色々と歩き回った。
働き口を探して。
妖怪のくせに、どうしても人間を襲えなくて。妖怪の中でも、それほど強くなくて。
だから、このままじゃいけない。何もしないでフラフラと生きているのは嫌だった。
そう思って、どうにか生きがいを見つけようと思って。
歩いた。必死で歩いた。
飛ぼうとはしなかった。大事なものを見落としそうだったから。
迷いやすい竹林だとか、人間がいっぱいいる里だとか、怪しい感じの森だとか。
自分を認めてくれる何かが無いか?
何処まででも歩いた。何時まででも歩いた。
さっきと同じ道だろうが、あるいは道が無かろうが、歩いた。
そうやって歩き続けたら、疲れた。
休もう、と妥協した。
もう歩けない、と諦めた。
綺麗だけどよく見渡せない湖の畔で休んだ。
そしたら、寝てしまった。
私が知らない間に夜がやってきていた。
ああ、そこいらの妖怪に勝てるかも分からない実力。
こんなところで一晩寝るわけにいかない。どうしよう。
闇への不安と油断した後悔に駆られ、あたりを見渡した。
…何か、何か無いか?
すると霧の向こう、かすかに明かりが見えた。
明かりは文明の証。即ち誰かがいるという可能性。
私はついに、飛んだ。
足がくたびれていたのもあったが、どう考えてもこの水面より、目の前の明かり方が魅惑的だったから。
飛んだ距離と比例するように次第に大きくなるその明かりは、より一層私を惹きつけた。
さらに、大きくなるにつれてその明かりが何か、おおよそ見当がついてくる。
「大きなお屋敷…」
思わず声が漏れた。
ここでなら……
そうだ、ここでなら。私の役目がもらえるのかも知れない。
本能的にそう思えた。
地面が見えると降り立って、やっぱり歩いた。
ほんのわずかな傾斜が辛かった。
もう何日も歩き通しだった体は悲鳴を上げていたはずだ。
でも、目の前のお屋敷にどうしても着きたかった。
あと少し、あと少し……
力を振り絞る。
だが残念ながら、そのお屋敷の大きな門には一歩届かず…
私はそこで力尽きて、再び眠ってしまった。
私は何なの?
分からない…
人も襲えない妖怪。いや、襲おうと思えば人間ぐらい相手では無いが、襲う気になれない。
ただ、肉弾戦なら、ちょっと自信がある。
じゃあ、
私は、何になりたい?
何だろう…
とにかく誰かの役に立つ仕事をこなせるようになりたいんだと思う。
そうすれば妖怪としてダメでもその職種でやっていけるはず。
夢の中で私は自問自答した。
この考え自体は最近、ついに見つけ出した私の人生論なのだ。
だからとても大切にしている。そして強く念じるようにしている。
いつどこにいても、この目標だけは見つめているつもりだ……
夜が明けて、東から空が明るくなる。
濃い霧のかかった中、私はまだ寝ていた。
当然、目の前の大きな門が開き始めたことにも気がつかない。
「まったく、なんでこの門はこんなに大きいのかしら…」
誰かが喋る声が聞こえた。
少し意識が戻り、薄く目を開く。
「どうせ客なんか来ないのだから門なんか………あら?」
その目が、門の向こうの人と合った。
「ん……ふぁ……」
うっかりあくびをしてしまった。
「あなた………」
あ、話しかけられた。
現状、凄い格好で寝ていたことがたった今分かった。
さらにあくび。
おそらくこの人に対する私の第一印象は最悪だろう。
「ここで行き倒れは勘弁願いたいわ」
いや、死ぬわけじゃないんだけどな。
昨夜は少し混乱していてなんでここに来たのかはっきりと覚えていないが、門の中へ入れてもらいたい衝動に駆られた。
しかしピンチだ。
だけどこの世には「ピンチはチャンス」って言葉がある。
私はその前向きな教えに従うことにした。
まぁ、とりあえず挨拶しよう。
「お、おはようございます!」
「むきゅっ!?」
いきなり大声で叫んだので驚かせてしまったようだ。
