Coolier - 新生・東方創想話

幽雅に鳴らせ、葬送のアンサンブル

2008/06/14 13:44:36
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黒く、纏わりつくような雨が降っていた。
傘をビタンビタンと打つそれは、憂鬱を助長する音色。

一人で歩く機会があったと思ったらこの雨なんだもの。
本でも読んでいるときは、雨の音色も幽美に感じるものだけど
こうして出歩いているときにはできればご勘弁願いたい。

自分で言っててとてつもなくわがままだとは思うけれど
歩くたびに撥ねる水や、ぬかるんだ地面に足がとられそうになるとか。
傘を持ちながら飛ぶと、バランスをとるのが難しいし濡れるしで。

とにもかくにも、アンニュイな気持ちがあふれ出していた。












雨が降ったから、今夜のライブは中止――。
そのことを、会場を設営してくれていた風見幽香に伝えるために
私は珍しく一人で行動していた。
普段は小うるさいメルランと、チョコチョコ後ろをついてくる可愛いリリカが一緒。
私たちは、いつも一緒。


「今日はルナサだけ? 珍しいね」

知り合いと会えば、皆がそう口を揃えた。
対する言葉はすべて同じ。

「まぁ、たまには」

長話になりそうな連中をかわし、太陽の畑に着くと、傘も差さずに風見幽香は佇んでいた。
よくもまぁこんな気持ち悪い天候で傘も差さずにいられるものだ。
声をかけようとすると、「残念ね、雨で」と彼女から話を切り出された。

「ああ、梅雨というのも厄介なものだよ、野外のコンサートが潰れてしまう」

「花たちも楽しみにしているからできればさせてあげたいのだけど・・・・・・」

思案顔の風見幽香に「たまには休養も必要さ」と言葉をかけ、すぐに立ち去ると彼女へ告げる。

「また晴れたときには手伝うわ」

「よろしく頼む」

ライブにはうってつけの土地と、花を使った演出をしてくれる彼女には正直頭が上がらない。
初めは私たちへの好奇心だったのかもしれないが、この関係もずいぶん長く続いている。
たぶんこれからも、夏が近づけば畑でのライブは増えていくことだろう。

しかし、雨は憂鬱だ・・・・・・。さっさと帰ろう・・・・・・っと、紅茶が切れていたっけ。

嗜好品を切らすのはいけない。
メルランが、リリカが、そして私が・・・・・・困る。

人間の里に行くのはあまり気が進まないのだが、紅茶を飲むというのはレイラがいたときからの習慣だ。
食事も集まって毎食摂っている。
本来私たちに栄養は必要ないのだけど、レイラは家族の時間を大切にした。
もちろん、私たちも家族との時間はもっとも大切なものだと思っている。
そのためにも、嗜好品の類の補充には敏感だった。



「すみません、ルナサ・プリズムリバーさんですよね?」

人里に入ってすぐ、後ろから突然声をかけられて、身構えながら振り向く。
怪しいものではありません――人間の少女が手をブンブンさせていてもたしかにおかしくはないのだが
こう、いきなりテンションが高いのもどうかと思う。

その思いは顔には出さず、少女の反応を待つ。
少女は一度深呼吸をすると、おもむろに口を開いた。

「不躾なお願いだとは思います。ルナサさんに、今日このあと、演奏をお願いしてもよろしいでしょうか」

「は?」

素っ頓狂な声が出た。
メルランは時折ソロライブに出かけることがある。
メルランの音楽は盛り上げ役としてはうってつけの音質であり、宴会なんぞには頻繁にお呼ばれしているようだ。

逆に私の音質は、その場の気分を盛り下げる、今まで一度もソロの誘いを受けたことなどない。
そんな私に、まさか白羽の矢が立つとは。

「父が、父が幽霊楽団の大ファンだったんです」

だった。
・・・・・・ああ、なるほど。

「お葬式?」

「はい・・・・・・。先日、亡くなりました」

目元を潤ませ、ぐすっと鼻をすする少女。
葬式のために呼ばれるというのも癪だが、それが私の音質だ。
仕方の無いことだと思う。

「父は、ルナサさんの大ファンでした。他には何の娯楽もせず、たまに妖怪と混ざって聞きに行く。
 母や親戚は、そんな父を変人扱いしましたが・・・・・・。私は違います!! 
 寡黙だった父は、幽霊楽団の演奏を、とくにルナサ・プリズムリバーさんの演奏を語るときだけはそれはもう熱っぽく語ってくれたものです
 いつか、お前もライブに連れて行ってやる――。そう言っていたのに、先月から急に体調を崩して、それで・・・・・・」

