「魔理沙ー!、あーそーぼっ!」
突然、背中から抱きつかれて魔理沙は前のめりに倒れそうになる。
なんとか踏ん張って、背中に張り付いている駄々っ子を叱る。
「フラン、いきなり抱きついてくるなって何度も言ってるだろ!」
「えー、だって魔理沙いい匂いなんだもん。なんだか抱きついてると気持ちいいしー」
にへら~っと笑う顔を見せられては、怒るに怒れなくなる。
強気の魔理沙もどうにもフランにだけは弱いのだった。
「で、どうしたんだフラン?」
「遊ぼ、魔理沙っ!」
内心またかと呆れ返る。フランに懐かれているし反応は素直で可愛いので嫌いではないのだが、すぐに遊ぼう遊ぼうとせがんでくるのには往生している。
しかも大抵の場合、遊び=弾幕ごっこであるので非常に疲れるのだ。手を抜くと怒るし、落としてしまうと泣き出して、そこらじゅう破壊の能力で壊しつくす。
あんまりにも館を壊すので、魔理沙に修理費の請求がいくようになった。理不尽極まりないのだが、フランの遊び相手は魔理沙であるし、魔理沙が巧い事加減すればいいだけじゃない、というレミリアの鶴の一声で決定された。
とはいえ魔理沙にそんな支払能力があるわけがなく、代わりにパチュリーの研究の手伝いなどをやっている。
「罠だ、これは絶対に罠だ」
だが気づいたときにはもう遅い。パチュリーとレミリアの高笑いが聞こえるようだ。
そして、今更どうにかできるものでもなく、自分の魔法知識の足しにはなるかと、何とか自己欺瞞して過ごしている。
そんなわけで魔理沙はフランとの弾幕ごっこは避けたいところなのだ。これ以上自分の強制労働を増やすわけにはいかない。
「なぁフラン。たまには別のことして遊ばないか?」
「えー、だってチェスもトランプもオセロも飽きた飽きた飽きたー!」
困る魔理沙。紅魔館にある遊具といえばそんなものだ。魔理沙自身、暇があれば、空を飛ぶか魔術書を読むか、の生活であるのであまり遊びというものは知らない。実家にいた頃は何かと遊んでいたが、幼児向けのおままごとなのでフランが満足するとも思えなかった。
「ほら、もう残ってるのは弾幕ごっこだけだよー?」
「むむむ……」
唸ったところで、魔理沙の腹が可愛く鳴る。そういえば昼から何も食べていない事を思い出す。
「なんだ魔理沙おなか空いてるの? じゃ何か食べにいこ! 咲夜が何か作ってくれるよ」
「ん、ああそうだな」
とりあえずこの場は切り抜けたようだ。しかし、食事が終わればまた遊び遊びと言い出すに違いない。食事をしている間に名案が考え付くとは思わなかった。
「あ、もう十時か」
紅魔館、更に地下の図書館に篭っていると時間間隔が無くなるのが欠点だった。時計はあるにはあるのだが、設置されている数は少ない。
夜十時となると、さすがに飯を寄越せとはさすがの魔理沙も言い出しにくい。咲夜は起きているだろうが、決していい顔はすまい。だが、紅魔館の厨房に転がっているいかにも怪しげな食材を調理できるのは咲夜と美鈴だけである。
里の飯屋も開いていないな、そこまで考えてふと思い出すとある店。そうだあそこなら……。
「なぁ、フラン。今日は外食しにいかないか? 外は夜だしちょうどいい」
「外食ー? 夜なのに?」
「ふふふ、まぁ私に任せておけ。善は急げだ、さぁいくぞフラン!」
箒に飛び乗る魔理沙。
「あー、待ってよ魔理沙ー!」
その後とフランは慌てて追いかけるのだった。
それから十五分ほど後。
二人は月夜に照らされながら山の上を飛んでいた。
「ねー、魔理沙。こんなところにお店なんてあるの? こんなとこに人間なんて住んでないと思うんだけど」
「まーまー、ついて来なさい。たぶんもう少しで……あった!」
魔理沙の指差す先にあるのは、黒い闇の中薄暗く光る赤提灯。森の途切れにぼんやりと光る赤い灯は空から見れば、妖怪のようで気味が悪かった。
地上に降りるとそこは屋台。『八目鰻』と書かれた赤い提灯と裸電球がいかにもな雰囲気を醸し出している。どこから手に入れたのか屋台の脇に置かれたラジカセからは演歌が流れている。
