Coolier - 新生・東方創想話

風祝と寺子屋

2008/06/25 16:45:59
最終更新
サイズ
84.14KB
ページ数
1
閲覧数
1637
評価数
9/44
POINT
2320
Rate
10.42

分類タグ


※この話は「風祝と紅魔館」(作品集50~52)の続編になります。
※一応「早苗は昼間まで紅魔館でアルバイト」「諏訪子タコ殴り」「早苗はもう結構いろんな人と知り合い」という事をご理解頂ければ読めなくはないと思いますが、前作を読んでいた方がより良く理解できると思います。
※早苗さんがダークです。私の早苗像に慣れる意味でも、前作に目とを押していただけると助かります。ダークな早苗が許せないという方はお戻りを。


































「まったく!!洩矢様のせいですよこんなに時間が掛かってしまったのは!!」

「何でタコ殴りにされてなお怒られなくちゃけないの!?私が悪いの、ねぇ!!」

正直今ちょっと怖い。何せ、真っ暗な森の中を歩いているのだから。
太陽はとっくに沈んでしまい、夜の中を人間の里に向けて歩いている。
もうすぐで人間の里に着くという場所で、私は洩矢様に不満弾幕(何それ?)を打ち込みまくっていた。
なんだか数時間前まで紅魔館でアルバイトをしていたと言うのが信じられない。
洩矢様でストレス解消をしていたら、こんな夜になってしまっていたのだ。
ああ、でもまだやり足りない。此処のところ本当にストレス溜まってたからなぁ色々と…。

「暴力反対!!八つ当たり反対!!そもそも私は何も悪くないぞぉ!!あーうー!!」

洩矢様が雑音を発しているけれど、とりあえず無視。
ここまで遅くなってしまったのは本当に誤算。
このままでは、八坂様が復活するまでに間に合わなくなってしまう…。
あのニコ厨神がまた逃げてしまわないうちに、何とか策を…。
いや、別に策が無いわけじゃないのだけれど。
出来ればまだそれを使いたくないだけ。もう少しだけ、せめて人間の里が見えるまで…。

「…あっ…。」

そう思ったところで、森の向こうに小さな光を発見する。
自然に足が速くなる。よかった、ようやくこんな真っ暗な森から開放されるかもしれない。
暫く歩けば、ようやく森を抜けて、人間の里の明かりが眼に映る。
とは言っても、ここからはまだ距離がありそうだったけれど。
だけど、これでもう迷う事は無い。人間の里までは一直線だ。

「あれが人間の里?ねぇねぇ早く行こうよ早苗、お菓子とか色々買わないと。」

やたらと上機嫌になる洩矢様。本当に神様に見えないなぁ…。
まあ、そう上機嫌になってるところ、悪いのですが…。

「いえ、洩矢様、洩矢様は先に神社の方へ帰っていて頂けませんか?て言うか帰れ。」

「…………あぅ?」

急に動きが固まり、首だけ器用に動かして私の顔を見る。
う~ん、流石に言ってる事が判らなかったかな…。ちゃんと理由は話さないといけないですね。

「そろそろ八坂様がお目覚めになる頃だと思いますので、洩矢様に八坂様の万一の時の足止めをお願いしたいのです。
 今日は夜通したっぷりとボコ…、…いえ、お説教をしないといけないので。」

「早苗…、…とりあえず2個突っ込みたい所があるんだけど。」

「言ったら洩矢様も同罪です。」

「なんで!?それだけで極刑!?罪の重さのレベルが全然違う気がするんだけど!?」

「八坂様を引き止めてくだされば、ちゃんとお土産は買っていきますよ。
 ああそうだ、咲夜さんがパチュリーさんに貰ったって言うお菓子、あれを買っていく事にしますよ。高級品らしいですし。」

「またスルー!?早苗最近スルースキルが急上昇してない!?いや、勿論お菓子は欲しいけど!!
 そ、それに!!早苗を夜の幻想郷に一人で置いていけるわけないじゃん!!危ないってば!!」

「大丈夫ですって。ほら、もう里は目と鼻の先ですし。ものの10分もあれば着きますよ。」

「だ、だったら私も里まではせめて行くよ!!そこで一回帰って、それでまた迎えに来ればいいでしょ!?」

「洩矢様、今は一刻の猶予もありません。…もし八坂様がまた布教活動に出てしまったとしたら…、…判ってますよね?」

「…あう…。」

よし、納得していただけたみたいだ。
洩矢様の気持ちもありがたいけれど、その10分の差で手遅れになってしまっては元も子もない。
まあ、まさかこんな人里近くで妖怪に逢う事もないだろう。

「大丈夫ですってば。まだスペルカードもいくつか残ってますし。」

万が一妖怪に出会ってしまっても、戦って倒せばいいだけの事。
勿論出会わないに越した事はないけれど…。
全く、洩矢様も心配性だなぁ。少しは私の事を信じてくれてもいいじゃないですか。

「…私が心配してるのは…、…そっちじゃなくて…。」

「…えっ?」

ぼそぼそと小さい声だったので、うっかり聞き逃してしまった。
やたらと暗い表情だった気がしたけれど…、…どうしたんだろう、何時もは馬鹿みたいに笑顔を振り撒く方なのに…。

「洩矢様、どうかされましたか?」

「…えっ?い、いや、なんでもない、なんでもないって。」

首を激しく振る洩矢様。
…誤魔化されてるのは判っているのだが、聞かれたくない事を無理に聞く趣味もない。
私が一人で行動するのが心配な訳ではないみたいなので、まあそれでいいか。

「それでは洩矢様、八坂様の事はお願いします。一時間ほどしたら迎えに来てください。」

色々見回ってから買い物を済ませて、それで残りを暇つぶしに使えるくらいがそのくらいだろうと判断する。
洩矢様なら神社に帰るまでそうそう時間は掛からないので、そちらは問題ないだろう。

「…判ったけど…。…ホントに気をつけてよ?何かあったらすぐ呼ぶんだよ?」

「携帯電話がない幻想郷でどうやって呼べばいいのかも気になりますが、大丈夫ですってば。」

本当に洩矢様は心配性だ。何だってこんなに信用されてないんだろう。
そんなに私は未熟者かなぁ?いや、確かに神様の眼から見れば、まだまだ未熟かもしれないけど…。
…如何考えても死亡フラグな気がしなくもないけれど。

「…うん、そうだね…。…それじゃね、早苗。またあとで。」

最後まで不安げな表情を浮かべたまま、ゆっくりと飛び去って行く洩矢様。
なんと言うか、洩矢様にあんな表情は似合わない、と本当に思う。
心配する…と言うには、なんだか少し行き過ぎている気もする…。
…何なんだろう、洩矢様、私に何か隠し事でもしてるのかな…。

「…考えてても仕方がない、か…。妖怪に出会っても困るし、早く里の方に行こう。」

洩矢様が見えなくなったのを確認してから、私は里に向かって歩きだした。



 * * * * * *



…おかしい…。
最近、早苗の様子がおかしい…。
今までの早苗なら「妖怪に出会ったなら、倒せばいい」なんて事は考えなかったはず…。
暴力的なことは、あまり好きではない子だったから。
幻想郷に来る前は、あんな子じゃなかったのに…。
いや、早苗自身はきっと何も変わってない。ただ、変わったのは…。

…そう、変わってしまったのは、神奈子と私の方…。

早苗があんなことを言うようになってしまったのは、私たちのせいなんだ…。
早苗はずっと、私たちの事を信仰の対象として、熱心に信仰を続けていた。
自分で言うのも難だけれど、私たちは神。人間に崇拝される立場の存在。
早苗もそう思って、私たちを信仰してきたんだと思う。
…だからこそ、私たちは人より強い存在でなければならなかった。そのはずだったのに…。
…幻想郷に来た私たちは、博麗霊夢と霧雨魔理沙に敗北を喫した。
私たちは、一部とは言え人間よりも弱い存在となってしまった。
…それが、早苗がああなってしまった原因なんだと思う…。
崇拝していたはずの私たちが、人間に負けたのを見てしまって…。
…無意識なのか、意識的なのか、それは判らないけれど…。
…早苗の信仰心が、崩れ始めてしまった…。

「…早苗…。」

早苗はもう見えなくなったけれど、人間の里の明かりを遠くに見る。
早苗…、…私の可愛い子孫…。

…もうあなたには…、…私たちは…。



 * * * * * *



…早苗です、今非常に困っているとです。
…早苗です、死亡フラグって本当に立ったら終わりです。
…早苗です、私はこの状況をどうすればいいのでしょうか。
目の前には一匹の狼の妖怪さん。いや、ひょっとしたらただの狼なのかもしれないけれど。
何となく妖怪っぽいから妖怪でいいや。て言うか妖力は感じますしねぇ。
あはははは、まったくもう、椛さんったら職務怠慢ですよ。同属の躾はちゃんと行ってくださいな。
ああでもあの人は一応天狗か。しかも本職は妖怪の山の警備だし。

…そろそろ現実逃避は止めておこうかな。

「まったく…どうしてこうなるんでしょうね…。」

何時襲い掛かってきてもいいように、相手を見据えながら、懐のスペルカードに手を掛ける。
まだ襲われた訳ではないから、迂闊に刺激するのは拙いだろうし、まだ攻撃は…。
そう、落ち着け私、まだ平和的解決の道は…。

…そう思ったのに、妖怪さんは物凄い奇声と共に私に飛び掛って来るんだもんなぁ…。

「…っ!!」

後ろに一歩飛び退き、すんでの所で妖怪さんの爪をかわす。
ああもう、本当に人型じゃない妖怪には注意が必要ですね、平和的に話し合いも出来やしない。

「仕方ないですね…!」

さっとスペルカードを取り出す。
とにかく、このスペルを打ち込んだら即座にダッシュだ。
下手に構って他の妖怪が来ても困る。こんな所で時間を喰ってるわけにもいかない。

「開海『モーゼの奇跡』!!」

時間を掛けないために、多少派手でも早い攻撃のスペルを発動する。
相手は狼だから、きっと動きも早いんだと思う。だったら、相手の動きを制限する壁を作るこのスペルは最適だろう。
実際に、私の放った弾幕は妖怪狼を貫く(イメージ)。
小さく唸ったあとで、ばたりと地に伏すのが見えた。
うん、やっぱり私の力もまだ捨てた物じゃないなぁ。一回の攻撃で、相手を気絶させるくらいにはまだ…。
…と、いけないいけない、こうして相手を倒して悦に浸るのも死亡フラグ…。

「…っ!!!!」

…本当に、そう考えたのが一瞬の隙…。
思考を現実に戻した途端、後ろから感じる僅かな妖気…。
即座に後ろを振り向き、最初に眼に映ったのは…。
今にも私に噛み付かんとする、今私が倒した妖怪狼とほぼ同じ系統の妖怪…。
咄嗟にしゃがみ込んで回避。妖怪狼その2は、私の髪を掠めて、すぐ背後に着地する。
即襲い掛かられてはたまらないので、すぐに振り返って身構える。

「…これは…本当に困りましたね…。」

妖怪狼その2から眼を離さずに、私は辺りの妖気を探ってみる。
…まだ距離はあるけれど、いくつか妖気が点々と感じられる。恐らく、この妖怪の仲間とかだろう。
しかも、その内一つはかなり大きいなぁ。恐らく咲夜さんくらい、かな…。何となく、力をセーブしているようにも思えるけれど。
これは拙い。この妖怪に構っていたら、次々に妖怪が出てきてキリが無い。
かと言って、言葉の通じない妖怪が、そう穏便に道を開けてくれるとも思えないし…。て言うか既に攻撃されてますし。

「…ああ、洩矢様の誘いを断らなければ良かった…。」

多分洩矢様の神力が離れたから、こうして妖怪たちが私の前に出てきたのだと思う。
今更後悔しても遅いのは分かってるけど…。
洩矢様に大見得を切ってしまった以上、呼ぶわけにもいかない。そもそもどうやって呼べばいいのか判らないし。
ああもう、漫画の世界ならこういうピンチに誰かが助けてくれるのに!

そうグチグチ考えている間に、もっと間の悪い事が起きる。
さっきモーゼの奇跡を受けた妖怪狼その1が、目が覚めたのかむくりと起き上がる。
どうしてこうタイミングが悪いんでしょうね。厄神様にでも取り付かれたのかな私は…。
ああほら、そんな事考えているうちに、二匹いっぺんに襲い掛かってくるし。

「秘術『忘却の祭儀』!」

とにかくこの状況を打破する手段を考えたかったので、私は弾幕で擬似的な結界を張る事にする。
魔理沙さんのドラゴンメテオを防いだ時にも使ったかな。
妖怪狼二匹も、忘却の祭儀の弾幕に阻まれて、その勢いをとめる。
ただし、これはあくまで結界風の弾幕なだけ。私は霊夢さんのような結界師なわけじゃないし…。
多少の防壁程度ならともかく、本格的な結界を張るとなると、かなりの時間と労力を要するし…。
…って、だからそんな事を考えてる場合じゃないって。
今はこの妖怪たちをどうやって煙に巻くか…!!





「…そのまま、その弾幕を維持していてくれ。」





…聞きなれない声が、私の耳に届く…。
それと同時に、すっと私の横を誰かが通り過ぎる。

「…えっ…?」

呆然とする中で、私が見たその“誰か”の姿。
銀と薄い青が入り混じった不思議な色合いの長髪。その上に、藍色の帽子のような物を被った…。
…人間とも妖怪とも付かぬ、まるで半人半妖だった霖之助さんのような、不思議な感じがする人…。





「未来『高天原』。」





その人は、全方位に向けてレーザーのような弾幕を放つ。
私にも当たりそうな勢いだったが、私は「弾幕を維持していて」の言葉の意味を理解し、そのまま動かず待機。
私の方に向かってくる弾幕だけは、私の忘却の祭儀に阻まれて消滅する。
しかし、防壁も何もない妖怪狼たちは、その弾幕に貫かれて、二匹とも同時にばたりと倒れこんだ。

「………。」

…弾幕が収まったあとも、私は暫く呆然と、その人の背中を見つめ続けていた。
なんと言うか、眼が離せない。
…凄く、カッコいいです…。まさに私が先ほど描いた、漫画のような展開ですね。

「怪我はないか?」

くるりと振り向く例の人。その鋭い目つきが、一瞬咲夜さんを思わせる。
…と、咲夜さんの事を思い出した途端に、私はある事に気が付く。
先ほど妖気を探った時に感じた、かなり巨大な妖気の固まり、それが今、私の目の前に感じられる。
つまり、先ほどの妖気の持ち主はこの人…?

