十六夜咲夜は思う。お嬢様は私に居場所を与えてくれる。
だけど、私はこの館が大好きだから、だから、何かから解き放たれたいのかもしれない。
上手く考えられないけれど、いつも空は私には広く、明る過ぎた。
今、あの妖精は飛べなかった空を飛んでいる。
あれくらいの高さなら、きっと紅魔館を見渡せるだろう。
あの子は今、この館の王さまなのだ。
お嬢様を寝かしつけ、それぞれメイドたちの事務手続きを処理し終えると、
空は既に白みはじめていた。しかし咲夜は光差し込む窓を見ようともせず、
書類を片付ける。事務室を出てから、階段に続く途方もなく長い階段を歩いていく。
途中でメイドの妖精の何人かとすれ違うが、咲夜は俯いたまま、挨拶もろくに
交わず足早に歩いていく。メイドたちも朝の咲夜を心得たもので、軽い会釈をして、
各々の作業へと戻る。廊下に続いてこれまた長い階段を降っていき、一階に着くと
中庭へ続く道を迷いなく進む。中庭へ出ると、光を浴びた土や草いきれの深い匂いが
鼻孔をくすぐる。夜にはない自然の恵みがそこにはあったが、咲夜は俯いたまま。
頭を上げないように注意して、中庭の手入れの為に利用される小路だけをみつめて
進み、まだ青いイチョウ並木を抜けて噴水広場へと進んだ。広場では死にもの狂いで
餌をついばむ小鳥たちがいる。踏まないように気を付けて歩き、噴水の側にあるベンチの
一つにゆったりと座る。
このときすぐに顔を上げてはいけない。まず首元をゆるめ、息を整える。顔を上げる
直前に、数秒だけ目を閉じたほうがいい。ゆっくりと深呼吸をし、あとは一気に顔を上げて
目を見開く。
咲夜の視界にあった小路や芝や小鳥たちは反転し、館の壁に縁取られた青空が
一気に飛び込んでくる。細かい文字を追っていた眼には少し酷だが、頭の芯がクラクラして
軽いトランス状態を味わえる。なぜかしら、涙が込み上げることもある。ただ、その涙に
理由をつけようとすると、逆にすっと何かがさめて、すぐに涙は乾いてしまう。
朝の中庭には「住民」と呼ばれるものが三人いる。
咲夜がその陶酔感をさましていると、「住民」の一人がやって来た。美鈴だ。また
チャレンジするつもりらしく、深く俯いたまま歩いてくる。美鈴は何度やってもあの
クラクラ感を味わうことができないらしい。
ゆっくりとベンチの隣に座った美鈴が、話しかけないで、と手のひらで咲夜を制し、
教わった通りに、まず首元をゆるめ、数秒だけ目を閉じて、一気に顔を空に向けた。
美鈴がなかなか反応を示さないので、咲夜は 「どう?」 と横から声をかけたのだけれど、
美鈴はそれでもしばらく真剣な表情で空を見上げたまま、
「やっぱりダメですよ。何度やっても咲夜さんがいう快感が味わえません」
と悔しそうに首を降った。
「快感なんて言ってないでしょう?ただ頭がクラクラするって」
「ですからクラクラでしょう?それもないんですよ」
美鈴の日課である中国の体操のようなものにも見飽きて、そろそろ眠ろうと咲夜は
ベンチから立ち上がる。とそのとき、もう一人の「住民」が現れた。
「住民」は重そうな道具を小さな体でよたよたと支え、広場の隅へと進んでいく。
目的の場所には様々な道具と作りかけの箱のようなものが置かれていた。その部分だけ
明らかに中庭の景観を乱していたが、パチュリーが許可を出しており、館の主は
広場の噴水を嫌がるので、誰も咎めるような者はいなかった。
「おはよう」咲夜はいつも自分から声をかける。
「おっおはようございます!すみません、前を見ていなかったもので!」
