*CAUTION!!*
この度のお話は、キャラ崩壊の一途を辿るカオスフルな話です。
原作のキャラ観が壊れるから嫌だっ!と思われる方はご遠慮下さい。
それでも構わないという方々のみ、どうぞ先にお進み下さい。
春。
それは出会い、別れ、様々な出来事が起こる季節。
人によっては、思い出の巣箱から飛び立ち新たな新境地で意気昂揚と臨む者もいるだろう。
大人の階段を登る君はまだシンデレラ、決してそっちの意味ではなく、あっちの意味で
人は一歩ずつでも成長していく生き物だ。ついこの間まで子供だった者は、
いやがおうでも社会の波に揉まれて世界情勢の荒渦に飲み込まれて初めて『オトナ』として認められる。
一部を除き大体の人間はこのレールを逸れることく走るのだ。多分。
過去を振り返るのも時には大切だが、そこにばかり目を向けていては前には進めない。
忘れがたい思い出、ひいては黒歴史、その他もろもろ含めて、それらを踏まえた昔の自分を乗り越えた今が将来何らかの形
で活きてくるのだと思う。
とりあえずそういうことにしておかないと話が前に進まないので、仮に違うと思っても
小町の撓わなツインミサイルよりも大きな心で黙認してもらえると非常にありがたい。
さて、若干話が逸れてしまったが、まぁとどのつまり『気持ち新たに新年度頑張ろう』という話だ。
それは、幻想郷だろうが変わらない。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
「というわけで、紅魔館全体のリフォームを執り行うわ。異論は却下ね」
「いや、なしてそのような流れになるのかさっぱり分からないんですが」
「うっさいエセチャイニーズ、高麗人参でも食ってろ」
「にべもないっ!!?」
紅魔館の我が儘当主レミリア・スカーレットのこういった突然の発言は今に始まったことじゃないので、異論を唱える者は誰も
いなかった。若干一名除いて。
ある者は主の命とあらば従者たる自分はただ付き従うのみと考え、
ある者は図書館の増改築のみ関わる姿勢を見せ、ジコ虫を地で行くその潔さは清々しさすら感じられ、
ある者は出番の少なさを予期して、最近考案した門の煉瓦の間の線をアミダのようになぞるという大の大人が見たら心底
呆れが混じった溜息をつきそうな究極の暇潰しで退屈を紛らわそうと考えていた。
余談だが、以前張り切ってこれをしていたら暇どころか頭を潰されそうになった。
冥土流ジャーマンが織り成す耽美で端麗な放物線は、一部始終を目撃していた者達に何故か栄光の掛橋を連想させた
という。
一部のメイド達は鬼のメイド長のスカートの下から覗く神聖不可欠な乙女の布地に思いを馳せて鼻から赤くて粘着性のあ
る何かを噴き出していたし、門番隊にいたっては憧れの門番長の生足とその間から覗くショーツを脳裏に焼き付け、これであ
と一週間は戦えるなどと鼻息荒くしていたというし、このままでいたらどう足掻いても紅魔館の行く末はナイトバードであろう。
誠に遺憾だが、しかし覆しようのない未来を思うと幸福など吐く息と共に知らず知らず
の内に逃げてしまうんだろうなあ、とひしひしと痛感する今日この頃だった。
「咲夜さん、あの後三日程頭痛がとれなくて仕事に支障がでたんですけど」
「専らシエスタするのが貴女の仕事なのだとしたらそれは悪いことをしたわね、謝るわ」
「すいません私が悪かったです反省してますだから喉元に尖った凶器を突き付けないで下さい後生ですからいやマジ本当に
いいいいいっ!!!」
「だが断る」
「ギニャアアアアアッ!!!」
現実は非情である。
「……もういいかしら?いつまでもあんたらの三文芝居なんかに付き合ってらんないんだけど」
「失礼しましたお嬢様、して、急にリフォームとはどういったお考えなのでしょうか?」
主の一喝により、ナイフを操る手を止め一瞬後には元の完璧で瀟洒なメイドへと変貌する様は、もはや芸術の域にすら達
していると言っても過言ではない。
それと同時に、命のやり取りを三文芝居の一言で片付けられた門番ほど不憫なものもない。
「言葉通りよ咲夜、いくら春は腑抜けることが多くなる季節とはいえ、近頃の我が紅魔館のていたらくっぷりは目に余るものが
あるわ。やれ休みをくれだの、やれ供給される食糧をもう少し増やしてくれだの、甘えはそいつの為にならないから心を鬼にし
て敢えて聞き流しているというのに、その私の無言の愛の鞭を単なる差別だと思い込んでいる輩が最近のしこりとなってる現
状を打破すべく、重い腰を上げた次第よ」
「ふうん、たまには実になる提案を掲げるじゃないレミィ。明日は朱い槍でも降ってくるかもね」
