この話は私の書いた前作「紅に染まりゆく白」の続きになります
前作の方を読んでないと内容についていけない可能性が高いです
妄想設定が暴走しています
あとこの話には(作者が必死こいて書いた程度の)危険な表現を含みます
ご注意願います
―――青い月の元 一人夢を見る
静謐さをもつ暗き森の中
生き物が眠る丑三つ時
そこに疾走するひとつの影
その人間は逃げていた
背後から迫る無数の足音から
―――誰も知らぬ 小さなその世界
この森に人間を襲う妖怪がいることを知っていた
隣の村まで用事に行き遅くなってしまった帰り道
何の因果か彼は狙われた
―――空の星を見上げ 孤独に涙する
息が上がる 限界が近い
だが止まれば喰われる
彼は恐怖と苦しみの中必死に走り続けた
すると彼はある開けた場所に出た
背後のようなうっそうとした木々がなく ただぽっかりと開けた場所
―――紅い花をあなたにあげましょう 白い花を私は受け取りましょう
そこには人がいた 紅と白を身につけた一人の少女
聞いたことがあった
どんな敵をも払うことのできる存在
幻想郷の守護者
博麗の巫女
彼は助かったと思った
そして彼は巫女に助けを求め―――――
やわらかな日のあたる暖かな午後 鳥たちが囀る神社への参道
上白沢慧音は少し難しい顔をしながらそこを歩いていた
今日彼女が神社に向かう理由
それは先日行方不明になったある人間についてだった
彼は慧音の村に来た帰り 音沙汰がなくなったのだ
彼の帰っていった道の森にはには人を食べる妖怪がいる
彼女も村のものも妖怪に襲われたのだろうとわかっていた
悲しいことではあったが仕方の無いことでもある
どれだけ努力しても被害は出てしまうのだ
慧音にとって問題は別にある
その妖怪がどのようなものであるかだ
今回被害が出たのは自分の村の近い場所だ
もしその妖怪が面倒な存在ならば対策を立てなければならない
そこでその日の夜巡回をしていたであろう霊夢に話を聞きに来たのだ
慧音が神社の階段を登るとそこには神社の掃除をしていた霊夢がいた
「こんにちは霊夢。」
慧音は彼女に向かって挨拶した
しかし霊夢は慧音に気づかない様子で掃除を続けている
二人の距離はそこまで離れているわけではない
慧音は不審に思いながらも再度声をかけた
「霊夢?おいっ霊夢っ。」
「え?あ、あら慧音じゃない。どうしたの神社に来て。賽銭箱ならむこうよ?」
大きな声をかけられた霊夢ははっと気づいて慧音に答えた
「まったく、ボーっとしていたと思ったらこれか。」
「なによもう、それで何の用で来たのよ。」
少しむくれながら霊夢は本題を聞いてくる
慧音はその質問に少し衣を正しながら答えた
「そうだ、少し聞きたいことがあってな。先日私の村の近くの森で人が行方不明になったんだ。知っているか?」
「いいえ?でもそんなのここじゃ日常茶飯事じゃない。」
「まぁそうなんだが、少し変でな。」
「なにが?」
「村のものには言ってないが一応襲われたであろう場所をみつけたんだ。森の開けた場所でな、血が広がっていた。」
霊夢が体をぴくっと震わせた
しかしそれに慧音は気づかず続ける
「普通喰われたのであれば何かしら残っているはずなんだ。何かが。でもあそこにはそれがなかった。
まるであの場所で喰ったのではなく“殺した”ような感じだった。」
ゾクリッ
慧音はそう話した瞬間 言い知れない悪寒を感じた
「へぇ。でもそうした後に自分の巣にでも持って帰ったんじゃないの?」
「あ、ああ。でもそうなるとある程度の知能があるということだからな。面倒なやつなら何か対策が要る。
それであの日霊夢は巡回してたんじゃないかと思って何か知ってないか聞きに来たんだ。」
「悪いけど知らないわ。」
「だが…。」
「知 ら な い わ。」
「 っ、わかった。じゃあ何かわかったら教えてくれ。」
知らないという霊夢に再度訊こうとした慧音は霊夢から発せられる妙な威圧感に黙らされてしまった
ようやく搾り出した言葉をどもりながらも伝えると
「いいわよ。」
先ほどの威圧感などさっぱり消して霊夢は答えた
慧音はその後霊夢とお茶を飲んだ後村へと帰っていった
クスッ
霊夢はその後姿を見ながらワラッタ
慧音は後にこのとき霊夢を問いただせなかった事を後悔する
そして異変は起きる
しかしそれは異変といえるものとは言い切れなかった
赤い霧が出たわけでもなく 偽りの月が現れたわけでもない
目に見える異変ではなかった
ただ人間と妖怪の消える数が増えた
ただそれだけ ただそれだけの違和感とも思える違い
そのため誰もが気づかなかった
しかしある人物、当事者にとっては最大の異変
事態は人知れづ深刻化していった
それが完全に現れたのは二人が話をしたしばらく後の夜だった
――その夜、幻想郷は怯えた
霧雨魔理沙は空を飛んでいた
隣にはアリス・マーガトロイドもいた
彼女達は森の上をある一点を目指していた
事の始まりは数刻前
魔道書を読みにアリスの家に遊びに来ていた魔理沙は急に背筋に悪寒を感じた
背筋に氷を入れられたような感覚に襲われた彼女は驚いて本から顔を上げ辺りを見回す
部屋の中に変化はない しかし悪寒はいまだに続いていた
アリスが作業部屋から出てくる 彼女もこの悪寒を感じたようだ
窓の向こう 魔法の森の先を睨むように見ていた
がたりと音を立てて魔理沙が椅子から立つ
アリスが振り向くと魔理沙はニヤリと笑って言った
「行こうぜ。」
それにアリスは少し呆れながらも笑って
「そうね。」
承諾した
「でもちゃんと準備していかないと。変な感じがするし。」
「だな。家に戻ってくる。」
「ええ、家の前で待ってるから。」
「ん。」
そんな遣り取りをし、準備に時間をかけて二人が揃ったのが少し前
そして今に至る
「でもさっきから悪寒が酷いぜ。首筋がぞわぞわする。」
魔理沙は今感じているものをそのまま口にした
彼女の言うとおり悪寒は原因であろう場所に近づくほど酷く 重いものになっていた
「うん。」
アリスは魔理沙の言葉に簡単に返しながらも難しい顔をして考え事をしていた
(これは、狂気?いや、殺気?わからない。でもかなりやばいものね。)
アリスは今自分の方に流れている気配についてなんとなくだが察しがついていた
しかし確証はもてなかった
この気を発している場所からはまだ遠い上 幻想郷に来てからはこれほど酷いものは感じたことがなかったからだ
その苛立ちと焦りから急ぐことを考え
「魔理沙、ちょっと急ぎましょう。かなりやばいかもしれないわ。」
「ああ。」
二人で加速しようとした瞬間
「待ちなさい!!」
突然降ってきた声に驚いて止まってしまった
二人が声の方向を見るとそこには
「「パチュリー!?」」
紅魔館の図書館の主パチュリー。ノーレッジがいた
「ど、どうしたんだよ。なんでここに?」
驚きながらも魔理沙は彼女に問う
普段滅多な事では外に出ない彼女が何故かここにいる
そのことはアリスにも衝撃を与えたらしい 唖然として固まっている
パチュリーは肩で息をしながらも二人に言った
「話は後よ、今はここから離れるわよ。」
「え?でも。」
「あーもううるさいわね!いいから黙ってなさい!」
戸惑う二人を完全に無視しながらパチュリーは転移魔法を唱え始める
二人はそれを止めるまもなくまとめて連れて行かれてしまった
魔理沙が気がつくとそこは紅魔館だった
意識がまだはっきりしないながらもパチュリーに文句を言おうと顔を上げる
しかしそこには怪我をして寝ている紅 美鈴がいた
そしてその横には
「門番!?その怪我どうしたんだ!?それに…。」
美鈴と同じく寝かされていたフランドール・スカーレットがいた
「フランも!?これはいったい…。」
「あら、きづいたのね。調子はどう?」
声で誰か来たのに気づいた魔理沙が振り向くとそこには
永遠亭の薬師八意 永琳が立っていた
「永琳、なんで?いや、そうか。怪我人がいるもんな。」
「ええ、ただでさえ忙しいのに無理やりこっちに引っ張られてね。仕方ないからここで出張診療している所よ。」
「そっか、そういえばアリスは?」
「先に気がついたからほかの人たちに今の状況を聞きにいってるわ。」
「そっか。ほかの連中って言うとレミリアとかか。」
「それだけじゃないわよ。行ってみなさい。」
「わかった。フランたちを頼むな。」
「わかってるわよ。」
魔理沙はフランたちを永琳に任せてほかの面子のいる部屋へ向かった
紅魔館のレミリアの私室そこにみんな揃っていた
「輝夜に妹紅、慧音に紫に藍までいるじゃないか。」
予想外だったのはそこに魔理沙が言った面々がいたことだ
「魔理沙、気がついたのね。」
魔理沙の声に気づいたパチュリーが声をかける
「ああ、でもここにこれだけの面子が揃ってるって事は。」
「ええ、事はそれだけ深刻って事よ。」
神妙な顔をした紫が魔理沙の言葉を続ける
「幽々子と妖夢は?」
「あの子達は白玉楼に引き篭もらせてるわ。幽霊とかはこういう空気の影響をもろに受けるから、危ないのよ。」
「あ、それにまだ霊夢がいないじゃないか。異変が起きてるってんならあいつが…。」
「…その霊夢が原因なのよ。」
「え?」
「霊夢が今回の異変の原因なの。だから大問題なのよ。」
「そ、そんな。」
信じられない様子の魔理沙に今度はレミリアが説明した
「事実よ。実際フランと美鈴はれいむにやられたの。」
「そうだ!!フラン!何であいつあんな状態なんだ!?」
「待ちなさい、今それを説明するから。ちょうど全員来たみたいだし。」
レミリアは横目でちらりと永琳が帰ってきたのを確認して話し始めた
「異変が起きたのは今日の夜、太陽が完全に沈んでから。そこまではわかるわね?その時に……
首の後ろをちりちりとなぞるような感覚
レミリアはそれが何かすぐにわかった
長年自分が身を置いてきた空気だ いやでもわかる
とてつもないほどの殺気、そして狂気
発信源はここからかなり離れているはずだ
しかしそれでもこれだけ感じる
中心地は今何も存在できないような状態だろう
頭がどんどん冷えていく
原因は何か 犯人は誰か アレがこちらに来たときは 撤退する時は 館の守りは 攻めるか 様子を見るか
何をすべきか 何ができるか
紅魔館の主としてレミリアは己が持つ知力を最大限活用していた
そのとき館に爆発音が響いた
思考を中止してそちらを見ると砂埃のなか妹のフランドールが立っていた
「おはようお姉さま。何かとっても楽しそうなことが起こってるわね。」
クスクスと笑いながらフランはレミリアに話しかける
「おはようフラン。そうね何か起こってるわ。でも行ってはだめよ。」
レミリアは返事を返しながらフランをどうとめようか考えた
フランのことだ 言っても聞きはしないだろう
「やーだよー。だって呼んでるんだよ?私のことを。」
彼女が言っているのは狂気のことだろう
狂気と狂気は惹かれあう
面倒なことだ
さてどうしたものかと考えていると
「え?」
突然に意識もしてないのに運命が見えた
それは――――
「すきありー。」
レミリアの作った一瞬の隙
フランはそれを逃さず窓から飛び出していってしまった
「待って!言っては駄目!!フラン!!」
すぐに反応したレミリアだがフランはもう見えない
「クッ!!咲夜!!」
「お呼びでしょうか、お嬢様。」
レミリアに呼ばれた十六夜 咲夜はすぐにそばに現れた
状況は大体察している 私はフラン様を連れて帰ってくるのだろう
そう見当をつけていた咲夜はすぐに出られるよう準備をしていた
だがレミリアの言葉は違っていた
「私と美鈴が出ている間、館の警備をしなさい。絶対にこっちに来ては駄目よ!!」
「は?しかし…。」
「いいわね!?絶対に駄目よ!!」
「は、はい。わかりました。」
予想外の言葉に戸惑った咲夜だったがレミリアの剣幕にただ頷くことしかできなかった
「美鈴を呼んで!!すぐにでるわよ!!」
レミリアが続けて命令を出すと門番隊のメイドが一人駆け込んできた
「お嬢様!隊長はすでに妹様を追いかけて出られました!」
「よし!他の者は咲夜の命に従いなさい!!」
そう慌しく次々に命令を出してレミリアもまたフランの出た窓から出て行った
「お願い、間に合って。」
全力で飛び続けるレミリアの脳裏に浮かぶのは先ほど見た運命
フランが心臓を貫かれて死んでいる姿
