Coolier - 新生・東方創想話

極東悲想天

2008/06/05 15:44:44
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※この作品には東方緋想天のネタバレがこれでもかと含まれております、お気をつけください。







「ひーっく」

年中無休の酔っ払い、伊吹萃香は今日もぐでんと酔っていました。

「れーいむー、いーるかーい?」

本日の酒飲み相手のご指名は神社の巫女、
勝手に上がりこんで居間でくつろぎますが、巫女の気配がありません。

「霊夢ー? いないのー?」

呼んでも呼んでも応答は無し、仕方なく一人で飲み始めることにしたのでした。

「うーぃ……なんかツマミは無いかね~……」

酒だけでは口寂しく、きょろきょろと居間を見渡す酔っ払い、
すると丁度よくちゃぶ台の上に饅頭が置いてあるじゃありませんか。

「おっ、いーただきー!」

見つけるや否や鷲掴みにして口にぽいちょ、
むしゃむしゃと頬張って酒をくくーっと瓢箪一気。

「ひーっく!」

やがて酒宴に満足したのか、萃香はごろんと横になっていびきを掻き始めました、
そんな彼女が目を覚ますのは一刻ほど後。

「ほぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あひっ!?」

霊夢の叫び声に驚いてのことでした。

「な、無い! 饅頭が! 私の饅頭がっ!!」
「え~……あー、あれ食べちゃった、ごめんね~」
「ごめんねじゃないわよ!!」
「ひょっ!?」

萃香の方を振り向いた霊夢の顔は、滝のような涙で覆われていました。

「あれはっ……ゆっくり堂の饅頭で……数年に! 一度しか! 食べられないのにいいい!」
「そ、そんなに大事な物だったの?」
「馬鹿ーーーっ! 萃香なんか大っ嫌い! もう顔も見たくないわ!!」
「うぐはぁっ!!」

巫女は鬼が大嫌いになりましたが、鬼は巫女が大好きでした、
それはもう無償で神社を建て直してあげるほどに。

「あんたなんか切腹して死んじゃえーーっ!!」
「ぴちゅぅぅぅぅん!!」

夏の空に巫女の声と鬼の被弾音がむなしく響いたそうです。



   極東悲想天

      ~衣玖がダンサーになった理由~



「というわけで幻想郷が破滅の危機です」
『何でっ!?』

ここは紅魔館の大会議室、そこで八雲紫から突然飛び出た言葉に、
円卓へと幻想郷中から萃められた有名無名の人や妖怪達が一斉に反応する。

「じゃあ順序を追ってわかりやすく説明するわ、いい?」

紫は両手で彼女等を制すると、隙間からホワイトボードを取り出し、
さらに式を使って全員へレポートを配る。

「萃香が霊夢の饅頭を食べた、霊夢が萃香に切腹しろといった、よって幻想郷は破滅します」
『口頭説明かよ!!』

全員が叫びながら寸分違わぬタイミングでレポートを円卓に叩きつける、
せめてホワイトボードぐらい使えよ! という指摘もあったがそこは割愛する。

「というか何で鬼一匹死んだくらいで破滅するのよ!?」

その場の全員の思いを受け取って、ついにその意見をぶつけるレミリア、
対する紫は両手を組み、それで口元を覆い隠すと、神妙な顔つきで言葉を綴り始めた。

「皆さんは二日酔いには迎え酒って言葉を知ってるかしら?」

悪酔いしたなら普通に酔ってしまえばいいというあれです。

「ご存知の通り、伊吹萃香は酔っ払いです、それも年中無休、寝ながら酒を飲むほどに」

素面になることが無い鬼を皆が思い浮かべ、うんうんと頷く。

「彼女が何故酒をやめないかというと……二日酔いが怖いから、よ」

そして紫から飛び出した新説に、一堂に衝撃が走った。

「ゆえに彼女は酒を飲み、酒を飲み、飲んで飲み続けて常に酔い続けることとなりました、
 十年が過ぎ、百年が過ぎ、やがて千年が過ぎ……今、彼女の体は大変な状態なのです」

