※注※テンションダウン(自傷とか)な駄文です。東方をプレイしたこがないので、設定的におかしいかもしれません。
それでもOKという方はどうぞ
幻想郷のはずれ、昼でも日の光が届かない薄暗い森の中に少女は居を構えていた。
「洗濯物が乾かないなぁ・・・・・・・・」とひとりごちて空を見上げる。
森の中でも開けた場所に建っているとはいえ、湿気は多く、洗濯物を乾かす時にはいちいち日光の魔方陣を展開しなければいけない。
それでも彼女はここがお気に入りだから引っ越す気はさらさら無いのだが。
つぶやくように早口で呪文を唱えると、魔方陣が浮かび上がり物干し場一帯を光が包み込む。
「30分もすれば乾くかしらね」
少女はついでに水除けの結界も施し、家に戻ろうと振り返った。
「よう。器用なものだな」
そこには黒白の少女が立っていた。
「魔理沙・・・・・・いつからそこに?」ため息とともに言葉を吐き出す。
「そうだな、魔方陣を展開したあたりかな」
「はぁ~・・・それで今日はなんの用?また人の家を漁りに来たんじゃ・・・」
「つれないぜアリス。今日はうまそうなキノコを持ってきたんだぜ!ついでにこれも」
懐から取り出したのは上等の濁り酒。キノコをつまみに一杯やろうということらしい。
「この間も呑んだばっかりじゃない・・・」
「まあまあ細かいことは気にせずに~♪」
魔界とは違い、幻想郷の住人は細かいことは本当に気にしないらしい。だってまだ酒盛りをするような時間じゃないのに・・・。
「・・・いいわ。あがって」
多少抵抗感を感じたが、わざわざ手土産を持って現れては無下に返すこともできない。
「そうこなくちゃ!」
調子のいいヤツだ。それが霧雨魔理沙らしいといえばらしいのだけれど。
玄関の結界をとき、扉を開けると二体の人形が迎えてくれた。
「シャンハーイ」「ホラーイ」
「ただいま」
優しく声をかけ、頭を撫でる。
アリスって人形には優しいよな・・・なんて至極失礼なことを魔理沙は思ったが、口には出さなかった。
リビングに通されると、壁には人形がずらりと並んでいた。
見慣れてはいるのだが、時々無機物であるはずの人形達と目が合うようで少し怖い。
「それで」食器棚からお猪口を二つ取り出しながら、アリスは言った。
「キノコどういう風に食べるの?」
「そりゃあコレで味付けだぜ!」
ドギャーンと口で言いながら魔理沙は醤油を取り出した。
「準備いいわね・・・」
「アリスの家には和風の調味料が何も無いからな」
ちなみに魔理沙は大の和食派。アリスは「大」とまではいかなくとも洋食派であった。
このお猪口も魔理沙が酒を呑むとき用にアリスの家に置いていったものである。
「OK。調理してくるわ」
「私も手伝うぜ」
「あら、珍しい」
「キノコの調理にはちとうるさいぜ」
思えばアリスは魔理沙の手料理を食べたことが無かった。自炊しているのだから人並みにはできるとは思うが。
~inキッチン~
「さあ。お手並み拝見といきましょうか」
「まずキノコを洗うんだ」
そういったまま魔理沙は動こうとしない。
「早くやんなさいよ」
「私は指示係だ」いい笑顔で親指を突き立てる魔理沙。
そいうことか・・・まぁいい。料理は嫌いじゃない。
一つ一つ丁寧に流水で泥を落とす。
「袖捲くらないのか?ぬれるぜ?」
「・・・露出するのはあまり好きじゃないの」
平静を装ったつもりだったが、アリスの顔が一瞬曇った。冷や汗が頬を伝う。怪しまれなかっただろうか。
夏だというのにアリスは長袖を着ている。見ているだけで暑苦しい。魔理沙も同じく暑苦しい格好だが、半袖なだけまだ
涼しいかもしれない。
「ふぅーん」
魔理沙はそんなこと気にも留めていなかった。
「次は水気をきって焼く」
「・・・大雑把な指示ね」
フライパンを取り出し油をしく。
「あっ!アリスそれは油じゃなくて・・・・・」
「お醤油を使うのならバターのほうがいいわね」
目の前の空間が裂け、紫が現れた。毎度の事なので二人は驚かない。
「本当に紫は神出鬼没だな」
「久しぶり。せめて玄関から入ってきてよ」
「ドアに結界が張ってあったんだもの。貴女が結界を張るなんて珍しいわね」
「いいじゃない。独りで篭りたい時もあるのよ」
「というかほとんど独りだけどな」
「・・・っうるさいわね!人形がいるから独りじゃないわよ!」
ぎゃいぎゃい騒ぐアリスと魔理沙を観察しながら紫は思う「嗚呼若いっていいわね」 と、あることに気がついた。
「アリス、貴女顔色悪いんじゃない?体調が良くないのかしら?」
「あ・・・っ・・・いや、そんなことないけど・・・」
もともと色白なアリスだが今日は色白というレベルを超えて顔色が悪かった。血の気が通ってない。唇だけは真っ赤だ。
それに少し痩せたのではないだろうか。
「本当?熱とかあるんじゃ・・・」
「大丈夫よ!・・・気にしないで・・・」
おでこに当てられた紫の手を払う。
その瞬間、アリスの手首が目に入った。
普段ならそんなもの気にはしないのだが、細く白いそこには無数の傷があった。
「・・・そう・・・だったらいいけど・・・・・」
なんだか触れてはいけないような気がして、釈然としなかったがそれ以上追求するのは止めた。
「微熱があるから」とスキマから解熱剤を引っ張り出して、渡した。
ちなみにその頃魔理沙はキノコのバター醤油焼きを完成させ、一人で酒盛りを始めていた。
~YUKARI‘S SIDE~
翌朝、紫が目を覚ますと魔理沙が床に転がって寝ていた。アリスは自室で休んでいるはずだ。
