Coolier - 新生・東方創想話

箱輝夜

2008/06/15 01:39:40
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 お部屋の掃除という名の下に部屋から強制的に追い出された。私はもうダメかもしれん。
 いや、ホントに、もうダメだってこれ。布団を剥ぎ取られた時から薄々と気付いていたけどさ、廊下がすっごい寒いもん。足がさ、特に。冷たいよりも痛いといった感じだ。
「はあ。なんで私が、こんなことを」
 文句を垂らしながらも、しっかりと働いているイナバが布団を担いで部屋から出てきた。私はそれに乗じて中へ戻ろうとするが、目の前に、突然氷山のように巨大な乳房が出てきて、はじかれた。永琳だった。
 こんな寒い所に長くもいられないわ。早く部屋に戻ってゆっくりとゲームをやりたいわ、なんて思っても、目の前の永琳が完全ブロック。赤と青の豊かなブツを君臨させている彼女だが、表情はまるで金剛力士像のごとく睨みをきかせていた。
 入れる見込みは、ない。
 ……詰んだな。もう永琳は絶対に私を中へは入れてくれないだろう。掃除が終わるまで。
 甚だ不服だった。キンキンに冷えた床のつめたさが足の裏に伝わってくる。冷たくて仕方がないので苦し紛れにそれをふくらはぎに押し付けるのだけど、そしたら今度はふくらはぎが冷たい。思わず声を上げそうになるのを堪える。
「あのさ、えーりん。部屋に入るなというのはよーく分かったわ。掃除の最中だしね。だからさ、私、別の部屋で待ってるから、ちょっと部屋からモンハンとってきていいかな。ね」
 私は永琳に提案した。
 永琳は、露骨に溜息をつき、私の目の前で煙草を吸い始めた。口からはき出す灰色の煙に不快感を感じながら、私は嫌な予感がよぎった。
「姫ー、私はですね、最近になってよーーやく気が付いたんですけどねえ、姫には少々、忍耐というものが足りない気がするんですよ」
 微妙な敬語が明らかに敵意を晒している。というか、今この場に立ってみれば、この月の頭脳の頭脳的部分に、青筋が浮かんでいることぐらい阿呆でも気付く。
「何をするにもたすけてえーりんたすけてえーりんで、自分は部屋から動こうともしない。私はそれじゃあいかんと思いこう怒っているのです」
「まああんたもその大抵はイナバに押し付けてるよね」
 永琳の眼光がデスピサロに変わった。
「灰皿!」
 叫ぶと同時に掃除をしていたのとは別のイナバが、灰皿を持ってやって来た。跪いて灰皿を差し出していた。永琳は最後に煙草を一口吸いつくと、灰皿ではなくイナバの手に煙草を押し付けた。熱い! っとイナバが反射的に仰け反って暴れた。金属性の灰皿が落ちてカランと音を立てた。
「あーごめん、手が滑ったわ」
 永琳が言った。冷酷な声だった。893と大差なかった。
 始めは一主として、簡単には聞き入れない態度をとろうとしていたが、しかしもはや抵抗できそうにもなかった。私は冷えた足の裏を再度、ふくらはぎに押し付けた。
「ということで、まあ姫の腐った根性を叩き直す一環だと観念なさってくれませんかねえ。兎たちも姫が見ていたほうが良く働きますし」
 怒っているというより喧嘩腰、いや脅迫に近い。普段は従者として仕えている永琳も、こうなってしまうといくら私でも手の付けようもない。不服だが、ここは従うしかないようだ。
「分かったわ。えーりん。確かに私はあなたの言うとおり最近は自堕落に過ごしてきたような気がするわ。すこしはこの床のような厳しさも甘んじて受けないとね」
「やっと分かってくれましたか。姫」
「ええ。だから廊下に立ちっぱなしでもヒマだから、ちょっとモンハン取りに行っていいかしら」
 私は永琳に提案した。
 ソバットが飛んできた。





 冗談じゃないと言いたい。
 なんだいなんだい。姫である私に蹴りを入れやがって。
 ド腐れめ。
 まったく、従者として態度が甚だしいにも程があるね。
 だから私は言ってやったのさ。
「このやろう。こんなことしてタダで済むと思ってるのか!」
「思いませんが、そうなったとしてもそれよりもより陰惨な手口で姫に復讐ができる自信があります」
「……。で、出て行くぞ!」
「どうぞどうぞ」
 我ながら「出て行け」と言えないあたりがへたれであったのだった。
 座布団を枕代わりにして、私は寝転がった。
 結局、私は部屋に入るどころか、その場にいることも耐えられず、少しぶらぶらしてくる。終わったら伝えに来い。とだけ永琳に言い捨てて、おめおめと逃げていってしまったのだった。しばらく廊下を当てもなく歩いていたが、いい加減足の寒さに堪えられなくて、近くの部屋に入った。とりあえずはここにいようと思った。
 とはいえ掃除が終わったとして、あの部屋にはいったい何が残るというのだろう。永琳の、先ほどの状態を見る限り、物事が穏便に済むようなことは到底考えられない。虚しい気持ちが心を満たした。
「はあ」
 ため息が漏れた。使われてないはずの部屋はイナバ達によって清潔が保たれていた。私はそこでうつ伏せになったり仰向けになったりしながら、自分の部屋の安否を憂いた。
 大体、永琳は何をあそこまで怒っているのだと思った。
 昨日の夕食の唐揚げに勝手にレモン汁絞ったからか。




 ああ。あの口うるさい永琳を、どうにかすることはできないのかなあ。
 頭の中で永琳が謝りにくる妄想が浮かんだ。すいません、姫。私が間違っていました。興奮していたとはいえ、私は姫にソバットを、ああ、何とお詫びを申し上げたらいいのか。いいのよ、永琳。私は永琳が自分の非を認めて、謝ってくれさえすればそれでいいの。それよりもディアブロス狩るの手伝ってくれない。あいつガードないとハメがうざいの。ええ、喜んで――っていかん。なんだか悲しくなってきた。
 そうこうと考えている内に、私の中にひとつの思いが浮かびあがってきた。
 私はさっき永琳に、「出て行くぞ」と言った。あの時はつい興奮して、思ってもいないことを口走ったのだが、けれども翌々考えてみると、それは案外いい考えなような気がした。
 頭の中で永琳のいない生活を想像した。一見口うるさそうに感じていた永琳だが、それは彼女だけが唯一、ここで私に意見のできる存在であるからだ。その永琳がいなくなればつまり、私に意見をするような輩はいなくなるということになる。それは即ち、自由。リバティ。私の話し相手として見合った知識を持った、数少ない思慮ある人物がいなくなることは残念だが、永琳に虐げられた後のこの身にとって、その言葉は甘い果実に他ならなかった。
 そう。簡単なことだったのだ。
 別居すればいいじゃない。
 私は動き出した。まず小間使い用として、いくらかのイナバを引き入れなければならない。とはいえイナバの仕事は掃除や警護などが主で、私への直接の世話はすべて永琳が行っていた。つまり永遠亭の姫であるとはいえ、私はイナバ達とほとんど面識がないのだ。対して永琳は月の兎である鈴仙やイナバのリーダー格であるてゐを自分の庇護下に置いている。そんな永琳と対立してまでイナバが私についてくるかと考えると、概ね不安だった。
 ただし、考えが無いわけではない。
 永遠亭に医務室はふたつある。ひとつは医者である永琳が診察、又は自身の気の赴くままに研究ができるよう設備が整えられた、専門的な医務室である。外からわざわざ来た人妖、重病患者などが主にここで診察を受けることとなる。
 もうひとつは、そんな彼女の手を要する程でもない、軽い怪我や病気を負ったイナバ達の治療所として設けた医務室である。自身の研究中に、それほど大した傷でもないのに、押しかけてきては堪らないと、永琳が独断で設備したのである。
 永琳のとこと比べると、確かにここは簡素だった。六畳ほどの狭い部屋に、机が一台、ベッドが一台に椅子が二基、それだけだった。机は狭い部屋に見合わず無駄に大きくて全く溶け込んでいない。どこかから急で取り繕ったといった感じがひしひしと伝わった。その上に永琳の所とは比べるのがおこがましい程小さな薬棚が、申しわけなさそうにちょこんと置かれてあった。それは下にある机のせいで、よりいっそう悲惨に見えた。ベッドを隔てるためのカーテンは、古い書物のように色褪せていた。
「やけど、大丈夫?」
 私はそこで治療をしていたイナバに声をかけた。
「姫様!?」
 よもや私がこんな所に来るとは、思ってもみなかったのだろう。イナバはどうすればいいか分からないといった様子で、オドオドしていた。
「ちょっと、落ち着きなさい。別に私はあなたを取って食おうなんて思ってるわけじゃないのよ」
「は、は」
「それに私はたばこなんて吸わないし」
「……はい」
 イナバはようやく落ち着きを取り戻した様だった。
「あなた、私の元で働こうとは思わない」
「姫様の元でですか。それは今もそうじゃないんですか」
 面倒事は嫌いなのでとりあえず要点だけを話すことにした。イナバは黙ってこれを聞いた。
「はあ。つまり姫様はこことは別の場所に居を構えたい。そのためにそこで働く人材をお探しなのですね」
「物分りが良くてよろしい」
 私が褒めるとイナバは恥ずかしそうに俯いてしまった。それでも耳だけは、剣のようにピンと張っている。なんとも分かりやすい。
「そういう訳でまずはあなたに目を付けたってわけ。つまりは引き抜きね。悪い話じゃないでしょ。なにせあの永琳から離れられるものねえ」
「そう、ですね」
 イナバは少しの間、腕を組んで神妙な顔つきで考えていた。考えはすぐについたようで、きちっとした様子で、私に「分かりました。では改めて姫様に仕えさせていただきます」と答えた。
「よし。じゃあイナバ。最初の仕事よ。あなたには人材を確保してきて欲しい。あなたの他にも永琳に酷い思いをさせらているイナバがまだたくさんいるはずだわ。それを一匹ずつ当たっていって」
「分かりました」
「私は外で引越しするのに良い土地を探してくるから。くれぐれも内密に。いいわね」
「はい」
「よし。さあ行きなさい。すべては」
「自由のために」