「はいはい、わかった。それで、葬儀は何時?」

「えっと、それがもう数刻後なんです・・・・・・。急にこのようなお願いを申し上げても
 引き受けてもらえるとは思いません、ですが、どうかお願いします」

少女が必死で頭を下げる。
そのせいで、傘は雨を遮ることを忘れてしまい、少女の服はドンドン透けていった。
殿方には嬉しい風景かもしれないが、長い時間こうさせるのは、女の私には気分がよくない。

「まぁ、そこまで言われたら私も断れないな。幸い、今夜のライブは中止だし・・・・・・」

「本当ですか!?」

喜色の色をたたえて、私にすがりつく少女。
まぁ、喜んでもらえて悪い気はしないんだけどもこちらにもやんごとなき用事がある。

「その、な。買い物を済ませて一度館に戻らないといけないんだ。葬式の会場を教えてもらえない?」

「は、はい。えっと、自宅なんですが、上白沢先生の住んでいる家の2軒右隣です」

「ああ、わかった。ありがとう」

それじゃあまたあとで――。
紅茶と、適当に洋菓子でも買って館に戻らないといけない。
それぐらいを買うのであれば、手持ちでも十分事足りる。





「あれ、姉さんお帰り」

「ああ、ただいまリリカ。はい、紅茶とクッキー」

妹へ袋を押し付けて、時計を眺める。
お茶を一杯飲むぐらいの時間は十分にあった。

「リリカ、メルランを呼んでお茶にしよう」

「うん、わかった。ルナサ姉さん?」

「うん? なんだいリリカ」

「なんでもない。ただちょっと、嬉しそうに見えたから」

身を翻して、トコトコ駆けていくリリカ。

嬉しそう、か。

そうかもしれないな。
これから、はじめてのソロライブが待ってるんだから。

「おー、紅茶だ紅茶だー」

「ちょっとメル姉! 重いからしなだれかからないで!」

「こら、メルラン、遊んでないで手伝え」

「はーい・・・・・・。ルナ姉、何かいいことあった?」

「別に・・・・・・。ああ、私はこれから用事があるから」

「あ、わかった。デートだ!」

「何もわかっちゃいないよ。
 くだらないこと言ってないでお湯でも沸かしなさい。
 リリカは皿を持ってきてくれるか?」

「ルナ姉は?」

「私はテーブル拭いておくから」

「「はーい」」

二人を送り出して、テーブルをフキンで拭き取っていく。
といっても、毎日掃除しているものがそうそう汚れているものでもない。
あっさりと私の仕事は終わってしまった。

リリカの仕事も皿を持ってくるだけ、ほどなくして戻ってくると、リリカもそのまま席についた。

「メル姉、遅いね」

「そりゃ、お湯を沸かすのが一番重労働だしな」

「クッキー、袋から出しとくね」

袋を開け、皿にクッキーをあける。
バターをふんだんに使ったクッキーは、焼きたての香ばしい香りを放っていた。

頬が緩む。

やはり、お茶の時間は心が安らぐ。
リリカもクッキーを並べながら、ウットリとした表情を浮かべていた。
そのままなんとなく黙り込み、台所から聞こえてくるメルランの鼻唄だけが屋敷に響く。



