Coolier - 新生・東方創想話

紅魔永夜運命譚.8 終焉

2008/06/27 23:47:29
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様々な二次創作ネタの影響を受けて創作されています
原作のイメージを壊したくない人はご注意ください

この小説は続き物となっております
できれば第1章からご覧ください






8章 終焉

「・・・・・・・・・」
 黙って慧音が立ち上がる。モニタの向こうでは、未だ紅魔館が炎に包まれている。霊夢は怪訝な表情で慧音を見た
「どうしたのよ急に? 何か気になることでもあったの?」
 その問いに、慧音は首を振る。気になることがあるわけではない、むしろそれよりも
「気になることがなくなった――と言った方が正確か。どうやら、この戦いの終わりも見えてきたようだ」
「あらら、半獣さんは忙しないのね。とは言っても、妖夢も負けてしまったみたいだし、私もそろそろお暇しようかしら~」
 そう言うと幽々子も立ち上がる。慧音が半獣呼ばわりは止めてくれと嘆いたが、それは叶わぬ望みだろう。そんな二人の様子に、霊夢はますます怪訝な表情を浮かべる
「何よ、最後まで見ていかないって言うの?」
「生憎、ここから先の展開を見届ける趣味は私には無いよ。どうも、永琳の掌で踊っていた感があって癪だしな」
「妖夢が帰ってくる前に帰っておかなくちゃ、何を言われたかたまったものじゃないわ~。あとでゆっくり紅い悪魔さんのお話でも聞こうかしら」
 本当に二人はその場から立ち去ろうとしてるようだった。それを紫は微笑みながら見ている
「あら、これからが面白いのに? 一番の泣かせどころじゃないの」
 だからこそだよ、と慧音は笑って答えた。そのまま何の挨拶もなしに、彼女は人里の方へと丘を下っていく。本当に忙しないわね、と霊夢はため息をついた
「こういう時は最後まで見届けるのが筋ってもんでしょうに・・・」
「貴女はまだこれから先が分かっていないからでしょ? 解説役は霊夢と紫に任せたわ~」
 ふわり。まったくの重さを感じさせない動きで、幽々子はゆっくりと上昇を開始する。蝶のようなその姿は、亡霊姫と呼ぶに相応しいだろう
「・・・なんだか面白くないわね。ついでにこいつも連れて行ってくれたら良かったのに」
 霊夢は幽々子の姿を見やりながら射命丸を指さす。当の本人は未だに伸びきったままである
「私はモニタを出した手前、あなたをおいては帰れないのよね。帰るつもりなんかないけれど」
「なら最後まで付き合いなさいよね。せっかくだから最後まで見届けさせてもらうわ」
「あなたっていい性格してるわね」
 紫の言葉を無視して、霊夢は元の位置に座る。月は、真上。傾けば傾くほどに、近づいてくる気がした


