「よし、っと」
七色の人形遣いの二つ名で通っている魔法使い――アリス・マーガトロイドは、ある人形を作り上げ、それを感心したようにいろいろな角度から眺めていた。
「また、いい感じね」
――また。
自分ではその一言に違和感を感じていないアリスは、その人形を開いたショーケースへと置いた。その隣には、今作り上げた人形とほとんど変わらない人形が並んでいる。
そう。アリスは、ここ数年ただ一種類の人形を作り続けていた。
「・・・」
三頭身ほどにデフォルメされたその人形は、黒いドレスに白いエプロンをあしらった服装で、大きな頭にはややウェーブのかかった長い黄色の髪がかかっている。やや勝ち気に見えるよう角度を調節してある眼や、にっと笑った口がなんとも可愛らしい。
だが、アリスは物足りなさを感じていた。なぜなら、彼女自身――こう呟くほどだから。
「これ・・・誰なんだろ」
その「事故」は、数年前に起きた。
魔法の森にある、一軒の魔法店。霧雨魔理沙という少女が経営する、こぢんまりとした店だ。
店なんていうのは名ばかりで、実際には接客はなってないし、自分が作りたい魔法をただひたすらに作り続ける魔理沙は、依頼を受けてもなかなか手をつけようとしない。店が繁盛するわけもなく、結局は彼女の魔法研究所になり果てていた。
・・・八百万の神々と戦い、異常天候続きを解決した数年後の話だ。魔理沙は、ただひたすらに暇な日々を送っていた。
とはいっても、この家の中にはいくらでも暇つぶしになる道具が転がっている。この家に昔住んでいた魔法使いの遺品がごろごろ転がっているのだ。そのうちのひとつである、何をしてもいっこうに開こうとしない小さな西洋式の箱が、今の魔理沙の研究対象だった。
外で日を浴びていた彼女は、うっそうと茂る樹木のせいで、多角形に切り取られたようにしか見えない空へと気晴らしに魔法で大きな星を飛ばすと、踵を返して家へと入った。
「さて、今日は何をしてやろうか」
その箱は、魔理沙にとって価値があって価値がないものだった。彼女にとって物理的に価値のあるものと言えば「明らかに魔法に関わっている面白いもの」くらいしかない。あとは食べ物程度か。そう考えればこの箱に価値など微塵も感じることはないだろう。
しかしまた別の観点から彼女を見てみれば、「面白い」あるいは「面白そうな」に惹かれるところから、わけのわからないような物品を好む習性がある。そしてこの箱もわけのわからない物品だ。故に、彼女にとって価値があって価値がないもの。
魔理沙はその宝石を散りばめた箱を手に取る。ずっしりとした重みを感じると、彼女はやや満足した表情でそれをまたごちゃごちゃした机に戻した。
次に魔理沙はその机に積まれた道具の中から八卦炉を取り出すと、慣れた手つきで箱をあぶり始めた。木をベースに上薬をかけて磨いたような箱であるから、無論表面が溶けて机にとろとろとこぼれ始める。ぶすぶすと煙をあげて、箱が燃え始めた。
「・・・よしっ」
なにが「よしっ」なのか自分でもわからなかったが、言ってみたかったので言った。
箱の角に、小さな穴が――
「・・・!」
その小さな穴は大きな成果だった。毎日あぶっていたが、穴が開いたのは今日が初めて。いつもなら途中で魔理沙の息が切れてしまって火力が弱まり、その拍子に箱は瞬間的にその形を再生してしまうのだ。机に落ちた上薬の滴や、木の焼けた部分から出た煙も、まるで映像を巻きもどすようにして吸い取る。いかなる構造なのか、魔法力を感知できる魔理沙には、その魔法力の強さは測れてもどんな魔法なのかはわからなかった。
そして、今回その穴から覗けたものは・・・
「はははっ、なんだこんなものが入ってたのか」
笑って魔理沙はそこに指を突っ込んだ。が、
「あっ・・・?」
箱の内部に、結界が張ってあった。
実のところその箱はこの家に住んでいた魔法使いのコレクションで、ある大魔法使いの「思い出」を形として封じ込めた代物だった。箱という小さなものの内側に結界とともにそれを封じた大魔法使いは、行方不明となっていた。
禁忌とさえされた神器だったのだ。だからこの家に住んでいた魔法使いは、それに外側からさらに魔法をかけて、外側からも封印した。自身の跡継ぎになるかもしれない少女に災難が降りかかるとも知らずに。
「星・・・?」
西、つまり神社の鳥居とは反対のほうにある縁側に座ってお茶をすすっていた霊夢は、空に大きな星が上がるのを見た。形状は数年前に終わらない夜の下で対峙した時に大量に舞っていたあの星と全く同じ。
「あんたも変わらないわねぇ」
知らず知らずのうちに霊夢はそんなことをつぶやき、巫女服を整えると、空へ――魔法の森へと飛び立った。
「か・・・はっ・・・?」
指を伝って流れた結界による呪いが、
「く・・・ぐぅふっ」
魔理沙の息の根を止めた。
がたんと大きく響く、椅子の倒れる音。
誰かが叫ぶ声。
余波を受けて飛び散ったミニ八卦炉が、床に横向きに倒れた魔理沙の頬に落ちた。熱いとか感じる以前に、魔理沙は頬にものが落ちたということを感知できていなかった。
「あ・・り・・・・・・す」
ただ、想い人の名前を最後に呟いて、魔理沙は意識を手放した。
「魔理沙!?」
吹き飛んだドア。もうもうと埃の舞う部屋で、魔理沙が倒れていた。
「魔理沙っ! なにしてるの!?」
魔理沙なら、ここでむくりと起き上がって「ちょっと失敗しちゃってな」くらい言いのけてくれそうなのに、起き上がってもくれない。
「まり・・・さ・・?」
「あ・・り・・・・・・す」
その言葉をやっと聞き取り、意味を理解して、霊夢は絶句した。二つ以上の意味で。
「やっぱり、私よりアリスの方がいいのね」
涙が流れていた。それを拭おうともせず、霊夢は部屋に充満する邪気に気を向けた。
「何よこれ、なんなの」
袴をまさぐって、札を取り出す。邪気をもろに食らったらしい魔理沙に清めの札を貼ってやると、息がゆるやかに・・・ならなかった。
「え?」
止まっていた。既に、という条件付きで。
「い、や・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
盗みを働き、わけのわからない店を魔法の森などという辺境で開き、巫女につきまとっては異変の解決に身を乗り出す白黒魔法使いの死は、瞬く間に幻想郷中に知れ渡った。
ここまで伝達するスピードが速いと、なにか笑いがこみあげてくるほど可笑しい気分になる。このニュースが、嘘なんじゃないかと思えてくる。
「ある二人から愛された、幻想郷じゃ名の知れた将来有望な人間魔法使いの早すぎる死」などと題名をうった新聞が、現実味をわずかながら引き出していた。
――二人。博麗霊夢ならびにアリス・マーガトロイド。
想いを伝える前に、想い人がいなくなった悲しみをだれが想像できようか。・・・この文句も新聞に書いてあった文句だ。霊夢もこの時ばかりは、この新聞の記事を肯定せずにはいられなかった。
無論人形遣いにもそのニュースは届いた。人形が運んできた新聞をめくれば、その見出しに目が行く。
「は・・・?」
暫く意味が理解できなかった。今日って、4月1日だったっけ?