「・・・・・・こう、つまみぐいしたらさ。レイラは怒るんだろうね」

リリカの口から不意に零れ落ちる言葉。

「ああ、そうだな」

紅茶はまだかしら。
そういえば昔は、メルランに細かいことを頼むとロクなことがなかったっけ。
お茶を淹れる係は、私とリリカとレイラで交代制だった。

「おまたせー」

「お帰りメルラン」

でも、今はメルランが一番上手。
時間が経てば変わるものだ。



「美味しいね、このクッキー」

3人で囲むテーブルは、いつもどおり物足りなさが漂った。
食事時と、お茶の時間はいつもそう。

『せめてこの時間は、家族みんなで過ごそうね』

そう言っていた当人が、もう居ないんだから。





「それじゃあ、少しでかけてくるから」

「うん、気をつけてね」

「いってらっしゃい、ルナ姉」

妹たちの見送りを受け、どんよりとした雲の下、人里へ飛ぶ。
約束の時間には問題なく間に合うだろう。

半獣の家は里のど真ん中、探すのに苦労はしない。
囲いこまれてるのか、自らの意思で人を守っているのか。
交際は深くないため、その辺の機微はよくわからないが、奇特な者なのだろうとは思う。

そうこう考えているうちに、喪服で身を包んだものが多くいる場所――つまりは今日の会場へとついた。
意外と名士だったんだろう、人里でもここまで大きな家はそうはない。
もしかしたら名主や、農家を仕切っている家なのかもしれない。

さて、どうしたものかと家の前で思案していると、私のところへ先ほど出会った少女が駆け寄ってきた。

「ルナサさん、きてくれたんですね」

「ん、まぁ約束を無碍にする気はないよ」

「そうですか。お経をあげ終ったあとに、父が愛した音楽ということで演奏していただきたいのですが、よろしいですか?」

「ああ、それじゃあ出番が来るまで私は外にでもいるよ」

「ああいえ、控え室といってはなんですが、空いている部屋があるのでそこで待機してもらえたらと」

「そう、じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」

「それじゃあ、こちらです」

彼女の先導で、人の群れを抜ける。

「幽霊楽団だ」
「なんでこんなところに?」

横を通り過ぎると、そんな声が端々から聞こえてきた。
それにたいして、「旦那さんは幽霊楽団のファンだったんだよ、変わり者だったんだね」という声もちらほら。
人間にも名前は売れている、しかしそれが必ずしも良い評判ではないということは嬉しいような嬉しくないような。

周囲の言葉は気にならない、少女はそう言いたげに私の手を引いて、客室のひとつへと案内してくれた。

「時間になればお呼びしますので、それまでゆっくりなさってください。
 ご入用のものがあれば今お持ちしますので。
 お茶やお菓子なんか・・・・・・えっと、食べれますか?」

「あぁ・・・・・・。気遣いはいらないよ。私たちは食べなくても平気だから」

「そうですか、それじゃあ私はまだすることが山ほどあるので・・・・・・。それでは」

そのまま駆け去っていく少女。
気丈な子だと思う。
父親が亡くなったというのに、自らの役目を果たそうと必死にがんばっている。

キュっと、無意識に拳に力が入った。

せっかく呼ばれたんだ、彼女の顔に泥を塗るような演奏をしてはならないな。
私に出来る、最高の演奏をしよう。

そう、心に決めた



半刻も部屋で待っていると「ルナサさん、そろそろ」と呼びかける声がした。
集中も済んでいる、今日の演奏は、きっと最高のものになるだろう。

少女に連れられ葬儀の場へ入ると、予想以上の人間が悼み、泣いていた。
無論のこと、少女の目元も赤く腫れている。

「皆様、父が愛した幽霊楽団の方に今日は着ていただきました。
 今しばらく、ルナサ・プリズムリバーさんの音へと耳をお傾けてくださいませ」

少女が頭を下げ、敷かれている座布団の1番前へ座る。
隣に居る女性が母親なのだろう、顔つきや雰囲気が似ている。
ハンカチで目を押さえる女性の背中を優しく撫でる少女。

この場に、私に出来る、最高の音を。

「それでは、【天空の花の都】を、演らせていただきます。
 お亡くなりになった、旦那様の魂が、無事あの世へと辿り着けますよう」

シンと静まり返った室内に、ヴァイオリンの音が優しく滑り出す。


演奏をしながら、私は昔のことを思い出していた。

レイラ、私たちを生み出した母であり、私たち3人の大事な妹。
マジックアイテムから生み出された『モノ』に魂を与えてくれた、命をくれた大切な妹。
共に時間を刻み、笑いあい、時にはケンカをして・・・・・・。
感情の欠片もなかった私たちの造形を一生懸命に育て上げてくれた、敬愛すべき妹。