紫の顔つきが段々と険しくなり、場を緊張が包み始める。

「萃香の体には今、膨大な量のアセトアルデヒドが溜まっているの」
「アセト……アルデヒド?」
「アセトアルデヒド、二日酔いの原因と言われている物質のことね」

レミリアが聴いたことの無い言葉に顔を歪めれば、
その対面にいた鈴仙が淡々とアセトアルデヒドについて説明を始めた。

「酒を分解した際に体内で作られる物だけど、引火性、揮発性ともに強く、しかも……」
『しかも……?』
「臭い、非常に」

アセトアルデヒドは特定悪臭物質の一つであり、
その言葉に全員が嫌な顔を浮かべる。

「あ、そうそう、萃香の爆発系の攻撃は全部アセトアルデヒドによるものよ」
『まじで!?』

紫が言い放つ衝撃の真実、萃香が放り投げてくる花火も、
こぶしの先から放たれる爆発も、実は全部臭いのだ、不発だと恐ろしいものがある。

「さて話がそれちゃったけど……萃香が切腹するとどうなるか?
 まあ、簡単に言えば、アセトアルデヒドが溢れ出てくるのよ」

全員が思い浮かべるのは白装束の状態でお腹に出来た穴から
ぶしゅーと何らかの液体が噴出する可愛らしい萃香の姿であるが……。

「皆が考えているように切腹してすぐには出てこないわ、
 大事なのは切腹したという事実……つまり自分で自分の命を絶とうとした事」

紫の目つきが厳しくなり、場を更なる緊張感が包む。

「切腹程度で死ぬような鬼ではないけど、死に近い状態にはなる、
 いわば脱力、力みからの開放……すなわちアセトアルデヒドを萃める力の消失」

途端、幻想郷の知識人達の顔が真っ青に染まる、
ここまでの説明で彼女達はその脅威に気付いたのだ。

「あの小さな体に圧縮され閉じ込められていたアセトアルデヒドは急激に膨張し、
 爆発も同然の勢いで拡散、とてつもない勢いで幻想郷を汚染することでしょう」

やがて各々の知識量に応じて段々と顔を青く染める物が増えてゆく。

「ですが、真の恐怖はこれからです」

だが紫は語ることをやめない、やめてはいけないのだ。

「幻想郷中を汚染したアセトアルデヒドは……」

そして未だに顔を青く染めていない、いわば頭が足りない者達も
紫が放つ次の言葉によって染める以外の手段は無くなった。

「もらいゲ○を誘発します」

それは、衝撃的な一言でした。

「アセトアルデヒドによって人里、山、そして各地でぶちまけられるゲ○、
 ゲ○は新たなもらい○ロを呼び、そのゲ○が更なるもらい○ロを呼ぶのです」

何故かにこやかな顔でゲ○を連呼する紫の姿に、少女臭など見て取れるはずも無い。

「妖怪、人、妖精によって幻想郷中はゲ○に汚染され、
 その様子はさながらに○ロ想郷、やがてその臭いは外界へと漏れ出し……」
「ほあたっ!!」
「ふぐっ!!」

紫のしつこすぎる説明によって数人が口に手を当て始めた頃、
ついにその様子を見かねた藍が、紫の脊髄に天狐チョップ。

「ふぅ……とりあえず、幻想郷の危機ということは皆様に伝わったと思います」

もし止めるのがあと一分遅かったら、惨事が起きていたかもしれない。

「当然幻想郷の破滅を防ぐために防衛策を考えなければいけません、
 その為にこうして皆様をお呼びしたわけでありますが……」
「あー、下手な前置きはいい、どうせもう考えてあるんだろう? とっとと言え」
「……話が早くて助かります」