彼女は異変の中心へと向かっていった
レミリアを振り切ったフランは狂気を発している中心地へと飛んでいた
レミリアはすぐに追ってくるだろう
フランはそう思い急ぎながらも笑っていた
あたりに立ち込める濃密な空気
間違いなくこれは自分の持つ狂気と同じものだ
この気を放つ存在はどんなものだろうか
遊んでも壊れないだろうか
色々なことを考えて楽しそうに笑いながら期待を募らせる
やがて彼女はそこにたどり着く
常人なら気が狂うほどの殺気、そして狂気を撒き散らすその地
そこは森の開けた場所だった
ぽっかりと開いた木のない広場
そこに彼女は居た
「―――――♪――♪」
紅白の衣装に身を包んだ少女
「―――♪―――♪――」
博麗の巫女 霊夢
「あれー、霊夢だー。」
フランは自分の知っている存在だったことに少し驚きながらも霊夢に声をかけた
「あら、フランじゃない。どうしたの?」
「うん。ねぇねぇこれ出してるのやっぱり霊夢だよね?」
目に見えない狂気や殺気を指差してフランは問う
「そうよ。」
「やっぱり!じゃあアソボウヨ霊夢!!」
「そう……。貴方も消さなきゃいけないのね。」
「何を言ってるの?ハヤクアソボウヨ!」
「いいわよ。来なさい。」
霊夢は穏やかに笑いながら構えた
フランは霊夢が言った言葉の意味がよくわからなかった
だがそんなことを気にせずに彼女は動き始めた
瞬間辺りを包む空気が変わる
狂った気と気が渦巻き暴れだす
先に動いたのはフランだった
弾幕を撒き散らし空へと舞い上がる
霊夢はフランの撃った弾をステップを踏むように最小限の動きでかわす
フランはさらに追撃をかけ続ける
霊夢はそれを避け続ける
撃つ避ける撃つかわす撃つ避ける撃つ掠る撃つ掠る撃つ避ける撃つ避ける撃つかわす撃つ掠る撃つ
掠る
撃ち続けるフラン 避け続ける霊夢
変化のない均衡 フランはいつしかそれに飽きてきた
「もー、霊夢ったら避けてばっかりでつまんない。飛びもしないし。」
フランの愚痴にも霊夢は答えない
その霊夢は弾幕を避け続けたせいで息も上がり 怪我もいくらかしていた
「何も言わないんだね。もういいや、飽きた。見かけだけだったんだ。」
言い終えると同時にフランの右手に赤い光が集まる
やがてそれは槍の形へと姿を成す
暴力という言葉がが姿を持ったようなそれ
魔槍「レーヴァテイン」
フランはその槍を構え
「それじゃ、バイバイ霊夢。」
投擲した
霊夢はその槍も避けようとした が先ほどまでの疲労のせいか足をもつらせ
そして
―――グシャ―――
鈍い音とともに腕が飛んだ
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
霊夢が吹き飛んだほうの腕を押さえながらあたりをのた打ち回る
「キャハハハハハハハハハ、霊夢大丈夫?まだ壊れてないよね?」
フランはその様子を楽しそうに見ていた
そしてまだ叫び続けている霊夢を尻目に吹き飛んだ腕を拾い笑っていた
叫び続ける人間と笑い続ける吸血鬼
狂ってるとしか思えないその光景
だがそれにやがて変化が訪れる
「ああああああはあはははは、あはははははははは!!」
フランは急に笑い出した霊夢を変に思い腕から目を離す
霊夢は無くなった片腕を抑えながら立ち 笑っていた
「霊夢、もしかして壊れちゃった?」
「あハハハはははあはハははゴホッは八はゲハァははハはああ!!」
霊夢は返事をせず笑い続ける
腕が吹き飛んだとき内臓も傷ついたのだろう 時折血を吐きながら咳き込む
なのに彼女は笑い続ける
フランは目の前の存在が気持ち悪くなった
もう完全に壊してしまおうと力を溜めようとした その時
霊夢の姿が消えた
――ズンッ
瞬間フランの体は浮かび かなりの距離を吹き飛ばされた
「ゲホッゲホッ。」
予想外の反撃にフランは激しく咳き込む
混乱しながらも頭を切り替え霊夢のほうを見る
霊夢はもう近くまで迫っていた
体を低くし 蛇のようにゆらゆらと這うように走ってきていた
「キヒヒヒヒキャハハハハハハ!!」
「ひっ。」
フランは霊夢の顔を見た瞬間空へ飛んだ
彼女の顔には笑顔が張り付いていた
血に塗れ青白くなりながらも狂ったように笑い続ける笑み
フランはそれに恐怖し逃げた
激しくなっていく動悸を押さえ込み 霊夢に向き直る
先ほどと同じなら飛ぶことは無いはずだと高度を取りつつフランは霊夢を見やる
霊夢は少しの間フランを見た後
その体を跳ねた
明らかに人間とは思えない跳躍力に驚愕しながらもフランは襲い来る腕を避ける
霊夢の腕は空を切り フランは安堵した
が
――ゴキリ
「え?」
その時彼女の羽が折れた
理解ができずフランは自分の羽を見るとそこには
“吹き飛んだはずの”霊夢の腕があった
「きゃああああ!!」
羽を折られフランは地面へと落ちる
――ドンッ
「ガハッ、ゲホゲホ!」
満足に受身も取れず地面にたたきつけられたフランは悶絶する
息をしようと苦しむ中 そこに影がさした
見上げると霊夢が自分を見下ろしていた
「ヒッ!」
フランは怯えて満足に動かない体を無理やり動かして後ずさりした
芋虫のようにずりずりと しかし必死に逃げた
霊夢はそれにあわせるようにゆっくりと迫る
フランはその中で霊夢の目を見た
月光を背で浴び 自身の血で赤く染まった顔
乱れて顔を隠す髪のその先 自分を見るその目は
真っ暗だった
「……ゃ。」
フランは悟った
何故姉が自分を必死で止めようとしたのか
何故自分は霊夢に恐れを抱いたのか
(私はこれとは違う、これとは絶対に違う。)
いまだ感情の無い笑みを貼り付け 狂気と殺気を撒き散らす霊夢を見てフランは思った
レミリアは運命を見る前からフランは霊夢に勝てないことを知っていた
二人の間には純然たる違いがあったからだ
狂気に身を包み すべてのものを壊す能力を持つフラン
それでも彼女が勝てない理由 それは
フランはものを“殺した”事がないのだ
その能力で戯れにものを壊し 結果として命を奪ったことはある
しかしそこには殺意が無い
凶器を持ち何かに迫ったことが無い
ものを刺した時の肉の感触を味わったことが無い
刺したものからの返り血を受けたことが無い
殺したものの怨嗟を身に受けたことが無い
断末魔の叫びを聞いたことが無い
何よりもものに対する殺意を持ったことが無い
狂気を含んでいても文字通り“無邪気”であり
命を奪うことに対し直接的ながらもどこか間接的だった
「いや、こないで…。」
逆に霊夢はそれらすべてを知っていた
刺した肉の感触を
そこから来る返り血を
怨嗟を
断末魔を
そして殺意を
全て知っていた
それが二人の違い 似た場所にいながら違う二人の立ち位置
霊夢は最初からフランを殺す気だった
そうする事によって降りかかるものを全てを覚悟した上で動いていた
霊夢がフランの目の前までたどり着く
そして彼女は目の前の存在の心臓を貫くために腕を振り上げた
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
―――ズ グチャリ
(あれ?痛くない。)
己の体を貫くはずの衝撃がこないのを不思議に思ったフランが目を開ける
「門番が守るべき門から離れるのはどうなのかしらね?」
「門番が門を守るのはその中の大切な人を守るためですから。その人が危ないならどこへでも行きますよ。」
彼女の前には自分を追ってきた紅魔館の門番紅 美鈴がいた
「めい…りん。」
「はい、美鈴ですよ。」
美鈴の体は抉られていた それでも彼女は振り返ってフランに微笑みかけた
「もう大丈夫ですからね。」
「あ……。」
霊夢とは違うやわらかい笑みにフランは恐怖から強張っていた体の力が抜けるのを感じた
「それで?あなたはどうするの?急に現れて、体を穿たれて。」
二人を見ていた霊夢が美鈴に問いかける
「怪我もしちゃいましたし、このまま帰りたいんですけどね?」
「無理ね、ここに来たのならその意味もわかるのでしょう?」
「じゃあ逆に訊きますが、何故フラン様を殺そうと?」
「危険だからよ、その力が、その在り方が。」
「おかしいですね、だからと言って今まで殺そうとはしなかったのに。」
「今そのときが来たということよ。」
「でも…。」
「それに私は博麗の巫女だからよ。話は終わりよ、消えなさい。あなたもまた危険の存在だから。」
霊夢は構え 体からまた恐ろしいほどの気を撒き散らし始める
(まずい、やるしかないか…。)
美鈴はわかってはいたが説得に失敗したことに若干の焦りを感じながら構えを取る
(あまり長くはできないですね…。頼みますよお嬢様!)
ザンッ
両者が同時に地面を蹴る 距離が一気に狭まる
―――ゴッッ
手も足も出さず 申し合わせたかのように二人はお互いに頭突きを出した
鈍い音が響く
霊夢の体が吹き飛ぶ
当たり前だ いくら霊夢が人間離れした力を持っても所詮は人間 妖怪には負けてしまう
「ッアハハハはははっハッは!!」
しかし霊夢は笑いながら受身を取った後また美鈴に迫った
美鈴は牽制に弾幕を打つが霊夢は意も介さず突撃してくる
再び両者の距離が狭まる
「ッ、ハッ!!」
美鈴が弾を撃つことをやめ迎撃に切り替える
それと霊夢が手をだしたのは同時だった
―――ズググチャ
「がっゴふ!」
ビチャピチャ
美鈴は腹部を貫かれていた 霊夢の手は彼女の体を貫通し人間なら致命傷と呼べるほどの傷を与えた
患部からはおびだたしいほどの血が流れている
対して霊夢は
「いぎゃあぁぁああぁあぁああ!!」
顔の半分が無くなっていた
顔を覆う手の間からは肉と骨が見え隠れしている
(しまった!やりすぎた!)
咄嗟に対応したため美鈴は加減できず手を出してしまった
そのことに悔やむが今はそれどころではない
隙ができたのだ 今のうちにフランをつれてここから離れなければならない
息を荒くしながらも気を使い自分の怪我の回復を促進して美鈴はフランに振り返る
「さ、フラン様今のうちに。」
「え、あ、うん。」
目の前の光景に少しばかり付いていけないフランは戸惑いながら美鈴に答える
そして美鈴が座り込んでいるフランを起こそうと手を差し伸べた
「……っ!!」
ヒュゴッ
瞬間美鈴はフランを抱え込みながら前転した
まだ完治しきっていない傷口が痛む それに耐えながら美鈴は振り返った
「な!?」
霊夢は腕を振り切った体勢でこちらを見ていた
彼女の顔には怪我が無かった
彼女はまるで怪我などしていなかったかのように振舞っている
(何故!?手応えはあった。確実に喰らっていた筈なのに!?)
「まただ。」
「え?」
フランの声に目をそちらに向ける フランは震えながら続ける
「さっきも腕が吹き飛んだのに、いつの間にかまた生えてた。」
「!? いや、そうか。同じなんだ。」
そこで気がついた
霊夢は自分と同じことをやっているのだ
自分が気を使って傷の回復をしているように
霊夢もまた何かを使って傷を回復させている
(使ってるのはおそらく霊力ですね。霊符かあるいは術式を使って欠損部を補っている。でも)
からくりはわかった 身体能力が跳ね上がっているのもそのせいだ
しかし霊夢と美鈴には差がある それは
(速度が違いすぎる。私はまだ少し傷が残ってるのに彼女にはそれが無い。)
回復速度がおかしいのだ
妖怪で しかも気を使って回復を促している自分よりも速い
(弾幕を使わないのもそのせいでしょうか。彼女は符を使ってますし。あるいは、今まで手を抜いてきたか。)
後者の可能性は考えたくない
その事実は自分に絶望しか与えない
(でもどうしましょうか。これではジリ貧ですし、ココハヤハリアイツヲコロs)
パンッ
顔をたたいて正気に返る
(まずい、引っ張られてる。時間が無い。)
美鈴は焦る それは自身が霊夢の狂気に感染していることに気づいているためである
常人なら一瞬で気が触れる様な空間にいるのだ
フランのように狂気に浸っている存在ならまだしも美鈴のように狂気を抑えている存在にとっては毒でしかない
長い時間そこに居れば彼女もまた狂ってしまう
そうなれば終わりだろう 霊夢は何のためらいも無く自分たちを消す
正気である今だからまだすぐに殺すかどうか動きあぐねているのだろう
霊夢が迫る
美鈴が立ち上がる
(だからと言ってあきらめるわけにはいかない!!)
