Coolier - 新生・東方創想話

『え~りんのマル秘 X-FILE』

2008/06/23 23:15:17
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「はぁ~、これを片付けるのか…」


そう言ってへにょった耳を更に下に落とすのは月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバであった。
そして目の前に広がるは機材や書物の山、山、山。
己が師である永琳の作業部屋の前で立ち尽くす鈴仙。
コトのあらましはこうだ。




「師匠~、ちょっとお聞きしたい事があるのですが…」


「ウドンゲ?いいわよ。空いているから入ってらっしゃい。」


失礼しま~すと入ると勿論書物の山と機材の山。
しかし、散らかっているのかというとそうではなく壁のように聳え立つ荷物が理路整然としている異様な光景なのだ。
迷路のように書物と機材を潜り抜け漸く永琳のもとに辿り付く。
そこでまあ当然のように、この部屋はどうにかならないのかという意見が鈴仙の口から消極的に繰り出される。
その師匠の答えがこうだ。


「そうは言うけどね、ウドンゲ。この部屋はもっとも効率的にモノを配置した結果なのよ。このお陰で私は動き回ることことなく
 最小の時間と効率で実験が出来るのよ。」


どこぞの白黒魔法使いがみにくい言い訳に使いそうな理由なのだが、事実この天才は全ての場所を完全に記憶と把握しておりいちいち
目で確認しなくても、実験をしながら書物の山から必要なファイルなど取り出すのだ。
以前てゐが悪戯でさして重要でもなさそうな紙切れのメモを別の場所に移したのだが一発でバレてこってり絞られたのを覚えている。
確かにその通りなので、反論も出来ない鈴仙だが、でも…とスカートをきゅっと握って口を開く。


「師匠に(※薬の事を聞く為に)会いたくてもなかなか会えなくて困っちゃいます…」
     ※永琳イヤーには聞こえていません


そう言って潤んだ瞳をこちらに向ける鈴仙 ※永琳ヴィジョン
その時ボシュンッとレールガンの弾を打ち出したような音が響き永琳の鼻から一筋の紅が垂れる。


「…ぼしゅん…?」


突如聞こえた不審な音に怪訝な顔をしながら永琳の足元に視線を移す鈴仙。
頭の中で何かヤなものがスパークしてヘンな欲望的なモノが飛び出したのであろうか。
其処には血溜りと超高水圧カッターで開けたような孔が一つ残っていた。



「ぉうわっ!?何か床が凄い事になってますよ!師匠っ!?」


取り乱す鈴仙を完全にスルーしながら、確かにそろそろ部屋の片付けでもしようかと思っていたのよね。
べっ別にウドンゲの為なんかじゃないんだからっ!などとブツブツのたまっている我等が師匠。


「ただしっ!部屋の片付けは貴女がするのよ。ウドンゲ!」


ビシィっと集中線が付きそうな勢いで指を刺す永琳。
もしカットインが入っていたら必ず揺れているであろう豊満な胸を張る。


「へ…はっ?うえぇ!?」


話の流れに微塵もついて行ってない鈴仙は素っ頓狂な声をあげる。
いや、むしろついて行ける者など皆無であろうから永琳が一人突っ走ってるとも言う。
そんなこんなで今に至る。




「ううっ…疲れたあ~。」


そう言ってぺたりと座りこむ鈴仙。
とりあえず、部屋の大部分を占めていた書物と機材の運び出しに成功する。
次はあの薬棚だろうか。見ると薬棚の上にもわんさか本が乗っかっているのが見える。
よっこらせっと腰を上げて本の撤去にかかるが思ったより高い場所にあるらしくなかなかうまくいかない。
鈴仙は少し悩んでから、はしたなくも大足を広げて膝を薬棚に掛ける。
もし其処に永琳がいたならば奇音と共にもう一つの孔がこの部屋に穿たれていたことだろう。
そうして、漸く本に手が届いたようである。


「…んっ、よっと。…って、うわわわわわ!」


足場の悪いところに無理して乗っかったためかバランスを崩してしまう。
そしてお約束の如く雪崩のように薬棚の上の本が鈴仙に襲い掛かってくる。
逃れる術なく奔流に、いや本流に押し流されてゆく。


「うう…いたたた…」


ポイポイと書物をぞんざいに扱いながら本の下から頭を押さえてヨロヨロと這い出てくる鈴仙。
おそらく、こんな薬棚の上に置かれてる書物など大して重要でもないだろうという思いと、この自分に対する仕打ちの仕返しの
気持ちも多少あっただろう。
そしてその中から不意に分厚いファイルを掴み上げる。

(…んっ?)