「・・・痛みもない! これなら動ける!」
 魔理沙は思わず飛び跳ねた。さっきまで体を襲っていた苦痛が嘘のように無くなっていた。これなら、今すぐにでも飛び立つことができそうだ
「メディスンの能力は毒になるだけじゃない。薬にもなるのよ」
 薬は攻撃にも使える。ならば毒は回復にも使えると言うことか。魔理沙はいつぞやの永琳の言葉を思い出す
 魔理沙の突然の叫びに、周囲に居た兎兵が何事かと魔理沙を見る。彼女たちの体はすでにぼろぼろであった。これ以上長くは戦えない。魔理沙はそのことを十分知っていた
「よし・・・これでいけるぜ! 待ってろ、今すぐにあの炎の壁を無くしてやる・・・」
 言うが早いか、魔理沙はその場から飛び立とうとする。しかし、それをメディスンが制した
「ちょっと白黒! それはまずいよ・・・!」
「あ? まずいって何がだ?」
 自分を痛みから解放した当の本人からそんな事を言われては、流石の魔理沙も無視できない。とはいえ、いったい何の問題があるのだろうか
「今の白黒は、神経毒で痛覚を麻痺させてるから動けるの。つまり、体は今も悲鳴をあげてるままなのよ。そんな状態で無理やり動こうとすれば・・・どうなるかぐらいわかるでしょ?」
 伊達に永琳と交流があったわけではないらしい。こちらの体を慮っているようだ。しかし、魔理沙はにやりと笑ってみせた
「百も承知。それじゃ足りなけりゃ、千でも万でもいくらでも承知してやるぜ?」
 もちろん、魔理沙にもわかっていた。そんな言葉で済ませられるほどに、甘い問題ではないことを。もしかしたら、もしかしたら最悪の考えも抱いていなければならないことを
 それでも、霧雨魔理沙は笑う
「もし明日私が朽ち果てるとしても、今日のこの瞬間を輝けるならそれで十分だろう? どうせいつ果てるかなんて誰にもわからないんだ。だったら関係のないことさ」
「・・・相変わらずね、白黒。なら私も止めないわよ・・・っていうか、止まりそうにないし」
「よくわかってらっしゃるじゃないか。止まれと言われて止まってたら、霧雨魔理沙失格だ」
 てゐは呆れたような顔で二人のやり取りを見ていた。だから先に覚悟を確認しておいたと言うのに、そのことに気づいてないのだろうか? 何はともあれ、これで突破口が開けた。てゐは兎兵たちへ最後の命令を下す
「まだ戦える気力のある者はどれくらいいるかしら? もしいるなら、聞きなさい。これから魔理沙が紅魔館へ突入して、あの炎の壁を破るわ。私たちはそれを確認したら、一斉に突入。魔理沙が妹様を奪還するまで徹底的に敵の邪魔をするのよ」
 てゐの言葉に、兎兵たちは再び魔理沙を見た。大丈夫なのだろうか? 先ほどあれだけ無茶をしたと言うのに、無事に全てを終えるだけの力が彼女に残っているのか・・・
「何だお前らその顔は? 私が誰だかわかっちゃいないようだな? 心配しなくても、お前らのために突破口を開いてやるさ」
 その表情は、少しも曇っていない。そうだ、これほどまで信頼に値する味方がどこに居ると言うのだ? もしもこれが敵であったなら、脅威にしかなり得ないが、味方であるならこれほど頼もしい存在は居ない筈だ
「よし・・・やれるぞ」
「まだまだいける・・・戦える!」
 兎兵たちから次々に声が上がる。彼女たちの顔もまた、少しも曇っていなかった。てゐは何度目かのため息をつく。全く・・・どいつもこいつも、困ったもんだわ
「やる気はある様ね・・・なら戦いなさい! 私達の勝利の為に!」
 てゐの一言に、兎兵たちは一斉に叫ぶ。言葉も、タイミングもバラバラに。だと言うのに、どこまでも力強く。最後の最後まで、戦いぬく意志がそこにあった
「魔理沙、頼んだわよ」
「任せろ。お前たちの意志を無駄にするほど、私は愚かじゃない」
 こんなにぼろぼろになっておきながら・・・大した奴らだ。魔理沙は兎兵たちに感心を覚える。そんな姿を見せられちゃ、私だけ休んでるわけにはいかないからな
「それじゃ、ちょっと引きこもりの魔女でもからかってくるとするか」
 いかにも軽いノリで、彼女は言う。それを咎める者は誰もいない。彼女ならそれを実現すると、誰もが信じているからである。彼女なら、必ず
「御武運を」
 誰ともなしに、声が上がる。そしてそれは瞬く間に全体へと広がっていく
「御武運を!」
 魔理沙は気恥ずかしくなって笑う。全く、時代錯誤もいいところだ。だけど、これ以上のない送り出しじゃあないか?
 ああ、わかったよ。お前らの思いに応えてやる!
「・・・行くぜ!」
 少女は最後の飛翔を開始した