レミリアが話を急かさせる、紫程の者が策の一つや二つ、考えていないはずが無いのだ、
藍が他のものを見渡すと、皆レミリアと同じような表情を浮かべていた。

「作戦名から申しますと、巨大化してキャッチして投げ返してどかーん、です」

そして皆一様に顔を曇らせた。

「……ご理解できてない方が全てのようですので、紫様に代わり説明させていただきます、
 まず萃香の現状からですが、妖怪の山の麓で攻撃の準備を進めております、
 誰かが近づけば腹を掻っ捌くと申しており、周囲に立ち入り禁止区域を設けました」
「待って、今、攻撃って言わなかった?」
「はい、言いました、その事に関しては続けて説明させていただきます。」

鈴仙からの指摘に、藍は淡々と答え、話を続ける。

「萃香は紫様が説得に向かった際、こう答えました」


――霊夢に嫌われたよ、もう霊夢は私の事なんでどうでもいいんだよ
――だからこんな幻想郷など、滅ぼしてしまえ……。


「というわけでそろそろ白玉楼が撃墜される頃でしょうか」
「え?」
「みょんっ!?」

突拍子も無い一言に固まる幽々子と盛大にみょんる妖夢、
その時、会議室の扉を開けて式の式が飛び込んできた。

「藍様! 藍しゃま!」
「ああよしよしどうしたんだい橙」
「白玉楼が壊滅しました!」
「おおそうかそうか、よく知らせてくれた、ほらご褒美の鰹節だ」
「にゃー」
「いやいやいやいや! ご褒美なんかあげてる場合じゃないでしょう!?」
「何だと!? 橙が立派に仕事をやり遂げたのだぞ!?」

妖夢は正しいことを言っているのだが、いかんせん相手が親馬鹿では意味が無い。

「……藍じゃ埒が明かないわね、私が説明するわ、幽々子が固まってるし」
「紫様、起きてらしたのですか」
「説明するのがめんどくさいのよ、というわけで皆さんはこちらの映像を」

紫が指を鳴らせば、上空に浮き出た巨大な隙間に映像が映し出される、
見えるのは萃香が両手を上げ、周囲の岩石を萃めている姿だった。

「萃香は幻想郷を滅ぼす手段としてとてもとても単純な方法に行き着きました」

岩石はどんどんと大きくなり、萃香の倍に近い大きさとなる
そしてそれを見ていた者達も、ちらほらとその異常さに気付き始めた。

『(あれ、大きい……?)』

やがて彼女等は知ることになる、最大出力のミッシングパワーを発動させた
萃香の大きさを、そして彼女が持ち上げている岩石の更なる巨大さを。

「萃香の身長が45メートル、岩石は直径100メートルって所かしら」

不敵に微笑む紫と、不安を浮かべる一堂に見守られる中、岩石は投じられた、
向かう先は雲の向こう、中空に浮かぶ冥界の白玉楼。

「あーっ! あーっ!」
「落ち着きなさい、これはもう過ぎたことなのよ」
「でもーっ! あああーっ!!」

やがて岩石は隕石の如く白玉楼へと着弾し、大爆発を起こす、
大きな屋敷も広大な庭も、その殆どを爆炎と衝撃波が飲み込んだ。

「膨大な岩石の中に大量のアルトアルデヒドを詰め、着弾の衝撃によって発火……」
「冷静に推察してる場合ですかぁぁぁぁぁ!!」
「ああもう落ち着きなさい、ほら幽々子を見て、状況を受け入れて堂々としてるでしょ」
「あれは茫然自失って言うんですよぉぉぉ!!」

幽々子様の珍しいショックシーン。

「ま、見ての通り巨大な爆弾を放り投げるだけよ、次の発射まで一時間ってとこね」
「それなら何とかしてくださいよぉぉぉ!」
「その為の巨大化してキャッチして投げ返してどかーん、よ?」

作戦の手順はこうだった、まず巨大化した妖怪か人間を用意、
そして萃香の投げた爆弾をキャッチし、そのまま投げ返す、
爆発によって倒れた萃香を捕獲、こうして幻想郷の破滅は防がれたのだ。