意味が頭に浸透してきたころ、人形遣いは人形に囲まれて涙を流していた。
泣いていた時間はそう長くない。賢い人形遣いは、針と糸を手にして、人形を作り始めていた。――自らを見失う前に、愛の証を残すために。
巫女と人形遣いは自然に、より交友を深めていった。あれから何日も過ぎた後で、霊夢がすべての元凶となった箱を持ち出してきた。
霊夢が箱の結界を解いて――外側の魔法は魔理沙がとっくに焼き払っていた――中身を取り出したところ、巨大な宝石が出てきた。
「・・・はあ?」
魔理沙と同じ職業というか種族であるアリスの話を聞く限りでは、これは禁忌として封印されておくべきだった品物らしい。どこをどのように通ってあの魔法使いの手に渡り、それが魔理沙を死に至らしめたのかは全く不明だったが。
出てきた宝石は、液体のように箱にぴったりサイズを合わせていたが、いったん箱から落ちると、その透きとおった青い色のまま形を丸く変えた。水晶玉にしか見えない。
曇った宝石の内側は、ただもやもやとした空間を映し出すのみだった。アリスと二人でそれを転がしてみたり拭いてみたりしたが、どうにもならない。マジックアイテムらしく、傷がつくこともない。思い切ってお祓い棒でぶっ叩いてみたが、割れるどころか凹むことすらない。
「魔法・・・かけてみる?」
提案したのはアリスだった。霊夢はただ、静かに一度だけ頷いた。
「――――――」
霊夢には理解できない言葉を発しながら、アリスは水晶玉に手をおいた。とたん、水晶玉が内側から発光し始める。
網膜から後頭葉に伝達されたその光は、二人の脳内のある記憶をピンポイントに消し去った。
「あっ!?」
「しまった、トラップ!?」
記憶が消えたということがまず認知できなかった二人は、ただ割れて真っ二つになった水晶玉を唖然として見ていることしかできなかった。
「何もないみたいね」
「そうね。割れたけど」
がくっと肩を落とすアリス。消えた記憶の所為ではない。このマジックアイテムが効力を失ったことに対する純粋な「もったいない」という気持ちだった。
「もういいわ。なんだかよくわからなかったし・・・ありがとね、アリス」
想い人を想わなくなった紅白巫女は、想い人が減った七色の人形遣いに別れの挨拶をして、飛んでいった。
あれから何年がたったろう。霊夢は依然として巫女を続けているし、周りの連中だって人間はちょっと年をとったけれどほとんど変わっていない。「変化」なんて、ない・・・。
「誰なのよ、あなたは」
アリスは十数体並んだその白黒の服装の人形を、指で軽く小突いた。にっと笑った顔がなんとも可愛らしく、生き物ではないそれに淡い恋心を抱いてもいた。
「どうしたっていうのかしらね、私」 昔はこんな風に、人形に恋をするなんてことはなかった。少なくともあの春、・・・
記憶が続かなくなった。「つうッ・・・」
あの何年間かの間に、なにか空白がある。本来空いてないスペースのはずなのに、白く抜けたその風景の一部分。そこを思い出そうとすると、決まってとんでもない頭痛が始まり、思考が鈍くなる。
きれいに片付いた机から引っ張り出す、色褪せた新聞の一面。そこに、知らない魔法使いの名前が載っている。
「誰なのよ、ほんとに」 ――写真もあったのだけれど、気付いたら視界に入らなくなっていた。
――写真もあったのだけれど、気付いたら視界に入らなくなっていた。
誰も霊夢に、そこに写真があるとは言わなかった。否、言えなかった。想い人を失った悲しみから、精神的なダメージで脳がそれを拒否したのだと誰もが間違った見解で言いとどまっていた。
霊夢はアリスと体を重ねることを知った。人のぬくもりに包まれる幸せを、霊夢は知った。だが、次に体を重ねあい、お互いに絶頂を迎えた時、お互いの口から同時に信じられない単語が発せられた。
「「魔理沙」」
アリスがあわてて布団を羽織りながら机に走り、足をもつれさせて転んだりしているうちに、何も体に身につけていない霊夢はさっさと新聞を取り出すと、ランプの光の下それを読み上げた。
「・・・・・・得体のしれないマジックアイテムの暴発で亡くなった普通の白黒魔法使いこと霧雨魔理沙・・・あったわ!」
「魔理沙・・・魔理沙・・・」
はっとアリスが顔をあげる。
「白黒ってもしかしたら」
アリスがショーケースの蓋を開くと、そこにはきれいに並んだ白黒の服装の人形・・・つまり、霧雨魔理沙が大量に並んでいた。
霊夢の意識はフラッシュバックした。
「どこに埋葬するってのよ」
霊夢はスキマ妖怪こと八雲紫に尋ねた。
「神社に」
紫はそう呟くように言った。続けて、
「その方が、あなたも魔理沙も喜ぶんじゃなくて?」
「私は喜ぶかもしれないけど、魔理沙は・・・」
「大事なのは、生き残った者が死者をどう見るかなのよ」
紫はそう言い切ると、藍と橙に土を掘らせ始めた。
「ちょっと、人間は焼いて骨にしてから埋めるものよ」
霊夢が咎める。
「黙ってなさい。・・・あとで焼いたら承知しないわよ」
「そんな勝手な・・・!」
会話をしているうちにどさどさと魔理沙にかかる、恐ろしく仕事の早い式神たちの涙が混じった土。神社の裏手の丘に、その骸は葬られた。
「霊夢、ちょっと大丈夫!?」
くず折れた霊夢を、アリスが支えている。どうしようもなく震える足が、霊夢自身を支えていなかった。
「魔理沙が、神社の裏に・・・!」
それだけ言うと、霊夢はまた眼を閉じてしまった。
「魔理沙って・・・まり、さ?」 デフォルメされていない、人間の魔法使いの顔が、頭に浮かんだ。もう細部まで思い出すことはできないくらい忘れてしまっていたけれど、あの子供っぽい笑顔だけははっきり思い出すことができた。「うぅ・・ああっ・・・?」 とめどなくあふれる涙。もう流さないと思っていたのに。
精神的に破壊しつくされてしまったアリスには霊夢からのわずかなヒントが最後の頼りになっていた。だがしかし、ヒントを掴んだうれしさや安心感で体が弛緩して動かない。今日はあきらめようと、アリスは床に寝ている霊夢の横に身を下ろすと、布団を霊夢と共有して眠りに落ちた。
「で、なんで急に墓参りなのよ?」
――記憶を取り戻したのは、どうやらアリスだけだったようだ。霊夢は昨日の絶頂を迎えたあたりから記憶がないと言っている。
「いいから、ちょっと来て」
霊夢の手を無理やり引っ張って、空をめいっぱいスピードを出して翔る。風が気持ちよかった。
「アリスっ、ちょ、早いぃっ!」
ぐんぐん上がるスピード。記憶を失っていた時間が長すぎたが故に、たとえ命を失っていようとも魔理沙の顔が見られるかもしれないと強く思っていた。その想いが、自然とアリスの飛行スピードを上昇させていく。軽く自己最高記録は塗り替えたろう、あっという間に、博麗神社の上空に達していた。
「しばらくぶりじゃないか、閻魔様」
白黒魔法使いは冥界に入る前に、半分寝ている小町に案内されながら三途の川を渡り、その先にある御殿で閻魔と対面していた。
「早いですね」
何がだよ。
「こちらに来るのが」
「ああそうかい。私だって死にたくて死んだわけじゃないんだ」
閻魔こと四季映姫・ヤマザナドゥは、その言葉をただ静かに受け止めた。
「・・・多くの盗みを働いたその罰、地獄送りなどでは済まされない・・・ですが、地獄送りがこの場所における最高の罰だから仕方がありませんね」
魔理沙の顔がこわばる。最初からわかりきっていた判決だけれど、いざ言われてみると胸の奥がずきずきと痛んだ。
「昔聞いた話しだとな、・・・地獄に行くとしばらくは転生できないらしいじゃないか」
「その通りですが」
「それこそ妖怪が一生に費やすくらいの時間だったか。私はそんなの御免だ。もう一度アリスに会って、私の気持ちをちゃんと伝えるんだ」
やけに力のこもった言葉だった。だが、映姫の判決を覆せるはずもなく。
「黒です。私には白黒はっきりつける程度の能力しかありません」
暗に、あんたはどうあっても地獄に送ると言っているわけだ。魔理沙は憤りを感じずにはいられなかった。
幸い魔力はここでも普通に使える。呪いはだいぶ前に霊夢が解いていたから、体に支障はない。魔理沙はありったけの魔力で、箒を使わず自分の身を後ろにぶっ飛ばした。
