―――力はあらゆる壁を壊す。
―――押し寄せる苦難を跳ね除け、道理を道理によってねじ伏せる。
―――力の上下が強者と弱者という関係を生み出し、世界は力のもとになびく。
力があれば私にもできる?
力さえあれば私のような人間はいなくなる?
―――それは君を悪にする。力によって捻じ曲げられたものは必ずどこかで歪みを生む。
―――そして歪みは君に襲い掛かり、君はまたその歪みを跳ね返すたびに新たな歪みを生む。
―――力で何かを変える者は生まれた歪みに対して向かっていく責任がある。
だったら私は何度でも跳ね返すよ。
私のような子どもがいなくなるためなら、何度だって跳ね返す。
―――その為に君が犠牲になるとしても?
犠牲になんてならない。私はずっと憎まれ役で構わない。
だから意地悪くても生き続ける。どんなに無様でも、それこそ泥に這いつくばってでも生きる。
それが私の責任だぜ。
◆ 魔理沙の最も長い一日・AM6:00 ◆
「ん……」
眩しい光に瞼を刺激されて、天然ではないくしゃくしゃの金髪の少女が目を覚ます。
霧雨魔理沙、職業は普通の魔法使いをしている人間。住所は幻想郷と呼ばれるところの魔法の森のどこか。
趣味はキノコと蒐集。それなりに健康的な日常を送っている女の子である。
「ぬわっ」
朝の光から逃れようと彼女は寝返りを打ったのだが、タイミング悪くベッドの端っこだったらしく布団ごと床へ落ちてしまった。
見上げればそこは見知った天井。木でできた古めかしい我が家に改めて嘆息しながら起き上がる。
「いってぇ………まったく、朝から運気がないぜ」
誰にでもなく文句を言いながら魔理沙は被っている布団を適当に放り投げる。
部屋は色んなジャンルの書物やこれまで彼女が見つけてきた蒐集物が散乱していて、人が歩くスペースはあまりない。
しかし誰よりも良く知る我が家だからなのか、魔理沙は床の見えているスペースへと次々と飛び移っていく。
掃除をすればいいのに、とは彼女をよく知る人間の弁。しかし魔理沙には掃除をする気などまったくない。
というのも蒐集物を集めるだけ集めて、すぐに興味を失くしてしまうために放ったままになる。
だがいつか、もしかしたら役に立つ日が来るかもしれないと考えて放置する。掃除をするとどこに何を置いたかを彼女が忘れてしまうからだ。
「しまった、食うものがないのを忘れてた………」
ぽりぽりと目覚めの悪い頭を掻きながら魔理沙は外を見る。
夏が迫った魔法の森にはわずかに朝靄がかかっており、まだ朝になってあまり時間が経っていないことを表している。
もう少し時間が経つまで朝ごはんはお預けか、と丁度考えたところで腹の虫が呻く。
「そういや昨日の夜もお預けだったなぁ……」
魔理沙は昨夜、知り合いから借りてきた書物で研究をしていたときに食べる物がないと気づき、仕方なくそのまま食事を放棄していた。
再び腹の虫が鳴く。このままでは我慢できそうにない、今すぐに朝飯を相伴できる相手はいないものかと魔理沙はうぅむと頭を捻る。
「そうだ、霊夢のところに行こう」
とりあえずいつも世話になっている巫女のところへ行こうと思い立ち、魔理沙はさっさと着替えを始める。
魔法使いの正装とも言える黒のエプロンドレスに着替えて魔女帽を被り、壁に立てかけていた愛用の樫の箒を手に取る。
そして外に飛び出すと家の鍵もかけずに箒に飛び乗って一気に空へと上昇する。
朝を迎えたばかりの空は暖かく、夏が近いことをより一層強く感じさせた。
◆ 博麗神社 AM7:00 ◆
箒に跨ったまま境内に足が着くまでゆっくりと降りると、まるで待ち構えていたようなタイミングで巫女が神社から姿を現した。
巫女、博麗霊夢は巫女服に桃色のエプロンという一風変わった姿をしていた。おそらく魔理沙がやってくるまで料理をしていたのだろう。
「よう、霊夢。呼ばれに来たぜ」
「呼んでないわ」
「いつものことだろ。それより腹ぺこなんだ、早く朝飯の用意をしてくれ」
「相伴を預かる身でよくそこまで堂々とできるものだわ。とりあえず上がんなさい、外は暑いでしょ?」
「ああ、暑くて死にそうだぜ」
ぽいっと靴を脱ぎ捨てて神社のなかに上がると魔理沙の鼻腔を味噌の薫りがくすぐる。
外は暑いというのに熱い味噌汁を作る霊夢の気持ちが理解できない魔理沙であったが、文句を言ったら陰陽玉が飛んできそうなので自重する。
できれば冷たいそうめんが食べたかったが都合よくあるはずもなく、そして言えば夢想封印が飛んでくること間違いなし。やはり自重する。
自重するだけ進歩した自分を褒めてやりたいと心のなかで威張る魔理沙。そこへ霊夢が朝食を運んできた。
「まったくいつものこととはいえ、少しは遠慮くらいしてほしいわ」
「言葉だけでいいのならいくらでも」
「嘘の大売出しね、ウサギが喜ぶわ」
言いながら霊夢はご飯と味噌汁の椀を魔理沙の前に置く。それから自分の分の椀を運んでくるとエプロンを脱ぎ捨ててから卓袱台の前で正座し、両手を合わせる。
魔理沙も一緒になって手を合わせ。
「「いただきます」」
朝食の始まりである。
箸を進める二人のあいだに会話はない。魔理沙は料理に舌鼓をうっており、霊夢は音も立てず静かに食に集中する。
開け放たれた障子から入ってくる風が彼女たちを涼ませ、森に集まった小鳥の即席合唱団が耳を楽しませる。
風雅な朝食の静寂を破ったのは魔理沙だった。
「なあ霊夢。今日珍しい夢を見たんだ」
「大抵珍しいものしか見ないと思うけれどね。で、どんなの?」
「おお、それなんだが驚くことに香霖が出てきたんだ。それで厚かましくもこの魔理沙さんに説教してきたんだ」
えへんと胸を張って魔理沙は再び米を口へと運んでいく。
香霖とは魔理沙と同じ魔法の森で雑貨店を営んでいる店主、森近霖之助への魔理沙なりの愛称である。
霊夢も知っているもの静かな男性で変わり者。話を聞いた霊夢は冷めた反応で味噌汁を含み、静かに嚥下してから口を開いた。
「霖之助さんの説教なんて聞き飽きているじゃない。ツケを払えとか、慎みが足りないとか色々」
「そういうんじゃないんだが……まあいいか」
内容を話したところで無駄だろうと魔理沙は最後の一口を食す。
「ごちそうさま。じゃあちょっと香霖のところに行ってくる」
「あ、ちょっと魔理沙待ちなさい」
「なんだよ? 質問と用事は短絡かつ簡潔に頼むぜ」
「今日はあまり外を出歩かないほうがいいわ」
突然の忠告になんのこっちゃと魔理沙は首を傾げる。
明確な説明もなく曖昧であるということは余計な混乱しか生まない。いつも物事をはっきり言う霊夢らしくない。
それともただ、短絡で簡潔に話せを言った魔理沙の要求どおりにしただけなのか。なぜ外を出歩いてはいけないのか気になって魔理沙は深く追求する。
「なんだ? なぜ外を出歩いちゃいけないんだ?」
「なんとなく、ね。アンタに嵐が迫っている気がする。けれど家にいれば通り過ぎる、それだけは言える」
「嵐?」
嵐は外にいれば巻き込まれる。何かに囲われていれば嵐が過ぎ去るのを待てる、だからおとなしくしていろ。
それがなぜかひどく脅迫めいた響きを持っていたのは小鳥のさえずりが平穏すぎるからか。
冗談じゃないと魔理沙は心のなかで唾を吐き、強く歯を噛みしめる。
「そうか、異変だな。異変が起きたんだな? それで私を除け者にしようって魂胆か。はっはーん、そうはさせるか。大人しくしていろと言われて大人しくしている魔理沙さんじゃないぜ」
逆に良いことを聞いた、と魔理沙は颯爽と箒に乗って晴天の空へと駆けのぼる。
異変、異変である。幻想郷に度々降りかかる冗談のようで冗談ではない災厄。それが再び訪れた。
本来異変に立ち向かうべきは幻想郷の調停者たる博麗の巫女であるが、魔理沙も『迷惑な妖怪退治』と称しては異変の解決に乗り出す。
今度は霊夢より先に異変の原因を見つけて、霊夢の悔しがる顔を拝んでやると意気込みながら魔理沙はグングンとスピードを上げて飛んでいくのであった。
一方、霊夢はというと魔理沙が消えていくのを遠い目で見送ると再び卓袱台に戻って茶を用意する。
それからゆっくりと湯呑みを傾けて、一言。
「困ったものだわ」
「まったくね」
どこでもない場所から聞こえた声に霊夢が答える。そして空間に割れ目が出現、そこから金髪の妖美な女性が這い出てきた。
彼女は大妖怪、あらゆる境界に住まうとされる八雲紫。名のとおり紫色のゴシックな衣装に身を包んだ女性が優美に微笑んだ。
「困ったちゃんはアンタの方よ、紫。勝手に人の会話を盗み聞きして趣味が悪い」
「またまた、無理に褒めなくてもいいわよ」
「無理をして褒める気にもならないわ」
そっと霊夢はため息をつく。
(魔理沙……じっとしていれば何も起きなかったかもしれないのに)
兆候は現れた、八雲紫がそれである。彼女が来たということはその“異変”が起きたということになる。
異変、異変である。外の非常識が流れ込んでくる幻想郷という場所において、天災と呼ぶよりも自然現象と呼ぶほうがよく当てはまる異変。
吸血鬼に亡霊、不死の民に地獄の住民、さらには人ならざる者たちや神。いずれも超常の存在である。
そのなかでも一際目立つのが霊夢。人間でありながら抑止力であり調停者である彼女という存在は数多の幻想たちを惹きつける。
在り方か、それとも彼女自身であるかは誰も知り得ないが確かに博麗の巫女というのは幻想郷で強い人間に区分される。
では、強い人間は他にいないのか。
例えば十六夜咲夜。時を止め、空間さえも歪ませる彼女は異端中の異端。だが在り方は紅魔館に偏っており人間の味方とは言えない。
魂魄妖夢。半人半霊にして冥界にある白玉楼の庭師。こちらも人間のために異変へと出張るような在り方はしていない。
藤原妹紅。蓬莱の薬に手を出し、永き時を生きてきた不死鳥。里の護り手である上白沢慧音と親交があり、より人間側であるといえるが彼女の目的であるかといえば相違する。
東風谷早苗。風祝にして現人神。上記の三人よりも人間側であることは間違いないが発展途上、強者であるかと言われれば否とせざるを得ない。
ならば、他に誰かいないかとしたときに名前が挙がるのは誰か?
それが霧雨魔理沙、普通の魔法使いにして異変に自ら飛び込んでいく勇気ある人間の少女だ。
数ある異変と対峙したことがあり、小さな体躯に合わぬ強力な力を持ち、多くの妖怪たちとも親交を持つ。
博麗と並ぶ人間の英雄。そう称されることも致し方ないといえよう。
逆にいえば、“そうあることで困る妖怪が存在する”と考えたことはないだろうか。
(魔理沙はよくやっている。けれど)
幻想郷を維持する調停者がいる以上、霧雨魔理沙は不要。つまり“ここですでに幻想は足りている”のだ。
いかなる非常識、幻想であっても受け入れる。だがもしも自らを救いたる人間が幻想郷の存在維持に事欠く場合。
果たしてそれは受け入れられるのか?