「よう、みすちー。一杯やりにきたぜ」
「いらっしゃい! ってなんだ魔理沙か」
魔理沙はすでにここの常連なのだろう。店主であるミスティアと親しげに話している。
連れて来られたフランはといえば、初めてみる屋台に緊張していた。紅魔館の食事しか知らないフランからすれば、こんな場所で食事ができるなぞ想像の埒外だろう。
「まぁフラン。ここに座れ」
言われるがまま長椅子の中央に座る。
見るものすべてが珍しいのかキョロキョロと辺りを見回すフラン。
「とりあえず酒だ酒だー! 後はそうだな……つくねとねぎまだ」
「あいよー。ってその子に飲ませていいの? まだ子供みたいだけど」
「あー、構わんだろ。こう見えても四九五歳だ」
「なら、いいけど」
すぐに目の前に出されるコップに入った日本酒。フランはコップを突いたり匂ったりしている。
「くんくん、なんかいい匂いがする……」
「当たり前よ! 里の酒蔵から貰って来た大吟醸よ! 匂いも味も格別なんだから」
胸を張るミスティア。なんだかんだで売り上げは出ているようで、こっそり人間から材料を仕入れたりしている。
しばらく躊躇していたフランだったが、魔理沙が横で美味しそうに飲んでいるのを見て意を決したのか、コップを傾け、ちょっとだけ舐めるように飲む。
「どうだフラン。美味しいか?」
「……………………苦ぁい」
ぺっぺっと舌を出すフラン。普段飲んでいるのがワインや果実酒なので、日本酒は口に合わなかったようだ。ミスティアが苦笑しながら差し出した水を一気に飲んでやっと落ち着く。
「うう、魔理沙ぁ。こんなのがおいしいなんておかしい!」
「あはははは。フランにはまだ早かったか」
眉間に皺を作って渋い顔のフラン。酒が入っているせいもあるだろうが、魔理沙にはそれがおもしろくて可愛くて仕方が無い。
「はい、つくね一丁ー」
フランの目の前に置かれた小皿。その上に乗っているのは棒にささった肉団子。いわゆるつくね。だがフランはつくねなんて知らない。紅魔館で出てくる料理とは違う。綺麗じゃない。だけど、なぜか美味しそうな気がする。
「これは本当に美味しいからさ、いやほんとだって!」
疑いの視線を向けるフランに言い繕う魔理沙。だが、酔っているせいでいまいち本気に聞こえない。
だが、フランもおなかが減っている。目の前の肉団子からは美味しそうな匂いもしている。
「む~~~~。…………えいっ!」
ぱくっ。
「もぐもぐ――――――おいしい!」
ぱぁっと明るい表情になるフラン。紅魔館の味付けは薄味甘味メインの為、和食のダシとか醤油系の味付けはついぞ食べたことが無かったのだ。
そんなフランにとっては和食のとのファーストコンタクト。酒のつまみではあったが。
「これもういっこ、ちょーだい!」
「はいはい、まだまだ色々あるよー」
おいしいおいしいというフランに気を良くしたのか、ミスティアは色々とフランの前に小料理を並べる。ねぎま、からあげ、鰻の蒲焼、せせり、ダシ巻、おでん等々。フランはそれらをどんどん平らげていく。
「これで酒の美味さがわかれば最高なんだけどなぁ」とは魔理沙の弁。
一度拒否られはしたが、何とか飲ませたいと思う。ふと何か思いついたのか、ミスティアにごにょごにょと耳打ち。親指をぐっと突き出してオーケーしたミスティア。
さすがに頼みすぎたのか、ペースを落としてゆっくり食べているフランに差し出されるコップ。
「はい、これでも飲んで落ち着いてね」
「ありがとー!」
手渡されるままにごくごくと飲み干すフラン。
「……ひっく」
魔理沙のやった!という会心の笑み。
「なにこれ……レモンジュース?みたいだけど何かおいしい……」
そう、魔理沙が仕組んだのはいわゆるカクテル。常備してある檸檬を絞り、焼酎で割ったのだ。それに気づかないフランはお気に召したのが二杯目を注文している。
