「どうしよう……」
一人が、そう呟く。
手には、赤い液体が滴るナイフ。
「……どうしようもないわ」
もう一人が、答える。
手には、何時も通りの分厚い本
此処は、紅魔館の大図書館。
いるのは、七色の魔法使いと、七曜の魔法使い。
そして、胸から赤い液体を流し、床に倒れている白黒の魔法使い。
しばし時を戻す。おおよそ3時間ほどである。
その日は珍しく、それこそ明日はグングニルの雨でも降るのかというくらいに珍しく、霧雨魔理沙は客であった。
あまりの出来事に門番は真面目に仕事に勤め瀟洒な従者は派手にすっ転び、挙げ句の果てに悪魔の姉妹は揃って大人しくなったという。
まぁ、ともあれ。
そんな事を知る由もない一人目の魔法使いは迷わず図書館を目指し、特にこれといった出来事もなく到着した。
さて、それから暫くしてもう一人の魔法使いが紅魔館へやってきた。
魔法使いがそう沢山いるわけでもないので名前を出すまでもないが、アリス=マーガトロイドその人である。
勿論、客として。
彼女はどこぞの白黒の様に無法者でも無礼者でもなく、それなりの良識を持ち合わせているのだ。
もっとも、そのせいでそれなりの苦労人でもあるのだが。
まぁ、ともあれ。
何故か真面目に門に立っていた門番や酷く腰を打った様子の従者に驚きつつも、二人目の魔法使いは目的の図書館に到着した。
そして、三人目、というか、最初からいたわけだが、図書館の主であるパチュリー=ノーレッジは困惑していた。
理由など勿論簡単な事で、普段は泥棒な白黒の魔法使いが普通に客として来たからだ。
流石に先述の人々のような失態こそ犯さなかったものの、執筆中の魔導書にインクをぶちまけてしまった程だ。
当然破棄される事になったわけだが、それはそれ。
後始末は小悪魔の役目なので、舞台裏で目立たぬようにやって貰おう。
まぁ、ともあれ。
その後に登場した二人目、アリスも加わり、珍しく魔法使い三人が集合する運びとなった。
テーブルには、いつの間にか紅茶が三つ。
それはさながら、魔女のお茶会。
2時間前。
来た時と同じように、霧雨魔理沙は静かだった。
正確には、騒がず喚かず本を読み、時折他の二人に助言を求めていた。
どうやら新しい魔法を思いつき、その研究のために来たらしい。
どうにも自分だけでは難解だから、と人の意見も取り入れているようだ。
良い傾向だ、とアリスは思う。
何せ魔理沙は人の話を聞かない。
多分、人に助けられる、という事を嫌っているのだろう。
ああ見えて子供っぽい彼女の事だ、自分は一人で出来るんだと、そんな意地を張りたいのだろう。
確かに、才能はある。
けれども経験不足は否めないし、『魔法使い』になる気が無い以上長々と時間をかける事も出来ない。
だから、人に頼る、というのは間違ってはない。
むしろ、これは個人的な感情ではあるけれど、頼ってくれた方が嬉しい。
彼女に対する個人的な感情を抜きにしても、人に頼られるというのは嬉しい物だから。
良い傾向だ、とパチュリーは思う。
何せ魔理沙は騒がしい。
それが彼女自身の性質なのでしょうがない事なのだが、図書館では暴れるなと常々思っている。
本は傷み、埃が舞って喘息に辛く、付け加えればとても疲れる。
動かない大図書館であるところの彼女からしてみれば、良い事は一つもないのだ。
霧雨魔理沙の事は、決して嫌いではない。
むしろ、同じ魔法使いとして彼女の想像力は驚嘆に値するとさえ思っている。
だからもう少しだけ、ほんの少しでいいから大人しくなれば良いのに、とそう思う。
そうすれば視野はもっと広がり、幻想郷最速なんて言葉に拘る事もなくなるだろう。
