Coolier - 新生・東方創想話

何も無い日、いんわんだーらんど

2008/06/18 22:17:08
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 弟が、動かなくなってしまった。



   ◆



 まあ、ぶっちゃけた話が死んでしまったって、そういう事なのだが。動かないって言うのは。
 この表現、不謹慎と言うか、あんまり使って良いようなものではないって、そんなのは私だってわかってる。人間はオモチャじゃないんだって、そう言って怒るだろうな。普通の人、普通の大人は。
 でも実際、私にはそうとしか思えないんだから仕方がない。血のつながった実の弟なワケなんだけれども、ああこいつ、動かなくなったなって。なぜなんだろう。

 まあ、あれかな。うん、何と言うか私、ショックを受けてないんだ。弟が死んだっていうのに。すっごい冷静。これはあれだ、マンガとかドラマでよくある、ショックのあまり何も考えられなくなってー、みたいなのとは違って、うん、ほんとすごい冷静。超クール。そんなもんだから、ほらこうして肉親の死を目の前にしても、単純にその外観的状況のみを淡々と述べてみたりなんだり。うん、自分で言っててよくわかんなくなってきた。難しい単語を無理に使うのはよそう。難しい言葉を使ってふふんあら私ったらなんて頭が良いのかしらって、そんな子供ではないのよ、私は。

 そう、私は子供じゃない。いや、子供なのは子供なんだけど、確かに、でも年の割りに大人びてると言うか、頭が良いと言うか。
 特に一生懸命勉強してるつもりなんかないのに、それでも塾に通ってる子達なんかより成績は良いし、こないだも市の作文コンクール小学生の部で入賞したし。
 そうだ。頭が良いから、考えが大人っぽいから、だから私、ショックを受けてないのかも知れない。ほら、大人になると悲しみとかそういうのに強くなるとか、あんま泣かなくなるとか、そういうの何かの本で読んだ気がするし。

 ああ、でも、ううん、それも違うか。大人だからっていうのは、悲しみに強いことの理由にはならないか。わかりやすい例がほら、目の前に。うちの大人二人。
 お通夜が始まってもう一時間ちょっと。お母さんはずうっと、弟のお棺のすぐ前でぼーっとして動かない。私、お通夜のやり方とかそういうのよくは知らないけど、ええと、もぬし、だったかしら、とにかくお母さん、そういうお客さんを迎えなきゃいけない立場の人なはずなのに、何よあれ、だらしのない。普段はあんなギャーギャーうるさいクセしてさ。
 まあその分、お父さんが忙しく動き回って親戚の人達とかに色々挨拶して回ってるけど、あれも何だかなあ。普段はあんましゃべったりとか多くない人間なのに、今日はずいぶんとよく話をする。何かもう、私は本当はとても悲しいんですけれどそれを表には出さずに一生懸命がんばってるんですよーって、そんなのが見え見えで正直うざい。

 まあ、ともかく。
 そんなこんなで、一人はずうっとだんまりで、もう一人はお客さん相手に大忙しで。私は一人、こうして部屋の隅っこで何もすることもなく、ただぼーっと、こう、どうでも良いことをあれこれ考えてたりする。
 何だかなあ。お母さんもお父さんも、そりゃあいつが死んで悲しいってのは確かにそうなんだろうけどさ、だからってここまで私を徹底的に無視するってのも結構腹が立つ。いや別に、弟ばっかりかまって私をかまってくれないー、なんて、そんなことで怒ったりするほど子供でもないんだけどね。私も。
 単純に暇。つまんない。さっさとお通夜終われー。

 とまあ、そんなこんなのあれこれを心の中でぶつくさやりつつ、暇過ぎるーって特に意味もなく窓の外を見てみたら、そうしたら見えたのだ。

 室内が明るいせいで余計に暗く見える、そんな夜の闇の中に、新品の黒いランドセルをしょったちっちゃい子供の姿がはっきりと。
 私とそいつの目が合った。途端、そいつは背中を向けて走り出した。

 ああ、なるほど。よくわかった。うん、よーくわかった。私がなぜショックを受けてなかったのかって、その理由。
 手の込んだイタズラを。あんのバカ弟め。お棺の中になんかあいつはいなくて、平気な顔して外で遊んでいたのか。
 ここは、そうね、姉として、あのバカをとっつかまえてひっぱたいてしかってやんなくっちゃ。



   ◆



 外はまっくら。お月さまも見えない。雲は出てないんだけど、新月ってやつね。明かりも少ないもんだから、ほんとまっくら。
 まあ、この辺り、田舎だしなぁ。市って言ってもそれは最近流行りの合併で、近くの町や村といっしょにまとめて、市に吸収されたってだけの話だし。ほんと田舎。
 そりゃまぁ、もっと山の方の村とかの地域に比べればまだマシなんだろうけど、でも田んぼとか普通にたくさんあるし。だもんだからこの季節、カエルがゲロゲロゲロゲロ大合唱してうるさいことうるさいこと。夕方にはコウモリがわらわら飛んでるし。あいつら、鳥と違って顔のすぐ近く、ぶつかりそうな勢いで飛んでくるから嫌い。あと虫も嫌い。近くのドラッグストアーとかに夜行くと、あの青い電気の所でバチッ、バチッってうるさくて、で、下には蛾がたくさん死んでる。ほんともう、あれ、勘弁してほしい。テレビとかだとさ、田舎の子は都会の子と違って自然大好きー、動物大好きーみたいに言ってるけど、あれウソ。私は嫌い。あ、あと、ヘビもたまに見るけど、ミミズよりはちょっと大きいって程度のだけど、あれも大嫌い。

 そんな田舎だけど、それでも役場、って言うか元役場で今は市役所の支庁だったっけ、とにかくその辺りならまだ、スーパーとかコンビニもあるしそれなりににぎやかだから良いんだけど、あのバカ弟が今向かってるのはその逆、私達の通ってる小学校の方。町の外れ。ただでさえ少ない明かりが、またさらにどんどんと少なくなってく。カエルのゲロゲロもさらにやかましくなってくる。ああ、やだやだ。

 そんなこんなを考えながらバカ弟を追ってる内に、すぐに学校が見えてきた。もう五年とちょっとの間、ずっと通ってるいつもの学校だっていうのに、こうして夜中に見ると、うん、さすがに気味悪い。まさかあいつ、学校に逃げ込んだりはしないわよね。ってか、そうなったらまずい。かなり嫌だ。お化け話とかのよくあるパターンじゃん。こんなの。

 弟は夜の道を走る。もう校門はすぐ目の前。
 でもあいつは、そこでカクンと道を曲がる。良かった。学校の怪談は無しみたい。
 それにしてもあいつの曲がった道。あっちってもう、裏山にしか先は続いてない。

 そう、裏山。学校の裏山。
 昔見てたアニメで小学校の裏山ってのがよく出てて、あれって舞台は東京で、裏山も実際には東京にはないみたいだけど、こっちみたいな田舎には本当にある。普通にある。学校の裏山。
 山って言っても山登りとかするようなちゃんとしたのじゃなくて、道は一本、ちょっと登ったら少し大きめの池があって、そこで行き止まり。

 で、この池ってのが、実はちょっとした怪奇スポットみたいなものだったりするのだ。

 この町には昔から、それこそおじいちゃん達が子供の頃から今の私達の時代にまで、少し不思議な伝説というか、噂みたいなものがあったりする。
 神隠し。昔、映画でもやってたあれ。私は見たことないけど。
 この裏山の池のすぐそばには一本、大きな木が生えていて、で、その木は何だか根っこが変に盛り上がっていると言うか、そのまわりの土が変にくずれていると言うか、とにかく、木の下に穴ができているのだ。子供一人がやっと通れるくらいの大きさの穴。
 そうしてその穴、くぐりぬけたその先には不思議な世界があって、その世界に行ってそのまま帰って来なくなってしまった、そんな子供が昔からたくさんいるっていう、それが噂の内容。

 まあもちろん、そんなのは本当の話ではないんだけど。

 私、コンクールに出した作文にその神隠しの話について書いてて、それで町のお年寄りの人達に色々話を聞いてて、だから知ってるんだけど。
 確かに昔から裏山の池で神隠しがあるって、そんな話は伝わってるみたいだけど、でも実際にどこそこのだれだれちゃんがいなくなったって、そんな話は全く無い。その神隠しの穴、入り口が池に面してて、で、まわりの土が変に盛り上がってるせいで、穴に入ろうとするにはすごく足場の悪い所を通らなくちゃいけなくて。池の周りは崖ってほどのものでもないんだけど、水面までは大人の背くらいの高さになってて、その上意外と深くて危険らしく、昔、誰かが穴に入ろうとして池に落ちてしまった、そんな話が神隠しとして伝わったか、もしくは、そんなことが起きないよう、人が近づかないようにするために作られた話か、実際はそういうことらしい。

 まあもっとも、そんな話ができるくらい危ない所だってのに、ううん、むしろそんな話があるせいで、この池は子供達の良い遊び場になってしまってる。子供は好きだからね、そういう話。いや、私も子供だけど。
 うちの学校に通ってる子の内、女子は半分くらい、男子はほぼ全員がその池に行ったことがある。実際に穴に入った子もたくさんいる。私も四年の時、バカ男子達に無理に付き合わされて行ったけど、で、その時も目の前で何人かが穴に入ったけど、別に何も無かったってつまらなそうにしてた。まあ、そんなものよね。現実は。あ、私は入ってないわよ。ガキじゃあるまいし。バカらしい。

 ああ、そうだ。思い出した。うちの弟も、そんなバカなガキの一人だったんだ。



   ◆



「嬢ちゃん達、山ぁ入るのかい」

 お父さんよりはもっと年上で、でもおじいちゃんってほどでもない。体は大きくてヒゲぼうぼう。農作業してるおじいちゃん達と似たような格好で、でも腕はとっても太い。そんなおじさんが、山に入ろうとしている私達二人に声をかけてきた。
 山おじさん。それがこの人の名前。もちろん本名じゃなくて、学校のみんながそう言ってるってだけだけど。この山を所有してるんだったか、昔に所有してたんだったか、とにかくそんな家の人らしくって、山に入ろうとする子にこうしてよく声をかけてくる。

「池、行くんだったらやめときな。雨はやんだけど、足滑って危ないから」

 そう言って山おじさんは、首に巻いたタオルで顔をふきながら去っていく。そんな山おじさんに私はぺこりとおじぎをして、それから弟に言ったんだ。

「聞いたでしょ。危ないって。だから今日はダメ。帰るわよ」
「へーきだって。いこ、ねーちゃん」

 ああもう。このバカ弟は。入学して二ヶ月ちょい、どうもこいつは今日はじめて、友達からこの山の池の話を聞いたらしい。で、話を聞いたその日に、行ってみたいとか言い出して。今日は朝からずっと雨で、さっき、学校を出るちょっと前にやんだばっか。こんな日に山道なんて歩いたら、泥がはねてたまったもんじゃない。クツが汚れる。

「あー、もう」

 行きたいなら勝手に一人で行け。
 そう言ってやりたい。でも言えない。なぜなら、私はお姉ちゃんだからだ。

 お姉ちゃんって損。すっごく損だ。
 年が近いならそうでもないかも知れないんだけど、うちの場合、六年生と一年生だからなあ。こんなバカでうるさいガキの面倒見るとか、ほんとカンベンしてほしい。
 こいつ、まだ小さいからってことだからなんだろうけど、お父さんやお母さんにすっごい甘やかされてる。オモチャとか新しいのすぐ買ってもらえるし、ごはんで好き嫌いしてもあんま怒られないし。私が小さかったころはもっと厳しかったっていうのに、なんて不公平。