三途の川の上空を通り過ぎる。このような事態を想定して配置されているはずの小町は、ボートで爆睡していた。
前から飛んでくるのは映姫のスペルカードによる攻撃だろう。ラストジャッジメントのその威力は、一度見たら頭から離れない。いきなり最強の攻撃を受けた魔理沙は、紙一重でその極太の光を避けた。
自らもスペルカードを発動する。いつかパチュリーから教えてもらったものを霧雨流にアレンジしたスペルカードだ。
「ノンディレクショナルレーザー!」
映姫のラストジャッジメントに勝るとも劣らない純粋な魔力のレーザーが、御殿をきれいに切り裂く。威力だけなら勝っているだろう。小さな星たちのきらめきが、映姫を捉えた――
アリスは必死に土を掘っていた。
「あんたいつから墓荒らしになったのよ」
そんな霊夢の呆れた声も耳には届かない。霊夢には、新聞の写真は見えていないし、これからこの下から出てくる死体の顔を見ても何も思わないのだろう。
「・・・つッ」
霊夢の顔が、歪んだ。
「ちょっと、大丈夫?」
アリスはその顔を見て悟った。霊夢も、記憶を蘇らせようとしている。
「大丈夫だから、あんたは自分のことだけ・・・あうぅ・・・」
ふらふらとよろけながら、霊夢は少し離れた神社へと歩いて行ってしまった。
ようやく土を掘り終わって出てきたのは、紛れもない霧雨魔理沙自身の体だった。何故か、あの頃と全く変わらない服装で、皮膚が土に分解された様子もない。
「何かしら・・・?」
思わず魔理沙の胸に耳を当ててみたがもちろん脈はない。しかし、アリスにはこの体がある種の力場に護られていることが分かった。
「スキマ妖怪ね」
時間の境界を弄っていたのだろうか。時間逆転や時空停止などはあのメイド長の得意技だった気もするが、彼女もここまで暇ではあるまい。ならば・・・
「あら、人形遣いじゃないの」
「やっぱりスキマ妖怪の仕業か」
アリスが振り返ると、今まさに隙間からはい出してきたと見える八雲紫の姿があった。
「何の用なの?」
数年ぶりの邂逅だ。この妖怪なら確かに暇で、この程度の境界ならいともたやすく動かすだろう。
「私だってその娘が死んだことは残念に思ってるの。このくらいしてあげても、誰も怒らないでしょう?」
質問の答えになっていない。アリスは憤りを感じると・・・理性が飛んでいた。
「ただの冒涜よ、そんなのッ!」
「あら、あなたに怒られる筋合いもないわ。この幾年か、この神社のせいで魔理沙はほとんど誰からも花を手向けてもらってもいないし、あなただって記憶喪失ですっかりだったみたいだものね」
痛いところを突かれた。
「さらに言えば。彼の世から魔理沙を引きずり出すことだって」
「いい加減にしてよ! 冒涜だって言ってるのがわからないの!?」
そこで、アリスの肩になにかずっしりとした重みがかかった。霊夢だ。
「紫、今、何て言った?」
冷静に聞いていれば問題なく聞き取れていたであろう重要な部分を、アリスは遮ったばかりか、聞き逃していた。
「魔理沙を生き返らせる・・・っていうのはちょっと語弊があるけれど、とりあえずそういうようなことはできるわ」
アリスは嬉しさと自己嫌悪でくず折れた。同時に紫の言葉の意味が浸透してくる。
霊夢が呟くように言った。
「もう思い出したわ。あんな死に方した魔理沙を、完全に忘れるなんて無理。・・・紫、詳しく聞かせなさい」
アリスが抱えていた魔理沙の亡骸を覗き込んだ霊夢は、顔をあげて紫を見た。感情などこもっていない、冷たい視線で。
「いいわ。その前に・・・冷えるから中に入ってお茶でも出してもらえないかしら」
どこまでも図々しい妖怪である。
やや冷めたお茶をすすりながら、アリスは紫の言葉を反芻してみる。今は霊夢と紫は魔理沙の亡骸をきれいにするために別の部屋にいるらしい。
「生き返るには、閻魔からどうにか許可を得て此の世に戻る必要があるって・・・無理だわ、どう考えても」
肩に乗っていた上海人形が、アリスを真似て考え込むポーズをとる。それが可愛らしくて、でもそれを見ていると、自分が作り続けていた魔理沙の人形のことばかりが頭に浮かんできて、どうにもやりきれない気持ちを抱えてしまう。
どのみち、今は紫にもどうすることはできない。紫がかかわる段階に至るまでに、魔理沙が此の世に魂を戻してもらう必要がある。そこで初めて、紫が生と死の境界を弄って生き返らせることができるという。魂がなければ生きていたところでそれこそただの人形だ。
「私たちにはどうすることもできない・・・魔理沙が帰ってくることを望む保証もない・・・」
そこが問題なのだ。魔理沙が彼の世での生活に満足してしまえば、此の世に戻ってくることなど考えもしないだろう。ついでに、聞く話では閻魔は白黒はっきりつけるのが大好きなようで、魔理沙ほど盗みを働いたものなら黒にしかなれないらしく、魂を戻す許可など下りるはずがないのだ。
「帰ってきてよぉ・・・まりさ・・・」
今はアリス以外誰もいないその和室で、アリスは思いっきり涙を流した。
「だから部屋から出なさいって言ったのよ」
「あんたこんなことまで見透かしてるわけ?」
隣の部屋から障子に穴をあけてアリスの行動をうかがうなんて最悪だと思っていたが、あんなヘビーな話をされた以上アリスが自害してもおかしくはない。せっかく見つけた魔理沙の手がかりが無為になるかもしれないのだから。
「止めるのはあんたよ、博麗」
「な、なんで私がっ」
しばらくはこのスキマ妖怪と一緒にいることになりそうだ。
アリスは持ってきていたかばんの中から白黒人形を一体取り出した。一番大きいそれは、完全に魔理沙の特徴を受け継いでいて、なんだか頼もしいくらい。アリスは人形を抱きしめると、ころんと畳に転がった。
「魔理沙・・・会いたいよ、早く・・・」
普通眠りに落ちていたと思うのは起きてからだ。しかし、アリスは寝ていながら夢の中にあると自覚していた。なぜなら、本物の魔理沙が動いて魔法を使っているのが鮮明に見えたから。
しかし、魔理沙は劣勢だった。
三途の河の上空に魔力で浮かぶ魔理沙は肩で息をしているような状態で、小町と映姫を敵にしている。どうか、勝ってほしい。
アリスの気持ちが届いたのか、魔理沙が機関銃のように小さな星を連射する。小町が鎌で弾こうとするが、弾ききれずに落ちていく。あの傷つき具合だと、もう戦線復帰は無理だろう。が、映姫はほぼ無傷だ。未だ魔理沙が圧倒的劣勢に立たされているのに間違いはない。
アリスは、人形を手繰るために魔法の糸を展開した。自身は上海人形を握る。
「このッ・・・!」
上海がレーザーを・・・撃たなかった。夢の中のはずなのに、想像力を使ってどうこうという話ではないらしい。しかし、映姫がこちらに気づく様子もない。
――アリスは空気と化していた。
「小町・・・!?」
映姫はやや焦っていた。閻魔として強い力を持ってはいるが、魔理沙には一度打ち負かされた経験がある。幻想郷の花々が狂い咲いたあの異変のときだ。
「ですが、負けるはずはありません」
自分に言い聞かせるようにしながら、映姫は弾幕を展開する。どこからともなく錫杖を飛ばして、自身も弾を放ち、鳥の形を持った霊魂を発する。
対する魔理沙は傷だらけで、魔力もほとんど残されていない。オプションを展開し、弾幕を避けながらピンポイントでレーザーを発射する。光速で飛ぶレーザーは、しかし一発として映姫には命中していなかった。
頭にアリスの顔が浮かぶ。この戦いになんとか勝利しない限り、現世に戻ることができない。彼女に逢うことも許されない。
「あきらめない、ぜっ!」 声に合わせて、手から簡易的な細いマスタースパークを放つ。八卦炉を所持していない今、魔理沙にマスタースパークを撃つことはかなわない。
・・・どん。
「!!?」
錫杖がかすったのかと思ったが、周りに弾は見当たらない。なんだろう。
「魔理沙!」
聞こえた声は――アリスのものだった。
「アリス!?」
一応答える。何メートルか先にいる映姫を見るが、まっすぐに魔理沙だけを見据えているのを見ると、魔理沙の後ろにアリスがいるなんてことではないらしい。幻聴か。
「良かった、夢で逢えて・・・」
夢?