「どう!? この見事で完璧すぎる作戦は!」

自信満々の紫に対し、その場にいる他全員の顔に悲壮感が漂った。

「すでに藍の完璧な計算によって巨大化する人材は決まっているわ……」

その言葉にもう殆どの者達がどうでもいいと思ったことだろう、
実際のところはどうでもいいわけではないのだが。

「第一の条件として身長、高ければ高いほど受け止める確率は大きくなるわ、
 よってこの中から小野塚小町、十六夜咲夜、紅美鈴、永江衣玖を選別しました」

選ばれた四人は、この時ほど自分の背の高さを恨んだことは無かったと断言できる。

「次に力、人間ではまず受け止めることは不可能、よって十六夜咲夜を除外します」

途端咲夜が立ち上がり、ガッツポーズを決めた、よほど嬉しかったようだ。

「よって三人が残ったわけですが……特に決める理由も無いのでじゃんけんでお願いね」
『ええええええっ!?』

そして最後の最後で放りっぱなしジャーマン、八雲道ここに極まり。

「そ、そんな事いきなり言われても! 私には門番という業務が!」
「そうだよ! あたいにだって死神という大事な仕事があるんだ!」
「あ、えーと……私にも仕事が……すみません、特に無いです」

竜宮の使いの仕事=稀にくる災害を伝えるだけ。

「で、でも紅魔館が危険ならば門番としてやらないわけには!」
「あたいだって幻想郷の危機となれば!」
「一応、私もやらなくも無いわけでは……」
「私がやります! やらせてください!」
「何を言ってるんだ! あたいがやるよ!」
「……じゃ、じゃあ私がやります」
『どうぞどうぞ』
「えええええええええええっ!?」

空気の読めるお方です。





それから十数分の後、紅魔館の広大な外庭に巨大な人影が聳え立つ。

「うわぁ……」

衣玖は戸惑っていた、身長およそ60メートル、
普段とはあまりにも違うその視点に、僅かな喜びすら感じていた。

「どう? 秘められた紫の力は!」
「さすがは紫様、ミッシングパープルパワーの横文字と縦文字の境界をいじるとは……」
「このままほめ続けられたい所だけど、次の萃香の投擲まで時間が無いから手早くいくわ」

そういうと紫はにゅるんと隙間に上半身を潜らせ、
衣玖の眼前へとその姿を現した。

「あ、どうも」
「早速でなんだけど、上を見てもらえるかしら?」
「上ですか? ……あ」

紫に言われたまま首を上に向けると、
何やら天空のはるか彼方に見える巨大な要石。

「あそこにあなたと同じように巨大化させた天人の糞餓鬼がいるわ」
「……仲悪いんでしたっけ?」
「それで彼女が巨大な剣を構えたまま落ちてくるから、それを白刃取りするのよ」
「スルーですか……って、ええええええ!?」

言うまでも無く、取れなければ危険です。

「ちょ、どういう事ですかそれは!?」
「いい? 岩石を受け止めるには力よりも何よりもタイミングが重要なの、
 ぶっつけ本番で失敗すればあなたが爆発に巻き込まれるのよ?
 だからこれはそうならない為の練習、気軽にやりなさい」
「気軽って、受け止め損なったら確実にデスすると思うのですが!」
「違うわ、デッドよ」
「事後ですか!?」

結局紫に押し切られ、白刃取りに挑戦する衣玖、
恐怖を抱きながら上を見上げると、何やら恐ろしい形相でこちらを睨む天子の姿が。

「ひいいっ!?」
「永江衣玖……天人たるこの私がラスボスとして派手に話題を掻っ攫うはずだったのに……、
 何がぱっつんぱっつんよ! 何がサタデーナイトフィーバーよ! 許さない! 許さないわ!」
「た、助けて! あの天人確実に私を殺す気です!!」
「受け止めればいいじゃない」
「そんなあっさりと言わないでー!」
「真っ二つにしてやるわーーー!!」

剣を上段に構え、要石から衣玖目掛けて真逆さまに飛び降りる天子、
本人は地面に激突しないよう腰に要石とつながる太いゴム紐が付いている、
俗に言うバンジージャンプである。