 それでもまだ、弟が保育園に行ってる時は良かった。学校のある日だったら、こいつの顔を見なきゃいけない時間も短かったんだし。
 それが、この春からこいつもうちの学校に入学。それからはもう、ほんと、毎日が地獄だった。
 このバカ、一年だってのに平気で六年の私のクラスにまで顔出してくる。恥ずかしいったらありゃしない。
 そして最悪なのが放課後。うちの親、共働きだから、弟は放課後は学校内の学童クラブに行くんだけど、だったらそのまま夕方、お母さんが仕事終わるまで学童クラブにいりゃいいのに、お母さん、同じ学校なんだから、お姉ちゃんなんだからって、そんなこと言って、それで私は、授業が終わった後、学童クラブに行って、弟を引き取って、それで家まで帰らなきゃいけないってことになってしまった。これじゃ当然、学校帰りにみんなでちょっと買い物行くとか、友達の家に遊びに行くとか、そんなのできやしない。放課後になったら即、みんなとはバイバイして、その後はずうーっと弟の面倒を見なきゃならない。
 一年間だけなんだからガマンしなさいって、そうお父さんは言うけれど、冗談じゃない。小学校最後の大切な一年を、なんでこのバカの世話で無駄にしなきゃいけないのよ。ただ単に、私がお姉ちゃんだっていう、それだけの理由で。

 邪魔だ。本当に邪魔。何でこいつ、私の弟なんかやってんのよ。うざい。

 もういっそ、こんなやつ。



   ◆



 頭が痛い。
 何だろう。突然、頭が痛くなって、重くなって、それで私は、この先を思い出せなくなってしまった。

 そうか。そうだ、何となくわかった気がした。私が弟の死にショックを受けなかった、その理由。
 お葬式に集まっていた人達の話をちらほら聞いていた限りでは、どうも私は、弟が死んだっていうその時、一番近くにいたらしいのだ。それなのに、その時のことを私は全く覚えていない。あいつが、いつ、どこで、どうして死んだのか、近くにいたはずなのにそれが全然わからない。そんなんだから、あいつが死んだって実感がわかなかったんだ。だから、ショックも受けなかった。

 て言うかまあ、生きてるんだけどね、あのバカ。実際。
 今も私の目の前、まっくらな夜の山道をひょいひょいと走ってる。お月さまの出てない、明かりなんかも当然無い、そんな山道でよくもそんだけすばしっこく。でも私だって負けちゃいない。まっくらな闇の中で揺れる、まっくろなランドセル。それははっきりと見えている。逃がすもんですか。絶対とっつかまえて泣かしてやる。

 もともと大して長くもない道。駆け足で登ってれば終点はあっと言う間。
 夜の池に来たのは初めてだけど、昼間だってそんな、明るくって楽しい所ってわけでもないのに、こんなまっくらだとなおさら気味悪い。その上、カエルの大合唱のオマケつき。やだなあ。ほんと、嫌だ。
 池の周りは柵、と言っても、小さな子供でも余裕で越えられる程度のものだけど、そんな物で囲まれている。で、そばには看板が一つ立てられてて、そこにはすっごい下手クソな手描きの絵が描いてあって、それは、木の下の穴、その黒い穴の中にいくつもの目が見えていて、で、そこからにゅーっと腕が伸びてて、ぶっさいくな顔の子供がわざとらしくキャーとか言ってて、で、赤い字で『危険!ここであそぶな』って書いてあるという、そんなセンスのカケラもない、車に注意とか変質者に注意だとか、そんなのと同レベルのだっさい看板なんだけど、そんな物までもが、こうした夜の闇の中で見ると、何だか結構本気でこわい物のように見えてくる。
 ああもう、何か悔しい。こんな子供だましにちょっと本気でこわがってるなんて。これも全部、あのバカ弟のせいだ。

 で、そのバカはと言えば。

 ふん、予想通りだ。弟はひょいと柵を飛び越え、この暗い中、昼間よりも更に危なくなってるであろう箇所をあっさりと駆け抜けて、そうして例の穴の中に消えて行った。あそこに逃げ込めば私はもう追って来れないって、そう考えてるんでしょうけど。甘い、甘いわよ。今日は私、本気で腹たってるんだから。絶対逃がさない。

 弟がそうしたように、私も柵を飛び越える。ほんと簡単に、ひょいっと軽く越えられちゃう。こんなんじゃこれ、わざわざ立ててある意味がないような。
 ううん、でもこういうのって、ここには入っちゃいけませんよって、そういう意思表示というか、そんな意味で作られてるものなんだしね。実際に越えられるかどうかじゃないのよ。越えちゃダメなのよ、こういう線引きのしてある所ってのは。それなのにわざわざそれを無視して行こうっていうのは、それはバカなガキがやることだ。だから、私は普段だったらこんな真似はしない。でも、今日は別。絶対にあいつ、とっ捕まえてやるって決めたんだから。

 柵を越えて、池のそば、地面が無くなるギリギリまで行って、そこからまっくろな水面をのぞいてみた。柵の向こう、ちょっと離れた位置から見てた分にはそうでもなかったけど、こうしてすぐ近くに立って見てみると、確かにこれ、結構高い。地面はほぼ直角、90度な感じで池に落ち込んでるから、ここからもし落ちたらなんて考えると、ちょっと本気でぞっとする。何しろ私。

 ううん。ダメだダメだ。そんなんじゃダメ。ここで逃げ出しちゃあ、あのバカを調子に乗せちゃうだけだ。ここは姉として、ガンッていってやらなきゃいけない場面なんだ。
 水面から目を離し、穴の方をまっすぐにみつめる。道はすごく細いし、結構上いったり下いったりしてる。しかも暗い。あいつ、よくこんな所をあんだけ簡単に走り抜けられたもんだわ。もし落っこちたらとか、そんなことは考えなかったのかしら。考えなかったんでしょうね。バカだから。
 くそう。ここは私も、ちょっとバカになろう。水面は一切見ない。道が細いとか上下してるとか、そんなのも校庭にある遊具に比べれば大したものでもないんだし。いける。余裕。問題ないぞ、私。

 大っきく息を吸い、そうしてゆうっくりと吐き出す。そうして私は走り出し。

 結構簡単あっさりと通り抜けられた。いや、て言うか、ほんとすごい楽勝。ちょっと自分でもびっくり。いやそりゃまあ私、体育だって一つを除けば成績良いし、やればできないことはないって、確かにそうは思ってたけど、にしてもこんなあっさりスピーディーに。前、男子達と一緒に来た時だって、皆、結構かなり、慎重ゆっくりで通ってたっていうのに。しかも今、夜よ。まっくら。それなのに私ってば。すごい。すごいぞ私。何かまるで、空でも飛んでって感じ、かしら。

 最大の難関と思っていた所は余裕で突破。穴はもう目の前にある。中はまっくら。何にも見えはしない。
 中に入った男子達が言うには、ここ、入ってすぐ行き止まりらしい。というわけであのバカ、見事に袋のネズミ状態。さあて、捕まえたらどうしてくれよう。とりあえずは一発ひっぱたく。で、家に引きずり帰ってお母さんに思いっ切り叱ってもらおう。お母さんだけじゃない。今回はこれだけ皆に心配かけたんだ。お父さんだってきっとキレる。お父さん、普段が静かな分、たまに怒ると本気でこわいし。ざまあみろ、バカ弟め。

 さっきまではちょっとこわいって気持ちもあったけど、なんだか今度はワクワクしてきた。さあ、観念しなさい。私は四つんばいになって、そうして木の下の穴へと入り込んだ。
 外から見てまっくらだったんだから、当然、中に入ってもまっくら。それに、結構長い。何よここ、すぐ行き止まりじゃなかったの。
 まあでも、穴は小さくて子供一人でいっぱいいっぱい、まっすぐ一本道だし弟に逃げ場はない。もうすぐよ。もうすぐ、こんな下らない夜の鬼ごっこもおしまい。そうしてあいつを連れて、さっさと家に帰ろう。それが、お姉ちゃんである私の役目なんだから。

 それにしてもこれ、何かちょっと、結構本気で長くないかしら。いつまでも行き止まりにならない。まだまだ先がある感じなんだけど。
 さっき出てきたワクワクな気持ちが薄れて、そうしてまた、ちょっと怖いって気持ちが顔を出してくる。やだなあ、もう。何だかさっきの、あの看板の下手な絵、思い出してきちゃったし。闇に光る無数の目と、そこから伸びる白い手。

 そうして、神隠しの話。

 いやいやいやいや。ありえないし、そんなのは。もっと常識的に考えるべきよね、物事は。うん。






   “何も無い日、いんわんだーらんど”






「だいじょぶだって、へーきだって。ねーちゃんもこっち、きなよー」

 柵の向こうで、バカがバカな顔でバカなことを言っている。
 大丈夫だとか大丈夫じゃないだとか、そういう問題じゃないんだってば。入るなって言われてる所には入るな。遊ぶなって書いてある所では遊ぶな。バカ弟め。

「ほら。危ないからもうやめて、さっさとこっち戻って来なさい」
「だからへーきだって。へーき」

 だから平気とか平気じゃないとか、そういうレベルの話じゃないんだってば。理解しろっての。ほんとにバカ。

「あれ、もしかしてねーちゃん」

 ったくもう、まるで言葉が通じてるって気がしない。自分と同じ人間と話してるって、そんな気が全くしないわよ。宇宙人ね、まるで宇宙人との会話。疲れる。

「こわいんだ」

 ああ、バカがバカな結論にたどりついてしまったようだ。

「そっか。ねーちゃん、およげないもんなあ」

 カチンときた。今の言葉。弟のにやけた顔が見える。むかつく。
 そーよ泳げないわよ私。六年生にもなっていまだに。水に顔つけるってだけのことでもまともにできはしないわよ。去年なんかもう、夏の間の体育は、全部仮病で休んでやったわよ。
 だからね、私が泳げないっていうのは、それ確かにほんとで真実なんだけど、でも、だからって。

「うるさい。あんたに言われたくない」
「オレおよげるもん」

 泳げるって、それ、顔を水につけられて、ビート板でバタ足ができるって、その程度のレベルじゃない。そりゃ、一年生にしちゃかなりできる方だろうけど、でも、そんなんで泳げるって言わないの。
 まあそれでも、確かに私よりはマシなんだけど。

「やーいやーい。ねーちゃんカナヅチー、カナヅチー」

 私が泳げないのは事実。弟が、ほんの少しとはいえ泳げるのも事実。だから、泳ぐってことに関してだけ言うならば、弟が私に勝ってるってのも、確かにそれ事実よ。
 でもさあ。それ以外は全部、私の方がずっと上なのよ? 年も上、勉強も水泳以外の運動も家事も、ぜぇーっんぶ私の方が上。だからこそ私は、このバカ弟の面倒をずっと見せられてるっていうのに。
 それなのにこいつ、たった一つ自分の方ができるものがあるからって、何こんな調子に乗って。むかつく。ほんと、むかつく。

「いい加減にしな」

 そう言って私は柵を越えた。越えてはいけない、そんな意思表示のために作られている柵を。ああもう、もしこんな所を誰かに見られたら、真面目で大人な私のイメージが台無しじゃない。やるなって言われたことをわざわざやる、そんなバカなガキとは違うっていうのに、私は。
 でも。でもね。

「おっ。ねーちゃん、やるか」

 やんないわよ。ってか、何をやる気よ。ケンカでもする気? バカじゃない。力は私の方がずっと上だっての。

「ほら。バカやってないでもう帰るわよ」

 弟の腕をつかむ。もうバカに付き合うのはたくさん。このまま無理矢理にでも引っぱって家に連れて帰ってやる。
 ほんとのこと言えばこのままここに置きっぱなしにしてやっても良いんだけど、そんなことしたらお母さんに怒られるの、私なんだし。お姉ちゃんなのに何してるのって。もし何かあったらどうするのって。何でよ、悪いのは私じゃないのに、弟なのに。最悪、お姉ちゃんってほんと最悪。

「行くよ」
「やだっ」

 私の手をふりほどこうと、弟が強く腕を振る。同時に、それをつかんでいた私の手も強く引っぱられる。

「あっ」

 マヌケな声が出た。足元がぬらっとして、そうしてそのすぐ後に全身に衝撃。それから体中に広がる、雨でぬれた地面の気持ち悪い感触。

 恥ずかしい。思いっ切り足が滑った。雨が降った後で地面がぬれてたせい。あと、それと、正直私、今ちょっと足がすくんでた。あんな小さな柵を一つ越えたってだけなのに、それだけのことで私、もし池に落ちてしまったらどうしようって、そんなイメージが頭に強く浮かんでしまってる。何せ私から池までの間にはもう、さえぎる物が何もないんだから。
 ああもう。服が泥だらけだ。自分じゃ見えないけど、顔もきっとそう。泥水の冷たい感触がある。こんなの、クラスの子には絶対見せられない。ていうかこれ、家に帰ったらお母さん、こんなに汚してって、きっと怒るだろうな。私は何も悪くないっていうのに。
 最悪だ。本当もう、最低最悪。

「こーけたこけたー、ねーちゃんズッこけたー」

 ちょっと。何こいつ。何こんなうれしそうに笑ってんの? こけたって、それ、アンタのせいよ、あんたが悪いのよ、わかってんの?
 それとも何、もしかして勝ったとか思ってるの、私に。悪条件が重なっただけだっていうのに、何をそんな調子のってんの?

