すべての物事には必ず意味がある。逆を言えば、意味のないモノなど存在しない。
確かにそうなのかもしれない。それに関して私は異議を唱えるつもりはない。
だったら、どうして私はこんなにも苦しんでいる?
◆◆◆
私、霧雨 魔理沙は、自分で言うのもなんだが顔が広いと思う。実際いろんな友達がいるし、異変を通じて本当にいろんな奴と知り合った。その中で、私の最も古い知り合いであり、友達でもあるのが霊夢だ。
霊夢とはずっと昔からの付き合いで、私はずっと霊夢を近くで見てきた。普段はのんびりしてて何考えてるかさっぱりわからない奴だけど、長いこと一緒にいるうちにあいつのことが大体わかるようになって、多分あいつのことを一番理解してるのはこの私だ。いや、それでもやっぱりわからないことの方が多いな。
大体の時間は神社の縁側でお茶飲んでるみたいで、そうじゃなければ境内の掃除してるかだな。私はそれ以外の姿をあまり見たことが無い。私生活からしてのんびりしてる奴だ。
だからと言って何も考えていないわけじゃなくって、曰く『いつだって幻想郷のことを案じているわよ。お茶飲みながら』らしい。全く真剣さは感じられなかったけど、少なくとも嘘をつく奴じゃないから多分本当なんだろう。でも、あいつ冗談は言うから半信半疑ではある。結局、あいつが何考えてるかなんてわからない。これが私の霊夢についてわかってることだ。
でも、友達として見た時、あいつほど付き合いやすい奴はいないと思う。あいつが傍にいて、何か不快に感じたことが一度としてないのだ。それに、人の話はどんなに無駄話でもちゃんと聞いてくれるし、相談したら応えてくれる。まぁ少し達観したような返事がくるんだけどな。
あいつはどんな相手でも決して色眼鏡で見ることなく、平等に接する。しばしば面倒そうな顔をするけど、とりあえずお茶を勧めてのんびりする。来るものを拒まない、とでも言うのだろうか、霊夢の醸し出す空気はとにかく居心地がいいものだ。
こいつの持つ雰囲気には、かくいう私もかなり助けられている。何と言うか、落ち着くのである。ちょっと疲れたとき、休憩したいときには神社に行ってゆっくりと時を刻む。これだけでも大きなリラックス効果があるのだ。あいつが友達で正直良かったと思うぜ。
結論から言うと、やっぱり最高の友人だ。私にとって霊夢は親友だぜ。いつも変わらない態度だから少しマンネリ気味かな~、なんて思う時もあるけど、それを差し引いてもあいつはいい味出してるぜ。グッジョブ!
とまぁ、友人として見たらこんな感じになるんだが、もう一つ、私は霊夢に対してもう一つだけ思うところがあるのだ。それは、あいつをライバルとして見たときだ。
私は霊夢とは長い付き合いだから、あいつの強さもよく知ってる。あいつは普段のほほんとしてる癖に、弾幕ごっこの時にはそれを感じさせないくらいに鋭いのだ。お茶ばっかり飲んでるのに、こいつの強さだけは決して衰えない。それどころか、出会ったころから比べると格段に強くなってやがる。
もちろん私だって昔とは比べ物にならない程強くなった。だけど、私はあいつと勝負して勝ったことが一度もない。
私はずっと努力している。見てばっかりだった霊夢の背中を、いつか必ず追い抜くために頑張っている。だって、やられっぱなしは悔しいから。だから、精進し続けてるんだ。だけど、それでもいつだってあいつには敵わない。
どれだけ自信をつけても、霊夢は簡単に私の上をゆく。あまりの強さに、こいつは天井知らずなのか? なんて思ったりもしたくらいだ。けれど、そんなこと考えてたって私が強くなれるわけじゃない。あいつにだって限界ってものがあるはずだ。あいつが力の限界を迎えた時に、私はそれを上回ればいい。最後に勝ったやつが笑うんだ。そう信じて研鑽を続けている。
だけど、最近その思いが揺らぎ始めた。私自身の力が伸び悩んでいるのだ。
あいつの限界を超えるつもりだったのに、私の限界はあいつには届くことすらないのかも知れない。そう考えると、私の努力はなんだったんだ? 私はなんのために頑張って来たんだ? こんな思いが頭を巡る。
全ての物事に意味があるならば、私のこれまでの努力にはどんな意味があるというんだろうか。
努力は必ず報われる… なんて偽善に満ちた言葉だろう。今こうして、報われない努力が生まれつつあるというのに…
◆◆◆
「…というわけだ」
「ふーん、なるほどねぇ…」
自分で解決できないような問題になっちまったからな。誰でもいいからとりあえず話を聞いてもらいたかった。
普段は霊夢の所に行くんだが、これを霊夢に話すわけにもいかず、同業者かつ友達ということもあって、私はアリスに相談することにした。
それにしても、気のない返事をする奴だな。ちゃんと聞いてたのか?
