※ほんのちょっと、緋想天のネタバレと、本編内で使われたネタを使用しています。
そういうのが気になる方はどうかご注意を。
紅魔館の図書館では、今日もパチュリーがページをめくる音だけが響いている。
机に何冊もの魔道書などを並べ、視線だけをただただ動かす。
喘息持ちのパチュリーのために、通気性だけは完璧に整備されている図書館。
そして、果たして何十年かければ読み尽くせるのかというほどの、書籍の数々。
そんな天国みたいな場所がほぼ住処になっているようなパチュリーが外出するような用事なんていうのは、果たしてあるのだろうか。
ふと、パチュリーはなにやら違和感を感じて視線を本から上げた。
辺りに特に変化は無いが、どうも違う。
レミリアからはこの図書館の主のようなものだと言われているパチュリーである。
その他の人には分らないような些細な変化に、気づいた。
「……相変わらず、隠れるのだけはうまいわね」
そして、いくつも並ぶ本棚の中の1つに顔を向けると、なにもなかったはずのそこに、ゆっくりと人影が浮かび上がってきた。
じょじょに形が形成されていき、それがパチュリーの思っていた通りの、小さな少女なのだと分かると、再び視線を本に戻した。
「へぇ、よく私の存在に気づいたわね」
「侵入者には慣れてるの。なにか用?」
「別に、用がなきゃ来ちゃだめかい?」
「……ダメではないわ。でも、今度からはアポをとって」
「滅多に外に出ないようなお前に、どうやってアポとれってのよ」
呆れるようにため息をついたその少女、伊吹萃香はそのままフラフラとパチュリーへと近づいてくる。
また酒を飲んでいるのか。いや、飲んでいるからこその鬼なのか。
真昼間(外が見えないので憶測でしかないが、さっき咲夜が昼食のようなものを持ってきたので間違いないだろう)から酒気をプンプンさせる萃香に少し嫌な顔をしながらも、パチュリーは視界を再び上げる。
「なにその顔は。お酒嫌いだっけ?」
「嗜む程度には。でもこんな時間から嗅ぎたいものじゃないわ」
「そうかねぇ。だったらいつ呑めばいいの?」
「夜にでも飲みなさい」
「夜か。いいねぇ、お月さんをつまみに……」
「……本当に、用がなきゃ来ちゃダメじゃないけど、静かにしてもらえる?」
せっかくに静かな一時が台無しである。
そもそも、今呼んでいる本だって、萃香のためのものである。
そんな張本人を目の前にして集中できるはずもない。
「悪いかったわね。どうぞ続きを」
「はぁ……」
「……んー」
「…………」
「あー……」
「…………」
「んん~…………」」
「……ねぇ萃香」
「ん~?」
あっちこっちを見渡しながら声を出す萃香に、いい加減ストレスがたまったのか。
パチュリーはクルリと自分の方を向いた萃香に、至近距離でアグニシャインをぶっ放した。
が、萃香は自分の体を疎にし、それを避けると再び同じ場所に集まった。
「ちょっと、いきなりなにさ」
「うるさい方が悪いのよ」
「静かにしてたじゃない」
「落ちつきの無い方が悪いのよ」
「どっちよ」
軽口を叩こうとする萃香だったが、パチュリーが思いのほか力強く睨んでくるのでしかたなく静かにすることにした。
といっても、特に理由も無しに来た身である。なにをしようか迷う。
腐るほどある本を読むか、といってもそんあ気分でも無いし、第一そんなに本は好きじゃない。
だったらこのままパチュリーをいじくって遊ぶか。と言っても、次辺りはロイヤルフレア(萃夢想ver)を使われかねない。
つまりは、暇なのである。
今度こそ静かに、視線をキョロキョロと辺りに移す。
と、その時萃香の視界に珍しいものが入った。
珍しい。といっても、世間一般でいう珍しさではなく、『なんでこんな場所にあるのか』というレベルのものである。
「ねぇパチェ」
「パチェって呼ばないで」
「あ、ごめんパチェ」
「…………」
すごい睨んできた。
「あー、パチュリーさん」
「……なに」
「その、そこにある植木鉢はなんですか?」
「は?」
萃香の指さす方を、鬱陶しそうに向くパチュリー。
そこには、小さな植木鉢が3つほどあり、『パチュリーの』という札が刺さっていた。