「うるさい。帰るよ」

 私はそれだけを言って立ち上がった。
 ほんとはもう、弟のことを思いっきりひっぱたいて泣かしてやりたいくらいの気持ち。でもダメ。情けないけど私、まだ足に力が入ってない。これだけ怒ってるっていうのに、それでもまだ、池に落ちたらヤダ、こわいって、そんな気持ちがとれない。とにかくまずは、柵の外に戻らなきゃ。
 そうして背中を向けて歩き出した私の腕を。

「なんだよー、もっとあそぼー」

 バカが引っぱる。

「ちょっと、バカ、はなしなさいよ」
「ねえ、ねーちゃん、もっとー」

 私を転ばして変な自信でもついたのか、いつもよりもしつこく食い下がってくる。普段だったらこんなの、逆にこっちの方が無理矢理に引っぱってやるのに、ダメだ、足がもう、ほんとダメ。力が入らない。

「ね、ちょっと待って。ちょっとダメ。ほんとに。はなして。引っぱらないで」
「いーじゃん、いーじゃん」

 何が良いのよ。ふざけないで。いつも私が、あんたのためにどんだけ色々やってあげてるのか、わかんないの。それなのに今、こんな、情けないけど私、ちょっと本気で嫌がってるのに、何でこんな調子に乗って。
 ふざけるな。大嫌いだ、こんなやつ。
 もういっそ、こんなやつ。

「ねーちゃん、ねーちゃん」
「はなして、はなして」

 こんなやつ、いなくなっちゃえば良いのに。

「はなしてって言ってるでしょ!」

 私は思い切り。



   ◆



 頭が痛い。
 まただ。また頭が急に痛くなって、それでこの先が思い出せない。そういえば前、ドラマでこんな感じのシーン、見た気がしなくもないような。こういう場合、思い出せないっていうのは、それは思い出しちゃいけないことなんだって、そういう。

 ていうか、ここはどこなんだろう。

 確かに私は、あの狭くて暗い穴の中を、ずっとまっすぐに進んでたはずなのに。何かこう、夢、っていうのは違う気もするけど、まあとにかくそんな感じの、こう、何かこう、記憶がふやふやーっと、そんなこんながあって、で、今気付いてみれば、周りは暗い暗い夜の森の中。弟の姿も見えない。

 何よあの穴、すぐ行き止まりじゃなかったの? ああでも、私が男子達と行ったのはもう二年近く前なわけだし、その間に誰かが掘り進んで、っていうのはさすがにちょっと無理か、ええと、ああそうだ、元々あの穴はもっとずっと長くて、それが何らかの原因で入り口近くで埋まっていたのが、これまた何らかの原因で再びつながったとか、そんな感じかしら。うん、ていうかあれだ、何らかの原因でって、この言葉、あんま使いすぎるとちょっとバカっぽいわね。頭良い人間気どりのバカ。何らかの原因って、それ、何にもわかってないってことじゃない。

 って、そんなことはどうでも良い。そんなことよりもまず、あのバカを探さないと。ほんともう、疲れるなぁ。鬼ごっこの次はかくれんぼってことかしら。ふざけるなっての、こんな夜中に。ああもう。さっさと家帰って寝たい。

 辺りをぐるーっと360度、ゆっくりと見回してみる。人の気配はない。声もしない。聞こえるのはただ、遠くの方でゲロゲロゲロゲロとやかましくしているカエルの鳴き声のみ。ったく、どこ隠れてんのよ、あのバカ。ていうかまさか、かくれんぼのつもりが本気で迷子とか、そんなことになってたりしないでしょうね。だとしたら面倒だなぁ、もう。

 どうしよう、これ。
 ううむ、こういう場合、私もしかして、家に帰るってのが正解、なのかしら。
 もし弟がかくれんぼのつもりでこっちの様子を見てるんなら、私が帰ろうとすれば、こんな夜中、森の中で一人ぼっちだなんて、そんなのあいつにガマンできるわけがないんだから、きっと飛び出して私の後を追ってくる。
 もし万が一、ほんとに本気の迷子になっていた場合、それこそ私は一旦家に戻って、大人の人に頼んで、もっとたくさんの人数でしっかりちゃんと探したほうが良い。ここで私が一人のまま、下手に探そうと動き回ったら、最悪、私までが迷子になってしまう危険もある。私がちゃんと家に戻ってちゃんと話をしたならば、弟はこの辺で迷子になったって、そうした情報がしっかりと大人達に伝わる。でも、私までもが戻って来なかったら、大人達は、私達が迷子になったけれど、それがどこで迷子になったのかもわからないって、そんな条件で捜索を始めなきゃならなくなる。それではまずい。

 うん。よし。私ってば冷静だわ。こんな状況でこれだけ頭が回るって、同い年くらいではそうそういないと思う。ま、大人だしね、私。
 というわけで早速、山を下りて。

 下りて、は良いのだけど、ええと、まず、その、下りる道、どっちなんだろう。

 ああ。うん、私、もしかしてこれ、すでに、えっと。
 迷子、なのかしら。

 まっずいなあ。どうしよ、これ。
 ええと、穴から出てきたんだからまた穴に戻って、って、まわりに穴からの出口らしきものは見当たらない。でもまあ、あんな狭い穴を四つんばいで、そうした状況でそんな長い距離を進めるわけもないし、ここ、さっきまでいた所とそれほど距離の離れた場所ではないはず。
 ここはとりあえず、カエルの声がする方に行ってみよう。カエルがいるってことはきっと、そこは川か田んぼか、あるいは池か、そんな所のはずなのだし、池だとすればそこが、さっきまでいたあの池だって、そんな可能性もある。ていうかきっと、そんなに距離も離れていないはずなんだし、カエルの声のする所が、あの池に違いない、うん。そうよ、そう、世の中、本気でまずいレベルの迷子だなんて、そうそう簡単になったりするわけ、ないんだから。楽勝、楽勝。
 それにしても、あれだけ嫌がっていたカエルの声に、まさか頼る時が来るなんて。まあ、今回は例外、特別、仕方がないんだしね。とにかく今は耳をすまして、声のする方向をしっかりと探って。

 って、あれ。

 消えた? カエルの声。

 突然。ほんとに突然。あれだけしっかりはっきりと聞こえていたカエルの声が、全く聞こえなくなってしまった。急に静かになってしまったそのせいなんだろう、周囲の暗さがさっきまでよりも強く、そしてちょっと、ちょっとだけどこわく感じる気がしてきた。
 何よ、もう。そりゃ私、カエルの声は嫌いってそうは思ったけど、だからってこんな、急に、いきなり、突然、静かになったって、それはちょっと、やだ、何にも聞こえないって、それは、ここがどこだかほんとにわからなくなるし、暗いし、暗くて何も聞こえないって、ねえ、それちょっと、ちょっと本気でヤだし。何か、何かしら聞こえないと。カエルの声でも良いから、何か、ちょっと。ねえってば。



(ほら、見てて)

 聞こえた。遠くて小さいけど、でもはっきり。
 願い、かなった。何か聞こえてって、そんな私の願い。でも。

 安心なんて、できなかった。心が落ち着くとか、少しでもそんなことにはならなかった。逆だ。心の中に広がっていたもやもやとした煙のような不安が、今度は氷でできた無数の針になって、私を中からちくちくと刺してくる。

 聞こえたのは声。動物のじゃなくて、人の。それも女の子、多分、私とおない年くらいの女の子の声。

(あ、失敗)
(下手ね)
(下手)

 また聞こえた。空耳なんかじゃない。しかもこれ、一人じゃなくて、二人、ううん、三人、かしら。何でよ、こんな真夜中、こんな森の中で、こうして女の子の声が聞こえるって、そんなのまるで、テレビでたまにやる、こわい話の。

 って、バカバカバカバカ。落ち着け、落ち着け私。冷静になれっての、冷静に。
 こんな真夜中こんな森、そこでなぜか女の子がって、それ、私も同じじゃない。知らない人がたまたま通りかかったらきっと、私のことだって幽霊か何かと勘違いしてビックリするって。その程度の話よ、世の中の怪談なんてものは。
 この声の女の子達だって、きっと、肝試しとかそんな感じで、親に黙って遊びに来たとか、そんなことに違いない。うん。
 ああもう。ビックリさせないでよ。そうだ、お返しとして、今度は私の方がおどかしに行ってやろうかしら。

(あっ)

 ザラっとした。声を聞いた瞬間、心の中。
 何でよ。何でまだ、ダメだ、震えてる、心が。だから大丈夫なんだって、むしろこっちがおどかしてやれば良いじゃないって、そう思ってるはずなのに、何で。
 大丈夫だから、大丈夫なのよ、私。

(珍しい)
(一匹だけ)
(面白そう)

 ほんの少し、ほんの少しなんだけれども、声、こっちに近づいてきている気がする。

(捕まえよう)
(私が)
(私よ)

 気のせいじゃない。近づいてきてる。はっきりと、まちがいなく!

 逃げなきゃ。
 ううん、違う。何で逃げるのよ、バカみたい。女の子じゃないの、ただの。そう、頭が声を上げる。
 ううん、ダメだ。これはマズい。逃げなきゃダメなの、絶対。そう、心が反論する。
 二つの考えが私の中をぐるぐると回りだす。落ち着け、冷静になれ、私。冷静になって、ここで、ここは、だから、つまり、ここで立ってて、来てるんだから、ここは。

 逃げ出した。私は。
 理屈じゃなかった。私の中のすごく深い所が、ここは絶対に逃げろって、そんな命令を出してきた。理由なんてどうでも良い。とにかくここは。
 けれども。

(逃げるなっ)

 声がする。私は足を止めた。ううん、止めざるをえなかった。
 壁。目の前に突然、壁。白い煙を吐き出す、透明の壁。
 て言うかこれ、ウソ、ありえない。
 氷だ。氷の壁。
 ウソ、やだ、おかしいって、ありえないって。いきなり氷とか、この季節、いや、季節関係ないし、雪とかじゃなくていきなり氷の壁って。ふざけてる、バカにしてる、ありえないって、こんなの。

 とにかくダメだ。向きを変えて、それで。

(行け)

 また足が止まる。また声がする。でも、今度聞こえたのは声だけじゃない。
 音。すごいたくさんの音。ガサガサガサとかブーッンとか、そんなのが急に、前から、下から、上から、たくさん、すごいたくさん。
 周りは暗い。何か小さなものがたくさん動いてるってそれはわかるけど、それが何かまでは見えない。でも音でわかる。じゅうぶんわかる。ううん、むしろ、音しか聞こえない分、どんなのがどれだけいるのかはっきりわからない分、より一層に。泣きたくなるくらいに。
 やだ。ほんとやだ。言ったじゃん。私嫌いって、虫とか、ほんと、ダメなのよ、イヤなのよ!