いいのよ、と咲夜は表情をゆるめてみせる。まだ子供の妖精メイドでしかないこの「住民」を、
咲夜は少し甘やかしていた。この妖精は空も飛べないので弾幕要員にはならず、
普段は廊下の清掃を任されている。その幼い顔はいつも咲夜を見ると、赤らんで目をそらす。
気球を、作っているのだそうだ。この妖精は。
咲夜は実物を見たことがないが、幻想郷に来てから気球を見ることになるとは当然
考えていなかった。気球という存在が生活感から遠く離れていることもあるし、なにより
ここのヒトたちが飛べる者がいくらでもいたのだ。需要があるとはとても思えない。
空を、飛びたいのだそうだ。この妖精は。
この妖精に甘い咲夜は一度、空へ連れて行ってあげる、と言ってみたことがある。
妖精は赤い顔を更に赤くして慌てながら、しかし断りを入れた。自分の力で飛びたいんです、と。
気球はパチュリー様が設計をしているらしい。いつも不機嫌そうな顔をしているが、
彼女は知識を求める子供には等しく優しい。でなければ魔理沙をああも放っては
おかないだろう。いい仕事しやがる。
咲夜、美鈴、小さなメイド。この中庭を利用している者は、三人だけだった。
メイド妖精に何故そんなに空を飛びたいのか、咲夜は聞いたことがある。
「それは、その、皆さんに憧れて、です」
気球じゃ弾幕はできない、と咲夜は言った。それは咲夜も妖精もパチュリーも
わかっていたことである。単純に空に憧れているのだろうか。
「そんなに良いモノじゃないわよ、風強いし、髪乱れるし」
と咲夜はわざとそんなことを言った。咲夜は空を飛ぶことがとても好きである。今更
何を言ったところで妖精は気球を作ることを止めないだろう。なら悪いイメージを
与えておいて、それを払拭するくらい綺麗な空を楽しんで欲しい、という咲夜の
人の良いイジワルだった。
妖精の赤い頬が膨れる。咲夜はそんな妖精の頭を撫でる。
「ホントはですね」 と妖精が呟いた。
「見てみたかったんです、私が今いる場所を。いっぺんに」
「私がベンチに座っているとき、私、何を見てるように見えるのかしら」
「え?」
咲夜がいつものように空を見上げた朝、中庭には美鈴が先に来ていたらしい。
ベンチで一緒に美鈴が淹れたお茶を飲んでいると、ふとそんなことが聞きたくなった。
「いや、だから、あなたいつも拳法の練習したりなんかしてるでしょ。そんなとき
私を見て、私が何を見ているように見えるのかと思って……」
咲夜はなぜか慌てて弁解のようなものをしたが、美鈴は首を傾げるばかりだった。
「別に大したことじゃないわ、忘れて」 と、照れくさくなって自室に引き上げることに
した。早足で来た道を戻っていると 「あの」 と咲夜を呼び止める美鈴の声が
背中から聞こえた。
「大丈夫ですよ。咲夜さんが見てるものなんて、こっちからは見えませんから」
足が止まる。振り返ってみれば、美鈴はお茶の片づけを済ませ、背中を向けて遠ざかっていた。
咲夜がある朝空を見上げると、その視界の端には弓なりに色づいた何かがあった。
慌ててそちらのほうを見ると、気球が膨らんでいた。その下では美鈴が必死になって
ポンプを上下に動かしている。ヒトのいいことだ、と咲夜は笑った。妖精は箱に乗り込んで
何やら作業をしていた。どうやらこのまま飛び立つらしい、と考えていたとき、箱が地を離れた。
飛んだのだ。
お疲れ様、と咲夜はぐったりポンプにもたれかかった美鈴をねぎらってやる。
どうも、という返事はかすれていた。
二人がゆっくりと空を昇っていく気球を見上げていると、ようやく妖精メイドがひょっこり