「聞いてたわよ」
「人の心を読むもんじゃないぜ」
「顔に出てるわよ。わかりやすい性格ね」
そうなのか? 自分ではわからないもんだな。
まぁ話は聞いてたみたいだからとりあえずは良しとしよう。
「私の性格なんて今はどうでもいいことだぜ。
ともかく、私は真剣にお前に相談してるんだから、あまり茶化さないでくれよ」
「あら、気分を悪くしちゃったかしら? ごめんなさいね」
「いや、別に謝ってもらうほどでもないし、気にしないでいいぜ」
「そう?」
何しろこっちが相談を持ちかけてるんだし、これぐらいは許容範囲内だぜ。謙虚さってのは大事だよな。
それに、こいつは元々こんな話し方だし、今更気にするようなことでもない。
アリスには霊夢とは違った方向でいろいろ助けてもらってる、と言っても主に魔法関係でなんだけどな。だから、こいつにだって感謝してもしきれないくらいの恩義を感じてる。普段は絶対言わないけどな。だって、そんなこと面と向かって言ったらさすがに恥ずかしいぜ…
「どうしたの? 急に黙りこんだりして」
「何でもないぜ。それより、本題に戻ろうぜ」
「そうね…
要は、努力が報われないから憤ってる。そして、その思いを解消する方法がわからないから、さらに鬱憤が溜まってしまっている…ということでいいのかしら?」
「多分… そういうことだと思う…」
おおむねアリスの言う通りだと思う。報われない努力に思うところがあるのは事実だし、自分ではどうしたらいいのかわからないからアリスに相談した。だから、こいつの言葉は的を射ている。
「難しい問題ね…」
「やっぱりそう思うか?」
「そうね。あなたの悩みももちろんそうなんだけれど、私にちゃんとした返事ができるか、というのもまた難しいの」
どういうことだろう? 難しい質問したのはわかるけど、アリスの言葉にはアリス自身の問題が含意されてるように感じる。
「どういう意味だって顔ね。簡単よ。
私には多分あなたの悩みが理解できないのよ」
「…それは、アリスが私じゃないから、ってことか?」
「それもあるわ。それだけじゃなくて、私とあなたの根本的な違いが関係してるの」
「根本的な違い?」
「生き方の違い、と言ってもいいわ。
要するに、私にあなた程の努力家の悩みが理解できるわけがないということよ」
「…そんなことないだろう。アリスだって努力を重ねてるんじゃないのか?」
「もちろん努力はするわ。だけど、あなた程ではないの」
なんだろう、これは誉められてるのか? 妙にむず痒いんだけども…
「誇ってもいいわよ。この私が称賛しているんだもの」
「お、おだてても何も出ないぜ?」
「別に何もいらないし、おだててもないわよ。ただの本心だもの」
「そ…そうか?」
相談しに来てこんなこと言われるなんて思わなかったぜ…
ちょっと居心地が悪い…
「で…でも、だからってどうして理解できないなんてことになるんだ?」
「あぁ、そういえばそんな話だったわね」
「…おい」
「冗談よ。ちゃんと話すわ。
なんでかというとね、私とあなたでは努力する心構えが違うのよ」
「心構え? 努力するのにそんなもの必要か?」
そんなこと初耳だ。頑張れば、それが自然と努力するってことなんじゃないのか?