そのファイルは今までと違う感触で、よく見てみると立派にも革で装丁されていて更に鍵で施錠までされている。
鈴仙はその妙なファイルに興味を抱き、一体何のファイルなのかひっくり返して表紙を見てみる。
其処には金箔の文字でこう書いてあった…






        『え~りんのマル秘 X-FILE』






「…あ、怪しい。怪しすぎる!」


あまりの怪しさにそう呟く鈴仙。
こんな場所に不釣合いな立派な装丁で分厚い資料、しかも鍵付き。
誰だって怪しむに決まっている。
更に惜しげもなく表題に自分の名前、っていうか『え~りん』なんて書かれていれば、そりゃあんた…

(でっでも、X-FILEって言えば、ありとあらゆる超常の現象を収めたファイルだって聞いたことがあるわ。それに月の叡智と呼ばれ、
 紛れも無い天才である師匠の書いたファイル!おそらくとんでもない禁薬、禁書に違いないわ。)

思いがけず見つけたお宝に興奮する鈴仙。
月の叡智に師事する彼女だ、少しでもその叡智に近づきたいと思っているのだろう。
しかし、残念なことにそのファイルは鍵が…


「…か、カギが壊れちゃってる…」


壊れていたのだ。
それが彼女の悲劇の始まりだとも知らずに…
落とした衝撃で壊れてしまったのか罪悪感を感じながらも、自分の好奇心を押さえきれない鈴仙はちょっとだけという軽い気持ちで
そのファイルを開いてしまったのだ。
どうやら内容は表紙に案件や検討概要、結果等が記してあり、その後に研究内容が書き綴られている様だった。
研究内容はあまりに高度すぎて全く理解できそうに無かったので、表紙にだけ目を通そうとする。
しかし黒く塗り潰されているものや虫食いのものが多く辛うじて読める、といった感じである。

(あっ、ここら辺は頑張ったら読めそうかも…)

こうして、鈴仙は禁断のファイルを開いてしまう事になる…



  *********************************************


  NO.E-108526
  
  発案者:(依頼者) K.H
  
  案件: 蓬莱人殺しの薬作成 (ニクいあいつを×しちゃえ計画)

  開発背景:楽しみにしていたおやつを奪われ、依頼者が激怒。
       開発に至る。
  
  検討:不老不死の存在であらゆる病気、毒の効かない蓬莱人を殺しきる薬の作成。
     実はこれは蓬莱の薬を作った時点で想定していた薬である。
     ここで目をつけるのは毒でなく薬であるという点だ。
     詳細については後述。

  反映予測: 良―あの小うるさい蓬莱人形を始末できる。
        悪―依頼者の気紛れである可能性大。
          実際に実行して何を言われるか分かったもんじゃない。

  結果:却下
     不可能ではないが作業に必要な器具も材料も月に忘れてきたので膨大な時間が必要と思われる。
     更に予測値が低いため利点が全く無い。
     よって却下。

  ********************************************


(すっ凄い!こんな薬まで作れるなんて、やっぱり師匠は天才よね…)

計画名がちょっとアレなのには完全スルーしてファイルを読み漁る鈴仙。
背景などは目にすら入ってないようだ。
やっぱり詳細の研究内容は理解できないのでペラペラと捲っていく。



  *********************************************


  NO. C-358214

発案者:(依頼者) T.I

  案件: 人参増産薬の作成 (ばいばいん計画)

  開発背景:最近永遠亭の兎が急増。支出ばかりで収入が少ないため食糧難に陥る。
       詐欺だけでは手の回らない依頼者より依頼を受ける。

  検討:永遠亭食糧事情より人参の増量のための研究依頼を受ける。
     農薬や栄養薬など生産用の薬が案に上がったが目をつけたのは人参そのものを増やす薬だ。
     細胞分裂、増殖を活性化させる薬を作成経過を見る。
     詳細は後述。

  反映予測: 良―食糧事情の改善
          被検体薬物投与の容易化
        悪―味の低下
          形の悪化 
          突然変異の凶暴化

  結果:■■
     研究の結果、薬をかけて3分経つと倍に。また3分経つと更に倍にという風に被物が階乗式に増える事が判明。
     効率を良くした結果なのだが、一つでも処理し損なうと3日で地球を埋め尽くす量になる。
     よって危険なため禁薬指定。指定薬庫に封印。

  *********************************************


(…こんな危ない薬があるなんて…やっぱり師匠の薬庫には絶対近づきたくないわね。)

