ここはお山の上の守矢神社
ここでちょっとした異変が起ころうとしていた
「「「ごちそうさまでした」」」
夕飯を食べ終えた三人は声を揃えて言った
この神社が幻想郷に移って以来もはや日常となった光景
三人は食後ののんびりとした空気を楽しんでいた
しかし、内一人が妙に浮かない顔をしていた
「………ふぅ」
「…? どうしたんだい早苗?
ため息なんてついて」
ため息をついたのはこの神社の巫女ともいうべき少女、東風谷 早苗である
「いえ… 何でもないです…
どうぞお気になさらないでください」
「何でもないって顔じゃないよ?
本当にどうしたんだい? なにか悩みごとでもあるのかい?」
「どうしたの早苗? 悩み事なら私たちが聞こうか?」
早苗を気遣って声をかけるのは、この神社の二人の神様
八坂 神奈子と洩矢 諏訪子である
「大丈夫です。本当にたいしたことじゃないんです」
「早苗… 私たちにも言えないような悩みなのかい?
少なくとも私はあんたと家族でいるつもりだったんだけどね…」
「私だってそうだよ。
ねぇ、早苗。私たち家族でしょ? なんでも言ってよ」
「神奈子様… 諏訪子様…」
二人の言葉に感動する早苗
「ありがとうございます…
でも本当に大丈夫なんです。 それに…」
「それに?」
「いくら悩んでも無駄だということがわかっていますので」
「無駄? どういうこと?」
「悩み続けても、それは決して手に入らないもの、ということです」
「それ? もの?
なんだい早苗、何か欲しいものでもあるのかい?」
「欲しいもの…
そうですね… 確かに欲しているものはあります」
「な~んだ、そんなことか。
何が欲しいの早苗? 言ってくれたら私たちが何でもそろえてあげるよ」
「ありがとうございます諏訪子様。
ですがいかにお二人でも、どうしようもことなのです」
「私たちでもどうしようもないこと?
要領を得ないね。 とりあえず言ってごらん、早苗?
もしかしたら何とかなるかもしれないじゃないか」
「そうだよ? やる前から諦めてたんじゃ前に進めないよ?」
「…本当に、言ってもよろしいのですか?」
「さっきからそう言ってるじゃないか。
大丈夫だよ、私たちは早苗のためなら何でもするから」
「うんうん。 遠慮しないで言ってごらん?」
「わかりました… それでは遠慮なく相談させてもらいます」
「そんなに畏まらなくてもいいさ。 もっと肩を楽にしなよ」
「神奈子様…
それではお話しいたしますね。 実は私…」
「実は?」
「テレビが見たいのです」
「「てれび?」」
「その通りです。テレビです」
「あの… 早苗さん?
テレビと言いますと、映像を電波に乗せてお茶の間にお届けするアレ?」
「ええ。 恐らくそのテレビで間違いないと思われます」
「その… つかぬ事をお尋ねしますが、なぜに今更そのようなことを?」
「お二人がなぜ敬語なのかわかりませんが、理由は単純に見たいからです」
「えっと… 幻想郷に来てから随分経ちますが、見たいのですか?」
「切実ですね。 ここにきて、と言いますか最早限界を迎えました」
「そ…そうですか」
「だってそうでしょう!?
幻想郷に来てからとてものんびり過ごせて、それはとてもいいことです。
しかし、ここはあまりに娯楽が少なすぎます!
私だって現代っ子なんです!!」
「いやね、早苗。 私だってそりゃテレビは見たいけどね…」
「だったら私の気持ちがわかっていただけるはずです!!」
「でも早苗。 幻想郷にテレビなんてないし、電波だってないよ?」
「だからこそ辛いんじゃないですか!
そりゃあ私だって最初のうちは我慢できましたよ!
これからずっとここで暮らすのですから、慣れなければと必死だったのです!」
「だ…だったらこれからも…」
「もちろん我慢しますとも!
それでも見たいものは見たいのです!!」
「早苗… そんなになるまで溜め込んでたなんて…」
「この思いが爆発的に大きくなったのは大晦日でした」
「大晦日? 何かあったっけ?」
「こちらでは何もありませんでした。
しかし私はふと思ったのです…」
「思ったって、何を?」
「あぁ…私は『ガ○使年末スペシャル』を見れないのだな…と」
「そ…それは…」
「それだけじゃありません!
『ヘキサ○ン』に、『くりぃむ○ンとか』に『リン○-ン』!
それに『水曜どう○しょう?』まで見れないんだって!
思い始めたらキリがありませんでした!
『紅○』? いいえ、『ガキ○』には敵いません」
「バラエティーばっかりじゃない…」
「そんなことありません!