顔を出した。小さな体いっぱいに手を振っている。二人も手を振って返してあげたが、
妖精はやっと出てきたと思えばすぐに箱の中に引っ込んだ。咲夜たちの手は見えなかっただろう。
やれやれ、と咲夜は思う。あんなに慌てているようでは、どこに設計ミスがあるか
わかったものではない。いつでも助けられるよう、気を張っておこう。
あるいはただ、空を飛べたことに興奮してはしゃいでいるのかもしれない。
なんにせよ。
彼女は、自分の力で、空を、飛べたのだ。
※本作品は作者の自己満足が非常に強く、読みづらい文章となってしまいました。
そのようななか感想を送って頂いて、非常に嬉しく感じております。
)名無し2番様
初コメントありがとうございます。「好い」と言って頂けるだけで作者の心は
救われます。参考にさせて頂いた「パークライフ」は、作者は自分の中でさえ
読みほぐせておらず、それが半端に文章に表れてしまった気がします。
)名無し19番様
非常に丁寧なコメントをありがとうございます。「朴訥として爽やか」なんて、
どう表現してそのお言葉に感謝すればこの喜びが伝わるのか……。
一話の短さについては、いつも後悔をしています。小説は情報であり、
情報量は多いほど価値がある、なんて言ってる作家様もいますしね。
しかしながら作者は一つ文章を作り上げたら誰かに見て貰いたくって
しょうがない人間でして、結局反省することが出来ないんです。
貴重なご意見ありがとうございます。無為にして申し訳御座いません。
「クラクラ」は吉田氏の作品をそのまま真似たモノで、あの表現力に
あやかりたかったものです。美鈴は健康優良娘!「クラクラ」は
目は痛くなりますが、良いですよね。何かしら解放された気分になれます。
私の場合、閉じ込めたのも自分になっちゃいますが。
)名無し20番様
コメントありがとうございます。良い作品なんて言って頂いて、ホント
嬉しいです。「その涙に~」は「パークライフ」をそのまま引用させて頂いて
おります。自分がこの文章を読んだ時は、何かしら感動を覚えたんですが、
やはりそれを言葉にすることは出来ませんでした。吉田修一先生に多謝。
「クラクラ」推進活動中!さぁ皆様も空を見に俯いて最寄りの公園へ。
※以下、蛇足になります。
咲夜さんは、自分の今の境遇について、選べなかったと思い込んでいるヒトです。
自分は紅魔館とお嬢様が大好きだけれど、それはただここにしか居られなかった
から好きになっていったんじゃないかと。目的と手段、どちらが先だったかわかりません。
咲夜さんは毎朝空を見上げます。空は広くて、そこに選べなかった自分の選択肢が
あるんじゃないかと思っているのかも知れません。その空は館の壁によって額縁が
できており、有限でした。
美鈴は自分が何でこの館にいるのかなんて疑問を思いつきもしない、と咲夜さんは
感じています。美鈴は見上げる空に共感できませんから。
咲夜さんはこの館から離れることについて考えてしまっていることを恥じています。だから
空を見上げる自分が何を見ているか、共感できない人に知られることを怖がっています。
美鈴は空を見上げても、当然空しか見えません。「咲夜さんのみてるものなんて」
小さな妖精がいます。彼女はやりたいことにまっすぐに進み、そこに疑問を挟むことは
ありません。咲夜さんは甘美な選択肢を与えますが、妖精は歯牙にもかけません。
美鈴は「していること」に疑問を持っていないようにみえます。
妖精は「したいこと」に疑問を持ちません。
咲夜さんは?