これは夢などではない。れっきとした現実だ。
「夢じゃないぜ! 私はこんなところに用事なんてないッ」
オプションの展開数を4つに引き上げる。体が魔力の酷使に耐えきれず悲鳴をあげるが、今を耐えれば勝ちだ。
次の瞬間、なぜか体が軽くなる。
「私の魔力でいいなら、存分に使うがいいわ」
アリスだ。横にアリスがいる。見えないが、そっちを向くことすらかなわない激しい弾幕の中で身を躍らせているが、そこに在るアリスを感じ取ることができる。
体が軽くなったのも、アリスの魔力が流れてきたからだ。気質を感じることのできる魔法使い同士だからこそわかる、個人の魔力の質の違いで察知せきる。ならば、アリスが横にいるのも幻覚ではないはずだ。
「アリス・・・まったく、私がいないとそんなにさびしいのか?」
ふっと自嘲気味に笑って、先ほどの「どん」という重さを感じたところに左手を伸ばしてみた。以外にもエプロンのポケットだ。
「さびしいわよ、馬鹿っ」
泣くな、泣くなよアリス。
「泣かない方がおかしいわよ、こんな状況で・・・!」
「・・・八卦炉!?」 アリスの言葉を聞きながらも、魔理沙は戦闘に集中しなければならない。アリスの言葉の一つ一つに応えているわけにはいかない。だが、ポケットの中に入っていたものの形状を探り当てたときにはさすがに驚いた。さっきまでここには何も入っていなかったはずだ。
しかしそれを手にしたとき、魔理沙は勝利を確信した。アリスから受けた魔力の供給もあってか、体はさっきからやたらと軽い。
「いけるぜ。勝てると思うんじゃないぜ、この霧雨魔理沙さまに!」
宙返り、高速移動、オプションの巧みな配置と攻撃方法の変更。オプションからはミサイルで弾幕を張りながら、映姫の目の前に魔理沙自身を持っていく。オプションがいくらかの錫杖や鳥と衝突しながらも、なんとか行けた。
「恋色の魔法、見せてやるぜ」
「なぜ、さっきまで飛ぶのがやっとの状態だったはず・・・」
うろたえる映姫の目の前で、霧雨流最強の魔法マスタースパークが炸裂した。
「ん・・・」
魔理沙が身をよじった。苦しそうに首を動かして、しばらくすると黙った。
「生き返ったわ。・・・信じられないけど」
魔理沙がマスタースパークを放った時点で、アリスの意識は深い眠りへと落ちて行き、そこで彼の世との関係は終わっていた。眠っている中でも感覚は鋭敏に働き、深淵へと意識が落ちたことまでもが感知できていた。泣き疲れたんだろうな、自分、などと考えながら、アリスは鋭敏な感覚を手放して、普通の眠りに入った。
霊夢と紫はそこで漸くアリスを布団に寝かせてやった。外ではとっくに紫が魔理沙という存在の生と死の境界を弄り、魔理沙は息吹を取り戻していた。
「やっと終わったのね。・・・ううん、これから始まるんだ」
霊夢は誰にともなくつぶやいた。きっと次にこんな感傷に浸るときは横に魔理沙がいて、そんなの霊夢らしくないぜとか何とか言って小突いてくるんだろう。
「じゃあ、私は帰るわ。昼間から起こすなんてあなたたちもやってくれるわよね」
紫は眼尻に涙を溜め始めた霊夢に背を向けると、スキマを展開した。
一晩経って霊夢とアリスが腫れぼったい瞼を開くころ、魔理沙はきれいないつもの魔法使いの服装のまま博麗神社の縁側に放置されていることに気づき、飛びあがらんばかりに驚いた。
「わ、わ、わ・・・私はいったい・・・」
きょろきょろとあたりをうかがう魔理沙に、仲良く眠る二人の姿が映る。ちょっとばかり背の伸びた巫女と、何も変わっていない人形遣い。巫女のポジションにやや嫉妬を感じながらも、白黒魔法使いはその真ん中へ身を投じた。
「アリスも霊夢も、大好きだぜっ!」
その日を境に、白黒の人形はすべて人形遣いの元を去ったという。
だが人形遣いは白黒人形に感謝していた。あの眠りの中見えた光景は、白黒人形が伝えたものだと信じていたから。
――人形は、何も語らない。
七色の人形遣いの二つ名で通っている魔法使い――アリス・マーガトロイドは、ある人形を作り上げ、それを感心したようにいろいろな角度から眺めていた。
「また、いい感じね」
――また。
自分ではその一言に違和感を感じていないアリスは、その人形を開いたショーケースへと置いた。その隣には、今作り上げた人形とほとんど変わらない人形が並んでいる。
そう。アリスは、ここ数年ただ一種類の人形を作り続けていた。
「・・・」
三頭身ほどにデフォルメされたその人形は、黒いドレスに白いエプロンをあしらった服装で、大きな頭にはややウェーブのかかった長い黄色の髪がかかっている。やや勝ち気に見えるよう角度を調節してある眼や、にっと笑った口がなんとも可愛らしい。
だが、アリスは物足りなさを感じていた。なぜなら、彼女自身――こう呟くほどだから。
「これ・・・誰なんだろ」
その「事故」は、数年前に起きた。
魔法の森にある、一軒の魔法店。霧雨魔理沙という少女が経営する、こぢんまりとした店だ。
店なんていうのは名ばかりで、実際には接客はなってないし、自分が作りたい魔法をただひたすらに作り続ける魔理沙は、依頼を受けてもなかなか手をつけようとしない。店が繁盛するわけもなく、結局は彼女の魔法研究所になり果てていた。
・・・八百万の神々と戦い、異常天候続きを解決した数年後の話だ。魔理沙は、ただひたすらに暇な日々を送っていた。
とはいっても、この家の中にはいくらでも暇つぶしになる道具が転がっている。この家に昔住んでいた魔法使いの遺品がごろごろ転がっているのだ。そのうちのひとつである、何をしてもいっこうに開こうとしない小さな西洋式の箱が、今の魔理沙の研究対象だった。
