Coolier - 新生・東方創想話

紅魔永夜運命譚.1 こんなに月も紅いから

2008/06/27 22:47:11
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様々な二次創作ネタの影響を受けて創作されています
原作のイメージを壊したくない人はご注意ください






1章 こんなに月も紅いから

 どこか赤みを帯びた月明かりが、冷たい夜の空気となって降り注ぐ。赤い月はそれを見上げる人々に恐怖を与えた。無理もない。そこに住む人々にとって、夜というのはより恐ろしい対象である。夜に出歩けば、妖怪に襲われる。喰われたくなければ夜には出かけるな。それがここ――幻想郷で生きる基本である
 その赤い月夜で尚、周囲よりも赤く、より紅いシルエットを浮かべる建物があった。その建物は一応洋館を装ってはいるが、窓が極端に少なく、更にどこか幼さを印象付ける外観をしていた

 紅魔館――悪魔の住む、館

 幻想郷のパワーバランスを担う、紅い悪魔の住む館である。そこに住むのは何も紅い悪魔だけではない。悪魔の狗然り、知識の魔女然り、華人小娘然り
 そして――悪魔の妹然り


「と言うわけで――私達のターゲットはあの悪魔の妹よ」
 その紅魔館から湖を隔てた対岸、紅魔館から最も離れた湖のほとり。本来ならば目視可能な距離にある筈の紅魔館だが、この湖には昼の間霧が立ち込めているため(それゆえこの湖は霧の湖と呼ばれる)、昼間は紅魔館を確認することはできない。夜は闇が辺りを覆い、やはり確認することはできない。この湖を渡った先に、紅魔館の門が構えている。
 つまり、紅魔館はここから幾ばくもない対岸に位置しており
「この湖を超えて門を破る。そして目標を奪取する。これが私たちの勝利条件」
 月の頭脳――八意永琳が兎兵たちへ言葉を発したこの場所こそが、紅魔館を攻め入る最高の場所であった
「全ては我らが姫のため。姫を月から守るため。皆、日頃の感謝を姫へと返す時よ。姫のために、身を砕く思いで戦い抜きなさい!」
 その発言に、永琳の周囲から怒号ともつかぬ雄叫びがあがる。その声を発するのは、普段は永遠亭に住んでいる名もなき妖怪兎たち。その数は実に――450! 永遠亭の厳しい台所事情の一因ではあるものの、その物量は正に圧巻の一言であった。
 その妖怪兎たちは皆が皆武装をし、妖怪よりも兎兵と呼んだほうがしっくりとくる姿をしている。そしてその兎兵たちの中には、月の狂気――鈴仙・優曇華院・イナバの姿も見える。永琳の隣には副官を務めているのか、兎兵たちへと指示を出す因幡てゐの姿もあった
 てゐは幻想郷に最も古くから住む妖怪兎らしく、これほどの兎兵たちの前でも堂々とした様子で矢継ぎ早に指示を飛ばしている。それに対して鈴仙はどこか落ち着かない面持ちで、周囲の兎兵たちと言葉を交わしていた。よく見れば、鈴仙の周囲だけ、他の兎兵たちとは異なる装備をしていた。基調としている色が、紅い
 なぜ彼女たちは此処にいるのか? そしてなぜ彼女たちは悪魔の妹――フランドールを狙っているのか?
 その答えは、今から数週間前まで遡る