 私は外へ出ることにした。数年振りに見る玄関の、ぼこぼことした硝子戸からは、太陽光線が神々しいまでに燦燦と照りかえっていた。なんて輝かしいのかしら。私は目を細めながらもその光りに、自分のこれからを思った。
 幸先のいいスタートだった。何も問題はないと思った。
 私は玄関を開いて、そして太陽と目が合った。
 眼球が、破裂しそうになった。
 痛い。いたいいたいいたいいたい。数ヶ月振りの太陽光線が直に目に染み渡る。なんだこれ。これはなんだ。私がしばらく外を出ない内に太陽に何が起こったというのだ。
 冗談じゃない。私は急いで玄関まで戻り戸を閉め、硝子戸から背を向けた。
 あまりの急な展開に、私は息を荒げていた。額から頬に向かって冷や汗が一滴、つーと流れた。私は息と冷静さを整えるために軽く深呼吸しながらも、今起きたことを筋道を追って分析した。
分析の結果はこうだった。

  (1)何が起こった―――――太陽を見たら、目が破裂しそうになった。
  (2)それはなぜ起こった――しばらく引きこもっていて、外へ出るのが久しぶりだったためだと思う。
  (3)補足―――――――――私は暗い部屋でPCやTVを見るのが好きだ。
  (4)結論―――――――――私の眼球は衰退していた。

 なんてこと。否定したい事実に私はもう一度玄関をちょびっと、小指一本分ほど開けたのだが、無理。どうやら私は知らぬ間に、外へ出れない体になっていたらしい。
 新たに知ったできごとに気落ちしてしまったが、けれどもここをでないからには始まらないのだ。
 そのときちょうど廊下を、一羽のイナバが通った。
「ちょうどいいところに来た。あんた、ちょっとサングラスを持ってきてちょうだい」
「はい。分かりました」
 イナバは元来た道を駆けていった。
 数分後、イナバが戻ってきた。
「すいません。探してもサングラスが見つからなかったので。代わりに下敷きを持ってきたのですが、これで大丈夫ですか」
「よくやった」
 私はイナバを褒めて。再度、玄関に手をかけた。目指すは永琳からの決別。そのための第一歩を、今私は歩むのだ。緑の下敷き片手に。
 下敷きをかざして、私はついに玄関から出た。
 裾を踏んでずっこけた。
 永琳決別への第一歩を、私は盛大に踏み外してしまった。
 思えばこの時から、私の受難は始まっていたんだなあと、振り返ってそう思う。





 突如、目の前の景色が地面へと移り変わったかと思ったら、次に降りかかってきたのは衝撃と痛みだった。
 馬鹿なことをやったななんて思う暇もなく、太陽光線がさらなる災難として私の身に降りかかった。焼き付けるような日差しに眼球を押さえ身もだえしている中、手元に下敷きがないことに気が付いた。地面をのたうち回りながら、必死で下敷きを探すも、それはなかなか見つからない。
「イナバ!」
 私は先ほどのイナバに助けを求めようとしたが、しかし返事は返ってこなかった。もうどこかへ行ってしまったらしい。
「ちくしょう」
 イナバに対する怒りが、私の中に沸沸と込みあがってきたが、それらはすべて眼球の痛みによって消火されてしまった。
 太陽光線の力は想像を絶するもので、目をつぶっているのに、それは衰えることもなく、痛みとして眼球を襲った。
 もうこうなったら、私にできることはひとつしかない。

 私は自分の眼球を潰した。

 ふん。どんなもんだ。太陽光線に耐えられないなら、目を潰せばいいじゃない。どうせ眼球なんてすぐに再生するのだし、痛みといってもこっちの痛みのほうが慣れている。
 とにかく玄関に戻ってもう一度仕切りなおしだ。二度の失態は自分の油断が生んだものだ。これだけ自分が太陽に弱いのならば、次はもっと堅実に、そう、イナバを連れて行こう。下敷きなんかで間に合わせずに、ちゃんとサングラスを探させて。もしものことがあっても近くにイナバがいれば、このような事態にはもうならないはずだ。
 目を潰してしまったため手探りで玄関を探す。下敷きを探してのたうち回っていたが、そう遠くへは来てないはずだ。じりじりと地べたを這う様は、何とも言いがたい屈辱的なものだったが、けれどもそうもいってられない。こんな様を誰かに見られないためにも、一刻も早く玄関に戻らなければならないのだ。
 けれどいつまで経ってもこの両手に、玄関の、あの硝子戸の感触が伝わらなかった。私は次第に焦りを感じた。土と石の感触しかないことに苛立ちを覚え、仕舞いには私は立ち上がって手を前に出し、そこら中を闇雲に歩き回った。
 すると、突然、私は何かにぶつかった。両手から冷たい感触が伝わった。軽く叩いてみると、カンカンと金属質の音が響いた。中はどうやら空洞のようだ。私はそれを注意深く触れて回った。大きさは、金属にしてはかなり大きい。庭の置石くらいはありそうだ。それは四角い形をしているようで、確かめてみると、上の部分にも金属板がはられてあった。それが何であるかは、未だに分からなかったが、それは中に入る用途があるということは分かった。焦っていたこともあり、とにかく、しばらくここでやりすごそうと私は思った。
 取っ手と思われるものはすぐに見つかった。私は最善の注意を払いながら、中へと足を入れた。
 箱の中はひんやりとしていた。潰した目を再生する。中は夜のように薄暗かった。当然、電気等の照明道具などはなかった。以外だったのは、箱の中には何一つ入っていない。空っぽなことだった。また、箱の中は外とはどこか違う臭いに満ちていた。それは独特の臭いなのだが、思い出せそうで思い出せなかった。足元は畳の感触がした。
 一通り観察しても、結局、何のために使われる物なのかは分からないままだった。とりあえずは、人が中に入っても害はない物であることは確かなようだ。
 箱の中は狭いっ苦しいことこの上ない。不快ではあるが、防護策もなしに外へ出ようとは、もはや考えもしなかった。私は夜になるまで、この中で太陽光線をやりすごすことに決めた。





 がらがら
 がらがらがら

 がこん


「な、何!?」
 突然の、不可解な物音と振動によって、私は起こされた。辺りは真っ暗で、暗いといっても、そのまましばらく、じーと目を凝らしてみれば、自然に慣れて近くにある物くらいはうっすらとだが見えるものなのに、それすらままならないほど真っ暗だった。目を開けているのに目を閉じているようで、気味が悪い。
 立ち上がろうとすると、頭に衝撃が走った。天井に、頭をぶつけたのだった。そういえば、自分は箱の中にいるのだということを思い出した。
「ねえ。今なにか音がしなかった」
「ちょ、ちょっと。びっくりさせないでよ」
 外側から声がした。痛むおでこをさすりながら、外にいるのはイナバかしらと考えた。自信がなかったのは、これまた不可解なことに、外から聞こえる声に「ぼかし」がついていたからだった。
 会話といっしょに箱の中がぐらぐら揺れる。良く分からないが、自分は何か、とんでもない事態に直面している! 危機感を感じ、寝ぼけていた私の頭は完全に覚醒した。
 会話はなおも続いた。
「しかしひどいよね。永琳様、お仕置き用に自分で作っておいて、それを忘れるなんてね」
「中に入れられた子。確か、餓死したって……」
「ええ。しかも見つかるのが遅かったせいもあって……相当酷かったらしいよ」
「やめて。考えたくない」
 外にいるのは、イナバで間違いなさそうだ。
 彼女らの話からすると、これは(薄々はそうだと思っていたが)永琳によって作られた物らしい。使用用途はお仕置き用。しかも、永琳の天才的センスによって、ぼかし機能まで完備されているようだ。
 そして、いざ出来上がり、体よく失態を犯したイナバを入れたは良いが、当の永琳(おそらく指示をするまでは指一本触れるなとでも命令したのだろう)がその存在を忘れてしまったために、中の兎が餓死してしまったと。かわいそうなイナバ。永琳に目を付けられたばっかりに。
 それとも、実は相当怒っていたのかもしれない。だとしたら、それはとても恐ろしいことだ。私は、いくら水を撒いても決して消えることのない永琳の憎悪の炎が、誰にも気付かれない内に、ゆっくりと、不気味に、燃え広がっていく様を想像して、ぞっとした。
「もう帰ろうよ。ここまでくればもう大丈夫だよ」
「そうね。全く、とんだ貧乏クジだったわ」
 外の会話によって、私の意識は戻ってきた。
 その後も二羽は、息がピッタリ合ったかのように会話を途絶えさせようとはしなかった。どういう気持ちでいるかは知らないが、こちらからしたら、二羽が怖がっていることはバレバレであった。
 それとさらに、私の中の永琳への恐怖が消え去っていくと、今度は自分がどうしてこんな箱の中にいるのだという理不尽が込みあがってきた。そういえば、と私は思い出した。この箱の中に漂っている臭い、だいぶ消えてはいるが、これは生き物の腐乱臭だ。
 ぞっとするはずなのに、私の中ではもはや、不愉快からくる腹立たしさのほうが格段に勝っていた。
 そう。まさにそのせいであった。目の前に居るイナバ達の、怖がっている様子が、私に悪戯心を芽生えさせたのだった。
 私は、おしゃべりで恐怖心を紛らわせようとしている二羽に聞こえるように、箱の壁を軽く、叩いた。
「ひっ!」
「な、何!」
 くっくっく。もう一回。
「聞き間違いじゃない…」
「いや! やめてよ!」
 台車が止まり、おかげで箱の中で細かく震えていた振動もピタリと止まった。二人はよほど怖かったのか慌しくぞんざいに台車から手を離した。中からは見えないが、しかし二人が距離を置いて様子をうかがっていることは明らかだった。私は、二羽が近づいてくるのを待った。静寂が、より二人に恐怖を駆り立てる。
「中に……だれかいるの……」
「まさか……あの子の…」
「ねえ。ちょっとあの箱、開けてみてよ」
「いやだよ! そんなの。絶対にいや!」
 二羽はしばらく口論を続けたが、結局、一緒に近づいてくるようだった。
 まだ。もうすこし。ギリギリまで引きつけて。
 二人は恐る恐る箱に手を触れようとした。
 今だ! と思った。
 箱の中で私は、ここぞとばかりに思いっきり暴れた。
「!!!!!!!」
「!!!!!!!」
 二羽は化け物に出会ったかのような叫びをあげ、それがぼかされて、私の耳に届いた。見ることはできなかったが、彼女達の驚く様を想像して、愉快に思った。たまっていた溜飲が、一気に下がった気がした。
 さて、すっきりしたことだし、今日はもう永遠亭に戻ろうと、私は思った。まったく今日は悪いことばっかり起こる、最悪な一日だった。
 私は箱の扉を開けた。
 そして思わず口を開いた。
「ここ、どこよ」
 私は最初、扉を開けた時に、まず始めに見るものは鬱蒼と生え茂る竹林、そう思っていた。
 なのに、これはなんだ。
 竹なんて一本も生えてない。地平線の先まで見えてしまう程の、平原。迷いの森と、比べるのもおこがましいその広大な土地に、私はいつの間にか、ひとりぽつんと取り残されていた。
 おいおい、確かに運んでいたってのは知ってたけど、あいつらがんばり好きだろ。
 冗談じゃない。捨てるなら竹林に捨てりゃあいいでしょ。どこまで行ってんのよ。てか私はこんな遠くに来るまで、あんながたがたと揺れてた箱の中で寝てたってんかい。んなアホな。
「おーい、イナバー! カムバック! 私が悪かった。悪かったから。お願いだから戻って来てー!」
 慌てて叫んだが、もう遅かった。逃げ帰っていった二羽は、どれだけ呼び戻そうとも帰ってはこなかった。
 最悪な一日は、一日ではなくなった。気が付けば、スズメの鳴き声が聞こえ、夜が明けようとしている。私はただ、深くうなだれた。