「あ、あなた元気ね……これから死ぬのかと思ったけど…」
「いいえ、生きる気満々ですよ。ですから是非お屋敷の中へ入れてください!お願いします!」
グダグダ話して逃げられたのではつまらないので、単刀直入にお願いした。
「なぜ?しかもそんないきなり…」
少しずつ思い出してきた。ここなら働けるかも、って思ったんだった。
「実は働き口を探しておりまして…」
「……あら、そういうこと。…私はこの館の当主ではないからなんとも言えないけれど…。とりあえず話をしてみたらどうかしら?」
当たって砕けろ的な行動の成果は、なかなか期待できる反応であった。
さて、お屋敷の中には入れてもらえるようだ。
「…じゃあ付いてきて」
「あ、はい!」
門から玄関までがまた長い。その途中、私を入れてくれた人とお話をした。
「私はパチュリー・ノーレッジ。普段は図書館にいるんだけどね、朝と夕方に門を開け閉めするのよ。私の友達が当主だから会わせてあげるわ…。ところであなたの名前は?」
「私は紅美鈴と言います。よろしくお願いします」
「そう。……でもあなた、お風呂入ったほうがいいわ………泥臭い」
「うっ…」
確かに地面でごろごろしていたらそうなるだろうが、私だって女の子なんだから、少しは気を使って欲しかった…
「先に体を洗ってしまいなさい。お風呂貸してあげるから」
「いいんですか?」
「私だったらこんな臭いの人は雇いたくないわね」
「うぅ……ありがとうございます」
「じゃあこっち」
するとパチュリーさんはくるっと向きを変え、私をお風呂場へ案内してくれた。
ご好意に甘えておきます。
お風呂なんて久しぶりに入ったな……
渡る世間に鬼は無い…か。
「さっぱりした?」
お風呂から上がるとパチュリーさんが待っていてくれた。
出来るだけ急いだつもりなのだが、長い髪の手入れにはどうしても時間がかかってしまう。
結局1時間ほどかかって出てきた。
「すみません、お待たせして…」
「べつに、構わないわ」
パチュリーさんは本を読んでいた。
しかもその傍らにはさらに数冊が積んであった。よほど本が好きなのだろう。
「じゃあ、改めて案内するわね。こっちよ」
パタン、と本を閉じ再び移動を始めた。
長い廊下、大きな広間、沢山の部屋、幾段もの階段……
まさに、お屋敷であった。
するとパチュリーさんがある部屋の前で止まった。
「ここよ…」
「あ、はい」
少し緊張してきた。
「レミィ、お客さんよ」
「あらパチェ?どうぞ」
ガチャっとドアが開かれる。
そこは広い部屋。奥に一人、おそらくレミィと呼ばれた人がソファーでくつろいでいた。
「いいわよ。かけてよ」
そう促されたので、ソファーに座らせてもらう。
正面に座った相手を見る。
まず一番初めに目に付くのが背中から生えた大きな羽だった。
人間でない、ということは分かった。
「さてと。パチェ、紅茶入れてきてくれるかしら」
「いつも私じゃない。いやよ、面倒だから」
この場所におけるパチュリーさんの立場も未だに理解できない。
「だって妖精たちはまとまりが無くて結局紅茶を持ってこないじゃない」
「だからって何で私なのよ……妖精がダメなら人間でも雇えばいいわ」
なんか、口喧嘩が始まった。
「あの~…」
空気になりかけていたので自己主張する。
「あ、ごめんなさい。えっと、用事は何かしら?」
「はい。実は、もしよろしければこちらで働かせていただけないかと思いまして」
またしても単刀直入に言ってみた。
「ふーん。あなた、名前は?」
「私、紅美鈴といいます」
「私はレミリア・スカーレット。紅魔館の当主よ。あと吸血鬼」
あ、吸血鬼でしたか…
そう分かると、その羽は確かにそれのもののように見える。
「で、メイリンだったっけ?ちょうどいいわ。あなたも見ていたでしょ?うちの館は紅茶もろくに煎れられないほど人手不足なのよ」
お!いい感じではないか!