「ようやく決まったわ。全員一致で“霧雨魔理沙を幻想郷から消去する”ことになった」
やっぱり、と霊夢は呟いてから茶を飲む。
表面上は冷静で関心がないように見えたが、彼女の湯呑みを持つ手が小刻みに震えていた。
「霊夢、今こそ幻想郷を守る博麗の巫女として動くべきではなくて?」
「………私は別に、守っているわけじゃない」
「そう、そうよね。あなたはいつも迷惑なことをしでかす輩を黙らせているだけ。でも判っている? “それは全部あなたの意思ではない”のよ」
「話の論点がずれているわ。私は迷惑なことをするやつらを叩きのめしているだけ。魔理沙は何もしていない」
魔理沙が悪いことをしていない。否、それは相手の物を強奪することや家屋を破壊するという軽度の犯罪を指すのではない。
幻想郷の害悪になることをしたか。つまりはそういうことなのだ。
むしろ魔理沙の異変を解決しようという動きは人間たちを守るものであり、排除する理由などどこにもない。
「わかっていないわ霊夢。古き経典にあるとおり、あなたは一にして全の存在。一人で妖怪たちと対等になれる力がある。あなただけが異変に立ち向かうだけで十分なのよ」
「だから何? 魔理沙がいたら問題あるっていうの?」
「あるわ。人間は博麗の元で守られ、博麗の手によって均衡を保たれる。それなのにあの子がいたら人間の心は博麗に集まらなくなる」
「人の心が集まったって賽銭箱の中身は変わらないわよ」
「いいえ、“それでいいのよ”。あくまであなたは中立、人間に信仰されてしまえばそれはそれで意味がない」
好き勝手を働く妖怪を抑止し、人間の立場を守りながらも決して人間に信仰される存在であってはならない。
どんな色に汚されることもなく白で、常に零であることを保ち続ける存在。それが博麗。
そこへ飛び込んできた霧雨の色。博麗とは異なる行動と思考であるにも関わらず博麗と同じ行動をする。
それが、八雲紫には目障りだった。
「私もあの子のことは気に入っていたわ、何よりも一生懸命で面白かったしね。けれどあまり一生懸命すぎるのも困るときもある」
「……………」
「すでに各方々には連絡済み。もちろん今から家に戻ったとしても間に合わない、この嵐は家諸共吹き飛ばす。霊夢、あなたの助言は初めから無意味よ」
嵐は本来意思を持たない自然災害。しかし意図的に引き起こされたのであればそれは目的を果たすまで暴れる武器となる。
嵐のまえには予兆がある。予兆が表れるのは原因がある。原因には必ず何かが関わっている。
連鎖とは呪いだ。誰かが狙っていなくても知らないうちに仕組みを起動させてしまう。
そして呪いは伝染する。解除するのは呪いが自らを食い尽くすまで待つしかない。
ならばこの呪いは、魔理沙を覆おうとしている呪いはいつ晴れるのか?
霊夢は思う。霧雨魔理沙が幻想郷に存在し続けるかぎり、ありとあらゆる連鎖が彼女を囲って心臓へと噛みつくまで消えない。
毒、毒だ。呪いは毒に似ている。毒は自らの領域を広げ、侵蝕が許されるならばどこまでも範囲を広げていく。
蛇の牙から動脈へ、動脈を流れる血液を伝って毒は全身へと広がる。そして必ず心臓へとたどり着く。
だから八雲紫は毒である魔理沙が心臓に達するまでに処断することを決めたのだ。
「レミリアの予測だと魔理沙が起床した時間と同じ、明日の午前六時までに魔理沙がいなくなれば歪みは現れないとのことよ」
元より幻想郷は幅の狭い麻の綱を渡っているような危険な綱渡り。
バランスをわずかに崩しただけで綱は渡り手の意思とは関係なく千切れてしまいそうになる。そこへ急遽飛び込んできた二人目の渡り手、綱が耐えられるはずもない。
どちらかが綱から離れるしか方法はない。だとすれば望まれるのは果たしてどちらかなど問うまでもない。
「霊夢、いいわね。魔理沙が来ても匿ってはダメよ、ちゃんと萃香が見張っているんだから」
紫が空間に切れ目を入れ、隙間のなかへと消えていく。
(魔理沙が消える。私が消さないといけない)
だが長くは迷っている時間はない。魔理沙はきっと訪れた先々で襲われ、いずれ博麗神社へと戻ってくる。
そのとき、霊夢は魔理沙を討たなければならない。
「萃香」
何もない空間に霊夢は声をなげかける。
すると霊夢の前方に少しずつ霧が収束し、やがて小さな女の子になった。
「私は、どうすればいい?」
「霊夢……」
「魔理沙を消す以外に、私にできることはないの?」
鬼に問いかける言葉は弱々しかった。それだけで伊吹萃香は巫女の心境を悟った。
自分勝手で周囲には面倒や迷惑をかける魔理沙ではあったが霊夢にとって近しい存在であった。
いわば友達。近くにいると心緩む、大切にするべき彼女を幻想郷のために討つ。
魔理沙も人間なのだから博麗が守るべき対象になる。例え霊夢がそう反論したところで八雲紫はきっとこう返したことだろう。
――――――出る杭は打たれる。
誰もが知っている慣用句。人間の枠よりはみ出るというのであれば守るべき対象にはならない。
それでも人間であり続けるならば打たれる覚悟をもって望まなければならない。ただ、今回は杭を打つ槌が大きすぎた。
萃香は願った。できることならば魔理沙が霊夢と出会わないことを。
◆ 紅魔館周辺の湖上 AM8:00 ◆
「しかしまったく見当がつかないな。どんな異変が起きているっていうんだ?」
魔理沙は箒に乗ったままポリポリとこめかみのあたりを掻く。
「まあこういうときには頭のいいヤツを使うのが賢い人間のやり方だな」
正確にはズル賢いというべきなのだが。
もちろん魔理沙が指している「頭のいいヤツ」とは紅魔館在住の魔女、パチュリー・ノーレッジのことである。
彼女であれば大気中の精霊を伝って変化を感じ取っているはず。そう思った魔理沙は紅魔館を目指していた。
「お、見え――――――」
見えた。そう言おうとした瞬間に魔理沙は前方から向かってくる攻撃を見て、即座に体を横へ倒して軌道を変えた。
直後に魔理沙がいた辺りを巨大な白い弾が駆け抜け、彼方へと飛び去っていった。
「おいおい、ずいぶんな挨拶じゃないか中国。まだ何もやってないぜ?」
弾の行方も見ずに魔理沙は正面にいる人物に笑いかける。
若草色の大陸衣装を着ている門番、紅美鈴という女性は鋭く視線を細めたまま。ただ静かにそこに浮遊していた。
「(……変だな? いつもなら呼び名を訂正しろだとかうるさく言ってくるはずだが)」
紅魔館の常連である魔理沙は必ず門番と対峙する。そのときは当たり前のように通り過ぎる、あるいはスペルカードによる強行突破のどちらかで訪問する。
そして魔理沙が門を通ったあとには彼女の上司がやってきて、彼女をナイフで制裁するのがお決まりのパターンなのだ。
「ははぁ、読めたぜ。また咲夜のやつにでもお仕置きされたんだろ」
ダメなやつだぜ、と大きく肩を竦める魔理沙。しかし門番の彼女からは返事が返ってこない。
やがて門番は無機質な表情のまま構えを取り。
「――――――――――」
歪な三日月みたいに口の端を吊り上げ、気功の巨弾を放った。
「っっ!!?」
慌てて回避。持ち前の機動力のおかげで危機を避け、ほっと魔理沙は胸を撫で下ろした。
と、魔理沙は自分の行動を疑問視した。
なぜ胸を撫で下ろした? なぜたかが弾幕ごっこで安堵した?
弾に当たって落ちたとしても湖に落ちてずぶ濡れになる程度なのだから、そもそも肝を冷やすようなことにはならない。
だとしたら無意識のうちに安堵してしまったのはなぜか。
幾多の弾幕をくぐりぬけてきた彼女は本能でわかってしまったのだ。今の巨弾が、今までの遊びとは違うことに。
「な、なんだ中国。ずいぶん気が立っているじゃないか。やっぱり咲夜のせいか?」
唾が喉を嚥下する。落ち着け、と脳が加速して熱をもつ。
今の攻撃は脅しだ。決して本気で撃ってきたのではない。そして自分は負けると思ったときの焦りが本気で撃ってきたと魔理沙は誤解したかった、だが。
「私がどうかしたかしら」
奇術師が門番の背後からゆっくりと姿を現した。
「……相変わらずご苦労なやつだぜ。演出がそんなに大事か?」
「奇術も趣向を凝らさなければただの手品、口八丁手八丁じゃないとやっていけないのよ」
「ああ、そうかい。ところでおたくの門番がえらく殺気だっているんだが、何かしたのか?」
そのとき、初めて魔理沙は空気が凍ったという感覚を体験した。
相手が止まり、自分も止まり、あたかも時間が止まったような錯覚を。
何か言ってはいけないことを言ったとき、人はどうしても自分から沈黙を破ることを躊躇する。
魔理沙もその例外には漏れず苦笑のまま固まってしまい、ただひたすらに奇術師が何か言うのを待った。
「………ふ」
返ってきたのは門番と同様に三日月みたいな笑みとナイフ。
ナイフは瞬間移動のように突然魔理沙の正面に現れ、彼女の左頬を掠めていった。
「え?」
魔理沙は頬に触れる冷たさに驚いて手を当てる。
血がついている。
「……え?」
咲夜が使っているのは弾幕用のナイフ。間違っても刃物の鋭さはない。だから肌が切れることなど決してないはずなのに。
では、今飛んできたナイフは―――――――本物なのか。
「お、おい、ちょっと待て」
「ええ待つわ。けれど次に時が動き出したとき――――――あなたの心臓は止まったままよ!!!」
咲夜と美鈴が一斉に攻撃を開始する。冗談じゃない、と魔理沙は急旋回して彼女たちから逃げる。
相手は本気も本気、弾幕ごっこの法定外、相手を殺してはならないという規則を破っている。
妖怪である美鈴はもとより、咲夜の力も超人的。弾幕ごっこでやっと対等であったというのに殺し合いになったら魔理沙が不利なのは明確。
相手を殺してはならないというのは極端に言えば妖怪側に設けられた制限、武器を使うならば果たさなくてはならない役目。
咲夜であればナイフは命を奪う目的で使用してはならないし、美鈴であれば人間を死に至らしめるほどの出力を控えなければならない。
逆に人間側は丈夫な妖怪に対してほぼ全力で戦える。咲夜は人間だが、同じ人間に対するならば武器で命を奪うことをしてはならない制限がある。
だから人間である魔理沙に本物のナイフなんか使わないはずなのに、どうして今日に限って紅魔の者たちは殺すつもりで攻撃してくるのか。
攻撃を必死で左右にかわしながら魔理沙は咲夜に振り返る。
「や、やめろよ咲夜! 冗談にも限度があるぜ!? 中国も! なんで急にこんな――――――」
「あなたは間違えた。往く道を、見るべき景色を、そして何より幻想郷の優しさを見間違えたのよ」
美鈴の目には殺意。魔理沙の背筋を悪寒という名の蛇が這う。
訳がわからないと逃走を続けながら魔理沙は思考する。殺されるようなことをした覚えがあるだろうか。
図書館の件であるのならば出張るのはパチュリーのはず、門番とメイド長が揃って出てくるには理由としておかしい。
だとすれば何の罪で? 考える魔理沙の頭上に、ふと影が落ちた。
「――――――ッッッ!!!!」
鍛え上げられた本能が危機を察知し、即座に頭上と垂直方向に飛ぶ。
回避、直後に何かが空より落ちてきて湖に落下。水柱とともに蒸発した水が水蒸気となって立ち込める。
落ちてきたのは紅い、紅い柱だ。神々の黄昏において世界を焼き尽くすであろうと謳われる炎獄の魔杖。
「……よお、フラン。外の日差しは気にならなくなったのか?」
急な移動で脱げかけた帽子を被りなおし、魔理沙は攻撃の起点を見上げる。
そこには美しい七色の宝石の羽を生やした異様な吸血鬼、破壊の申し子フランドール・スカーレットがいた。
彼女は燃える魔杖を片手に持ったまま無垢な笑顔を向けていった。
「なんで? 今は曇りだよ、パチュリーのおかげでね」
見ればフランの横には紫の魔導着を纏ったパチュリーがいた。
逃げるのに必死になっていた魔理沙は気づいていなかったのだが紅魔館に来た折から雲が集まっていた。
パチュリーは目を細めたまま魔理沙を見下ろしており、すでに戦闘態勢が整っていた。
まずい、と魔理沙はできるだけフランからめを離さないようにしながら後ろを振り返る。
背後には追いついてきた咲夜と美鈴がおり、前方にはパチュリーとフラン。まさに前門の虎と後門の狼だった。
「ねえ魔理沙、今日はとっても素敵な日なんだよ」
咲夜と美鈴が攻撃してくる気配は今のところはない。
フランの話を止めて機嫌を損ねないようにしているのか、それとも攻撃のタイミングを合わせようとしているのかはわからない。
だがわずかな沈黙さえも今の魔理沙には十分すぎる恐怖だった。
「お姉様が魔理沙を使って好きなだけ弾幕ごっこしてもいいって言ってくれたの。嬉しいよ、すごく嬉しい。嬉しすぎてドキドキが止まらない。ねえ、魔理沙もそうでしょ?」
――――――心臓が止まるくらい、ドキドキしてるでしょ?