昼から始まった宴はキノコをつまみに夜まで続いた・・・といってもアリスは早々にリタイアしたのだが。
「付き合い悪いぜ」と魔理沙はぼやいていたが、酒が飲めればなんでもいいのだろう。あっさりとアリスを解放した。
しばらく二人で酒を飲んだが、夜の帳がおりてきたので寝ることにした。
「家に帰らなくていいのか?」魔理沙がそう尋ねると、紫はよくぞ聞いてくれましたとばかりに
「最近藍がかまってくれなくて・・・私なんていてもいなくても一緒なのよ!!橙がいればそれでいいのよ!!私には何も無いもの!!・・・私、泣いているの・・・?コレが涙・・・?」
「おやすみ」めんどうくさいので魔理沙は寝逃げした。
紫が外に出るとまだ太陽は昇っていなかった。こんな時間に起きるのはいつぶりだろう。
毎日惰眠を貪り、更には冬眠までするグータラ主が、日の昇っていない時間に起きているなんて、彼女の式が見たら卒倒するだろう。
「それにしても・・・どうしたものかしら・・・?」とひとりごちる。無論アリスのことだ。
見てしまったからには放っておけない。
顔色の悪さといい、微熱といい明らかに貧血だ。食事はちゃんととっているのか?それにあの傷は・・・自傷行為というヤツなのだろうか。何か悩みでもあるのか。永遠亭の薬師のところに連れていけばいいのか。でもあの八意とかいうのは心の事についても診てくれるのだろうか。医者にかかるなんて大袈裟なのか。まず話を聞いてあげるべきなのか。さりとてあまり親しくない自分にアリスが悩みを打ち明けるとは思えない。次から次に疑問が湧き出て、答えがみつからない。
考えをめぐらせていると、何かが背中をつついた。振り返るとアリスにいつも付いてまわっている人形がフラフラと浮遊していた。
「シャンハーイ」
「あら。あなたは確か・・・ハイシャン?」
「シャンハーーーーイ!!(上海じゃ!!いてまうど!!ゴルァ!!」
「あぁ。そうそう上海ね。ごめんなさい・・フフッ」紫はお得意の胡散臭い笑みを浮かべている。
「シャンハーイ(マスターが大変だよーアトリエに来て!)」
「ふむふむ。世界を革命する力が手に入ったのに、ア○シーに裏切られたのは悲しい出来事だったわよね。同意するわ。最後に和解するけど」ほろりと涙を流す紫。
・・・本当にわざとやっているのだろうか。ただ頭のねじが外れているだけなのではないか。
しかし今はマスターの一大事。ふざけている場合ではないのだ。
剣を構える。人形用のミニチュアだが実戦で使っているものだ。それなりに殺傷力はある。
上海人形は実力行使に出たのだった。
「なるほど。次の挑戦者は貴女だったのね。花嫁(霊夢)は渡さないわ!幻想郷を革命する力をっ!」
スキマから日傘を引き抜き、剣のように構えている。
胸にはすずらんがあった。蘭畑の毒人形からかっぱらってきたのだろう。
上海はあきらめた。否、剣を持ち続けられるだけの力がもうなかった。飛んでいるのも辛い。
自律に近いとはいえ、アリスの魔力の供給で上海は動いている。
自分の力が弱まっているということは、アリスのそれに同義なのだ。
「(早くしないとマスターが・・・くっ・・・)」ふらふらとアトリエの方に飛んでいく上海。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!どこ行くの!勝負はまだついてないわよ!!」
上海のあとを慌ててついていく紫。
その目は上海の異変を察知していた。そしてアリスになにかがあったということも。
~ALICE′S SIDE~
「はぁ・・・・・」
アリスはため息をつく。今年に入ってから、もう何度ため息を吐いただろう。
魔理沙と紫はまだリビングの方でお酒を飲んでいる。
本当は今日この世とサヨウナラをするつもりだった。
部屋をきれいに掃除し、洗濯物を干し・・・と、ここまでは順調だったのだが、予定外の客が来てしまった。
魔理沙である。
いや、来るかなとは思っていたのだ。或いは自らの命を絶つという行為を止めてほしかったのかもしれない。
たった一人の私の「親友」・・・。
幻想郷に来てから、最初にできた「友達」と呼べる人が魔理沙だった。
めちゃくちゃな言動に最初は戸惑ったけれど、引っ張りまわされているうちに思いやりがあって優しい人なのだとわかった。
ただ、人の物を無断で持ち出すのは止めてほしかった。
二人で色々な所に出かけ、魔理沙以外の知り合いもできた。
ただ・・・アリスは人付き合いが極端に苦手だった。自分の事も嫌いだった。
表面上は取り繕うことができたが、本音をさらけ出す事はできなかった。
故に魔理沙以外は「友達」ではなく「知り合い」なのだ。
そしてアリスが決定的に落ち込む出来事が紅魔館で起こる。辺り一面を雪が覆う季節だった。
いつものように魔理沙が門番を吹っ飛ばし、地下の図書館にお邪魔した時の事である。
「まーりーさー!弾幕ごっこしよー!」吸血鬼の妹が駆けてきた。
「よう!フランドール!いっちょうやるか!アリス、ちょっと行ってくるぜ!」
魔理沙はフランドールと手を繋いで、出て行ってしまった。
「魔理沙って子供みたいなんだから」メイド長の淹れてくれた紅茶を啜りながら、微笑む。
ちなみに図書館にはレミリア、パチュリー、咲夜がいた。咲夜以外は、本を読んでいる。
本を読んでいるのだから、会話がなくて当然なのだが、アリスはこういう空気に耐えられなかった。