魔理沙はちょっとフランを酔わせてみたかったのだ。霊夢やらとの宴会で自分は酒には耐性があるし、いざとなったらぐでんぐでんにしてしまえばいい。そう考えていた。
そこまでしか考えが至らなかったのは魔理沙も多分に酔っ払っていた証拠だろう。
そんなこんなでミスティアとフランの間に歌で友情が芽生え始める頃、のれんをくぐってやってくる客がひとり。
「やっほー、ミスティア。いつもの頂戴ー」
黒い服に青い羽根、そして特徴的な頭から生えた真っ赤な鶏冠。
「いらっしゃい朱鷺子。麦酒と鮎の塩焼きねー」
どかっとフランの横に座る朱鷺子。
ちらとこちらを見ていた魔理沙を視線が絡む。
「あ、おまえはいつかの本読み妖怪じゃないか」
「………………だれ?」
以前、霊夢に本を取られたといって香霖堂へ乗り込んできたのがこの朱鷺子だった。魔理沙は本を読む妖怪ということで珍しく思い、直後に妖怪を弾幕ごっこで打ちのめした事から覚えていたのだが。
「まぁいっか。ごめんねー、あたし鳥頭だから人間とかの顔覚えるの苦手でさー」
苦手とかそういうレベルではないと思ったがあえて突っ込まないでおく。むしろ忘れてくれて幸いだった。
「まぁどこかで知り合ったんでしょ、よろしく」
そういって朱鷺子は出された麦酒をごくごくと飲み干す。どうやら結構イケる口らしい。
「ねーねー、まりひゃー。ほれひらはい?」
「ん、まぁそんなもんだな。ってフラン呂律が回ってないぞ。大丈夫か?」
「んー、らいひょうぶらいひょうぶ。ひゃはははははは」
笑いながら魔理沙を叩くフラン。無意識で手加減しているのは痛くはないが、絡み酒ではないかと心配になる。とりあえず今はテンションがあがっているだけのようだ。ある意味引き際かもしれない。
「よしフラン。腹も膨れたしそろそろ帰るか」
「いや」
「おいおいフラン。帰らないと咲夜とかが心配するぞ?」
「まーだーじゅーすのーむー」
がっしりと机にしがみつくフラン。よっぱらいほど扱いに困るものはない。無理やりにでも引き剥がそうと頑張ってみるが、てこでも動きそうにない。
「別にいいじゃない、好きなだけ飲ませてあげればー?」
横目で見ながら煽る朱鷺子。
「見た感じ飲むの初めてなんでしょ? いいじゃない好きに飲ませてあげれば。自分の限界を知るのは大切なことよ?」
「でしょー? あなひゃは話しはわはるわねー!」
朱鷺子にすりより、その背中を叩くフラン。以前の朱鷺子の短気っぷりを見ている魔理沙は朱鷺子がキレるて、フランが暴れるのではないかと気が気でない。だが、魔理沙の予想に反して朱鷺子は随分とおとなしかった。
「でしょでしょー! よーしこの鮎の塩焼きを食べてもいいわよ!」
「わーい」
などとフランと意気投合までしている様子を見ると、何だかフランを取られたようでおもしろくない。
「こんな小さい子に怒るわけないじゃない。こー見えても私はおねーさんですから」
「朱鷺子はわたしと同じ年齢じゃない」
「うるさいわねみすちー!茶々いれないでよ!」
「いれるなー」
知らぬは仏とはこのことだろう。ミスティアも朱鷺子も目の前の幼女が音に聞こえた、紅魔館の悪魔の妹だとは夢にも思うまい。
なんだかんだで仲良くなっている三人をみると、もうどうでもいいかと思うようになってくる。
「よっし私も混ぜろー! ビールなんて水だ水ー!」
魔理沙も乱入して、屋台は騒がしくも楽しいまま夜は更けていく。
「う、うう~ん」
頭を襲う激痛で魔理沙は目が覚めた。どうやら机に突っ伏したまま落ちてしまったようだ。
「ええと、どうなったんだっけ。フランが結局酒を飲んで服を脱ぎだしてそれから……?」
考えようにも頭が痛くてまともな思考にならない。
「おーい、フラン~」
大きい声だと頭に響くので、控えめに呼ぶ。返事は無い。
そろそろ空が白み始めており、早く帰らないとフランの生命の危機である。
屋台からでると、机を抱きかかえて朱鷺子が道端で寝ており、ミスティアも最後の気力でガスを切ったと思わしい所で倒れていた。
