世に言う神隠し事件が世界で起こっている事を一般的には知られていない。
神隠し…それは忽然と人が消えてしまうことを指す。忽然と…何の前触れもなくだ。
日本でもそれは起こっている。一家が忽然と姿を消した。一家は6人家族であり。今まさに家には食事をしていた形跡が残っており、テレビもつけっぱなしであったそうだ。
新聞記者であった俺は、噂でしか聞いたことのない、その事件にまさか巻き込まれるとは夢に思ってもいなかった。
それは、長野県に取材があるため、先輩記者と一緒に向かったときであった。
「ちくしょう!高速道路が混んでるからって下で走るんじゃなかったぜ」
先輩記者は文句をはきながら、その舗装もされていない道路を走っていく。中央道で向かうはずだった今回の取材は、高速道路での事故により、一般道におりたときから始まった。一般道は入り組んでおり、山の中に入ったが最後、どこなのかもわからない場所を走っていた。
「おい!芹沢、お前がしっかりとはしらねーのかいけないんだぞ」
助手席で怒鳴る先輩記者の吉岡は文句をはきながら、悪態をつく。既に陽は落ち、車のライトだけが頼りとなっていた。
「だいたい、ここはどこなんだよ?薄気味悪いったらありゃーしねー」
吉岡は、窓の外を眺めながら、真っ暗な森林を見つめる。舗装されていない荒れた道を走る車、時折、揺れる車は、一度取材でいったアマゾンでも走っているかのようだ。
「!?」
俺は、突然車の前に現れた人影に、咄嗟にハンドルをきった。車は、そのまま森林の中につっこみ、車は大きな木に衝突して動きを止めた。あまりスピードをだしていなかったせいか、シートベルトもあったため、怪我などはないようだ。
「なんだったんだ、今のはよ!!」
助手席の吉岡も無事のようだ。シートベルトを外して、助手席のドアをあけると、彼は道路にいる人影に向かって歩き出す。
「せ、先輩!?」
「くそったれ、文句言ってきてやる」
吉岡を追う俺。道路にはまだ人影が立っていた。俺は吉岡を追い、その人影に近づくと、
それの正体が徐々に明らかになっていく。
夜の中、日傘をさした白い帽子をかぶり、秋葉原で見かけるゴスロリのような服装は明らかに普通の格好とはいえない、コスプレの格好に近いだろう。髪の毛はまるで外人のように薄い金髪で、世に言う美女といわれるものに近い顔で、スタイルだ。
「あ、あんたか?道の真ん中で突っ立ってたのは。どうしてくれんだ?弁償してくれるんだろうな?」
吉岡は臆せずに、その女性に大声で言う。その女性は、こちらのほうを黙ったまま見つめていたが、やがて微笑む。俺はなぜか、それがこの世のものとは思えないもののように感じた。
「己の立場を理解しなさい。さすれば…元の世界に帰れるかもしれないわ?」
「なにいってやがる?人の話、聞いてるのか!」
吉岡は、意味不明なことを話し出す女性に怒鳴りつける。だがその女性はまったく相手にしていないようで、俺のほうにも視線を向ける。
「頑張りなさい」
そういうと彼女は後ずさる。彼女の後ろにまるで裂け目が出来たかのように暗い世界が広がる。そこに女性ははいると、そのまま裂け目の中に消えていく。
「お、おい!!こらぁ!!」
吉岡は追うが、そこには既に裂け目はなくなっていた。吉岡は先ほどの女性がいた場所を不可思議な表情でぐるぐる回っている。
「な、なんだ?狐にでもばかされたっていうのかよ!」
「……」
俺はなにがなんだかわからないこの状況に、呆然とすることしか出来なかった。
「とにかく、近くに人がいるかいないか探してくるべきだ」
吉岡は木にぶつかって潰れた車内から荷物を取り出す。それを俺は手伝う。カメラに、食料と……それにしても先ほどの女性はなんだったのだろうか。
<己の立場を理解しなさい>
なにを伝えたかったのか。
「よし、行くぞ芹沢。グズグズするな…くそ!携帯もつかえない」
吉岡は携帯の圏外に腹を立たせている。