美鈴は自分の役目を改めて確認する
(第一にフラン様の保護 次に撤退までの時間稼ぎ 自身の安全は最下位事項)
何よりもフラン様の安全を
そして息を吐いて構える
「さぁ!いきますよ!」
霊夢が答えるように跳ねる
美鈴が前へ跳ぶ
二人が交差する
―――ガキリ ゴキッ ズグ グシャ
殴り 砕き 抉り 削ぎ落とし 貫き 切裂く
鈍い音が辺りに響き続ける
抉られた腕を瞬時に復元させて振るう
潰された目を治して睨みつける
折られた足を戻して穿つ
終わりを見せない殺し合い
そのうち二人はワライハジメル
同じワライガオを貼り付け殺し合い始める
美鈴が霊夢を蹴り飛ばす
何メートルも吹き飛ばされながら霊夢が体勢を直す
再び跳ねて迫る
そして再び二人が交差しようとした時
―――ズガンッッ
赤い光が二人の間を貫いた
重い音と爆風そして光が広がる
霊夢があまりの衝撃に身構え動けなくなる
砂埃が落ち着いた後彼女が目を開けると
「………。」
そこには誰もいなかった
離れていく気配を感じそちらを見る
「レミリアか…。」
先ほどの光
あれはレミリアのスピア・ザ・グングニルだった
「まぁいいけど。」
追う気になどならない
霊夢は独り言をつぶやいた後 その方向に背を向けた
――――ここまでがこちらであったことよ。その後美鈴は倒れてしまったしフランも安心したせいか気絶してしまったの。」
「そうだったのか。」
「でも美鈴のほうは特に消耗が激しくてね、それで永琳に来てもらったの。」
「ほぼ無理やりね。まぁ急患が多かった原因もわかったし、こっちのほうが色々と面倒ではないからいいけど。」
レミリアの言葉に永琳は苦笑いしながら返す
「それで一緒に来た輝夜がこっちに来て教えてくれてな。私たちは里の怪我人の護衛としてきたんだ。」
「輝夜が来たときはどうしたもんかと焦ったけどね。」
慧音と妹紅が続けて来た理由を話した
「でも、だけどさ、なんで霊夢がこんなことを?」
落ち着いた魔理沙が情報を整理して問う
霊夢は幻想郷の秩序を守る博麗の巫女だ
彼女自身が異変の原因になるなどありえないはずなのだ
「そこまではわからないわ。何故こんなことをはじめたのか?何のために行っているのか?見当がつかない状況よ。」
「ただ救いなのは霊夢があの場所から動いていないということ。」
問いにアリスとパチュリーが答える 手元の術式で何かを見ているあたり使い魔を飛ばして監視しているのだろう
「じゃあこれからどうするんだよ?動いてないからってこれからも動かない可能性が無いわけじゃないだろ?それにこんなはた迷惑なことしてるんだ。行って一回とっちめt「その必要はありませんよ。」ってうおっ!?閻魔じゃないか!?いきなり入ってくんなよ。」
「ちゃんと許可は得て入ってます。」
「こんちは~。」
魔理沙の後ろにはいつの間にか閻魔の四季 映姫
そして三途の川渡しの小野塚 小町がいた
おそらくは咲夜の仕業だろう
時を止めて連れて来たに違いない
「それで?あなたたちは何故ここへ?呼んだつもりは無いのだけれど?」
レミリアが驚く魔理沙を尻目に問う
彼女にとっても映姫が来るのは想定外だったようだ
「はい、今日はやけにこちらに来る魂の数が多かったので。」
「そんなに?」
「珍しく小町がまじめに働いていたというのに間に合わないくらいでしたから。」
「そ~なんです。もうあたい目が回っちゃうくらいでしたから。」
「さすがに不審に思いまして、先程一旦落ち着いたので外の様子を見ることにして出てきたわけです。」
「ふむ、でもここへは何故?」
「原因はすぐにわかりました。これほどの影響を出しているなら誰かが動くだろうと判断しまして。後は力が集まっている場所を探した、そしてここへ来たわけです。」
二人がここへ来た経緯を話し終えた所で復活した魔理沙が映姫に聞いた
「それはいいけどさ、さっき言ってた必要ないってどういうことだ?」
「言葉通り、何もする必要はないということです。」
「なんでさ!!実際に被害が出てるんだぞ!?このままじゃ危ないかもしれないんだぜ!?」
「大丈夫ですよ。博麗 霊夢はこちらから何もしなければ何も行動を起こしません。」
「だからなんでそう言えるんだ!?どこにその証拠がある!?」
「落ち着きなさい。今回怪我人でも殺された者でも被害を受けたものには共通点があります。彼等はみな霊夢の元に行き、彼女に会っていることです。」
「それが?…いや、そうか。」
「そういうことです。今日霊夢は異変を起こしてからあの場所を動いていないのです。そして今の様子からこれからも動くことは無いでしょう。それに…。私の憶測ですがこれは彼女にとって一種の儀式のようなものです。何かは分かりませんが彼女は今変化の真っ只中にいて、そのせいで混乱しているのでしょう。」
「そう、なのか?」
「はい。ですからしばらく彼女を一人にしておけばいずれ落ち着くでしょう。今夜中か、あるいは長くても二、三日のうちに。」
「ふ~ん。でもさ、みんなに迷惑かけてるわけだしさ。やっぱり何かしたほうがいいんじゃないか?」
「やめておきなさい。するにしても彼女がこの異変を治めた後になさい。忘れたのですか?今の霊夢はフランドール・スカーレットや紅 美鈴を圧倒したのですよ?下手に行けば彼女たちの二の舞、最悪殺されますよ?」
「うっ。」
魔理沙と映姫の会話が続く 他の者はみな黙って二人の会話を聞き続けた
誰も口を挟まないところを見ると皆大概考えてることは魔理沙と同じようだ
「どちらかといえば、皆さんがやるべきことは自分達の住居の守備だと思いますよ。」
「!?そうだ!異変に乗じて何か仕出かしてくる輩もいる!妹紅!!私達は戻るぞ!!」
「あ、ああ。」
急に慌てだした慧音に戸惑いながら妹紅はついて行こうとする
映姫はそれを宥めて止める
「まぁ待ってください。私が言っておいてなんですし慧音さんの言い分も分かりますがそこまで急ぐ必要もありません。」
「何故だ?」
「今日外を動いている間、ほかの妖怪に会いましたか?」
映姫の質問に部屋にいた全員が首を振る
言われてみると確かに会っていない 気配すら感じなかった気がする
「幸か不幸か、霊夢の存在は今抑制力になっているのです。」
映姫の言葉に慧音が怪訝な顔をする
「恐れているのです、彼等は。紅魔館以外にも多くの妖怪や人間が霊夢の元に行っています。そしてほとんどが殺されている。異変に乗じて何か起こそうと思っていても霊夢の矛先がこちらに向けば助かる可能性がない。動きたくても動けないのです。」
「三途の川に来た連中でもまだ狂ってたり怖がってたりしたやつがいたのさ。酷いやられ方をしたんだろうね。」
「なんにしてもこちらから仕掛けなくては彼女は何もしません。ですから今は彼女が変化を受け入れるのを待って…。」
「“殺すこと”を受け入れる変化を?」
今までずっと黙っていた紫が言葉を発する
その言葉には怒りが含まれていた
「何かを殺すことに躊躇いを無くさせる変化を受け入れるのを待てというの?」
言葉を続ける紫に映姫は当然だという風に返す
「それが霊夢にとって必要なことだからです。そして何より幻想郷がそれを受け入れている。」
紫が眉を顰める 映姫は続ける
「あなたも幻想郷を司るものとして分かっているはずです。ほかの者ならまだしも博麗の巫女が異変を起こしたとなれば普通幻想郷はそれを見過ごすはずがない。世界を守るものが世界に牙をむくとなれば、それはあってはならないことなのですから。」
「だから黙って見ていろと?」
「それが幻想郷のためです。」
「……話にならないわ。」
議論にならないと諦めた紫がスキマを開けて出て行く その後ろに藍も黙ってついていった
「何をするも勝手ですが、余計なことは誰のためにもなりませんよ?貴方にとっても霊夢にとっても。」
映姫の言葉を聞き流しながら紫はスキマを閉じる
閉じる瞬間 紫は映姫を睨んでいた
「…さて、そろそろ私達も戻ったほうがよさそうです。行きますよ、小町。」
「はいは~い。」
続けて映姫と小町もまた帰っていった
「なんだってんだよ、くそっ。」
どう動けばいいのか分からなくなりながら静かになった部屋の中で魔理沙は毒づいた
「映姫様っ、待ってくださいよ~。」
小町は自分より早く飛んで行く映姫を追いかけながら呼ぶ
その言葉に映姫は止まって彼女を待った
「遅いですよ小町。早くしないと、また魂たちが待っているのですから。」
「それでも速すぎますよぅ。」
「まったく、普段から怠けているからです。」
呆れながらも映姫は小町に速さを合わせた
暫くの間 二人は黙って飛んでいた
「映姫様、一つ聞いていいですか?」
「何ですか?」
「何でさっきあんな言い方したんです?」
「……何のことです?」
「惚けなくてもいいです、分かりますから。」
「今日はやけに勘がいいのですね?」
「ずっと一緒にいますから、大体の感覚は分かります。それで、何であんなことを?」
「…彼女は私に似ていたんです。」
小町は映姫が話しているのを黙って聞き始めた
「幻想郷という世界には暗黙の了解のようなものはあっても明確な法は特にないのです。その中で妖怪や人間は自分達の好きなように生きています。」
「でも私や彼女は違います。力と役目を与えられ、何かをすることを強いられている。」
「私は輪廻に帰る魂のために、彼女は幻想郷の規律を守るために。」
「私は何かのために働いています。でも…。」
「たまに分からなくなるのです。本当にあれで良かったのか。私は正しい裁きを与えたのか。」
「不安、罪悪感、疑念、それらは山のように積もって私の心を蝕むのです。」
映姫は止まっていまだ狂気と殺気を撒き散らす森の中 霊夢のいる方向を見た
その顔は小町からは見えなかった
「今の博麗、霊夢が巫女になる前、幻想郷は人間と妖怪の抗争がずっと激しかったのです。」
「その頃は博麗は中立と言っても人間側に立つことが多かった。そのためか先代まではどことなく人間よりだった。」
「しかし霊夢の代になって、スペルカードルールができて、その抗争はかなり収まってきました。言うなれば乱世から治世に移り変わってきたのです。」
「人間と妖怪の溝が埋まってきたのと同時に博麗が妖怪側に立つことも増えた。」
「彼女は本当に中立でなければならなくなった。独りでなければならなくなった。」
「人でありながら妖怪をしのぐ力を持ち、妖怪と同じように人間を殺さなければならない。」
「でも博麗であるがゆえに誰にも弱みを見せることはできない。誰かの前で泣くことすらできなかったでしょう。それは妖怪か人間どちらかに傾くことに繋がるかもしれなかったから。」
「それに耐えられなくなったのでしょう。彼女は人間で、何よりまだ十数年しか生きていない子供なのですから。」
「だから狂い、自らを殺そうとしている。自身を殺し、ただ役目を果たすだけの人形になろうとしている。」
「…もしかしたら、私もそうなるのかもしれません。いつかは。」
「大丈夫ですよ。」
遠くを見続けていた映姫を小町が抱きしめる
「映姫様の隣にはあたいがいます。絶対に独りなんかじゃないですから。そんなふうにはさせませんから。」
「…小町の癖に生意気です。」
「生意気で結構です。ねぇ映姫様。」
「何です?」
「あの巫女は戻れるんでしょうかね?」
「わかりません。もう彼女は変化することを選んでしまった。止められはしないでしょう。」
「そうですか…。」
「でも、ここは幻想郷ですから。」
「?」
「止められなくても首根っこ捕まえて引きずり戻す人がいるでしょう、きっと。」
映姫はそう言って少し笑い 飛び始めた
「さぁ戻りますよ小町。時間がかかってしまいましたからね、いそぎますよ。」
「あ、はい。」
二人は自分達の居場所に帰っていく
(私がすべきことはここまででしょう、後は託しますよ。)
自分では叶えられないことを誰かに託しながら
「紫様、これからいかがなされますか?」
紫の開いたスキマの中 藍は紫につきながら聞いた
「マヨヒガに帰るわ。」
「わかりました。…霊夢はどうされるのですか?」
藍の言葉を無視するかのように紫は歩き続ける
「紫様?」
「以前ね、一回霊夢の夢の中に入ったことがあるの。境界いじってね。」
「……。」
「最初はどんな夢見てるか興味本位だったのよ。変な夢見てたらそのことでおちょくろうと思って。」
――――あれは異界だった
あたりには見渡す限り何もなく世界は紅しか存在せず
霊夢はその中でただ空を見上げていた
その目には何も映さず ただ暗闇だけが広がっていた
絶句した
こんなことはありえないはずだ
自分とて長く生きた妖怪だ
食事のために村を滅ぼしたことがある
かつて戯れに街を崩壊させたこともある
人間の死体だらけの地獄絵図の中で笑いながら遊んだこともだ
だからわかった
これが自分達の持つ澱みと同じものだと
だから信じたくなかった
これを作ったのが自分より何分の一も生きていない人間だということに
ただ呆然と辺りを見ていた紫が目を見開く
夢が壊れ始めたのだ
紅い空が溶け 足元の汚濁が底なし沼のように自分を引き摺り込もうとする
慌てて霊夢のほうを見る
霊夢は無数の手に掴まれ汚濁の中に沈んでいっていた
「っ霊夢!!」
ただ助けようと手を伸ばした
しかしその手は届くはずもなく ただ空を切った
「その後はすぐにスキマを開いてそこから出たわ。夢の崩壊に巻き込まれたら私もただじゃすまないから。」
「それで、その後霊夢には…。」
「問い詰めたわよ。あれはなんなのか、大丈夫なのかって、柄にもなくね。でも逆に怒られたわ。勝手に人の夢に入ってくるなって。」
「いつも通りに?」
「そう、いつもどおりの霊夢の顔で。でもどうしてもその夢が気になってね。何度も訊いたわ。そしたら
『大丈夫よ、心配しないで。』
って笑われたわ。本当にいつも通りだった。だから訊くのをやめてしまったの。私自身、さっきのことは気のせいだったって思いたかったからね。あの時、もっとちゃんと訊いていればこうならなかったんじゃないかってさっきからずっと考えてたわ。」
「ですが、いくら博麗の巫女だからと言って紫様がそこまでする必要は。」
「そうね、なかったでしょう。閻魔も言ってた通り、幻想郷のことを考えるなら霊夢のことは見過ごすべきなのでしょうね。」
「ならば。」
「でもね、あの子と過ごす時間はとても楽しかったわ。弾幕ごっこをして、異変解決に一緒に出かけて、神社で宴会をして、昼間にお茶を楽しんで。トラブルだって絶えなくて、退屈なんてしなかったわ。」
紫が立ち止まる マヨヒガについたのだろう
紫はスキマを開けながら振り返り続けた
「それがこんなことで終わるなんて納得いかないわ。私はね、もっと楽しみたいの。この時間をね。幻想郷の未来なんて関係ないわ。」
微笑みながら語る紫に藍は溜め息をついて
「最近やってませんでしたし、明日は宴会ですかね。」
「あら♪気が利くじゃない藍。おつまみよろしくね。」
「はいはい、わかりました。あ、事が終わったら一度戻ってくださいね。一人でじゃだめですよ。二人でです。できなかったら紫様のご飯抜きますからね。」
「え、なにそれ~酷くない?」
「酷くないです。私も霊夢に言いたいことはあるんですから。」
「わかったわよぅ。じゃ、行ってくるわね。」
「いってらっしゃいませ。」
月明かりがあたりを照らす中 紫は一人空を飛ぶ
辺りに他の存在の気配はなく
ただ自分が風を切る音だけが聞こえた
辺りを包む空気は先ほどと変わっていた
先刻まで埋め尽くしていた狂気は既になくなり 残されていた殺気も感じなくなってきている
映姫の言った変化が終わろうとしているようだ
「あまり時間が無い様ね。」
一人愚痴りながら紫は加速していった
森の中 ぽっかり開いた場所に着く
霊夢の姿はすぐ見つかった
「――。」
広場の端に下りて歩いて近づく
「―――♪」
周りに何かの気配はない
「―♪―――」
風も音もなく時間が止まっているかのような場所
「――♪―――♪」
霊夢はその中で紫に背を向け月を見上げ歌っていた
―――紅い月の元 一人夢を見る
―――誰も知らない 小さなその願い
―――空の星を見上げ 孤独に涙する
―――白い花をあなたにあげましょう 赤い花は私が受け取りましょう
歌い終えると同時に霊夢は振り返った
先ほどまで逆光で見えなかったその姿はいつもの巫女服の紅白ではなく血の色に染まった紅だけだった
その足元には原形を留めていない肉塊となった何かと
そこから溢れ出た血によってできた水溜りがあった
「こんばんわ、紫。」
「こんばんわ、霊夢。静かな夜ね。」
挨拶を返す紫に可笑しそうに霊夢は笑った
「あら、さっきまではにぎやかだったのよ?静かになったのは貴方が来るちょっと前。」
「それでこんなに散らかってるのね。これじゃまるで夢の焼き増しだわ。」
「やっぱり見てたのね、私の夢。しょうがないじゃない。慣れてなかったんだから。」
霊夢は紫の言葉にさらに笑いながら続けた
「ねぇ、紫?」
「なにかしら?」
霊夢は一人話し続けながら紫に背を向け もう一度月を見上げた
「私ね、ようやく慣れてきたの。」
「はじめはすごくつらくてね、死にそうだった。」
「でもずっとやってたら受け入れられるようになった。」
「あともう少しなの。あともう少しで変われるのよ。」
「でもまだ足りないの。」
「何かはわからないけど。何かが満たされてないのよ。」
「だからねぇ、紫?」
しゃべり続ける霊夢に紫は身構えながら半歩下がった
「貴 方 を 殺 せ ば 私 は 変 わ れ る か な ?」
おびただしい量の狂気と殺気が放たれる
紫は飛んでその場から離れた
瞬間紫のいた場所に霊夢が腕を振り下ろしていた
「あら?やっぱり避けられたか。」
「霊夢、やめなさい。」
「何を言ってるの、紫?これは博麗の巫女としての役割よ?」
「そんなわけないわ。」
「あるのよ、博麗の巫女は幻想郷のバランスを守らなければならない。そのためには無駄に増えた妖怪や人間を減らす必要がある。たとえそれが、」
「自分の知り合いであっても、て言うのね。」
「そのとおりよ。さぁ貴方も来なさい、何もしなければただ死ぬだけよ?」
「死ぬのは嫌よ、でも何もする気になれないわ。私は貴方を連れ戻しに来ただけなんだから。」
「そう、わがままなのね。」
霊夢が笑いながら襲い掛かってくる
紫はそれを空へ逃げることでかわした 同時に弾幕を張って霊夢を牽制する
霊夢はそれを大きく後ろに跳んで避けた
そこで紫は不思議に思った
弾幕を打たない理由は聞いていたから分かる
しかし自分と同じように飛べるはずの霊夢がなぜ飛ばない
「何故飛ばないの霊夢?空を飛ぶ程度の能力を持つ貴方が?」
その言葉に霊夢は一瞬固まった
「…そんなことは今は関係ないでしょう?」
今までとは違い感情のない声で霊夢は答えた
そしてまた紫を殺さんと跳びかかって来る
聞いてはいたもののあまりに常人離れしたその動きに紫は付いていけず肩に傷を負う
「つっ!さすがに何もしないわけにはいかないようね。」
スキマを開き迎撃する
「ちょっとおいたが過ぎるわよ、霊夢!!」
スキマから射出されるものを避けながら霊夢は哂い始める
「アハハハハ!ようやく本気!?そうじゃないとね!私はハクレイであなたはバケモノなんだもの!!殺しあわなきゃ!!」
狂い叫びながら霊夢が迫る
紫はスキマを使って逃げながら考えをまとめようとする
(さっきは間違いなく違う反応だった。じゃあ飛ばないことと何か関係が?いやそもそも飛ばないんじゃなくて飛べない?……!!)
