僕こと森近霖之助は心に硬く決意した。
二度と宴会には参加しないと……
博麗神社で不定期に行われる宴会。
いつもは誘われても断るのだが、今回は魔理沙に無理やり参加させられた。
別に嫌いではないのだが、こういう賑やかな場所はどうも苦手なのだ。
だから始まってすぐに気が滅入ってしまい、現在は神社の裏の木に寄りかかりながら一人酒を楽しんでいた。
「ふう……」
神社の反対側から聞こえるどんちゃん騒ぎをBGMに、月を肴に酒を飲む。
やはり一人のほうが落ち着くな。
徳利から猪口に酒を注ぎ一気に呷る。
うむ、美味い。
「ご一緒してよろしいかしら?」
突然の声に僕は驚いた。
いつの間にか八雲紫が目の前に立っていた。
彼女の手にはブランデーが握られている。
「君か……」
「ええ。私よ」
彼女は笑顔で答える。
厄介な人に見つかってしまった。
僕は深いため息をついた。
「それで、ご一緒してよろしいかしら?」
「どうせいやだと言っても聞かないのだろう?」
「ええ。大正解」
彼女は満面の笑みで僕の隣に腰を下ろす。
「こんなところで何をしてたの?」
「見ての通り。酒を飲んでいるんだよ」
「向こうでは飲まないの?」
「向こうは賑やか過ぎる。僕は静かに飲むのが好きなんだ」
「そう。気が合うわね。私もどちらかというと静かに飲むほうが好きよ」
そう言って彼女はブランデーを飲み始める。
僕も一応警戒しながら酒を飲み始めると。
「紫。こんなところにいたの?」
どこか間延びした声が近づいてくる。
声のほうを向くと西行寺幽々子がこっちに向かって歩いてくる。
両手には料理が山盛りに盛ってある皿があった。
「あら幽々子。どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ。あなたがいきなりいなくなるから探したんじゃない」
「それは悪かったわ」
「ところで何してるの? こんなところで」
「見ての通りお酒を飲んでいるのよ」
「だったら私も参加してもいい?」
「ええ、いいわよ」
僕の意思は全くの無視のようだ。
幽々子は僕を挟むように紫とは反対側の隣に腰を下ろす。
そして、しばらく三人で酒を飲んでいると。
「面白い気配を感じたから来てみれば、あんた達だったの」
凛々しくもどこか幼さを感じる声が聞こえた。
視線を向けるとレミリア・スカーレットが立っていた。
手にはワインが握られている。
「何してるの?」
「お酒を飲んでいたのよ」
「面白そうね。私も入れなさい」
「どうぞどうぞ」
またも僕の意思を無視か。
レミリアは紫の隣に腰を下ろした。
そのすぐ後に。
「休憩しようと逃げてきたら面白いもの見つけちゃった」
気品ある声が聞こえた。
声の主は蓬莱山輝夜だった。
手には焼酎が握られている。
「私も混ぜなさい」
返事を待たず彼女は幽々子の隣に腰を下ろした。
「おやおや珍しい組み合わせだねぇ」
またも女性の声。
今度はえらくフランクな口調である。
八坂神奈子だった。
手には一升瓶が握られている。
「はいちょっくらごめんよ」
彼女は勝手にレミリアと輝夜の間、ちょうど僕の真正面に腰を下ろす。
そして各々自分の持ってきた酒を飲み始めた。
あっという間に大所帯になってしまった。
苦手な状況だが、まあ彼女たちも酒を飲むだけで実害はないだろう。
そう思い僕は酒を飲み続けた。
このとき僕は気づいていなかった。
すでに完全包囲されていることに・・・
***
「女三人寄れば姦しい」という言葉があるように、さすがにこれだけの人数が集まれば勝手に会話も盛り上がるわけで、彼女たちは最近あった面白い事やら部下いじりの事などを酒の肴に談笑していた。
その輪の中に当然僕なんかが入れるわけもなく、一人酒の興が完全に削がれてしまっていた。
ここもだめだな。仕方がない。酒がまだ残っているが帰るとしよう。
僕が重い腰を上げると
「あら、どちらへ?」
彼女たちの視線が一気に僕に集中する。それと同時に空気が変わる。粘りつくような、絡みつくような、それでいて刺すような空気に。
「いや……そろそろお暇……」
「まさか帰るつもり?」