「そこに生き方の違いが関係するの。
私は何か困難な課題に出くわしたとき、それを必死になって解決しようという心構えが無いの。なぜなら私には時間がたくさんあるから、じっくりそれに臨もうとする。
だけど、あなたは違う。あなたは困難にぶつかるとそれを直ぐに解決しなければ気がすまない人。
困難に対するわけだから、努力しなければ越えられない。
ほら、あなたと私の努力は違うでしょう?」
「…話だけ聞くとそうかも知れないけど、自分のことなんてよくわからないぜ」
「確かにそうかもね。私の主観でしかないから、あなたには解り辛いのかもしれないわ。
だけど、これでも私はあなたをずっと見てきたのよ? 的外れではないはずだわ」
そうなのかもしれないな。私はアリスを信頼してるし、そのアリスが言うことなら多分間違いない。
でも確かに、私はわからないことがあるとすぐに答えを知りたがるな。多分アリスが言ったのはそういうことなんだろう。そう考えると、的外れなんかではない。
「だから、あなたの努力を素晴らしいと思うし、羨ましいとも思うわ」
「羨ましい? アリスが私を?」
「えぇ、とても羨ましいわ。だって、私にはあなたのような姿勢がとれないもの。
どこまでもひた向きで、どこまでも真直ぐに目標を追い続ける。そして達成の暁には、次の目標を見つける。
私には、あなたのそんな歩み続ける姿勢が輝かしくて、とても心惹かれるのよ」
「そんなこと… お前だってやらないだけで、それくらいできるんじゃないのか?」
「私がやっても、それはあなたの真似ごとにしかならないわ。
私の生き方はもう決まっているから、魔理沙の生き方には憧れるしかないの」
「アリス…」
正直驚きだ。まさか私をそんな風に見てくれてたなんて。嬉しいけど、やっぱり照れる。こいつにここまで言わせるなんて、私はそんなに大それた人間じゃないんだけどな。
「あなたに憧れるだけの私は、それを解決するための言葉が思い浮かばないの。
だから、理解できないというのは、結局そういうこと」
「そうか…」
やっぱりアリスでも、私の悩みを解決するなんて無理か…
私が自分で何とかしなくちゃならないことなのかな…
「今までのが、アリス個人としてのあなたへの応えよ」
「え?」
「あなたの友人として、人生の先輩としてなら、その悩みに応えられると思うわ」
「それって、どういう意味だ?」
「変に戸惑わせちゃってごめんなさい。
私があなたを尊敬していて、そんなあなたの姿が美しいものだって言いたかっただけなの」
「わかったから、それ以上言わないでくれ。 …さすがに照れる」
「あ! …ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
なんだろう。二人とも黙りこんじまって、非常に気まずい空気が…
こんな状態どうしたらいいんだろう。沈黙がなんというか、重い。だけど口を開かないと始まらないし、しかたないな。
「そ…それで、どういう意味なんだ?」
「え? あ…あぁ、そうね、その話だったわね。ごめんなさい。
えーとね、つまりあなたの悩みを解決には導けないけど、アドバイスだったら何とかなるかなー、っていうことなの」
「なんだ、そんなことか。私はそこまでしてもらうつもりはなかったぜ。
まぁ、解決するんだったらそれが一番なんだけどな」
「でもね、あくまで私の立場からだから、あまり役に立たないかもしれないわ」
「そんなことないぜ。私はいつだってアリスの助言には助けられてるからな」
「そ…そう? その、ありがとう…」
「い…いや、礼を言うのは私の方だぜ」
まずい。また同じ流れになっちまった。
しかし、二の轍は踏まないぜ!