妖精が「したいこと」をやり通して空を飛んだとき、妖精はもう咲夜さんなんて見えませんでした。
咲夜さんはそんな妖精を、とても素晴らしいヒトのように感じて、
そうじゃない自分の心の中と向き合うのでした。
咲夜さんの人間臭さを描きたかったのですけれど、紅魔館に来た理由って
はっきりしてねぇよな、と気づいた瞬間、独自設定溢れすぎててもう読めない
話に。反省しています。
だけど、私はこの館が大好きだから、だから、何かから解き放たれたいのかもしれない。
上手く考えられないけれど、いつも空は私には広く、明る過ぎた。
今、あの妖精は飛べなかった空を飛んでいる。
あれくらいの高さなら、きっと紅魔館を見渡せるだろう。
あの子は今、この館の王さまなのだ。
お嬢様を寝かしつけ、それぞれメイドたちの事務手続きを処理し終えると、
空は既に白みはじめていた。しかし咲夜は光差し込む窓を見ようともせず、
書類を片付ける。事務室を出てから、階段に続く途方もなく長い階段を歩いていく。
途中でメイドの妖精の何人かとすれ違うが、咲夜は俯いたまま、挨拶もろくに
交わず足早に歩いていく。メイドたちも朝の咲夜を心得たもので、軽い会釈をして、
各々の作業へと戻る。廊下に続いてこれまた長い階段を降っていき、一階に着くと
中庭へ続く道を迷いなく進む。中庭へ出ると、光を浴びた土や草いきれの深い匂いが
鼻孔をくすぐる。夜にはない自然の恵みがそこにはあったが、咲夜は俯いたまま。
頭を上げないように注意して、中庭の手入れの為に利用される小路だけをみつめて
進み、まだ青いイチョウ並木を抜けて噴水広場へと進んだ。広場では死にもの狂いで
餌をついばむ小鳥たちがいる。踏まないように気を付けて歩き、噴水の側にあるベンチの
一つにゆったりと座る。
このときすぐに顔を上げてはいけない。まず首元をゆるめ、息を整える。顔を上げる
直前に、数秒だけ目を閉じたほうがいい。ゆっくりと深呼吸をし、あとは一気に顔を上げて
目を見開く。
咲夜の視界にあった小路や芝や小鳥たちは反転し、館の壁に縁取られた青空が
一気に飛び込んでくる。細かい文字を追っていた眼には少し酷だが、頭の芯がクラクラして
軽いトランス状態を味わえる。なぜかしら、涙が込み上げることもある。ただ、その涙に
理由をつけようとすると、逆にすっと何かがさめて、すぐに涙は乾いてしまう。
朝の中庭には「住民」と呼ばれるものが三人いる。
咲夜がその陶酔感をさましていると、「住民」の一人がやって来た。美鈴だ。また
チャレンジするつもりらしく、深く俯いたまま歩いてくる。美鈴は何度やってもあの
クラクラ感を味わうことができないらしい。
ゆっくりとベンチの隣に座った美鈴が、話しかけないで、と手のひらで咲夜を制し、
教わった通りに、まず首元をゆるめ、数秒だけ目を閉じて、一気に顔を空に向けた。
美鈴がなかなか反応を示さないので、咲夜は 「どう?」 と横から声をかけたのだけれど、
美鈴はそれでもしばらく真剣な表情で空を見上げたまま、
「やっぱりダメですよ。何度やっても咲夜さんがいう快感が味わえません」
と悔しそうに首を降った。
「快感なんて言ってないでしょう?ただ頭がクラクラするって」
「ですからクラクラでしょう?それもないんですよ」
美鈴の日課である中国の体操のようなものにも見飽きて、そろそろ眠ろうと咲夜は
ベンチから立ち上がる。とそのとき、もう一人の「住民」が現れた。
「住民」は重そうな道具を小さな体でよたよたと支え、広場の隅へと進んでいく。
目的の場所には様々な道具と作りかけの箱のようなものが置かれていた。その部分だけ
明らかに中庭の景観を乱していたが、パチュリーが許可を出しており、館の主は
広場の噴水を嫌がるので、誰も咎めるような者はいなかった。
「おはよう」咲夜はいつも自分から声をかける。
「おっおはようございます!すみません、前を見ていなかったもので!」
いいのよ、と咲夜は表情をゆるめてみせる。まだ子供の妖精メイドでしかないこの「住民」を、
咲夜は少し甘やかしていた。この妖精は空も飛べないので弾幕要員にはならず、