――レイラは人間であり、私たちは騒霊。

瑞々しかった肌はいつしか皺を刻み、艶々の髪も潤いを失った。
それでもレイラはいつも笑顔であり、私たち3人の間にも笑顔は絶えなかった。

『家族の時間を、大事にしましょう』

仮初の存在に依存したレイラ。
仮初の存在である私たちを家族として迎え入れてくれたレイラ。

『あなたたちも、私たちの姉さんだった』

きっとレイラも気づいていたんだ。
自らの行為がどれだけ虚しく、哀しいものだったのかを。
彼女の死を見送るものは私たち以外に居なかった。

しわくちゃの手を握り締め、リリカはボロボロ涙を流していたっけ。
メルランも、いつもの陽気さはどこかに潜めて、俯いて唇を噛んでいた。

別れはいつしか、誰しもに訪れる。
頭では理解していたって、そんなのを受け入れることができるわけもなく。

『姉さん。歌が、歌が歌いたいよ』

彼女の葬送曲として選ばれたのが、レイラがはじめて作った曲。

【幽霊楽団 ~ Phantom Ensemble】

それまでも、そしてそれからも、そのときほどひどい演奏も無かったと思う。
リリカは音を外すし、メルランのラッパはぶつ切り。
私のヴァイオリンも、ギコギコ濁った音を立てるばかり。

それでも、か細い声で彼女は楽しそうに歌った。

『ありがとう、姉さん』

最後の体力を使い切ったのか、目覚めぬ眠りについたレイラを起こさぬよう。
私たちは、声を殺して泣いた。



しばらく、3人とも何もしない時期が続いた。
食事も摂らず、顔も合わせず。
そんなある日、メルランが私たちをロビーに呼び出した。

「ライブを開きましょう。レイラが愛してくれた、私たちの音楽を広めましょう」

もちろん私もリリカもそれに反対しなかったし、腐っていくよりも何億倍もマシだと思った。



――演奏を終えると、葬儀に集まっていた人間たちが、滝のように涙を流していた。

「やりすぎだよ、ルナサ・プリズムリバー」

すくっと一人が立った。
歴史の半獣、上白沢慧音だ。

「お前の音は、人間には刺激が強すぎるんだ・・・・・・。
 葬送曲としては素晴らしい演奏だったが。
 ・・・・・・少し、身が入りすぎたな」

そこで一旦、言葉を切る。

「すまないが、もう帰ってくれないか。
 これ以上お前が演奏すれば、皆の心が壊れてしまう」

苦渋の決断だということは十分に伝わってきた。
目を真っ赤にし、時折グイと目元を拭う。
それでも、私を真っ直ぐに見つめてくるというのは、彼女なりの私への誠意なんだろう。

「・・・・・・そうだな、私はこれで帰らせてもらうよ。この後は宴席を持つんだろう?
 これ以上空気を重くすれば、もうそれどころじゃなくなる・・・・・・。すまないがあとのことを任せてもいいだろうか?」

「ああ、任せてくれ」

「・・・・・・それじゃあ」

人々の、おいおい泣く声を背に、私はその場を後にした。

早足で邸内を出ると、その場で叫びたい衝動に駆られた。
所詮、私の音楽は、人を陰鬱な気持ちにさせてしまうのか。
葬儀という場であっても、やりすぎと捉えられてしまうのか。

ツゥーと、頬を涙が伝った。
悔しさと、悲しさと、よくわからない感情が入り混じった涙だった。







「ただいま・・・・・・」

「あれお帰り、早かったね」

トボトボと屋敷に辿り着くと、リリカがロビーで紅茶を飲んでいた。
そこに、メルランの姿は見当たらない。

「リリカ、メルランは?」

「メル姉なら部屋だよ。ちゃんと音が出てるかのチェックだって。
 メル姉って、演奏に関しては凄いシビアだから」

そういって紅茶を口に運ぶリリカ。
クッキーの数は、私が屋敷を出るときよりも相当減っていた。
なんとなく口篭って、対面のソファーへと腰掛けるが、何も言葉が紡げない。
しばらく無言でいると、リリカが小さなため息をついてから話を切り出した。