「何を話せばいいのかわからないが、かといって黙っていると変なふうに思われそう」という状態である。
アリスは考える。
「えーっと・・・『このお茶おいしいわね、咲夜』・・・なんか違う・・・。『妹さんって弾幕ごっこ強そうね、レミリア』・・・『この魔道書すごいわね、パチュリー』・・・はぁ・・・何話せばいいんだろう・・・魔理沙がいれば・・・」
「アリス?」
「ひゃ!!な、なに?パチュリー?」考え事の最中に話しかけられたので、おかしな声を出してしまった。形だけでも笑顔を作ってみる。
「あなた、今『魔理沙がいれば』って考えていたでしょう?魔理沙がいないと会話のひとつもできないの?」
「え・・・あ・・・いや・・・」パチュリーのすべてを見透かすような瞳に捕らえられて、全身から汗が噴き出す。
アリスにとっては人の目を見て話をするというのは恐怖以外のなにものでもなかった。
「正直とてもつまらない人間だわ、あなた。作り物の笑顔を浮かべて、当たり障りのない上辺だけの会話をしていれば、それは楽かもしれないけれど・・・。それじゃあ本当の意味での人間関係は構築できないわ。だからもっと・・・・アリス?」
アリスは全身を震わせていた。やがて静かに立ち上がると、うつろな目で図書館を後にした。
「・・・少々荒療治だったわね、パチェ。しかも最後の一番大事なところ言ってないじゃない」レミリアが口を開いた。
「・・・・・」
「咲夜、お願い」
「かしこまりました」一瞬でメイドが消える。時を止めたのだろう。
「回りくどいことはなしにして『怖がらずに、もっと心を開いて』って伝えればよかったじゃない。隠れ熱血少女ね、パチェは」
「・・・そうね・・・」パチュリーは物憂げな瞳でうなずいた。それは友を純粋に想う少女の姿であった。
アリスは紅魔館入り口にいた。
空中では弾幕の花火が咲いている。魔理沙とフランドールだ。と、目の前に一瞬にして咲夜が現れた。
「パチュリー様の非礼を詫びるわ」と深々と頭を下げ、続ける。
「でもパチュリー様はあなたを責めようとしたのではなくて・・・・」
「わかってるわ」
「だったらなぜ・・・」
「自分がイヤになったのよ!」零れ落ちそうな涙を堪えてアリスが小さく叫んだ。
「パチュリーは・・・私のためを思って、敢えて言ってくれた。そうでしょ?それなのに私はなんなの・・・?偽の笑いを浮かべて・・・逃げていたのよ・・・相手の心から・・・向き合うのが怖いから。自分の事しか考えてない・・・最低なのよ!!」
吐き出すように言うと、アリスは走り去ってしまった。
咲夜は徐々に小さくなる背中を呆然と眺めていた。
「・・・涙・・・」
家に駆け込むと人形たちを目の前に並べ、アリスは泣いた。
「自分のことなんか大嫌い・・・私なんていなくなればいいのに・・・死ねばいいのに・・・」
「アリス・・・」
突然、優しい体温が体を包み込んだ。魔理沙だった。
あの時の魔理沙、すごく温かかったっけ・・・・・
次の日から魔理沙が毎日のように来てくれた。クリスマスもお正月も。
他愛のない話をして、一緒にごはんを食べて。
紅魔館での一件は、魔理沙も知っているようだったが、決して口に出すことはなかった。気を遣ってくれていたのだろう。
どうしようもなく不安に襲われる夜は魔理沙に泊まっていってもらった。
魔理沙の安らかな寝顔を見ていると、少しだけ不安が安らいだ。
「こんな日がずっと続けばいいのに・・・」そう思いながら眠りについた。
けれど、平和な毎日が続くにつれ、アリスの不安は深まっていった。
「魔理沙にとんでもない迷惑をかけているのではないか」「魔理沙はいつか自分に愛想をつかすのではないか」と。
毎日悩み続け、アリスの精神は越えてはならないラインを超えてしまった。
「私が悪いんだ・・・・・・・」
一人きりの夜、人形用のミニチュアの剣を手首に突き立てた。深くは切れなかった。
一筋の紅が流れる。
痛みはなかったが、心がすっと晴れるのを感じた。同時に自分の壊れる音が聞こえた気がした。
アリスは時々、家をすっぽり包み込む、強力な結界を張るようになった。無論、魔理沙が家に入れないようにだ。
膝を抱え込み、食事もとらなかった。
辺りを闇が包み込む頃になると、気が済むまで何度も自分を傷つけた。
こうすることでしか、自分を慰められなかった。
カフスを外し、袖を捲くる。手首から肘にかけて無残な傷が広がっていた。
ベッドには黒白の人形。
魔理沙との楽しい日々を思い出すと、涙が溢れた。
「もうあの頃には戻れない・・・私が壊れてしまったから・・・」
黒白人形を手にとると、そっと裏口からアトリエに向かった。
工具や作りかけの人形が載った作業台の陰に腰を下ろすと、誰ともなく呟いた。
「パチュリー・・・ごめんなさい。・・・あなたを傷つけてしまったかしら・・・。レミリア、フラン、咲夜、美鈴、紫・・・友達になりたかった・・・もっと皆のこと知りたかった・・・でも私が弱かったから・・・。魔理沙・・・あなたの事、友達以上に好きだった・・・。ありがとう・・・ごめんなさい・・・」
ポケットからスペルカードを取り出す。
「あなたと二人で編み出した技・・・こんなことに使うと思わなかった・・・」
丁寧にスペルを唱える。
「マリス砲!」
神聖な光がアリスを包んだ。
~MARISA‘S SIDE~
魔理沙は夢を見ていた。
一面の雪景色。窓越しに見える静かに泣いている少女。
絹糸のような細い金の髪。透き通るような白い肌。サファイアのような青い瞳。まるで人形のような繊細な少女。
