Coolier - 新生・東方創想話

東方永夜抄~不死ノ姫~

2008/07/01 00:58:21
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 月から自らくだり、地上という場所で新たな世界を見出そうとした姫
 たった一人の人を想い、炎のような嫉妬を持った姫

 立場も環境も性格も何もかもが違う2人は…因果の鎖か、運命の輪なのか。同じ永遠を過ごすこととなった。月であれば陽、表であれば裏、光であれば影…そんな対の関係のように決して交わることの無い2人の姫。

 月から最も遠い場所…永遠亭
 竹林の中にあるその屋敷は、幻想郷の中でも立派な建築物に値する。その場所で薬屋として生計を営んでいる永琳は、天候の優れない空を眺めていた。
「…よくない天気ね。一雨くるのかしら」
黒い雲が空を覆い、今にも大粒の雨が降り出しそうである。季節は梅雨。雨が多い季節ではあるが。なんというか暴風雨でもきそうな感じだ。
「てゐ、優曇華院、雨が降りそうだから、洗濯とかしまっておいて」
「し、師匠!?姫の部屋にこんなものが!!」
 慌てて駆け込んできた優曇華院が手にしていたものは果たし状だ。無論差出人は誰かはわかっているし、むしろこの手の手紙はよく届いている。届かない日は大抵、直々に乗り込んでくるわけなのだが。永遠亭の姫である輝夜は、これを受けるかどうかはその日の気分次第である。仕事もあまりせずぼーっとしている輝夜だが、たまに運動をしようといったときであると、外に出かけて相手をすることがある。輝夜が部屋にいないということは、どうやら今日はそういう気分であったらしい。
「どうしましょう?師匠?」
「探しにいくとしても……もう遅いわね」
 永琳が外を見ると、既に雨がぽつぽつと降り出している。大慌てで洗濯物を片付けているてゐと兎達。永琳は仕方なく様子を見ることにした。

 どうせ…死なないのだから。

「なんでこんな目に会わなきゃいけないのよ!」
 ちょうどあった小屋の中、黒髪の蓬莱輝夜は大きく息を吐き、目の前にいるものを見る。
「それはこっちの台詞だ!」
 白髪の長い髪の藤原妹紅もまた同じようにため息をついて、睨みつける。さっきまで殺し合っていた2人は、こうして一緒にいるのだけでもイヤになる。不老不死の2人に相手を殺すことは絶対に出来ない。無論、お互い承知してやっているわけだが。
 外は大雨……暫くやむことは無いだろう。小屋は狭く、2人がはいるのもやっとということだろう。トタン屋根に雨の音が響き、たまに屋根から雨粒が落ちてくる。
「きゃぁ!!」
 輝夜が大声を上げて、前にいる妹紅によりかかる。ふと気がついて顔をあげると妹紅がニタニタ笑みを浮かべる。
「日頃から部屋でぬくぬくしているお姫様には、こういった建物は無縁だろうからね~。あんな声だしちゃってさ」
「う、うるさいわね!!私はあんたと違ってホームレスじゃないのよ!」
「あんたねぇ!!ニートの分際で!!」
 2人の視線に火花が散る。それと同時に互いの妖気がたちあがり、古びた小屋がぐらつく。2人はそれを察して、気持ちを押さえつける。
「暫くは休戦ね」
「……しょうがないな」

 雨はただただ降り続ける。
 とめどなく……。

「いつまで降るつもりなのかしら…まったく、こんな場所で、こんな奴と…」
 輝夜は悪態をつき、そのジメジメとした湿気漂う場所に嫌気を感じながら腕を組む。妹紅は別になれたもので、そのようなことは感じていないようだ。
「イライラしてるから、頭にくるんじゃないのか?」
 頭に腕を回して、鼻歌でも歌いそうな妹紅の余裕の表情に、輝夜はふと顔をそむけて我慢する。妹紅は少し落ち着いた輝夜を見る。その横顔は、どこか哀しげな表情をしている。いつもそうだ。輝夜は常に悲しそうな顔をしている…妹紅にはそう感じるのだ。
「なによ?人の顔なんか見て気持ち悪いわね」
「…なにが、そんなに悲しいのかなとおもって」
「はあ?何よ、急に…」
 輝夜は突然の妹紅の言葉に再び顔を背ける。妹紅はそんな輝夜を見ながら、不思議そうな顔を浮かべていた。あれだけの従者に囲まれてなにが悲しいのか…自分はあんまり友人もいないというのに……。