「・・・行ったわね」
 てゐはぼそりと呟く。メディスンが不安げな顔を浮かべているのを見て、笑った
「あいつに心配なんかするだけ無駄よ。あいつはどんなに重い物を背負わされようと、そんなのまるで感じさせないように飛んで見せるんだから」
 彼女ほど、自分に素直に生きている人間も珍しいだろう。だから彼女には、重さがないのだ。何物にも縛られはしない少女。それが霧雨魔理沙なのだから
「・・・だから私たちに出来ることは、あいつを信じて進軍の支度を進めることよ」
 てゐはメディスンの頭に手を乗せると兎兵に指示を告げる
「全員準備を整えなさい! 相手が出てくるよりも先に突入できなければ、こちらは展開することが難しくなるわ! タイミングが勝負よ!」
 そう言って、てゐはメディスンから離れていった
 メディスンは思わず空を見上げる。そこに映るのは、一筋の彗星
「・・・信じる、か」
 人間を信じるなど、何を言っているのだろう。私たちは妖怪で、人間はその食料に過ぎない。どこの馬鹿が、食料の言動を鵜呑みにすると言うのだ?
 ましてや、私は人間に捨てられた。人間の勝手な都合で作られ、人間の勝手な都合で捨てられたのだ。人間がどれほど救えない存在かと言う事を、私はよく知っている
「・・・白黒」
 だと言うのに、この感情は何なのだろうか。彼女を信じてもいいと思っている自分は、何なのだろうか。自分は妖怪にすらなりきれていないのだろうか
「・・・・・・・・・」
 答えが出ないまま、再び空を見上げた
 星屑が、自分を見下ろしている気がした


「・・・くぅ」
 片膝が折れそうになるのを、慌てて堪える。流石に紅魔館の周辺からは遠ざかってくれたらしい。もっとも、遠ざかっていないならいないで、好都合でもあるのだが
 スペルの二重解放など、試してみるものだ。なるほど、意識を保つのが大変ではあるが、不可能なことではないらしい。果たしてこれは原案に沿っている行為なのだろうか? その辺りは巫女に確認するしかないか・・・
「パチュリー様!」
 小悪魔がこちらに近づいてくる。馬鹿な、いつでもメイド兵を動かせる位置に居ろと言ったのに
「小悪魔・・・何かしら?」
 或いは何かあったと言うのか。もしそうなら、確認をしなければ
「敵軍に不穏な動きがあります。突撃の準備を整えているようで・・・」
 しかし、その確認はあまりにも遅すぎた
「な・・・! ・・・!」
 紅魔館の外から、悲鳴のような叫びがあがる。扉に阻まれてくぐもった声。しかし、その声が紡いだ言葉は、間違えようとも間違いようのない名
「馬鹿な・・・彼女が何故」
 彼女が動けない状態であることは、確かに確認している。もしも彼女が動けるのであれば、炎の壁などまったくの無意味だからである。だから、だからそんなはずは――
「・・・小悪魔、メイド兵の下に戻りなさい」
「パチュリー様・・・! しかし、今確かに・・・」
「言われなくても、聞こえたわよ・・・。だからって、貴女がかなう相手ではないわ・・・」
 ずきり、と頭が痛む。これほど長い間スペルを解放していたのだ、当然だろう。だからと言って、このスペルを中断するわけにはいかない。そうすれば、突撃の準備を済ませた敵軍がなだれ込んでくる
「迎撃の準備をしておきなさい。小生意気な魔法使いは・・・」
 扉が、開く。いとも容易く。扉は開くためにあるのだと、私たちに告げるかのように
「――久しぶりだな、パチュリー」
「――私が相手をするわ」
 扉の奥から、恋色の魔法使いが現れる。威風堂々、正面切っての登場とは、以下にも彼女らしい
 霧雨魔理沙が、やってきた
 私は軽く息を吐く。小悪魔は私の指示通りにメイド兵の方へと走って行った。つまり、ここに居るのは私と彼女だけと言うことだ。妖怪と人間の、魔法使いだけ
 なら、簡単な話。私の魔法で相手を下せばいいだけのこと。いつもと同じやり方で戦えばいいだけのこと――
 さぁ、私の戦いを始めよう