普段は廊下の清掃を任されている。その幼い顔はいつも咲夜を見ると、赤らんで目をそらす。
気球を、作っているのだそうだ。この妖精は。
咲夜は実物を見たことがないが、幻想郷に来てから気球を見ることになるとは当然
考えていなかった。気球という存在が生活感から遠く離れていることもあるし、なにより
ここのヒトたちが飛べる者がいくらでもいたのだ。需要があるとはとても思えない。
空を、飛びたいのだそうだ。この妖精は。
この妖精に甘い咲夜は一度、空へ連れて行ってあげる、と言ってみたことがある。
妖精は赤い顔を更に赤くして慌てながら、しかし断りを入れた。自分の力で飛びたいんです、と。
気球はパチュリー様が設計をしているらしい。いつも不機嫌そうな顔をしているが、
彼女は知識を求める子供には等しく優しい。でなければ魔理沙をああも放っては
おかないだろう。いい仕事しやがる。
咲夜、美鈴、小さなメイド。この中庭を利用している者は、三人だけだった。
メイド妖精に何故そんなに空を飛びたいのか、咲夜は聞いたことがある。
「それは、その、皆さんに憧れて、です」
気球じゃ弾幕はできない、と咲夜は言った。それは咲夜も妖精もパチュリーも
わかっていたことである。単純に空に憧れているのだろうか。
「そんなに良いモノじゃないわよ、風強いし、髪乱れるし」
と咲夜はわざとそんなことを言った。咲夜は空を飛ぶことがとても好きである。今更
何を言ったところで妖精は気球を作ることを止めないだろう。なら悪いイメージを
与えておいて、それを払拭するくらい綺麗な空を楽しんで欲しい、という咲夜の
人の良いイジワルだった。
妖精の赤い頬が膨れる。咲夜はそんな妖精の頭を撫でる。
「ホントはですね」 と妖精が呟いた。
「見てみたかったんです、私が今いる場所を。いっぺんに」
「私がベンチに座っているとき、私、何を見てるように見えるのかしら」
「え?」
咲夜がいつものように空を見上げた朝、中庭には美鈴が先に来ていたらしい。
ベンチで一緒に美鈴が淹れたお茶を飲んでいると、ふとそんなことが聞きたくなった。
「いや、だから、あなたいつも拳法の練習したりなんかしてるでしょ。そんなとき
私を見て、私が何を見ているように見えるのかと思って……」
咲夜はなぜか慌てて弁解のようなものをしたが、美鈴は首を傾げるばかりだった。
「別に大したことじゃないわ、忘れて」 と、照れくさくなって自室に引き上げることに
した。早足で来た道を戻っていると 「あの」 と咲夜を呼び止める美鈴の声が
背中から聞こえた。
「大丈夫ですよ。咲夜さんが見てるものなんて、こっちからは見えませんから」
足が止まる。振り返ってみれば、美鈴はお茶の片づけを済ませ、背中を向けて遠ざかっていた。
咲夜がある朝空を見上げると、その視界の端には弓なりに色づいた何かがあった。
慌ててそちらのほうを見ると、気球が膨らんでいた。その下では美鈴が必死になって
ポンプを上下に動かしている。ヒトのいいことだ、と咲夜は笑った。妖精は箱に乗り込んで
何やら作業をしていた。どうやらこのまま飛び立つらしい、と考えていたとき、箱が地を離れた。
飛んだのだ。
お疲れ様、と咲夜はぐったりポンプにもたれかかった美鈴をねぎらってやる。
どうも、という返事はかすれていた。
二人がゆっくりと空を昇っていく気球を見上げていると、ようやく妖精メイドがひょっこり
顔を出した。小さな体いっぱいに手を振っている。二人も手を振って返してあげたが、
妖精はやっと出てきたと思えばすぐに箱の中に引っ込んだ。咲夜たちの手は見えなかっただろう。
やれやれ、と咲夜は思う。あんなに慌てているようでは、どこに設計ミスがあるか
わかったものではない。いつでも助けられるよう、気を張っておこう。
あるいはただ、空を飛べたことに興奮してはしゃいでいるのかもしれない。
なんにせよ。
彼女は、自分の力で、空を、飛べたのだ。
※本作品は作者の自己満足が非常に強く、読みづらい文章となってしまいました。