 絶望的な状況だった。試しに私はそこらじゅうを飛んでみたのだが、けれども見覚えのある場所は見つからなかった。そうこうしているうちに朝日が昇り始め、私は慌てて箱の中へと戻った。
 好き好んで外へ出るような真似をせずに、日がな一日部屋に引きこもっていたことが、またもや仇となって帰ってきた。再び箱に入るときに、私は、これからはこまめに外出することを心に決めるのだった。
 とはいえ、今は現状だ。このまま永遠亭に帰れなかったらどうなるか。姫様見知らぬ土地に捨てられる。帰ってこられず行方不明。冗談じゃない。想像するだけで鳥肌が立った。ああ、嫌だ。はやく帰ってモンハンやりたい。シレンもやりたい。
 これからどうやって帰ろうか。
 太陽光線が出ているうちは、そのことについて考え、また、夜に備えて寝ることをした。日が沈んだら外へ出て、もう一度見覚えのある場所を探すことに努めた。
 しかし、結果は喜ばしいとはいえなかった。夜のうちに外を飛び回っても、私の知っている場所、つまりは竹林を見つけることはできなかった。これは私があまり遠くへ行き、それでも竹林が見つからなかった場合の最終的な安地となる箱に、朝日が昇る前にたどり着けないのではないかという懸念が、捜索範囲を狭めているためでもある。でも夜中の間ずっと飛んでるのならなんとかなるんじゃねえの、って思ったヤツ。とりあえず「ぱちゅコン!」をやってこい。話はそれからだ。
 では他に何か案はあるのかというと、苦しい。様々な制約を受けている現状況、特に昼間の間は外に出られないということが、安全な帰宅への可能性を、よりいっそう厳しくさせているからだ。
 どうにかして昼間でも外へ出られれば、と考えたが、すぐにやめた。あの眼球のみならず肉体をも焼き尽しかねない太陽光線に、入念な準備もなく再び立ち向かうのは、もうご免こうむりたい。
 一番堅実なのは通りすがりに道を尋ねることなのだが、それは私のプライドが許さなかった。私がこんな場所で困り果ててるなんてことは、誰にも知られたくはなかった。それに見ず知らずの人に話しかけるなんてこと、私にはハイレベルすぎて到底無理だ。
 つまり箱の中にいつつも永遠亭へ帰れる方法。それがベストアンサー。
「やり込みにも程があるだろ」
 私は箱の中で毒づいた。





 そんな状況の中、考えた打開策はこうだ。
 私は箱の中で待つ。すると、時間がかかるだろうが、いつかは人間がこの道を通る。私はその人間を呼び止めると、こう言うのだ。
「ちょいとそこの兄ちゃん。あたいを永遠亭まで運ばんかい」
 心優しい人間はきっと二つ返事で私を箱ごと永遠亭まで連れてってくれることだろう。さらにこの箱には、ぼかし機能が備わっているのだ。話し方も変えてあるし、絶対に外の人物は、中にいるのが私であるとは思わない。うん。完璧だ。
 私は待った。
 ただ待った。
 ひたすら待った。
 畳の目を数えながら。
 お腹が減った。
 それでも待った。
 だってそれしかできないもの。
 箱には一ヶ所通気孔があって、太陽光線を逞しく隔てている箱もそこだけは僅かに漏れていて、箱の中へ、二本、三本、四本と、筋になって肩を照らした。それがじわじわと腹へ足へと移っていき、とうとう消えてなくなった頃、
 足跡が、聞こえた。
 ざっざっとわらじが地面を擦る音が近づいてくる。人間だ。
 私は、ほっと安堵の息を漏らした。この道に、人間は一生通ってはこないのではと、ほんのちょっぴりではあるが、不安に思っていたためだ。
 私は、これから自分のすることを、もう何度もイメージしていたのだけれど、それでも緊張してしまっていた。心臓が、まるで釣竿に魚が掛かった時のように高鳴り、意識はあのピンと張った糸のように集中する。
 足跡が近づいてきた。さあ、気づきなさい。「何だこれは」と興味を持ちなさい。胸の高鳴りが最高潮に達した。
 しかし。


 ざっざっざ

 足跡は止まらずにだんだんと小さくなっていく。え、ちょっと。なんで気づかないの。
 暗いから? ああ、でも考えてる場合じゃない。なんとしてでも呼び止めないと。
 私は全力で箱を殴りつけ、叫んだ。
「ちょっとそこのあなた、待ちなさい!」
 足跡が止まる。ああ、やっと止まったか。まったく手間のかかる人間だ。
 だけど、まあ、いい。許す。
 だから運べ。さあ運べ。
 ついでにお腹が減ってるから食い物もよこせ。
 止まってくれたことをいいことに、そんな都合のいい考えが頭によぎったのだが、あろうことかその人間、こっちを見た次の瞬間、
「よ、妖怪だー!」
 叫び声をあげ、一目散に逃げていった。ぼんっと箱に何かが当たる、持ち物を投げつけたのだろう。
 私は唖然としてしまった。いくら奇怪な箱にぼかし声だとはいえ、まさかそれを妖怪と間違われるとは思ってもみなかったからだ。もしかしたらあの人間、相当なバカなんじゃないだろうか。
「ふぁーあ」
 せっかく通ってきた人間に逃げられて、うなだれているところに、上から小さなぼかし声が聞こえた。
「あーよく寝た」
 箱の上で寝てたらしい。私はさらに驚愕した。いつの間にそんなところにいたのか。全く気が付かなかった。
「よいしょっと」
 声の主が箱から降りる。すると今まで真っ暗だった箱の中に、月明かりが入ってきた。
 通気孔から外を眺める。ちょうど目の前に黒い大きな丸が見えた。私はようやく理解した。ルーミアだ。
 ああ、そういうことか。ルーミアが箱の上にいたせいではじめ人間は私に気が付かなかった。そして私が叫んでも、人間から見えるのは箱ではなくルーミアの闇だ。妖怪について知識のある人間は、それに気付くや、喰われまいと慌てて逃げおおせた、というわけだ。
 さっすが私。良く分かったね。そんな自分に、私花丸あげちゃう。
 じゃねえよ。ふざけんな!
「ちょっと、そこのあんた!」
「んあ?」
 黒い丸が反応する。
「あんたのせいで人間が逃げちゃったじゃないの!」
「んあー、にんげんー、いたのかー? くえるのかー?」
「い、た、の、よ! あんたのせいで逃げちゃったじゃないの! どうしてくれるのよ!」
「んあー、これなんだろー」
 いくら怒鳴りつけても、ルーミアはいたって暢気だ腹が立つ。
「あーおにぎりだー」
 おにぎり!?
 それってもしかしてさっきの人間が投げつけたやつなんじゃ…
「いただきまーす」
「ちょ、ちょっと、待ちなさい。それは私のものよ!」
 正確にはあの人間のものだが、これから私のものになるはずだったんだ。間違ってはいない。
「待てー!」
「んあー?」
 ようやく黒い丸の動きが止まる。
「おまえー、だれなのだー?」
「だれかなんてどうでもいいの。いいからその手にもっているおにぎりを渡しなさい! それは私のものよ」
「残念だが、しかしそれはできない」
「どうしてよ」
 私に喧嘩売ろうってかコノヤロウ。
「もう食べてしまったからなのだー」
 わはーと笑いながらルーミアは飛んでいった。ぶち切れて急いで外に出るも、黒い丸はすでに闇に溶け込んでしまっていた。
 夜はまた静かになった。初めから何も無かったかのように、先ほどまであったものが全部消えてしまった。
 腫れた右手だけが、痛みとして残った。