「あそこで大豆を育ててるのよ」
「大豆?」
「鬼の弱点は、炒った大豆でしょ?」
パチュリーのその言葉にはっとして、萃香は手元の本を見た。
『よいこのよーかいだいずかん』……と、書かれている。
開かれているページは、もちろん鬼の項目だった。
「パ、パチュリー……」
「なによ」
「……なんというか、もっと読む本選べば?」
「仕方ないでしょ、こういうのしか無かったんだから!」
それに、慣れればおもしろいわよ。と呟いている。
長い間生きている生物というのは、こんなものを面白がるようである。
御託に漏れず、萃香もちょっとだけ興味があるようである。不思議である。
「そもそも、どこでこんな本を」
「人里の……ほら、あの字ばっかり書いてる子」
「……あー。阿求?」
「そう、それ。彼女に頼んで貸してもらったの」
萃香は驚いていた。
阿求がこんな本を持っていることもだが、それだけの為に外出した彼女にである。
しかし、考えてみれば不思議ではないのかもしれない。
萃香が異変を起こした時だって、わざわざ出歩いてきた。
すこし前の天子の異変の時だって、萃香のせいだと決め込んでわざわざ天界までやってきたのである。
そこでふと、萃香は1つの仮説を立てた。
これは使える。もしもこれが当たっているのなら、当分は暇にならなくて済みそうである。
萃香はにこやかな笑顔をつくると、パチュリーをジッと見た。
見られているパチュリーは、なにこいつ? 的な顔をしている。
「……なによ」
「そうか~」
「は?」
「パチュリーは、そんなに私の事が好きなんだねぇ」
「……あ?」
は? じゃなくて、あ? だった。
なんか込められている気持ちが違う気がするが、気のせいだ。
「だって、わざわざ私と遊ぶためにそんな本まで借りに行って」
「1回調べたことはしっかりと調べておきたいだけよ」
「ぐ……そ、それにこの間の天子のイザコザの時だってわざわざ私のために天界まで来て」
「気付いたのが私しかいなかったのよあの時は。まぁあなたが犯人じゃなかったけど」
「ぬぬ……」
「はぁ……そういうこと」
予定と違う流れにおもわず唸る萃香だが、そんな萃香を見てパチュリーはなにかを思いついたようである。
『よいこのよーかいだいずかん』を閉じて、すこし小馬鹿にするような目で萃香を見た。
「萃香は、そんなに私の事が好きなのね」
「は、なっ!!!」
「だって、用も無いのにわざわざ私の所にまできて」
「そ、それは暇だから幻想郷中を回ってる途中で」
「それにさっきから私に構ってほしそうにしていて」
「ひ、暇つぶしをしてるだけ!」
「それに、顔が真っ赤」
「っ!!!!」
本当に顔を真っ赤にする萃香を見て、思わずパチュリーは笑ってしまった。
だが萃香は面白くない。
自分が攻めていたはずなのに、いつのまにか攻守逆転しているのである。
さらには、パチュリーの的を外した指摘に、なぜか冷静に対処できない自分にも、である。
パチュリーのように、普通な返しができるはずなのだ。
だって、萃香は別にパチュリーが好きなわけではないのだから。
「あーもう! 知らない!!」
「大声を出さないで。埃が舞うわ」
「ちゃんと掃除しないパチュリーが悪い!」
「もう、本当に大声を出すと……ゴホッ」
本当に埃が舞ったのか、パチュリーが少し苦しそうにせき込み始めた。
とたん、萃香が心配そうな顔で背中をさする。
「だ、大丈夫? ごめん」
「大丈夫よ、慣れてるから」
「そ、そう…………」
「……ふふふ」
「な、なにがおかしいのよ!!」
「やっぱり、私の事心配してくれたの?」
パチュリーの、含みのある言葉に再び萃香の顔が赤くなる。
しかもよく考えれば、今自分はパチュリーの背中をさすっている。
これはまずい。二重の意味で顔が熱くなる。
と、感じると同時に萃香はパチュリーから距離をとった。
すこしだけ残念そうな顔をしているパチュリーだったが、萃香はそんなパチュリーをビシッと指差した。
「わ、私を誑かそうたってそうはいかないわよ!」
「なにがよ」
「ふん! 考えてみれば、大豆の栽培やその図鑑だって全部私を倒そうって考えから出たものじゃない!