そのようななか感想を送って頂いて、非常に嬉しく感じております。
)名無し2番様
初コメントありがとうございます。「好い」と言って頂けるだけで作者の心は
救われます。参考にさせて頂いた「パークライフ」は、作者は自分の中でさえ
読みほぐせておらず、それが半端に文章に表れてしまった気がします。
)名無し19番様
非常に丁寧なコメントをありがとうございます。「朴訥として爽やか」なんて、
どう表現してそのお言葉に感謝すればこの喜びが伝わるのか……。
一話の短さについては、いつも後悔をしています。小説は情報であり、
情報量は多いほど価値がある、なんて言ってる作家様もいますしね。
しかしながら作者は一つ文章を作り上げたら誰かに見て貰いたくって
しょうがない人間でして、結局反省することが出来ないんです。
貴重なご意見ありがとうございます。無為にして申し訳御座いません。
「クラクラ」は吉田氏の作品をそのまま真似たモノで、あの表現力に
あやかりたかったものです。美鈴は健康優良娘!「クラクラ」は
目は痛くなりますが、良いですよね。何かしら解放された気分になれます。
私の場合、閉じ込めたのも自分になっちゃいますが。
)名無し20番様
コメントありがとうございます。良い作品なんて言って頂いて、ホント
嬉しいです。「その涙に~」は「パークライフ」をそのまま引用させて頂いて
おります。自分がこの文章を読んだ時は、何かしら感動を覚えたんですが、
やはりそれを言葉にすることは出来ませんでした。吉田修一先生に多謝。
「クラクラ」推進活動中!さぁ皆様も空を見に俯いて最寄りの公園へ。
※以下、蛇足になります。
咲夜さんは、自分の今の境遇について、選べなかったと思い込んでいるヒトです。
自分は紅魔館とお嬢様が大好きだけれど、それはただここにしか居られなかった
から好きになっていったんじゃないかと。目的と手段、どちらが先だったかわかりません。
咲夜さんは毎朝空を見上げます。空は広くて、そこに選べなかった自分の選択肢が
あるんじゃないかと思っているのかも知れません。その空は館の壁によって額縁が
できており、有限でした。
美鈴は自分が何でこの館にいるのかなんて疑問を思いつきもしない、と咲夜さんは
感じています。美鈴は見上げる空に共感できませんから。
咲夜さんはこの館から離れることについて考えてしまっていることを恥じています。だから
空を見上げる自分が何を見ているか、共感できない人に知られることを怖がっています。
美鈴は空を見上げても、当然空しか見えません。「咲夜さんのみてるものなんて」
小さな妖精がいます。彼女はやりたいことにまっすぐに進み、そこに疑問を挟むことは
ありません。咲夜さんは甘美な選択肢を与えますが、妖精は歯牙にもかけません。
美鈴は「していること」に疑問を持っていないようにみえます。
妖精は「したいこと」に疑問を持ちません。
咲夜さんは?
妖精が「したいこと」をやり通して空を飛んだとき、妖精はもう咲夜さんなんて見えませんでした。
咲夜さんはそんな妖精を、とても素晴らしいヒトのように感じて、
そうじゃない自分の心の中と向き合うのでした。
咲夜さんの人間臭さを描きたかったのですけれど、紅魔館に来た理由って
はっきりしてねぇよな、と気づいた瞬間、独自設定溢れすぎててもう読めない
話に。反省しています。
朴訥として爽やかな雰囲気があって好きです。
唯一難点を云えば、やはり一話が短いところでしょうか。
こういう掌編は、ある程度数をまとめて「○○集」という形でUpした方が、より綺麗に見えるかと。
お話自体はすごく好いと思います。
文章表現もとてもお上手だし、私は好きです。
咲夜さんの云う「クラクラ感」は、私も体験あります。
クラクラが収まった後、妙に爽快な気分になれるんですよね。体には良くないらしいですが(笑)
美鈴がなかなか体験できないのは、気功やってて健康だからかも。
この部分を読んだとき、お話の中にするりと入って行けた気がしました。
「クラクラ感」は非常に共感できます。
良いお話をありがとうございます。