「(こうなったら……受け止めるしか!)」

衣玖も覚悟を決め、剣を受け止めんと両の手を構える、上を見れば向かい来る大きな刃、
そして何よりも彼女の恐怖心を煽るのが、その向こうに見える血走り釣りあがった二つの目。

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
「……無理でーす!!」

――紅魔館が真っ二つになりました。

「し、死にます、これは本当に死んでしまいますって!」
「……安心しなさい、次は殺す!」
「ああああああああ! 私の館がぁぁぁ!!」
「お嬢様! パチュリー様が! パチュリー様が巨人の下敷きにっ!!」

ゴムに引っ張られて天高く舞い戻る天子と、横っ飛びで回避したはいいが、
四つん這い状態で膝をがくがく震わせながら涙目でそれを見送る衣玖、
その足元では見学者達がまさに阿鼻叫喚の真っ只中である。

「こうなったら全員で彼女の足を固定するのよ!」
「えええええっ!?」

ただ見ているわけにもいかなくなった見学者達は、紫の号令で
各々結界を張ったり防壁を作ったり足を縛ったりして無理矢理に固定する始末。

「そんなに残虐ショーが見たいんですかーっ!」
「それは違うわ……いい? もう幻想郷を救えるのはあなたしかないの、
 だから、あなたには命がけでタイミングを掴んでもらう必要があるの、
 幻想郷の住む皆はあなたに全てを賭けているのよ!」
「え……」

紫の言葉に、衣玖は視線を下げ、足元にいる者達を見渡した、
妖怪のレミリアも、人間の魔理沙も、亡霊の幽々子も、
皆必死に衣玖の足を捕らえ、一心不乱に縛り付けている。

「(皆さん……そこまで私に……)」
「だといいのだけれど」
「えっ!? 何ですか今の意味深な一言は!?」
「そろそろ降ってくるわよ、頑張りなさいな」
「や、やっぱり不安です!!」
「縛り終えたぞ! 総員退避ー!!」
「あああ! 待ってぇー!! 私を一人にしないでくださいよー!!」

やがて誰も衣玖の周りからいなくなり、
一人ぽつんと紅魔館の外庭に取り残される、
上を見れば殺意に沸く天人一人、非常に嫌なマンツーマン。

「天上天下唯我独尊斬りぃぃぃぃ!!」
「うう……止めなければ死ぬのなら……止めてみせる!!」
「悪! 即! 斬ーーー!!」
「あなたに悪と言われたくはありませんよ!!」

もはや衣玖の心に恐怖は無い、退路は皆無の背水の陣、
その集中力は極限まで研ぎ澄まされ、その目は刃だけを映し出す。

「この巨乳がぁぁぁぁ!」
「……今っ!!」

すぱーん!

「喰らいボム!!!」

――紅魔館一帯が爆発しました。





「さて、結局ぶっつけ本番でやってもらうわけだけど」
「が、頑張ります……あれは岩石ですから! 受け止めるだけなら剣より簡単ですから!」

舞台は人里、既に衣玖の視線の先には、山の手前で岩石を持ち上げ
今にも放り投げんとする萃香の姿、戦いの時は近い。

「衣玖、あなたの後ろを見てみて」
「え、はい……あっ……」

紫に誘われて振り向けば、そこに広がる大きな町並み、
そしてそこに住む人達が希望の眼差しで彼女を見上げていた。

「……あなただけよ、彼等を助けることが出来るのは」
「ですね……でも、一つだけお聞きしたいことがあるんです」
「あら、何かしら? 今なら何でも答えてあげられる気分よ」
「あなたが巨大化すればもっと上手くいく筈では……あ、いない!」