 もう何も、考えてる余裕なんてなかった。走り出す。全力で。

(おいで、おいで、夜漕ぐ人よ)

 またも声が聞こえる。でも私は止まらない。止まってなるもんですか。

(闇に惑いて道なき時は、私のこの声辿って下さい)

 私は必死になって走る。でも声は、まるで歌でも歌ってるかのようなそんな奇妙な声は、どうしても私から離れてくれない。それどころかむしろ、どんどんと近く、大きくなってくる。

(闇に消された貴方の道は、私が歌いて導きましょう)

 違う、何か変だ。おかしい。声は確かに近くなってきてる。けどそれは、声のほうが近づいてるんじゃない。私の方が声に近づいていってる。
 その証拠に、声は私の走っていくその先、真正面から聞こえてくるのだ。

(ほら見てそこに、貴方の心)

 ダメだ。止まれ。向きを変えろ。
 そう思ってるのに、何で、何でよ、私は歌に向かって走ることをやめられずにいる。

(ほら見てここに、私のこの手)

 声のする方に見えるのは、小さな影。暗くてはっきりとはしないけど、私と同じかちょっと小さいくらいの、そんな女の子の姿。
 そうしてその子の背中には、コウモリみたいな、ううん、それは違うか、もっと変な形の、暗くてよく見えないけど、でもあれは。

(夜に迷うた貴方の心、私のこの手でいだいてあげる)

 暗くてよく見えないけれど、でもこれだけ近づけばはっきりと。
 はっきりと、見える、はずよね。
 見えない。これだけ近づいたのに、女の子の姿、見えなくなった。
 違う、女の子だけじゃない。見えないんだ。ほんと。他の何も。まっくらでとかそういうのじゃくて。見えない。私の目、何も見えなくなっちゃってる!

(そして二人は消え行くのです、人の昼から隠れた底へ)

 声はもう、耳のすぐそばで聞こえてる。でも私には見えない、わからない。何が起きてるのか、これから何が起こるのか。

(つかまえた)

 声が背中へとまわる。直後に、後ろから抱きしめられる感触。
 ダメだ。まずい。このままじゃ、このままじゃ私、連れ去られてしまう、さらわれてしまう。そうしたらきっと、私、もう家には帰れなくなってしまうんだ。
 必死になって体をつかんでいる腕を振りほどこうとする。
 でもダメ。動かない。私をつかんでるヤツの力が強いとか、そういう感じじゃない。それ以前に私の体、ピクリとも動かない。

(ずるい)
(卑怯)

 身動きできない私に向かって、他の二つの声までよって来る。
 ちょっと。やだ。冗談でしょ、これ。ふざけないでよ。やだって、はなしてって。
 ウソだ。こんなの、ありえないし、だってこれ、ちょっと、私、このままじゃ、私、こいつらに、やだ、そんなの、やだ、やだっやだって。ねえ、ちょっと、ちょっとってば。誰か、ねえ、誰か!



「夜中に喧しい」

 声が聞こえた。
 そうして直後、力が消えた。私の動きをおさえていた力が。

(出た)
(まずい)
(逃げろ)

 私を捕まえていた声達が、あっと言う間に遠く離れ消えていく。助かったのかしら、私。
 ていうか、誰かが助けてくれたっていうことなの、これ。

「ん。あんたは逃げないの」

 この声。さっき、やかましいって言って出てきた声。この声の人が、私を助けてくれたのかしら。
 不思議。この人の声はさっきまでのあいつらと違って、聞いててもザラザラしない。何だかとっても、心が落ち着いてくる気さえするほど。

「て言うか、あんただけなの、ここに居るの。仲間は居ないの」

 私を捕まえてたあいつらがいなくなったせいだろうか。ゆっくりとだけど、私の目に光が戻ってきた。と言ってもまあ、夜なんではっきりとは見えないんだけど。
 目の前にいるのは、女の人だった。私よりちょっと年上、中学生か高校生か、多分そのくらいの女の人。手にはあの、何て言うんだろう、よく神社の人が使うようなあの、小さくて変な棒みたいなのを持ってる。と言うことはこの人、巫女さん、なのかしら。

「えっと。もしかして迷子、なのかしら」

 女の人の質問に、はいって、そう答えようとして。

 でも声が出なかった。
 ええと、ああ、もしかしてこれ、極度の緊張状態がどうとかこうとかそんな感じで、私ちょっと、声、出なくなっちゃってるっぽいかしら。うーわー、情けないぞ、私。確かにさっきはちょっと、本気でヤバそうな状況にはなってた感じではあったけど、それでも今はこうして、一応は安心できそうな状況になってるっていうのに。落ち着いて声くらい出そうよ、私。
 ううむ、でもまあ、出ないものは出ないで仕方ない。私は大きく頭を上下に振って、それで巫女さんの質問に答えてみた。

「これはまた。本当に迷子なの。珍しい」

 そう言って巫女さんは、あごに手を当ててブツブツとしゃべりだした。

「どうしよ、これ。夏場だったら良いんだけど、今晩は結構冷えるし。かと言って、放っておく訳にもいかないしねえ。あんまり神社の近くをうろちょろされても体裁が悪いと言うか。あと、今晩冷えるし」

 冷えるしって、今二回言った。今この状況で冷える冷えないって、それ、そんなに重要な話かなあ。
 あと私、今すごい何気なく、これ呼ばわりされてたわよね。いくらこっち子供だからって、さすがにそれ、失礼じゃないかしら。助けてもらっといてなんだけど。でも、うん、やっぱ失礼、

「ま、良いわ。面倒臭いけど、あんた、仲間の所まで連れて行ってあげる」

 うーわー、面倒くさいって、はっきり言い切りましたよ、この人。そりゃまあ迷子になったのは、確かに私の責任だけど、て言うかあのバカ弟のせいだけど、でもさあ、ここまではっきり面倒って、面と向かって言うかな、普通。

「じゃ、着いて来なさい」

 私の気持ちなんか知ったことじゃないんだろうな。涼しい顔で巫女さんは言って、それからふわりと。

 ふわりと?

「どうしたの。早く来なさいよ」

 ええと。あの、その、ちょっとこの人、何だかものすごく、浮いちゃってる気がするんですけど。

「ちょっと。あんたまさか、飛べないとか、そんなんじゃないわよね」

 ええ、はい、まあ、その。体育は、水泳以外は得意なんですけど、ただ、えっと、ほら、私、人間なんで。普通に。



   ◆



「ま、そう言う訳で。
 あんたの仲間、ここに連れて来てあげるから。本当、感謝しなさいよ」

 そう言って巫女さんはため息をついた。
 今、私達がいるのは神社の境内。石でできた、えっと、灯篭だっけ、それに明かりがついていて、おかげで私、何だかすごい久しぶりに光の中にいることができている。まあ実際は、お通夜の会場を離れてからまだ二時間三時間くらいしかたってないんでしょうけど。せいぜい。でも何だか、色んなことがありすぎたせいで、もっのすごい長い時間がたってるような気がしてるのよね。

「私がいない間、この神社から出ちゃ駄目よ。もしここから出て、それでまた迷子になったとしても、その時は私、もう知らないから」

 そんなことを言ってきている巫女さんは、こうして明るい中で見てみると。

 えっと、その。この人、本当に巫女さん、なのかなあ。
 服が変なのよね、服が。確かに色は紅白で、それは巫女さんだなあって感じはするんだけど、でも、下、袴じゃないし。スカートだよね、それ。胸元にもタイがついてるし。明らかに和服じゃないでしょ。なんだかこれ、制服みたい。学校の。夏服。足とか普通にクツだし。
 袖も変。肩まる出しだし。制服は制服でも、改造制服かしら。不良ね、この人。不良巫女。
 でもまあ、トータルで見れば、ロリ系ってことで結構かわいいかなって感じもある。頭のおっきなリボンも含めて。でも色がちょっとアレね、やっぱ。紅白ってそれ、確かにおめでたい感じだけど、神社っぽいけど、ねえ。
 東京とか行っても、さすがにこういうのは流行ってないだろうなあ。いや、東京なんて行ったことないからわかんないけど。

 あ、でも、そういえば、和ロリっていうのがあるって前、テレビで言ってたなあ。そういうのなのかな、これって。

「それじゃあ、大人しく待ってなさいよ」

 そう言って巫女さんは飛んで行った。スカートで空を飛ぶなんて、それだと中、見えちゃうんじゃないかなあって思ったけど、さすがにそこはガードが固い。ドロワーズって言うんだっけ、確か。おばあちゃんとかがはいてるあの、ちょっとハーフパンツっぽい下着と似てるあれ。

 て言うか私、ずいぶんとまた、冷静なもんだ。目の前で人が空を飛んで行ったっていうのに、服装のことばっか考えてるし。
 あれかな。異常事態もあんまり多すぎると、人間、結構簡単に慣れちゃうもんなのかしら。あるいはあきらめ。常識を常識として信じる、そんなことをあきらめてしまったのかもしれない。私の頭は。うん。自分で言ってて意味わからないけど。

 さっき、あの森の中で、私が飛べないってわかると巫女さん、仕方ないわねえって、それで私を抱いて飛び上がった。でもまたすぐ、冷える、冷えるって言い出して。
 この神社、あの巫女さんが住んでる神社みたいだけど、さっきは私が気づかなかっただけで、私達がいた所から結構近い所にあって。で、巫女さんはここに私を置いて、そうして私の仲間を呼びに今、飛んで行ったのだ。

 私の仲間って、その言い方がちょっと、変な気もするけど。私は弟を追ってここまで来たわけで、別に、誰かと一緒に来たってわけでもないんだから、仲間っていう仲間もいない気がするんだけど。ここには。
 まさか、私の住所なんかは知ってるわけないんだから、うちの家まで行ってお母さん達呼んでくるとか、そんなことでもないのだろうし。
 ああでも、何だかもう、ここまでくると何でもありって感じもするしなあ。本当にうちの家まで行っちゃったりして。あの巫女さん。

 ま、それはともかく。
 巫女さんが帰って来るまで私、何してようかしら。弟を探しに出たいけど、どこにいるのか、もう完全にわからなくなっちゃったし。どうしよう。やっぱあれかな、巫女さんが帰ってきたら頼んでみるか。さっきは声が出なくてダメだったけど、今度はちゃんと、落ち着いて、すみません、一緒に弟を探してください、って。あの人だったらきっと、弟のことも見つけてくれるって、そんな気がする

 って。

 そんなことを考えた次の瞬間、無くなった。巫女さんにお願いする必要、無くなった。
 鳥居の外、隠れるようにして、あのバカがこちらをうかがっているのが見えたのだ。
 私とバカの目が合う。それと同時に、あいつは神社の階段を下っていく。

 どうしよう。巫女さんはここを動くなって、そう言った。でも。
 でも、私の目的は、そもそも弟なんだ。あいつをとっつかまえてひっぱたいてやるって。そういうことなんだ。だから。
 私は鳥居をくぐり、あのバカの背中を追ってまた走り出す。ごめんなさい、巫女さん。あと、ありがとうございました。



   ◆



 私は走る。弟の背中だけをずっと見ながら。周りの風景になんて少しも目をやらない。興味ないし、関係ないし、それに正直、あんまり見たくもないし。いくら慣れたからって、やっぱりここ、あんまり気持ちの良い所ではない。
 そう。私には何となくだけど、わかってきていた。ここが一体、どこなのか。そうして、弟が今、どんな状態なのか。
 そもそも、学校の裏山を登ってる時点で気づくべきだったのよ。電気はないし月も出てない、そんなまっくらな夜道をあいつは立ち止まりもせずにひょいひょいと走って、そしてそんなあいつの背中が、あれだけ暗かったっていうのになぜだか私の目にははっきりと見えていて。常識的に考えれば、明らかにおかしな話。ありえない話。でも、常識なんてものは、ついさっき粉々に打ち砕かれたばっかり。だからこそ、今ならわかる。

 あいつは、弟は、やっぱり死んでる。あれは幽霊だ。弟の幽霊。
 そしてここは、あの世なんだ、きっと。私を襲ったのはまちがいない、お化けだ。あの巫女さんだって、見た目は人間だけど、平気な顔で空を飛ぶんだから決して普通の人間なんかじゃない。もしかしたら、あの人も幽霊なのかもしれない。巫女さんの幽霊。いとこのお兄ちゃんが持ってる昔のマンガに、確かそういうのあったし。

 ではなぜ、幽霊になった弟は私をあの世なんかに連れて来たのか。
 それも多分だけど、私にはわかっている。さっきの異常事態連発のせいで、私、ちょっと、ていうかかなり頭ごちゃごちゃになって、でも、そのおかげではっきりと、完全に思い出したんだ。弟が死んだその瞬間。その原因。