遅い方が、よく見える。
もっと見るなら、止まるに限る。
けれど彼女は決して止まりはしないだろうから、スピードを落とすだけで良い。
それなら、隣を歩ける人も増えるだろう。
彼女に対する個人的な感情を抜きにしても、共に歩ける人がいるに越した事はないのだから。
全く面倒な事だ、と魔理沙は思う。
何せ私はじっとしているのが大嫌いだ。
今日こんな風に大人しいのだって、どうにも自分一人じゃ無理そうだから、だ。
本当なら何時も通り本を借りていきたいところなのだけど、それで手を借りられなくなってしまっては元も子もない。
というわけで、大人しく紅茶を啜りつつ魔導書を読み進める。
成る程わからないところがあったら人に聞ける、というのは確かに便利だ。
だけどそれは同時に自分自身の力不足を認める事でもあるので、やはり悔しい。
見てろ、何時か見返してやるぞ、と。
寿命の関係で困難ではあるだろうけど、不可能ではない目標を見据えている。
けれど、と、何となく二人を見てこう思う。
こういう時に頼れる友人がいるってのは、いいもんだな、と。
個人的な感情を大いに含めて、彼女らと居ると楽しいなと、そう思う。
1時間前。
相変わらず静かな時間が流れていたが、魔理沙にはそろそろ限界なようだ。
頭を掻きむしったり足を揺らしたり、どうにも落ち着きのない姿が目立つ。
とはいえ残りの二人にしてみれば予想通りだったようで、特にどうこうしようという姿は見られない。
「そういえば」
と、魔理沙が切り出す。
ああもう限界か、とアリスとパチュリーがそちらを向けば、なにやら陳腐なナイフらしき物を懐から取り出すところだった。
「こーりんに面白い玩具を貰ったぜ」
「奪った、じゃなくて?」
「平和的に譲って貰ったぜ」
ならいいんだけど、とアリスはそのナイフらしき物を観察してみる。
見た目は、確かにナイフだ。
柄は刃らしき部分よりも太く、特に凝った装飾はされていない。
鍔もついてはいるがやはり装飾は無く、とりあえず付けてみました的な物に見える。
刃らしき部分は……ホントに刃なのだろうかこれは。
一言で言えば、丸い。
確かに刃を模しているのだろうが、その先端も、縁も、丸く潰れていた。
これではペーパーナイフにもならない。制作者は何を思ってこんな物を作ったのだろうか。
そして極めつけは、その材質だ。
金属、ではない。
木、でもない。
陶器、にしては柔らかすぎる。
なんというかこう、艶はあるけれど柔らかく、妙に発色の良い……なんだろうこれは。
自分はそれなりに長い間生きているはずだが、こんな物は幻想郷では見た事がなかった
つい、と隣のパチュリーに目線をやる。
どうやら、彼女も考え込んでいる様子だった。
アリスの視線を感じ、私はそちらに目をやる。
正直、アレがなんなのかわからない。
普通、物質には何かしらの精霊が憑いているものだ。
それなのに、あのナイフからはそれが感じられない。
否、極僅かではあるが、土の精霊の名残は感じる。
けれどそれは結局名残でしかなく、精霊そのものは何処にもいなかった。
大地に由来する物であるのは間違いないだろう。
ではそれが何か?と聞かれて、私は答える事は出来ない。
大図書館等と呼ばれる私だが、いくら図書館でも蔵書に書いてない事はわからないのだ。
しかし、興味深い物である事は間違いない。
私は、そのナイフらしき物から目を離す事が出来なかった。
「そんなに見つめても何も出ないぜ?」
「何か出てきたらそれこそびっくりするわよ」
どう見ても何か出てくるようには見えない。
それとも魔理沙の新しい魔法の媒体だったりするのだろうか?