フラッシュバックしたのはいつかもぐりこんだ夢
あの時霊夢は
(やってみればわかるわね)
決めて霊夢を見る そして指を構え
パチンッ
境界を変化させる
ブツッ
視界が変化する
世界が紅に染まる
そこは紛れもなく霊夢の見ていた夢の光景だった
そして
「…やっぱり、飛ばないんじゃなくて飛べなかったのね。」
霊夢の体には数え切れないほどの手が彼女を掴み捕らえていた
急に止まって何かを言い出した紫に霊夢は動きを止めた
「何を…いやそういうことか。見てるのね、私が見ている世界を。」
自嘲気に笑いながら霊夢は言った
「見ての通りよ。馬鹿みたいな数でしょう?もう飛べやしないわ。」
「なんでこんな…。」
「言ったでしょう?博麗としての役割よ。幻想郷のために何かを殺し、その代償としてそれらの呪いを身に受ける。」
「どうして何も言ってくれなかったの?」
「言ってどうかなったの?私の代わりの呪いをかぶってくれでもした?下手な同情ならお断りよ。なにより…。」
「……。」
「私は博麗の巫女よ。人間だろうと妖怪だろうと、誰かに頼るなんてあってはならないのよ。」
ギリッ
紫は俯いて歯軋りする
納得いかなかった
本当の呪いであろう博麗としての義務が
すべて諦めるしかないような今の状況が
そしてなにより
それを正しいと言い切る霊夢が
「これでわかったでしょう?貴方がやっていることの意味が。連れ戻す?意味の分からないことを言わないで。ここが私のいるべき場所なんだから。」
「………。」
「さぁ今すぐ私の前から消えなさい。そうしないなら殺すわ。」
「………。」
霊夢が立ち去るように言っても紫は俯いたまま動かなかった
「…そぅ、じゃあ死になさい。」
その姿に霊夢はただ冷たい視線を投げかけ 殺すために腕を振り上げた
そして
「昔さ、霊夢と始めてあった頃なんだけどさ。」
映姫と紫が去った後の紅魔館
慧音や輝夜達も映姫の話を考慮して警備のために帰ってしまった
レミリアたちも看病などで出て行っている
静けさが部屋を支配していた中魔理沙が急に昔の話を話し始めた
「何よいきなり?」
アリスはそれにめんどくさそうに返す
「あー、うん。なんとなく昔を思い出してさ。」
「何よ急に、まぁいいけど。それで?」
「ああ、私がさ、一番最初に弾幕放てた時さ、あいつすごい喜んだんだよ。」
「…。」
「その頃でも今みたいにやる気のない顔してることが多かったんだけど、あのときの笑顔はほんとにただの子供だったんだよ。友達ができたみたいにさ。」
「そうね、私が始めて霊夢と弾幕ごっこしたときもそうだったわ。とてもうれしそうだった。」
「あいつはさ、優しいんだよ。めんどくさがってもやることはやるし、深いとこまではしないけど困ってる人がいたら助けるし。」
「そうね…。」
「いつもお茶飲みながら静かに過ごすのが好きって言いながら宴会になるとみんなと一緒に大騒ぎしてさ。」
「騒がしくしてるのは貴方じゃない。」
「でもさ、あいつ博麗の巫女だから私達に言えない様な嫌なこともやんなきゃいけなかったんだろうな。」
「でしょうね。」
「だから苦しくて今こんなことになっちまったんだろうな。結局さ、霊夢は優しすぎたんだ。」
「……。」
「なら今こそ私は霊夢のそばにいなきゃな。」
魔理沙が箒を掴んで歩き出す
「本気で言ってるの?今の霊夢じゃあなた…。」
「関係ない。」
「え?」
「関係ないよ、今の霊夢がなんだろうと。その前に私達は友達なんだ。だからあいつが苦しんでるんならそばにいてやらなくちゃ。それが友達なんだから。」
フフン、と笑いながら魔理沙はアリスを見る
「お前はどうする?別に強制はしないけどな。」
その言葉にアリスは少し眉を顰めながら
「馬鹿にしないでくれる?私は貴方より霊夢との知り合いが長いのよ?」
と言って笑った
そして二人の魔法使いは部屋の窓を開け
「仲の良さに長さは関係ないぜ。」
「いつも霊夢に迷惑かけてるあなたが言う台詞?まぁいいけど、じゃあ。」
「行こうぜ!!」
白み始めた空に飛び立った
―――ザシュ
「え?」
霊夢は目の前の光景が理解できなかった
立ち去らない紫を殺すために自分は腕を振るったはずだ
いくら呆けていても避けるぐらいするはずだと踏んでいた霊夢はそこまで力をいれず振るった
紫はその腕を避けることもせず受け 自分の手を重ねてきた
「な…んで。」
「なんでって?こうするためよ。」
紫は微笑み
パチン
指を鳴らした
すると霊夢に向いていたはずの手達が動き始め紫を掴み捕らえた
「な!!何やってるのよあんた達!!あんた達が呪うのは私でしょ!?何で紫のほうに行ってるのよ!!」
「あら?何を焦ってるの霊夢?」
「何のんきに馬鹿な事言ってるのよ!!早くやめなさいよ!!」
「貴方が言ったことじゃない。『かわりに呪いをかぶってくれるのか』って。」
「冗談に決まってるでしょう!?余計なことしないで!!」
霊夢は必死に紫を取り囲む手を引き剥がそうとする
紫はその霊夢の顔を両手で持ち自分の顔に向けさせた
「余計なんかじゃないわ。私が霊夢の傍にいたくてしたことなんだから。」
「それが余計なのよ…。どうして……。」
紫を見上げる霊夢の目には涙がたまっていた
それを見て紫はうれしそうに笑って言った
「貴方を独りにさせたくないから。だから貴方が戻れないと言うのなら、私があなたの元へ行ってあげる。」
「余計なお世話よ!!やっと受け入れられるようになったのに…。」
霊夢が俯く 彼女は泣きながら続けた
「夢に蝕まれていくのに怯えて、駄々をこねる様に足掻いて、それでもどうしようもなくて…。」
「……。」
「全部諦めて、人間や妖怪を殺せるようになって。」
「ん……。」
「やっと受け入れられるようになったのに、今更連れ戻そうとして!!どうしろっていうのよぅ!!」
「なにも、しなくていいのよ。」
「あ。」
紫は霊夢をそっと抱きしめた
「なにもしなくていい。今までがんばってきたんだから。私が隣にいてあげるから。あなたは休んでいいの。」
「…馬鹿。」
霊夢が抱き締められながら呟いた
「馬鹿、やっぱり余計なことじゃない。世界に色が戻っちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。」
「そう、それは良かった。今日はいい月でしょう?」
「そうね、白くてきれいな月だわ。」
霊夢が紫の背に手を回す
二人は月が見えなくなるまで抱き合っていた
つきが沈み 空が白み始めた頃
二人は広場の中心で並んで座っていた
「落ち着いた?」
「ええ、かなりね。」
「そう。」
「紫。」
「なに?」
「今日はありがとう。でも、さっきのことは忘れて。やっぱり私は博麗だから。いくらわけがあっても妖怪側に傾くわけにはいかないから。だから…。」
「だったら人間側にも弱みを見せれば問題なしだよな!?」
「そうでしょうね。」
「ま、魔理沙!?それにアリスも!?」
急に出てきた声に驚き振り返るとそこには魔理沙とアリスがいた
「い、いつから?」
「いや~もうさっきから出ずらくてしょうがなかったぜ。なぁアリス。」
「そうよ、二人で勝手にいい雰囲気になってるし。」
「てことは…。」
「ほぼ最初からでしょうね。」
紫が補足する
霊夢はあちゃーという顔で落胆した
「おやこれはいい感じに弱みを握れたようですよ?アリスさん?」
「ええ、そのようですわね。魔理沙さん。」
「これをネタに色々できそうですな~。」
「なにをするきよ!?何を!?」
二人が意地悪そうに笑い霊夢は顔を赤くしながら文句を言った
「霊夢。」
ふいに魔理沙がまじめな顔になる
「なによ?」
霊夢は少し不機嫌そうにそれを聞いた
「中立ってさどっちにもつかないってことだけどさ、どっちにも同じように頼るのもまた中立だろう?」
「そう、かもね。」
「独りでいられるなんて寂しい事言うなよ。友達なんだからさ、頼ってくれよな。」
「そうそう。私も友達なんだからね。」
アリスと魔理沙が微笑みながら言う
霊夢はまた赤くなりながらそっぽを向いた
「…ありがとう。」
その言葉に魔理沙はニヤリと笑って
「よし!!じゃあ今夜は宴会だな!!」
宣言した
「あ、賛成~。」
それに紫も乗る
霊夢は呆れて
「何よいきなり。」
「いいじゃない、最近やってなかったし。藍にももうそう伝えてるし。」
「根回しが早いのね。」
「文句言わない霊夢。迷惑かけたんだからきっちり返しなさい。」
「はいはい、わかったわよ。」
四人で笑い合い 空へと飛び立つ
東の空には朝日が昇ってきていた
あの後は大変だった
紫に連れて行かれたマヨヒガで藍に説教され
宴会では妹の敵にとレミリアに思い切りはたかれた
他にも迷惑をかけたであろう連中に謝ってまわった
幸いだったのは殺してしまったものたちの多くはこちらよりだったということだ
それでも少なからず関係のないもの達を殺めたのも事実だ
その家族に恨みや呪いを言われたときもあった
しかしそれらは私原因だ
怨嗟や復讐をを受ける覚悟はできている
それがあの夜狂った私への罪と贖罪だろう
あともう一つ 大きな変化があった
最近夢を見ることは少なくなってきたのだ
永琳によると私のあの光景は精神的なものの割合が大きかったらしい
今では特に支障もなく飛べるようになった
私の周りに存在していた手も減っていった
それでもたまに夢を見る
夢は紅の世界を映し出しその中には一本だけの手
それはいつか見殺しにした子供の手だった
全てに気づき 全てが始まった最初の手
この手だけは私の中から消えることはないだろう
なんとなくそう思った
夢から覚めて外を見る
そこには極彩色が世界を彩っていた
その中に出ながら先ほど見た夢を思い出す
あの手は私に残った責任や罪悪感 覚悟なのだろう
だから消えることはない
消せるはずがない
いつかまた私はあの世界に囚われるのだろうか
ふと思って首を振る
多分それはないだろう
たとえそうなってもまたあいつらが私が引きずり戻すのだろう
そのことが可笑しく思いながらもうれしく感じた
さて お茶でも入れてきますか
私は遠くから箒に乗る人影を見ながら動き出した
前作の方を読んでないと内容についていけない可能性が高いです
妄想設定が暴走しています
あとこの話には(作者が必死こいて書いた程度の)危険な表現を含みます
ご注意願います
―――青い月の元 一人夢を見る
静謐さをもつ暗き森の中
生き物が眠る丑三つ時
そこに疾走するひとつの影
その人間は逃げていた
背後から迫る無数の足音から
―――誰も知らぬ 小さなその世界
この森に人間を襲う妖怪がいることを知っていた
隣の村まで用事に行き遅くなってしまった帰り道
何の因果か彼は狙われた
―――空の星を見上げ 孤独に涙する
息が上がる 限界が近い
だが止まれば喰われる
彼は恐怖と苦しみの中必死に走り続けた
すると彼はある開けた場所に出た
背後のようなうっそうとした木々がなく ただぽっかりと開けた場所
―――紅い花をあなたにあげましょう 白い花を私は受け取りましょう
そこには人がいた 紅と白を身につけた一人の少女
聞いたことがあった
どんな敵をも払うことのできる存在
幻想郷の守護者
博麗の巫女
彼は助かったと思った
そして彼は巫女に助けを求め―――――
やわらかな日のあたる暖かな午後 鳥たちが囀る神社への参道
上白沢慧音は少し難しい顔をしながらそこを歩いていた
今日彼女が神社に向かう理由
それは先日行方不明になったある人間についてだった
彼は慧音の村に来た帰り 音沙汰がなくなったのだ