 仕返しのつもり、なんだろうな、あのバカ。いいでしょう。受けて立ってやろうじゃないの。そもそもは、悪いのは私じゃない。弟の方なんだ。なんだったらもう、出るとこ出て、白黒はっきりつけてもらったってかまわないくらいよ、私は。

 目の前を走ってる弟の背中、それがぼんやりと見えづらくなってきた。霧だ。霧が出てきる。
 くそう。ここでまた、逃げられてたまるもんですか。幽霊だろうがなんだろうが、絶対とっつかまえてひっぱたいてやるって、そう決めたんだ。今なら私、冗談抜きで幽霊相手でも叩ける自信があるし。根拠はないけど、なぜだか絶対、やれるって気がする。こんなの気合よね、気合。

 霧はどんどんと深くなっていく。弟の姿は、もう完全に見えない。私は足を止めた。
 ああもう、これじゃまた、さっきと同じ状況じゃない。私がここ、あの世に到着した時と。て言うか、だとしたらこれ、またお化けが出てくるとか、そういうことなのかしら。
 ふん。いいわよ、やってやろうじゃあないの。さっきは不意打ちだったからあんな情けないことになっちゃったけど、でも今はもう違う。幽霊の正体見たり幽霊って、そんな感じなのよ、今の私は。お化けだのなんだのがこわいっていうのは、それは何だか得体のしれないものだからって、そういうこと。でも私にはもうわかってる。お化けの正体。

 それはお化けよ。お化けの正体はお化け。
 それさえわかれば、て言うか頭が常識をあきらめて非常識を納得してくれさえすれば、もうお化けなんだからって無条件でこわがる理由はなくなる。そう考えればほら、さっき出てきたあの三人だって、私と同じくらいの年の子たちなんだ。条件は一緒。氷だろうが虫だろうが歌だろうが、恐怖心さえなければそう簡単に負けはしない。

 さあ、ほら。来るなら来なさいっての。どっからでも。
 私はぐるりと周囲を見回す。

 って言うか、またここ、ずいぶんとわかりやすい所に来たわねえ。さっきまではなるべく意識して周りを見ないようにしてたし、それに霧も出てるしで気づかなかったけど、改めて見るとここ、すごいわかりやすい。わかりやすく、あの世。
 石が積んであるよ、石。あっちこっちに。しかも目の前には川。向こう岸なんか全く見えないけど、流れがあるし、海じゃあない。川だ。そう、三途の川。臨死体験特集とかで出てるまんまじゃないの、これじゃあ。そしたらあれだ、渡った向こうはお花畑で、おばあちゃんが手をふってお出迎えしてくれるんだな、きっと。

「やれやれ、やっと来たか」

 ジャリッていう音と、それと同時に女の人の声。出たな、お化けか。

「迷子になったと聞いた時は、さてこれ、どうしたものかと思ったが」

 そう言って深い霧の中からゆっくりと姿を現してきたそのお化けは。

 いや、ていうか、お化けじゃないや。いや、お化けかもしれないけど、お化けの一種かもしれないけど。
 またこれ、すっごいわかりやすいなあ、もう。鎌だ。ものすごくおっきな鎌。ちょっとふにゃふにゃで変な形だけど、でも間違いなく鎌。そんなのをかついだ女の人。年はさっきの巫女さんと同じか、ちょっと上くらい、かな。高校生くらい。
 死神だ、死神。すごい、死神ってほんとにこんな鎌、持ってるんだ。刀とかノートとかよりも、やっぱ鎌の方が死神って感じがしてカッコイイなあ。

 にしても、鎌はともかく、それ以外はずいぶんとイメージ違う。
 もっとこう、死神っていったら黒ずくめのガイコツでって、そんなのだと思ってたけど、ふつうの人と変わらない感じだし、しかも女の人だ。男女平等化とか、あの世にもあったりするのかしら。
 あと服装。さっきの巫女さんと同じで、一見和服に見えるけど、よく見ると洋服っぽいというか、ロリ系な感じというか。でもこの人のカッコの方が、個人的にはさっきの巫女さんよりカワイイって感じがする。腰にベルトみたく付けてる、ええと、これ、昔のお金よね、これはちょっとアレかなあって気もするけど、でも、結構全体的な色が落ち着いてて、和風の雰囲気に合ってるというか。さっきの巫女さんと違って、足元もしっかり草履ってあたりがポイント高い。基本はしっかり和風でまとめてあるからこそ、スカートだとかフリルだとかのかわいさが引き立つって感じ。
 あ、でも、髪型はちょっと、うん、ちょっと。こんな、左右で二つ結びって、今時子供でもちょっといないっていうか、三、四年生くらいが限界だと思うなあ、こういうのができるのって。しかも真っ赤。不良だ、この人も。不良死神。

 って、なに私、また冷静にファッションチェックなんか。死神だよ、死神。もっとこわがろうよ、私。
 ああもう。人間の頭って、結構簡単に壊れちゃうもんなんだなあ。異常がほんと、もう全然、異常として認識できなくなってるよ。

「さて、ここが何処か、私が何者か、既に気付いているとは思うが」

 死神のお姉さんが、少しあらたまった感じで話し始めた。うん、わかってる。ここはあの世、あなたは死神。

「ここから先に進む前に、一つ、確認しておきたい事がある」

 さっきの巫女さんは、まあちょっと失礼なとこもあったけど、結構普通のしゃべり方だったのに、この人はまたずいぶんと固い話し方ね。何よ、確認って。何を。

「ここから先へ行けば、そこで全てを知る事となる。それを受け入れる覚悟はあるか」

 ああ。なるほど。そういうことか。この人、私の記憶がまだ戻ってないって、そう思ってるんだ。確かにね。ある意味、かなりショックな話だし。
 でもね、残念。私はもう、ちゃんと思い出してる。あの時の、弟が死んだ時の記憶。その上で私は、悪いのは自分じゃないって、そう言える自信がある。だからもう、何もこわくない。

「どうだ。先へ進むか、それともここで引き返すか」

 進みます。
 って言おうとして、ダメだ、まだ声が出ない。これはもう、緊張感がどうとかそういう話じゃなくて、あの世では生きてる人間はしゃべることができないとか、そういうことなのかもしれない。

「そうか。進むのか」

 ああでも、死神のお姉さんには伝わったみたい。もしかしてこの人、心が読めたりとかできるのかしら。死神だし。いや、死神関係ないか、そういうのは。

「いやあ、助かったよ。うんうん、賢い子で助かった」

 って、あれ。ちょっと、この人、いきなりしゃべり方が変わった気がするんですけど。

「本当のこと言うとねえ、お前さんを向こう岸に連れてくってのは、もう決定事項でね。それでもまあ、一応はこう、決まりなんでね、確認を取りはしたけど、子供ってのはなかなか話が通じない事が多くてねえ。嫌だ嫌だって駄々こねられたりしたらどうしようかと思ってたんだ。
 それでもし連れて行けなくなったりでもしたら、あたい、またボスに怒られるとこだったからね」

 ボスって言った、ボスって。死神がボスって。誰なのよ、ボス。いやそれよりも、あたいって、今この人、自分をあたいって。はじめて見た、あたいなんて言う人。
 ああ、でも、何か、カワイイとか思っちゃった。今のこのしゃべり方。このしゃべり方だと、さっきはちょっとアレかなあと思ったこの髪型も、何だかすごくかわいく思えてきた。うん、このお姉さん、すごくカワイイお姉さんだ。

「それじゃあ話もまとまった事だし、さっさと行くとするか。
 今回はちょっと特別だからね、船賃はサービスしておいてあげるよ」

 サービスって。ていうことは、普段は取るんだ、お金。あの世も結構、世知辛いのね。

「さあ、乗りな」

 そう言って死神のお姉さんが乗り込んだのは。

 うん。小さい。すごい小さい。公園の池とかで貸し出ししてるのとか、そういうのと同レベルな舟。ううん、それよりもっとボロいか。木でできてるし、これ。
 そりゃまあ、タイタニックみたいなのは期待してなかったけど、ていうかタイタニックだと沈みそうだからパスだけど、にしてもこれ、こんな小さな舟で、この向こう岸が全く見えない川を渡るって、ちょっとやだなあ。途中で沈んだり、ひっくり返ったりとかしないかなあ。泳げないんだけど、私。

「どうした。やっぱり恐くなったのかい」

 む。ちょっとカチンときたかも、今の。
 いいでしょ。ここまで来たんだ。もうこわいことなんて何もないっての。行ってやろうじゃないの。
 ていうか、もし落ちたりしても助けてくれるよね、きっと。

「さて、普段だったら道中、色々と話もするもんだが」

 私が乗ったのと同時、舟は三途の川の上をゆっくりとすべり出した。

「そんな暇も無いね。今回は。
 はい、到着」

 そう言って、舟が止められる。
 って、いやいやいやいや、いやちょっと。それ、いくらなんでも。

「幾ら何でも早過ぎるって、そう言いたそうだね」

 言いながら死神のお姉さんは私の方、ううん、私の後ろの方を指差す。その指に従って、私はクルリと顔を後ろに向けてみる。

「ま、こういう事さ」

 少し楽しそうなお姉さんの声。
 確かに。後ろにあるのは川。ただただ川。それだけしか見えない。今さっきまでは河原だった気がするんですが。
 あらためて前を見てみる。こっちにあったよ、河原、いつのまにか。グルリと舟が一回転したとか、そういうんじゃないわよね。それだったらさすがに気づくし。
 すごい。対岸が見えないくらい大きな川を一瞬で。これはさすがにビックリした。距離感とそういうのメチャクチャ。異常事態連発にも慣れて、もう大抵のことには驚かないぞって、そう思ってたけど、いやいや、あの世はなかなか、あなどれないわね。

「さあ、行ってらっしゃい。目的地はここから真っ直ぐ、もうすぐそこだ」

 そう言ってお姉さんは、私を抱きかかえて舟から降ろしてくれた。別に一人で降りられるし、子供じゃないんだからって感じでちょっと恥ずかしかったけど、でもまあ、たまには良いか、こういうのも。
 ほんの短い間だったけども、この人といるのは結構楽しかった気がする。

 ありがとうございました。
 声は出なかったけど、私は大きくぺこりと頭を下げて、それから歩き出した。



「お前さんの魂に、真実の安らぎが訪れますよう」

 お姉さんが何か言ったけど、遠くて小さな声、よく聞き取れなかった。



   ◆



「ちょっと、バカ、はなしなさいよ」

 女の子がいる。わたしのすぐ目の前。小学生の女の子。制服を着てる。学校帰りだから。

「ねえ、ねーちゃん、もっとー」

 そう言って女の子の腕を引っぱる男の子。小さい男の子。まだ学校に入ったばかりの。

「ね、ちょっと待って。ちょっとダメ。ほんとに。はなして。引っぱらないで」

 情けない。自分よりもずっと小さい男の子に腕を引っぱられて、女の子は泣きそうになってる。ほんと、情けない顔。

 自分で見てて、嫌になってくる。弟相手に、こんな。

「いーじゃん、いーじゃん」

 三途の川を渡り、死神のお姉さんに言われたとおりに進み、そうしてたどり着いた目的地。
 そこには、あの時の、弟が死んだ時の、私と弟の姿があった。雨上がりの山、神隠しの池。あの時の光景がそのまま、今の私の目に映っていた。

 すごいね、これ。犯罪スペシャルとかのテレビでよくやる、再現映像ってやつよね、これ。あの世って結構、近代的じゃないの。
 これで、こんなものを見せつけて、それで私に罪の意識を植えつけようって、そんなつもりなのかしら。あのバカ弟は。
 甘いわよ。この先のこと、私はとっくに思い出してる。その上で私、はっきり言える。私は悪くないって。だから無駄。こんなの見せたって、私は動揺なんかしやしないわよ。

「ねーちゃん、ねーちゃん」
「はなして、はなして」

 泣きそうな顔で、足をガクガクさせて、そんな情けない姿の私を、弟は何度も何度も強く引っぱる。柵の内側、池までは何メートルもない狭い空間。少しでも足を滑らせれば落ちてしまうかもしれない。もし落ちてしまったら、泳ぐことのできない私は。
 こわかった。正直に言う。本当にこわかったのよ。だから私。



「はなしてって言ってるでしょ!」



 私は思い切り、弟をつきとばしてしまったのだ。

「あ」

 その声が私のだったのか、弟のだったのか、あるいは二人同時に出したものだったのか。それはわからない。
 でも、その小さな声が聞こえた次の瞬間に。

 ぼちゃん、と。

「え、え」

 弟は池に落ちた。

「何、え、え、え」

 いきなり弟が視界から消えた。だから最初は、何が起きたのか、今の音が何なのか、私には理解できていなかった。しりもちをついた格好で、ただただわけもわからずに変な声を出していた。

「ねーちゃ、ねーちゃ」

 弟の声がした。それと一緒に、何度も何度も水を叩く音。足に力が入らなくて、四つんばいのままで私は池に向かう。

「ウソ、やだ、ウソ、ちょっと」

 弟が溺れているのが見えた。最初は冗談かと思った。ううん、冗談と思おうとした。思いたかった。
 泳ぎなよ、泳ぎなよって、そうも思った。でも、できるわけない。弟は私よりは泳げるっていっても、それはビート板を持ってやっとって話。しかも服を着たままだし、もしかしたら落ちた時に足をくじいたりとかしてるかもしれない。

「こっち、こっちよ。つかまって」

 私は必死に手を伸ばす。でもダメ。水面までの高さは結構あるし、その上、落ちた時のはずみか、弟は池の内よりに流れてしまっている。子供の手と手ではどうしたって届きはしない。

 そうこうしている内に、弟は。

 そうよ。これが真相よ。弟が死んだ時の。私が落としたの。この手で。

 で、だから何? 私が悪いって、そう言いたいの?