 文々。新聞と言えば、それは幻想郷に住む妖怪たちにはそこそこ名の知られた新聞である。多少なりとも強力な妖怪ならば、1度はこの新聞を発行している烏天狗の取材を受けたことがあるはずである。それは妖怪のみならず、人やその他の人外も当てはまる。即ち、永遠亭の主である蓬莱山輝夜もまた、例外ではなかった
「では、こちらが今までに発行した新聞になります」
「また随分と多いものね・・・。まぁ、良い退屈しのぎぐらいにはなるかしら」
「退屈しのぎでも、弾幕しのぎでも、私の新聞が少しでもお役にたてれば光栄です」
 にこにことそう輝夜に告げるのは、文々。新聞の発行者である射命丸文であった。二人の傍に積まれている大量の古新聞は、これまでに彼女が発行した新聞で、今回の取材のお礼という事であったが
 まさか今までの新聞を全部残してあるなんてね。と輝夜は苦笑するしかなかった
「しかし古新聞がお礼だなんて、余所様を笑うことなんてできないとは言え、あまり儲かってはなさそうね」
 天狗が飛び去った後、私はそばにいた永琳にそう言ってみた。何の気もなし。特に反応も期待していなかっただけに、永琳の反応が意外と言えば意外だった
「いやいや、永い間隠れ身を続けていた我々にとってこれは、結構ありがたい情報源ですよ」
「あら、そんなもんかしら?」
 私には精々焼き芋の肥しが関の山だとしか思えないのだが・・・。確かに、私たちが隠れていた間の異変などに関しては、知らないことが多い。いつだったかの紅い霧や、終わらない冬などは、早く終わらないものかと原因も知らず頭を痛めたものだ。今でこそ、その元凶とは顔見知りの仲になってしまったが・・・
「なかなかに興味深い記事もありますよ。姫様の想い人の記事なんかもありますしね」
「想い人って・・・。あぁ、妹紅ね」
 確かにあいつまで天狗の取材に応じたとなれば、天狗の行動力は大したものだ。よほど強引な取材だったのだろうけど・・・。あれ? その時私も居た気がする・・・
「まぁ、いっか。永琳、後で面白そうな記事だけピックアップしておいて頂戴。流石にこれだけの量を保管するのは骨が折れるわ」
「分かりました、後でざっと目を通しておきます」
 これだけの古新聞で焼き芋をすれば、煙は月まで届くのかしら? そんなどうでも良い事を思いながら、私は自室へと戻ることにした
 この幻想郷に居る限り月からの使者を恐れる必要はない。博霊大結界によって、幻想郷とそれ以外とを隔離しているからだ。だから月に煙が届こうと届きまいと、今更どうだっていいことなのだ。そんな月に対する、千年以上を経た末の想いを抱いていると、真剣な顔をした永琳が部屋へ訪れた
 私にとある作戦を――月を破壊する手段を告げるために


 永遠亭の兎兵たちが進軍の準備を整えている、その対岸。永遠亭の動きを知ることは無く、紅魔館はいつもと同じ時を刻んでいた――
 のであれば、今宵はどれほど違った歴史であったのだろうか・・・
 そこに構えているのは、紅魔館が所有する、妖精メイド達。紅魔館に侵入する者があれば、たちどころにそれを殲滅せんとする、いわばメイド兵である。家事の役には全くと言っていいほど役に立たない彼女たちだが、事が戦闘となれば話は別である。今はその戦闘に向かうための装備を、それぞれが施していた。その数はおよそ、300
 そして誰もが、視線を紅魔館の門へと向けていた。そこに立つ、紅魔館の絶対にして唯一にして無二にして不動のメイド長へと
「――死守です」
 誰よりも完全にして、何よりも瀟洒なメイド長――十六夜咲夜はゆっくりとそう口を開いた
「相手は言わば月からの侵略者。この幻想郷に在ってはならない異端どもよ」
 当然、幻想郷に在りえてはいけない存在などないことを、咲夜は知っている。しかし、これから来る敵が侵略者であることは、疑いようのない事実。何故なら、今夜彼女たちが狙ってくるのは、紅魔館が抱える最大の禁忌、最終存在――フランドール・スカーレットそのものなのだから
 だから――許すわけにはいかない。慈悲もなく、許容もなく、彼女たちを滅ぼしてみせる。咲夜の瞳はどこまでも鋭く、門から正面の方向に位置しているであろう、永遠亭の面々を睨みつけていた
「そう、つまり相手は可哀想な兎に過ぎん」
 咲夜の背後。紅魔館の門からゆっくりと姿を現して、彼女は言う
「汚らしい害獣共が、私の許可無く紅魔館に這入ることが赦されはしないと言うことを――」
 紅い瞳をゆっくりと開き、彼女はメイド兵たちに言葉を、運命(さだめ)を与える
「死をもって、わからせてやれ」
 彼女の名はレミリア・スカーレット。運命を操る能力を持つ吸血鬼。紅魔館の主にして、紅い悪魔
「――仰せのままに」
 瀟洒な従者が瞳を閉じてその命に応じると、メイド達が一斉にこえをあげた
仰せのままにYes!Mam!!」
 Yes,Mam――レミリアを母の様に慕うメイド達の声は、紅魔館さえも震わせた。これには思わずレミリアも苦笑する
 ただ格好をつけてみただけだというのに、まさかこうも士気が上がるとはな。それもこれも全て、私の隣に立つメイド長の成せることだとレミリアは感じた。メイド達は咲夜を慕うからこそ、私を慕っているのだと
「咲夜、前もって言ってあるように、前線は全てお前に任せるわ。敵をどうするかも全て貴女の自由よ」
「畏まりました。必ずや敵を粉砕し、勝利をお嬢様へと捧げてみせます」
「全く・・・。まさか月を壊すのにフランを使うなんてね。軽々しく記事を書かせるのも考えものね」
「私もあの天狗を真の意味で抑えることはできない気がします・・・」
 メイド達の見ていない所で、二人は揃って苦笑する。それもこれも、今回の騒ぎはあの騒がしい天狗がもたらしたからである