「それより! アリスのアドバイスを早く聞きたいぜ」
「そ…そうね。そうしましょう、って私が話すんだったわね。
だったら、物事の意味について少しお説教することにしましょう」
「万物には意味がある、ってやつか?」
「人はそんな風に世界を見ているわね。
でもね、この世には意味のないモノなんて山ほどあるわよ。
たとえば、道端の石ころに何の意味があるというの?」
「それを言われると、正直返答に困るぜ…」
「そうでしょうね。そんなこと私も答えられないわ。
なぜなら、私たちがその石ころに意味を求めていないからよ」
「意味を求めない? どういうことだよ?」
「全てのモノに元々意味なんて無いの。
そこに意味を求めて、それを持たせるのは私たち理性ある生き物なのよ」
「じゃあ何か? 全ては無意味だ、なんて言うのか?」
「その通りよ」
さっきの空気から一変して真面目に話し始めたと思ったら、アリスはいきなり何を言い出すんだ? 意味の無いものしかないなんて、あんまりな言い方じゃないだろうか。
だったら結局、私の努力にだって意味が無いなんて言ってるようなものじゃないか。
「あなたの憤りは良くわかるわ。でも勘違いしないで魔理沙。
この世のすべては無意味でも、そのどれ一つとして、無駄なモノなんて無いのよ」
「…無駄なモノ?」
「そう、さっき言った石ころだって、立派な世界の一員なの。
それ自体に意味はなくても、それは確かに世界を構成するピースの一つなのよ。
どれかが欠けてもいけないし、多くてもいけない。
だから、無駄なモノなんて存在し得ないのよ。
だって、この世界はそうした欠片が無数に寄り集まってできているのだから」
「それと私の努力がどう関係するんだ?」
「まだ話の途中よ。とりあえず最後まで聞きなさい。
そうして、まず無意味の塊が出来上がって、その内の一欠片が周囲に意味を求め始めた。それが、私たちなのよ。
初めは生活をより良くするために、役立つモノばかりを傍に置いていたのだけど、いつしか生きるためには必要のないものまで手元に置くようになったの。
だけど、やっぱり必要ないから意味は無いのよ。でも漠然と、意味があるはずだ、なんて思い描いて、無理やり意味を持たせようとしたの。
それを正当化する言葉が、意味の無いモノなんて無い、だったのね」
「じゃあ、どうしてそんなことしたんだ?」
「きっと勘違いした支配者の驕慢ね。
自分たち理性持つ者が世界を支配している。ならば、自分たちの周囲にあるモノに無意味があっていいはずがない、ってね」
なんだかめちゃくちゃややこしい話になってきたぜ。
なんだろう。世界には無意味なモノしかなくても、無駄なモノが無い。そして、それに意味を持たせたのが私たちみたいな存在だ、っていうことなのかな?
頭のいい奴だとは思ってたけど、まさかここまで哲学して生きてるなんてな。ちょっと感心したぜ。
「で、結局私の悩みとどう関係するんだ?」
「う~ん… それがうまく言えないのよねぇ」
「ここまで話してそれかよ!?」
「きゃっ! ちょっと、大声出さないでよ」
「あ…あぁ、すまん。突っ込まずにはいられなかったんだ」
「まぁ… 気持ちはわかるわ。
多分私が言いたかったのは、あなたの努力は無駄ではないってことなんだと思うわ」
「自分で言ってて多分って、お前…」
「し、仕方無いじゃないの! 本当に言葉が見つからないんだし…」
さっきまでのご高説してた姿とは打って変わって、しょんぼりした様子のアリスだが、その姿に不覚にもときめいた。
やばい。いじめたくなってきた。だけどそれやったら話が進まないし自重しろ、私。
「でも…」
「うん?」
「あんな言い方したけど、意味を持たせるのは決して悪いことじゃないの。
私たちが生きる上で、それは必要不可欠だから。
だって、そうしないと私たちの生涯さえ不安定になっちゃうもの」
「それはまぁ、そうだろうな」
「魔理沙の努力に意味を持たせられるのはあなただけなの。
報われない努力でも、それを経験にすれば、それだけでも意味があるんじゃないかしら?」
「そう言われてもなぁ…」
「大丈夫よ。あなたはいつだってそうやって前に進んできたのでしょう?