頬を染めて恍惚しながらフランドールは表情だけで語った。
本当にそれだけで魔理沙は聞こえないはずの声を聞いた気がした。
「………ぁッ!!」
逃げる。今日はまずい、今日の紅魔館の人妖は壊れている。
弾幕ごっこで背を見せたくはない。でも、見せなければ自分は二度と太陽の下に出ることは叶わない。
知能を持つ動物としての防衛本能が魔理沙に逃走を促す。
逃げろ――――――たとえ腕が千切れても足を噛み千切られても、自らをこの領域から逃がせと叫んでいる。
「ブレイジングスタ――――――ッッッ!!!!!!」
飛ぶ、それこそ泥棒に入ったときの比ではない。正真正銘全速力の逃走。
星を散らしながら超高速で湖から離脱する。
ここは湖上。障害物がないぶん、下手に避けるよりも圧倒的な速度をもって逃げるのが上策と考えたのだ。
その背後で乾いた、けれども聴く者を魅了する美しい笛を思わせる声が聞こえた。
「逃がさない」
パチュリーだ。
攻撃が来ると直感で思った魔理沙は速度を保ったまま身を倒してスペルの軌道を横に逸らす。直後に下、湖から巨大な水柱が立った。
触れたものを飲み込んで押しつぶす自然の鉄槌。間違いない、パチュリーの精霊魔術だと魔理沙は確信した。
さらに湖から空へと噴き出す水流の魔手。時折掠りながら魔理沙は水の嵐を潜り抜ける。
「大人しくしなさい。でないと、命の保障はできかねるわ。大丈夫。妹様だけじゃなくて私も可愛がってあげる。ちょうど従順なモルモットが欲しかったの」
言いながらパチュリーまでもが魔理沙を追う。その魔力の激しさは紅霧異変のときとは比較にならない、遊びが一切ない攻撃だった。
「(まさか、これが異変なのか!?)」
彼女たちの行動は常軌を逸している。普段の彼女たちであれば殺しと遊びの区別がつかないようなことにはならない。
それはすべての人間に共通するが、しかし。
「く……っ(霊夢はいつもどおりだったし、私も普通のままだ。でも咲夜はおかしくなっている、いったいどういうことなんだ?)」
パチュリーの執拗な妨害で速度を落としながらも魔理沙は異変について考えた。
妖怪だけがおかしくなったわけではない。人間である咲夜もまた普通ではない。ではなぜ霊夢と自分は無事なのか。
考えられるのはひとつ。内的要素ではないとすれば外的要素、つまりフランたちが誰かと出会っていて魔理沙と霊夢が出会っていない可能性のみ。
人種、能力、その他生物としての機能の共通点ではないとすれば影響を及ぼす誰かに出会ったとしか考えられない。
「パチュリー、目を覚ませ!! フランも!!!」
「目を覚ます? 夢から覚めるべきはあなたのほうよ、魔理沙。世界は夢を与えてくれない、人が夢を見るのは見るべき現実が見えていない証拠」
「きゃは☆ 魔理沙!!! マリサマリサマリサマリサマリサマリサ――――――!!!!!」
「ちぃっ……!(操られているのか。それとももっと別の要因なのか? くそ、判断材料が少なすぎる)」
霊夢の言っていたことも今なら理解できる。ずっと家にいれば影響を及ぼす誰かと出会う可能性も圧倒的に減り、文字通り嵐が過ぎ去るのを待つことができる。
奇しくも住所は迷いの森。よほどの広範囲でないかぎり魔理沙と異変は関わることはなくなる。
だが異変なのだ。これを解決しなければ被害は広がっていく。さしあたっては紅魔館の面々なのだが。
「(正面から勝負を挑んで勝てる人数じゃない。まともに戦ったって勝てるかどうか……)」
だから逃げる。逃げて、異変の原因となっている誰かを見つけて退治する。そうすれば紅魔館の面々も正気に戻るに違いない。
幸いにもレミリアがいない。彼女がいたならばいくら魔理沙が人生の袋小路に追いつめられるのは確実だっただろう。
湖の終わりが見える。魔理沙は減速どころか加速して森に突っ込み、背後から飛んでくる弾幕を避けながら再び上昇。
「ッ……!!! ふうっ、我ながらやばい散歩だった」
スペルを解除し、後ろを振り返る。
紅魔館の面々は追ってこない。さすがに湖を越えてまで追ってくる気はないようだ。
「こりゃ、いくつ命があっても足りないな。異変が解決したらたっぷりお礼を貰わないと割に合わないぜ」
愚痴をこぼしながら魔理沙は湖から遠ざかる。高度を上げ、速度はいつもの二割減で。
とにかく時間、時間が欲しかった。どんな異変なのかを考える時間が。
「(フランたちがおかしくなっているのをレミリアが黙って見ているとは思えない。フランが言っていたことが正しければ、レミリアも異変の人物に出会っている可能性が高い)」
ならば紅魔館へは行くことはまずい。少なくとも異変が起きている今、紅魔館は魔理沙を拒絶しつづける。
さらに浮かび上がった問題はパチュリーだけでなくレミリアほどの強者にも影響を与える妖怪かもしれないということ。
紅魔館の面々がどれだけ強いかは弾幕ごっこをしてきた魔理沙にはよく分かっている。だからこそ彼女たちが操られるなどとはにわかに信じ難かった。
「……今回はかなりやばそうだな」
無意識のうちに魔理沙は自分の腕を掴んでいた。
操られているだけならまだしも、彼女たちが放ってきたのは本気の弾幕。相手を殺すつもりで放った“攻撃”だ。
「う………」
当たれば死ぬかもしれない。それでなくとも他の人妖たちも紅魔館の面々と同じように操られていると思ったら怖い。
――――でも、今立ち向かわなければ“歪み”はやってくる。
歪んだら取り戻せなくなる。取り戻せなくなったら何もできなくなってしまう。何もできなくなるのは死ぬことよりも怖い。
彼女は俯きかけた顔を上げて、帽子を深く被りなおす。
「―――――行かなきゃ、だよな」
一気に速度を上げる。異変に立ち向かうため、歪みに立ち向かうため。
「ここから一番近いのは……永遠亭か。人里は関係なさそうだし、後回しで問題ないな」
目的地を定めた箒が速度を増す。
速く、もっと速く。何かが壊れてしまう前に押しつぶそうとしてくる歪みを押し返す。
まだ太陽は真上に昇っていない。
◆ 迷いの竹林 AM9:30 ◆
「いかんな……迷った」
意気込んで永遠亭へ向かってみたのはいいものの、肝心の道が分からないため魔理沙は迷ってしまった。
「こういうときは幸せの白いウサギが助けてくれるんだが」
期待はできない、と口にしようとして言葉を飲み込んだ。
紅魔館のときと同じようにおかしくなっていたとしたら襲われるかもしれない。今度は避けきれないかもしれない。
風で竹の葉がこすれるたびに魔理沙は自分の背中にムカデが張ったような錯覚に捕らわれていた。
悪寒を振り払うかのように頭を振り、とりあえず警戒しながら竹林のなかを進む。
しかし、とふと魔理沙はおかしなことに気づく。
「そういや妙だな? 白いウサギはともかく、さっきから同じところを回っている気がする」
迷っているのだから同じところを回っていても別段不思議ではない。
不思議ではないのだが、魔理沙は“そういう芸当ができそうな妖怪”を知っている。
試しに石を拾って身近な竹に傷をつけ、そこからまっすぐにゆっくりと飛行する。
数分後、右側に傷のついた竹を見つけた。
傷はさきほどつけたところよりも高いところにあった。
「……こんなことだろうと思ったぜ。出てこいよ、どうせ近くに隠れているんだろ」
竹林に魔理沙の声が木霊する。
やがて、少し太い竹の陰から一匹の妖怪兎がその姿を現した。
「やっぱりお前か鈴仙。幸運の嘘吐きウサギも一緒か?」
「てゐならいない。それに今あの子のことが関係ある?」
「いいや、まったくないな。で、お前の師匠と主人はいないのか? まああの引きこもりたちが出てくるとは思えないけど一応な」
「ええ、そのとおり。師匠と姫様は来ない。私ひとりだけ」
鈴仙の言葉に魔理沙はわずかながら安堵した。
相手は一人、それも目を合わせなければいい。最悪、怪我することを承知で竹の屋根を突き破って上空に逃げればいい。
余裕がある分だけ冷静になれる。冷静になるほど考えられる物量が多くなる。
情報とは奪うものであって与えられるものではない。だから魔理沙はどうすれば欲しい情報が手に入るのか、全力で考えをめぐらせる。
(外から来たばかりの妖怪に案内するほど永遠亭は馬鹿な集まりじゃない。だとすると鈴仙だけが影響を受けたと考えるのが妥当か?)
だとすれば輝夜と永琳は異変の影響を受けていないことになる。しかし異変の影響を受けているかどうかを判別するためには弾幕で試すしかない。
今のところ鈴仙が襲い掛かってくる気配はない。紅魔館の面々がいきなり攻撃してきたのに対し、彼女は正気のように見える。
しかし迷わせようとしたところを見ると鈴仙に敵意があるのは間違いない。
「一人でぶらぶらしていていいのか? 私に構わずどこかへ行ってくれていいんだぜ」
「それは私の台詞。あなたはここではない場所へ行くのよ」
「迷わせておいて何を言っているんだ。迷ったら竹林から出られないじゃないか」
鈴仙の雰囲気が変わる。異質な、まるで魔理沙を飲み込もうとする巨大な獣のような殺気をもって。
「出られるじゃない、ここから“地獄”へ。ほら魔理沙、あなたを迎えに冥界から使いが来たわよ」
そう言って鈴仙は魔理沙の背後を指差した。
彼女の言葉に大きく心臓が跳ね上がる。冥界からの迎え。その一言が容易に人物を特定させた。
ふわり、魔理沙の顔の横を極彩色の蝶が通り過ぎる。
息が途端に白くなる。ガチガチと歯が鳴る。次に襲い来るだろう恐怖に全身が凍りつく。
それでも振り向かなければいけない。体を震わせながら魔理沙は後ろへと振り返る。
そこには――――――幻想郷で最強の死の具現と、冥界を一閃で駆け抜ける冷酷な刃が立っていた。
その名を西行寺幽々子、魂魄妖夢。
「お早う魔理沙。こんなところで出会うなんて奇遇ね」
「こんな陰気なところで陰気な連中と出会いたくなかったな」
「あら、私は陽気よ。四季の花を見ては歌を詠み、鳥の声が聞こえれば鼻歌を口ずさむ。そして竹を見ては風の音に耳を澄まし、月を眺めて酒を楽しむ。これほど風流な幽霊が他にいて?」
「生憎、情緒のわからない人間なんでな」
「残念ね、やはり俗物に雅を理解する心などないのかしら。それともあなたも亡霊になれば分かるかしら」
考えたくなどなかった。否、彼女らが永遠亭に来ることすら予想していなかった。そもそも迷いの竹林にやってくる理由がない。
だが、冷静さを失いつつある頭でもひとつだけ確信できた。
(鈴仙が私を迷わせたのは幽々子たちが来るまでの時間稼ぎ………!!)