「――久しぶりだな、パチュリー」
 魔女はこちらを睨んでいた。顔に明らかな陰りが見える。スペルの二重解放とやらは、彼女にそんな表情を浮かべさせるのか
「どうした、顔色が悪いじゃないか?」
「あなたこそ、ぎっくり腰か何かで倒れていたと聞いたけど?」
 減らず口の減らない奴だ・・・。あ、減らないから減らず口っていうのか?
「それで、何の用かしら? 見ての通り、こちらは取り込み中なのだけれど?」
「いやなぁに、気がつけば紅魔館が炎に包まれてるじゃないか? もし紅魔館に何か貴重なものがあったら勿体ない。私が回収しておこうと思ったんだが・・・」
「それはただの火事場泥棒よ」
 律儀な突っ込みが入る。なるほど、楽勝というわけには――いかなそうだ
「どうやら、元凶はお前にありそうな感じがしたもんでな。ちょっと懲らしめに来た」
「よそ様の家を気遣ってくれるとは、随分とありがたいのね。だけど残念ね。懲らしめるっていうのは、貴女が私を倒さなければ成り立たないわよ?」
 にやり、と魔女が笑う。魔理沙はその表情に思わず喉を鳴らす
「減らず口を――もうちょっと単刀直入に言ってやろうか?」
「世迷言を――もうちょっと気の利いた言い回しは出来ないのかしら?」
 売り言葉に買い言葉だな。それに、いつまでも会話をしているわけにもいかない。紅魔館の外ではあいつらが待っている
「なら――言葉じゃなくて行動で示してもいいか?」
「あら――初めからそうするつもりだったんじゃ?」
 それ以上の言葉は必要なかった。魔理沙は箒に飛び乗ると、パチュリーへと突っ込む
 魔法使いに時間を与えたらまずい。時間をかけずに、本体を直接叩く!
 もちろん、その間に相手がスペルを解放してしまえば、一巻の終わりである。しかし、今のパチュリー相手にその心配は要らない。何故なら、彼女は既にスペルを2つ解放している最中である
「もらった――!」
 だが――
「火符・アグニシャイン上級」
 あと少し、と言うところで、灼熱の弾幕が魔理沙を阻む
「な・・・うぉっ!?」
 慌てて箒から飛び降りると、情けなく転がりながら弾幕を回避する
「・・・外したか」
 パチュリーが忌々しそうにそう呟く。確かに、今のをまともに被弾していたら危なかっただろう。そんなパチュリーを、魔理沙が信じられないと言った様子で見る
「まさか・・・なんでスペルを・・・」
 もしや、と思い魔理沙は扉を振り返る。開きっ放しになっている扉の奥には、確かに炎の壁が存在していた。違う、スペルを中断したわけではない。だとすれば、残された答えは――
「――三重に、解放したって言うのか?」
 馬鹿げてる。しかし、目の前の魔女は歪に笑ってみせた
「二つまで可能だったと言うのなら、どうして三つが可能じゃいけないのかしら? 可能性を放棄すれば、魔法なんてその程度で終わると言うのに」
「・・・狂ってるぜ」
 虚構じゃない。目の前の相手からはそれが事実であると伝わってくる。しかし、そんな事が現実に有り得るなんて・・・
 一旦距離をおいて遠距離から攻めた方がいいか? と魔理沙が思い至ったその時だった
 パチュリー・ノーレッジの膝が、崩れ落ちたのは

 あ――
 世界がゆっくりと暗転していく。それをどこか冷めた感じで見ている私が居た
 流石に、三重解放なんて無茶だったらしい。意識を一気に持っていかれたか
 だが、こうでもしなければ先ほどの一撃だけで勝負は決していただろう。箒で突っ込まれ、私にはそれを回避する手段もない
「やっぱり、無理だったか・・・」
 密室に閉じこもっていた私とは、違う。私は目の前に立つ少女を見た
 彼女はきっと、どこに居ようと彼女なんだろう。私は、この館から出たら私ではなくなってしまう
 否、誰もがきっと私に近い思いを持っているだろう。だからこそ、彼女に誰もが惹かれるのだ
 殻に籠り、それを破ることのできなかった私の敵う相手じゃなかった。そもそも彼女には、殻なんて存在していなかったに違いない
 あぁ、負けか――
 眼を閉じる。もう戦うことなんて止めてしまおう。そうすればきっと、楽になる
 だけど――楽になるけれど――
『貴女の覚悟を、貰うわ』