俺はふと空を見上げる。そこには真っ赤な月が大きく輝いている。まるで血に染まったかのように赤く、赤く。
舗装はされていないが道路はある。よってこれにそっていけば民家があるはずなんだが。
月明かりを頼りに歩いていく俺たち。やがてその道の先、洋館のような屋敷が見えてくる。結構な大きさだ。
「仕方がない、ここの主に事情を説明して電話させてもらおう」
吉岡は少し安堵したのか、その門のほうにへと近づく。俺もそれについていく。大きな塀に囲まれた、その門には誰かがたっている。緑色の服装に赤い髪の毛の女性。先ほどの女性とはちがく、まだ幼さが残っていそうな感じだ。門番なのかわからないが、彼女は、そこに立っていた。
「すいません」
俺は彼女に声をかける…が、彼女は寝息をたてながら、立ったまま寝ている。吉岡は彼女の肩に手を当てて起こそうとするが一向に起きる気配がない。
「なんだよ?こいつ本当に門番か?ここまできて帰る訳には行かないんだが…インターホンもないし、仕方ない、直接中に入って話をしよう」
「そ、それはまずいんじゃないんですか?だって勝手に人の敷地に入ったら怒られるかもしれないじゃないですか?」
「だったらこのまま、お前はどこかもわからない森の中を彷徨うのか?」
「それは……」
「安心しろ。いきなり襲うような真似はしないだろう」
吉岡はそういうと、門を勝手に開けて、敷地の中にへと入っていく。俺は躊躇したが、隣にいる門番はいまだに眠り続けており、しょうがなく吉岡についていく。
敷地内は広く、屋敷に辿り着くには数分がかかった。近づくとその屋敷は見た目以上に広そうな感じがした。吉岡は屋敷の扉の前に立ち、コンコンとノックする。向こうからの反応はない。
「くそったれ、ここまできて帰れるか」
「でも、誰もいないんじゃ帰るしかないですよ」
すると、ノックしていたドアが1人手にひらく、どうやら押すドアだったらしい。ノックの衝撃でひらいたのだろうか?
「やっぱりまずいです。帰りましょう」
だが、吉岡は何を考えたのか、ドアの隙間に手を入れて、ドアをあけると家の中にへと入ろうとした。
「先輩!?」
「仕方がない、電話を借りるだけだ」
先輩は俺のほうを見て、小声で強く言う。
「まずいですよ!」
「うるさい!どうせ誰もいないんだ。泥棒じゃないんだからな。電話だけ借りるだけだ」
俺の忠告を無視するように、そのまま先輩は入っていく。俺はどうしようか悩んだが、このまま外にいるのもまずいと思い、そのまま屋敷の中にへと入っていく。
屋敷の中は暗かった。
窓がないためか、光が差し込んでこないのである。先輩と俺は懐中電灯を取り出してあたりを探る。
「真っ暗だ。こんなんじゃ電話を探そうにも…」
どう自分たちが進んでいるかもわからない中、たたひたすら歩き続ける俺たち。長い廊下だ。どこまで続いているのだろうか…。
「先輩、やっぱり戻ったほうがいいともいますよ?このままだと迷ってしまいそうで」
「何言ってやがる?今更びびってるんじゃない!」
吉岡は怒鳴り声をあげる。
その声は屋敷の中に良く響いた。
「まずい、今の声で誰かが気づいたかもしれない。いそくぞ」
「や、やっぱり俺には出来ない!!」
俺はそのまま元来た道を走り出す。
「お、おい!!芹沢!!」
後で先輩の声を聞きながら、俺は全速力で戻ろうと走るが、どこまでいってもドアにぶつからない。真っ暗な道、懐中電灯だけでは、自分がどこをどう走っているのかも分からない。
とにかく逃げ出したかった。俺は謝りながら走っていた。
勝手に屋敷の中に入ったことで…いや、その前からだ。あの女性とあったところから、この世界は、自分たちがいた世界とは違っていたのだ。行く場所もなくただ走る。進んでいるのかもわからない。上にいっているのか下にいっているのかもわからないまま…。
「おーい?お前なにしてんだ?」