鈴仙がなぜ白玉楼の二人を呼んだのかは分からない。だが目的はひとつ。そしてその目的の線上に立っている魔理沙に、勝てる要素はひとつもない。
瞬間、やることは決まった。
「スターダスト――――――」
「未来―――――――」
魔理沙がスペルとともに箒を構えた。同時、妖夢が抜刀術の構え。
―――来る。二百由旬を一閃で駆ける神速の剣が。
肌を通して伝わってくる殺意のこもった視線と必殺の緊張感と刃の赤い煌めき。触れれば怪我では済まない。
三十六計逃げるにしかず。勝負は一瞬、妖夢の攻撃が避けられるか否かで魔理沙の命運は分かれる。
「――――レヴァリエ!!!」
「――――永劫斬!!!」
静かな竹林を天の流星と幽冥の刃が駆ける。
妖夢の狙いは魔理沙。魔理沙の狙いは――――――空。
「いっけええええっっ!!!!」
一番薄い竹の天井に向かって急上昇をする。狙いが外れた妖夢には目もくれず、ただ目標に向かって突き進む。
間違いなく一直線。何の迷いもなく逃げることに専念する。
あと少し。一秒あれば突き抜けられるくらいあと少しなのに。
「月兎遠隔催眠術」
後ろから響いた声が視界を狂わせた。
照準がずれた。平衡感覚が麻痺し、向かっていたはずの天井が横へとずれていく。
わからなくなる。そもそもまっすぐ飛んでいるのか、それとも自分が横へと移動して行っているのか。
鈴仙と目を合わせた覚えはない。けれど、何かをきっかけに目を見てしまったのは間違いなかった。
どこへ飛んでいるのかも分からなくなった魔理沙はまっすぐに竹の壁に激突、急激に速度を失った。
魔理沙が壁に当たっている間に妖夢が竹を蹴って反転、一撃目よりもさらに速度を上げて襲い掛かる。
「くっそ……!」
急いで体勢を整えるも妖夢は目の前、魔理沙は剣の射程内に捉えられていた。
「はあああああぁぁっっっ!!!」
裂帛の気合とともに放たれる一閃。
空振り。
「ちぃっ!」
「うわっ」
さらに詰めてくる妖夢を避け、魔理沙は再び上昇する。
竹の葉で肌が切れるのも構わずに上昇し続け、なんとか上空への脱出に成功する。
眼前に広がる蒼い空と無数の蝶の群れ。
「――――――――は」
思わず息を呑む。
目の前には待ち構えていたかのごとく、藍染の桜模様が描かれた扇子を背景にして幽々子が浮いていた。
迫り来る蝶は輝く鱗粉を散らして渦状に回りながら魔理沙との距離を縮めていく。
ゆらり。ゆらり。
風とともに舞う姿は春風で散った桜の花びらに似ていた。
妖夢はすでに追いつめたことを悟ったのだろう。蝶たちの輪の外から見ていた。
わかっている、これは詰みだ。本当なら魔理沙は竹から出てきたところで一斉攻撃に合い、魂は現世を離れていたであろう。
ではなぜ幽々子は攻撃を仕掛けてこなかったのか。
「魔理沙、何か言い残したことはあるかしら」
答えは遺言を聞くため。華やかな亡霊は冥界の管理者にふさわしい貫禄をもって魔理沙に尋ねた。
「……じゃあ聞かせてもらうぜ。お前たち、最近誰かと出会わなかったか?」
「あら、目の前にいるじゃない」
「私以外の誰かだ。そいつが色んなところを尋ねまわっている、そしてそいつが異変を起こしているんだ」
「異変ねえ。妖夢、妖夢。誰か尋ねてきた人はいたかしら?」
「いいえ幽々子さま。そのようなものはおりません」
そんなはずはない。広範囲の、それこそ幻想郷に行き渡るほどの異変であるならば間違いなく魔理沙とて正気でいられるはずがない。
「嘘つけ。じゃあなんで私を殺そうとするんだ。紅魔館もそうだったがお前ら本気で攻撃してきてるじゃないか」
「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。あなたのような傍若無人で自己中心的な人間には永久に理解できないわ」
「幽々子様のおっしゃるとおり。さあ、大人しく命を差し出してもらおう」
学のない魔理沙には幽々子の言っていることが分からない、ただ二人が狂気に満ち溢れているのは確かだった。
狂気といえば鈴仙なのだが彼女が紅魔館まで行って、あまつさえ全員を術中に嵌めるようなことができるとは思えない。
それに狂気といっても殺意を増幅させれば霊夢の目に留まる。鈴仙がそれを承知していないわけがない。
やはり幻想郷の仕組みをよく理解していない妖怪の仕業としか考えられないのだが、しかし直接会っていないのならどうやって異変を起こしているのか。
「差し出せと言われて、はいどうぞと渡せるほど安くはないぜ(事実を確かめるためにも何とかして逃げ出さないと……)」
「あらそう。じゃあいいわ、無理矢理奪うから」
死を弄ぶ指先が動く。
攻撃に備えて魔理沙が集中力を極限まで高めた、そのとき。
突然、横から複数のレーザーが走って幽々子の蝶をまとめて薙ぎ払った。
「魔理沙!!」
「アリス!?」
「はやく、こっちよ!!」
魔法の森の隣人、アリス・マーガトロイドが人形とともに現れた。
嬉しい援軍に魔理沙は喜び、蝶の包囲網の欠けたところから一気に抜け出す。
「逃がさんっっ!!!」
「来させるか! いけ、オーレリーズソーラーシステム!!」
勇ましい宣言とともに現れる六つの球体。それらは魔理沙の命令を受け、円状に回転しながら妖夢へと飛んでいった。
「くっ!」
「魔理沙、早く!!」
「わかってるぜ!!」
妖夢が球体の攻撃を受けて立ち往生している間にアリスと魔理沙はその場を離脱、迷いの竹林から離れていった。
そのすぐあとに球体を斬り伏せた妖夢が追おうとしたが、そのまえに幽々子が彼女を止めた。
「妖夢、妖夢。追うのはあとでいいわ、それよりも先にすることがあるでしょう」
「……はい」
渋々ながら剣を収める妖夢。「それでいいの」と朗らかに幽々子は笑うと妖夢とともに竹林に下りる。
下では鈴仙が待っており、幽々子たちが降りてくると瞳を細めた。
「なぜ魔理沙を逃したのか説明してもらえますか」
「あら、気を急いては事を仕損じるという言葉を知らないのかしら。焦らなくても時間までは十分に時間があるでしょう」
「だからこそ早めに叩くべきです。なぜそうしなかったのか聞いているの」
「鈴仙。たとえあなたでも幽々子様への無礼は許さない」
「いいのよ妖夢、刀を納めなさい。でもそうね、ここで魔理沙を仕留めなかったのは“こうなることが予測されていた”からよ」
幽々子の言葉に鈴仙だけでなく、妖夢までも目を丸くした。
つまり、幽々子は魔理沙を助けるためにアリスがやってきて妨害することもあらかじめ知っていた。
だからこそ魔理沙は逃げたのであり、幽々子は何の策も講じずに逃がしたということになる。
それこそ理解に苦しむことだ。なぜ幽々子は魔理沙が逃げることがわかっていながら逃がさない策を講じなかったのか。
「予測されていた? どういうことですか幽々子様」
「こういうことよ。ねえ、レミリア嬢?」
幽々子が口元を扇子で隠しながら右方へと視線を送る。すると暗闇からレミリアと日傘を持った咲夜が現れた。
まったく気配に気づかなかった鈴仙は驚愕を隠せなかった。
「いつの間に……!?」
「ついさっきね。それと西行寺、その呼び方は気高さが感じられないわ。もっと格調高くスカーレット公と呼びなさい」
「あら、お守りがいなければ満足に日の下を歩けないお子様にはぴったりじゃない?」
「ハッ! 口の減らない死人に言われたくはないな。だいいちお前とて長く顕界にはいられまい」
幽々子とレミリアの間で静かに激しい火花が散る。
相性の問題か、それとも互いに嫌悪しあっているのかは定かではないがまず親しいという雰囲気ではなかった。
一触即発の空気のなか、瀟洒な仲裁が入る。
「お嬢様、時間は有限に御座います。戯れは事態の後でよろしいかと」
「わかっているわ。そこの薬師の弟子、さっさと案内してもらうわよ。お前たちの隠れ家に」
「永遠亭に? どういうこと?」
「あなたには説明していなかったけれど、私もレミリア嬢も魔理沙の逃げ道を塞ぎに来たの。万が一、そう、万にひとつの可能性を潰すために。もちろんあなたのところの姫様も承知のことなのよ」
鈴仙は強烈な威圧感に息を止めてしまった。
白玉楼の主と紅魔館の主が彼女の目の前でひとつの目的のために集まっている。幻想郷のため、ただひとつの楽園を守るために修羅となって。
もちろん鈴仙とて理解している。だからこそ幽々子に追撃の催促までして、心を鬼にしたつもりだった。
甘い、と鈴仙は自らを叱咤する。
彼女たちの執念は本物だ。そうでなければ目先のことに捉われず、冷酷な手段に躊躇しないことなどできはしない。
霧雨魔理沙を期限までに消去する。それが絶対のことならば同じく絶対の備えをもって魔理沙を追い詰める。
そして自らの仕えている姫もまた、彼女らと同じ考えをもっており鈴仙ごときの思慮など及ばぬところで動いている。
「わかりました。こちらです」
改めて主人を尊敬した鈴仙は四人を永遠亭へと案内する。
妖怪たちの秘密の会合。それは静かに、静かに行われた。
目的はひとつ。霧雨魔理沙を幻想郷から消し去るために。
―――押し寄せる苦難を跳ね除け、道理を道理によってねじ伏せる。
―――力の上下が強者と弱者という関係を生み出し、世界は力のもとになびく。
力があれば私にもできる?
力さえあれば私のような人間はいなくなる?
―――それは君を悪にする。力によって捻じ曲げられたものは必ずどこかで歪みを生む。
―――そして歪みは君に襲い掛かり、君はまたその歪みを跳ね返すたびに新たな歪みを生む。
―――力で何かを変える者は生まれた歪みに対して向かっていく責任がある。
だったら私は何度でも跳ね返すよ。
私のような子どもがいなくなるためなら、何度だって跳ね返す。
―――その為に君が犠牲になるとしても?