外で日を浴びていた彼女は、うっそうと茂る樹木のせいで、多角形に切り取られたようにしか見えない空へと気晴らしに魔法で大きな星を飛ばすと、踵を返して家へと入った。
「さて、今日は何をしてやろうか」
その箱は、魔理沙にとって価値があって価値がないものだった。彼女にとって物理的に価値のあるものと言えば「明らかに魔法に関わっている面白いもの」くらいしかない。あとは食べ物程度か。そう考えればこの箱に価値など微塵も感じることはないだろう。
しかしまた別の観点から彼女を見てみれば、「面白い」あるいは「面白そうな」に惹かれるところから、わけのわからないような物品を好む習性がある。そしてこの箱もわけのわからない物品だ。故に、彼女にとって価値があって価値がないもの。
魔理沙はその宝石を散りばめた箱を手に取る。ずっしりとした重みを感じると、彼女はやや満足した表情でそれをまたごちゃごちゃした机に戻した。
次に魔理沙はその机に積まれた道具の中から八卦炉を取り出すと、慣れた手つきで箱をあぶり始めた。木をベースに上薬をかけて磨いたような箱であるから、無論表面が溶けて机にとろとろとこぼれ始める。ぶすぶすと煙をあげて、箱が燃え始めた。
「・・・よしっ」
なにが「よしっ」なのか自分でもわからなかったが、言ってみたかったので言った。
箱の角に、小さな穴が――
「・・・!」
その小さな穴は大きな成果だった。毎日あぶっていたが、穴が開いたのは今日が初めて。いつもなら途中で魔理沙の息が切れてしまって火力が弱まり、その拍子に箱は瞬間的にその形を再生してしまうのだ。机に落ちた上薬の滴や、木の焼けた部分から出た煙も、まるで映像を巻きもどすようにして吸い取る。いかなる構造なのか、魔法力を感知できる魔理沙には、その魔法力の強さは測れてもどんな魔法なのかはわからなかった。
そして、今回その穴から覗けたものは・・・
「はははっ、なんだこんなものが入ってたのか」
笑って魔理沙はそこに指を突っ込んだ。が、
「あっ・・・?」
箱の内部に、結界が張ってあった。
実のところその箱はこの家に住んでいた魔法使いのコレクションで、ある大魔法使いの「思い出」を形として封じ込めた代物だった。箱という小さなものの内側に結界とともにそれを封じた大魔法使いは、行方不明となっていた。
禁忌とさえされた神器だったのだ。だからこの家に住んでいた魔法使いは、それに外側からさらに魔法をかけて、外側からも封印した。自身の跡継ぎになるかもしれない少女に災難が降りかかるとも知らずに。
「星・・・?」
西、つまり神社の鳥居とは反対のほうにある縁側に座ってお茶をすすっていた霊夢は、空に大きな星が上がるのを見た。形状は数年前に終わらない夜の下で対峙した時に大量に舞っていたあの星と全く同じ。
「あんたも変わらないわねぇ」
知らず知らずのうちに霊夢はそんなことをつぶやき、巫女服を整えると、空へ――魔法の森へと飛び立った。
「か・・・はっ・・・?」
指を伝って流れた結界による呪いが、
「く・・・ぐぅふっ」
魔理沙の息の根を止めた。
がたんと大きく響く、椅子の倒れる音。
誰かが叫ぶ声。
余波を受けて飛び散ったミニ八卦炉が、床に横向きに倒れた魔理沙の頬に落ちた。熱いとか感じる以前に、魔理沙は頬にものが落ちたということを感知できていなかった。
「あ・・り・・・・・・す」
ただ、想い人の名前を最後に呟いて、魔理沙は意識を手放した。
「魔理沙!?」
吹き飛んだドア。もうもうと埃の舞う部屋で、魔理沙が倒れていた。
「魔理沙っ! なにしてるの!?」
魔理沙なら、ここでむくりと起き上がって「ちょっと失敗しちゃってな」くらい言いのけてくれそうなのに、起き上がってもくれない。
「まり・・・さ・・?」
「あ・・り・・・・・・す」
その言葉をやっと聞き取り、意味を理解して、霊夢は絶句した。二つ以上の意味で。
「やっぱり、私よりアリスの方がいいのね」
涙が流れていた。それを拭おうともせず、霊夢は部屋に充満する邪気に気を向けた。
「何よこれ、なんなの」
袴をまさぐって、札を取り出す。邪気をもろに食らったらしい魔理沙に清めの札を貼ってやると、息がゆるやかに・・・ならなかった。
「え?」
止まっていた。既に、という条件付きで。
「い、や・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
盗みを働き、わけのわからない店を魔法の森などという辺境で開き、巫女につきまとっては異変の解決に身を乗り出す白黒魔法使いの死は、瞬く間に幻想郷中に知れ渡った。
ここまで伝達するスピードが速いと、なにか笑いがこみあげてくるほど可笑しい気分になる。このニュースが、嘘なんじゃないかと思えてくる。
「ある二人から愛された、幻想郷じゃ名の知れた将来有望な人間魔法使いの早すぎる死」などと題名をうった新聞が、現実味をわずかながら引き出していた。
――二人。博麗霊夢ならびにアリス・マーガトロイド。
想いを伝える前に、想い人がいなくなった悲しみをだれが想像できようか。・・・この文句も新聞に書いてあった文句だ。霊夢もこの時ばかりは、この新聞の記事を肯定せずにはいられなかった。
無論人形遣いにもそのニュースは届いた。人形が運んできた新聞をめくれば、その見出しに目が行く。
「は・・・?」
暫く意味が理解できなかった。今日って、4月1日だったっけ?