肝心のフランはというと、少し離れたところで野犬を抱きかかえ、ドロワーズ一丁で眠っていた。野犬は吸血鬼の力で抱きしめられたせいか泡を吹いて気絶している。
「うへへへ~~魔理沙、獣臭い……」
頭を襲う激痛を我慢しながら、フランを野犬から引き剥がす。
「ほらフラン起きろ! 朝になるぞ、朝になったら灰になっちまうぞ」
軽くぱしんぱしんと頬を叩くがまったく起きる気配のないフラン。仕方なく、脱ぎ散らかしてあった服を適当に着せ、背中に抱きかかえて箒を跨ぐ。
魔理沙自身も相当キていたが、フランを帰さないことには休むわけにはいかない。
ほとんど箒任せに紅魔館へ飛び、何事かと問い詰める美鈴をスルーして、フランの部屋へなだれこむ。
フランをほとんど投げるようにベッドへと降ろしたところで、魔理沙も意識を失った。
「ううう、あたまいたいよー……」
「そ、それがオトナってやつだぜ、フラン……」
「うう、オトナ……。我慢……」
その後やってきた咲夜に介抱され、目が覚めればお約束の二日酔い。
フランと魔理沙は揃って寝かされている。
「まったく、妹様を飲みに連れ出すなんて何を考えているのかしら?」
呆れ返る咲夜を前に魔理沙は何も言い返せない。むしろ二日酔いがさめてから何をいわれるか、そちらのほうが怖かった。
「でもねー、まりさー。たのしかったねー」
「ああ、そうだな。今度はバレないように適度に飲みにいこうなー」
「うん!」
その後、ミスティアの屋台に常連が一人増えたかどうかは定かではない。
突然、背中から抱きつかれて魔理沙は前のめりに倒れそうになる。
なんとか踏ん張って、背中に張り付いている駄々っ子を叱る。
「フラン、いきなり抱きついてくるなって何度も言ってるだろ!」
「えー、だって魔理沙いい匂いなんだもん。なんだか抱きついてると気持ちいいしー」
にへら~っと笑う顔を見せられては、怒るに怒れなくなる。
強気の魔理沙もどうにもフランにだけは弱いのだった。
「で、どうしたんだフラン?」
「遊ぼ、魔理沙っ!」
内心またかと呆れ返る。フランに懐かれているし反応は素直で可愛いので嫌いではないのだが、すぐに遊ぼう遊ぼうとせがんでくるのには往生している。
しかも大抵の場合、遊び=弾幕ごっこであるので非常に疲れるのだ。手を抜くと怒るし、落としてしまうと泣き出して、そこらじゅう破壊の能力で壊しつくす。
あんまりにも館を壊すので、魔理沙に修理費の請求がいくようになった。理不尽極まりないのだが、フランの遊び相手は魔理沙であるし、魔理沙が巧い事加減すればいいだけじゃない、というレミリアの鶴の一声で決定された。
とはいえ魔理沙にそんな支払能力があるわけがなく、代わりにパチュリーの研究の手伝いなどをやっている。
「罠だ、これは絶対に罠だ」
だが気づいたときにはもう遅い。パチュリーとレミリアの高笑いが聞こえるようだ。
そして、今更どうにかできるものでもなく、自分の魔法知識の足しにはなるかと、何とか自己欺瞞して過ごしている。
そんなわけで魔理沙はフランとの弾幕ごっこは避けたいところなのだ。これ以上自分の強制労働を増やすわけにはいかない。
「なぁフラン。たまには別のことして遊ばないか?」
「えー、だってチェスもトランプもオセロも飽きた飽きた飽きたー!」
困る魔理沙。紅魔館にある遊具といえばそんなものだ。魔理沙自身、暇があれば、空を飛ぶか魔術書を読むか、の生活であるのであまり遊びというものは知らない。実家にいた頃は何かと遊んでいたが、幼児向けのおままごとなのでフランが満足するとも思えなかった。
「ほら、もう残ってるのは弾幕ごっこだけだよー?」
「むむむ……」
唸ったところで、魔理沙の腹が可愛く鳴る。そういえば昼から何も食べていない事を思い出す。
「なんだ魔理沙おなか空いてるの? じゃ何か食べにいこ! 咲夜が何か作ってくれるよ」
「ん、ああそうだな」