薄い胸を張り自慢げに宣うレミリアに対し、投げやりに、それでいて裏に潜む皮肉をオブラートに包んで返す魔女が薄く笑み
を浮かべる。
それは当然の主張ではないか、そもそも身も心も元々鬼に属してるじゃないか、てか当屋敷におけるTo Loveるメーカーが
吐ける台詞じゃないだろう、とか命からがら呟く任務怠慢門番小娘には鉄のカーテンを敷いて蚊帳の外へとほっぽりだしてお
く。
無慈悲とは言うまいね。
「ふふん、讃え崇め敬いなさい。アガペーを一身に受ける私を拝むことにより素敵な紅魔館ライフが確約されるわよ!」
何か色々間違ってる気がするがオールスルー。
「ともかく、最近はあの白黒流星号の襲撃の際の莫大な被害にも頭を悩ませていたから、いっそのこと屋敷の模様替えでも
しようと考えたのよ。新年度は何かと新しい行事を始めたがる時期。自らの好奇心を満たし、住家は綺麗に、住人は気を
引き締めて仕事に励み主に尽くす、私にしてみれば一石三鳥じゃない」
「なるほど、おっしゃる通りですわお嬢様。メイド達を再調教できる絶好の機会はこれをおいて他にありませんし、特に職務
怠慢な豊乳魔人はこれを機に性根を入れ換える必要があります。非常に良いアイデアかと」
紅魔館のイエスウーマン十六夜 咲夜。主に対する心構えは幻想郷に蔓延るいかな従者にもひけをとらない自負がある。
白玉粉だか何だか覚えてないが、とにかくあそこの庭師兼剣術指南係は暴走する健食家に日々胃を痛めていると風の便り
で聞いてるし、永遠亭における変体マッドサイエンティストに労働意欲の湧かない主に対する尊敬などあろうはずもなく、付
き従う愛弟子に髑髏マークのラベルが貼られた薬物を躊躇なく使用して日頃の鬱憤、もとい、貴重なデータをとる彼女はま
ず人として無くしちゃいけない大切なものを退屈という名のドブ川に捨てている感が否めないが、本人曰く、『妖怪は頑丈だ
し、死にはしないから大丈V』だとかふざけたことをぬかしていたし、被験者も『医学の貢献の礎となるなら』とハイライトを失っ
たつぶらな瞳で語ってくれたので、まあ概ねあっちはあっちでうまくやっているのだろう。
唯一タメをはれるのはマヨヒガの頼れる母ちゃんぐらいか。とはいえ、それは家事云々といった能力が秀でているだけで、主人
を敬愛しているかどうかと言われると何とも微妙なところだろう。
つい先日も、楽園の素敵に貧乏な巫女が八雲 紫に『幻想郷の危機よ』と言われてマヨヒガに赴いたら、そこには散乱した
室内に佇む怒り心頭の九尾の狐と、そこから離れた位置で涙目で震える黒猫がいた。
些か目を丸くした霊夢が部屋の片隅にいる橙に話を聞くところによると、
「テレビのチャンネル権をめぐって紫様と藍様が………」
即座に夢想封印をぶっ放したのは当然の措置と言えよう。
「だってだって!藍ったら私が楽しみにしているドラマをボロクソにけなして、あまつさえ自分の好きな番組に変えようとするん
だもんっ!!」
「あんなジ○ン真っ青のハゲ親父が、思春期真っ只中のセブンティーンなハイカラ娘に『オヤジ臭いから近づくんじゃねえよ万
年窓際族!』だとか言われて世を憂いて胸に七つの傷がある幼女を捜し当てるべくローラースクーターで埼玉を駆け巡ると
いった道徳感が著しく欠如してるドラマのどこが面白いんですかっ!!橙の教育上悪影響を及ぼしそうなものの視聴はお控
え下さいとあれほど言ったじゃないですか!!!」
どんなドラマだそれ。
「何よ何よっ!!それを言うなら藍だって教育上宜しくないもの観てるじゃない!!
『愛猫黙示録』だとかいった、タイトルからして色々とおかしいのをさておいても、どう見てもネコミミカチューシャを装着しただけ
の女子(おなご)を愛でるいい年こいた美人局のハートフルバイオレンスたっぷりのドラマの方が倫理の道を大きく外れてる気
がするわっ!!!」
「失礼ながら紫様、貴女は何も分かっちゃいません。彼女の猫に対する姿勢は非常に共感できるものです。
人を騙す毎日に荒む心の清涼剤となりえる存在は何か。癒しの極意をこの世に生をうけたその瞬間から会得している動物
は猫をおいて他にありません。
愛くるしい双眼に射止められた者は数知れず、かくいう私もご多分に漏れず虜ロールと相成りました。
ドラマとはいえ、主人公である彼女の秒間300回の猫可愛がりには不覚ながら涙を流してしまいました」
双方碌でもないものを観賞してる。
というか何で美人局などという親が聞いたら泣きそうな仕事を生業としている女にひどく感銘を受けているのだろうか、このペ
ドフェリアは。狐か?狐だからか?