「それで、ソロはどうだったの?」

はっと顔をあげると、リリカは普段どおり悪戯っぽい笑みを向けてきた。

「何年、付き合ってると思ってるのさ。
 姉さんがソワソワしてることぐらいわかるよ」

そういって、紅茶を置くリリカ。
クッキー食べる? と勧めてきたが、やんわりとそれを断った。
表には出さないと決めていた感情が、堰を切って流れ出してきたから。

「大失敗、だったよ・・・・・・。葬儀での演奏だったんだ。
 でも、身が入りすぎて・・・・・・。人間には・・・・・・私の演奏が強すぎるって・・・・・・」

しょぼくれて顔を伏せる。
内心張り切っていたことを思い出すと、余計に惨めだった。

「そうだね、ルナサ姉さんの演奏には、私とリリカがいないと」

「あ、メル姉」

「さ、姉さん顔洗ってきなよ。
 今夜は人里で突発ライブだよ」

「え?」

顔をあげた瞬間、二人はぷっと吹き出した。
よほどひどい表情をしていたに違いない。
急に恥ずかしくなって、また顔を伏せる。

「姉さん、顔洗ってきなよ。メル姉だって私だって、ずっとスタンバってたんだから」

「プリズムリバー三姉妹の演奏を、人間たちにも聞かせてあげよう?
 人間たちにも教えてあげよう。私たちは、3人揃って幽霊楽団なんだってことを」

「あ、ああ・・・・・・。待ってろ! 私もすぐに顔を洗ってくるから!」

「うん、やっぱりプリズムリバーは」

「家族全員、揃ってなきゃ」







宴席。
慧音は場を必死に盛り立てようと努力はしていた。

しかしルナサの演奏が効いたのか、はたまた、強まった雨脚が憂鬱な空気を育てるのか。
集まった人々はぼそぼそ小声で会話するばかりで、すすり泣く声のほうが大きく聞こえるという有様。

なんとかするといった手前、それを裏切るつもりは毛頭ない。
しかしその気持ちは燻るばかり。
空回りしている現状が、慧音の焦りを増大させていた。

歴史を食うか、いや、そんなことはルナサ・プリズムリバーへの侮辱になる。

どうしたものか・・・・・・。
注がれた酒を煽り、故人の娘である少女を見やる。
酒を注いでまわってはいるけれど、その表情にはどこか、後悔の念のようなものが透けて見える気がした。

何もできない歯痒さと申し訳なさの同居が、ついに慧音を狂気の段階まで引き上げようとしていた。


一発芸しかない。
この現状を打開するには、もうそれしか残されていない。

焦りが、慧音の判断力を奪い去った。
すっくと立ち上がり、注目してくれ! と叫ぼうとしたその瞬間。

外から柔らかい音色が聞こえてきた。
物悲しくも活力に溢れた、幽霊たちのアンサンブルが。

誰もがすすり泣くのを止め、流れてくる音に耳を傾ける。
トランペットのソロが響き渡り、沈んでいた人々の目に光が灯る。

「そうだ、いつまでも悲しい顔をしていたら、いつまで経っても送り出せないじゃないか」

「せっかくの宴席なんだから、盛り上げないと損じゃないか」

誰が言い出したか、はじめはポツポツと、次第にその流れは鬱屈した雰囲気を洗い流す大きなうねりとなった。
笑い声が、故人の思い出を語る声が、宴席に戻ってきた。

「・・・・・・結局、美味しいところはもっていかれたわけか」

ボヤく慧音は、酒を注いでまわる少女に笑顔が戻ったのを見て、大きなため息をついた。
グイっと、コップに残っていた酒を一息に飲み干し、少女へとお代わりのアピールをする。