あやうく騙されるところだった!」
「誰も騙そうだなんて思ってないわよ」
「ええい往生際の悪い! とにかくお前の顔は当分見ない! 次会ったときがお前の命日だと思え!! この紫もやし!!!」
なんとも三流な言葉を残して、萃香の体は散っていった。
再び、図書館内に静寂が戻る。
が、パチュリーは難しい顔をしていた。
「……長い間生きてきたわりには、初心なのね」
はぁ。と小さくため息をもらしてから、パチュリーは本棚の下にある3つの植木鉢を見た。
まだ昨日植えたばかりのそれを見て、どこか寂しそうだ。
「……わざわざ私と遊ぶためにそんな本まで借りていって……か」
そして、萃香の言葉を反芻しながら、植木鉢の元まで歩いて行く。
その前でしゃがむと、植木鉢に刺さる『パチュリーの』という札を、少しだけ荒々しい手つきで抜き取った。
「分かってるのなら、遊んでくれたっていいじゃない」
「あら、パチェ。この間植木鉢あったわよね?」
「あったわね」
後日。
珍しく図書館を訪れたレミリアは本棚の下にあったはずの植木鉢が無い事に気づいた。
そして、その変わりに小さな箱が置かれていることにも。
「この箱は何?」
「なんでもいいじゃない。それより何しに来たのよ」
「うーん……」
調べ物をしにきた。とわざわざ言ったレミリアだったが、今はこの箱の方が気になる。
パチュリーは相変わらず本に視線を向けたままでこちらを見ていない。今がチャンスだ。
レミリアはバッと箱の中身を覗きこんだ。
「…………もやし?」
「あら、見ちゃったのね」
「なんでまたもやし? しかもこれ、色変じゃない?」
「変じゃないわよ。この辺りの魔素を吸っちゃって変色しただけよ」
「それを変っていうのよ」
呆れるような口調でそういうと、レミリアは視線をパチュリーに戻した。
「なんでまたもやしを?」
「そうね……鬼に関する研究の延長線上かしら」
「はぁ?」
「大豆の加工品でも鬼は倒せるのか」
「……」
なにを言ってるんだこいつは。という目だった。
別にそれほど変な発想ではないはずなのだが。とパチュリーは首をひねる。
「あとはまぁ、鬼と遊びたいだけよ」
「あぁ、つまり私と遊びたいってこと?」
「西洋よりは、東方寄りのね」
笑顔で頬ずりしてくるレミリアをグイッと押さえながら、パチュリーは立ちあがった。
「それで、調べ物って?」
「もう……まぁいいわ。モケーレムベンベについて書いてある本は無い?」
「モケー……は?」
「だから、モケーレムベンベよ」
「……誰にそんな入れ知恵されたのよ」
「いいから! 次こそは完璧なモケーレムベンベになってあいつを見返してやるのよ!!」
「はぁ……」
お嬢様はどうやら変な遊びを覚えてしまったようである。
仕方なさそうにパチュリーは本棚に向かって歩いていった。
確か、UMAに関する記述のある本もあったはずである。
その時、ふとさきほどレミリアが見ていたもやしの入っていた箱に目をやった。
図書館に蔓延る魔素を吸って『紫色になってしまったもやし』。
パチュリーは、今度いつ博麗神社で宴会があるのかが気になった。
萃香は次あった時はお前の命はないと思えと言った。紫もやしとも言った。
だったらこっちも対抗した武装で望んでやればいい。
そもそも鬼と魔法使いじゃ、根本から力の差がありすぎる。
そんなのじゃあ、『対等に遊べない』。
だから今回のこの実験で試してやるのである。
大豆の加工品であるもやしでも、鬼の弱点になり得ることを。
もしこれが成功したら、研究自体も大成功になる。
なにせ、パチュリーは『紫もやし』であり、萃香にとっての弱点になり得れるのだから。
それにより、やっとパチュリーは萃香と対等に遊べるのだから。
いや、文花帖で豆まきは鬼の皮肉で本当の弱点じゃないってパチュリーは言ってた気もしますが。
まぁ、本人から聞いたと思えばいいか。
あとあれだ、がおー。
GJだ、GJすぎる!是非続編をォォ!
久々に満たされた…。ああ幸せ。
それにしてもお嬢様ががが
今読んでいる本だって
これの続きが是非読みたいです
おぜうさまの「ぎゃおー」に萌えたのは俺だけではないはず