「ふんっ、どう見ても私より藍の方が人道に反しているじゃない!
そんなんだからテンコーだなんて不名誉な二つ名をもらう羽目になるのよ!!」
「テンコーを愚弄する気かメタボリックスキマアアアアアッ!!!
霊夢、この怠惰の化身に何か言ってやれっ!!」
「私を巻き込むな」
以上のことを昨日館を訪れた腋巫女が語ってくれたのだが、それにしたって出されたスコーンを周囲の冷ややかな視線など
気にせずにリスの如く頬張り続ける奴に何かと言われたくないだろう。
出番を失ったジャムが泣いてるぞ。
おそろしく話が逸れてしまったが、とどのつまり主人への愛と卓越した能力を持ち合わせる従者として咲夜は他の追随を許さ
ない存在である。
全身全霊を敬愛する主に捧げて、粉骨砕身で仕事に励む彼女だからこそ、名誉ある紅魔館メイド長が務まるのだ。
故にお嬢様のスリーサイズは無論、お気に入りの下着をも掌握している。
「……咲夜、鼻から垂れてるわよ、紅いパトスが」
「失礼、鼻炎がぶりかえしましたわ」
なんでやねん。
「とにもかくにもお嬢様、実に素晴らしい案ですわ。流石は夜を支配する不死の王。
我々凡の者共には到底至れぬ境地でございます」
述べられるは、最大級の賛辞。おべんちゃらなどという低俗な言葉とは無縁の心からの称賛は、対象の耳に甘美な響きを
もって澄み渡る。
「はぁ、わりかし誰でも考えつきそうですけど」
気の流れは読めても空気は読めない門番、紅 美鈴。
放たれるは、エターナルミークが織り成す最大級の惨事。
殺意の込められた刃物が謳う寸劇は、観賞者の網膜に生命の儚さを焼き付けさせる。
「咲夜なら分かってくれると思ってたわ」
「感謝の極み」
どこまでも完璧に、しなやかに。
ドラマなどというものに現を抜かす主婦もどきらとは、根底から違うのである。
てか、電気通ってたんかい。
「それで、具体的には何処をどうリフォームするのかしら?とりあえず私と小悪魔は図書館の方だけ担当するつもりよ。
屋敷の方には基本ノータッチだから、そこんとこよろしくね」
動かない大図書館パチュリー・ノーレッジ。
この世に生を受けてから百と数年。生粋の魔女たる彼女は、例え居候の身であろうと決して退かぬ媚びぬ省みぬ。
悪魔の館の当主たるレミリアに対しても、不遜な態度を崩すことはない。
尤も、レミリアとパチュリーはマリアナ海溝よりも深い絆で結ばれている心の友(あくゆう)である。
その証拠に、先日も『ブラが透けて見える際の最も興奮するシチュエーションは何か』
という御題で三日三晩語り明かしたばかりだ。
意見の食い違いから時には拳と拳が唸る残虐ファイトにまで発展したが、最終的には『水を全身隈なくぶっかけられた時』と
いう、何とも当たり障りのないオーソドックスな答えにいきついた。
つまらない、と思う勿れ。
『シンプル・イズ・ベスト』という格言があるように、ベタベタな展開だからこそ興奮は最高潮に高まるのだ、と両者の見解はまさ
に一致し、握りしめられた掌と掌が生み出すほの暖かな空気は感動物に弱い小悪魔の涙を誘った。
後日、共謀して咲夜相手に試そうとしたら華麗に時を止めて交わされたが。ガッデム。
閑話休題。
つまり彼女らは、一見すると馬鹿馬鹿しい御題でさえも熱情をもってディベートしあえる知己である。
無礼な態度をとられたところで、『友人』にカテゴライズされる者を責め立てるなど、そんな器の小ささを露出するような真似を
するほどレミリア・スカーレットの五百余年は甘くない。
「主に各々の部屋や大ホール、それに廊下なども範疇に入れてるわ。
まぁ、そこまで気合い入れてやらなくても構わないわよ。ちょっとアクセントを変える程度で充分でしょう。
だから安心なさいなパチェ、第一喘息持ちの貴女をこき使うなんて地獄の責め苦もいいところだし」
「御心使い感謝するわ、我が親友レミィ。遠慮なくお言葉に甘えるわね」
何より、パチュリーの苦しむ顔なんて出来る限り見たくない。
そのわりには鋭いデンプシーロールをぶっ放した気もするがよく覚えてないということで。
「それはともかくとしてお嬢様、私達自身のリフォームとは一体全体何をどうするんですか?」
いつの間にか死の淵から蘇った美鈴の質問に、これから説明するところだったのよ、と眉をひそめながら一睨みするものの、そ