 ことの発端は文々。新聞のとある記事。『第百二十季 弥生の四号』
 その号の文々。新聞の一面に、問題の記事が掲載されていた。紅魔館を襲った隕石を、フランドールが破壊した事実が綴られていたのである。そこにはしっかりと(かどうかは判じにくいが)取材に応じたレミリアとフランドールのインタビューも載っていた。その記事をいかなる方法で永遠亭が入手したのか・・・などと考える必要はもとよりない。何故なら霜月に発行された記事に、他ならぬ輝夜の記事が載っていたからである(正確には輝夜本人に関する記事ではなかったが)。ともあれ、あの天狗が取材を行ったのであれば、それまでの文々。新聞が手渡されるのも当然
 そして永遠亭がこの記事を手にしたことにより、この記事は大きな意味を持つことになる。つまり、フランドールを使って月を破壊してしまえばいいのだと。冗談のような話ではあるが、成る程、分からなくはない。今も尚、永遠亭に住む姫とその従者は月から隠れているのだから。そして、その月さえ破壊してしまえば、もう隠れる必要もなくなる
 そこに、フランドールの能力である。記事にはだいぶはぐらかされて書かれていたが、月の頭脳にはその能力が知れたことであろう。月をフランドールが破壊するなど、容易いことであると
 ここに、永遠亭がフランドールを欲する理由が出来上がったのだった