彼の帰っていった道の森にはには人を食べる妖怪がいる
彼女も村のものも妖怪に襲われたのだろうとわかっていた
悲しいことではあったが仕方の無いことでもある
どれだけ努力しても被害は出てしまうのだ
慧音にとって問題は別にある
その妖怪がどのようなものであるかだ
今回被害が出たのは自分の村の近い場所だ
もしその妖怪が面倒な存在ならば対策を立てなければならない
そこでその日の夜巡回をしていたであろう霊夢に話を聞きに来たのだ
慧音が神社の階段を登るとそこには神社の掃除をしていた霊夢がいた
「こんにちは霊夢。」
慧音は彼女に向かって挨拶した
しかし霊夢は慧音に気づかない様子で掃除を続けている
二人の距離はそこまで離れているわけではない
慧音は不審に思いながらも再度声をかけた
「霊夢?おいっ霊夢っ。」
「え?あ、あら慧音じゃない。どうしたの神社に来て。賽銭箱ならむこうよ?」
大きな声をかけられた霊夢ははっと気づいて慧音に答えた
「まったく、ボーっとしていたと思ったらこれか。」
「なによもう、それで何の用で来たのよ。」
少しむくれながら霊夢は本題を聞いてくる
慧音はその質問に少し衣を正しながら答えた
「そうだ、少し聞きたいことがあってな。先日私の村の近くの森で人が行方不明になったんだ。知っているか?」
「いいえ?でもそんなのここじゃ日常茶飯事じゃない。」
「まぁそうなんだが、少し変でな。」
「なにが?」
「村のものには言ってないが一応襲われたであろう場所をみつけたんだ。森の開けた場所でな、血が広がっていた。」
霊夢が体をぴくっと震わせた
しかしそれに慧音は気づかず続ける
「普通喰われたのであれば何かしら残っているはずなんだ。何かが。でもあそこにはそれがなかった。
まるであの場所で喰ったのではなく“殺した”ような感じだった。」
ゾクリッ
慧音はそう話した瞬間 言い知れない悪寒を感じた
「へぇ。でもそうした後に自分の巣にでも持って帰ったんじゃないの?」
「あ、ああ。でもそうなるとある程度の知能があるということだからな。面倒なやつなら何か対策が要る。
それであの日霊夢は巡回してたんじゃないかと思って何か知ってないか聞きに来たんだ。」
「悪いけど知らないわ。」
「だが…。」
「知 ら な い わ。」
「 っ、わかった。じゃあ何かわかったら教えてくれ。」
知らないという霊夢に再度訊こうとした慧音は霊夢から発せられる妙な威圧感に黙らされてしまった
ようやく搾り出した言葉をどもりながらも伝えると
「いいわよ。」
先ほどの威圧感などさっぱり消して霊夢は答えた
慧音はその後霊夢とお茶を飲んだ後村へと帰っていった
クスッ
霊夢はその後姿を見ながらワラッタ
慧音は後にこのとき霊夢を問いただせなかった事を後悔する
そして異変は起きる
しかしそれは異変といえるものとは言い切れなかった
赤い霧が出たわけでもなく 偽りの月が現れたわけでもない
目に見える異変ではなかった
ただ人間と妖怪の消える数が増えた
ただそれだけ ただそれだけの違和感とも思える違い
そのため誰もが気づかなかった
しかしある人物、当事者にとっては最大の異変
事態は人知れづ深刻化していった
それが完全に現れたのは二人が話をしたしばらく後の夜だった
――その夜、幻想郷は怯えた
霧雨魔理沙は空を飛んでいた
隣にはアリス・マーガトロイドもいた
彼女達は森の上をある一点を目指していた
事の始まりは数刻前
魔道書を読みにアリスの家に遊びに来ていた魔理沙は急に背筋に悪寒を感じた
背筋に氷を入れられたような感覚に襲われた彼女は驚いて本から顔を上げ辺りを見回す
部屋の中に変化はない しかし悪寒はいまだに続いていた
アリスが作業部屋から出てくる 彼女もこの悪寒を感じたようだ
窓の向こう 魔法の森の先を睨むように見ていた
がたりと音を立てて魔理沙が椅子から立つ
アリスが振り向くと魔理沙はニヤリと笑って言った
「行こうぜ。」
それにアリスは少し呆れながらも笑って
「そうね。」
承諾した
「でもちゃんと準備していかないと。変な感じがするし。」
「だな。家に戻ってくる。」
「ええ、家の前で待ってるから。」
「ん。」
そんな遣り取りをし、準備に時間をかけて二人が揃ったのが少し前
そして今に至る
「でもさっきから悪寒が酷いぜ。首筋がぞわぞわする。」
魔理沙は今感じているものをそのまま口にした
彼女の言うとおり悪寒は原因であろう場所に近づくほど酷く 重いものになっていた
「うん。」
アリスは魔理沙の言葉に簡単に返しながらも難しい顔をして考え事をしていた
(これは、狂気?いや、殺気?わからない。でもかなりやばいものね。)
アリスは今自分の方に流れている気配についてなんとなくだが察しがついていた
しかし確証はもてなかった
この気を発している場所からはまだ遠い上 幻想郷に来てからはこれほど酷いものは感じたことがなかったからだ
その苛立ちと焦りから急ぐことを考え
「魔理沙、ちょっと急ぎましょう。かなりやばいかもしれないわ。」
「ああ。」
二人で加速しようとした瞬間
「待ちなさい!!」
突然降ってきた声に驚いて止まってしまった
二人が声の方向を見るとそこには
「「パチュリー!?」」
紅魔館の図書館の主パチュリー。ノーレッジがいた
「ど、どうしたんだよ。なんでここに?」
驚きながらも魔理沙は彼女に問う
普段滅多な事では外に出ない彼女が何故かここにいる
そのことはアリスにも衝撃を与えたらしい 唖然として固まっている
パチュリーは肩で息をしながらも二人に言った
「話は後よ、今はここから離れるわよ。」
「え?でも。」
「あーもううるさいわね!いいから黙ってなさい!」
戸惑う二人を完全に無視しながらパチュリーは転移魔法を唱え始める
二人はそれを止めるまもなくまとめて連れて行かれてしまった
魔理沙が気がつくとそこは紅魔館だった
意識がまだはっきりしないながらもパチュリーに文句を言おうと顔を上げる
しかしそこには怪我をして寝ている紅 美鈴がいた
そしてその横には
「門番!?その怪我どうしたんだ!?それに…。」
美鈴と同じく寝かされていたフランドール・スカーレットがいた
「フランも!?これはいったい…。」
「あら、きづいたのね。調子はどう?」
声で誰か来たのに気づいた魔理沙が振り向くとそこには
永遠亭の薬師八意 永琳が立っていた
「永琳、なんで?いや、そうか。怪我人がいるもんな。」
「ええ、ただでさえ忙しいのに無理やりこっちに引っ張られてね。仕方ないからここで出張診療している所よ。」
「そっか、そういえばアリスは?」
「先に気がついたからほかの人たちに今の状況を聞きにいってるわ。」
「そっか。ほかの連中って言うとレミリアとかか。」
「それだけじゃないわよ。行ってみなさい。」
「わかった。フランたちを頼むな。」
「わかってるわよ。」
魔理沙はフランたちを永琳に任せてほかの面子のいる部屋へ向かった
紅魔館のレミリアの私室そこにみんな揃っていた
「輝夜に妹紅、慧音に紫に藍までいるじゃないか。」
予想外だったのはそこに魔理沙が言った面々がいたことだ
「魔理沙、気がついたのね。」
魔理沙の声に気づいたパチュリーが声をかける
「ああ、でもここにこれだけの面子が揃ってるって事は。」
「ええ、事はそれだけ深刻って事よ。」
神妙な顔をした紫が魔理沙の言葉を続ける
「幽々子と妖夢は?」
「あの子達は白玉楼に引き篭もらせてるわ。幽霊とかはこういう空気の影響をもろに受けるから、危ないのよ。」
「あ、それにまだ霊夢がいないじゃないか。異変が起きてるってんならあいつが…。」
「…その霊夢が原因なのよ。」
「え?」
「霊夢が今回の異変の原因なの。だから大問題なのよ。」
「そ、そんな。」
信じられない様子の魔理沙に今度はレミリアが説明した
「事実よ。実際フランと美鈴はれいむにやられたの。」
「そうだ!!フラン!何であいつあんな状態なんだ!?」
「待ちなさい、今それを説明するから。ちょうど全員来たみたいだし。」
レミリアは横目でちらりと永琳が帰ってきたのを確認して話し始めた
「異変が起きたのは今日の夜、太陽が完全に沈んでから。そこまではわかるわね?その時に……
首の後ろをちりちりとなぞるような感覚
レミリアはそれが何かすぐにわかった
長年自分が身を置いてきた空気だ いやでもわかる
とてつもないほどの殺気、そして狂気
発信源はここからかなり離れているはずだ
しかしそれでもこれだけ感じる
中心地は今何も存在できないような状態だろう
頭がどんどん冷えていく
原因は何か 犯人は誰か アレがこちらに来たときは 撤退する時は 館の守りは 攻めるか 様子を見るか
何をすべきか 何ができるか
紅魔館の主としてレミリアは己が持つ知力を最大限活用していた
そのとき館に爆発音が響いた
思考を中止してそちらを見ると砂埃のなか妹のフランドールが立っていた
「おはようお姉さま。何かとっても楽しそうなことが起こってるわね。」
クスクスと笑いながらフランはレミリアに話しかける
「おはようフラン。そうね何か起こってるわ。でも行ってはだめよ。」
レミリアは返事を返しながらフランをどうとめようか考えた
フランのことだ 言っても聞きはしないだろう
「やーだよー。だって呼んでるんだよ?私のことを。」
彼女が言っているのは狂気のことだろう
狂気と狂気は惹かれあう
面倒なことだ
さてどうしたものかと考えていると
「え?」
突然に意識もしてないのに運命が見えた
それは――――
「すきありー。」
レミリアの作った一瞬の隙
フランはそれを逃さず窓から飛び出していってしまった
「待って!言っては駄目!!フラン!!」
すぐに反応したレミリアだがフランはもう見えない
「クッ!!咲夜!!」
「お呼びでしょうか、お嬢様。」
レミリアに呼ばれた十六夜 咲夜はすぐにそばに現れた
状況は大体察している 私はフラン様を連れて帰ってくるのだろう
そう見当をつけていた咲夜はすぐに出られるよう準備をしていた
だがレミリアの言葉は違っていた
「私と美鈴が出ている間、館の警備をしなさい。絶対にこっちに来ては駄目よ!!」
「は?しかし…。」
「いいわね!?絶対に駄目よ!!」
「は、はい。わかりました。」
予想外の言葉に戸惑った咲夜だったがレミリアの剣幕にただ頷くことしかできなかった
「美鈴を呼んで!!すぐにでるわよ!!」
レミリアが続けて命令を出すと門番隊のメイドが一人駆け込んできた
「お嬢様!隊長はすでに妹様を追いかけて出られました!」
「よし!他の者は咲夜の命に従いなさい!!」
そう慌しく次々に命令を出してレミリアもまたフランの出た窓から出て行った
「お願い、間に合って。」
全力で飛び続けるレミリアの脳裏に浮かぶのは先ほど見た運命
フランが心臓を貫かれて死んでいる姿
彼女は異変の中心へと向かっていった
レミリアを振り切ったフランは狂気を発している中心地へと飛んでいた
レミリアはすぐに追ってくるだろう
フランはそう思い急ぎながらも笑っていた
あたりに立ち込める濃密な空気
間違いなくこれは自分の持つ狂気と同じものだ
この気を放つ存在はどんなものだろうか
遊んでも壊れないだろうか
色々なことを考えて楽しそうに笑いながら期待を募らせる
やがて彼女はそこにたどり着く
常人なら気が狂うほどの殺気、そして狂気を撒き散らすその地
そこは森の開けた場所だった
ぽっかりと開いた木のない広場
そこに彼女は居た
「―――――♪――♪」
紅白の衣装に身を包んだ少女
「―――♪―――♪――」