私だって若者らしく、月9は欠かしませんでした!」
「いや、月9って言っても早苗が見てたのは『た○しのTVタックル』だったような…」
「諏訪子様に神奈子様! さっきから一言多いですよ!」
「「はい! すいませんでした早苗さん!」」
「よろしい!
ともかくです! 私はテレビが見たいのです!」
「で…でもこっちの生活だって、テレビなんかなくてもなかなか笑いがあるよ?」
「そ…そうだよ? あの氷の妖精とその友達なんていい味出してるんじゃないかな?」
「なんですか?
あの子たちをひっくるめて幻想郷版『羞恥○』とでも言うつもりですか?」
「い…いや、そこまで言うつもりは…」
「諏訪子様。 その認識は間違っています。
確かにおバカキャラという点では共通しますが、彼女たちは見ていて涙を誘うのです。
天然とか言って笑えるレベルではなく、騙されるタイプのおバカなのです」
「何気にひどいこと言ってるね」
「あの子たちと誰かが、特に魔理沙さんなんかが接触した時はハラハラしっぱなしですよ?
とても笑える状況じゃありません。 逆に心配になります。
彼女たちはいわば、保護対象にあたるのです」
「そこまでいくの!?」
「大袈裟だとは思っておりません。
もし彼女たちがこちらの『羞○心』を担うというのであれば、正しく教育する必要があります。
純粋なままおバカに成長してもらわなければならないのです。
だとするならば、保護対象に認定するのは至極当然のことだと考えます」
「『○恥心』は決定事項なの?」
「期待はしています」
「で…でもね早苗?
テレビが見たいっていうけど、テレビだっていいことばっかりじゃないよ?」
「ほぅ… どのような欠点があるというのでしょうか?
是非ともお教えいただきたいですね、神奈子様?」
「早苗こわい…」
「なにか言いましたか、諏訪子様?」
「いいえ! なにも言ってません!」
「そうですか?
では神奈子様、話していただけますか?」
「え? え~と、その、た…例えば…」
「例えば、何ですか? ハッキリ言っていただけますか?」
「め…目が悪くなっちゃいますよ…?」
「そうですね。 確かにテレビによる弊害の一つと言えるでしょう」
「で…でしょ? それに、テレビ見てて痙攣しちゃうようなことだってあるんだよ?」
「かつてのポケ○ンの事を言っているのでしょうか?
しかしそれらの問題に関しては、ある程度テレビから距離を置けば軽減されるはずです。
実際、その事件以降のアニメの冒頭などにはその旨が記載されていますしね」
「う… だったら…
テレビに依存しすぎて不健康な生活になるかもしれないよ…?」
「確かに子供がテレビから離れられず、外で遊ぶ機会が減っていることが危ぶまれますね。
しかし結局のところ、それは本人が自制するか、保護者が注意するしかありません。
私は自制心というものは既に持っておりますので、しっかり外には出ます。
それとも、私にはお二人の監視が必要とでもおっしゃるのですか?」
「滅相もございません!!」
「ふぅ… まぁそれはいいです。
そんなことより、やはり年末は悔しい思いをしました。
外の世界では普通に放送されているものを、私は想像するしかなかったのですから…
これがどれ程の屈辱かわかりますか!?
あまりに虚しくて枕を涙で濡らす夜が続いたのですよ!?」
「そ…そうなの?」
「そうですとも!
お二人は気にならなかったのですか!?
今回はいかなる笑いの刺客たちがメンバーを襲ったのか。
いかなる罰が執行されたのか。 あるいは一番罰を受けたのはだれなのか。
すべて想像するしかないのですよ!?
でもまぁ多分一番はダ○ンタウンの松○さんだったのでしょうが」
「そ…そうだよねー!
やっぱりテレビがないのはつらいよねー。 早苗の気持ちすっごくよくわかるなー」
「おわかり頂けましたか。 諏訪子様」
「す…諏訪子?」
「ごめんね神奈子…
この場で早苗には…勝てない」
「長いものに巻かれるなんて…
神様としてのプライドはなくしたのかい!?」
「時には天下の趨勢を読むことも、生き延びるための知恵なんだよ?
これは言ってみれば天意というものなのよ。
神奈子は反テレビ派で頑張ってね!」
「くっ! 賢しい知恵をつけおって…!」
「さて、あとは神奈子様だけですね。
なにか弁明はございますか?」
「え~っと…」
「おや? お話しいただけないのですか?」
「そうだそうだー。 早く話せー」
「腰巾着は黙ってな」
「ひ…ひどい」
「さぁ、神奈子様? テレビのどこがダメだというのですか?」
「その…テレビを見過ぎると、現実と虚構の区別がつかなくなり犯罪につながるとか?」
「なぜ疑問形なのかわかりませんが、確かにそういう方もおられますね。
ですが神奈子様、まさか私にそのような心配をされているのですか?」
「そんなことは決してないです!
