Coolier - 新生・東方創想話

ひとり+1

2008/05/31 19:37:19
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「はぁ…はぁ…っ!」

暗闇の中を走っていた。

「誰か!誰かいないの!?」

走れども…走れども、目に映るのは闇ばかり。

何も見えない。何も聞こえない。何も感じられない。

「霊夢!魔理沙!」

親しい者の名を呼ぶが、返事はない。

自分の声すら響いてこない。

ただ、沈黙が辺りを包みこんでいた。

世界に自分一人だけしかいないような感覚に捉われる。

私は、恐怖を振り払うためにとにかく叫んだ。

「誰か…っ!返事をして!!」

力いっぱい、叫んだ。

「お母さん!お母さんっ…!」



「…あさんっ!」

自分の声で目が覚める。

目に映るのは、見なれた天井と、そこに手を伸ばした自分の腕。

「……また、この夢」

ここ最近よく見る夢。

一人闇に取り残される、悪夢。

なんとなくだが、原因は分かっていた。

あの宴会事件の時の鬼の言葉だ。


「そろそろ本当の孤独に気が付いたんでしょう?」


この夢を見始めたのは、それからだった。

「……はぁ」

自分はこんなにも精神面で弱かっただろうか?

挙句の果てには母のことまで呼びだすなんて……

子供か、私は。

軽く自己嫌悪に陥る。

そして、同時にあることに気づく。

「うわぁ……」

服が汗でぐっしょりと濡れていた。

正直かなり気持ち悪い。

「お風呂、入ろうかな」

そう思って立ち上がると

―ドンドンッ!

玄関の方から威勢の良いノックが聞こえてくる。

もう夜も更けた時間に一体誰だろうか。

気にはなるが、今は人の相手をする元気も余裕もない。

居留守を決め込む。

―ドンドンッ!

無視無視。

―ドンドンッ!

……しつこい。

―ドンドンドンッ!