「・・・っ!」
 眼を開く。膝に力を込める。まだだ、まだ倒れてはいけない。私はまだ、死力を尽くしてなんかいない
「そうね・・・最後の最後くらい、格好良いところを見せましょう」
「・・・パチュリー?」
 いつの間にか、目の前の少女は不思議そうな顔を浮かべていた。崩れ落ちそうになったのを見られていたのだろうか。当然、その理由はわかりはしないだろう。私だって、何で立ち上がろうとしたのかわからない
「・・・まどろっこしいわ」
 倒れていれば楽になっただろうに。立ち上がったところで、勝ち眼なんかないだろうに
 だと言うのに、だと言うのに――
「これで最後よ。出し惜しみなしの一発勝負にしましょう」
 まだ、諦められない
「・・・お前がそんな事を言うなんてな。一体何のつもりだ」
「さぁ・・・私にもわからないわ。でも――」
 覚悟は既に、貰ってしまったのだ
 投げ出すわけには、いかない
「しかし、その勝負乗ったぜ。一か八かの一発勝負にかけるとは、なかなかどうして素敵じゃないか」
「あんたを相手にこんな馬鹿げた提案するなんて、思いもしなかったけれどね」
 スペルは、使えない。相手は、霧雨魔理沙。勝負の内容は、一発勝負
 勝ち目なんて、一か八かどころの話じゃない
「覚悟は、出来てるんだろうな? 手加減をしてやるほど、私はお人好しじゃないぜ?」
「それだけ自信満々で居てもらえると、負かした時の楽しみが増えるわ」
 言ってくれるな、と彼女は笑って
 減らず口だもの、と私は笑わなかった
「それじゃ、そろそろ終わらせるか」
「・・・普通そう言うときは始めるかって言うのよ」
「そいつは知らなかったな」
「また一つ利口になれてよかったわね」
 言葉を交わしながら、魔力を込めていく。大丈夫、単純な魔力なら、こちらだって負けていない筈
 紅魔館のロビーが異様な雰囲気に包まれる。禁忌を冒す時のような、異様な空気が広がっていく
「言い残したことはないか?」
「この前貸した魔道書、返してもらえないかしら」
「こんな時にお約束かよ・・・」
「なら借りるのを止めなさい」
「そいつはご免だな」
「お約束過ぎて、泣けてくるわ・・・」
 視線が一瞬、交錯する
 それが、合図だった
「「ノンディレクショナル・レーザー!」」
 二人の宣言が交差して、ロビーは閃光に包まれた。両者の放った閃光が、重なり合ってお互いを圧していく。しかし、その勢いの差は歴然だった
「――無理、か」
 パチュリーはゆっくりと瞳を閉じる。もう、ほんの少したりとも力が湧いてこない。魔力ではない、あらゆる力が体中から無くなっているのだ
 彼女の放つ閃光は徐々に相手の閃光に圧されていく。それを押し返すだけの力が、彼女には無い。その体がずるずると後方へ追いやられていく
「――負けか」
 もう駄目だ。このまま勝負を続けていたところで、結果は目に見えている。例え魔力で勝ろうとも、それを放つだけの力が残っていなければ意味はない。せめて、支えるだけの力があれば――
「負けですかねぇー」
 唐突に、背後から声がかけられる。そして、そのまま自分の体が後ろから支えられたのを感じる。そんなバカな、紅魔館にはもう妹様と私しか残っていない筈だ。一体誰が――
「――まさか、美鈴?!」
「申し訳ありませんパチュリー様。敵の侵入を許してしまうとは」
 私は後ろを振り返る。そこには虚ろな眼をしながら、必死に私を支える美鈴の姿があった。彼女に支えられることで、私の放つ閃光が少し勢いを取り戻す
「貴女、そんな体で・・・」
「いやぁそれが・・・体中は痛いし、頭はがんがんするし、とてもじゃないけど動かない方がいいなぁって言うのはわかってるんですよ」
 いつもと変わらない調子で、彼女は言う。目の前に絶望的な状況が構えていると言うのに、彼女は笑ってみせる
「でもなんか、誰かが覚悟を決めているような気がしたんで――なら、休んでいるわけにもいかないでしょう?」
「――――」
 全く、言葉も出ない。その代わりに、私は自然と微笑んでいた。なんて彼女らしい――
「じゃ、一緒にレミィに叱られる覚悟はあるのかしら?」
「それはちょっと・・・」
 思わず私たちは笑い合う。仕方がない、レミィには私が怒られるとしよう
「じゃ、終わらせるわよ」
「けじめってやつですか、難儀ですねぇー」
 難儀なのは、お互い様。誰かが始めたならば、誰かが終わらせなければならない
 届かないことなど、百も承知
 勝ち目がないことなど、千も承知
 それでも、この一撃に己の全てを――
「――――っ!」
「くぁ――っ!」