とりあえずこの場は切り抜けたようだ。しかし、食事が終わればまた遊び遊びと言い出すに違いない。食事をしている間に名案が考え付くとは思わなかった。
「あ、もう十時か」
紅魔館、更に地下の図書館に篭っていると時間間隔が無くなるのが欠点だった。時計はあるにはあるのだが、設置されている数は少ない。
夜十時となると、さすがに飯を寄越せとはさすがの魔理沙も言い出しにくい。咲夜は起きているだろうが、決していい顔はすまい。だが、紅魔館の厨房に転がっているいかにも怪しげな食材を調理できるのは咲夜と美鈴だけである。
里の飯屋も開いていないな、そこまで考えてふと思い出すとある店。そうだあそこなら……。
「なぁ、フラン。今日は外食しにいかないか? 外は夜だしちょうどいい」
「外食ー? 夜なのに?」
「ふふふ、まぁ私に任せておけ。善は急げだ、さぁいくぞフラン!」
箒に飛び乗る魔理沙。
「あー、待ってよ魔理沙ー!」
その後とフランは慌てて追いかけるのだった。
それから十五分ほど後。
二人は月夜に照らされながら山の上を飛んでいた。
「ねー、魔理沙。こんなところにお店なんてあるの? こんなとこに人間なんて住んでないと思うんだけど」
「まーまー、ついて来なさい。たぶんもう少しで……あった!」
魔理沙の指差す先にあるのは、黒い闇の中薄暗く光る赤提灯。森の途切れにぼんやりと光る赤い灯は空から見れば、妖怪のようで気味が悪かった。
地上に降りるとそこは屋台。『八目鰻』と書かれた赤い提灯と裸電球がいかにもな雰囲気を醸し出している。どこから手に入れたのか屋台の脇に置かれたラジカセからは演歌が流れている。
「よう、みすちー。一杯やりにきたぜ」
「いらっしゃい! ってなんだ魔理沙か」
魔理沙はすでにここの常連なのだろう。店主であるミスティアと親しげに話している。
連れて来られたフランはといえば、初めてみる屋台に緊張していた。紅魔館の食事しか知らないフランからすれば、こんな場所で食事ができるなぞ想像の埒外だろう。
「まぁフラン。ここに座れ」
言われるがまま長椅子の中央に座る。
見るものすべてが珍しいのかキョロキョロと辺りを見回すフラン。
「とりあえず酒だ酒だー! 後はそうだな……つくねとねぎまだ」
「あいよー。ってその子に飲ませていいの? まだ子供みたいだけど」
「あー、構わんだろ。こう見えても四九五歳だ」
「なら、いいけど」
すぐに目の前に出されるコップに入った日本酒。フランはコップを突いたり匂ったりしている。
「くんくん、なんかいい匂いがする……」
「当たり前よ! 里の酒蔵から貰って来た大吟醸よ! 匂いも味も格別なんだから」
胸を張るミスティア。なんだかんだで売り上げは出ているようで、こっそり人間から材料を仕入れたりしている。
しばらく躊躇していたフランだったが、魔理沙が横で美味しそうに飲んでいるのを見て意を決したのか、コップを傾け、ちょっとだけ舐めるように飲む。
「どうだフラン。美味しいか?」
「……………………苦ぁい」
ぺっぺっと舌を出すフラン。普段飲んでいるのがワインや果実酒なので、日本酒は口に合わなかったようだ。ミスティアが苦笑しながら差し出した水を一気に飲んでやっと落ち着く。
「うう、魔理沙ぁ。こんなのがおいしいなんておかしい!」
「あはははは。フランにはまだ早かったか」
眉間に皺を作って渋い顔のフラン。酒が入っているせいもあるだろうが、魔理沙にはそれがおもしろくて可愛くて仕方が無い。
「はい、つくね一丁ー」
フランの目の前に置かれた小皿。その上に乗っているのは棒にささった肉団子。いわゆるつくね。だがフランはつくねなんて知らない。紅魔館で出てくる料理とは違う。綺麗じゃない。だけど、なぜか美味しそうな気がする。
「これは本当に美味しいからさ、いやほんとだって!」
疑いの視線を向けるフランに言い繕う魔理沙。だが、酔っているせいでいまいち本気に聞こえない。
だが、フランもおなかが減っている。目の前の肉団子からは美味しそうな匂いもしている。
