※時代設定その他もろもろの設定が見事にぶち壊されています。
今回のキーワード「紫→メリー」(決して「メリー→紫」でも「紫×メリー」でもない
~×× ×~
その日も、いつものように起きた。
長い眠りから覚めても顔ぶれは変わることなく。
美味しい朝ごはんを食べて、一服。
報告を聞いて一安心。
さて、出かけようかと思った矢先に、
すべては、消滅した。
~宇佐見 蓮子~
とある駅前では、定期的にこのような光景が見られる。
「蓮子・・・待ち合わせ時間と現在の時間の誤差は?」
金髪・洋装の女性が帽子を被った女性を詰問している。
口調・表情ともに柔らかいが、にじみ出るオーラは隠せない。
「・・・・・・ま、まぁまぁ、三十分ぐらいどうってこと―――」
そんな彼女に怯え、まともに顔を合わせられないながらも詰問されている女性は返事をする。いわゆる言い訳だ。
そしてこの状況での言い訳という選択肢は明らかに間違いだった。
「ふんっ!」
「おわぁ!」
金髪の女性の拳が言い訳を遮って顔を掠める。
避けたわけではない、外れたわけでもない、外したのだ。
「・・・・・・」
「め、メリー・・・?」
自らの頬に叩きつけられた風圧に顔をしかめながら、少女は問いかける。
メリーと呼ばれた金髪の彼女は、とびっきりの笑顔で答える。
「じゃ、行きましょうか蓮子」
コクコクと、蓮子は頷いた。
「ほんと、ここのケーキは美味しいわねぇ」
「そうね(良かった、機嫌治ってる)」
今日もまた、待ち合わせに遅れた蓮子のおごりでのケーキ。
メリーは幸せそうな笑顔でフォークを動かし、蓮子は少々苦い顔でコーヒーを飲んでいる。その理由はコーヒーの苦味ではなさそうだ。
遅刻常習者である蓮子にメリーはペナルティを課すことにしている。それがこの店のケーキなのだ。
「だいたい、時間が分かる能力を持っといてなんで待ち合わせに遅れるのよ」
「こんな能力、腕時計と変わりないわよ」
唯一変わるとすれば、そこらの電波時計より正確だということぐらい。
そんな能力を蓮子は持っている。
「ほんと、役に立たない能力ね」
「・・・ひど」
少々膨れっ面になりながら、蓮子は懐より三枚の写真を取り出しテーブルに広げる。住宅地、高層ビル、森の写真だ。
メリーはフォークを動かしながらも、その写真に興味を示した。
「今度は、どんな事件?」
彼女達は“部活動”と称して様々な土地に赴いている。
いわゆる超常現象、それを捜し歩いているのだ。
そして、そんな彼女達のここ最近の目的といえば・・・
「まずはそれ、住宅地」
一見何の変哲もない写真だ。メリーもその写真にはそれほどの興味を示さない。
「人面犬が出る、とか出ないとか」
「どっちかはっきりしなさいよ」
あっさりと一言で切り捨てられた。だが蓮子はさして気にした様子もなく、次の写真の説明をする。
「今度はこのビル、ここからの飛び降り自殺者が後を絶たないとか」
「へぇ・・・その理由は?」
「そこら辺りで一番高いビルだから」
「・・・不思議でもなんでもないわね」
今度の写真は蓮子自らが切り捨てる。
さぁ、最後に残った写真は、蓮子の切り札。
「それで、これがN県に位置するとある山の中」
蓮子の説明を聞いているのかいないのか、メリーはその写真を手に取り食い入るように見つめた。
目の色が変った。
その様子を観察しながら満足げに蓮子は続ける。
「そこでは、毎年行方不明者が数人居るそうよ、それも定期的に」
「それってつまり・・・」
「神隠し、かもね」
最近の彼女達は、日本各地で起こる神隠しについて調べていた。