「あいつ、また一人で泣いて・・・」扉の結界を強引に破って、けれど静かに中に入る。
少女の肩は細かく震えている。小さな肩だ。
触ったら壊れてしまいそうだと思いながら、少女の肩を後ろから抱きしめる。
「アリス・・・」
アリスは一瞬ビクッと体を震わせて、黙っている。
「アリス・・・なんかあったら私に言えよ。友達じゃないか。楽しいことも、悲しいことも一緒に乗りこえていきたいんだ。だからそんなふうに一人で泣くな・・・」
アリスは正面に向き直って魔理沙の胸に顔をうずめると声をあげて泣き始めた。
魔理沙はそんな彼女を抱きしめながら小さな女の子のようだと思う。
初めて会ったときのまだ幼いアリスを思い浮かべながら。
デスクの上には人形が並べてある。
紅白の人形、ナイフを持ったメイドの人形、吸血鬼姉妹の人形、本を読んでいる人形、門番の人形、胡散臭そうな笑みを浮かべた人形etc・・・・・・・・黒白の人形は見当たらない。
人形なんか作らなくたって・・・
「私がいるじゃないか・・・・・」
少し悲しくなり、そうつぶやきながらやわらかい髪をなでた。
「・・・夢か・・・」
妙にリアルな夢だった。
あの頃アリスは毎日泣いていた。外出することもなかった。
魔理沙はそれが心配でよっぽどの事が無い限り、毎日アリスの家に顔を出した。
「面白い本が手に入った」「腹が減った」「酒飲もう」などと適当な理由をつけて。
そんな魔理沙に嫌そうな顔をしたあと、きまってアリスは微笑んだ。
霊夢からは「毎日お熱いね~」と冷やかされたが。
「人形とばっかり遊んでないで、たまには神社に顔出すようにアリスに言ってよね。ハイこれ差し入れ」といって手土産の茶葉をもたせてくれたりした。霊夢も心配なのだ。
アリスの手首に不自然な傷を見つけたのは年が明けた頃だった。一筋の浅い傷。
「それどうしたんだ?」
「あぁ・・・アトリエで・・・作業をしている時に・・・切っちゃって・・・」
「ちゃんと消毒したのか?」
「あ・・・いや・・・」
「しょうがないなぁ・・・・それにしてもどうやったらこんなところ切るんだ?」戸棚から救急箱を出して手当てをする。
傷はもう乾いているようだが、一応消毒をして清潔なガーゼを当てる。テープで固定して・・・・・
「よし!できあがりっと!アリス、できたぜ・・・」顔を上げるとアリスは泣いていた。
「わっ、わっ・・・どうした?痛かったか?どっか具合悪いのか?それとも・・・」
「・・・が・・・と・・・」
「ん?」
「・・・ありがとう・・・」
「・・・ああ。いいってことよ!ちょっと見てくれ悪いけどな」ニハハと笑うと
「・・・ほんと・・・へたくそ」アリスも笑う。
「今日泊まっていかない?」
アリスがそう言うときは、何も聞かず、泊まっていった。一緒に夕食を食べて、同じベッドで眠った。
ある時アリスは言った。
「もう生きていたくない。疲れた」
私は言葉が見つからなかった。
気の利いた言葉が思いつかなくてかわりにアリスを抱きしめた。
アリスの体は温かくていい匂いがする。落ち着かせてやるはずが、逆に落ち着かせられて先に眠ってしまった。
少し情緒不安定なところが見うけられるアリスだったが、自分がいれば、いつかは以前のように元気なアリスに戻ると信じていた。
アリスが笑って、自分も笑う。こんな日常がいつまでも続けばいいと思っていた。
でも次第にあいつは私とも距離をとるようになって・・・。
「アリス・・・」なんだか急に不安になった。あたりを見回すと、紫の姿が見えない。
「アイツどこいったんだよ」アリスの寝室をのぞくと、誰もいない。
「アリスまで・・・一体どこに・・・」きょろきょろと部屋を見回すとベッドのサイドテーブルに蓬莱人形が転がっていた。
「蓬莱・・・なんでこんなところに・・・おーい!ほうらーい?」蓬莱人形はピクリとも動かない。魔力も微塵も感じられない。いつもなら停止している時でも、多少は魔力を帯びているものなのに・・・・・なぜ・・・・・
「まさか!!」胸の中にある不安を拭い去るように家中を探した。
「もう生きていたくない」
「疲れた」
いない・・・いない・・・ここにも・・・・。
最後に家の離れにあるアトリエに飛び込んだ。
「アリス!!!!!・・・・・っ!!!??」ドアを蹴り飛ばすと、床一面が紅に染まっていた。
「・・・・・・・」ひざから力が抜け、その場にへたり込む。
「へ?え?・・・」自分でもとても情けない声を出しているのがわかる。
「アリス・・・どこにいるんだよ・・・?アリス?アリスっ!!!!!!!!」四つん這いになって床を這いずり回る。
と、右手に何かが当たった。それは人形。右手に箒を持った黒白の人形。そう魔理沙人形だった。エプロンの白色に紅い滴が滲んでいる。
「う・・・・くっ・・・・」頭がまわらない。これは現実なのか?まだ夢の中なのか?性質の悪い夢だ。早く起きよう。起きてアリスの作った朝ごはんを一緒に食べるんだ。それで昨日の洗濯物を取り込んで、一緒にお茶して・・・・・ああ・・・・・意識がとぶ・・・・・。
体の力が抜けたところを、後ろからなにかに支えられた。
「魔理沙!」振り返るとスキマから上半身を出した紫が魔理沙を支えていた。
「魔理沙!しっかりして頂戴!」
「ゆ・・か・・・り?」
「永遠亭に行くわよ」言うが早いか魔理沙は紫によってスキマの中に引きずり込まれた。
「魔理沙!!!!」薄れ行く意識の中で、アリスの声が聞こえた気がした。