「え、いえ、大丈夫です。あ、あの、ありがとうございました。」

とにかくお礼を言うのは忘れない。

「礼を貰う事のほどではない。妖怪に襲われてる人間を助けるのは、私の役目だ。」

ああ、なんか本当に凄くカッコいいです。
身体を見れば女性だと言う事は判るけれど、その顔立ちや口調が、とても女性の物とは思えない。
しかも「人間を助けるのは私の役目」とか、もう素敵過ぎますね。
美鈴さんや咲夜さんとはまた違ったタイプの人です。

「…ただ、人間が一人で夜の幻想郷を歩くのには感心しないな。
 先ほどのスペルカードは大層なものだとは思うが、貴公はまだ妖怪との戦闘になれていなさそうだったが、違うか?」

…急に今までより眼の端を吊り上げる。
うっ…。…言われれば、そうかもしれない…。
守矢神社が妖怪に受け入れられてから、妖怪と敵対なんかした事ないからなぁ…。寧ろフレンドリーな関係になってますし…。

「明確な自我を持たない妖怪に、スペルカードで挑むのは止めた方がいい。
 スペルカードルールはあくまでスポーツのような物だ。実戦とは訳が違う。
 今回のように2人以上でいる時ならともかく、1人の時は相手にしようとはせず、おとなしく逃げるように。判ったか?」

ううっ…。…なんだか成績が悪い時に先生に説教されているような気分がする…。
言ってる事が正しいから、何も言えずに縮こまるしかないのが…。
微妙に懐かしくもあるけれど、こんな形で懐かしさを覚えたくもなかったなぁ…。

「…と、初対面の人間に失礼だったな。すまなかった…。」

かと思えば、急に帽子を取って頭を下げる。
う~ん、よく判らない人だなぁ…。

「い、いえ、そんな事はありませんよ。えっと、それで、あの…。…お名前を聞かせてもらってもよろしいですか?」

そろそろ名前を呼べないのが辛くなってきたので、ここいらで名前を聞く事にする。
言った後で「人に名を聞く時は(以下略)」とか言われないかと少し思ったがけれど…。
幸いそんな事はなく、先ほどまでよりは幾分か柔らかい表情で答えてくれた。



「ああ、紹介が遅れた。私は上白沢慧音、里の寺子屋で教師をやっている者だ。」



…ああ、本当に先生だったんですか。道理で懐かしい感じがするはず。
ただ寺子屋か。寺子屋ですか。学校でないところに外の世界との差を感じます。

「慧音さんですね、私は東風谷早苗と申します。えっと…、…最近幻想郷に住み始めて…。」

どちらかと言うと妖怪に対して信仰を集めているので、人間の里では守矢神社のことは知られてなさそうだからなぁ…。

「…東風谷…早苗…?…ひょっとして、貴公が妖怪の山に住み始めたという神社の…?」

そう思ったのだけれど、慧音さんの反応を見ると、どうも私の事を知っている様子。

「は、はい、ご存知とは思いませんでしたが…。」

「そうか、貴公の事は霊夢や神奈子殿から聞き及んでいる。
 妖怪の山に住む人間とは珍しいからな。一度逢ってみたいとは思っていたが、このような形で相見えるとは思わなかった。」

そりゃ思わないでしょうけど…。
…神奈子?って八坂様の事ですよね?
何だって人間の里に住む慧音さんが、八坂様の事をご存知なのか…?

「…えっと、八坂様は人間の里と関わりがあるのですか?」

判らない事は聞いてみよう。

「ああ、少し前に人間の里に信仰を広めたい、と訪ねてきたことがあってな。
 今までは唯一の博麗神社が…、…まあ、あれだったから。里の者たちにも心の拠り所は必要だろうしな。
 里に分社を作られて、今ではそれなりに信仰も広まっている。
 以前よりも里全体が穏やかになった気もするし、神奈子殿には本当に世話になっている。」

…予想外の八坂様への高評価。ちゃんと仕事してたんですね、少しだけ見直しましたよ。
でもパチュリーさんに余計な事を吹き込むのは止めてほしかったなぁ…。
…まあ、この分はお仕置きの分から引いておくとしましょう。命拾いしましたね、八坂様。

「そうですか、それは何よりです。信仰を持つことは大事な事ですから。」

「…私としてはあまり実感は湧かないがな。今までが今までなだけに…。」

どこか遠い目をする慧音さん。きっと守矢神社が幻想郷に来る前の事でも思い出しているのだろう。
…霊夢さん、仕事してくださいね本当に。

「まあ、焦る事はありませんよ。ゆっくりと判って下されば。」

そう、信仰に焦りなんて必要はない。
必要なのは、神を信じられるかと言う心なのだから。
信仰は儚き人間のために。

「まあ、そうする事にしよう。ところで、早苗殿はこのようなところで何を?」

いや、それはこっちが聞きたいのですが…。
…まあ、夜の幻想郷をうろついてる私も変か。

「はい、実はちょっと里の方に買出しに来たのですが…。その途中で…。」

…って、そう言えば今此処も幻想郷の人里外ですよね?こんな所で話し込んでていいのか?
慧音さんと私、2人分の霊力を感じて近寄らないだけかな…?

「そうか、私も里に帰る途中だったからな。ご一緒させてもらってもよろしいかな?」

いえ、それはもう大歓迎ですよ。
まさか洩矢様と別れてから、2分であんな事になるなんて思わなかったからなぁ。
慧音さんと一緒にいれば、人里までは安心して辿り着けるだろう。

「はい、喜んで。」

そうして私と慧音さんは、人間の里まで2人で並んで空中散歩を楽しんだ。










「…早苗殿、貴公も空を飛べるのか?」

「えっ?それはまあ、一応奇跡の力で…。」

「…だったら、さっき妖怪に襲われた時、空を飛べばよかったのでは…?」

「…、…えっと、それは言わない方面で…。」




 * * * * * *




「ふぅ、これで暫くは買い込みもしなくて良さそうですね。」

慧音さんの案内の下、私は里で必要な分の食事などの買い込みを全て終わらせる。
里に着いたのは結構遅い(電気のない幻想郷基準で)時間だったと言うのに、意外にも里の中はまだ活気付いていた。
尤も、閉まっているお店もちらほらあったけれど。どんな物があったのか見ておきたかったなぁ。

「もう買い込みは終わりかな?」

私が最後の買い込みを終えたお店の外で、慧音さんは私の荷物を持ちながら待っていた。
折角なのでお店を色々教えて欲しい、とずうずうしくも頼んでみたら、予想外に嫌な顔一つせずにOKしてくれた。
それだけでなく、ちょっと量が多くなってしまった私の荷物まで持ってくれて…。
本当、こんな優しい人っている物なんですね。

「はい、お陰様で。本当にありがとうございました。」

「いや、気にすることではない。神奈子殿には世話になっているからな。この程度でも何か返せる物がなくては。」

頭を下げる私に、慧音さんはそう語りかけた。
うーん、紅魔館と人間の里での八坂様の評価の違いが激しいなぁ本当に…。
まあ、紅魔館で聞いた特徴の人(?)物なんて八坂様しか有り得ないし、神奈子なんて名前の神様も八坂様しかいないだろう。
…ああ、八坂様という人が判らなくなってきた…。

「でも本当にありがとうございます。何かお礼でもさせていただきたいのですが…。」

助けてもらったのに何も恩を返せないとは、神に仕える者の名が廃る。
慧音さんとしては八坂様への恩返しのようだけれど、それを私に返してもらっても困りますし。

「…いや、礼には…。…。」

…慧音さんの性格からして、すんなり「礼には及ばない」と返ってくると思ったのだけれど…。
何故か顎に手を当てて考え込んでしまう。
荷物抱えたままその体勢取れるなんて、慧音さんやっぱり力も結構ありますね。

「…あの、どうしたんですか?」

予想外の反応に、私も少し戸惑ってしまう。
…と、私が急に声を掛けたのに驚いたのか、いきなり顔を紅くしてわたわたと慌てふためく慧音さん。
その際に抱えていた荷物を落としそうになり、これまた慌てて必死に抱え込みキャッチ。
…その姿がとても可愛かったです。はまりそうです。

「あ~、い、いや、何でもないさ、流石にこんな事を頼むのは不躾すぎだ。はははは…。」

色々と必死に誤魔化しながら語る慧音さん。
自分の挙動が恥ずかしかったのか…。…でも、今の状態も見ていてなかなか恥ずかしいと思うのですが。
まあ、こっちとしては一向に構いませんけど。

「いえ、言ってみて下さい。私とて神に仕える身、人様の頼みを無碍に断る事はしませんよ。」

そう。困っている人を助けるのが、神に仕える私の役目。奇跡の力はそのためにあり。
尤も、今の慧音さんが「困ってる人」と言うべきなのかは微妙だけれど。
…あ、困ってるか。別の意味で。

「…そ、そうか…。…なら、取り敢えず言うだけ言ってみる事にしよう…。」

おや、もう少し譲り合い合戦が続くかと思ったけれど、意外とそうならないものですね。
…あれか、ただ単純に私と同じことを考えて、時間の無駄は避けたいと思っただけなんだろうか。

「…早苗殿、確か貴公は最近幻想郷にやってきたのだったな?」

えっ?と私は首を傾げる。

「え、ええ、まあ、確かに幻想郷に来てからまだ3ヶ月ほどですが…。」

3ヶ月を最近と言うのかどうかは判らないけれど、まあ幻想郷では新参者である事に変わりはない。

「…最近の外の世界については、充分に知識を持っている、と思っても良いか?」

…それはまあ、勿論…。今でも守矢神社には色々現代の物が転がってますし。
ああ、ひょっとして外の世界について知りたいのかな?それでしたら何でもご教授を…。



「…それでは、寺子屋で授業をやってもらいたいのだが、お願いできるか?」



…あまりに色々なステップを跳び越した慧音さんの発言に、私の思考回路は暫くの間停止した…。




 * * * * * *




「此処が私の家兼寺子屋だ。」

里の中を暫く進み、行きついた先が其処だった。
なんと言うか、見るからに江戸時代の寺子屋と言った感じで、とても歴史を感じさせる。尤も幻想郷ではこれが普通なのかもしれないけれど。
…とまあ、正常な精神状態のときだったらそう考えられただろうけれど、生憎私の思考回路は正常ではなかった。

「…あの、慧音さん?」

「さあ上がってくれ。飲み物は緑茶でよいか?」

ああ、いいですね緑茶。現代っ子とは言え、私はそういうものの方が好きですよ。
…って、そうじゃなくて!

「えっと、私まだやるとは…。」

「どうした?上がってくれなければ私も入れないのだが…。」

ああ、慧音さんはお客さんを連れてきた時は、先に客を上がらせるタイプなんですね。
…軽く暴走モードに入ってますよ、この人…。最初出会った時とはまた別の印象が…。
…きっとあれだな、「外の世界の授業」と言う物への好奇心が、慧音さんの理性を壊しているんだな。
…うん、これは諦めたほうが良さそうだ…。…無碍に断る真似はしない、って言っちゃったんだし…。

「…それでは、失礼します…。」

渋々ながらも、私は寺子屋の中へと足を進める。
私に続いて、慧音さんも寺子屋の中へと入り…。



「…あ、けーねお帰り。ん、客もいるのか?」



…いきなり聞き覚えのない第三者の声を耳にした。
ふと顔を上げれば、恐らく慧音さんが授業の時に座っているであろう、いわゆる教壇の所に、とても長い銀髪を持った女性が座っていた。
…寺子屋の生徒には見えないから、同居人か副担任(?)なのかな…?

「客ならお茶くらい淹れようか?…って、慧音、どしたの?」

銀髪の女性がそう言うので、私は後ろに立っている慧音さんの方を振り向いてみる。
…私の眼に入った慧音さんは、なんと言うか、さっきまでの凛々しさと言うかそんなものは全く見えず…。
唇の端をひくひくさせながら、物凄い微妙な目つきで固まっていた。

「…妹紅、私は確か、さっきまでお前の家に行っていたはずだ…。」

…ああ、慧音さんが里の外に出ていた理由はそれか。その帰りに私に逢ったんだな。
それと、この銀髪の人は妹紅さんと仰るのですね。

「ん、そだね。うちで色々話してたからねぇ。」

「…で、私が帰る時、確かにお前は家にいたはずだったな…。」

…あれ?確かに何か変だぞ?
妹紅さんの家に慧音さんが行っていて、その帰りに私と慧音さんが逢って、此処に来て…。

「…何でお前が此処にいる?」

行き着く疑問はそれだった。何で妹紅さんが此処に?

「ん、まあ細かい事はどうでもいいじゃん。そんな事気にしてるとハゲるぞ。」

しかも妹紅さんは妹紅さんであっさりと流すし。
…これはまた、掴みづらい人が出てきたなぁ…。

「…まあいい。折角その気があるんだから緑茶を淹れてくれ…。」

頭を抱え、ため息を吐きながらそういう慧音さん。
妹紅さんははーい、と短く言って、奥のほうへと引っ込んでいってしまった。

「全く…、人の家に勝手に上がるなと何時も言ってるのに…。」

…そういう問題なのかな…。
まあ、慧音さんがそれでいいならそれでいいけど…。他人の関係に口出しするほど無粋な人間ではない心算だし。

「…で、慧音さん、私はどうすれば…?」

妹紅さんのせいで話が止まってしまったので、無理矢理話を戻す事にした。
こういう強硬手段も時には大事です。

「ああ、そうだったな。取り敢えずそこに掛けてくれるか?」

そう言って慧音さんは、恐らく寺子屋の生徒たちが使っているであろう机を指差す。
…まあ、奥は今妹紅さんが使ってるし…。
私が敷いてあった座布団の上に腰を下ろせば、慧音さんも教壇に座する。
…これから授業でも始めるんですか?しかも私に?