 山おじさんは言った。雨が降った後で、足が滑って危ないって。だから私は言った。今日はやめようって。
 それなのに無理言って山に入ったのは弟なのよ?
 危険って看板があるのに、柵がしてあるのに、それを越えたバカに私は、危ないって、戻れって、そう言った。
 それを聞かなかったのは弟よ?
 そうして連れ戻そうとした私を、こわいのをガマンして、お姉ちゃんだからって、そんな私を、弟は、あのバカは!

 悪いのは全部弟よ。私は何も悪くない。なんだったらこの場に、閻魔様でも何でも連れて来て、白黒はっきりつけてもらおうじゃあないの。私はいいわよ、それで。私が勝つって、自信あるもん。
 こんな再現映像見せられたくらいで、私がびびって、すみません、ごめんなさいって、泣いてあやまるとでもおもったわけ!? ふざけんなっての。バカにしてる。
 無意味よ。こんな映像。まるで無意味。あの時の事を思い出せーって、そんなのとっくに思い出してるし? これを見て自分の罪を認めろーって、何それフザケロ知るかバカって感じだし?
 だからね、こんなくっだらない再現映像、さっさとやめな。うっとうしい。もう充分だっての。こっから先はもう。

 こっから先?

 こっから先って、今、私、何、こっから先って。
 こっから先って、ないじゃん、そんなの。もう後は、弟が死んで、それで終わり。先も何も。

「警察、警察」

 泣きそうな、ううん、もう完全に泣き顔になってケイタイをいじくる私。再現映像はまだ続いている。
 警察っていうか、救急車じゃないの、こういう場合。消防車かも。ていうかどっちにしろ無駄だって。そこの山の中、電波通じないもん。
 なんてバカなんだろう、この子は。私のくせに。もう良いよ。もうこれ以上、見たくない。恥ずかしい。

「誰か、誰かっ」

 今度は大声で叫びだした。だから無駄だって。山おじさんはさっき山を出たばっかだし、こんな雨降ったすぐ後の山に、他の子も来やしないだろうし。
 もうほんと、やめて、これ以上は。これ以上、見せないで。
 痛い。
 頭が痛い。シャレにならないくらい。今までとは比べ物にならないくらい。外側からは万力でしめつけられるような、内側からはバットで何度も何度も叩きつけるような、両方同時に。頭が割れそう。ううん、割れる。きっと、絶対、このままだったら頭が割れて、私。
 やめて。お願い。ここから先はダメ。ここから先はイヤなの。許せないの。私は、もう。

「ああ、う、あああ」

 もう言葉にもなってないただの声。再現映像の私は、涙と鼻水でくしゃくしゃの顔で、でも何かを決意して。
 スカートを下ろす。
 何考えてるのよ。
 制服のボタンに手をかける。
 もうあきらめなって。
 下着だけの姿になる。
 帰れ、早く帰れ、何も、何も悪くはないんだから。
 そうして大きく息を吸って。



「わあああああああっ!」

 飛び込んだ。何てバカなんだろう。

「ダイジョブ、だいじょ、ダイジョブ」

 何が言いたいかわからない。ダイジョブなわけない。水に顔つけることもできやしないくせに。

「助け、お姉ちゃ、がば、助け、だいじょ、ぼ」

 口を開くたび、何か言おうとするたび、そこから池の水が流れ込んでくる。必死に体を動かす。手を上げる。足を振る。でもダメ。私は、私の体は、飛び込んだその場から少しも進まず、鼻から、口から、容赦なく押しよせる水のせいで頭の中もうぐちゃぐちゃで、鼻が痛くて、目が痛くて、のどの中は水でいっぱいで、吐き出したくても吐き出せなくて、息できなくて、苦しくて、それでも必死に手を伸ばす私の目の前で。



 弟が、動かなくなってしまった。



 辺りがまっくらになる。見えるのは私の顔だけ。まっくろな空間に浮かんでいる鏡、そこに映った私の顔。終わったんだ、再現映像。そりゃそうだよね。ここで終わりだもん、私の記憶。そして、私の。



 そっか。死んじゃってたんだ、私も。
 冷静に考えれば、そうよね、さっき、まっくらな山道をひょいひょい走ってたんだから弟は幽霊に違いないって、そんなこと考えてたけど、だったらそんな弟にしっかりついて行けてた私は何なのよって話よね。そっか。私も幽霊になってたんだ。

 あーあ。それにしても私、ほんとバカだ。バカすぎ。いっつもいっつも、自分は大人だ、自分は頭良いって、そう思ってきたけど、ううん、全然違う。信じられないくらいの大バカ者だ。
 あれだけさ、あれだけ弟のこと嫌いって言ってて、うっとうしがってて、わざとじゃないとはいえ自分で池に突き落としておいて。
 それなのにさ、泳げないくせに、絶対百パーセント無理だって頭ではわかってたくせに、ていうか実際無理だったし。それなのに。

 それなのに。それでも。

 それでも私は、弟を守らなきゃならなかったんだ。なぜなら、私はお姉ちゃんだから。そういうふうに、ずっと、お父さんやお母さんに言われ続けてきたから。それが私の義務。だから、私は弟を守らなきゃいけなかったんだ。絶対に。



『本当に、そうなの』

 鏡の中、私の口が動いた。

『本当にそうなの? 義務とか、言われたからとか』

 鏡の中の私が、私に向かって問いかける。
 本当に、って言われても、本当だもん。私、弟が嫌いなんだから、それなのにあそこまでした理由、他に無いじゃん。

 あれ。でも、そう言えば私、何で弟が嫌いだったんだっけ。
 バカだから。いっつもつきまとってうっとうしいから。それから、あとは、ええと。

 お母さんを、取られたから?



 今までずっと、恥ずかしいからずっと、そんなこと、考えないようにしてきたけど。でも、うん、そう、結局、私が弟を嫌い嫌いって言ってたその一番の初めは、弟が生まれて、それまでずっと私だけのものだったお母さんが取られてって、そんなことだった。
 それから私はずっと、お姉ちゃんとして育てられて、そのせいでちょっと大人っぽいものの考え方をするようになって、だから、お母さんを取られてどうのこうのってそんなのガキじゃあるまいしって、そう思ってきて。
 でも奥底では結局、ずうっと、弟に取られたって、そんな思いが残ってて、だからどうしても好きになれなかったんだ。

 そうしてそんな私に、けれども弟は、いっつもしつこくつきまとってきた。何をするにもどこに行くにしても、お姉ちゃんと一緒がいい、お姉ちゃんと一緒じゃなきゃヤダって。そんな弟が私にはうっとうしくて仕方なくて、それなのに弟は、いっつも、ずっと、私のそばについてきて。

 私に向かって、大好きって感情を、何のためらいもなくぶつけ続けてきた。
 私はそれを、素直に受け止められなくて、お母さんを取ったくせにって、そんなんで、うっとうしい、うっとうしいって。でも、それでも。



 っあーああ! さっきも言ったけど、も一回。私バカだ。バカ過ぎ。

 結局もう、あれだ、すっごい単純な話だった。



 大好きだったんだよ、私も。私のことを大好きってずっと言い続けてくれた弟のことが。口では何って言ってても、心の表面では拒否していても、それでも、それでも。
 あんだけずっと、バカみたいに好きって気持ちをぶつけられ続けてきたら、こっちだって好きにならないワケ、ないじゃん。ほんとの本気で心の底から嫌うなんて、そんなの、どうしたってできるワケ、ないじゃん。

 だからよ。だから、絶対無理だってわかってても、死ぬかもしれないって思っても、それでも私は、あの時、飛び込まずにはいられなかったんだ。



『おねえちゃん』

 声がした。
 鏡のすぐ横、いつの間にか弟が立っていた。全身が薄く白く、そして淡い光を放ってる。きれい。なんだかまるで、天使みたい。

 ああもう。ほんとゴメンね、バカなお姉ちゃんで。あんたが大好きって、そんな簡単なこと、あんたが、そして私が、生きてるうちに気づくことができなくて。
 でもね、これからは一緒。ずっと一緒。天国で、二人して。

 そう、私が差し伸べた手を。

 けれど弟は握らなかった。そうして、悲しそうに目を閉じてゆっくりと首を左右に振る。

 そっか、そうだよね。
 弟はまだ小さい。何の悪いこともしてないし、知らない。だから当然、天国に行ける。
 でも私は違う。私はずっと、弟のことを嫌い続けてきた。弟を突き落としてしまった。弟を、助けることができなかった。そんなダメな私が、弟と同じ天国に行けるはずがない。
 だから、私と弟はここでお別れ。ごめんね、バイバイ。

 目の前が揺らぐ。闇一色だった空間にぽつりと一つ、小さな光がともる。それは瞬く間に大きく広がっていき、やがて私の視界全てが光に染められていく。弟の姿も、少しずつ見えなくなっていく。

 弟の口が動いた。声はもう聞こえない。けれどもその動きは、私にはっきりと見えていた。

 私のいる世界が完全に白一色に塗りつぶされる。その直前、鏡が消え、その後ろに人の姿が見えた。あの棒を持ってるから、一目でわかった。



 そっか。閻魔様も、女の人だったんだ。



   ◆



 何て味気のない。

 最初に思ったのは、そんなことだった。
 三途の川、死神、閻魔様と、ここまでは結構イメージ通りだったのに、地獄というのはまたずいぶん味気のないもんなんだなって。だって、目に入るのは白い天井。キレイな四角を形作る線と、その四角の中、小さなヒビわれっぽくも見える無数の線というか模様というか。そう、学校の、教室の天井が正にそんな感じ。ああ、でも、このにおい、薬のにおい。ってことはここ、保健室なのかしら。地獄の保健室。
 手を動かそうとする。でもうまく力が入らない。それに異物感。腕に何かがはりついてるというか、むしろ入り込んでるというか、そんな感覚。気持ち悪い。

(ああ、わざわざどうも)

 なんだかすごく、懐かしい声が聞こえた気がした。男の人の声。おじいちゃんかな。でも、おじいちゃんにしては若いって気が。そもそもおじいちゃん、地獄には来てないわよねえ。

(ええ、まだ目は)

 ていうかこれ、お父さんに似てる気がする。でもまだ生きてるよね、お父さん。
 ああ。それにしても、ほんと面白みのない天井。ていうか、さっきからこれしか見えないってのもまたつまらない。もうちょっと色々なものが見えてくれないと、何て言うか、こう。

「飽きる」

 あっ、声が出た。
 それと同時、視界にも変化。ぶっさいくな女の人、登場。すっごいやつれた顔。
 ていうかこれ、お母さん?