 通気孔から差し込んだ朝日に起こされた。起きて、自分はまだこの窮屈な箱の中にいるという事実を再認識すると、私はため息をついた。
 昨日はとんだ失敗をしてしまった。けど、それはなぜか。あいつだ。あの(食欲を)がまん(しない)ポケモン「ソーナノカ」のせいだ。
 あいつさえいなければ私は今頃永遠亭、いやそうまでいかずとも私の知ってる所へまで運ばれていたはずなのに。
 獲物を逃がされ、加えてコケにされたくやしさが晴れない。ルーミアにやられた右手が疼いた。
 ついでにお腹もきゅるると鳴った。そういえばおにぎりもあいつに取られたっけ。
 惨めだ。自分が月の姫としてちやほやされていた頃がとても昔のことに思えた。謀らずとも今と対比してしまい、さらに嫌な気分に陥った。
 次こそは成功させよう。私は心に誓った。
 チャンスはすぐにやってきた。足跡が聞こえた。
 昨日と違い、今度は昼間のうちのことだった。通気孔からは相変わらず、眼球を焼き切ろうとするかのような勢いで太陽光線が注がれている。あいつはいない。


「そこのあなた」
「ん、何だ、箱…?」
 外にいる人間が反応した。足跡が止まる
「中にだれかいるのか。お前は誰だ。何でそんな窮屈な箱の中にいる?」
 目の前にいるであろう人間が質問攻めをしてくる。そのどれもがまず初めに聞かれるだろうことはあらかじめ予測していた。
「べつに入りたくて入ったわけじゃないのよ」
 私ははぐらかした。
「それよりあなた、今すぐに私を迷いの森まで運びなさい」
 永遠亭まで運ばれたら。自分の醜態をみんなに見られるからな。それにうかつに森に入って道に迷われでもしたら私が困る。
 考え事をしているのか、外の人間は黙っている。私は続けた。
「あとお腹も空いてるから、ついでに食べ物も頼むわ」
「……そうか」
 考えがまとまったのだろう。人間が口を開いた。
「断る」
 あれ?
「ちょっと。いまなんていったの」
「聞こえなかったか? 『断る』だ」
「なんでよ。人間って頼んだことは何でもきいてくれるとってもやさしい生き物なんじゃないの?」
「どこまで世間知らずな妖怪なのか知らないが、人間には物事の頼み方というものがあるということを知っておくべきだな」
 妖怪!?
「ま、待ちなさい、なんで私が妖怪なのよ。私は人間よ!」
「その人間がどうしてこんな場所でこんな箱の中に閉じ込められている?」
「それは……」
 言葉に詰まった。相手は勘違いをしている。しかし誤解を解くのは難しかった。下手な説明をしたら、自分が蓬莱山輝夜であるということに気づかれる可能性があるからだ。
 相手が呆れたといったようすでため息をついた。
「そんな目にあうということはよほどの悪行を行ったのだろう。自業自得だ。しばらく反省してその傲慢な性格を直すことだな」
 足跡が遠のいていった。
「待って。悪かった。私の言い方が悪かったわ」
「……いまさら取り繕っても、元から助ける気はないぞ」
「いいから。助けなくていいから。せめて食べ物を…。もう3日も何も食べてないの。お願いよ」
「そうは言ってもなあ。食べ物といっても、今は何も携帯していないし……あ、いや待てよ」
「何かあるの!!」
「ああ。いや、でもこれはどうだろうか」
「もう口に入ればなんだっていいわ。だから、早く」
「そこまで言うのなら……っとそうだ」
「何。どうしたの」
「渡すにしても、どうするか。ここに扉らしきものがあるが、開けるわけにはいかないし……」
「そんなこと、こうすればいいのよ」
 私は太陽光線の照らす反対側、なるべく下の方をぶち開けた。
「さあ、ここからいれなさい」
「……なあ」
「何よ」
「お前はいったいどうしてその中に居続けているんだ」
「そんなの出られないからに決まってるでしょ!」
「そ、そうか……」
 相手は私が開けた穴の中に巾着を入れた。その後はもう、自分の役目はもうなにもないといった様子で、去り際に、
「しっかり反省するんだぞー」
 とだけ言い残して、すぐさまどこかへ去ってしまった。へん、誰が反省なんかするかい。始終、上から口調で人様のことを妖怪だと決め付けやがって。反省するのはお前の方だっての。
 まあいいや。それよりも今は巾着の中身の方が気になった。何が入っているだろうか。重さからして木の実か何かか。おにぎりでもうれしいね。具は鮭がいいな。まあ何にせよ今ならどんなものでもおいしく食べれる自身があるよ。
 期待を胸に乱暴に巾着の口を開ける。
 さあ来い。おにぎり。
 中から三寸ほどの大きさのかつおぶし二つが出てきた。
 私は発狂した。


「ざけんなああ!」
 死ね。死ね。死んじまえ。あの野郎。さんざん人をおちょくりやがって。
 覚えておきなさい。ここから出たら絶対に復讐してやる。親子三代に渡って復讐してやる。
 と怨嗟の声を張り上げている時に、不意に箱が大きく揺れた。突然の出来事に私は驚きの声を上げた。
「おお、すごいぜ。箱がしゃべってるよ。よく分からんがきっと珍しいものに間違いはないな」
 最悪だ。私は瞬時に外にいる人物が誰なのかを理解した。魔理沙だ。
 永琳、天狗に続いて、魔理沙は私の現状をもっとも知られたくない相手の一人だった。もし知られたら。想像する。「発見! 謎の珍獣、箱輝夜」「宇宙人の最新の流行は箱に入って外出することだった」。冗談じゃない。
「しかし、聞いたこともない奇怪な声だったぜ。おーい。誰か入ってるのか」
 魔理沙はそう言いながら、箱を何度も蹴り上げた。私はどうにもできずに、ただ目の前の人物が去ってくれることだけを願った。
「だまりこくっちまったぜ。しょうがない。家に持って帰ってゆっくりと調べるとしようか」
 魔理沙が言った。どきりとした。それはマジでやばい。
「とはいえ、一体全体どうやって持ち帰ろうか。台車があるけど家まで持って行くにはちと億劫だな。とりあえず、転がしてみるか」
 なんだって!?
 一切の猶予もなかった。外の人物は唐突に箱を傾け、箱と一緒に私は倒れた。ガタンっと箱は音を立て、ゴツンっと後頭部に鈍い音が響く。支える物も何もないために、私は箱と一緒に倒れたのだった。
「うーん。もうちょっとやってみるか」
 こいつ、絶対に分かっててやってるだろ。
 外の人物はそれだけでは飽き足らなかったのか、立て続けに箱を転がし続けた。私はなすすべもなく転がり続けた。まるで飼い主に遊ばれるハムスターの様に無様。屈辱に身を染めながらも、それでも私は歯を食いしばって耐え忍んだ。
「ダメだ。重すぎて簡単に持ち帰れないな。それに置場所にも困るし……しょうがない。今日は諦めるか」
 しばらくいじり倒した後、ようやく諦めてくれたらしい。私はほっと安堵の息を漏らした。
「そういえば、今日はちょうどいいことにスプレーを持っているんだよな。ほれ、ま、り、さ、の、も、のっと」
 もうやだあ、こいつ。
 帰りたい。早くお家に帰りたい。





 人生はまるでかつおぶしのようだと思った。
 ひたすらにしょっぱい。
 なぜ、私がこんな目に。
 暗く、狭く、何もないこの密閉空間の中で、ひたすらそのことを思った。考える時間だけなら、山ほどあった。
 自身に起こった理不尽を、呪い、憎しみ
 呪い、憎しみ
 それすら飽きてしまうと、もう自分には何も残らなかった。
 箱生活を強いられて、もう数日と経とうとしているが、事態は一向に進展をしなかった。ただでさえ来ない通行人を二人も逃してしまったことが心に響いた。また再び魔理沙がやって来るのではと考えると、これから先の未来にも希望を持てない。
 ああ。なぜ、私がこんな目に。
「ねえリグル、見て見て」
 そうこう嘆いている時だった。箱の外から声が聞こえた。
 私は顔をあげた。
「おー、でっかー。これ、いったいなんだろうね」
 なんだガキか。
 私は嘆息した。どうやら私、これから先の未来にも希望を持てない、などとと思いつつも、裏では、それでもまだどうにかなるんじゃないか、心優しきひとが現れて私を助けてくれるのではという、一抹の期待を胸に抱いていたらしい。全くもって馬鹿らしい。
 そんな希望的観測で物を考えてるから自分はまだこんなところにいるのだ。
「んー、さすがのわたしもこれは分からん。あ、でも…」
「でも、何?」
「凍らしてみたらなにか分かるかも――」
「それはない」
 運んでもらおうとは考えるな。頼むということは、つまり、意思決定が相手にあるということ。そんな浅ましくも、卑しい考えで満足したせいで、私は二度もチャンスを取り逃がしてしまったのだ。
「いくよー。それ」
 もっと確実性のある方法、つまり相手に拒否なんてさせずに強制で働いてもらうような手段を使わなければいけなかったのだ。
 そう、例えば脅迫とか。
「それそれそれっ」
 それだ。今までの手段では甘かったのだ。次からは寒い寒い寒い。
「こっおれ♪ こっおれ♪」
 がああああ
「なにさらすんじゃああああ!」
「きゃあ!」
「箱が……しゃべった…」
 このやろう。さっきから黙っていれば付け上がりやがって。私は寒さが何よりも嫌いだってのに
 殺す。
 箱とか太陽光線とかこれからとか、もうどうでもいい。殺す。
「覚悟しろよ、このやろう!」
「チルノ。これってもしかして」
「宇宙人だ!」
 あれ。