「とは言え、あの天狗を恨むのは筋違いか」
「まさか天狗もこうなるとは予想できなかったでしょうからね・・・」
 正にそのとおり、当の本人は今も新聞のネタを探して東奔西走している最中である。レミリアも射命丸を責める気はないらしく、あくまでも(レミリアは紅い悪魔だが)冗談のようだった
「つまり、だ。何もかもよからぬ企みを起こすやつが悪いってことだろ?」
 そこに、紅魔館には珍しい影が現れる。珍しいというよりも、不釣り合いと言ったほうがしっくりとくる。唯一似合っているのは、赤を基調としたその服装だろうか。実に男らしい言葉づかいではあるが、れっきとした女性である
「まぁ、こちらが被害者であるのは間違いないだろうな」
 レミリアはいたっていつもの態度で現れた人物へと話しかけている。しかし、咲夜はどこか緊張した面持ちでその会話を見届けている。それもそのはず、彼女らが一度争い合えば、ここにいるメイド達にそれを止める術はないのだから
「ったく、まさか他人様の迷惑になることを堂々とやってのけるとはな」
「まぁ・・・それに関しては私も前科があるんだが」
 レミリアは以前幻想郷紅い霧で覆った事がある。その異変直ぐに片がついたのだが、長引けば洗濯物から農作物まで、あらゆる場所に被害をもたらした筈である。しかし、そんなことはどうでも良いのか、彼女はレミリアの言葉を流して憎しみに満ちた眼差しを遠くへと見据えている
「輝夜・・・。お前の企みは私が焼き尽くしてやるよ」
 彼女の周囲には陽炎のような靄がかかっていた。幻視ではない、彼女は確かに燃えあがっていた
「戦いが始まるまで、私は中に引っ込んでいるよ。・・・今は邪魔になるだけだしな」
「良いのか? こちらがどんな戦い方をするのかぐらいは把握しておいて、損はないぞ」
 レミリアは引っ込もうとした彼女を止めるが、彼女は門の中へと向かいながら手をひらひらと振って答える
「私だって自分が大局には役立たずだってことぐらい把握してるよ。輝夜や永琳のやつが出てきたら、その時は私が相手をしてやるさ」
 そう言うと彼女は、燃え盛る空気を余韻のように残しながら門の中へと消えていく。その様子を見て、咲夜が静かに口を開く
「・・・物騒な方ですね」
「仕方がないだろう? 彼女たちは既に私たちの理解を超えた世界に住んでいるのだから」
 理解すら、運命と呼ばれるものすら
「何にしても、味方でいてくれる分には私は構わない」
「お嬢様がそう仰るのであれば、私も構いませんわ」
 もし敵であったなら、果たして私はどう戦うのだろうか? 咲夜はふと考えて、結論は至らないだろうという結論に至る。仕方がないだろう。思考するには相手が悪すぎるのだから
 藤原妹紅――老いることも死ぬこともない存在は、彼女の理解の範疇には無かった
「さて、私もいつまでもここに居ても仕方がない。屋敷に戻るわ」
「畏まりました。この場は私にお任せください」
 そのレミリアの発言から、開戦が近いのだと咲夜は感じた
「咲夜」
「はい、何でしょうお嬢様?」
 レミリアは最後の命令を、瀟洒な従者に告げた
「敵を、皆殺しにしてらっしゃい」
「・・・仰せのままに」
 会戦の時は、静かに迫っていた


