朝、眼を覚ましてわたしは指輪を見つけた。
「綺麗だなー。わはー」
それは朝日を反射し、銀色に輝いていた。
わたしが住んでいる森、いつものお気に入りの大きな木に背中を任せて座り、その指輪をじっと眺めていた。
どう考えても人間の物だとわたしは判断した。
そう言えば、人間の物はちゃんとそれに関わる人に返さなければいけないと、偉そうな半妖が言っていた気がする。
このまま無視してもいいのかもしれないがどうせ今日も暇だし、せっかくだからあの慧音とか言う奴の所に持っていってみよう。
「そうと決まればレッツゴー! 突撃十進法!」
薄く霧がかかり、朝の温度で冷やされた森を、わたしはいつものポーズで走り抜けた。
「ほう、それで私の所に来たのか」
「そうだよー」
慧音の家で椅子に座り、温かいお茶を飲みながら答えた。
「うんうん感心感心。最近またおかしな異変のせいで、妖怪たちを嫌う人間が増えてしまったからな。
私の寺子屋に子供を預けようとする親が減ったことからもそれがよく分かる。
まったくもってけしからん。容姿に角や牙があると言うだけで、こちらの話をまともに聞こうとしない人間のなんと多いことか。
だがルーミア。お前のように人間のことを気にする妖怪がもっと増えれば。このつまらない隔たりはきっとすぐに無くなることだろう」
「そうだねー」
何を言っているのかよく分からないため、適当にうなずいておいた。
「これがその指輪か」
慧音は指輪を指でつまみ、いろいろな角度からそれを観察していた。それで何か分かるのだろうか。
わたしがお茶を飲み終えるころ、調査結果が出た。
「これはあいつの嫁さんの物だな。指輪の裏側に名前が彫ってある」
「ふーん、それじゃあ、わたしはもう帰るね」
立ち上がり、帰ろうとしたわたしの腕を慧音が「まて」と言いながらつかんだ。
「今日、私は授業で忙しいんだ。代わりにお前があいつの家に届けてやってくれ」
えーめんどくさい、と言おうとしたわたしの口は慧音の恐ろしく力のこもった瞳によって動きを止めた。
「これは妖怪にも話の分かる奴がいると、人間に覚えてもらうチャンスなんだ。ぜひお前に行ってほしい。
分かるよな?」
わたしは理解した。断れば頭突きをお見舞いされるということが。
「行ってきます! 突撃十進法!」
指輪と家の住所が書かれた紙を受け取り、その場から逃げるようにわたしは飛び出した。
慧音に教えてもらった人間の家を見つけた。
扉をどんどんと叩くと中から若い男が出てきた。その人間の顔は憔悴しきっており、とても不味そうだった。
わたしが指輪を見せると目を大きく開かせ驚いていた。
用事がすんだので帰ろうとすると彼が呼び止め、小さな飴がいくつも入った袋をくれた。
わたしが笑顔でお礼を言うと、お礼を言うのはこちらの方だと返された。
名前を聞かれたのでわたしはこう答えた。
「わたしは妖怪のルーミア。妖怪にだってわたしのように可愛くて優しい子もいるんだよ」
これで慧音に頭突きをされることはないだろう。
慧音の家に戻りこのことを報告した。
「それでこの飴までもらったのか。良かったな」
「うん」
報告を聞いている間、慧音はづっと笑顔だった。人間との隔たりが少しでも薄くなったことがよっぽど嬉しいようだった。
「どうだ、ルーミア。人間のために働いて良かっただろう。
このことをチルノやリグルにも教えてやれ。もっと多くの人間に感謝されるぞ」
慧音は腕を組んで力説していた。
正直、わたしにとって人間に感謝されるなんてどうでもいいことだった。
人間と妖怪の在り方とか、あまり難しいことはそんなによく分からないし興味もない。
だが、ご褒美があると言うのならば、たまにはこんなことも良いかもしれないと思った。
飴を口の中で転がしているわたしに慧音が質問してきた。
「ところでさっきの指輪どこで見つけたんだ?」
わたしは笑顔で答えた。
「朝、まだわたしの歯に引っかかってた」
それを聞いた慧音はなぜか顔を青くした。
、
「綺麗だなー。わはー」
それは朝日を反射し、銀色に輝いていた。
わたしが住んでいる森、いつものお気に入りの大きな木に背中を任せて座り、その指輪をじっと眺めていた。
どう考えても人間の物だとわたしは判断した。
そう言えば、人間の物はちゃんとそれに関わる人に返さなければいけないと、偉そうな半妖が言っていた気がする。
このまま無視してもいいのかもしれないがどうせ今日も暇だし、せっかくだからあの慧音とか言う奴の所に持っていってみよう。
「そうと決まればレッツゴー! 突撃十進法!」
薄く霧がかかり、朝の温度で冷やされた森を、わたしはいつものポーズで走り抜けた。
「ほう、それで私の所に来たのか」
「そうだよー」
慧音の家で椅子に座り、温かいお茶を飲みながら答えた。
「うんうん感心感心。最近またおかしな異変のせいで、妖怪たちを嫌う人間が増えてしまったからな。
私の寺子屋に子供を預けようとする親が減ったことからもそれがよく分かる。
まったくもってけしからん。容姿に角や牙があると言うだけで、こちらの話をまともに聞こうとしない人間のなんと多いことか。
だがルーミア。お前のように人間のことを気にする妖怪がもっと増えれば。このつまらない隔たりはきっとすぐに無くなることだろう」
「そうだねー」
何を言っているのかよく分からないため、適当にうなずいておいた。