「む~~~~。…………えいっ!」
ぱくっ。
「もぐもぐ――――――おいしい!」
ぱぁっと明るい表情になるフラン。紅魔館の味付けは薄味甘味メインの為、和食のダシとか醤油系の味付けはついぞ食べたことが無かったのだ。
そんなフランにとっては和食のとのファーストコンタクト。酒のつまみではあったが。
「これもういっこ、ちょーだい!」
「はいはい、まだまだ色々あるよー」
おいしいおいしいというフランに気を良くしたのか、ミスティアは色々とフランの前に小料理を並べる。ねぎま、からあげ、鰻の蒲焼、せせり、ダシ巻、おでん等々。フランはそれらをどんどん平らげていく。
「これで酒の美味さがわかれば最高なんだけどなぁ」とは魔理沙の弁。
一度拒否られはしたが、何とか飲ませたいと思う。ふと何か思いついたのか、ミスティアにごにょごにょと耳打ち。親指をぐっと突き出してオーケーしたミスティア。
さすがに頼みすぎたのか、ペースを落としてゆっくり食べているフランに差し出されるコップ。
「はい、これでも飲んで落ち着いてね」
「ありがとー!」
手渡されるままにごくごくと飲み干すフラン。
「……ひっく」
魔理沙のやった!という会心の笑み。
「なにこれ……レモンジュース?みたいだけど何かおいしい……」
そう、魔理沙が仕組んだのはいわゆるカクテル。常備してある檸檬を絞り、焼酎で割ったのだ。それに気づかないフランはお気に召したのが二杯目を注文している。
魔理沙はちょっとフランを酔わせてみたかったのだ。霊夢やらとの宴会で自分は酒には耐性があるし、いざとなったらぐでんぐでんにしてしまえばいい。そう考えていた。
そこまでしか考えが至らなかったのは魔理沙も多分に酔っ払っていた証拠だろう。
そんなこんなでミスティアとフランの間に歌で友情が芽生え始める頃、のれんをくぐってやってくる客がひとり。
「やっほー、ミスティア。いつもの頂戴ー」
黒い服に青い羽根、そして特徴的な頭から生えた真っ赤な鶏冠。
「いらっしゃい朱鷺子。麦酒と鮎の塩焼きねー」
どかっとフランの横に座る朱鷺子。
ちらとこちらを見ていた魔理沙を視線が絡む。
「あ、おまえはいつかの本読み妖怪じゃないか」
「………………だれ?」
以前、霊夢に本を取られたといって香霖堂へ乗り込んできたのがこの朱鷺子だった。魔理沙は本を読む妖怪ということで珍しく思い、直後に妖怪を弾幕ごっこで打ちのめした事から覚えていたのだが。
「まぁいっか。ごめんねー、あたし鳥頭だから人間とかの顔覚えるの苦手でさー」
苦手とかそういうレベルではないと思ったがあえて突っ込まないでおく。むしろ忘れてくれて幸いだった。
「まぁどこかで知り合ったんでしょ、よろしく」
そういって朱鷺子は出された麦酒をごくごくと飲み干す。どうやら結構イケる口らしい。
「ねーねー、まりひゃー。ほれひらはい?」
「ん、まぁそんなもんだな。ってフラン呂律が回ってないぞ。大丈夫か?」
「んー、らいひょうぶらいひょうぶ。ひゃはははははは」
笑いながら魔理沙を叩くフラン。無意識で手加減しているのは痛くはないが、絡み酒ではないかと心配になる。とりあえず今はテンションがあがっているだけのようだ。ある意味引き際かもしれない。
「よしフラン。腹も膨れたしそろそろ帰るか」
「いや」
「おいおいフラン。帰らないと咲夜とかが心配するぞ?」
「まーだーじゅーすのーむー」
がっしりと机にしがみつくフラン。よっぱらいほど扱いに困るものはない。無理やりにでも引き剥がそうと頑張ってみるが、てこでも動きそうにない。
「別にいいじゃない、好きなだけ飲ませてあげればー?」
横目で見ながら煽る朱鷺子。
「見た感じ飲むの初めてなんでしょ? いいじゃない好きに飲ませてあげれば。自分の限界を知るのは大切なことよ?」
「でしょー? あなひゃは話しはわはるわねー!」