「・・・勝負あり、だぜ」
 魔理沙はゆっくりと呟くと、魔力の放出を抑える。最後に粘られた時は、正直危なかった。一体あの体のどこにそんな力が残っていたと言うのか・・・
「ん? あぁ、なるほどな・・・」
 魔理沙はゆっくりと倒れていく影を見て納得する。倒れた影は1つじゃなかった。なるほど、彼女にも支える者がいたと言うことか、しかし――
「生憎、私にも支えてくれる者があるんでな。負けるわけにはいかない」
 何にせよ、これで勝負はついた。直に味方が紅魔館へと向かってくるだろう
「さて――最後の仕事を済ませよう」
 魔理沙は箒を掴むとそれに跨る。毒の効果があるうちに済ませなければ、すぐにでも動けなくなる。彼女には時間がなかった
「待ってろよ、お姫様」
 紅魔館内へと彼女は向かう。まだ決まったわけではない。彼女は勝利を運ばなければならない。彼女を信じる者たちの為に


「炎の壁が消えました!」
「全員突撃! 相手に防御の暇なんか与えないわよ!」
 やってくれたか、てゐは心の底から魔理沙へ感謝していた。人の子に感謝するなんて、いつ以来かもわからない。しかし、彼女はそれだけのことをしてくれたのだ
「てゐちゃん、私も行くよ?」
「だからちゃんづけは止めなさい・・・。良いわよ、あんたの能力を敵に思い知らせてくるがいいわ」
「了解~!」
 メディスンも突撃する兎兵の中に加わっていく。彼女の能力が敵軍に及べば、それこそ怖いものなどない。てゐはようやく勝利を確信していた
「敵軍からの応戦を確認!」
「一気に押しつぶしなさい!」
 紅魔館の内部から次々にメイド兵たちが繰り出してくる。魔女が倒れた今、彼女たちを指揮しているのはおそらくあの小悪魔だろう。私も彼女も、こんな重荷を背負うようなキャラじゃないと言うのに
「毒符・神経の毒」
 メディスンのスペル解放と共に、敵軍からの抵抗が沈黙する。彼女の能力を押しとどめる者は、もはや存在しない
「抵抗しない者に危害は加えないようにしなさい。私達の目的は虐殺なんかじゃないわ」
 そう、この場を制圧出来ればいいのだ。そうすれば、後は魔理沙の帰還を待つだけである。本来なら、私たちまで戦う理由はない。とはいえ、そんなことを言えるなら苦労はしないのだが
「ともかく、後は魔理沙が来るまで耐えるだけ・・・」
 てゐは小さく呟くと、出来る限り現状を把握しておこうと行動を開始した