「さて、まずは寺子屋の事を話さなくてはならないな。
 元々この寺子屋は、里の子供たちに幻想郷の歴史を知ってもらい、人間と妖怪との関係を崩さないために作ったものだ。」

はぁ、要するに厳密には学校のような場所ではないと言う事なのかな?
歴史を学ぶための、どちらかと言うと専門学校といったところかな?
まあ、そもそも私の思う学校と、慧音さんの思う寺子屋というものは、イコールで結ばれるものではないのだろうけれど。

「気付いてるかどうかは知らないが、私は半獣。この身体には、半分妖怪の血が流れている。
 人間と妖怪の狭間の者であるからこそ、私は人間と妖怪の関係を保つ役目を担う者になった。」

ああ、やっぱり半分は妖怪だったんですか。何となく霖之助さんと似たような感じがしましたし。

「…だが、こうして寺子屋を開いたまでは良かったんだが…。
 …どうも、寺子達が授業に集中してくれないと言うか、授業が退屈なようでな…。」

そりゃ、大概授業は面白くないでしょうね。楽しい授業の方が実際は珍しいものですよ。
しかも、先生が慧音さんみたいな性格の人とあらば尚更でしょうね。
初めて会った人でも、あまり人を楽しませるのが得意ではないと判るような人ですから。

「そこで、最近外の世界から来た貴公に、外の世界の教育という物を寺子達にしてもらいたいのだ。
 神奈子殿から、外の世界には寺子屋に代わる「学校」という物があると聞いている。
 貴公も幻想郷に来る前は、そこで授業を受けていたとも聞いた。」

…八坂様、何だってそんなどうでもいい事を教えるんですか…。パチュリーさんの事といい…。
…やっぱり、減刑は取り止めにしましょうかね…。

「はぁ、仰る事は判りましたが…。…私が授業を行っては、この寺子屋の本来の趣旨とは違ってしまうのではないですか?」

そりゃまあ、一応風祝ですから日本史は結構得意ですけど…。…あ、純粋な日本人という意味で。
幻想郷の妖怪の歴史なんか学んだ事はありませんし…。

「ああ、それは構わない。
 貴公に授業をしてもらうのは、「学習」という意味ではなく「学ぶ事への楽しみ」を知ってもらうためのものだ。
 …元々私の勝手な一存で、寺子達のことは考えずに始めてしまった事だからな…。」

慧音さんの顔が、少しだけ俯く。
…何となく、慧音さんが何を考えているのかが判ったような…。
つまるところ、慧音さんは子供たちが楽しんで授業を受けられないのを、自分の責任だと思ってるんだな。
妖怪と人間の関係を崩さないためとは言え、勉強という、子供達にとってはあまり面白くないであろう事を強いている、そう思っているんだ。

…まあ確かに、勉強を楽しむ事が出来るという事は、それだけで立派な才能だと思う。
だからこそ、それを全ての子供が持っているかと言われると、そうではないのだろう。
勉強を楽しんで出来る子供なんて、元々限られてるだろうに…。
慧音さん、ちょっと真面目すぎると言うか…。…気難しいですね。
思う事に優しさは篭っているのに、その思いを行動に移す事が苦手なんでしょうね。

「…頼む、早苗殿。この通りだ。」

私に向かって、深々と頭を下げる慧音さん。その時だけ帽子を外すところが無駄に律儀ですね。
しかし、慧音さんにここまでされて断るなんて事、神に仕える私に出来るはずもない。
困っている人を助ける、それが奇跡を起こす風祝として生きてきた私の、生きる意味でもあるのだから。

「…判りました。その大役、お引き受けいたしましょう。」

慧音さんの頭がハッと上がるのが見える。

「…ほ、本当か?早苗殿。」

自分で聞いておいてそれはないでしょうに。
しかし、こうして人が喜んでくれる姿を見るのは、何時だって気持ちがいい。

「はい、こう見えても外の世界では成績優秀で通っていたんですよ。」

嘘か本当かは個人の判断にお任せします。

「それに、元々は生徒だった私が教師をやると言うのもまた斬新だと思いますしね。」

学校の教師とは、きっと誰でも一度は憧れた事がある存在ではないでしょうかね?
小学校に通っていた時とか、私も教壇に立つ教師と言う存在に憧れた物です。

「先ほど助けていただいた御礼もありますし、こんな形ででも返せるのであれば、喜んで。」

慧音さんの言葉を借りて、しっかりと自分の意思を告げる。
妖怪に襲われたところを助けていただいたのに、私はまだその恩を返していない。
言葉の通りです。その程度でも恩を返せるのであれば、喜んで。

「そ、そうか、かたじけない…。」

また頭を下げる慧音さん。
…うーん、幻想郷は外の世界に比べて時代が古いとは思っていたけれど、慧音さんは特にずば抜けていますね…。
咲夜さんなんかは外の世界でも通じそうなくらいだったのに…。
まあ、それが良いという人も少なくないと思いますけど。

「それでは、明日の朝10時ごろにまた来てくれるか?」

ん、何時もは10時ごろから始めてるのかな?
流石に学校よりは若干遅いんですね。まあ、こっちとしては助かりますけど。

「判りました、それまでに準備をしておきます。」

まあ、準備と言っても外の世界で使ってた勉強道具を引っ張り出すだけですけど。
…いくら幻想郷に来て勉強する必要が薄れたとは言え、私も少しはやっておかないと拙いからなぁ…。

「話が纏まったところで、お茶が入ったよ。」

…と、唐突に奥から妹紅さんが御茶を持って出現。タイミングを計ったような、と言うか確実に計った登場だ。

「すまないな妹紅。早苗殿も飲んで行くといい。妹紅の茶は美味いぞ?」

慧音さんの言うとおり、私の前に置かれた緑茶は香りもよく、見るからに美味しそうだった。
…緑茶ってこんなに香る物だったかな、と気になってしまうほどに。

「それでは、頂きます。」

まだ少し熱かった湯飲みをゆっくりと手にとって、少しずつ傾ける。熱さにやられないように。
…御茶を口に入れた瞬間、その見事な味に、私は一瞬言葉を失った。

「…これは…、…本当に美味しいですね。こんなお茶そう簡単に出来る物ではありませんよ。」

素直に感心する。これは本当に美味しい。一応年季が入ってる(?)八坂様だって、こんなにお茶は上手くない。
…最も、長生きしてるくせに家事とかやらない方だから、そういうスキルも成長しないんだろうけど…。

「だろう?妹紅はこういう事なら殆どなんでも出来るんだ。私としても物凄く助かっている。」

「ははは、一人暮らしが長いから、自然とそういうのも出来るようになっちゃうのさ。」

いやはや、それにしても凄い。こんなの長年御茶を淹れてる人じゃないと出来る事じゃない。
…あれ?一人暮らしが長い?それってどういう事だろう。
妹紅さんは見た感じ慧音さんと殆ど変わらない年に見えるのに、もう一人暮らしをしているのか?
それに、今更気付くのも変だけれど、妹紅さんは人間の里には住んでいないみたいだし…。

「あの、それって…。」

「上白沢先生。」

私の言葉を遮るように、急に外から第三者の声が聞こえる。
声の方を向いてみると、恐らく里の人であろう30位の男性が立っていた。
…それと、姿は見えないけど僅かにすすり泣くような声も…。

「早苗殿、ちょっと失礼。…どうしたんだ?」

慧音さんがその男性に声を掛ける。
すると、その男性は困ったような表情を浮かべて…。

「いえ、実は迷子の子供が…。」

…迷子?こんな時間に…?


「…ううっ…。…迷子じゃないもん…。そもそも子供じゃないもん…ぐすっ…。」


…って、今何処かで聞いたことがある、と言うか毎日聞いているような声が聞こえた気が…。

「なんだ、どうしたんだ?親とはぐれてしまったのか?」

「違うもん…。…いなくなっちゃったのは早苗の方だもん…。…ぐすっ…。」

…今私の名前が出た気がしたのだけれど、気のせいだろうか…?

「こら、母親なのかお姉さんなのかは知らないが、そう軽々しく呼び捨てに…。…って、早苗…?」

いい加減黙って聞いているのに耐えられなくなったので、私も立ち上がって玄関へと移動する。
…途轍もなく見覚えのある蛙の帽子に、しょっちゅう洗濯してる気がする蛙が描かれた服…。

…迷子の子供というのは、やっぱり洩矢様のことだった…。
…そう言えば一時間ちょっとすぎてましたね…。

「早苗殿、この子は貴公の妹か?」

もう完全に子ども扱いされてますね洩矢様。仕方ないといえば仕方ないですけど。
ああでも、その泣き顔も少し愛くるしいですね…。…ああ、何か理性の箍が外れそうです…。

「あぅ…?…ああっ!!早苗!!何処行ってたの!?心配したんだよぉ!!何でこの間から急に何処か行っちゃったりするのよぉ!!」

取り敢えず紅魔館のときは勝手に迷子になったのはそっちですし、何処に行ってたと言われれば見て判らないのかと言いたくなったけれど…。
…何となく、洩矢様の泣き顔が私の何かを刺激するので、此処はもう少し趣向を凝らしてみよう。


「いえ、人違いじゃないですか?名は体を現すと言いますし、同じ名前ならその早苗さんとも似ているかもしれませんし。」


「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」


里に響き渡る洩矢様の絶叫。夜だというのに近所迷惑もいいところですね。

「ちょっ!?早苗!?ひょっとして妖怪にでも襲われて記憶をなくしちゃったの!?」

「いえ、妖怪には襲われましたが、慧音さんに助けていただいたので外傷は特に。」

「だそうだ、すまないが他を探してみてくれないか?特徴さえ教えてくれれば私も協力しよう。」

「いや!!だから目の前にいるってば!!早苗!!何があったのか知らないけど眼を覚ましてぇ!!」

「いやいや、私は取るとあふれ出す無限蛙の帽子を常備して、口癖が「あーうー」の神様の癖に子供にしか見えない神様なんか知りません。」

「完全に確信犯じゃん!!そんな事言ってる時点で!!しかもさりげなくそーとーバカにしたよね今!!」

「こら、年上にそんな無礼な口を利くもんじゃないぞ。」

「違うもん!!私の方がずっと年上だもん!!うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

終いにはわんわん大声で泣き出す洩矢様。もう完全に子供です。ああ、頭がくらくらする…。
一歩間違えば慧音さんと私が幼児虐待してるようにしか見えません。
…変な誤解を受けてはたまらないので、ここいらで洩矢様虐めは止めておこう。

「ほら、泣き止んでください、アメ上げますから。」

こういう時用に常備しているアメを取り出す。洩矢様は甘い物には目がないからなぁ…。

「違うもん違うもん!!子供じゃないもん!!…あ、美味しい…。」

何だかんだ言いつつアメを受け取る洩矢様。
…アメを嘗める姿が嵌りすぎていて恐ろしいです…。

「あー、すみません慧音さん。洩矢様が探しているのは私で合ってます。
 いつもの仕返しという事で(建前)ちょっと虐めたかっただけです。」

きょとんとする慧音さん。私のあまりの態度の変化に驚いたのだろうか。

「なんだ、最初からそう言ってくれれば良かったのだが…。…やっぱり妹なのか?何となく程度にしか顔は似ていないが…。」

寧ろ少しでも似てるんですね。ちょっと意外。

「いえ、主人です。」

素直に答えてみる。

「…………はぁ?」

見事に崩れる慧音さんの顔。これって結構貴重なシーンだったと思うんですよ。

「ああ、八坂様からは聞いていないんですね。
 この方は洩矢諏訪子様。守矢神社の2神のうちの1柱ですよ。」

因みに神様の数え方は「柱」ですので、あしからず。オンバシラですよオンバシラ。

「…早苗殿、それは何かの冗談か?」

「冗談ではないです。」

「いや、どう見ても子供…。」

「姿はこれでも御年数千歳ですよ。中身は子供のままですが。」

「いや、だって何の力も感じないぞ…?」

「ああ、洩矢様は神力を隠すのが上手いんですよ。八坂様にもそうして欲しいんですけどね。
 本来なら神様が2柱も近くにいたら、風祝もたまったものではありませんから。」

「…本当、なのか…?」

「はい、マジです。」

「マジなのか?」

「マジです。本気と書いてマジと読みます。」

「…………。」

そのまま固まる慧音さん。恐らくさっきまでの自分の言動を思い出しているのだろう。
正直な話、洩矢様には妥当な台詞だったとは思うけれど。

「ま、まことに申し訳ない諏訪子殿!!神に対してなんと言う無礼な口を!!」

何度も激しく腰を折る慧音さん。あまりの事で帽子を取るのを忘れたのか、その勢いで帽子が地面に落ちた。

「ほら、洩矢様、慧音さんもこの通りですから。あまり怒らないで下さい。正直適切な対応だったと思いますし。」

「…早苗、最近さりげなく毒づくのが上手くなったよね…。」

何のことですかね。私は思うとおりに事実を述べたまでです。
…と、そう言えば思い当たる事が一つ。

「洩矢様、八坂様はどうなさったんですか?」

そう言えばまだ八坂様の事はどうなったのか聞いてない。
洩矢様が平常なところを見ると、逃げられたと言う事はなさそうだけれど…。

「ん、取り敢えず神力を封じる鎖でオンバシラに縛り付けておいたよ。
 神力が使えなければただのオバサンだから、誰か助けに来ない限りは絶対に抜け出せないって。」

洩矢様、さりげなく毒づく事に関してあなたは人の事を言えるのですか?
まあいいや。それで問題が無いのであれば。

「ありがとうございます洩矢様、ご褒美のお饅頭はちゃんと買ってありますので。」

「わーい、早苗大好き♪」

ぴょこぴょこと蛙の如く跳ねる洩矢様。
人(神様)を縛り付けた褒美で喜ぶのだから良く判らない。
まあ、洩矢様には遠い昔に八坂様に敗れた恨みみたいなのもあるだろうし、そもそも頼んだのは私だし。