それならそれで楽しめるのだが。
「これはだな、誰でも殺してしまうナイフだ」
「……またえらく物騒ね」
魔道具の類だろうか。
それにしたって、随分と乱暴だ。
誰でも殺してしまう、なんてそんなシンプルな暴力を実現するのは、なかなかに大変な事なのだが。
「……それは、例えばレミィでも?」
「ああ、どうだろうな。試してないからわからんが、多分大丈夫だぜ」
何が大丈夫なのだろうか。
というか、霧乃助さんも余り物騒な物を魔理沙に渡さないで欲しい。
「どうも……信じられないわね」
「私もよ。それからは何の魔力も感じられない」
二人とも同じ見解だ。
どう見てもそんな強い魔力が込められているようには見えない。
「おいおい、これはこのまま使うもんだぜ?魔力なんて無いさ」
とすると、そのまま刺すのだろうか。
……無理だろう。
いくらなんでもあのまま使って人を殺せるようには見えない。
「おっと信じてないな?それじゃ試してみようじゃないか」
「ちょっとちょっと、試すって誰でよ」
またとんでもない事を言い出すものだ。仮にその力が本当ならば、私たちの内誰かが死ぬ事になる。
勿論私は死ぬ気はないし、殺す気もない。
他の二人も同じ筈だが、さてどうするのだろう。
「何、簡単な事だぜ。私をさくっとな」
そう言って、魔理沙はアリスへとナイフらしき物を手渡す。
「そんな事出来るわけ無いでしょ!」
というアリスの反論は極当たり前な物だが、肝心の魔理沙はといえば、
「大丈夫だって」
等とのたまうだけだった。
無茶苦茶だ、と端から見ていたパチュリーは思うのだが、口には出さなかった。
ともあれ幾度かの押し問答の末、ついにアリスが折れた。
「ああもう、どうなっても知らないわよ!」
の声と共にナイフを軽く、本当に軽く魔理沙の胸に当て、
「うお」
という声と共に魔理沙は倒れた。
胸には赤い液体。
ナイフらしき物にも、赤い液体。
そして冒頭へ戻る。
アリス=マーガトロイドは大変焦っていた。
そしてそれ以上に困惑していた。
付け加えれば、思考が半分停止していた。
え?何?魔理沙が?あれ?私今何を?
とかなんとか、そんな雑音ばかりが溢れて止まらない。
魔理沙を、殺した?
私が?
その事実が、深く深く突き刺さる。
パチュリー=ノーレッジは大変焦っていた。
そしてそれ以上に混乱していた。
付け加えれば、思考は8割停止していた。
アリスが刺した?魔理沙を?今彼女は何を?
といった具合の疑念ばかりが溢れて止まらない。
魔理沙が、死んだ?
目の前で?
その事実が、思考回路にトドメを刺す。
たっぷり5分後。
思考が回復し、顔面を蒼白にしたアリスは、ああ、血の気が引く音ってこんななんだ、と妙に冷静になっていた。
いやいや落ち着け私。
魔理沙だって馬鹿じゃない。いくらなんでもこんな阿呆な死に方はしない、はずだ。
はずだ、と信じたい。
けれど未だ床に倒れ伏す魔理沙は動く気配が無く、どう見ても死体である。
ふと、手に持ったナイフらしき物が視界に入る。
ああ、もしかしてこれ本当に誰でも殺してしまうナイフなんだろうか。
だとしたら私はとんでもない事をしでかしてしまったんじゃないだろうか。
ああどうしようどうしようどうしようどうしよう。
そうだ私も死のう。
この間約30秒。
余りにもテンパりすぎてもはや思考が繋がっていない。
が、体はそんな思考の命令を受け、ナイフを自分へと向ける。
「ごめんパチュリー、あとお願い!」
等という声が聞こえて我に返れば、今正にアリスが自らへとナイフを突き立てる場面だった。
いや待って、お願いって一体私に何をどうしろと。
もしかして二人分の死体片づけろと言うのだろうか、この喘息持ちに。
それよりも咲夜や小悪魔に見られたらどうしよう、どう見ても何かあったようにしか見えない。
かといって説明を求められても私自身事態を把握出来ているわけじゃないから困る。
非常に困る。
ああ困ったとても困ったヤバイ魔理沙が死んだと知ったら妹様がいやそれ以上に霊夢がその他大勢が。
切れる。
間違いなく切れる。
私に死ねと!?