「あぁあもうっ!」

怒りを露わにしながら玄関へと足を向ける。

こうなったら用件を聞くだけ聞いてさっさとお帰り願おう。

―ガチャッ

「お、なんだやっぱりいるんじゃないか」

ドアを開けると、そこには今最も会いたくないのがいた。

頭に二本の角を生やした鬼…萃香だ。

「なかなか出てこないもんだからいないのかと思ったよ」

出たくなかったから出なかったのだが…ここでそれを説明しても仕方ないし、する気もない。

「…何か用?」

あからさまに不機嫌な態度を見せる。

自主的に帰ることを促したつもりだったのだが。

「いやぁ昼間っから飲んでばっかいたら神社を追い出されちゃってさ。悪いんだけど一晩泊めてくれない?」

そんな思惑も虚しく、なんとも自分勝手な要求を出してくる。

この鬼はもう少し人の顔色をうかがうことを覚えた方がいいのではないだろうか。

まぁこの年中酔っぱらいに言っても無理な話だろうが。

「嫌よ。帰って」

答えはもちろんノーだ。

それだけ伝えてドアを閉めようとする。

「ちょっ、ちょーっと待った!」

ドアの間に足を滑り込ませそれを阻止してきた。

「何?私なんかじゃなくて他を頼りなさいよ」

「そ、それが何処も門前払いを食らってさ、アリスが最後の砦なんだよ…」

…最後が私、か。

そんな些細な事もいちいち気に障った。

「そう、じゃあ諦めたら?」

自分でも意地の悪い発言だとは思う。

でも、今の私は理性よりも感情が遙かに勝っていた。

「なんだよーケチケチしないでよ。どうせ『一人』なんでしょ?」

「…っ!!」

普段の自分なら、軽く流していた言葉だろう。

冗談めかして返し文句の一つでもくれてやっただろう。

だけど、あの悪夢を見た後の…不安定な状態の私には、その言葉は何よりも深く私の心を抉りとった。

「……わね」

「え?」

「一人で悪かったわねっ!」

「わわっ、いや、そんなつもりは……」

しまったと言わんばかりに萃香は慌てて取り繕うが、取り乱した私はそんな事を気にすることもなかった。

そして

「勝手にしなさいよっ!!!」

ダッ

「あ、アリス!」

私は真夜中の森へ飛び出した。

頬に、一筋の涙を流しながら。




――確かに私は一人だ。

それを選んだのはほかならぬ自分。

魔界を飛び出した時に、自分自身で決めた道。

『誰にも頼らず、一人で生き抜く』

実際、魔法の森に移り住んでから、長い間一人で生きてきた。

だが、それもいつしか限界を迎えることとなる。

人は一人では生きていけない。

魔界人とて、所詮『人』だっただけのこと。

私は、孤独に押しつぶされそうな日々を過ごしていた。

霊夢たちと再開を果たしたのは、そんな時だった。

それからというもの、事件や宴会を通して多くの人と知り合うこととなる。

そして、人との繋がりに、その暖かさに浸かってしまった。

だからこそ、萃香の言葉に心を強く揺さぶられた。

本当の孤独。

『気付いた』のではない、『知っていた』のだ。

その辛さを、その苦しさを。

そして、あの夢にうなされる日が続くこととなる――




……気が付くと、知らない場所に来ていた。

「何処だろ…ここ」

随分と長い間飛んでいた気がする。

無我夢中だった上に、夜中で周りもよく見えないため、現在地が把握できない。

まぁ日が昇れば大丈夫だろう。

それにしても

「ちょっと、疲れたわね…」

ずっと飛び続けていたため、疲労がたまっていた。

とりあえず森の中へと降り立つ。

今夜はここらで野宿だろうか。

などと溜息をついていると

「グルルルル…」

不意に背後の茂みから唸り声が聞こえてきた。

獣の類だろうか。

「悪いけど、あなたの相手をする暇はないわ。さっさと消えなさい」

「グルル…グルルルゥゥ」

警告を出すも、言葉が通じるはずもなく、唸り声は止まない。

「ふぅ……いいわ。そんなに遊びたいなら相手をしてあげるっ!」

茂みに向って殺気を放つ。

「グワァアアゥゥゥウッ!!!」

瞬間、奥から勢いよく影が飛び出してきた。

「ふんっ」

難なくそれを避け、胴体であろう箇所に蹴りを入れる。

「ギャインッ!」

影は、無様に地面にたたきつけられ、その姿を月明りの下に晒した。

正体は…

「なんだ…ただの狼じゃない」

魔法の森に生息する以上、『ただの』ということはないだろうが、所詮は獣である。

取るに足らない相手だった。

それにしても、こんなのにまで目を付けられるとは……随分と舐められたものである。

きびすを返し立ち去ろうとすると

「グゥゥゥウウッ!」

「グルルルルゥ…」

別の唸り声が聞こえてきた。

しかも今度は複数。

―ガサガサッ

気が付けば、多数の狼によって周りを囲まれていた。

姿形が狼ならば、性格も同じといったところか。

群れを成して数で狩りをする。

効率的な狩りの仕方なのは確かだ。

「でもね、私に数で勝とうなんて思わないことねっ!上海!蓬莱!」

こちらも数で対抗するために、いつもの相棒の名を呼ぶ

が、反応がない。

「ぁ……しまった!」

何も考えないで家を飛び出してしまったため、人形たちを連れてくるのを忘れていた。

今、まさに私は一人だった。

一人


ヒトリ


―――ドクン……ッ―――

「……っ!」

あの悪夢が蘇る。

その感覚は、私に一瞬の隙を作った。

そして、獣はその隙を逃さなかった。

「グォォォオオオッ!!」

群れの中の一匹が、体当たりを仕掛けてきた。

―ドゴォッ!

回避が間に合わず、腹部にまともに食らってしまう。

「ぐふ…っ!」

…油断していた。

思っていた以上に体当たりの力は強く、たまらずその場に倒れこむ。

「けほっ……げほっ!」

苦しくて息ができない。

眩暈がする。

「グァアアアゥッ!!」

視界の端に、襲いかかってくる狼の姿が映ったが、体が痺れて身動きが取れない。

かわせない。

「くっ……!」

やられる!

そう思って強く目を瞑る。



「符の壱『投擲の天岩戸』!!」



―ドゴオォォォォンッ!