今日は運がいいというか、いい人に会ってばかりと言うか。
「でね、あなたにはメイドさんをやっていただこうかなと思うのよ」
メイドさんか…そういうの少し苦手なんだよな……
「あの、私家事とか苦手なんで上手く出来るか分から無いです…力仕事とかありませんか?」
手先が器用かといわれればそれほどでもない。
知識が豊富と言うわけでもない。
むしろ私は体を使う仕事の方が向いている気がしている。
さらに武道の類には心得があるから、それを生かせればいいんだと思う。
働きたいと言っても、もし叶うなら自分の得意分野で働きたかった。
「力仕事?」
私は、自分の気持ちを語った。
「ふ~ん。なるほどね……」
少し思考するレミリアさん。
「なら、門の当番をやって。いちいち開け閉めが面倒だから」
と、パチュリーさん。
「そうね。それならパチェも文句は無いわよね」
「そうしてもらえると助かるわ」
どうやら方向が決まったようだ。
「じゃあ、メイリン!あなたは今日から紅魔館の門番よ。宜しく頼むわね」
「あ、はい!ありがとうございます!」
結局、私の仕事はこうだ。
朝、門のところに立ち始め、客が来れば用件を聞いた後通し、妖精を呼び案内させる。
怪しい対象には攻撃をし、迎撃する。
あと、花の世話も頼まれた。
以上。こんな感じ。
正直、体は張ってるんだけど……まぁ、細かいことはいいか。
とにかく私は必要としてもらえたのだ。
少しでも私の価値を認めてもらえたのだ。
凄く嬉しかった。
その日は貰った部屋で休んで、翌日。
「おはようございます。レミリア様」
雇ってもらったということは、従う者となるということ。
当然、昨日とは立場が違うからして言葉遣いも意識する。
「おはよ。じゃあ案内を始めるわね」
「よろしくお願いします」
今日はお屋敷……紅魔館の中を案内して貰った。
やはり外見から見たとおりの広さで、良くわからなかった。
でもあまり関係ないと思う。
私の職場は外だから。
しばらくすると、階段で地下へ降りた。
「ここが図書館。パチェはいつもここにいるわ」
「これはまた大きな図書館ですね……」
「結構パチェが持ち込んだのよ」
やはり相当な本好きらしい。
「次はここ。私の妹の部屋」
その部屋はとても厳重に閉ざされていた。
「妹さんがいらっしゃったんですね。……引きこもってるんですか?」
「うーん。色々面倒だから詳しくはまた今度ってことで」
「え?あ、はい」
何だろう?ちょっと気になったけど後で教えてもらえるようなので特に追求はしなかった。
で、玄関口。
「じゃあ、お仕事頑張ってちょうだい。私は種族の関係で日に当たれないからここまでだけど門の場所は分かるわね?」
「はい」
まぁ、はじめ通ってきたから。
「それと…」
「何か?」
「その『レミリア様』ってなんか違和感あるわ。他の考えといて」
「あ、はぃ……」
それは呼ばれ慣れていないだけじゃ?と思ったけど。
しかたない、他の候補を考えるかな。
主人の新しい呼び名を考えながら門番を始めた。
それから毎日、私は門に立った。
体は丈夫な方、侵入しようとする輩もたいした実力は無く、私でも難なくあしらえた。
暇なときは花に水をあげたり、たまに昼寝をしてしまったり…
一見退屈そうな仕事だがマイペースに進められる分、やっていると楽しさとかやりがいなんかも感じてくるのだ。
きっとこれが、私の探していたものだろう。
私は、自分の存在が確認してもらえる、この場所が好きだ。
働き口を探して。
妖怪のくせに、どうしても人間を襲えなくて。妖怪の中でも、それほど強くなくて。
だから、このままじゃいけない。何もしないでフラフラと生きているのは嫌だった。
そう思って、どうにか生きがいを見つけようと思って。
歩いた。必死で歩いた。
飛ぼうとはしなかった。大事なものを見落としそうだったから。
迷いやすい竹林だとか、人間がいっぱいいる里だとか、怪しい感じの森だとか。
自分を認めてくれる何かが無いか?