れほど気分を害している様子は見受けられないので案外その質問がくるのを待っていたのかもしれない。
「私達自身の心の改革も行わなければ気持ちの良い新年度は迎えられないわ。
簡単な話、ちょっとした反省会を開くわよ。
特に門番、貴女は昨年度何回あの単色魔法使いに門を突破されたのかしらね?」
「お嬢様は今まで食べたパンの枚数を覚えていますか?」
「百から先は覚えてないわ」
悪びれもせずボケをかますそのバイタリティは寧ろ称賛にすら値するが、とりあえずグングニルを投げ付けておく。
「それってリフォームというのかしら?」
パチェ五月蝿い。
「反省会、ですか。妥協的な案だとは思いますが、時間をとるようでしたら、メイド達に仕事を言い付けてきますが……」
咲夜の懸念は分からないでもない。
実質数だけなら腐るほど存在する我が館の妖精メイドらは、基本咲夜の目を盗んではサボって脱衣麻雀に没頭する脳内
世紀末な於古共である。
咲夜の監視の目がなければ、これ幸いとばかりに羽目を外しすぎる危険性が残念ながら非常に高い。
だが、あまりなめないでいただきたい。
手だれの変態どもを纏め率いる私レミリア・スカーレットに、『不可能』という文字は存在しないようで存在する。
………あれ?
「あまり時間はとらせないわよ咲夜。というのも、何も今この場で行おうというわけじゃないからね。
今日は各々が自分の昨年度の反省点などを列挙して紙に書き記して、明日のこのティータイムにそれぞれ発表してもらう
わ。勿論、書くのは各自の空いた時間の時で構わない。
ただし、嘘偽りなく書きなさい。そうじゃないと意味がないから」
こういう場において、自らの恥部を晒け出すというのは非常に抵抗がある。
それは重々承知している。
だがしかし、それを踏まえた上で、詐称することなく反省点を挙げれれば重畳ものだ。
それ則ち、心の成長と同義。
なに、己の欲望を隠すことなく曝け出すこ奴らのことだ、寧ろ嬉々として語り出すかもしれない。
乙女たるもの、もう少し慎ましやかになって人に誇れるような嗜みを持ってもらいたいものだが、言ったところで聞くような連中
でもないのでそれについては今更何も言うまい。
ともあれ、だ。
「そういうわけだから、各自良く考えておきなさい。
言っとくけど、あまりにも抜けていることを吐かしたら容赦ないツッコミが飛び交うということは心に留めておくこと。
まぁ、それについては言わずもがなでしょうけれど」
ツッコミの部分を弾幕と置き換えれば理解いただけることだろう。
「了解しました、お嬢様。屋敷のリフォームはいかがなさいましょう?」
「それが終わってからでいいわ。スッキリしてから臨んだ方が捗るでしょうし」
「委細承知致しました」
それでは、と言い残して一瞬後には視界から消える咲夜。
トレーまで片付けていくところが心憎い。何とも頼れる従者だ。
「というわけよパチェ、美鈴。遠慮のない不夜城レッドを喰らいたくなかったら、己が改善すべき点を全力で捻り出すことね」
「分かってるわよレミィ。さて、それじゃ私は図書館に戻って小悪魔にこの催しの事を伝えてくるわ」
「了解ですお嬢様。それでは、私も門番の仕事に戻りますね」
二人も去り、残るは私一人。
「ふふっ、それじゃあ私もフランに伝えてこなきゃね」
飲みかけのダージリンを一息に飲み干し、優雅に、きらびやかに席を立つ。
ここにカップを置いておけばしばらくしたら跡形もなく消えているだろう。誰の仕業だなんて、言うまでもない。
薄く笑みを浮かべると、惰眠を貪っているであろう最愛の妹を起こすべく部屋を後にした。
満天の星空に一際輝く一等星をバックに、迫る明日の会合に思いを馳せると同時に、知らず歩調が早くなる。
「さて、どうなるのかしらね?」
誰に向けて呟くことなく、『永遠に幼い紅き月』は住家の広い廊下を不遜に闊歩する。
実に、愉しそうに、嬉しそうに。
この度のお話は、キャラ崩壊の一途を辿るカオスフルな話です。
原作のキャラ観が壊れるから嫌だっ!と思われる方はご遠慮下さい。
それでも構わないという方々のみ、どうぞ先にお進み下さい。
春。
それは出会い、別れ、様々な出来事が起こる季節。
人によっては、思い出の巣箱から飛び立ち新たな新境地で意気昂揚と臨む者もいるだろう。
大人の階段を登る君はまだシンデレラ、決してそっちの意味ではなく、あっちの意味で