「え?」
「これほどの美女に囲まれているのに帰るだなんて。そんなことあるわけないじゃない」
「いや……待っ……」
「そうよね。そんなことあるわけないわね」
彼女たちは上品に口を隠しながらクスクスと笑う。
まるで先ほどの談笑の続きみたいに言っているが、明らかに空気は笑っていなかった。
なんだろう。ものすごい圧力を感じるのだが。このまま帰れば何か悪いことが起きる気がしてならない。帰れば殺される、そう思えるのだ。いや、それは僕のただの誇大妄想に過ぎないだろう。別に帰っても何の問題もないはずだ。なのに彼女たちの笑顔がそれを完全に否定させない。
「それで……どうしたの?」
「いや……なんでもない」
情けないかな……僕は席に戻った。
***
だからと言って諦めたわけではない。
僕だって居心地の悪い所に居続けるのはいやだ。しかし、直接帰るといえば先ほどのようになってしまう。
だから僕は考えた。どうすれば帰ることができるのか。
答えは単純だ。
何か適当な用事で席を離れ、そのまま帰ればいいだけの話。それだけのことだ。
さて、その用事だが……おや、ちょうど酒が尽きてくれた。これを使おう。
僕は再び腰を上げた。
「今度はどうしたの?」
彼女たちの視線が再び集まる。
僕は彼女たちに徳利を見せた。
「酒が無くなったんでね。表まで取りに行こうと思って」
あとはそのまま帰るだけ、軽いものだ。
そう思っていると、
「だったら私に任せなさい」
「え?」
そう声を上げたのは意外なことにレミリア・スカーレットだった。
何事かと思って様子を見ていると、彼女はおもむろに指をパチンッとひと鳴らしする。
「お呼びでしょうか。お嬢様」
突如彼女の背後に現れたのは瀟洒のメイド、十六夜咲夜だった。
「彼のお酒が無くなったそうよ。新しいのと取り換えてちょうだい」
「かしこまりました」
僕から徳利を受け取ると彼女は姿を消した。そして、数刻もしないうちに再び姿を現し、僕に酒の入った徳利を渡して、一礼。再び姿を消した。
「これで問題ないわね」
彼女たちは気にすることなく宴会を再開、僕はただ一人取り残されていた。
「どうしたの? 座れば?」
「あ……ああ」
誰かの声が聞こえ、僕はマヌケな返事をしながら腰を戻した。
***
まさか彼女があんな行動をとるとは……完全に想定外だった。こうなったら別の手段を考えなくては。
僕は再び脱出の作戦を練り始めた。
この程度で諦めるほど弱くはない。
そのときちょうどつまみが切れた。
これではさっきの二の舞だ。どうせこれで立ってもレミリアがまた従者を呼ぶだろう。
しかし、彼女が二回も僕のために動くだろうか? 否、ない。さっきのは単なる気まぐれだろう。だから、二度目はない。だから今度こそ、もしかしたら上手くいくかもしれない。
「また?」
「ああ、今度はつまみが切れてね」
すかさずレミリアに視線を移す。彼女は特に気にすることなく酒を飲み続けていた。
よし、予想通り。後はこのまま……
「あら、ちょうど私のもなくなったのよね」
そう言うは西行寺幽々子。
見ると彼女の前にある大量の大皿は空っぽだった。
「ついでだから頼んであげるわ」
そう言って彼女は手をパンパンと叩く。
すると誰かががすごいスピードで走ってくるではないか。
「はあ……はあ……お呼びですか。幽々子様……はあ……はあ……」
息を切らして走ってきたのは半人半霊の庭師、魂魄妖夢だった。
「妖夢。おつまみが切れたから持ってきてちょうだい。それと彼の分もお願いね」
妖夢は彼と呼ばれた僕のほうを見ると露骨に嫌そうな顔をした。
まあ、あんな顔される理由は自分でも重々わかっているからあえて何も言わないが。
「…わかりました」
しぶしぶながらも従い、妖夢は皿をもって表の宴会場へと走って行った。
「ちょっと待っててね」
幽々子は笑顔でそういうと談笑に戻った。
僕はため息をついて席に戻り、つまみを待つことにした。
先ほどのメイドのようにすぐさまとまではいかないが、しばらくして妖夢は大量の料理を両手に戻ってきた。そして、みんなに小分けして配り始める。