「(…子供にしか見えん…。)…で、早苗殿、諏訪子殿が神だと言う事は判ったのだが…。…何故人里に?」

一瞬慧音さんの心の声が聞こえたような気がしたけれど、まあそれは置いておこう。だって妥当だし。

「ああそうでした。洩矢様には迎えに来てもらうように頼んでおいたんです。迷子になったのはそのせいでしょう。」

「迷子じゃないってばぁ!!迷子になってたのは早苗の方だもん!!」

私は迷子になってません。慧音さんの家に来ていただけです。
そもそも何処で待ち合わせとも言ってないのに、勝手に探し回ったのはそっちですから。

「そういう訳で、明日の準備もありますから私はこれで失礼します。
 あ、妹紅さんにお茶が大変よろしかったと伝えておいてください。今度教わりたいくらいです。」

そう言えば妹紅さんは何やってるんだろう。ずっと寺子屋に篭りっぱなしだけど。
まあいいや。私が気にしても始まらない事ですし。

「そうか、伝えておこう。早苗殿、明日はよろしく頼む。」

慧音さんが頭を下げる。今日だけで結構な回数頭を下げてる気がしますね。
まあ、それだけ礼儀正しい人なんだから、悪い気は全くしませんけど。寧ろ罪悪感に似た感情を覚えます。

「はい、任せてください。それでは洩矢様、帰りますよ。荷物持ってくださいね。」

「はーい。」

私と洩矢様は寺子屋の玄関先においてあった荷物を回収し、その際に中で正座して待っていた妹紅さんに別れを告げる。
慧音さんにももう一度別れを告げてから、私は人間の里を後にした。



 * * * * * *



「さて、私も明日の準備をせねばな。」

「慧音があんなに頭を下がるなんて珍しいなぁ。」

「何を言っている妹紅。人に物を頼む際に頭を下げるのは当然だろう?」

「それだけ慧音は自分で事を片付けようとし過ぎって事。」

「うっ…。」

「まあそれが慧音のいいトコでもあるんだけど。それより、明日はさっきのが授業するんだって?」

「…あ、ああ…。(も、妹紅に久々に褒められた…!)」

「何顔赤くしてるのさ。でさ、それ私も参加していい?」

「えっ…?そ、それは構わないだろうが…。…妹紅はそういう経験はあるのか?」

「何言ってるんだよ。授業を聞いてればいいだけだろ?」

「受ける側か。」

「当たり前じゃん。教師なんて面倒な事はやらない。」

「…!!…は、はは…。…そうだな…。…面倒だよな…。」

「んっ?慧音?何そんな急に落ち込んでんの?」

「いや、いいんだ妹紅。冷静に考えれば判る事だった。
 長い付き合いだし、面倒だと思っていなければ、私にも一度くらいそう言ってくれてもおかしくなかったな…。
 妹紅と一緒に2人で授業…。…そう思っていた時期が私にもありました…。」

「ちょっ!?けーね!?言ってる事が判らない上になにカミソリなんか取り出して…。
 わーっ!!けーね駄目!!手首切ろうとするなああぁぁぁぁ!!!!」



 * * * * * *



「ふぅ、守矢神社に帰って来たのも久しぶりな気がしますね。」

紅魔館でのアルバイトは泊り込みだったので、神社に帰って来たのは3日ぶりの事。
3日も開けていたはずなのに何も変わってなかったのは幸い。
博麗神社みたいに妖怪の巣窟になってるんじゃないか、と言う不安が心の片隅にあったけれど、杞憂に終わってよかったです。

「そうだねー。私も早苗を探しに回ってたから帰ってくるのが久しぶりに感じるよ。」

私を探してくださっていたのはありがたいのですが、それで逆に迷子になっていては元も子もないような気が…。

「…で、洩矢様、八坂様はどちらに?」

「ん、オンバシラの墓場(Stage6)にいるよ。尤も今は動けないはずだけど。」

そう言えば今は神力を封じる鎖で縛り付けてあるとか言ってましたっけ。
神力を封じる鎖って何だろう、と少し思わなくもないけれど、まあ細かい事は気にしてはいけない。
確かに当の場所から八坂様の存在を感じるし、万一逃げられたりでもしたら…。

「…んっ?」

そう思ったところで、私は妙な気配を感じる。
八坂様の力は確かに感じるけれど、それ以外にももう一つ、そのすぐ傍に妖気を…。
誰かが、八坂様と逢っている…?
しかも、その妖気は私が何度か感じたことがある、良く知っている人の物…。

「…まさか…!」

荷物をそばに置いて、私は八坂様の元へと全速力で駆けて行く。

「えっ?さ、早苗!?どうしたの!?ちょっと待ってよー!」

洩矢様の声が聞こえたけれど、今はとにかく無視。
今八坂様の傍にいるのは、間違いなくあの人…。
これは拙い。あの人なら八坂様の手助けをする恐れがある。
逃げられては元も子もない。間に合って…。



 * * * * * *



「…それは大変でしたね、でも半ば自業自得じゃありませんか?」

大量のオンバシラの片隅、鎖で縛り付けられた八坂様。
そしてその前に座る影が一つ。

「いや、確かに少しかわいそうだとは思うけどさ…。それで2段スペルを打ち込むのもちょっとやりすぎだと思わないかい?
 大体さ、風祝が私に対してあんな行動にでるのもどうかと思うのよ。」

「まあ、それは確かにそう思いますけど…。私も酷い目に合わされたことがありますし…。」

私が?私が八坂様とあの人になにを?
変な言いがかりをつけるのは止めて欲しいですね。

「…あれ?あれって何時ぞやの烏天狗じゃん。最近神社には来なかったけど。」

追いついた洩矢様のその一言。
そう、八坂様の前に座っているのは、誰であろう烏天狗の射命丸さん。
椛さんが新聞を持って来る様になってからは全く逢わなかった人。
あれ?でも椛さんの話では、射命丸さんはいま自宅に引き篭っているとか…。

「…判りました、早苗さんが今はいらっしゃらないと聞いて、何か仕返しが出来るネタがないかと此処に来ましたが…。
 神奈子さんとは利害が一致していますしね。お助けいたしましょう。」

「早めに頼むよ。諏訪子が早苗を迎えに行ってるから、そろそろ帰ってくる時間だからね。」

…いえ、もう帰ってきてます。
しかしまあ、此処はもう少しだけ見ておく事にしましょう。
射命丸さんがタダで動くはずがない。八坂様は一体どんな餌で射命丸さんを釣ったのか…。

「判りました、幻想郷最速の実力をご覧入れましょう。」

う~ん、縛ってある鎖を外すだけなのに、足の速さが何の関係が…。
…って、うわっ!ホントに早い!一瞬で鎖が外れましたよ!
射命丸さんは何をやっても早いんですね。手も早いし足も速いし…。

「これで大丈夫ですね。さて、約束どおり早苗さんの恥ずかしい秘密を教えていただけますか?」

…はい?今なんと…?

「ああ、ひとまずとは言え命の恩人だからねぇ。このままだったら確実に早苗に殺されてたから…。」

…だから八坂様は私に何の誤解をしているんだろう。
しかし、八坂様。次の発言次第によっては今の言葉が真実になってしまいますよ…?

「お礼は後で。今はネタの方を。新聞にしてしまえばこっちのものですから。」

…メモ。後で椛さんに文々。新聞の印刷を止めてもらうように依頼しよう。
椛さんの管轄ではないでしょうけど、印刷している天狗の方に声を掛けてもらうことくらいは出来るでしょう。

「ああそうだった。私もちょっと早苗には仕返ししないといけないからね。」

だから、私は八坂様に仕返しされる覚えはありませんってば!
私は八坂様には何もしていません!変な言いがかりをつけないで下さい!

「…今更だけど、随分都合のいい記憶回路持ってるよね、早苗の脳は…。」

洩矢様が何か言っていた気がするけれど、無視。
今は八坂様の言葉を聞き逃さないように…。

「実はだね、早苗が子供好きなのは知ってるだろ?」

「はい、それは勿論。」

…えっ?何時の間に私はそんなキャラが定着してたんですか?

「こないだ寝言で「洩矢様…ああ…。」とか言っててね。流石にあれは引いたねちょっと。」

ちょっ!!わ、私そんな事言ってたんですか!?
確かにマイジャスティスは洩矢様の「あーうー」ですけど!!否定は出来ませんけど!!
だって可愛いからいいじゃないですか!!

「知ってますってば。ですがそれだけじゃ新聞には出来ませんよ。ロリコンなんて幻想郷には沢山いますから。」

射命丸さんそこら辺もうちょっと詳しく聞きたいです。
まあ私もとりあえず一人は知ってます。咲夜さんとか。
…でもレミリアさんは503歳なんだから、それを愛する事は果たしてロリコンになるのだろうか?

「いやいや、まだ話は終わってないよ。実は外の世界の話なんだがね…。
 早苗はねぇ、しょっちゅう学校帰りに近くの公園で子供と遊んでいたんだけど…。」

そう言って、八坂様は懐から一枚の紙のようなものを取り出す。
あの服装で何処に隠しているのかはご想像にお任せします。

「この写真を見てくれ。こいつをどう思う?」

「…すごく…拙いと思います…。」

どうやら八坂様が見せているのは何かの写真のようだ。いやまあ、話の流れからいって私の写真なんだろうけど。

「これは結構衝撃的な瞬間ですね。誰がどう控えめに見ても変態にしか…。」

…What?

「だろう?行為には及ばなかったとは言え、この眼は犯罪者の眼だよ。」

…私の中で、何かがふつふつと湧き上がるのを感じる…。

「成る程、早苗さんは子供なら男女問わず、と言う事ですか。
 確かに幻想郷広しとは言え、両刀使いはそんなにいませんからね。」

「だろうね。私もそう多くは知らないよ。この写真はネタになると思わないかい?」

どんな写真なのかも皆様のご想像にお任せします。
これ以上やると何か色々大切な物を失いそうだとは作者の言葉。
とにかく、今は…。

「そうですね、これはいい記事が…。」



ブチィッ!!!!



…キレた私の、本能の赴くままの行動を起こすことにします…。



「…何か今、聞いてはならない音を聞いたような気がするんですけど…。(文)」

「…い、いや、空耳さ…。…て言うかそうでないと…。(神)」

「…あはは、あはははは…。…いやぁ、八坂様。好き勝手にある事ない事捏造してくださって真にありがとうございます…。(早)」

「さ、早苗!?あ、あははは、お、お帰りなさい…。…か、帰ってきてたなら言えばいいのに…。(神)」

「ええ、ただいま帰りました。それと射命丸さんもお久しぶりですねぇ…。
 いやぁ、椛さんから家に篭っていらっしゃると聞いて、心配していたんですよぉ…。(早)」

「あ、あややや…。…そ、それはどうもです!!
 あ、すみません!!急用を思い出しましたのでこれで!!おじゃましました!!(文)」

「いえいえ、ゆっくりしていってください。夢符『二重結界』。(早)」

バシッ!!(文が結界にぶつかる音)

「痛ッ!!こ、これは霊夢さんの結界!?何で早苗さんが!?(文)」

「実はですね、ちょっと前にどっかの誰かさんに変な新聞を書かれたせいで、霊夢さんに襲撃された事がありましてね…。
 その時にパッと見ですけど、ひょっとしたら何かに使えるのではないかと、霊夢さんに教えてもらいまして…。
 結界術は使えなくとも、スペルカードによる結界でしたらなんとか…。
 いやはや、因果応報と言う言葉が今の貴女にはぴったりですねぇ、射命丸さん…。(早)」

「あややあああぁぁぁぁぁん!!!!何でそんな余計な事をおおぉぉぉ!!!!(文)」

「さぁて、八坂様に射命丸さん。覚悟は出来てますよねぇ?(早)」

「「出来てない出来てない!!出来てないから解放してぇ!!!!(神&文)」」

「八坂様もねぇ、大人しくしていてくだされば、お仕置きは軽くしようかと考えていたのですが、残念ですね。(早)」

「いやいや!!多分軽くなってたところで大して変わらないから!!(神)」

「いえいえ、マダ○テからミ○デインくらいにはなったかもしれませんよ?(早)」

「どっちにしたって殆ど最強技じゃない!!!!(神)」

「しかしまあ、折角射命丸さんもいらっしゃいますしねぇ…。射命丸さんには今知った事を忘れてもらわなくてはなりませんからねぇ…。
 出血大サービスで、ミナダ○テ位のお仕置きにしておきますかぁ!あははははははははぁ!!!!(早)」

「ちょっ!!ミナ○ンテなんか知ってる人少ないわよぉ!!しかも一人じゃ撃てないしいいぃぃぃぃ!!!!(神)」

「私には何を言ってるのかさえさっぱり判りませえええぇぇぇぇぇぇん!!!!(文)」






「あやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」







「…私、知ーらないッと…。(諏)」



 * * * * * *



ぴぴぴぴぴぴぴっ!!


目覚まし時計の音に、私はゆっくりと眼を覚ます。
うーん、私は何時の間に寝床に…?
何だか神社に帰って来た辺りから記憶があやふやだなぁ…。…まあいいや…。
今の時刻は…、…9時ですね、丁度いい。
慧音さんとの約束は10時だから、その間に支度して神社を出れば充分間に合う。
その前に顔洗ってこよう…。まだ頭が覚醒しきってない気もするし…。

「あ、早苗おはよー。」

と、寝巻き姿でふらふら歩いていた私の眼に、何時も通りの元気溌剌な洩矢様の姿が映る。

「洩矢様…?珍しいですね、何時もでしたら10時くらいまでは寝ていらっしゃるじゃないですか。」

個人的には10時に起きてたって意外なんですけどね。
見た目的には昼間で寝ててもおかしくなさそうですし。

「ん、神奈子があんな調子だから気分が良くてねー。
 んーっ!別にもういいかと諦めてたけど、やっぱり昔私の神社を乗っ取った奴がボコられると気分がいいねーっ!!」

元気よく伸びをしながら、本当に嬉しそうに語る洩矢様。
そう言えばそんな話を聞いた事があったなぁ。私が初めて洩矢様たちと出会った時は、仲良さそうだったんですけどね。
いやまあ、今でも仲はいいんでしょうね。ただ、こう数ヶ月のうちに何回も八坂様が…。
…って、あれ?八坂様が?