意味が頭に浸透してきたころ、人形遣いは人形に囲まれて涙を流していた。
泣いていた時間はそう長くない。賢い人形遣いは、針と糸を手にして、人形を作り始めていた。――自らを見失う前に、愛の証を残すために。
巫女と人形遣いは自然に、より交友を深めていった。あれから何日も過ぎた後で、霊夢がすべての元凶となった箱を持ち出してきた。
霊夢が箱の結界を解いて――外側の魔法は魔理沙がとっくに焼き払っていた――中身を取り出したところ、巨大な宝石が出てきた。
「・・・はあ?」
魔理沙と同じ職業というか種族であるアリスの話を聞く限りでは、これは禁忌として封印されておくべきだった品物らしい。どこをどのように通ってあの魔法使いの手に渡り、それが魔理沙を死に至らしめたのかは全く不明だったが。
出てきた宝石は、液体のように箱にぴったりサイズを合わせていたが、いったん箱から落ちると、その透きとおった青い色のまま形を丸く変えた。水晶玉にしか見えない。
曇った宝石の内側は、ただもやもやとした空間を映し出すのみだった。アリスと二人でそれを転がしてみたり拭いてみたりしたが、どうにもならない。マジックアイテムらしく、傷がつくこともない。思い切ってお祓い棒でぶっ叩いてみたが、割れるどころか凹むことすらない。
「魔法・・・かけてみる?」
提案したのはアリスだった。霊夢はただ、静かに一度だけ頷いた。
「――――――」
霊夢には理解できない言葉を発しながら、アリスは水晶玉に手をおいた。とたん、水晶玉が内側から発光し始める。
網膜から後頭葉に伝達されたその光は、二人の脳内のある記憶をピンポイントに消し去った。
「あっ!?」
「しまった、トラップ!?」
記憶が消えたということがまず認知できなかった二人は、ただ割れて真っ二つになった水晶玉を唖然として見ていることしかできなかった。
「何もないみたいね」
「そうね。割れたけど」
がくっと肩を落とすアリス。消えた記憶の所為ではない。このマジックアイテムが効力を失ったことに対する純粋な「もったいない」という気持ちだった。
「もういいわ。なんだかよくわからなかったし・・・ありがとね、アリス」
想い人を想わなくなった紅白巫女は、想い人が減った七色の人形遣いに別れの挨拶をして、飛んでいった。
あれから何年がたったろう。霊夢は依然として巫女を続けているし、周りの連中だって人間はちょっと年をとったけれどほとんど変わっていない。「変化」なんて、ない・・・。
「誰なのよ、あなたは」
アリスは十数体並んだその白黒の服装の人形を、指で軽く小突いた。にっと笑った顔がなんとも可愛らしく、生き物ではないそれに淡い恋心を抱いてもいた。
「どうしたっていうのかしらね、私」 昔はこんな風に、人形に恋をするなんてことはなかった。少なくともあの春、・・・
記憶が続かなくなった。「つうッ・・・」
あの何年間かの間に、なにか空白がある。本来空いてないスペースのはずなのに、白く抜けたその風景の一部分。そこを思い出そうとすると、決まってとんでもない頭痛が始まり、思考が鈍くなる。
きれいに片付いた机から引っ張り出す、色褪せた新聞の一面。そこに、知らない魔法使いの名前が載っている。
「誰なのよ、ほんとに」 ――写真もあったのだけれど、気付いたら視界に入らなくなっていた。
――写真もあったのだけれど、気付いたら視界に入らなくなっていた。
誰も霊夢に、そこに写真があるとは言わなかった。否、言えなかった。想い人を失った悲しみから、精神的なダメージで脳がそれを拒否したのだと誰もが間違った見解で言いとどまっていた。
霊夢はアリスと体を重ねることを知った。人のぬくもりに包まれる幸せを、霊夢は知った。だが、次に体を重ねあい、お互いに絶頂を迎えた時、お互いの口から同時に信じられない単語が発せられた。
「「魔理沙」」
アリスがあわてて布団を羽織りながら机に走り、足をもつれさせて転んだりしているうちに、何も体に身につけていない霊夢はさっさと新聞を取り出すと、ランプの光の下それを読み上げた。
「・・・・・・得体のしれないマジックアイテムの暴発で亡くなった普通の白黒魔法使いこと霧雨魔理沙・・・あったわ!」
「魔理沙・・・魔理沙・・・」
はっとアリスが顔をあげる。
「白黒ってもしかしたら」
アリスがショーケースの蓋を開くと、そこにはきれいに並んだ白黒の服装の人形・・・つまり、霧雨魔理沙が大量に並んでいた。
霊夢の意識はフラッシュバックした。
「どこに埋葬するってのよ」
霊夢はスキマ妖怪こと八雲紫に尋ねた。
「神社に」
紫はそう呟くように言った。続けて、
「その方が、あなたも魔理沙も喜ぶんじゃなくて?」
「私は喜ぶかもしれないけど、魔理沙は・・・」
「大事なのは、生き残った者が死者をどう見るかなのよ」
紫はそう言い切ると、藍と橙に土を掘らせ始めた。
「ちょっと、人間は焼いて骨にしてから埋めるものよ」
霊夢が咎める。
「黙ってなさい。・・・あとで焼いたら承知しないわよ」
「そんな勝手な・・・!」
会話をしているうちにどさどさと魔理沙にかかる、恐ろしく仕事の早い式神たちの涙が混じった土。神社の裏手の丘に、その骸は葬られた。
「霊夢、ちょっと大丈夫!?」
くず折れた霊夢を、アリスが支えている。どうしようもなく震える足が、霊夢自身を支えていなかった。
「魔理沙が、神社の裏に・・・!」
それだけ言うと、霊夢はまた眼を閉じてしまった。
「魔理沙って・・・まり、さ?」 デフォルメされていない、人間の魔法使いの顔が、頭に浮かんだ。もう細部まで思い出すことはできないくらい忘れてしまっていたけれど、あの子供っぽい笑顔だけははっきり思い出すことができた。「うぅ・・ああっ・・・?」 とめどなくあふれる涙。もう流さないと思っていたのに。
精神的に破壊しつくされてしまったアリスには霊夢からのわずかなヒントが最後の頼りになっていた。だがしかし、ヒントを掴んだうれしさや安心感で体が弛緩して動かない。今日はあきらめようと、アリスは床に寝ている霊夢の横に身を下ろすと、布団を霊夢と共有して眠りに落ちた。
「で、なんで急に墓参りなのよ?」
――記憶を取り戻したのは、どうやらアリスだけだったようだ。霊夢は昨日の絶頂を迎えたあたりから記憶がないと言っている。
「いいから、ちょっと来て」
霊夢の手を無理やり引っ張って、空をめいっぱいスピードを出して翔る。風が気持ちよかった。
「アリスっ、ちょ、早いぃっ!」
ぐんぐん上がるスピード。記憶を失っていた時間が長すぎたが故に、たとえ命を失っていようとも魔理沙の顔が見られるかもしれないと強く思っていた。その想いが、自然とアリスの飛行スピードを上昇させていく。軽く自己最高記録は塗り替えたろう、あっという間に、博麗神社の上空に達していた。
「しばらくぶりじゃないか、閻魔様」
白黒魔法使いは冥界に入る前に、半分寝ている小町に案内されながら三途の川を渡り、その先にある御殿で閻魔と対面していた。
「早いですね」
何がだよ。
「こちらに来るのが」
「ああそうかい。私だって死にたくて死んだわけじゃないんだ」
閻魔こと四季映姫・ヤマザナドゥは、その言葉をただ静かに受け止めた。
「・・・多くの盗みを働いたその罰、地獄送りなどでは済まされない・・・ですが、地獄送りがこの場所における最高の罰だから仕方がありませんね」
魔理沙の顔がこわばる。最初からわかりきっていた判決だけれど、いざ言われてみると胸の奥がずきずきと痛んだ。
「昔聞いた話しだとな、・・・地獄に行くとしばらくは転生できないらしいじゃないか」
「その通りですが」
「それこそ妖怪が一生に費やすくらいの時間だったか。私はそんなの御免だ。もう一度アリスに会って、私の気持ちをちゃんと伝えるんだ」
やけに力のこもった言葉だった。だが、映姫の判決を覆せるはずもなく。
「黒です。私には白黒はっきりつける程度の能力しかありません」
暗に、あんたはどうあっても地獄に送ると言っているわけだ。魔理沙は憤りを感じずにはいられなかった。
幸い魔力はここでも普通に使える。呪いはだいぶ前に霊夢が解いていたから、体に支障はない。魔理沙はありったけの魔力で、箒を使わず自分の身を後ろにぶっ飛ばした。