何処まででも歩いた。何時まででも歩いた。
さっきと同じ道だろうが、あるいは道が無かろうが、歩いた。
そうやって歩き続けたら、疲れた。
休もう、と妥協した。
もう歩けない、と諦めた。
綺麗だけどよく見渡せない湖の畔で休んだ。
そしたら、寝てしまった。
私が知らない間に夜がやってきていた。
ああ、そこいらの妖怪に勝てるかも分からない実力。
こんなところで一晩寝るわけにいかない。どうしよう。
闇への不安と油断した後悔に駆られ、あたりを見渡した。
…何か、何か無いか?
すると霧の向こう、かすかに明かりが見えた。
明かりは文明の証。即ち誰かがいるという可能性。
私はついに、飛んだ。
足がくたびれていたのもあったが、どう考えてもこの水面より、目の前の明かり方が魅惑的だったから。
飛んだ距離と比例するように次第に大きくなるその明かりは、より一層私を惹きつけた。
さらに、大きくなるにつれてその明かりが何か、おおよそ見当がついてくる。
「大きなお屋敷…」
思わず声が漏れた。
ここでなら……
そうだ、ここでなら。私の役目がもらえるのかも知れない。
本能的にそう思えた。
地面が見えると降り立って、やっぱり歩いた。
ほんのわずかな傾斜が辛かった。
もう何日も歩き通しだった体は悲鳴を上げていたはずだ。
でも、目の前のお屋敷にどうしても着きたかった。
あと少し、あと少し……
力を振り絞る。
だが残念ながら、そのお屋敷の大きな門には一歩届かず…
私はそこで力尽きて、再び眠ってしまった。
私は何なの?
分からない…
人も襲えない妖怪。いや、襲おうと思えば人間ぐらい相手では無いが、襲う気になれない。
ただ、肉弾戦なら、ちょっと自信がある。
じゃあ、
私は、何になりたい?
何だろう…
とにかく誰かの役に立つ仕事をこなせるようになりたいんだと思う。
そうすれば妖怪としてダメでもその職種でやっていけるはず。
夢の中で私は自問自答した。
この考え自体は最近、ついに見つけ出した私の人生論なのだ。
だからとても大切にしている。そして強く念じるようにしている。
いつどこにいても、この目標だけは見つめているつもりだ……
夜が明けて、東から空が明るくなる。
濃い霧のかかった中、私はまだ寝ていた。
当然、目の前の大きな門が開き始めたことにも気がつかない。
「まったく、なんでこの門はこんなに大きいのかしら…」
誰かが喋る声が聞こえた。
少し意識が戻り、薄く目を開く。
「どうせ客なんか来ないのだから門なんか………あら?」
その目が、門の向こうの人と合った。
「ん……ふぁ……」
うっかりあくびをしてしまった。
「あなた………」
あ、話しかけられた。
現状、凄い格好で寝ていたことがたった今分かった。
さらにあくび。
おそらくこの人に対する私の第一印象は最悪だろう。
「ここで行き倒れは勘弁願いたいわ」
いや、死ぬわけじゃないんだけどな。
昨夜は少し混乱していてなんでここに来たのかはっきりと覚えていないが、門の中へ入れてもらいたい衝動に駆られた。
しかしピンチだ。
だけどこの世には「ピンチはチャンス」って言葉がある。
私はその前向きな教えに従うことにした。
まぁ、とりあえず挨拶しよう。
「お、おはようございます!」
「むきゅっ!?」
いきなり大声で叫んだので驚かせてしまったようだ。
「あ、あなた元気ね……これから死ぬのかと思ったけど…」
「いいえ、生きる気満々ですよ。ですから是非お屋敷の中へ入れてください!お願いします!」
グダグダ話して逃げられたのではつまらないので、単刀直入にお願いした。
「なぜ?しかもそんないきなり…」