「なんだか変な感じがして動いてみれば」
 湖から離れ、そしてその湖全体を見渡せる丘の上
「私に断りなく何やってんのよ全く・・・。勘が働きすぎるのも考えものね」
 そんな自分勝手なことを呟く一人の影があった。纏っているのは紅白の巫女装束。普通の巫女装束とは違い、大胆に脇を露出し、あろうことか下半身がフリルのついたスカートである。幻想郷でそんな酔狂な格好をするのは一人しかいない
 幻想郷最強の巫女――博霊霊夢その人であった
 湖を見渡せる丘からは、おぼろげではあるが、両軍の展開していく様子が良くわかる。こんな絶好の観戦場所に佇んでいるあたり、文句を言いながらも興味があるようだ。それもその筈、こんな戦いなど、こんな豪華な役者同士のぶつかり合いなど、見ようと思っても滅多に見られるものではない
「紅魔館V.S.永遠亭か・・・。どっちが勝つのかしらね。やっぱり粒の揃ってる紅魔館かしら。レミリアに咲夜、パチュリーに・・・門番もいたかしら」
 実に楽しそうに霊夢は状況を眺めている。そこに後ろから近づく影があった
「それどころか、紅魔館には妹紅の奴まで控えているからな」
「あらま、それじゃますます紅魔館が有利じゃない・・・って」
「輝夜の邪魔がしたいだなどと、まったく困ったもんだよあいつは」
 霊夢が振り返ると、そこには見知った顔があった。少なくとも、過去に二回は弾幕でねじ伏せた相手である。今日はどうやら角は生えていないようだったが
「なによ、慧音じゃない。こんなところに何しに来たのよ?」
 霊夢が親しげにそう質問を投じる相手は、稗田阿求とならんで幻想郷の知識人(人ではないが)として知られる、上白沢慧音だった。どこかばつの悪そうな顔をしているのは、見間違いではないだろう。なんでお前がここに居るんだ、といった様子である
「なに、幻想郷の歴史を目撃しに来ただけさ」
「なによ固い言い方しちゃって・・・要は私と同じってことね?」
「お前と一緒にされたくはないが、楽しみなのは同じだな。それよりお前こそどうしてここにいるんだ?」
 慧音は霊夢の隣まで来るとその場に腰を下ろす。霊夢も立っている必要はないと気付いて同じように座った
「誰かが何かをやらかしてる気がしたから動いてみたら、この有り様よ。今回は幻想郷に被害があるわけでもなさそうだし、私の出番はないでしょうけどね。その言い方だと、慧音は元々知ってたのね?」
「まぁ、な。永遠亭でおかしな動きがあることは、前々から気付いていたさ。こんな事態だと知ったのは、紅魔館の使いが訪れてからだが」
 それは三日ほど前。慧音の家に紅魔館の妖精メイドがやってきた。曰く、藤原妹紅の居場所を知らないかと。果たして何の用があるのかと尋ねてみれば、近く永遠亭との間に争いが起こるとのことだった。紅魔館としては、妹紅の協力を仰ぎたいらしい。無理もない、不死の相手が出来るのは、それこそ不死だけだろうから
「私は伝えたくなかったんだが、紅魔館は少しでも戦力がほしいようだったし、伝えないわけにもいくまい。それに、遅かれ早かれ、妹紅はこのことを知っただろうしな」
 そうなれば妹紅の取る動きは一つだよ。慧音は心底呆れたようにそう言った
「なるほどねぇ・・・。それで紅魔館には妹紅が付いてるのね。じゃぁ紅魔館の圧勝で決まりそうね、これは」
 霊夢には紅魔館の勝利がゆるぎないものとして感じられたらしい。しかし、慧音はその考えを否定した
「それはどうかな? 確かに単純な戦力で言えば、永遠亭は紅魔館には遠く及ばないだろう。しかし永遠亭の指揮官は何しろ天才、八意永琳だ。戦力差がそのまま結果につながったりはしないさ」
 成る程、と感心しつつ霊夢は両軍の様子に目を向ける。兵の数では永遠亭が上回っているように見えたが、それこそ数などでは勝敗は決まらないだろう。幻想郷ほど一騎当千という言葉が似合う世界も珍しい
「じゃぁ慧音はどっちが勝つと予想するのかしら?」
「そうだな・・・。どっちが勝つなどと、はっきりと言うことはできないが」
「できないが?」
「どちらが勝ったところで、私たちに支障はあるまい」
「成る程、違いないわ」
 どうやら慧音は今回の戦いを完全に楽しむ方向で決めたらしい。それは霊夢も同じようで、二人はどちらともなく笑いあった
「そう言えば、霧雨の子はどうした?」
「魔理沙? 知らないわよ? こんな面白いイベントがあるって知ってたら、誘ったんだけどね」
「ふむ、そうか・・・。いやなに、お前たちはいつも二人で行動しているような気がしたので、気になってな」
「流石に大きな異変でもなきゃ、あの馬鹿も飛び出さないわよ。私もこんなことになってるだなんて知らなかったしね」
 答えながら、そんなに魔理沙と一緒にいるように見られているのだろうかと少々疑問に思った。確かに、こんな楽しそうなイベントを見逃すような奴ではないが・・・
「ま、タイミングが悪かったのね」
「じゃぁお前はタイミングが良かったんだな」
 そう二人が薄く笑い合う先では、両軍が進軍の準備を完成しつつあった。開戦はもはや、秒読みの段階であった