犠牲になんてならない。私はずっと憎まれ役で構わない。
だから意地悪くても生き続ける。どんなに無様でも、それこそ泥に這いつくばってでも生きる。
それが私の責任だぜ。
◆ 魔理沙の最も長い一日・AM6:00 ◆
「ん……」
眩しい光に瞼を刺激されて、天然ではないくしゃくしゃの金髪の少女が目を覚ます。
霧雨魔理沙、職業は普通の魔法使いをしている人間。住所は幻想郷と呼ばれるところの魔法の森のどこか。
趣味はキノコと蒐集。それなりに健康的な日常を送っている女の子である。
「ぬわっ」
朝の光から逃れようと彼女は寝返りを打ったのだが、タイミング悪くベッドの端っこだったらしく布団ごと床へ落ちてしまった。
見上げればそこは見知った天井。木でできた古めかしい我が家に改めて嘆息しながら起き上がる。
「いってぇ………まったく、朝から運気がないぜ」
誰にでもなく文句を言いながら魔理沙は被っている布団を適当に放り投げる。
部屋は色んなジャンルの書物やこれまで彼女が見つけてきた蒐集物が散乱していて、人が歩くスペースはあまりない。
しかし誰よりも良く知る我が家だからなのか、魔理沙は床の見えているスペースへと次々と飛び移っていく。
掃除をすればいいのに、とは彼女をよく知る人間の弁。しかし魔理沙には掃除をする気などまったくない。
というのも蒐集物を集めるだけ集めて、すぐに興味を失くしてしまうために放ったままになる。
だがいつか、もしかしたら役に立つ日が来るかもしれないと考えて放置する。掃除をするとどこに何を置いたかを彼女が忘れてしまうからだ。
「しまった、食うものがないのを忘れてた………」
ぽりぽりと目覚めの悪い頭を掻きながら魔理沙は外を見る。
夏が迫った魔法の森にはわずかに朝靄がかかっており、まだ朝になってあまり時間が経っていないことを表している。
もう少し時間が経つまで朝ごはんはお預けか、と丁度考えたところで腹の虫が呻く。
「そういや昨日の夜もお預けだったなぁ……」
魔理沙は昨夜、知り合いから借りてきた書物で研究をしていたときに食べる物がないと気づき、仕方なくそのまま食事を放棄していた。
再び腹の虫が鳴く。このままでは我慢できそうにない、今すぐに朝飯を相伴できる相手はいないものかと魔理沙はうぅむと頭を捻る。
「そうだ、霊夢のところに行こう」
とりあえずいつも世話になっている巫女のところへ行こうと思い立ち、魔理沙はさっさと着替えを始める。
魔法使いの正装とも言える黒のエプロンドレスに着替えて魔女帽を被り、壁に立てかけていた愛用の樫の箒を手に取る。
そして外に飛び出すと家の鍵もかけずに箒に飛び乗って一気に空へと上昇する。
朝を迎えたばかりの空は暖かく、夏が近いことをより一層強く感じさせた。
◆ 博麗神社 AM7:00 ◆
箒に跨ったまま境内に足が着くまでゆっくりと降りると、まるで待ち構えていたようなタイミングで巫女が神社から姿を現した。
巫女、博麗霊夢は巫女服に桃色のエプロンという一風変わった姿をしていた。おそらく魔理沙がやってくるまで料理をしていたのだろう。
「よう、霊夢。呼ばれに来たぜ」
「呼んでないわ」
「いつものことだろ。それより腹ぺこなんだ、早く朝飯の用意をしてくれ」
「相伴を預かる身でよくそこまで堂々とできるものだわ。とりあえず上がんなさい、外は暑いでしょ?」
「ああ、暑くて死にそうだぜ」
ぽいっと靴を脱ぎ捨てて神社のなかに上がると魔理沙の鼻腔を味噌の薫りがくすぐる。
外は暑いというのに熱い味噌汁を作る霊夢の気持ちが理解できない魔理沙であったが、文句を言ったら陰陽玉が飛んできそうなので自重する。
できれば冷たいそうめんが食べたかったが都合よくあるはずもなく、そして言えば夢想封印が飛んでくること間違いなし。やはり自重する。
自重するだけ進歩した自分を褒めてやりたいと心のなかで威張る魔理沙。そこへ霊夢が朝食を運んできた。
「まったくいつものこととはいえ、少しは遠慮くらいしてほしいわ」
「言葉だけでいいのならいくらでも」
「嘘の大売出しね、ウサギが喜ぶわ」
言いながら霊夢はご飯と味噌汁の椀を魔理沙の前に置く。それから自分の分の椀を運んでくるとエプロンを脱ぎ捨ててから卓袱台の前で正座し、両手を合わせる。
魔理沙も一緒になって手を合わせ。
「「いただきます」」
朝食の始まりである。
箸を進める二人のあいだに会話はない。魔理沙は料理に舌鼓をうっており、霊夢は音も立てず静かに食に集中する。
開け放たれた障子から入ってくる風が彼女たちを涼ませ、森に集まった小鳥の即席合唱団が耳を楽しませる。
風雅な朝食の静寂を破ったのは魔理沙だった。
「なあ霊夢。今日珍しい夢を見たんだ」
「大抵珍しいものしか見ないと思うけれどね。で、どんなの?」
「おお、それなんだが驚くことに香霖が出てきたんだ。それで厚かましくもこの魔理沙さんに説教してきたんだ」
えへんと胸を張って魔理沙は再び米を口へと運んでいく。
香霖とは魔理沙と同じ魔法の森で雑貨店を営んでいる店主、森近霖之助への魔理沙なりの愛称である。
霊夢も知っているもの静かな男性で変わり者。話を聞いた霊夢は冷めた反応で味噌汁を含み、静かに嚥下してから口を開いた。
「霖之助さんの説教なんて聞き飽きているじゃない。ツケを払えとか、慎みが足りないとか色々」
「そういうんじゃないんだが……まあいいか」
内容を話したところで無駄だろうと魔理沙は最後の一口を食す。
「ごちそうさま。じゃあちょっと香霖のところに行ってくる」
「あ、ちょっと魔理沙待ちなさい」
「なんだよ? 質問と用事は短絡かつ簡潔に頼むぜ」
「今日はあまり外を出歩かないほうがいいわ」
突然の忠告になんのこっちゃと魔理沙は首を傾げる。
明確な説明もなく曖昧であるということは余計な混乱しか生まない。いつも物事をはっきり言う霊夢らしくない。
それともただ、短絡で簡潔に話せを言った魔理沙の要求どおりにしただけなのか。なぜ外を出歩いてはいけないのか気になって魔理沙は深く追求する。
「なんだ? なぜ外を出歩いちゃいけないんだ?」
「なんとなく、ね。アンタに嵐が迫っている気がする。けれど家にいれば通り過ぎる、それだけは言える」
「嵐?」
嵐は外にいれば巻き込まれる。何かに囲われていれば嵐が過ぎ去るのを待てる、だからおとなしくしていろ。
それがなぜかひどく脅迫めいた響きを持っていたのは小鳥のさえずりが平穏すぎるからか。
冗談じゃないと魔理沙は心のなかで唾を吐き、強く歯を噛みしめる。
「そうか、異変だな。異変が起きたんだな? それで私を除け者にしようって魂胆か。はっはーん、そうはさせるか。大人しくしていろと言われて大人しくしている魔理沙さんじゃないぜ」
逆に良いことを聞いた、と魔理沙は颯爽と箒に乗って晴天の空へと駆けのぼる。
異変、異変である。幻想郷に度々降りかかる冗談のようで冗談ではない災厄。それが再び訪れた。
本来異変に立ち向かうべきは幻想郷の調停者たる博麗の巫女であるが、魔理沙も『迷惑な妖怪退治』と称しては異変の解決に乗り出す。
今度は霊夢より先に異変の原因を見つけて、霊夢の悔しがる顔を拝んでやると意気込みながら魔理沙はグングンとスピードを上げて飛んでいくのであった。
一方、霊夢はというと魔理沙が消えていくのを遠い目で見送ると再び卓袱台に戻って茶を用意する。
それからゆっくりと湯呑みを傾けて、一言。
「困ったものだわ」
「まったくね」
どこでもない場所から聞こえた声に霊夢が答える。そして空間に割れ目が出現、そこから金髪の妖美な女性が這い出てきた。
彼女は大妖怪、あらゆる境界に住まうとされる八雲紫。名のとおり紫色のゴシックな衣装に身を包んだ女性が優美に微笑んだ。
「困ったちゃんはアンタの方よ、紫。勝手に人の会話を盗み聞きして趣味が悪い」
「またまた、無理に褒めなくてもいいわよ」
「無理をして褒める気にもならないわ」
そっと霊夢はため息をつく。
(魔理沙……じっとしていれば何も起きなかったかもしれないのに)
兆候は現れた、八雲紫がそれである。彼女が来たということはその“異変”が起きたということになる。
異変、異変である。外の非常識が流れ込んでくる幻想郷という場所において、天災と呼ぶよりも自然現象と呼ぶほうがよく当てはまる異変。
吸血鬼に亡霊、不死の民に地獄の住民、さらには人ならざる者たちや神。いずれも超常の存在である。
そのなかでも一際目立つのが霊夢。人間でありながら抑止力であり調停者である彼女という存在は数多の幻想たちを惹きつける。
在り方か、それとも彼女自身であるかは誰も知り得ないが確かに博麗の巫女というのは幻想郷で強い人間に区分される。
では、強い人間は他にいないのか。
例えば十六夜咲夜。時を止め、空間さえも歪ませる彼女は異端中の異端。だが在り方は紅魔館に偏っており人間の味方とは言えない。
魂魄妖夢。半人半霊にして冥界にある白玉楼の庭師。こちらも人間のために異変へと出張るような在り方はしていない。
藤原妹紅。蓬莱の薬に手を出し、永き時を生きてきた不死鳥。里の護り手である上白沢慧音と親交があり、より人間側であるといえるが彼女の目的であるかといえば相違する。
東風谷早苗。風祝にして現人神。上記の三人よりも人間側であることは間違いないが発展途上、強者であるかと言われれば否とせざるを得ない。
ならば、他に誰かいないかとしたときに名前が挙がるのは誰か?
それが霧雨魔理沙、普通の魔法使いにして異変に自ら飛び込んでいく勇気ある人間の少女だ。
数ある異変と対峙したことがあり、小さな体躯に合わぬ強力な力を持ち、多くの妖怪たちとも親交を持つ。
博麗と並ぶ人間の英雄。そう称されることも致し方ないといえよう。
逆にいえば、“そうあることで困る妖怪が存在する”と考えたことはないだろうか。
(魔理沙はよくやっている。けれど)
幻想郷を維持する調停者がいる以上、霧雨魔理沙は不要。つまり“ここですでに幻想は足りている”のだ。
いかなる非常識、幻想であっても受け入れる。だがもしも自らを救いたる人間が幻想郷の存在維持に事欠く場合。
果たしてそれは受け入れられるのか?
「ようやく決まったわ。全員一致で“霧雨魔理沙を幻想郷から消去する”ことになった」
やっぱり、と霊夢は呟いてから茶を飲む。
表面上は冷静で関心がないように見えたが、彼女の湯呑みを持つ手が小刻みに震えていた。
「霊夢、今こそ幻想郷を守る博麗の巫女として動くべきではなくて?」
「………私は別に、守っているわけじゃない」
「そう、そうよね。あなたはいつも迷惑なことをしでかす輩を黙らせているだけ。でも判っている? “それは全部あなたの意思ではない”のよ」
「話の論点がずれているわ。私は迷惑なことをするやつらを叩きのめしているだけ。魔理沙は何もしていない」
魔理沙が悪いことをしていない。否、それは相手の物を強奪することや家屋を破壊するという軽度の犯罪を指すのではない。
幻想郷の害悪になることをしたか。つまりはそういうことなのだ。
むしろ魔理沙の異変を解決しようという動きは人間たちを守るものであり、排除する理由などどこにもない。
「わかっていないわ霊夢。古き経典にあるとおり、あなたは一にして全の存在。一人で妖怪たちと対等になれる力がある。あなただけが異変に立ち向かうだけで十分なのよ」
「だから何? 魔理沙がいたら問題あるっていうの?」
「あるわ。人間は博麗の元で守られ、博麗の手によって均衡を保たれる。それなのにあの子がいたら人間の心は博麗に集まらなくなる」
「人の心が集まったって賽銭箱の中身は変わらないわよ」
「いいえ、“それでいいのよ”。あくまであなたは中立、人間に信仰されてしまえばそれはそれで意味がない」
好き勝手を働く妖怪を抑止し、人間の立場を守りながらも決して人間に信仰される存在であってはならない。
どんな色に汚されることもなく白で、常に零であることを保ち続ける存在。それが博麗。
そこへ飛び込んできた霧雨の色。博麗とは異なる行動と思考であるにも関わらず博麗と同じ行動をする。
それが、八雲紫には目障りだった。
「私もあの子のことは気に入っていたわ、何よりも一生懸命で面白かったしね。けれどあまり一生懸命すぎるのも困るときもある」
「……………」
「すでに各方々には連絡済み。もちろん今から家に戻ったとしても間に合わない、この嵐は家諸共吹き飛ばす。霊夢、あなたの助言は初めから無意味よ」
嵐は本来意思を持たない自然災害。しかし意図的に引き起こされたのであればそれは目的を果たすまで暴れる武器となる。
嵐のまえには予兆がある。予兆が表れるのは原因がある。原因には必ず何かが関わっている。
連鎖とは呪いだ。誰かが狙っていなくても知らないうちに仕組みを起動させてしまう。
そして呪いは伝染する。解除するのは呪いが自らを食い尽くすまで待つしかない。
ならばこの呪いは、魔理沙を覆おうとしている呪いはいつ晴れるのか?