逃げ足は幻想郷最速。

「……まあ、ここまで来れば私がやるしかないのでしょうけど」
「その意気よ」
「その意気よじゃないでしょう……よし! いつでも来なさい!!」

大地を両足でしっかりと噛み、萃香を真正面に見据える、
守るべきは地平線まで続くこの土地全て。

「そいやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

萃香は幻想郷中に響き渡るほどの叫び声を上げながら、巨大な岩石を放り投げる、
一直線に人里に向かいくるそれを、衣玖は恐れ一つ無く待ち構えた。

「幻想郷は……私が守る!!」

まるでその大きさを増しているかのように高速で飛来する岩石、
やがて人里との距離が一里、半里、そしてついに真上へと到来、
そのまま頭上を越え、人里を越え……。

「……今!! って、あれっ!?」

――迷いの竹林が壊滅しました。

「あああああ! 師匠! 姫様ぁぁぁ!!」

守られた都市と無防備な都市があったら誰でも後者を攻めます、自明の理とやらです。

「……どうしましょう?」
「今の間に練習でもする?」
「それはどうかご勘弁ください」

それからさらに一時間、スカートの中を覗こうとしてくる
里人達から逃げ回りながらも、再度防衛態勢を整える。

「今度は肩透かしは無しですよ! ……って、うわぁ」

萃香の方を見れば、明らかに先ほどより一回りも二回りも大きな岩石、
守られてると分かれば全力で攻めるのは自明の理とやらなんとやら。

「どっせぇぇぇぇぇい!!」
「しかし! 真っ二つにされた私に恐れるものなどもうありません!!」

襲い来る巨大な岩石をその両の手でしっかりと受け止める、
響く衝突音、勢いを抑えきれず、地面を後退りながらも掴んで離さない。

「あああああ! 寺小屋がぁぁぁ!!」
「はぁ……はぁ……せ、せぇぇぇぇぇいっ!!」

岩石を持ち上げたまま呼吸を整え、再度体に力を込める、
足元で何やら叫び声が上がったが、それを振り切るように岩石を萃香へと投げ返した。

「ほわぁ!?」

それは萃香にとって大きな誤算だった、
受け止める、ないしはずらす、そこまでは考えていても
まさか投げ返してくるとまでは予想できなかったのだ。

「何のぉぉぉ!!」

しかしそこは鬼の意地、自らも同じように受け止め、さらに勢いをつけて投げ返す。

「に、二回目ですか……!」

岩石を一度受け止めたことにより、すでに衣玖の体は悲鳴を上げていた、
腕を曲げるだけで間接が軋み、筋肉にちりちりと痛みが走る。

「……まだまだ、私は倒れません!」

だが彼女を支えている物がある、受け止めてくれると信じている里人達の思いが、
幻想郷を救ってくれると願っている人妖達の思いが、熱い空気となって彼女に伝わるのだ。

「(ジョン・トラボルタよ……私に力をっ!!)」

人里に響く二度目の轟音、見守っていた里人達も一同に目を瞑る、
しかし目を開ければ、そこには岩石を抱えて堂々と聳え立つ天女の姿。

「フィー……バーーー!!」

衣玖は全身全霊をこめて岩石を投げ返す、
対し、萃香も再度受け止めんと仁王立ちで待ち構えていた。

「鬼と力比べで勝てると……ありゃ?」

その時、鬼の態勢がぐらりと揺らぐ、
長時間にわたる巨大化、三度もの萃まる力の行使、
そして一度岩石を受け止めたことによる体へのダメージ、
すでにその体は限界を超えていたのだ。

「ふ、ふぬぅぅぅぅ!!」

それでも萃香は岩石を受け止める、だがその後退りは止まることが無い。

「文様」
「呼びました?」
「今思ったんですけど、鬼が受け止めそこなったら後ろにある我々の山も危険なのでは?」
「……幻想風靡!」
「逃げ足速っ!!」

白狼天狗を見捨てて鴉天狗は一人大空へと羽ばたき消える、
段々と近くなる巨大な鬼の背、迫り来る死のカウントダウン。

「(……死ぬ前に肉を腹一杯食べたかったなぁ……)」

――妖怪の山が爆滅しました。

「よし! 全員で萃香を確保するのよ!!」

爆発が収まると同時に隙間ゲートを通じて紫達が萃香の元へと集う、
これで一件落着かと思われたが、そうは問屋がおろさない。

「ちくしょーーー! こうなったら切腹だけでも!!」
「しまった! 萃香はまだ気を失っていないわ!!」
「うおおおーーーっ! 痛いいいいい!!」
「いけない! このままでは彼女の体内のアルドアルデヒドで……」
「幻想郷が破滅しちまうぜ!!」
「ここは私に任せてください!!」
『えっ!?』

