は、力なく消えると白煙を残しその役目を終えた。
まったく嫌なことを思い出させると考えながら、まだ火薬の匂いのする花火を水の入ったバケツに放り込んだ。
ジュッと音を立て二度と火のつかないただの炭と化した。
さてどうしたものかと立ちすくんでいた私は、不意の轟音で視線を上げざるを得なかった。
私同様、手持ち花火に没頭していた子供達も一斉に空を見上げた。
夜を彩る星達に負けじと打ち上げられた花火はとても美しく輝いていた。
ドーンという音に僅かに時間をおいて、花がパァーっと四方に拡がり、そのキラキラを帯びながら枝垂れる。
この豪快さは白黒のアレを思わせた。
目の前が一瞬光ったかと思うと、次にはもう光に包まれていた。
あれを真に受けていたら本当に「ごっこ」では済まないだろう。
性格も豪快な奴だった。宴会の度に幹事をやっていたな。
強くないくせにどんどん呑むし、挙句の果てに潰れて看病されている。
彼女はいつでも騒がしかった。
騒がしい奴ほど、いなくなった時その存在がどれ程のものか理解する。
彼女の”騒がしい”はそんな感じの騒がしさだった。
その日以降、宴会の数がめっきり減った。
ドン、ドン、ドン、ドン・・・
打ち上がる花火の多さでふと我に返る。
打ち上げ花火もいよいよクライマックスを迎えるようで、音に比例してその激しさを増す。
なるべく見ないように俯いていた。それでも聞こえてくる豪砲がどうしても意識させる。
ドン・・・・・
最後の一発が打ち上がり、そして静寂を迎える。
これほどの虚しさをおぼえたのは久しい。
この場に居た堪れなくなった私は帰路に着こうと思案した。
そろりそろりと誰にもさとられないよう宵闇に紛れ込もうとしたが、足元まである銀の髪に紅いモンペを身に着ける私がうまく抜けられるわけもなく、あと少しというところでポンと肩を叩かれた。
振り返ると弁当箱帽子の女性が「一緒に呑まないか」と言わんばかりに、右手に持っていた2本の線香花火を掲げた。
その時私はおそらく苦笑いをしていた。
2人の間には線香花火のパチパチという音だけがしていた。
2人とも手に持った花火をただただ眺めていた。
他の花火とは異なり、そこまで派手さは持ち合わせてないがその落ち着いた花の咲き方に趣があるのだなと思った。
嫌いな筈の花火に、暫し見とれていた。
疲れているからだろうか、何かこう”和み”を感じていた。
最近は妖怪がよく里にも出没するようになった。
その殆どが低級の妖怪なので蹴散らすことくらいは容易いが、なにしろ1人でやっているのでなかなか骨が折れる。
異変にも敏感になった。まぁ解決しようとする者がいなくなったから動いただけなのだが。
同じ紅と白を身にまとう者でも彼女には敵わないだろうな。
遠い目の中に写る花火は、陰陽宝玉を思わせるほど力を溜め込んだかと思うとポトリと地面に落ち、光を失った。
「せっかく誘ってもらっておいて何なんだが、今日は早めに帰らせてもらうな」
帰るチャンスを見つけた私はそう切り出した。
弁当箱帽子の女性はこくりと軽く頷き了承すると、「気をつけるんだぞ」と言い別れを告げた。
心配性は相変わらずだな、と思いサクサクと草の生い茂った帰路を進む。
***
生き物はやはり短命である。
生きるものにとっては長いかもしれないし、短いかもしれない。
しかし永遠を生きる私にとって、他のもののそれは必ずしも短いものだ。
そのくせ、やたら輝こうとする。
自分が生きているという証明をしようとする。
それは記憶となり、やがて記憶は忘れられてしまう。
「人は死を恐れるのではなく、自分という存在が忘れられることを恐れる」
って誰かが言っていた。
記憶を残すことよりも忘れていくことしかできない私は自分でも儚いと感じる。
それを受け止めて生きてきた。
ただ一人になってもそれが終わることは無い。
偶にアイツが月なら私は太陽、そう考えることがある。
いつからだか分からないが、それらは生まれたときから存在していた。
夜と昼、同じ境遇で共に輝くことはできない。
アイツには従者がいる。
その従者もまた、星の如く月の隣で輝く。
私の“ひ”は消えることがない。