霊夢は思う。霧雨魔理沙が幻想郷に存在し続けるかぎり、ありとあらゆる連鎖が彼女を囲って心臓へと噛みつくまで消えない。
毒、毒だ。呪いは毒に似ている。毒は自らの領域を広げ、侵蝕が許されるならばどこまでも範囲を広げていく。
蛇の牙から動脈へ、動脈を流れる血液を伝って毒は全身へと広がる。そして必ず心臓へとたどり着く。
だから八雲紫は毒である魔理沙が心臓に達するまでに処断することを決めたのだ。
「レミリアの予測だと魔理沙が起床した時間と同じ、明日の午前六時までに魔理沙がいなくなれば歪みは現れないとのことよ」
元より幻想郷は幅の狭い麻の綱を渡っているような危険な綱渡り。
バランスをわずかに崩しただけで綱は渡り手の意思とは関係なく千切れてしまいそうになる。そこへ急遽飛び込んできた二人目の渡り手、綱が耐えられるはずもない。
どちらかが綱から離れるしか方法はない。だとすれば望まれるのは果たしてどちらかなど問うまでもない。
「霊夢、いいわね。魔理沙が来ても匿ってはダメよ、ちゃんと萃香が見張っているんだから」
紫が空間に切れ目を入れ、隙間のなかへと消えていく。
(魔理沙が消える。私が消さないといけない)
だが長くは迷っている時間はない。魔理沙はきっと訪れた先々で襲われ、いずれ博麗神社へと戻ってくる。
そのとき、霊夢は魔理沙を討たなければならない。
「萃香」
何もない空間に霊夢は声をなげかける。
すると霊夢の前方に少しずつ霧が収束し、やがて小さな女の子になった。
「私は、どうすればいい?」
「霊夢……」
「魔理沙を消す以外に、私にできることはないの?」
鬼に問いかける言葉は弱々しかった。それだけで伊吹萃香は巫女の心境を悟った。
自分勝手で周囲には面倒や迷惑をかける魔理沙ではあったが霊夢にとって近しい存在であった。
いわば友達。近くにいると心緩む、大切にするべき彼女を幻想郷のために討つ。
魔理沙も人間なのだから博麗が守るべき対象になる。例え霊夢がそう反論したところで八雲紫はきっとこう返したことだろう。
――――――出る杭は打たれる。
誰もが知っている慣用句。人間の枠よりはみ出るというのであれば守るべき対象にはならない。
それでも人間であり続けるならば打たれる覚悟をもって望まなければならない。ただ、今回は杭を打つ槌が大きすぎた。
萃香は願った。できることならば魔理沙が霊夢と出会わないことを。
◆ 紅魔館周辺の湖上 AM8:00 ◆
「しかしまったく見当がつかないな。どんな異変が起きているっていうんだ?」
魔理沙は箒に乗ったままポリポリとこめかみのあたりを掻く。
「まあこういうときには頭のいいヤツを使うのが賢い人間のやり方だな」
正確にはズル賢いというべきなのだが。
もちろん魔理沙が指している「頭のいいヤツ」とは紅魔館在住の魔女、パチュリー・ノーレッジのことである。
彼女であれば大気中の精霊を伝って変化を感じ取っているはず。そう思った魔理沙は紅魔館を目指していた。
「お、見え――――――」
見えた。そう言おうとした瞬間に魔理沙は前方から向かってくる攻撃を見て、即座に体を横へ倒して軌道を変えた。
直後に魔理沙がいた辺りを巨大な白い弾が駆け抜け、彼方へと飛び去っていった。
「おいおい、ずいぶんな挨拶じゃないか中国。まだ何もやってないぜ?」
弾の行方も見ずに魔理沙は正面にいる人物に笑いかける。
若草色の大陸衣装を着ている門番、紅美鈴という女性は鋭く視線を細めたまま。ただ静かにそこに浮遊していた。
「(……変だな? いつもなら呼び名を訂正しろだとかうるさく言ってくるはずだが)」
紅魔館の常連である魔理沙は必ず門番と対峙する。そのときは当たり前のように通り過ぎる、あるいはスペルカードによる強行突破のどちらかで訪問する。
そして魔理沙が門を通ったあとには彼女の上司がやってきて、彼女をナイフで制裁するのがお決まりのパターンなのだ。
「ははぁ、読めたぜ。また咲夜のやつにでもお仕置きされたんだろ」
ダメなやつだぜ、と大きく肩を竦める魔理沙。しかし門番の彼女からは返事が返ってこない。
やがて門番は無機質な表情のまま構えを取り。
「――――――――――」
歪な三日月みたいに口の端を吊り上げ、気功の巨弾を放った。
「っっ!!?」
慌てて回避。持ち前の機動力のおかげで危機を避け、ほっと魔理沙は胸を撫で下ろした。
と、魔理沙は自分の行動を疑問視した。
なぜ胸を撫で下ろした? なぜたかが弾幕ごっこで安堵した?
弾に当たって落ちたとしても湖に落ちてずぶ濡れになる程度なのだから、そもそも肝を冷やすようなことにはならない。
だとしたら無意識のうちに安堵してしまったのはなぜか。
幾多の弾幕をくぐりぬけてきた彼女は本能でわかってしまったのだ。今の巨弾が、今までの遊びとは違うことに。
「な、なんだ中国。ずいぶん気が立っているじゃないか。やっぱり咲夜のせいか?」
唾が喉を嚥下する。落ち着け、と脳が加速して熱をもつ。
今の攻撃は脅しだ。決して本気で撃ってきたのではない。そして自分は負けると思ったときの焦りが本気で撃ってきたと魔理沙は誤解したかった、だが。
「私がどうかしたかしら」
奇術師が門番の背後からゆっくりと姿を現した。
「……相変わらずご苦労なやつだぜ。演出がそんなに大事か?」
「奇術も趣向を凝らさなければただの手品、口八丁手八丁じゃないとやっていけないのよ」
「ああ、そうかい。ところでおたくの門番がえらく殺気だっているんだが、何かしたのか?」
そのとき、初めて魔理沙は空気が凍ったという感覚を体験した。
相手が止まり、自分も止まり、あたかも時間が止まったような錯覚を。
何か言ってはいけないことを言ったとき、人はどうしても自分から沈黙を破ることを躊躇する。
魔理沙もその例外には漏れず苦笑のまま固まってしまい、ただひたすらに奇術師が何か言うのを待った。
「………ふ」
返ってきたのは門番と同様に三日月みたいな笑みとナイフ。
ナイフは瞬間移動のように突然魔理沙の正面に現れ、彼女の左頬を掠めていった。
「え?」
魔理沙は頬に触れる冷たさに驚いて手を当てる。
血がついている。
「……え?」
咲夜が使っているのは弾幕用のナイフ。間違っても刃物の鋭さはない。だから肌が切れることなど決してないはずなのに。
では、今飛んできたナイフは―――――――本物なのか。
「お、おい、ちょっと待て」
「ええ待つわ。けれど次に時が動き出したとき――――――あなたの心臓は止まったままよ!!!」
咲夜と美鈴が一斉に攻撃を開始する。冗談じゃない、と魔理沙は急旋回して彼女たちから逃げる。
相手は本気も本気、弾幕ごっこの法定外、相手を殺してはならないという規則を破っている。
妖怪である美鈴はもとより、咲夜の力も超人的。弾幕ごっこでやっと対等であったというのに殺し合いになったら魔理沙が不利なのは明確。
相手を殺してはならないというのは極端に言えば妖怪側に設けられた制限、武器を使うならば果たさなくてはならない役目。
咲夜であればナイフは命を奪う目的で使用してはならないし、美鈴であれば人間を死に至らしめるほどの出力を控えなければならない。
逆に人間側は丈夫な妖怪に対してほぼ全力で戦える。咲夜は人間だが、同じ人間に対するならば武器で命を奪うことをしてはならない制限がある。
だから人間である魔理沙に本物のナイフなんか使わないはずなのに、どうして今日に限って紅魔の者たちは殺すつもりで攻撃してくるのか。
攻撃を必死で左右にかわしながら魔理沙は咲夜に振り返る。
「や、やめろよ咲夜! 冗談にも限度があるぜ!? 中国も! なんで急にこんな――――――」
「あなたは間違えた。往く道を、見るべき景色を、そして何より幻想郷の優しさを見間違えたのよ」
美鈴の目には殺意。魔理沙の背筋を悪寒という名の蛇が這う。
訳がわからないと逃走を続けながら魔理沙は思考する。殺されるようなことをした覚えがあるだろうか。
図書館の件であるのならば出張るのはパチュリーのはず、門番とメイド長が揃って出てくるには理由としておかしい。
だとすれば何の罪で? 考える魔理沙の頭上に、ふと影が落ちた。
「――――――ッッッ!!!!」
鍛え上げられた本能が危機を察知し、即座に頭上と垂直方向に飛ぶ。
回避、直後に何かが空より落ちてきて湖に落下。水柱とともに蒸発した水が水蒸気となって立ち込める。
落ちてきたのは紅い、紅い柱だ。神々の黄昏において世界を焼き尽くすであろうと謳われる炎獄の魔杖。
「……よお、フラン。外の日差しは気にならなくなったのか?」
急な移動で脱げかけた帽子を被りなおし、魔理沙は攻撃の起点を見上げる。
そこには美しい七色の宝石の羽を生やした異様な吸血鬼、破壊の申し子フランドール・スカーレットがいた。
彼女は燃える魔杖を片手に持ったまま無垢な笑顔を向けていった。
「なんで? 今は曇りだよ、パチュリーのおかげでね」
見ればフランの横には紫の魔導着を纏ったパチュリーがいた。
逃げるのに必死になっていた魔理沙は気づいていなかったのだが紅魔館に来た折から雲が集まっていた。
パチュリーは目を細めたまま魔理沙を見下ろしており、すでに戦闘態勢が整っていた。
まずい、と魔理沙はできるだけフランからめを離さないようにしながら後ろを振り返る。
背後には追いついてきた咲夜と美鈴がおり、前方にはパチュリーとフラン。まさに前門の虎と後門の狼だった。
「ねえ魔理沙、今日はとっても素敵な日なんだよ」
咲夜と美鈴が攻撃してくる気配は今のところはない。
フランの話を止めて機嫌を損ねないようにしているのか、それとも攻撃のタイミングを合わせようとしているのかはわからない。
だがわずかな沈黙さえも今の魔理沙には十分すぎる恐怖だった。
「お姉様が魔理沙を使って好きなだけ弾幕ごっこしてもいいって言ってくれたの。嬉しいよ、すごく嬉しい。嬉しすぎてドキドキが止まらない。ねえ、魔理沙もそうでしょ?」
――――――心臓が止まるくらい、ドキドキしてるでしょ?
頬を染めて恍惚しながらフランドールは表情だけで語った。
本当にそれだけで魔理沙は聞こえないはずの声を聞いた気がした。
「………ぁッ!!」
逃げる。今日はまずい、今日の紅魔館の人妖は壊れている。
弾幕ごっこで背を見せたくはない。でも、見せなければ自分は二度と太陽の下に出ることは叶わない。
知能を持つ動物としての防衛本能が魔理沙に逃走を促す。
逃げろ――――――たとえ腕が千切れても足を噛み千切られても、自らをこの領域から逃がせと叫んでいる。
「ブレイジングスタ――――――ッッッ!!!!!!」
飛ぶ、それこそ泥棒に入ったときの比ではない。正真正銘全速力の逃走。
星を散らしながら超高速で湖から離脱する。
ここは湖上。障害物がないぶん、下手に避けるよりも圧倒的な速度をもって逃げるのが上策と考えたのだ。
その背後で乾いた、けれども聴く者を魅了する美しい笛を思わせる声が聞こえた。
「逃がさない」
パチュリーだ。
攻撃が来ると直感で思った魔理沙は速度を保ったまま身を倒してスペルの軌道を横に逸らす。直後に下、湖から巨大な水柱が立った。
触れたものを飲み込んで押しつぶす自然の鉄槌。間違いない、パチュリーの精霊魔術だと魔理沙は確信した。
さらに湖から空へと噴き出す水流の魔手。時折掠りながら魔理沙は水の嵐を潜り抜ける。
「大人しくしなさい。でないと、命の保障はできかねるわ。大丈夫。妹様だけじゃなくて私も可愛がってあげる。ちょうど従順なモルモットが欲しかったの」
言いながらパチュリーまでもが魔理沙を追う。その魔力の激しさは紅霧異変のときとは比較にならない、遊びが一切ない攻撃だった。
「(まさか、これが異変なのか!?)」
彼女たちの行動は常軌を逸している。普段の彼女たちであれば殺しと遊びの区別がつかないようなことにはならない。
それはすべての人間に共通するが、しかし。
「く……っ(霊夢はいつもどおりだったし、私も普通のままだ。でも咲夜はおかしくなっている、いったいどういうことなんだ?)」
パチュリーの執拗な妨害で速度を落としながらも魔理沙は異変について考えた。
妖怪だけがおかしくなったわけではない。人間である咲夜もまた普通ではない。ではなぜ霊夢と自分は無事なのか。
考えられるのはひとつ。内的要素ではないとすれば外的要素、つまりフランたちが誰かと出会っていて魔理沙と霊夢が出会っていない可能性のみ。
人種、能力、その他生物としての機能の共通点ではないとすれば影響を及ぼす誰かに出会ったとしか考えられない。
「パチュリー、目を覚ませ!! フランも!!!」