三途の川の上空を通り過ぎる。このような事態を想定して配置されているはずの小町は、ボートで爆睡していた。
前から飛んでくるのは映姫のスペルカードによる攻撃だろう。ラストジャッジメントのその威力は、一度見たら頭から離れない。いきなり最強の攻撃を受けた魔理沙は、紙一重でその極太の光を避けた。
自らもスペルカードを発動する。いつかパチュリーから教えてもらったものを霧雨流にアレンジしたスペルカードだ。
「ノンディレクショナルレーザー!」
映姫のラストジャッジメントに勝るとも劣らない純粋な魔力のレーザーが、御殿をきれいに切り裂く。威力だけなら勝っているだろう。小さな星たちのきらめきが、映姫を捉えた――
アリスは必死に土を掘っていた。
「あんたいつから墓荒らしになったのよ」
そんな霊夢の呆れた声も耳には届かない。霊夢には、新聞の写真は見えていないし、これからこの下から出てくる死体の顔を見ても何も思わないのだろう。
「・・・つッ」
霊夢の顔が、歪んだ。
「ちょっと、大丈夫?」
アリスはその顔を見て悟った。霊夢も、記憶を蘇らせようとしている。
「大丈夫だから、あんたは自分のことだけ・・・あうぅ・・・」
ふらふらとよろけながら、霊夢は少し離れた神社へと歩いて行ってしまった。
ようやく土を掘り終わって出てきたのは、紛れもない霧雨魔理沙自身の体だった。何故か、あの頃と全く変わらない服装で、皮膚が土に分解された様子もない。
「何かしら・・・?」
思わず魔理沙の胸に耳を当ててみたがもちろん脈はない。しかし、アリスにはこの体がある種の力場に護られていることが分かった。
「スキマ妖怪ね」
時間の境界を弄っていたのだろうか。時間逆転や時空停止などはあのメイド長の得意技だった気もするが、彼女もここまで暇ではあるまい。ならば・・・
「あら、人形遣いじゃないの」
「やっぱりスキマ妖怪の仕業か」
アリスが振り返ると、今まさに隙間からはい出してきたと見える八雲紫の姿があった。
「何の用なの?」
数年ぶりの邂逅だ。この妖怪なら確かに暇で、この程度の境界ならいともたやすく動かすだろう。
「私だってその娘が死んだことは残念に思ってるの。このくらいしてあげても、誰も怒らないでしょう?」
質問の答えになっていない。アリスは憤りを感じると・・・理性が飛んでいた。
「ただの冒涜よ、そんなのッ!」
「あら、あなたに怒られる筋合いもないわ。この幾年か、この神社のせいで魔理沙はほとんど誰からも花を手向けてもらってもいないし、あなただって記憶喪失ですっかりだったみたいだものね」
痛いところを突かれた。
「さらに言えば。彼の世から魔理沙を引きずり出すことだって」
「いい加減にしてよ! 冒涜だって言ってるのがわからないの!?」
そこで、アリスの肩になにかずっしりとした重みがかかった。霊夢だ。
「紫、今、何て言った?」
冷静に聞いていれば問題なく聞き取れていたであろう重要な部分を、アリスは遮ったばかりか、聞き逃していた。
「魔理沙を生き返らせる・・・っていうのはちょっと語弊があるけれど、とりあえずそういうようなことはできるわ」
アリスは嬉しさと自己嫌悪でくず折れた。同時に紫の言葉の意味が浸透してくる。
霊夢が呟くように言った。
「もう思い出したわ。あんな死に方した魔理沙を、完全に忘れるなんて無理。・・・紫、詳しく聞かせなさい」
アリスが抱えていた魔理沙の亡骸を覗き込んだ霊夢は、顔をあげて紫を見た。感情などこもっていない、冷たい視線で。
「いいわ。その前に・・・冷えるから中に入ってお茶でも出してもらえないかしら」
どこまでも図々しい妖怪である。
やや冷めたお茶をすすりながら、アリスは紫の言葉を反芻してみる。今は霊夢と紫は魔理沙の亡骸をきれいにするために別の部屋にいるらしい。
「生き返るには、閻魔からどうにか許可を得て此の世に戻る必要があるって・・・無理だわ、どう考えても」
肩に乗っていた上海人形が、アリスを真似て考え込むポーズをとる。それが可愛らしくて、でもそれを見ていると、自分が作り続けていた魔理沙の人形のことばかりが頭に浮かんできて、どうにもやりきれない気持ちを抱えてしまう。
どのみち、今は紫にもどうすることはできない。紫がかかわる段階に至るまでに、魔理沙が此の世に魂を戻してもらう必要がある。そこで初めて、紫が生と死の境界を弄って生き返らせることができるという。魂がなければ生きていたところでそれこそただの人形だ。
「私たちにはどうすることもできない・・・魔理沙が帰ってくることを望む保証もない・・・」
そこが問題なのだ。魔理沙が彼の世での生活に満足してしまえば、此の世に戻ってくることなど考えもしないだろう。ついでに、聞く話では閻魔は白黒はっきりつけるのが大好きなようで、魔理沙ほど盗みを働いたものなら黒にしかなれないらしく、魂を戻す許可など下りるはずがないのだ。
「帰ってきてよぉ・・・まりさ・・・」
今はアリス以外誰もいないその和室で、アリスは思いっきり涙を流した。
「だから部屋から出なさいって言ったのよ」
「あんたこんなことまで見透かしてるわけ?」
隣の部屋から障子に穴をあけてアリスの行動をうかがうなんて最悪だと思っていたが、あんなヘビーな話をされた以上アリスが自害してもおかしくはない。せっかく見つけた魔理沙の手がかりが無為になるかもしれないのだから。
「止めるのはあんたよ、博麗」
「な、なんで私がっ」
しばらくはこのスキマ妖怪と一緒にいることになりそうだ。
アリスは持ってきていたかばんの中から白黒人形を一体取り出した。一番大きいそれは、完全に魔理沙の特徴を受け継いでいて、なんだか頼もしいくらい。アリスは人形を抱きしめると、ころんと畳に転がった。
「魔理沙・・・会いたいよ、早く・・・」
普通眠りに落ちていたと思うのは起きてからだ。しかし、アリスは寝ていながら夢の中にあると自覚していた。なぜなら、本物の魔理沙が動いて魔法を使っているのが鮮明に見えたから。
しかし、魔理沙は劣勢だった。
三途の河の上空に魔力で浮かぶ魔理沙は肩で息をしているような状態で、小町と映姫を敵にしている。どうか、勝ってほしい。
アリスの気持ちが届いたのか、魔理沙が機関銃のように小さな星を連射する。小町が鎌で弾こうとするが、弾ききれずに落ちていく。あの傷つき具合だと、もう戦線復帰は無理だろう。が、映姫はほぼ無傷だ。未だ魔理沙が圧倒的劣勢に立たされているのに間違いはない。
アリスは、人形を手繰るために魔法の糸を展開した。自身は上海人形を握る。
「このッ・・・!」
上海がレーザーを・・・撃たなかった。夢の中のはずなのに、想像力を使ってどうこうという話ではないらしい。しかし、映姫がこちらに気づく様子もない。
――アリスは空気と化していた。
「小町・・・!?」
映姫はやや焦っていた。閻魔として強い力を持ってはいるが、魔理沙には一度打ち負かされた経験がある。幻想郷の花々が狂い咲いたあの異変のときだ。
「ですが、負けるはずはありません」
自分に言い聞かせるようにしながら、映姫は弾幕を展開する。どこからともなく錫杖を飛ばして、自身も弾を放ち、鳥の形を持った霊魂を発する。
対する魔理沙は傷だらけで、魔力もほとんど残されていない。オプションを展開し、弾幕を避けながらピンポイントでレーザーを発射する。光速で飛ぶレーザーは、しかし一発として映姫には命中していなかった。
頭にアリスの顔が浮かぶ。この戦いになんとか勝利しない限り、現世に戻ることができない。彼女に逢うことも許されない。
「あきらめない、ぜっ!」 声に合わせて、手から簡易的な細いマスタースパークを放つ。八卦炉を所持していない今、魔理沙にマスタースパークを撃つことはかなわない。
・・・どん。
「!!?」
錫杖がかすったのかと思ったが、周りに弾は見当たらない。なんだろう。
「魔理沙!」
聞こえた声は――アリスのものだった。
「アリス!?」
一応答える。何メートルか先にいる映姫を見るが、まっすぐに魔理沙だけを見据えているのを見ると、魔理沙の後ろにアリスがいるなんてことではないらしい。幻聴か。
「良かった、夢で逢えて・・・」
夢?