俺は振り返る。そこには黒い魔女のような帽子を被った金髪のパーマをかけたような髪形をした女子がいた。彼女は肩に袋を持っている。なんだか大量にいろいろなものが入っているようだった。俺はその子を見つめて、自分がその場で走っていることに気がついた。そう、動いていなかったのだ。いよいよ俺は恐ろしくなった。
「す、すみません!屋敷に勝手にはいってしまって…ただ、車が壊れてしまって電話をお借りしたくて」
俺は無我夢中で、その少女に頭を下げる。もうどうなってもいい。ただ人と会えただけでよかったと俺は思っていた。
「私も屋敷の人間じゃないぜ?むしろあんたと同じ泥棒に近いんだけどな」
少女は笑顔で答えながら荷物を担ぐ。
「しょうがねーな。一緒に脱出するぜ」
そういうと少女は俺を箒にまたがせて乗せる。
「捕まってろよ!!」
俺はなにがなんだかわからずに、その少女のお腹に手を回す。箒は宙に浮いたかと思うとそのまま、スピードをあげて一気に建物の中から飛び出す。
「わああああああああ」
俺はわけもわからず、ただ叫ぶしかなかった。
空から眺めた屋敷は、中にいる以上に小さく感じた。
「それにしても、よく紅魔館なんかにはいったな」
箒に跨っている少女は、不思議そうな表情で話しかける。
「迷ったら最後、どうなるかわからないぜ…。私だってあそこに入るのは命がけだからな」
少女は何かを思い出したのか、どこかげんなりとした表情でつぶやく。俺は空を飛ぶ少女と、空から見たこの世界に、意識が遠くなるのを感じた。
「あ、あの…ここはどこなんだ?」
すると振り返った少女は、笑顔で答える。
「ここは……」
「お兄さん?お兄さん、しっかり」
「うぅっ……」
俺は目を開けた。眩しい光…そこにいたのは少女ではなく、別の男性だった。俺はあたりを見回して立ち上がる。そこは舗装された道路であった。俺はここで倒れていたのか。
「あ、あの…少女を見ませんでしたか?」
「はぁ?」
俺はまったく理解が出来ないでいた。
俺はそのまま、男性の車にのせてもらい、当初の目的であった長野県にへと向かうこととなった。俺は一体どこにいていたのだろうか?あの女性は?そして屋敷は?あの少女は?なにがなんだか理解できず、そしてこれからも決してわからないであろう。俺は車の外を眺めていた。
やがて町の光が見えてくる。
「…あなたは過ちを犯さなかった。運も良かったようだし……」
月夜に照らされながら、車を眺めるのは、ゴスロリ服装の、最初に出会った女性である。彼女は傘をさしたまま、車が見えなくなっていく様子を見ていた。
「それに比べて…」
女性は、振り返り空間に裂け目をつくり、そこから何かを見つめる。
「ちくしょう!!誰かいないのか!俺を、俺をここからだしてくれ」
それは、先ほどの男と一緒にいた先輩とか言われていた男だ。その男は今、屋敷内の暗闇の中、もがいている。まったく進まないその暗闇の場所で、発狂しかけていたのだろう。男は誰かに気がついてもらおうと叫んでいたのだ。
「どうかしたの?」
それは少女である。赤い服に、白い帽子をかぶった無垢な少女。男はようやく助かったと思ったのが、安堵の表情を浮かべて、その少女を見つめる。
「た、助かった!すまない、迷ってしまって…電話かなにか貸してくれると嬉しいんだが」
男を見つめる少女は笑顔で頷く
「ついてきて、案内してあげる」
男はそのまま少女の後を歩いていく。
暗闇の中、消えていく男
「……忠告を聞かず、己の立場をわきまえない者には……」
傘をさした女性はそのまま開かれていた隙間を閉じる。
その隙間が閉じかけた瞬間…かすかだが、男の絶叫が聞こえたのは…。
神隠し…それは、幻想郷と呼ばれる場所と現世の結界に生じるゆがみという。
「あああああああああああ」
神隠し…それは忽然と人が消えてしまうことを指す。忽然と…何の前触れもなくだ。
日本でもそれは起こっている。一家が忽然と姿を消した。一家は6人家族であり。今まさに家には食事をしていた形跡が残っており、テレビもつけっぱなしであったそうだ。