「洩矢様、また八坂様は何者かに襲撃されたんですか?」

「…あれ?早苗、覚えてないの…?」

私の問いかけに対して、なに言ってんだコイツと言いた気な表情で返す洩矢様。
覚えてるも何も、私は神社に帰ってきてからの事は良く覚えてませんし…。
個人的には、帰ってきてすぐに疲れて寝てしまったんだと思ってますけど…。


「…そろそろ…、…都合がいい記憶回路、だなんて言ってられなくなって来たかもね…。」


…その時の洩矢様の表情は、何時になく険しかったような気がする。

…まるで、親の敵を見るような眼…。

普段の洩矢様なら絶対に見せないような、激しい怒りが込められて…。


「…あ、あの…、…洩矢様…?」


私は少し、恐怖すら感じていた…。
洩矢様の怒りが何に対して向けられているのかは判らなかったけれど…。
…怖い。本気で、これが神の怒りと言うもの…?

「…えっ?あ、ああ、ご、ごめん早苗。なんでもないよ。気にしないで。」

途端に、洩矢様の表情が何時も通りに戻る。
それと共に、私が感じていた恐怖の念も、綺麗さっぱり嘘みたいに。
…気のせい…だったのかな…?
…そんなはずはない、とは思うけれど…。…気にしないで、と言う洩矢様の心を、無理に穿り返す事もない。
と言うより、もう一度今の恐怖を体感するのが嫌なだけですけれど…。

「そ、そうですか…。…それで、八坂様は…?」

…また話が戻ってしまいそうだけれど、とりあえずそれだけは聞いておかなくては。

「ん、今は寝込んでるよ。前回みたいに何日も掛かるようなケガじゃないから、暫く放っておいた方が効果的だよ。」

その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
また八坂様が封印状態になってしまっては色々と困る。もうバイト中ではないんですし。
とにかく、八坂様が起きられたらちゃんと話はつけておかないと…。

「判りました、後で御粥でも作って持って行きますよ。」

「神奈子なら粥の自給自足は出来るだろうけどね。」

ごもっともで。
まあそんな事はどうでもいいです。

「それでは、私達も朝食にしましょうか。顔を洗ってきますから、それまでリビング(?)で待っていてください。」

「はーい。早苗の朝ごはん食べるの久しぶりだねー。」

そう言って、パタパタと駆けていく洩矢様。
…本当に、さっきまでの狂気が嘘のように…。
…なんだったんだろう、さっきのは…。…本当に気のせいだったのかな…。
…考えても仕方が無いか。とにかく、顔を洗って朝食にして、早く慧音さんのところに向かおう。



 * * * * * *



「それでは行ってまいりますね。遅くとも夕方には帰りますので、昼食は御自分でお願いします。」

朝食と準備を色々と終えて、私は洩矢様にそう告げる。
今は大体9時半ごろ。此処から空を飛んでいけば、10時には充分間に合う時間だろう。
ちょっと寄るところはありますけどね。

「ん、いってらっしゃい。朝だから大丈夫だと思うけど、それでも気をつけてよ?」

「はい、昨日の事もありますので、注意は充分に払っておきますよ。」

妖怪が活発に動くのは基本夜のことだから、今は大丈夫だと思う。
だけどまあ、紅魔館では美鈴さんたちは普通に朝から行動してたからなぁ。油断は出来ない。
昨日みたいに襲われても洒落にならないので、素直に洩矢様の忠告は聞く事にする。
尤も、昨日も油断してたわけじゃないんだけどなぁ…。

「じゃあね~、早苗、お土産よろしくね。」

「昨日買ったのがまだあるでしょうに。」

それだけ言って、私は身体を宙に浮かす。
手を振る洩矢様の笑顔を背に受けながら、私は今日すべき内容を確認し、比較的速いスピードで空を飛んだ。



 * * * * * *



…どういう事だろう…。いくらなんでも都合が良すぎる。
早苗にとって都合が悪い事だけが、早苗の記憶に残っていない…。
確かに、早苗が覚えてないと言う記憶は、早苗が怒り心頭の時の事。頭の中で何も考えていない時の事…。
…だとしても、これはそろそろ都合がいい、だけで済まされることではない…。
いくら怒りに身を任せているからって、まるで記憶が残らないのはおかしいし、だったら正気に戻るのは怒りが途切れた時の事。
昨日みたいに、無意識の内に眠りにつくなんて事は…、…考えづらい。

考えられる理由は、2つ…。
正気でない早苗は、誰かに操られているという事…。
だけど、これは可能性が低い。だって、そんな事をされていたら、私が気が付かないはずはない。
自分で言うのはなんだけれど、神の眼を誤魔化す洗脳術なんて物は、普通に考えて有り得る物ではない。

あるいは、誰かが意図的に、早苗の記憶を削り取っている…?
だけど、これはこれで不可解な事もある。
私に気付かれないように記憶を削るには、私が早苗と離れている時か、私の意識が現実に無い時…。
…昨日から今までの時間帯では、眠っている時以外には考えられない。
眠りとは人の記憶を削る場でもある。そういう意味では、人の記憶を操るには最適の場と言える。
だけど…、…だとしたら、早苗は昨日神奈子と烏天狗を負傷させた後に、一度は正気に戻っているはず…。
…それに、仮に記憶を削るにしたって、眠っている際に記憶を操るなんて事、限られた者にしか出来るはずもない。
そんな事は、夢の世界に入れない限り…。…夢と現実の境界(・・・・・・・)を、操れない限りは…。

「…何にしたって、誰かの手が加わってる事は、間違いないね…。」

と、まるで私の心を見透かしたような言葉が、私の背後から聞こえる。

「神奈子…。…寝てなくていいの?傷、治ってないでしょ?」

身体中に包帯やら絆創膏を張った神奈子が、私の後ろに立っていた。

「寝ていられる状況でもないさ。早苗は…私たちが守らなくちゃいけないんだから…。」

…神奈子にしては、珍しい一言だったけれど…。
今の私には、その言葉がとても頼もしくて、そしてとても嬉しかった。

「…そうだね、誰だか知らないけど…私の子孫に、手出しはさせないよ…。」

近くにいるのかは判らないけれど、私は見えない敵に向かって宣戦布告をする。
今はまだ許してやる。早苗自身に実害があったわけじゃないし、そもそもまだ私の予想が正しいのかも判らない。
ただし、万が一早苗に手を出したら…、…その時は、誰であろうと本気で潰しに行ってやる。
例え、相手が最強の妖怪(・・・・・)だったとしても…。



 * * * * * *



「そういうわけで、今日の授業を担当してもらう事になった、東風谷早苗先生だ。」

場所は変わって、ここは人間の里の寺子屋。
昨日とは違って寺子たちがにぎわう中、私は拍手で迎えられる。
…ああ、なんだか気恥ずかしいなぁ…。

「えっと、東風谷早苗と申します。
 今日は外の世界での授業を皆さんに体験していただこうと思いまして、一日教師をさせて頂きます。よろしくお願いしますね。」

「「「「「よろしくお願いしまーす。」」」」」

うん、元気がいいですね。よしよし。因みに別に5人しかいないわけじゃないですよ?
…ただ、一つだけ気になる事が…。

「いやはや、こういうところに座るのも新鮮だなぁ。一度くらい体験しとけばよかったよ。」

寺子屋の一番後ろの席に座る妹紅さん。一人だけ身長が高くてかなり不釣合いです。あとやたら髪が長くて不釣合いです。
慧音さんによれば、妹紅さんも授業を受けてみたいとの事で、私とは逆に一日体験授業だとか。
…うーん、判らない人だ妹紅さんは…。
それに、慧音さん今日は手首に包帯巻いてるけれど、あれは一体なんだったんだろう。
まあいいや、考えても仕方が無いし。

「それで慧音さん、今日は私の自由な時間割で進めて良いんですよね?」

隣に座っている慧音さんに確認を取る。
寺子屋に着いた時に、色々と相談して決めた事だ。

「ああ、歴史に拘らずとも構わない。好きな授業をやってくれ。
 私も一応、今日は生徒と言う形で授業を聞かせてもらう。何か気になる時にだけ声を掛けてくれ。」

慧音さんも、今日は生徒として授業を受けるようだ。
まあ、慧音さんは外の世界の学校の事は知らないでしょうし、丁度いい機会なんでしょう。
今日の授業は、私一人できりもりしなくてはいけないという事ですね。

「判りました、それでは最初の授業を開始しますよ~。」

「「「「「は~い!!」」」」」

うん、やっぱり子供は純粋で良いですね。
返事もはきはきしてて、これは結構やり甲斐があるかもしれませんね。

「さて、それじゃまずは慣れ親しむという意味で、国語にしますか。と言う訳で、皆さんに今からプリントを配りますね。」

そう言ってから、私は此処に来る途中に立ち寄った天狗の印刷所でコピーしてきたプリントを取り出す。
いきなりこんなこと言って断られるんじゃないかと不安だったけれど、椛さんの協力によりOKを貰う事が出来た。
因みにその際、射命丸さんが一時外に出たと思えばまた引き篭ってしまったという事を聞いた。
…う~ん、大変ですねぇ射命丸さんも…。

…と、そんな事を思っている間に、私が配ったプリントは滞りなく全員に行き渡ったみたいで…。

「…ちょっと待て、何だこれは…。」

「…さ、早苗殿…!これは幾らなんでもタイムリーすぎる…。」

…何故か、慧音さんと妹紅さんがプリントを見た瞬間に、肩を振るわせ始めた。

「…えっ?ど、どうかされましたか?日本の昔話の代表的な作品じゃないですか。『かぐや姫』。」

私が授業にチョイスしたのは、日本人なら誰でも知っているであろう昔話の『かぐや姫』。
原本の『竹取物語』でも良かったんですけど、子供たちには古典よりも現代文のほうが良いかな、という理由で選んだ物。
尤も幻想郷の人々にとっては古典でも良かったかな、と言う気もしなくもないなぁ…。
最古の物語なので、文学の始まりとも言える作品ですし、そういう意味でも授業には丁度良いと思ったんですけど…。

「あー…、…あのだな早苗殿…。…貴公は知らなくても当然なんだが…。」

「いや、慧音待ってくれ。」

気まずそうな表情を浮かべる慧音さんに、妹紅さんが声を掛ける。
…どうもその声が、怒りを抑えているような暗い声なので、ちょっと怖かった…。

「…そうだな、これも修行だ。あいつの事はうんざりするほどに知ってる心算だけど…。
 怒りに身を任せちゃいけない。そうだ、落ち着け私。今は憎しみを封印するんだ…。」

なにやらぶつぶつと独り言を呟く妹紅さん。それが呪いの呪文みたいに聞こえる。
…またまた妹紅さんという人が判らなくなってくる…。…何でかぐや姫にこんな…。
空想の物語に何の恨みがあるんだろう。まあ良いや。

「さてまあ、気を取り直して…。
 今皆さんにお配りしたのは、『かぐや姫』の中間くらいの話の、貴族の方々がかぐや姫に求婚する話です。
 その中からさらに抜粋して、今回は「蓬莱の玉の枝」のところを。」

「早苗殿狙ってないか!?知っててやってるのか!?」

即座に慧音さんからのツッコミが入る。う~ん、なんだってこんなに過剰反応なんだろう…。

「…うぎぎぎぎぎぎぎ…。」

しかも妹紅さんは少女らしくもない謎の奇声を発してますし…。
手も今すぐにでもプリントを引き千切らん位に力が入ってますし…。

「…まあいいや。とにかく授業を開始しますよ。
 …っと、その前に一応聞いておきます。皆さんはかぐや姫については知っていますか?」

私の問いかけに対して、妹紅さん以外の全員が元気よく手を上げる。
…妹紅さんはまあ、そもそも私の言葉を聞いていなさそうですけど…。
…あれだけの反応はしているんですから、知らないって事はないでしょうし。

「よし、全員知ってるみたいですね。
 それでは、まずは皆さんで音読してみましょう。」

竹取物語の文章ではなく、どちらかと言えば子供向きのかぐや姫の文章なので、そう難しくもないでしょう。
これまた妹紅さんを除いて、寺子達全員が元気よく音読を開始する。
うん、これなら妹紅さんという不安を差し引いても、きっといい授業が出来ると思いますよ。

そうこうしている間に、寺子達がプリントの音読を終える。
まあ一場面だけですし、簡易版の「かぐや姫」の方ですし。

「よし、皆さん大きな声で良かったですよ。
 さて、外の世界の国語の授業と言うのは、基本的には文章から作者や登場人物の心情を読み取っていく事です。
 と言う訳で、今回は主人公のかぐや姫の事について、皆さんで考えていきましょう。」

…と、私の言葉の直後に、ただでさえしかめっ面状態だった妹紅さんの顔が、さらに怒りに満ちた表情になる。
もうなんか、背景に炎とゴゴゴゴゴゴ…という効果音が幻視出来ますよ。
心なしか、教室内もちょっと熱くなってる気がしますし…。

「…あんな奴の事なんか考えたくもない…!
 あいつはただ父上たちを振り回して楽しんでただけだろうがああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

…妹紅さんの何かが爆発したみたいです。
って、そんな事はどうでもいいです!!なんかこれはヤバいです!!何か判らないけどとにかく!!

「も、妹紅さん如何したんですか!?序にその背中の炎の羽根はなんですか!?」

「ちょっ!!妹紅落ち着け!!寺子屋を焼く心算かあぁぁぁ!!」

私と慧音さんが急いで止めに入る。
寺子達は悲鳴やら歓喜の声(多分炎の翼に)を上げながら、教室の隅に避難。

「離せ!!離してくれ早苗に慧音!!あんにゃろうを今すぐ焼きに行ってやる!!ウェルダンにしてやるぁ!!」

「妹紅さん落ち着いてください!!穏便に話し合いで解決しましょう!!」

ああ熱い!!妹紅さんの体がとても熱いです!!そのまんまの意味で!!
きっと妹紅さんは炎を操る能力を持ってるんだろうな、とかそんな事考えてる余裕もありませんけど。

「妹紅頼むから落ち着いてくれ!!寺子屋が燃える!!こんな事で歴史食いの能力を使わせないでくれ!!」

「うるさぁい!!この燃え滾るマグマのハートをあの姫様にぶち込んでやらああぁぁぁ!!!!
 私の心が真っ赤に燃えている!!私の心がフジヤマヴォルケイノオオォォォォ!!!!」

「妹紅さん意味は違うんでしょうがなんか言ってる事がおかしいです!!それは好きな人に言ってください!!」

完全に錯乱してますよ妹紅さん!!
私そんな変なこと言いました!?この人とかぐや姫に一体どんな関係が!?
とりあえずそんなことを考えている余裕がないのも確かですけど!!