打つ手が無いと誰もが思ったとき、ぬっと巨大な手が萃香を掴み持ち上げる。

「あなたの好きにはさせません!」
「し、しまったー!!」
「私は萃香と共に空へと飛び立ちます……空で爆発させれば被害は最小限になる筈!」
「確かに、アルドアルデヒドは引火性、でもそれじゃあなたが!」
「みなさん、今までありがとう……そして、さようなら……」

衣玖が向かう先には一つ大きな入道雲、
能力を使い雷を呼び、ぱちりぱちりと雷光が唸る。

「くっ……霊夢の珍しい饅頭さえ食べなければこんなことには……」
「萃香さん、冥土の土産に教えますけど、ゆっくり堂の饅頭は人里でいつでも買えますよ」
「なんだとーっ!?」
「それも十二個入り五百円で」
「そんなバカなーーーーーっ!!」
「あーーーれーーーー!」

幻想郷の空に大きな大きな花火が打ちあがる、
衣玖は萃香に殴り飛ばされたおかげで奇跡的に皆の下へと帰り着いた……。

「衣玖、何よその頭は! 見てるだけで腹がよじれるわ!」
「笑わないでくださいよ天子様、爆風から逃げ切れなかったんですから……」
「くくっ……すぐにでもダンサーとしてデビューできそうじゃない」
「ダ、ダンサー!?」





きらきらと光るホールに老若男女が入り乱れて浮かれ騒ぎ、
日々の鬱憤を晴らしながら、つかの間の悦楽を楽しみながら、
誰も彼もが我を忘れ、一心不乱に飲み、踊り、食い、笑うもの、
さあ今宵も幻想郷のナンバーワンダンサーがやってくるお時間となりました、
身に纏うは美しき羽衣、頭を彩るは巨大なアフロヘアー、
彼女の美麗なステップと怪しげな腰の振りに、誰も彼もが酔いしれるのです。



  嗚呼 Saturday Night Forever
ええ、書きましたとも、衣玖さんのあのポーズを見た瞬間、
ジョン・トラボルタとゴエモンインパクトが脳裏をよぎりました、
もうこれは書かざるをえなかったのです。

しかし誰か一人忘れたような気がする……。
幻想と空想の混ぜ人
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コメント



0.3330簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
キラキラ道中吹いたwwwwwwwwwwwwwwww
真剣白羽取りは慣れるまで苦労したのを憶えています。
クリアしたときサブタイトルの意味を理解して数人で爆笑したもんだなぁ・・・。
2.80名前が無い程度の能力削除
結局、霊夢はどうなったんだろうとか、喰らいボムのときに天人はどうなったのかとか、
壊滅した各所の復興はどうするのかとか
そんなことがどうでもよくなる、隕石爆弾キャッチボールw
6.100名前が無い程度の能力削除
これはまた人を選びそうな作品を貴方は。
私?選ばれし者ですよw
8.90RYO削除
・・・・・・なんだこれ(良い意味で放心状態)
アセトアルデヒド・・・正確にはキャラじゃないけど、もう一人
危険な人物を私は知っている
 