 誰かが来る気がしていた。誰かが、この檻の中へ侵入ってくる気がしていた。せいぜい来ても、物好きなメイドか、私の様子を見にくるメイド長くらいのものだろうと思っていた
 だから、少しだけ驚いた。そのどちらとも違った存在が訪れたことに。そして、その存在を覚えていた自分に、驚いた
「キリサメ・・・マリサ?」
「名前を覚えていたのは褒めてやりたいが、次からはもっと柔らかい発音でお願いするぜ」
 彼女は普通にドアを開けて、普通にドアの向こうから、普通に歩いて入ってきた。何かから逃げてきたとか、物色していたら偶然と言うわけではないようだ
「・・・何をしに来たの? また弾幕ごっこでもしてほしい訳?」
「コインを持ってきてないから、それはまた今度だな。なぁに、今回の用件はもっと簡単だ」
 用件。と言うことは、私に用があってきたと言うのだろうか? そんな酔狂な存在、私は知らない
「・・・・・・・・・」
 だから自然と、私は黙ってしまう。彼女が何を言いたいのか、わからないから。わからないから黙って、黙るから分からなくて、その繰り返し
 だけど、霧雨魔理沙は黙らなかった
「今日は、お前を外に連れ出しにきた」
「・・・・・・・・・」
 分かっても、黙るしかないような発言だった
「・・・正気?」
 なんとか私は今の気持ちを口にする。自分の言っていることが分かっているのだろうか?
「あぁ、真面目な話だ。お前を紅魔館の外に出してやる。出たいと思ったことぐらい、あるんだろう?」
 外に出たくないと言えば、嘘になる。出たいと思ったことなど、いくらでもある
 だけど、だけどそれは――
「そんなの、お姉さまが許さない・・・」
「レミリアなら、今はいない」
「咲夜やパチュリーの雨が・・・」
「咲夜もパチュリーも、お前を止めるような奴はここには居ない」
 信じられない。そんな状況に紅魔館がなる筈はない。あるとすれば、目の前にいるような存在か何かをしでかした時だけだ
「・・・冗談じゃない。私が紅魔館から出ていい訳ないでしょう?」
「ったく・・・いい加減にしろよ!」
「・・・・・・っ!?」
 突然怒った様な声を張り上げる彼女に、私は思わず目を見張る。間違いではない、彼女は何かに怒っていた
「お前の姉も、亡霊たちも、永遠亭の連中も、みんな幻想郷で生きている。それなりの代償を負う覚悟をして、それでも今は現実として幻想郷に生きているんだ」
 彼女は一瞬だけ、悲しむようなそぶりを見せる。それは彼女が外の世界のことを思ったからだと、私は気付けなかった
「お前だけなんだ。お前だけが、幻想郷から逃げている。お前だけが現実から逃げているんだよ」
「・・・どうでもいいわ。言いたいことがあるなら、遊んでから聞いてあげる」
 彼女はきっと、本気で言っているのだ。私も幻想郷に存在していいのだと。私も幻想郷と向き合うべきなのだと
 だけど、私がそれを認めるわけには――
「悪いが、そんな暇はないな」
「ぇ――?」
 一瞬。ほんの一瞬目を離したすきに、彼女は目の前に迫っていた。まさか、こんな至近距離で何を――
「うわわわわわっ!?」
 あっけにとられる私の手掴むと、彼女はそのまま飛行を開始した。まさか、このまま外へ連れ出すと言うのか。相手の言い分は全くの無視・・・そう言えばそんな性格だったかもしれない
「ちょ・・・っ」
「お前が動かないなら、私が動かしてやる」
 扉を強引に突き破ると、その勢いのまま紅魔館の中を駆け巡る。そんな荒技を披露しながら、彼女は尚も私に言う
「それでも諦めるって言うんなら、私を倒せばいい。お前には難しくない話だろう?」
「・・・・・・・・・」
 彼女の言う通り、私が彼女を倒すことは容易い。彼女の中心をこの手の中に持ってきて、きゅっとすればどかーんだ。それはいとも簡単で、あっけない
「・・・あはっ」
 だから、私は掌にそれを集めて――
「あはははははっ!」
 きゅっとして――
「え、まさか本気で? ちょっと待てお前・・・!」
 私が能力を発動したことに気づいたのか、彼女は慌てたように言葉を繕う。それでも、飛行を止めることはしない
 だから私も、それを止めない
「・・・どかーん」
 言葉と共に、拳を握りしめる。その瞬間に、対象が消滅したことを確信する。これが忌まわしい力。ありとあらゆるものを破壊する程度の能力
「・・・おい、お前何をした?」
 自分がまだ健在であることにむしろ疑問があるのか、安堵した様子もなく霧雨魔理沙は私に問う
「別に・・・随分と苦しそうにしてるもんだから、その苦しみを壊してあげただけよ」
「・・・お、おぉ? そう言われてみれば、体がかなり軽い・・・」
 それを実感したのか、魔理沙は私を掴んでいない方の腕をぶんぶんと振り回す
「ふむ、意外に便利なもんだなぁー・・・。しかし、一体どんな風の吹きまわしだ?」
「・・・外に連れてってくれるんでしょう?」
 魔理沙はそう言って私を連れ出した。その言葉が本気であることは間違いない。だから、私も嘘をつくのをやめにしただけだ
「そのせめてものお礼よ。飛んでる最中に落ちたりしたら危ないしね」
「・・・ははっ。なんだ、素直じゃないな?」
 だけど確かに、承ったぜ。魔理沙はそう言うと、私を引っ張り上げて箒の後ろに座らせた。彼女は私を連れ出してくれる。ずっとずっと閉じ込められていた、閉じこもっていた硬い殻の外へと
 だけど、だけどやっぱり――
「ねぇ、魔理沙・・・」
「あ? なんだよ急にしおらしい声出したりして?」
 やっぱり私は――
「外に出て、いいのかな・・・」
「良いに決まってる」
 私の質問に、魔理沙は間髪入れずに答えて見せた。私は、外に出てもいい。それは私の気持ちではないけれど、今はその言葉を信じてみよう
「おしゃべりはここまでだな。一気に紅魔館から抜け出すぜ!」
「・・・うんっ」
 私の運命は壊れていて、私の翼は壊れていて、私は完膚なきまでにコワれていたけれど
 誰かの運命に掴まれば、誰かの翼に掴まれば、その誰かを、コワしたりしなければ――