少しずつ思い出してきた。ここなら働けるかも、って思ったんだった。
「実は働き口を探しておりまして…」
「……あら、そういうこと。…私はこの館の当主ではないからなんとも言えないけれど…。とりあえず話をしてみたらどうかしら?」
当たって砕けろ的な行動の成果は、なかなか期待できる反応であった。
さて、お屋敷の中には入れてもらえるようだ。
「…じゃあ付いてきて」
「あ、はい!」
門から玄関までがまた長い。その途中、私を入れてくれた人とお話をした。
「私はパチュリー・ノーレッジ。普段は図書館にいるんだけどね、朝と夕方に門を開け閉めするのよ。私の友達が当主だから会わせてあげるわ…。ところであなたの名前は?」
「私は紅美鈴と言います。よろしくお願いします」
「そう。……でもあなた、お風呂入ったほうがいいわ………泥臭い」
「うっ…」
確かに地面でごろごろしていたらそうなるだろうが、私だって女の子なんだから、少しは気を使って欲しかった…
「先に体を洗ってしまいなさい。お風呂貸してあげるから」
「いいんですか?」
「私だったらこんな臭いの人は雇いたくないわね」
「うぅ……ありがとうございます」
「じゃあこっち」
するとパチュリーさんはくるっと向きを変え、私をお風呂場へ案内してくれた。
ご好意に甘えておきます。
お風呂なんて久しぶりに入ったな……
渡る世間に鬼は無い…か。
「さっぱりした?」
お風呂から上がるとパチュリーさんが待っていてくれた。
出来るだけ急いだつもりなのだが、長い髪の手入れにはどうしても時間がかかってしまう。
結局1時間ほどかかって出てきた。
「すみません、お待たせして…」
「べつに、構わないわ」
パチュリーさんは本を読んでいた。
しかもその傍らにはさらに数冊が積んであった。よほど本が好きなのだろう。
「じゃあ、改めて案内するわね。こっちよ」
パタン、と本を閉じ再び移動を始めた。
長い廊下、大きな広間、沢山の部屋、幾段もの階段……
まさに、お屋敷であった。
するとパチュリーさんがある部屋の前で止まった。
「ここよ…」
「あ、はい」
少し緊張してきた。
「レミィ、お客さんよ」
「あらパチェ?どうぞ」
ガチャっとドアが開かれる。
そこは広い部屋。奥に一人、おそらくレミィと呼ばれた人がソファーでくつろいでいた。
「いいわよ。かけてよ」
そう促されたので、ソファーに座らせてもらう。
正面に座った相手を見る。
まず一番初めに目に付くのが背中から生えた大きな羽だった。
人間でない、ということは分かった。
「さてと。パチェ、紅茶入れてきてくれるかしら」
「いつも私じゃない。いやよ、面倒だから」
この場所におけるパチュリーさんの立場も未だに理解できない。
「だって妖精たちはまとまりが無くて結局紅茶を持ってこないじゃない」
「だからって何で私なのよ……妖精がダメなら人間でも雇えばいいわ」
なんか、口喧嘩が始まった。
「あの~…」
空気になりかけていたので自己主張する。
「あ、ごめんなさい。えっと、用事は何かしら?」
「はい。実は、もしよろしければこちらで働かせていただけないかと思いまして」
またしても単刀直入に言ってみた。
「ふーん。あなた、名前は?」
「私、紅美鈴といいます」
「私はレミリア・スカーレット。紅魔館の当主よ。あと吸血鬼」
あ、吸血鬼でしたか…
そう分かると、その羽は確かにそれのもののように見える。
「で、メイリンだったっけ?ちょうどいいわ。あなたも見ていたでしょ?うちの館は紅茶もろくに煎れられないほど人手不足なのよ」
お!いい感じではないか!