人は一歩ずつでも成長していく生き物だ。ついこの間まで子供だった者は、
いやがおうでも社会の波に揉まれて世界情勢の荒渦に飲み込まれて初めて『オトナ』として認められる。
一部を除き大体の人間はこのレールを逸れることく走るのだ。多分。
過去を振り返るのも時には大切だが、そこにばかり目を向けていては前には進めない。
忘れがたい思い出、ひいては黒歴史、その他もろもろ含めて、それらを踏まえた昔の自分を乗り越えた今が将来何らかの形
で活きてくるのだと思う。
とりあえずそういうことにしておかないと話が前に進まないので、仮に違うと思っても
小町の撓わなツインミサイルよりも大きな心で黙認してもらえると非常にありがたい。
さて、若干話が逸れてしまったが、まぁとどのつまり『気持ち新たに新年度頑張ろう』という話だ。
それは、幻想郷だろうが変わらない。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
「というわけで、紅魔館全体のリフォームを執り行うわ。異論は却下ね」
「いや、なしてそのような流れになるのかさっぱり分からないんですが」
「うっさいエセチャイニーズ、高麗人参でも食ってろ」
「にべもないっ!!?」
紅魔館の我が儘当主レミリア・スカーレットのこういった突然の発言は今に始まったことじゃないので、異論を唱える者は誰も
いなかった。若干一名除いて。
ある者は主の命とあらば従者たる自分はただ付き従うのみと考え、
ある者は図書館の増改築のみ関わる姿勢を見せ、ジコ虫を地で行くその潔さは清々しさすら感じられ、
ある者は出番の少なさを予期して、最近考案した門の煉瓦の間の線をアミダのようになぞるという大の大人が見たら心底
呆れが混じった溜息をつきそうな究極の暇潰しで退屈を紛らわそうと考えていた。
余談だが、以前張り切ってこれをしていたら暇どころか頭を潰されそうになった。
冥土流ジャーマンが織り成す耽美で端麗な放物線は、一部始終を目撃していた者達に何故か栄光の掛橋を連想させた
という。
一部のメイド達は鬼のメイド長のスカートの下から覗く神聖不可欠な乙女の布地に思いを馳せて鼻から赤くて粘着性のあ
る何かを噴き出していたし、門番隊にいたっては憧れの門番長の生足とその間から覗くショーツを脳裏に焼き付け、これであ
と一週間は戦えるなどと鼻息荒くしていたというし、このままでいたらどう足掻いても紅魔館の行く末はナイトバードであろう。
誠に遺憾だが、しかし覆しようのない未来を思うと幸福など吐く息と共に知らず知らず
の内に逃げてしまうんだろうなあ、とひしひしと痛感する今日この頃だった。
「咲夜さん、あの後三日程頭痛がとれなくて仕事に支障がでたんですけど」
「専らシエスタするのが貴女の仕事なのだとしたらそれは悪いことをしたわね、謝るわ」
「すいません私が悪かったです反省してますだから喉元に尖った凶器を突き付けないで下さい後生ですからいやマジ本当に
いいいいいっ!!!」
「だが断る」
「ギニャアアアアアッ!!!」
現実は非情である。
「……もういいかしら?いつまでもあんたらの三文芝居なんかに付き合ってらんないんだけど」
「失礼しましたお嬢様、して、急にリフォームとはどういったお考えなのでしょうか?」
主の一喝により、ナイフを操る手を止め一瞬後には元の完璧で瀟洒なメイドへと変貌する様は、もはや芸術の域にすら達
していると言っても過言ではない。
それと同時に、命のやり取りを三文芝居の一言で片付けられた門番ほど不憫なものもない。
「言葉通りよ咲夜、いくら春は腑抜けることが多くなる季節とはいえ、近頃の我が紅魔館のていたらくっぷりは目に余るものが
あるわ。やれ休みをくれだの、やれ供給される食糧をもう少し増やしてくれだの、甘えはそいつの為にならないから心を鬼にし
て敢えて聞き流しているというのに、その私の無言の愛の鞭を単なる差別だと思い込んでいる輩が最近のしこりとなってる現
状を打破すべく、重い腰を上げた次第よ」
「ふうん、たまには実になる提案を掲げるじゃないレミィ。明日は朱い槍でも降ってくるかもね」
薄い胸を張り自慢げに宣うレミリアに対し、投げやりに、それでいて裏に潜む皮肉をオブラートに包んで返す魔女が薄く笑み
を浮かべる。
それは当然の主張ではないか、そもそも身も心も元々鬼に属してるじゃないか、てか当屋敷におけるTo Loveるメーカーが