 どこが宇宙人だ。
 憤慨した。たしかにお前達からすれば私は宇宙人だ。認めていい。それは確かなことだ。けれど、では、お前達はいったい私のどこを見て私を宇宙人だと思ったんだ。
 箱だろ。箱だろ。ええ、そうなんだろ。
 六面すべて板金で塞がってるもんなあ。
 ひどい喪失感を覚えた。さきほどまで、無気力に、何もかもを諦めようとしていた。それなのにだ。
 これは尊厳の問題だ。ああ、今なら分かる。ヤドカリなのに「カニ」と名称付けたれたタラバガニは、きっとこんな気分だったに違いない。
「私のどこが宇宙人だ」
「あ、怒ってる」
「宇宙人が怒ってる」
「当たり前でしょ。あんた達。私のいったいどこを見てそんなことを言ってるのよ」
 そんなこと言われても回答に困るといった様子で、言葉を詰まらせる小娘ふたり。
「あんなこと言ってるよ、チルノ」
「んーー、全部?」
「あーでも強いていえば声だよね」
「それだ!」
 横でそれを聞きながら、私は納得した。意図は分からないがこの箱には声にぼかしがつく機能がある。ぼかしのついた、あの独特の機械的な声を聞きなれていない小娘ふたりには、それは宇宙人の声ではないかと思ったのだろう。とんだ勘違いである。
 ほおっておこう思った。しかし、このままこの無知な小娘ふたりに間違った認識をし続けられるのも気持ちよくはない。面倒ながらも口を動かすことにした。
「あのねえ、これは変声機っていって、別に私がこんな声をしているわけじゃないの。外のこれもただの箱。私はあんたらが思っているようなヘンテコでうさんくさい形容をしているわけじゃないの。オーケー?」
「あたい、みんなに知らせてくる! リグルはここで見張ってて」
 聞いてねーし。
「あーもう。あったまくる。帰れ! 私はあんた達にかまってられるほどヒマじゃないの」
 もちろん、大ウソだ。だがそんなことはどうでもいい。
「見世物じゃないのよ。さっさと帰れ! もう二度と来るな」
 くうー
 興奮し、罵倒を続けたためか、長時間の感覚に慣れて忘れ去っていた空腹感が、飛び起きるように甦った。外で小娘の、絶妙なタイミングでの腹の虫の鳴き声に、キョトンとしている様子が悲しいほどに目に浮かんでしまう。恥ずかしい。いや、情けない。あまりにも情けないせいなのか、目には涙が滲んできた。それと同時に、空腹のために頭がくらくらして、私の中で情けない気持ちとお互いに主張し合い、ケンカして、もう何がなんだが分からなくなっていた。
「……宇宙人さん。もしかして、お腹が減ってるの」
 小娘が近寄ってくる。やめろ。来るな。私の中にさらに新たな感情が流れ込む。それらが混ざり、ぐにぐに、もみくちゃになって。
 その結果
「だあああああっ!」
 もう何もかもが嫌になった。
 叫んだ。暴れた。発狂した。
 唸り声を、何度も、何度も、何度も、あげて。
 恥を虚勢で塗り潰し、塗り潰し、塗り潰し。
 最終的に、酸欠と栄養失調で倒れた。
 小娘を目の前に、板金一枚隔てて、醜く酸素を求めている月の姫、ここに。
 惨めなこと、この上ない。
 恥を塗り潰すのは、いつも決まって恥だった。
「う、宇宙人さん!?」
「…仕方ないでしょ。ここから動けないんだから」
 ぜいぜいとまだ息も絶え絶えに、そう答えた。
 笑いたきゃ笑うがいいさ。そう自棄になりながら寝っころがろうとして、壁に頭をぶつけた。もういい加減にして。なぜこうも、やること成すことうまくいかないのだろう。
 それから小娘は話しかけるのをやめた。それだけが救いだと思った。
 しかし、しばらくすると、小娘、何かを探すかのように、箱の周りをうろうろし始めた。
「うるさいわね。ちょっと静かにしなさいよ」
「あ、あったあった」
 小娘が見つけたのは前に私が開けた穴だった。彼女が穴から何かを差し出した。いったいなによ。暗くてよく分からない。私はそれを通気孔までもっていった。
 それは梨だった。
「宇宙人って何食べるのか分からなかったけど、お腹減ってるって聞いたから。ちょっと虫に取りにいかせてたんだ、けど……どう?」
 小娘が何か言っている。しかし、生憎真に残念なことだが、今の私には、それを聞き取ることはできなかった。
 私は泣きながら梨にかぶりついていた。





「つまり宇宙人さんは宇宙人さんのUFOが故障してしまったせいでここから動けれなくなって困っているってことだね」
「どうやって説明すればそうゆう解釈になるのよ」
 仲間を呼びに行っていたチルノが戻ってきた。チルノが呼んできたのは大妖精とミスティアのようで、中から見ることはできないが、つまり私は総勢四人の魑魅魍魎に囲まれているということになる。
 表面上は宇宙人ではないと釘を刺しつつも私は、彼女達の様子をみて、ひとつのもくろみが頭の中に湧き上がっていた。
「それは大変だ。何とかして助けないと」
 外で話し合っている四人が、こうも私に興味を持っているのは、彼女達が私を宇宙人だと思い込んでいる、そのためである。つい先ほど、空腹で倒れそうだった私に梨を渡したリグルを見るからに、宇宙人とだと勘違いされている私に対して彼女達は好意的だ。
 ならばこのまま誤解を解かずにいるほうが、賢いのではないだろうか。
「まあともかく、あなた達。そういうわけで私は今すごく困っているの。でも永遠亭まで行けばなんとかなるあてがあるわけ。だからさ、あなた達の力で私を永遠亭まで運んでくれないかしら」
「それならあたい達にまかせてよ。大ちゃん、リグル、みすちー、いいよね」
「うん、いいよ。宇宙人さんもこのままじゃかわいそうだもんね」
「私もいいよ」
「この流れ…とてもじゃないが、いいえとは言えない。ああ」
 全員が賛成だった。
 三度目の正直にと、ほっと安堵の息が漏れた。ついに、ここから抜け出せれる。
 外で騒いでいる小娘達を背にして、私は力を込めてガッツポーズをした。少しだけだけど、太陽光線が見れるような気がした。





 四人の妖精、妖怪達の力を借りて、ついに私はこの場所から離れることができた。
 小娘達は掛け声を合わせて台車を引いた。ぐらぐら、ぐらぐらと体が揺れる。私は移動しているのだ! おかしなことだが、私はこの揺れに、ゆりかごで揺られるような心地よさを感じた。
 しかし、それも始めのうちだけだった。多くの人がそう思うように、整地されてない道の上を台車に乗って運ばれる時の振動は、徐々に私の体力を消耗させ、不愉快を募らせた。
「ゆっくりでいいからもっと丁寧に運びなさい。箱の中ががたがたとしてたまったもんじゃないわ」
 そう言うとチルノ達は素直に言葉に従った。揺れる箱に身を委ねながら、私はこの勝手に勘違いしていいように利用されている彼女達に檄を飛ばした。自らが諭しておいてなんだが、こんな得体も知れない箱を張り切って担ぎ上げる小娘達を頭の中でイメージして、こいつらがバカで本当によかったと、しみじみにそう思った。
 箱を運びながらも、小娘達はわあわあきゃあきゃあと騒いだり、私に話しかけたりした。面倒と思いながらも、運ぶのをやめられたらこまるので、私は適当に彼女達の期待に応えた。足は三十本あるとか、休日は放射線で日光浴をするだとか、地球人を正しい道へ導くために三十万光年先からやってきたとか。ばかばかしいと思いながらも、話す度に「おおっ」とか「すごい」と歓声をあげるので、つい気を良くして、自分でも驚くほどに口からでまかせがすべっていった。
 それからも、少女達は休むこともなく箱を担ぎ続けた。
「ち…ちょっとくらい、休んでもいいのよ」
 さすがに不安に思い、声をかけた。太陽光線はすでに物寂しい光りを注いでいた。
 とても熱心な話だが、小娘達はそれでも運び続けた。一意専心、まるでそれが使命であるかのように小娘たちは働いた。
 とうとう最後には、私のほうが音を上げてしまった。
「もういいわ。いい加減にやめなさい」
 昼中から晩まで台車に揺られ、へとへとになりながら、そう伝えた。小娘達はようやく手を止めた。小娘達はまだまだ元気といった様子で、私はあいつらの方が不死身なんじゃないのかと疑った。それから一時間ほど会話をしたり、記念にと凍らかした蛙を押し付けられたりとした後、彼女達は散り散りに帰っていった。
 結局、彼女達が運ぶのをやめた夜更けごろまで、一度も休みなしの強行軍であった。うへえ。身震いがした。彼女達はとても従順であったが、あまりに従順であるために、私は針に刺されたような痛みを感じた。
 どうしようか。
 おいおいどうしたんだ自分。一日中、台車に揺らされて頭でもおかしくなったのか。あいつらはただ勘違いをしているだけじゃないか。向こうが見返りを要求したわけでもなければ私が嘘をついたわけでもない。脅迫をした覚えもない。気に病むようなことなど、何ひとつないのだ。
 と、ここまで考えて、へんに罪悪感を感じている自分に気付いて、おかしくなってしまった。何を考えているんだ。私は月の姫なのだから。それくらいの扱いをうけて当然なのだ。
 こんこん、と箱を叩く音がした。大妖精だった。
「お腹が空いているだろうと思って。ミスティアちゃんに頼んで八目鰻を持ってきました」
 私の空けた、密閉された金属質の箱の中で唯一、黒々とした穴の中に八目鰻、さらには、気の利くことに一升瓶を入れた。当然、私はそれらを遠慮なく頂戴した。
 さっそく、私は杯に酒をなみなみと注いだ。
「今日はおつかれさまでした」
「それを言うなら、あなた達のことでしょ」
 久方ぶりの酒を飲みながら、すっかり上機嫌になってこたえた。酒の勢いは止まらない。
「いいえ、あなたはチルノちゃんに夢を与えてくれました。最近は死がどうだとかブツブツつぶやくチルノちゃんの姿がよく目に映っていたのですが、あなたのお陰で、またあんなに目を輝かせて、生き生きとしているチルノちゃんをひさしぶりに見ることができました。
「……」
「リグルちゃんもミスティアちゃんも、あなたの話がとても楽しかったって言ってました」
 酌をする手が止まった。熱を帯びた顔は、真っ赤に染まっているはずなのに、まるで血の気が引くように、冷めた。
「あなた、気付いていたの」
 大妖精は少し押し黙り、それから「どうか、これからもみんなの期待に応えてあげてください」とだけ言い残して、帰っていった。