博麗の巫女 霊夢
「あれー、霊夢だー。」
フランは自分の知っている存在だったことに少し驚きながらも霊夢に声をかけた
「あら、フランじゃない。どうしたの?」
「うん。ねぇねぇこれ出してるのやっぱり霊夢だよね?」
目に見えない狂気や殺気を指差してフランは問う
「そうよ。」
「やっぱり!じゃあアソボウヨ霊夢!!」
「そう……。貴方も消さなきゃいけないのね。」
「何を言ってるの?ハヤクアソボウヨ!」
「いいわよ。来なさい。」
霊夢は穏やかに笑いながら構えた
フランは霊夢が言った言葉の意味がよくわからなかった
だがそんなことを気にせずに彼女は動き始めた
瞬間辺りを包む空気が変わる
狂った気と気が渦巻き暴れだす
先に動いたのはフランだった
弾幕を撒き散らし空へと舞い上がる
霊夢はフランの撃った弾をステップを踏むように最小限の動きでかわす
フランはさらに追撃をかけ続ける
霊夢はそれを避け続ける
撃つ避ける撃つかわす撃つ避ける撃つ掠る撃つ掠る撃つ避ける撃つ避ける撃つかわす撃つ掠る撃つ
掠る
撃ち続けるフラン 避け続ける霊夢
変化のない均衡 フランはいつしかそれに飽きてきた
「もー、霊夢ったら避けてばっかりでつまんない。飛びもしないし。」
フランの愚痴にも霊夢は答えない
その霊夢は弾幕を避け続けたせいで息も上がり 怪我もいくらかしていた
「何も言わないんだね。もういいや、飽きた。見かけだけだったんだ。」
言い終えると同時にフランの右手に赤い光が集まる
やがてそれは槍の形へと姿を成す
暴力という言葉がが姿を持ったようなそれ
魔槍「レーヴァテイン」
フランはその槍を構え
「それじゃ、バイバイ霊夢。」
投擲した
霊夢はその槍も避けようとした が先ほどまでの疲労のせいか足をもつらせ
そして
―――グシャ―――
鈍い音とともに腕が飛んだ
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
霊夢が吹き飛んだほうの腕を押さえながらあたりをのた打ち回る
「キャハハハハハハハハハ、霊夢大丈夫?まだ壊れてないよね?」
フランはその様子を楽しそうに見ていた
そしてまだ叫び続けている霊夢を尻目に吹き飛んだ腕を拾い笑っていた
叫び続ける人間と笑い続ける吸血鬼
狂ってるとしか思えないその光景
だがそれにやがて変化が訪れる
「ああああああはあはははは、あはははははははは!!」
フランは急に笑い出した霊夢を変に思い腕から目を離す
霊夢は無くなった片腕を抑えながら立ち 笑っていた
「霊夢、もしかして壊れちゃった?」
「あハハハはははあはハははゴホッは八はゲハァははハはああ!!」
霊夢は返事をせず笑い続ける
腕が吹き飛んだとき内臓も傷ついたのだろう 時折血を吐きながら咳き込む
なのに彼女は笑い続ける
フランは目の前の存在が気持ち悪くなった
もう完全に壊してしまおうと力を溜めようとした その時
霊夢の姿が消えた
――ズンッ
瞬間フランの体は浮かび かなりの距離を吹き飛ばされた
「ゲホッゲホッ。」
予想外の反撃にフランは激しく咳き込む
混乱しながらも頭を切り替え霊夢のほうを見る
霊夢はもう近くまで迫っていた
体を低くし 蛇のようにゆらゆらと這うように走ってきていた
「キヒヒヒヒキャハハハハハハ!!」
「ひっ。」
フランは霊夢の顔を見た瞬間空へ飛んだ
彼女の顔には笑顔が張り付いていた
血に塗れ青白くなりながらも狂ったように笑い続ける笑み
フランはそれに恐怖し逃げた
激しくなっていく動悸を押さえ込み 霊夢に向き直る
先ほどと同じなら飛ぶことは無いはずだと高度を取りつつフランは霊夢を見やる
霊夢は少しの間フランを見た後
その体を跳ねた
明らかに人間とは思えない跳躍力に驚愕しながらもフランは襲い来る腕を避ける
霊夢の腕は空を切り フランは安堵した
が
――ゴキリ
「え?」
その時彼女の羽が折れた
理解ができずフランは自分の羽を見るとそこには
“吹き飛んだはずの”霊夢の腕があった
「きゃああああ!!」
羽を折られフランは地面へと落ちる
――ドンッ
「ガハッ、ゲホゲホ!」
満足に受身も取れず地面にたたきつけられたフランは悶絶する
息をしようと苦しむ中 そこに影がさした
見上げると霊夢が自分を見下ろしていた
「ヒッ!」
フランは怯えて満足に動かない体を無理やり動かして後ずさりした
芋虫のようにずりずりと しかし必死に逃げた
霊夢はそれにあわせるようにゆっくりと迫る
フランはその中で霊夢の目を見た
月光を背で浴び 自身の血で赤く染まった顔
乱れて顔を隠す髪のその先 自分を見るその目は
真っ暗だった
「……ゃ。」
フランは悟った
何故姉が自分を必死で止めようとしたのか
何故自分は霊夢に恐れを抱いたのか
(私はこれとは違う、これとは絶対に違う。)
いまだ感情の無い笑みを貼り付け 狂気と殺気を撒き散らす霊夢を見てフランは思った
レミリアは運命を見る前からフランは霊夢に勝てないことを知っていた
二人の間には純然たる違いがあったからだ
狂気に身を包み すべてのものを壊す能力を持つフラン
それでも彼女が勝てない理由 それは
フランはものを“殺した”事がないのだ
その能力で戯れにものを壊し 結果として命を奪ったことはある
しかしそこには殺意が無い
凶器を持ち何かに迫ったことが無い
ものを刺した時の肉の感触を味わったことが無い
刺したものからの返り血を受けたことが無い
殺したものの怨嗟を身に受けたことが無い
断末魔の叫びを聞いたことが無い
何よりもものに対する殺意を持ったことが無い
狂気を含んでいても文字通り“無邪気”であり
命を奪うことに対し直接的ながらもどこか間接的だった
「いや、こないで…。」
逆に霊夢はそれらすべてを知っていた
刺した肉の感触を
そこから来る返り血を
怨嗟を
断末魔を
そして殺意を
全て知っていた
それが二人の違い 似た場所にいながら違う二人の立ち位置
霊夢は最初からフランを殺す気だった
そうする事によって降りかかるものを全てを覚悟した上で動いていた
霊夢がフランの目の前までたどり着く
そして彼女は目の前の存在の心臓を貫くために腕を振り上げた
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
―――ズ グチャリ
(あれ?痛くない。)
己の体を貫くはずの衝撃がこないのを不思議に思ったフランが目を開ける
「門番が守るべき門から離れるのはどうなのかしらね?」
「門番が門を守るのはその中の大切な人を守るためですから。その人が危ないならどこへでも行きますよ。」
彼女の前には自分を追ってきた紅魔館の門番紅 美鈴がいた
「めい…りん。」
「はい、美鈴ですよ。」
美鈴の体は抉られていた それでも彼女は振り返ってフランに微笑みかけた
「もう大丈夫ですからね。」
「あ……。」
霊夢とは違うやわらかい笑みにフランは恐怖から強張っていた体の力が抜けるのを感じた
「それで?あなたはどうするの?急に現れて、体を穿たれて。」
二人を見ていた霊夢が美鈴に問いかける
「怪我もしちゃいましたし、このまま帰りたいんですけどね?」
「無理ね、ここに来たのならその意味もわかるのでしょう?」
「じゃあ逆に訊きますが、何故フラン様を殺そうと?」
「危険だからよ、その力が、その在り方が。」
「おかしいですね、だからと言って今まで殺そうとはしなかったのに。」
「今そのときが来たということよ。」
「でも…。」
「それに私は博麗の巫女だからよ。話は終わりよ、消えなさい。あなたもまた危険の存在だから。」
霊夢は構え 体からまた恐ろしいほどの気を撒き散らし始める
(まずい、やるしかないか…。)
美鈴はわかってはいたが説得に失敗したことに若干の焦りを感じながら構えを取る
(あまり長くはできないですね…。頼みますよお嬢様!)
ザンッ
両者が同時に地面を蹴る 距離が一気に狭まる
―――ゴッッ
手も足も出さず 申し合わせたかのように二人はお互いに頭突きを出した
鈍い音が響く
霊夢の体が吹き飛ぶ
当たり前だ いくら霊夢が人間離れした力を持っても所詮は人間 妖怪には負けてしまう
「ッアハハハはははっハッは!!」
しかし霊夢は笑いながら受身を取った後また美鈴に迫った
美鈴は牽制に弾幕を打つが霊夢は意も介さず突撃してくる
再び両者の距離が狭まる
「ッ、ハッ!!」
美鈴が弾を撃つことをやめ迎撃に切り替える
それと霊夢が手をだしたのは同時だった
―――ズググチャ
「がっゴふ!」
ビチャピチャ
美鈴は腹部を貫かれていた 霊夢の手は彼女の体を貫通し人間なら致命傷と呼べるほどの傷を与えた
患部からはおびだたしいほどの血が流れている
対して霊夢は
「いぎゃあぁぁああぁあぁああ!!」
顔の半分が無くなっていた
顔を覆う手の間からは肉と骨が見え隠れしている
(しまった!やりすぎた!)
咄嗟に対応したため美鈴は加減できず手を出してしまった
そのことに悔やむが今はそれどころではない
隙ができたのだ 今のうちにフランをつれてここから離れなければならない
息を荒くしながらも気を使い自分の怪我の回復を促進して美鈴はフランに振り返る
「さ、フラン様今のうちに。」
「え、あ、うん。」
目の前の光景に少しばかり付いていけないフランは戸惑いながら美鈴に答える
そして美鈴が座り込んでいるフランを起こそうと手を差し伸べた
「……っ!!」
ヒュゴッ
瞬間美鈴はフランを抱え込みながら前転した
まだ完治しきっていない傷口が痛む それに耐えながら美鈴は振り返った
「な!?」
霊夢は腕を振り切った体勢でこちらを見ていた
彼女の顔には怪我が無かった
彼女はまるで怪我などしていなかったかのように振舞っている
(何故!?手応えはあった。確実に喰らっていた筈なのに!?)
「まただ。」
「え?」
フランの声に目をそちらに向ける フランは震えながら続ける
「さっきも腕が吹き飛んだのに、いつの間にかまた生えてた。」
「!? いや、そうか。同じなんだ。」
そこで気がついた
霊夢は自分と同じことをやっているのだ
自分が気を使って傷の回復をしているように
霊夢もまた何かを使って傷を回復させている
(使ってるのはおそらく霊力ですね。霊符かあるいは術式を使って欠損部を補っている。でも)
からくりはわかった 身体能力が跳ね上がっているのもそのせいだ
しかし霊夢と美鈴には差がある それは
(速度が違いすぎる。私はまだ少し傷が残ってるのに彼女にはそれが無い。)
回復速度がおかしいのだ
妖怪で しかも気を使って回復を促している自分よりも速い
(弾幕を使わないのもそのせいでしょうか。彼女は符を使ってますし。あるいは、今まで手を抜いてきたか。)
後者の可能性は考えたくない
その事実は自分に絶望しか与えない
(でもどうしましょうか。これではジリ貧ですし、ココハヤハリアイツヲコロs)
パンッ
顔をたたいて正気に返る
(まずい、引っ張られてる。時間が無い。)
美鈴は焦る それは自身が霊夢の狂気に感染していることに気づいているためである
常人なら一瞬で気が触れる様な空間にいるのだ
フランのように狂気に浸っている存在ならまだしも美鈴のように狂気を抑えている存在にとっては毒でしかない
長い時間そこに居れば彼女もまた狂ってしまう
そうなれば終わりだろう 霊夢は何のためらいも無く自分たちを消す
正気である今だからまだすぐに殺すかどうか動きあぐねているのだろう
霊夢が迫る
美鈴が立ち上がる
(だからと言ってあきらめるわけにはいかない!!)