等ととりとめのない思考をしている間にも無情にも時間は過ぎていく。
アリスが振り下ろしたナイフらしき物は確かにアリスの胸に接触し、
「え?」
「あれ?」
刺さらなかった。
刃と思われた部分は柄の部分へと押し込められ、代わりとばかりに隙間から赤い液体が流れていた。
これはつまり、どういう事だろう。
「……ぷっ。クククッ……」
二人で思考停止していると、どう見ても死体にしか見えなかった魔理沙が動き出した。
良かった、生きてた。
と思う間もなく。
「は、ははははははははっ!いくらなんでもそりゃないだろアリス!?」
等と大声で笑うのだから、それで私たちは正気に戻ったのだ。
「え、ちょ、何よこれ!?」
「人騒がせな……」
服が赤くなってしまったアリスとまだ呆けてるパチュリーを見て、私は笑う。
計画通り、とかそんな感じに。
いやはや、こんなに見事に慌ててくれるとは思わなかった。
とりあえず、まだ混乱しているアリスの手からナイフを取って、
「だから最初に言ったろ。玩具だってさ」
一人が、そう呟く。
手には、赤い液体が滴るナイフ。
「……どうしようもないわ」
もう一人が、答える。
手には、何時も通りの分厚い本
此処は、紅魔館の大図書館。
いるのは、七色の魔法使いと、七曜の魔法使い。
そして、胸から赤い液体を流し、床に倒れている白黒の魔法使い。
しばし時を戻す。おおよそ3時間ほどである。
その日は珍しく、それこそ明日はグングニルの雨でも降るのかというくらいに珍しく、霧雨魔理沙は客であった。
あまりの出来事に門番は真面目に仕事に勤め瀟洒な従者は派手にすっ転び、挙げ句の果てに悪魔の姉妹は揃って大人しくなったという。
まぁ、ともあれ。
そんな事を知る由もない一人目の魔法使いは迷わず図書館を目指し、特にこれといった出来事もなく到着した。
さて、それから暫くしてもう一人の魔法使いが紅魔館へやってきた。
魔法使いがそう沢山いるわけでもないので名前を出すまでもないが、アリス=マーガトロイドその人である。
勿論、客として。
彼女はどこぞの白黒の様に無法者でも無礼者でもなく、それなりの良識を持ち合わせているのだ。
もっとも、そのせいでそれなりの苦労人でもあるのだが。
まぁ、ともあれ。
何故か真面目に門に立っていた門番や酷く腰を打った様子の従者に驚きつつも、二人目の魔法使いは目的の図書館に到着した。
そして、三人目、というか、最初からいたわけだが、図書館の主であるパチュリー=ノーレッジは困惑していた。
理由など勿論簡単な事で、普段は泥棒な白黒の魔法使いが普通に客として来たからだ。
流石に先述の人々のような失態こそ犯さなかったものの、執筆中の魔導書にインクをぶちまけてしまった程だ。
当然破棄される事になったわけだが、それはそれ。
後始末は小悪魔の役目なので、舞台裏で目立たぬようにやって貰おう。
まぁ、ともあれ。
その後に登場した二人目、アリスも加わり、珍しく魔法使い三人が集合する運びとなった。
テーブルには、いつの間にか紅茶が三つ。
それはさながら、魔女のお茶会。
2時間前。
来た時と同じように、霧雨魔理沙は静かだった。
正確には、騒がず喚かず本を読み、時折他の二人に助言を求めていた。
どうやら新しい魔法を思いつき、その研究のために来たらしい。
どうにも自分だけでは難解だから、と人の意見も取り入れているようだ。
良い傾向だ、とアリスは思う。
何せ魔理沙は人の話を聞かない。
多分、人に助けられる、という事を嫌っているのだろう。
ああ見えて子供っぽい彼女の事だ、自分は一人で出来るんだと、そんな意地を張りたいのだろう。
確かに、才能はある。
けれども経験不足は否めないし、『魔法使い』になる気が無い以上長々と時間をかける事も出来ない。
だから、人に頼る、というのは間違ってはない。
むしろ、これは個人的な感情ではあるけれど、頼ってくれた方が嬉しい。
彼女に対する個人的な感情を抜きにしても、人に頼られるというのは嬉しい物だから。
良い傾向だ、とパチュリーは思う。
何せ魔理沙は騒がしい。
それが彼女自身の性質なのでしょうがない事なのだが、図書館では暴れるなと常々思っている。