 翌日。
 正午を過ぎた頃、小娘達はまたやってきた。どこかで待ち合わせをしていたのかやってきたときはすでに四人一緒で楽しそうにおしゃべりに花を咲かせていた。大妖精も昨日の夜の時とは打って変わって、楽しそうにおしゃべりに参加していた。
「ちーす、宇宙人さん。今日も運びにやって来たよ」
 チルノが声を上げた。
 来たか。
 私は手をパーにして首筋を小刻みに叩いた。
「オソイワヨアナタタチ」
 その場の誰もが凍りついた。チルノの所為ではない。大妖精も「ちょ…」とおののいたきり、どうしたらいいのか分からないといった様子だった。しまった。やり過ぎだったか。
 しかし、その後、
「う……宇宙語だ。宇宙人さんが宇宙語を話された!」
「ひどいや、宇宙人さん。どうして昨日は宇宙語で話さなかったのさ」
「あの、二人とも、お喜びのところ失礼だけど、あれって宇宙語っていうの」
 チルノとリグルが歓声を上げた。もう死んでもいい! ってくらいのわあきゃあぶりだ。
「昨日ハアナタ達ヲ警戒シテイタノヨ。デモ、アナタ達ガイイコダト分カッタカラ、ワタシモアリノママノ自分ヲサラケダシテモイイト思ッタノヨ」
 小娘達はきゃあきゃあと箱の周りに集まった。首が痛い。喉がつぶれそうだ。けれども、彼女達は喜んでくれたようだ。こいつらがバカで本当によかった。切に私はそう思った。





 それからは、さして取り上げるようなところもなく、彼女達によって私は順調に運ばれ、三日と経たずしてあっさりと迷いの森の入り口まで到着してしまった。自分自身ではどうすることもできず、箱の中で不安を感じていた頃が、まるで馬鹿らしく感じてしまうほどだった。
「とりあえず、今日はここで下ろして」
「え、何で。永遠亭には行かないの」
「まあ、いろいろと準備があるのよ」
 もちろんウソだった。このとき私は、永遠亭に行くことを躊躇していた。全く以っておかしな話である。あれほど、「帰りたい」と思っていたはずなのに。
 とはいえ、その理由ははっきりと理解していた。永琳である。
「じゃあ、あたい達が手伝ってあげるよ」
「だ、大丈夫よ。たいしたことじゃないから」
「そうなの」
「ええ。明日には終わってるかもね」
 と言いつつも、けれども「明日」はいつになってもやってこなかった。
 この場所に留まってから、すでに一週間が経とうとしている。私は相変わらず、永遠亭に行けなかった。私は、このままではさすがにまずいと、焦燥感に駆られていた。これはいままでとはまた別の不安だった。いままでは、様々な都合によって、私は自分ひとりの力では永遠亭に帰れない状況だった。けれども今は、私は、その気になればいつでも永遠亭に帰ることができるのだ。
 小娘達がそれでも私に不信感を抱かなかったのが、うれしかった。
 しかし、それはまた別の意味で不安の種になった。
 彼女達は毎日、食べきれないくらいに大量の果実、野草などを持ってきた。食料だけでなく、最近は彼女達のお気に入りの玩具、自作漫画なども献上された。
 ときおり、あきらかに人間の物であろう皿や衣服などを渡されたときは、さすがに顔をしかめた。
 四人の中で一番乗り気でなかったはずのミスティアでさえも、ここ最近、屋台を引いてやって来ては、
「せっかくだし、これからしばらくはこのあたりで営業しようかねえ」
 と言いながら、私に八目鰻を差し出した。それは決して冗談で言ったわけでなく、彼女は本当に屋台を置いていってしまった。
 小娘達は、私にも想像つかないほど予想以上に、架空の存在である宇宙人を偽った私に信頼を寄せるようになっていた。
「ねえ、どう思う」
 さすがに不安に思い、隙を見て大妖精に相談を持ちかけた。大妖精は、そうですね、と応え深く考え込んだ。
「たしかに最近は少々、度が過ぎてる感じがしますね」
「さて、どうするべきかね」
「永遠亭には行かないんですか。あなたが永遠亭に行けば、すべてが万事解決するのですが」
「あ、やっぱりそう思う?」
 全く以ってその通りだと笑いながらも、しかし私は躊躇していた。そもそも私は永琳と喧嘩して、家出をしようと目論んでいたのだ。だが何をどう間違えたのか、私はこの薄暗く狭く、加えて曰くつきの箱の中、外へでることもできずに、来たこともない土地へと置いていかれた。食べるものもなければ足を広げて眠ることもできない。当然こんな状態から一刻も早く脱出したいために、私は唯一、自由といってもいい頭をフルに活用、紆余曲折を経て、ここ、迷いの森までたどり着くことができた。
 では、今はどうだ。少なくとも食う物には困らない。さらにチルノやリグルなどの小娘達が、毎日のように遊びに来るため、退屈はしない。不憫な点を挙げても、永琳のいる永遠亭に帰ることと天秤にかけると、どうしてもこちらの方へと傾いてしまうのだ。

 できればしばらくこのままでいたい。
 彼女達も楽しんでいるではないか。
 だけど、本当にそれでいいのだろうか。

 結論が纏まらず、その日は深夜遅くまで考えあぐねることとなった。大妖精は最後まで付き合ってくれた。
 薄っすらと、空が黒から青みが帯び始めた頃、私はひとつの結論を下した。
「大妖精」
「はい」
「箱を押して。箱を、あいつらに見つからない場所へ隠すの」
 それを聞いて、大妖精は戸惑った。
「ですが、私一人じゃこの箱は運べませんよ」
「そうね」
 真っ暗な箱の中を手探りで探した。太陽光線を恐れ、しばらくの間、触れることもしようとは思わなかった。壁を走る手に確かな感触があった。取っ手だ。
 数日振りに箱の外へと出た。大妖精が驚愕とした表情でこちらを見ていた。
「そんな……あなたは…!!」
 それは例えるならば、飢えた巫女に出会ってしまったときのような驚きぶりだった。
「いそぎましょう。朝日が昇る前までに片付けたいの」
 久々に出た外には月も太陽も昇っていなかった。起きたばかりの小鳥が鳴き声をあげるのを尻目に、私達は箱を動かした。手ごろな場所を見つけ、私は大妖精に、
「うまく話をまとめといてね」
 と伝えて、また、この不便な箱の中へと戻った。大妖精は箱に向かって、一度頭を下げた後、帰っていった。
 それ以降、彼女達には会っていない。





 朝日が昇り、私はまた箱の外へ出ることができなくなった。
 太陽光線が燦燦と降り注ぐ。いつもならばやってくるはずの時間なのに小娘達はいない。当然か。
 彼女達がいなくなって、ちょっぴり部屋が広くなったよ。なんてフレーズが頭に浮かんだけれど、しかしそんなことは全然無い。何が起ころうとも箱は箱のままで変わることはないのだ。
 では、私はどうか。今までの私は、とにかく永遠亭に戻ることを考えていた。なのに、いざ戻ってきて、その気になればもう自分の足ででも帰れる場所まで来ているにも関わらず、相変わらず私はここにいる。
 もし私が永遠亭に帰ったとしたら、永琳はまずなんて言うだろう。不慮の出来事とはいえ、長い期間閉じこもっていたあの場所から、煙のように消えたのだ。程度はどうであれ、安否を心配するような感情くらいは抱いているだろう、とは思う。
 いや、そうかな。私がいなくなる前に永琳と喧嘩をし、そのことが原因で私はあの場所から出ていくことを決めた。道筋は違えど私は永遠亭を出て行くことを決めていたのだ。永琳ならば、まるで見透かされたかのように察しがついている、そんな気がする。
 ああそうか。私はようやく理解した。
 つまり、恥ずかしいのだ。このまま永遠亭に帰ることは、まるで帰ることを前提とした子供の家出。自分の無力さを知りながら、子供らしい精一杯の主張を訴えるのだ。
 永琳は従者だ。いや、従者であれ何であれ、結果としてそのような態度を示してしまうことを、私のプライドは許しはしなかった。
 私が選べられる選択は、恥を忍んで永遠亭に戻るか、このまま箱の中に居座り続けるか、この二つ。そして、たとえ箱の中に居続けたとしても、そのまま事態が丸く収まるということは、決してない。結局私は、どれだけあがいても、あの場所へと帰るということになる。「たすけて。えーりん」と言いながら。
 ならばいっそ今すぐにでも。
 いや、 
 でも、
 だが、
 しかし……
 