美鈴は自分の役目を改めて確認する
(第一にフラン様の保護 次に撤退までの時間稼ぎ 自身の安全は最下位事項)
何よりもフラン様の安全を
そして息を吐いて構える
「さぁ!いきますよ!」
霊夢が答えるように跳ねる
美鈴が前へ跳ぶ
二人が交差する
―――ガキリ ゴキッ ズグ グシャ
殴り 砕き 抉り 削ぎ落とし 貫き 切裂く
鈍い音が辺りに響き続ける
抉られた腕を瞬時に復元させて振るう
潰された目を治して睨みつける
折られた足を戻して穿つ
終わりを見せない殺し合い
そのうち二人はワライハジメル
同じワライガオを貼り付け殺し合い始める
美鈴が霊夢を蹴り飛ばす
何メートルも吹き飛ばされながら霊夢が体勢を直す
再び跳ねて迫る
そして再び二人が交差しようとした時
―――ズガンッッ
赤い光が二人の間を貫いた
重い音と爆風そして光が広がる
霊夢があまりの衝撃に身構え動けなくなる
砂埃が落ち着いた後彼女が目を開けると
「………。」
そこには誰もいなかった
離れていく気配を感じそちらを見る
「レミリアか…。」
先ほどの光
あれはレミリアのスピア・ザ・グングニルだった
「まぁいいけど。」
追う気になどならない
霊夢は独り言をつぶやいた後 その方向に背を向けた
――――ここまでがこちらであったことよ。その後美鈴は倒れてしまったしフランも安心したせいか気絶してしまったの。」
「そうだったのか。」
「でも美鈴のほうは特に消耗が激しくてね、それで永琳に来てもらったの。」
「ほぼ無理やりね。まぁ急患が多かった原因もわかったし、こっちのほうが色々と面倒ではないからいいけど。」
レミリアの言葉に永琳は苦笑いしながら返す
「それで一緒に来た輝夜がこっちに来て教えてくれてな。私たちは里の怪我人の護衛としてきたんだ。」
「輝夜が来たときはどうしたもんかと焦ったけどね。」
慧音と妹紅が続けて来た理由を話した
「でも、だけどさ、なんで霊夢がこんなことを?」
落ち着いた魔理沙が情報を整理して問う
霊夢は幻想郷の秩序を守る博麗の巫女だ
彼女自身が異変の原因になるなどありえないはずなのだ
「そこまではわからないわ。何故こんなことをはじめたのか?何のために行っているのか?見当がつかない状況よ。」
「ただ救いなのは霊夢があの場所から動いていないということ。」
問いにアリスとパチュリーが答える 手元の術式で何かを見ているあたり使い魔を飛ばして監視しているのだろう
「じゃあこれからどうするんだよ?動いてないからってこれからも動かない可能性が無いわけじゃないだろ?それにこんなはた迷惑なことしてるんだ。行って一回とっちめt「その必要はありませんよ。」ってうおっ!?閻魔じゃないか!?いきなり入ってくんなよ。」
「ちゃんと許可は得て入ってます。」
「こんちは~。」
魔理沙の後ろにはいつの間にか閻魔の四季 映姫
そして三途の川渡しの小野塚 小町がいた
おそらくは咲夜の仕業だろう
時を止めて連れて来たに違いない
「それで?あなたたちは何故ここへ?呼んだつもりは無いのだけれど?」
レミリアが驚く魔理沙を尻目に問う
彼女にとっても映姫が来るのは想定外だったようだ
「はい、今日はやけにこちらに来る魂の数が多かったので。」
「そんなに?」
「珍しく小町がまじめに働いていたというのに間に合わないくらいでしたから。」
「そ~なんです。もうあたい目が回っちゃうくらいでしたから。」
「さすがに不審に思いまして、先程一旦落ち着いたので外の様子を見ることにして出てきたわけです。」
「ふむ、でもここへは何故?」
「原因はすぐにわかりました。これほどの影響を出しているなら誰かが動くだろうと判断しまして。後は力が集まっている場所を探した、そしてここへ来たわけです。」
二人がここへ来た経緯を話し終えた所で復活した魔理沙が映姫に聞いた
「それはいいけどさ、さっき言ってた必要ないってどういうことだ?」
「言葉通り、何もする必要はないということです。」
「なんでさ!!実際に被害が出てるんだぞ!?このままじゃ危ないかもしれないんだぜ!?」
「大丈夫ですよ。博麗 霊夢はこちらから何もしなければ何も行動を起こしません。」
「だからなんでそう言えるんだ!?どこにその証拠がある!?」
「落ち着きなさい。今回怪我人でも殺された者でも被害を受けたものには共通点があります。彼等はみな霊夢の元に行き、彼女に会っていることです。」
「それが?…いや、そうか。」
「そういうことです。今日霊夢は異変を起こしてからあの場所を動いていないのです。そして今の様子からこれからも動くことは無いでしょう。それに…。私の憶測ですがこれは彼女にとって一種の儀式のようなものです。何かは分かりませんが彼女は今変化の真っ只中にいて、そのせいで混乱しているのでしょう。」
「そう、なのか?」
「はい。ですからしばらく彼女を一人にしておけばいずれ落ち着くでしょう。今夜中か、あるいは長くても二、三日のうちに。」
「ふ~ん。でもさ、みんなに迷惑かけてるわけだしさ。やっぱり何かしたほうがいいんじゃないか?」
「やめておきなさい。するにしても彼女がこの異変を治めた後になさい。忘れたのですか?今の霊夢はフランドール・スカーレットや紅 美鈴を圧倒したのですよ?下手に行けば彼女たちの二の舞、最悪殺されますよ?」
「うっ。」
魔理沙と映姫の会話が続く 他の者はみな黙って二人の会話を聞き続けた
誰も口を挟まないところを見ると皆大概考えてることは魔理沙と同じようだ
「どちらかといえば、皆さんがやるべきことは自分達の住居の守備だと思いますよ。」
「!?そうだ!異変に乗じて何か仕出かしてくる輩もいる!妹紅!!私達は戻るぞ!!」
「あ、ああ。」
急に慌てだした慧音に戸惑いながら妹紅はついて行こうとする
映姫はそれを宥めて止める
「まぁ待ってください。私が言っておいてなんですし慧音さんの言い分も分かりますがそこまで急ぐ必要もありません。」
「何故だ?」
「今日外を動いている間、ほかの妖怪に会いましたか?」
映姫の質問に部屋にいた全員が首を振る
言われてみると確かに会っていない 気配すら感じなかった気がする
「幸か不幸か、霊夢の存在は今抑制力になっているのです。」
映姫の言葉に慧音が怪訝な顔をする
「恐れているのです、彼等は。紅魔館以外にも多くの妖怪や人間が霊夢の元に行っています。そしてほとんどが殺されている。異変に乗じて何か起こそうと思っていても霊夢の矛先がこちらに向けば助かる可能性がない。動きたくても動けないのです。」
「三途の川に来た連中でもまだ狂ってたり怖がってたりしたやつがいたのさ。酷いやられ方をしたんだろうね。」
「なんにしてもこちらから仕掛けなくては彼女は何もしません。ですから今は彼女が変化を受け入れるのを待って…。」
「“殺すこと”を受け入れる変化を?」
今までずっと黙っていた紫が言葉を発する
その言葉には怒りが含まれていた
「何かを殺すことに躊躇いを無くさせる変化を受け入れるのを待てというの?」
言葉を続ける紫に映姫は当然だという風に返す
「それが霊夢にとって必要なことだからです。そして何より幻想郷がそれを受け入れている。」
紫が眉を顰める 映姫は続ける
「あなたも幻想郷を司るものとして分かっているはずです。ほかの者ならまだしも博麗の巫女が異変を起こしたとなれば普通幻想郷はそれを見過ごすはずがない。世界を守るものが世界に牙をむくとなれば、それはあってはならないことなのですから。」
「だから黙って見ていろと?」
「それが幻想郷のためです。」
「……話にならないわ。」
議論にならないと諦めた紫がスキマを開けて出て行く その後ろに藍も黙ってついていった
「何をするも勝手ですが、余計なことは誰のためにもなりませんよ?貴方にとっても霊夢にとっても。」
映姫の言葉を聞き流しながら紫はスキマを閉じる
閉じる瞬間 紫は映姫を睨んでいた
「…さて、そろそろ私達も戻ったほうがよさそうです。行きますよ、小町。」
「はいは~い。」
続けて映姫と小町もまた帰っていった
「なんだってんだよ、くそっ。」
どう動けばいいのか分からなくなりながら静かになった部屋の中で魔理沙は毒づいた
「映姫様っ、待ってくださいよ~。」
小町は自分より早く飛んで行く映姫を追いかけながら呼ぶ
その言葉に映姫は止まって彼女を待った
「遅いですよ小町。早くしないと、また魂たちが待っているのですから。」
「それでも速すぎますよぅ。」
「まったく、普段から怠けているからです。」
呆れながらも映姫は小町に速さを合わせた
暫くの間 二人は黙って飛んでいた
「映姫様、一つ聞いていいですか?」
「何ですか?」
「何でさっきあんな言い方したんです?」
「……何のことです?」
「惚けなくてもいいです、分かりますから。」
「今日はやけに勘がいいのですね?」
「ずっと一緒にいますから、大体の感覚は分かります。それで、何であんなことを?」
「…彼女は私に似ていたんです。」
小町は映姫が話しているのを黙って聞き始めた
「幻想郷という世界には暗黙の了解のようなものはあっても明確な法は特にないのです。その中で妖怪や人間は自分達の好きなように生きています。」
「でも私や彼女は違います。力と役目を与えられ、何かをすることを強いられている。」
「私は輪廻に帰る魂のために、彼女は幻想郷の規律を守るために。」
「私は何かのために働いています。でも…。」
「たまに分からなくなるのです。本当にあれで良かったのか。私は正しい裁きを与えたのか。」
「不安、罪悪感、疑念、それらは山のように積もって私の心を蝕むのです。」
映姫は止まっていまだ狂気と殺気を撒き散らす森の中 霊夢のいる方向を見た
その顔は小町からは見えなかった
「今の博麗、霊夢が巫女になる前、幻想郷は人間と妖怪の抗争がずっと激しかったのです。」
「その頃は博麗は中立と言っても人間側に立つことが多かった。そのためか先代まではどことなく人間よりだった。」
「しかし霊夢の代になって、スペルカードルールができて、その抗争はかなり収まってきました。言うなれば乱世から治世に移り変わってきたのです。」
「人間と妖怪の溝が埋まってきたのと同時に博麗が妖怪側に立つことも増えた。」
「彼女は本当に中立でなければならなくなった。独りでなければならなくなった。」
「人でありながら妖怪をしのぐ力を持ち、妖怪と同じように人間を殺さなければならない。」
「でも博麗であるがゆえに誰にも弱みを見せることはできない。誰かの前で泣くことすらできなかったでしょう。それは妖怪か人間どちらかに傾くことに繋がるかもしれなかったから。」
「それに耐えられなくなったのでしょう。彼女は人間で、何よりまだ十数年しか生きていない子供なのですから。」
「だから狂い、自らを殺そうとしている。自身を殺し、ただ役目を果たすだけの人形になろうとしている。」
「…もしかしたら、私もそうなるのかもしれません。いつかは。」
「大丈夫ですよ。」
遠くを見続けていた映姫を小町が抱きしめる
「映姫様の隣にはあたいがいます。絶対に独りなんかじゃないですから。そんなふうにはさせませんから。」
「…小町の癖に生意気です。」
「生意気で結構です。ねぇ映姫様。」
「何です?」
「あの巫女は戻れるんでしょうかね?」
「わかりません。もう彼女は変化することを選んでしまった。止められはしないでしょう。」
「そうですか…。」
「でも、ここは幻想郷ですから。」
「?」
「止められなくても首根っこ捕まえて引きずり戻す人がいるでしょう、きっと。」
映姫はそう言って少し笑い 飛び始めた
「さぁ戻りますよ小町。時間がかかってしまいましたからね、いそぎますよ。」
「あ、はい。」
二人は自分達の居場所に帰っていく
(私がすべきことはここまででしょう、後は託しますよ。)
自分では叶えられないことを誰かに託しながら
「紫様、これからいかがなされますか?」
紫の開いたスキマの中 藍は紫につきながら聞いた
「マヨヒガに帰るわ。」
「わかりました。…霊夢はどうされるのですか?」
藍の言葉を無視するかのように紫は歩き続ける
「紫様?」
「以前ね、一回霊夢の夢の中に入ったことがあるの。境界いじってね。」
「……。」
「最初はどんな夢見てるか興味本位だったのよ。変な夢見てたらそのことでおちょくろうと思って。」
――――あれは異界だった
あたりには見渡す限り何もなく世界は紅しか存在せず
霊夢はその中でただ空を見上げていた
その目には何も映さず ただ暗闇だけが広がっていた
絶句した
こんなことはありえないはずだ
自分とて長く生きた妖怪だ
食事のために村を滅ぼしたことがある
かつて戯れに街を崩壊させたこともある
人間の死体だらけの地獄絵図の中で笑いながら遊んだこともだ
だからわかった
これが自分達の持つ澱みと同じものだと
だから信じたくなかった
これを作ったのが自分より何分の一も生きていない人間だということに
ただ呆然と辺りを見ていた紫が目を見開く
夢が壊れ始めたのだ
紅い空が溶け 足元の汚濁が底なし沼のように自分を引き摺り込もうとする
慌てて霊夢のほうを見る
霊夢は無数の手に掴まれ汚濁の中に沈んでいっていた
「っ霊夢!!」
ただ助けようと手を伸ばした
しかしその手は届くはずもなく ただ空を切った
「その後はすぐにスキマを開いてそこから出たわ。夢の崩壊に巻き込まれたら私もただじゃすまないから。」
「それで、その後霊夢には…。」
「問い詰めたわよ。あれはなんなのか、大丈夫なのかって、柄にもなくね。でも逆に怒られたわ。勝手に人の夢に入ってくるなって。」
「いつも通りに?」
「そう、いつもどおりの霊夢の顔で。でもどうしてもその夢が気になってね。何度も訊いたわ。そしたら
『大丈夫よ、心配しないで。』
って笑われたわ。本当にいつも通りだった。だから訊くのをやめてしまったの。私自身、さっきのことは気のせいだったって思いたかったからね。あの時、もっとちゃんと訊いていればこうならなかったんじゃないかってさっきからずっと考えてたわ。」
「ですが、いくら博麗の巫女だからと言って紫様がそこまでする必要は。」
「そうね、なかったでしょう。閻魔も言ってた通り、幻想郷のことを考えるなら霊夢のことは見過ごすべきなのでしょうね。」
「ならば。」
「でもね、あの子と過ごす時間はとても楽しかったわ。弾幕ごっこをして、異変解決に一緒に出かけて、神社で宴会をして、昼間にお茶を楽しんで。トラブルだって絶えなくて、退屈なんてしなかったわ。」
紫が立ち止まる マヨヒガについたのだろう
紫はスキマを開けながら振り返り続けた
「それがこんなことで終わるなんて納得いかないわ。私はね、もっと楽しみたいの。この時間をね。幻想郷の未来なんて関係ないわ。」
微笑みながら語る紫に藍は溜め息をついて
「最近やってませんでしたし、明日は宴会ですかね。」
「あら♪気が利くじゃない藍。おつまみよろしくね。」
「はいはい、わかりました。あ、事が終わったら一度戻ってくださいね。一人でじゃだめですよ。二人でです。できなかったら紫様のご飯抜きますからね。」
「え、なにそれ~酷くない?」
「酷くないです。私も霊夢に言いたいことはあるんですから。」
「わかったわよぅ。じゃ、行ってくるわね。」
「いってらっしゃいませ。」
月明かりがあたりを照らす中 紫は一人空を飛ぶ
辺りに他の存在の気配はなく
ただ自分が風を切る音だけが聞こえた
辺りを包む空気は先ほどと変わっていた
先刻まで埋め尽くしていた狂気は既になくなり 残されていた殺気も感じなくなってきている
映姫の言った変化が終わろうとしているようだ
「あまり時間が無い様ね。」
一人愚痴りながら紫は加速していった
森の中 ぽっかり開いた場所に着く
霊夢の姿はすぐ見つかった
「――。」
広場の端に下りて歩いて近づく
「―――♪」
周りに何かの気配はない
「―♪―――」
風も音もなく時間が止まっているかのような場所
「――♪―――♪」
霊夢はその中で紫に背を向け月を見上げ歌っていた
―――紅い月の元 一人夢を見る
―――誰も知らない 小さなその願い
―――空の星を見上げ 孤独に涙する
―――白い花をあなたにあげましょう 赤い花は私が受け取りましょう
歌い終えると同時に霊夢は振り返った
先ほどまで逆光で見えなかったその姿はいつもの巫女服の紅白ではなく血の色に染まった紅だけだった
その足元には原形を留めていない肉塊となった何かと
そこから溢れ出た血によってできた水溜りがあった
「こんばんわ、紫。」
「こんばんわ、霊夢。静かな夜ね。」
挨拶を返す紫に可笑しそうに霊夢は笑った
「あら、さっきまではにぎやかだったのよ?静かになったのは貴方が来るちょっと前。」
「それでこんなに散らかってるのね。これじゃまるで夢の焼き増しだわ。」
「やっぱり見てたのね、私の夢。しょうがないじゃない。慣れてなかったんだから。」
霊夢は紫の言葉にさらに笑いながら続けた
「ねぇ、紫?」
「なにかしら?」
霊夢は一人話し続けながら紫に背を向け もう一度月を見上げた
「私ね、ようやく慣れてきたの。」
「はじめはすごくつらくてね、死にそうだった。」
「でもずっとやってたら受け入れられるようになった。」
「あともう少しなの。あともう少しで変われるのよ。」
「でもまだ足りないの。」
「何かはわからないけど。何かが満たされてないのよ。」
「だからねぇ、紫?」
しゃべり続ける霊夢に紫は身構えながら半歩下がった
「貴 方 を 殺 せ ば 私 は 変 わ れ る か な ?」
おびただしい量の狂気と殺気が放たれる
紫は飛んでその場から離れた
瞬間紫のいた場所に霊夢が腕を振り下ろしていた
「あら?やっぱり避けられたか。」
「霊夢、やめなさい。」
「何を言ってるの、紫?これは博麗の巫女としての役割よ?」
「そんなわけないわ。」
「あるのよ、博麗の巫女は幻想郷のバランスを守らなければならない。そのためには無駄に増えた妖怪や人間を減らす必要がある。たとえそれが、」
「自分の知り合いであっても、て言うのね。」
「そのとおりよ。さぁ貴方も来なさい、何もしなければただ死ぬだけよ?」
「死ぬのは嫌よ、でも何もする気になれないわ。私は貴方を連れ戻しに来ただけなんだから。」
「そう、わがままなのね。」
霊夢が笑いながら襲い掛かってくる
紫はそれを空へ逃げることでかわした 同時に弾幕を張って霊夢を牽制する
霊夢はそれを大きく後ろに跳んで避けた
そこで紫は不思議に思った
弾幕を打たない理由は聞いていたから分かる
しかし自分と同じように飛べるはずの霊夢がなぜ飛ばない
「何故飛ばないの霊夢?空を飛ぶ程度の能力を持つ貴方が?」
その言葉に霊夢は一瞬固まった
「…そんなことは今は関係ないでしょう?」
今までとは違い感情のない声で霊夢は答えた
そしてまた紫を殺さんと跳びかかって来る
聞いてはいたもののあまりに常人離れしたその動きに紫は付いていけず肩に傷を負う
「つっ!さすがに何もしないわけにはいかないようね。」
スキマを開き迎撃する
「ちょっとおいたが過ぎるわよ、霊夢!!」
スキマから射出されるものを避けながら霊夢は哂い始める
「アハハハハ!ようやく本気!?そうじゃないとね!私はハクレイであなたはバケモノなんだもの!!殺しあわなきゃ!!」
狂い叫びながら霊夢が迫る
紫はスキマを使って逃げながら考えをまとめようとする
(さっきは間違いなく違う反応だった。じゃあ飛ばないことと何か関係が?いやそもそも飛ばないんじゃなくて飛べない?……!!)