今日は運がいいというか、いい人に会ってばかりと言うか。
「でね、あなたにはメイドさんをやっていただこうかなと思うのよ」
メイドさんか…そういうの少し苦手なんだよな……
「あの、私家事とか苦手なんで上手く出来るか分から無いです…力仕事とかありませんか?」
手先が器用かといわれればそれほどでもない。
知識が豊富と言うわけでもない。
むしろ私は体を使う仕事の方が向いている気がしている。
さらに武道の類には心得があるから、それを生かせればいいんだと思う。
働きたいと言っても、もし叶うなら自分の得意分野で働きたかった。
「力仕事?」
私は、自分の気持ちを語った。
「ふ~ん。なるほどね……」
少し思考するレミリアさん。
「なら、門の当番をやって。いちいち開け閉めが面倒だから」
と、パチュリーさん。
「そうね。それならパチェも文句は無いわよね」
「そうしてもらえると助かるわ」
どうやら方向が決まったようだ。
「じゃあ、メイリン!あなたは今日から紅魔館の門番よ。宜しく頼むわね」
「あ、はい!ありがとうございます!」
結局、私の仕事はこうだ。
朝、門のところに立ち始め、客が来れば用件を聞いた後通し、妖精を呼び案内させる。
怪しい対象には攻撃をし、迎撃する。
あと、花の世話も頼まれた。
以上。こんな感じ。
正直、体は張ってるんだけど……まぁ、細かいことはいいか。
とにかく私は必要としてもらえたのだ。
少しでも私の価値を認めてもらえたのだ。
凄く嬉しかった。
その日は貰った部屋で休んで、翌日。
「おはようございます。レミリア様」
雇ってもらったということは、従う者となるということ。
当然、昨日とは立場が違うからして言葉遣いも意識する。
「おはよ。じゃあ案内を始めるわね」
「よろしくお願いします」
今日はお屋敷……紅魔館の中を案内して貰った。
やはり外見から見たとおりの広さで、良くわからなかった。
でもあまり関係ないと思う。
私の職場は外だから。
しばらくすると、階段で地下へ降りた。
「ここが図書館。パチェはいつもここにいるわ」
「これはまた大きな図書館ですね……」
「結構パチェが持ち込んだのよ」
やはり相当な本好きらしい。
「次はここ。私の妹の部屋」
その部屋はとても厳重に閉ざされていた。
「妹さんがいらっしゃったんですね。……引きこもってるんですか?」
「うーん。色々面倒だから詳しくはまた今度ってことで」
「え?あ、はい」
何だろう?ちょっと気になったけど後で教えてもらえるようなので特に追求はしなかった。
で、玄関口。
「じゃあ、お仕事頑張ってちょうだい。私は種族の関係で日に当たれないからここまでだけど門の場所は分かるわね?」
「はい」
まぁ、はじめ通ってきたから。
「それと…」
「何か?」
「その『レミリア様』ってなんか違和感あるわ。他の考えといて」
「あ、はぃ……」
それは呼ばれ慣れていないだけじゃ?と思ったけど。
しかたない、他の候補を考えるかな。
主人の新しい呼び名を考えながら門番を始めた。
それから毎日、私は門に立った。
体は丈夫な方、侵入しようとする輩もたいした実力は無く、私でも難なくあしらえた。
暇なときは花に水をあげたり、たまに昼寝をしてしまったり…
一見退屈そうな仕事だがマイペースに進められる分、やっていると楽しさとかやりがいなんかも感じてくるのだ。
きっとこれが、私の探していたものだろう。
私は、自分の存在が確認してもらえる、この場所が好きだ。
この作品を呼んでいると美鈴の天職なんだなぁ・・・と。
面白かったです。
美鈴が咲夜になってますよ?
すごく、美鈴ぽくてよかったです
>美鈴が咲夜に
今回、一度メイドを頼まれてますし、危なかったかとw
>咲夜さん
種族を考えると先にいたらまずいですし、でもどう登場させるべきか迷ったので今回は見送りにしました。
皆様ご意見ありがとうございました。