 そうこうと悶々している時だった。いつやって来たのか、箱の外から音が聞こえた。
「誰か入っているのか? おーい」
 声とともにぞんざいなノックが二回、箱の中に響いた。
 礼儀正しいといったわけではなく、かといって箱の上で勝手に寝たり、いきなり凍らせてきたりするほどの度を越えた礼儀知らずというわけでもなかった。
 けれども、そいつは運の悪いことに時期を誤った。私はどれだけ足掻いても、その先には、永琳に対して自分の信念を曲げなければいけない事態があるという事実に直面して、気が立っていた。そのせいで彼の行為がよりふてぶてしく感じてしまい、不愉快に思った。
「何の用よ。私は今考え事で忙しいの。用がないなら話しかけないでちょうだい」
 声の主は何か言いたそうな様子だったが、私が間髪いれる間もなしに「どっかいけ」とけしかけると、逃げるように去っていった。
 結局、その日も結論は出なかった。私は箱の中でごろごろしたり、漫画を読んだりしながら時間を潰した。
 翌日も、これといった進展のないまま時間だけが過ぎた。お腹が空いているはずなのに、これといって食欲が湧かない。私はチルノの描いたラクガキと大差ない程度の漫画を、飽きることなく何度も読み返していた。
 外から箱をノックする音が聞こえた。昨日の人物だった。
「昨日はすまなかったな。怒らせるつもりはなかったんだ」
 声の主はやはり昨日の人物だった。本当に悪く思っているのか、気の落ちた様子で、昨日のあのふてぶてしさが今日は微塵にも感じなかった。あまりの態度の変容だった。私はついふきだしてしまった。
「な、なんだよ。私は真剣に謝ったんだぞ。笑うことはないだろ」
 箱の外の人物が怒った。金属板一枚隔てても、その気恥ずかしそうな様子がよく分かった。
「だって、まさか謝りに来るとは思いもしなかったもの。私が一方的に追い出したはずなのに、しかも一日経ってから来るところがまた、ね。」
「別にいいだろ。謝ったんだし」
「何。謝ったんなら何をやってもいいって言うの」
「い、いや。そういう意味で言ったわけじゃないんだ」
「知ってるわ。冗談よ」
 箱の外の人物が拗ねた。
「悪いなんて一言も言ってないわよ。ただ律儀だなって思っただけ」
 私は、ああ、かわいい奴だな、と思った。そのときにはもう、すっかり目の前の人物に気を許していた。
 それからもその人物は度々私のところへやって来るようになった。彼は自ら名前を名乗ろうとはしなかったが、私は立場上、自分の名前を名乗りたくなかったので、それはむしろありがたかった。
 そいつは迷いの森の近くに居を構えているらしい。人間の里へはいかないのかと聞くと、
「あそこはなんなく居づらいからいいのさ」と言った。
 そいつは毎日私の所へ来るようになった。頼んでもいないのに、竹の皮で包んだおにぎりを持ってきては「腹が減っただろう。やる」と言って、箱の中へ無理やり押し込んだ。
 私は躍起になって
「余計なお世話よ」と突き返そうとするのだが、相手も頑固でいっこうに受け取ろうとはしない。結局、空腹に負けてそれを食べるのが常だった。
「あなたのやっていることは、ただのおせっかいで、私はそれに喜んで感謝したりは絶対しない」
「あなたが来なくとも私は少しもかまわない」
 いつの間にか、この言葉が私の口癖となっていた。おかしな話だが、私は初めこの箱に閉じ込められたとき、いや、永遠亭で生活をしているときから、人に物事を命令、もしくは頼むことに関して、全く抵抗を感じることはなかった。けれど、この箱の外にいる人物が、私が命令することもなく、今みたいに食事を持って来たりすることに、私は内心、恥ずかしさを感じてしまっていた。
 しかし、それも一時のことであった。同じことが数日と続いた頃には、私はもう、この人物の好意にすっかり慣れてしまっていた。
 それでも、私は感謝だけは決してしようとはしなかった。この気恥ずかしさと、何千年もの間、姫として培ってきたプライドが私を意固地にさせていたのだ。
「よう。今日も相変わらずのようでなにより」
 だが向こうはさして気にしていないようだった。
 別の日、そいつは毎日米ばかりじゃ飽きるだろうといって、鍋にいくつかの材料を持ってやって来た。
 そいつは慣れた感じで集めた薪に火をつけ、調理を始めたのだが、火が思いのほか燃え広がったため、危うく山火事になるところだった。
「焼き殺す気か!」
「すまんすまん」
 彼は笑っていた。私は彼に、とにかく火だけは使うな、と再三にわたって忠告した。





 この生活が数日続いた。なのに私たちは相変わらずお互いのことを知ろうともしなかった。まるでそれが日々の営みのひとつであるかのように、彼は私に食事を差し出し、私はそれを何事でもなく受け取った。
「なんというか、お供え物をしているような気がしてきたよ」
 彼が言った。それは的を得ているような気がした。
 それからまた、数日が経った。竹の皮に包まれたおにぎりを身ながら、私はふと疑問に思った。
「ところであんた、こうやって毎日飽きもせず食べ物を持ってきているけれど、平気なの」
「いまさらその心配をするのかよ。でもまあ大丈夫だ。あんたが思っているより私ん所は裕福だからな。その飯だって今日炊いた分の余りさ。有り余ってるから、いつもつい調子に乗って必要以上に炊いてしまうのさ」
「そ。ならいいけど」
 おにぎりを頬張った。中身は昆布だった。私は昆布が嫌いだった。彼がいなくなるのを見計らって、私はおにぎりの残りを外へ投げ捨てた。
 私は思った。
 この生活も、それほど悪くはない。永遠亭での、食指を動かすだけで、何もかもが思いのままになる生活に比べれば、この箱の中は耐えられるはずのない程のものだった。しかし日が経つごとに、私はこの人が住めるとは到底思えないような空間に、体が適応していった。今では、足も満足に伸ばせないようなこの場所で、低反発まくらもなしにゆったりと安眠できるようになるまでに至っていた。元々、活発的に外へ出かけるような性格でもなかったのだ。
 このまま、ほとぼりが冷めるまでここにいよう。そう私は思った。





 そしてそれからさらに数日経った時のことだった。例のあの、おせっかい焼きの様子が徐々におかしくなっていった。
「よう。飯持ってきたぞ。今日もいつもどおりの握り飯だ」
 箱の中からなので、くわしくは分からないが、どうも元気のないようすだった。いつもどおりに接してくるが、声に張りがない。接していると、初めて会った時よりもぼーっとしている場面もちらほらあった。私が話しかけても気付かないなんてこともあった。
「あー待った。何の話だっけ」
 こんな有様だ。
「あんたどうしたの。最近になって、どうかしてるよ」
 おにぎりを一口齧りながら、私は言った。ふっくらとした米は、炊いてからあまり時間が経っていないようで、まだうっすらと熱を帯びていた。
「何を言ってるんだ。私はいたって健康だが」
「なんでそこで健康なんて言葉がでてくるの。私はどうかしてるとは言ったけれど体調については話していないわ。てことはあなた、やっぱり何か隠してるでしょ。体調について」
「……」
「ごはん、食べてないとか」
「そんなわけないだろ。むしろ食べすぎで困ってるぐらいだ」
「そう。ところで今日のごはん、炊き込みがいまいちね。まだすこし芯が残っているわ」
「あ、あれ。本当か? いつも通り炊いたはずなんだけど…」
「まあ、嘘だけどね」
 沈黙が流れた。まさかこんな簡単に引っかかるとは思いもしなかった。そいつはしばらく黙っていると、観念したかのように「分かったよ」と弱弱しくしゃべった。
 彼は、ゆっくりと語り始めた。自分には友人がひとりいて、その人が困っている人を見つけたら、自分の身を削ってでも助けるような人物であること。彼女の友人である自分も、それを見習おうとしたこと。元々自分には、自分が食べていけるだけの食料しか持ち合わせていなかったこと。しかし、それももうなくなって、明日には友人に助けを求めに行こうと思っていたことを話した。
 私はその話を黙って聞いた。黙って最後まで聞き、話し終えるのを聞き届けたと同時に私は、
「阿呆かお前、ふざけんな!」
 気づいたら言っていた。
「え……」
「え、じゃないわよ、あんた。何きれいごと言ってんのよ私はね、そんなこと勝手にやられても迷惑千万なだけで不愉快なだけだわあんたなんて絶対に感謝なんかしないからね!」
「ん、あ、その……すまん」
「あやまるな!」
「……っ!」
「いい、これだけは言ってやる。あんたが身を削って持ってきた飯なんてね、おいしいわけがないのよ! バカ!」
 沈黙が再び訪れた。彼は黙ったままだった。私は時間が経つごとに冷静さを取り戻していた。
 しばらくして、ついに堤が切れた。
「さっき渡したおにぎりだけど、ひとつ返してもらっていいか」
「てめえなんかに食わせてやる米はねえ。さっさと返しやがれ。この屑人間が。と言ったら返してやる」
「え…あ。て、てめえなんかに……何だって」
「もういいわよ。ほら」
 私は返した。
「うん。うまいなあ」
「自画自賛かよ」
 そういいながら、私も食べた。悲鳴をあげた。具は昆布だった。外で彼が笑った。私は壁を殴った。不思議と痛くはなかった。