 動くことが、出来たんだ


 遂に、紅魔館から悪魔の妹が解き放たれた
 495年と、少しの間の呪縛
 それが解けたことは、同時に紅魔館の敗北を決定づけるものであった

 しかし、物語はまだ終わらない
 終焉を迎えたくらいでは、終わらない
 誰かが負けて、それで終わりではない
 幻想郷はそんな終わりを望んでいないから
 幻想郷が迎えるのは、いつだって大円団

To be continued?
紅魔館の敗北
 勝負自体はこの章で終わってます
 元々、この話自体ここまでひっぱるつもりはありませんでした
 ただ、締めくくりがいつまでたっても書けなかったんです
 どう終わらせようか どう格好つけようか、と
 そして、思いついたのが苦肉の策
 戦いが終わったからと言って、終わらせなければいいんだ、と
 急遽、この戦いの根本を揺るがす発想が浮かびました
 主役を無理矢理作り出して、それを最後に書こうと
 そして、信じられない終りになる

紅魔の魔女、倒れる
 粘ったね、パッチェさん・・・
 倒すのに苦労したよ・・・いや、マジで
 収集がつかないくらい頑張ったせいで、微妙な倒れ方に・・・
 苦労したなぁ、ここ・・・
 美鈴が再登場したりとか 何やってんだか・・・

最後の仕上げ
 紅魔軍をてってゐ的に叩き潰すシーン
 メディスンの能力が最後の最後にストライク
 この辺から、予定と最後を変えてます
 つまり、フランを外に出した後を書くことが確定している
 よくやったメディスン 褒めてつかわす

外へ
 ICOみたいだよね
 フランの葛藤をこれでもかと書きました
 出たいけど 出てはいけない 行きたいけど 行ってはいけない
 そんなフラン 可哀想な感じと、微妙な苛立ちを混ぜた感じで
 こういうとき魔理沙って便利だよなぁ・・・

そして伝説へ
 フランを連れ出して、それで話は終わる筈でした
『紅魔館と永遠亭の戦いに、終止符が打たれたのだった』みたいな感じで
 だけどね、思いついちゃったわけだ
 なんでこんな馬鹿な争いしたのかと なんでここまで引っ張ったのかと
 この小説において、最初から最後まで独り勝ちを収めた存在
 この小説において、唯一そうと呼べる主役の名前、それは
DawN
http://plaza.rakuten.co.jp/DawnofeasterN/
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コメント



0.240簡易評価
7.無評価名前が無い程度の能力削除
もしかして:大団円
8.無評価名前が無い程度の能力削除
誤字を
>魔理沙が妹様を奪還
奪還だと元々持っていたものを自分の下に奪い返すということになってしまうので
ここでは強奪、誘拐、拉致などの言葉が適切かと