新聞記者であった俺は、噂でしか聞いたことのない、その事件にまさか巻き込まれるとは夢に思ってもいなかった。
それは、長野県に取材があるため、先輩記者と一緒に向かったときであった。
「ちくしょう!高速道路が混んでるからって下で走るんじゃなかったぜ」
先輩記者は文句をはきながら、その舗装もされていない道路を走っていく。中央道で向かうはずだった今回の取材は、高速道路での事故により、一般道におりたときから始まった。一般道は入り組んでおり、山の中に入ったが最後、どこなのかもわからない場所を走っていた。
「おい!芹沢、お前がしっかりとはしらねーのかいけないんだぞ」
助手席で怒鳴る先輩記者の吉岡は文句をはきながら、悪態をつく。既に陽は落ち、車のライトだけが頼りとなっていた。
「だいたい、ここはどこなんだよ?薄気味悪いったらありゃーしねー」
吉岡は、窓の外を眺めながら、真っ暗な森林を見つめる。舗装されていない荒れた道を走る車、時折、揺れる車は、一度取材でいったアマゾンでも走っているかのようだ。
「!?」
俺は、突然車の前に現れた人影に、咄嗟にハンドルをきった。車は、そのまま森林の中につっこみ、車は大きな木に衝突して動きを止めた。あまりスピードをだしていなかったせいか、シートベルトもあったため、怪我などはないようだ。
「なんだったんだ、今のはよ!!」
助手席の吉岡も無事のようだ。シートベルトを外して、助手席のドアをあけると、彼は道路にいる人影に向かって歩き出す。
「せ、先輩!?」
「くそったれ、文句言ってきてやる」
吉岡を追う俺。道路にはまだ人影が立っていた。俺は吉岡を追い、その人影に近づくと、
それの正体が徐々に明らかになっていく。
夜の中、日傘をさした白い帽子をかぶり、秋葉原で見かけるゴスロリのような服装は明らかに普通の格好とはいえない、コスプレの格好に近いだろう。髪の毛はまるで外人のように薄い金髪で、世に言う美女といわれるものに近い顔で、スタイルだ。
「あ、あんたか?道の真ん中で突っ立ってたのは。どうしてくれんだ?弁償してくれるんだろうな?」
吉岡は臆せずに、その女性に大声で言う。その女性は、こちらのほうを黙ったまま見つめていたが、やがて微笑む。俺はなぜか、それがこの世のものとは思えないもののように感じた。
「己の立場を理解しなさい。さすれば…元の世界に帰れるかもしれないわ?」
「なにいってやがる?人の話、聞いてるのか!」
吉岡は、意味不明なことを話し出す女性に怒鳴りつける。だがその女性はまったく相手にしていないようで、俺のほうにも視線を向ける。
「頑張りなさい」
そういうと彼女は後ずさる。彼女の後ろにまるで裂け目が出来たかのように暗い世界が広がる。そこに女性ははいると、そのまま裂け目の中に消えていく。
「お、おい!!こらぁ!!」
吉岡は追うが、そこには既に裂け目はなくなっていた。吉岡は先ほどの女性がいた場所を不可思議な表情でぐるぐる回っている。
「な、なんだ?狐にでもばかされたっていうのかよ!」
「……」
俺はなにがなんだかわからないこの状況に、呆然とすることしか出来なかった。
「とにかく、近くに人がいるかいないか探してくるべきだ」
吉岡は木にぶつかって潰れた車内から荷物を取り出す。それを俺は手伝う。カメラに、食料と……それにしても先ほどの女性はなんだったのだろうか。
<己の立場を理解しなさい>
なにを伝えたかったのか。
「よし、行くぞ芹沢。グズグズするな…くそ!携帯もつかえない」
吉岡は携帯の圏外に腹を立たせている。
俺はふと空を見上げる。そこには真っ赤な月が大きく輝いている。まるで血に染まったかのように赤く、赤く。
舗装はされていないが道路はある。よってこれにそっていけば民家があるはずなんだが。
月明かりを頼りに歩いていく俺たち。やがてその道の先、洋館のような屋敷が見えてくる。結構な大きさだ。