その大多数がただの行方不明や誘拐だったりするが、少数存在する実例では、
いわゆる“境界”があやふやになっている地点で起こっていた。
それが分かるのも、メリーが“境界”を見ることが出来るから。
「で、今から行くの?」
「え? ・・・いや、さすがにそれは」
N県に行くには電車の乗り継ぎしかない。それほど遠い場所なのだ今回は。
「それじゃあいつ?」
「焦りすぎよメリー・・・そうね、次の日曜日、空いてる?」
「もちろん空いてるわ」
その言葉に蓮子は苦笑する。
最近のメリーもこの活動を楽しみにしているのか、活動がある日はほぼ確実に予定を空けているのだ。
「じゃあ、それで良いよね」
「もちろん、それで何か用意した方がいいかしら?」
「今日はその相談、というわけよ」
二人のコーヒーがそれぞれ三杯目を数えた頃。
「それじゃあ、次の日曜日に」
「ええ・・・御代、よろしくね」
「・・・・・・はい」
基本的に遅刻する蓮子がおごることになっていたりする。
いつかメリーにおごらせるというのが蓮子の密かな夢だったりするが、その夢が叶う日はいつだろうか。
「じゃ、今度は遅れないでよ」
「分かってるって、大丈夫よ」
「・・・・・・それなら良いけど」
二人、店の前で別れる。
それぞれの家へと、二人は帰っていく。
「日曜日か・・・楽しみっ」
その顔を笑顔で緩めながら蓮子は家路を急ぐ。
そのテンションはスキップをしてしまいそうになるほど。
その表情は、道を行く子供が指を差し親が手を引いて急ぐほど。
「最近、あまり遠くに行ってなかったからなぁ」
基本的に活動は不定期。場所すらも不定期。
いわゆる境界も、ここ最近は滅多にお目にかかれていなかったりする。
だから蓮子は興奮していた。
「メリーも、楽しそうだったな」
思い浮かぶのは、カフェでの友人の笑顔。
久し振りに見つけた境界に、メリーもまた興奮していた、
「だからって興奮しすぎだと思うけど」
少々尋常じゃないほどに。
そんな友人を思い浮かべながら、蓮子は歩みを緩める。
「それにしても、ほんと楽しそうだったな」
その様子は、蓮子が少々冷静になるほどのものだった。
最近目だった境界が見られなかったとはいえ、それにしてもメリーの性格らしからなかった。
「どこか・・・焦ってるみたいだった・・・・・・」
そう言ってから、蓮子は首を振る。
「焦るなんて、ほんとにメリーらしくないな」
蓮子は思い出す、メリーと出会った時のことを。
部室(といっても使われていない教室を勝手に借りていただけだが)に訪れたメリーを、蓮子が強引に勧誘。
それから、二人は友人となった。
「なんか、過程が間違ってるような」
一人、ツッコミを入れる蓮子。
と、彼女の足が止まった。
「そういえば、なんでメリーは訪ねてきたのかな」
すっかり忘れていたことだが、結局蓮子はメリーが部室を訪れた理由を聞かなかった。
「ま、いいか」
今まで聞く気にならなかったのだから、これからも聞くことはないだろう。
「ほんと、この活動は楽しくて面白い」
蓮子はそう結論を出した。
~マエリベリー・ハーン、もしくは×× ×~
蓮子と別れてからのメリーは、その笑顔を曇らせていた。
常日頃彼女と共に居る人間ならその表情を疑問に思ったかもしれないが、そんな人間は蓮子以外に“居ない”。
その蓮子も、今は傍に居ない。
「・・・急がなきゃ」
何を急ぐというのか、蓮子が居ればそう訪ねるだろう。
だが、蓮子は居ない。
そしてメリーは、普段の彼女らしからない速度で家路を急いだ。
「・・・何をやってるのかしら、私は」
家路を急ぎ、帰宅してから気づいたことだが、約束の休日までまだ日にちがある。