ここ最近聞いてないとても元気な声だった。
うれしかった。
それでもOKという方はどうぞ
幻想郷のはずれ、昼でも日の光が届かない薄暗い森の中に少女は居を構えていた。
「洗濯物が乾かないなぁ・・・・・・・・」とひとりごちて空を見上げる。
森の中でも開けた場所に建っているとはいえ、湿気は多く、洗濯物を乾かす時にはいちいち日光の魔方陣を展開しなければいけない。
それでも彼女はここがお気に入りだから引っ越す気はさらさら無いのだが。
つぶやくように早口で呪文を唱えると、魔方陣が浮かび上がり物干し場一帯を光が包み込む。
「30分もすれば乾くかしらね」
少女はついでに水除けの結界も施し、家に戻ろうと振り返った。
「よう。器用なものだな」
そこには黒白の少女が立っていた。
「魔理沙・・・・・・いつからそこに?」ため息とともに言葉を吐き出す。
「そうだな、魔方陣を展開したあたりかな」
「はぁ~・・・それで今日はなんの用?また人の家を漁りに来たんじゃ・・・」
「つれないぜアリス。今日はうまそうなキノコを持ってきたんだぜ!ついでにこれも」
懐から取り出したのは上等の濁り酒。キノコをつまみに一杯やろうということらしい。
「この間も呑んだばっかりじゃない・・・」
「まあまあ細かいことは気にせずに~♪」
魔界とは違い、幻想郷の住人は細かいことは本当に気にしないらしい。だってまだ酒盛りをするような時間じゃないのに・・・。
「・・・いいわ。あがって」
多少抵抗感を感じたが、わざわざ手土産を持って現れては無下に返すこともできない。
「そうこなくちゃ!」
調子のいいヤツだ。それが霧雨魔理沙らしいといえばらしいのだけれど。
玄関の結界をとき、扉を開けると二体の人形が迎えてくれた。
「シャンハーイ」「ホラーイ」
「ただいま」
優しく声をかけ、頭を撫でる。
アリスって人形には優しいよな・・・なんて至極失礼なことを魔理沙は思ったが、口には出さなかった。
リビングに通されると、壁には人形がずらりと並んでいた。
見慣れてはいるのだが、時々無機物であるはずの人形達と目が合うようで少し怖い。
「それで」食器棚からお猪口を二つ取り出しながら、アリスは言った。
「キノコどういう風に食べるの?」
「そりゃあコレで味付けだぜ!」
ドギャーンと口で言いながら魔理沙は醤油を取り出した。
「準備いいわね・・・」
「アリスの家には和風の調味料が何も無いからな」
ちなみに魔理沙は大の和食派。アリスは「大」とまではいかなくとも洋食派であった。
このお猪口も魔理沙が酒を呑むとき用にアリスの家に置いていったものである。
「OK。調理してくるわ」
「私も手伝うぜ」
「あら、珍しい」
「キノコの調理にはちとうるさいぜ」
思えばアリスは魔理沙の手料理を食べたことが無かった。自炊しているのだから人並みにはできるとは思うが。
~inキッチン~
「さあ。お手並み拝見といきましょうか」
「まずキノコを洗うんだ」
そういったまま魔理沙は動こうとしない。
「早くやんなさいよ」
「私は指示係だ」いい笑顔で親指を突き立てる魔理沙。
そいうことか・・・まぁいい。料理は嫌いじゃない。
一つ一つ丁寧に流水で泥を落とす。
「袖捲くらないのか?ぬれるぜ?」
「・・・露出するのはあまり好きじゃないの」
平静を装ったつもりだったが、アリスの顔が一瞬曇った。冷や汗が頬を伝う。怪しまれなかっただろうか。
夏だというのにアリスは長袖を着ている。見ているだけで暑苦しい。魔理沙も同じく暑苦しい格好だが、半袖なだけまだ
涼しいかもしれない。
「ふぅーん」
魔理沙はそんなこと気にも留めていなかった。
「次は水気をきって焼く」
「・・・大雑把な指示ね」
フライパンを取り出し油をしく。
「あっ!アリスそれは油じゃなくて・・・・・」
「お醤油を使うのならバターのほうがいいわね」
目の前の空間が裂け、紫が現れた。毎度の事なので二人は驚かない。
「本当に紫は神出鬼没だな」
「久しぶり。せめて玄関から入ってきてよ」
「ドアに結界が張ってあったんだもの。貴女が結界を張るなんて珍しいわね」
「いいじゃない。独りで篭りたい時もあるのよ」
「というかほとんど独りだけどな」
「・・・っうるさいわね!人形がいるから独りじゃないわよ!」
ぎゃいぎゃい騒ぐアリスと魔理沙を観察しながら紫は思う「嗚呼若いっていいわね」 と、あることに気がついた。
「アリス、貴女顔色悪いんじゃない?体調が良くないのかしら?」
「あ・・・っ・・・いや、そんなことないけど・・・」
もともと色白なアリスだが今日は色白というレベルを超えて顔色が悪かった。血の気が通ってない。唇だけは真っ赤だ。
それに少し痩せたのではないだろうか。
「本当?熱とかあるんじゃ・・・」
「大丈夫よ!・・・気にしないで・・・」
おでこに当てられた紫の手を払う。
その瞬間、アリスの手首が目に入った。
普段ならそんなもの気にはしないのだが、細く白いそこには無数の傷があった。
「・・・そう・・・だったらいいけど・・・・・」
なんだか触れてはいけないような気がして、釈然としなかったがそれ以上追求するのは止めた。
「微熱があるから」とスキマから解熱剤を引っ張り出して、渡した。
ちなみにその頃魔理沙はキノコのバター醤油焼きを完成させ、一人で酒盛りを始めていた。
~YUKARI‘S SIDE~
翌朝、紫が目を覚ますと魔理沙が床に転がって寝ていた。アリスは自室で休んでいるはずだ。