月まで届け、不死の煙。
永遠に消えることのない“ひ”は誰が消してくれようぞ。
***
家の前で立ち止まるともう一度だけ空を眺めた。
雲ひとつ無い空には、一片も欠けていない月と無数に広がる星が煌々としている。
花火なんかするんじゃなかったと思い、月に向かってヒノトリを一羽、送り込んだ。
夕方までの天気が嘘のように、空には月と星が輝いている。
星達は互いに共鳴するかのように夜空には相応しくない白鳥や鷲がちらほら姿を現す。
幻想郷はもう夏だ。
暑くて寝返りを打ってしまうこの時期にとって夕立というのは、ある意味良いものなのかもしれない。
風呂上りの火照った体を冷やすのにちょうど良く、夜風と虫の鳴き声が妙に合う。
人里の一角、漬物を漬けるにはちょうど良い程度の大きさの意思に腰かけ夜を楽しんでいた。
静寂という名詞の相応しい夏の夜に、バチバチと、どこか水を差すような音をただぼーっと眺める。
その視線の先には、長身で細身の弁当箱のような変わった帽子を被った女性と里の子供達が花火をしていた。
実に風流だ、と改めて夏を感じた。
私は花火が嫌いだ。暗闇に咲く一輪の花。見る者を魅了するその花はまるで幻想。
そのくせすぐに力を失い、辺りは暗闇を取り戻す。まるで・・・・。
遠巻きに見ていた私に弁当箱帽子の女性が手招きをする。
もう少しこの夜風を楽しみたかったが、腰を上げると子供達の輪に混ざる。
近くで花火をしていた子がこちらに気づくと、子供らしい自然な笑みと共に手持ち花火を1本差し出した。
受け取ることを拒むことができず、私もぎこちない笑顔でそれを受け取る。
中指と親指でパチンと指を弾き、指先から漏れる火を器用に花火に点火する。
全くもってこういう時に便利だから嫌になる。
オレンジの火はすぐに青、赤、緑と色を変えた。
その色鮮やかさはあの七色の魔法使いを思い出させる。
初めて会った肝試しの時も様々な人形とカラフルな弾幕が印象深かった。
私に攻撃こそ仕掛けてきたが、里で人形劇をしていることをきっかけに酒を交わすようになった。
いろんな話も聞いた。自分が魔法使いになったことや、自立人形を作ること。
そんな彼女が羨ましかった。
私はといえば、ただアイツを殺すことしか考えていない。
殺すことができないと分かっていても私は行くしかなかった。
彼女が自立人形を作り上げたかどうかは分からない。
でも、彼女が最期にくれた人形を一生大事にするだろう。
私の持っていた花火は、力なく消えると白煙を残しその役目を終えた。
まったく嫌なことを思い出させると考えながら、まだ火薬の匂いのする花火を水の入ったバケツに放り込んだ。
ジュッと音を立て二度と火のつかないただの炭と化した。
さてどうしたものかと立ちすくんでいた私は、不意の轟音で視線を上げざるを得なかった。
私同様、手持ち花火に没頭していた子供達も一斉に空を見上げた。
夜を彩る星達に負けじと打ち上げられた花火はとても美しく輝いていた。
ドーンという音に僅かに時間をおいて、花がパァーっと四方に拡がり、そのキラキラを帯びながら枝垂れる。
この豪快さは白黒のアレを思わせた。
目の前が一瞬光ったかと思うと、次にはもう光に包まれていた。
あれを真に受けていたら本当に「ごっこ」では済まないだろう。
性格も豪快な奴だった。宴会の度に幹事をやっていたな。
強くないくせにどんどん呑むし、挙句の果てに潰れて看病されている。
彼女はいつでも騒がしかった。
騒がしい奴ほど、いなくなった時その存在がどれ程のものか理解する。
彼女の”騒がしい”はそんな感じの騒がしさだった。
その日以降、宴会の数がめっきり減った。
ドン、ドン、ドン、ドン・・・
打ち上がる花火の多さでふと我に返る。
打ち上げ花火もいよいよクライマックスを迎えるようで、音に比例してその激しさを増す。
なるべく見ないように俯いていた。それでも聞こえてくる豪砲がどうしても意識させる。
ドン・・・・・
最後の一発が打ち上がり、そして静寂を迎える。
これほどの虚しさをおぼえたのは久しい。
この場に居た堪れなくなった私は帰路に着こうと思案した。
