外は快晴。幼い瞳は睨みつけるかの様に窓の外を見た。
「全く、腹立たしいったらないわ。」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットはここ数日空を全く隠そうとしない雲に嫌気がさしていた。
窓からは有毒な光が漏れ、隙あらば白い体を溶かそうとする。
うっかり焦がした左腕を見ながらレミリアは呟いた。
「今日も外出は無理ね。これで1週間と2日、神社に行ってない。」
そう言いながら手慣れた様子で白いハンカチをポケットから取り出し、少し黒くなった左腕にかぶせる。
ハンカチが紅く燃え上がるとその奥から白い素肌が覗いた。
「たまには向こうから会いに来てくれでもしたらいい暇つぶしになるのに。
また霧でも撒き散らそうかしら。日は隠れるし、霊夢は来るしで一挙両得だわ。」
半ば本気でそんな事を考えていると、後ろから声がした。
「お嬢様、お茶の用意ができました。」
紅魔館のメイド、十六夜 咲夜である。
「ありがとう、咲夜。でももう少し気配をわかりやすくして欲しいわね。」
「気をつけます。」
口を動かしながらもてきぱきとテーブルの上に紅茶を並べる。
レミリアは咲夜が並べ終わるのを待たずに紅茶に口をつけていた。
「そうだ、お嬢様、パチュリー様がお呼びでしたよ。」
「パチェが?何の用なの?」
「そこまでは。ただ『来てほしい』とだけ。」
「ふーん。どうせ暇だし、紅茶を飲み終わったら行こうかしら。」
「なら私もご一緒します。丁度図書館に調べ物があったので。」
レミリアが飲み終わった紅茶を置くと、ティーセットは間もなく消え去った。
レミリアと咲夜は紅魔館の廊下を歩く。紅魔館の顔とも言える二人がそろって歩けば、妖精メイド達は廊下の中央に立つことなどできない。
図書室への道を歩きながらレミリアは違和感を感じていた。
(図書室までこんなに遠かったかしら・・・それにあの扉・・・奥に何があったっけ。)
「ねぇ咲夜。」
「はい。」
「あの扉の向こうって何の部屋だったっけ。」
「はい。えーと・・・すいません、必要に応じて行先変えてるんで今はどこに繋がってるか忘れてしまいました。」
(そうだった。咲夜は空間を操れるんだった。)
「あ、着きましたよ。」
咲夜は図書室の重い扉を開く。
「では私は本を探してきます。」
咲夜は本の中へ消えていった。
「ここの本も増えたなぁ。部屋の大きさも建てた頃の倍以上になってる。」
レミリアは周りを見回しながら奥へ進んでいく。
しばらく歩くと平積みにされた本に埋もれて、小さな机と人影があった。
「パチェ。」
声をかけると、パチュリー・ノーレッジは読んでいた本を机に置いて振り向いた。
「レミィ。いらっしゃい。」
「用があるって聞いたけど?」
「そうなの、ちょっと聞きたいことがあって。」
レミリアは平積みにされた本の中から適当な高さのものを見つけて腰かける。
「何かしら?」
「今新しい魔道書を書いてる最中なんだけど、参考に使いたい文献があるの。」
「それで?」
「その本っていうのが湖についてのものなんだけど、例の紅い霧の一件の時にレミィが持って行った本の中にあるみたいなのよ。」
「なるほど。それで至急返して欲しいと。」
「まぁ大至急って程でもないけど、あれがないとこの先が書けないからできれば急いで欲しいわね。」
「あの時の本は・・・確か3つ目の私の部屋にまとめて置いてあったわね。最近1つ目の部屋しか使ってなかったからすっかり忘れてたわ。」
「ならまとめて返して頂戴。いつ必要になるかわからないから。」
「分かったわ。どうせ外は気持ちの悪い青空だし、すぐにでも取ってきてあげるわ。」
「助かるわ。」
「じゃあ早速行ってくるわ。」
「お願いね。」
そう言うとパチュリーはまた本を手に取った。
レミリアは立ち上がって図書室の入口に戻る。咲夜はまだ調べ物をしているらしかった。
「さて、サクッと取ってきますか。」
図書室をでて1時間が経つ。
「・・・おかしい。」
レミリアは目についた扉を開ける。
「まただ、ここも見たことない。」
溜息をついて扉を閉める。
隣の扉にちらりと目をやったが、手を伸ばすのはやめた。
この1時間で開けた扉は100を超え、その先の知らない部屋は99を数えた。
「大体建てたときは100も部屋なかったわよ。何のためにこんなに部屋を増やしたのかしら。
後で咲夜をとっちめてやらなくちゃ。」
そう言いながらもレミリアは思い出していた。
・・・数年前・・・
「ねぇ咲夜、あなたの能力って部屋を増やしたりもできる?」
「えぇ、まぁ。」
「ちょっと欲しい部屋があるのよ。お願いできる?」
「お任せください。部屋のレイアウトまで完璧に再現して差し上げますよ。」
「じゃあ、まず日傘の収納部屋と・・・帽子の収納部屋と・・・靴の収納部屋と・・・」