「目を覚ます? 夢から覚めるべきはあなたのほうよ、魔理沙。世界は夢を与えてくれない、人が夢を見るのは見るべき現実が見えていない証拠」
「きゃは☆ 魔理沙!!! マリサマリサマリサマリサマリサマリサ――――――!!!!!」
「ちぃっ……!(操られているのか。それとももっと別の要因なのか? くそ、判断材料が少なすぎる)」
霊夢の言っていたことも今なら理解できる。ずっと家にいれば影響を及ぼす誰かと出会う可能性も圧倒的に減り、文字通り嵐が過ぎ去るのを待つことができる。
奇しくも住所は迷いの森。よほどの広範囲でないかぎり魔理沙と異変は関わることはなくなる。
だが異変なのだ。これを解決しなければ被害は広がっていく。さしあたっては紅魔館の面々なのだが。
「(正面から勝負を挑んで勝てる人数じゃない。まともに戦ったって勝てるかどうか……)」
だから逃げる。逃げて、異変の原因となっている誰かを見つけて退治する。そうすれば紅魔館の面々も正気に戻るに違いない。
幸いにもレミリアがいない。彼女がいたならばいくら魔理沙が人生の袋小路に追いつめられるのは確実だっただろう。
湖の終わりが見える。魔理沙は減速どころか加速して森に突っ込み、背後から飛んでくる弾幕を避けながら再び上昇。
「ッ……!!! ふうっ、我ながらやばい散歩だった」
スペルを解除し、後ろを振り返る。
紅魔館の面々は追ってこない。さすがに湖を越えてまで追ってくる気はないようだ。
「こりゃ、いくつ命があっても足りないな。異変が解決したらたっぷりお礼を貰わないと割に合わないぜ」
愚痴をこぼしながら魔理沙は湖から遠ざかる。高度を上げ、速度はいつもの二割減で。
とにかく時間、時間が欲しかった。どんな異変なのかを考える時間が。
「(フランたちがおかしくなっているのをレミリアが黙って見ているとは思えない。フランが言っていたことが正しければ、レミリアも異変の人物に出会っている可能性が高い)」
ならば紅魔館へは行くことはまずい。少なくとも異変が起きている今、紅魔館は魔理沙を拒絶しつづける。
さらに浮かび上がった問題はパチュリーだけでなくレミリアほどの強者にも影響を与える妖怪かもしれないということ。
紅魔館の面々がどれだけ強いかは弾幕ごっこをしてきた魔理沙にはよく分かっている。だからこそ彼女たちが操られるなどとはにわかに信じ難かった。
「……今回はかなりやばそうだな」
無意識のうちに魔理沙は自分の腕を掴んでいた。
操られているだけならまだしも、彼女たちが放ってきたのは本気の弾幕。相手を殺すつもりで放った“攻撃”だ。
「う………」
当たれば死ぬかもしれない。それでなくとも他の人妖たちも紅魔館の面々と同じように操られていると思ったら怖い。
――――でも、今立ち向かわなければ“歪み”はやってくる。
歪んだら取り戻せなくなる。取り戻せなくなったら何もできなくなってしまう。何もできなくなるのは死ぬことよりも怖い。
彼女は俯きかけた顔を上げて、帽子を深く被りなおす。
「―――――行かなきゃ、だよな」
一気に速度を上げる。異変に立ち向かうため、歪みに立ち向かうため。
「ここから一番近いのは……永遠亭か。人里は関係なさそうだし、後回しで問題ないな」
目的地を定めた箒が速度を増す。
速く、もっと速く。何かが壊れてしまう前に押しつぶそうとしてくる歪みを押し返す。
まだ太陽は真上に昇っていない。
◆ 迷いの竹林 AM9:30 ◆
「いかんな……迷った」
意気込んで永遠亭へ向かってみたのはいいものの、肝心の道が分からないため魔理沙は迷ってしまった。
「こういうときは幸せの白いウサギが助けてくれるんだが」
期待はできない、と口にしようとして言葉を飲み込んだ。
紅魔館のときと同じようにおかしくなっていたとしたら襲われるかもしれない。今度は避けきれないかもしれない。
風で竹の葉がこすれるたびに魔理沙は自分の背中にムカデが張ったような錯覚に捕らわれていた。
悪寒を振り払うかのように頭を振り、とりあえず警戒しながら竹林のなかを進む。
しかし、とふと魔理沙はおかしなことに気づく。
「そういや妙だな? 白いウサギはともかく、さっきから同じところを回っている気がする」
迷っているのだから同じところを回っていても別段不思議ではない。
不思議ではないのだが、魔理沙は“そういう芸当ができそうな妖怪”を知っている。
試しに石を拾って身近な竹に傷をつけ、そこからまっすぐにゆっくりと飛行する。
数分後、右側に傷のついた竹を見つけた。
傷はさきほどつけたところよりも高いところにあった。
「……こんなことだろうと思ったぜ。出てこいよ、どうせ近くに隠れているんだろ」
竹林に魔理沙の声が木霊する。
やがて、少し太い竹の陰から一匹の妖怪兎がその姿を現した。
「やっぱりお前か鈴仙。幸運の嘘吐きウサギも一緒か?」
「てゐならいない。それに今あの子のことが関係ある?」
「いいや、まったくないな。で、お前の師匠と主人はいないのか? まああの引きこもりたちが出てくるとは思えないけど一応な」
「ええ、そのとおり。師匠と姫様は来ない。私ひとりだけ」
鈴仙の言葉に魔理沙はわずかながら安堵した。
相手は一人、それも目を合わせなければいい。最悪、怪我することを承知で竹の屋根を突き破って上空に逃げればいい。
余裕がある分だけ冷静になれる。冷静になるほど考えられる物量が多くなる。
情報とは奪うものであって与えられるものではない。だから魔理沙はどうすれば欲しい情報が手に入るのか、全力で考えをめぐらせる。
(外から来たばかりの妖怪に案内するほど永遠亭は馬鹿な集まりじゃない。だとすると鈴仙だけが影響を受けたと考えるのが妥当か?)
だとすれば輝夜と永琳は異変の影響を受けていないことになる。しかし異変の影響を受けているかどうかを判別するためには弾幕で試すしかない。
今のところ鈴仙が襲い掛かってくる気配はない。紅魔館の面々がいきなり攻撃してきたのに対し、彼女は正気のように見える。
しかし迷わせようとしたところを見ると鈴仙に敵意があるのは間違いない。
「一人でぶらぶらしていていいのか? 私に構わずどこかへ行ってくれていいんだぜ」
「それは私の台詞。あなたはここではない場所へ行くのよ」
「迷わせておいて何を言っているんだ。迷ったら竹林から出られないじゃないか」
鈴仙の雰囲気が変わる。異質な、まるで魔理沙を飲み込もうとする巨大な獣のような殺気をもって。
「出られるじゃない、ここから“地獄”へ。ほら魔理沙、あなたを迎えに冥界から使いが来たわよ」
そう言って鈴仙は魔理沙の背後を指差した。
彼女の言葉に大きく心臓が跳ね上がる。冥界からの迎え。その一言が容易に人物を特定させた。
ふわり、魔理沙の顔の横を極彩色の蝶が通り過ぎる。
息が途端に白くなる。ガチガチと歯が鳴る。次に襲い来るだろう恐怖に全身が凍りつく。
それでも振り向かなければいけない。体を震わせながら魔理沙は後ろへと振り返る。
そこには――――――幻想郷で最強の死の具現と、冥界を一閃で駆け抜ける冷酷な刃が立っていた。
その名を西行寺幽々子、魂魄妖夢。
「お早う魔理沙。こんなところで出会うなんて奇遇ね」
「こんな陰気なところで陰気な連中と出会いたくなかったな」
「あら、私は陽気よ。四季の花を見ては歌を詠み、鳥の声が聞こえれば鼻歌を口ずさむ。そして竹を見ては風の音に耳を澄まし、月を眺めて酒を楽しむ。これほど風流な幽霊が他にいて?」
「生憎、情緒のわからない人間なんでな」
「残念ね、やはり俗物に雅を理解する心などないのかしら。それともあなたも亡霊になれば分かるかしら」
考えたくなどなかった。否、彼女らが永遠亭に来ることすら予想していなかった。そもそも迷いの竹林にやってくる理由がない。
だが、冷静さを失いつつある頭でもひとつだけ確信できた。
(鈴仙が私を迷わせたのは幽々子たちが来るまでの時間稼ぎ………!!)
鈴仙がなぜ白玉楼の二人を呼んだのかは分からない。だが目的はひとつ。そしてその目的の線上に立っている魔理沙に、勝てる要素はひとつもない。
瞬間、やることは決まった。
「スターダスト――――――」
「未来―――――――」
魔理沙がスペルとともに箒を構えた。同時、妖夢が抜刀術の構え。
―――来る。二百由旬を一閃で駆ける神速の剣が。
肌を通して伝わってくる殺意のこもった視線と必殺の緊張感と刃の赤い煌めき。触れれば怪我では済まない。
三十六計逃げるにしかず。勝負は一瞬、妖夢の攻撃が避けられるか否かで魔理沙の命運は分かれる。
「――――レヴァリエ!!!」
「――――永劫斬!!!」
静かな竹林を天の流星と幽冥の刃が駆ける。
妖夢の狙いは魔理沙。魔理沙の狙いは――――――空。
「いっけええええっっ!!!!」
一番薄い竹の天井に向かって急上昇をする。狙いが外れた妖夢には目もくれず、ただ目標に向かって突き進む。
間違いなく一直線。何の迷いもなく逃げることに専念する。
あと少し。一秒あれば突き抜けられるくらいあと少しなのに。
「月兎遠隔催眠術」
後ろから響いた声が視界を狂わせた。
照準がずれた。平衡感覚が麻痺し、向かっていたはずの天井が横へとずれていく。
わからなくなる。そもそもまっすぐ飛んでいるのか、それとも自分が横へと移動して行っているのか。
鈴仙と目を合わせた覚えはない。けれど、何かをきっかけに目を見てしまったのは間違いなかった。
どこへ飛んでいるのかも分からなくなった魔理沙はまっすぐに竹の壁に激突、急激に速度を失った。
魔理沙が壁に当たっている間に妖夢が竹を蹴って反転、一撃目よりもさらに速度を上げて襲い掛かる。
「くっそ……!」
急いで体勢を整えるも妖夢は目の前、魔理沙は剣の射程内に捉えられていた。
「はあああああぁぁっっっ!!!」
裂帛の気合とともに放たれる一閃。
空振り。
「ちぃっ!」
「うわっ」
さらに詰めてくる妖夢を避け、魔理沙は再び上昇する。
竹の葉で肌が切れるのも構わずに上昇し続け、なんとか上空への脱出に成功する。
眼前に広がる蒼い空と無数の蝶の群れ。
「――――――――は」
思わず息を呑む。
目の前には待ち構えていたかのごとく、藍染の桜模様が描かれた扇子を背景にして幽々子が浮いていた。
迫り来る蝶は輝く鱗粉を散らして渦状に回りながら魔理沙との距離を縮めていく。
ゆらり。ゆらり。
風とともに舞う姿は春風で散った桜の花びらに似ていた。
妖夢はすでに追いつめたことを悟ったのだろう。蝶たちの輪の外から見ていた。
わかっている、これは詰みだ。本当なら魔理沙は竹から出てきたところで一斉攻撃に合い、魂は現世を離れていたであろう。
ではなぜ幽々子は攻撃を仕掛けてこなかったのか。
「魔理沙、何か言い残したことはあるかしら」
答えは遺言を聞くため。華やかな亡霊は冥界の管理者にふさわしい貫禄をもって魔理沙に尋ねた。
「……じゃあ聞かせてもらうぜ。お前たち、最近誰かと出会わなかったか?」
「あら、目の前にいるじゃない」
「私以外の誰かだ。そいつが色んなところを尋ねまわっている、そしてそいつが異変を起こしているんだ」
「異変ねえ。妖夢、妖夢。誰か尋ねてきた人はいたかしら?」
「いいえ幽々子さま。そのようなものはおりません」
そんなはずはない。広範囲の、それこそ幻想郷に行き渡るほどの異変であるならば間違いなく魔理沙とて正気でいられるはずがない。
「嘘つけ。じゃあなんで私を殺そうとするんだ。紅魔館もそうだったがお前ら本気で攻撃してきてるじゃないか」
「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。あなたのような傍若無人で自己中心的な人間には永久に理解できないわ」
「幽々子様のおっしゃるとおり。さあ、大人しく命を差し出してもらおう」
学のない魔理沙には幽々子の言っていることが分からない、ただ二人が狂気に満ち溢れているのは確かだった。
狂気といえば鈴仙なのだが彼女が紅魔館まで行って、あまつさえ全員を術中に嵌めるようなことができるとは思えない。
それに狂気といっても殺意を増幅させれば霊夢の目に留まる。鈴仙がそれを承知していないわけがない。
やはり幻想郷の仕組みをよく理解していない妖怪の仕業としか考えられないのだが、しかし直接会っていないのならどうやって異変を起こしているのか。
「差し出せと言われて、はいどうぞと渡せるほど安くはないぜ(事実を確かめるためにも何とかして逃げ出さないと……)」
「あらそう。じゃあいいわ、無理矢理奪うから」