昼から始まった宴はキノコをつまみに夜まで続いた・・・といってもアリスは早々にリタイアしたのだが。
「付き合い悪いぜ」と魔理沙はぼやいていたが、酒が飲めればなんでもいいのだろう。あっさりとアリスを解放した。
しばらく二人で酒を飲んだが、夜の帳がおりてきたので寝ることにした。
「家に帰らなくていいのか?」魔理沙がそう尋ねると、紫はよくぞ聞いてくれましたとばかりに
「最近藍がかまってくれなくて・・・私なんていてもいなくても一緒なのよ!!橙がいればそれでいいのよ!!私には何も無いもの!!・・・私、泣いているの・・・?コレが涙・・・?」
「おやすみ」めんどうくさいので魔理沙は寝逃げした。
紫が外に出るとまだ太陽は昇っていなかった。こんな時間に起きるのはいつぶりだろう。
毎日惰眠を貪り、更には冬眠までするグータラ主が、日の昇っていない時間に起きているなんて、彼女の式が見たら卒倒するだろう。
「それにしても・・・どうしたものかしら・・・?」とひとりごちる。無論アリスのことだ。
見てしまったからには放っておけない。
顔色の悪さといい、微熱といい明らかに貧血だ。食事はちゃんととっているのか?それにあの傷は・・・自傷行為というヤツなのだろうか。何か悩みでもあるのか。永遠亭の薬師のところに連れていけばいいのか。でもあの八意とかいうのは心の事についても診てくれるのだろうか。医者にかかるなんて大袈裟なのか。まず話を聞いてあげるべきなのか。さりとてあまり親しくない自分にアリスが悩みを打ち明けるとは思えない。次から次に疑問が湧き出て、答えがみつからない。
考えをめぐらせていると、何かが背中をつついた。振り返るとアリスにいつも付いてまわっている人形がフラフラと浮遊していた。
「シャンハーイ」
「あら。あなたは確か・・・ハイシャン?」
「シャンハーーーーイ!!(上海じゃ!!いてまうど!!ゴルァ!!」
「あぁ。そうそう上海ね。ごめんなさい・・フフッ」紫はお得意の胡散臭い笑みを浮かべている。
「シャンハーイ(マスターが大変だよーアトリエに来て!)」
「ふむふむ。世界を革命する力が手に入ったのに、ア○シーに裏切られたのは悲しい出来事だったわよね。同意するわ。最後に和解するけど」ほろりと涙を流す紫。
・・・本当にわざとやっているのだろうか。ただ頭のねじが外れているだけなのではないか。
しかし今はマスターの一大事。ふざけている場合ではないのだ。
剣を構える。人形用のミニチュアだが実戦で使っているものだ。それなりに殺傷力はある。
上海人形は実力行使に出たのだった。
「なるほど。次の挑戦者は貴女だったのね。花嫁(霊夢)は渡さないわ!幻想郷を革命する力をっ!」
スキマから日傘を引き抜き、剣のように構えている。
胸にはすずらんがあった。蘭畑の毒人形からかっぱらってきたのだろう。
上海はあきらめた。否、剣を持ち続けられるだけの力がもうなかった。飛んでいるのも辛い。
自律に近いとはいえ、アリスの魔力の供給で上海は動いている。
自分の力が弱まっているということは、アリスのそれに同義なのだ。
「(早くしないとマスターが・・・くっ・・・)」ふらふらとアトリエの方に飛んでいく上海。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!どこ行くの!勝負はまだついてないわよ!!」
上海のあとを慌ててついていく紫。
その目は上海の異変を察知していた。そしてアリスになにかがあったということも。
~ALICE′S SIDE~
「はぁ・・・・・」
アリスはため息をつく。今年に入ってから、もう何度ため息を吐いただろう。
魔理沙と紫はまだリビングの方でお酒を飲んでいる。
本当は今日この世とサヨウナラをするつもりだった。
部屋をきれいに掃除し、洗濯物を干し・・・と、ここまでは順調だったのだが、予定外の客が来てしまった。
魔理沙である。
いや、来るかなとは思っていたのだ。或いは自らの命を絶つという行為を止めてほしかったのかもしれない。
たった一人の私の「親友」・・・。
幻想郷に来てから、最初にできた「友達」と呼べる人が魔理沙だった。
めちゃくちゃな言動に最初は戸惑ったけれど、引っ張りまわされているうちに思いやりがあって優しい人なのだとわかった。
ただ、人の物を無断で持ち出すのは止めてほしかった。
二人で色々な所に出かけ、魔理沙以外の知り合いもできた。
ただ・・・アリスは人付き合いが極端に苦手だった。自分の事も嫌いだった。
表面上は取り繕うことができたが、本音をさらけ出す事はできなかった。
故に魔理沙以外は「友達」ではなく「知り合い」なのだ。
そしてアリスが決定的に落ち込む出来事が紅魔館で起こる。辺り一面を雪が覆う季節だった。
いつものように魔理沙が門番を吹っ飛ばし、地下の図書館にお邪魔した時の事である。
「まーりーさー!弾幕ごっこしよー!」吸血鬼の妹が駆けてきた。
「よう!フランドール!いっちょうやるか!アリス、ちょっと行ってくるぜ!」
魔理沙はフランドールと手を繋いで、出て行ってしまった。
「魔理沙って子供みたいなんだから」メイド長の淹れてくれた紅茶を啜りながら、微笑む。
ちなみに図書館にはレミリア、パチュリー、咲夜がいた。咲夜以外は、本を読んでいる。
本を読んでいるのだから、会話がなくて当然なのだが、アリスはこういう空気に耐えられなかった。
「何を話せばいいのかわからないが、かといって黙っていると変なふうに思われそう」という状態である。