本は傷み、埃が舞って喘息に辛く、付け加えればとても疲れる。
動かない大図書館であるところの彼女からしてみれば、良い事は一つもないのだ。
霧雨魔理沙の事は、決して嫌いではない。
むしろ、同じ魔法使いとして彼女の想像力は驚嘆に値するとさえ思っている。
だからもう少しだけ、ほんの少しでいいから大人しくなれば良いのに、とそう思う。
そうすれば視野はもっと広がり、幻想郷最速なんて言葉に拘る事もなくなるだろう。
遅い方が、よく見える。
もっと見るなら、止まるに限る。
けれど彼女は決して止まりはしないだろうから、スピードを落とすだけで良い。
それなら、隣を歩ける人も増えるだろう。
彼女に対する個人的な感情を抜きにしても、共に歩ける人がいるに越した事はないのだから。
全く面倒な事だ、と魔理沙は思う。
何せ私はじっとしているのが大嫌いだ。
今日こんな風に大人しいのだって、どうにも自分一人じゃ無理そうだから、だ。
本当なら何時も通り本を借りていきたいところなのだけど、それで手を借りられなくなってしまっては元も子もない。
というわけで、大人しく紅茶を啜りつつ魔導書を読み進める。
成る程わからないところがあったら人に聞ける、というのは確かに便利だ。
だけどそれは同時に自分自身の力不足を認める事でもあるので、やはり悔しい。
見てろ、何時か見返してやるぞ、と。
寿命の関係で困難ではあるだろうけど、不可能ではない目標を見据えている。
けれど、と、何となく二人を見てこう思う。
こういう時に頼れる友人がいるってのは、いいもんだな、と。
個人的な感情を大いに含めて、彼女らと居ると楽しいなと、そう思う。
1時間前。
相変わらず静かな時間が流れていたが、魔理沙にはそろそろ限界なようだ。
頭を掻きむしったり足を揺らしたり、どうにも落ち着きのない姿が目立つ。
とはいえ残りの二人にしてみれば予想通りだったようで、特にどうこうしようという姿は見られない。
「そういえば」
と、魔理沙が切り出す。
ああもう限界か、とアリスとパチュリーがそちらを向けば、なにやら陳腐なナイフらしき物を懐から取り出すところだった。
「こーりんに面白い玩具を貰ったぜ」
「奪った、じゃなくて?」
「平和的に譲って貰ったぜ」
ならいいんだけど、とアリスはそのナイフらしき物を観察してみる。
見た目は、確かにナイフだ。
柄は刃らしき部分よりも太く、特に凝った装飾はされていない。
鍔もついてはいるがやはり装飾は無く、とりあえず付けてみました的な物に見える。
刃らしき部分は……ホントに刃なのだろうかこれは。
一言で言えば、丸い。
確かに刃を模しているのだろうが、その先端も、縁も、丸く潰れていた。
これではペーパーナイフにもならない。制作者は何を思ってこんな物を作ったのだろうか。
そして極めつけは、その材質だ。
金属、ではない。
木、でもない。
陶器、にしては柔らかすぎる。
なんというかこう、艶はあるけれど柔らかく、妙に発色の良い……なんだろうこれは。
自分はそれなりに長い間生きているはずだが、こんな物は幻想郷では見た事がなかった
つい、と隣のパチュリーに目線をやる。
どうやら、彼女も考え込んでいる様子だった。
アリスの視線を感じ、私はそちらに目をやる。
正直、アレがなんなのかわからない。
普通、物質には何かしらの精霊が憑いているものだ。
それなのに、あのナイフからはそれが感じられない。
否、極僅かではあるが、土の精霊の名残は感じる。
けれどそれは結局名残でしかなく、精霊そのものは何処にもいなかった。
大地に由来する物であるのは間違いないだろう。
ではそれが何か?と聞かれて、私は答える事は出来ない。
大図書館等と呼ばれる私だが、いくら図書館でも蔵書に書いてない事はわからないのだ。
しかし、興味深い物である事は間違いない。
私は、そのナイフらしき物から目を離す事が出来なかった。
「そんなに見つめても何も出ないぜ?」
「何か出てきたらそれこそびっくりするわよ」
どう見ても何か出てくるようには見えない。
それとも魔理沙の新しい魔法の媒体だったりするのだろうか?