これは夢などではない。れっきとした現実だ。
「夢じゃないぜ! 私はこんなところに用事なんてないッ」
オプションの展開数を4つに引き上げる。体が魔力の酷使に耐えきれず悲鳴をあげるが、今を耐えれば勝ちだ。
次の瞬間、なぜか体が軽くなる。
「私の魔力でいいなら、存分に使うがいいわ」
アリスだ。横にアリスがいる。見えないが、そっちを向くことすらかなわない激しい弾幕の中で身を躍らせているが、そこに在るアリスを感じ取ることができる。
体が軽くなったのも、アリスの魔力が流れてきたからだ。気質を感じることのできる魔法使い同士だからこそわかる、個人の魔力の質の違いで察知せきる。ならば、アリスが横にいるのも幻覚ではないはずだ。
「アリス・・・まったく、私がいないとそんなにさびしいのか?」
ふっと自嘲気味に笑って、先ほどの「どん」という重さを感じたところに左手を伸ばしてみた。以外にもエプロンのポケットだ。
「さびしいわよ、馬鹿っ」
泣くな、泣くなよアリス。
「泣かない方がおかしいわよ、こんな状況で・・・!」
「・・・八卦炉!?」 アリスの言葉を聞きながらも、魔理沙は戦闘に集中しなければならない。アリスの言葉の一つ一つに応えているわけにはいかない。だが、ポケットの中に入っていたものの形状を探り当てたときにはさすがに驚いた。さっきまでここには何も入っていなかったはずだ。
しかしそれを手にしたとき、魔理沙は勝利を確信した。アリスから受けた魔力の供給もあってか、体はさっきからやたらと軽い。
「いけるぜ。勝てると思うんじゃないぜ、この霧雨魔理沙さまに!」
宙返り、高速移動、オプションの巧みな配置と攻撃方法の変更。オプションからはミサイルで弾幕を張りながら、映姫の目の前に魔理沙自身を持っていく。オプションがいくらかの錫杖や鳥と衝突しながらも、なんとか行けた。
「恋色の魔法、見せてやるぜ」
「なぜ、さっきまで飛ぶのがやっとの状態だったはず・・・」
うろたえる映姫の目の前で、霧雨流最強の魔法マスタースパークが炸裂した。
「ん・・・」
魔理沙が身をよじった。苦しそうに首を動かして、しばらくすると黙った。
「生き返ったわ。・・・信じられないけど」
魔理沙がマスタースパークを放った時点で、アリスの意識は深い眠りへと落ちて行き、そこで彼の世との関係は終わっていた。眠っている中でも感覚は鋭敏に働き、深淵へと意識が落ちたことまでもが感知できていた。泣き疲れたんだろうな、自分、などと考えながら、アリスは鋭敏な感覚を手放して、普通の眠りに入った。
霊夢と紫はそこで漸くアリスを布団に寝かせてやった。外ではとっくに紫が魔理沙という存在の生と死の境界を弄り、魔理沙は息吹を取り戻していた。
「やっと終わったのね。・・・ううん、これから始まるんだ」
霊夢は誰にともなくつぶやいた。きっと次にこんな感傷に浸るときは横に魔理沙がいて、そんなの霊夢らしくないぜとか何とか言って小突いてくるんだろう。
「じゃあ、私は帰るわ。昼間から起こすなんてあなたたちもやってくれるわよね」
紫は眼尻に涙を溜め始めた霊夢に背を向けると、スキマを展開した。
一晩経って霊夢とアリスが腫れぼったい瞼を開くころ、魔理沙はきれいないつもの魔法使いの服装のまま博麗神社の縁側に放置されていることに気づき、飛びあがらんばかりに驚いた。
「わ、わ、わ・・・私はいったい・・・」
きょろきょろとあたりをうかがう魔理沙に、仲良く眠る二人の姿が映る。ちょっとばかり背の伸びた巫女と、何も変わっていない人形遣い。巫女のポジションにやや嫉妬を感じながらも、白黒魔法使いはその真ん中へ身を投じた。
「アリスも霊夢も、大好きだぜっ!」
その日を境に、白黒の人形はすべて人形遣いの元を去ったという。
だが人形遣いは白黒人形に感謝していた。あの眠りの中見えた光景は、白黒人形が伝えたものだと信じていたから。
――人形は、何も語らない。
まさか蘇ってくるとは思いませんでしたけど。(苦笑)
面白い作品でした。
最後にキレイな結末は大好きですw
最後の魔理沙の「アリスも霊夢も、大好きだぜっ!」がいい!
でもほのぼの友情話とかも見てみたいなぁ。最近てんで見かけなくて…
やっぱりかわいくかっこよくというのがいいですよねぇ。
私のツボに入りすぎです!
なんというかご都合主義過ぎる。
この作品のアリスと霊夢は、一体魔理沙のどういうところが好きなのでしょうか?
「魔理沙だから好き」だとしたら、説得力も何もありません。
えーき様も私は好き。
この話はルール?法則?決まり?をぶち破ってません?
一度死んだ人は転生、または霊体でないと会えないわけで。
もしこんな方法で帰ってこれるなら幻想郷、天人だらけですねw
ご都合主義すぎます。
これだと「レイアリ」に魔理沙という一点の墨汁をたらしただけにしか見えません。恋愛対象にする意味が無い。
別に二人の持つ共通の親友というポジションでも良かったし、むしろその方がしっくり来ます。
どうしてもこの相関関係を崩したくないのならば、二人が魔理沙を好きになった理由を明確にするべきでは?
それが嫌なら読み手はすぐさまページを戻るだけですから。
ただそれ以前の問題として、書き手である貴方が読み手に対して「物語を読ませよう」「話の流れを理解させよう」といった感情が無いように思いました。
現実で他者と話をするとき、他者に自分の意見や感情を理解してもらおうと思うなら、相手がわかり易いように先ず自分と相手との共通認識を確認し合い、そこから前提を決め、相手との意識の差異を埋めながら、理解を深め話を広げますよね。
文章も同じです。
それが小説だろうが論文だろうが、誰かに読ませるものであるなら、読み手が作品を理解するための描写・説明を疎かにしてはいけないと思います。
それは、視点が切り替わることや、オリジナル設定を用いることや、作品が欝話になることとは話が別です。
貴方の頭の中には一連の動画として物語が完結してたのでしょうが、読み手にとっては絵コンテどころかランダムに抜き出された数枚の一枚絵を見せられただけです。
かろうじてセリフが書かれていたり背景が入っていたので、なんとなく流れが掴めた人もいるでしょうが、それはあくまで読み手の洞察力・読解力に頼ったものだと言わざるを得ません。
読み手は、貴方の頭の中で書く前に既に出来上がっている、物語の中の時間の流れやそれとともに変化するキャラの感情の流れを、貴方が書き出す文章で追うことでしか理解できません。
ですから、そこをすっぱり抜かれてしまうと、何がなんだかわからなくなるのです。
一度作品を書き上げたなら、時間を置いて「他人が書いたものだとしたら?」という意識を持って読み返して見てはいかがでしょうか?