吐ける台詞じゃないだろう、とか命からがら呟く任務怠慢門番小娘には鉄のカーテンを敷いて蚊帳の外へとほっぽりだしてお
く。
無慈悲とは言うまいね。
「ふふん、讃え崇め敬いなさい。アガペーを一身に受ける私を拝むことにより素敵な紅魔館ライフが確約されるわよ!」
何か色々間違ってる気がするがオールスルー。
「ともかく、最近はあの白黒流星号の襲撃の際の莫大な被害にも頭を悩ませていたから、いっそのこと屋敷の模様替えでも
しようと考えたのよ。新年度は何かと新しい行事を始めたがる時期。自らの好奇心を満たし、住家は綺麗に、住人は気を
引き締めて仕事に励み主に尽くす、私にしてみれば一石三鳥じゃない」
「なるほど、おっしゃる通りですわお嬢様。メイド達を再調教できる絶好の機会はこれをおいて他にありませんし、特に職務
怠慢な豊乳魔人はこれを機に性根を入れ換える必要があります。非常に良いアイデアかと」
紅魔館のイエスウーマン十六夜 咲夜。主に対する心構えは幻想郷に蔓延るいかな従者にもひけをとらない自負がある。
白玉粉だか何だか覚えてないが、とにかくあそこの庭師兼剣術指南係は暴走する健食家に日々胃を痛めていると風の便り
で聞いてるし、永遠亭における変体マッドサイエンティストに労働意欲の湧かない主に対する尊敬などあろうはずもなく、付
き従う愛弟子に髑髏マークのラベルが貼られた薬物を躊躇なく使用して日頃の鬱憤、もとい、貴重なデータをとる彼女はま
ず人として無くしちゃいけない大切なものを退屈という名のドブ川に捨てている感が否めないが、本人曰く、『妖怪は頑丈だ
し、死にはしないから大丈V』だとかふざけたことをぬかしていたし、被験者も『医学の貢献の礎となるなら』とハイライトを失っ
たつぶらな瞳で語ってくれたので、まあ概ねあっちはあっちでうまくやっているのだろう。
唯一タメをはれるのはマヨヒガの頼れる母ちゃんぐらいか。とはいえ、それは家事云々といった能力が秀でているだけで、主人
を敬愛しているかどうかと言われると何とも微妙なところだろう。
つい先日も、楽園の素敵に貧乏な巫女が八雲 紫に『幻想郷の危機よ』と言われてマヨヒガに赴いたら、そこには散乱した
室内に佇む怒り心頭の九尾の狐と、そこから離れた位置で涙目で震える黒猫がいた。
些か目を丸くした霊夢が部屋の片隅にいる橙に話を聞くところによると、
「テレビのチャンネル権をめぐって紫様と藍様が………」
即座に夢想封印をぶっ放したのは当然の措置と言えよう。
「だってだって!藍ったら私が楽しみにしているドラマをボロクソにけなして、あまつさえ自分の好きな番組に変えようとするん
だもんっ!!」
「あんなジ○ン真っ青のハゲ親父が、思春期真っ只中のセブンティーンなハイカラ娘に『オヤジ臭いから近づくんじゃねえよ万
年窓際族!』だとか言われて世を憂いて胸に七つの傷がある幼女を捜し当てるべくローラースクーターで埼玉を駆け巡ると
いった道徳感が著しく欠如してるドラマのどこが面白いんですかっ!!橙の教育上悪影響を及ぼしそうなものの視聴はお控
え下さいとあれほど言ったじゃないですか!!!」
どんなドラマだそれ。
「何よ何よっ!!それを言うなら藍だって教育上宜しくないもの観てるじゃない!!
『愛猫黙示録』だとかいった、タイトルからして色々とおかしいのをさておいても、どう見てもネコミミカチューシャを装着しただけ
の女子(おなご)を愛でるいい年こいた美人局のハートフルバイオレンスたっぷりのドラマの方が倫理の道を大きく外れてる気
がするわっ!!!」
「失礼ながら紫様、貴女は何も分かっちゃいません。彼女の猫に対する姿勢は非常に共感できるものです。
人を騙す毎日に荒む心の清涼剤となりえる存在は何か。癒しの極意をこの世に生をうけたその瞬間から会得している動物
は猫をおいて他にありません。
愛くるしい双眼に射止められた者は数知れず、かくいう私もご多分に漏れず虜ロールと相成りました。
ドラマとはいえ、主人公である彼女の秒間300回の猫可愛がりには不覚ながら涙を流してしまいました」
双方碌でもないものを観賞してる。
というか何で美人局などという親が聞いたら泣きそうな仕事を生業としている女にひどく感銘を受けているのだろうか、このペ
ドフェリアは。狐か?狐だからか?