「鈴仙、敵の動きを感知。距離1800」
 最前線に配置した鈴仙から報告が入ったのは、ちょうど零時を少し過ぎた頃だった
「てゐ、作戦通りに兵を配置して。敵に気付かれないよう慎重にね」
「合点承知っと。ほらほら、作戦通り隊形を整えるよ!」
 てゐの指示に従い、兎兵たちが動き出す。進軍をしながら隊形を整えるというのは、言葉で言うよりもよほど難しいものだが
「ほら、ぼさっとしない! 作戦通りにいかなかったとき危ないのは私たちじゃないんだからね!」
 流石てゐと言うべきか、兎兵たちを動かすのに的確な言葉を知っている
「良いわ、てゐ。今の体型を維持することを忘れないで」
 やはり鈴仙ではなくてゐを副官につけたのは正解だった。鈴仙は優秀だ。頭も働くし、何より個人としての能力が高い。しかし、部下に対しては甘い。これは戦場では致命的な欠点となりうる。いざという時に必要なのは、部下を切り捨てる冷静な判断力だからだ
「永琳様~? そろそろ私は前に行ったほうがいい?」
 全軍の動きが完成した時、甘ったるい声が永琳の背後からかけられる。ただの人間が聞けば、毒されてしまいそうなほど甘い声。永琳は声の方向へ振り返りながら答える
「いいえ、貴女はここにいてちょうだい」
「でもでも、それじゃぁみんな私に巻き込まれちゃいますよ?」
 声が甘いのはその能力ゆえか、はたまた本人の幼さゆえか・・・。おそらくはその両方だろう、そう永琳は判断する
「大丈夫よ、貴女の能力は私が一番良く分かっているから」
 そう、彼女の能力は今回の戦いにおいて重要な役割を果たす。毒にも薬にもなるその能力を、永琳は自らの能力から高く評価していた
「それより大丈夫? もうじき戦いが始まるけれど、怖くないかしら?」
 なるべく刺激しないように心掛けながら話しかける。彼女はまだ能力の扱いに慣れていない。下手に精神状態が悪化すれば、その能力が味方へと牙を剥くだろう
「そばに永琳様やてゐちゃんが居るから平気です~」
「だからちゃん付けで呼ばないでったら・・・」
 てゐが嘆くが、その願いはおそらく聞き入られないだろう
「何はともあれ、頼んだわよメディ」
「はいっ!」
 頼られたことが嬉しかったのか、メディスンは笑顔で応えた
 メディスン・メランコリー。毒を操る彼女がなぜこの場所にいるのか? それは花が咲き乱れた異変まで遡る

 鈴仙が花の異変を調査している際に訪れた無名の丘。微弱な毒性を持つ鈴蘭がここまで咲き乱れていることに、鈴仙は驚きを覚えた
 しかし、何よりも彼女が驚いたのは、そこに居た妖怪である
 メディスン・メランコリー。毒を操る程度の能力を持った彼女は、鈴仙の姿を見るや否や攻撃を仕掛けてきた。鈴仙は戸惑ったもの、それを撃退することに成功した
 その後、花の異変に関する報告を永琳に行ったところ、永琳はその妖怪に興味と危機感を持ったようだった
 曰く、毒は転じて薬となる。その能力は人の役にも厄にもなる能力だと。曰く、急に襲ってきたのはその妖怪が生まれて間もないせいだろう。そのまま野放しにしていては非常に危険であると
 後日、鈴仙の案内の下、永琳は無名の丘を訪れる。そこに居たメディスンに、永琳はある提案を持ちかけた
『その能力の使い方を教えるから、永遠亭に来なさい』
 その後しばらく、メディスンは永遠亭で暮らすことになる。妖怪としての在り方はてゐから学び、戦闘に関しては鈴仙から学び、毒に関する知識は永琳から学んだ。なるほど、妖怪として成長するのに、永遠亭は最適な環境だっただろう
 そしてなにより、永琳と輝夜には毒が効かないことが彼女に衝撃を与えた。鈴仙との模擬戦闘でも、彼女が勝ることはなかった。その結果、彼女は知らない存在を見かけても襲いかかることはなくなっていた。妖怪として、少しばかり成長を遂げたのである
 そうして永遠亭で過ごすこと幾ばくか。永琳が紅魔館攻略の一件を永遠亭の面々に知らせていった。その時、メディスンは思い至ったのである。これは、恩を返す良い機会ではないか、と
 そして、彼女は今永遠亭の一員としてこの戦いに参加している。もちろん、戦うことは好きではない。しかし、恩を返すべき相手がいる。そのために自分の力を使うことは、無闇に力を使っているよりはましな筈である。彼女はそう考えていた


「敵軍との距離、およそ800。鈴仙並び月の兎隊は作戦行動を開始します」
 鈴仙からの伝令が伝わる。月の兎隊とは、鈴仙以下50名からなる先行部隊のことである。他の兎兵たちとは違い、装備に紅い色を施している
「月の兎はあの子しかいないってのに、張り切っちゃって」
 永琳は微笑むと、直ぐに指示を飛ばす
「さぁ、直ぐに戦闘が始まるわよ。みんな、覚悟しておいて」
「総員構えて! 永琳様に恥はかかせないわよ」
 敵軍の姿が暗闇から徐々に浮かび上がる。恐らく向こうも此方を捕捉したはずだ
「さぁ、いらっしゃい。ここがあなた達の死に場所となるのよ」
 永琳は不気味に微笑むと、てゐに指示を伝えた
総員死を突撃与えよ