「妹紅!!落ち着けと言ってるだろう!!
 ああもう!!誰かバケツに水を汲んで来い!!出来るだけたくさんだ!!」

慧音さんの迫力に押されたのか、それとも本気で拙いと思ったのか、多分両方だろうけど。
寺子達の何人かが急いで寺子屋の奥へと駆けていき、そしてすぐに水を汲んで帰ってきた。
…うん、幾ら緊急とはいえ、水汲んで持ってくるまでが早すぎなんですけど。

「よし!!目を覚ませ妹紅!!」

バシャッ!!と慧音さんが勢いよく水をぶっ掛け、
ジュッ!!と水が一瞬で蒸発する。
恐るべき妹紅さんの体温。水を掛けても掛けても一瞬で蒸発していきます。

「あははははっ!!その程度の水で私の不死鳥を止められるものかぁ!!」

妹紅さん既に目がいっちゃってます。これは犯罪者の目ですね。
しかも、蒸発して水蒸気となった水が、寺子屋中を包んでいくので…。

「うわっ!!何だ!!火事か!?」

「て、寺子屋から煙がっ!!」

…うん、外から見たら火事にしか見えないでしょうね…。
もう騒ぎが里にまで広がり始めてますよ。どうすればいいんでしょうねー。
…何でこんなに落ち着いてるんだろう、私…。…紅魔館でのアルバイト生活でハプニングに耐性でも付いちゃったのかな…。

「くそっ!!埒が明かないか!!こうなったら私の能力で…!!」

「うっ…!!げほっ!!ごほっ!!」

…と、妹紅さんの暴走は予想外の幕引きを見せた。
慧音さんが何かをしようと手を振り上げた瞬間に、いきなり咳き込む妹紅さん。

「げほっ!!け、煙が喉に…!!…げほっ!!」

…ああ、水蒸気を一気に吸いすぎたんですね。
しかも妹紅さんの体温が水を一瞬で蒸発させるほどまでに高まっていたから、喉に入った煙の温度が下がらなくて気体のまま…。
…うん、それは辛いでしょうね。普通の体温の人だって水蒸気を大量に吸ったら辛いのに。

喉の苦しさに気をとられたのか、妹紅さんの炎の翼が何事もなかったかのように霧散し、そして…。

バシャッ!!!!

…今度こそ、慧音さんの放ったバケツの水が、妹紅さんの身体を濡らしたのだった…。



 * * * * * *



「ホント済みませんでした。」

土下座するずぶ濡れの妹紅さん。
そしてそんな妹紅さんを見下ろす、とてもにこやかな笑みを浮かべる慧音さん。
…ただ、その顔は笑っているように見えて、全く笑っていなかったけれど。

「いやいや、判ればいいんだ妹紅。私は怒ってなどいないさ。
 ああ、怒ってないとも。いくら輝夜絡みとはいえ、寺子や里の者達に迷惑を掛けたことなどなぁ。」

「マジでごめんなさい。ホント許してください。」

完全に怒ってますね慧音さん。見ている私達も怖いです。
寺子達も何人か泣き顔になってますし。
因みに寺子屋の外で騒いでいた里の人達には、事情を話して納得していただきました。

「…全く、何時もの事とは言えどうしたんだ今日は。
 輝夜の事で気分が悪くなるのは判るが、だからってあんなに暴走することもないだろ。」

…う~ん、さっきから輝夜輝夜って…。
そのカグヤって人に恨みがあるから、かぐや姫に対してあんなに苛苛してたのかな妹紅さんは…。

「う~ん…。…いや、何だか今日は無性にむしゃくしゃして…。
 おかしいなぁ、この程度のことだったらもう慣れっこだったはずなのに…。」

なにやら考え込んでしまう妹紅さん。
苛苛してたにしろ、いきなり焼きに行こうとするのはさすがに乱暴だと思うんですけど…。

「全くだ本当に…。寺子屋が燃えなかったのと、怪我人が出なかったからまだいいが…。」

ため息をつく慧音さん。ホントお疲れ様でした。
人間の私には燃え滾る妹紅さんを取り押さえるなんてことは出来なかったでしょうから。
半獣とは言え、一応妖怪でもある慧音さんがいなかったら、私達は寺子屋ごと灰になっていたかもしれませんね。

「早苗殿、それとみんな、こんな事になってすまなかった。」

と、突然私達に向かって頭を下げる慧音さん。
別に慧音さんが悪かったわけじゃないのに…。…本当に律儀な人ですね。

「いえ、私が妹紅さんの事を考えずに授業をしてしまったものですから…。
 ごめんなさい、せめて事情を聞いてからにすれば良かったですね…。」

私も反省しなくてはいけない事が多々ある。
妹紅さんが苛苛していると気付いた時点で、何かしらの対処をすべきでした…。

「いや、私もそれを止めるべきだった。まさかこうなるとは思わなかったのも確かだが…。」

「…えっと、うん、私からも謝る。ごめん、みんな。」

今度は妹紅さんも一緒に頭を下げる。
うわぁ…。…何だか暗い展開になってきちゃいましたね…。
…よし、ここは私が場の雰囲気を取り戻さないと。これじゃ楽しい授業だって面白くなりません。

「いえいえ、大事にならなかったんだからいいじゃないですか。
 ほら、皆さんも大丈夫ですよね。妹紅さんのこと許してあげられますよね?」

私は寺子達に問いかける。
まだ若干怖がっている子達もいるけれど、大半の子供達は、先ほどの騒動にも拘らず笑顔のままだった。

「けーね先生、私たちなら大丈夫だって!」

「もこーねーちゃんの羽根、すげーカッコよかったし!」

「先生!早く授業の続きやろうよ!」

「あたいってば最強ね!」

「早苗先生の授業、もっと聞きたいぞ!!」

「せんせー!早く早く!!」

次々に声を上げる寺子達。
…これは、当初の慧音さんの目論見から考えれば、かなりいい風が吹いてるんじゃないですか?
今回の計画は、寺子達に学ぶことの楽しさを知ってもらうためにやっている事。
こうして寺子達が次の授業を楽しみにしているのは、これからの授業に対して期待を持っている証拠。

「そ、そうか…。…では早苗殿、続きをお願いしてもよろしいか?」

慧音さんの顔も、僅かに綻んでいるように見えた…。

「はい、勿論ですよ。」



 * * * * * *



「さてまあ、次は英語の授業をしますか。」

いきなり話が飛んだ気がしなくもないけれど、実はそんな事もない。
国語の授業は中止せざるを得ないと言うか…。…また妹紅さんがオーバーヒートしても困りますし…。

「えーっ?もう終わりー?」

「続きはやらないのー?」

…うん、批判の声が痛いです。
私としてはやっても構いませんけど、今度こそ寺子屋が燃えてしまっては洒落になりませんし。
…それにまあ、プリントがさっきの水蒸気で湿気って使い物にならなくなってしまったので。

「…ごめんなさい。」

妹紅さんの呟きが聞こえる。
う~ん、結構響いてますね、さっきまでの。

「まあ、私もそんな時間が取れるわけでもないので。
 一つの授業を集中してやるよりは、色んな授業を手短にやった方がいいと思いますよ。」

時間が取れないというのはまるで嘘ですが。暇ですし。
だけど寺子達も納得してくれたようで、渋々といった表情ではあるがそれ以上は何も言わなかった。

「それじゃ気を取り直して、次は英語の授業を行きましょうか。
 その前に皆さん、英語の事はご存知ですか?」

私の言葉に、少しざわつく寺子達。
国語の時みたいにすぐに出てこないあたり、知ってはいるけどメジャーではないと言う事かな?

「えっと…今まで出てきた中で説明するならば、さっき妹紅さんが叫んでた「ヴォルケイノオオォォォォ!!!!」ですかね。」

全員の視線が妹紅さんに注がれる。
そして妹紅さんは恥ずかしさからか、縮こまって俯いてしまった。
まあ、これはさっきの騒ぎの罰と言う事で。

「…もこ…。…はぁ…はぁ…。」

…何故か慧音さんが頬を染めて息遣いを荒くしていた気がしますが、まあそれは放っておこう。
放っておかないと慧音さんの名誉に関わる気がしますし。
…いや、何となく慧音さんが妹紅さんの事をどう思っているかは気付いていましたけど…。

「はいはい皆さん、目を前に戻してくださいね。
 英語とは、まあ簡単に言えば日本ではない国で使われている言葉です。
 人里離れた幻想郷ではあまり使う機会もないかもしれませんが、まあ覚えておいて損はないと思いますよ。」

…まあ、ただでさえ山奥な上に外の世界と隔てられている以上、使う機会はあまりないどころか全くないかもしれませんが。
あくまで娯楽ですから。本気で授業したいと思ってるわけでもありませんし。

「せんせー。教えてもらった英語は何処で使えばいいんですかー?」

ん、やっぱりその質問は来ますか。
いえいえ、子供は探究心が旺盛なほうがいいのですよ。
子供の内に色々な事を覚えておけば、将来きっと役に立つ時が来ますって。

「そうですね、弾幕合戦の時のスペルカードの名前に使えばいいかもしれません。」

「ちょっ!!早苗殿!!寺子達に弾幕合戦を進めないでくれ!!」

私の言葉から0,1秒も間を空けずに慧音さんのツッコミが入る。

「冗談です。よい子は弾幕合戦はしちゃいけませんよ。危ないですからね。」

「悪い子だったらしてもいいんですか?」

「悪い子は塩かけて頭からガリガリ齧っちゃいますよ。主に私が。」

あはははは、冗談ですけどね。やっぱりちょっとくらい笑いを取りにいかないと。
…って、あれ?何でそんな静まり返るんですか?何でそんなに怯えた表情をするんですか?
今の笑うトコですよ。私一人でボケてたって面白くないじゃないですか。突っ込みがないボケは辛いんですよ。
冗談に決まってるじゃないですか。私は人間ですよー、人肉は食べませんよー。
何でそんな本気で怯えてるんですかー…。…ちょっとー…。



「さて気を取り直して、英語を覚えておけばまあ何かと将来役に立つかもしれませんよ。
 勿論、それは幻想郷の将来次第ですが…。まあ、気楽にいきましょう。」

まだ数人若干怯えた眼をしているけれど、とにかく話を進めない事には始まらない。
うん、子供の純粋な心を脅かす真似をすべきではありませんでしたね、冗談とは言え。

「そういう訳で、皆さんにはまず英語の基本となる「アルファベット」のことを説明します。。
 …あ、妹紅さん。「ヴォルケイノ」のスペルは書けますか?」

またもや視線が妹紅さんに注がれ、そして妹紅さんはまた小さくなってしまう。
…ああ、なんか子の妹紅さんいびりが癖になりそうです。

「…Volcano…だろ…。」

手元の紙に、俯きながらもさらさらとスペルを書く妹紅さん。

「うん、大丈夫ですね。流石に大声で叫ぶだけの事はありますね。」

「…うっさい、終いにゃ泣くぞ。泣いちゃうぞ。」

ホントに若干涙声になってるからなぁ…。
そろそろ妹紅さん虐めもストップしないと、また寺子屋が燃えそうになるかも…。
…で、慧音さんは何でそんな満面の笑みを浮かべてるんでしょうか。

「さて、妹紅さんが今書いた「Volcano」ですが…。
 これを日本語に直すと、意味は「火山」になります。
 そして、この「V」「o」「l」「c」「a」「n」「o」が、いわゆるアルファベットです。」

若干説明としては下手かもしれないけれど、まあ間違ってはいないですし。
それに、流石にそのくらいは知っているのか、あまり驚いたと言うか、知らなかった、と言う表情を浮かべる子もいませんし。

「英語は基本的に、このアルファベットの組み合わせによって単語が成立します。
 単語一つ間違えるだけでまるで違う意味になってしまう事もありますから、注意してくださいね。」

因みに作者は「Sea」を「See」とうっかり書いてしまってかなり恥ずかしい思いをしたことがあります。

「さて皆さん、今から簡単な単語の解説をしていきます。私がその読み方を言いますから、皆さんで後に続いて復唱してくださいね。」

アルファベットについては知ってそうだったからパスで。
それを含めた説明も後でする心算ですし。

「まずはこれで。」

私は手元の紙に一文字「I」を書く。

「これは読み方は「アイ」です。まあ普通の読み方なので復唱するまでもないですね。
 意味としては、これ一つで「私」と言う意味になります。そして…。」

その下に、さらに「have」の文字を追加する。

「これは「ハブ」と読みます。さあ、皆さんも声を出して読んでみましょう。」

「「「「「ハブ。」」」」」

蛇の名前言ってるみたいですね。
やっぱり若干英語っぽい発音ではなかったけれど、まあそこまで気にしていたら日が暮れてしまいますし。
…妹紅さん、何時まで俯いてるんですか。授業聞くならちゃんと聞いてくださいよー。

「はい、いいですよ。この「have」は、基本的には「~を持っている」という意味で使います。
 さっきの「I」に繋げると、「I have」で「私は持っている」になります。
 ただし、これではまだ何を持っているかは判りませんね?そこで…。」

私はさらにその下に「Keine」の文字を追加。

「はい、これで「I have Keine」で、「私は慧音さんを持っている」になるワケです。」

「何で私なんだ!!私を持ってるってどういうこと!?」

いいツッコミですよ、慧音さん。そして私はスルーします。
…「慧音さんを飼っている」の方がよかったかな?