朱鷺子にすりより、その背中を叩くフラン。以前の朱鷺子の短気っぷりを見ている魔理沙は朱鷺子がキレるて、フランが暴れるのではないかと気が気でない。だが、魔理沙の予想に反して朱鷺子は随分とおとなしかった。
「でしょでしょー! よーしこの鮎の塩焼きを食べてもいいわよ!」
「わーい」
などとフランと意気投合までしている様子を見ると、何だかフランを取られたようでおもしろくない。
「こんな小さい子に怒るわけないじゃない。こー見えても私はおねーさんですから」
「朱鷺子はわたしと同じ年齢じゃない」
「うるさいわねみすちー!茶々いれないでよ!」
「いれるなー」
知らぬは仏とはこのことだろう。ミスティアも朱鷺子も目の前の幼女が音に聞こえた、紅魔館の悪魔の妹だとは夢にも思うまい。
なんだかんだで仲良くなっている三人をみると、もうどうでもいいかと思うようになってくる。
「よっし私も混ぜろー! ビールなんて水だ水ー!」
魔理沙も乱入して、屋台は騒がしくも楽しいまま夜は更けていく。
「う、うう~ん」
頭を襲う激痛で魔理沙は目が覚めた。どうやら机に突っ伏したまま落ちてしまったようだ。
「ええと、どうなったんだっけ。フランが結局酒を飲んで服を脱ぎだしてそれから……?」
考えようにも頭が痛くてまともな思考にならない。
「おーい、フラン~」
大きい声だと頭に響くので、控えめに呼ぶ。返事は無い。
そろそろ空が白み始めており、早く帰らないとフランの生命の危機である。
屋台からでると、机を抱きかかえて朱鷺子が道端で寝ており、ミスティアも最後の気力でガスを切ったと思わしい所で倒れていた。
肝心のフランはというと、少し離れたところで野犬を抱きかかえ、ドロワーズ一丁で眠っていた。野犬は吸血鬼の力で抱きしめられたせいか泡を吹いて気絶している。
「うへへへ~~魔理沙、獣臭い……」
頭を襲う激痛を我慢しながら、フランを野犬から引き剥がす。
「ほらフラン起きろ! 朝になるぞ、朝になったら灰になっちまうぞ」
軽くぱしんぱしんと頬を叩くがまったく起きる気配のないフラン。仕方なく、脱ぎ散らかしてあった服を適当に着せ、背中に抱きかかえて箒を跨ぐ。
魔理沙自身も相当キていたが、フランを帰さないことには休むわけにはいかない。
ほとんど箒任せに紅魔館へ飛び、何事かと問い詰める美鈴をスルーして、フランの部屋へなだれこむ。
フランをほとんど投げるようにベッドへと降ろしたところで、魔理沙も意識を失った。
「ううう、あたまいたいよー……」
「そ、それがオトナってやつだぜ、フラン……」
「うう、オトナ……。我慢……」
その後やってきた咲夜に介抱され、目が覚めればお約束の二日酔い。
フランと魔理沙は揃って寝かされている。
「まったく、妹様を飲みに連れ出すなんて何を考えているのかしら?」
呆れ返る咲夜を前に魔理沙は何も言い返せない。むしろ二日酔いがさめてから何をいわれるか、そちらのほうが怖かった。
「でもねー、まりさー。たのしかったねー」
「ああ、そうだな。今度はバレないように適度に飲みにいこうなー」
「うん!」
その後、ミスティアの屋台に常連が一人増えたかどうかは定かではない。
フランと魔理沙の仲の良さに嫉妬した!!
まぁともかく(笑)
こうやってフランが外の世界を知り、「大人」になっていくことは善いことなのでしょう。
ミスティアの屋台に通うことで、他のキャラとも仲良くなってくれると嬉しいなぁ…
だが設定無視と言っていても八目鰻でつくね、セセリは流石にどうかなと思った。
変なアクシデントもなく、ある意味安心して読めました。
雰囲気に惚れました。
なんだかとても焼き鳥が食いたくなった。
温かい雰囲気の作品でとても楽しんで読めた。
もっとずっと浸っていたいというか、続きを読みたいというか。
話はよかったがすさまじい突っ込みどころだWWW
何が言いたいのか分からない。
点数をつける価値も無いし。
こういう作品大好きだなぁ。別に事件が起こるでもない
日常のひとコマ。
妹様にとっては大冒険かなw
こゆ作品大好きなので100点をば。