だから、わざわざ急いで帰宅することもなかったのだ。
それに気がついて、メリーは一人自嘲する。
「ほんと、焦りすぎね」
普段より大人びた口調で彼女はそう呟き、着替えもせずにベッドへ寝転がる。
枕を抱いて丸まりながら、彼女は溜め息を吐く。
その目は、壁にかかったカレンダーへと向いた。
「・・・あと、どのくらいかしら」
そのカレンダーには数式が書き込まれていた。
複雑なその数式は一目見ただけでは解どころか何を表す式かさえ分からない。
「幻想郷からはじき出されて、もう・・・」
その憂いは、とても深かった。
その日も、いつものように起きた。
「おはようございます、紫様」
「う~、おはよう、藍」
長い眠りから覚めても顔ぶれは変わることなく。
「朝ごはんは?」
「今日は味噌汁に納豆ご飯、焼き魚です」
美味しい朝ごはんを食べて、一服。
「結界の方は大丈夫かしら?」
「はい、ここ最近は綻びも少なくなってきております」
報告を聞いて一安心。
「それじゃぁ・・・霊夢のところへ行ってくるわ、お留守番お願いね」
「かしこまりました」
さて、出かけようかと思った矢先に、
「ちょっと・・・これって、」
すべては、消滅した。
「幻想郷・・・結界に異常はなかったはず」
その声音は、“マエリベリー・ハーン”ではなく“八雲 紫”。
「だというのに・・・・・・私は外に飛ばされた」
訳も分からない内に幻想郷の外へ飛ばされた紫ではあったが、本来彼女の能力をもってすればすぐにでも幻想郷へと戻れるはずだった。
だが―――
「・・・信仰の劣化、幻想への諦め、妖怪の消失」
それはとある神社が幻想入りした時に分かっていたこと。
“外の世界”は、もはや幻想を受け入れてはくれなかった。
そして紫にとって最悪だったのは、弾き飛ばされた先が“未来の外の世界”だったこと。
「ここまで、ここまで幻想がなくなるなんて・・・」
寝転がったまま、彼女は隙間を開く。
だが、その隙間は掌程の大きさまでしか開こうとしなかった。
力を抑制しているのではない、そこが限界だったのだ。
幻想郷よりはじき出された紫は、幻想郷へと戻ろうとする。
だが、予想以上の幻想の消失とそれに伴う自身の力の消失にそれが出来ずに居た。
隙間どころか小さな境界でないと操れなくなってしまっていた。
そのため、彼女はとりあえず外の世界の人間として過ごすことにした。
仮の姿は、『マエリベリー・ハーン』
幻想の存在が力を持つには、多数の人間に認知・信仰・恐怖される必要がある。
そして八雲紫という存在は、その全てに当てはまっていた。
・・・幻想郷の中や、過去の世界では。
「幻想が存在を失うこの世界」
メリー・・・いや、紫が手を握り締める。
それに連動して隙間も泡のように消えた。
「私ですら、無力だというのかしら」
その表情は、最強として君臨した八雲紫のそれではなかった。
今の彼女は、自らが創り出した楽園を必死で探す、無力な存在。
「・・・そう、そうよね」
自嘲気味に、彼女は呟く。
「私は、必ず戻ってみせる」
“マエリベリー・ハーン”となった彼女は、幻想郷へと帰る道を探し始める。
幸いなことに、既存の境界の揺らぎさえあれば今の彼女でも幻想郷への道を開くことができる。
そのために、彼女はたまたま目に付いた面白い能力の持ち主、“宇佐見蓮子”と共に活動を始めた。
活動の趣向から、幻想郷への道が探しやすいと考えたからだ。
だが・・・さらに予想外だったのは、時空の乱れ。
過去の幻想郷から飛ばされたのが未来の外なら、未来の外から入れる幻想郷は、過去。