あなたの経験を、あなたが信じないでどうするの?」
「むぅ…」
「ねぇ魔理沙、失敗を積み重ねるのは才能がいることなの。
あなたは何度も努力を重ねて失敗してきた。それでも前に進むのは、本当に力のいることなのよ? 努力の天才っていうのは、魔理沙みたいな人のことを言うの。
自覚なんてなかったかも知れないけど、無意識にそれをやっていたあなたは尚更すごいわ。
だけど、そこで歩みを止めたらあなたの頑張りは本当に無意味になっちゃうわ。そんなあなたは見たくないの」
失敗を経験にする…か。私は本当にそれをやってこれたかな? ただひたすら霊夢を追い続けてただけなのに、そんな偉そうなことしてたのかな?
「あなたの頑張りに無駄なモノはない… だってそれは、魔理沙を形作る欠片の一つだもの。
そこに意味を見出せないと、あなたの心が壊れちゃうわ… それは自己否定に等しい行為だから。
だから、魔理沙… 自分を信じてあげて?」
「アリス…」
こいつがここまで言ってくれてる。今の私より、アリスの方が私を信じてる。
アリスにここまで心配かけてしまった。そんな自分にちょっと幻滅する。
だったら、この言葉に応えない訳にはいかないな。
「わかったぜ。いや、ホントはよくわかってないんだけど、これまで通りやってればいいってことだな?」
「え? え~っと… 極論すれば、そうなるのかな?」
「なんだよ、ハッキリしない奴だな」
「だ…だって、いきなり態度が変わるんだもの。戸惑うに決まってるわ」
「それもそうか」
重かった空気も、ちょっとは和らいだな。重くしてたのは私だけど、気にしたら負けだぜ。
でも… やっぱりまだ一つスッキリしないことがあるんだよな。
「なぁ、アリス」
「どうしたの?」
「自分を信じるのはいいんだけど、それでもやっぱり不安だぜ」
「そんなこと言われても… 魔理沙自身の問題だし…」
またしょんぼりするアリスに、またときめく私。
だめだ、今度は耐えられない。なので、少しからかうことにするぜ。
私ってSだったんだな…
「そんなこと言うなんて… アリスは冷たいんだな…」
「えっ? きゅ、急にどうしたの?」
「いや… いいんだ。結局私が解決するしかないんだよな…」
「え? え?」
「ありがとうアリス… 話を聞いてくれて助かったぜ…」
「え、ちょっと? 魔理沙?」
とことん混乱するアリスがおかしくて、体が震え始めちまった。
マズイ、このままだとばれちゃうぜ。
「魔理沙…? 笑ってるの?
…もしかして、からかってた?」
「あはははははは! ホントに焦ってるんだもんなぁ! おかしかったぜ!」
「もうっ! 魔理沙!!」
「はははは… 悪い悪い。ちょっとからかいたくなっただけだぜ。ごめんな、アリス」
「はぁ… いつも通りの魔理沙みたいね」
「許してくれるか?」
「よくあることだし、気にしてないわよ」
「そっか。ありがとな、アリス」
「調子いいのもいつも通りみたいね。
でも、確かにあなたの言うことにも一理あるわ。だから、少しは友達がいのあるところを見せてあげる」
「いや、そこまでしてもらうつもりはなかったんだけど」
「あら? 遠慮するなんてあなたらしくないわよ。大人しく受け取りなさい」
「そうか? だったらそうさせてもらうぜ。
ところで、何してくれるんだ?」
「そんな大したことはしないわよ。このコインで簡単な賭けをするだけ」
「賭け? 何するんだ?」
「ただのコイントスよ。これであなたの未来を占うの」
「なんだそりゃ、 そんなことして何か意味があるのか?」
「意味があるかどうかを決めるのはあなた。私はきっかけを与えるだけ。
それにね、このコインは普通のコインじゃないの。信じれば必ず思った通りの面が出るコインなのよ」
「どういう意味だよ?」
「やってみればわかるわよ。
さぁ魔理沙、賭けなさい。あなたが選ぶのは表? それとも裏?