「…たまに考えちゃうの。これから先…私は変わらないのに、周りは変化していく。私の従者、優曇華院、てゐなんかも…魔法使いに神社の巫女も……なんだか自分だけ置いてきぼりになっていくのが……ね」

 不老不死…それは他のものと生きる時間が違う。
 かつて妹紅自身が経験したこと、自分の愛したものは自分を置いて先に行ってしまう。皆、自分と同じ時間は生きられない。皆、自分を置いていってしまう。そして私は1人になった。

 雨の音だけが小屋の中を包み込む。

「そんなことを考えたくないから、今の瞬間だけを意識する。過去も未来も、あるのは辛いことだけ……だから…ね」
 輝夜は丸まって、体育すわりをしてつぶやく。その瞳は澄みきっていて…今まで見てきたものを思い出しているようだった。辛い過去、そして辛い未来。あるのは悲しみだけ…考えただけで辛くなる。だから何も見ない。見たくない…今だけ、そこにあるものだけを。ずっと意識して。
「……私にもあった」
 顔を上げて妹紅を見る輝夜。
 妹紅は輝夜を見ずして、つぶやく。
「だから、家を棄てた」
 誰も自分のことを知らなければ、誰も自分に感情を抱かねば…傷つくことは無い。一人でいれば……。

 どちらが幸せなのだろうか?
 1人でいること、仲間と一緒にいる瞬間を大切にする事。
 
妹紅には答えが出ている。だからこそ、今はたくさんのものたちと一緒にいる。それは友人と呼べるものかは分からないが。いや、きっとそうなのだろう。友人とは言葉ではない。感じることだ。

 …だとしたら、この目の前にいるものもそうなのだろうか?己の運命を狂わせた女。己の大切な人を狂わせたもの…。かつては憎悪を持っていたのは間違いないだろう。今はどうか?今は……。


 不思議なものだ。不老不死でありながら、感情というものは永遠と続かない。ならば自分は何のために生きているのか。考えるだけで気が遠くなる…他にも永遠と同じほど生きるものに問いかけてみたい。

「くだらないこと考えてるのね?面白いからに決まってるじゃない」
「私はもう死んでますから……」
「お姉さまに家に監禁されてたからな~」

 どいつもこいつも…想像だがあたっているだろう。ここにまともな奴はいないのか…。

 気がつくと、雨はやんでいた…オレンジ色の夕日があたりを染めている。

「やんだみたい。それじゃーさっきのつづ…き…」
 妹紅がみると、そこには静かな寝息をたてて眠る輝夜の姿があった体育座りをして丸まって…。こうしてみると、とてもいつもの生意気な奴には見えない。それは誰でもそうか。きっと死に疲れたのだろう。このまま放っておくわけにも行かないか。
「…ったく、世話かけやがって」
 竹林の道を背中に輝夜をのせたまま歩く。夕日の日差しが竹林の隙間から漏れて二人を照らす。こうやってこいつと歩くことなんか…最初は思いもしなかったけど…。
 これから先、同じようなことがあるかもしれない。私は1人じゃない。同じ不老不死であるこいつと供に生きていく。どんなときだって…喧嘩をしながら、弾幕をぶつけ合い、そして…こうして一緒に帰って……。

 すべてのものに置いていかれる、お前はそういったな。

「…私は、お前と一緒にいるから…」

 気のせいだろうか、背中にいる輝夜の手が私の肩を握った感じがした。



「…またですか?」
 永琳は大きく息をついて、既にもぬけの殻の輝夜の部屋を眺める。
「姫もまだまだ子供なんですから」
 その永琳の表情はどこか清清しい。


 今日も幻想郷のどこかで2人の殺し合いと言う名の、遊びがはじまる。
この2人のカップリングはありです。
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コメント



0.620簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
ありですね
~~の中以外が原作とまんま一緒なのはどうなのだろうと思いつつも、楽しめた。
10.無評価名前が無い程度の能力削除
>私の従者、優曇華院、てゐなんかも
永琳も輝夜と同じく不老不死なんですが……
18.90名前が無い程度の能力削除
殺し愛。