「ふんっ、どう見ても私より藍の方が人道に反しているじゃない!
そんなんだからテンコーだなんて不名誉な二つ名をもらう羽目になるのよ!!」
「テンコーを愚弄する気かメタボリックスキマアアアアアッ!!!
霊夢、この怠惰の化身に何か言ってやれっ!!」
「私を巻き込むな」
以上のことを昨日館を訪れた腋巫女が語ってくれたのだが、それにしたって出されたスコーンを周囲の冷ややかな視線など
気にせずにリスの如く頬張り続ける奴に何かと言われたくないだろう。
出番を失ったジャムが泣いてるぞ。
おそろしく話が逸れてしまったが、とどのつまり主人への愛と卓越した能力を持ち合わせる従者として咲夜は他の追随を許さ
ない存在である。
全身全霊を敬愛する主に捧げて、粉骨砕身で仕事に励む彼女だからこそ、名誉ある紅魔館メイド長が務まるのだ。
故にお嬢様のスリーサイズは無論、お気に入りの下着をも掌握している。
「……咲夜、鼻から垂れてるわよ、紅いパトスが」
「失礼、鼻炎がぶりかえしましたわ」
なんでやねん。
「とにもかくにもお嬢様、実に素晴らしい案ですわ。流石は夜を支配する不死の王。
我々凡の者共には到底至れぬ境地でございます」
述べられるは、最大級の賛辞。おべんちゃらなどという低俗な言葉とは無縁の心からの称賛は、対象の耳に甘美な響きを
もって澄み渡る。
「はぁ、わりかし誰でも考えつきそうですけど」
気の流れは読めても空気は読めない門番、紅 美鈴。
放たれるは、エターナルミークが織り成す最大級の惨事。
殺意の込められた刃物が謳う寸劇は、観賞者の網膜に生命の儚さを焼き付けさせる。
「咲夜なら分かってくれると思ってたわ」
「感謝の極み」
どこまでも完璧に、しなやかに。
ドラマなどというものに現を抜かす主婦もどきらとは、根底から違うのである。
てか、電気通ってたんかい。
「それで、具体的には何処をどうリフォームするのかしら?とりあえず私と小悪魔は図書館の方だけ担当するつもりよ。
屋敷の方には基本ノータッチだから、そこんとこよろしくね」
動かない大図書館パチュリー・ノーレッジ。
この世に生を受けてから百と数年。生粋の魔女たる彼女は、例え居候の身であろうと決して退かぬ媚びぬ省みぬ。
悪魔の館の当主たるレミリアに対しても、不遜な態度を崩すことはない。
尤も、レミリアとパチュリーはマリアナ海溝よりも深い絆で結ばれている心の友(あくゆう)である。
その証拠に、先日も『ブラが透けて見える際の最も興奮するシチュエーションは何か』
という御題で三日三晩語り明かしたばかりだ。
意見の食い違いから時には拳と拳が唸る残虐ファイトにまで発展したが、最終的には『水を全身隈なくぶっかけられた時』と
いう、何とも当たり障りのないオーソドックスな答えにいきついた。
つまらない、と思う勿れ。
『シンプル・イズ・ベスト』という格言があるように、ベタベタな展開だからこそ興奮は最高潮に高まるのだ、と両者の見解はまさ
に一致し、握りしめられた掌と掌が生み出すほの暖かな空気は感動物に弱い小悪魔の涙を誘った。
後日、共謀して咲夜相手に試そうとしたら華麗に時を止めて交わされたが。ガッデム。
閑話休題。
つまり彼女らは、一見すると馬鹿馬鹿しい御題でさえも熱情をもってディベートしあえる知己である。
無礼な態度をとられたところで、『友人』にカテゴライズされる者を責め立てるなど、そんな器の小ささを露出するような真似を
するほどレミリア・スカーレットの五百余年は甘くない。
「主に各々の部屋や大ホール、それに廊下なども範疇に入れてるわ。
まぁ、そこまで気合い入れてやらなくても構わないわよ。ちょっとアクセントを変える程度で充分でしょう。
だから安心なさいなパチェ、第一喘息持ちの貴女をこき使うなんて地獄の責め苦もいいところだし」
「御心使い感謝するわ、我が親友レミィ。遠慮なくお言葉に甘えるわね」
何より、パチュリーの苦しむ顔なんて出来る限り見たくない。
そのわりには鋭いデンプシーロールをぶっ放した気もするがよく覚えてないということで。
「それはともかくとしてお嬢様、私達自身のリフォームとは一体全体何をどうするんですか?」
いつの間にか死の淵から蘇った美鈴の質問に、これから説明するところだったのよ、と眉をひそめながら一睨みするものの、そ
れほど気分を害している様子は見受けられないので案外その質問がくるのを待っていたのかもしれない。
「私達自身の心の改革も行わなければ気持ちの良い新年度は迎えられないわ。
簡単な話、ちょっとした反省会を開くわよ。
特に門番、貴女は昨年度何回あの単色魔法使いに門を突破されたのかしらね?」
「お嬢様は今まで食べたパンの枚数を覚えていますか?」
「百から先は覚えてないわ」
悪びれもせずボケをかますそのバイタリティは寧ろ称賛にすら値するが、とりあえずグングニルを投げ付けておく。
「それってリフォームというのかしら?」
パチェ五月蝿い。
「反省会、ですか。妥協的な案だとは思いますが、時間をとるようでしたら、メイド達に仕事を言い付けてきますが……」
咲夜の懸念は分からないでもない。
実質数だけなら腐るほど存在する我が館の妖精メイドらは、基本咲夜の目を盗んではサボって脱衣麻雀に没頭する脳内
世紀末な於古共である。
咲夜の監視の目がなければ、これ幸いとばかりに羽目を外しすぎる危険性が残念ながら非常に高い。
だが、あまりなめないでいただきたい。
手だれの変態どもを纏め率いる私レミリア・スカーレットに、『不可能』という文字は存在しないようで存在する。
………あれ?