僕に手渡す際、他のものに気づかれないようにあっかんべーをしていたいのはここだけの話だ。
配り終えると彼女は一礼して去って行った。
***
結局さっきの二の舞になってしまったな。
おかしいな。簡単だと思われた作戦が思いがけない出来事の連続で難しくなってしまった。
しかし、僕とてちゃんと学習する。どうやら代行がきく手段だと失敗する可能性が高いようだ。
次は代行がきかない手段で攻めるべきだろう。となると、あの手しかないな。
「どうしたの? つらそうな顔して」
「いや、何。飲みすぎたのか、ちょっと気分が優れなくてね」
もちろん仮病だ。
気分が悪いと言って帰る作戦。いやな場所から帰る一番の常套手段。
さすがにこれには代行は利かない。故にあとは帰るだけ、
「すまないが、僕は家に……」
「まあ、それは大変」
驚きの声を上げるは蓬莱山輝夜。
しかし、言葉は驚いているのに顔や言動は全く驚いているようには見えなかった。
「永琳。永琳ちょっと来て」
彼女がどこへなりと声をかけると、彼女の背後に僕と同じ銀髪の女性がふわりと舞い降りた。
薬師、八意永琳。
その姿を見て僕は本当に頭痛がしてきた気がする。
「なに? 輝夜」
「彼、具合が悪いみたいなの。診てあげてちょうだい」
「それは大変ね。ちょっと診せてもらっていいかしら」
永琳は僕の所まで来ると、診断を始めた。
僕は戸惑いながらもおとなしく受ける。
仮病なんだから異常なんて見つかるはずもなく。当然、彼女もそのことにすぐに気づいているはずだ。
その証拠に彼女は笑みを浮かべながら診断をしている。
「大したことはないようね。でも、一応薬を出しといてあげるわ」
そう言って彼女は僕にカプセル状の薬をくれた。
「お酒と一緒に飲んでも大丈夫だから。それじゃ……がんばってね」
最後の一言は耳打ちをするかのような小さな声だった。
やはり彼女は分かっていたようだ。僕がこの状況に嫌気をさしていることに。
その上で彼女は僕にここに残れと言っている。
「彼どうだったの?」
「大したことないわ。だから、『彼は何の問題もなく宴会を続けられる』わ」
「そう、よかった」
全く……ひどい人だ……
僕が恨めしい目で睨んでも彼女は笑顔でそれをスルーする。
「それじゃ、私はもう戻るわ。何かあったらまた呼んでくださいね」
「ありがとう。永琳」
彼女はふわりと舞い上がると、そのまま神社を飛び越えていった。
***
もらった薬を酒で飲み下して僕は何度目かのため息をついた。
なんだろう。ただ帰るだけというのが恐ろしく難しいことのように思えてきた。
しかし、しかしまだ手はあるはずだ。誰にも対応できず、自分自身が動かなければならない手段が。
僕は自分が持つ知識をフルに使って考えた。
なんでこんなことのために本気で考えなくてはならないのかという疑問も浮かんだが、自分でもわからない。
半ば意地になっているのかもしれない。
とにかく僕は考えた。ここからの脱出の方法を。
そして、思いついた。
なんてことだ。こんな簡単な手を忘れていたなんて。これなら確実に僕はこの場を離れることができる。
「あら、また?」
「忙しい人ね」
「いや、何度もすまないね。ちょっと用を足しに……」
そう、これなら誰にも代行できないし、病気の時のようにこの場での対応はできない。こればっかりは絶対に僕自身が動かなければならないのだ。ゆえに彼女たちはこう言わざるを得ない。
「そう。いってらっしゃい」
「ああ」
僕は立ち上がり、彼女たちに見送られながらその場を後にした。
勝った。
僕はほくそ笑み、心の中で呟いた。
数々の困難があったが僕は彼女たちとの勝負に勝ったんだ。
あまりの嬉しさに声を上げたかったが、さすがにそれは自重した。
とにかくこの喜びに浸りたいため、さっさと帰ろう。
しかし、トイレに行きたかったのは本当の話だ。
だから僕は帰る前にトイレに向かい用を足した。
「ふう」
用も足し終え、気分もすっきり。あとはこのまま帰るだけ。
そう思いトイレのドアを開けて、外に出ると、
「お帰りなさい」
紫の声が突然目の前から聞こえた。