 前線から敵軍捕捉の指示が入り、咲夜は臨戦態勢に入る
「私の部隊は敵軍へ真っ先に向かうわ。残りはしっかりとその後ろを援護するように」
「敵軍目視!」
 咲夜は敵軍の方へ、その眼を向ける
「私たちの後ろには美鈴たちの防御部隊が控えている。一人や二人ここを抜かれても問題はないわ」
 咲夜は出陣前の美鈴との会話を思い出す。咲夜さんが前で、私が後ろって、なんだか普段と逆ですね。対して緊張した様子もなく、美鈴は咲夜にそう言ってのけた

「それは貴女が抜かれた場合、誰も後ろにいないことを意味しているのよ?」
「わかってますよ、わかってます。元から私は、この門を抜かせるつもりなんてありません」
 美鈴は微笑みながら答える。その眼には、咲夜に対する、そして自分に対する絶対の信頼があった
「ですから、安心してください。咲夜さんが敵を討ち漏らしたとしても、敵が門の中へ這入ることは有り得ません」
「そう・・・そうね。貴女がそう言うならば、きっと大丈夫ね」
 彼女は普段から紅魔館の門を守っているのだ。彼女に任せておけば、大丈夫
「それじゃ、往ってくるわね。あとは任せたわ、美鈴」
「果たして私なんかの出番があるのかどうか・・・。何はともあれ、お気をつけて」
 二人は笑みを残し、それぞれの配置についた。互いが互いに信頼し合うことで、彼女たちはそれぞれの役割に集中できるのだった

「それよりも、敵の集中している場所を叩きなさい。すぐに私が敵軍を崩壊させる」
 そう告げると、咲夜は自らの能力を発動させる準備に入った
「じゃぁ、先に行くわ。私たちの勝利のために」
 咲夜がそう言うと、メイド兵たちは二つの部隊に分かれる。一つは咲夜の周りに集う、紅魔殲滅部隊。もう一つは咲夜から離れ、紅魔館を背にする紅魔防衛部隊。そして、開戦の宣言ともなる言葉を告げる
「死守よ――今宵はお嬢様のために死になさい」
「仰せのままに!」
 咲夜の言葉に、メイド兵たちは武器を構えて声を上げる。その声に敵軍が一瞬怯んだのを確認すると、咲夜は能力を発動させる。そして、咲夜以下150名の殲滅部隊は姿を消した


 果たして、今宵はどれほどの血が流れるのか
 月は輝き、紅みを増していく
 戦闘の、始まりだった

To be continue?
こんなに月も紅いから
 永い夜になりました 長すぎたので、少し反省

事の始まり
 射命丸の記事は文花帖(公式書籍)から
 両軍の争う理由を必死で探しました(笑
 書いてから気付いたけど、萃香使えば良いよね

両軍のイメージ
 実際には、兎兵たちの方が能力高め 妖怪と妖精だし
 数的にも、兎兵の方が多そうだったから、そんな感じに
 正直、数は勢いとか盛り上げとか、そんな時にしか出てこない

切れ方が微妙
 元々は2章とくっついてたけど、長すぎたからカット
 その結果、ラストにしまりがなくなってしまうった むぅ・・・

書いてから気付いたけど
 霧の湖ってそんなに広く無いよな・・・
 まぁ、いいや・・・

Yes,Mam!
 察してください・・・
DawN
http://plaza.rakuten.co.jp/DawnofeasterN/
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コメント



0.390簡易評価
6.60ななななし削除
多すぎだろ・・・常識的に考えて・・・。多すぎて読むのを尻込みする人多分たくさんいるよ。三日くらいずつおいて投稿するか、くっつけて一つ一つを長くしたほうがよいのでは?
10.40名前が無い程度の能力削除
>あくまでも(レミリアは紅い悪魔だが)
()の中いらない気が……

あとどっかで体型と隊形の誤字ありました

なんかしっくりこない日本語表現が多かったのが気になりました