「これがその指輪か」
慧音は指輪を指でつまみ、いろいろな角度からそれを観察していた。それで何か分かるのだろうか。
わたしがお茶を飲み終えるころ、調査結果が出た。
「これはあいつの嫁さんの物だな。指輪の裏側に名前が彫ってある」
「ふーん、それじゃあ、わたしはもう帰るね」
立ち上がり、帰ろうとしたわたしの腕を慧音が「まて」と言いながらつかんだ。
「今日、私は授業で忙しいんだ。代わりにお前があいつの家に届けてやってくれ」
えーめんどくさい、と言おうとしたわたしの口は慧音の恐ろしく力のこもった瞳によって動きを止めた。
「これは妖怪にも話の分かる奴がいると、人間に覚えてもらうチャンスなんだ。ぜひお前に行ってほしい。
分かるよな?」
わたしは理解した。断れば頭突きをお見舞いされるということが。
「行ってきます! 突撃十進法!」
指輪と家の住所が書かれた紙を受け取り、その場から逃げるようにわたしは飛び出した。
慧音に教えてもらった人間の家を見つけた。
扉をどんどんと叩くと中から若い男が出てきた。その人間の顔は憔悴しきっており、とても不味そうだった。
わたしが指輪を見せると目を大きく開かせ驚いていた。
用事がすんだので帰ろうとすると彼が呼び止め、小さな飴がいくつも入った袋をくれた。
わたしが笑顔でお礼を言うと、お礼を言うのはこちらの方だと返された。
名前を聞かれたのでわたしはこう答えた。
「わたしは妖怪のルーミア。妖怪にだってわたしのように可愛くて優しい子もいるんだよ」
これで慧音に頭突きをされることはないだろう。
慧音の家に戻りこのことを報告した。
「それでこの飴までもらったのか。良かったな」
「うん」
報告を聞いている間、慧音はづっと笑顔だった。人間との隔たりが少しでも薄くなったことがよっぽど嬉しいようだった。
「どうだ、ルーミア。人間のために働いて良かっただろう。
このことをチルノやリグルにも教えてやれ。もっと多くの人間に感謝されるぞ」
慧音は腕を組んで力説していた。
正直、わたしにとって人間に感謝されるなんてどうでもいいことだった。
人間と妖怪の在り方とか、あまり難しいことはそんなによく分からないし興味もない。
だが、ご褒美があると言うのならば、たまにはこんなことも良いかもしれないと思った。
飴を口の中で転がしているわたしに慧音が質問してきた。
「ところでさっきの指輪どこで見つけたんだ?」
わたしは笑顔で答えた。
「朝、まだわたしの歯に引っかかってた」
それを聞いた慧音はなぜか顔を青くした。
、
ただ、嫁を心配している割にはルーミアをあっさり帰した夫に少し違和感。指輪について色々訊くかと思ったんですが。
でも、この手の話でそれを指摘するのは野暮かもしれませんね。
十進法と書いてラブハートと読んだら素敵。
まさにルーミア
ルーミアはこうあってほしいな。
オチがそう来るとは思いませんでしたよ。
人を食べる妖怪なのだからそれは当然のことなんですよね。
ルーミアにとっては食事をしただけであり、彼や慧音にとってはそれで終わるわけでもない。
とても複雑ですよねぇ。
かたや人を糧にする者、かたや被捕食者とそれを守る者ですからね。
実際、どうすうることも出来ないでしょうしね。
飯は食料係が確か調達してくるとか書いてあったと思ったが
旦那が■した嫁の後始末をしてくれたお礼、なのか?
読んでいてすごくルーミアの「らしさ」を感じました。
やっぱり私も人間だな。
うまいこともっていったと思います。
突撃十進法!
超ほのぼの系と思ってたら…
いいオチでした
突撃十進法!
こういうオチが光る作品がたまりません。
星新一を思い出した
言ってるもんだからそこで読むのをやめようかと思った。
……最後まで読んだら点数やらコメント数に納得の鳥肌物だった。
ごめんなさい。秀逸なオチでござんした。
思えばコレは複線だったのかっ!!
まさにルーミア。
良いオチでした
ルーミアらしい気がしました。
妻の安否か、ルーミアに対する猜疑心か…
どちらにせよ若い男の人は気の毒だなあ。
ルーミアにとっては食事もでき、ご褒美ももらって申し分なしなのでしょうが。
これは結末を考えると、その部分の描写は邪魔になるのではないかと考えたからです。
しかし、あまりにも簡単に書きすぎた気もします。
そのあたりのことはよく意識して、次の作品に生かしていこうと思っています。
でもなるほどと納得。面白かったです!
名月祭ではお世話になりました。色々と話せて楽しかったです。
イベントの詳しいことも聞けてためになりました、有難うございます。
また会えたらお話しましょう!!此処で言ってしまって申し訳ありません;;
日常に溶け込むようにありそうな恐怖ですね。や、身近に人喰いが居たら困りますが。
やられました。凄く良かったです。
実に感服、眼福。楽しませてもらいました。
ぞくぞくした
触れるだけで切れてしまうカミソリのような鋭いオチ。
自分の表情も慧音のように蒼白になりました。
ほのぼの系統の多めなルーミアでの、妖怪としての本来の姿を描いたSSをありがとう。
最後の1行で小気味よく切り返すショートショートな構成が
とてもスマートで良かったです
切れ味良すぎる
ルーミアかわいかったです
オチでそうか、と思いました
暖かい世界のすぐ裏にはこんな世界が広がっているのかもしれませんね・・・