結局あらゆるものの収納部屋ばかりが大量に作られたのだが、結局ほとんど使われなかった。
(やっぱり作りすぎたなぁ・・・なんにもない部屋がたくさんあったし・・・)
レミリアは昔の事を思い出して少し反省していた。しかし、言われるがままに部屋を作ったメイドはとっちめられてしまうだろう。
「仕方ない。諦めて図書室に戻ろう。」
そう言って元来た道を帰ろうとすると、不意に声をかけられた。
「あれ、お嬢様。こんなところで何をしてるんですか?」
「咲夜。あなたこそ何でこんなところにいるのよ。調べ物はどうしたの?」
「終わりました。これからお掃除をしようかと思いまして。」
「そう、私はちょっと探し物をね。ねぇ咲夜、ちょっと部・・・」
その時、紅魔館の外から叫ぶ声が聞こえた。
「咲夜さーん!魔理沙が中に入って行きましたー!」
「はぁ、中に入る前に止めるのが門番でしょうに・・・すいません、ちょっと失礼しますね。」
そう言うと咲夜は消えてしまった。
「・・・とっちめ損ねたわ。まぁいいか、後にしましょう。とりあえず図書室に戻ってパチェに言い訳しなきゃ。」
なんて言い訳しようか考えながら帰り道の扉を開ける。
そこにあったのは知らない部屋の100番目だった。
「迂闊だったわ。」
咲夜が帰り道を変えてしまったとはいえ、所詮は建物の中、少し歩きまわれば見たことある場所に出るだろうと思っていた。
しかし、あれから更に2時間歩きまわっても図書室の扉は全く見つかる気配がなかった。
「もう、この屋敷はどうなってるのかしら。咲夜に会ったらとっちめるだけじゃ済まさないわ。」
ブツブツと文句を言いながら扉を開けて回る。
「あ、この部屋は見たことあるわ!」
レミリアの表情がぱっと明るくなる。なにせこの2時間一人でふらふらと歩いていたのだ。
「確かこっちの扉の先が私の部屋に通じてたはず!」
勢いよく扉を開ける。そして、勢いなく扉は閉じた。
「本当、どうなってんのよこの屋敷は・・・」
溜息を吐くように言うと、レミリアはその場に座り込んでしまった。
「疲れた・・・ちょっと休んでから行きましょ。」
レミリアは部屋の中にベッドが並んでいるのを見つけると、その1つに飛び込んだ。
「ちょっとだけ・・・休憩・・・」
静かな部屋に小さな寝息が響いた。
黄色い声というのが正に相応しい声が聞こえてレミリアは目を覚ました。
どれくらいの時間が経ったのかわからない。この部屋には時計がなかった。
眠い目をこすり、また図書室を探しに行こうと思っていると、先ほどの黄色い声達がだんだん近づいてくる。
メイド妖精達だとすぐに気がついたが、さして興味もなかったので特にその声に注意を払うこともなかった。
外に出ようと扉のノブに手をかけようとすると、手をかけるより前にノブが先に回った。
扉が勢いよく開き、ぞろぞろとメイド妖精達が入ってくる。
レミリアは慌てて扉の陰に隠れていた。
(ここはメイド妖精達の部屋だったんだ・・・視察の時に見ていたから見覚えがあったのね・・・)
レミリアはこの屋敷の主なのだから隠れる必要は全然ないのだが、自分の屋敷で迷ったなどと知られてしまうのは主としてのプライドが許さなかった。
(気付かれないようにここを出よう・・・)
メイド妖精達は仕事が終わったばかりなのか、各々着替えた後ベッドに飛び込んだり、何人か集まって話したりしている。
そんな中声が上がった。
「あれ?誰かここにいた?」
メイド妖精達は頭の上に「?」を浮かべて声の主に視線を向ける。
「私のベッドが生暖かいのよ。それになんかシワになってるの。」
「本当だ、誰かここで寝てたんじゃないの?」
「誰が?」
「入ってきたときは誰もいなかったよー?」
メイド妖精達が騒がしくなる。
扉の陰でレミリアは冷や汗を垂らす。
「じゃあ私たち以外の誰かがいたってこと?」
「それって侵入者!?」
「きっとそうよ!ここの構造は複雑だから。」
「そっか!お屋敷に侵入したはいいけど、構造が複雑で迷った挙句に疲れて寝ちゃったって感じかな!」
「そんな間抜けな侵入者がいるもんですか。」
メイド妖精達は一斉に笑う。
レミリアだけは苦笑いを浮かべていた。
(明日から減給してやるんだから・・・)
「とにかくここに誰かいたのは間違いないわ。」
「もし本当に侵入者だったらどうしよう・・・」
「大丈夫よ!もし侵入者がいたって、そんなお間抜けな奴なら私達で捕まえられるわよ!」
「そうよね!」
「でもそんなお間抜けさんなら、まだこの部屋にいたりして・・・」
「もう!脅かさないでよ!」
「でもあり得るかもよ・・・?ベッドが生暖かいくらいだから割とさっきまでいたみたいだし・・・」
「えぇ!?怖いなぁ・・・」
「大丈夫よ!私達で探してあげるわよ!」
(!!)