白玉は霊しか居ないだろうし紅魔の妖精メイドは復活するだろうし
こんな時に寺子屋は休業だろうし永遠亭の主二人は復活するし(兎はやばいか)、
今回一番被害を受けたのは妖怪の山ということでFA?
10.90名前が無い程度の能力削除
セップク丸懐かしいなw腹に爆弾仕込んでたんだっけw
13.80名前が無い程度の能力削除
おぉ、きらきら道中だw
というか天子ちゃん貴女の方が今の所人気はフィーバーしてるんではないのかw
14.100コマ削除
やばい、懐かしすぎるww
ボタン連打に  神具-ビー玉-  を使うほどに熱中したミニゲームは、
あれが最後でした。
15.80名前が無い程度の能力削除
返せ!いつも通り東方緋想天のストーリーをなぞると思ってた俺の期待を返せ!
……まいっか、面白かったし
18.100名前が無い程度の能力削除
最後の台詞がまんますぎるwwww
セップク丸戦のBGMはいまだに聞いてますよw
19.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょう馬鹿だ!馬鹿ばっかだ!
22.80名前が無い程度の能力削除
ゴエモンとは懐かしい。
25.100名前が無い程度の能力削除
これはひどすぎるw
26.100名前が無い程度の能力削除
ゲロ想郷www
30.80名前が無い程度の能力削除
きらきら道中wwwwwwwwwなんて懐かしいwww
32.90名前が無い程度の能力削除
これはひどいwwww
36.90名前が無い程度の能力削除
とりあえずまったく関係のなさそうなサブタイトルで吹いたww
そして話のオチまで理解してもう一回吹いたww
本当にこれはひどいwww
37.100名前が無い程度の能力削除
色んな意味でひどすぎるwwwwww
38.90名前が無い程度の能力削除
確か頭を動かせて、指先から星をとばせたよな?
39.100名前が無い程度の能力削除
いい意味でひどいwwwww
つーか、ゆっくりwwwww
40.100774削除
もうwwwだめだwww腹wwwねじ切れそうwww
46.90名前が無い程度の能力削除
いいかっお前ら!

萃香の次は神主だぞwwwwwwwwww
47.100名前が無い程度の能力削除
ゴエモン懐かしすぎるw
51.100名前が有ったらいいな削除
さしずめナガエンインパクトかイクミンインパクトって所か?w
しかしきらきら道中分かる人多くて嬉しいなw
52.90名前が無い程度の能力削除
なるほど、数年に一度しか食べられないというのはお金が無いからなのねw
ゆっくり堂の饅頭ってやっぱりアレなんだろうかw
53.100名前ガのウサギ削除
イクモンインパクトwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwやられた
54.70名前が無い程度の能力削除
きらきら道中とかなついwwwww
天子はクバーサステージのボスってことでおk?
56.100名前が無い程度の能力削除
小学生時代の思い出が蘇ってきたwwwww
ちょっとキラキラ道中引っ張り出してくるwwwwww
57.無評価名前が無い程度の能力削除
誰も突っ込まないので自分が突っ込む。
鈴仙は!?
58.70名前が無い程度の能力削除
巨石ごとき、きゅっとしてどか~n  はい、ゴメンナサイ
64.100名前が無い程度の能力削除
ネタわかりすぎて吹いたwwwww
65.100名前が無い程度の能力削除
畜生wwwゴエモン懐かしいwwwww
てか守矢神社がwwww地味に壊滅wwwww
66.100名前が無い程度の能力削除
さすがは衣玖さん!緋想天のカリスマ溢れるラスボスだけのことはあるぜ!


……天子?誰それ?シラネ!
67.90名前が無い程度の能力削除
身長による選抜時に、自分を除外してるゆかりんはさすがちゃっかりしてるなww
70.100名前が無い程度の能力削除
序盤の口頭説明の時点で盛大に吹いたww
71.100名前が無い程度の能力削除
ゴエモンネタが来るとは思わなかったぜ・・まあ題名から予想してたけど
しかしいくさんは愛されてるなぁwww
79.無評価名前が無い程度の能力削除
ああああああ!!アリスいない!!
88.100名前が無い程度の能力削除
スタッフロールでボタン連打して指先からキラキラを振りまくわけですね、わかります。

なぜこのサブタイ? と思ったらこう来るとは、驚いたのなんのって。
89.100名前が無い程度の能力削除
これは良いwww
98.80名前が無い程度の能力削除
ジョン・トラボルタwワロタ