「仕方がない、ここの主に事情を説明して電話させてもらおう」
吉岡は少し安堵したのか、その門のほうにへと近づく。俺もそれについていく。大きな塀に囲まれた、その門には誰かがたっている。緑色の服装に赤い髪の毛の女性。先ほどの女性とはちがく、まだ幼さが残っていそうな感じだ。門番なのかわからないが、彼女は、そこに立っていた。
「すいません」
俺は彼女に声をかける…が、彼女は寝息をたてながら、立ったまま寝ている。吉岡は彼女の肩に手を当てて起こそうとするが一向に起きる気配がない。
「なんだよ?こいつ本当に門番か?ここまできて帰る訳には行かないんだが…インターホンもないし、仕方ない、直接中に入って話をしよう」
「そ、それはまずいんじゃないんですか?だって勝手に人の敷地に入ったら怒られるかもしれないじゃないですか?」
「だったらこのまま、お前はどこかもわからない森の中を彷徨うのか?」
「それは……」
「安心しろ。いきなり襲うような真似はしないだろう」
吉岡はそういうと、門を勝手に開けて、敷地の中にへと入っていく。俺は躊躇したが、隣にいる門番はいまだに眠り続けており、しょうがなく吉岡についていく。
敷地内は広く、屋敷に辿り着くには数分がかかった。近づくとその屋敷は見た目以上に広そうな感じがした。吉岡は屋敷の扉の前に立ち、コンコンとノックする。向こうからの反応はない。
「くそったれ、ここまできて帰れるか」
「でも、誰もいないんじゃ帰るしかないですよ」
すると、ノックしていたドアが1人手にひらく、どうやら押すドアだったらしい。ノックの衝撃でひらいたのだろうか?
「やっぱりまずいです。帰りましょう」
だが、吉岡は何を考えたのか、ドアの隙間に手を入れて、ドアをあけると家の中にへと入ろうとした。
「先輩!?」
「仕方がない、電話を借りるだけだ」
先輩は俺のほうを見て、小声で強く言う。
「まずいですよ!」
「うるさい!どうせ誰もいないんだ。泥棒じゃないんだからな。電話だけ借りるだけだ」
俺の忠告を無視するように、そのまま先輩は入っていく。俺はどうしようか悩んだが、このまま外にいるのもまずいと思い、そのまま屋敷の中にへと入っていく。
屋敷の中は暗かった。
窓がないためか、光が差し込んでこないのである。先輩と俺は懐中電灯を取り出してあたりを探る。
「真っ暗だ。こんなんじゃ電話を探そうにも…」
どう自分たちが進んでいるかもわからない中、たたひたすら歩き続ける俺たち。長い廊下だ。どこまで続いているのだろうか…。
「先輩、やっぱり戻ったほうがいいともいますよ?このままだと迷ってしまいそうで」
「何言ってやがる?今更びびってるんじゃない!」
吉岡は怒鳴り声をあげる。
その声は屋敷の中に良く響いた。
「まずい、今の声で誰かが気づいたかもしれない。いそくぞ」
「や、やっぱり俺には出来ない!!」
俺はそのまま元来た道を走り出す。
「お、おい!!芹沢!!」
後で先輩の声を聞きながら、俺は全速力で戻ろうと走るが、どこまでいってもドアにぶつからない。真っ暗な道、懐中電灯だけでは、自分がどこをどう走っているのかも分からない。
とにかく逃げ出したかった。俺は謝りながら走っていた。
勝手に屋敷の中に入ったことで…いや、その前からだ。あの女性とあったところから、この世界は、自分たちがいた世界とは違っていたのだ。行く場所もなくただ走る。進んでいるのかもわからない。上にいっているのか下にいっているのかもわからないまま…。
「おーい?お前なにしてんだ?」
俺は振り返る。そこには黒い魔女のような帽子を被った金髪のパーマをかけたような髪形をした女子がいた。彼女は肩に袋を持っている。なんだか大量にいろいろなものが入っているようだった。俺はその子を見つめて、自分がその場で走っていることに気がついた。そう、動いていなかったのだ。いよいよ俺は恐ろしくなった。
「す、すみません!屋敷に勝手にはいってしまって…ただ、車が壊れてしまって電話をお借りしたくて」