アリスは考える。
「えーっと・・・『このお茶おいしいわね、咲夜』・・・なんか違う・・・。『妹さんって弾幕ごっこ強そうね、レミリア』・・・『この魔道書すごいわね、パチュリー』・・・はぁ・・・何話せばいいんだろう・・・魔理沙がいれば・・・」
「アリス?」
「ひゃ!!な、なに?パチュリー?」考え事の最中に話しかけられたので、おかしな声を出してしまった。形だけでも笑顔を作ってみる。
「あなた、今『魔理沙がいれば』って考えていたでしょう?魔理沙がいないと会話のひとつもできないの?」
「え・・・あ・・・いや・・・」パチュリーのすべてを見透かすような瞳に捕らえられて、全身から汗が噴き出す。
アリスにとっては人の目を見て話をするというのは恐怖以外のなにものでもなかった。
「正直とてもつまらない人間だわ、あなた。作り物の笑顔を浮かべて、当たり障りのない上辺だけの会話をしていれば、それは楽かもしれないけれど・・・。それじゃあ本当の意味での人間関係は構築できないわ。だからもっと・・・・アリス?」
アリスは全身を震わせていた。やがて静かに立ち上がると、うつろな目で図書館を後にした。
「・・・少々荒療治だったわね、パチェ。しかも最後の一番大事なところ言ってないじゃない」レミリアが口を開いた。
「・・・・・」
「咲夜、お願い」
「かしこまりました」一瞬でメイドが消える。時を止めたのだろう。
「回りくどいことはなしにして『怖がらずに、もっと心を開いて』って伝えればよかったじゃない。隠れ熱血少女ね、パチェは」
「・・・そうね・・・」パチュリーは物憂げな瞳でうなずいた。それは友を純粋に想う少女の姿であった。
アリスは紅魔館入り口にいた。
空中では弾幕の花火が咲いている。魔理沙とフランドールだ。と、目の前に一瞬にして咲夜が現れた。
「パチュリー様の非礼を詫びるわ」と深々と頭を下げ、続ける。
「でもパチュリー様はあなたを責めようとしたのではなくて・・・・」
「わかってるわ」
「だったらなぜ・・・」
「自分がイヤになったのよ!」零れ落ちそうな涙を堪えてアリスが小さく叫んだ。
「パチュリーは・・・私のためを思って、敢えて言ってくれた。そうでしょ?それなのに私はなんなの・・・?偽の笑いを浮かべて・・・逃げていたのよ・・・相手の心から・・・向き合うのが怖いから。自分の事しか考えてない・・・最低なのよ!!」
吐き出すように言うと、アリスは走り去ってしまった。
咲夜は徐々に小さくなる背中を呆然と眺めていた。
「・・・涙・・・」
家に駆け込むと人形たちを目の前に並べ、アリスは泣いた。
「自分のことなんか大嫌い・・・私なんていなくなればいいのに・・・死ねばいいのに・・・」
「アリス・・・」
突然、優しい体温が体を包み込んだ。魔理沙だった。
あの時の魔理沙、すごく温かかったっけ・・・・・
次の日から魔理沙が毎日のように来てくれた。クリスマスもお正月も。
他愛のない話をして、一緒にごはんを食べて。
紅魔館での一件は、魔理沙も知っているようだったが、決して口に出すことはなかった。気を遣ってくれていたのだろう。
どうしようもなく不安に襲われる夜は魔理沙に泊まっていってもらった。
魔理沙の安らかな寝顔を見ていると、少しだけ不安が安らいだ。
「こんな日がずっと続けばいいのに・・・」そう思いながら眠りについた。
けれど、平和な毎日が続くにつれ、アリスの不安は深まっていった。
「魔理沙にとんでもない迷惑をかけているのではないか」「魔理沙はいつか自分に愛想をつかすのではないか」と。
毎日悩み続け、アリスの精神は越えてはならないラインを超えてしまった。
「私が悪いんだ・・・・・・・」
一人きりの夜、人形用のミニチュアの剣を手首に突き立てた。深くは切れなかった。
一筋の紅が流れる。
痛みはなかったが、心がすっと晴れるのを感じた。同時に自分の壊れる音が聞こえた気がした。
アリスは時々、家をすっぽり包み込む、強力な結界を張るようになった。無論、魔理沙が家に入れないようにだ。
膝を抱え込み、食事もとらなかった。
辺りを闇が包み込む頃になると、気が済むまで何度も自分を傷つけた。
こうすることでしか、自分を慰められなかった。
カフスを外し、袖を捲くる。手首から肘にかけて無残な傷が広がっていた。
ベッドには黒白の人形。
魔理沙との楽しい日々を思い出すと、涙が溢れた。
「もうあの頃には戻れない・・・私が壊れてしまったから・・・」
黒白人形を手にとると、そっと裏口からアトリエに向かった。
工具や作りかけの人形が載った作業台の陰に腰を下ろすと、誰ともなく呟いた。
「パチュリー・・・ごめんなさい。・・・あなたを傷つけてしまったかしら・・・。レミリア、フラン、咲夜、美鈴、紫・・・友達になりたかった・・・もっと皆のこと知りたかった・・・でも私が弱かったから・・・。魔理沙・・・あなたの事、友達以上に好きだった・・・。ありがとう・・・ごめんなさい・・・」
ポケットからスペルカードを取り出す。
「あなたと二人で編み出した技・・・こんなことに使うと思わなかった・・・」
丁寧にスペルを唱える。
「マリス砲!」
神聖な光がアリスを包んだ。
~MARISA‘S SIDE~
魔理沙は夢を見ていた。
一面の雪景色。窓越しに見える静かに泣いている少女。
絹糸のような細い金の髪。透き通るような白い肌。サファイアのような青い瞳。まるで人形のような繊細な少女。