冷や汗が吹き出る。
「え~、めんどくさいなぁ。」
「あんた、あんなに怯えてるんだから安心させてあげようとは思わないの?」
「どうせそんな奴いないもん。」
「それを証明して安心させてあげようって言うんじゃない!」
「仕方ないなぁ、もう。」
メイド妖精が3人程部屋の中を探り始める。
(まずい、まずい、まずい!)
レミリアは思考を巡らせる。
メイド妖精の一人がこちらに近づいてくる。
(どうにかしなきゃ!見つからないように!)
「お間抜けさんは、案外こんな所に・・・」
メイド妖精は空いたままになっている扉に手をかけ、その陰を覗く。
「・・・ま、いるわけないか。」
メイド妖精はスタスタと戻っていく。
レミリアは間一髪、部屋の隅の天井に張り付いていた。
(はぁ、なんとかなったけど・・・いつまでもこうしてるわけにはいかないし・・・何かいい手は・・・)
「やっぱりいなかったじゃない。」
「文句言わないでよ。いたらいたで大変でしょ?」
「まぁそうだけど・・・」
「よかった・・・安心したわ・・・ありがとうね。」
メイド妖精達は何事もなかったかのように各々好きな事を始める。
そんな折。部屋の外に轟音が響いた。部屋が振動する。
メイド妖精達は混乱し、外の様子を見に走る。
「今の音何!?」
「なんか割れたような音がしたよ!」
「何かあったんじゃない!?」
部屋にいたメイド妖精達はわらわらと部屋の扉をくぐって外に出る。
騒動の中で、1匹の蝙蝠が部屋の中に入り、天井の隅にに吸い込まれた。
(うまくいったわ。この隙に外に出ましょう。)
レミリアは天井から飛び降り、こっそりと外に出る。メイド妖精達が溢れかえる混乱の中で誰もレミリアに気づかない。
そう、レミリアは自分の分身の蝙蝠を外に飛ばし、屋敷を破壊させたのだ。
「何の騒ぎ!?」
「あっ、咲夜様!」
「廊下が突然破壊されたらしくて・・・」
「廊下が?」
「はい、すごい音がして・・・」
その間にもメイド妖精達は集まってくる。
「ほら!みんな持ち場に戻って!廊下は私が直しておきますから!ここに溜まらないで!」
「あら咲夜、どうしたのかしら?」
レミリアは何食わぬ顔で話しかける。
「お嬢様、少し問題があったみたいで・・・ここは危険なので戻っていてください。」
「そう。ああ咲夜、そこの扉、図書室につなげてくれる?」
「分かりました・・・はい、繋がりました。」
「ありがとう。ねぇ咲夜、後で私の処へ来てね。ちょっと用があるの。」
「?」
レミリアは扉を開けた。
図書室には魔理沙が来ていたらしく、パチュリーはふわふわとした表情を浮かべていた。
ぼーっとしているパチュリーをよそに積んである本に腰かける。
「何かいいことでもあったの?」
「っ!?レミィか・・・驚かさないでよ。」
「いたって普通に歩いて来たんだけどね。」
「コホン、まぁいいわ。で、頼んでた本を持ってきたの?」
「あ~、それなんだけど・・・ちょっと待ってもらってもいい?」
「ん?何かあったの?」
「ちょっとね・・・咲夜のせいで。」
「ふーん。まぁいいけど。」
「悪いわね、その内咲夜に持ってこさせるわ。」
レミリアはぴょんと本から飛び降りて歩き出す。
「もう行くの?」
「うん、ちょっと咲夜に大事な用事があるのよ。」
「大事な・・・ねぇ。」
レミリアは図書室の扉を開けた。
パチュリーは本を開いて呟いた。
「咲夜も気の毒に。」
幸い図書室からレミリアの部屋までの空間は弄られていないようだった。
レミリアは自分の部屋に戻ると一息つく。窓の外から見える日は傾き始めていた。
「雲ひとつないんだから、本当に腹立たしいわ。」
コン、コンとノックの音が聞こえてきた。
「お嬢様、入りますよ。」
「咲夜、早速だけど頼みごとよ。」