俺は無我夢中で、その少女に頭を下げる。もうどうなってもいい。ただ人と会えただけでよかったと俺は思っていた。
「私も屋敷の人間じゃないぜ?むしろあんたと同じ泥棒に近いんだけどな」
少女は笑顔で答えながら荷物を担ぐ。
「しょうがねーな。一緒に脱出するぜ」
そういうと少女は俺を箒にまたがせて乗せる。
「捕まってろよ!!」
俺はなにがなんだかわからずに、その少女のお腹に手を回す。箒は宙に浮いたかと思うとそのまま、スピードをあげて一気に建物の中から飛び出す。
「わああああああああ」
俺はわけもわからず、ただ叫ぶしかなかった。
空から眺めた屋敷は、中にいる以上に小さく感じた。
「それにしても、よく紅魔館なんかにはいったな」
箒に跨っている少女は、不思議そうな表情で話しかける。
「迷ったら最後、どうなるかわからないぜ…。私だってあそこに入るのは命がけだからな」
少女は何かを思い出したのか、どこかげんなりとした表情でつぶやく。俺は空を飛ぶ少女と、空から見たこの世界に、意識が遠くなるのを感じた。
「あ、あの…ここはどこなんだ?」
すると振り返った少女は、笑顔で答える。
「ここは……」
「お兄さん?お兄さん、しっかり」
「うぅっ……」
俺は目を開けた。眩しい光…そこにいたのは少女ではなく、別の男性だった。俺はあたりを見回して立ち上がる。そこは舗装された道路であった。俺はここで倒れていたのか。
「あ、あの…少女を見ませんでしたか?」
「はぁ?」
俺はまったく理解が出来ないでいた。
俺はそのまま、男性の車にのせてもらい、当初の目的であった長野県にへと向かうこととなった。俺は一体どこにいていたのだろうか?あの女性は?そして屋敷は?あの少女は?なにがなんだか理解できず、そしてこれからも決してわからないであろう。俺は車の外を眺めていた。
やがて町の光が見えてくる。
「…あなたは過ちを犯さなかった。運も良かったようだし……」
月夜に照らされながら、車を眺めるのは、ゴスロリ服装の、最初に出会った女性である。彼女は傘をさしたまま、車が見えなくなっていく様子を見ていた。
「それに比べて…」
女性は、振り返り空間に裂け目をつくり、そこから何かを見つめる。
「ちくしょう!!誰かいないのか!俺を、俺をここからだしてくれ」
それは、先ほどの男と一緒にいた先輩とか言われていた男だ。その男は今、屋敷内の暗闇の中、もがいている。まったく進まないその暗闇の場所で、発狂しかけていたのだろう。男は誰かに気がついてもらおうと叫んでいたのだ。
「どうかしたの?」
それは少女である。赤い服に、白い帽子をかぶった無垢な少女。男はようやく助かったと思ったのが、安堵の表情を浮かべて、その少女を見つめる。
「た、助かった!すまない、迷ってしまって…電話かなにか貸してくれると嬉しいんだが」
男を見つめる少女は笑顔で頷く
「ついてきて、案内してあげる」
男はそのまま少女の後を歩いていく。
暗闇の中、消えていく男
「……忠告を聞かず、己の立場をわきまえない者には……」
傘をさした女性はそのまま開かれていた隙間を閉じる。
その隙間が閉じかけた瞬間…かすかだが、男の絶叫が聞こえたのは…。
神隠し…それは、幻想郷と呼ばれる場所と現世の結界に生じるゆがみという。
「あああああああああああ」
人間の里か博麗神社に行かないと、幻想郷はホラーですね
それだけでも色々と違うでしょうし。
作品は面白かったですよ。
確かに外の人間からすればそういう世界にもなるでしょうね。
紫様が忠告をだしているのも良かった。
実際、そういった神隠しが認知されているのか、それとも幻想郷に入った瞬間に
その人物も幻想となって外の人たちに忘れられるのか・・・。
色々な解釈がありますからね。
なかなか纏まっていて良かったと思います。
たまにはこういう話で境界を引きなおす必要もあるのかも知れないですね