「あまり時間はとらせないわよ咲夜。というのも、何も今この場で行おうというわけじゃないからね。
今日は各々が自分の昨年度の反省点などを列挙して紙に書き記して、明日のこのティータイムにそれぞれ発表してもらう
わ。勿論、書くのは各自の空いた時間の時で構わない。
ただし、嘘偽りなく書きなさい。そうじゃないと意味がないから」
こういう場において、自らの恥部を晒け出すというのは非常に抵抗がある。
それは重々承知している。
だがしかし、それを踏まえた上で、詐称することなく反省点を挙げれれば重畳ものだ。
それ則ち、心の成長と同義。
なに、己の欲望を隠すことなく曝け出すこ奴らのことだ、寧ろ嬉々として語り出すかもしれない。
乙女たるもの、もう少し慎ましやかになって人に誇れるような嗜みを持ってもらいたいものだが、言ったところで聞くような連中
でもないのでそれについては今更何も言うまい。
ともあれ、だ。
「そういうわけだから、各自良く考えておきなさい。
言っとくけど、あまりにも抜けていることを吐かしたら容赦ないツッコミが飛び交うということは心に留めておくこと。
まぁ、それについては言わずもがなでしょうけれど」
ツッコミの部分を弾幕と置き換えれば理解いただけることだろう。
「了解しました、お嬢様。屋敷のリフォームはいかがなさいましょう?」
「それが終わってからでいいわ。スッキリしてから臨んだ方が捗るでしょうし」
「委細承知致しました」
それでは、と言い残して一瞬後には視界から消える咲夜。
トレーまで片付けていくところが心憎い。何とも頼れる従者だ。
「というわけよパチェ、美鈴。遠慮のない不夜城レッドを喰らいたくなかったら、己が改善すべき点を全力で捻り出すことね」
「分かってるわよレミィ。さて、それじゃ私は図書館に戻って小悪魔にこの催しの事を伝えてくるわ」
「了解ですお嬢様。それでは、私も門番の仕事に戻りますね」
二人も去り、残るは私一人。
「ふふっ、それじゃあ私もフランに伝えてこなきゃね」
飲みかけのダージリンを一息に飲み干し、優雅に、きらびやかに席を立つ。
ここにカップを置いておけばしばらくしたら跡形もなく消えているだろう。誰の仕業だなんて、言うまでもない。
薄く笑みを浮かべると、惰眠を貪っているであろう最愛の妹を起こすべく部屋を後にした。
満天の星空に一際輝く一等星をバックに、迫る明日の会合に思いを馳せると同時に、知らず歩調が早くなる。
「さて、どうなるのかしらね?」
誰に向けて呟くことなく、『永遠に幼い紅き月』は住家の広い廊下を不遜に闊歩する。
実に、愉しそうに、嬉しそうに。
真中あたりで×道徳官→○道徳感
安定したカオス感が初投稿と思いませんでした。
これからカオスっぷりが爆発するのかと思うと楽しみです。
真中あたりで×道徳官→○道徳観
安定したカオス感が初投稿と思いませんでした。
これからカオスっぷりが爆発するのかと思うと楽しみです。
苦手なものをこれでもかこれでもかと突きつける才能に驚きを禁じえません。
で、今のところ話はリフォームするってことが決まっただけなんですね。されこれからどういう
展開がまっているのか楽しみです。
以前は綺麗に揃っていたのに……。
でも内容は面白いです。続きが樂しみですね。