死を弄ぶ指先が動く。
攻撃に備えて魔理沙が集中力を極限まで高めた、そのとき。
突然、横から複数のレーザーが走って幽々子の蝶をまとめて薙ぎ払った。
「魔理沙!!」
「アリス!?」
「はやく、こっちよ!!」
魔法の森の隣人、アリス・マーガトロイドが人形とともに現れた。
嬉しい援軍に魔理沙は喜び、蝶の包囲網の欠けたところから一気に抜け出す。
「逃がさんっっ!!!」
「来させるか! いけ、オーレリーズソーラーシステム!!」
勇ましい宣言とともに現れる六つの球体。それらは魔理沙の命令を受け、円状に回転しながら妖夢へと飛んでいった。
「くっ!」
「魔理沙、早く!!」
「わかってるぜ!!」
妖夢が球体の攻撃を受けて立ち往生している間にアリスと魔理沙はその場を離脱、迷いの竹林から離れていった。
そのすぐあとに球体を斬り伏せた妖夢が追おうとしたが、そのまえに幽々子が彼女を止めた。
「妖夢、妖夢。追うのはあとでいいわ、それよりも先にすることがあるでしょう」
「……はい」
渋々ながら剣を収める妖夢。「それでいいの」と朗らかに幽々子は笑うと妖夢とともに竹林に下りる。
下では鈴仙が待っており、幽々子たちが降りてくると瞳を細めた。
「なぜ魔理沙を逃したのか説明してもらえますか」
「あら、気を急いては事を仕損じるという言葉を知らないのかしら。焦らなくても時間までは十分に時間があるでしょう」
「だからこそ早めに叩くべきです。なぜそうしなかったのか聞いているの」
「鈴仙。たとえあなたでも幽々子様への無礼は許さない」
「いいのよ妖夢、刀を納めなさい。でもそうね、ここで魔理沙を仕留めなかったのは“こうなることが予測されていた”からよ」
幽々子の言葉に鈴仙だけでなく、妖夢までも目を丸くした。
つまり、幽々子は魔理沙を助けるためにアリスがやってきて妨害することもあらかじめ知っていた。
だからこそ魔理沙は逃げたのであり、幽々子は何の策も講じずに逃がしたということになる。
それこそ理解に苦しむことだ。なぜ幽々子は魔理沙が逃げることがわかっていながら逃がさない策を講じなかったのか。
「予測されていた? どういうことですか幽々子様」
「こういうことよ。ねえ、レミリア嬢?」
幽々子が口元を扇子で隠しながら右方へと視線を送る。すると暗闇からレミリアと日傘を持った咲夜が現れた。
まったく気配に気づかなかった鈴仙は驚愕を隠せなかった。
「いつの間に……!?」
「ついさっきね。それと西行寺、その呼び方は気高さが感じられないわ。もっと格調高くスカーレット公と呼びなさい」
「あら、お守りがいなければ満足に日の下を歩けないお子様にはぴったりじゃない?」
「ハッ! 口の減らない死人に言われたくはないな。だいいちお前とて長く顕界にはいられまい」
幽々子とレミリアの間で静かに激しい火花が散る。
相性の問題か、それとも互いに嫌悪しあっているのかは定かではないがまず親しいという雰囲気ではなかった。
一触即発の空気のなか、瀟洒な仲裁が入る。
「お嬢様、時間は有限に御座います。戯れは事態の後でよろしいかと」
「わかっているわ。そこの薬師の弟子、さっさと案内してもらうわよ。お前たちの隠れ家に」
「永遠亭に? どういうこと?」
「あなたには説明していなかったけれど、私もレミリア嬢も魔理沙の逃げ道を塞ぎに来たの。万が一、そう、万にひとつの可能性を潰すために。もちろんあなたのところの姫様も承知のことなのよ」
鈴仙は強烈な威圧感に息を止めてしまった。
白玉楼の主と紅魔館の主が彼女の目の前でひとつの目的のために集まっている。幻想郷のため、ただひとつの楽園を守るために修羅となって。
もちろん鈴仙とて理解している。だからこそ幽々子に追撃の催促までして、心を鬼にしたつもりだった。
甘い、と鈴仙は自らを叱咤する。
彼女たちの執念は本物だ。そうでなければ目先のことに捉われず、冷酷な手段に躊躇しないことなどできはしない。
霧雨魔理沙を期限までに消去する。それが絶対のことならば同じく絶対の備えをもって魔理沙を追い詰める。
そして自らの仕えている姫もまた、彼女らと同じ考えをもっており鈴仙ごときの思慮など及ばぬところで動いている。
「わかりました。こちらです」
改めて主人を尊敬した鈴仙は四人を永遠亭へと案内する。
妖怪たちの秘密の会合。それは静かに、静かに行われた。
目的はひとつ。霧雨魔理沙を幻想郷から消し去るために。
後編に期待
弾幕ルールによって保護された人間が、生死をかけた戦いに於いて如何にひ弱であるかがよく描写されている。
この緊迫感が自分の感想の口調にまで影響を(ry
後編を大いに期待。
胃が痛くなるような落着でも全然オッケーです。
彼女の力が強くて目障りだという者たちと、自分のお気に入りの立場が脅かされるのを嫌った者が、
その対象である魔理沙を結託して潰そうとしてるようにしか思えない
理由に、幻想郷関係ねえなぁ
逆に異変に触れるんじゃね?
上白沢慧音がカウントされてない・・・
三面ボスじゃ駄目ですか?(満月だったらEx中ボス!)
>人間は博麗の元で守られ、博麗の手によって均衡を保たれる。それなのにあの子がいたら人間の心は博麗に集まらなくなる
慧音の守ってる村の人間にとって、という限定はあるものの、どんぴしゃな気が
魔理沙もその例に当てはまるのでしょうね。
幻想郷の力あるものたちは魔理沙という「異変」を処分する。
そして魔理沙は自分がまだ「異変」であるということを知らない。
この先どうなっていくのか楽しみです。
続き、期待してます。
円満な解決は嫌な自分は変かな?
とりあえずご都合主義では終わってほしくないです。
途中の展開にかなりハラハラしました。
なんにせよスッキリするような結末があるといいなぁ。
ハッピーエンドとはいかなくても納得できる終わりを期待したい。
前者ならば、皆がもっと淡々と無言で襲いかかってくる感じの方が怖い雰囲気でるんじゃないかと思いました。
それかいっそシンプルに、やりすぎ魔理沙・遂に皆に見放された設定にした方が良かったのでは。
後半どうなるのでしょうか。
魔理沙成敗の必然性が明確になることを期待しています。
霊夢にとっても魔理沙にとっても。
冒頭部分から、何とか魔理沙が生き残りそうな気がするのですが。。。
だけである。」(公式設定より)
という魔理沙ですからね。
今まではたまたま良い結果が得られていたかもしれないけど、今後彼女の
矛先がどちらを向くのか解らない。力を持っているだけにタチが悪い、と
危惧されるのも自然でしょう。
今後の展開に期待します。
そして私もすっきりとしたバッドエンド希望。
魔理沙絡みの強引なハッピーエンドは見飽きたので。
点数は最終回で付けさせていただきます。
って、それなら今回の魔理沙に関することも博麗以外が出張ってはいけないのでは?
魔理沙は存在するだけで幻想郷に歪みをもたらすのなら、それは立派な異変ですし
異変を解決するのは博麗の仕事なのだから他の人妖が出張るのはおかしい気がする
というか矛盾してると思うのだが
何はともあれ後味の悪い結末は見たくないものです
ハッピーエンド、バットエンドの区別無く、ね
バッドエンドでもハッピーエンドでもすっきりとした終わりを期待!
ハッピーエンドにしてほしい
魔理沙を「悪者(嫌われ者)」にして「成敗」してほしい
魔理沙を悪者にしてほしくない
どちらであれ綺麗に終わらせてほしい
話の続きが非常に気になります。上の中のどれかに、作者様の考えた結末があるのか、ないのか。
読まれた方から色々希望があるようですが、需要の有無に左右されず、ただ作者様の最初から考えていた結末を望みます。
作者様自身が書かれた、作者様自身の作品なので、評価の良い悪い以前に、自分の中にあった話を貫いてください。
他人の希望に左右されていない、純粋にこの話の続きが気になるので。
しかしハッピーエンドでもいいかもしれないけど
>2の方と同様に簡単な円満オチっていうのだけは避けるべきかと思いますね
とにかく、どんな展開であろうと後半を楽しみに待ってます
理由と消去の仕方の矛盾が
理由自体もやっぱり強引だし
村を守ってる慧音と、村の人間は?
あと、言動や思惑から
紫が保護者気分で霊夢を操ってるとしか思えないのですが ・ ・ ・
妖怪は人間を襲い、博麗は妖怪を退治する
という幻想郷のルールに収まりきれなくなった魔理沙が異変の因となってしまいましたか。
この先どのような結末が待っているのか楽しみです。
…まさか、冴月麟もこのようにして消されたのだろうか。
それにしても、魔理沙のような人間の在り方が幻想郷そのものの危機となるのであれば
なぜ紫と霊夢はそんな危険を孕んだスペルカードルールなんぞを広めたのやら。
均衡が保たれなくなりそうだから排除することにした』
とか、そういう解りやすい理由が欲しいな。
人間であり、完全に人間の味方側である魔理沙が出張って異変解決するから
異変足り得たのか?
幻想郷の人妖たち、本気出してなくね? 理由があるのかな。
消すだけなら咲夜さん、幽々子、紫ならアッという間に出来そうなんだが。
午後、夜半を期待して待っています。 評価は最終話に付けさせていただきます。
文章も展開も続きを期待させる物になっているけども現状じゃなんとも言えないぜ。
午前の感想は続きが気になる、としか。
なんですかこのシリアスは。
どうオチをつけるかに期待という意味で点数は最終回に。
幻想郷の均衡を保つために存在を排除するだけなら、わざわざフルメンバー出張らなくても、紫が外の世界に放り出せば良いだけの事。
なのに最初っから完全抹殺前提というのはどうだろう。
あと、これにより異変を解決できる人間が、『博麗』だけになるのに対し、異変を起こす力を持つ上、実際に異変を起こした過去を持つ妖怪達がまるきり放置というのも片手落ち。
人間は狩られる立場じゃなければいけない、という妖怪側のエゴでしかないのでは?
とりあえず続きに期待するので点数は次回にて。
そうすると妖々夢のときの幽々子と妖夢は幻想郷の人間を全滅させかけるほどの影響を与えていた以上、幽々子と妖夢も排除・抹殺されなくてはならないと思いますし、レミリアが大量の妖怪を従えて幻想郷を乗っ取ろうとした異変や紅霧異変で幻想郷中を紅い霧で覆った異変もやはり排除・抹殺される対象でなくてはいけないですね
また、永夜異変では妖怪に大きな影響を与える月を偽物とすりかえるということをしています
これは人間と妖怪のバランスを大いに崩す可能性があったから紫が自ら出張ったのだと思うし、これもやはり排除・抹殺されなくてはおかしいです
例外的で排除・抹殺されない異変は花映塚の花の異変と風神録の引越しくらいです
こうしてみると幻想郷の異変を起こしたものはほぼ全員が抹殺される必要性があるのですが・・・
やはり魔理沙だけが抹殺されるというのが理解できないです
そもそもこういう解決法をしないためにスペルカードルールを作ったはずなのですし
座して続きを待ちたいと思います。お話の評価につきましては完結したときに改めて。
(自業自得の)魔理沙が痛い目に遭うということが多いから
これもそのシリーズのバリエーションなのかなぁとか。
そういう冗談はおいておいて。
(霧雨魔理沙の存在という異変を)恐れるだけの歴史をゼロまでまき戻す(慧音も加担?)
(異変解決を行う人間の)英雄はただ一人でいい~♪
↑はとある特撮番組のOPの2番の歌詞の一部です。
(2番じゃオンエアされてないんじゃないかというツッコミ可、あとカッコ部分は当然付け足しです)
今回の作品とこの番組とテーマが一緒になるとは思っておりませんが、
(そもそもその番組じゃ敵方は完全無欠の悪なんで並び立つことはできない)
なんとなくこのフレーズが思い浮かんできた次第です。
さて、2番というからには当然1番が存在するわけで、同じメロディ部分の歌詞は
空っぽの地球[ほし](幻想郷)時代をゼロからはじめよう
(博麗の巫女以外の人間は異変解決してはならない)伝説は塗り替えるもの~♪
であります。
1番のほうが好みなのです。
ドザギゲ、ゾグギグベヅラヅビバスドギデロ、ダボギリビギデギラグ。
(とはいえ、どういう結末になるとしても、楽しみにしています。)
「こんな終わりは俺の気に入った話じゃない!!」ってねw
続き楽しみにしてます。
パロディを含まずにこういったシリアスは最後まで読みたくなります。
幻想郷議会(勝手に命名)の議長はやはり紫なのか
ともあれ続きを読みたいと思います。