ただそういうこともあるかな~、なんて思ったわけです」
「はぁ… 先程とどこか似たような論点ですね。
それもつまるところ自己管理の問題ではないですか?」
「た…確かに」
「そうだぞ神奈子ー? 期待はずれだー」
「諏訪子様の言葉を借りるわけではありませんが、確かにがっかりです。
あなたの力はその程度なのですか? 神奈子様?」
「そんなことは無きにしも非ず…かな?」
「神奈子様がそんなにハッキリしない方とは思いませんでした。
やはり私のテレビを見たい気持ちには何人も屈するほかないのです」
「うぅ…」
「さぁ、神奈子様も私と共に番組企画を想像しようじゃありませんか。
そしてみんなで枕を濡らしましょう」
「そういう主旨だったっけ?」
「私は単に同志が欲しかっただけです。
一人だけこんな思いを抱えてるのが許せなかったのです
あぁ… そういえばあちらの世界ではそろそろ『人志 ○本のすべらない話 ザ・ゴールデン』の放送がありますね…」
「というか…」
「まだ何かあるのですか? 神奈子様?」
「結局テレビは見れないんだよ?」
「それを言ったら話がまとまらないじゃないですか!!」
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『この 『守矢神社てれび論争』 は結局朝まで続くものの、終着を迎えることがなかった。
騒動を天狗が聞きつけ、この論争は幻想郷全土に知れ渡った。
その後も三人の話し合いはとどまることを知らず、腰の低い神様に信仰は減る一方だった。
だがその状況を見かねた、大妖怪「八雲 紫」の一言でもって一応の終結を見ることとなるのであった。
曰く、『そのうち、あなろぐ放送が幻想郷入りするかもよ?』とのことだ。
その言葉に、同神社の風祝「東風谷 早苗」は『その発想はなかった』と驚いた様子だった。
彼女は何年後かに来るかも知れないその時まで、二人の神を巻き込んで枕を濡らすそうだ。
ところで、『てれび』とか『あなろぐ』とか意味がわからないです。
著:稗田 阿求』
早苗はそんなに見るものがあったなんて・・・。
ちなみに私はそこまで見ない・・・かも。
笑いを誘ってくれる作品でした。
面白かった!
長距離深夜バスにはもう乗りたくないぜ
しかし、痛々しいほど気持ちが判りすぎて100点付けられん……
ネット断ちは俺には無理です
TVじゃないけどネットなかったらと思うとorz
それに続いてVHSが幻想入りするのは何年先だろうか……
優等生な早苗さんもいいけど現代っ子な早苗さんもいいですね
ネット断ち一週間で発狂すると思う。
でもネットは1日だって我慢できる自信がないよ!
ガキ○が見れないのは耐えられないと思う
私もです
>2
読んで頂いて感謝しています。
それに面白かったとまで言っていただけるなんて… 感無量です
>4
尊敬していいですか?
>10
あなたは早苗さんの同志です
>13
あなたも同志です
>16
ネットは断ち難いですよねぇ~
>17
あなたも早苗さんの同志ですね?
>20
やっぱり今はネットのほうが主流なんでしょうか?
>21
多分そう遠くない未来のような気がします
>23
私も俗っぽい早苗さんが好きです
>25
早苗さんにお説教されちゃいますよ?
>26
素敵なスキマ空間にはきっとあります
>29
早苗さんに諭されますよ?
>30
ここにも同志がいらっしゃいましたか…
>31
大丈夫です。早苗さんはしっかり見てました
…忘れられないと幻想入りはできないのか
ネットなら1週間持たない自信あるけど・・・。
しかしネットが幻想入りはなさそうだなあ
ごめんなさい 真剣に忘れてました
>37
そんなあなたには『早苗さんのお説教部屋』を
>38
ネットに代わる何かが必要ですね~
ところであなたは早苗さんの同志ですか?
>41
実はその突っ込み待ってましたwww
名前入力ミスってて吹いた
でもインターネット自体はまだまだ先だろうなぁ……
テレビのない生活……プロ野球が一切なくなるのは辛い……
しかし考えてみると現代はホント娯楽の多い時代だね~
パソコンが無いと死んでしまうわ・・・きっと。
どっかで(ここで)見たけど5年もテレビ見ていない人も居た様な。
もしかしか・・・全部出てた番組は作者さんが見てる番組??
最近パソコンばっかりでテレビはあんまり見てないなー
世界丸見えとか毎週楽しみにしてたんだけど。