それならそれで楽しめるのだが。
「これはだな、誰でも殺してしまうナイフだ」
「……またえらく物騒ね」
魔道具の類だろうか。
それにしたって、随分と乱暴だ。
誰でも殺してしまう、なんてそんなシンプルな暴力を実現するのは、なかなかに大変な事なのだが。
「……それは、例えばレミィでも?」
「ああ、どうだろうな。試してないからわからんが、多分大丈夫だぜ」
何が大丈夫なのだろうか。
というか、霧乃助さんも余り物騒な物を魔理沙に渡さないで欲しい。
「どうも……信じられないわね」
「私もよ。それからは何の魔力も感じられない」
二人とも同じ見解だ。
どう見てもそんな強い魔力が込められているようには見えない。
「おいおい、これはこのまま使うもんだぜ?魔力なんて無いさ」
とすると、そのまま刺すのだろうか。
……無理だろう。
いくらなんでもあのまま使って人を殺せるようには見えない。
「おっと信じてないな?それじゃ試してみようじゃないか」
「ちょっとちょっと、試すって誰でよ」
またとんでもない事を言い出すものだ。仮にその力が本当ならば、私たちの内誰かが死ぬ事になる。
勿論私は死ぬ気はないし、殺す気もない。
他の二人も同じ筈だが、さてどうするのだろう。
「何、簡単な事だぜ。私をさくっとな」
そう言って、魔理沙はアリスへとナイフらしき物を手渡す。
「そんな事出来るわけ無いでしょ!」
というアリスの反論は極当たり前な物だが、肝心の魔理沙はといえば、
「大丈夫だって」
等とのたまうだけだった。
無茶苦茶だ、と端から見ていたパチュリーは思うのだが、口には出さなかった。
ともあれ幾度かの押し問答の末、ついにアリスが折れた。
「ああもう、どうなっても知らないわよ!」
の声と共にナイフを軽く、本当に軽く魔理沙の胸に当て、
「うお」
という声と共に魔理沙は倒れた。
胸には赤い液体。
ナイフらしき物にも、赤い液体。
そして冒頭へ戻る。
アリス=マーガトロイドは大変焦っていた。
そしてそれ以上に困惑していた。
付け加えれば、思考が半分停止していた。
え?何?魔理沙が?あれ?私今何を?
とかなんとか、そんな雑音ばかりが溢れて止まらない。
魔理沙を、殺した?
私が?
その事実が、深く深く突き刺さる。
パチュリー=ノーレッジは大変焦っていた。
そしてそれ以上に混乱していた。
付け加えれば、思考は8割停止していた。
アリスが刺した?魔理沙を?今彼女は何を?
といった具合の疑念ばかりが溢れて止まらない。
魔理沙が、死んだ?
目の前で?