それだけではない。身に覚えのある光景が目の前に広がっていた。
それは先ほどの宴会場。
僕がトイレと称して脱出した宴会場が目の前にあった。
「は?」
理解ができなかった。
僕は確かにこの場を離れたはずだ。それを彼女たちも見送っている。そして、そのままトイレへと向かって、外に出たら・・・ここにいた。
僕は原因を確かめるべく背後を見た。すると、隙間がゆっくりと閉じていくさまが見れた。
理解できた。
なんてことはなかった。隙間でトイレからここまで送られてきただけのことだった。
そして、僕は悟った。
ここからの脱出は無理なんだと。どういう理由か知らないが彼女たちは僕を帰したくないようだ。
そのためなら能力だろうが従者だろうが惜しみなく使うつもりだ。
そこまでされたら脱出なんて不可能じゃないか。それこそ奇跡でも起きない限り。
しかし、奇跡なんてそう簡単に起きるもんじゃない。ゆえに僕にはもうどうする事も出来ない。
素直に諦めるしかないのか……
絶望に浸りながら僕は空を見上げた。そして、僕は自分の目を疑った。
先ほどまで目の前にあった星空は見る影もなく、今は黒く分厚い雨雲が空一面を覆っていたのだ。
奇跡は起きたのだ。
僕の中で希望の光が灯り始める。
さすがに雨が降れば宴会自身が終了になる。そうすれば僕どころか全員が帰らざるをえない。
雲の厚さなどを見ると降るのも時間の問題だ。
ならば僕はただひたすらに雨が降るのを待つだけだ。
「いやな天気ね。雨が降りそうよ」
「本当ね」
「まったく。これからが盛り上がるところだったのに……」
彼女たちも気づいたのか空を見上げながら不満を漏らす。
それを見て僕はあざ笑った。
さすがの彼女たちもこうなれば手も足も出まい。
「だったら私に任せなさい」
彼女、八坂神奈子を除いて……
神奈子が人差し指をくるりと回すと、空一面の雨雲が突然蠢いた。
巨大な渦を作り、雲が凝縮されていく。そして、すべての雲を集め終えると、彼女は指を一鳴らし。 雲は跡形もなく消え去ってしまった。
僕の中の希望の光も跡形もなく消え去った。
「さて、これで気兼ねなく続けられるね」
「やるじゃない」
「これくらいできて当然さね」
神奈子たちは笑顔で宴会を再開した。
彼女たちの談笑をよそに僕は目の前に広がる星空を見上げた。
もう精も根も尽きた……
奇跡さえ覆されたんだ……
やる気だってなくすさ……
そういえば昔読んだ本でこんな言葉があったな。とある聖人が最期に言った言葉だったかな。
その時は何とも思わなかったけど、今思えばなんて的を射た言葉なんだろう。そして、僕ほどこの言葉をいう権利があるものはいないだろう。だから言わせてほしい。その言葉を……
その言葉とは……
妖夢のあっかんべーに不覚にも萌えたww
まあともかく、お酒はほどほどに(笑)
そしてこーりん、女難の相もここまでくると酷いw
でも、なんでラスボス連中は霖之助を留めたのか・・・
気になりますね
したいけどラスボス達も好きだどうしよう。
個人的には姫さまとくっつけ。
そして妹紅の殺意を一心に受けながら永遠亭の兎達に癒されて生きるんだ。
わかります。
>ぐだぐだ
と自分で言われるほどでもないと思います。
人数が増えてくるにつれ話のテンポが上がってる気がしました。
ただ、↓のほうでも書かれているように、なぜ帰さなかったのか等の描写は欲しかったですね。
きっとその様子がラスボス連中の酒の肴にされたんでしょうね。
本人が欠片も望んでいないあたりがポイントですね
あと妖夢萌え
そりゃいつも宴会に来ないやつが珍しく来たら気になるじゃん?
しかも自分たちが知ってる数少ない男ならなおさらだろう
しかし…いいぞ、もっとやってくれw
後、妖夢が可愛すぎる…
すごいスキだ!
幻想卿の各組織リーダー達に囲まれて、中々帰れなくて困っている香霖がタマリマセン。
グッジョブと言わしてください!!
これからのも期待してます
トイレ時は皆して覗いてたと思うのは、私だけかな?
笑ったw
この後よってたかってセクハラされたんですね、わかります。
オチに今気づいた。
でも結局片っ端からへし折るんだろうな・・・