「あなた、あなた」

 うん。この声、まちがいない。ていうかうるさいよ。何をそんなに騒いで。
 って。
 薄々そうじゃないかなあって気づいてはいたけど、ここ、もしかして地獄とは違かったりするのかしら。冷静に考えて、ここは。

「病院」

 また声が出た。間違いない。さっき、あの世にいた時はずっと、声、出なかったんだし。

「良かった、良かった本当に。本当に、よく目を覚まして」

 すぐ目の前、くっしゃくしゃになったお母さんの顔。涙と鼻水まじりでボロボロになった声。
 そっか、私。

「生きてるんだ」

 顔を横に向けてみる。かなり重たい感じがするのでゆっくりとだけど、でも痛みは特にない。ベットの脇、イスに座ってるお母さん。そのすぐ後ろに立ってるお父さん。ってこれまた、さっきのお母さんもすごかったけど、お父さんはそれ以上のブサイク顔。ケイタイが使える状況だったら絶対撮っとくのに。とりあえず鼻水はふこうよ。
 それからお父さんの隣の、ええと、誰だろう。スーツを着た、体が大きくて、どこかで見た顔で。学校の先生だったかな。でもこんな先生、いたっけ。

「この、ええと、山おじさんがね、お前を助けてくれたんだよ」

 そう言ってお父さんは、隣のおじさんを。
 って、山おじさん。ウソ。あ、でも、言われてみれば確かに。スーツだしヒゲもそってるしで、全然わからなかった。
 お父さんに紹介された山おじさんは、でも、とても辛そうな顔をしていて。

「本当に申し訳ありません。私がもっと早くに行っていれば。いや、それ以前、山へ入る前にしっかりと止めておきさえすれば」

 そう言って深々と頭を下げる山おじさんにむかって、お父さんは、いいえ、そんな、と声をかける。
 そのやりとりで、私にはわかった。私がこうしてここにいる、その理由。
 山おじさん、私たちに声をかけた後、やっぱり心配になって、それで池まで来てくれたんだね。そこで私を助けてくれて。でも。

「あの、あのね」

 ようやく、少しは顔と声が落ち着いてきたお母さん。何かを言おうとして、でも言葉を切る。視線も、あちらこちら泳いでいる。
 知ってる、こういうの。言いにくいけどって、そういうのでしょ。だから、私の方から口を開いてあげた。私は結構、冷静でいたから。

「夢でね、あいつと会ったの」

 少し驚いたような顔を、お母さんが向けてきた。

「ダイジョブだよ。あいつ、ちゃんと天国に行けたみたいだったから」

 お母さんの顔がまた、くしゃっと崩れる。両手で口を覆う。お父さんは背中を向ける。そうして肩を震わす。
 情けないなあ、大の大人が二人して。ほら、私なんかこう、平気で、冷静だってのに。

「それでね、あいつね。最後に私に言ったの」

 私は冷静だ。頭だってほら、こんなにスラスラ回ってる。
 なのに。

「ごめん、ね」

 鼻の頭が痛い。目と目の間が熱い。喉が震えて変な声しか出ない。

「あ、りがとう、って」

 あいつさ、こんなさ、ダメなお姉ちゃんに向かってさ、笑顔でさ。ありがとうって、バカ、ありがとうって。そんなこと言われる資格、私にはないのに、バカだよあいつ、バカ。

「ご、めん」

 まだちっちゃなガキのくせに、私の心を救おうとさ、最後の最後に、さあ。

「ごめん、なさい」

 私を、私が、私に、私は、私は私はっ。

「ごめっ、なさい。私、私、私」

 できなくて、ダメで、私、ほんと、私。

「助け、助けられな、くて、ごめっなさ、ごめ、なさっ」

 大嫌いで、大好きで、助けたくて、でもダメで、私今ここで、ねえ、こんな、こんな、こんなこんなこんなこんなあっ!

「いいの!
 いいの。悪くないの。貴方も、誰も、何も。だから、ね、大丈夫だから。大丈夫だから」

 ギュッと握った。
 お母さんが、私の手。
 ちょっと痛いけど、でもあったかい。
 お母さんの言葉、お母さんの体温。
 それが、バラバラになりかけた心を繋ぎとめてくれた。

「お前だけでも戻って来てくれた。それだけで私達は」

 そこまで言って、お父さんが言葉を切る。そこから先が、弟にとってひどく残酷なものになってしまうって、そう思ったからだろう。不器用。口下手。
 そんなお父さんの下手っぴな言葉が、でも私には、私と弟の両方への優しさがあるからこそなんだなって、そんなことがわかって、だから。
 だから私は言うんだ。

「ありがとう」

 お母さんに。お父さんに。私を助けてくれた人達に。



 そして、最後の最後まで私のことを好きでいてくれた、私の魂を救ってくれた弟に。心からの感謝を込めて。



   ◆






   ◆



 神社の拝殿口に腰を掛け、のんびりと息を吐き、ぼーっとした顔で博麗霊夢は空を見上げた。お日様は南、今日一番の高い所まで登ってきている。この季節、夜はいまだ結構に冷えたりもするものだが、こうして昼日中はもう充分に暖かい。と言うより、少々暑い。だから霊夢は、出来れば余り身体は動かしたくはないと思っていた。賽銭箱の前に転がっている箒には、意識して目を向けないようにする。後で良い、後で。日が下って、もうすこし涼しくなってから。
 そんな事を考えながら、ずずいっと、音を立てて熱いお茶を飲み込んだ。そうして、脇に置いてある皿の上へと手を伸ばす。

「よう、暇そうだな」

 箒が空から下りて来た。

「暇じゃないわよ。見れば判るでしょ」

 いつも通り、今日も出て来たいつもの顔に向けて、霊夢もいつも通りの返事をする。

「私、は、暇だぜ」

 は、の一字を殊更に強調し、そうして霧雨魔理沙は箒から飛び降りて霊夢の前に立った。

「何か面白い事の一つでもないのか」

 そう言って笑いかけてくる魔理沙に対して、けれども霊夢は、眉間にしわを寄せて一言、何も、と、それだけを答えた。

「おいおい、何だか今日は機嫌が悪そうだな」
「昨日の夜、馬鹿が馬鹿騒ぎをしたせいでね。その後始末をしてて寝不足なのよ」

 そこまで言って霊夢は、そう言えば、と思い当たる。面白い事、と言う程のものでもないが、今日の朝、少しばかり珍しい顔が来ていたという事に。



   ◆



「ありがとうございました」

 彼女にこんな事を言われたのは初めてかも知れない。普段なら、顔を合わせれば先ずは説教を仕掛けてくるくせに。
 突然の来客がとった奇妙な行動に、寝惚け頭の霊夢は、何も言えずただ怪訝な顔のみを返す。

「四季様。巫女が、何も理解できずに固まってますって」

 そんな事を言って少し困った笑い顔を見せる少女。サボマイスターこと小野塚小町。頭を下げているのは彼女のボス、四季映姫。

「そうよ。一体何が、何を」

 五月蝿いなあ。もう少し寝ていたかったのに。
 そんな巫女の前で映姫は、深々と垂れていた頭をゆっくりと上げ、それから話し始めた。

「昨晩の事です。彼女を保護してくれた事に。感謝しています」

 判らない。未だに、何を言われているのかさっぱり判らない。
 けれども保護、保護と言えば。

「もしかして昨日の、あの幽霊の事かしら」
「幽霊じゃなくて、正確には生霊なんだけど。気付いてなかったんだね」

 そんな事を小町に言われるが、幽霊と生霊の区別なんてもの、そもそも霊夢には判らないし、別に興味も無い。そう言えば昔、誰かが、幽霊と生霊とでは温度が違うと言っていた気がしないでもないかなあと、その程度である。

「じゃああれか。あの子が外の世界の子で、しかもちょいと訳有りの子だったって、その事にも気付いてはいなかった、と」

 あの子とは誰の事か。幽霊、と言うか生霊の事か。あれは、外の世界から来ていたのか。しかも訳有りか。
 霊夢には小町の言っている意味がさっぱり判らないし、判ろうという気もしない。彼女にとってあれはただの幽霊、それ以上ともそれ以下とも認識はできていない。

「彼女は、強く悔やんでいました」

 映姫が話を始める。何も判っていない霊夢をよそに。

「自分が弟を助けられなかった、その事がどうしても許せなくて、認めたくなくて、だから彼女は自身の記憶を封じてしまった。
 もしあのままにしておけば、彼女は自分がどうなっているのかも判らず、次第に何者であったかすらも忘れ、そうして生にも死にもどちらにもつく事の出来ぬまま、永遠に彷徨う事となっていたでしょう」
「いやいや、ちょっと」

 このままではどうも話が長くなりそうだ。霊夢は強引に話を切る。

「何よ。何なの、その話。それが私とどういう関係が」
「そうですね。この話自体は、彼女の細かい事情は、特に貴方とは関係ありませんでしたね。まあ、気にしないで下さい」
「だったら話すな」

 不機嫌な霊夢の声を、まあそれはそれで、と、笑顔で映姫は受け流す。

「貴方は昨日、迷子の生霊を保護してくれた。私はそれに感謝している。まあ、そういう事ですね。簡単に言えば」
「ああ、そう。
 でも」

 事情は飲み込めた。けれども。

「別に私、お礼を言われる立場でもない気がするんだけど」

 他人に感謝されるのが嫌いな訳ではないのだが、どうにも霊夢の気持ちは据わりが悪い。
 彼女はそもそも、あの幽霊が実は生霊だとか、外の世界から来たとか、しかも訳有りだったとか、そんな事は何も知らなかったのである。あの幽霊が女であるという事も知らなかったし、そう言えば幽霊って、あんな白くて丸っこい饅頭みたいなのにちゃんと性別があったんだ、と、そんな事をすら今更に考えている様な程度である。

 昨日の夜、神社の近くで妖怪達が何か騒ぎを起こしており、そのせいで眠りを妨げられた霊夢は、巫女としての使命と、それより何よりこのままでは静かに寝ていられない、と、そういう事で神社を出た。
 妖怪達は霊夢の姿を見た途端にさっさと逃げて行ってしまったのだが、何故だか幽霊が一匹、その場に残ってしまっていた。どうも妖怪達は、この幽霊に悪戯を仕掛けて遊んでいたらしい。
 幽霊自体は特に珍しいものでもないのだが、それは大抵集団で姿を見せるもので、こうして一匹だけで居るというのは余りない。もしかして迷子になったのか。そんな事を呟く霊夢の前で幽霊は、その白くて丸い幽体を大きく上下させて見せた。
 さてこれどうしたものか。これが真夏の熱帯夜なのであれば、良い物を見つけた、と、喜んで神社に持ち帰りもするところ。だが昨晩はさほど暑くもなく、それどころかむしろ肌寒さを感じる程。何処かの馬鹿が調子に乗って氷を撒き散らしたものだから尚更である。
 このまま放っておくか。だが、巫女が神社近くをうろついている幽霊をそのままにしておくというのはどうにも体裁の悪い気がするし、それに正直、この肌寒い夜に幽霊に近くをうろちょろされたくはない。余計に冷える。
 なので霊夢は、面倒臭いながらも、この幽霊を冥界まで連れて行ってやる事にした。幽霊ならば当然、帰るべき場所は冥界。そう思ったからである。

 ところがこの幽霊、なんと飛べないのである。ふわふわと宙に浮いてるくせをして、霊夢が飛び上がっても、後には付いて来ずにただその場で右往左往するのみ。
 仕方が無い。どの道、冥界まで往復する手間は変わらないし、重さも大したものではないだろう。そう思って霊夢は、幽霊を懐に抱いて飛び上がった。
 だが、冷える。密着していると尚の事。これは堪らない。
 なので幽霊は神社に残し、霊夢は一人、冥界に飛んで迎えを呼んでくる事にした。自分がいない間、勝手に外に出ないように。そう、幽霊に言い聞かせて。
 けれども彼女が冥界から魂魄妖夢を連れて戻った時、神社に幽霊の姿は無かった。近くに気配も無い。保護すべき幽霊を見失ったという事で、どうしよう、と、妖夢は困り顔になっていたが、霊夢の方は、かかった手間は冥界への一往復、得られた結果は幽霊が居なくなる、ならこれ思った通りじゃない、と、幽霊を探しに出て行った妖夢は放っておいて自分はさっさと寝てしまった。