「はい、何でしょう。」
「3つ目の私の部屋に図書室から持ってきた本があるから、それをパチュリーに渡しておいて。」
「お安いご用です。用というのはそれだけですか?」
「まさか、これからが本当の用事よ。」
「?」
「夜が明けるまではまだたっぷり時間があるわね・・・」
「えぇ、まだ日が沈んですらいませんから・・・」
「愉しい夜になりそうだわ。ねぇ咲夜。」
場面描写が丁寧で、読み手にもレミリア好きにもとても優しい文章だと思いました
ただ盛り上がりや伏線、オチに欠ける展開のためかあっさりとした印象
例えばメイド妖精の部屋なんかは緊張感や心理の描写次第ではまだまだ表現できそうです
妖精に緊張感求めるのもなんですがw
「たくさんの空部屋」や「メイドハウス」はタイトルの不思議のダンジョンに絡めてのワードですよね
それなら「例の店強盗」は=「魔理沙」の認識でいいんですかね?だとすると上手いw
読み専門の私がアドバイスとはおこがましいが、ちょっと引っかかるところがあるので指摘しようと思う。
書いたら超長くなった。もうめんどくさかったら読まないでもいいや。
でも、読んじゃったなら参考にするんじゃなくて、こんな風に感じる奴もいるんだなって思ってくださいな。
後、正しいかどうかわからんところもあるから脳内補正と自分でも調べることを推奨する。
まず、文章の形式について。
改行で1行空けることにより場面転換を表現してるんだと思うが、最初の1文だけに空白を入れてるのはなぜ?
セリフが多く、地の文が少ないから、すごい見にくいわけではないんだけど、違和感がある。
段落分けするほど、長い地の文がないという理由かな?
次に、文章のあっさり加減。
上の人があっさりした印象って言ってるんだけど、そのあっさり加減の理由の一つはセリフと地の文の比率にもあると思う。
セリフはキャラクターの表情や心理、若干の説明の描写はできるんだけど、そのキャラクターが見ないことや、感じても喋ったりしないことは表現できないんだよね。仕草や微妙な表情の変化とか。
それを補うためにも、地の文で背景や動きを表現する必要があるんだけど、この作品ではかなり簡潔にしか書いていない。セリフが何行も連続してることも多いからね。
だから、単純に読み手に伝える情報の量が少なくなるからあっさりになる。
これは書き手の好みだから、一概に良い悪いとは言えない。あまりにもくどく描写しすぎても話が進まないし、読みにくくなってしまう。
普通の話なら書くべきことと書いてもしょうがないものをきちんと判断して書くのがポイント。
ギャグなら書いてもしょうがないものばっかり書くのも手。
えっと、最後に話の組み立てか。
正直な話、書き手じゃない私にはこれの指摘は荷が重い。
個人的には題名で不思議なダンジョンと銘打ってるんだから、もっと大胆にパロっても良かったんじゃないかなと思う。私はお嬢様が某風来人とか某商人みたいにお腹が空いたり、斜めに移動したり、識別してないアイテムを使ってorzする話だと思ったからちょっとだけ肩透かしを食らった。かなり自分勝手だけども。
後は伏線を張ってしっかり回収するってことか。
この話、へたれみりあが迷子になっただけで、それは可愛かったけども、特に何もしてないんだよね。
パチュリーに借りた本→咲夜に任せた
咲夜へのおしおき→作中では果たせず
咲夜が借りた本→作中に出てこず
最後はまあ、ちょっと気になった程度だけど、全体的に消化不良という印象。
登場人物の、特に主役の目的意識をはっきりしたほうが物語りは作りやすいんじゃないかな。
超長文すまそ。
2時間もかけて何をやってるのか私はorz
いろいろ書いたけど、思いつきの切り口は斬新だと思うので次回作にも期待してます。