「それじゃあ行ってくるよ」
 彼は言った。
「夜のうちに行って大丈夫なの」
「なんとかなるよ。伊達に群れから離れて生きてはいないからね。腕っ節には自身があるのさ。それに…」
「それに?」
「もう食料は全く残ってない。さっき食べたので全部さ。まあでも昆布だけは全部使えずに残っているけどね」
「ぼさっとしてないでさっさと行きなさい」
 そうしてまた一人になった。彼に出くわす危険もないので、久々に外へ出ることにした。箱の外の世界はとても冷えていた。静かで、何もなかった。銀色の月がしばらくぶりに私の前に顔を出した。須臾の間、箱の中で閉じこもっている内に、世界が終わってしまったのかと思えた。私は、急に寂しくなった。
 明日になれば、また例の人間がやってくるだろう。今度もまた頼みもしないのに私に食事を運んでくるのだろう。彼は、友人に助けを求めに行ったが、それもいつまで続くかは分からない。
 そろそろ潮時だな。
 私は永遠亭に帰ることに決めた。
 空に向かって大きく伸びをした。体をゆっくりほぐして、帰る準備をした。それが終わると、私はあの、数日の間、生活を共にした箱に向かい、パチンと手を合わせた。
 いままでご苦労様でした。これからの長い人生、ここまで長くあの中に居座り続けることは、どれだけ数奇なめぐり合わせであっても、もう二度とないことでしょう。ファック。パチン。
 そしてもうひとつ。あの箱の前で毎日、一度も休むことなく私の前に現れては、恩を着せるといった風でもなく、食事を出し続けた例のお人好しに、彼が今箱の前にいる様子を頭の中で思い浮かべて。
 ありがとう。と言ってやった。
 当然それは本人に届くことはない。でもまあ私はあいつに、絶対に感謝はしないって言ったんだし、さっきのもいうならば気紛れみたいなもので、うん、その、いいでしょ。
 さあ帰るか。





 さて、永遠亭に帰ることとなって、私が一番憂いていたのは、永琳であるが、やはりその通りで、私が何の音沙汰もなくいなくなって、しばらくしてやっと帰ってきて、しかも屋敷内で迷子になるというサプライズをしでかしたにも関わらず、彼女だけが、
「家出はもう気が済みましたか」
 だって。ズカズカと言ってくるね。疑いたくなるわ。お前はほんとに私の従者かと。よっぽど溜まってたんだろうねえ。あーコワ。
「はいはい、気が済みました。だから小間使いにすぐに風呂沸かしてご飯の用意をしてと伝えといて。まったくもう。自分の家だから迷うことはないだろうと思ってたのに、ああこまめに外にでないのがいけないのかしらねえ」
「まあその程度ならば」
 そういえば永琳に会う前にあのたばこの火を押し付けられたイナバにも遭遇したのだが、これもまた以外だった。
「おかえりなさいませ、姫様。まさかこれほどまでに長く、第二の定住地の探索活動をなされるとは思いもしませんでした。それほどまでに決心が固かったのですね」
「ま、まあね。いやーホント結構骨が折れたわ。ははは…」
「すいません」
「……はい?」
「私、やっぱり永琳様を裏切れません。たばこの火を押し付けられたり、灰皿で殴りつけられた後、血が出てるにも関わらず散らかってしまった床を掃除させられたり、屑だ屑だと罵られたりしますが、でも、本当はおやさしい方なのです」
「そ、そう」
 話がややこしくなりそうなので、この話はまた別の機会にしようと思う。
「あーそうだ」
 私は永琳に声を掛けた。
「何ですか」
 永琳が応える。
「それと出かける準備もお願いね。あんな狭っ苦しいところに長らくいたせいか、体がどうもなまっててだるいのよ。久々に運動がしたいわ」
「外へ出かけていたのにずっと引きこもってたんですか」
 永琳の目は怪訝だ。
「それじゃあよろしく」
「ところで運動と言いましたが、具体的には何をなされるおつもりで」
「決まってるじゃない」
 私は言った。
「殺し合いよ」





 数ヶ月ぶりに、私は人間の里へと来ていた。古くからの友人に会うためである。
 友人は、本業である歴史的文献のまとめをはじめ、里の警護、寺子屋と、多忙な生活を送っていた。それでも、連絡をとらないで来たにも関わらず、彼女は快く私をもてなしてくれた。
 久々の出会いに、私達は親睦を深め合い、積もる話に花を咲かせてたのだが、間を読んで、私は彼女に会いに来た目的を語った。
「なるほどな。そこまで生活が困窮していたとはな」
「ごめん、慧音。そういうわけだがら、少しばかり、食料を貸してはくれないでしょうか」
 友人はこの頼みを二つ返事で聞き入れてくれた。彼女は私が思っていたよりも、たくさんの食料を私に押し付けた。私が、こんなにも受け取れないと拒むと、彼女は、
「本音を言うとな、私は妹紅がいの一番で私を頼りにしてくれたことがうれしかったんだ」
 という。本当に彼女には足を向けて寝られない。
「ついでにこれも持って行くといい」
 彼女は巾着に大量のかつおぶしを入れて、私に渡した。
「作りすぎて余ってしまったんだ」
 カレーとかだろ。そういうのは、普通。
 これにはただ笑うしかできなかった。


「しかし、妹紅。もう夜も更けている。遠慮せずに泊まっていってもかまわないのだぞ」
 私はそれを丁重に断った。
「ありがとう。でも私は帰るよ」
 友人は残念がっていたが「妹紅がそう言うのなら」と諦めて、せめてもということで、私を里の外まで送ってくれた。
「気をつけて帰るんだぞ」
「分かってるよ。何たって」
 私は言った。
「箱入り娘が待ってるからね」
 本当はもこてるの歯が浮くようなラヴラヴキュートな話が書きたかっただけなのに…
 だけなのにっ……!


 訂正し直しました。18さん、31さん、指摘ありがとうございます。

――電波少年?
 自分も思いました。だから題名を「箱輝夜」にしました。この箱も、「ありがとう」と言えばパカーンと開くシステムにしようと思ったのですが、実際やったとしたら、輝夜の人生は終わります。 
嫌な
http://hosizorakagekidan.web.fc2.com/index.html
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コメント



0.2130簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
大丈夫! 結構なラヴラヴキュートっぷりだよ!
9.70名前が無い程度の能力削除
面白いことは面白い。
文章力も申し分ないとは思う。
でも読み進めるうちに(似たような展開を持ったエピソードの連続なので)だれてきちゃうんだよねぇ。
いくつかのエピソードのうちいくらか削っても良かったと思う。
11.無評価秘月削除
電波少年?でしたっけ、あの番組の箱男を思い出しました。
輝夜も感謝の心を素直に出させるようになることを祈ってます。
12.80秘月削除
点数を入れ忘れました
17.90からなくらな削除
長かったー!でも、いい作品です
上から二番目の人と同じで、もーちょっと短くしたほうがいいかもしれませぬ
18.50煉獄削除
ちょっと長い感じもしましたが面白かったです。
えいりん怖いよ。
確かに箱入り娘でしたねぇ・・・・いろんな意味で。

誤字の報告します。
>どういう気持ちでいるかわ知らないが、~
ここ、「は」じゃなくて「わ」になってます。
20.80名前が無い程度の能力削除
これでもかってくらいNEETでしたねw
25.100名前が無い程度の能力削除
私好みの良い作品でした。
27.70名前が無い程度の能力削除
9の方と言いたい事はほぼ同じです。

最後のイナバに涙が止まらない。
28.90名前が無い程度の能力削除
かぐやがニートなのには納得がいかんが、もこてる分が最高でした!
そしてなんだかんだ言ってわがままを容認してるえーりんもw
30.70名前が無い程度の能力削除
面白かったです。何故か鉢かぶり姫思い出しました。四人組と妹紅のときでやってることが似ていて、読んでいて退屈してきたのがややマイナスでしょうか。個人的に、煙草の火押しつけられたイナバと永琳との関係が気になるw

>甘い果実に他なかった。
「他ならなかった」では?
>永琳が独断で設備したのである。
「設置した」では?
>では改めて姫様に遣わせて
「仕えさせて」では?
>永琳に酷い思いをされている
「させられている」では?
>下敷きを探してのたうち回ったていた
「回っていた」では?
>忘れたしまった
「忘れて」では?
>私は、いくら水を撒いても決して消えることのない永琳の憎悪の炎が、誰にも気付かれない内に、ゆっくりと、不気味に、燃え広がっていく様を想像して、私はぞっとした。
「私は」は一つでいいのでは?
>どういう気持ちでいるかわ知らないが、
「いるかは」では?
> ひどい損失感を覚えた。
「喪失感」では?
>彼女達に激を飛ばした。
「檄」では?
> 全く持ってその通り
「以て」では?
>その日は結論が着くことがなかった。
「結論が出る」では?
>なんなく居ずらいから
「なんとなく」「居づらい」では?
37.100名前が無い程度の能力削除
グヤとモコのそわそわ感は好きですね。
長い話もどっしり腰を落ち着けて読む分には十分だと思います。
41.90名前が無い程度の能力削除
>ちょっとモンハン取りに行っていいかしら
防寒具よりそっちが先ですか。

輝夜は満月光線は平気でも太陽光線はだめなのか。レミリアと友達になれそう。