賭けた方が出れば、あなたはきっと強くなれるわ。霊夢よりも…」
突然過ぎて展開についていけないけど、多分こいつなりの励まし方なんだろうな。
だから、ここはこいつに合わせるとするか。
「じゃあ、表に賭けるぜ!」
「そう… だったら、信じなさい。きっと表が出るはずだから。
…いくわよ!」
キ-……ン
軽い音をたてて、コインが宙を舞う。
アリスが落ちてきたそれを掴んで、ゆっくりと手の甲に宛がう。
そして、覆っていた手を離して出てきた面は…
「…これ、どっちなんだ?」
目にしたコインの面には、一切絵が描かれていなかった。
こんな淡白なコインは今まで見たことが無いから、これじゃあどっちかわからない。
「あなたが表と思えば、きっと表なんでしょうね」
「意味がわからないぜ?」
「こういうことよ」
そう言って見せてくれたコインには、両面とも絵が描かれていなかった。
なんだこれ? これじゃどっちがどっちかなんてわからないじゃないか。
「なぁ… これ、どっちも一緒だぜ?」
「そうね」
「そうね、ってお前なぁ…」
「言ったじゃない。あなたが信じた面が出るって。
あなたの言うとおり、このコインには表も裏も無い。だけど、表でも裏でもあるの」
「どういうことだよ?」
「このコインに意味なんて無いの。だけど意味が無いからこそ、自由に意味を持たせられる。
その時々で出る面が変わるけど、絶対に外れないコインなのよ」
「それって、単なるイカサマじゃないか…」
「でも、モノに意味を求めるのは私たちの特権よ? せっかくこんな素敵な権利があるのだもの、有効に使うべきじゃない?
それに、表と信じて胸を張って言えなければ、なんの意味もなさなくなるのよ?」
それはわかるけど、こいつは結局何を言いたいんだろう? いまいち話が見えてこないぜ。
「わからない? この面が表になるためには、あなたがそう信じ続けないといけない。
だったらこれもある種、自分を信じることにならないかしら?」
「…こじつけだぜ?」
「でも、何もしないよりマシよ。
さっき言ったけど、私はきっかけを与えるだけ。少しでもあなたが自分を信じる力が持てるようにね」
なんとなくだけど、アリスの言いたい事がわかってきたような気がする。
要は信じないと始まらない、ってことなんだろうな。
「そして、そのコインに意味を持たせるのも私なのか…」
「あなただけしかできないこと。魔理沙だけの権利よ」
それが私の特権だったら…努力も一緒か。
私が意味を持たせないといけないし、私だけしか信じられない。
先のことなんかわからないから、うだうだ悩む前に信じろ、ってことか。
…もしかしてこいつ、それだけを伝えるのにこんな長い話してたのか?