 ただそれだけの事である。細かい事情は何も知らないし、全部自分の都合で動いただけで、感謝されるような事は何一つした覚えが無い。

「良いのですよ、貴方はそれで」

 そう、映姫は言う。何が良いのか霊夢にはさっぱり判らなかったが、これ以上は色々と話すのも面倒なので何も答えなかった。

「彼女はこちら、幻想郷に着いた時に弟とはぐれてしまったようで、弟の方はすぐ私達で保護したのですが、彼女の方は行方が知れず。もしそのまま、ここが何処だかも判らぬままに彷徨い歩かれたものならば、こちらとしても発見が遅れ、その間に彼女は自分自身を忘れていき、と、最悪そういった事にもなったかも知れません。
 けれども、貴方が神社に保護してくれたおかげで、彼女をすぐに見つける事が出来ました。本当、感謝しています」

 感謝されること自体は嫌ではないのだし、まあ良いか。そう思いつつ霊夢は、けれど一つ、先程から気になっていた事を口にした。

「あの幽霊、外から来たって言ってたけど、何でまた、どうして」
「ええ。いや、まあ、それは」

 映姫が口を濁す。少し困った顔で、それから溜め息一つ。

「下らない、本当にとても、どうしようもなく、下らない話なのですが」
「もしかして、あいつの仕業なのかしら。やっぱり」
「ええはい。彼女の仕業です」

 霊夢と映姫、二人の指す人物。八雲紫。

 絶大な力とそれに伴う大きな責任を持っている筈の彼女なのだが、その言動は常から胡散臭いものばかり。なので映姫は、神出鬼没である彼女を見付けるとその度に、捕まえて説教を喰らわす事を半ば自分の義務だとすら感じていた。
 そんなものだから紫も、映姫の事は苦手として、彼女が近付くとすぐに逃げ出そうとしたりする。

 昨晩もそんな事であった。
 映姫は偶々、紫を目にし、逃げようとした所を捕まえ、そうして説教を喰らわせていた。
 逃げようにも、一度捕まればそう易々とは放してくれぬ相手。そこで紫は。

「外の世界に在る境界の一つ。その近くに居た幽霊二人、て言うか幽霊一人と生霊一人を、こっちに誘い込んだって訳さ。
 外の世界の、それも訳有りの霊なんて、そんなの、うちのボスが放っておける筈もないからね」

 そう言って笑う小町の横、苦い顔でまた一つ、映姫が息をつく。

「まあ、彼女の目論見は見事に成功。外から入った二人に気を取られている内に、まんまと彼女を取り逃がしてしまった訳ですが」
「はあ、また、それは」

 心底呆れた、そんな面持ちで霊夢が口を開く。

「何ともくっだらない話ね」
「くっだらない話です」
「災難ね、あの幽霊も。そんな理由でこっちに連れ込まれたなんて」

 そんな事を言う霊夢に向けて、けれどもまあ、と、小町が口を挟む。

「結果的に、だけどさ。お蔭であの子ら二人の魂は救われたんだ」

 ですよねえ。そう、小町は難しい顔をしている上司に話を向ける。

「恐らくはそこまで計算済みだったというのが、尚のこと腹立たしいのですが」

 これでは次に顔を合わせた時に文句が言えなくなる。はめられたという気持ちと、それから少しの謝意。そうしたものが混じった複雑な感情によって顔をしかめる映姫。

「まあ、それは兎も角。
 博麗霊夢、これは」



   ◆



「これが、その時に貰った感謝の印ってやつ」

 そう言って霊夢は、皿に載せてある真白くて大きな大福に手を伸ばす。

「幽霊を助けて、そのお礼が大福とは趣味が悪い。そいつ、実は昨日の幽霊が固められたもんじゃないのか」

 そう笑って、それから魔理沙は、で、と、言葉を続ける。

「話の続きは」
「無いわよ。これで終わり」
「終わりって。外の世界の幽霊を入れたせいで、何かこう、異変が起きたりとかどうとか」
「無いってば、何も。ああでも、サボさんがお賽銭を入れてくれて、それはとても嬉しかったわ」

 そう言って大福をほおばる霊夢を見ながら魔理沙は、なんだ詰まらん、と、そうして自分も大福に手を伸ばす。
 ぱちんと音。霊夢が魔理沙の手をはたく。軽く涙目になる魔理沙。別に叩かなくても。

「ああ、暇だわ」

 魔理沙の様子なぞお構い無しに、霊夢はそう言って大きな息を吐く。

 妖怪だの幽霊だのが出て来たのでそれを追っ払った。そうしたら知り合いが来て礼を言っていった。
 そんなのはよくある事、単なる日常の出来事。あの幽霊には色々と事情が有った様だが、そんなこと霊夢は知らないし、知る必要も無い話である。
 映姫にしたって、小町にしたって、紫にしたって、いつも通りの仕事をこなし、いつも通りの行動をしただけの事。何も、特別と言える様な事はしていない。
 だから霊夢にとって、幻想郷にとって、昨日は何も無い一日だった。
 今日もここまで何も無いし、これからも無いだろう。
 そうして明日もきっと。

「何か面白い事もないものかしら」

 霊夢は大きく身体を伸ばす。

「そうだ、こう、偶には、人間のお客様がどばーっと来て、それで皆してお賽銭を入れていってくれるとか、そんな素敵で不思議な大事件でも起きないかなあ」

 うちに来るのって妖怪ばかりだし。巫女が愚痴をこぼす。

「おいおい酷いな。私はまだ、人間をやめた覚えはないぞ」
「あんたは人間だけどお客様じゃない。
 て言うか、まだって、その内やめる予定でもあるのかしら」
「まあ、気が向いたらその内。
 何処かの吸血鬼の話じゃあ、何でも人間をやめれば、枚数を気にせず思うさまパンを貪り食える様になるらしいからな」
「初耳。あんたって、そんなにパンが好きだったんだ」
「いいえ。私は和食ですわ」

 そう笑う魔理沙の手の中にはいつの間にやら白い大福。これもある意味和食。和菓子。
 いつの間に、でもまあ良いか。言って霊夢は、ゆっくりと空を仰ぎ見る。
 晴れ上がった初夏の空は、とても気持ちの良い青い色を見せていた。

 今日も幻想郷は平和である。
 虎は勿論メロンも無い地方の町、なのに何故か東方に困る事は無い。そんな不思議で素敵な土地柄のお蔭で、東京は遠くて行けなかったけれども緋想天は即入手。そうしてその日の内に全キャラクリア。

 それなのにこうしたお話です。オリキャラ主人公の幻想入り、しかも人死にあり、話自体も特に何の捻りも無いという。もうちょっと空気読んだ方が良いかしら、自分。

 さてこのお話、冒頭にオリキャラ主人公と、そうした注意書きを加えるべきなのだろうなあと、そう自分でも思うのですが。
 個人的な好みの問題で、敢えて注意書きは入れていないです。まあ、最初からかなりはっきりと、主人公がオリキャラだと判る話にはしている心算なのですが、登場人物に名前が無いって事もあって、深読みをすればこれ、秘封の二人の過去話だとか、幻想郷に入る前の十六夜さんや東風谷さんだとか、そういう風に思えなくもないという気もします。
 なので、このお話を最後まで読んで、騙されたーって、もしそう思った方が居ましたら、本当、ごめんなさい。

 まあ結局、このお話がどういうお話なのかと言えば、花映塚でぽこぽこ連爆しまくってた幽霊達にも、それぞれ人生が有ったんだろうなあと、そんな感じです。多分。て言うか緋想天の小野塚さん、幽霊を大切に思っていそうな口振りなのに、いざ戦闘になると職権濫用までして酷使しまくるあたりが素敵です。惚れます。

 そんなお話を、ここまで読んで下さった全ての方へ。心からの感謝を込めて。
 ありがとうございました。

 大根大蛇でした。
大根大蛇
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コメント



0.1410簡易評価
4.80名前が無い程度の能力削除
あの弾消し幽霊たちにも人生あったんだよな……。ごめんね、これからはノーショットでやるよ花映塚。

微妙に霊夢さんがかわいそうに見えてしまう。彼女にとっては異変以外の全てが等しく退屈で平穏な日常なんでしょうね。
まぁ本人は「暇ね~」の一言で片付けてそうですが。魔理沙にはずっと霊夢の隣に居てやってほしいな。
5.80煉獄削除
ほう、こういう形のオリキャラですか。
過去にも幾つかこういう類の話を見ましたが、オリキャラがほぼメインとは。
いやいや、大変面白作品だったと思いますよ。
オリキャラも生き生きと・・・生き生きで良いのかな? まあ、そんな感じでしたし。
最後にああいう終わらせ方にしたのも良いかなぁ・・・・って思いました。

確かに冒頭に注意書きを入れておけば「こういう話なのか」と思って読むことはできるでしょうね。
それを入れるのは作者本人の意向ですからねぇ。
あってもなくても良いですけど、あった方が親切かも。

大変楽しめた作品でした。
8.90名前が無い程度の能力削除
オリキャラだの言ってるけど、実際のところオリキャラって感じはあんまりしませんでした
どっちかと言うと、他の方もよく書くような人里に住むそこらの子供みたいな

変に名前や設定が複雑じゃない分、想像を膨らませることができたので自然に受け入れることができました
ただ、やはり東方でやらなくてもいいんじゃないかという意見も出てきそうな感じもします
もう少し関わりを持たせてみるのもよかったのではないかなぁとも思います
11.100名前が無い程度の能力削除
オリキャラ云々、というのは全く気になりませんでしたね
素敵な幻想でした。ハラショー
12.90名前が無い程度の能力削除
>>5 なんで固定HNでどこでも偉そうなん。どうでもいいけど。

その他大勢の幽霊にもそれぞれの物語があり、しかしそれは幻想少女達にとっては日常に過ぎない。
なんだか切なさを感じる作品でした。まる。
15.100名前が無い程度の能力削除
いやいやいやいい話だったぜ
良い刺激になった
26.100名前が無い程度の能力削除
作中の雰囲気もいいですけど、読後の余韻もいいですね。
いつもどおりの東方キャラもいい味出してます。 あと通販万歳!
28.90名前が無い程度の能力削除
騙されたーっ!


まあ、内容はとても面白かったですが、なんだか悔しいので-10点。
31.100名前が無い程度の能力削除
オリキャラも含めてキャラクターが全て自然体でした。
ところで姿すら見せていない紫がかっこ良すぎるのですが。
34.100名前が無い程度の能力削除
人の描き方が巧いと思いました。

主人公も魅力的です。

私は年の離れた兄が居るのですが、この主人公を見て昔を思い出してしまいました。
兄はこんな心情だったのかなぁ・・・
生意気なやつでゴメンナサイ
35.100名前が無い程度の能力削除
当たり前のものを当たり前な風に書くことがいかに素晴らしいかを気付かされた気がします。
42.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷の側からすれば、特に大したこともない、なんてことのない一日。
だからこそ、いい雰囲気のお話と思いました。
オリキャラのお姉ちゃんも格好良かったぜ!

良い話をあっりがとぉ!
43.90名前が無い程度の能力削除
良かった、いい話で良かった。小町と会うシーンで初めて「ああ、死んじゃったのか」と思い
でも実は生きてました、で二度驚き。こっちは嬉しい驚き。

最後のネタ晴らし会話シーンも、良い感じ。静かだけど魅力的なキャラクター。
妙に冷静な性格のお姉ちゃんも面白かった。
44.100deso削除
おおー、面白かったです。
特に主人公の描写が良いですね-。大人びてるけど子どもらしい。うーん、可愛い。
45.100名前が無い程度の能力削除
日常と非日常、常識と非常識
一生忘れられないような思い出と酒を飲んだらすぐに忘れてしまいそうな出来事
合わさることのないはずの物が綺麗にかみ合い心地よかったです
ありがとうございました
46.100名前が無い程度の能力削除
オリキャラというよりモブキャラ物っていう表現の方が正しいんですかねこれ?
まあ面白かったのでそんなのはどうでもいいのですが