「……っ!?」

突然の轟音に目を開けると、目の前には巨大な岩が地面にめり込んでいた。

そして、その上には

「萃……香…?」

伊吹萃香が立っていた。

乗っていた大岩から飛び降り、私と狼の間に割って入る。

「グルルル……!」

獲物を横取りされたと思ったのか、狼たちの標的は萃香へと変わる。

が、次の瞬間

「獣如きが…鬼に敵うと思うなよ……!?」

凄まじい殺気がこの場を支配した。

「う…ぁ……」

それを向けられていない私でさえ恐れるほどの。

「グルル………クゥン…」

本能的に危険を察知したのか、周りを囲んでいた狼たちは、四散していった。

残されたのは、私と萃香の二人だけ。

「あ、あの……萃」

とりあえずお礼は言っておこうと思って呼びかけたが、振り返った萃香の顔は

「アリ…ス……うっ…うぅぅっ!」

涙でぐちゃぐちゃになっていた。

「え?えっ?」

いきなりの変化に戸惑いを隠せないでうろたえる。

「うあぁあああんっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

萃香はそのまま私に飛びついてきた。

「な、なに?どうしたの?」

抱きついたまま、萃香は独白を続ける。

「怒らせるつもりはなかったんだ……ただ、私も一人だったから、アリスが自分に重なって見えて……ついあんな風に言ってしまったんだ」

「……」

意外だった。

この自由奔放な萃香が、そんな後悔をしていたなんて。

最強種の一つたる鬼が、そんな風に思いつめていたなんて。

「だから、ごめんなさい」

「……もういいわ」

そう言って、萃香の頭を抱きしめる。

こんな告白を聞いたら、もう怒れるはずもない。

自分も、一人の辛さを知っているから。

「……許してくれるの?」

不安そうに見上げる萃香。

私は抱きしめる腕の力を強めることで、肯定の意を示した。

「ん……ありがと」

そうして、しばらくの間、二人で抱きしめあった。



少し落ち着いてきたころ

「あっ…」

萃香は急に思い出したように顔を上げた。

「なに?」

「ところでさ、話は戻るんだけど……今晩泊めてくれないかな?」

「……あんたねぇ」

こう、雰囲気というか、ムードというものを考えた発言をしてほしい。

せっかくの感動のシーンが台無しである。

「ダメ?」

萃香は涙目で上目遣いに見上げてきた。

……ちょっとこれは反則気味な気がする。

もう断るつもりもなかったが、これではさらに断りにくくなるではないか。

「わかったわよ」

半ば呆れ気味に、承諾する。

「やた♪」

泣き顔から、一転満面の笑顔へと変わった。

全く、現金な鬼である。

こうして、その日萃香は私の家に泊まることになった。




そして、数日後のマーガトロイド邸

「アリスぅ~飯はまだ~?」

「あんたいつまでいるつもりなのよ……」

萃香はまだ居座っていた。

「まぁまぁいいじゃない。アリスの作った料理おいしいんだもの♪」

「それはあんたの都合じゃない」

……なんて言いながら自分の料理の腕を褒められたことに喜びを感じてたりもする。

「もう……仕方ないわね」

本気で追い出そうという気分にもなれないし、自分もまんざらではないのかもしれない。

「はやく~飯~!」

萃香はもう待ち切れないといった様子で箸を鳴らしている。

「はいはい、今持っていくから」

……まぁまだしばらくはこの+1な騒がしい日々を過ごすのもいいかも、なんて思い始めるのだった。





おしまい
アリスばんじゃーい ヽ(・ω・)ノ
ライサンダーZ
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コメント



0.2160簡易評価
1.60大天使削除
これまた珍しい組み合わせw

アリスばんじゃーい ヽ(・ω・)八(´∀`)ノ

4.80名前が無い程度の能力削除
こっちで先に見つけてしまったがずっと待ってたwwww

アリスばんじゃーい ヽ(・ω・)八(´∀`)八(゜ω゜)ノ
7.100名前が無い程度の能力削除
さあ、早くブログで挿絵を

あなたの柔らかい文と絵が大好きだ。
9.100名前が無い程度の能力削除
いい話だなー。

萃香は発言にもう少し気をつけるべきw

もっと読みたいのに、しっくりくる終わり方なのが悔しい。

面白かったです。
11.60名前が無い程度の能力削除
萃香が単なる居候ではなく、アリス邸でちゃんと役に立っている場面がラストに欲しかったです。

料理を作る手伝いをしているとか、魔導書を盗みに侵入してきた魔理沙を半殺しにして、

アリスに感謝されるとかw

それと、冒頭の注意書きは不要だと思いますよ。
12.無評価ライサンダーZ削除
>これはまた珍しい~

アリスのありとあらゆる可能性を探求しております



>こっちで先に~

アリスばんじゃーーい!



>さあ、早く~

ありがとうございます~

まぁあちらはあちらでぼちぼちと



>萃香は発言にもう少し~

悪気はないんでしょうけど、ズバっと切り捨てる発言ががが

ありがとうございます!



>萃香が単なる~

ほむほむ、貴重なご意見感謝いたします!

次があればもうちょっとオチというかラストについてもっと考えてみようと思います。

了解です。注意書き、消しておきます~
17.70名前が無い程度の能力削除
こ、これは…さ、酸だー!!

じゃなくて、珍しい構成を堪能させていただきました。

アリスのこういう話自体は少し見かけた気がするけど、萃香ですか~。
20.100名前が無い程度の能力削除
ライサンダーさんが創想話に現れたと聞いて(ry

成る程、こういう解釈もできるのか~。いやこっちのほうが違和感ないな。

あ、夜○話の時からブログをブックマークさせていただいてます!

あなたのほのぼのとした絵と文が大好きです。これからも宜しくお願いします!
25.50名前が無い程度の能力削除
このアリスさんは空飛ぶ紙装甲なんですね。そして工学平気をばら撒くわけですねわかります!



ふたりとも一人という共通点がアリ萃の必然性を生み出してこれはもう萌えだと思いますハイ
30.無評価ライサンダーZ削除
>こ、これは…さ、酸だー!! ~

まさにそれなのです!

じゃなくて、ありそうでなさそうな組み合わせを、と書いてみました。

にしても…ぐぁ~既にあるネタでしたか。二番煎じで申し訳ないです



>成る程、こういう解釈も~

ちょっと強引かなとも思いましたが、楽しんでもらえたようでなによりです

こちらこそ、よろしくお願いします。



>このアリスさんは空飛ぶ~

工学兵器=萌え ですね、わかります!(ぉ

アリ萃ばんじゃーいヽ(・ω・)ノ