「まあ、今のは簡単な一例です。
 それ以外にも「私は鉛筆を持っている」や「私はお金を持っている」とかに変形する場合は、基本的には「Keine」の部分を、それらに相当する言葉に置き換えればいいんです。
 例えば「私は鉛筆を持っている」は…。」

「Keine」の下に「Pencil」を追加。

「この読みは「ペンシル」、意味は「鉛筆」ですね。
 つまり、さっきの文章にこの単語を繋げて「I have pencil」で、「私は鉛筆を持っている」…。
 …と言いたいですが、この場合、英語では「一本の」に相当する単語が必要なんです。
 …いや、どうしてそうなるのかなんて聞かないで下さいね?私が英語を作ったわけじゃありませんから。」

此処は先手を撃っておかないと。子供は純粋ですからそういう質問を平気でしてくるかもしれませんし。

「そしてまあ、「一本」に相当するのが「a」です。
 それを「pencil」の前において、「a pencil」。これで「一本の鉛筆」になるわけです。
 そして、さっきの文章にそれを追加して、「I have a pencil.」、これで「私は鉛筆を持っている。」になるわけです。
 さあ、皆さんで声を出してみましょう。」

「「「「「「I have a pencil.」」」」」」

今度は妹紅さんもちゃんとリピートしてくださいました。カギカッコが妹紅さん分増えてますし。

「よし、皆さんいい感じですね。」

私も皆さんの授業態度には感心します。
外の世界の学校では授業中に騒いだりする人いますからねぇ…。

「そして、今まで出てきた「I」と「have」と「pencil」ですが…。
 これらはそれぞれ、順に「主語」「動詞」「目的語」と呼びます。厳密には「I」も「代名詞」と呼ぶ名詞ですが、まあその辺は割愛します。
 日本語にもありますよね、「主語」や「述語」とか。」

私の言葉に、何人かの子供達は首を傾げる。
…ああ、そう言えばこの寺子屋は歴史の授業が中心なんでしたっけ…。
…それにしたって、そのくらいは教えてあげてくださいよ慧音さん…。

「…まあ、あるんです。物や人の名前を「名詞」、動作などを表す言葉が「動詞」、そして「可愛い」とかの状態を表す言葉が「形容詞」といった具合に。」

この辺は本当ならば国語でやるところなんですがね。
国語の本はかぐや姫しか持って来なかったし…。

「さて、さっきの「I have a pencil.」の文章ですが…。
 これを日本語に直すと「私は鉛筆を持っている」でしたよね?
 日本語の場合は「私」が主語、「持っている」が動詞、「鉛筆を」が目的語になるわけです。
 …さて皆さん、日本語と英語を比べてみて、何か気付くことはありませんか?」

此処で謎掛けをしてみる。
まあ、一応授業なんですから皆さんにも考えてもらわなくてはいけないので。

「…ん、日本語とは言葉の並び順が違うということか?」

と、意外とあっさり答えたのは、今まで積極的に授業に参加しなかった慧音さん。授業関連の発言をしたのはこれが初めてです。
…自分で授業を受けると言っておきながら…。

「流石ですね慧音さん。その通りです。
 日本語では動詞は基本的には最後に来ますが、英語では原則として主語の後に来ます。
 もっとも、例外の場合もありますが、別に今日は其処まで覚える必要はないですので。」

今日は別に未来系とかはやる心算はありませんので。
まあ、そのうち機会があれば。

「それでは、これで英語の授業は終わりです。」

「「「「「「エッ!?このタイミングで!?」」」」」」

「冗談です!!!!」

「「「「「「いやそんな思いっきり返さなくても!!!!」」」」」」

私のボケに対して見事なシンクロツッコミが。うん、ボケやった甲斐がありました。
普段意図的にこういう事は言いませんから。守矢神社の尊厳に関わりますし。
今日は皆さんに楽しんでいただかなくてはいけませんからね。エンターテインメントです。

「それでは、次は皆さんに実際に文章を作ってもらいたいと思います。
 妹紅さん、なんでもいいですから簡単な日本語の文章をお願いします。」

「なんでもいいのか?」

「はい、なんでも。」

「輝夜が憎い。」

「ちょっ!!もこーっ!!!!」

いきなりの妹紅さんの危険な言葉に、慧音さんが即座に突っ込む。と言うか嘆く。
うん、流石に寺子達にこの文章を教えるのは拙いですよね。道徳的な意味で。

「えっと、もう少し軽めな文章でお願いします。」

「んじゃ輝夜を焼く。」

「もこっ!!だからぁ!!」

「よし、それで行きましょう。」

「早苗殿おおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

きっと妹紅さん基準での軽い意味なんでしょうね。
「憎む」より「焼く」の方が程度が低いのかは良くわかりませんが…。
…確実に憎む方がまだ程度が軽いですね。まあ、「焼く」なら「憎む」よりは多用しますから。

「それでは妹紅さんの文章をちょっと改良して「私はケーキを焼く。」で行きますか。」

慧音さんの安堵のため息が聞こえた。
流石に子供達にそんな危ない文章教えるほど鬼ではないです、私は。
逆に妹紅さんは少し残念そうな表情でしたけど。

「さて、此処からは皆さんにも色々と考えてもらいますよ。
 ケーキは「cake」、そして「焼く」は英語で「bake」です。
 さあ皆さん、この二つを使って、さっきの文章を英語にしてみてください。」

5秒だけ私は時間を置いてみる。
真剣に考える寺子達、そして同じように真剣に考える妹紅さんと慧音さん。
うん、いい感じじゃないですか。皆さんこうして、自分の意思でこんなにも真剣に授業に取り組んでいるのですから。

「さあ、判った方は手を上げてください。」

「「「「「「はいっ!!!!」」」」」」

おおっ!早い!ホントに飲み込みが早くていい子たちですね。
しかも妹紅さんと慧音さんも、さりげなく同じタイミングで手を上げてましたし。…可愛いですね。

「それでは皆さんで、答えをどうぞ。」

「「「「「「I bake a cake!!」」」」」」

うん、素晴らしいです。思わず拍手をしてしまう。
妹紅さんと慧音さんも必死に答えてる当たりがまた良いですね。

「素晴らしいですね。それではこの調子でもっと行ってみましょう。
 それでは、はい、そこの。妹紅さんに倣って、何か簡単な文を。」

私は寺子の中の一人に目を向ける。子供にしては若干髪が長めだなー、という以外は普通の男の子だった。

「え、えーっと…。…けーね先生は美人です。」

「ぶはっ!!!!」

男の子の言葉に盛大に噴出した慧音さん。
咄嗟に私に指名されたから、うっかり本音が出ちゃいましたね?

「な、ななナなななナ何を言ってるんだお前はっ!!!!」

顔を真っ赤にして慌てふためく慧音さん。
そしてそれをにこやかな表情で見守る私と妹紅さんを含む寺子屋の全員。

「よし、それでいきましょう。」

「さ、早苗殿おおぉぉぉぉぉ!!!!」

若干泣きが入った慧音さんの言葉を無視して、私は手元の紙に「is」と「very beautiful」を追加する。

「はい、この場合は勿論主語は「Keine」になるわけです。
 そして、この場合は「~です。」に相当する動詞として「is」、とても美人で「very beautiful」で良いでしょう。」

「早苗殿!!頼むからそれ以上話を続けないでえええぇぇぇぇ!!!!」

駄目ですよー。これは授業ですからー。
本当は「Ms’Keine」にしなくちゃいけないんでしょうが、まあ此処は省略しますか。
形容詞の説明もカット。めんどくさいので。

「さあ、皆さん答えをどうぞー。」

「「「「「Keine is very beautiful!!!!」」」」」

「…きゅー…。」

寺子達(妹紅さん含む)のやたら気合の入った言葉に、慧音さんはそのまま目を回して倒れてしまう。
…まあ、寺子達全員から「慧音先生はとても美人です。」と言われたわけですからね。しかも妹紅さんからも。
慧音さんみたいな人にはクリティカルヒットでしょう。
あ、勿論ですが「very」をつけたのは私の意思ですので。

因みに、この後今の文章で慧音さんをからかう遊びが流行ったとか流行らないとか。
真実は闇の中に。詮索してはいけませんよ。

「さてまあ、慧音さんは倒れちゃいましたが、これで皆さん英語の基本的なことは理解できましたね?
 突き詰めればもっともっと英語は複雑な物ですが、まあ、それは今後機会があったら、という事で。」

えーっ…。という残念そうな声が寺子達全員の口から漏れる。
まあ、今日は関心を持ってくれただけで充分です。
今後また人間の里に来る事もあるでしょうので、その時にでも。

「それでは、今度こそ英語の授業は終わりです。
 さて、とりあえず次の授業で最後です。最後は皆さんが普段やってる歴史の授業ですよ。」

…寺子達が若干嫌な顔をしたのは、きっと気のせいじゃなかったんだろう。



 * * * * * *



「ううっ…。…あの攻撃は反則だ…。」

とりあえず慧音さんが起きるまでは休憩時間という事にしておいた。
慧音さんも起きるなり意味不明な事を呟いていたけれど、まあそこは無視で。
別に反則でもなんでもないです。寺子達の意思を尊重したまでです。

「慧音さん、寺子達にはどんな歴史の授業をしていたのですか?」

私としては、まずはこれが判らなくては話にならない。
元々歴史の授業がメインの寺子屋なのだから、次の歴史の授業でどれだけ寺子達が楽しんでくれるかが、最も肝心と言ってもいい。

「そうだな、基本的には幻想郷の人間と妖怪の歴史についてだ。
 古来よりこの地の妖怪と人間がどうやって結びついていたのか、それを主として教えている。」

答えは大体予想通りだった。まあ昨日一度聞いていますし。
となると、私が用意したプランでよさそうかな?

「そうですか。私の考えてきた事が無駄にならなくて済みそうです。
 それでは皆さん、歴史の授業を開始しますよー。」

今までよりは若干積極性に欠けたけれど、寺子達はいそいそと席に着き始める。
うん、大丈夫だ。自信を持っていかないと。此処が一番重要なんですから。

「…頼むから、さっきみたいな精神攻撃はよしてくれ…。」

慧音さんの呟きが聞こえた気がするけれど、やっぱり無視で。

「さて皆さん、何時もは慧音さんから幻想郷の歴史について学んでいるみたいですが…。
 今日私がやるのは、それよりももう少し広い歴史です。」

そう言ってから、私はまたプリントを取り出し、それを全員に配る。
今日やる予定のところを端的にまとめた歴史年表です。

「話によれば、幻想郷が今のように外と隔離されたのは、大体150年位前の話だそうですね。
 そしてその時は、この国全体としてみても、大きな変化があった頃なんです。」

1867年、明治維新の時のことです。
厳密には明治維新とはその辺全体の出来事の総称なんですけどね。

「今回私が教えようと思うのは、この国の成り立ちやその間に起こった出来事などの、日本全体の歴史についてです。
 あ、因みに日本の歴史には基本的には妖怪とかは出てこないので。」

まあ政治の話にはまず間違っても出てこないし。
文化史の中にほんの少しだけ出てくるかもしれませんね。風神雷神図屏風とか。

「それでは、順を追って歴史を説明していきます。
 まずは46億年前、地球が誕生した時の話から。」

「ってそんな古いところから始めるのか!?」

私の言葉に、慧音さんが即座に突っ込む。
素晴らしい早さです。突っ込みの才能有りますね慧音さん。
私としては勿論冗談で言ってるのだけれど、此処は面白そうなのでもう少し押してみよう。

「ん、何かご不満なことでも?」

「いや不満というか…。そんな所からやっていたら今日中に終わらぬのではないか…?」

流石に歴史家なだけあって、そういうところまで慧音さんは考えてるみたいですね。
まあ、終わらないでしょう間違いなく。その時代から本気やったら何ヶ月も掛かるでしょうから。

「大丈夫ですよ。まあ見ていてください。
 さて、私たちが住む地球が誕生したのは46億年前。この時はまだ生物とかそういう類のものは生息してはいませんでした。
 私たち人間が誕生したのは、今から凡そ500万年前といわれています。」

まあジュラ期とかは地質学の話ですからね。その辺は飛ばしましょう。

「で、話は飛んで次は凡そ1000年前の平安時代に…。」

「ちょっ!!飛びすぎ!!幾らなんでも間の過程を省きすぎだ!!人類誕生から一気に499万9000年飛んだぞ!!
 せめて縄文時代の話とか入れたらどうなのだ!?」

いやはや、慧音さん本当に突っ込みの才能ありますって。突っ込むまでのスピードが天下一品です。

「縄文時代の話をしたって、基本的には499万年は飛んでますから。9000年しか変わりませんよ。」

「いやその9000年大きいよ!!その9000年の間にいろんな人いたから!!草薙の剣の伝承とかその辺だから!!」

何で此処で三種の神器の話が出てくるんでしょう。やっぱり歴史家の突っ込みは違いますね。

「まあ、正直その辺大した歴史の動きもありませんから。」

「ある!!あるから!!645年にかなり重要な出来事があぁぁぁぁ!!」

乙巳の変のことですね。勿論知っててスルーしてます。
大化改新は日本三大改革の一つと言われるくらいですから、歴史としては重要な位置なんでしょうけどね。

「さて、凡そ千年前、いわゆる平安時代の話ですが…。
 最初の国語でちょっと話した「かぐや姫」は、この時代に出来た「竹取物語」という作品なんです。」

また妹紅さんが嫌そうな顔をしていたけれど、ちょっとだけ我慢してくださいね。すぐに終わらせますから。

「竹取物語は日本で一番古い物語だといわれています。
 歴史上の文学を学ぶ上では覚えておかなくてはならない作品なので、皆さん今言った事を忘れないでくださいね。
 では次、500年前の戦国時代に。」

「だから飛びすぎだ!!そこに500年の空白を作るな!!
 しかも平安時代も短すぎだろう!!竹取物語以外にも重要な作品あるから!!源氏物語とか蜻蛉日記とか!!」

「(無視)今から凡そ500年前、日本は戦戦の時代になっていました。
 ヨーロッパの文化が入り始めたのもこの頃の話ですね。この頃日本に来たキリスト教の宣教師に有名な方が一人いますね。」

「早苗殿、貴公は風祝なのにそんな話をして大丈夫なのか?ついでにその宣教師とはF・Z氏か?」

「ああ、正直私はそういう形式には拘らないので。改宗はしませんけど。そしてその通りです。
 このあたりの文学作品としては「一寸法師」や「浦島太郎」が有名ですね。さて、次の時代へ…。」

「何故そんな文学作品に重点を置いてるんだ…。」

「次は先ほどの明治維新後の明治時代に。」

「だから飛ばすなと言ってるだろう!!江戸時代丸々飛ばすなっ!!!!」

「(無視)この頃の文学作品では「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」、「草枕」とかが有名どころですかね。」