その事実が、思考回路にトドメを刺す。
たっぷり5分後。
思考が回復し、顔面を蒼白にしたアリスは、ああ、血の気が引く音ってこんななんだ、と妙に冷静になっていた。
いやいや落ち着け私。
魔理沙だって馬鹿じゃない。いくらなんでもこんな阿呆な死に方はしない、はずだ。
はずだ、と信じたい。
けれど未だ床に倒れ伏す魔理沙は動く気配が無く、どう見ても死体である。
ふと、手に持ったナイフらしき物が視界に入る。
ああ、もしかしてこれ本当に誰でも殺してしまうナイフなんだろうか。
だとしたら私はとんでもない事をしでかしてしまったんじゃないだろうか。
ああどうしようどうしようどうしようどうしよう。
そうだ私も死のう。
この間約30秒。
余りにもテンパりすぎてもはや思考が繋がっていない。
が、体はそんな思考の命令を受け、ナイフを自分へと向ける。
「ごめんパチュリー、あとお願い!」
等という声が聞こえて我に返れば、今正にアリスが自らへとナイフを突き立てる場面だった。
いや待って、お願いって一体私に何をどうしろと。
もしかして二人分の死体片づけろと言うのだろうか、この喘息持ちに。
それよりも咲夜や小悪魔に見られたらどうしよう、どう見ても何かあったようにしか見えない。
かといって説明を求められても私自身事態を把握出来ているわけじゃないから困る。
非常に困る。
ああ困ったとても困ったヤバイ魔理沙が死んだと知ったら妹様がいやそれ以上に霊夢がその他大勢が。
切れる。
間違いなく切れる。
私に死ねと!?
等ととりとめのない思考をしている間にも無情にも時間は過ぎていく。
アリスが振り下ろしたナイフらしき物は確かにアリスの胸に接触し、
「え?」
「あれ?」
刺さらなかった。
刃と思われた部分は柄の部分へと押し込められ、代わりとばかりに隙間から赤い液体が流れていた。
これはつまり、どういう事だろう。
「……ぷっ。クククッ……」
二人で思考停止していると、どう見ても死体にしか見えなかった魔理沙が動き出した。
良かった、生きてた。
と思う間もなく。
「は、ははははははははっ!いくらなんでもそりゃないだろアリス!?」
等と大声で笑うのだから、それで私たちは正気に戻ったのだ。
「え、ちょ、何よこれ!?」
「人騒がせな……」
服が赤くなってしまったアリスとまだ呆けてるパチュリーを見て、私は笑う。
計画通り、とかそんな感じに。
いやはや、こんなに見事に慌ててくれるとは思わなかった。
とりあえず、まだ混乱しているアリスの手からナイフを取って、
「だから最初に言ったろ。玩具だってさ」
怒られても「後でみんなで笑った」ことでこの魔理沙は自分の行為の重さを認識できないまま
「たまにはこんなのも良いだろう?」なんて恥知らずなことを考えている。
平手打ちしたあと一定期無視するぐらいの制裁がなければ、彼女はまた同じ過ちを繰り返すだろう。
オオカミ少年の昔話をあなどるなかれ。
って感じになるかなーと予想したのですが・・・おしい(おしくねえ)
nineさんは文章力がかなりあるほうだと思うので
これからも頑張って下さいね
あと、これからあなたの前作を見に行ってきます
キャラ特有の展開とか、ひねりとかが欲しかった
はっきり言って、魔理沙がナイフを取り出した後の文て要らない
私にはそうとは思えませんでした。
魔理沙らしいといえば魔理沙らしくはあるのですが・・・。
単純にいたずらで終わらせるよりも、もう少しこの後に展開が欲しかったです
私ももう少し話に深みがほしかったですね。
どうにも後書き部分の文章が蛇足でしかないですが、後学というか反省のためにもこのままにしておきます。
以下蛇足的補足でも。
>展開について
元々がただの悪戯ナイフを出したかっただけ、というのがあるのでかなり無理がありますね。
というか言い訳のしようもないですね、はい。精進します。
>長さと深さについて
長々と文章を書くのに慣れていないのでどうしても短く区切ってしまいがちです。これはもう頑張りますとしか。
文章の深さ、というかキャラの掘り下げや一つ一つの行動に対する詳細な文章、というのはかなり苦手です。苦手だからこれで良いって事はないですが。
だらだらとした文章にならず、かつ明確に意図の伝わる文章が書けるように精進します。
前回の思わぬ評価で舞い上がってしまった部分もあるので、次以降があればもっと推敲を重ねて見れる文章を目指します。
あと、誤字を修正しました。指摘ありがとうございます。
というのも、文章の主体はダークジョークではなく、あくまで「言葉遊び」なので。
この魔女三人組好きですv
書き方というか文章は面白かったので次作に期待してます。
次回作に期待してます