幾度となく幻想郷への帰還は果たしても、それは何の解決にもならない。
現在の幻想郷がどうなっているか、定かではないのだ。
「でも、少なくともどれほど時空の乱れがあるかは分かった」
カレンダーに書かれた数式は、その公式。
外の世界と幻想郷でどれほどの時間が乱れているか、そして、
あとどれだけで、幻想郷より弾き飛ばされた“あの日”に追いつくかの、
タイムリミット。
「・・・藍」
自らの手となり足となり、疲れを癒してくれる式。
「霊夢」
今までとは違った博麗の巫女。
「幽々子」
最愛の友人。
彼女達以外にも、様々な人妖が集う郷。
「・・・・・・早く、帰りたい」
そのために、彼女は“活動”を続ける。
愛しい者達が待つ楽園へと帰るために。
「でも・・・」
最大の誤算だったのは、
「帰れたとして、」
仮の姿としての、仮の友人だったはずの、
「蓮子は・・・」
彼女が、ここまで愛おしくなるとは。
~日曜日、約束の日~
「・・・やっぱり遅刻ね、蓮子」
「ごめんごめん、本当にごめん!」
「誠意を伴わない謝罪ね、ほんと」
今日も彼女達は、
すれ違い続ける。
蓮子のほうがしっかりしてそうに見えるのに、メリーが案外しっかりしているところもあれですしね
(まあ、勝手な解釈ですが)
次回作も期待
秘封倶楽部の原動力は蓮子の行動力なのさ!
どの方向に動こうとしようが止まろうとしようが、おもいっきり引っ張られるといいと思うよ
是非ともこの作品の続編を書いて欲しいと思います。 ・・・・ダメ?
しかし、蓮子との別れはやってくるんでしょうねぇ・・・。
メリー(紫様)は幻想郷への帰還を望んでいるわけですし。
そのときにメリー(紫様)は何を思い、蓮子は何を考えるのでしょうね?
気になるところです。
作品、楽しく読ませていただきました。
次回も楽しみにしています。
もち嫁はメリー(紫)
告白と説得は・・・頑張れ!!
たしかに見かけませんね。
続きが気になる終わり方ですな~。
どうか続きを書いてください。
「そういえば―――」から生まれた作品ですから。発想は転換してナンボ、だと勝手に思っております。
名前が無い程度の能力さん
それが一番良いんでしょうね。良くも悪くも、行動力はありますから。
名前が無い程度の能力さん
拝み倒しで聞くかどうか・・・個人的に蓮子は、「幻想は好きだけど幻想にはなりたくない」キャラだと
解釈しています。
煉獄さん
いつか、来るでしょうね。
・・・続編ですが、ぶっちゃけ「何故紫が幻想郷から弾き飛ばされたか」が設定されていません。
書いてて「これは無いだろ」と作者自身が思ったほどですし。何か良い辻褄あわせがあれば・・・
名前が無い程度の能力さん
いや嫁は蓮子の方が(ry
時空や空間を翔る程度の能力さん
「発想を、逆転するのよ」byどこぞの逆転
気になる終わり方ですが、続きはありません残念ながら。
名前が無い程度の能力さん
無理です(きっぱり)。
いや、個人的には書きたいですけど上記(紫が幻想郷を弾き飛ばされた理由)を思いつかない限り、
続編が日の目を見ることは・・・・・・
是非続きを書いてくださ(ry
ありがとうございます。
ですが続きはありませ(ry
もしかすると二ヶ月ぐらい先にポッとネタが出てくるかもしれませんが、
少なくとも現在は、全く出てきません(紫が幻想郷から弾き飛ばされた理由)
何ていうか、よかった
続きは、読んではみたいけど、ここで終わりでも悪くは無い感じ
どちらかといえば読みたいけど
設定が決まって無くても、こんな彼女(たち)の日常とかどうですかね
日々でのメリー(紫)の内心をもっと読んでみたい