いろんな意味でアブナイ薬である。
また処分しないで取っておく所が非常にタチが悪い。
こんな調子でファイルを読み耽っていく鈴仙。



  *********************************************


  NO.L-108589
  
  発案者:(依頼者) R.Y
  
  案件: 不真面目を真面目にする薬 (さあ不可能を可能に計画)

  開発背景:仕事と介護のストレスで脱毛症の依頼者。
       自分でなく主を何とかしてくれと泣きついてくる。
  
  検討:性格の反転薬にはある程度実績があるのでそれほど難しい薬ではない。
     ただ、使用には注意が必要である。
     詳細は反映予測を参照。

  反映予測: 良―■っ■■な■
        悪―依頼者の主に使用した場合他に甚大な被害が予想される。。
          仮に他の人妖に使用したところで真面目な顔して碌な事をしない連中ばかりだ。
          
  結果:却下
     誰に薬を使ったところで真面目に人を攫う、真面目に物を盗む、真面目にセクハラをする等
     結局いつもと変わらないであろう。
     労力の無駄。


  *********************************************

  *********************************************


  NO.W-30258
  
  発案者:(依頼者) Y.K
  
  案件: 一粒でお腹一杯になる豆 (せんず長靴一杯計画)

  開発背景:いつも料理に多大な労力を必要とする依頼者。
       少しでも楽をしたいと書物で見た豆の作成を依頼。
  
  検討:胃液や唾液に反応して膨張する薬の作成、豆の形にすれば問題なし。
     あらゆる栄養素の混入をする。
     技術的不安要素なし。

  反映予測: 良―一粒でお腹一杯
          栄養満点
        悪―消化不良 
          便の虹色化
          二粒以上食したときに内臓損傷の可能性あり
          
  結果:■却
     依頼者の主は明らかに体の体積より大量の飯を食している。更に生命活動を営んでいないため消化の
     必要も無いはずである。このことから体内に未知の物質(ダークマター)を有しているか異次元に
     つながっている可能性あり。
     後者なら薬の効果を果たせないし、前者だとどの様な反応を起こすか予測不能、非常に危険。
     因みに巫女に差し出すと一気に二つ以上食す可能性あり。


  *********************************************



(案外師匠もしょうもない研究してるんだなあ…)

どの薬もきっと技術的にはとんでもなく素晴らしいものばかりなんだろうけど、如何せん薬開発依頼の背景が目に浮んでなかなか
残念な気持ちになれる。
もちろん当たり前のように恋に落とす薬なんてのもあった。
依頼者はA.Mとある。
結果は幻想郷のパワーバランスを崩す可能性が云々…
鈴仙にはよくわからなかった。
ふと、あるページで目が留まる。


「…なに、コレ…」


そのページは黒塗りというのもはばかられる位にペンでぐしゃぐしゃに塗つぶしてある。
一目見て有様が他のページとは違い異様という言葉がしっくり来る。
まるで狂気をそのまま図にしたかのようなそのページに鳥肌が立つのを押さえきれない。
そして、塗つぶしが荒いため文字がギリギリで読める程度に残ってしまっている。

(駄目だ!コレは見ちゃいけない!!見るな見るな見るなっ!)

本能が必死に拒絶しても視線を外す事が出来ない。
まるでそのページに魅入られたかのようにその概要が目を通して頭に入ってくる。


案件:■夜を無■化す■■ (ぷろ■ぇ■■■ーと)


「…かぐ、やを無、力、化する…?」


自分の口が何を言っているのか信じられない鈴仙。
何かの間違いであって欲しい、自分の読み間違いであって欲しい。
そんな願いは内容を読み進めるほど崩れていく。


開■■景:無■な難題■■侭の限■を尽くす被験■。
     どうに■手■つ■■■■■。
     彼女■無気■■■薬の■■。


完全に読み取る事は出来ない。
出来ないが内容の把握は出来る。
出来てしまう。


「そ…んな…、師匠が…姫様に…」


自分の口に出して、それでもまだ理解できない。
信じたくない。
震える手が止まらない。
耳鳴りが煩い。
心臓がはちきれそうな位脈打っているのが分かる。

(うるさい!五月蝿い!煩い!ウルサイ!)