「あいつ、また一人で泣いて・・・」扉の結界を強引に破って、けれど静かに中に入る。
少女の肩は細かく震えている。小さな肩だ。
触ったら壊れてしまいそうだと思いながら、少女の肩を後ろから抱きしめる。
「アリス・・・」
アリスは一瞬ビクッと体を震わせて、黙っている。
「アリス・・・なんかあったら私に言えよ。友達じゃないか。楽しいことも、悲しいことも一緒に乗りこえていきたいんだ。だからそんなふうに一人で泣くな・・・」
アリスは正面に向き直って魔理沙の胸に顔をうずめると声をあげて泣き始めた。
魔理沙はそんな彼女を抱きしめながら小さな女の子のようだと思う。
初めて会ったときのまだ幼いアリスを思い浮かべながら。
デスクの上には人形が並べてある。
紅白の人形、ナイフを持ったメイドの人形、吸血鬼姉妹の人形、本を読んでいる人形、門番の人形、胡散臭そうな笑みを浮かべた人形etc・・・・・・・・黒白の人形は見当たらない。
人形なんか作らなくたって・・・
「私がいるじゃないか・・・・・」
少し悲しくなり、そうつぶやきながらやわらかい髪をなでた。
「・・・夢か・・・」
妙にリアルな夢だった。
あの頃アリスは毎日泣いていた。外出することもなかった。
魔理沙はそれが心配でよっぽどの事が無い限り、毎日アリスの家に顔を出した。
「面白い本が手に入った」「腹が減った」「酒飲もう」などと適当な理由をつけて。
そんな魔理沙に嫌そうな顔をしたあと、きまってアリスは微笑んだ。
霊夢からは「毎日お熱いね~」と冷やかされたが。
「人形とばっかり遊んでないで、たまには神社に顔出すようにアリスに言ってよね。ハイこれ差し入れ」といって手土産の茶葉をもたせてくれたりした。霊夢も心配なのだ。
アリスの手首に不自然な傷を見つけたのは年が明けた頃だった。一筋の浅い傷。
「それどうしたんだ?」
「あぁ・・・アトリエで・・・作業をしている時に・・・切っちゃって・・・」
「ちゃんと消毒したのか?」
「あ・・・いや・・・」
「しょうがないなぁ・・・・それにしてもどうやったらこんなところ切るんだ?」戸棚から救急箱を出して手当てをする。
傷はもう乾いているようだが、一応消毒をして清潔なガーゼを当てる。テープで固定して・・・・・
「よし!できあがりっと!アリス、できたぜ・・・」顔を上げるとアリスは泣いていた。
「わっ、わっ・・・どうした?痛かったか?どっか具合悪いのか?それとも・・・」
「・・・が・・・と・・・」
「ん?」
「・・・ありがとう・・・」
「・・・ああ。いいってことよ!ちょっと見てくれ悪いけどな」ニハハと笑うと
「・・・ほんと・・・へたくそ」アリスも笑う。
「今日泊まっていかない?」
アリスがそう言うときは、何も聞かず、泊まっていった。一緒に夕食を食べて、同じベッドで眠った。
ある時アリスは言った。
「もう生きていたくない。疲れた」
私は言葉が見つからなかった。
気の利いた言葉が思いつかなくてかわりにアリスを抱きしめた。
アリスの体は温かくていい匂いがする。落ち着かせてやるはずが、逆に落ち着かせられて先に眠ってしまった。
少し情緒不安定なところが見うけられるアリスだったが、自分がいれば、いつかは以前のように元気なアリスに戻ると信じていた。
アリスが笑って、自分も笑う。こんな日常がいつまでも続けばいいと思っていた。
でも次第にあいつは私とも距離をとるようになって・・・。
「アリス・・・」なんだか急に不安になった。あたりを見回すと、紫の姿が見えない。
「アイツどこいったんだよ」アリスの寝室をのぞくと、誰もいない。
「アリスまで・・・一体どこに・・・」きょろきょろと部屋を見回すとベッドのサイドテーブルに蓬莱人形が転がっていた。
「蓬莱・・・なんでこんなところに・・・おーい!ほうらーい?」蓬莱人形はピクリとも動かない。魔力も微塵も感じられない。いつもなら停止している時でも、多少は魔力を帯びているものなのに・・・・・なぜ・・・・・
「まさか!!」胸の中にある不安を拭い去るように家中を探した。
「もう生きていたくない」
「疲れた」
いない・・・いない・・・ここにも・・・・。
最後に家の離れにあるアトリエに飛び込んだ。
「アリス!!!!!・・・・・っ!!!??」ドアを蹴り飛ばすと、床一面が紅に染まっていた。
「・・・・・・・」ひざから力が抜け、その場にへたり込む。
「へ?え?・・・」自分でもとても情けない声を出しているのがわかる。
「アリス・・・どこにいるんだよ・・・?アリス?アリスっ!!!!!!!!」四つん這いになって床を這いずり回る。
と、右手に何かが当たった。それは人形。右手に箒を持った黒白の人形。そう魔理沙人形だった。エプロンの白色に紅い滴が滲んでいる。
「う・・・・くっ・・・・」頭がまわらない。これは現実なのか?まだ夢の中なのか?性質の悪い夢だ。早く起きよう。起きてアリスの作った朝ごはんを一緒に食べるんだ。それで昨日の洗濯物を取り込んで、一緒にお茶して・・・・・ああ・・・・・意識がとぶ・・・・・。
体の力が抜けたところを、後ろからなにかに支えられた。
「魔理沙!」振り返るとスキマから上半身を出した紫が魔理沙を支えていた。
「魔理沙!しっかりして頂戴!」
「ゆ・・か・・・り?」
「永遠亭に行くわよ」言うが早いか魔理沙は紫によってスキマの中に引きずり込まれた。
「魔理沙!!!!」薄れ行く意識の中で、アリスの声が聞こえた気がした。
ここ最近聞いてないとても元気な声だった。
うれしかった。