「全部作者一緒じゃないか!!作家いるから沢山!!「舞姫」とか「蟹ビーム」とかあるだろう!!!!」

慧音さんだいぶ錯乱して来てますね。「蟹工船」を「蟹ビーム」ですか。

「そうですね、他にも色々有りますが、此処はあえて割愛します。」

「しなくていい!!あえて割愛する必要が何処にある!!
 そもそもなんで文学史ばっかり!?文学史が大事じゃないとは言わないが他に学ぶこともあるだろ!!」

「次は1989年以降、平成の話で。私が生まれたのもこの辺りですね。」

「何度同じ事を言えばいいんだ私は!!昭和はどうしたんだ昭和は!!
 ついでにもうその辺歴史じゃなくて政治経済の話だ!!」

「そして、20XX世界は核の炎に…。」

「ネクストヒストリイイィィィィィィィィ!!!!」

いやぁ、お見事でした。今までの私のボケ全てに対して突っ込んできたのですから。
頭を抱えてのた打ち回る慧音さん。此処まで過激なリアクションをしてくれるとは思いませんでしたね。

「ああもう早苗殿!!いったいどういう心算だ!!これでは授業も何もあったものではないだろう。」

ええ、まさしくその通りですね。授業も何もあったものではありません。
当然です。私はまだ授業を開始していませんから。
実は、さっき生徒に配ったプリントに関わることは、まだ何一つ言ってません。
今まで、私がこんな滅茶苦茶なことをやったその理由は…。



「「「「「あっはっはっははははははははは!!!!!」」」」」



…突然の笑い声に、慧音さんの目が点になる。
私が意味もなくそんな適当なことを言っていたと思われたのであれば、少し心外ですが…。

「早苗先生おもしろーい!!」

「けーね先生もすげー面白かった!!」

「いやぁ、慧音最高!!まさか慧音のそんな姿見れるとは思わなかったよ!!」

妹紅さんまでお腹を抱えて笑っている。
私は、慧音さんが寺子達が授業を楽しまない、という事を聞いてから、この事を考えていた。
授業は元々そんなに面白いものではありません。勉強を楽しめるのは、それだけでも一つの才能なのですから。
では、みんなが共通して面白いと思える授業、それは一体何なのだろうか。

…答えは、教師と生徒が一つになれる授業です。

慧音さんは人を楽しませるのが得意ではなさそうだった。それは、慧音さんがあまり積極的に生徒と関わろうとしなかったから、私はそう踏んでいた。
だったら、慧音さんの存在をもっと生徒に近づければいい。その結果思いついたのが、この方法だった。
慧音さんを、寺子達にとってもっと身近な存在にする。
若干私には似合わないやり方だったけれど、結果としてはこう、みんなが笑っている。

…本当に、これで笑いが取れなかったら私はボケ損でしたよ。恥ずかしいことこの上なかったと思います。

「…寺子達のこんな笑顔を見たのは…初めてかもな…。」

慧音さんが、うっすらと笑いを浮かべながらそう呟く。
ほら、もう判ったでしょう?慧音さん。



貴方が授業を楽しんでいないのに、生徒達が授業を楽しめる訳がないじゃないですか…。



「早苗せんせー!!早く続きやろうよー!!」

「慧音先生が飛ばすなって言ってたから、もっと沢山あるんですよね!」

「そうそう、もっと慧音の突っ込みも見たいなぁ。」

「ちょっ!!もこーっ!!」


また寺子屋が笑いに包まれる。
これを見ているだけで、私が今日やって来た事が間違いではなかったと思える。
慧音さん、今度は貴方が、この寺子達の笑顔を守り続けるんですよ。
私がやった方法でなくても、慧音さんには慧音さんなりの、生徒への近づき方があるはずですから…。



「さあ皆さん、そろそろ静かにしてくださいねー。
 リクエストにお答えして、もっともっといろんなことを話していきますからねー。」




「「「「「はーい!!!!」」」」」





…こうして、私は今度こそ本格的な授業の時間を、寺子達と妹紅さん、そして慧音さんと共に、過ごしていった…。






 * * * * * *






…くすくす…。

…私の口から、自然にそんな笑い声が漏れる。

ああ、とても面白いものを見せてもらいましたわ、東風谷早苗…。

外の世界の住民、幻想郷に現れた新たな存在…。

以前から興味は持っていましたが、まさかこうも幻想郷に影響を与えるとは…。

しかし、あなたは気付いていない…。

あなたのその笑顔の裏腹、その心の中は…深い闇に覆われようとしていることに…。

その闇が、あなた自身も気付かないうちに、外に出ていることに…。

ただ、此処まで心が犯されておきながら、なおも正常を保つあなたには…。

…少し、別の意味での興味が湧きますわ…。

あなたの心の中の光が、何処まで闇に耐えることが出来るのか…。

私が少しだけ操った心の境界の崩れに、何処まで持ち堪えられるのか…。

そして、人間であるあなたが、この私の力に何処まで抗えるのか…。



「…そろそろ、私とも遊んで欲しいわぁ…。」



くすっ、くすくすくす…。

ああ、想像するだけで笑いが止まらない。

東風谷早苗、外の世界の奇跡の力を、私に見せて頂戴。



くすくすくす…あはははははははは…!!!!
今日は、酢烏賊楓です。
「風祝と~」シリーズもこれで7つ目です。よくこんなにも書いた物だと自分でも呆れます。
そんな事はどうでも良いです。それではあとがきみたいな物を。

今回の話はまあ、「風祝と~」シリーズで使った色々なネタを再編集したような感じと、思いっきりな程に続きを意識させるような話になっています。
文も復活しましたしね。すぐ終わりましたけど。
個人的に妹紅は結構ノリ自体はいいキャラなんだと思ってます。ただあまりノラないだけで。
とりあえず、授業風景をだらだら書いてたって面白くないだろうから…、…と色々工夫するのに疲れました…。
それで置いてこの程度にしかなりませんでしたが…。
最初の早苗さんと妖怪が対峙するシーン、相手をるみゃにしようか迷いました。どうでも良いですね、はい。

さてまあ、此処まで読まれた方には何となく判るかと思いますが…。
はい、ギャグ的な「風祝と~」の話は此処までです。後はシリアス急直下です。
ギャグ的な話を望まれる方には申し訳ありませんが、笑い要素を含んだ話は此処までです。
そういう意味でも、ダーク早苗の総集編みたいな形をとりました。もうやりすぎでも良いや。
東方はやっぱりStage6まで。これはギャグ編の最終ステージというわけですよ。
…あ、因みに「風祝と紅魔館・序章」は元々「風祝と紅魔館・一日目」と一つの話だったので…。…道中みたいな感じです。

そしてまあ、最後はやっぱりExtraになるわけですが…。…つまり、次のステージが「風祝と~」シリーズは最後です。
最後の話は今までの話とはまるで異なります。とりあえず「風祝と紅魔館・2日目」での教訓を生かして、先に明言しておきますね。
もし此処まで読んで、最後の話もまあ読んでやるか、と思われた方は、もう一度最初からの流れをよく掴んでいただきたいんです。
今まではただのギャグ話でしたが、違う所に注目すると何か別の物が見えるかもしれません。
根本的な所に注目してみてください。内容云々以前の、本当に根本的なところに。
とりあえず書庫みたいな物を作ってみましたので、そちらからでも。

…でまあ、別に見たくないという方、あるいはギャグ系じゃないと嫌だという方は此処で終了で。
今後の展開は皆様の想像にお任せいたします。

【※訂正:7月2日】
やっぱりStage0の話を先に書きます。そういう訳でもう一話伸びますので次でラストにはなりません。
ただ、あまり長くない話ですし、ギャグ話ともいえない話ですが。
Stage0に当たる話、タイトルは「風祝と二柱の神」です。話の内容は…、…言わなくても何となく判りますかね?
とりあえず二次設定全快の作品にはなってしまいそうです。Stage0ですし…。
少しでもご期待いただければ重畳です。


さてまあ、あとがきが長くなってしまいましたが、それなりに今回の話が重要な意味を持っているのだと解釈していただけるとありがたいです。

それでは、
酢烏賊楓
[email protected]
http://www.geocities.jp/magic_three_map/touhou_SS.html
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1610簡易評価
10.80名前が無い程度の能力削除
おお、久々に胡散臭いだけでなく、禍々しい八雲 紫が!
ギャグが無くなってしまうのは残念ですが、これはこれで次が楽しみです。
11.無評価シリアス大好き削除
構わないさ、逆にギャグよりシリアスが好きだし
霧雨の涙シリーズ以上のシリアスを期待してますよ
12.100時空や空間を翔る程度の能力削除
面白かった~、こんな授業なら毎日受けたいです。

はて??1つ気になる点が・・・
生徒の中に妖精が混じってませんでしたか??
私の気のせい・・・??
15.80名前が無い程度の能力削除
全体的にちょっと勢いがありすぎて暴走してる感じでしたが楽しめました。
17.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございましたー。

>22:43:30の名無しさん
>久々に胡散臭いだけでなく、禍々しい八雲 紫が!
私も自分で使っておいて若干久々ですねこういう紫は。
…ってまあ、やっぱり紫って事はばればれみたいですね。夢と現実の境界に点打てば当然ですか…、
>ギャグが無くなってしまうのは残念ですが、これはこれで次が楽しみです。
期待に添えられるよう努力します。ギャグ0って訳ではないと思いますが、やっぱり1割程度にしかならないでしょうね…。

>シリアス大好きさん
>霧雨の涙シリーズ以上のシリアスを期待してますよ
そ、そこまでの大作は期待しないほうが良いと思います…。
私も妥協なしで書こうとは思いますが、所詮私の作品ですから…。

>時空や空間を翔る程度の能力さん
>こんな授業なら毎日受けたいです。
早苗の授業ならば私も毎日受けたいですね。(
>生徒の中に妖精が混じってませんでしたか??
…い、いやぁ、そんな事は…き、気のせいですって…。
あたいってば最強ね!(

>11:07:15の名無しさん
>全体的にちょっと勢いがありすぎて暴走してる感じでしたが楽しめました。
今回ギャグ編が最後なので、あとくされが無いようにした結果だと思います…。
18.70名前が無い程度の能力削除
そういや幻想郷と現代の時代背景ってどうなってんだっけ
蓮子とかハーンの時代はなんか月と地球が戦争してるっぽいし
花映塚は第二次世界大戦から60年後?の設定っぽいし

ゆかりんが凶暴化した早苗に泣かされる姿が容易に想像できてしまうのはなぜだろうか・・・
最近、シリアスな紫をみてなかったからかなぁ・・・
19.80名前が無い程度の能力削除
流れに大きな変化が!
とりあえず、最初の話から読み直してみます

>18.
>蓮子とかハーンの時代はなんか月と地球が戦争してるっぽいし
それはうどんげ~(永夜抄の前後くらいで
秘封倶楽部の時代は旅行可能になっとります。(高額だけど
20.無評価名前が無い程度の能力削除
永夜抄の前後くらいで←は無しで
永夜抄のどれくらい前に来たか知らなかったっけ
終わったのがいつかも(旅行に行けるんだから、戦争は終わってるだろうけど
21.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございましたー。

>02:41:31の名無しさん
>そういや幻想郷と現代の時代背景ってどうなってんだっけ
ん、私は現代とほぼ同じ時系列(最も私の更新が遅いので遅れ気味ですが)で進めています。
儚月抄やら花映塚の時系列を計算すると、風神録は2007年の話になったはずなので。
因みにこの話は話の時間経過を考えると、大体2007年の11月ぐらいの話です~…。…遅っ!
>ゆかりんが凶暴化した早苗に泣かされる姿が容易に想像できてしまうのはなぜだろうか・・・
…うん、シリアスな話ですよ、シリアスな…。…多分。(

>09:37:07の名無しさん
>流れに大きな変化が!
大きな変化です。第一ターニングポイントは「風祝と図書館」、そして今回が最大のターニングポイントという感じで。
>とりあえず、最初の話から読み直してみます
根本的なところに疑問を持っていただけると嬉しいです。
序に、細かいところに紫の布石が置いてあるはずですので、それにもご注意を。
24.80名前が無い程度の能力削除
きりもみ→きりもり
次回は… 昼間に読ませて頂きますね。
25.90名前が無い程度の能力削除
普通のギャグではなかったのですね。
布石などに気づきませんでしたorz
最初から読み直してきます。
26.70名前が無い程度の能力削除
ケロちゃん可愛いよ可愛いよ!早苗さんに惚れそうです。

「どうりて懐かしい」→どうりで
「このような形で合間見える」→相見える
「最も、閉まっているお店も」「最も幻想郷ではこれが」「最も今は動けないはず」「最も、昨日も油断してた」「最も幻想郷の人々にとっては」→尤も
27.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございましたー。

>15:36:10の名無しさん
>きりもみ→きりもり
報告ありがとうございました。
>次回は… 昼間に読ませて頂きますね。
…昼間、ですか…?
とりあえず、この話かそれ以上の長さにはなるのと、ホラーではありませんので。

>01:38:44の名無しさん
>普通のギャグではなかったのですね。
無意味に早苗さんを壊したりはしませんよ。
普通のギャグだという所も勿論ありますけど、意味のあるところにはギャグでもそれなりの意味を持っています。
>最初から読み直してきます。
紫の布石は「本当にどうでも良いもの」です。この話までは紫だと決定付けられるわけにもいかなかったので。

>02:29:12の名無しさん
>ケロちゃん可愛いよ可愛いよ!早苗さんに惚れそうです。
諏訪子も次からは本気モードです。
>誤字の数々
報告ありがとうございましたー。…合間見てどうするんでしょうね…。
28.60名前が無い程度の能力削除
授業の所のノリが楽しかっただけに今回で最後なのは残念
30.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございましたー。

>10:22:42の名無しさん
>授業の所のノリが楽しかっただけに今回で最後なのは残念
此処で一言。
確かに今回でギャグは最後ですが、それはあくまで「風祝と~」のシリーズとしての話の中では、という意味です。
最後の話まで終わったら、今度は何の縛りもなく普通にギャグだったりほのぼのだったりの「風祝と~」を書くかもしれません。
尤も、あくまで予定の話ですが…。…もし、それまででも期待していただけるのであれば。