そしてそれは、次のページをめくる事によって全て停止する。
かのように感じる。


「…あ……あ…」


もはや言葉すら出てこない。
思考する事を止めて意識を手放してしまいたいと願う鈴仙。
しかし、目の前の現実はそれを許してはくれなかった。
はっきりと分かる。
この部分は黒塗りからはみ出しているのだから…


関連項:ウドンゲ改造計画


もう誤魔化しようが無い。
師匠が私や姫に何かをした、いやしようとした事は間違いではないのだ。

ずるずるとその忌まわしきファイルより後退る鈴仙。
そしてすぐ壁にぶつかる。

(…壁?こんな直ぐに壁なんてあったっけ)

恐る恐る後ろを見る鈴仙の視界に入ってくるのは無機質な蝋人形のような表情の師、永琳だった。


「…見たわね?」


その表情からは想像もつかない地獄の底から響くような様な声。


「…あっ…ひっ……うぁ…」


余りの恐怖にまともに声すら発音できない鈴仙。
歯がガチガチと音を立てる。
下半身には力すら入らない。
頭の中では逃げろ逃げろとガンガンと警鐘が鳴り響いている。


「そのファイルを見てしまったからには仕方が無い。」


徐に懐から注射器を出す永琳。
逃げる事も視線を外すことも出来ない鈴仙はへたり込んだままである。
そんな姿を能面のような表情で見つめながら、針を白い首筋に近づけていく。
そして、針が首に突き立てる瞬間に鈴仙は意識を手放した。










・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・



「……ゲ。……ンゲ?ウドンゲ?」


遠くで呼ばれる声に導かれて意識を覚醒していく。


「う…、うぅん」


「あら、やっと目を覚ましたわね。」


目を開いてみるが焦点があわず赤と青のぼんやりが見える。
そしてだんだんと心配そうな顔をしている永琳を形作っていく。


「…ひっ…いやああぁあ!?」


先程の恐怖から永琳を突き飛ばす鈴仙。


「…だ、大丈夫?随分とうなされていたみたいだし…」


急に突き飛ばされて驚きながらも自分がその恐怖の対象となっていることに気付いたのか勤めて優しく話しかける永琳。


「う、うなされて…って、え?」


彼女はまだ現状が理解できていないのか目を白黒させている。


「覚えていないの?あなた其処の薬棚の下で本に埋もれて気絶していたのよ。」


「…ってことは全部夢?え、エックスファイルは?」


「貴女がどんな夢を見ていたのか知らないけどそんなもの私は知らないわよ。」


ふうっとため息をつきながら呆れる永琳。

(ゆ、夢だったの…?)

悪夢から急に現実に投げ出されてまだ頭がチカチカしていたがだんだんと冷静になっていく。
よくよく考えてみればあんな夢出来の悪いB級映画みたいなものだ。
そして今までの事が全て夢だったことに万感胸に迫ったのか鈴仙は半泣きで「師匠っ」っと抱きつく。


「…よかった、よかったよぅ…」


嬉しかったのと怖かったのと安心したのといろんな気持ちを込めながらギュッと腕に力を込める鈴仙。
その時シァビョンッとリニアモーターカーが真横を通り抜けたようなような音が響き永琳の鼻から一筋の紅が垂れる。


「…しぁ、しぁびょん…?」


突如聞こえた不審な音に怪訝な顔をしながら周りを見渡す鈴仙。
頭の中で何かヤなものがスパークしてヘンな欲望的なモノが飛び出したのであろうか。
其処には大事な一張羅が紅いちゃんちゃんこに変化した兎が一匹。


「ぅぼあっ!?私の一張羅が紅いちゃんちゃんこになってますよ!師匠?」


そう突っ込みながらも鈴仙は安心していた。

(確かに少し変な所はあるどけどやっぱり優しいいつもの師匠だ。あんな夢早く忘れてしまおう。)


「あらあら、いけないわ。何か薬品でもこぼれたのかしら。早く洗ってらっしゃい」


あくまで惚けようとするのか。
苦しい言い訳を涼しい顔でする永琳。
このまま最後まで押し切ろうというのだから呆れを通り越して尊敬するしかない。
苦笑をしながら風呂場に向かう鈴仙であった。



そして、それを笑顔で見送る永琳の後ろ手にはしっかりとX-FILEが握られていた。
                         (バツ-ファイル)
ど~も飛蝗です。
×ーファイル…それはえ~りんの実験の失敗集大成ファイルだとか。
実行して失敗だったのか実行するまでもなく失敗だったのか真実は闇の中…

誤字修正しました。ご指摘感謝です。
飛蝗
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コメント



0.480簡易評価
5.60名前が無い程度の能力削除
二度目もレールガンだったら命が危険だったなw
ひょっとして、血圧か範囲を調節したか?

某作品のせんず、後半はその効能どうなったんだか
何十個も食っといて生きてる奴もいたっけなぁ

>底の薬棚
 其処の薬棚
>少し変所
 少し変な所 の誤字?
>読むのが辛うじてといった
 辛うじて読める の誤字なのか、図などは読めないということなのか?
9.80蝦蟇口咬平削除
パワーバランス云々が気になったり・・・