「なぁ、アリス」
「なによ?」
「お前って、ホント不器用だな」
「う…うるさいね! 自覚してるんだから、突っ込まないでよ!」
「それに、不器用なお前にしちゃ過ぎた演出だったぜ」
「そんなに不器用って言わないでよ… もぅ…」
「でもな、アリス」
「今度はなによ?」
「今回も助けられたぜ。ありがとうな、アリス!」
「…えぇ。このくらいどうってことないわ。
私たちは、友達でしょう?」
「そうだな。これからもずっと、友達だぜ!」
アリスに大きな貸しができたな。でも、誰かから何かを借りるっていうのも私らしいかな。
だったらついでだ。アリスからもう一つ貸してほしいものがあるんだ。
「なぁ、アリス。どうしても貸してほしいものがあるんだけど」
「なによ、改まった言い方して。何を借りたいの?」
「そのコインだよ」
「これ? どうしてこんなものを?」
「え~っと… やっぱり言わないと駄目か?」
「まぁ気になるし、教えてくれる?」
「それはだな… その…」
「なによ、ハッキリ言いなさい」
「…今日のことを、アリスの励ましを忘れないために…な」
「………」
くぁ~~~~~! 恥ずかしい!
何だってこんなこと正面切って言わないといけないんだよ!?
それに、どうしてアリスは黙ったままなんだ!? リアクションくれないと辛いじゃないか!
「おいアリス! 黙ってないで何か言ってくれよ」
「………」
「…どうしたアリス?」
よく見たら顔真っ赤じゃないか! 一体どうしたんだ!?
「おい! 大丈夫かアリス!?」
「………かわいい」
「かわいい? 何がかわいいんだ?」
「はっ! な…何でもないのよ! 私は大丈夫だから心配ご無用よ!
それは置いといて、ええと…コインだったわね、好きに持って行きなさい」
「…やけにすんなりだな。本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫なの! お願いだから気にしないで!
それにね、このコインだって私が持ってるよりあなたが持つ方がふさわしいから渡すのよ」
「そうかな?」
「そうよ。これは、自分を信じて前に進む人にこそふさわしい。魔理沙にピッタリじゃないの」
「そうか。アリスが言うならそうなんだな。
だったらありがたく借りることにするぜ」
「えぇ、ありがたく借りていきなさい」
こんな話し方は、間違いなくいつものアリスだな。
だったら私だって対抗してやるぜ!
「あぁ。私が死ぬまで借りることにするぜ!」
「ちょっと待ちなさい。それは返すつもりが無いのと一緒よ?」
「まさしくその通りだぜ? 私はこれを返すつもりなんて毛頭ないね。
むしろお墓まで一緒に連れて行くぜ!」
「呆れた… 調子を取り戻したと思ったらそれだもの」
いつもだったらここで別れてそれで終わり。
だけどな、アリス。今の私は一味違うんだぜ?
「それに、これでアリスの言葉を一生忘れないですむからな」
「…え?」
「じゃあな、アリス! また今度な!」
背中から『ちょっと!? 魔理沙ぁーーーー!』なんて声が聞こえる。近年稀に見るアリスだな。それだけでも今日は収穫ありだぜ。
でもな、さっきの言葉は冗談じゃないんだぜ?
私は今日のことを絶対忘れない。不器用なお前が一生懸命私を励ましてくれた今日のことを…
本当にありがとうな、アリス…
了
アリスとの会話も良かったです。
この世界に無駄なものは無い・・・一度は言ってみたいかも。
イカサマコインでフィ○ロ兄弟ですか。 確かにイカサマコインで二人の道を決めましたからね・・・。
バ○ムートラグーンでトラウマとは・・・何故?(苦笑
SFC時代の■は名作と同時に悪女を世に送り出すから困る
俺…あんな浮気女放っておいてプリーステスと薬屋さんやるんだ…
年を取ると余計にカッコよく思えるなぁ、子供の時は単なる消化イベント程度にしか思ってなかった
だがヨヨ、てめーはダメだ
多感な時期にろくでもない汚さを見せ付けた罪は重い
やり場のないこの怒りを一言で表すなら、 ヨ ○ ふ ざ け ん な ! でしょう。
魔理沙の努力が意味を持ちますように・・・
バハラグ懐かしいwww
そして全く話についていけない俺はコイントス=DMC2のダンテと言い張ってみる
なかなか面白かったです