「上白沢先生、どうぞ」

「ああ、どうも」

そうして注がれた透明な酒を宙に透かせ、今にも泣き出しそうだったルナサ・プリズムリバーの表情を浮かべた。

そのときちょうど、外からヴァイオリンのソロが流れ込んでくる。
そこには、悲愴な音などこれっぽっちも存在しない。

「・・・・・・やられたよ、幽霊楽団。お前たちは、本当の意味でプロだったな」

ルナサ・プリズムリバーの見事なまでの汚名返上振りに、幽霊楽団の人気の根強さの理由を得心した慧音だった。








余談ではあるが、上白沢慧音はその後、幽霊楽団のライブに足を運んでいる姿が幾度となく目撃されている。









~エピローグ


◆『上白沢慧音による、プリズムリバー四姉妹の歴史の編纂』



今日も屋敷のロビーには、仲の良い姉妹が集まって紅茶を楽しんでいる。
彼女らを繋いだ存在は、もうこの世には存在しない。
それでも彼女らは、妹の死を悼み、今も愛し続けている。
時折館から聞こえてくるという演奏は、練習の音か、亡き妹に捧ぐ鎮魂曲か。
どちらかといえば内輪に固まり、不器用な彼女らではあるが、悪い妖怪の類ではないことをここに記す。



◆『稗田阿求のメモ』



私の昼寝中、人里で演奏する迷惑な妖怪。
阿Qちゃん、衣玖さんのところにお勉強にいってください・・・・・・。
次はたぶんギャグ。
シリアスやほのぼのをいくら書いても、一度ついたイメージは払拭できないようです。
電気羊
http://ayayayayayayayaya.blog43.fc2.com/
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コメント



0.2830簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
良いルナサです。
4.100にらたま削除
やはり幽霊楽団は3人そろってないとですね。

メルランとリリカがGJでしたWWW

次回作も期待してます^^
10.90名前が無い程度の能力削除
>シリアスやほのぼのをいくら書いても、一度ついたイメージは払拭できないようです。
いやいや。そんなことはないですよ。
最後の小ネタ(AQN)が原因かとwww
まぁとにかくGJ
12.90名前が無い程度の能力削除
これはいいルナサですね。
慧音wwwあやうく一発ギャグが一生もののトラウマになるところだったなwww
阿⑨さん・・・あんたって人は・・・・
15.90名前が無い程度の能力削除
>一発芸しかない。


作者は俺の期待を裏切りやがった。
だが、それがいい。
19.80名前が無い程度の能力削除
けーねの一発芸が気になって夜も寝れません。
あとAQNがサタデーナイトフィーバーしてるとこまでは幻視した。
20.無評価名前が無い程度の能力削除
やっぱり、プリズムリバーはいいなぁ・・・
21.100名前が無い程度の能力削除
点入れ忘れてましたw
28.100名前ガの兎削除
なんと、これは上手い。
やられた、楽団姉妹がいいとこもって行きすぎだぜ。
29.90からなくらな削除
ほー・・いいですね
37.80名前が無い程度の能力削除
あれ?ディスプレイが壊れたかな
文字がゆがんでよく見えねえ
38.90名前が無い程度の能力削除
慧音先生、無茶は…無茶は止めてください!

あと、あっきゅん。残念だけど、いくら寝ても、もう成長しないよ。主に、俺の念力のせいで。
40.無評価名前が無い程度の能力削除
これはいい家族。
43.90名前が有ったらいいな削除
慧音の編纂が「四姉妹」なのが泣いた。
64.100名前が無い程度の能力削除
か…漢だ
67.100名前が無い程度の能力削除
>一発芸しかない。
プリズムリバーが来るのがもう少し遅ければ、
間違いなく黒い歴史が一つ刻まれていただろう……
70.100名前が無い程度の能力削除
いい幽霊楽団でした。



悪いけーねでした。
72.100名前が無い程度の能力削除
ルナサの優しさと繊細さが伝わってきました。そして、やっぱり三人そろってこその幽霊楽団!誰が欠けてもダメなんですね!!しかしプリズムリバーは宴会から葬式まで、何とゆー守備範囲!! ギャグもシリアスもこなせる幻想郷のスターです。