フラッシュバックしたのはいつかもぐりこんだ夢
あの時霊夢は
(やってみればわかるわね)
決めて霊夢を見る そして指を構え
パチンッ
境界を変化させる
ブツッ
視界が変化する
世界が紅に染まる
そこは紛れもなく霊夢の見ていた夢の光景だった
そして
「…やっぱり、飛ばないんじゃなくて飛べなかったのね。」
霊夢の体には数え切れないほどの手が彼女を掴み捕らえていた
急に止まって何かを言い出した紫に霊夢は動きを止めた
「何を…いやそういうことか。見てるのね、私が見ている世界を。」
自嘲気に笑いながら霊夢は言った
「見ての通りよ。馬鹿みたいな数でしょう?もう飛べやしないわ。」
「なんでこんな…。」
「言ったでしょう?博麗としての役割よ。幻想郷のために何かを殺し、その代償としてそれらの呪いを身に受ける。」
「どうして何も言ってくれなかったの?」
「言ってどうかなったの?私の代わりの呪いをかぶってくれでもした?下手な同情ならお断りよ。なにより…。」
「……。」
「私は博麗の巫女よ。人間だろうと妖怪だろうと、誰かに頼るなんてあってはならないのよ。」
ギリッ
紫は俯いて歯軋りする
納得いかなかった
本当の呪いであろう博麗としての義務が
すべて諦めるしかないような今の状況が
そしてなにより
それを正しいと言い切る霊夢が
「これでわかったでしょう?貴方がやっていることの意味が。連れ戻す?意味の分からないことを言わないで。ここが私のいるべき場所なんだから。」
「………。」
「さぁ今すぐ私の前から消えなさい。そうしないなら殺すわ。」
「………。」
霊夢が立ち去るように言っても紫は俯いたまま動かなかった
「…そぅ、じゃあ死になさい。」
その姿に霊夢はただ冷たい視線を投げかけ 殺すために腕を振り上げた
そして
「昔さ、霊夢と始めてあった頃なんだけどさ。」
映姫と紫が去った後の紅魔館
慧音や輝夜達も映姫の話を考慮して警備のために帰ってしまった
レミリアたちも看病などで出て行っている
静けさが部屋を支配していた中魔理沙が急に昔の話を話し始めた
「何よいきなり?」
アリスはそれにめんどくさそうに返す
「あー、うん。なんとなく昔を思い出してさ。」
「何よ急に、まぁいいけど。それで?」
「ああ、私がさ、一番最初に弾幕放てた時さ、あいつすごい喜んだんだよ。」
「…。」
「その頃でも今みたいにやる気のない顔してることが多かったんだけど、あのときの笑顔はほんとにただの子供だったんだよ。友達ができたみたいにさ。」
「そうね、私が始めて霊夢と弾幕ごっこしたときもそうだったわ。とてもうれしそうだった。」
「あいつはさ、優しいんだよ。めんどくさがってもやることはやるし、深いとこまではしないけど困ってる人がいたら助けるし。」
「そうね…。」
「いつもお茶飲みながら静かに過ごすのが好きって言いながら宴会になるとみんなと一緒に大騒ぎしてさ。」
「騒がしくしてるのは貴方じゃない。」
「でもさ、あいつ博麗の巫女だから私達に言えない様な嫌なこともやんなきゃいけなかったんだろうな。」
「でしょうね。」
「だから苦しくて今こんなことになっちまったんだろうな。結局さ、霊夢は優しすぎたんだ。」
「……。」
「なら今こそ私は霊夢のそばにいなきゃな。」
魔理沙が箒を掴んで歩き出す
「本気で言ってるの?今の霊夢じゃあなた…。」
「関係ない。」
「え?」
「関係ないよ、今の霊夢がなんだろうと。その前に私達は友達なんだ。だからあいつが苦しんでるんならそばにいてやらなくちゃ。それが友達なんだから。」
フフン、と笑いながら魔理沙はアリスを見る
「お前はどうする?別に強制はしないけどな。」
その言葉にアリスは少し眉を顰めながら
「馬鹿にしないでくれる?私は貴方より霊夢との知り合いが長いのよ?」
と言って笑った
そして二人の魔法使いは部屋の窓を開け
「仲の良さに長さは関係ないぜ。」
「いつも霊夢に迷惑かけてるあなたが言う台詞?まぁいいけど、じゃあ。」
「行こうぜ!!」
白み始めた空に飛び立った
―――ザシュ
「え?」
霊夢は目の前の光景が理解できなかった
立ち去らない紫を殺すために自分は腕を振るったはずだ
いくら呆けていても避けるぐらいするはずだと踏んでいた霊夢はそこまで力をいれず振るった
紫はその腕を避けることもせず受け 自分の手を重ねてきた
「な…んで。」
「なんでって?こうするためよ。」
紫は微笑み
パチン
指を鳴らした
すると霊夢に向いていたはずの手達が動き始め紫を掴み捕らえた
「な!!何やってるのよあんた達!!あんた達が呪うのは私でしょ!?何で紫のほうに行ってるのよ!!」
「あら?何を焦ってるの霊夢?」
「何のんきに馬鹿な事言ってるのよ!!早くやめなさいよ!!」
「貴方が言ったことじゃない。『かわりに呪いをかぶってくれるのか』って。」
「冗談に決まってるでしょう!?余計なことしないで!!」
霊夢は必死に紫を取り囲む手を引き剥がそうとする
紫はその霊夢の顔を両手で持ち自分の顔に向けさせた
「余計なんかじゃないわ。私が霊夢の傍にいたくてしたことなんだから。」
「それが余計なのよ…。どうして……。」
紫を見上げる霊夢の目には涙がたまっていた
それを見て紫はうれしそうに笑って言った
「貴方を独りにさせたくないから。だから貴方が戻れないと言うのなら、私があなたの元へ行ってあげる。」
「余計なお世話よ!!やっと受け入れられるようになったのに…。」
霊夢が俯く 彼女は泣きながら続けた
「夢に蝕まれていくのに怯えて、駄々をこねる様に足掻いて、それでもどうしようもなくて…。」
「……。」
「全部諦めて、人間や妖怪を殺せるようになって。」
「ん……。」
「やっと受け入れられるようになったのに、今更連れ戻そうとして!!どうしろっていうのよぅ!!」
「なにも、しなくていいのよ。」
「あ。」
紫は霊夢をそっと抱きしめた
「なにもしなくていい。今までがんばってきたんだから。私が隣にいてあげるから。あなたは休んでいいの。」
「…馬鹿。」
霊夢が抱き締められながら呟いた
「馬鹿、やっぱり余計なことじゃない。世界に色が戻っちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。」
「そう、それは良かった。今日はいい月でしょう?」
「そうね、白くてきれいな月だわ。」
霊夢が紫の背に手を回す
二人は月が見えなくなるまで抱き合っていた
つきが沈み 空が白み始めた頃
二人は広場の中心で並んで座っていた
「落ち着いた?」
「ええ、かなりね。」
「そう。」
「紫。」
「なに?」
「今日はありがとう。でも、さっきのことは忘れて。やっぱり私は博麗だから。いくらわけがあっても妖怪側に傾くわけにはいかないから。だから…。」
「だったら人間側にも弱みを見せれば問題なしだよな!?」
「そうでしょうね。」
「ま、魔理沙!?それにアリスも!?」
急に出てきた声に驚き振り返るとそこには魔理沙とアリスがいた
「い、いつから?」
「いや~もうさっきから出ずらくてしょうがなかったぜ。なぁアリス。」
「そうよ、二人で勝手にいい雰囲気になってるし。」
「てことは…。」
「ほぼ最初からでしょうね。」
紫が補足する
霊夢はあちゃーという顔で落胆した
「おやこれはいい感じに弱みを握れたようですよ?アリスさん?」
「ええ、そのようですわね。魔理沙さん。」
「これをネタに色々できそうですな~。」
「なにをするきよ!?何を!?」
二人が意地悪そうに笑い霊夢は顔を赤くしながら文句を言った
「霊夢。」
ふいに魔理沙がまじめな顔になる
「なによ?」
霊夢は少し不機嫌そうにそれを聞いた
「中立ってさどっちにもつかないってことだけどさ、どっちにも同じように頼るのもまた中立だろう?」
「そう、かもね。」
「独りでいられるなんて寂しい事言うなよ。友達なんだからさ、頼ってくれよな。」
「そうそう。私も友達なんだからね。」
アリスと魔理沙が微笑みながら言う
霊夢はまた赤くなりながらそっぽを向いた
「…ありがとう。」
その言葉に魔理沙はニヤリと笑って
「よし!!じゃあ今夜は宴会だな!!」
宣言した
「あ、賛成~。」
それに紫も乗る
霊夢は呆れて
「何よいきなり。」
「いいじゃない、最近やってなかったし。藍にももうそう伝えてるし。」
「根回しが早いのね。」
「文句言わない霊夢。迷惑かけたんだからきっちり返しなさい。」
「はいはい、わかったわよ。」
四人で笑い合い 空へと飛び立つ
東の空には朝日が昇ってきていた
あの後は大変だった
紫に連れて行かれたマヨヒガで藍に説教され
宴会では妹の敵にとレミリアに思い切りはたかれた
他にも迷惑をかけたであろう連中に謝ってまわった
幸いだったのは殺してしまったものたちの多くはこちらよりだったということだ
それでも少なからず関係のないもの達を殺めたのも事実だ
その家族に恨みや呪いを言われたときもあった
しかしそれらは私原因だ
怨嗟や復讐をを受ける覚悟はできている
それがあの夜狂った私への罪と贖罪だろう
あともう一つ 大きな変化があった
最近夢を見ることは少なくなってきたのだ
永琳によると私のあの光景は精神的なものの割合が大きかったらしい
今では特に支障もなく飛べるようになった
私の周りに存在していた手も減っていった
それでもたまに夢を見る
夢は紅の世界を映し出しその中には一本だけの手
それはいつか見殺しにした子供の手だった
全てに気づき 全てが始まった最初の手
この手だけは私の中から消えることはないだろう
なんとなくそう思った
夢から覚めて外を見る
そこには極彩色が世界を彩っていた
その中に出ながら先ほど見た夢を思い出す
あの手は私に残った責任や罪悪感 覚悟なのだろう
だから消えることはない
消せるはずがない
いつかまた私はあの世界に囚われるのだろうか
ふと思って首を振る
多分それはないだろう
たとえそうなってもまたあいつらが私が引きずり戻すのだろう
そのことが可笑しく思いながらもうれしく感じた
さて お茶でも入れてきますか
私は遠くから箒に乗る人影を見ながら動き出した
大団円・・・ですか。
っと、さっそくですが、2か所ほど誤字報告です
速くなる動機を押さえ込み~・・・>心臓の鼓動が加速した場合は、「動悸」ですよ。
フランのように狂気に使っている~・・・>浸かっている・・・では?
おそらく地獄絵図になっているだろう霊夢の位置に何の違和感も無く大団円ができるのは少々異質な気も。それと霊夢が行ったこの事象はおそらく謝って済まされるレベルの被害ではないでしょう。