そろりそろりと誰にもさとられないよう宵闇に紛れ込もうとしたが、足元まである銀の髪に紅いモンペを身に着ける私がうまく抜けられるわけもなく、あと少しというところでポンと肩を叩かれた。
振り返ると弁当箱帽子の女性が「一緒に呑まないか」と言わんばかりに、右手に持っていた2本の線香花火を掲げた。
その時私はおそらく苦笑いをしていた。
2人の間には線香花火のパチパチという音だけがしていた。
2人とも手に持った花火をただただ眺めていた。
他の花火とは異なり、そこまで派手さは持ち合わせてないがその落ち着いた花の咲き方に趣があるのだなと思った。
嫌いな筈の花火に、暫し見とれていた。
疲れているからだろうか、何かこう”和み”を感じていた。
最近は妖怪がよく里にも出没するようになった。
その殆どが低級の妖怪なので蹴散らすことくらいは容易いが、なにしろ1人でやっているのでなかなか骨が折れる。
異変にも敏感になった。まぁ解決しようとする者がいなくなったから動いただけなのだが。
同じ紅と白を身にまとう者でも彼女には敵わないだろうな。
遠い目の中に写る花火は、陰陽宝玉を思わせるほど力を溜め込んだかと思うとポトリと地面に落ち、光を失った。
「せっかく誘ってもらっておいて何なんだが、今日は早めに帰らせてもらうな」
帰るチャンスを見つけた私はそう切り出した。
弁当箱帽子の女性はこくりと軽く頷き了承すると、「気をつけるんだぞ」と言い別れを告げた。
心配性は相変わらずだな、と思いサクサクと草の生い茂った帰路を進む。
***
生き物はやはり短命である。
生きるものにとっては長いかもしれないし、短いかもしれない。
しかし永遠を生きる私にとって、他のもののそれは必ずしも短いものだ。
そのくせ、やたら輝こうとする。
自分が生きているという証明をしようとする。
それは記憶となり、やがて記憶は忘れられてしまう。
「人は死を恐れるのではなく、自分という存在が忘れられることを恐れる」
って誰かが言っていた。
記憶を残すことよりも忘れていくことしかできない私は自分でも儚いと感じる。
それを受け止めて生きてきた。
ただ一人になってもそれが終わることは無い。
偶にアイツが月なら私は太陽、そう考えることがある。
いつからだか分からないが、それらは生まれたときから存在していた。
夜と昼、同じ境遇で共に輝くことはできない。
アイツには従者がいる。
その従者もまた、星の如く月の隣で輝く。
私の“ひ”は消えることがない。
月まで届け、不死の煙。
永遠に消えることのない“ひ”は誰が消してくれようぞ。
***
家の前で立ち止まるともう一度だけ空を眺めた。
雲ひとつ無い空には、一片も欠けていない月と無数に広がる星が煌々としている。
花火なんかするんじゃなかったと思い、月に向かってヒノトリを一羽、送り込んだ。
慧音ではないようですが
あと先に言われちゃいましたが、この話の流れで弁当箱帽子は合わない
の感じでしょうか。ここらへんの想像力が弱いのでうまく表現できませんでした。
沈みそうな内容のアクセントになっているように感じましたし。
花火は自分なのか、今はいない懐かしい人達なのか、
妹紅を不思議に感じ取れる作品だったと思いました。
行動や台詞で「誰であるか」を想像するのは難しくないので、外見で描写するのにこだわらなくてもいいと思いますよ。
>なにしろ1人でやっているのでなかなか骨が折れる
ということは、慧音ではない(居ない)?
だとしたら、誰??
この短さで、誤字や、明らかにおかしな文章があるのはいただけないですね。投稿する前に推敲をオススメします。
せっかくの作品がもったいないですよ。
話し方からすると慧音なんだが
里に来た妖怪を退治してないところを見ると慧音じゃないのか・・・?
そうだとすると寺子屋の慧音の後釜とか慧音の子孫とかになるんかね
後天的半獣と人間の子供は人間になるんだろうか・・・?
全体的にも良い雰囲気、妙なウケ狙いとかネタは少々食傷気味なトコでしたので…。
自分は正しい文章とかよくわかりません、ただスッと読めて良い余韻を頂けたのでこの点数を。